JP7313932B2 - 磁気センサおよび磁気センサモジュール - Google Patents

磁気センサおよび磁気センサモジュール Download PDF

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Description

本発明は、伝送線路と軟磁性薄膜を有する磁気センサに関する。
従来の伝送線路および軟磁性薄膜を有する磁気センサとして、磁気インピーダンス効果を利用した磁気センサが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この磁気センサは、マイクロストリップ線路構造を有し、誘電体基板と、当該誘電体基板の上面の一部に積層された、高周波電流用の入力端子および出力端子を有する線状の軟磁性薄膜と、誘電体基板の下面に積層された接地導体層と、を備えている。この線路構造によれば、軟磁性薄膜と接地導体層との間に所望の電気容量が形成され、磁気センサ周辺の浮遊容量の影響が低減されるため、動作が安定し、かつ、線路構造の共振現象を利用できるため感度が向上する。磁気インピーダンス効果とは、軟磁性薄膜の表皮効果によって、外部磁場に応答して軟磁性薄膜のインピーダンスが変化する効果である。また、一般に表皮効果は、高周波電流が流れる材料の透磁率に依存することが知られている。
また、磁性薄膜の近傍に、接地導体層と高周波電流を流すための電気的良導体である伝送線路とが配置されたマイクロストリップ線路からなる磁気センサが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この磁気センサは、外部磁場が印加されると、磁性薄膜の磁化回転によって透磁率が変化し、この磁性薄膜の近傍にあるマイクロストリップ線路のインピーダンス(伝送特性)が変化することを利用したものである。軟磁性薄膜(磁性薄膜)に直接的に通電されないため、軟磁性薄膜の磁化が飽和し難く、ノイズレベルを低減することができる。
さらに、誘電体基板をミアンダ型導体層と接地導体層で挟んだ構造の伝送線路と、ミアンダ型導体層に電気的絶縁層を介して配置した軟磁性薄膜から構成される磁気センサが提案されている(例えば、特許文献3参照)。外部磁場に対する伝送線路の入力端子および出力端子の間の伝送量の変化(位相差)が計測されることで、極めて高感度な磁気センサが実現でき、心磁図計測等の生体磁気計測が可能である。
特許第3385501号公報 特開2007-240289号公報 特開2009-148306号公報
しかしながら、従来の伝送線路および軟磁性薄膜を有する磁気センサは、高周波電流を流すための2つの端子、すなわち入力端子および出力端子が必要となり、コネクタ端子、あるいは、それらが接続されたケーブルのサイズによる制約によって、磁気センサの小型化が困難という問題がある。一般的に、高周波帯(~18GHz)で使用される小型のSMAコネクタ端子の大きさは、約6.3mm×6.3mm×13.5mmである。磁気センサの誘電体基板のサイズ20mm×10mm×0.2mmと比べても無視できない(特許文献1参照)。また、磁気センサの形態が制限されため、磁気センサのアレイを形成する場合には、複数の入力、出力の端子、あるいはケーブル対が干渉し、高密度化が困難という問題がある。
さらには、数mm程度の大きさの微小な被検知対象物から生じる磁界の計測を行う場合には、磁気センサの大きさや形態に制限があるために、微小な検知対象物の近傍に磁気センサを配置することが困難という問題がある。一般に、被検知対象物から計測点が離れるに従って、被検知対象物から生じる磁界の強さは距離の3乗に反比例して急減し、微弱磁界の計測は困難となる。
そこで、本発明は、伝送線路と軟磁性薄膜を有する磁気センサであって、小型化、高密度化が可能で、かつ微小な検知対象部に近接することが可能な磁気センサ等を提供することを目的とする。
