JP7298647B2 - 高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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本発明は、伸びおよびせん断端面の耐曲げ割れ特性に優れ、高降伏比を有する高強度鋼板およびその製造方法に関するものである。本発明の高強度鋼板は、自動車部品等の構造部材として好適に用いることができる。
車体の軽量化によるCO排出量削減と車体の軽量化による耐衝突性能向上の両立を目的に、自動車用薄鋼板の高強度化が進行しており、新たな法規制の導入も相次いでいる。そのため、車体強度の増加を目的として、自動車を形成する主要な構造部品では、引張強さ(TS)で1180MPa級以上の高強度鋼板の適用事例が増加している。
自動車に用いられる高強度鋼板には、優れた成形性を有することが求められる。例えば、打抜き加工やせん断加工後に曲げ加工された部位を有するシートレール等の部品では、成形性の観点から伸びおよびせん断端面の耐曲げ割れ特性に優れた鋼板を用いることが好適である。また、部品のパフォーマンスの観点からは、鋼板の降伏比(YR(%)=100×降伏強度YS/引張強さTS)を増加することで、衝突時における衝撃吸収エネルギーの上昇が実現される。したがって、自動車部品への高強度鋼板の適用比率を増加させるには、これらの特性を総合的に満足することが要望されている。
これらの要求に対し、例えば、特許文献1では、1180MPa以上の引張強度を有し、伸び、穴広げ性、耐遅れ破壊特性に優れ、高降伏比を有する高強度鋼板およびその製造方法が提供されている。
特許文献2では、延性と伸びフランジ性に優れ、高降伏比を有する引張強さが1180MPa以上の高強度冷延鋼板およびその製造方法が提供されている。
特許文献3では、1180MPa以上の引張強度を有し、伸び、穴広げ性、曲げ加工性および遅れ破壊特性に優れた高強度鋼板およびその製造方法が提供されている。
特許文献4では、引張強さが1320MPa以上であり、優れた延性、伸びフランジ性および曲げ加工性を有する高強度鋼板およびその製造方法が提供されている。
特許第5896086号公報 特許第6172298号公報 特許第6252713号公報 特許第6338025号公報 特許第6558515号公報
しかしながら、特許文献1~4に記載の技術では、延性、穴広げ性、伸びフランジ性または曲げ加工性について改善したことを開示しているが、いずれの文献でもせん断端面の耐曲げ割れ特性については考慮していない。
特許文献3、4に記載の曲げ加工性の評価は、いずれも鋼板の曲げ稜線部の表面から亀裂が発生し、亀裂が板厚方向に貫通する場合の鋼板の曲げ性を評価している事例である。しかし、自動車部品における割れ発生の事例として、せん断加工された鋼板の端面が変形を受けることで、端面から亀裂が発生して割れに至る事例があり、鋼板の成形性をより正確に評価するには曲げ加工に及ぼすせん断端面の影響を考慮すべきである。特許文献5には、せん断加工面での変形限界の評価手法が紹介されおり、この評価手法を用いることでせん断端面の耐曲げ割れ特性を評価することが可能と思われる。また、特許文献5によると、せん断加工面はせん断加工により強い変改をすでに受けているため延性に乏しく、曲げ稜線部よりも亀裂が発生しやすいという特徴があるため、単純な曲げ性評価により求められる最小曲げ半径Rよりもせん断端面の割れより評価した最小曲げ半径Rは大きくなる。
このように、伸び、せん断端面の耐曲げ割れ特性および高降伏比を総合的に満足する鋼板は存在しない。
本発明は、かかる事情に鑑み開発されたもので、延性およびせん断端面の耐曲げ割れ特性に優れ、高降伏比を有する引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
なお、本発明において、高降伏比を有する鋼板とは、部品の寸法精度の指標である降伏比(YR)が85%以上とする。なお、YRは、引張強度(TS)および降伏強度(YS)から求めることができ、次式で求められる。
YR=100×YS/TS
また、引張強度(TS)、降伏強度(YS)および伸びは引張試験より評価し、圧延方向と垂直方向が試験片の長手となるように、JIS5号試験片(標点距離50mm、平行部幅25mm)を採取し、JIS Z 2241に従って試験した。伸びを延性の指標とし、伸び(El)の値が8%以上の場合を延性に優れると判断した。
また、せん断端面の耐曲げ割れ特性は、せん断加工された2mm×30mm×100mmの試験片を採取し、JIS Z 2248のVブロック法に従って試験を行い、せん断端面に割れや亀裂が発生しない最小曲げ半径Rを測定した。なお、曲げ方向は試験片長手方向である。最小曲げ半径(R)を板厚(t)で除した値をR/tとした。R/tが5.
0以下となる場合をせん断端面の耐曲げ割れ特性に優れると判断した。
本発明は以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1]成分組成が、質量%で、
C:0.15%以上0.30%以下、
Si:0.80%以上2.40%以下、
Mn:2.30%以上3.50%以下、
P:0.001%以上0.100%以下、
S:0.0200%以下、
Al:0.500%以下および
N:0.0100%以下を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
鋼組織として、マルテンサイトの面積率が80%以上、
残留オーステナイト量が5%以上15%以下、
ポリゴナルフェライトの面積率が5%以下(0%を含む)であるミクロ組織を有し、
マルテンサイト中の転位密度が4.0×1015-2以上であり、
さらに、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが下記式(1)を満たすことを特徴とする高強度鋼板。
γ[%]/Dγ[μm]≧0.40 ・・・(1)
[2]さらに、質量%で、
Cr:1.00%以下、
Nb:0.100%以下、
V:0.100%以下、
Ti:0.100%以下、
B:0.0100%以下、
Mo:0.50%以下、
Cu:1.00%以下、
Ni:0.50%以下、
As:0.100%以下
Sb:0.050%以下、
Sn:0.050%以下、
Ta:0.050%以下、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0100%以下、
Zn:0.020%以下、
Co:0.020%以下、
Zr:0.020%以下
およびREM:0.0100%以下
のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする[1]に記載の高強度鋼板。
[3]さらに、鋼板表面にめっき層を有することを特徴とする[1]または[2]に記載の高強度鋼板。
[4][1]または[2]に記載の成分組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1100℃以上1300℃以下として30min以上均熱保持した後に熱間圧延を施して熱延板とし、次いで前記熱延板を巻取温度:350℃以上630℃以下で巻き取り、
次いで前記熱延板に酸洗を施し、酸洗後の前記熱延板に、冷間圧延時の最大張力が98MPa以上となるように冷間圧延を施して冷延板とし、
次いで、加熱温度:Ta温度以上900℃以下まで加熱し、前記加熱温度域で10s以上600s以下均熱保持したのち、冷却停止温度:Tb温度-250℃以上Tb温度-100℃以下まで冷却し、
次いで再加熱温度:300℃以上450℃以下まで再加熱を施し、
前記冷却から再加熱までの工程において300℃以下の温度域に鋼板が保持される時間を50s以下とし、
前記再加熱後、0.010℃/s以上5.000℃/s以下での冷却を100s以上行う焼鈍を行うことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
なお、Ta温度およびTb温度は下記式で表す。
Ta温度(℃)=944-203×[%C]1/2+25×[%Si]-30×[%Mn]+120×[%Al]-20×[%Cu]+11×[%Cr]+400×[%Ti]
Tb温度(℃)=561-474×[%C]-33×[%Mn]-17×[%Cr]
