実施形態に係る製造方法は、自動車用の構造部材の製造方法である。当該製造方法は、金属板からなる素材を準備する準備工程と、金型を用いて素材を構造部材に成形する成形工程とを備える。構造部材は、部材本体と、第1フランジと、第2フランジとを含む。部材本体は、天板と、縦壁とを含む。天板は、2つの側部を有する。2つの側部は、構造部材の長手方向に延びる。2つの側部は、構造部材の幅方向に対向する。縦壁は、側部の各々に稜線部を介して接続される。第1フランジは、天板の反対側で縦壁に接続され、縦壁から構造部材の幅方向に張り出す。第2フランジは、長手方向における部材本体の端部に連続して設けられる。第2フランジは、横フランジ部と、縦フランジ部とを含む。横フランジ部は、天板から構造部材の幅方向に張り出す。縦フランジ部は、横フランジ部の部材本体側の端部に稜線部を介して接続され、横フランジ部から第1フランジへと延びる。金型は、上型と、部材本体及び第1フランジを成形するための第1下型と、第2フランジを成形するための第2下型とを含む。第1下型は、上型に対向して配置される。第2下型は、第1下型の隣において上型に対向して配置される。成形工程は、上型と第1下型とで素材を挟持する一方、上型と第2下型とで素材を挟持しない第1工程と、第1工程の後、上型と第2下型とで素材を挟持して第2フランジを成形する第2工程とを含む(第1の構成)。
第1の構成に係る製造方法では、部材本体及び第1フランジを成形するための第1下型と、部材本体の長手方向の端部に連続する第2フランジを成形するための第2下型とを用いて、素材から構造部材を成形する。成形の第1工程では、上型と第1下型とで素材が挟持される一方、上型と第2下型とで素材が挟持されない。すなわち、成形途中までは、素材のうち第2フランジとなる部分が金型によって拘束されない。これにより、素材のうち第2フランジとなる部分で材料の流動が生じる。材料は、主に、部材本体の天板に連続する横フランジ部から、横フランジ部に接続され第1フランジへと延びる縦フランジ部へと流入する。そのため、縦フランジ部の端縁や、縦フランジ部と第1フランジとの接続部分において割れが発生するのを抑制することができる。
第1の構成に係る製造方法において、金型は、さらに、パッドを含んでいてもよい。この場合、第1工程では、パッドで素材を押さえた後で、上型と第1下型とで素材を挟持することが好ましい(第2の構成)。
第2の構成によれば、成形の第1工程において、パッドによって素材が押さえられた後で、上型及び第1下型によって素材が挟持される。これにより、素材を構造部材に成形する際、素材の位置ずれが発生するのを防止することができる。
第1又は第2の構成に係る製造方法では、第1下型の成形面と第2下型の成形面との間に予め段差を生じさせておくことにより、第1工程において、上型を第1下型及び第2下型に対して相対的に接近させたときに、第1下型が第2下型に先行して上型との間で素材を挟持してもよい。第2工程では、第1下型とともに素材を挟持した状態の上型を第2下型に対してさらに接近させることにより、段差が消失して第2下型が上型との間で素材を挟持してもよい。第1工程の開始前における段差の大きさは、素材の板厚以上、当該板厚の5.0倍以下であることが好ましい(第3の構成)。
第3の構成では、第1下型の成形面と第2下型の成形面との間に予め段差を設けておくことにより、第2フランジを成形するための第2下型に先行して、第1下型が上型との間で素材を挟持する。この段差が小さすぎる場合、素材のうち第2フランジとなる部分が第2下型によって早期に拘束され、材料の流動が不十分になるため、第2フランジの縦フランジ部や、縦フランジ部と第1フランジとの接続部分で割れが発生しやすくなる。一方、段差が大きすぎる場合、第2フランジの横フランジ部と部材本体の天板との境界部分においてしわが発生しやすくなる。しかしながら、第3の構成では、上記段差が適切な大きさに設定されている。すなわち、段差の大きさが素材の板厚以上、当該板厚の5.0倍以下となっている。そのため、第2フランジ及びその近傍における割れやしわの発生を抑制することができる。
第1から第3のいずれかの構成に係る製造方法において、第1下型は、クッション機構によって昇降可能に構成されていてもよい。この場合、成形工程では、上型を第1下型及び第2下型に向かって下降させることができる(第4の構成)。
第1から第4のいずれかの構成に係る製造方法は、さらに、金属板から中間成形品を成形する予備成形工程を備えていてもよい。この場合、成形工程では、中間成形品を素材として、当該素材から構造部材を成形することができる(第5の構成)。
第1から第5のいずれかの構成に係る製造方法は、さらに、素材を加熱する加熱工程を備えていてもよい。この場合、成形工程では、加熱工程で加熱された素材を構造部材に成形することができる(第6の構成)。
第1から第6のいずれかの構成に係る製造方法において、素材を構成する金属板は、590MPa以上の引張強度を有する鋼板であってもよい(第7の構成)。
実施形態に係る構造部材は、自動車用の構造部材である。構造部材は、部材本体と、第1フランジと、第2フランジとを含む。部材本体は、天板と、縦壁とを含む。天板は、2つの側部を有する。2つの側部は、構造部材の長手方向に延びる。2つの側部は、構造部材の幅方向に対向する。縦壁は、側部の各々に稜線部を介して接続される。第1フランジは、天板の反対側で縦壁に接続され、縦壁から構造部材の幅方向に張り出す。第2フランジは、長手方向における部材本体の端部に連続して設けられる。第2フランジは、横フランジ部と、縦フランジ部とを含む。横フランジ部は、天板から構造部材の幅方向に張り出す。縦フランジ部は、横フランジ部の部材本体側の端部に稜線部を介して接続され、横フランジ部から第1フランジへと延びる。天板の板厚を基準とする板厚減少率をT[%]としたとき、縦フランジ部の端縁において以下の式(1)を満たす板厚減少率Tを有する領域の長さは、天板の板厚の2.0倍以上、6.0倍以下である(第8の構成)。