本発明の磁気センサは、一対の主面を有する板状の誘電体基板と、前記誘電体基板の一方の主面に積層され、前記一方の主面の前後に延在する信号線路層と、前記一方の主面に積層され、前記信号線路層から左右それぞれに離間して前後に延在する第1接地導体層および第2接地導体層ならびに他方の主面に積層され、前記他方の主面の前後に延在する第3接地導体層により構成される伝送線路と、前記第1接地導体層、前記第2接地導体層および前記第3接地導体層のいずれか一つの一端部に電気的に接続される単一の入出力端子と、前記信号線路層の端部であって、前記入出力端子が設けられている一端部とは別の他端部の一部に積層された軟磁性薄膜と、を備え、前記軟磁性薄膜の前記一方の主面の前後方向の長さの前記一方の主面の左右方向の長さに対する比が1以上2以下である磁気センサであって、外部磁場が印加されると、前記信号線路層の他端部の一部に積層された前記軟磁性薄膜の透磁率が変化し、前記伝送線路の他端部のインピーダンスが変化するとともに、前記入出力端子から入射される入射信号に対する反射信号の割合に基づいて外部磁場を検知することを特徴とする。
本発明の磁気センサは、伝送線路の入出力端子に入射信号を送信する機能と、伝送線路の当該入出力端子から反射信号を受信してこれを解析し、外部磁場を検知する機能を有する信号処理回路に接続されて使用される。本発明の磁気センサモジュールは、本発明の磁気センサと当該信号処理回路とにより構成されている。信号処理回路は、高周波信号発生器、増幅器、サーキュレータ、分波器、混合器、位相調整器等を有する。当該信号処理回路と伝送線路の単一の入出力端子は、所定の長さを有する同軸ケーブルまたは線路により接続される。
すなわち、本発明の磁気センサは、外部磁場が印加されると、伝送線路の他方の端部の一部に積層された軟磁性薄膜の透磁率が変化し、伝送線路の端部(終端)のインピーダンスが変化するとともに、(信号処理回路から送信される)入射信号に対する(伝送線路からの)反射信号の割合(反射係数)が変化する機構を有し、よって、反射係数が解析されることにより、外部磁場が検知されうる。このような形態の磁気センサであれば、軟磁性薄膜と伝送線路とを有する磁気センサであっても、伝送線路の高周波電流を通電するための2つの端子を必要とせず、単一の同軸ケーブルまたは線路のみで、磁気信号が得られる。このため、磁気センサの小型化および高密度化が可能であり、微小な検知対象部に近接することが可能な磁気センサが実現できる。
本発明の磁気センサは、軟磁性薄膜の容易軸と直交する方向に、所定の磁気バイアスを印加する機構を有する。磁気バイアスの強さは、軟磁性薄膜の異方性磁界の大きさと同等であることが望ましい。なお、異方性磁界は、軟磁性薄膜の困難軸方向の磁化曲線で磁場が飽和に達する磁界の強さである。異方性磁界の大きさ程度の磁気バイアスを印加することで、軟磁性薄膜の磁化回転に伴う比較的大きな透磁率を得ることができ、磁気センサの感度の向上が図られる。
本発明の磁気センサは、前記第1接地導体層、前記第2接地導体層および前記第3接地導体層のうちいずれか一つの他端部(終端部)と前記信号線路層の他端部(終端部)とを電気的に短絡させていることが好ましい。終端部を短絡させることで、外来雑音の影響を受け受け難くなり、動作が安定する。また、反射係数の磁性薄膜の透磁率変化に対する変化量が増加し、感度の向上が図られる。終端部の短絡の方法としては、信号線路層と接地導体層を電気的に接続する方法と、信号線路層と接地導体層を(金属的な)軟磁性薄膜を介して電気的に接続する方法がある。
本発明の磁気センサは、前記入出力端子を介して接続され、前記第1接地導体層、前記第2接地導体層および前記第3接地導体層のうちいずれか一つの終端から送信信号の波長λの4分の1(λ/4)の長さの同軸ケーブルまたは線路を介して信号処理回路部と接続してもよい。
抵損失の同軸ケーブル(あるいは単に「線路」)のλ/4周期の共鳴を利用することによって、より効果的に外部磁場に応じた反射係数の変化が捉えられる。また、同軸ケーブルの長さが調節されることで、最適条件の周波数が調整されうる。これは、複数個の磁気センサを集積化させるアレイ状の構造を形成する場合には、一つ一つの磁気センサの特性を合わせる必要があり、有効な手段となり得る。
