JP7299485B2 - 微生物群の特定方法 - Google Patents
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Description
2)ほとんどの微生物の役割(分解能力など)が分かっていない。そもそも死んだ微生物の分解など水処理には関与していない微生物も多数存在する。
3)排水には有機物、窒素化合物、硫黄化合物など様々な汚濁物質が混在しており、それぞれの除去に係わる微生物が異なる。複数の汚濁物質の処理に係わる微生物もいるため、より複雑である。
以上のように複雑かつ膨大なデータを処理する必要があり、これまで水処理データに相関のある微生物種を推定することは不可能であった。たとえば、通常の回帰分析で水処理データに相関のある微生物種を推定することが当該分野ではしばしば試みられるが、水処理データ数(=採取した試料数)に対して、微生物種の数が100倍以上多くなるため、通常の回帰分析で推定することは不可能である。
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
特定物質及び微生物を含む微生物試料中の、特定物質の量の変化速度、及び前記微生物が分類された微生物群の含有量の測定によって得られたデータセットから、再標本化により標本を作成する標本作成工程、
前記再標本化により作成した標本に対し、前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、回帰係数を0に縮小可能な罰則付き回帰分析を行い、回帰係数に基づき選出された独立変数に対応する微生物群を選出する第一選出工程、
選出された微生物群を特定物質の量の変化に係わる微生物群と特定する特定工程。
(2)前記データセットにおいて、前記微生物群の含有量は、前記特定物質の量の変化速度の測定基準時点と同一時点及び/又は同一時点よりも前の時点の微生物群の含有量の測定によって得られたものである、前記(1)に記載の微生物群の特定方法。
(3)更に、前記第一選出工程で選出された微生物群の、再標本化により作成した標本における選出頻度から信頼度を算出し、前記信頼度に基づいて微生物群を更に選出する第二選出工程を含む、前記(1)又は(2)に記載の微生物群の特定方法。
(4)更に、前記第一選出工程又は前記第二選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、回帰分析を行い、p値に基づいて微生物群を更に選出する、或いは
更に、前記第一選出工程又は前記第二選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、赤池情報量規準(AIC)の計算を行い、得られたAICの値に基づいて、微生物群を更に選出する、第五選出工程を含む、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の微生物群の特定方法。
(5)前記赤池情報量規準の値に基づく選出が、
前記AICの値が最小になる独立変数の組み合わせとして微生物群を選出する、
前記AICの値が小さい順からm番目までの独立変数の組み合わせで過半数を超えて含まれる微生物群を選出する、又は
前記上位数をAICのヒストグラムにより決定された前記m番目までの独立変数の組み合わせで過半数を超えて含まれる微生物群を選出するものである(前記mは1以上の整数である)、前記(4)に記載の微生物群の特定方法。
(6)更に、前記第一選出工程、前記第二選出工程、又は前記第五選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、回帰分析を行い、正相関または負相関のいずれか一方を示す微生物群を更に選出する第三選出工程を含む、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の微生物群の特定方法。
(7)更に、前記第一選出工程又は前記第二選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、正則化項を備えた主成分回帰分析を行い、少なくとも正相関または負相関のいずれかを示す微生物群を更に選出する第四選出工程を含む、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の微生物群の特定方法。
(8)前記主成分回帰分析に、スパース正則化による1段階主成分回帰モデルを用いる前記(7)に記載の微生物群の特定方法。
(9)前記罰則付き回帰に、L1正則化項付き回帰分析手法を用いる前記(1)~(8)のいずれか一つに記載の微生物群の特定方法。
(10)更に、以下の工程を含む、前記(1)~(9)のいずれか一つに記載の微生物群の特定方法:
前記微生物試料中の、特定物質の量の変化速度の値を取得する速度取得工程、
前記微生物試料に含まれる前記微生物の塩基配列を解読する解読工程、
解読された前記塩基配列から、前記微生物試料に含まれる微生物を微生物群に分類し、前記微生物試料中の前記微生物群の相対的含有割合を決定する割合決定工程、
前記決定された微生物群の相対的含有割合から、前記微生物試料中の前記微生物群の含有量を決定する量決定工程。
(11)前記塩基配列の解読に、シーケンサーを用いることを特徴とする前記(10)に記載の微生物群の特定方法。
(12)前記微生物が、生物学的排水処理に使用される微生物であり、
前記微生物試料は前記排水処理が行われる処理槽中の処理水であり、
前記変化速度は、前記処理水に対し測定される前記特定物質の量から算出され、
前記再標本化により作成した標本は同一の処理槽における2以上の時点での特定物質の量の変化速度及び、前記微生物群の含有量のデータを含む前記(1)~(11)のいずれか一つに記載の微生物群の特定方法。
(13)前記特定物質が、アンモニア、フェノール、チオシアン、及びチオ硫酸からなる群から選ばれるいずれか一種以上である、前記(1)~(12)のいずれか一つに記載の微生物群の特定方法。
(14)前記微生物が、アンモニアを酸化し亜硝酸を生成する微生物、フェノールを分解する微生物、チオシアンを分解する微生物、及びチオ硫酸を分解する微生物からなる群から選ばれるいずれか一以上である、前記(1)~(13)のいずれか一つに記載の微生物群の特定方法。
以下、適宜図を参照しながら、実施形態の微生物群の特定方法について、例を挙げて説明する。なお、本発明の微生物群の特定方法は以下の実施形態に限定されない。
これら、速度取得工程、解読工程、割合決定工程、及び量決定工程により、標本作成工程に用いられるデータを取得する。特定物質の量の変化速度と、微生物群の含有量の測定により得られるデータセットの夫々の取得は、並列又は独立に行ってよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
速度取得工程は、微生物試料中の、特定物質の量の変化速度の値を取得する工程である。
本実施形態では、微生物試料が、生物学的排水処理が行われる処理槽中の処理水(以下単に「処理水」という場合がある。)である場合について説明する。
