以下、本発明を好適な実施の形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施の形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
なお、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
[第1実施形態]
図1~図6を参照して、本発明の第1実施形態に係る便座装置について説明する。図1は、第1実施形態の便座装置100の一例を示す斜視図である。便座装置100は、脈波検知センサ10と、便座20と、便鉢部30と、解析部40と、を主に備える。
脈波は、心臓の拍動に応じて伝わる末梢血管の圧力の変化で、脈波波形から血管の硬さや狭さくなどの状況を推定することができる。脈波検知センサ10は、便座20に座った人の脈波を検知可能である。解析部40は、脈波検知センサ10の検知結果を解析して、便座20に座った人の脈波に関する脈波情報を特定するためのものである。解析部40は、脈波情報から便座20に座った人の血管年齢を推定できる。
便鉢部30は、排せつ物を受ける水をためる容器部分で、本実施形態の便鉢部30は、上面開口を囲むリム部30eを有する。
(便座)
便座20は、便鉢部30の上側に載置され、中孔部20bを有する、環状または一部が欠けた環状を有する。便座20に着座する人の前後方向を便座装置100の「前後方向」と、着座する人の幅方向を便座装置100の「幅方向」と表記する。便座20は、幅方向より前後方向が長く形成され、中孔部20bは便座20の中央付近に設けられる。便座20は、その前後方向の一方側に設けられたヒンジ20hを回動中心として回動可能に支持される。便座20は、ヒンジ20hにより便鉢部30に対して回動し、前部が昇降可能に支持される。以下、図1に示すように、便座20のヒンジ20hが設けられる側を後方と、その反対側を前方と表記する。また、便座20を前方から視て、向かって幅方向で右側を右と、向かって幅方向で左側を左と表記する。
図2は、便座20を示す底面図である。本実施形態の便座20は、中孔部20bを挟んで幅方向に離れて設けられる第1部分20cと、第2部分20dとを有する。図2の例では、第1部分20cと、第2部分20dとは左右対称形状を有する。便座20には、便座20を降ろしたときに便鉢部30のリム部30eと接触して便座20を支持するスペーサ部材20m、20nが設けられる。スペーサ部材20m、20nは、例えばエラストマなどの柔軟性を有する材料や所定の剛性を有する樹脂材料で構成された脚部であってもよい。第1スペーサ部材20mは、便座20の前後範囲の中央から前側に配置され、前脚と称されることがある。第2スペーサ部材20nは、便座20の前後範囲の中央から後側に配置され、後脚と称されることがある。図2の例では、2つの第1スペーサ部材20mが左右対称に配置され、2つの第2スペーサ部材20nが左右対称に配置されている。
図3も参照する。図3は、便座装置100の脈波検知センサ10の周辺を示す断面図である。この図は、図2のA-A線に沿った縦断面図である。この図に示すように、便座20は、人が座る座面を含む座面部材20fと、便鉢部30側の便鉢側部材20gとを有する。座面部材20fと、便鉢側部材20gとは、上下に離隔して配置される。座面部材20fと、便鉢側部材20gとの間の空間には断熱性を有する樹脂が設けられてもよい。座面部材20fは、中孔部20bの中央に向かう側(以下、「中央側」という)が低くなるすり鉢状の傾斜を有する板状の部材である。便鉢側部材20gは、略水平に延在する平坦な板状の部材である。便鉢側部材20gには、複数(例えば、4つ)のネジ孔20tがそれぞれ離隔した位置に設けられる。
脈波検知センサ10は、便座20に座った人の脈波を検知可能なものであれば特に限定されない。本実施形態の脈波検知センサ10は、脈動により生じた加速度を電気信号に変換するセンサを用いている。
脈波検知センサ10は、便座20であればどこに配置されてもよい。本実施形態では、脈波を高感度または高S/N比で検知可能にする観点から、脈波検知センサ10は、便座20のうち座った人の大腿部が接触するための接触領域20pに設けられる。大腿部が接触することには衣類等を介する場合など間接的に接触することを含む。図2の例では、接触領域20pは、第1部分20cの前後方向中央付近から前方に前側に伸びる帯状の領域である。