本発明の一実施形態としての磁気センサの構成に関する説明図。 本発明の一実施形態としての磁気センサの構成に関する他の説明図。 信号線路層の近傍に発生する磁界分布に関する説明図。 比較例の磁気センサの斜視図。 比較例の磁気センサの概念的側面図。 本発明の第1変形実施形態としての磁気センサの構成に関する説明図。 本発明の第2変形実施形態としての磁気センサの構成に関する説明図。 本発明の第3変形実施形態としての磁気センサの構成に関する説明図。 軟磁性薄膜、信号線路層および接地導体層の一配置態様に関する説明図。 本発明の一実施形態としての磁気センサモジュールを構成する信号処理回路のブロック図。 軟磁性薄膜の印加磁気バイアスと磁化容易軸との関係に関する説明図。 磁気センサの伝送線路の終端部の拡大図。 伝送線路の終端部のインピーダンスと反射率との関係に関する説明図。 磁気バイアスの印加機構を有する磁気センサの部分拡大図。 磁気バイアスの他の印加機構を有する磁気センサの部分拡大図。 同軸ケーブル(線路)を有する磁気センサの構成に関する説明図。 複数の磁気センサが並べられて構成されている磁気センサアレイに関する説明図。 微小磁界発生源からの磁気信号の評価結果(高周波信号の直交成分における磁気信号の振幅)に関する説明図。 微小磁界発生源からの磁気信号の評価結果(高周波信号の同相成分における磁気信号の振幅)に関する説明図。 高周波信号の直交成分における磁気信号の周波数依存性に関する説明図。 高周波信号の同相成分における磁気信号の周波数依存性に関する説明図。 磁気センサの高周波信号の同相成分および直交成分のそれぞれの出力特性に関する説明図。
図1および図2に示されている本発明の一実施形態としての磁気センサ1は、誘電体基板100と、誘電体基板100の上面101に前後に延在する略矩形状に積層された信号線路層110と、誘電体基板100の上面101において信号線路層110から左右それぞれに離間して前後に延在する一対の略矩形状の接地導体層121(第1接地導体層)および接地導体層122(第2接地導体層)と、誘電体基板100の下面102に形成された接地導体層124(第3節導体層)と、接地導体層124、121および122により構成される伝送線路120の一端部に電気的に接続される入出力端子160と、当該伝送線路120の他端部に部分的に積層された軟磁性薄膜140と、を備えている。接地導体層124は省略されてもよい。
誘電体基板100としては、例えば、半導体系の単結晶シリコン、ゲルマニウム、化合物半導体系のGaAs、GaN、SiC、ZnSe、CdS、ZnO、InP、SiGeや、水晶、サファイヤ、ガラスの他、セラミックス系のアルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ジルコニア、炭化珪素、チタニア、イットリア、またはそれらの複合材料からなる基板が用いられてもよい。
信号線路層110、伝送線路120、接地導体層121-124としては、Al、Cu、Au、Pt、Ag、Ti、あるいは、それらの積層薄膜が用いられてもよい。
軟磁性薄膜140としては、Co-Fe-Si-B、Co-Nb-Zr系のアモルファス薄膜、Fe-Si、Fe-Zr-N系の微結晶薄膜、あるいは、それらの薄膜の間にSiOなどの薄い絶縁層を挟んで積層した多層薄膜、Ni-Fe、 Fe-Si-Al系の結晶性薄膜、さらには、Fe-Si合金、Fe-Co-Ni合金、センダスト合金のバルク材料、Co-Fe-Ni-Si-B、Fe-Co-Ni-Zr、 Fe-Ni-B、 Co-Fe-Zr、 Co-Zr系のアモルファス合金薄帯、軟磁性フェライトからなる薄膜が用いられてもよい。
薄膜磁石150としては、Pt-Fe系、SmCo系、Nd-Fe-B系、Sm-Fe-N系、Nd-Fe-N系のスパッタ薄膜、あるいは、Mn-Al-Co、Co-Pt、Fe-Pt、Fe-Al-Niなどの金属系バルク磁石、酸化物系のフェライト磁石、希土類系のSmCo、Nd-Fe-B磁石が用いられてもよい.