被処理水に含まれる特定物質の量は、処理槽に流入する前の被処理水から求めることが好ましい。係る被処理水として、後述の実施例の場合では、図6の処理槽中の24付近の処理水が挙げられる。
一方、処理槽で処理された処理水に含まれる特定物質の量は、微生物による生物学的処理を経たものでればよく、処理槽中で微生物の配置位置から下流側の処理水に対して求めることが好ましい。係る処理水として、後述の実施例の場合では、図6の処理槽中の20bや処理水25が挙げられる。ただし、上記のように処理槽中の処理水は常に完全混合されることが多く、そのような場合、20aの処理水に対して求めることができる。
解読工程は、前記微生物試料に含まれる前記微生物の塩基配列を解読する工程である。
生物学的排水処理では、処理水には、生物学的排水処理に使用される微生物と、当該微生物の処理対象の特定物質が含まれる。
アンモニアを酸化し亜硝酸を生成する微生物としては、アンモニア酸化細菌(ammonia-oxidizing bacteria)やアンモニア酸化古細菌(ammonia-oxidizing archaea)が挙げられる。チオ硫酸を分解する微生物としては、チオバシラス・チオパルス(Thiobacillus Thioparus)などが挙げられる。しかしながら、同一の特定物質であっても多種多様な微生物が量の変化に係わるため、特定されている微生物群はごく一部である。加えて、多くの特定物質において量の変化に係わる微生物群は特定されていない。
処理槽中の処理水に含まれる微生物群の数は、一例として、100種類以上100万種類以下であってもよく、1000種類以上1万種類以下であってもよい。
通常、処理水に含まれる微生物を系統学的に分類しようとする場合、微生物のリボソームRNA遺伝子(rRNA遺伝子またはrDNA)の塩基配列の全長またはその一部を解読する。また、処理対象の特定物質が単一の場合、機能遺伝子の塩基配列を解読しても良い。一例として、アンモニアを酸化し亜硝酸を生成する微生物の場合、アンモニアモノオキシゲナーゼ遺伝子の塩基配列を解読してもよい。本実施形態では16SリボソームRNA遺伝子の塩基配列の一部を解読する場合を説明する。
本実施形態の微生物群の特定方法は、非常に多くの微生物情報を含むデータに対して好適に用いられる。そのため、前記塩基配列の解読に、次世代シーケンサーを用いることが好ましい。次世代シーケンサーとしては、DNAポリメラーゼ等による逐次的DNA合成反応を利用したものが代表的である。前記塩基配列の解読に用いるシーケンサープラットフォームとして、454、Illumina、SOLiD、Ion torrent、PacBioが挙げられる。
割合決定工程は、前記解読工程で解読された前記塩基配列から、前記微生物試料に含まれる微生物を微生物群に分類し、前記微生物試料中の前記微生物群の相対的含有割合を決定する工程である。
例えば、前記処理水サンプルに、分類群Aに分類される塩基配列30リードと、分類群Bに分類される塩基配列20リードとが含まれているとする。この場合、この処理水サンプルには、分類群Aに分類される微生物群30部と、分類群Bに分類される微生物群20部とが含まれていると見なすことができる。
量決定工程は、前記割合決定工程で決定された微生物群の相対的含有割合から、前記微生物試料中の前記微生物群の含有量を決定する工程である。例えば、処理槽中の処理水に含まれる微生物群の含有量は、相対的含有割合を得た処理水サンプルに対応する処理水サンプルに含まれる微生物数の値を得て、相対的含有割合に該微生物数を乗じることで求めることができる。
微生物数の値は、微生物数の値そのものである必要はなく、処理水サンプル間での微生物数の値が反映されているものであればよい。これは、上記の全分類群に分類された微生物を共通して検出できるものがよい。例えば、処理水サンプルに含まれるDNA量から、処理水サンプルに含まれる微生物数を求めてもよい。また、処理水サンプルに含まれる共通の遺伝子の数から、処理水サンプルに含まれる微生物数を求めてもよい。なお、試料間での微生物数の値に違いがないと判断される場合などでは、前期割合決定工程で決定された微生物群の相対割合を微生物群の含有量とすることもできる。
また、上記量決定工程で決定した微生物群の含有量を標準化した値を標準化された微生物量とすることもできる。
これらのデータは、例えば処理水サンプルごとに取得される。特定物質の量の変化速度と、微生物群の含有量のデータとは、それぞれ同一の処理水サンプルから取得されてもよい。又は、処理槽中の各微生物群の含有量と、処理槽で処理された特定物質の量の変化との相関を仮定できる範囲において、特定物質の量の変化速度と、微生物群の含有量のデータとは、それぞれ別々の処理水サンプルから取得されてもよい。別々の処理水サンプルを用いる場合の一例としては、処理槽から微生物群の含有量のデータ取得に使用された処理水サンプルが採取され、その後数日後に同一の処理槽から、特定物質の量の変化速度を求めるのに使用された処理水サンプルが採取される場合が挙げられる。
また、処理水サンプルは同一の処理槽に由来するものであってもよいが、処理槽中の各微生物群の含有量と、処理槽で処理された特定物質の量の変化との相関を仮定できる範囲において、別々の処理槽に由来するものであってもよい。
標本作成工程は、特定物質及び微生物を含む微生物試料中の、特定物質の量の変化速度、及び前記微生物が分類された微生物群の含有量の測定により得られたデータセットから、再標本化により標本を作成する工程である。
図2中、tは処理水中から特定物質の変化速度及び微生物群の含有量を取得したデータセット数を表し、1~n番目まで順に番号が付されている。ここでは特定物質が亜硝酸である場合を示す。
Denovoは微生物群の種類を表し、pは微生物群の数を表す。図2中の丸は各微生物群の含有量のデータを表す。例えば、p=3752である場合、処理水に3752種類の微生物群が含まれ、各測定により得られたデータセットには、3752個の各微生物群の含有量のデータが含まれる。図2中の四角は処理水に含まれる亜硝酸量の変化速度のデータを表す。各データセットには、1個の亜硝酸量の変化速度のデータが含まれる。例えば、1日1回、処理水から前記データセットを取得すると、n=23である場合、23日間に取得された23個の処理水の前記データセットがあることを意味する。
上記同一時点のデータを用いてデータセットを作成する場合、例えば2時点目のデータを用いてデータセットを作成する場合には、運転(N+14)日目の物質量から算出した特定物質の量の変化速度のデータと、運転(N+14)日目に取得した微生物群の含有量の値のデータとを用いる場合を例示できる。
上記同一時点よりも前の時点の含有量のデータを用いてデータセットを作成する場合、例えば2時点目の特定物質の量の変化速度のデータを用いてデータセットを作成する場合には、運転(N+14)日目の物質量から算出した特定物質の量の変化速度のデータと、運転(N+7)日目に取得した微生物群の含有量の値のデータとを用いる場合を例示できる。
