上述の各特許文献に記載のように,レントゲン画像,CT画像,MRI画像などの医療機器で撮影した画像情報(医療画像情報)に基づく診断支援は,画像からの見落としを防ぐという観点では,その有用度が高い。しかし,患者に対して常にこれらの画像情報を撮影するものではない。そのためこれらの画像情報を撮影しない場合には診断支援を行うことができない。
また非特許文献1は,患者が診察の待ち時間に所定の質問項目に回答することで,自動的に解析をして,関連性のある疾患を,医師に対して提案するものである。そのため,医師はこの提案を参考にすることができるので医師にとって有益な面がある。
しかし,非特許文献1のような診断支援システム,あるいは従来の診断支援システムにおいて医師に提案される疾患は,頻繁に発生しうる(可能性が高い)疾患が中心であり,まれな(可能性が低い)疾患については提案されにくい。なぜならば,患者の回答に基づいて解析をして関連性のある疾患を提案する場合,過去の統計情報に基づいて確率論的処理を行い,可能性が高い(確率が高い)疾患を提案するからである。そのため,同一の症状であっても,患者数が多い,流行しているなど,頻繁に発生する疾患の可能性が高くなり,患者数が少ないなどのレアな疾患は,その可能性が低いため,医師に対して提案されにくくなる。
一方,医師は医療の専門家であるから,頻繁に発生するような疾患は,当然,診察の過程で認識していることが多く,見落とす可能性も低い。また,医師自らが認識しているような疾患が診断支援システムから提案されても,すでに認識していることを診断支援システムから提案されるので,逆に煩わしく感じることがある。したがって,いわゆる過剰提案(オーバーアラート)の状態となる。その結果,医師としては診断支援システムからの提案に注意を向けなくなってしまう可能性がある。しかし,それでは診断支援システムの目的を果たすことができない。
医療においては,頻繁に発生する疾患の予測ではなく,同じような症状ではあるが,その発生する可能性の低いレアな疾患の見落とを防ぐことの方が重要な場合もある。しかし従来の診断支援システムの多くでは,頻繁に発生しうる疾患を中心に提案されるので,そのような可能性の低いレアな疾患を提案することを目的としていない。
本発明者は上記課題に鑑み,医師にとってより有用性の高い診断支援システムを発明した。
第1の発明は,医師の診断を支援する診断支援システムであって,前記診断支援システムは,医療情報の入力を受け付ける医療情報入力受付処理部と,前記入力を受け付けた医療情報を用いて疾患を推定する疾患推定処理部と,前記推定した疾患のうち,所定条件を充足する疾患を通知する通知処理部と,を有しており,前記通知処理部は,前記推定した疾患のうち,前記疾患の可能性若しくは順位に関する条件を充足する疾患または前記疾患の可能性について所定の変化があった疾患であって,かつ致死性のある疾患を特定し,前記特定した疾患のうち,前記医療情報に基づいて特定した医師が認識している疾患を除外して通知する,診断支援システムである。
本発明のように構成することで,医療情報を用いて推定された疾患のうち,医師が認識する可能性が高くはなく,かつ致死性のある疾患について,医師が認識している疾患は除外した上で,通知することができる。そのため,医師はレアな疾患についても認識できる場合があり,また,致死性のある疾患を通知するので,重大な診断エラー発生の抑止にも繋がる。その一方,医師が認識している疾患は除外するので,医師に対するオーバーアラートを防止することもできる。
上述の発明において,前記疾患の可能性に関する条件として,前記疾患の可能性が所定の閾値未満または以下である,診断支援システムのように構成することができる。
上述の発明において,前記疾患の順位に関する条件として,前記疾患の順位が所定の順位未満または以下である,診断支援システムのように構成することができる。
これらの発明のように構成することで,医療情報を用いて推定された疾患のうち,医師が認識する可能性が高くないレアな疾患について,医師に認識をさせることができる。
とくに,患者が罹患したのがレアな疾患であるほど,疾患の可能性について変化が大きいと考えられる。なぜならば,レアな疾患の場合,当初はその疾患の可能性が極めて低く,たとえば0.1%であっても,そのつぎの推定によって,1.0%に変化する場合がある。ただし2回目の推定でも1.0%であるので,絶対値としては大きな可能性ではなく,従来の診断支援システムでは通知される優先順位が低くなり,あるいは通知されないことが一般的である。
しかし,疾患の可能性の経時的な変化は0.1%から1.0%への変化であり,その疾患の可能性が10倍高くなっている。このような大きな変化は,当該疾患の特徴的な情報があった可能性があることを示している。そのため,レアな疾患であることの可能性も否定できない。そして,レアな疾患の場合,医師が認識をしていないこともあるので,それを医師に認識させることは重大な診断エラー発生を抑止することに繋げることができる。
致死性のある疾患を医師に通知することは,重大な診断エラー発生を抑止する上で重要である。そして本発明のように構成することで,それを実現することができる。
上述の発明において,前記通知処理部は,前記推定された疾患について,疾患とその致死性の有無を示す情報とを対応づけて記憶する記憶部を参照することで,前記推定された疾患について致死性のある疾患であるかを特定する,診断支援システムのように構成することができる。
致死性のある疾患の特定は,本発明のように行うことができる。
第5の発明は,医師の診断を支援する診断支援システムであって,前記診断支援システムは,医療情報に基づいて推定された疾患のうち,所定条件を充足した疾患を通知する通知処理部,を有しており,前記通知処理部は,前記推定された疾患のうち,前記医療情報に基づいて特定した医師が認識している疾患を除外して通知する,診断支援システムである。
医師が認識している疾患を通知しても,オーバーアラートの状態となる場合がある。本発明では,医師が認識している疾患は除外して通知をするので,オーバーアラートの状態を防止することができる。
上述の発明において,前記通知処理部は,前記医療情報における電子カルテの自由記載欄に入力された,医師が認識している疾患のテキスト情報,または臨床病名の項目に入力された疾患に基づいて,前記医師が認識している疾患を特定する,診断支援システムのように構成することができる。