ただし、[%元素]は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
[5]前記焼鈍後に、めっき処理を施すことを特徴とする[4]に記載の高強度鋼板の製造方法。
本発明によれば、延性およびせん断端面の耐曲げ割れ特性に優れ、高降伏比を有する引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板を得ることができる。また、本発明の高強度鋼板を、例えば、自動車構造部材に適用することによって車体軽量化による燃費向上を図ることができる。したがって、産業上の利用価値は極めて大きい。
以下、本発明の実施形態について説明する。
先ず、高強度鋼板の成分組成の適正範囲およびその限定理由について説明する。なお、以下の説明において、鋼の成分元素の含有量を表す「%」は、特に明記しない限り「質量%」を意味する。
C:0.15%以上0.30%以下
Cは、鋼の重要な基本成分の1つであり、特に本発明では、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの分率や、残留オーステナイト中の炭素濃度に影響する重要な元素である。Cの含有量が0.15%未満では、ポリゴナルフェライトの面積率が増加し、1180MPa以上のTSおよび85%以上のYRを実現することが困難になる。一方、Cの含有量が0.30%を超えると、鋼板の強度が上昇し、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。したがって、Cの含有量は、0.15%以上0.30%以下とする。Cの含有量は、好ましくは0.16%以上とする。Cの含有量は、好ましくは0.29%以下とする。Cの含有量は、より好ましくは0.17%以上とする。Cの含有量は、より好ましくは0.28%以下とする。
Si:0.80%以上2.40%以下
Siは、連続焼鈍中の炭化物生成を抑制し、残留オーステナイトの生成を促進することから、残留オーステナイトの分率や、残留オーステナイト中の炭素濃度に影響する元素である。Siの含有量が0.80%未満では、所望の残留オーステナイト量を得ることができず、8%以上のElを実現することが困難になる。
一方、Siの含有量が2.40%を超えると、残留オーステナイト中の炭素濃度が過度に増加し、せん断加工により残留オーステナイトから変態するマルテンサイトの硬度が大きく上昇し、せん断端面のボイド量が増加するため、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。したがって、Siの含有量は、0.80%以上2.40%以下とする。Siの含有量は、好ましくは0.90%以上とする。Siの含有量は、好ましくは2.30%以下とする。Siの含有量は、より好ましくは1.00%以上とする。Siの含有量は、より好ましくは2.20%以下とする。
Mn:2.30%以上3.50%以下
Mnは、鋼の重要な基本成分の1つであり、特に本発明では、マルテンサイトおよびポリゴナルフェライトの面積率に影響する重要な元素である。Mnの含有量が2.30%未満では、ポリゴナルフェライトの面積率が増加し、1180MPa以上のTSおよび85%以上のYRを実現することが困難になる。一方、Mnの含有量が3.50%を超えると、鋼板の強度が上昇し、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。したがって、Mnの含有量は、2.30%以上3.50%以下とする。Mnの含有量は、好ましくは2.35%以上とする。Mnの含有量は、好ましくは3.45%以下とする。Mnの含有量は、より好ましくは2.40%以上とする。Mnの含有量は、より好ましくは3.40%以下とする。
P:0.001%以上0.100%以下
Pは、固溶強化の作用を有し、鋼板の強度を上昇させることができる元素である。こうした効果を得るためには、Pの含有量を0.001%以上にする必要がある。一方、Pの含有量が0.100%を超えると、旧オーステナイト粒界にPが偏析して粒界を脆化させるため、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。したがって、Pの含有量は、0.001%以上0.100%以下とする。Pの含有量は、好ましくは0.002%以上とする。Pの含有量は、好ましくは0.070%以下とする。Pの含有量は、より好ましくは0.003%以上とする。Pの含有量は、より好ましくは0.050%以下とする。
S:0.0200%以下
Sは、硫化物として存在し、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。そのため、Sの含有量は0.0200%以下にする必要がある。したがって、Sの含有量は、0.0200%以下とする。なお、Sの含有量の下限は特に規定しないが、生産技術上の制約から、Sの含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。Sの含有量は、より好ましくは0.0050%以上とする。Sの含有量は、より好ましくは0.0100%以下とする。
Al:0.500%以下
Al含有量が0.500%を超えると、ポリゴナルフェライトの面積率が増加し、1180MPa以上のTSおよび85%以上のYRを実現することが困難になる。したがって、Alの含有量は、0.500%以下とする。好ましくはAlの含有量は0.400%以下とする。より好ましくはAlの含有量は0.100%以下とする。一方、Alは脱酸剤として作用し、鋼の清浄度に有効な元素であり、脱酸工程で添加することが好ましい。よって、Alを含有する場合、Alの含有量は0.001%以上とすることが好ましく、0.010%以上とすることがより好ましい。
N:0.0100%以下
N含有量が0.0100%を超えると、窒化物として存在し、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。したがって、Nの含有量は0.0100%以下にする必要がある。好ましくは0.0050%以下とする。Nの含有量は、少ないほど好ましいが、生産技術上の制約から、Nの含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。N含有量は、より好ましくは0.0007%以上とする。
本発明の高強度鋼板は、上記の成分組成に加えて、さらに、質量%で、Cr:1.00%以下、Nb:0.100%以下、V:0.100%以下、Ti:0.100%以下、B:0.0100%以下、Mo:0.50%以下、Cu:1.00%以下、Ni:0.50%以下、As:0.100%以下、Sb:0.050%以下、Sn:0.050%以下、Ta:0.050%以下、Ca:0.0100%以下、Mg:0.0100%以下、Zn:0.020%以下、Co:0.020%以下、Zr:0.020%以下およびREM:0.0100%以下のうちから選ばれる少なくとも1種の元素が、単独で、あるいは組み合わせて含有することが好ましい。
Ti、NbおよびVは、鋼板の強度を上昇させる。また、Ti、NbおよびVを含有することで、旧オーステナイト粒径が減少し、残留オーステナイトの平均粒径Dγが減少するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径DγがCγ[%]/Dγ[μm]≧0.40を満たし、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下により実現できる。こうした効果を得るためには、Ti、NbおよびVの含有量を、それぞれ0.001%以上とすることが好ましい。より好ましくはTi、NbおよびVの含有量を、それぞれ0.005%以上とする。一方、Ti、NbおよびVの含有量がそれぞれ0.100%を超えると、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することがより困難になる。したがって、Ti、NbおよびVを含有する場合、その含有量はそれぞれ0.100%以下とする。その含有量はそれぞれ0.060%以下とすることが好ましい。