図3に示すように、本実施形態の脈波検知センサ10は、座面部材20fと便鉢側部材20gとの間に配置される。図3の脈波検知センサ10は、ホルダ22と、収容部24と、付勢部材26とによって、支持される。ホルダ22は角筒状の部材で、上面中央部に脈波検知センサ10を載置する載置部22bが設けられる。載置部22bは、上面視で略矩形状を呈し、ホルダ22の上面から下向に後退する凹部である。載置部22bは、載置部22bに載置された脈波検知センサ10の上端がホルダ22から突出する程度の深さを有する。
ホルダ22の下面には、付勢部材収容部22dが設けられる。付勢部材収容部22dは、ホルダ22の下面から上向に穿設される丸形の孔である。付勢部材収容部22dは、付勢部材収容部22dに収容された付勢部材26の下端がホルダ22から突出する程度の深さを有する。この例では、4つの付勢部材収容部22dが、それぞれ離間して設けられる。
付勢部材26は、脈波検知センサ10を座面部材20fに向かって付勢する。付勢部材26は、互いに離隔して配置される複数の弾性体を含む。この弾性体は、樹脂や金属で構成されるスプリングであってもよいし、柔軟性を有する発泡樹脂などを用いるものであってもよいし、空気の反発力を利用するものであってもよい。この例の付勢部材26は、長手方向に付勢力を発生させるコイルスプリングである。付勢部材26は、ホルダ22および収容部24の間の上下方向の隙間24sに介在する状態で、この隙間24sを拡げる方向の付勢力を付与する。
収容部24は、上面が開かれ下面が閉じられた有底凹部形状を有する直方体形状の部材である。収容部24は、収容空間24aを画定する角筒状の周面部24bと、周面部24bの下部を塞ぐ底部24dと、周面部24bの最下部から外向きに張り出す鍔部24eと、を有する。収容空間24aは、ホルダ22を収容するための空間である。周面部24bは、収容されたホルダ22の4つの側面を環囲する。周面部24bは、上面視で矩形の外形輪郭を有する。底部24dは、略水平に延在し、周面部24bの下部を塞ぐ。底部24dには、付勢部材26の下端が接する。鍔部24eは、略水平に延在し上面視で平行四辺形の外形輪郭を有する。底部24dと鍔部24eとは一体に形成されてもよい。
鍔部24eには上下に貫通する複数(例えば、4つ)の貫通孔24gがそれぞれ離隔した位置に穿設される。貫通孔24gは、ネジ孔20tと対応する位置に配置される。収容部24は、ボルト24hが貫通孔24gを通じてネジ孔20tに螺合されることにより、便鉢側部材20gに固定される。
(脈波検知センサ)
図4は、脈波検知センサ10の断面図である。この図は、図3の脈波検知センサ10の周辺を拡大して示している。図5は、脈波検知センサ10の平面図である。図4、図5に示すように、本実施形態の脈波検知センサ10は、センサ素子12と、当該センサ素子12が配置された基板14と、センサ素子12を環囲する筒状部16と、を有する。筒状部16の上端部16b(一端部)は座面部材20fに当接し、筒状部16の下端部16c(他端部)は基板14に固定される。
センサ素子12は、脈動によりセンサ素子12に付与された加速度を電気信号に変換する加速度センサとして機能する。センサ素子12としては、脈動を検知可能なものであれば種々の原理に基づく素子を採用できる。本実施形態のセンサ素子12は、圧電素子である。センサ素子12は、基板14の主面14m上にはんだ付けによって固定される。なお、主面14mは、基板14の各面の内最も面積が大きい面をいう。筒状部16は、センサ素子12を環囲する環状の部材であり、検知対象に接触してその振動を拾い、基板14に伝達する。図2の筒状部16は、上端部16bと下端部16cとを有する中空円環状を呈する。上端部16bは座面部材20fに接触して座面部材20fの振動を拾い、下端部16cは基板14の主面14mに固定され、拾った振動を基板14に伝達する。筒状部16は、黄銅やアルミニウムなどの金属材料や、樹脂材料で形成できる。
基板14は、センサ素子12と、筒状部16と、アンプ(不図示)とを支持する略矩形状の配線基板である。基板14は、センサ素子12と、アンプとを電気的に接続する配線パターン(不図示)を有する。基板14には、アンプに給電するとともに、アンプで増幅されたセンサ素子12からの検知信号を外部に導出する配線部材18が設けられる。
脈波検知センサ10では、脈波が座面部材20fを介して筒状部16に伝わると、基板14が振動し、この振動がセンサ素子12に伝達される。振動がセンサ素子12に伝達されると、センサ素子12は変位し、脈波の振動が電気信号に変換される。センサ素子12で変換された電気信号(以下、「センサ信号」という)は、アンプにより増幅され、増幅されたセンサ信号は、後述する解析部で所定の演算が行われて波形解析が行われる。この解析結果に応じて脈波から血管の状態などを推定することができる。