医師が認識している疾患の特定は,本発明のように行うことができる。
上述の発明において,前記診断支援システムは,さらに,前記医療情報のうち電子カルテの自由記載欄に入力されたテキスト情報について構造化処理を実行して構造化情報を生成する構造化処理部,を有しており,前記構造化情報を用いて,前記疾患の推定または前記所定条件を充足した疾患を特定する,診断支援システムのように構成することができる。
本発明のように,電子カルテの自由記載欄には,医師が自然文でテキスト情報を入力する。そのようなテキスト情報に基づいて疾患の推定,所定条件の充足性の判定を行うと,自然言語解析処理の精度に依存することとなる。そのため,血液検査などの各種検査結果の情報や,各種の画像情報などの用意に定量化可能な情報を併用したとしても,精度向上に限界がある。そこで,本発明のように,電子カルテの自由記載欄に入力されたテキスト情報について構造化情報を生成し,それを用いて疾患の推定,所定条件の充足性の判定をすることで,全体のシステムの精度を向上させることができる。
第1の発明は,本発明のプログラムをコンピュータに読み込ませて実行することで,実現することができる。すなわち,コンピュータを,医療情報の入力を受け付ける医療情報入力受付処理部,前記入力を受け付けた医療情報を用いて疾患を推定する疾患推定処理部,前記推定した疾患のうち,所定条件を充足する疾患を通知する通知処理部,として機能させる診断支援プログラムであって,前記通知処理部は,前記推定した疾患のうち,前記疾患の可能性若しくは順位に関する条件を充足する疾患または前記疾患の可能性について所定の変化があった疾患であって,かつ致死性のある疾患を特定し,前記特定した疾患のうち,前記医療情報に基づいて特定した医師が認識している疾患を除外して通知する,診断支援プログラムである。
第5の発明は,本発明のプログラムをコンピュータに読み込ませて実行することで,実現することができる。すなわち,コンピュータを,医療情報に基づいて推定された疾患のうち,所定条件を充足した疾患を通知する通知処理部,として機能させる診断支援プログラムであって,前記通知処理部は,前記推定された疾患のうち,前記医療情報に基づいて特定した医師が認識している疾患を除外して通知する,診断支援プログラムである。
本発明によって,医師によってより有用性の高い診断支援システムを実現することができる。
本発明の診断支援システム1の全体の処理機能の一例を図1のブロック図に示す。また本発明の診断支援システム1を実現するコンピュータのハードウェア構成の一例を図2に示す。
診断支援システム1は,本発明の処理を実行するコンピュータである。診断支援システム1で用いるコンピュータは,プログラムの演算処理を実行するCPUなどの演算装置70と,情報を記憶するRAMやハードディスクなどの記憶装置71と,ディスプレイ(画面)などの表示装置72と,キーボードやポインティングデバイス(マウスやテンキーなど)などの入力装置73と,演算装置70の処理結果や記憶装置71に記憶する情報をインターネットやLANなどのネットワークを介して送受信する通信装置74とを有している。コンピュータ上で実現する各機能(各手段)は,その処理を実行する手段(プログラムやモジュールなど)が演算装置70に読み込まれることでその処理が実行される。各機能は,記憶装置71に記憶した情報をその処理において使用する場合には,該当する情報を当該記憶装置71から読み出し,読み出した情報を適宜,演算装置70における処理に用いる。また,図1の診断支援システム1は一台のコンピュータで実現される場合を示したが,複数のコンピュータに,その機能が分散配置されていてもよい。コンピュータには,サーバやパーソナルコンピュータ,ワークステーションなど各種の情報処理装置が含まれる。また,いわゆるクラウド形式であってもよい。たとえば,医師や看護師などの医療従事者が入力に用いるコンピュータと,入力された情報を受け付けて本発明における各処理を実行するコンピュータとが分かれていてもよい。
コンピュータがタッチパネルディスプレイを備えている場合には,表示装置72と入力装置73とが一体的に構成されていてもよい。タッチパネルディスプレイは,たとえばタブレット型コンピュータやスマートフォンなどの可搬型通信端末などで利用されることが多いが,それに限定するものではない。タッチパネルディスプレイは,そのディスプレイ上で,直接,所定の入力デバイス(タッチパネル用のペンなど)や指などによって入力を行える点で,表示装置72と入力装置73の機能が一体化した装置である。
またコンピュータは音声入力が可能であってもよい。この場合,入力者が発話した音声を所定のマイク(集音装置)で集音し,テキスト情報に変換して対応箇所にテキスト入力を行う。
本発明における各手段は,その機能が論理的に区別されているのみであって,物理上あるいは事実上は同一の領域を為していてもよい。また,本発明で説明する処理は一例に過ぎず,その処理プロセスを適宜,変更することが可能である。
診断支援システム1は,医療情報入力受付処理部11と医療情報記憶部12と疾患推定処理部13と通知処理部14とを有する。なお,診断支援システム1は,電子カルテなどにおける一機能を構成するものであってもよい。
医療情報入力受付処理部11は,医師が患者を診察した際に入力する電子カルテの情報,血液検査や遺伝子検査などの各種検査結果の情報,患者を撮影したレントゲン画像,CT画像,MRI画像などの各種の画像検査による医療画像情報などの各種情報のうちいずれか一以上を医療情報として入力を受け付ける。医療情報入力受付処理部11は,入力を受け付けた医療情報について,後述する医療情報記憶部12に記憶させる。
たとえば医療情報として電子カルテの情報とする場合,医師が患者を診察するなどして電子カルテに入力された情報を,医療情報入力受付処理部11は受け付ける。医療情報として患者に対する各種検査結果の情報を用いる場合,入力された検査結果の情報を,医療情報入力受付処理部11は受け付ける。医療情報として各種の医療画像情報を用いる場合,入力された医療画像情報を医療情報入力受付処理部11は受け付ける。医療情報入力受付処理部11で入力を受け付けた医療情報は,患者を識別する情報,たとえば患者IDや氏名などと紐付けられる。
なお,医療情報としては,上述の一つに限定するものではなく,一以上あればよい。また複数の情報,たとえば電子カルテに入力した情報,各種検査結果の情報,画像検査による医療画像情報などを適宜,組み合わせたものであってもよいし,これら以外の医療に関連する情報であってもよい。