Bは、マルテンサイト変態開始温度を低下させることなく、焼入れ性を向上させることができる元素であり、ポリゴナルフェライトの生成を抑制できることから、1180MPa以上のTSおよび85%以上のYRをより実現できる。こうした効果を得るためには、Bの含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。Bの含有量は、より好ましくは0.0002%以上とする。一方、Bの含有量が0.0100%を超えると、熱間圧延中に鋼板内部に割れが生じ、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であることがより困難になる。したがって、Bを含有する場合、その含有量は0.0100%以下とする。B含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。
Moは、焼入れ性を向上させる元素であり、マルテンサイトを生成させるのに有効な元素である。こうした効果を得るためには、Moの含有量を0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.02%以上とする。一方、Moの含有量が0.50%を超えると、粗大な析出物や介在物が増加し、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することがより困難になる。したがって、Moを含有する場合、その含有量は0.500%以下とする。Mo含有量は、0.450%以下とすることが好ましい。Mo含有量は、0.050%以下とすることがより好ましい。
CrおよびCuは、固溶強化元素としての役割のみならず、連続焼鈍時の冷却過程で、オーステナイトを安定化し、ポリゴナルフェライトの生成を抑制できることから、1180MPa以上のTSおよび85%以上のYRをより実現できる。こうした効果を得るためには、CrおよびCuの含有量を0.01%以上が好ましい。より好ましくは0.02%以上とする。一方、CrおよびCuの含有量がそれぞれ1.00%を超えると、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することがより困難になる。したがって、CrおよびCuを含有する場合、その含有量はそれぞれ1.00%以下とする。CrおよびCu含有量はそれぞれ0.70%以下とすることが好ましい。
Niは、焼入れ性を向上させる元素であり、ポリゴナルフェライトの生成を抑制できることから、1180MPa以上のTSおよび85%以上のYRをより実現できる。こうした効果を得るためには、Niの含有量は0.01%以上が好ましい。より好ましくは0.02%以上とする。一方、Niの含有量が0.50%を超えると、粗大な析出物や介在物が増加し、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することがより困難になる。したがって、Niを含有する場合、その含有量は0.50%以下とする。Ni含有量は0.45%以下とすることが好ましい。
Asは、Ti、NbおよびVと同様に、鋼板の強度をより上昇させる。こうした効果を得るためには、Asの含有量は0.001%以上が好ましい。一方、Asの含有量が0.100%を超えると、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することがより困難になる。したがって、Asを含有する場合には、As含有量は、0.100%以下とする。As含有量は、0.050%以下とすることがより好ましい。As含有量は、0.010%以下とすることがさらに好ましい。
SbおよびSnは、表層軟化厚みを制御するのに有効な元素である。こうした効果を得るためには、SbおよびSnの含有量は、それぞれ0.001%以上が好ましく、より好ましくは0.005%以上とする。一方、SbおよびSnの含有量がそれぞれ0.050%を超えると、粗大な析出物や介在物が増加し、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することがより困難になる。したがって、SbおよびSnを含有する場合には、SbおよびSnの含有量は、0.050%以下とする。SbおよびSn含有量は、0.020%以下とすることが好ましい。
Taは、Ti、NbおよびVと同様に、鋼板の強度をより上昇させる。こうした効果を得るためには、Taの含有量は0.001%が好ましい。一方、Taの含有量が0.050%を超えると、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することがより困難になる。したがって、Taを含有する場合、Ta含有量は、0.050%以下とする。Ta含有量は、0.020%以下とすることが好ましい。
CaおよびMgは、脱酸に用いる元素であるとともに、硫化物の形状を球状化し、鋼板の極限変形能を向上するために有効な元素である。こうした効果を得るためには、CaおよびMgの含有量は、それぞれ0.0001%以上が好ましい。一方、CaおよびMgの含有量がそれぞれ0.0100%を超えると、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することがより困難になる。したがって、CaおよびMgを含有する場合には、CaおよびMgの含有量は、0.0100%以下とする。CaおよびMgの含有量は、0.0050%以下とすることが好ましい。
Zn、CoおよびZrは、いずれも介在物の形状を球状化し、鋼板の極限変形能を向上するために有効な元素である。こうした効果を得るためには、Zn、CoおよびZrの含有量は、それぞれ0.001%以上が好ましい。一方、Zn、CoおよびZrの含有量がそれぞれ0.020%を超えると、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することがより困難になる。したがって、Zn、CoおよびZrを添加する場合、その含有量はそれぞれ0.020%以下とする。
REMは、介在物の形状を球状化し、鋼板の極限変形能を向上するために有効な元素である。こうした効果を得るためには、REMの含有量は、0.0001%以上が好ましい。一方、REMの含有量が0.0100%を超えると、粗大な析出物や介在物が多量に生成し、鋼の極限変形能を低下させることから、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することがより困難になる。したがって、REMを含有する場合には、REM含有量は、0.0100%以下とする。REM含有量は、0.0050%以下とすることが好ましい。
上記成分以外の残部はFe及び不可避的不純物である。なお、上記任意成分について、含有量が下限値未満の場合には本発明の効果を害さないため、これら任意元素を下限値未満含む場合は、これらの任意元素を不可避的不純物として含むものとする。
次に、本発明の高強度鋼板の鋼組織について説明する。
マルテンサイトの面積率が80%以上
マルテンサイトを主相とすることで、1180MPa以上のTSを実現することが可能となる。こうした効果を得るためには、マルテンサイトの面積率を80%以上とする必要がある。したがって、マルテンサイトの面積率が80%以上とする。好ましくは85%以上とする。より好ましくは87%以上とする。なお、マルテンサイトの面積率の上限は特に規定しないが、所望の伸びを実現するためには95%未満であることが好ましく、より好ましくは93%以下とする。
ここで、マルテンサイトの面積率の測定方法は、以下の通りである。鋼板のL断面を研磨後、3vol.%ナイタールで腐食し、板厚1/4位置(鋼板表面から深さ方向で板厚の1/4に相当する位置)を、SEMを用いて2000倍の倍率で10視野観察する。なお、上記の組織画像において、マルテンサイトは硬質相内の凸部でかつ組織内部が微細な凹凸を有した組織である。それらの値の平均値から、マルテンサイトの面積率を求めることができる。
残留オーステナイト量(体積率)が5%以上15%以下
本発明において、極めて重要な発明構成要件である。8%以上の伸び(El)を確保するため、残留オーステナイトの体積率を5%以上にする必要がある。一方、残留オーステナイトの体積率が15%超えると、せん断加工によりマルテンサイトに変態する残留オーステナイトの量が増加し、せん断端面のボイド量が増加するため、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。したがって、残留オーステナイト量は体積率で5%以上15%以下とする。好ましくは7%以上とする。好ましくは14%以下とする。より好ましくは8%以上とする。より好ましくは13%以下とする。