0.9×Tmax≦T≦Tmax (1)
ただし、Tmax[%]は、縦フランジ部の端縁における板厚減少率の最大値である。
第8の構成に係る構造部材では、第2フランジの縦フランジ部の端縁において、上記式(1)を満たす領域の長さが天板の板厚の2.0倍以上、6.0倍以下となっている。これは、縦フランジ部の端縁の板厚分布が比較的均一化されていることを意味している。この場合、構造部材の使用時において、縦フランジ部の端縁にある板厚減少部への応力集中が起こりにくくなり、縦フランジ部の端縁から割れが生じるのを抑制することができる。すなわち、構造部材に優れた耐久性能を持たせることができる。
第8の構成に係る構造部材では、縦フランジ部の端縁において以下の式(2)を満たすビッカース硬さHV[HV]を有する領域の長さは、天板の板厚の5.0倍以上、10.0倍以下であってもよい(第9の構成)。
HVTmax-10.0≦HV≦HVTmax+10.0 (2)
ただし、HVTmax[HV]は、縦フランジ部の端縁のうち、板厚減少率の最大値Tmaxを有する部分のビッカース硬さである。HV及びHVTmaxは、試験力294.2Nの場合のビッカース硬さである。
第9の構成のように、第2フランジの縦フランジ部の端縁において、上記式(2)を満たす領域の長さが天板の板厚の5.0倍以上、10.0倍以下である場合、縦フランジ部の端縁の硬度分布が比較的均一化されていることを意味する。この場合、縦フランジ部の端縁において応力集中が起こりにくくなり、割れの発生を抑制することができる。すなわち、構造部材に優れた耐久性能を持たせることができる。
第8又は第9の構成に係る構造部材では、縦フランジ部の表面において互いに天板の板厚以上離れている30箇所で測定されるビッカース硬さの平均値が300.0Hv以上であり、当該ビッカース硬さの標準偏差が70.0Hv以下であってもよい(第10の構成)。このときのビッカース硬さは、試験力10kgf(98.07N)でのビッカース硬さである。
第8から第10のいずれかの構成に係る構造部材は、590MPa以上の引張強度を有する鋼板で形成されていてもよい(第11の構成)。
第8から第11のいずれかの構成に係る構造部材において、稜線部は、天板から横フランジ部に向かって延在するコーナー部を含むことができる。コーナー部は、例えば、構造部材の平面視で20.0mm以下の曲率半径を有する(第12の構成)。
稜線部のコーナー部の曲率半径が20.0mm以下と比較的小さい場合、稜線部に各々連続する縦壁と縦フランジ部との交差角度を、例えば略直角とすることができる。これにより、構造部材をスペース効率に優れたものとすることができる。すなわち、他部品との空間的な取り合いの自由度を増加させることができ、構造部材又は他の部品の設計上の寸法制約を低減することができる。また、構造部材が配置される領域が狭い場合であっても、構造部材の荷重伝達能を確保することができる。具体的には、狭い領域に配置された構造部材に対して長手方向の荷重が入力されたとき、当該荷重を縦フランジ部が面で受け止めることができ、縦フランジ部から部材本体へと荷重が伝達されやすくなる。そのため、構造部材は、長手方向の荷重について、良好な伝達能を発揮することができる。
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
<第1実施形態>
[構造部材の構成]
図1は、第1実施形態に係る構造部材10の斜視図である。構造部材10は、自動車用の構造部材として使用される。構造部材10は、典型的には、自動車の左右方向に延びるフレームである。構造部材10は、例えば、フロアパネル上又はフロアパネル裏に配置されるクロスメンバや、クロスメンバの端部に設けられるクロスエクステンション等である。
図1を参照して、構造部材10は、部材本体11と、2つの第1フランジ12と、第2フランジ13とを備える。
部材本体11は、天板111と、2つの縦壁112とを含む。天板111及び各縦壁112は、実質的に構造部材10の長手方向(自動車の左右方向)に延びている。
天板111は、2つの側部111aを含んでいる。これらの側部111aは、それぞれ、構造部材10の長手方向に延びている。2つの側部111aは、構造部材10の幅方向(自動車の前後方向)において対向している。側部111aの各々には、稜線部14を介して縦壁112が接続されている。稜線部14は、部材本体11から第2フランジ13にわたって延在している。
図2は、構造部材10の横断面図(II-II断面図)である。図2を参照して、2つの縦壁112は、構造部材10の幅方向において対向している。縦壁112の各々は、構造部材10の横断面視で、概ね構造部材10の高さ方向(自動車の上下方向)に延びている。各縦壁112に連続する稜線部14は、構造部材10の横断面視で実質的に円弧状をなす。
第1フランジ12は、天板111の反対側で縦壁112に接続されている。第1フランジ12の各々は、図2の紙面において縦壁112の下端に接続されている。各第1フランジ12は、稜線部15を介して縦壁112に接続される。稜線部15は、構造部材10の横断面視で実質的に円弧状をなす。
第1フランジ12は、縦壁112から構造部材10の幅方向に張り出している。第1フランジ12は、例えば、自動車のフロアパネルの上面又は下面に固定される。第1フランジ12の各々は、天板111及び縦壁112と同様に、実質的に構造部材10の長手方向に延びている。各第1フランジ12は、開放端縁12aを有する。
第2フランジ13は、構造部材10の長手方向において、部材本体11の一端部に連続して設けられている。第2フランジ13は、2つの第1フランジ12にも連続する。第2フランジ13は、例えば、自動車のサイドシルに固定される。第2フランジ13は、横フランジ部131と、2つの縦フランジ部132とを含む。
