本発明者らは、上述の通り、特定の変性ポリフェニレンエーテル樹脂(式(1)で示される基を末端に有するもの)と、所定のシランカップリング剤及び/又は当該シランカップリング剤で処理したシリカを含む樹脂組成物において流動性が劣化することについて、鋭意研究を重ねた。その結果、ポリフェニレンエーテル化合物に含まれる不純物によって、反応性の高い加水分解性基を有するシランカップリング剤を用いる場合に、当該加水分解性基と前記不純物が反応してしまうせいで樹脂組成物の流動性が劣化していることがわかってきた。この問題を解消する一つの手段として、本発明者らは、加水分解性基としてエトキシ基を有するシランカップリング剤を使用することにより、シランカップリング剤が有する加水分解性基と前記不純物の反応を抑制できることを見出した。
そこで、本発明の実施形態に係る樹脂組成物は、(A)下記式(1)で表される基を末端に有するポリフェニレンエーテル化合物と、(B)(b-1)炭素-炭素不飽和二重結合を含む官能基及びエトキシ基を分子内に有するシランカップリング剤とシリカ粒子、及び(b-2)前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子の少なくとも一方と、(C)有機溶媒と、を含有し、前記(A)成分において、前記(A)成分とイオン交換水(pH=5.0)とを1:3の重量割合で混合した混合液を室温にて10分間超音波振動させた後、ろ過抽出した際の抽出液のpHが5.0以上を示すことを特徴とする。
[式(1)中、R1は、水素原子又はアルキル基を示す。]
このような構成により、硬化物における耐熱性や接着性等の特性を維持したまま、樹脂組成物のpHをコントロールでき、流動性を担保することができる。
以下、本実施形態に係る樹脂組成物の各成分について、具体的に説明する。
((A)ポリフェニレンエーテル(PPE)化合物)
本実施形態の樹脂組成物は、樹脂成分として、(A)ポリフェニレンエーテル化合物を含んでいる。
本実施形態で使用するポリフェニレンエーテル化合物は、分子末端に上記式(1)で表される基を有し、かつ、当該ポリフェニレンエーテル化合物とイオン交換水(pH=5.0)とを1:3の重量割合で混合した混合液を室温にて10分間超音波振動させた後、ろ過抽出した際の抽出液のpHが5.5以下を示す、ポリフェニレンエーテル化合物であれば、特に限定されない。このようなポリフェニレンエーテル化合物を使用することによって、樹脂組成物の硬化物における耐熱性や接着性等の特性を維持したまま、ワニス状にした際の流動性に優れる樹脂組成物を提供することができる。
前記抽出液のpHは、5.5以下であれば特に限定はされないが、極度にpHが低すぎるとシランカップリング剤の加水分解が促進され且つシランカップリング剤同士の縮合反応も促進されてしまう傾向になるため、pHとしては3.5以上であることが好ましく、4.0以上であることがより好ましい。前記pHが5.5を超えると、エトキシ基を有するシランカップリング剤の加水分解が起こりにくくなり、シランカップリング剤によって得られる耐熱性や接着性といった特性に劣ってしまうおそれがある。より好ましいpHの範囲は、5.0以下である。
なお、前記pHは、後述する実施例に記載の方法等で測定することができる。
前記式(1)中、R1は、水素原子、又は、炭素数1~10のアルキル基を示す。炭素数1~10のアルキル基は、炭素数1~10のアルキル基であれば特に限定されず、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、及びヘキシル基等が挙げられる。この中でも、水素原子が好ましい。
特に、本実施形態の樹脂組成物は、上述した効果をより確実に得るという観点から、(A)成分として、下記式(2)で表される構造を有するポリフェニレンエーテル化合物を含んでいることが好ましい。
上記式(2)中において、R2~R9は、それぞれ独立している。すなわち、R2~R9は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、R2~R9は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基、又はアルキニルカルボニル基を示す。この中でも、水素原子及びアルキル基が好ましい。
R2~R9について、上記で挙げられた各官能基としては、具体的には、以下のようなものが挙げられる。
アルキル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数1~18のアルキル基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基がより好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、及びデシル基等が挙げられる。
また、アルケニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数2~10のアルケニル基がより好ましい。具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、及び3-ブテニル基等が挙げられる。
また、アルキニル基は、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキニル基がより好ましい。具体的には、例えば、エチニル基、及びプロパ-2-イン-1-イル基(プロパルギル基)等が挙げられる。
また、アルキルカルボニル基は、アルキル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数2~18のアルキルカルボニル基が好ましく、炭素数2~10のアルキルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、及びシクロヘキシルカルボニル基等が挙げられる。
また、アルケニルカルボニル基は、アルケニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルケニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルケニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、及びクロトノイル基等が挙げられる。
また、アルキニルカルボニル基は、アルキニル基で置換されたカルボニル基であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~18のアルキニルカルボニル基が好ましく、炭素数3~10のアルキニルカルボニル基がより好ましい。具体的には、例えば、プロピオロイル基等が挙げられる。
また、上記式(2)中、Aは下記式(3)で、Bは下記式(4)でそれぞれ示される構造である:
式(3)および(4)において、繰り返し単位であるmおよびnはそれぞれ1~50の整数を示す。
R10~R17は、それぞれ独立している。すなわち、R10~R17は、それぞれ同一の基であっても、異なる基であってもよい。また、本実施形態において、R10~R17は水素原子又はアルキル基である。
上記式(2)において、Xは、上記式(1)で示される基である。
さらに、上記式(2)において、Yは、炭素数20以下の直鎖状、分岐状もしくは環状の炭化水素が挙げられる。より具体的には、下記式(5)で表される構造である:
式(5)中、R18及びR19は、それぞれ独立して、水素原子またはアルキル基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。また、式(5)で表される基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、及びジメチルメチレン基等が挙げられる。
本実施形態において、ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、例えば、1000~5000であることが好ましく、1000~4000であることがより好ましい。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。また、ポリフェニレンエーテル化合物が、繰り返し単位(m、n)を分子中に有している場合、これらの繰り返し単位は、ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内になるような数値であることが好ましい。
ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、ポリフェニレンエーテル骨格の有する優れた低誘電特性を有し、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものとなる。このことは、以下のことによると考えられる。通常のポリフェニレンエーテルと比べると、重量平均分子量が上述したような範囲内であれば、比較的低分子量のものであるので、硬化物の耐熱性が低下する傾向がある。この点、本実施形態に係るポリフェニレンエーテル化合物は、末端に上記式(1)で示される構造を有するので、高い反応性を有し、硬化物の耐熱性が充分に高いものが得られると考えられる。また、ポリフェニレンエーテル化合物の重量平均分子量がこのような範囲内であると、スチレンやジビニルベンゼンと比較すると高分子量であるが、一般的なポリフェニレンエーテルよりは比較的低分子量のものであるので、成形性にも優れると考えられる。よって、このようなポリフェニレンエーテル化合物を用いることにより、硬化物の耐熱性により優れるだけではなく、成形性にも優れたものが得られると考えられる。