医療情報記憶部12は,医療情報入力受付処理部11で入力を受け付けた医療情報を記憶する。医療情報としては,上述のように,電子カルテの情報,各種検索結果の情報,医療画像情報などの情報を記憶する。これらは,電子カルテシステムにおいて,ある患者の電子カルテに紐付いていてもよい。
疾患推定処理部13は,医療情報入力受付処理部11で入力を受け付けた医療情報や医療情報記憶部12に記憶した医療情報に基づいて,公知の解析処理を実行し,当該患者に想定される疾患(疾患名など)を推定する。疾患推定処理部13は,医療情報に基づく解析処理により,当該患者に想定される疾患(可能性のある疾患)を,その疾患であることを示す所定の指標値,たとえば確率,優先順位などとともに推定する。
医療情報に基づく疾患の推定については,さまざまなコンピュータシステムを用いることができる。たとえば,深層学習(ディープラーニング)を用いて疾患を推定してもよい。この場合,中間層が多数の層からなるニューラルネットワークの各層のニューロン間の重み付け係数が最適化された学習モデルに対して,上記医療情報を入力し,その出力値に基づいて,疾患を推定する。また学習モデルとしては,さまざまな医療情報に疾患を正解データとして与えたものを用いることができる。
また医療情報に基づく疾患の推定としては,あらかじめ属性,主訴,既往歴などによって形成されたデシジョンツリーを用意しておき,そのデシジョンツリーに従って,疾患を推定してもよい。
これら以外にもさまざまな推定方法により疾患を推定することができ,そこに限定はない。
医療情報が電子カルテに入力した情報の場合,疾患推定処理部13は,医療情報入力受付処理部11で入力を受け付けた,電子カルテに入力された患者の年齢や性別などの属性情報,主訴,既往歴などの,逐次,入力された情報に基づいて,可能性の高い疾患を公知の方法により推定をする。
たとえば電子カルテに属性情報として「50歳,男性」,主訴として「頭痛」の入力を医療情報入力受付処理部11で受け付けると,医療情報入力受付処理部11はそれを医療情報記憶部12に記憶させる。そして疾患推定処理部13は,公知の解析処理を実行し,疾患「偏頭痛」の確率として「50%」,疾患「緊張性頭痛」の確率として「35%」,疾患「頭部打撲」の確率として「10%」,疾患「くも膜下出血」の確率として「3%」,疾患「脳出血」の確率として「2%」のように,入力された医療情報に基づいて患者の疾患を推定する。
医療情報が各種検査結果の情報の場合,疾患推定処理部13は,医療情報記憶部12における電子カルテに入力された患者の年齢や性別などの属性情報や,医療情報入力受付処理部11で入力を受け付けた,検査結果の情報に基づいて可能性の高い疾患を公知の方法により推定をする。この際に,主訴,既往歴などの電子カルテの情報などほかの医療情報も含めて解析することがよい。
医療情報が医療画像情報の場合,疾患推定処理部13は,医療情報記憶部12における電子カルテに入力された患者の年齢や性別などの属性情報,医療情報入力受付処理部11で入力を受け付けた医療画像情報などに基づく画像解析処理などを実行し,可能性の高い疾患を公知の方法により推定をする。この際に,主訴,既往歴などの電子カルテのほかの情報,各種検査結果の情報などほかの医療情報も含めて解析してもよい。
なお,疾患推定処理部13は,医療情報に基づいて,患者の疾患とその可能性(確率などの指標値)とを推定する。
疾患推定処理部13が,医療情報に基づいて疾患を推定するのは,どのようなタイミングであってもよく,医療情報入力受付処理部11で新しい情報の入力を受け付けるタイミング,医師が所定の操作をしたタイミング,電子カルテの自由記載欄に,医師がアセスメント・プランに関する情報,たとえば患者に対する疾患を入力したタイミングなど,任意のタイミングであってよい。また一人の患者に対して,複数回の疾患推定の処理を行ってもよい。
通知処理部14は,疾患推定処理部13で推定した疾患のうち,所定条件を充足した疾患などを,あらかじめ定められた方法で医師に通知する。
所定条件としては各種の条件を設定することができるが,たとえば以下のような条件を用いることができる。
所定条件の第1としては,致死性のある疾患を通知する場合である。この場合,通知処理部14は,疾患ごとに致死性があるか否かを,さまざまな疾患と致死性の有無を示す情報(たとえばフラグ)などと対応づけて記憶する疾患に関する情報の記憶部(データベースなど)を参照して通知をする。なお,本明細書において,「致死性のある疾患」とは,あらかじめ疾患に関する情報の記憶部に「致死性のある疾患」として設定されている疾患であればよく,たとえば「死または重篤な後遺症に至る可能性が高い疾患」が任意に設定されている。すなわち,疾患推定処理部13において疾患を推定すると,通知処理部14は,推定したそれぞれの疾患について,疾患に関する情報の記憶部を参照し,致死性のある疾患であるか否かを推定する。そして致死性のある疾患である場合には,所定条件を充足したとして,当該疾患を通知する。たとえば,上述のように,致死性のある疾患「くも膜下出血」が「3%」,致死性のある疾患「脳出血」が「2%」のように可能性が低い疾患であっても,それらを通知する。この際に,通知処理部14は,指標値が所定値以上,あるいは上位から所定順位までの疾患の通知をし,さらに致死性のある疾患については,指標値や順位にはかかわらず,通知をするようにしてもよい。これによって,たとえば,疾患推定処理部13において推定した疾患のうち,指標値が上位3番目までの疾患を通知処理部14が通知するとした場合,上述のように,上から4番目の通常では通知されない疾患であるとしても,致死性のある疾患「くも膜下出血」,上から5番目の致死性のある疾患「脳出血」を通知する。これを模式的に示すのが図4である。