軟磁性薄膜140は、信号線路層110の近傍に配置されていることが望ましい。図3には、信号線路層110の近傍に発生する磁界分布が示されている。信号線路層110に高周波電流(角周波数ω)が流れると、図3に示されているように信号線路層110の周囲に磁界B(ω)が生じる。磁界B(ω)の強さは、信号線路層110から離れるにしたがって急減する。また、電界E(ω)は、信号線路層110と接地導体層121、122との間に強く分布する。伝送線路120の特性インピーダンスは、電界E(ω)および磁界B(ω)の比によって定義され、電界E(ω)および磁界B(ω)が分布する信号線路層110の近傍媒体の誘電率εおよび透磁率μに強く依存する。よって、信号線路層110の近傍に高透磁率の軟磁性薄膜140が配置されることにより、外部磁場に敏感な特性インピーダンスの変化が得られる。この特性インピーダンスの変化を、後述する信号処理回路200で解析することで、高感度な磁気センサが実現される。
図4および図5に示されているように、第1軟磁性薄膜141が信号線路層110の一端部に積層され、第2軟磁性薄膜142が第1軟磁性層薄膜141に連続し、かつ、信号線路層110の延在方向に沿ってそのほぼ全域にわたって積層される場合、第2軟磁性膜142の反射損により、磁気感度が低下する。つまり、第2軟磁性膜142の領域は、被検知対象物23との間の距離が大きく、外部磁界の影響が及ばず、単に、第2軟磁性薄膜142の存在によるインピーダンスの不整合のために、外部磁場の検出に寄与しない反射21が生じる。第1軟磁性薄膜141の領域は、外部磁場の大きさに応じて第1軟磁性薄膜141の透磁率が効果的に変化しインピーダンスが変わることで、外部磁場の検出に寄与する反射22が生じる。
したがって、図6に示されているように、軟磁性薄膜140は信号線路層110の一端部の上側に配置されていることが好ましい。あるいは、図7に示されているように、軟磁性薄膜140は信号線路層110の一端部の下側に配置されていることが好ましい。あるいは、図8に示されているように、軟磁性薄膜140は信号線路層110の一端部の左右両側に配置されていることが好ましい。軟磁性薄膜140の当該配置態様により、外部磁場に敏感な特性インピーダンスの変化が得られる。この特性インピーダンスの変化が、後述する信号処理回路部で解析されることにより、高感度な磁気センサが実現される。
図9に示されているように、略矩形状の軟磁性薄膜140の感軸方向(信号線路層110の長手方向)のサイズaおよび不感軸方向(信号線路層110の幅方向)のサイズbの比率である、当該軟磁性薄膜140のアスペクト比a/bは、1以上でありかつ2以下であること(1≦a/b≦2であること)が好ましい。軟磁性薄膜140のアスペクト比a/bが1未満である場合、感軸方向の反磁界の影響により磁気感度が低下するためであり、アスペクト比a/bが2を超える場合、被検知対象物との間の距離が大きくなる領域の拡大に伴って反射損が増加し、磁気感度が低下するためである。
また、軟磁性薄膜140の不感軸方向のサイズbは、信号線路層110の幅b1と、信号線路層110と接地導体層121、122との間隙b2の2倍との和b3(b1+2b2)以下であり、かつ、信号線路層110の幅b1以上であること(b1≦b≦b1+2b2であること)が好ましい。軟磁性薄膜140の不感軸方向のサイズbがb1未満である場合、信号線路層に流れる高周波電流によって生じる磁界Bに影響を及ぼす軟磁性薄膜のサイズが小さく、磁気感度が低下するためであり、軟磁性薄膜140の不感軸方向のサイズbがb1+2b2を超える場合、信号線路層に流れる高周波電流によって生じる磁界Bの及ばない(b1+2b2より大きな)領域にまで軟磁性薄膜があることと、軟磁性薄膜の感軸方向のサイズaが一定としたときに、アスペクト比a/bが小さくなり、感軸方向の反磁界の影響により磁気感度が低下するためである。
外部磁界が及ぶ範囲は、当該磁界を発生する検知対象物からの距離の3乗に反比例して急減する。ゆえに、基本的には、軟磁性薄膜140のサイズは可能な限り小さくし、当該磁界が及ぶ範囲に全体が含まれるように配置されることが望ましい。
軟磁性薄膜140の長さaが長くなるにつれて、軟磁性薄膜140の磁気抵抗が増加するため、漏れ磁束が増加する。したがって、軟磁性薄膜140の長さaが一定以上に長いことは、磁界に対する軟磁性薄膜140のインピーダンスの変化に寄与しない。
また、磁界が及ぶ範囲を超えた領域にある軟磁性薄膜140は、伝送線路120の反射損の原因となり、同様に軟磁性薄膜140のインピーダンスの変化に寄与しない。