図3~図5を参照する。脈波検知センサ10は、座面部材20fの振動をセンサ素子12に効率的に伝達できるように配置されることが望ましい。本発明者らの検討により、筒状部16の上端部16bが形成する平面(以下、「検知面16s」という)が、座面部材20fに対して平行である場合に、傾斜している場合よりセンサ信号が大きいことが判明した。そこで、本実施形態の脈波検知センサ10は、その検知面16sが座面部材20fに平行に設けられ、検知面16sは、便鉢側部材20gに対して傾斜している。上述のように、座面部材20fは、中央側が低くなるように傾斜しているので、検知面16sもこの傾斜に倣って中央側が低くなるように傾斜している。したがって、本実施形態では、基板14の主面14mが検知面16sと平行に配置されるので、基板14の主面14mは、座面部材20fに平行に設けられ、便鉢側部材20gに対して傾斜している。
上述したように、本実施形態の便鉢側部材20gには、便座20を降ろしたときに便鉢部30と接触して便座20を支持するスペーサ部材20m、20nが設けられている。本発明者らは、その検討によって以下の結果を得た。
(1)脈波検知センサ10を、第1スペーサ部材20mを基準に前後方向で±150mmの範囲に配置した場合に、脈波検知センサ10は脈波を検知できた。
(2)脈波検知センサ10を、第1スペーサ部材20mを基準に前後方向で±100mmの範囲に配置した場合に、脈波検知センサ10は脈波を検知し、より大きなセンサ信号を出力した。
(3)脈波検知センサ10を、第1スペーサ部材20mを基準に前後方向で±50mmの範囲に配置した場合に、脈波検知センサ10は脈波を検知し、一層大きなセンサ信号を出力した。
これらから、脈波検知センサ10が第1スペーサ部材20mに近い位置に配置される場合に、第1スペーサ部材20mから遠い位置に配置される場合よりセンサ信号が大きいことが判明した。この現象は、第1スペーサ部材20mの位置は、大腿動脈が太腿の裏側に回り込んで座面部材20fに近づく位置であるためと考えられる。そこで、本実施形態の脈波検知センサ10は、第1スペーサ部材20mの直上またはその近傍に配置される。
本発明者らの検討によって、脈波検知センサ10の基板14が座面部材20fに固定されない場合、基板14が座面部材20fに固定される場合よりセンサ信号が大きいことが判明した。基板14が座面部材20fに固定されると、座面部材20fから基板14に直接振動が伝達され、筒状部16から伝達された振動を打ち消すためセンサ素子12の振動が小さくなるためと考えられる。このため、本実施形態では、基板14は、座面部材20fに固定されていない。なお、基板14が座面部材20fに固定されないことは必須ではなく、設計上または製造上の理由により固定されてもよい。
図1に示すように、便座20を暖房するために、本実施形態の座面部材20fには、当該座面部材20fを加温するためのヒータ部材20sが設けられている。この図に示すように、ヒータ部材20sは第1部分20c、第2部分20dの主に大腿部が触れる領域に配置されている。本実施形態では、脈波検知センサ10の過度な温度上昇を避ける観点で、脈波検知センサ10は、ヒータ部材20sを避けた位置に配置される。
(解析部)
図6は、便座装置100の機能ブロックを示すブロック図である。図6は説明の上で重要ではない要素の一部を省略して表示している。図6および後述する図14に示す解析部40の各ブロックは、ハードウエア的には、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)をはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウエア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウエア、ソフトウエアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、本明細書に触れた当業者には理解されるところである。
本実施形態の解析部40は、取得部40bと、特定部40dと、推定部40eと、表示部40fと、出力部40gと、記憶部40mと、を含む。取得部40bは、脈波検知センサ10の検知結果を取得する。特定部40dは、取得部40bの取得結果を解析して、便座20に座った人の脈波に関する脈波情報を特定する。推定部40eは、特定部40dで特定された脈波情報から血管年齢を推定する。表示部40fは、推定部40eで推定された血管年齢を液晶ディスプレなどの表示デバイス40hに表示する。