ここで、残留オーステナイト量の測定方法は、以下の通りである。残留オーステナイト量は、鋼板を板厚1/4位置+0.1mmの面まで研磨後、化学研磨によりさらに0.1mm研磨した面について、X線回折装置でCoKα線を用いて、fcc鉄の{200}、{220}、{311}面および、bcc鉄の{200}、{211}、{220}面の回折ピークの各々の積分強度比を測定し、得られた9つの積分強度比を平均化して求めた。
ポリゴナルフェライトの面積率が5%以下(0%を含む)
本発明において、極めて重要な発明構成要件である。ポリゴナルフェライトは軟質な組織であるため、ポリゴナルフェライトの面積率が5%を超えると、1180MPa以上のTSおよび85%以上のYRを実現することが困難になる。したがって、フェライトの面積率は5%以下とする。好ましくは3%以下とする。より好ましくは2%以下とする。
ここで、ポリゴナルフェライトの面積率の測定方法は、以下の通りである。鋼板のL断面を研磨後、3vol.%ナイタールで腐食し、板厚1/4位置(鋼板表面から深さ方向で板厚の1/4に相当する位置)を、SEMを用いて2000倍の倍率で10視野観察する。なお、上記の組織画像において、ポリゴナルフェライトは凹部で組織内部が平坦な組織である。それらの値の平均値から、ポリゴナルフェライトの鋼板組織全体に対する面積率を求めることができる。
マルテンサイト中の転位密度が4.0×1015-2以上
本発明において、極めて重要な発明構成要件である。マルテンサイト中の転位密度が4.0×1015-2未満の場合、85%以上のYRを実現することが困難になる。したがって、マルテンサイト中の転位密度は4.0×1015-2以上とする。より好ましくは6.0×1015-2以上とする。また、マルテンサイト中の転位密度の上限は特に限定しないが、本特許の成分範囲および製造方法にて製造可能なマルテンサイト中の転位密度から判断すると、5.0×1016-2以下となる。
ここで、マルテンサイト中の転位密度の測定方法は、以下の通りである。マルテンサイト中の転位密度は、鋼板を板厚1/4位置+0.1mmの面まで研磨後、化学研磨によりさらに0.1mm研磨した面について、X線回折装置でCoKα線を用いて、測定を行った。転位密度はX線回折測定の半価幅βから求める歪みから換算する手法を用いた。歪みの抽出には、以下に示すWilliamsson-Hall法を用いる。半価幅の広がりは結晶子のサイズDとひずみεが影響し、両因子の和として次式で計算できる。β=β1+β2=(0.9λ/(D×cosθ))+2ε×tanθとなる。さらにこの式を変形し、βcosθ/λ=0.9λ/D+2ε×sinθ/λとなる。sinθ/λに対してβcosθ/λをプロットすることにより、直線の傾きからひずみεが算出される。なお、算出に用いる回折線はbcc鉄の{110}、{211}、および{220}面とする。ひずみεから転位密度の換算はρ=14.4ε2/b2を用いた。なお、θはX線回折のθ‐2θ法より算出されるピーク角度を意味し、λはX線回折で使用するX線の波長を意味する。bはFe(α)のバーガース・ベクトルで、本実施例においては、0.25nmとした。なお、残留オーステナイトのピーク位置とマルテンサイトのピーク位置は異なるため、ピーク位置で区別して、オーステナイト中の転位密度は除外している。一方、フェライトとマルテンサイトのピーク位置は同じであるため、区別することができないが、フェライトの面積率は5%以下と微小であるため、マルテンサイト中の転位密度としてみなしている。
残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが下記式(1)を満たす。
γ[%]/Dγ[μm]≧0.40 ・・・(1)
本発明において、極めて重要な発明構成要件である。残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγは、残留オーステナイトの安定性に影響を及ぼすパラメータである。残留オーステナイト中の炭素濃度Cγが増加すると、炭素による固溶強化により残留オーステナイトからマルテンサイトへの変態開始応力が上昇する。すなわち、残留オーステナイトが安定化する。また、残留オーステナイトの平均粒径Dγが減少すると、粒径微細化効果により残留オーステナイトからマルテンサイトへの変態開始応力が上昇する。すなわち、残留オーステナイトが安定化する。したがって、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが式(1)を満たすことは、炭素による固溶強化と粒径微細化効果の相乗効果により、残留オーステナイトの安定性が非常に高いことを表す。残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが式(1)を満足するように制御すると、YRが改善できる。YRの改善の理由は、残留オーステナイトを含む高強度鋼板の降伏現象は、残留オーステナイトからマルテンサイトへの変態開始応力に依存しており、残留オーステナイトの安定性を高めることで、YSが上昇するためである。さらに、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが式(1)を満足するように制御すると、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現できる。この理由は、残留オーステナイトの安定性を高めることで、せん断加工によりマルテンサイトに変態する残留オーステナイトの量が減少し、せん断端面のボイド量が減少するためであり、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現できる。また、Cγ[%]/Dγ[μm]の上限は特に限定しないが、本特許の成分範囲および製造方法にて製造可能な残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγから判断すると、2.00が上限となる。
ここで、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγの測定方法は、以下の通りである。残留オーステナイト中の炭素濃度Cγは、まず残留オーステナイトの格子定数aをオーステナイトの(220)面の回折ピークシフト量から下記式(2)により算出し、得られた残留オーステナイトの格子定数aを下記式(3)に代入することにより算出した。
a=1.79021√2/sinθ ・・・(2)
a=3.578+0.00095[%Mn]+0.022[%N]+0.0006[%Cr]+0.0031[%Mo]+0.0051[%Nb]+0.0039[%Ti]+0.0056[%Al]+0.033[Cγ]・・・(3)
なお、aは残留オーステナイトの格子定数(Å)、θは(220)面の回折ピーク角度を2で除した値(rad)、式(3)における[%元素]は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。また、本発明では残留オーステナイト中の炭素濃度Cγ以外の各元素の質量%は、鋼全体に占める質量%とした。
また、残留オーステナイトの平均粒径Dγの測定方法は、以下の通りである。
鋼板の圧延方向に平行な板厚断面(L断面)を湿式研磨およびコロイダルシリカ溶液を用いたバフ研磨により表面を平滑化した後、0.1vol.%ナイタールで腐食することで、試料表面の凹凸を極力低減し、かつ、加工変質層を完全に除去し、次いで、板厚1/4位置について、SEM-EBSD(Electron Back-Scatter Diffraction;電子線後方散乱回折)法を用いて、ステップサイズ0.05μmの条件で結晶方位を測定し、SEM-EBSD法より得られたデータから、AMETEK EDAX社のOIM Analysisを用いてInverse Pole Figure Map(IPF Map)を作成し、残留オーステナイトの面積を求め、円相当直径を算出し、それらの値を平均して残留オーステナイトの平均粒径Dγを求めた。なお、IPF Mapの作成では、Grain Dilation法(Grain Tolerance Angle:5、Minimum Grain Size:2)を用いてクリーンアップ処理を1回している。