さらには、信号線路層110に流れる電流によって生成される磁界(疑似TEMモード)は、信号線路層の近傍(両端の接地導体層までの範囲)に集中するため、軟磁性薄膜140の不感軸方向の長さbをb1+2b2より大きくすることは無用である(先述のアスペクトの要件より、軟磁性薄膜の長さaが長くなる)。
図10には、本発明の一実施形態としての磁気センサモジュールを構成する信号処理回路200のブロック図が示されている。信号処理回路200は、高周波信号発生器221、増幅器224、225、226、227、228、229、サーキュレータ223、分配器222、230、231、232、233、混合器226、227、234、235、236、237、磁界信号を生成する磁界信号発生器238、および、低域通過フィルタ239、240、241、242を備えている。高周波信号の第1同相成分(I)および第1直交成分(Q)と、磁界信号の第2同相成分および第2直交成分の組合せからなる4通りの出力が得られる。
高周波信号発生器221により発生された高周波信号は、第1増幅器24により増幅され、第1分配器222を介してサーキュレータ223ならびに第1混合器226および第2混合器227の二方向に同位相で分配される。サーキュレータ223に供給された高周波信号は、第2増幅器25により増幅され、サーキュレータ223のポート1からポート2を経由して磁気センサ1の入出力端子に供給される。磁気センサ1によって、高周波信号が(検知対象物が発する)磁気信号で変調された高周波変調信号は、サーキュレータ223のポート2からポート3を経由し、第3増幅器226により増幅され、第2分配器225を介して第1混合器226および第2混合器227の二方向に同位相で分配される。
一方、第1分配器222から第1混合器226および第2混合器227に供給される高周波信号は、第4増幅器227により増幅され、第3分配器231を介して第1混合器226および第2混合器227の二方向に同相かつ直交で分配される。第1混合器226の出力信号は、第5増幅器228により増幅され、第4分配器232を介して、第3混合器234および第4混合器235の方向に直交かつ同相で分配される。第2混合器227の出力信号は、第6増幅器229により増幅され、第5分配器233を介して、第5混合器236および第6混合器237の方向に同相かつ直交で分配される。
第3混合器234において、磁界信号発生器238が生成する参照信号と混合された第3混合器234の出力信号は、第1低域通過フィルタ239を介して不要なノイズが除去された後、高周波信号に同相であり、かつ、磁気信号の直交成分を有する信号(第1信号)として出力される。第4混合器235において、磁界信号発生器238が生成する参照信号と混合された第4混合器235の出力信号は、第2低域通過フィルタ240を介し、高周波信号に同相であり、かつ、磁気信号の同相成分を有する信号(第2信号)として出力される。第5混合器236において、磁界信号発生器238が生成する参照信号と混合された第5混合器236の出力信号は、第3低域通過フィルタ241を介し、高周波信号に直交であり、かつ、磁気信号の同相成分を有する信号(第3信号)として出力される。第6混合器237において、磁界信号発生器238が生成する参照信号と混合された第6混合器237の出力信号は、第4低域通過フィルタ242を介し、高周波信号に直交で、かつ磁気信号の直交成分を有する信号(第4信号)として出力される。
磁気センサ1の高周波信号の位相は、第1信号と第4信号との比率、あるいは第2信号と第4信号との比率から求められる。このため、高周波信号の位相調整器は不要であり、一定の感度が保持されうる。また、磁気センサ1の磁気信号の位相は、第2信号と第1信号との比率、あるいは、第3信号と第4信号との比率から求められる。このため、磁気センサ1と検知対象物の位相関係を考慮して煩雑な調整作業を行う必要がなく、簡便に高精度な計測を行うことが可能である。
(軟磁性膜の一軸異方性、磁気バイアス)
図11には、磁気センサ1における伝送線路120における軟磁性薄膜140の拡大図が示されている。軟磁性薄膜140に対して、信号線路層110の長手方向(X軸)に磁気バイアスBbiasが印加されている。あらかじめ一軸異方性が付与された軟磁性薄膜140の磁化容易軸AEMは、信号線路層110の長手方向に対し略直交する方向に延在している。軟磁性薄膜140の磁化困難軸は、信号線路層110の長手方向に対して平行な方向に延在している。したがって、磁気バイアス42が信号線路層110の長手方向に与えられ、その強さが軟磁性薄膜140の異方性磁界と同等に調節されることで、軟磁性薄膜140の磁化回転により高い透磁率が得られ、高い磁気感度が実現される。