さらに,通知処理部14は,疾患推定処理部13が推定した各疾患について,指標値が所定の閾値未満(若しくは以下)かつ致死性のある疾患,あるいは,上位から所定の順位未満(若しくは以下)かつ致死性のある疾患のみを通知するようにしてもよい。指標値が所定の閾値以上,あるいは上位から所定の順位以上の疾患については,それが致死性の高い疾患であったとしても,医療の専門家である医師は通常,認識していることが多い。そのため,致死性のある疾患であっても可能性が高い疾患(所定の閾値以上の確率や所定の順位以上の疾患)については,通知を行うとオーバーアラートの状態になりかねない。そのため,可能性が高い疾患については通知を行わず,可能性が低い疾患(所定の閾値未満(若しくは以下)の確率や所定の順位未満(若しくは以下)の疾患)であって,かつ致死性が高い疾患のみを通知することによって,医師の見落としによる重大な診断エラー発生を抑止することができる。これを模式的に示すのが図5である。指標値に対する所定の閾値,順位に対する所定の順位は,通常の通知において,疾患推定処理部13が推定した疾患として通知を行う範囲を示す閾値や順位であればよい。
所定条件の第2としては,疾患推定処理部13において推定した疾患の指標値について,所定以上の変化があった疾患を通知する場合である。この場合,疾患推定処理部13は,医療情報入力受付処理部11で入力を受け付けた医療情報や,医療情報記憶部12に記憶した医療情報に基づいて,適宜のタイミングで疾患を推定するが,前回と今回の推定,あるいは任意の複数回の推定などにおいて推定した疾患の指標値に所定以上の変化があった場合に,通知を行う。所定以上の変化とは,指標値が所定以上の変化率で変化した場合,指標値が所定の比較値以上(本来通知される指標値(たとえば10%)よりは低い指標値(たとえば比較値として8%)でよい)に変化した場合などがある。
上述のように,電子カルテに属性情報として「50歳,男性」,主訴として「頭痛」の入力を医療情報入力受付処理部11で受け付けて,疾患推定処理部13は,公知の解析処理を実行した段階では,疾患「偏頭痛」の確率として「50%」,疾患「緊張性頭痛」の確率として「35%」,疾患「頭部打撲」の確率として「10%」,疾患「くも膜下出血」の確率として「3%」,疾患「脳出血」の確率として「2%」のように推定をしたとする。つぎに,電子カルテに「既往歴」として「高血圧」,血圧の情報として「182/123」,脈拍の情報として「115」の入力を医療情報入力受付処理部11で受け付けて,医療情報記憶部12に記憶されたとする。そうすると,疾患推定処理部13は,各段階で入力された医療情報に基づいて公知の解析処理により疾患の推定を再度行い,たとえば疾患「偏頭痛」の確率として「25%」,疾患「緊張性頭痛」の確率として「25%」,疾患「頭部打撲」の確率として「15%」,疾患「くも膜下出血」の確率として「18%」,疾患「脳出血」の確率として「17%」のように推定をしたとする。
通知処理部14では,各疾患についての指標値の変化率が所定以上(たとえば5倍以上),あるいは指標値が所定の比較値以上(たとえば8%以上)になった疾患について,所定条件を充足したとして,通知を行う。上述の例では,疾患「くも膜下出血」の確率は当初「3%」であったところ,既往歴,血圧,脈拍の情報の入力を受け付けた後では「18%」となり,確率が「5倍」以上変化している。そのため,通知処理部14は,疾患「くも膜下出血」について通知をする。また,疾患「脳出血」の確率は当初「2%」であったところ,既往歴,血圧,脈拍の情報の入力を受け付けた後では「17%」となり,確率が所定の変化としての「5倍」以上変化している。そのため,通知処理部14は,疾患「脳出血」について通知をする。これを模式的に示すのが図6である。
所定の条件の第2の場合,第1の場合と同様に,通知処理部14は,指標値が所定の閾値以上の疾患若しくは1位から所定順位までの疾患を通知していてもよいし,あるいはオーバーアラートを回避するため,指標値が所定の閾値未満(若しくは以下)の疾患若しくは1位から所定順位以下の疾患であって,かつ所定以上の変化があった疾患のみを通知してもよい。さらに,所定以上の変化があった疾患であって,かつ致死性のある疾患を通知するようにしてもよい。これを模式的に示すのが図7である。
所定の条件の第3として,通知処理部14は,医師が認識している疾患は通知をしないようにしてもよい。医師が認識している疾患であるか否かは,電子カルテにおいてアセスメント・プラン(A/P)の項目に入力された疾患のテキスト情報や,電子カルテに臨床病名の入力項目がある場合にはその項目に入力された疾患のテキスト情報などで特定することができる。すなわち,医療情報入力受付処理部11において電子カルテに入力されたテキスト情報,医療情報記憶部12において電子カルテに入力されたテキスト情報について,通知処理部14がアセスメント・プランに関する情報であることを示すテキスト情報,たとえば,「A/P」のようなテキスト情報を特定すると,そこから所定範囲名に入力されたテキスト情報のうち疾患を示すテキスト情報を特定することで判定できる。アセスメント・プランには,医師が診断した疾患が記載されることから,その記載された疾患は,医師が認識している疾患であるとすることができる。また,臨床病名(保険病名ではない)の項目が電子カルテにある場合には,その項目に入力された情報は,上述のアセスメント・プランに入力された疾患と同様に,医師が臨床病名として認識している疾患である。したがって,疾患推定処理部13で推定した疾患のうち,電子カルテ情報において医師が診断した疾患については,通知を行わないようにすることができる。
たとえば,所定条件の第2で示した例(図7)の場合,すなわち,電子カルテに属性情報として「50歳,男性」,主訴として「頭痛」,既往歴として「高血圧」,血圧の情報として「182/123」,脈拍の情報として「115」の入力を医療情報入力受付処理部11で受け付けて,医療情報記憶部12に記憶されていたあと,電子カルテに「A/P」と「くも膜下出血」のテキスト情報の入力がされたとする。その入力は医療情報入力受付処理部11で受け付け,医療情報記憶部12に記憶される。その場合,通知処理部14は,「A/P」のテキスト情報を特定し,そこから所定範囲内にある「くも膜下出血」の疾患(医師が認識している疾患)を特定する。通知処理部14は,疾患「くも膜下出血」は通知する疾患として除外する。