また、本実施形態で用いるポリフェニレンエーテル化合物における、変性ポリフェニレンエーテル1分子当たりの、分子末端に有する、前記X置換基の平均個数(末端官能基数)は、特に限定されない。具体的には、1~5個であることが好ましく、1~3個であることがより好ましい。この末端官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。すなわち、このような変性ポリフェニレンエーテルを用いると、流動性不足等により、例えば、多層成形時にボイドが発生する等の成形不良が発生し、信頼性の高いプリント配線板が得られにくいという成形性の問題が生じるおそれがあった。
なお、ポリフェニレンエーテル化合物の末端官能基数は、ポリフェニレンエーテル化合物1モル中に存在する全てのポリフェニレンエーテル化合物の1分子あたりの、前記置換基の平均値を表した数値等が挙げられる。この末端官能基数は、例えば、得られたポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数を測定して、変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分を算出することによって、測定することができる。この変性前のポリフェニレンエーテルの水酸基数からの減少分が、末端官能基数である。そして、ポリフェニレンエーテル化合物に残存する水酸基数の測定方法は、ポリフェニレンエーテル化合物の溶液に、水酸基と会合する4級アンモニウム塩(テトラエチルアンモニウムヒドロキシド)を添加し、その混合溶液のUV吸光度を測定することによって、求めることができる。
また、本実施形態において用いられるポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度は、特に限定されない。具体的には、0.03~0.12dl/gであればよいが、0.04~0.11dl/gであることが好ましく、0.06~0.095dl/gであることがより好ましい。この固有粘度が低すぎると、分子量が低い傾向があり、低誘電率や低誘電正接等の低誘電性が得られにくい傾向がある。また、固有粘度が高すぎると、粘度が高く、充分な流動性が得られず、硬化物の成形性が低下する傾向がある。よって、ポリフェニレンエーテル化合物の固有粘度が上記範囲内であれば、優れた、硬化物の耐熱性及び成形性を実現できる。
なお、ここでの固有粘度は、25℃の塩化メチレン中で測定した固有粘度であり、より具体的には、例えば、0.18g/45mlの塩化メチレン溶液(液温25℃)を、粘度計で測定した値等である。この粘度計としては、例えば、Schott社製のAVS500 Visco System等が挙げられる。
また、本実施形態の樹脂組成物では、前記(A)成分に不純物として含有されるメタクリル酸二量体及びその加水分解物の量が、100~600μg/g程度であることが好ましい。それにより、樹脂組成物の粘度上昇をより抑制することができると考えられる。
なお、本実施形態の樹脂組成物には、上述したような、ポリフェニレンエーテル化合物以外の熱硬化性樹脂を含めてもよい。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等が使用可能なその他の熱硬化性樹脂として挙げられる。
また、本実施形態において好ましく用いられるポリフェニレンエーテル化合物の合成方法は、上述したような置換基Xにより末端変性され、かつ、上記所定の条件における抽出物のpHが5.0以上である変性ポリフェニレンエーテル化合物を合成できる方法であれば、特に限定されない。具体的には、前記ポリアリーレンエーテル化合物は、例えば、国際公開2010/503754号パンフレット記載の方法などによって製造することができる。
原料であるポリフェニレンエーテルは、最終的に、所定の変性ポリフェニレンエーテルを合成することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、2,6-ジメチルフェノールと2官能フェノール及び3官能フェノールの少なくともいずれか一方とからなるポリフェニレンエーテルやポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)等のポリフェニレンエーテルを主成分とするもの等が挙げられる。また、2官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に2個有するフェノール化合物であり、例えば、テトラメチルビスフェノールA等が挙げられる。また、3官能フェノールとは、フェノール性水酸基を分子中に3個有するフェノール化合物である。
ポリフェニレンエーテル化合物の合成方法の一例として、例えば、上記式(2)で示されるようなポリフェニレンエーテル化合物の場合、具体的には、上記のようなポリフェニレンエーテルと、無水メタクリル酸とを触媒としての4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジンの存在下で反応させることによって、本実施形態の上記式(2)で示される変性ポリフェニレンエーテルが得られる。
そして、反応が終わった後、たとえば約0.0001~約1規定の水酸化ナトリウムを含む水溶液を洗浄液として用いて洗浄することで、残渣として存在する酸無水物を除去させる。一方、例えば塩酸を洗浄液として用いて洗浄することで、残渣として存在する塩基性不純物を除去させることで、規定のpHまで調整することができる。さらにpHを調整するために上記洗浄を複数回行ってもよい。
(その他の樹脂成分)
本実施形態の樹脂組成物における樹脂成分には、上記(A)ポリフェニレンエーテル化合物以外に、架橋型硬化剤が含まれていることが好ましい。
本実施形態で使用できる架橋型硬化剤は、炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に有するものや前記(A)ポリフェニレンエーテル化合物と反応して硬化させることができるものであれば、特に限定されない。すなわち、架橋型硬化剤は、変性ポリフェニレンエーテル化合物と反応させることによって、架橋を形成させて、硬化させることができるものであればよい。架橋型硬化剤は、炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に2個以上有する化合物や前記(A)ポリフェニレンエーテル化合物との反応に寄与する官能基を分子中に少なくとも一つ以上有する化合物であることが好ましい。
また、本実施形態において用いられる架橋型硬化剤は、重量平均分子量が100~5000であることが好ましく、100~4000であることがより好ましく、100~3000であることがさらに好ましい。架橋型硬化剤の重量平均分子量が低すぎると、架橋型硬化剤が樹脂組成物の配合成分系から揮発しやすくなるおそれがある。また、架橋型硬化剤の重量平均分子量が高すぎると、樹脂組成物のワニスの粘度や、加熱成形時の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、架橋型硬化剤の重量平均分子量がこのような範囲内であると、硬化物の耐熱性により優れた樹脂組成物が得られる。このことは、変性ポリフェニレンエーテル化合物との反応により、架橋を好適に形成することができるためと考えられる。なお、ここで、重量平均分子量は、一般的な分子量測定方法で測定したものであればよく、具体的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用いて測定した値等が挙げられる。
また、本実施形態において用いられる架橋型硬化剤は、架橋型硬化剤1分子当たりの、炭素-炭素不飽和二重結合の平均個数(末端二重結合数)、若しくは、前記化合物(A)との反応に寄与する官能基の、架橋型硬化剤1分子当たりの平均個数(官能基数)は、架橋型硬化剤の重量平均分子量によって異なるが、例えば、1~20個であることが好ましく、2~18個であることがより好ましい。この末端二重結合数や官能基数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端二重結合数や官能基数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、樹脂組成物の保存性が低下したり、樹脂組成物の流動性が低下してしまう等の不具合が発生するおそれがある。
また、架橋型硬化剤の末端二重結合数や官能基数としては、架橋型硬化剤の重量平均分子量をより考慮すると、架橋型硬化剤の重量平均分子量が500未満(例えば、100以上500未満)の場合、1~4個であることが好ましい。また、架橋型硬化剤の末端二重結合数や官能基数としては、架橋型硬化剤の重量平均分子量が500以上(例えば、500以上5000以下)の場合、3~20個であることが好ましい。それぞれの場合で、末端二重結合数や官能基数が、上記範囲の下限値より少ないと、架橋型硬化剤の反応性が低下して、樹脂組成物の硬化物の架橋密度が低下し、耐熱性やTgを充分に向上させることができなくなるおそれがある。一方、末端二重結合数や官能基数が、上記範囲の上限値より多いと、樹脂組成物がゲル化しやすくなるおそれがある。