また、軟磁性薄膜140に対して、信号線路層110の幅方向(Y軸)に磁気バイアスBbiasが印加されてもよい。この場合、軟磁性薄膜140の磁化容易軸AEMは、信号線路層110の長手方向に延在している。よって、軟磁性薄膜140の磁化困難軸は、信号線路層110の幅方向に延在している。したがって、磁気バイアスBbiasが信号線路層110の幅方向に与えられ、その強さが軟磁性薄膜140の異方性磁界と同等に調節されることで、軟磁性薄膜140の磁化回転により高い透磁率が得られ、信号線路層110の長手方向に直交するY軸方向の高い磁気感度が実現される。
(伝送線路120の終端短絡)
図12に示されているように、信号線路層110と接地導体層121、122とが、電気的導体層1210および1220を介して短絡されることにより、磁気センサ1の伝送線路120の終端部が短絡されている。接地導体層接地導体層121、122は電気的導体層1210および1220が形成された後に積層され、軟磁性薄膜140は信号線路層110が形成された後に領域Sに積層される。
伝送線路120の反射率Γは、関係式(1)により表わされる。
Γ=(Z-Z0)/(Z+Z0) ‥(1)。
ここで、Z0は伝送線路120の特性インピーダンス、Zは伝送線路120の終端部のインピーダンスである。図13には、伝送線路120の終端部のインピーダンスと反射率との関係が示されている。伝送線路120の特性インピーダンスZ0が50Ωで、終端部のインピーダンスZが同じ50Ωの場合、反射率Γは「0」となる。終端部に送信された電圧(あるいは電流)は、全て吸収され、反射電圧(あるいは電流)は「0」となる。
また、伝送線路120の終端部が開放されている場合、あるいはその特性インピーダンスZ0に比べて極めて大きなインピーダンスを有する場合、反射率Γは「+1」となり、終端部に送信された電圧(あるいは電流)は全反射される。その一方、伝送線路120の終端部が短絡されている場合、あるいは特性インピーダンスZ0に比べて極めて小さなインピーダンスを有する場合、反射率Γは「-1」となり、終端部に送信された電圧あるいは電流は全反射(但し、逆相)される。
本発明の磁気センサ1は、外部磁場に対する伝送線路120のインピーダンス変化を利用している。このインピーダンス変化量は、伝送線路120の終端部における反射率の変化量に依存することから、磁気感度を最大化するためには、外部磁場に対する反射率の変化量を大きくすればよい。伝送線路120の終端部の反射率Γの変化量ΔΓに関して、終端部のインピーダンスが開放されている場合(ΔΓ)、伝送線路120の特性インピーダンスZ0と等しい場合(50Ω終端のとき、ΔΓ50とする)、短絡されている場合(ΔΓ0)の大小関係は、図10により、関係式(2)としての不等式により表わされる。
ΔΓ<ΔΓ50<ΔΓ0 ‥(2)。
つまり、伝送線路120の終端部のインピーダンス(駆動点インピーダンス)が短絡されている場合、反射率の変化量が最大となり、大きな磁気感度が得られる。
図14には、磁気バイアスの印加機構を有する磁気センサ1の部分拡大図が示されている。当該磁気センサ1は、信号線路層110および接地導体層121、122を有する伝送線路120の終端部が短絡され、当該終端部に薄膜磁石150および軟磁性薄膜140が積層された構造を有している。薄膜磁石150は、あらかじめ軟磁性薄膜140の長手方向に着磁されており、薄膜磁石150の磁界は、高透磁率を有する軟磁性薄膜140に誘導される。すなわち、薄膜磁石150および軟磁性薄膜140は閉磁路構造をなしている。よって、磁気バイアスが軟磁性薄膜140に対して効率よく付与される。
この構造は、その他の磁気バイアスの機構、例えば、バルク磁石あるいはコイルに電流を流す方法に比べて小型化が可能である。コイルに電流を流す方法とは異なり消費電力が不要であるという利点がある。磁気バイアスの強さは、軟磁性薄膜140の異方性磁界の大きさと同等であることが望ましい。この異方性磁界の大きさは、軟磁性薄膜140の組成、成膜条件、熱処理条件等で調整することが可能である。また、薄膜磁石150の強さを示す残留磁化も、組成、成膜条件、熱処理条件等で調整することが可能である。
図15には、磁気バイアスの他の印加機構を有する磁気センサ1の部分拡大図が示されている。この磁気センサ1は、支持基板100に形成されたダイアフラム104に、信号線路層110および接地導体層121、122を有する伝送線路120の終端部が金属導体層1210、1220によって短絡され、当該終端部の直下において、他の支持基板100に薄膜磁石150および軟磁性薄膜140が積層された構造を有している。薄膜磁石150は、あらかじめ軟磁性薄膜140の長手方向に着磁されており、薄膜磁石150の磁界は、高透磁率を有する軟磁性薄膜140に誘導される。すなわち、薄膜磁石150と軟磁性薄膜140は、閉磁路構造をなしている。よって、効率よく磁気バイアスが軟磁性薄膜140に付与される。