この場合,通知処理部14は,上述の所定の条件の第1,第2と組み合わせて通知を判定してもよい。すなわち,疾患推定処理部13が推定した疾患のうち,致死性のある疾患であってかつ医師が認識している疾患は除外して通知をするようにしてもよい(図8(a))。また,疾患推定処理部13が推定した各疾患について指標値が所定の閾値未満(若しくは以下)かつ致死性のある疾患のうち医師が認識している疾患は除外して,あるいは,上位から所定の順位未満(若しくは以下)かつ致死性のある疾患のうち医師が認識している疾患は除外して通知をするようにしてもよい(図8(b))。さらに,各疾患についての指標値が所定以上変化した疾患のうち,医師が認識している疾患を除外して通知する(図8(c))。加えて,指標値が所定の閾値未満(若しくは以下)の疾患若しくは所定順位以下の疾患であって,指標値に所定以上の変化があった疾患のうち,医師が認識している疾患を除外して通知をする(図8(d))。
また,各疾患についての指標値が所定以上変化した疾患であって,かつ致死性のある疾患のうち,医師が認識している疾患を除外して通知する(図9(a))。さらに,指標値が所定の閾値未満(若しくは以下)の疾患若しくは所定順位以下の疾患であって,所定以上の変化があった疾患かつ致死性のある疾患のうち,医師が認識している疾患は除外して通知をする(図9(b))。
以上のように,疾患推定処理部13で推定した疾患については,医師が認識している疾患の情報,たとえば「A/P」およびそこから所定範囲の疾患の情報の入力を受け付けた後,上述の第1乃至第3の条件を充足する通知対象となる疾患を判定し,通知処理部14が通知をすればよい。たとえば通知の一例としては,図10に示すように,「脳出血の疑いが17%あります」などのように,通知対象として条件を充足した疾患およびその指標値を含む通知を表示装置72に表示させることができる。なお,指標値を通知しなくてもよい。
通知処理部14による疾患の通知としては,医師が操作するコンピュータの表示装置72に,当該所定条件を充足した疾患を表示させる,所定条件を充足した疾患があることを示す通知をするなど各種の表示による通知のほか,所定条件を充足した疾患や通知があることの音声による出力通知,医師が操作するコンピュータやその付属品を振動させるなどの物理的な通知など,各種の通知方法を用いることができる。
つぎに本発明の診断支援システム1の処理プロセスの一例を図3のフローチャートを用いて説明をする。
医師が診察をする患者については,その属性情報が電子カルテにすでに登録されている。そのため,患者を診察する際に,医師は,所定の操作を行うことで,医療情報記憶部12に記憶した当該患者の電子カルテの情報を抽出する。たとえば氏名などのほか,年齢「50歳」,性別「男性」などの当該患者の電子カルテに登録された情報が医療情報記憶部12から読み出される。
医師は患者を診察することで,どのような症状があるのかなど,診断に必要な情報を聞き出し,逐次,電子カルテに入力をする。電子カルテに入力されたテキスト情報は医療情報入力受付処理部11で受け付け,医療情報記憶部12の当該患者の電子カルテに登録される。
たとえば医師は患者に対し,「今日はどうなさいましたか」などを尋ね,「頭が痛い」などの回答を受け付けた場合,医師は電子カルテに「主訴」として「頭痛」などのテキスト情報の入力をし,それを医療情報入力受付処理部11で受け付けるとともに,当該患者の電子カルテの情報として医療情報記憶部12に記憶させる(S100)。この際には,まだ医師の診断した疾患を示す情報が入力されていないので(S110),疾患推定処理部13は,電子カルテに記載された患者の属性情報「50歳,男性」のほか,入力された「主訴」として「頭痛」の情報に基づいて,公知の解析処理を実行して疾患を推定する(S120)。たとえば,疾患「偏頭痛」の確率として「50%」,疾患「緊張性頭痛」の確率として「35%」,疾患「頭部打撲」の確率として「10%」,疾患「くも膜下出血」の確率として「3%」,疾患「脳出血」の確率として「2%」のように推定をする。この段階において,疾患推定処理部13で推定した疾患を模式的に示すのが図11である。
医師は引き続き,患者に対して,「いままでにかかった病気はありますか」など,既往歴などの情報を尋ね,「高血圧」などの回答を受け付け,また計測した患者の血圧「182/123」,脈拍「115」の情報を電子カルテの情報に入力をする。これらの情報は,上述と同様に,医療情報入力受付処理部11で受け付けるとともに,当該患者の電子カルテの情報として医療情報記憶部12に記憶させる(S100)。そして,この際には,まだ医師の診断した疾患を示す情報が入力されていないので(S110),疾患推定処理部13は,すでに電子カルテに記載された患者の属性情報「50歳,男性」,入力された「主訴」として「頭痛」のほか,入力を受け付けた「既往歴」として「高血圧」,血圧「182/123」,脈拍「115」の情報に基づいて,公知の解析処理を実行して疾患を推定する(S120)。たとえば,疾患「偏頭痛」の確率として「25%」,疾患「緊張性頭痛」の確率として「25%」,疾患「頭部打撲」の確率として「20%」,疾患「くも膜下出血」の確率として「16%」,疾患「脳出血」の確率として「14%」のように推定をする。この段階において,疾患推定処理部13で推定した疾患を模式的に示すのが図12である。
そして,医師が患者を診察した結果を電子カルテの情報に入力をする。たとえば「A/P くも膜下出血の疑いあり」などと入力をし,医療情報入力受付処理部11でその入力を受け付けると(S100),それを医療情報記憶部12に記憶させる。そして,通知処理部14は,医師が認識している疾患の入力があったことを検出し(S110),疾患推定処理部13で推定した疾患のうち,所定条件を充足した疾患があるかを判定する(S130)。
所定条件として,たとえば「上位から4番目以下の疾患かつ致死性のある疾患のうち,医師が認識をしている疾患は除外する」が定められていた場合,通知処理部14は,疾患に関する情報の記憶部を参照し,疾患推定処理部13で推定した4番目以下の疾患で致死性のある疾患があるか特定する。図12の場合,「くも膜下出血」,「脳出血」を特定する。そして,通知処理部14は,医師が認識をしている疾患として,電子カルテの「A/P」のテキスト情報から所定の範囲内にある疾患として「くも膜下出血」を特定する。そのため,通知処理部14は,所定条件を充足する疾患として「脳出血」を通知する疾患として特定し,図10に示すように,表示装置72に「脳出血の疑いが14%あります」のように通知をする(S140)。これを模式的に示すのが図13である。
