以下、図面を参照して、本発明の形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成方法、形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成装置、形鋼の断面寸法の予測方法、形鋼の断面寸法の制御方法、および形鋼の製造方法の一実施形態について、具体的に説明する。
本実施形態の形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成方法、形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成装置、形鋼の断面寸法の予測方法、形鋼の断面寸法の制御方法、および形鋼の製造方法は、加熱炉により加熱された鋼片を複数パスで熱間圧延して、同一断面寸法のH形鋼(形鋼)を連続して製造するときに、所定のパスにおける圧延操業パラメータを修正してH形鋼の断面寸法の精度を向上させるために用いられる。
図1に、H形鋼の断面寸法を示す。本実施形態では、H形鋼の断面寸法として、ウェブ厚tw、上下左右四ヶ所のフランジ厚tf、ウェブ高さH、左右二つのフランジ幅Bを制御対象とする。また、本実施形態では、同一断面寸法とは、H形鋼のウェブ厚tw、フランジ厚tf、ウェブ高さH、フランジ幅Bの各々が、日本工業規格JISG3192に規定される標準寸法から、同規格に規定される許容差内に収まっていることを意味するものとする。
通常、鋼片を熱間圧延して形鋼を製造するときは、同一断面寸法の形鋼を複数まとめて連続して圧延する。形鋼の熱間圧延では、製品の断面寸法に応じた専用の圧延ロールを用いるなど、断面寸法が異なる製品を圧延する際に圧延ロールを交換する場合が多く、同一断面寸法の形鋼を複数まとめて圧延しないと効率的でないからである。また、目標とする製品の断面寸法に対応した圧延ロールに交換した際には、圧延機のハウジングとロールチョック部との接触状態が変化するなどにより、圧延機の剛性も変化する場合が多い。したがって、圧延ロールを交換した後に、最初に圧延される形鋼から良好な断面寸法の製品を得ることが難しい場合がある。最初に圧延された形鋼の断面寸法が、標準寸法から許容差内に収まっていない場合や、許容差内に収まっていても許容差の限度に近い場合には、以降の圧延において圧延操業パラメータを修正し、形鋼の断面寸法の精度を高めることが行われる。従来の方法では、所定の断面寸法の形鋼を製造する際に、製品の許容差内に収まるようにするには、最初に圧延される形鋼を含めて2、3本の形鋼を圧延しながら圧延条件の調整が必要であった。また、過去の製造実績が少ない断面寸法の形鋼を圧延する場合や、より高精度な断面寸法を得るためには、3~5本を圧延する際に圧延条件の調整が必要となる場合があった。特に、鋼板の熱間圧延と異なり、形鋼の熱間圧延では、複数の部位の寸法を同時に所定範囲に制御する必要があること、および圧延パス数が鋼板の熱間圧延に比べて大きいという特徴があるため、圧延ロールを交換した後の1本目の圧延から許容差内に収めることが困難である。
さらに、H形鋼のように断面寸法が異なる製品群を求められる場合に、ウェブ厚twとフランジ厚tfが異なる複数の断面寸法の製品が存在し、これらを圧延ロールの交換を行うことなく、作り分ける場合がある。例えば、ウェブ高さH600mm、フランジ幅B300mmの外法一定H形鋼には、ウェブ厚twとフランジ厚tfの組合せとして、12mmと19mm、12mmと22mm、16mmと28mmのように複数の断面寸法の製品がある。このような形鋼を圧延する場合には、同一の断面寸法の形鋼を連続して圧延し、次の断面寸法の形鋼を製造する際には、圧延ロールの交換を行うことなく、圧延パス数や各圧延パスにおけるロール開度の設定を変更して圧延を行う。このため、断面寸法が異なる製品の圧延に移行した際には、各パスの圧延材の温度や圧下率が変化するため、異なる断面寸法の製品に移行した際の1本目からは、良好な寸法精度の製品を得ることが難しい場合がある。このように圧延ロールを交換することなく、圧延パス数や各圧延パスにおけるロール開度の設定変更によって、断面寸法が異なる製品の圧延に移行する場合には、それ以降の圧延で同一断面寸法の形鋼を連続して圧延することになる。