同一時点よりも前の時点とは、上記に例示したような一時点前のデータの他、二時点前、三時点前等の任意の時点前のデータを採用でき、これら各時点でのデータは、それぞれ組み合わせて使用することも可能である。また、上記例では7日ごとの等間隔の時点を例示しているが、各時点の時間間隔は、同一であってもよく異なっていてもよい。
このように、データセットに、異なる複数の時点での微生物群の含有量のデータを含めることで、特定物質の量の変化速度と含有量との相関に、ある程度のタイムラグがある微生物群のデータも幅広く解析に含めることができ、より高精度に微生物群の特定を行うことが可能である。
図3は、本実施形態において、図2に示す取得データのデータセットからBootstrap法によりBootstrap標本を作成する場合の一例を示す模式図である。図3中、前記のn個のデータセット(図中左)から、無作為にn´個のデータセットを再サンプリングし(図中右)、n´個のデータセットからなる複数組(B組)のBootstrap標本を作成する。前記nとn´の値は通常同じだが、異なっても良い。サンプリングされる前記データセットは重複していてもよい。例えば、図3中の1組目に示す例では、t=1が2つ重複してサンプリングされている。図3中、Bは組の番号を表す。例えば、B=1000である場合、1000組のBootstrap標本を作成する。組数は100組以上が好ましく、1000組以上がより好ましい。より好ましくは、組数を徐々に増やしながらBoootstrap標本を作成し、後述の第一選出工程で選出される微生物群の数が変わらなくなるまで組数を増やすことが望ましい。
第一選出工程は、前記再標本化により作成した標本に対し、前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、罰則付き回帰分析を行い、回帰係数に基づき選出された独立変数に対応する微生物群を選出する工程である。
本実施形態における罰則付き回帰分析では、推定された係数の値をより小さくするような罰則を与えることを目的とし、回帰係数を0に縮小可能な罰則付き回帰分析を行う。回帰係数を0に縮小可能な罰則付き回帰分析としては、Lasso(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)、Elastic net及びSCAD(Smoothly Clipped Absolute Deviation)に代表されるL1ノルムの正則化項を備えた回帰式を使用できる。
例えば、特定物質が亜硝酸である場合、下記式(A)の関数が表される。
本実施形態に係る罰則付き回帰分析の、関数あたりの微生物群の数pは、100以上100万以下であってもよく、1000以上1万以下であってもよい。
同じく、B組目のBootstrap標本からは、2つのDenovo(微生物群)が選出されたことを示す。ここで示すように、各Bootstrap標本をLasso解析した場合、選ばれるDenovoの種類は同じとは限らず、選ばれるDenovoの個数も同じとは限らない。
後述の実施例1で具体的に示される例では、3752種類の微生物群から、27種の微生物群が選出できた。
第一選出工程により、特定物質の量の変化に寄与が大きい微生物群が選出される。
第二選出工程は、前記第一選出工程で選出された微生物群の、再標本化により作成した標本における選出頻度から信頼度を算出し、前記信頼度に基づいて微生物群を更に選出する工程である。
この得られた信頼度に基づいて、前記第一選出工程で選出された微生物群を更に選出する。大きな信頼度の値を得た微生物群であるほど、特定物質の量の変化に寄与が大きいものであると推定できる。第二選出工程における信頼度の基準値は適宜選択すればよいが、例えば、信頼度0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、又は0.9以上の微生物群をさらに選出することが挙げられる。後述の実施例1で具体的に示されるチオシアン除去の例では、信頼度0.6以上を基準として、27種類の微生物群から、さらに5種の微生物群が選出できた。
第二選出工程により、特定物質の量の変化に寄与がより大きい微生物群が選出される。
第三選出工程は、前記第一選出工程、前記第二選出工程又は後述の第五選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、回帰分析を行い、正相関または負相関のどちらか一方を示す微生物群を更に選出する工程である。
本実施形態では、前記第一選出工程、前記第二選出工程又は第五選出工程のうち、前記第二選出工程で選出された微生物群を用いて解析を行う場合を説明する。なお、第三選出工程では第一及び第二選出工程を経て、既に独立変数の数が絞り込まれているため、第三選出工程における回帰分析は罰則付き回帰分析に限定されず、最小二乗法や最尤法等による罰則項なしの回帰分析の手法を採用してもよい。また、例えば、解析したDenovoに対するp値を得てもよい。得られたp値を基準に、第三選出工程で選出された微生物群から、さらに微生物群を選出することもできる。例えば、p値が0.05未満の微生物群を選出することを例示できる。この工程におけるp値とは、用いた回帰分析における回帰係数の推定値の信頼度である。
第三選出工程の回帰分析を行い、各独立変数の回帰係数を算出する。そして、回帰係数が正または負のどちらか一方を示す微生物群を選出する。後述の実施例1で具体的に示されるチオシアン除去の例では、回帰係数が正を示す微生物として、5種類の微生物群から、さらに3種の微生物群が選出できた。
第三選出工程により、特定物質の量の変化に寄与がより大きく、特定物質の量の変化に正または負のどちらか一方に相関する微生物群が選出される。
第四選出工程は、前記第一選出工程又は前記第二選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、正則化項を備えた主成分回帰分析を行い、少なくとも正相関または負相関のいずれかを示す微生物群を更に選出する工程である。
本実施形態では、前記第一選出工程又は前記第二選出工程のうち、前記第一選出工程で選出された微生物群を用いて解析を行う場合を説明する。図1に示すとおり第二選出工程、第三選出工程及び第五選出工程に代えて第四選出工程により、微生物群を更に選出する。
まず、第四選出工程の正則化項を備えた主成分回帰分析を行い、設定した各主成分軸の回帰係数を算出する。そして、各主成分軸のいずれか1つ以上について、回帰係数と各主成分軸でのOTUの主成分の値とを乗じた値が、少なくとも正または負のどちらかを示す微生物群を選出する。正則化項が備わった主成分回帰では、各主成分軸でのOTUの主成分の値がゼロになることがある。このOTUは、特定物質の量の変化に関わらない微生物群と判断でき、選出から除外する。設定する主成分軸の数は任意であるが、統計処理が複雑になりすぎないよう、主成分軸の数は1~5個程度とするのが好ましい。
前記要因としては、例えば、処理水のpH、温度、処理される特定物質の量、微生物群同士の相互作用等が挙げられる。