一方,上述において,医師が患者を診察した結果として,電子カルテの情報に,「A/P 少し血圧が高いが偏頭痛であろう。処方して帰宅させる」などと入力をした場合,医療情報入力受付処理部11でその入力を受け付け(S100),それを医療情報記憶部12に記憶させる。そして,通知処理部14は,医師が認識している疾患の入力があったことを検出し(S110),疾患推定処理部13で推定した疾患のうち,所定条件を充足した疾患があるかを判定する(S130)。
所定条件が上述と同一であった場合,通知処理部14は,疾患に関する情報の記憶部を参照し,疾患推定処理部13で推定した4番目以下の疾患で致死性のある疾患があるか特定する。たとえば上述の場合,「くも膜下出血」,「脳出血」を特定する。そして,通知処理部14は,医師が認識をしている疾患として,電子カルテの「A/P」のテキスト情報から所定の範囲内にある疾患名として「偏頭痛」を特定する。そのため,通知処理部14は,所定条件を充足する疾患として「くも膜下出血」,「脳出血」を通知する疾患として特定し,図14に示すように,表示装置72に「くも膜下出血の疑いが16%,脳出血の疑いが14%あります」のように通知をする(S140)。これを模式的に示すのが図15である。
このように処理をすることで,医師としては優先順位の低い疾患であるが,致死性があり,かつ医師が認識をしていない可能性がある疾患について通知をすることができるので,医師の見落としなどによる重大な診断エラーの発生を抑止することができる。また,オーバーアラートにもならない。
つぎに本発明の診断支援システム1における別の例を説明する。本実施例においても,実施例1と同様に,その患者の属性情報(年齢「17歳」,性別「女性」など)が電子カルテにすでに登録されている。そして,患者を診察する際に,医師は,所定の操作を行うことで,医療情報記憶部12に記憶した当該患者の電子カルテの情報を抽出する。たとえば氏名などのほか,年齢「17歳」,性別「女性」などの当該患者の電子カルテに登録された情報が医療情報記憶部12から読み出される。
医師は患者に対し,「今日はどうなさいましたか」,「いままでにかかった病気はありますか」などを尋ね,「吐き気がある」,「特にないです」などの回答を受け付けた場合,医師は電子カルテに「主訴」として「嘔吐」,「既往歴」として「なし」などのテキスト情報の入力をし,それを医療情報入力受付処理部11で受け付けるとともに,当該患者の電子カルテの情報として医療情報記憶部12に記憶させる(S100)。この際には,まだ医師の診断した疾患を示す情報が入力されていないので(S110),疾患推定処理部13は,電子カルテに記載された患者の属性情報「17歳,女性」のほか,入力された「主訴」として「嘔吐」,「既往歴」として「なし」の情報に基づいて,公知の解析処理を実行して疾患を推定する(S120)。たとえば,疾患「胃腸炎」の確率として「85%」,疾患「心因性」の確率として「10%」,疾患「イレウス」の確率として「2%」,疾患「胃潰瘍・胃がん」の確率として「2%」,疾患「脳腫瘍」の確率として「0.8%」,疾患「DKA」(糖尿病性ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis))の確率として「0.2%」のように推定をする。この段階において,疾患推定処理部13で推定した疾患を模式的に示すのが図16である。
医師は,計測した患者の血圧「96/54」,脈拍「123」,呼吸数「30」の情報を電子カルテに入力をする。これらの情報は,上述と同様に,医療情報入力受付処理部11で受け付けるとともに,当該患者の電子カルテの情報として医療情報記憶部12に記憶させる(S100)。そして,この際には,まだ医師の診断した疾患を示す情報が入力されていないので(S110),疾患推定処理部13は,すでに電子カルテに記載された患者の属性情報「17歳,女性」,入力された「主訴」として「嘔吐」のほか,入力を受け付けた「既往歴」として「なし」,血圧「96/54」,脈拍「123」,呼吸数「30」の情報に基づいて,公知の解析処理を実行して疾患を推定する(S120)。たとえば,疾患「胃腸炎」の確率として「80%」,疾患「心因性」の確率として「10%」,疾患「イレウス」の確率として「3%」,疾患「胃潰瘍・胃がん」の確率として「3%」,疾患「脳腫瘍」の確率として「3%」,疾患「DKA」の確率として「1%」のように推定をする。この段階において,疾患推定処理部13で推定した疾患を模式的に示すのが図17である。
そして,医師が患者を診察した結果を電子カルテの情報に入力をする。たとえば「A/P 胃腸炎疑い 処方」などと入力をし,医療情報入力受付処理部11でその入力を受け付けると(S100),それを医療情報記憶部12に記憶させる。そして,通知処理部14は,医師が認識している疾患の入力があったことを検出し(S110),疾患推定処理部13で推定した疾患のうち,所定条件を充足した疾患があるかを判定する(S130)。
所定条件として,たとえば「指標値が10%未満の疾患かつ致死性のある疾患のうち,疾患の指標値の変化が5倍以上ある疾患であって,医師が認識をしている疾患は除外する」が定められていた場合,通知処理部14は,疾患推定処理部13で推定した疾患の確率の変化を算出する。そして,「DKA」の確率が一つ前では「0.2%」であったところ「1%」に変化をし,指標値が5倍以上,変化していることから,「DKA」を特定する。そして,通知処理部14は,医師が認識をしている疾患として,電子カルテの「A/P」のテキスト情報から所定の範囲内にある疾患名として「胃腸炎」を特定する。そのため,通知処理部14は,所定条件を充足する疾患として「DKA」を通知する疾患として特定し,図18に示すように,表示装置72に「DKAの疑いが5倍以上高くなりました」のように通知をする(S140)。これを模式的に示すのが図19である。
「DKA」に罹患した患者は,最初は「胃腸炎」などと診断されることが多く,そのまま帰宅して,3日程度後に昏睡状態などの重篤な状態となって救急外来に運ばれてくることも多い。そのため,致死性が高い疾患ではあるが,発症がまれであるため,医師としても診断の際の考慮対象から除外することが多い。しかし,指標値が所定以上変化したことは,当該疾患の特徴的な情報が入力された可能性があることを示しているので,レアな疾患であっても,当該疾患の可能性があるといえる。そのため,それを医師に認識させることは重大な診断エラー発生を抑止することに繋がる。そのため,本発明の診断支援システム1を用いることで,医師に対して「DKA」を通知することで,医師に「DKA」の可能性を認識させることができる。また,オーバーアラートにもならない。