なお、ここでの末端二重結合数や官能基数は、使用する架橋型硬化剤の製品の規格値からわかる。ここでの末端二重結合数や官能基数としては、具体的には、例えば、架橋型硬化剤1モル中に存在する全ての架橋型硬化剤の1分子あたりの二重結合数や官能基数の平均値を表した数値等が挙げられる。
また、本実施形態において用いられる架橋型硬化剤は、具体的には、例えば、スチレン、スチレン誘導体、分子中にアクリロイル基を有する化合物、分子中にメタクリロイル基を有する化合物、分子中にビニル基を有する化合物、分子中にアリル基を有する化合物、分子中にマレイミド基を有する化合物、変性マレイミド化合物、分子中にアセナフチレン構造を有する化合物、及び分子中にイソシアヌレート基を有するイソシアヌレート化合物等が挙げられる。これらを用いると、硬化反応により架橋がより好適に形成されると考えられ、本実施形態で用いられる樹脂組成物の硬化物の耐熱性をより高めることができる。
前記スチレン誘導体としては、例えば、ブロモスチレン及びジブロモスチレン等が挙げられる。
前記分子中にアクリロイル基を有する化合物は、アクリレート化合物である。前記アクリレート化合物としては、分子中にアクリロイル基を1個有する単官能アクリレート化合物、及び分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物が挙げられる。前記単官能アクリレート化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、及びブチルアクリレート等が挙げられる。前記多官能アクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。
前記分子中にメタクリロイル基を有する化合物は、メタクリレート化合物である。前記メタクリレート化合物としては、分子中にメタクリロイル基を1個有する単官能メタクリレート化合物、及び分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物が挙げられる。前記単官能メタクリレート化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、及びブチルメタクリレート等が挙げられる。前記多官能メタクリレート化合物としては、例えば、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート等が挙げられる。
前記分子中にビニル基を有する化合物は、ビニル化合物である。前記ビニル化合物としては、分子中にビニル基を1個有する単官能ビニル化合物(モノビニル化合物)、及び分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物が挙げられる。前記多官能ビニル化合物としては、多官能芳香族ビニル化合物、多官能脂肪族ビニル化合物、多官能芳香族ビニル化合物由来の構造を含む重合体又は共重合体、多官能脂肪族ビニル化合物由来の構造を含む重合体又は共重合体があげられ、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルベンゼン共重合体、ポリブタジエン、ブタジエン共重合体等が挙げられる。
前記分子中にアリル基を有する化合物が、アリル化合物である。前記アリル化合物としては、分子中にアリル基を1個有する単官能アリル化合物、及び分子中にアリル基を2個以上有する多官能アリル化合物が挙げられる。前記多官能アリル化合物としては、例えば、ジアリルフタレート(DAP)等が挙げられる。
前記分子中にマレイミド基を有する化合物は、マレイミド化合物である。前記マレイミド化合物としては、分子中にマレイミド基を1個有する単官能マレイミド化合物、及び分子中にマレイミド基を2個以上有する多官能マレイミド化合物が挙げられる。前記変性マレイミド化合物としては、例えば、分子中の一部がアミン化合物で変性された変性マレイミド化合物、分子中の一部がシリコーン化合物で変性された変性マレイミド化合物、及び分子中の一部がアミン化合物及びシリコーン化合物で変性された変性マレイミド化合物等が挙げられる。
前記分子中にアセナフチレン構造を有する化合物は、アセナフチレン化合物である。前記アセナフチレン化合物としては、例えば、アセナフチレン、アルキルアセナフチレン類、ハロゲン化アセナフチレン類、及びフェニルアセナフチレン類等が挙げられる。前記アルキルアセナフチレン類としては、例えば、1-メチルアセナフチレン、3-メチルアセナフチレン、4-メチルアセナフチレン、5-メチルアセナフチレン、1-エチルアセナフチレン、3-エチルアセナフチレン、4-エチルアセナフチレン、5-エチルアセナフチレン等が挙げられる。前記ハロゲン化アセナフチレン類としては、例えば、1-クロロアセナフチレン、3-クロロアセナフチレン、4-クロロアセナフチレン、5-クロロアセナフチレン、1-ブロモアセナフチレン、3-ブロモアセナフチレン、4-ブロモアセナフチレン、5-ブロモアセナフチレン等が挙げられる。前記フェニルアセナフチレン類としては、例えば、1-フェニルアセナフチレン、3-フェニルアセナフチレン、4-フェニルアセナフチレン、5-フェニルアセナフチレン等が挙げられる。前記アセナフチレン化合物としては、前記のような、分子中にアセナフチレン構造を1個有する単官能アセナフチレン化合物であってもよいし、分子中にアセナフチレン構造を2個以上有する多官能アセナフチレン化合物であってもよい。
前記分子中にイソシアヌレート基を有する化合物が、イソシアヌレート化合物である。前記イソシアヌレート化合物としては、分子中にアルケニル基をさらに有する化合物(アルケニルイソシアヌレート化合物)等が挙げられ、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物等が挙げられる。
前記架橋型硬化剤は、上記の中でも、例えば、分子中にアクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、分子中にメタクリロイル基を2個以上有する多官能メタアクリレート化合物、分子中にビニル基を2個以上有する多官能ビニル化合物、スチレン誘導体、分子中にアリル基を有するアリル化合物、分子中にマレイミド基を有するマレイミド化合物、分子中にアセナフチレン構造を有するアセナフチレン化合物、及び分子中にイソシアヌレート基を有するイソシアヌレート化合物が好ましい。
前記架橋型硬化剤は、上記架橋型硬化剤を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。また、架橋型硬化剤としては、炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に2個以上有する化合物と、炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に1個有する化合物とを併用してもよい。
(樹脂成分の含有量)
本実施形態の樹脂組成物において、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の含有量は、樹脂組成物全体に対して、30~90質量部であることが好ましく、40~80質量部であることがより好ましい。
また、樹脂成分(前記ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋型硬化剤)の合計100質量部に対しては、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物の含有量は、30~90質量部であることが好ましく、50~90質量部であることがより好ましい。
また、本実施形態の樹脂組成物が前記架橋型硬化剤を含む場合、前記架橋型硬化剤の含有量が、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋型硬化剤との合計100質量部に対して、10~70質量部であることが好ましく、10~50質量部であることがより好ましい。すなわち、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋型硬化剤との含有比が、質量比で90:10~30:70であることが好ましく、90:10~50:50であることが好ましい。前記変性ポリフェニレンエーテル化合物及び前記架橋型硬化剤の各含有量が、上記比を満たすような含有量であれば、硬化物の耐熱性及び難燃性により優れた樹脂組成物になる。このことは、前記変性ポリフェニレンエーテル化合物と前記架橋型硬化剤との硬化反応が好適に進行するためと考えられる。
((B)シランカップリング剤とシリカ粒子または表面処理されたシリカ粒子)
本実施形態の樹脂組成物は、(b-1)炭素-炭素不飽和二重結合を含む官能基及びエトキシ基を分子中に有するシランカップリング剤とシリカ粒子、または、(b-2)前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子の少なくとも一方を含有する。
(シランカップリング剤)
本実施形態において用いられるシランカップリング剤は、炭素-炭素不飽和二重結合を含む官能基及びエトキシ基を分子中に有するシランカップリング剤であれば、特に限定されない。このようなシランカップリング剤を含むことにより、および/または、このようなシランカップリング剤で表面処理したシリカ粒子を含むことにより、本実施形態の樹脂組成物は、より優れた耐熱性や接着性(層間接着性)などを有する。