一方、同一の断面寸法の形鋼であっても、製造する製品の鋼種を変更する場合がある。同一の鋼種の形鋼を一定数連続的に圧延した後に、同一の断面寸法であって他の鋼種の形鋼を連続的に圧延する場合もある。この場合、形鋼の鋼種が変わると、圧延時に変形抵抗および圧延荷重が変化して圧延パス数が増減する場合がある。この場合に、同一断面寸法であっても鋼種が変更されることにより圧延パス数が増減する製造条件に移行する場合には、ここでは「同一断面寸法の形鋼を複数まとめて連続して圧延する場合」には該当しないものとして、鋼種が変更されてから同一の圧延パス数の下で同一断面寸法の形鋼を連続して圧延する場合に、本実施形態に係る形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成方法等が適用される。
本実施形態の形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成方法、形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成装置、形鋼の断面寸法の予測方法、形鋼の断面寸法の制御方法、および形鋼の製造方法は、このような同一断面寸法の形鋼を複数まとめて連続して圧延する場合に用いられる。
<形鋼の製造工程>
まず、本実施形態の形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成方法、形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成装置、形鋼の断面寸法の予測方法、形鋼の断面寸法の制御方法、および形鋼の製造方法が適用される、H形鋼の製造工程について説明する。
図2に、本実施形態の形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成方法、形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成装置、形鋼の断面寸法の予測方法、形鋼の断面寸法の制御方法、および形鋼の製造方法が適用される、H形鋼の圧延設備10のレイアウトを、模式的に示す。
素材となる鋼片は、加熱炉(図示せず)により、所定の加熱温度(例えば1100~1300℃程度)に予め加熱された上で、粗圧延、中間圧延、仕上圧延を含む熱間圧延を施されて、所定の断面寸法を有する形鋼に成形される。本実施形態のような、H形鋼の熱間圧延では、素材が粗圧延機1により断面H形状に粗造形され、粗造形材が中間圧延機群2、3により中間圧延され、さらに仕上圧延機4で仕上圧延されて、製品の断面寸法に成形される。
粗圧延では、複数の孔型が設けられた、上下一対の孔型ロールを有する粗圧延機1により、5~30パス程度の粗圧延が施される。
中間圧延では、中間圧延機群として、図2に示すように、粗ユニバーサル圧延機2とエッジャ圧延機3のそれぞれ1台以上の組み合わせが用いられることが多く、5~30パス程度のリバース圧延を行い、概ね製品の断面寸法となるまで成形される。
粗ユニバーサル圧延機2は、水平な軸心に対して回転するように駆動される上下一対の水平ロールと、垂直な軸心に対して自由回転する左右一対の竪ロールの、計四本のロールを有する。粗ユニバーサル圧延機2は、H形鋼のウェブ厚とフランジ厚を同時に圧下する機能を有しており、例えばフランジが外側に最大10°程度傾斜する状態に圧延する。水平ロールは、H形鋼のウェブ高さに対応する幅を有するものが選択されて、ユニバーサル圧延機2に組み込まれる。水平ロールの直径は、例えば500~1500mm程度であり、竪ロールの直径は、例えば400~1000mm程度である。水平ロールおよび竪ロールの圧下位置は修正可能な構造となっており、上下の水平ロール間の間隔、水平ロールの軸方向相対位置や、水平ロール側面と竪ロールとの間隔を任意に調整できる。代表例としては、上下の水平ロール間の間隔は0~200mmの範囲で調整でき、水平ロールの軸方向相対位置は-50~+50mmの範囲で変位させることができ、水平ロール側面と竪ロールとの間隔は0~300mmの範囲で調整できる。