旧オーステナイト粒径が15μm以下(好適条件)
旧オーステナイト粒径の大きさは特に限定されないが、15μm以下が好ましい。旧オーステナイト粒径が15μmを超える場合、残留オーステナイトの平均粒径Dγが増大するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径DγがCγ[%]/Dγ[μm]≧0.40を満足せず、85%以上のYRを実現することがより困難になり、かつ、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することがより困難になる。したがって、旧オーステナイト粒径は15μm以下が好ましい。より好ましくは、13μm以下である。
ここで、旧オーステナイト粒径の測定方法は、以下の通りである。鋼板のL断面(圧延方向に平行な垂直断面)を研磨後、旧オーステナイト粒界(旧γ粒界)を腐食する薬液(例えば飽和ピクリン酸水溶液やこれに塩化第2鉄を添加したもの)で腐食し、鋼板の板厚の1/4厚み位置において光学顕微鏡で400倍の倍率にて任意に4視野観察して旧オーステナイト粒径を測定することができる。なお、粒径は得られた写真を用いて切断法にて測定することが出来る。つまり、写真上に圧延方向、圧延方向と直角方向(板厚方向)それぞれに20本の直線をひき、それらと交差する粒界の数を計測し、さらに合計線長を交差した粒界の合計数で除した値に1.13を乗じることで測定できる。
また、本発明では、上述したマルテンサイト、ポリゴナルフェライトおよび残留オーステナイト以外に、パーライト、ベイナイト、セメンタイト等の炭化物やその他鋼板の組織として公知のものが、面積率で3%以下の範囲であれば、残部組織として含まれていても、本発明の効果が損なわれることはない。なお、その他の鋼板の組織(残部組織)は、例えばSEM観察で確認し判定すればよい。
本発明の高強度鋼板の成分組成および鋼組織は上記の通りである。また、高強度鋼板の板厚は特に限定されないが、通常、0.3mm以上2.8mm以下である。 また、本発明の高強度鋼板は、さらに鋼板表面にめっき層を備えてもよい。めっき層の種類は特に限定されず、例えば、溶融めっき層、電気めっき層のいずれでもよい。また、めっき層は合金化されためっき層でもよい。めっき層は亜鉛めっき層が好ましい。亜鉛めっき層はAlやMgを含有してもよい。また、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき(Zn-Al-Mgめっき層)も好ましい。この場合、Al含有量を1質量%以上22質量%以下、Mg含有量を0.1質量%以上10質量%以下とし残部はZnとすることが好ましい。また、Zn-Al-Mgめっき層の場合、Zn、Al、Mg以外に、Si、Ni、Ce及びLaから選ばれる一種以上を合計で1質量%以下含有してもよい。なお、めっき金属は特に限定されないため、上記のようなZnめっき以外に、Alめっき等でもよい。
また、めっき層の組成も特に限定されず、一般的なものであればよい。例えば、溶融亜鉛めっき層や合金化溶融亜鉛めっき層の場合、一般的には、Fe:20質量%以下、Al:0.001質量%以上1.0質量%以下を含有し、さらに、Pb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Cr、Co、Ca、Cu、Li、Ti、Be、Bi、REMから選択する1種または2種以上を合計で0質量%以上3.5質量%以下含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成である。本発明では、片面あたりのめっき付着量が20~80g/mの溶融亜鉛めっき層、これがさらに合金化された合金化溶融亜鉛めっき層を有することが好ましい。また、めっき層が溶融亜鉛めっき層の場合にはめっき層中のFe含有量が7質量%未満であり、合金化溶融亜鉛めっき層の場合にはめっき層中のFe含有量は7~20質量%である。
次に、本発明の製造方法について説明する。
本発明において、鋼素材(鋼スラブ)の溶製方法は特に限定されず、転炉や電気炉等、公知の溶製方法いずれもが適合する。また、鋼スラブ(スラブ)は、マクロ偏析を防止するため、連続鋳造法で製造するのが好ましいが、造塊法や薄スラブ鋳造法などにより製造することも可能である。
スラブ加熱温度:1100℃以上1300℃以下
鋼スラブを熱間圧延する方法としては、スラブを加熱後圧延する方法、連続鋳造後のスラブを加熱することなく直接圧延する方法、連続鋳造後のスラブに短時間加熱処理を施して圧延する方法などが挙げられる。本発明の製造方法においては、スラブ加熱温度を1100℃以上1300℃以下とすることが極めて重要である。スラブ加熱温度を1100℃以上とすることで、硫化物析出物、Nb、Ti系の炭窒化物およびMn偏析が軽減され、焼鈍処理後の焼入れ性が改善し、ポリゴナルフェライトの生成を抑制できることから、1180MPa以上のTSおよび85%以上のYRを実現できる。また、スケールロスの増大を防止するため、スラブ加熱温度は1300℃以下とする。したがって、スラブ加熱温度は1100℃以上1300℃以下とする。好ましくは1120℃以上とする。好ましくは1280℃以下とする。より好ましくは1130℃以上とする。より好ましくは1270℃以下とする。なお、スラブ加熱温度はスラブ表面の温度である。
スラブ均熱保持時間:30min以上
1100℃以上1300℃以下のスラブ加熱温度での保持時間(均熱時間)が30min以上となるように保持する。本発明者らの調査の結果、スラブ加熱温度が所定の温度に達していても十分な時間が確保できていない場合、硫化物析出物、Nb、Ti系の炭窒化物およびMn偏析が軽減されていないことが明らかになった。スラブ均熱保持時間を30min以上とすることで、硫化物析出物、Nb、Ti系の炭窒化物およびMn偏析が軽減され、焼鈍処理後の焼入れ性が改善し、ポリゴナルフェライトの生成を抑制できることから、1180MPa以上のTSおよび85%以上のYRを実現できる。したがって、スラブ均熱保持時間は30min以上とする。好ましくは40min以上とする。より好ましくは50min以上とする。なお、保持時間の上限は特に限定されないが、スケールロスの増大を防止するため、好ましくは250min以下、より好ましくは200min以下である。さらに好ましくは175min以下である。
次に、熱間圧延を施して熱延板とする。熱間圧延時の仕上げ圧延温度は特に限定されないが、圧延負荷の増大や、オーステナイトの未再結晶状態での圧下率が高くなり、圧延方向に伸長した異常な組織が発達した結果、焼鈍板の伸びを低下させる場合があるため、Ar変態点以上とすることが好ましい。なお、Ar変態点は、下記の式により求めることができる。
Ar温度(℃)=940-203×[%C]1/2+25×[%Si]-30×[%Mn]+120×[%Al]-20×[%Cu]+11×[%Cr]+400×[%Ti]
巻取温度:350℃以上630℃以下
熱間圧延後の熱延板の巻取は350℃以上630℃以下の温度で行う。巻取温度を350℃以上630℃以下とすることで、熱延板の組織がベイナイト組織となり、焼鈍工程の旧オーステナイト粒径が減少し、残留オーステナイトの平均粒径Dγが減少するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが式(1):Cγ[%]/Dγ[μm]≧0.40を満たし、85%以上のYRを実現でき、かつ、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現できる
。したがって、熱間圧延後の熱延板の巻取温度は350℃以上630℃以下とする。好ましくは380℃以上とする。好ましくは610℃以下とする。より好ましくは400℃以上とする。より好ましくは600℃以下とする。
このようにして製造した熱延板に、酸洗を行う。酸洗は鋼板表面の酸化物の除去が可能であることから、最終製品の高強度鋼板における良好な化成処理性やめっき品質の確保のために重要である。また、酸洗は、一回でも良いし、複数回に分けても良い。なお、酸洗条件ついては特に制限されず、常法により行えばよい。