前記炭素-炭素不飽和二重結合を含む官能基としては、具体的には、メタクリロキシ基、スチリル基、ビニル基、及びアクリロキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。すなわち、このシランカップリング剤は、反応性官能基として、メタクリロキシ基、スチリル基、ビニル基、及びアクリロキシ基のうち、少なくとも1つを有し、さらに、加水分解性基を有する化合物等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、メタクリロキシ基を有するものとして、例えば、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、及び3-メタクリロキシプロピルエチルジエトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、スチリル基を有するものとして、例えば、p-スチリルトリメトキシシラン、及びp-スチリルトリエトキシシラン等が挙げられる。前記シランカップリング剤としては、ビニル基を有するものとして、例えば、ビニルトリエトキシシラン、及びビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、前記シランカップリング剤としては、アクリロキシ基を有するものとして、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
また、本実施形態のシランカップリング剤が有する加水分解性基は、エトキシ基である。炭素-炭素不飽和二重結合を含む官能基及びエトキシ基を有するシランカップリング剤を使用する場合、樹脂組成物の接着性をより向上させることができるという利点がある。また、エトキシ基を有するシランカップリング剤であれば、酸性度が比較的高い環境でも前記ポリフェニレンエーテル化合物に含まれる不純物とも反応しにくいため、樹脂組成物の流動性が劣化することも抑制することができる。
なお、前記シランカップリング剤は、前記樹脂組成物に含有されるシランカップリング剤と、前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子に含まれるシランカップリング剤とが挙げられる。この前記樹脂組成物に含有されるシランカップリング剤と、前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子に含まれるシランカップリング剤とは、それぞれが炭素-炭素不飽和二重結合を分子中に有するシランカップリング剤であればよく、同一のシランカップリング剤であってもよいし、異なるシランカップリング剤であってもよい。
(シリカ粒子)
本実施形態において用いられるシリカ粒子は、特に限定されず、表面処理されたシリカ粒子であってもよいし、表面処理されていないシリカ粒子であってもよい。また、前記シリカ粒子としては、いわゆる球状シリカと呼ばれるもの等が挙げられる。また、前記表面処理としては、例えば、シランカップリング剤による処理等が挙げられる。また、表面処理されたシリカ粒子としては、シリカ粒子を前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子であってもよい。すなわち、前記樹脂組成物には、前記シリカ粒子と前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子とのいずれか一方を含む。
このようなシリカ粒子を含むことにより、本実施形態の樹脂組成物は、耐熱性や熱導電性に優れる。
また、前記シリカ粒子及び前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子の合計含有量は、上述したような樹脂成分100質量部に対して、50~250質量部であり、100~250質量部であることが好ましく、120~230質量部であることがより好ましく、150~200質量%であることがさらに好ましい。なお、ここでの合計含有量は、前記シリカ粒子を含まず、前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子を含む場合は、前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子の含有量であり、前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子を含まず、前記シリカ粒子を含む場合は、前記シリカ粒子の含有量である。前記合計含有量が少なすぎると、金属張積層板の熱伝導率が充分に高まらない傾向がある。また、前記合計含有量が多すぎると、優れた低誘電特性が得られにくく、耐熱性が低下する傾向がある。よって、前記合計含有量を上記範囲内にすることによって、優れた低誘電特性、および耐熱性を維持しつつ、熱伝導率を高め、熱膨張率を下げることができる。
また、前記シランカップリング剤の含有量は、前記シリカ粒子と前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子との合計100質量部に対して、0.3~5質量部であることが好ましく、0.4~4質量部であることより好ましい。ここでの前記シランカップリング剤の含有量は、前記樹脂組成物に含有されるシランカップリング剤の含有量と、前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子に含まれるシランカップリング剤の含有量の合計である。すなわち、ここでの前記シランカップリング剤の含有量は、前記シリカ粒子及び前記シランカップリング剤をインテグラルブレンド法で添加したときの前記シランカップリング剤と、前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子に含まれるシランカップリング剤との合計含有量である。前記シランカップリング剤の含有量が少なすぎると、耐熱性や層間接着力・金属箔接着強度等が低下する傾向がある。また、前記シランカップリング剤の含有量が多すぎると、優れた低誘電特性が得られにくく、耐熱性も低下する傾向がある。よって、前記シランカップリング剤の含有量を上記範囲内にすることによって、シリカ粒子の含有により熱伝導率を高め、熱膨張率を下げても、優れた低誘電特性、耐熱性、接着性等の特性を維持することができる。
また、前記樹脂組成物を製造する際に、前記シランカップリング剤で前記シリカ粒子を予め表面処理したものを添加してもよいし、前記シリカ粒子及び前記シランカップリング剤をインテグラルブレンド法で添加してもよい。
((C)有機溶媒)
本実施形態で使用する有機溶媒としては、前記(A)ポリフェニレンエーテル化合物の硬化反応を阻害しないような溶媒であれば特に限定なく使用することができる。例えば、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。これらは単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
本実施形態の樹脂組成物における有機溶媒の含有量は、樹脂混合物であるワニス状態とした場合に組成物全体の30~50質量%の含有が好ましい。30~40質量%であることがより好ましい。
後述するプリプレグや樹脂付フィルムの樹脂層や、樹脂付金属箔の樹脂層に含まれる、揮発分の量としては、プリプレグもしくは樹脂付フィルムの樹脂層または樹脂付金属箔の樹脂層の100質量%に対して、好ましくは、4質量%以下、更に好ましくは、3.5質量%以下、更により好ましくは、3.0質量%以下が挙げられる。なお、ここでいう揮発分の量とは、GC/MS法にて試料を200℃で10分間の加熱処理をしたのちの加熱処理前後での重量減少を意味し、この条件での重量減少全量を揮発分とし、得られた重量減少量を質量%に変換した値である。
<分析条件>
装置:TurboMatrix650/Clarus 600T/Clarus600 (PerkinElmer社製)
カラム:SPB-1(60 m×0.2 5mm×0.25 μm)
カラム昇温条件:35℃・5 min~(10℃/min)~100℃~(20℃/min)~290℃・19 min
試料加熱条件:200℃・10 min
キャリアガス:ヘリウム(1 mL/min)
注入量:4.5%
測定モード:スキャン(m/z=24~500)
更に前記プリプレグや前記樹脂付フィルムの樹脂層や、前記樹脂付金属箔の樹脂層に含まれる有機溶剤量としては、プリプレグもしくは樹脂付フィルムの樹脂層又は樹脂付金属箔の樹脂層の100質量%に対して、好ましくは、2質量%以下、更に好ましくは、1.8質量%以下、更により好ましくは、1.6質量%以下程度である。有機溶剤の量としては上記同方法、上記同条件にて分析ののち定性・定量化された成分のうち、有機溶剤に該当する分の重量減少量を質量%に変換した値である。
このように揮発分の量が低ければ、発生ガス量の低減による硬化物における耐熱性の確保、発生ガスによる硬化阻害のリスク低減等の利点がある。また、有機溶媒量が低いことによっても、同じく硬化阻害リスクの低減、その硬化阻害から来る硬化物におけるTgの低下や耐熱性を含めた信頼性低下リスクの低減といった利点がある。
(その他の成分)
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、上述した成分以外に、他の成分をさらに含んでいてもよい。