エッジャ圧延機3は、水平な軸心に対して回転するように駆動される上下一対の水平ロールを有する。エッジャ圧延機3の水平ロールの直径は、例えば800~1500mm程度である。各水平ロールには孔型が設けられ、フランジの先端を上下から圧下することでフランジ幅を修正する。
仕上圧延では、仕上圧延機4により、中間圧延された圧延材を通常は1パスで圧延して、ウェブ厚tw、フランジ厚tf、ウェブ高さH、フランジ幅B等の断面寸法を、H形鋼製品の断面寸法に仕上げる。仕上圧延機としては、粗ユニバーサル圧延機2と略同様の構成を有する仕上ユニバーサル圧延機4が用いられる。仕上ユニバーサル圧延機4では、仕上圧延後のフランジが垂直になるように、水平ロールの側面と竪ロールの角度がほぼ垂直に設定されている。
同一断面寸法のH形鋼(形鋼)を連続して圧延するときは、粗圧延、中間圧延、仕上圧延の各々の圧延工程における圧延パス数は変化しない。
上述の熱間圧延により製造されたH形鋼は、仕上圧延機4の下流に設置された熱間寸法計5により、断面寸法が測定される。このとき、H形鋼の全長にわたって、できるだけ小さい間隔で断面寸法を測定することが好ましい。
<形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成方法>
次に、本実施形態の形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成方法について説明する。
本実施形態の形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成方法では、鋼片を複数パスで熱間圧延して、同一断面寸法の形鋼を連続して製造するときの、複数パスから選択された寸法同定パスにおける圧延操業パラメータを、形鋼の先行圧延材と後行圧延材の各々について取得する。また、熱間圧延後の形鋼の断面寸法を、先行圧延材と後行圧延材の各々について測定する。そして、先行圧延材と後行圧延材の寸法同定パスにおける圧延操業パラメータの差分と、熱間圧延後の先行圧延材と後行圧延材の断面寸法の差分との関係を機械学習させて、寸法同定パスにおける圧延操業パラメータの修正量に対応する熱間圧延後の形鋼の断面寸法の変化量を予測する予測モデルを生成する。
(寸法同定パス)
ここで、圧延操業パラメータを取得する寸法同定パスは、熱間圧延における粗圧延、中間圧延、仕上圧延の全ての圧延パスから選択された、一つまたは複数のパスである。
粗圧延機1による粗圧延、中間圧延機群2、3による中間圧延、および仕上圧延機4による仕上圧延を含む熱間圧延のうち、特に中間圧延では、粗造形材が複数パスで圧延されて、概ね製品の断面寸法となるまで成形されるため、中間圧延における圧延操業パラメータの制御は、H形鋼製品の断面寸法の精度に大きく影響する。したがって、「寸法同定パス」は、中間圧延機群、すなわち粗ユニバーサル圧延機2およびエッジャ圧延機3による中間圧延の圧延パスから選択された複数のパスであることが好ましい。
さらに、寸法同定パスは、中間圧延機群2、3のうち、H形鋼のウェブ厚とフランジ厚を同時に圧下する粗ユニバーサル圧延機2による圧延パスから選択された複数のパスであることが特に好ましい。
(圧延操業パラメータ)
圧延操業パラメータとは、加熱炉(図示せず)から、図2に示す形鋼の圧延設備10の仕上圧延機4による圧延が終了するまでの間に、圧延材の寸法に影響を与え得る操業条件の指標をいう。例えば、各圧延パスにおけるロール隙間の設定値は圧延材の寸法に影響を与え、圧延荷重は圧延機の弾性変形(例えばミルストレッチ)を通じて圧延材の寸法に影響を与える。さらに、圧延材の温度は圧延材の変形抵抗を通じて圧延荷重および圧延材の寸法に影響を与える。ただし、圧延操業パラメータはこれらに限定されず、圧延機に併設される高圧水を用いたデスケーリング装置の噴射条件は、圧延材の表面に生成する酸化物の厚みなどを変化させることにより、圧延ロールと圧延材との界面における摩擦状態に影響を与えることにより圧延荷重および圧延材の寸法に影響を与える。