上記のようにして得られた酸洗後の熱延板に冷間圧延を施す際、酸洗後の熱延板のままで冷間圧延を施してもよいし、熱処理を施したのちに冷間圧延を施してもよい。
冷間圧延時の最大張力が98MPa以上
本発明において、極めて重要な発明構成要件である。ここで冷間圧延時の最大張力とは、冷間圧延時の付与張力の最大値であり、付与張力とは、圧延時に圧延方向にかかる単位断面積当たりの張力のことである。冷間圧延時の最大張力が98MPa未満では、回復、再結晶による旧オーステナイト粒径の微細化効果を発現するのに必要な歪量の確保が困難となり、残留オーステナイトの平均粒径Dγが増大するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが式(1):Cγ[%]/Dγ[μm]≧0.40を満足せず、85%以上のYRを実現する困難になり、かつ、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。したがって、冷間圧延時の最大張力は98MPa以上とする。また、冷間圧延時の最大張力が98MPa未満では、焼鈍過程での回復、再結晶挙動が変化し、マルテンサイト中の転位密度を4.0×1015-2以上とすることが困難となり、85%以上のYRを実現することが困難となる。好ましくは110MPa以上とする。より好ましくは120MPa以上とする。なお、冷間圧延時の最大張力の上限は特に限定しないが。冷間圧延時の最大張力が過大になるとコストアップとなるため、冷間圧延時の最大張力は392MPa以下が好ましい。より好ましくは294MPa以下である。
冷間圧延における圧下率および圧延後の板厚は特に限定しないが、累積圧下率は30%以上80%以下とすることが好ましい。なお、圧延パスの回数、各パスの圧下率については、特に限定されることなく本発明の効果を得ることができる。
上記のようにして得られた冷延板に、焼鈍を行う。焼鈍条件は以下のとおりである。
加熱温度:Ta温度以上900℃以下
加熱温度(焼鈍温度)がTa温度未満では、フェライトとオーステナイトの二相域での焼鈍処理になる。このため、焼鈍後に多量のフェライトを含有するため、1180MPa以上のTSおよび85%以上のYRを実現することが困難になる。一方、加熱温度が900℃を超えると、旧オーステナイト粒径が増大し、残留オーステナイトの平均粒径Dγが増大するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが式(1):Cγ[%]/Dγ[μm]≧0.40を満足せず、85%以上のYRを実現する困難になり、かつ、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。したがって、加熱温度はTa温度以上900℃以下とする。好ましくはTa温度+10℃以上とする。好ましくは895℃以下とする。より好ましくはTa温度+15℃以上とする。より好ましくは890℃以下とする。なお、Ta温度は以下の式で表すことができる。
Ta温度(℃)=944-203×[%C]1/2+25×[%Si]-30×[%Mn]+120×[%Al]-20×[%Cu]+11×[%Cr]+400×[%Ti]
ただし、[%元素]は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
加熱時間:10s以上600s以下
加熱時間(焼鈍時間)が10s未満では、オーステナイト化が不十分となり焼鈍後に多量のフェライトを含有するため、1180MPa以上のTSおよび85%以上のYRを実現することが困難になる。一方、加熱時間が600sを超えると、旧オーステナイト粒径が増大し、残留オーステナイトの平均粒径Dγが増大するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが式(1):Cγ[%]/Dγ[μm]≧0.40を満足せず、85%以上のYRを実現する困難になり、かつ、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。したがって、加熱時間は10s以上600s以下とする。好ましくは50s以上とする。好ましくは500s以下とする。より好ましくは100s以上とする。より好ましくは400s以下とする。
冷却停止温度以上300℃以下の温度域における平均冷却速度:5.0℃/s以上(好適条件)
次に、後述の冷却停止温度(Tb温度-250℃以上Tb温度-100℃以下)まで冷却する。このときの冷却速度について、冷却停止温度以上300℃以下の温度域における平均冷却速度を5.0℃/s以上に制御することで、冷却過程でのセメンタイトの析出を抑制され、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγが増加するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが式(1):Cγ[%]/Dγ[μm]≧0.40を満たし、85%以上のYRを実現でき、かつ、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現できる。したがって、冷却停止温度以上300℃以下の温度域における平均冷却速度は5.0℃/s以上とすることが好ましい。より好ましくは7.0℃/s以上とする。さらに好ましくは10.0℃/s以上とする。なお、冷却停止温度以上300℃以下の温度域における平均冷却速度の上限は特に規定しないが、通常150℃/s程度である。
冷却停止温度:Tb温度-250℃以上Tb温度-100℃以下
本発明において、極めて重要な発明構成要件である。冷却停止温度をTb温度-100℃以下とすることで、残留オーステナイトの平均粒径Dγが減少するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが式(1):Cγ[%]/Dγ[μm]≧0.40を満たし、85%以上のYRを実現でき、
かつ、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現できる。一方、冷却停止温度をTb温度-250℃未満の場合、所望の残留オーステナイト量を得ることができないため、8%以上のELを実現することが困難になる。したがって、冷却停止温度はTb温度-250℃以上Tb温度-100℃以下とする。好ましくはTb温度-245℃以上とする。好ましくはTb温度-95℃以下とする。より好ましくはTb温度-240℃以上とする。より好ましくはTb温度-90℃以下とする。
なお、Tb温度は以下の式で表すことができる。
Tb温度(℃)=561-474×[%C]-33×[%Mn]-17×[%Cr]
ただし、[%元素]は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
冷却停止温度以上300℃以下の温度域における平均加熱速度:10.0℃/s以上(好適条件)
次に、再加熱を行う。この時の加熱速度について、冷却停止温度以上300℃以下の温度域における平均加熱速度を10.0℃/s以上に制御することで、再加熱過程でのセメンタイトの析出が抑制され、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγが増加するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが下記不等式Cγ[%]/Dγ[μm]≧ 0.40を満たし、85%以上のYRを実現
できる、かつ、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現できる。したがって、冷却停止温度以上300℃以下の温度域における平均加熱速度は10.0℃/s以上が好ましい。より好ましくは20.0℃/s以上とする。
再加熱温度:300℃以上450℃以下
本発明において、極めて重要な発明構成要件である。再加熱温度が300℃未満では、マルテンサイトからオーステナイトへの炭素の分配が不十分となり、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγが減少するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが下記不等式Cγ[%]/Dγ[μm]≧ 0.