例えば、本実施形態の樹脂組成物には難燃剤が含まれていてもよく、難燃剤としては、例えば、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤等が挙げられる。ハロゲン系難燃剤の具体例としては、例えば、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン等の臭素系難燃剤や、塩素化パラフィン等の塩素系難燃剤等が挙げられる。また、リン系難燃剤の具体例としては、例えば、縮合リン酸エステル、環状リン酸エステル等のリン酸エステル、環状ホスファゼン化合物等のホスファゼン化合物、ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩等のホスフィン酸金属塩等のホスフィン酸塩系難燃剤、リン酸メラミン、及びポリリン酸メラミン等のメラミン系難燃剤、ジフェニルホスフィンオキサイド基を有するホスフィンオキサイド化合物等が挙げられる。難燃剤としては、
難燃剤を含有する場合、その含有量は、前記(A)ポリフェニレンエーテル化合物を含む樹脂成分の合計100質量部に対して、5~50質量部であることが好ましく、10~30質質量部であることがさらに好ましい。例示した各難燃剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、前記樹脂組成物は、前記シリカ粒子以外の充填材を含有してもよい。前記充填材としては、硬化性組成物の硬化物の、耐熱性や難燃性を高め、加熱時における寸法安定性を高めるために添加するもの等が挙げられ、特に限定されない。すなわち、充填材を含有させることによって、耐熱性や難燃性を高め、加熱時における寸法安定性を高めることができる。前記充填材としては、具体的には、アルミナ、酸化チタン、及びマイカ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、タルク、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、さらに反応開始剤を含有していてもよい。前記(A)成分と上述したような架橋型硬化剤のみでも、硬化反応は進行し得るが、プロセス条件によっては硬化が進行するまで高温にすることが困難な場合があるので、反応開始剤を添加してもよい。反応開始剤は、本実施形態の樹脂成分の硬化反応を促進することができるものであれば、特に限定されない。具体的には、例えば、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン,過酸化ベンゾイル、3,3’,5,5’-テトラメチル-1,4-ジフェノキノン、クロラニル、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノキシル、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、アゾビスイソブチロニトリル等の酸化剤が挙げられる。また、必要に応じて、カルボン酸金属塩等を併用することができる。そうすることによって、硬化反応を一層促進させるができる。これらの中でも、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンが好ましく用いられる。α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、反応開始温度が比較的に高いため、プリプレグ乾燥時等の硬化する必要がない時点での硬化反応の促進を抑制することができ、樹脂組成物の保存性の低下を抑制することができる。さらに、α,α’-ビス(t-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼンは、揮発性が低いため、プリプレグやフィルム等の乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好である。また、反応開始剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。含有量としては、好ましくは、前記(A)ポリフェニレンエーテル化合物を含む樹脂成分の合計100質量部に対する添加量が0.1~2質量部となるように反応開始剤を用いる。
さらに、本実施形態に係る樹脂組成物には、上記以外にも各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤及びアクリル酸エステル系消泡剤等の消泡剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、滑剤、湿潤分散剤等の分散剤等が挙げられる。
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述した樹脂成分と無機成分と有機溶媒とを含有するため、ワニス状の樹脂組成物である。本実施形態の樹脂組成物(樹脂ワニス)は、例えば、以下のようにして調製される。
まず、(A)ポリフェニレンエーテル化合物、及び、架橋型硬化剤やその他添加剤等の有機溶媒に溶解できる各成分を、(C)有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて加熱してもよい。その後、有機溶媒に溶解しない成分、前記(B)無機成分材(前記シリカ粒子及び/又はシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子)等を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、所定の分散状態になるまで分散させることにより、ワニス状の樹脂組成物が調製される。
本実施形態のワニス状の樹脂組成物は、流動性に優れるため、フィルム可撓性や製膜性、及び繊維質基材への含浸性が良好であり、取り扱い易いという利点がある。また、本実施形態の樹脂組成物を用いることによって、外観に優れるプリプレグや金属張積層板等を提供することができる。
(プリプレグ、樹脂付きフィルム、金属張積層板、配線板、及び樹脂付き金属箔)
次に、本実施形態の樹脂組成物を用いたプリプレグ、金属張積層板、配線板、及び樹脂付き金属箔について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るプリプレグ1の一例を示す概略断面図である。
本実施形態に係るプリプレグ1は、図1に示すように、前記樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物2と、繊維質基材3とを備える。このプリプレグ1としては、前記樹脂組成物又はその半硬化物2の中に繊維質基材3が存在するものが挙げられる。すなわち、このプリプレグ1は、前記樹脂組成物又はその半硬化物と、前記樹脂組成物又はその半硬化物2の中に存在する繊維質基材3とを備える。
なお、本実施形態において、「半硬化物」とは、樹脂組成物を、さらに硬化しうる程度に途中まで硬化された状態のものである。すなわち、半硬化物は、樹脂組成物を半硬化した状態の(Bステージ化された)ものである。例えば、樹脂組成物は、加熱すると、最初、粘度が徐々に低下し、その後、硬化が開始し、粘度が徐々に上昇する。このような場合、半硬化としては、粘度が上昇し始めてから、完全に硬化する前の間の状態等が挙げられる。
本実施形態に係る樹脂組成物を用いて得られるプリプレグとしては、上記のような、前記樹脂組成物の半硬化物を備えるものであってもよいし、また、硬化させていない前記樹脂組成物そのものを備えるものであってもよい。すなわち、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよいし、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)と、繊維質基材とを備えるプリプレグであってもよい。具体的には、例えば、前記樹脂組成物の中に繊維質基材が存在するもの等が挙げられる。なお、樹脂組成物またはその半硬化物は、前記樹脂組成物を乾燥または加熱乾燥したものであってもよい。
本実施形態のワニス状の樹脂組成物を用いて本実施形態のプリプレグ1を製造する方法としては、例えば、樹脂ワニス状の樹脂組成物2を繊維質基材3に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。
プリプレグを製造する際に用いられる繊維質基材としては、具体的には、例えば、ガラスクロス、アラミドクロス、ポリエステルクロス、LCP(液晶ポリマー)不織布、ガラス不織布、アラミド不織布、ポリエステル不織布、パルプ紙、及びリンター紙等が挙げられる。なお、ガラスクロスを用いると、機械強度が優れた積層板が得られ、特に偏平処理加工したガラスクロスが好ましい。本実施形態で使用するガラスクロスとしては特に限定はされないが、例えば、Eガラス、Sガラス、NEガラスやLガラスなどの低誘電率ガラスクロス等が挙げられる。偏平処理加工としては、具体的には、例えば、ガラスクロスを適宜の圧力でプレスロールにて連続的に加圧してヤーンを偏平に圧縮することにより行うことができる。なお、繊維質基材の厚みとしては、例えば、0.01~0.3mmのものを一般的に使用できる。