そのため、本実施形態における圧延操業パラメータとしては、寸法同定パスにおける圧延ロール位置の設定値、寸法同定パスの各パスにおける圧延時間(圧延材の先端がロールに噛みこんでから抜けるまでの時間)、寸法同定パスにおけるパス間時間(圧延材の尾端がロールから抜けてから次パスの先端が噛みこむまでの時間)、寸法同定パスにおける鋼片の加熱炉からの抽出後の経過時間等、寸法同定パスにおける圧延操業状態を示す各種パラメータを用いることができる。ここで、本実施形態において、圧延材の先端とは各圧延パスの進行方向の圧延材の先端部を指し、圧延材の尾端とは各圧延パスの進行方向の圧延材の後端部を指す。リバース圧延では、進行方向が変わる毎に圧延材の先端と尾端が入れ替わる。また、圧延パスにおける上流とは、一連の圧延工程において、相対的に先に実行される圧延パスを指す。このとき、各圧延パスが同一の圧延機で実行されるか否かに関係はない。
圧延操業パラメータとして用いる、圧延ロール位置の設定値としては、粗圧延の各パスにおける水平ロール間の開度および水平ロールの軸方向相対位置、中間圧延の粗ユニバーサル圧延機の各パスにおける水平ロール間の開度、水平ロールの軸方向相対位置および竪ロールと水平ロール側面間の開度、中間圧延のエッジャ圧延機の各パスにおける水平ロール間の開度、水平ロールの軸方向相対位置および竪ロールの高さ方向位置に対する水平ロールの高さ方向相対位置、ならびに仕上圧延の仕上ユニバーサル圧延機における水平ロール間の開度、竪ロールと水平ロール側面間の開度および水平ロールの軸方向位置が挙げられる。
具体的には、粗圧延の各パスにおける水平ロール間の開度は、粗圧延終了時の圧延材の断面寸法に直接的に影響する。また、水平ロールの軸方向相対位置を変更すると、圧延材の断面の上下に水平方向のずれを引き起こし、圧延材の断面寸法を変化させる。
中間圧延の粗ユニバーサル圧延機でも、各パスにおける水平ロール間の開度および竪ロールと水平ロール側面間の開度が、圧延材の断面寸法に直接的に影響する。また、水平ロールの軸方向相対位置および竪ロールの高さ方向位置に対する水平ロールの高さ方向相対位置は、特許文献2に記載されるとおり、上下左右四ヶ所のフランジ厚のばらつきに影響する。このとき、形鋼の圧延では断面内の位置により厚さや圧下率が異なることになるが、形鋼の長手方向には圧延材が連続していることに起因して、断面内の位置ごとの変形が他の位置の変形に影響を与えるという特徴がある。そのため、H形鋼のウェブでの塑性変形が、フランジ幅に対して影響を与えるといった、形鋼の断面内の特定の位置での変形と、他の位置での変形に相互作用が存在するため、圧延操業パラメータとしては、2以上のパラメータを用いて断面寸法変化を予測するようにするのが好ましい。例えば、粗ユニバーサル圧延機の上下の水平ロール間の開度および水平ロール側面と竪ロールとの開度を共に圧延操業パラメータとするのが好ましい。
中間圧延のエッジャ圧延機の各パスにおける上下の水平ロール間の開度はフランジ幅に影響する。また、エッジャ圧延機の水平ロールの水平方向の傾き(圧延機の作業側と駆動側のロール軸心の高さ方向の変位差)は、レベリング量とも呼ばれ、左右フランジを圧下する位置でのロール開度に左右の差を生じさせるため、左右フランジ幅のばらつきに影響する。さらに、水平ロールの軸方向相対位置は、左右フランジ幅の寸法を不揃いにする場合がある。
仕上ユニバーサル圧延機は、一般的には、軽圧下の圧延で圧延材を製品の断面寸法に成形する役割を担っているが、製品の断面寸法に仕上げる最後の圧延であり、粗ユニバーサル圧延機と同様に、水平ロール間の開度、竪ロールと水平ロール側面間の開度および水平ロールの軸方向位置が、製品の断面寸法に直接的に影響する。
また、寸法同定パスの各パスにおける圧延時間、寸法同定パスにおけるパス間時間および鋼片の加熱炉からの抽出後の経過時間は、寸法同定パスの各パスにおける圧延材の温度や内部の温度分布に影響を与えることにより、製品の断面寸法に影響を与えるため、本実施形態における圧延操業パラメータに含むものとする。
なお、圧延操業パラメータとして、鋼片の重量、鋼片の加熱前の寸法、鋼片の加熱温度(加熱炉の温度)、鋼片の加熱時間(加熱炉内での在炉時間)を含めてもよい。鋼片の重量や加熱前の鋼片の寸法は、寸法同定パスの各パスにおける圧延時間に影響を与え、加熱温度や加熱時間も、寸法同定パスの各パスにおける圧延材の温度や内部の温度分布に影響を与えることから、これらも圧延操業パラメータに用いることができる。