PCRに対してSPCRは、主成分分析に関連した損失関数と回帰誤差の損失関数の重み付き和を全体の損失関数とし、適当なスパース正則化を導入することにより、1段階法による主成分スコアを独立変数にした回帰モデルである。
SPCRを採用することで、従属変数に寄与する主成分スコアを自動的に抽出することが可能となり、より精度の高い分析が可能となる。
後述の実施例3で具体的に示されるチオシアン除去の例では、前記値が正または負を示す微生物として、34種類の微生物群から、27種の微生物群が選出できた。
同じ主成分軸で主成分の値の得られた微生物群のうち、回帰係数と各主成分軸でのOTUの主成分の値とを乗じた値が、正同士又は負同士のものは、同じ要因により同様の影響を受けるものである可能性が推察できる。対して、同じ主成分軸で主成分の値の得られた微生物群のうち、回帰係数と各主成分軸でのOTUの主成分の値とを乗じた値が、正と負とで逆であるものは、同じ要因により逆の影響を受けるものである可能性が推察できる。
あるいは、同じ主成分軸で値の得られた微生物群のうち、回帰係数と各主成分軸でのOTUの主成分の値とを乗じた値が、正同士又は負同士のものは、共生関係にあるなど、共に増殖しやすい可能性が推察できる。対して、同じ主成分軸で主成分の値の得られた微生物群のうち、回帰係数と各主成分軸でのOTUの主成分の値とを乗じた値が、正と負とで逆であるものは、競合関係にあるなど、共に増殖し難い可能性が推察できる。
第一選出工程のあとに第四選出工程を行った場合では、信頼度が低くても特定物質の変化への関与が高いと算出された微生物群も選出される。
第五選出工程は、以下の第五(A)選出工程、又は第五(B)選出工程を含む。
第五(A)選出工程は、前記第一選出工程又は前記第二選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、回帰分析を行い、p値に基づいて微生物群を更に選出する工程である。
第五(B)選出工程は、前記第一選出工程又は前記第二選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、赤池情報量規準の計算を行い、得られた基準量の値(AIC)に基づいて、微生物群を更に選出する工程である。
本実施形態では、前記第一選出工程又は前記第二選出工程のうち、前記第二選出工程で選出された微生物群を用いて解析を行う場合を説明する。なお、第五選出工程の後に第三選出工程を行うことにより、微生物群を更に選出することもできる(図1の第五選出工程から第三選出工程の順)。
本実施形態の第五(A)選出工程では、前記第二選出工程で選出された微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、回帰分析を行い、p値が0.05未満の微生物群を選出する。この工程におけるp値とは、用いた回帰分析における回帰係数の推定値の信頼度である。
後述の実施例5で具体的に示される例では、6種類の微生物群から、5種の微生物群が選出できた。
第五(A)選出工程により、特定物質の量の変化に寄与がより大きい微生物群が選出される。
本実施形態の第五(B)選出工程では、まず、前記第二選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数xとし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数Yとする線形回帰モデルを考える(下記の式(VIII)を参照)。
用いられた説明変数の組み合わせで、得られたAICの値が小さいほど、その組み合わせが、従属変数を予測するのに適しているということができ、その考えのもと、AICに基づく選出方法を適宜行うことができる。
方法1:AICの値が最小になる独立変数の組み合わせとして微生物群を選出する。
方法2:AICの値が小さい順からm番目までの独立変数の組み合わせで過半数を超えて含まれる微生物群を選出する。ここで、mは1以上の整数であり、例えば3以上である。
方法3:AICヒストグラムにより決定された前記m番目までの独立変数の組み合わせで過半数を超えて含まれる微生物群を選出する。
本実施形態の特定工程は、選出工程で選出された微生物群を、特定物質の量の変化に係わる微生物群と特定する工程である。
選出工程は、第一選出工程を有し、更に第二~第五選出工程からなる群から選択されるいずれか一以上の工程を有していてもよい。第一選出工程を経た後の各選出工程の組み合わせは、微生物群の選出が可能なよう、任意に選択できる。
その一例としては、図1に図示するように、例えば、
第一選出工程→第二選出工程の順、
第一選出工程→第二選出工程→第三選出工程の順、
第一選出工程→第三選出工程の順(不図示)、
第一選出工程→第二選出工程→第三選出工程→第五選出工程の順、
第一選出工程→第三選出工程→第五選出工程の順(不図示)、
第一選出工程→第四選出工程の順、
第一選出工程→第二選出工程→第四選出工程の順、
第一選出工程→第五選出工程の順、
第一選出工程→第二選出工程→第五選出工程の順、
第一選出工程→第五選出工程→第三選出工程の順、
第一選出工程→第二選出工程→第五選出工程→第三選出工程の順、等が挙げられる。
特定物質の量の変化に正に相関する微生物群としては、例えば、特定物質の量の変化速度として、特定物質の量の増加速度を用いた場合、処理槽中の特定物質を増加させる方向に寄与する微生物群である。逆に、特定物質の量の変化速度として、特定物質の量の減少速度を用いた場合、処理槽中の特定物質を減少させる方向に寄与するものである。
特定物質の量の変化に負に相関する微生物群としては、例えば、特定物質の量の変化速度として、特定物質の量の増加速度を用いた場合、処理槽中の特定物質を減少させる方向に寄与する微生物群である。逆に、特定物質の量の変化速度として、特定物質の量の減少速度を用いた場合、処理槽中の特定物質を増加させる方向に寄与するものである。
従来、生物学的排水処理に係る微生物の解析を行う場合、微生物群の種類が多様で、且つデータ数が少ないため、罰則付き回帰分析では、十分な精度が得られなかった。本実施形態の微生物群の特定方法では、再標本化により標本を作成することで、統計学的にデータ数を大幅に増やすことができるため、その増やした標本を用いて罰則付き回帰分析を合わせて行うことにより、特定物質の量の変化速度に関連のある微生物群を、精度よく特定できる。
そのため、特定物質の量の変化速度に関連のある微生物群を、より精度よく特定できる。
本発明の微生物群の特定方法は、例えば生物学的排水処理方法に適用することができる。一実施形態として、本発明の微生物群の特定方法で特定された微生物群を検出し、前記微生物群の増減に基づいて処理水の処理条件を制御するものである。
ここで、本発明の微生物群の特定方法は、≪微生物群の特定方法≫の段で説明したものが挙げられ、詳細な説明を省略する。
例えば、特定された微生物群が、処理水中で所望の物質の分解反応に寄与するものであると特定された場合、特定された微生物群の生育に適した条件に処理条件を制御すればよい。