図1を再度参照して、横フランジ部131は、部材本体11の天板111に連続して設けられている。横フランジ部131は、天板111の長手方向の一端部に連続している。横フランジ部131は、例えば、天板111と実質的に又は概ね同一平面上に位置する。横フランジ部131は、天板111と面一であってもよいが、天板111に対して若干傾いていてもよい。横フランジ部131は、天板111から構造部材10の幅方向に張り出している。すなわち、構造部材10の幅方向において、横フランジ部131の長さは、天板111の長さよりも大きい。そのため、横フランジ部131及び天板111は、構造部材10の平面視で概略T字状をなす。横フランジ部131は、天板111の両側の稜線部14それぞれに含まれるコーナー部141により、天板111とつながっている。各コーナー部141は、天板111から横フランジ部131に向かって延在する。各コーナー部141は、構造部材10の平面視で、実質的に円弧状を有する。各コーナー部141の曲率半径は、構造部材10の平面視で、例えば20.0mm以下である。天板111からの横フランジ部131の張出量(フランジ長さ)は、例えば25.0mm以下である。
縦フランジ部132の各々は、横フランジ部131の部材本体11側の端部131aに対し、稜線部14を介して接続されている。端部131aは、横フランジ部131のうち、天板111から幅方向両側に張り出している部分の部材本体11側の端部である。各縦フランジ部132は、部材本体11から第2フランジ13まで延在する稜線部14により、横フランジ部131に接続される。
縦フランジ部132の各々は、横フランジ部131から第1フランジ12へと延びている。すなわち、各縦フランジ部132は、横フランジ部131の端部131aから第1フランジ12へと向かい、概ね構造部材10の高さ方向に延びている。各縦フランジ部132は、横フランジ部131、部材本体11の縦壁112、及び第1フランジ12と一体となっている。縦フランジ部132と縦壁112とのコーナー部は、例えば、20.0mm以下の曲率半径を有する。
各縦フランジ部132は、開放端縁132aを有している。端縁132aは、概ね構造部材10の高さ方向に延びている。各縦フランジ部132の端縁132aは、接続縁161を介し、横フランジ部131の側縁131bに接続されている。また、各縦フランジ部132の端縁132aは、接続縁162を介し、第1フランジ12の端縁12aに接続されている。接続縁161,162は、構造部材10の側面視で実質的に円弧状をなす。
[構造部材の製造方法]
以下、構造部材10の製造方法について、図3A~図3Iを参照しつつ説明する。図3A~図3Iは、構造部材10の製造方法を説明するための模式図である。構造部材10の製造方法は、素材Mを準備する工程と、素材Mを構造部材10に成形する工程とを備える。
(準備工程)
図3Aを参照して、準備工程では、金属板からなる素材Mを準備する。素材Mは、例えば、構造部材10(図1及び図2)を展開した形状となるように打ち抜き加工されたブランクである。素材Mを構成する金属板は、例えば鋼板である。この鋼板は、例えば、590MPa以上の引張強度を有する。鋼板は、780MPa以上の引張強度を有していてもよいし、980MPa以上の引張強度を有していてもよい。素材Mの板厚は、例えば、1.0mm以上、5.0mm以下である。
(成形工程)
図3B~図3Dに示すように、成形工程では、素材Mを構造部材10(図1及び図2)に成形するため、金型20を使用する。まず、金型20の構成について説明する。図3Bは、金型20の斜視図である。図3Cは、金型20の横断面図(IIIC-IIIC断面図)である。図3Dは、金型20の縦断面図(IIID-IIID断面図)である。
図3Bを参照して、金型20は、第1下型21と、第2下型22と、2つの上型23と、パッド24とを含む。下型21,22は、パンチであり、上型23は、下型21,22に対応するダイである。成形工程を開始するに際し、下型21,22は、上型23及びパッド24に対向して配置される。下型21,22は、例えば、上型23及びパッド24の下方に配置される。第1下型21、第2下型22、上型23、及びパッド24は、例えば、公知のプレス機(図示略)に取り付けられる。
図3Cを参照して、第1下型21は、主に、部材本体11及び第1フランジ12(図1及び図2)を成形する。第1下型21は、クッション機構25によって昇降可能に構成されている。クッション機構25は、プレス機において一般に使用されるものでよく、例えば、ダイクッションやクッションピン等を含んでいる。
第1下型21は、成形面211を有する。成形面211は、上方に凸の形状を有する。成形面211は、頂面211aと、2つの側面211bと、2つのフランジ面211cとを含む。頂面211aは、パッド24に対向する上向きの面である。2つの側面211bは、頂面211aの両側に配置されている。フランジ面211cは、それぞれ、側面211bの下端に接続され、側面211bから側方に突出している。
第2下型22は、第1下型21と別体の金型である。第2下型22は、金型20の長手方向において第1下型21の隣に配置される。第2下型22は、主に、第2フランジ13(図1及び図2)を成形する。第2下型22は、成形面221を有する。
図3C及び図3Dを参照して、第2下型22の成形面221は、頂面221aと、側面221bとを含む。頂面221aは、パッド24に対向する上向きの面である。側面221bは、第1下型21側で頂面221aに接続され、頂面221aから下方へと延びている。
成形工程を開始する前は、第1下型21の成形面211と第2下型22の成形面221との間に段差が生じている。初期状態では、第2下型22の成形面221は、第1下型21の成形面211よりも下方に位置している。より詳細には、第2下型22の頂面221aが第1下型21の頂面211aよりも下方に位置することで、頂面211a,221a間に段差が生じている。また、第2下型22の側面221bの下端部が第1下型21のフランジ面211cよりも下方に位置し、第2下型22の側面221bと第1下型21のフランジ面211cとの境界部分で段差が生じている。第1下型21の成形面211と第2下型22の成形面221との段差の大きさSは、素材Mの板厚以上であることが好ましい。段差の大きさSは、例えば、素材Mの板厚の5.0倍以下である。段差の大きさSは、クッション機構25のストローク(クッションストローク)と実質的に同一である。