具体的には、各パスにおける圧延材の温度は、圧延材の変形抵抗を変化させるため、圧延荷重に影響を与え、さらに圧延荷重の大小が圧延機のロール開度を変化させるので、結果的に製品の断面寸法に影響する。また、加熱温度や加熱時間は、圧延材の表面に生成する酸化スケールの厚さ組成および構造を変化させる要因であり、酸化スケールの性状は圧延時の摩擦係数に影響するため、圧延荷重の増減を引き起こし、結果的に製品の断面寸法に影響する。
寸法同定パスの各パスにおける圧延材の温度を測定可能な場合には、寸法同定パスの各パスにおける圧延材の温度を圧延操業パラメータに含めてもよい。
(圧延操業パラメータの差分)
圧延操業パラメータの差分とは、先行圧延材の圧延時と後行圧延材の圧延時の、寸法同定パスにおける同一種類の圧延操業パラメータの差分を意味する。例えば、先行圧延材の中間圧延の粗ユニバーサル圧延機の所定のパスにおける、水平ロール間の開度または竪ロールと水平ロール側面間の開度と、後行圧延材の中間圧延の粗ユニバーサル圧延機の対応するパスにおける、水平ロール間の開度または竪ロールと水平ロール側面間の開度との差分である。
圧延操業パラメータとして、寸法同定パスにおける圧延ロール位置の設定値、寸法同定パスの各パスにおける圧延時間、寸法同定パスにおけるパス間時間、または寸法同定パスにおける鋼片の加熱炉からの抽出後の経過時間を用いる場合は、これらの圧延操業パラメータの差分は、各圧延機の圧下位置や圧延速度等をオペレータが随時設定変更することによって発生する。
形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成においては、後述のとおり、圧延操業パラメータをそのまま用いるのではなく、圧延操業パラメータの差分を用いて、機械学習を行う。これは、形鋼の熱間圧延では、圧延ロールを必要に応じて組み替えるため、先行圧延材の圧延操業パラメータの値をそのまま用いて後行圧延材の圧延を行っても、同じ圧延結果が得られない場合が多いためである。
例えば、圧延ロールの組み替えを行う前と後では、同一の設定値とした場合であっても、実際には設定値の基準となる基準状態(例えばゼロ点の設定状態)が変化してしまうため、圧延操業パラメータをそのまま用いると、同一の断面寸法が得られない場合が多い。また、圧延ロールの組み替えをしない場合であっても、異なる断面寸法の形鋼に対する圧延ロールの開度設定が変化することにより、圧延機のミルストレッチ挙動や、ハウジングとロールチョック間での摩擦特性が変化して、圧延ロールの開度と圧延荷重との関係に非線形な特性が生じる場合がある。このような場合に、圧延ロールの開度設定の値が同一であっても、形鋼の断面寸法がばらつくことが多い。
これに対して、圧延ロールの組み替えや異なる断面寸法に設定変更する際の基準状態の変化があっても、同一の断面寸法を連続して圧延する場合に限定して、圧延操業パラメータの差分を用いることによって、高い再現性を有する断面寸法変化量予測モデルを生成することができる。すなわち、先行圧延材の圧延操業パラメータを基準とし、先行圧延材と後行圧延材の圧延操業パラメータの差分を用いることで、圧延操業パラメータの修正量に対応する熱間圧延後の形鋼の断面寸法の変化量を、より正確に予測できる。
一方、圧延操業パラメータとして、鋼片の重量、鋼片の加熱前の寸法、鋼片の加熱温度、鋼片の加熱時間を用いる場合には、圧延操業パラメータの差分はそれぞれ、先行圧延材と後行圧延材の鋼片の重量の差分、先行圧延材と後行圧延材の鋼片の加熱前の寸法の差分、先行圧延材と後行圧延材の鋼片の加熱温度の差分、先行圧延材と後行圧延材の鋼片の加熱時間の差分である。鋼片の重量または鋼片の加熱前の寸法についての差分は、圧延材毎のばらつきにより発生する。また、鋼片の加熱温度または鋼片の加熱時間の差分は、先行材の生産能率等によって発生する。
ただし、鋼片の加熱温度、鋼片の加熱時間については、必ずしも寸法同定パスにおける圧延操業パラメータとして用いなくてもよく、本実施形態における先行圧延材と後行圧延材の寸法同定パスにおける圧延操業パラメータの差分とは別に、独立した操業パラメータとして、形鋼の断面寸法変化量予測モデルの入力値に用いてもよい。
(熱間圧延後の先行圧延材と後行圧延材の断面寸法の差分)