例えば、特定された微生物群が、処理水中で所望の物質の分解反応を抑制するものであると特定された場合、特定された微生物群の生育に適さない条件に処理条件を制御すればよい。
処理条件とは、例えば、処理水の温度、pH、溶存酸素濃度、塩濃度、水理学的滞留時間(HRT)、汚泥滞留時間(SRT)、微生物固定用担体の投入、生育促進または阻害物質の添加、処理槽中の攪拌速度、及び前記処理条件の異なる処理槽の組み合わせ等が挙げられる。
微生物資源としては、例えば活性汚泥、微生物製剤、微生物担体、微生物株、土壌、底泥、海水、河川水、湖水等が挙げられる。
例えば、生物学的排水処理装置を新設する際に、本発明の微生物群の特定方法で特定された微生物群の少なくとも一種を含み、好ましくはそれら微生物群の量が多い微生物資源を移植することで、短時間で必要な処理性能を得ることが可能である。
例えば、既設の生物学的排水処理装置の微生物が一時的な毒物の流入などにより死滅し、処理性能が悪化した場合に、本発明の微生物群の特定方法で特定された微生物群の少なくとも一種を含み、好ましくはそれら微生物群の量が多い微生物資源を移植することで、短時間で必要な処理性能まで回復することが可能である。
(1)生物学的排水処理プロセスの運転、水質分析、分解速度算出および微生物試料の採取
工業用水と自然海水とを体積比2:3で混合して得られた溶媒中に、表2に示す溶質を表2に示す濃度で溶解し、人工排水(被処理水)を調製した。
また、各生物処理装置20の生物処理領域20a内の処理水のpHを測定してpH値のモニタリングを行いながら、運転開始後90日目より領域内の水理学的滞留時間が18時間となるように被処理水24の流入量を増やし(第2段処理)、また、運転開始後111日目より領域内の水理学的滞留時間が12時間となるように被処理水24の流入量を更に増やし(第3段処理)、更に、運転開始後118日目より領域内の水理学的滞留時間が8時間となるように被処理水24の流入量を更に増やし(第4段処理)、最終的に175日目まで運転を継続した。
生物処理装置20の生物処理領域20a内の微生物が付着したスポンジ担体21からのDNA抽出および次世代シーケンス微生物相解析は委託(J-Bio21センター)により実施した。
特定物質の量の変化速度の測定時点と対応した時点ごとに、微生物が付着したスポンジ担体を採取し、採取したスポンジ担体を4分割した後、Extrap Soil DNA Plus ver.2(J-Bio21)を用いてDNAを抽出および精製を行った。
精製DNA溶液のDNA濃度を、PicoGreen dsDNA Assay Kit (Invitrogen)を用いて測定した。
表3に示したプライマーを用いて真正細菌の16S rRNA遺伝子のV4およびV5領域を対象にしたPCR増幅をおこなった。
得られた塩基配列をQIIME(Quantitative Insights Into MicrobialEcology)パイプラインを用いて次の解析を行った。まず、データのクオリティ、キメラをチェックし、基準を満たした配列データのみフィルタリングした。
基準を満たした配列データについて、類似性の高い(相同性97%以上の)配列データを1つのグループのクラスタとしてまとめ、各クラスタ配列の中で最も出現頻度の高い配列を代表OTU(OTU; Operational Taxonomic Unit;
操作的分類単位)配列とし、その代表配列を用いて以降の解析を実施した。すなわち、検出された各OTUの存在及び量が、一微生物群の存在及び量を示すものとして扱った。
この結果、実施例1および後に示す実施例2の微生物試料から合計3,752OTUが検出された。これらOTUは各試料で重複して検出されるもの、1試料のみから検出されるもの様々であった。
また、各OTUの検出回数から全OTUに対する各OTUの相対割合を算出した。
図10に、検出された全3752OTUに対する各OTUの相対割合をグラフ化したものを示す。
スポンジに付着した真正細菌の遺伝子数をリアルタイムPCR法の一つであるQP-PCR法(J-Bio21)により定量した。
上記(2)で精製したDNA溶液を適宜希釈した後、表4に示すプライマーおよびQProbeを用いて反応液を調製し、Rotor-Gene Q(QIAGEN)により遺伝子数を定量した。
亜硝酸生成およびチオシアン除去に係わった主要微生物群を統計解析により推定した。
上記(3)で示したように、各OTUの相対割合に、定量したスポンジに付着した真正細菌の遺伝子数を乗じることで補正をした各OTUの値を用いて統計解析することで、亜硝酸生成およびチオシアン除去に係わる主要なOTUを推定した。
推定に用いたデータセットにおける各OTUの量の値は、亜硝酸生成およびチオシアン除去速度のデータの測定基準時点と対応した時点ごと採取されて得られたものを用いた(例えば、運転(N+7)日目の物質量から算出した亜硝酸生成速度又はチオシアン除去速度のデータと、運転(N+7)日目に取得した各OTUの量の値のデータとを用いた。)。
しかしながら、亜硝酸生成およびチオシアン除去速度のデータは23であるのに対して、次世代シーケンサーを用いて得られたOTU総数は、その100倍以上多く、通常の回帰分析により相関関係を解析することは不可能であった。
そこで、本発明者らは、推定と変数選択を同時に実施できるLasso法を用いて解析を行うことにした。ここで、Bootstrap標本を1000組作成し、それら標本に対してLasso法を適用することで、測定により得られたデータセットの数を疑似的に増加させ、回帰分析により微生物群を推定することに成功した。この結果、亜硝酸生成およびチオシアン除去速度に影響する微生物群を27OTUに絞り込むことができた。
通常、Lasso法単独の回帰分析では信頼度を算出することが困難である。しかし今回、Bootstrap標本を1000組作成し、それら標本に対してLasso法を適用することで、推定された微生物群の信頼度を出すことにも成功した。
今回推定された27OTUのうち、亜硝酸生成に対して高い信頼度(0.6以上)を示したOTUは6OTU、チオシアン除去に対して高い信頼度を示したOTUは5OTUであった。
そこで、前記の通り選定した6または5OTUについて、再び回帰分析(最尤法)を実施することで、亜硝酸生成およびチオシアン除去速度に対する回帰係数およびp値を算出した。この結果、亜硝酸生成およびチオシアン除去速度に正の相関を示すOTUはそれぞれ3OTUであり、それらが夫々、亜硝酸生成およびチオシアン除去に係る主要微生物群と結論付けられた。
なお、さらに絞り込む必要がある場合は、回帰分析のp値に基づき、例えば0.05未満のOTUのみに絞り込めばよい。
上記(4)で選定されたOTU(信頼度0.6以上)を独立変数として回帰分析を行い、各水質を予測した。なお、ここでは回帰係数が負のOTUも含めて行った。
この結果、実験値と予測値が非常に高精度で一致した。また、交差検証法によりさらなる検証を行い、やはり高精度に一致することが分かった。