引き続き図3C及び図3Dを参照して、上型23の成形面231は、第1下型21の成形面211及び第2下型22の成形面221に対応する形状を有する。上型23の間には、パッド24が配置される。上型23及びパッド24は、例えば、プレス機(図示略)において昇降可能なスライドに取り付けられる。パッド24は、例えば、伸縮可能な弾性部材26を介してスライドに接続される。
成形工程では、このように構成された金型20を用い、素材Mを構造部材10(図1及び図2)に成形する。成形工程は、第1工程と、第2工程とを含んでいる。第1工程では、上型23と第1下型21とで素材Mを挟持する一方、上型23と第2下型22とで素材Mを挟持しない。第2工程では、上型23と第2下型22とで素材Mを挟持して第2フランジ13(図1及び図2)を成形する。以下、各工程について具体的に説明する。
(第1工程)
図3C及び図3Dに示すように、成形工程を開始する際、プレス機(図示略)のスライドに取り付けられた上型23及びパッド24は、上死点に位置する。この状態で、素材Mを第1下型21の頂面211a上に載置する。その後、プレス機のスライドとともに上型23及びパッド24を下型21,22に向かって下降させ、上型23及びパッド24を下型21,22に対して接近させる。
上型23及びパッド24を下型21,22に対して接近させると、図3Eに示すように、まず、第1下型21上の素材Mがパッド24によって押さえられる。すなわち、第1下型21の頂面211aとパッド24とによって素材Mが挟持される。一方、第2下型22の頂面221aは第1下型21の頂面211aよりも若干下方に位置するため、第2下型22の頂面221aと、パッド24との間で素材Mは挟持されない。第1下型21とパッド24とで素材Mが挟持された時点では、第2下型22と素材Mとの間に隙間が存在する。
パッド24で第1下型21上の素材Mを押さえた後、プレス機(図示略)のスライドをさらに下降させることにより、上型23を下型21,22に対してさらに接近させる。パッド24によって第1下型21上の素材Mを押さえたままでスライドを下降させることにより、パッド24をスライドに接続する弾性部材26が縮み、上型23がパッド24に対して相対的に下降する。これにより、図3F及び図3Gに示すように、上型23と第1下型21とによって素材Mがプレスされる。
上述したように、第1下型21の成形面211と第2下型22の成形面221との間には、予め段差が生じている。そのため、上型23を下型21,22に対して接近させたとき、第1下型21が第2下型22に先行して上型23とともに素材Mを挟持する。上型23と第1下型21とによって素材Mがプレスされた時点では、第2下型22は素材Mをプレスしない。この時点では、素材Mと第2下型22との間に隙間が存在する。
(第2工程)
第1下型21とともに素材Mを挟持した状態の上型23を第2下型22に対してさらに接近させると、上型23により、クッション機構25で支持された第1下型21が押し下げられる。これにより、第1下型21の成形面211と第2下型22の成形面221との段差が徐々に小さくなっていく。図3H及び図3Iを参照して、上型23が下死点に到達したとき、第1下型21と第2下型22との間の段差は消失し、上型23と第2下型22との間で素材Mが挟持(プレス)される。また、パッド24と第2下型22とによって素材Mが挟持される。
上型23が下死点に到達したとき、素材Mは構造部材10に成形される。素材Mのうち、パッド24と第1下型21の頂面211aとの間でプレスされた部分は、部材本体11の天板111となる。素材Mのうち、上型23と第1下型21の側面211bとの間でプレスされた部分は、部材本体11の縦壁112となる。素材Mのうち、上型23と第1下型21のフランジ面211cとの間でプレスされた部分は、第1フランジ12となる。素材Mのうち、パッド24と第2下型22の頂面221aとの間でプレスされた部分は、主に、第2フランジ13の横フランジ部131となる。素材Mのうち、上型23と第2下型22の側面221bとの間でプレスされた部分は、主に、第2フランジ13の縦フランジ部132となる。
図4を参照して、成形工程後の構造部材10において、各縦フランジ部132の端縁132aは、変形領域R1を含む。変形領域R1は、横フランジ部131と縦フランジ部132とを結ぶ接続縁161のR止まり(縦フランジ部132側)から、縦フランジ部132と第1フランジ12とを結ぶ接続縁162のR止まり(縦フランジ部132側)までの範囲内にある。
変形領域R1は、その全体にわたり、以下の式(1)を満たす板厚減少率T[%]を有する。
0.9×Tmax≦T≦Tmax (1)
上記式(1)のTmax[%]は、縦フランジ部132の各々の端縁132aにおける板厚減少率Tの最大値である。板厚減少率Tは、部材本体11の天板111の板厚を基準とする板厚減少率である。天板111の板厚をt0、各縦フランジ部132の端縁132aにおいて任意で選択した位置の板厚をt1としたとき、当該位置の板厚減少率T[%]は、(t0-t1)/t0×100によって得ることができる。天板111の板厚t0は、天板111のうち、成形による歪みが実質的に生じていない部分の板厚である。すなわち、板厚t0は、成形前の素材Mの板厚と実質的に等しい。板厚t0は、天板111の中央部分であり、且つ平坦な形状を有する部分で測定される。板厚t0は、例えば、稜線部14や天板111の長手方向の端部から5.0mm以上離れた位置で測定された天板111の板厚である。天板111に段差や隆起部、貫通孔が設けられている場合は、稜線部14及び天板111の長手方向の端部だけでなく、段差、隆起部、及び貫通孔からも5.0mm以上離れた位置で測定された天板111の板厚を板厚t0とする。板厚t0は、例えば、1.0mm以上、5.0mm以下である。