医療情報入力受付処理部11で入力を受け付ける電子カルテの情報については,疾患推定処理部13や通知処理部14がそのままテキスト情報を解析処理して,疾患推定処理や,通知処理部14における医師の認識している疾患の特定処理を行うことができるが,それ以外にも,電子カルテに入力された情報について,構造化(フィールド化)して,疾患推定処理,医師の認識している疾患の特定処理に用いてもよい。
診断支援システム1には,医療情報入力受付処理部11で入力を受け付けた電子カルテへのテキスト情報について構造化する構造化処理部15を備えていてもよい。この場合の診断支援システム1の全体の処理機能の一例を図20に示す。電子カルテに入力されたテキスト情報の構造化処理については,さまざまな処理を用いることができる。
たとえば,構造化処理部15は,医療情報入力受付処理部11で入力を受け付けた電子カルテの自由記載欄のテキスト情報について,それを構造化して医療情報記憶部12に記憶させることもできる。そのため,たとえば,「主訴」,「既往歴」,「A/P」など,医師が電子カルテに入力するテキスト情報について,あらかじめ構造化して管理ができ,疾患推定処理部13や通知処理部14は,自然言語解析処理ではなく,構造化した情報を用いて疾患の推定等の処理を行えるので,処理の精度をより高めることが可能となる。
構造化処理部15は,医療情報入力受付処理部11で受け付けた電子カルテの自由記載欄へのテキスト情報の入力を監視し,係り受け解析,文脈解析などの自然言語解析処理や,後述する所定の照合辞書記憶部16を参照して,自由入力されたテキスト情報を構造化し,構造化情報として医療情報記憶部12に記憶させる。構造化情報は,当該患者の電子カルテの自由記載欄に対応づけられているとよい。構造化処理部15におけるテキスト情報の構造化処理にはさまざまな技術を用いることができ,その限定はない。
また,照合辞書記憶部16を参照して,表記揺らぎ処理を実行してもよい。表記揺らぎ処理とは,同一の事象に対して複数の表記がある場合,それを標準的な表記に統一する処理である。
自然言語解析処理に用いるコンピュータシステムとしては,たとえばマイクロソフト社が提供するMircosoft AzureのLUIS(Language Understanding)を用いることができる。
テキスト情報の構造化とは,自由入力されたテキスト情報に基づいて,あらかじめ定められた情報種別ごとにその内容を標準化された形にすることである。たとえばテーブル形式で保持される。テキスト情報を構造化する一つの処理としては,次のような処理がある。
医療情報入力受付処理部11において入力を受け付けた電子カルテの自由記載欄のテキスト情報に基づいて,文,文節,段落などの所定のテキスト情報の単位に付与されたタグを,照合辞書記憶部16の参照や,文脈解析などの自然言語解析処理を用いて,標準化タグ付きのテキスト情報(情報種別ごとのテキスト情報の分類)に分割をする。それぞれの情報種別で抽出すべき対象情報が,医学用語の辞書を記憶した医学用語辞書で定められているので,それぞれの情報種別のテキスト情報において,照合辞書記憶部16における医学用語辞書を参照して,あらかじめ定められた抽出すべき対象情報を抽出する。そして,抽出した対象情報の前後所定範囲内,たとえば前後15文字以内に「関連性の高い情報」(以下,「関連情報」という)があるか探索し,ある場合にはそれらを後述する症状や病名(疾患)に対する陽性陰性表現や付加情報(備考欄)として抽出し,対応づけて構造化情報として標準化したテーブルに格納する。
たとえば,情報種別として「現病歴」,「既往歴」,「内服薬」,「身体所見」,「来院後経過」などがあり,それらに対応する対象情報としては,情報種別「現病歴」には「症状」,情報種別「既往歴」には既往歴としての「病名」(疾患),情報種別「内服薬」には「薬剤名」,情報種別「来院後経過」には診断した臨床病名としての「病名」(疾患)などがある。そして情報種別の対象情報ごとに,どのような関連情報を抽出するかをあらかじめ対応づけて記憶している。なお,関連情報については任意に設定することができ,たとえば上述のLUISを用いて,自動的に,情報種別の対象情報ごとに,関連情報を抽出してもよい。そして,情報種別ごとにテーブルが生成され,このテーブルには,対象情報と関連情報とが格納される。たとえば情報種別「現病歴」のテーブルには,「症状」とそれに対する陽性陰性表現が対応づけて格納される。どのような情報種別を設けるか,その情報種別に対して対象情報,関連情報をどのように設定するかは,任意に設定することができるが,一般的な医師,看護師の記録ではある程度統一された情報種別セットが存在する。
構造化処理部15においてこのような処理を行うことで,電子カルテの自由記載欄などに入力されたテキスト情報について,医学的情報を抽出して構造化することができる。
構造化処理部15は,入力を受け付けたテキスト情報において,照合辞書記憶部16における医学用語辞書の医学用語の参照,照合辞書記憶部16のタグパターンの辞書に記憶する情報種別を示すタグの参照,入力されたテキスト情報に対する文脈解析などの自然言語解析処理によって情報種別があることを検出すると,その情報種別に対応するテーブル,たとえば情報種別「現病歴」のテーブル,情報種別「既往歴」のテーブル,情報種別「内服薬」のテーブル,情報種別「身体所見」のテーブル,情報種別「来院後経過」のテーブルがすでに生成されているか否かを判定する。そして,検出した情報種別に対応するテーブルが生成されていない場合には,そのテーブルを生成する。また情報種別のテキスト情報ごとに自然言語解析処理や,照合辞書記憶部16における医学用語辞書を参照して対象情報を抽出し,対象情報に基づいて関連情報を探索し,抽出する。そして,生成した情報種別のテーブルに対象情報と関連情報とを振り分けて格納する。
一方,検出した情報種別に対応するテーブルがすでにある場合には,情報種別のテキスト情報ごとに自然言語解析処理や,照合辞書記憶部16における医学用語辞書を参照して対象情報を抽出し,対象情報に基づいて関連情報を探索して抽出する。そして,検出した情報種別に対応するテーブルに,抽出した対象情報と関連情報とを振り分けて格納する。情報種別に対応するテーブルの有無は,情報種別とテーブルとの対応関係をあらかじめ設定しておき,その対応関係に基づいて,テーブルが生成されているか否かを判定することができる。