この構造は、小型化が可能で、消費電力が不要であることに加え、線路の構造体と、薄膜磁石150および軟磁性薄膜140を有する構造体を別々の工程で製作されたうえで、最終工程で組み立て可能である。このため、製作条件、特に薄膜磁石150の熱処理温度などを他の制約条件によらずに設計、製造が可能である。また、線路の直下が空洞であるため、当該線路の誘電損が低減されるという利点がある。
図16には、同軸ケーブルまたは線路を有する磁気センサ1が示されている。磁気センサ1に所望の長さの同軸ケーブル162が接続されている。同軸ケーブル162において、外部磁界を検知する磁気センサ1の終端部から高周波信号の波長λの1/4λの整数倍の位置P1、P2、P3およびP4のそれぞれにおいて、並列および直列共鳴が生じる。同軸ケーブル162は、線路の形態および透磁率、誘電率の材料特性が一様で低損失であるため、極めて高い品質係数Qを示す。したがって、例えば、磁気センサ1の終端部から1/4λだけ離れている位置X1において、磁気信号が検出されれば信号処理回路200(図10参照)において大きな出力が得られる。同軸ケーブル162の長さが制御されることで、磁気感度が調整可能である。
図17には、複数の磁気センサ1が並べられて構成されている磁気センサアレイが示されている。磁気センサアレイは、検知曲面Cの法線方向に感軸方向が一致するように配された複数の磁気センサ1と、複数のコネクタ160と、複数のコネクタ160のそれぞれを介して複数の磁気センサ1のそれぞれに接続された複数の同軸ケーブル162と、を有している。当該構成の磁気センサアレイにより、検知曲面Cの詳細な二次元の磁気情報が得られる。
(実施例)
誘電体基板110としては、例えば表面に熱酸化膜(厚み1μm)が形成されたシリコン基板(厚み500μm)が用いられる。誘電体基板110としてのシリコン基板の上に、信号線路層110および接地導体層121、122、124(Au/Cu/Ti積層膜、厚み 3μm)からなるコプレーナ構造が、公知のスパッタリング法などの薄膜形成技術およびフォトリソグラフィー技術によって形成される。
2GHz帯の高周波信号を伝送するために、信号線路層110の幅は300μmに設計され、信号線路層110と接地導体層121、122との間隙は150μmに設計される。軟磁性薄膜140は、例えば、CoFeSiBアモルファス膜(1μm)であって、同様にスパッタリング法によって形成される。そのサイズは、例えば信号線路層110の幅と同等の幅300μmに設計され、長さはアスペクト比が2となるように600μmに設計される。また、軟磁性薄膜140に対して、磁場中熱処理(回転磁場中熱処理:290℃、10rpm、80kA/m、2時間、静磁場中熱処理:290℃、80kA/m、1時間)が施され、信号線路層110の幅方向と平行になる方向に磁化容易軸が付与される。なお、その異方性磁界Hkは約1kA/mであり、この値と同等の磁気バイアスを、軟磁性薄膜の磁化容易軸と直交する方向、つまり磁化困難軸方向に印加することで、磁気感度を最大化することができる。
図15に示されているように、コプレーナ伝送線路構造体、軟磁性薄膜140および薄膜磁石150を有する検知構造体が別々の工程で製作され、最終工程で組み立てられてもよい。異方性エッチング法などによって、空洞98が形成されたシリコン基板100のダイヤフラム104の上に、信号線路110および接地導体層121、122が形成される。他のシリコン基板106の上に薄膜磁石150および軟磁性薄膜140が積層され、所望のパターンが形成される。そして、伝送線路120の端部の直下に軟磁性薄膜140のパターンが配置されるように、2つの構造体が種々の接合技術により接合される。
コプレーナ構造の伝送線路120は、誘電体基板上の同一面に信号線路と接地導体層が形成されるため製作工程が簡素であるという利点があるが、設計上、ストリップ線路構造など他の伝送線路120であってもよい。
感磁膜である軟磁性薄膜、例えば、CoFeSiBアモルファス膜のサイズは、前述のとおり300μm×600μmであり、検知対象物のサイズ(例えば、数mm)と比べても小さく、また、その検知対象物の近傍に配置することも可能である。そのため、微小な磁気源、検知対象物からの微弱な磁界を検出することができる。
(評価結果)
図18Aおよび図18Bのそれぞれには、磁気センサの高周波信号発生器21により周波数1~3GHz、電力-10dBmの高周波信号が供給され、数mmサイズの磁界発生源(検知対象物)からの磁気信号が評価された結果が示されている。図18Aには、高周波信号の直交成分における磁気信号の振幅が示されている。図18Bには、高周波信号の同相成分における磁気信号の振幅が示されている。高周波信号の同相成分および直交成分のそれぞれにおいて、磁気バイアスHは1.3mTで最大値を示し、軟磁性薄膜の異方性磁界Hkの値と一致していることがわかる。また、高周波信号の周波数において、線路長の1/4λ共鳴の効果により、1.5GHzおよび2.3GHz付近に最大値がみられる。