H形鋼の断面寸法の制御は、通常、ウェブ厚tw、上下左右四ヶ所のフランジ厚tf、ウェブ高さH、左右二つのフランジ幅Bを対象として行われ、本実施形態でも同様に行う。これら各寸法には、上述のとおり、目標値となる標準寸法および許容差が規定されている。したがって、ウェブ厚tw、上下左右四ヶ所のフランジ厚tf、ウェブ高さH、左右二つのフランジ幅Bの全てを測定して、その測定値を後述する形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成に用いることが好ましい。ただし、必要に応じて、ウェブ厚tw、上下左右四ヶ所のフランジ厚tf、ウェブ高さH、左右二つのフランジ幅Bから一つまたは二つ以上を選択して用いてもよい。
図2に示す形鋼の圧延設備10において、仕上圧延機4の下流に設置された熱間寸法計5によって測定されるH形鋼の断面寸法は、熱間における寸法であるので、H形鋼製品が室温まで冷却されると熱収縮により断面寸法が変わる。そこで、熱間寸法計5自体により、または熱間寸法計5の近傍に別途温度計を設置して、H形鋼の断面寸法の測定と同時に温度も測定し、この温度と線膨張係数を用いて冷却による熱収縮を予測し、室温における断面寸法に換算してもよい。
形鋼の断面寸法としては、例えば、H形鋼の全長にわたり所定間隔で測定された複数の断面寸法の平均値を用いることができる。あるいは、H形鋼の先端と尾端から数メートルの範囲の非定常部以外において、H形鋼の長さ方向に所定間隔で測定された断面寸法の平均値を用いてもよい。または、H形鋼の長さ方向の所定の複数の位置で測定された断面寸法の平均値を用いてもよく、H形鋼の長さ方向の所定の位置一ヶ所(例えば長さ方向中央位置)で測定された断面寸法を用いてもよい。
熱間圧延後の先行圧延材と後行圧延材の断面寸法の差分は、ウェブ厚tw、上下左右四ヶ所のフランジ厚tf、ウェブ高さH、左右二つのフランジ幅Bの各寸法のうち、同じ部位の寸法の差分である。例えば、先行圧延材のウェブ厚と後行圧延材のウェブ厚の差分である。
熱間圧延後の先行圧延材と後行圧延材の断面寸法の差分は、上述の先行圧延材と後行圧延材の寸法同定パスにおける圧延操業パラメータの差分と対応付けられる。すなわち、先行圧延材と後行圧延材の寸法同定パスにおける圧延操業パラメータの差分を取得し、これと同じ先行圧延材と後行圧延材について、先行圧延材と後行圧延材の断面寸法の差分を取得し、両者を対応付けて入力することで、先行圧延材と後行圧延材の圧延操業パラメータの差分と、先行圧延材と後行圧延材の断面寸法の差分との関係を機械学習させる。
ただし、先行圧延材と後行圧延材の圧延操業パラメータの差分を実績値として取得する場合に、先行圧延材と後行圧延材とで長手方向における実績値の取得位置は必ずしも同一である必要はない。例えば、先行圧延材の圧延操業パラメータとして、先行圧延材の先端から10m離れた位置で取得した圧延操業パラメータの実績値と、後行圧延材の先端から15m離れた位置で取得した圧延操業パラメータの実績値との差分を用いてもよい。圧延材の長手方向における定常部で取得した実績値であれば、圧延操業パラメータの実績値を取得する位置までは同一位置にする必要はなく、先行圧延材と後行圧延材の圧延操業状態を代表するパラメータの差分を用いてもよい。
(他の入力値)
形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成のための機械学習に用いられる入力値としては、先行圧延材と後行圧延材の寸法同定パスにおける圧延操業パラメータの差分と、先行圧延材と後行圧延材の断面寸法の差分に加えて、形鋼の材料属性パラメータを用いてもよい。形鋼の材料属性パラメータとは、熱間圧延後の形鋼の断面寸法の精度に影響を与えるが、同一断面寸法の形鋼を連続して圧延するときの先行圧延材と後行圧延材との圧延操業パラメータの差分としては現われないパラメータを指し、例えば、熱間圧延における形鋼の断面寸法の目標値、形鋼の鋼種、成分組成等が挙げられる。
形鋼の断面寸法の目標値が変わると、熱間圧延のパススケジュールも変化して、熱間圧延後の形鋼の断面寸法に影響する。また、形鋼の鋼種や成分組成は、変形抵抗を変化させる要因であるとともに、加熱により圧延材の表面に生成する酸化スケールの厚さ組成および構造を変化させる要因であり、酸化スケールの性状は圧延時の摩擦係数に影響するため、圧延荷重の増減を引き起こし、結果的に製品の断面寸法に影響する。