各縦フランジ部132の端縁132aにおいて、変形領域R1の長さは、天板111の板厚t0の2.0倍以上、6.0倍以下となっている。
[効果]
本実施形態では、部材本体11及び第1フランジ12を成形するための第1下型21と、第2フランジ13を成形するための第2下型22とを用いて、素材Mから構造部材10を成形する。成形の第1工程では、上型23及びパッド24と第1下型21との間で素材Mが挟持される一方、上型23及びパッド24と第2下型22との間では素材Mが挟持されない。すなわち、成形途中までは、素材Mのうち第2フランジ13となる部分が金型20によって拘束されない。これにより、素材Mのうち第2フランジ13となる部分で材料の流動が生じる。材料は、主に、横フランジ部131側から縦フランジ部132側へと流入する。そのため、各縦フランジ部132の端縁132aや、縦フランジ部132と第1フランジ12との接続部分(コーナー部)において割れが発生するのを抑制することができる。
本実施形態では、成形の第1工程においてパッド24で素材Mを押さえた後、上型23と第1下型21とで素材Mを挟持する。すなわち、第1下型21の頂面211a上の素材Mがパッド24によって押さえられた状態で、上型23及び第1下型21による素材Mの成形が行われる。また、成形の第2工程における第2フランジ13の成形も、素材Mがパッド24によって押さえられた状態で行われる。これにより、素材Mを構造部材10に成形する間、素材Mの位置ずれが発生するのを防止することができる。そのため、構造部材10を精度よく成形することができる。
本実施形態では、素材Mの成形を開始する前の状態で、第1下型21の成形面211と第2下型22の成形面221との間に段差が生じている。この段差の大きさSは、素材Mの板厚以上、且つ当該板厚の5.0倍以下に設定されることが好ましい。これにより、第2フランジ13及びその近傍における割れやしわの発生を抑制することができる。
本実施形態に係る構造部材10において、第2フランジ13の各縦フランジ部132は、上記式(1)を満たす変形領域R1を端縁132aに有する。変形領域R1の長さは、部材本体11の天板111の板厚t0の2.0倍以上、6.0倍以下となっている。これは、各縦フランジ部132の端縁132aの板厚分布が均一化されていることを意味している。この場合、構造部材10の使用時において、縦フランジ部132の端縁132aでの板厚減少部への応力集中が起こりにくくなり、縦フランジ部132の端縁132aにおいて割れが生じるのを抑制することができる。すなわち、構造部材10に優れた耐久性能を持たせることができる。
本実施形態に係る製造方法において、成形工程は、冷間成形工程であってもよいし、熱間成形工程(ホットスタンピング)であってもよい。ホットスタンピングによって素材Mから構造部材10を成形する場合、本実施形態に係る製造方法は、さらに、素材Mを加熱する加熱工程を備える。成形工程では、加熱工程でホットスタンピングに適した温度に加熱された素材Mを、金型20によって構造部材10に成形すればよい。成形後の構造部材10は、金型20との接触によって抜熱(焼入れ)される。そのため、構造部材10を高強度化することができる。
図5を参照して、ホットスタンピングによって素材Mを構造部材10に成形した場合、各縦フランジ部132の端縁132aは、低硬度領域R2を含む。低硬度領域R2は、横フランジ部131と縦フランジ部132とを結ぶ接続縁161のR止まり(縦フランジ部132側)から、縦フランジ部132と第1フランジ12とを結ぶ接続縁162のR止まり(縦フランジ部132側)までの範囲内にある。
低硬度領域R2は、各縦フランジ部132の端縁132aにおいて他の箇所よりも硬度が低い領域である。低硬度領域R2は、その全体にわたり、以下の式(2)を満たすビッカース硬さHV[HV]を有する。式(2)のHVTmax[HV]は、各縦フランジ部132の端縁132aにおいて、上述した板厚減少率の最大値Tmaxを有する部分のビッカース硬さである。各縦フランジ部132の端縁132aにおいて、低硬度領域R2の長さは、天板111の板厚t0の5.0倍以上、10.0倍以下となっている。
HVTmax-10.0≦HV≦HVTmax+10.0 (2)
各縦フランジ部132の端縁132aのビッカース硬さは、次のようにして調べることができる。すなわち、まず、レーザー切断により、横フランジ部131の側縁131b、接続縁161、及び縦フランジ部132の端縁132aを含む部分を構造部材10から採取する。さらに、採取した部分を水中カッターで切断し、構造部材10の端面(横フランジ部131の側縁131b、接続縁161、及び縦フランジ部132の端縁132a)が表面に配置されるように樹脂埋め及び研磨を行い、硬さ調査用の試験片を作製する。そして、この試験片及び市販の測定器(全自動ビッカース硬さ試験機 HV‐100,株式会社ミツトヨ製)を用い、JIS Z 2244にしたがってビッカース硬さ試験を実施する。ビッカース硬さは、例えば、試験力を294.2N(HV30の数値)とし、試験力の保持時間を15sとして測定される。
本実施形態に係る製造方法において、鋼板を用い、成形工程をホットスタンピングとした場合、各縦フランジ部132の端縁132aにおいて、低硬度領域R2が生じる。低硬度領域R2の長さは、部材本体11の天板111の板厚t0の5.0倍以上、10.0倍以下となっている。これは、各縦フランジ部132の端縁132aの硬度分布が均一化されていることを意味する。この場合、構造部材10の使用時において、各縦フランジ部132の端縁132aでの応力集中が生じにくくなり、割れの発生を抑制することができる。すなわち、構造部材10に優れた耐久性能を持たせることができる。