図11および図12に亜硝酸生成およびチオシアン除去速度の実測値、回帰分析による予測値および交差検証により1試料を除いて検証した予測値をそれぞれ示す。図中、一点鎖線は実測値、実線は回帰分析による予測値、破線は交差検証により1試料を除いて検証した予測値である。
これにより、高い精度で水処理微生物群を選定することができ、さらには選定した微生物群を独立変数にすることで、水質を予測できることを示した。
(1)生物学的排水処理プロセスの運転、水質分析、分解速度算出および微生物試料の採取
工業用水と自然海水とを体積比2:3で混合して得られた溶媒中に、表7に示す溶質を表7に示す濃度で溶解し、人工排水(被処理水)を調製した。この実施例2においては、実施例1の溶質に加えて、コークス炉排水に含まれる主なCOD成分のフェノール及びチオ硫酸イオンを追加した。
このようにして準備されたスポンジ担体21と活性汚泥を生物処理装置20の生物処理領域20a内にスポンジ担体21の体積比が20%(v/v)となるように投入し、生物処理装置20を準備した。
なお、スポンジ担体に予め微生物を定着させなかった実施例1よりも71日も早く微生物馴致処理(第1段処理)を終了できた。これは、pHを調整したためと、また事前にスポンジ担体21手でよく揉み、一晩蓋をして浸け置いたためである。
かつ、生物処理装置20の生物処理領域20a内の処理水のpHを測定してpH値のモニタリング行いながら、運転開始後19日目より領域内の水理学的滞留時間が18時間となるように被処理水24の流入量を増やし(第2段処理)、次に、運転開始後39日目より領域内の水理学的滞留時間が12時間となるように被処理水24の流入量を更に増やし(第3段処理)、更に、運転開始後46日目より領域内の水理学的滞留時間が8時間となるように被処理水24の流入量を更に増やした(第4段処理)。その後、74日目より領域内の水理学的滞留時間が10時間となるように被処理水24の流入量を減らし(第5段処理)、更に96日目より領域内の水理学的滞留時間が24時間となるように被処理水24の流入量を減らし(第6段処理)、最終的に164日目まで運転を継続した。
しかしながら、更に、第4段処理において領域内の水理学的滞留時間を8時間に短縮した場合には、亜硝酸イオンの生成をほぼ完全に抑制しながらも、しばらく継続するとチオシアン酸イオンの除去率が低下した。これは実施例1の被処理水には含まれていなかったフェノール及びチオ硫酸を分解する微生物がスポンジ担体21の表面に生息したため、チオシアン酸イオンを除去する微生物がスポンジ担体21の表面で生息する場が少なくなり、その結果除去率が低下してしまったものと考えられる。
このように、チオシアン酸イオンの除去率が目標値を超えて上昇してしまったため、第5段処理においては、水理学的滞留時間を第4段処理の条件(水理学的滞留時間が12時間)に近い10時間に戻して生物学的処理を行った。その結果、チオシアン酸イオンの除去率を94%以上に維持しつつ、亜硝酸イオンの生成をほぼ完全に抑制することができた。
そこで更に、第6段処理においては、水理学的滞留時間を24時間に延長したところ、チオシアン酸イオンの除去率を高い値に維持しながらも、更に驚くべきことには、その後76日間にも亘って、亜硝酸イオンの生成をほぼ完全に抑制することができた。
前記実施例1の(2)と同様にしてDNA抽出、塩基配列解読および微生物群決定を実施した。
前記実施例1の(3)と同様にしてDNA抽出、塩基配列解読および微生物群決定を実施した。
前記実施例1の(4)と同様にして亜硝酸生成、チオシアン除去、チオ硫酸除去およびフェノール除去に係わった主要微生物群を統計解析により推定した。
Lasso法による解析の結果、亜硝酸生成、チオシアン除去、チオ硫酸除去およびフェノール除去速度に影響する微生物群を、それぞれ28OTU、34OTU、36OTUおよび36OTUに絞り込むことができた。
そこで、前記の通り選定した信頼度の高いOTUについて、回帰分析を実施することで、亜硝酸生成、チオシアン除去、チオ硫酸除去およびフェノール除去速度に対する回帰係数およびp値を算出した結果、全て正の回帰係数であった。このため、前記の通り選定した信頼度の高いOTUは、亜硝酸生成、チオシアン除去、チオ硫酸除去およびフェノール除去に係る主要微生物群と結論付けられた。
結果を表8~11に示す。表8、表9、表10および表11はBootstrap標本を作成し、Lasso法により亜硝酸生成、チオシアン除去、チオ硫酸除去およびフェノール除去速度への影響が推定されたOTUとその信頼度、および高い信頼度(0.6以上)を示したOTUに対して回帰分析(最尤法)を行い算出した回帰係数およびp値を示す。
なお、さらに絞り込む必要がある場合は、回帰分析のp値に基づき、例えば0.05未満のOTUのみに絞り込めばよい。
前記実施例1の(5)と同様にして回帰分析を行い、各水質を予測した結果、実験値と予測値が非常に高精度で一致した。また、交差検証法により更なる検証を行い、やはり高精度に一致することが分かった。
図17、図18、図19および図20に亜硝酸生成速度、チオシアン除去速度、チオ硫酸除去速度およびフェノール除去速度の実測値、回帰分析による予測値および交差検証により1試料を除いて検証した予測値をそれぞれ示す。図中、一点鎖線は実測値、実線は回帰分析による予測値、破線は交差検証により1試料を除いて検証した予測値である。
これにより、高い精度で水処理微生物群を選定することができ、さらには選定した微生物群を独立変数にすることで、水質を予測できることを示した。
上記実施例2の(1)~(3)の結果を用い、上記実施例2の(4)において、Bootstrap標本の作成及びLasso法により絞り込まれた微生物群に対し、以下の(4’)に示すSPCRによる解析を行った。
なお、上記実施例2では、Lasso法による解析の結果、亜硝酸生成、チオシアン除去、チオ硫酸除去およびフェノール除去速度に影響する微生物群は、それぞれ28OTU、34OTU、36OTUおよび36OTUに絞り込まれている。
上記の絞り込まれたOTUに対して、主要な水処理微生物群の絞り込みと同時に微生物種間の関係性を推定できるスパース主成分回帰モデル (SPCR)を用いて解析を行った。
SPCR法による解析の結果、亜硝酸生成、チオシアン除去、チオ硫酸除去およびフェノール除去速度に対して選択された主成分の個数は、それぞれ2つ、3つ、3つおよび1つとなった。同じ主成分軸のOTUは相互に関係している、もしくは同じ環境因子に影響されることが推察できる。
亜硝酸生成に対する各主成分軸を表12に、チオシアン除去に対する主成分軸を表13に、チオ硫酸除去に対する主成分軸を表14に、フェノール除去に対する主成分軸を表15に示す。各軸において主成分の値が0のOTUは、各物質の生成や処理に寄与がないOTUであると判断でき、各軸の主成分の値がいずれも0ではないOTUへと絞りこむことができる。したがって、SPCR法による解析の結果、亜硝酸生成、チオシアン除去、チオ硫酸除去およびフェノール除去速度に影響する微生物群を、それぞれ28OTU、27OTU、32OTUおよび35OTUに絞り込むことができた。