出力部40gは、特定部40dの特定結果または推定部40eの推定結果を出力情報として外部機器40jに出力する。例えば、出力部40gは、有線または無線によりコンピュータなどの外部の情報処理装置やスマートフォンなどの携帯情報端末に出力情報を出力するものであってもよい。記憶部40mは、特定部40dの特定結果または推定部40eの推定結果を記憶情報として時系列的に記憶する。
このように構成された便座装置100の使用方法を説明する。ユーザが便座20に着座すると、脈波検知センサ10は、自動的に脈波の検知を開始し、その検知結果を取得部40bに出力する。取得部40bは、所定の時間分の検知結果を取得したら、その取得結果を特定部40dに出力する。特定部40dは、その取得結果に基づき脈波情報を特定し、推定部40eは、脈波情報に基づき血管年齢を推定する。これらの処理が終了したら、表示部40fは、推定血管年齢を表示するとともに、検査が終了した旨をブザー音などで報知する。ユーザが便座20から脱座したら、表示部40fは、自動的に表示を終了させてもよい。このように、便座装置100は、便座装置として通常使用の際に自動的に動作するので、血管年齢を計測するためのユーザの手間は殆ど増えない。
以上のように構成された第1実施形態の特徴を説明する。第1実施形態の便座装置100は、便座20と、便座20に座った人の脈波を検知可能な脈波検知センサ10と、を備え、脈波検知センサ10は、便座20において、便座20の座面部材20fと便鉢側部材20gとの間に配置される。
この構成によると、便座20を使用するときにユーザの脈波を検知できるので、検査のための特別な手間を掛けずに、脈波を取得することができる。また、毎朝などの定時観測ができるので、生活習慣の改善効果を実感しやすく、生活習慣の改善が長続きし易い。また、脈波検知センサ10を保管するために特別なスペースは必要ないので、ユーザの邪魔にならない。脈波を検知する際に痛みや操作の煩わしさが殆どないので、ユーザの負担は殆ど増えない。
脈波検知センサ10は、便座20のうち座った人の大腿部が接触するための接触領域20pに設けられてもよい。この場合、着座者の大腿部の血管の近傍で脈波を検知できるので、脈波検知センサ10の検知感度が高くなり、脈波情報の特定精度を向上できる。
便鉢側部材20gには、便座20を降ろしたときに便鉢部30と接触して便座20を支持するスペーサ部材20mが設けられ、脈波検知センサ10は、スペーサ部材20mの直上またはその近傍に配置されてもよい。この場合、スペーサ部材20mの近傍では便鉢側部材20gの剛性が高まるので、便鉢側部材20gを介して伝わる振動が抑制され、脈波検知センサ10の検知信号のS/N比を高めて脈波情報の特定精度を向上できる。
脈波検知センサ10を座面部材20fに向かって付勢する付勢部材26を備えてもよい。この場合、脈波検知センサ10の上端部16bを座面部材20fに押付けることができるので、脈波検知センサ10の検知感度が高くなり、脈波情報の特定精度を向上できる。
収容部24の周面部24bとホルダ22との間に隙間24sを設け、その隙間24sに付勢部材26を配置したことにより、ホルダ22や収容部24の形状バラツキを吸収することができる。このため、座面部材20fの裏側に対して、脈波検知センサ10の検知面16sが傾斜している場合でも、隙間24sと付勢部材26の付勢力とが傾斜を吸収し、脈波検知センサ10の検知面16sを座面部材20fに自動的に均一に接触させることができる。つまり、検知面16sが座面部材20fに密着するように隙間が自動的に微調整される。
また、経時変化があった場合でも、隙間24sと付勢部材26とにより形状や特性の変化を吸収し、脈波検知センサ10の検知面16sの接触状態を適切に維持できる。また、ユーザが便座20に着座し、座面部材20fが体重により変形し、脈波検知センサ10の検知面16sとの間に隙間が生じても、瞬時に自動的に隙間を密着させることができる。つまり、ユーザの便座20への着座位置や姿勢の変化に影響されにくく、太腿脈波の振動を効率良くセンサ素子12に伝えることが可能である。このことにより、測定感度を安定的かつ大幅に向上させることができる。
付勢部材26は、互いに離隔して配置される複数の弾性体を含んでもよい。この場合、複数の弾性体で離れた位置から脈波検知センサ10を座面部材20fに向かって付勢するので、脈波検知センサ10の上端部16bを座面部材20fの傾斜に適合するように当接させることができる。
脈波検知センサ10は、センサ素子12と、当該センサ素子12が配置された基板14と、センサ素子12を環囲する筒状部16と、を有し、筒状部16の一端部は座面部材20fに当接し、筒状部16の他端部は当該基板14に固定されてもよい。この場合、筒状部16の一端部が座面部材20fに当接するので、座面部材20fの振動をセンサ素子12に効率的に伝達できる。