ホットスタンピングによって素材Mを構造部材10に成形した場合、各縦フランジ部132は、均一に高強度化される。例えば、各縦フランジ部132の表面におけるビッカース硬さの平均値は300.0Hv以上となり、標準偏差は70.0Hv以下となる。縦フランジ部132の表面におけるビッカース硬さの平均値及び標準偏差は、次のようにして得ることができる。すなわち、構造部材10から採取された縦フランジ部132の表面を試験面とし、この試験面において互いに天板111の板厚t0以上離れた任意の30箇所について、市販の測定器を用いてJIS Z 2244に規定されるビッカース試験を実施する。縦フランジ部132の表面のビッカース硬さは、例えば、試験力を10kgf(98.07N)とし、試験力の保持時間を10sとして測定される。そして、ビッカース試験で得られたビッカース硬さから、これらの平均値及び標準偏差を算出することができる。
本実施形態に係る製造方法によれば、素材Mを構造部材10に成形する際、第2フランジ13及びその近傍において割れやしわが発生するのを抑制することができる。そのため、構造部材10の材料として、高張力鋼板を採用することができる。例えば、590MPa以上の引張強度を有する鋼板で構造部材10を形成することができる。鋼板の引張強度は、780MPa以上であってもよいし、980MPa以上であってもよい。ホットスタンピングによって構造部材10を製造する場合、鋼板の引張強度を1000MPa以上、又は2000MPa以上とすることもできる。このように高張力鋼板を採用することにより、構造部材10の強度が向上するため、構造部材10を薄肉化することができる。よって、構造部材10を軽量化することができる。なお、鋼板の成形工程をホットスタンピングとした場合、前述の低硬度領域R2についても引張強度が1000MPa以上となる。
本実施形態に係る構造部材10において、稜線部14のコーナー部141は、天板111に垂直な方向に沿って見て、例えば20.0mm以下の曲率半径を有する。また、縦フランジ部132と縦壁112とのコーナー部も、例えば20.0mm以下の曲率半径を有する。そのため、構造部材10は、スペース効率に優れた部材となっている。より具体的には、これらのコーナー部の曲率半径が20.0mm以下と比較的小さいことにより、縦壁112に対して縦フランジ部132が直角又は直角に近い角度でコンパクトに配置されるため、狭い領域に構造部材10を配置することが可能となる。よって、他部品との空間的な配置の関係で構造部材10の寸法が制約されることが少なくなる。また、狭い領域に配置された構造部材10に対して長手方向の荷重が入力されたとき、当該荷重を縦フランジ部132が面で受け止めることができ、縦フランジ部132から部材本体11へと荷重が伝達されやすくなる。したがって、構造部材10は、長手方向の荷重について、良好な伝達能を発揮することができる。
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態に係る構造部材10Aの斜視図である。本実施形態に係る構造部材10Aの基本的な構成は、第1実施形態に係る構造部材10と構成と同一である。ただし、構造部材10Aは、部材本体11の天板111の形状において、第1実施形態に係る構造部材10と異なる。
図6に示すように、天板111において、第2フランジ13の近傍部分111bは他の部分と比較して上方に隆起している。また、天板111のうち第2フランジ13の近傍部分111bは、第2フランジ13の横フランジ部131と比較して上方に隆起している。縦壁112の高さは、天板111の形状に応じて変化している。
本実施形態に係る構造部材10Aも、第1実施形態において説明した製造方法で製造することができる。構造部材10Aを製造する際には、成形工程の前に、金属板(ブランク)から中間成形品を成形する予備成形工程を実施してもよい。予備成形工程では、例えば絞り加工により、金属板から中間成形品を成形する。中間成形品は、例えば、天板111の隆起部111bが形成されたものであってもよい。中間成形品は、第2フランジ13の形状が緩やかに付けられたものであってもよい。予備成形工程は、典型的には冷間で実施される。予備成形工程後の成形工程は、冷間成形工程であってもよいし、熱間成形工程(ホットスタンピング)であってもよい。
図7に示すように、構造部材10Aは、例えば、第2フランジ13の縦フランジ部132と第1フランジ12との接続部分において、切欠き17を有していてもよい。切欠き17は、構造部材10Aにおいて幅方向の一方側にのみ設けられていてもよいし、幅方向の両側に設けられていてもよい。切欠き17は、構造部材10Aに成形される前の素材に対し、予め形成しておくことができる。図示を省略するが、第1実施形態に係る構造部材10(図1及び図2)も、切欠き17を有することができる。
ただし、構造部材10,10Aの使用時において応力集中を生じにくくするため、第1フランジ12及び第2フランジ13は、切欠きを有しないことが好ましい。すなわち、第1フランジ12の端縁12a、縦フランジ部132の端縁132a、及び横フランジ部131の側縁131bは、滑らかに連続していることが好ましい。この場合、応力集中の抑制に加え、自動車の衝突時における構造部材10,10Aの荷重伝達能を向上させることができる。また、構造部材10,10Aがフロアパネルの下面に設けられている場合は、切欠きから構造部材10,10A内に水が浸入するのを防止することができ、構造部材10,10Aの発錆を抑制することができる。
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、部材本体11の長手方向の一端部にのみ、第2フランジ13が設けられている。しかしながら、部材本体11の長手方向の両端部に第2フランジ13が設けられていてもよい。この場合、構造部材の製造に際し、第2フランジ13を成形するための第2下型22を2つ準備し、これらの第2下型22を第1下型21の両側に配置すればよい。上型23の形状は、第1下型21及び2つの第2下型22に対応するように適宜変更すればよい。