実施例2で実施したBootstrap標本の作成、Lasso法で算出および回帰分析で得られた値の予測R2値は0.709であり、実施例3で実施したBootstrap標本の作成、Lasso法で算出および主成分回帰分析(SPCR)法で得られた値の予測R2値は0.575であった。
実施例2で実施したBootstrap標本の作成、Lasso法で算出および回帰分析で得られた値の予測R2値は0.676であり、実施例3で実施したBootstrap標本の作成、Lasso法で算出および主成分回帰分析(SPCR)法で得られた値の予測R2値は0.708であるので、SPCR法を採用することで微生物特定精度がさらに向上したことが分かる。
実施例2で実施したBootstrap標本の作成、Lasso法で算出および回帰分析で得られた値の予測R2値は0.674であり、実施例3で実施したBootstrap標本の作成、Lasso法で算出および主成分回帰分析(SPCR)法で得られた値の予測R2値は0.721であるので、SPCR法を採用することで微生物特定精度がさらに向上したことが分かる。
実施例2で実施したBootstrap標本の作成、Lasso法で算出および回帰分析で得られた値の予測R2値は0.612であり、実施例3で実施したBootstrap標本の作成、Lasso法で算出および主成分回帰分析(SPCR)法で得られた値の予測R2値は0.672であるので、SPCR法を採用することで微生物特定精度がさらに向上したことが分かる。
上記実施例1の(1)~(3)のチオシアン除去速度のデータを用い、上記実施例1の(4)において、推定に用いたデータセットにおける各OTUの量の値として、チオシアン除去速度のデータの測定基準時点に対応した時点ごと採取されて得られたもの、及び測定基準時点と対応した時点より一時点前に採取されて得られたものを用いた(例えば、運転(N+14)日目のチオシアン量から算出したチオシアン除去速度のデータと、運転(N+7)日目(一時点前)及び運転(N+14)日目に取得した各OTUの量の値のデータとを用いた。)こと以外は、前記実施例1の(4)と同様にしてBootstrap標本の作成及びLasso法により、微生物群を信頼度0.6以上のものに絞り込んだ。
結果を表16に示す。
次いで、得られた結果をもとに、前記実施例1の(5)と同様にして、交差検証法により予測R2値を算出した。算出された予測R2値は0.903であり、非常に高い予測精度が認められた。
なお、チオシアン除去速度の測定基準時点より一時点前のOTUの量の値を用いない場合には、予測R2値は0.765であったので、チオシアン除去速度の測定基準時点よりも一時点前の微生物群の含有量のデータを解析に含めたことで、微生物特定精度をさらに向上できたことがわかる。
上記実施例4において、上記実施例2で得られたチオシアン除去速度のデータを用いたこと以外は、前記実施例4と同様にしてBootstrap標本の作成及びLasso法により、微生物群を信頼度0.6以上のものに絞り込んだ。
チオシアン除去に対して高い信頼度(0.6以上)を示したOTUは6OTUであった。表中の「_1」のOTUは、前記測定基準時点と対応した時点より一時点前に採取されて得られたもののデータである。
次いで、前記実施例1の(4)と同様にして、選定した6OTUについて、再び回帰分析(最尤法)を実施することで、チオシアン除去速度に対する回帰係数およびp値を算出した。
結果を表17に示す。
さらに、選定した6OTUに対し、回帰分析のp値に基づき、p値が0.05未満のOTUに絞り込んだ。この結果、チオシアン除去速度に影響する微生物群を5OTUに絞り込むことができた。
次いで、前記実施例1の(5)と同様にして交差検証法により予測R2値を算出した。最終的に絞りこまれた5OTUのデータを用いて算出された予測R2値は0.711であった。
なお、チオシアン除去速度の測定基準時点より一時点前のOTUの量の値を用いない場合には、予測R2値は0.677であったので、チオシアン除去速度の測定基準時点よりも一時点前の微生物群の含有量のデータを解析に含めたことで、微生物特定精度をさらに向上できことがわかる。
また、p値での絞り込みを行わなかった6OTUのデータを用いて算出された予測R2値は0.622であったので、回帰分析のp値に基づく絞り込みを行うことで、微生物特定精度をさらに向上できたことがわかる。
上記実施例4において、上記実施例2で得られたフェノール除去速度のデータを用いたこと以外は、前記実施例4と同様にしてBootstrap標本の作成及びLasso法により、微生物群を信頼度0.6以上のものに絞り込んだ。
フェノール除去に対して高い信頼度(0.6以上)を示したOTUは6OTUであった。表中の「_1」のOTUは、前記測定基準時点と対応した時点より一時点前に採取されて得られたもののデータである。
次いで、前記実施例1の(4)と同様にして、選定した6OTUについて、再び回帰分析(最尤法)を実施することで、フェノール除去速度に対する回帰係数およびp値を算出した。
結果を表18に示す。
さらに、選定した6OTUに対し、回帰分析のp値に基づき、p値が0.05未満のOTUに絞り込んだ。この結果、フェノール除去速度に影響する微生物群を5OTUに絞り込むことができた。
次いで、前記実施例1の(5)と同様にして交差検証法により予測R2値を算出した。最終的に絞りこまれた5OTUのデータを用いて算出された予測R2値は0.732であった。
なお、フェノール除去速度の測定基準時点より一時点前のOTUの量の値を用いない場合には、予測R2値は0.613であったので、フェノール除去速度の測定基準時点よりも一時点前の微生物群の含有量のデータを解析に含めたことで、微生物特定精度をさらに向上できことがわかる。
また、p値での絞り込みを行わなかった6OTUのデータを用いて算出された予測R2値は0.648であったので、回帰分析のp値に基づく絞り込みを行うことで、微生物特定精度をさらに向上できたことがわかる。
上記実施例6と同じく、Bootstrap標本の作成及びLasso法により、微生物群を信頼度0.6以上の6OTUに絞り込んだ。
次いで、絞り込んだ結果について、AICによる絞り込みを実施した。
AICによる変数選択の組み合わせのパターン分けを表19に示す。
得られたAICの値に基づき、本実施例では、AICの値が最も小さいものを採用(最上位モデルを採用)した。
この結果、denovo2647_1を排除して、フェノール除去速度に影響する微生物群を5OTUに絞り込むことができた。
次いで、前記実施例1の(5)と同様にして交差検証法により予測R2値を算出した。最終的に絞りこまれた5OTUのデータを用いて算出された予測R2値は0.732であった。
なお、フェノール除去速度の測定基準時点より一時点前のOTUの量の値を用いない場合には、予測R2値は0.613であったので、フェノール除去速度の測定基準時点よりも一時点前の微生物群の含有量のデータを解析に含めたことで、微生物特定精度をさらに向上できことがわかる。
また、AICでの絞り込みを行わなかった6OTUのデータを用いて算出された予測R2値は0.648であったので、AICの値に基づく絞り込みを行うことで、微生物特定精度をさらに向上できたことがわかる。