より詳細な結果が図19Aおよび図19Bに示されている。図19Aには、高周波信号の直交成分における磁気信号の周波数依存性が示されている。これは、磁気信号によって変調された高周波信号が第2混合器227において乗算され、さらに第5混合器236および第6混合器237において磁気信号の参照信号と乗算して得られた高周波信号の直交成分における磁気信号(振幅値)の高周波信号の周波数依存性である(図10参照)。図19Bには、高周波信号の同相成分における磁気信号の周波数依存性が示されている。これは、磁気信号によって変調された高周波信号が第1混合器226において乗算され、さらに第3混合器234および第4混合器235において磁気信号の参照信号と乗算して得られた高周波信号の同相成分における磁気信号(振幅値)の高周波信号の周波数依存性である(図10参照)。
図19Aおよび図19Bのいずれにおいても、高周波信号の2.3GHz付近に高いQ値(約300以上)を示すピークがみられる。また、その前後にも線路内の多重反射によるピーク値がみられる(ただし、この部分は本質的ではない)。このように、高周波信号の1/4λの位置で、磁気信号が検出されることで、極めて大きな出力が得られる。同軸ケーブルの長さが調節されることで、磁気感度が調整可能である。
図20には、磁気センサの高周波信号の同相成分および直交成分のそれぞれの出力特性が示されている。同相成分および直交成分の磁気感度は、各々98mV/μT、93 mV/μTである。線形誤差は、各々0.4%FS、0.3%FSである。また、検出分解能は、ともに1nT以下である。本発明の磁気センサは、数mm以下の検知対象物からの極めて微弱な磁界を検出することが可能であり、電子回路基板、部品、電池等の異常欠陥の検査や、自動車、鉄道、航空機等の非破壊検査あるいは生体磁気を検出する手段として有望である。
1‥磁気センサ、100‥誘電体基板、110‥信号線路層、120‥伝送線路、121、122、124‥接地導体層、140‥軟磁性薄膜、141‥第1軟磁性薄膜、142‥第2軟磁性薄膜、160‥入出力端子、162‥同軸ケーブル、200‥信号処理回路。

Claims (4)

  1. 一対の主面を有する板状の誘電体基板と、
    前記誘電体基板の一方の主面に積層され、前記一方の主面の前後に延在する信号線路層と、
    前記一方の主面に積層され、前記信号線路層から左右それぞれに離間して前後に延在する第1接地導体層および第2接地導体層ならびに他方の主面に積層され、前記他方の主面の前後に延在する第3接地導体層により構成される伝送線路と、
    前記第1接地導体層、前記第2接地導体層および前記第3接地導体層のいずれか一つの一端部に電気的に接続される単一の入出力端子と、
    前記信号線路層の端部であって、前記入出力端子が設けられている一端部とは別の他端部の一部に積層された軟磁性薄膜と、を備え
    前記軟磁性薄膜の前記一方の主面の前後方向の長さの前記一方の主面の左右方向の長さに対する比が1以上2以下である磁気センサであって、
    外部磁場が印加されると、前記信号線路層の他端部の一部に積層された前記軟磁性薄膜の透磁率が変化し、前記伝送線路の他端部のインピーダンスが変化するとともに、前記入出力端子から入射される入射信号に対する反射信号の割合に基づいて外部磁場を検知することを特徴とする磁気センサ。
  2. 請求項1記載の磁気センサにおいて、
    前記第1接地導体層、前記第2接地導体層および前記第3接地導体層のうちいずれか一つの他端部と前記信号線路層の他端部とが電気的に短絡されていることを特徴とする磁気センサ。
  3. 請求項1または2記載の磁気センサにおいて、
    前記入出力端子を介して接続され、前記第1接地導体層、前記第2接地導体層および前記第3接地導体層のうちいずれか一つの他端部から送信信号の波長の4分の1の長さの同軸ケーブルまたは線路を介して信号処理回路部に接続されていることを特徴とする磁気センサ。
  4. 請求項1~3のうちいずれか1つに記載の磁気センサと、前記伝送線路の前記入出力端子に入射信号を送信する機能と、前記伝送線路の当該入出力端子から反射信号を受信してこれを解析し、外部磁場を検知する機能を有する信号処理回路と、により構成されている磁気センサモジュール。
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