脈波検知センサ10は、その検知面16sが座面部材20fに平行に設けられ、検知面16sは、便鉢側部材20gに対して傾斜していてもよい。この場合、筒状部16の検知面16sが座面部材20fに平行に当接するので、座面部材20fの振動をセンサ素子12に効率的に伝達できる。
座面部材20fには、当該座面部材20fを加温するためのヒータ部材20sが設けられ、脈波検知センサ10は、ヒータ部材20sを避けた位置に配置されてもよい。この場合、脈波検知センサ10がヒータ部材20sを避けて配置されるので、脈波検知センサ10の過度な温度上昇を回避することができる。
[第2実施形態]
図7を参照して、本発明の第2実施形態に係る便座装置200について説明する。第2実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
図7は、第2実施形態の便座装置200の脈波検知センサ10の周辺を示す断面図であり、図3に対応する。第2実施形態では、ホルダ22および収容部24の形状が異なる点で、第1実施形態と相違し、他の構成は同様である。したがって、ホルダ22および収容部24について説明する。
第1実施形態では、ホルダ22が便鉢側部材20gに平行に配置され、先端のみが傾斜する例を示した。図7に示すように、第2実施形態のホルダ22は、全体が座面部材20fに平行に配置され、便鉢側部材20gに対して傾斜している。第1実施形態では、収容部24が便鉢側部材20gとは別体である例を示した。図7に示すように、第2実施形態の収容部24は、便鉢側部材20gと一体的に形成されている。このため、便鉢側部材20gの裏側への出っ張りがなくなり、外観上の違和感も殆どなくなる。
以上のように構成された第2実施形態に係る便座装置200は、第1実施形態と同様に動作し、同様の作用効果を奏する。加えて、第2実施形態に係る便座装置200は、ホルダ22全体が座面部材20fに平行であって便鉢側部材20gに対して傾斜しているため、先端の傾斜がなくなり容易に製造できる。また、収容部24が便鉢側部材20gと一体的に形成されているため、構成部品の点数や取付工数が減り、製造コストの点で有利になる。
[第3実施形態]
図8~図10を参照して、本発明の第3実施形態に係る便座装置300について説明する。第3実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
図8は、第3実施形態の便座装置300の脈波検知センサ10の周辺を示す断面図であり、図3に対応する。図9は、本実施形態の脈波検知センサ10を拡大して示す断面図であり、図4に対応する。本実施形態は、第2実施形態に対して、筒状部16の上端部16b(一端部)に凸面部34が設けられ、凸面部34の頂部34pが座面部材20fに当接する点で相違し、他の構成は同様である。したがって主に凸面部34について説明する。筒状部16と凸面部34とは伝達部材32を構成する。
座面部材20fに人が着座すると、座面部材20fは体重を受けて3次元的に変形する。この変形は、人によって異なり、また、同じ人でも着座姿勢によって異なる。座面部材20fが3次元的に変形すると、筒状部16の上端部16bが座面部材20fに偏って接触する。この場合、上端部16bの一方の縁は座面部材20fに接触し、他方の縁は接触せずに隙間が形成される。つまり、座面部材20fが変形すると、これに伴って上端部16bと座面部材20fとの接触状態が変化する。接触状態が変化すると、センサ素子12への振動の伝達特性が変化し、センサ素子12が振動を正確に検知できなくなることがある。
そこで、本実施形態では、上端部16bと座面部材20fの接触状態の変化を低減するために凸面部34を設けている。凸面部34を有することで、座面部材20fが変形したときの接触状態の変化を少なくできるので、振動を正しく検知しやすくなる。
凸面部34の形状は、頂部34pが周囲から座面部材20fに向かって盛り上がっていれば、どのような形状でもよい。一例として、凸面部34の形状は、円錐、(円錐台を含む)、角錐(角錐台を含む)、湾曲面等の形状を含んでもよい。凸面部34は、単なる突起であってもよい。凸面部34は、座面部材20fに点接触または線接触する形状であってもよい。本実施形態では、凸面部34は、頂部34pが周囲より盛り上がる球面を有する。
本発明者らの研究により、接触点がセンサ素子の検出面の中心から過度にずれると、検知感度およびSN比が悪化することが示唆されている。感度やSN比が悪くなると、正しく振動を検知できないことがある。そこで、本実施形態では、凸面部34の頂部34pは、基板14のセンサ素子12が配置される主面14mに対して垂直な第1方向Sへのセンサ素子12の投影範囲内に配置される。また、頂部34pは、筒状部16の中心線Lc上に配置されてもよい。なお、第1方向Sは、脈波検知センサ10が座面部材20fに向かって付勢される付勢方向と平行であってもよい。