検出した対象情報や関連情報について,照合辞書記憶部16を参照し,その対象情報や関連情報が症状名や病名(疾患),薬剤名を示す表現の有無を判定し,これらのいずれかである場合には,照合辞書記憶部16で一致する文字列を特定し,検出した対象情報や関連情報を,照合辞書記憶部16であらかじめ定めた標準的な表記や標準的なコードを追加または変更し,その表記を統一する処理を実行してもよい。
たとえば情報種別「現病歴」のテキスト情報に対して自然言語解析処理技術を用いて対象情報として「頭が痛い」を検出した場合,照合辞書記憶部16を参照し,標準的な症状名(疾患)として「頭痛」に変更するとともに,その陽性陰性表現として「+」であることを判定し,情報種別「現病歴」のテーブルに「頭痛」,「+」を対応づけて格納する。同様に,情報種別「内服薬」のテキスト情報に対して自然言語解析処理技術を用いて対象情報として「アスピリン」,「スタチン」を検出した場合,照合辞書記憶部16を参照し,標準的な薬剤名として「バイアスピリン」,「スタチン」とし,またそれらのコード(薬効分類コード)を追加して,情報種別「内服薬」のテーブルに対応づけて格納する。
構造化処理部15は,上述のように入力されたテキスト情報から抽出した各情報種別における対象情報や関連情報を標準的な表記に変更し,またコードを追加して,それぞれの情報種別のテーブルに振り分けて格納する。
たとえば電子カルテの自由記載欄に,図21(a)のようにテキスト情報が入力された場合には,それらのテキスト情報を医療情報入力受付処理部11で受け付けるので,構造化処理部15はその入力を監視し,情報種別を示すタグとして「S:」で情報種別「現病歴」を,「内服:」で情報種別「内服薬」を,「O:」で情報種別「身体所見」を,「A/P:」で情報種別「来院後経過」を検出する。また,「心筋梗塞でカテーテル治療後。」のテキスト情報に対する文脈解析により,情報種別「既往歴」を検出する。そして検出した情報種別から次の情報種別までの間のテキスト情報を,最初に検出した情報種別のテキスト情報として切り出す(物理的に切り出すほか,処理対象として特定する場合も含む)。すなわち,「S:」の検出によって情報種別「現病歴」を検出し,「心筋梗塞でカテーテル治療後。」のテキスト情報に対する文脈解析により,情報種別「既往歴」を検出する。そして,情報種別「現病歴」と情報種別「既往歴」との間にあるテキスト情報を,情報種別「現病歴」に対応するテキスト情報として分割をする。情報種別ごとにテキスト情報を切り出した状態を模式的に示すのが図21(b)である。
分割した情報種別「現病歴」に対応するテキスト情報から自然言語解析処理や照合辞書記憶部16における医学用語辞書を参照して,対象情報を抽出する。対象情報は情報種別ごとに対応づけられているので,たとえば情報種別「現病歴」における対象情報「症状」を抽出する。この際に,具体的なテキスト情報として「症状」が含まれているか否かではなく,「症状」に相当する医学用語があるかを,照合辞書記憶部16における医学用語辞書を参照して抽出する。そして抽出した対象情報「症状」から所定範囲内にある陽性陰性表現を抽出する。そして,抽出した「症状」に陽性陰性表現を対応づけてテーブルに格納する。
このように分割した情報種別ごとに対象情報を振り分けて,構造化情報としてテーブルに格納することで,図21(c)のように情報種別ごとのテーブルができる。
構造化処理部15における処理は,上述の処理に限定されるのではなく,さまざまな自然言語解析処理によって実現できる。たとえば,中間層が多数の層からなるニューラルネットワークの各層のニューロン間の重み付け係数が最適化された学習モデルを参照して機械学習を実行する深層学習(ディープラーニング)による自然言語解析処理を用いてもよい。また深層学習や機械学習を用いたAI(人工知能)あるいはそれらを用いないAIにより自然言語解析処理を実行してもよい。
照合辞書記憶部16は,症状名,病名,薬剤名などの表記の揺らぎを判定するための表記揺らぎ辞書,否定表現や曖昧表現などのパターンテーブルの辞書,頻出する略語や特異的なタグパターンの辞書(たとえば「主訴:」,「A/P」など),医学用語などの医学用語辞書などが該当する。医学用語辞書には,対象情報とする医学用語,対象情報とした医学用語に対応する関連情報を抽出する条件や表現,表記を記憶していてもよい。
とくに,構造化処理部15は,照合辞書記憶部16における医学用語辞書を参照することで,構造化情報とする対象情報を抽出する。医学用語辞書は,標準的な医学用語を記憶する辞書であり,さらに,その周囲の関連性の高いテキスト情報を抽出するので,構造化して抽出される情報には,たとえば医療機関のスタッフ同士の情報共有目的での患者属性情報などの,明らかに非医学的情報記載が含まれないこととなる。
症状名や病名(疾患),薬剤名についての表記揺らぎ辞書としては,たとえば症状名や病名(疾患),薬剤名に対する標準表記,コード,表記パターンを記憶する。図22では,病名(疾患)についての表記揺らぎ辞書の一例を示しており,標準病名,ICDコード(国際標準コード),病名変換コード(国内汎用カルテコード),表記パターンを対応づけて記憶している場合を示している。また,図23では,薬剤名についての表記揺らぎ辞書の一例を示しており,標準薬剤名,一般名,薬効分類コード,表記パターンを対応づけて記憶している場合を示している。
照合辞書記憶部16は,上記に限定するものではなく,テキスト情報に基づいて構造化処理を実行するために必要な辞書を適宜備えればよい。
構造化処理部15で構造化した,電子カルテに入力されたテキスト情報のテーブル(構造化情報)は,医療情報記憶部12において,電子カルテに入力された情報に対応づけて記憶される。図24に医療情報記憶部12に記憶する構造化情報の一例を示す。図24(a)は標準症状名とその有無を示す構造化情報であり,図24(b)は標準化既往歴名とそれに対応する情報(備考)を示す構造化情報であり,図24(c)は標準化情報薬名とそれに対応する薬効分類コードを示す構造化情報であり,図24(d)は標準化診断名(臨床病名,疾患)とそれに対応する情報(備考)を示す構造化情報である。
このように,構造化処理部15で記憶した構造化情報を用いて,疾患推定処理部13で疾患の推定をし,または通知処理部14で通知するかの条件の判定を行うことで,精度よく処理を実行することができる。