40を満せず、85%以上のYRを実現する困難になり、かつ、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。一方、再加熱温度が450℃を超えると、マルテンサイト中の転位が移動し、マルテンサイト中の転位密度が低下し、マルテンサイト中の転位密度を4.0×1015-2以上とすることが困難となり、85%以上のYRを実現することが困難となる。したがって、再加熱温度は300℃以上450℃以下とする。好ましくは310℃以上とする。好ましくは440℃以下とする。より好ましくは320℃以上とする。より好ましくは430℃以下とする。
冷却から再加熱までの工程において300℃以下の温度域に鋼板が保持される時間を50s以下
本発明において、極めて重要な発明構成要件である。冷却から再加熱までの工程において300℃以下の温度域に鋼板が保持される時間が50sを超える場合、セメンタイトの
析出が促進され、マルテンサイトからオーステナイトへの炭素の分配が不十分となり、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγが減少するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが下記不等式Cγ[%]/Dγ[μm]≧0.40を満せず、85%以上のYRを実現する困難になる、かつ、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。したがって、冷却から再加熱までの工程において300℃以下に鋼板が保持される時間は50s以下とする。好ましくは40sとする。より好ましくは30sとする。なお、焼鈍後の冷却から再加熱までの工程において300℃以下に鋼板が保持される時間の下限は特に限定されないが、1s程度である。
再加熱後、平均冷却速度:0.010℃/s以上5.000℃/s以下での冷却を100s以上行う
本発明において、極めて重要な発明構成要件である。再加熱後の平均冷却速度を0.010℃/s以上に制御することで、マルテンサイトとオーステナイトの炭素のポテンシャルが連続的に変化し、マルテンサイトからオーステナイトへの炭素の分配を促進でき、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγが増加するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが下記不等式Cγ[%]/Dγ[μm]≧0.40を満たし、85%以上のYRを実現でき、かつ、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現できる。また、平均冷却速度が5.000℃/s超の場合、冷却中に残留オーステナイトがマルテンサイトし、所望の残留オーステナイト量を得ることができないため、8%以上のElを実現することが困難になる。したがって、平均冷却速度は0.010℃/s以上5.000℃/s以下とする。好ましくは0.020℃/s以上とする。好ましくは3.000℃/s以下とする。より好ましくは0.030℃/s以上とする。より好ましくは1.000℃/s以下とする。
また、再加熱後の前記冷却速度での冷却時間が100s未満の場合、マルテンサイトからオーステナイトへの炭素の分配促進の効果が不十分となり、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγが減少するため、最終的に得られる残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが下記不等式Cγ[%]/Dγ[μm]≧ 0.40を満足せず、85%以上のYRを実現する困難になる、かつ、せん断端面の耐曲げ割れ特性の指標であるR/tを5.0以下に実現することが困難になる。したがって、再加熱後の前記冷却速度での冷却時間は100s以上とする。好ましくは120s以上とする。より好ましくは150s以上とする。
再加熱後、平均冷却速度:0.010℃/s以上5.000℃/s以下での冷却を100s以上行った後の冷却は、特に規定する必要がなく、任意の方法により所望の温度に冷却してよい。なお、上記所望の温度は、室温程度が望ましい。
以上の焼鈍工程を経ることにより、本発明の高強度鋼板が得られる。
また、上記の高強度鋼板に調質圧延(スキンパス圧延)を施してもよい。スキンパス圧延での圧下率は、1.5%を超えると、鋼の降伏応力が上昇しYRが増加することから、1.5%以下とすることが好適である。なお、スキンパス圧延での圧下率の下限は、特に限定しないが、生産性の観点から0.1%以上が好ましい。
本発明では、焼鈍の後に、さらに高強度鋼板にめっき処理を施してもよい。例えば、めっき処理としては、溶融亜鉛めっき処理、溶融亜鉛めっき後に合金化を行う処理を例示できる。また、焼鈍と亜鉛めっきを1ラインで連続して行ってもよい。その他、Zn-Ni電気合金めっき等の電気めっきにより、めっき層を形成してもよいし、溶融亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっきを施してもよい。なお、亜鉛めっきの場合を中心に説明したが、Znめっき、Alめっき等のめっき金属の種類は特に限定されない。
なお、溶融亜鉛めっき処理を施すときは、高強度鋼板を、440℃以上500℃以下の亜鉛めっき浴中に浸漬して溶融亜鉛めっき処理を施した後、ガスワイピング等によって、めっき付着量を調整する。溶融亜鉛めっきはAl量が0.10質量%以上0.23質量%以下である亜鉛めっき浴を用いることが好ましい。また、亜鉛めっきの合金化処理を施すときは、溶融亜鉛めっき後に、470℃以上600℃以下の温度域で亜鉛めっきの合金化処理を施す。470℃未満では、Zn-Fe合金化速度が過度に遅くなってしまい、生産性が損なわれる。一方、600℃を超える温度で合金化処理を行うと、未変態オーステナイトがパーライトへ変態し、TSが低下する場合がある。したがって、亜鉛めっきの合金化処理を行うときは、470℃以上600℃以下の温度域で合金化処理を施すことが好ましく、470℃以上560℃以下の温度域で合金化処理を施すことがより好ましい。また、電気亜鉛めっき処理を施してもよい。また、めっき付着量は片面あたり20~80g/m(両面めっき)が好ましく、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)は、下記の合金化処理を施すことによりめっき層中のFe濃度を7~15質量%とすることが好ましい。
めっき処理後のスキンパス圧延での圧下率は、0.1%以上2.0%以下の範囲が好ましい。0.1%未満では効果が小さく、制御も困難であることから、これが良好範囲の下限となる。また、2.0%を超えると、生産性が著しく低下するので、これを良好範囲の上限とする。スキンパス圧延は、オンラインで行っても良いし、オフラインで行っても良い。また、一度に目的の圧下率のスキンパスを行っても良いし、数回に分けて行っても構わない。
その他の製造方法の条件は、特に限定しないが、生産性の観点から、上記の焼鈍、溶融亜鉛めっき、亜鉛めっきの合金化処理などの一連の処理は、溶融亜鉛めっきラインであるCGL(Continuous Galvanizing Line)で行うのが好ましい。溶融亜鉛めっき後は、めっきの目付け量を調整するために、ワイピングが可能である。なお、上記した条件以外のめっき等の条件は、溶融亜鉛めっきの常法に依ることができる。