図10は、凸面部34を有する脈波検知センサ10の別の例を示す断面図であり、図4に対応する。この図は、筒状部16と凸面部34とが一体的に形成された伝達部材32を示している。図9に示すように、筒状部16と凸面部34とを別体に形成して連結してもよいし、図10に示すように筒状部16と凸面部34とを一体的に形成してもよい。図9の例では、凸面部34は筒状部16の上端側に被せるキャップ形状を有する。図10の伝達部材32は、凸面部34とセンサ素子12を環囲する筒状部16とを有し、凸面部34は、筒状部16と一体的に形成されている。伝達部材32は、黄銅やアルミニウムなどの金属材料や、樹脂材料で形成できる。
以上のように構成された第3実施形態の便座装置300は、第1実施形態と同様に動作し、同様の作用効果を奏する。加えて、第3実施形態に係る便座装置300は、センサ素子12に脈波を伝達するための伝達部材32を有し、伝達部材32の一端側には、座面部材20fに当接する凸面部34が設けられ、伝達部材32の他端側は基板14に固定される。
この構成によれば、座面部材20fが変形した場合でも、凸面部34と座面部材20fとの接触状態の変化を少なくできるので、振動を正しく検知しやすくなる。
伝達部材32は、センサ素子12を環囲する筒状部16を有し、凸面部34は、筒状部16と一体的に形成されてもよい。この場合、凸面部34と筒状部16の連結部を有しないため、連結部の周方向ムラに起因する伝達特性のムラが生じにくくなり、検知感度やSN比の製造バラツキを減らせる。また、筒状部16と凸面部34の重複部分の肉厚を減らせるので小型化に有利である。
凸面部34の頂部34pは、基板14のセンサ素子12が配置される主面14mに対して垂直な方向へのセンサ素子12の投影範囲内に配置されてもよい。この場合、頂部34pと座面部材20fとの接触点が、センサ素子12の検出面の中心近傍に位置するので、検知感度やSN比の点で有利である。
[第4実施形態]
図11から図15を参照して、本発明の第4実施形態に係る便座装置400について説明する。第4実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
第4実施形態の便座装置400は、第1~第3実施形態に対して、複数の脈波検知センサ10を備える点で相違し、他の構成は同様である。したがって主に複数の脈波検知センサ10の配置について説明する。
先に、単一の脈波検知センサ10を備える場合を説明する。図11(a)、図11(b)は、単一の脈波検知センサ10を備える場合の大腿動脈との位置関係を説明する図である。人が座面部材20fに着座するとき、右膝Nhと左膝Njの開き方は人によって異なり、また、同じ人でもそれぞれのケースによって異なることがある。右膝Nhと左膝Njの開き方が異なると、大腿動脈に対する脈波検知センサ10の位置関係も異なる。
図11(a)に示すように、右膝Nhと左膝Njが開いているときには、脈波検知センサ10は大腿動脈の近くに位置しているため、脈波の検知感度およびSN比の点で有利である。しかし、図11(b)に示すように、右膝Nhと左膝Njが接近しているときには、脈波検知センサ10は大腿動脈から外れてしまい、脈波の検知感度およびSN比の点で不利である。また、右膝Nhと左膝Njが大きく離れている場合も同様である。
そこで、本実施形態は、複数の脈波検知センサ10を備え、複数の脈波検知センサ10は互いに異なる位置に配置される。図12(a)、図12(b)は、複数(例えば、3つ)の脈波検知センサ10を備える場合の大腿動脈との位置関係を説明する図である。本実施形態の説明では、符号の末尾に「-A」、「-B」、「-C」を付加して、複数の脈波検知センサ10を区別する。図12(a)、(b)の例では、互いに幅方向に離間して配置される第1~第3脈波検知センサ10-A、10-B、10-Cが設けられる。前後方向位置において、脈波検知センサ10-Cは、脈波検知センサ10-Aと同位置であり、脈波検知センサ10-Bは、脈波検知センサ10-Aの斜め後方に位置する。
図12(a)に示すように、右膝Nhと左膝Njが開いているときには、脈波検知センサ10-Bは大腿動脈の近くに位置しているため、脈波の検知感度およびSN比の点で有利である。このとき、脈波検知センサ10-A、10-Cは大腿動脈から外れており、検知感度等が低下する。したがって、右膝Nhと左膝Njが開いているときは、脈波検知センサ10-Bの検知結果を用いることにより、脈波の検知精度を確保できる。