部材本体11の長手方向の両端部に第2フランジ13を有する構造部材を成形した場合、この構造部材を成形工程後に二分割することもできる。これにより、部材本体11の長手方向の一端部にのみ第2フランジ13を有する構造部材10又は構造部材10Aを一度の成形工程で2つ製造することができる。
上記実施形態において、パッド24は、金型20の平面視で概略T字状を有している。言い換えると、パッド24は、構造部材10の成形時において、天板111及び横フランジ部131のほぼ全体を押さえることができるように構成されている。しかしながら、パッド24の形状はこれに限定されるものではない。構造部材10のうち成形時にパッド24によって押さえられる部分は、適宜変更することができる。
上記実施形態では、第2下型22は、クッション機構25によって昇降可能に支持されている。ただし、第2下型22は、必ずしもクッション機構25によって支持されていなくてもよい。
上記実施形態では、成形工程の開始前において、第1下型21の成形面211が第2下型22の成形面221よりも上方に位置し、第1下型21の成形面211と第2下型22の成形面221との間に段差が生じている。しかしながら、第1下型21と第2下型22との位置関係は、特にこれに限定されるものではない。下型21,22は、第1下型21が第2下型22に先行して上型23との間で素材Mを挟持するように配置されていればよい。例えば、成形の第1工程において上型23及び第2下型22が素材Mを挟持しないように、初期状態において、第2下型22を第1下型21から金型20の長手方向に離間させていてもよい。
上記実施形態では、プレス機に金型20を取り付けた状態で、上型23が下型21,22の上方に配置される。また、素材Mを構造部材10,10Aに成形する際には、下型21,22に向かって上型23を移動させることで、上型23と下型21,22とを接近させている。しかしながら、上記実施形態とは逆に、上型23が下型21,22の下方に配置されてもよい。また、上型23に向かって下型21,22を移動させることで、上型23を下型21,22に対して相対的に接近させてもよい。
以下、実施例によって本開示をさらに詳しく説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
本開示による効果を確認するため、上記実施形態に係る製造方法で構造部材10(図1及び図2)を成形するプレス成形について、市販のソフトウェア(プレス成形シミュレーションシステムJSTAMP ver2.18,株式会社JSOL製、及びLS-DYNA ver971 rev7.12,ANSYS社製)を使用してCAE解析を実施した。解析の条件及び結果を表1-1、表1-2、表2-1、及び表2-2に示す。
上記表における実施例、比較例、及び参考例のうち、素材がホットスタンプ用鋼板、アルミニウム合金板であるものについては、成形方法をホットスタンピングとし、その他のものは成形方法を冷間成形とした。実施例1~31、各比較例、及び各参考例は、素材である金属板のうち、天板111及び横フランジ部131となる部分のほぼ全体をパッド24で押さえながら成形を行ったものである。一方、実施例32~48は、素材である金属板のうち、天板111及び横フランジ部131となる部分の一部をパッド24で押さえながら、構造部材10の成形を行ったものである。すなわち、実施例32~48では、実施例1~31と異なる形状のパッド24を使用して構造部材10を成形した。
各表において、稜線Rは、稜線部14のうち、横フランジ部131と縦フランジ部132とを接続する部分の部材横断面視での曲率半径である。コーナーRは、縦フランジ部132と縦壁112との間のコーナー部の曲率半径である。コーナーRは、稜線部14のうち、天板111から横フランジ部131へと延在する部分であるコーナー部141の部材平面視での曲率半径と概ね等しい。稜線R及びコーナーRは、いずれも、構造部材10の内側(下型21,22側)から測定された曲率半径である。フランジ長さは、部材本体11からのフランジ12,13の張出量であり、稜線部14のコーナー部141のR止まり(幅方向外側)から構造部材10の幅方向の端部までの距離とした。
表1に示すように、各実施例では、第1下型21と第2下型22との間の段差の大きさS(図3D)が素材である金属板の板厚tの1.0倍以上確保されている。そのため、各実施例では、上型23と第1下型21とによって確実に素材が挟持された後で、上型23と第2下型22とによる素材の挟持が開始され、第2フランジ13が成形された。よって、各実施例では、第2フランジ13における材料の流動が促進され、第2フランジ13の割れは発生しなかった。
各比較例では、第1下型21と第2下型22との間の段差の大きさSが素材の板厚tの1.0倍未満となっている。そのため、各比較例では、上型23と第1下型21とによる素材の挟持が完了する前に、上型23と第2下型22とによる素材の挟持が開始された。よって、各比較例では、第2フランジ13における材料の流動が生じにくく、第2フランジ13に割れが発生した。
したがって、第1下型21と第2下型22との間に予め段差を生じさせる場合、当該段差の大きさSを素材の板厚以上とすれば、成形工程において第2フランジ13に割れが発生するのを防止することができる。この効果は、鋼板の成形だけでなく、アルミニウム合金板を用いたホットスタンピングにおいても確認できた。