樹脂ワニス(樹脂組成物2)の繊維質基材3への含浸は、浸漬及び塗布等によって行われる。この含浸は、必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂ワニスを用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする組成(含有比)及び樹脂量に調整することも可能である。
樹脂ワニス(樹脂組成物2)が含浸された繊維質基材3を、所望の加熱条件、例えば、80℃以上、180℃以下で1分間以上、10分間以下で加熱する。加熱によって、ワニスから溶媒を揮発させ、溶媒を減少又は除去させて、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)のプリプレグ1が得られる。
また、図4に示すように、本実施形態の樹脂付金属箔31は、上述した樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層32と金属箔13とが積層されている構成を有する。すなわち、本実施形態の樹脂付金属箔は、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付金属箔であってもよいし、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)を含む樹脂層と、金属箔とを備える樹脂付金属箔であってもであってもよい。
そのような樹脂付金属箔31を製造する方法としては、例えば、上述したような樹脂ワニス状の樹脂組成物を銅箔などの金属箔13の表面に塗布した後、乾燥する方法が挙げられる。前記塗布方法としては、バーコーター、コンマコーターやダイコーター、ロールコーター、グラビアコータ等が挙げられる。
前記金属箔13としては、金属張積層板や配線基板等で使用される金属箔を限定なく用いることができ、例えば、銅箔及びアルミニウム箔等が挙げられる。
さらに、図5に示すように、本実施形態の樹脂付きフィルム41は、上述した樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層42とフィルム支持基材43とが積層されている構成を有する。すなわち、本実施形態の樹脂付フィルムは、硬化前の前記樹脂組成物(Aステージの前記樹脂組成物)と、フィルム支持基材とを備える樹脂付フィルムであってもよいし、前記樹脂組成物の半硬化物(Bステージの前記樹脂組成物)と、フィルム支持基材とを備える樹脂付フィルムであってもであってもよい。
そのような樹脂付きフィルム41を製造する方法としては、例えば、上述したような樹脂ワニス状の樹脂組成物をフィルム支持基材43表面に塗布した後、ワニスから溶媒を揮発させて、溶媒を減少させる、又は溶媒を除去させることにより、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)の樹脂付フィルムを得ることができる。
前記フィルム支持基材としては、ポリイミドフィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアリレートフィルム等の電気絶縁性フィルム等が挙げられる。
なお、本実施形態の樹脂付フィルム及び樹脂付金属箔においても、上述したプリプレグと同様、樹脂組成物またはその半硬化物は、前記樹脂組成物を乾燥または加熱乾燥したものであってもよい。
上記金属箔13やフィルム支持基材43の厚み等は、所望の目的に応じて、適宜設定することができる。例えば、金属箔13としては、0.2~70μm程度のものを使用できる。金属箔の厚さが例えば10μm以下となる場合などは、ハンドリング性向上のために剥離層及びキャリアを備えたキャリア付銅箔であってもよい。樹脂ワニスの金属箔13やフィルム支持基材43への適用は、塗布等によって行われるが、それは必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。また、この際、組成や濃度の異なる複数の樹脂ワニスを用いて塗布を繰り返し、最終的に希望とする組成(含有比)及び樹脂量に調整することも可能である。
樹脂付金属箔31や樹脂フィルム41の製造方法における乾燥もしくは加熱乾燥条件について、特に限定はされないが、樹脂ワニス状の樹脂組成物を上記金属箔13やフィルム支持基材43に塗布した後、所望の加熱条件、例えば、80~170℃で1~10分間程度加熱して、ワニスから溶媒を揮発させて、溶媒を減少させる、又は溶媒を除去させることにより、硬化前(Aステージ)又は半硬化状態(Bステージ)の樹脂付金属箔31や樹脂フィルム41が得られる。
樹脂付金属箔31や樹脂フィルム41は、必要に応じて、カバーフィルム等を備えてもよい。カバーフィルムを備えることにより異物の混入等を防ぐことができる。カバーフィルムとしては樹脂組成物の形態を損なうことなく剥離することができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィンフィルム、ポリエステルフィルム、TPXフィルム、またこれらのフィルムに離型剤層を設けて形成されたフィルム、さらにはこれらのフィルムを紙基材上にラミネートした紙等を用いることができる。
図2に示すように、本実施形態の金属張積層板11は、上述の樹脂組成物の硬化物または上述のプリプレグの硬化物を含む絶縁層12と、金属箔13とを有することを特徴とする。なお、金属張積層板11で使用する金属箔13としては、上述した金属箔13と同様ものを使用することができる。
また、本実施形態の金属張積層板13は、上述の樹脂付金属箔31や樹脂フィルム41を用いて作成することもできる。
上記のようにして得られたプリプレグ1、樹脂付金属箔31や樹脂フィルム41を用いて金属張積層板を作製する方法としては、プリプレグ1、樹脂付金属箔31や樹脂フィルム41を一枚または複数枚重ね、さらにその上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔13を重ね、これを加熱加圧成形して積層一体化することによって、両面金属箔張り又は片面金属箔張りの積層体を作製することができるものである。加熱加圧条件は、製造する積層板の厚みや樹脂組成物の種類等により適宜設定することができるが、例えば、温度を170~220℃、圧力を1.5~5.0MPa、時間を60~150分間とすることができる。
また、金属張積層板11は、プリプレグ1等を用いずに、フィルム状の樹脂組成物を金属箔13の上に形成し、加熱加圧することにより作製されてもよい。
そして、図3に示すように、本実施形態の配線基板21は、上述の樹脂組成物の硬化物又は上述のプリプレグの硬化物を含む絶縁層12と、配線14とを有する。
そのような配線基板21の製造方法としては、例えば、上記で得られた金属張積層体13の表面の金属箔13をエッチング加工等して回路(配線)形成をすることによって、積層体の表面に回路として導体パターン(配線14)を設けた配線基板21を得ることができる。回路形成する方法としては、上記記載の方法以外に、例えば、セミアディティブ法(SAP:Semi Additive Process)やモディファイドセミアディティブ法(MSAP:Modified Semi Additive Process)による回路形成等が挙げられる。
本実施形態の樹脂組成物を用いて得られるプリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔は、その硬化物における低誘電特性、耐熱性、接着性等を兼ね備えているため、産業利用上、非常に有用である。また、それらを含む金属張積層板及び配線基板もまた、低誘電特性、及び優れた耐熱性や接着性等を備える。さらに、本実施形態の樹脂組成物は流動性に優れているため、それを用いて得られるプリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板や配線基板は外観にも優れている。
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、(A)下記式(1)で表される基を末端に有するポリフェニレンエーテル化合物と、(B)(b-1)炭素-炭素不飽和二重結合を含む官能基及びエトキシ基を分子内に有するシランカップリング剤とシリカ粒子、及び(b-2)前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子の少なくとも一方と、(C)有機溶媒と、を含有し、前記(A)成分において、前記(A)成分とイオン交換水(pH=5.0)とを1:3の重量割合で混合した混合液を室温にて10分間超音波振動させた後、ろ過抽出した際の抽出液のpHが5.5以下を示すことを特徴とする。
[式(1)中、R1は、水素原子又はアルキル基を示す。]
このような構成により、樹脂組成物の硬化物における耐熱性や接着性、電気特性等の特性を維持したまま、ワニス状にした際の流動性に優れる樹脂組成物を提供することができる。
また、前記樹脂組成物において、前記シリカ粒子及び前記シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子の合計含有量が、前記ポリフェニレンエーテル化合物を含む樹脂成分100質量部に対して、50質量部~250質量部であることが好ましい。それにより、樹脂組成物の硬化物において、優れた低誘電特性および耐熱性等を維持しつつ、熱伝導率を高め、熱膨張率を下げることができる。