図12(b)に示すように、右膝Nhと左膝Njが接近しているときには、脈波検知センサ10-Cは大腿動脈の近くに位置しているため、脈波の検知感度およびSN比の点で有利である。このとき、脈波検知センサ10-A、10-Bは大腿動脈から外れており、検知感度等が低下する。したがって、右膝Nhと左膝Njが接近しているときは、脈波検知センサ10-Cの検知結果を用いることにより、脈波の検知精度を確保できる。
図示はしないが、右膝Nhと左膝Njが大きく離れている場合は、脈波検知センサ10-Aの検知結果を用いることにより、脈波の検知精度を確保できる。
次に、複数の脈波検知センサ10の配置例を説明する。複数の脈波検知センサ10を幅方向に一列に並べて配置してもよい。脈波検知センサ10の幅寸法が大きく、一列に並べるのが難しい場合は、前後方向にずらして並べてもよい。例えば、これらを互い違いに並べてもよいし、斜めに並べてもよい。図13(a)、図13(b)、図13(c)は、3つの脈波検知センサ10-A、10-B、10-Cの配置例を示す平面図である。複数の脈波検知センサ10は、便座20の幅方向、前後方向または両方向に離れていてもよい。この場合、右膝Nhと左膝Njの開き方が異なる場合にも脈波の検知精度を確保できる。
図13(a)の例では、3つの脈波検知センサ10-A、10-B、10-Cは、互いに幅方向で異なる位置であって、前後方向に同位置に配置される。図13(b)の例では、3つの脈波検知センサ10-A、10-B、10-Cは、互いに幅方向で異なる位置であって、前後方向に互い違いに配置される。このように、前後方向に離隔して配置することにより、便座20の幅方向寸法の拡大を抑制できる。図13(c)の例では、3つの脈波検知センサ10-A、10-B、10-Cは、互いに幅方向および前後方向で異なる位置であって、直線状に斜めに並べて配置される。複数の脈波検知センサ10の個数および配置は、所望の検知精度を確保するように実験により定めうる。
次に、複数の脈波検知センサ10の検知結果の選択方法を説明する。脈波の検知精度を高める観点で、複数の脈波検知センサ10を有する場合、その複数の検知結果からより適切なものを選択して解析することが望ましい。
図14は、本実施形態の便座装置400の機能ブロックを示すブロック図であり、図6に対応する。本実施形態の解析部40は、第1~第3取得部40k、40p、40qと、分析部40rと、選択部40sとを含む点で、第1実施形態の解析部40と異なり、他の構成は同様である。したがって、第1~第3取得部40k、40p、40qと、分析部40rと、選択部40sとについて説明する。第1~第3取得部40k、40p、40qを総称するときは単に取得部という。
第1~第3取得部40k、40p、40qは、それぞれ第1~第3脈波検知センサ10-A、10-B、10-Cの検知結果を取得する。分析部40rは、第1~第3脈波検知センサ10-A、10-B、10-Cの複数の検知結果を分析する。選択部40sは、分析部40rの分析結果に基づいて複数の検知結果のうちいずれかを選択する。
分析部40rの分析方法を説明する。図15(a)、図15(b)は、取得部で取得された脈波波形の一例を示す。図15(a)は波形乱れが少ない例を示し、図15(b)は波形乱れが多い例を示す。図15(a)の例では、脈波はそれぞれの脈拍においてピークA~Eを有する。ピークA、C、Eは上向きピークであり、ピークB、Dは下向きピークである。波形乱れが少ない波形は、脈波の検知感度が高くSN比が良好な状態で取得された波形であり、脈拍ごとの波形が揃っており、脈拍ごとの波形の再現性が高い。波形乱れが多い波形は、脈波の検知感度が低くSN比も悪い状態で取得された波形であり、脈拍ごとの波形が不揃いで、脈拍ごとの波形の再現性が低い。
本実施形態の分析部40rは、複数の脈拍の脈波波形について、各脈拍のピークA~Eの相対比の変動率を算出する。一例として、5拍の波形について、各脈拍におけるピーク比率(B/A、C/A、D/A、E/A)を算出し、算出された各比率の5拍中の最大と最小の差(以下、「比率差」という)を算出してもよい。この場合、比率差が小さいほど波形が揃っており、比率差が大きいほど波形が不揃いといえる。
本実施形態の選択部40sは、脈波検知センサ10-A、10-B、10-Cの検知結果のうち、比率差が最小の検知結果を選択して、特定部40dに提供する。特定部40dは、取得部40bの取得結果に代えて選択部40sで選択された取得結果を解析して、便座20に座った人の脈波に関する脈波情報を特定する。その他の機能ブロックの動作は第1実施形態と同様であり説明を省く。