実施例7、実施例22、及び実施例30では、第1下型21と第2下型22との間の段差の大きさSが素材の板厚tの5.0倍超となっている。実施例7、実施例22、及び実施例30では、第2フランジ13又はその近傍においてしわが発生した。一方、段差の大きさSが素材の板厚tの5.0倍以下である他の実施例では、しわは発生しなかった。したがって、第1下型21と第2下型22との間に予め段差を生じさせる場合、当該段差の大きさSを素材の板厚の5.0倍以下とすれば、第2フランジ13及びその近傍のしわの発生を抑制することができる。
ところで、第2フランジ13の割れは、フランジ部に切欠きがなく、フランジ長さが比較的小さい場合、又はコーナーRが比較的小さい場合に発生しやすい。例えば、フランジ長さが0.0mm以上25.0mm以下である場合や、コーナーRが20.0mm以下である場合、縦フランジ部132の端縁132aにおいて、接続縁161のR止まり近傍に変形が集中しやすくなる。例えば、引張強度が590MPa以上の鋼板を用い、部材本体11及び第1フランジ12と、第2フランジ13とを同時に成形する従来工法によって構造部材10を製造すると、第2フランジ13に割れが生じる。そのため、参考例1及び参考例4のように、フランジ部を切り欠くこと(表2-1ではフランジ長さを負の値として表現)で割れ対策が必要である。前述の通り、フランジ部を切り欠くと、応力集中が生じやすく部品性能が低下するため、望ましくない。一方、参考例3のようにフランジ長さが50.0mm以上である場合や、参考例5のようにコーナーRが20.0mmよりも大きい場合、従来工法で構造部材10を成形したとしても、第2フランジ13の割れは生じにくい。しかしながら、このような形状は、スペースの制約や部品重量の増加の観点から望ましくない。また、成形後に、フランジ部を切断してフランジ長さを短くするとしても、歩留まりが悪くなり、切断コストの増加を招くため望ましくない。
各表を参照して、参考例1の条件は、フランジ長さを除き、比較例1の条件と同一である。比較例1では、フランジ長さが正の値であり、フランジ部に切欠きが形成されていないのに対し、参考例1では、フランジ長さが-20.0mmであり、フランジ部に切欠きが追加されている。参考例4の条件は、フランジ長さを除き、比較例6の条件と同一である。比較例6では、フランジ長さが正の値であり、フランジ部に切欠きが形成されていないのに対し、参考例4では、フランジ長さが-15.0mmであり、フランジ部に切欠きが追加されている。そのため、参考例1及び参考例4では、比較例1及び比較例6と異なり、第2フランジ13に割れが発生しなかった。
参考例5の条件は、コーナーRを除き、比較例2の条件と同一である。参考例5のコーナーRは40.0mmであり、比較例2のコーナーR:15.0mmよりも顕著に大きい。そのため、参考例5では、比較例2と異なり、第2フランジ13に割れが発生しなかった。
本開示に係る製造方法は、第2フランジ13の割れを抑制するものである。そのため、本開示に係る製造方法は、第2フランジ13に割れが発生しやすい構造部材10、すなわち、フランジ長さが25.0mm以下であり、あるいは、稜線部14のコーナー部141の曲率半径や縦フランジ部132と縦壁112との間のコーナーRが20.0mm以下である構造部材10の製造に好適である。本開示に係る製造方法であれば、稜線部14のコーナー部141の曲率半径や縦フランジ部132と縦壁112との間のコーナーRが20.0mm以下であっても、第2フランジ13における割れを抑制することができる。また、フランジ長さが25.0mm以下であっても、第2フランジ13における割れを抑制することができる。したがって、予めフランジ長さを長くしておくことで成形時の割れを抑制し、成形後にフランジ12,13をトリムする必要はない。すなわち、フランジ12,13の中間トリム工程が不要となる。
図8は、縦フランジ部132の端縁132aについて、横フランジ部131と縦フランジ部132とを結ぶ接続縁161のR止まり(縦フランジ部132側)からの距離と、板厚減少率Tとの関係を示すグラフである。図8に示すように、実施例4及び実施例6では、比較例1と比べて板厚減少率Tの変化が緩やかである。すなわち、実施例4及び実施例6では、比較例1と比べて、縦フランジ部132の端縁132aの板厚分布が均一化されている。
図8及び表1-2に示すように、実施例4及び実施例6では、縦フランジ部132の端縁132aの変形領域R1、つまり上記式(1)を満たす領域の長さが比較例1と比べて長い。実施例4における変形領域R1の長さは、4.0mmであり、素材の板厚t:2.0mmの2.0倍であった。実施例6における変形領域R1の長さは、6.0mmであり、素材の板厚t:2.0mmの3.0倍であった。一方、比較例1における変形領域R1の長さは、2.0mmであり、素材の板厚t:2.0mmの1.0倍であった。
表1-2に示すように、実施例4及び実施例6以外の実施例でも、変形領域R1の長さが素材の板厚tの2.0倍以上となった。各実施例では、変形領域R1の長さが素材の板厚tの6.0倍以下となっている。一方、各比較例では、変形領域R1の長さが素材の板厚tの2.0倍未満である。この結果より、本開示に係る製造方法によって構造部材10を製造すれば、変形領域R1の長さが素材の板厚t(天板111の板厚t0)の2.0倍以上、6.0倍以下となり、第2フランジ13の板厚分布が均一化されるといえる。
実施例20、実施例19、及び比較例5の条件で、ホットスタンピングによって構造部材10を成形すると、縦フランジ部132の端縁132aにおいて上記式(2)を満たす低硬度領域R2が発生した。実施例20における低硬度領域R2の長さは、10.0mmであり、素材の板厚tの5.0倍であった。実施例19における低硬度領域R2の長さは、20.0mmであり、素材の板厚tの10.0倍であった。一方、比較例5における低硬度領域R2の長さは、8.0mmであり、素材の板厚tの4.0倍であった。この結果より、本開示に係る製造方法においてホットスタンピングで構造部材10を成形すれば、低硬度領域R2の長さが素材の板厚tの5.0倍以上、10.0倍以下となり、第2フランジ13の硬度分布が均一化されるといえる。