さらに、前記炭素-炭素不飽和二重結合を含む官能基が、メタクリロキシ基、スチリル基、ビニル基、及びアクリロキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。それにより、上述したような効果をより確実に得ることができると考えられる。
また、前記樹脂組成物において、前記(A)成分に含有される、不純物としてのメタクリル酸二量体及びその加水分解物の量が、100~600μg/g程度であることが好ましい。それにより、樹脂組成物の粘度上昇をより抑制することができると考えられる。
また、前記樹脂組成物はさらに架橋型硬化剤を含んでいることが好ましい。それにより、硬化反応により架橋がより好適に形成されると考えられ、樹脂組成物の硬化物の耐熱性をより高めることができる。
本発明のさらなる他の一態様に係るプリプレグは、上述の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物と繊維質基材とを有することを特徴とする。
本発明のさらなる他の一態様に係る樹脂付きフィルムは、上述の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と支持フィルムとを有することを特徴とする。
本発明のさらなる他の一態様に係る樹脂付き金属箔は、上述の樹脂組成物又は前記樹脂組成物の半硬化物を含む樹脂層と金属箔とを有することを特徴とする。
本発明のさらなる他の一態様に係る金属張積層板は、上述の樹脂組成物の硬化物又は上述のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、金属箔とを有することを特徴とする。
また、本発明のさらなる他の一態様に係る配線基板は、上述の樹脂組成物の硬化物又は上述のプリプレグの硬化物を含む絶縁層と、配線とを有することを特徴とする。
上述のような構成によれば、耐熱性、接着性や低誘電特性等の特性を有し、さらに外観にも優れた基板を得ることができるプリプレグ、樹脂付きフィルム、樹脂付き金属箔、金属張積層板、配線基板等を提供することができる。
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
まず、本実施例において、樹脂組成物を調製する際に用いる成分について説明する。
<A成分:ポリフェニレンエーテル化合物>
・ポリフェニレンエーテル化合物1(pH=4.0)
固有粘度が0.09dL/gのポリフェニレンエーテル樹脂と、無水メタクリル酸とを反応させてポリフェニレンエーテル化合物Aを得た。
具体的には、ポリフェニレンエーテルと、無水メタクリル酸とを触媒としての4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジンの存在下で反応させることによって、本実施形態の上記式(2)で示される変性ポリフェニレンエーテル化合物Aが得られた。
次に、得られた変性ポリフェニレンエーテル化合物を酸水溶液(pH)、塩基水溶液(pH)での洗浄を適宜調整しながら、pHを4.0に調整して、ポリフェニレンエーテル化合物1を得た。
・ポリフェニレンエーテル化合物2(pH=4.7)
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物Aを、酸水溶液(pH)、塩基水溶液(pH)での洗浄を適宜調整しながら、pHを4.7に調整して、ポリフェニレンエーテル化合物2を得た。
・ポリフェニレンエーテル化合物3(pH=5.0)
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物Aを、酸水溶液(pH)、塩基水溶液(pH)での洗浄を適宜調整しながら、pHを5.0に調整して、ポリフェニレンエーテル化合物3を得た。
・ポリフェニレンエーテル化合物4(pH=6.0)
前記変性ポリフェニレンエーテル化合物Aを、酸水溶液(pH)、塩基水溶液(pH)での洗浄を適宜調整しながら、pHを6.0に調整して、ポリフェニレンエーテル化合物4を得た。
<その他の樹脂>
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂「N690」(DIC株式会社製)
・ノボラック型フェノール樹脂「TD2131」(DIC株式会社製)
・ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂「HP-7200H」(DIC株式会社製)
・未変性ポリフェニレンエーテル化合物「SA90」(SABICイノベーティブプラスチックス社製)
・シアネートエステル樹脂「BADCy」(ロンザジャパン株式会社製)
<架橋型硬化剤>
・TAIC:トリアリルイソシアヌレート、(日本化成株式会社製)
・DVB810:ジビニルベンゼン(新日鉄住金化学株式会社)
<反応開始剤>
過酸化物:1,3-ビス(ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油株式会社製のパーブチルP)
<反応触媒>
・イミダゾール系硬化剤「2E4MZ」(四国化成株式会社社製)
・金属石鹸「オクタン酸亜鉛(OCT-Zn)(DIC株式会社製)
<B成分:シランカップリング剤>
・エポキシシラン:分子中にエポキシ基を有するシランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越シリコーン社製の「KBM-403」)
・アミノシラン:分子中にアミノ基を有するシランカップリング剤(3-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越シリコーン社製の「KBM-903」)
・ビニルシラン:分子中にビニル基を有するシランカップリング剤(ビニルトリメトキシシラン、信越シリコーン社製の「KBM-1003」)
・メタクリルシラン:分子中にメタクリル基を有するシランカップリング剤(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、信越シリコーン社製の「KBM-503」)
・エポキシシラン2:分子中にエポキシ基を有するシランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、信越シリコーン社製の「KBE-402」)
・アミノシラン2:分子中にアミノ基を有するシランカップリング剤(3-アミノプロピルトリエトキシシラン、信越シリコーン社製の「KBE-903」)
・ビニルシラン2:分子中にビニル基を有するシランカップリング剤(ビニルトリエトキシシラン、信越シリコーン社製の「KBE-1003」)
・メタクリルシラン2:分子中にメタクリル基を有するシランカップリング剤(トリエトキシシラン、信越シリコーン社製の「KBE-503」)
<B成分:シリカ粒子>
・シリカ-1:シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子(分子中にエポキシ基及びメトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子、アドマテックス製の「SC2500-SEJ」)
・シリカ-2:シランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子(分子中にビニル基及びメトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子、株式会社アドマテックス製のSC-2300SVJ)
・シリカ-3:表面処理無しのSO-25R(アドマテックス製)に0.15%濃度のKBE-403混合水溶液をまぶし、105度で5時間乾式処理させることで実験的に製造したシリカ粒子(分子中にエポキシ基及びエトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子)
・シリカ-4:表面処理無しのSO-25R(アドマテックス製)に0.15%濃度のKBE-1003混合水溶液をまぶし、105度で5時間乾式処理させることで実験的に製造したシリカ粒子(分子中にビニル基及びエトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子)
・未処理シリカ:シランカップリング剤で表面処理されていないシリカ粒子(アドマテックス製の「SO-25R」)
<C成分:有機溶剤>
・トルエン
[試験例1]
<実施例1~2、比較例2~7>
[樹脂組成物(ワニス状)の調製]
ポリフェニレンエーテル化合物1(pH=4.0)60質量部、架橋型硬化剤(TAIC)40質量部、反応開始剤(PBP)1質量部の配合割合で樹脂成分(I)とした。この樹脂成分(I)を、表1及び表2に記載の配合量(質量部)で、シランカップリング剤、シリカ粒子及び有機溶剤(トルエン)と混合した。その混合物を、25℃で60分間攪拌することによって、実施例1~12及び比較例1~2のワニス状の樹脂組成物(ワニス)が得られた。なお、以下において、樹脂成分(I)とは、ポリフェニレンエーテル化合物を主成分とし、架橋型硬化剤としてTAICを使用した樹脂成分を意味する。
<実施例3~4、7~10及び13~16、比較例8~11>
[樹脂組成物(ワニス状)の調製]
ポリフェニレンエーテル化合物2(pH=4.7)60質量部、架橋型硬化剤(TAIC)40質量部、反応開始剤(PBP)1質量部の配合割合で樹脂成分(I)とした以外は、実施例1と同様にして、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)を得た。