以上のように構成された第4実施形態の便座装置400は、第1実施形態と同様に動作し、同様の作用効果を奏する。加えて、第4実施形態に係る便座装置400は、便座20に座った人の脈波を検知可能な複数の脈波検知センサ10-A、10-B、10-Cを備える。複数の脈波検知センサ10-A、10-B、10-Cは、便座20において、便座20の座面部材と便鉢側部材との間における互いに異なる位置に配置される。この構成によれば、右膝Nhと左膝Njの開き方が変化しても、大腿動脈に近い脈波検知センサ10から脈波を取得できるため、脈波の検知感度およびSN比の点で有利である。
複数の脈波検知センサ10-A、10-B、10-Cの各位置は、便座20の幅方向に離れていてもよい。この場合、大腿部の位置が幅方向に変化しても、大腿動脈に近い脈波検知センサ10から脈波を取得できるため、脈波の検知感度およびSN比の点で有利である。
複数の脈波検知センサ10-A、10-B、10-Cの複数の検知結果を分析する分析部40rと、分析部40rの分析結果に基づいて複数の検知結果のうちいずれかを選択する選択部40sとを有してもよい。この場合、複数の検知結果から相対的に良好なものを自動的に選択できる。着座姿勢による検知結果の変動を小さくできる。
以上、本発明の実施形態をもとに説明した。これらの実施形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
以下、変形例について説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
[変形例]
第1実施形態の説明では、付勢部材26が複数の弾性体を含む例を示したが、本発明はこれに限定されない。付勢部材26は1つの弾性体から構成されてもよい。この場合、例えば、付勢部材26は口径の大きなコイルスプリングであってもよい。
第4実施形態の説明では、脈波検知センサ10を3つ備える例を示したが、本発明はこれに限定されない。便座20には2つまたは4つ以上の脈波検知センサ10が設けられてもよい。複数の脈波検知センサ10は、左右両方の大腿部に対応するそれぞれの位置に設けられてもよい。この場合、複数の脈波検知センサ10は、便座20内に一体化されて設置されてもよいし、離隔して複数の箇所に設置されてもよい。複数のセンサを備えることにより、測定時に最も良好な脈波波形を出力した脈波検知センサ10を選定し、その検知結果から血管年齢を取得できる。
第1実施形態の説明では、コイルスプリングによって脈波検知センサ10を座面部材20fに向けて付勢する例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、発泡ウレタン樹脂などのスポンジ状の部材によって脈波検知センサ10を付勢するようにしてもよい。この場合、スポンジ状の部材は収容部24とホルダ22との間に設けられてもよい。
第1実施形態の説明では、収容部24を用いて脈波検知センサ10を支持する例を示したが、本発明はこれに限定されない。脈波検知センサ10は、収容部24を用いずに、付勢部材26を介して便鉢側部材20gに直接的に支持されたホルダ22によって保持されてもよい。
第1実施形態の説明では、脈波検知センサ10のセンサ素子12が圧電素子を含む例を示したが、本発明はこれに限定されない。脈波検知センサ10は、別の原理に基づいて脈派を検知可能な加速度検知用素子を用いるものであってもよい。
第1実施形態の説明では、筒状部16が円筒部材である例を示したが、本発明はこれに限定されない。筒状部16は三角筒や四角筒など多角筒部材であってもよい。
第1実施形態の説明では、筒状部16内の空間にセンサ素子12が露出する例を示したが、本発明はこれに限定されない。筒状部16内にセンサ素子12を覆うカバー部材が設けられてもよい。例えば、このカバー部材は、センサ素子12に注入されて硬化した樹脂からなるものであってもよい。
第1実施形態の説明では、記憶部40mが便座装置100の内部に設けられる例を示したが、本発明はこれに限定されない。記憶部40mは、便座装置100の外部に設けられてもよいし、便座装置100の内部及び外部の双方に設けられてもよい。
第1実施形態の説明では、座面部材20fは、中央側が低くなるように傾斜している例を示したが、本発明はこれに限定されない。座面部材20fは、傾斜していなくてもよいし、中央側が高くなるように傾斜してもよい。
上述の各変形例は実施形態と同様の作用・効果を奏する。
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
なお、図面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。