22…空気曝気、23…隔壁、24…被処理水、25…生物処理装置で処理された処理水
Claims (14)
- 以下の工程を含み、特定物質の量の変化に係わる微生物群を特定することを特徴とする微生物群の特定方法:
特定物質及び微生物を含む微生物試料中の、特定物質の量の変化速度、及び前記微生物が分類された微生物群の含有量の測定によって得られたデータセットから、再標本化により標本を作成する標本作成工程、
前記再標本化により作成した標本に対し、前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、回帰係数を0に縮小可能な罰則付き回帰分析を行い、回帰係数に基づき選出された独立変数に対応する微生物群を選出する第一選出工程、
選出された微生物群を特定物質の量の変化に係わる微生物群と特定する特定工程。 - 前記データセットにおいて、前記微生物群の含有量は、前記特定物質の量の変化速度の測定基準時点と同一時点及び/又は同一時点よりも前の時点の微生物群の含有量の測定によって得られたものである、請求項1に記載の微生物群の特定方法。
- 更に、前記第一選出工程で選出された微生物群の、再標本化により作成した標本における選出頻度から信頼度を算出し、前記信頼度に基づいて微生物群を更に選出する第二選出工程を含む、請求項1又は2に記載の微生物群の特定方法。
- 更に、前記第一選出工程又は第二選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、回帰分析を行い、p値に基づいて微生物群を更に選出する、或いは
更に、前記第一選出工程又は第二選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、赤池情報量規準(AIC)の計算を行い、得られたAICの値に基づいて、微生物群を更に選出する、第五選出工程を含み、
前記第二選出工程が、前記第一選出工程で選出された微生物群の、再標本化により作成した標本における選出頻度から信頼度を算出し、前記信頼度に基づいて微生物群を更に選出する工程である、請求項1~3のいずれか一項に記載の微生物群の特定方法。 - 前記赤池情報量規準の値に基づく選出が、
前記AICの値が最小になる独立変数の組み合わせとして微生物群を選出する、
前記AICの値が小さい順からm番目までの独立変数の組み合わせで過半数を超えて含まれる微生物群を選出する、又は
前記AICの最大値から最小値までを区間で区切り、各区間に対応する組み合わせの該当数を縦軸としたヒストグラムにより、2つ以上のピークができるよう前記区間を選択し、前記AICの値が小さい順から任意の数までのピーク数(ただし全ピーク数-1)のピークに含まれるm番目までの独立変数の組み合わせで過半数を超えて含まれる微生物群を選出するものである(前記mは1以上の整数である)、請求項4に記載の微生物群の特定方法。 - 更に、前記第一選出工程、第二選出工程、又は第五選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、回帰分析を行い、正相関または負相関のいずれか一方を示す微生物群を更に選出する第三選出工程を含み、
前記第二選出工程が、前記第一選出工程で選出された微生物群の、再標本化により作成した標本における選出頻度から信頼度を算出し、前記信頼度に基づいて微生物群を更に選出する工程であり、
前記第五選出工程が、前記第一選出工程又は前記第二選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、回帰分析を行い、p値に基づいて微生物群を更に選出する、或いは
前記第一選出工程又は前記第二選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、赤池情報量規準(AIC)の計算を行い、得られたAICの値に基づいて、微生物群を更に選出する工程である、請求項1~5のいずれか一項に記載の微生物群の特定方法。 - 更に、前記第一選出工程又は第二選出工程で選出された前記微生物群の含有量を独立変数とし、対応する前記特定物質の量の変化速度を従属変数として、正則化項を備えた主成分回帰分析を行い、少なくとも正相関または負相関のいずれかを示す微生物群を更に選出する第四選出工程を含み、
前記第二選出工程が、前記第一選出工程で選出された微生物群の、再標本化により作成した標本における選出頻度から信頼度を算出し、前記信頼度に基づいて微生物群を更に選出する工程である、請求項1~3のいずれか一項に記載の微生物群の特定方法。 - 前記主成分回帰分析に、スパース正則化による1段階主成分回帰モデルを用いる請求項7に記載の微生物群の特定方法。
- 前記罰則付き回帰に、L1正則化項付き回帰分析手法を用いる請求項1~8のいずれか一項に記載の微生物群の特定方法。
- 更に、以下の工程を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の微生物群の特定方法:
前記微生物試料中の、特定物質の量の変化速度の値を取得する速度取得工程、
前記微生物試料に含まれる前記微生物の塩基配列を解読する解読工程、
解読された前記塩基配列から、前記微生物試料に含まれる微生物を微生物群に分類し、前記微生物試料中の前記微生物群の相対的含有割合を決定する割合決定工程、
前記決定された微生物群の相対的含有割合から、前記微生物試料中の前記微生物群の含有量を決定する量決定工程。 - 前記塩基配列の解読に、シーケンサーを用いることを特徴とする請求項10に記載の微生物群の特定方法。
- 前記微生物が、生物学的排水処理に使用される微生物であり、
前記微生物試料は前記排水処理が行われる処理槽中の処理水であり、
前記変化速度は、前記処理水に対し測定される前記特定物質の量から算出され、
前記再標本化により作成した標本は同一の処理槽における2以上の時点での特定物質の量の変化速度及び、前記微生物群の含有量のデータを含む請求項1~11のいずれか一項に記載の微生物群の特定方法。 - 前記特定物質が、アンモニア、フェノール、チオシアン、及びチオ硫酸からなる群から選ばれるいずれか一種以上である、請求項1~12のいずれか一項に記載の微生物群の特定方法。
- 前記微生物が、アンモニアを酸化し亜硝酸を生成する微生物、フェノールを分解する微生物、チオシアンを分解する微生物、及びチオ硫酸を分解する微生物からなる群から選ばれるいずれか一以上である、請求項1~13のいずれか一項に記載の微生物群の特定方法。
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JP2002101884A (ja) | 2000-09-27 | 2002-04-09 | Nippon Steel Corp | 複合微生物を利用した水処理プロセスの状態指標となる微生物の特定方法並びに水処理プロセスの状態診断及び反応制御方法 |
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