<実施例5~6>
[樹脂組成物(ワニス状)の調製]
ポリフェニレンエーテル化合物3(pH=5.0)60質量部、架橋型硬化剤(TAIC)40質量部、反応開始剤(PBP)1質量部の配合割合で樹脂成分(I)とした以外は、実施例1と同様にして、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)を得た。
<実施例11>
[樹脂組成物(ワニス状)の調製]
ポリフェニレンエーテル化合物1(pH=4.0)60質量部、架橋型硬化剤(DBV)40質量部、反応開始剤(PBP)1質量部の配合割合で樹脂成分(II)とした以外は、実施例1と同様にして、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)を得た。なお、以下において、樹脂成分(II)とは、ポリフェニレンエーテル化合物を主成分とし、架橋型硬化剤としてDBVを使用した樹脂成分を意味する。
<実施例12>
[樹脂組成物(ワニス状)の調製]
ポリフェニレンエーテル化合物2(pH=4.7)60質量部、架橋型硬化剤(DBV)40質量部、反応開始剤(PBP)1質量部の配合割合で樹脂成分(II)とした以外は、実施例1と同様にして、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)を得た。
<比較例1>
[樹脂組成物(ワニス状)の調製]
ポリフェニレンエーテル化合物4(pH=6.0)60質量部、架橋型硬化剤(TAIC)40質量部、反応開始剤(PBP)1質量部の配合割合で樹脂成分(I)とした以外は、実施例1と同様にして、ワニス状の樹脂組成物(ワニス)を得た。
<評価試験>
(PPE化合物のpH)
各PPE化合物とイオン交換水(pH=5.0)を1:3の重量割合で秤量し、室温(20~23℃)で超音波振動をあてながら10分間処理をした。処理後、イオン交換水のpHをpH試験紙にて測定した。
(ワニス状樹脂組成物のカップ粘度)
ジョッキに溶剤(メチルエチルケトン)をとり、カップ粘度計(アネスト岩田株式会社製「NK-2」)を浸し、2~3分間撹拌し、カップ本体が溶剤と同じ温度になる様にした。溶剤中でカップ本体を溶剤で満杯にし、新溶剤中からカップ本体を引き上げて測定開始した。測定開始よりカップ穴から溶剤が落ちる時間をストップウォッチで測定した。カップ本体を出来るだけ水平に保ち、カップの穴からスムーズに溶剤を落下させ、カップの穴から溶剤が落ち切った時を測定終了とした。測定開始から測定終了迄に要した時間(秒)が、6~7秒であることを確認した。
次に、試料として、それぞれ3種類のワニス(樹脂組成物)を準備した。つまり、調製直後のワニス、調製後7日経過したワニス、及び調製後30日経過したワニスである。貯蔵条件は、温度20度、湿度55%以下で蓋付き容器に入れて蓋をして放置した。
カップ粘度計のカップ本体を各樹脂ワニス(調製直後のワニス、調製後7日経過したワニス、及び調製後30日経過したワニス)に浸漬し、2~3分間撹拌し、カップ本体が樹脂ワニスと同じ温度になる様にした。樹脂ワニス中でカップ本体をワニスで満杯にし、ワニス中からカップ本体を引き上げ、測定開始した。測定開始よりカップ穴からワニスが落ちる時間をストップウォッチで測定した。カップ本体を出来るだけ水平に保ち、カップの穴からスムーズにワニスを落下させた。カップの穴からワニスが落ち切った時を測定終了とし、測定開始から測定終了迄に要した時間(秒)をカップ粘度とした。これを繰り返し、カップ粘度を2回測定した。2回のデータの差異が3秒以内であれば正しく測定できていると判定した。
(プリプレグの作製及び外観評価)
各実施例および比較例で作製した作製直後の樹脂ワニスをガラスクロス(日東紡社製、2116タイプ)に含浸させた後、130℃で約3分間加熱乾燥することによりプリプレグを得た。その際、プリプレグの質量に対する樹脂組成物の含有量(レジンコンテント)が約56質量%となるように調整した。
得られたプリプレグの外観は、目視検査することによって評価した。評価基準は、以下の通りである。
○:均一に塗布されており、スジや樹脂ムラの発生が無い
×(スジ・ムラ):樹脂の付き方にムラがあったりスジが見られる
(銅張積層板の作製とその評価)
上記プリプレグの6枚を、その両側に厚さ35μmの銅箔(三井金属社製「3EC3」)を配置して被圧体とし、真空条件下、温度200℃、圧力30kgf/cm2の条件で90分加熱・加圧して両面に銅箔が接着された、厚み約0.76mmの銅張積層板を得た。
・層間接着強度
10cm×1cmの試験片を作製し、6枚のプリプレグ(PP)の1枚目の層を剥離し、オートグラフにて破壊強度を測定した。
・耐熱性
得られた銅張積層板の吸湿後はんだ耐熱性は、以下の方法により測定した。まず得られた50mm×50mmの銅張積層板をエッチングし、121℃湿度100%、1気圧、4時間のプレッシャークッカーテスト(PCT)を各サンプルで行い、288℃の半田槽中に20秒間浸漬し、ミーズリングやフクレの発生の有無を目視で観察した。ミーズリングやフクレが発生しなかったものを○、したものを×と評価した。
以上の結果を表1(実施例)及び表2(比較例)に示す。
なお、表1及び表2において、樹脂系(I)および樹脂系(II)は、上述したそれぞれの樹脂成分(I)および樹脂成分(II)における反応開始剤(PBP)以外の成分を意味する。
(考察)
表1に示す結果から明らかなように、本発明の樹脂組成物は、流動性に優れ、調製後30日経過したワニスであっても優れた流動性を維持していた。また、プリプレグの外観および積層板の層間接着性や耐熱性においても優れていた。
それに対し、表2に示すように、pHが高いPPE化合物(pH=6.0)を使用した比較例1では、本来シランカップリング剤を使用することによって得られるはずの界面活性効果が十分に得られず、層間接着性や耐熱性に劣る結果になったと考えられる。
また、炭素-炭素不飽和二重結合を含む官能基を有さないシランカップリング剤を使用した比較例2-3及び炭素-炭素不飽和二重結合を含む官能基を有さないシランカップリング剤で処理したシリカ粒子を使用した比較例10でも、層間接着性や耐熱性に劣る結果になった。
一方、エトキシ基を有さないシランカップリング剤を使用した比較例4-7及びエトキシ基を有さないシランカップリング剤で処理したシリカ粒子を使用した比較例9では、層間接着性や耐熱性に加えて、流動性にも劣っていた。比較例8では、分子中にエポキシ基とメトキシ基を有するシランカップリング剤で処理したシリカ粒子を使用しているため、耐熱性に劣る結果となった。
また、比較例11では分子中にビニル基及びメトキシ基を有するシランカップリング剤で表面処理されたシリカ粒子を用いているため、流動性や耐熱性に劣る結果となっていた。
[試験例2]
さらに、本発明の樹脂組成物のさらなる特性(電気特性:低誘電特性)を評価するために、他の樹脂系との比較試験を行った。
<比較例12>
[樹脂組成物(ワニス状)の調製]
ノレゾールノボラック型エポキシ樹脂70質量部、ノボラック型フェノール樹脂30質量部、反応触媒(2E4MZ)0.05質量部の配合割合で樹脂成分(III)とした。この樹脂成分(III)を、表3に記載の配合量(質量部)で、シリカ粒子及び有機溶剤(トルエン)と混合した。その混合物を、25℃で60分間攪拌することによって、比較例12のワニス状の樹脂組成物(ワニス)が得られた。
<比較例13>
[樹脂組成物(ワニス状)の調製]
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂50質量部、未変性ポリフェニレンエーテル化合物20質量部、シアネートエステル樹脂30質量部、反応触媒(OCT-Zn)0.005質量部の配合割合で樹脂成分(IV)とした。この樹脂成分(IV)を、表3に記載の配合量(質量部)で、シリカ粒子及び有機溶剤(トルエン)と混合した。その混合物を、25℃で60分間攪拌することによって、比較例13のワニス状の樹脂組成物(ワニス)が得られた。
(積層板の作製)
実施例1、2および11と、比較例8、9および12~13の樹脂組成物について、上記試験例1と同様の方法でプリプレグを作製した。得られたプリプレグ6枚を、その両側に厚さ12μmの銅箔(古河電気工業株式会社製GT-MP)を配置して被圧体とし、真空条件下、温度210℃、圧力30kgf/cm2の条件で90分加熱・加圧して両面に銅箔が接着された、厚み約0.75mmの銅張積層板を得た。
<評価試験>
[誘電特性(比誘電率及び誘電正接)]
1GHzにおける評価基板の比誘電率及び誘電正接を、マテリアル/インピーダンスアナライザー(ヒューレッド・パッカード社製のHP4291A及びHP16453A)を用いて測定した。評価基板には、上記銅張積層板から銅箔を除去した積層板を用いた。測定はPC-TM-650 2.5.5.9に基づいた方法にておこなった。
結果を表3に示す。
なお、以下の表3において、樹脂系(I)~樹脂系(IV)は、上述したそれぞれの樹脂成分(I)~樹脂成分(IV)における、反応開始剤(PBP)および反応触媒(2E4MZ、OCT-Zn)以外の成分を意味する。
(考察)
表3に示す結果から明らかなように、本発明の樹脂組成物は、他の樹脂系(比較例12-13)と比べて、低誘電特性を示すことが示された。以上より、本発明の樹脂組成物は、その硬化物における耐熱性や接着性、電気特性等の特性を維持したまま、ワニス状にした際の流動性に優れる樹脂組成物であることが確認された。