表1に示す成分組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にてスラブとした。次いで、得られた表2に示した条件で、スラブを加熱して、熱間圧延後に酸洗処理を施した後、冷間圧延を施し、焼鈍処理を施し、高強度冷延鋼板(CR)を得た。さらに、一部の高強度冷延鋼板にめっき処理を施し、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、および、電気亜鉛めっき鋼板(EG)を得た。溶融亜鉛めっき浴は、GIでは、Al:0.14~0.19質量%含有亜鉛浴を使用し、また、GAでは、Al:0.14質量%含有亜鉛浴を使用し、浴温は470℃とした。めっき付着量は、GIでは、片面あたり45~72g/m(両面めっき)程度とし、また、GAでは、片面あたり45g/m(両面めっき)程度とした。また、GAは、めっき層中のFe濃度を9質量%以上12質量%以下とした。めっき層をZn―Niめっき層とするEGでは、めっき層中のNi含有量を9質量%以上25質量%以下とした。
以上のようにして得られた高強度冷延鋼板および各めっき鋼板を供試鋼として、以下の試験方法に従い、引張特性、およびせん断端面の耐曲げ割れ特性を評価した。
引張試験
引張試験は、圧延方向と垂直方向が試験片の長手となるように、JIS5号試験片(標点距離50mm、平行部幅25mm)を採取し、JIS Z 2241に従って試験した。クロスヘッド速度が1.67×10-1mm/sの条件で引張試験を行い、YS、TSおよびElを測定した。なお、本発明では、TSで1180MPa以上を合格と判断した。伸びはElで8%以上を合格と判断した。また、高降伏比を有する鋼板とは、降伏比(YR)が85%以上を有する鋼板と判断した。なお、YRは、YR=100×YS/TSで算出した。
せん断端面の耐曲げ割れ特性
せん断端面の耐曲げ割れ特性は、せん断加工された2mm×30mm×100mmの試験片を採取し、JIS Z 2248のVブロック法に従って試験を行い、せん断端面に割れや亀裂が発生しない最小曲げ半径Rを測定した。なお、曲げ方向は試験片長手方向である。最小曲げ半径(R)を板厚(t)で除した値をR/tとした。R/tが5.0以下となる場合をせん断端面の耐曲げ割れ特性に優れると判断した。ここで、亀裂発生有無は、曲げ頂点の稜線部をデジタルマイクロスコープ(RH-2000:株式会社ハイロックス製)を用いて、40倍の倍率で測定することにより評価した。
また、前述した方法にしたがって、マルテンサイトの面積率、残留オーステナイト量(体積率)、ポリゴナルフェライトの面積率、および残留オーステナイト中の炭素濃度Cγおよび残留オーステナイトの平均粒径Dγを求めた。また、残部組織についても組織観察で確認した。
結果を表3に示す。
Figure 0007298647000001
Figure 0007298647000002
Figure 0007298647000003
表3に示すように、本発明例では、TSが1180MPa以上であり、伸びおよびせん断端面の耐曲げ割れ特性に優れ、高降伏比を有している。一方、比較例では、強度(TS)、降伏比(YR)、伸び(El)、せん断端面の耐曲げ割れ特性のいずれか一つ以上が劣っている。

Claims (5)

  1. 成分組成が、質量%で、
    C:0.15%以上0.30%以下、
    Si:0.80%以上2.40%以下、
    Mn:2.30%以上3.50%以下、
    P:0.001%以上0.100%以下、
    S:0.0200%以下、
    Al:0.500%以下および
    N:0.0100%以下を含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    鋼組織として、マルテンサイトの面積率が80%以上、
    残留オーステナイト量が5%以上15%以下、
    ポリゴナルフェライトの面積率が5%以下(0%を含む)であるミクロ組織を有し、
    マルテンサイト中の転位密度が4.0×1015-2以上であり、
    さらに、残留オーステナイト中の炭素濃度Cγと残留オーステナイトの平均粒径Dγが下記式(1)を満たすことを特徴とする高強度鋼板。
    Cγ[%]/Dγ[μm]≧0.40 ・・・(1)
  2. さらに、質量%で、
    Cr:1.00%以下、
    Nb:0.100%以下、
    V:0.100%以下、
    Ti:0.100%以下、
    B:0.0100%以下、
    Mo:0.50%以下、
    Cu:1.00%以下、
    Ni:0.50%以下、
    As:0.100%以下
    Sb:0.050%以下、
    Sn:0.050%以下、
    Ta:0.050%以下、
    Ca:0.0100%以下、
    Mg:0.0100%以下、
    Zn:0.020%以下、
    Co:0.020%以下、
    Zr:0.020%以下
    およびREM:0.0100%以下
    のうちから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板。
  3. さらに、鋼板表面にめっき層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度鋼板。
  4. 請求項1または2に記載の高強度鋼板の製造方法であって、
    請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1100℃以上1300℃以下として30min以上均熱保持した後に熱間圧延を施して熱延板とし、次いで前記熱延板を巻取温度:350℃以上630℃以下で巻き取り、次いで前記熱延板に酸洗を施し、酸洗後の前記熱延板に、冷間圧延時の最大張力が98MPa以上となるように冷間圧延を施して冷延板とし、
    次いで、加熱温度:Ta温度以上900℃以下まで加熱し、前記加熱温度域で10s以上600s以下均熱保持したのち、冷却停止温度:Tb温度-250℃以上Tb温度-100℃以下まで冷却し、次いで再加熱温度:300℃以上450℃以下まで再加熱を施し、
    前記冷却から再加熱までの工程において300℃以下の温度域に鋼板が保持される時間を50s以下とし、
    前記再加熱後、平均冷却速度:0.010℃/s以上5.000℃/s以下での冷却を100s以上行う焼鈍を行うことを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
    なお、Ta温度およびTb温度は下記式で表す。
    Ta温度(℃)=944-203×[%C]1/2+25×[%Si]-30×[%Mn]+120×[%Al]-20×[%Cu]+11×[%Cr]+400×[%Ti]
    Tb温度(℃)=561-474×[%C]-33×[%Mn]-17×[%Cr]
    ただし、[%元素]は各元素の含有量(質量%)を表し、含有しない場合は0とする。
  5. 前記焼鈍後に、めっき処理を施すことを特徴とする請求項4に記載の高強度鋼板の製造方法。
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