具体的には、各パスにおける圧延材の温度が変わると、圧延材の変形抵抗が変化するため、圧延荷重に影響を与え、さらに圧延荷重の大小が圧延機のロール開度も変化するので、結果的に製品の断面寸法に影響する。また、加熱温度や加熱時間は、圧延材の表面に生成する酸化スケールの厚さ組成および構造を変化させる要因であり、酸化スケールの性状は圧延時の摩擦係数に影響するため、圧延荷重の増減を引き起こし、結果的に製品の断面寸法に影響する。
形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成のための機械学習に用いられる入力値として、形鋼の材料属性パラメータを含めることにより、異なる断面寸法を有する多種類の形鋼に対して汎用的に適用可能な断面寸法変化量予測モデルを生成できる。したがって、多種類の形鋼の各々について個別に断面寸法変化量予測モデルを生成するよりも、断面寸法変化量予測モデルの適用範囲を拡大できる。
形鋼の材料属性パラメータとしては、予め設定された目標値を用いてもよく、素材となる鋼片の製造段階で測定された化学成分等の実績値を用いてもよい。
(断面寸法変化量予測モデルの生成装置)
図3に、本実施形態の形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成方法、形鋼の断面寸法の予測方法、形鋼の断面寸法の制御方法、および形鋼の製造方法を実行するために用いられる形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成装置15を含むシステムの全体構成を示す。
図3に示すように、形鋼の断面寸法変化量予測モデルの生成装置15は、圧延操業パラメータ収集部31と、断面寸法収集部41と、断面寸法変化量予測モデル生成部20とを備えて、構成されている。
圧延操業パラメータ収集部31は、先行圧延材の圧延時に、圧延工程において、各圧延機1~4および各圧延機1~4の制御用コンピュータから、圧延操業パラメータを収集する。圧延操業パラメータとして、鋼片の重量、鋼片の加熱前の寸法、鋼片の加熱温度、鋼片の加熱時間を用いる場合には、圧延操業パラメータ収集部31は、加熱炉(図示せず)および加熱炉の制御用コンピュータ等から、これらの情報も収集する。
圧延操業パラメータ収集部31により収集された圧延操業パラメータは、圧延操業パラメータ差分計算部32に送られ、先行圧延材の圧延操業パラメータの実績値として、いったん記憶される。次いで、後行圧延材の圧延が行われると、先行圧延材の圧延時と同様に、圧延操業パラメータ収集部31により、後行圧延材の圧延操業パラメータが収集され、圧延操業パラメータ差分計算部32に送られる。
圧延操業パラメータ差分計算部32は、先行圧延材と後行圧延材の圧延が、同一断面寸法の形鋼を製造するためのものであったか否かを判定する。この判定は、先行圧延材と後行圧延材の材料属性パラメータが同一であるか否かや、寸法同定パスにおける圧延パス数が先行圧延材と後行圧延材で同じであるか否か等に基づいて行われる。形鋼の材料属性パラメータは、例えば、上位計算機70に格納されているものを取得して用いることができる。
先行圧延材と後行圧延材の圧延が同一断面寸法の形鋼の圧延であると判定された場合には、圧延操業パラメータ差分計算部32により、先行圧延材と後行圧延材の圧延操業パラメータの差分が計算され、断面寸法変化量予測モデル生成部20内のデータベース21に送られる。
先行圧延材と後行圧延材の圧延が同一断面寸法の形鋼の圧延ではないと判定された場合には、圧延操業パラメータ差分計算部32は、先行圧延材と後行圧延材の圧延操業パラメータの差分の計算は行わない。そして、後行圧延材は、新たな断面寸法の形鋼の圧延であったものとして、その圧延操業パラメータは、新たな断面寸法の形鋼の圧延における先行圧延材の圧延操業パラメータの実績値として、圧延操業パラメータ差分計算部32にいったん記憶される。
また、仕上圧延機4の下流に設置された熱間寸法計5によって測定された、先行圧延材の断面寸法の測定値は、断面寸法収集部41に送られ、熱間圧延後の形鋼の断面寸法の実績値としていったん記憶される。同様に、熱間寸法計5によって測定された、後行圧延材の断面寸法の測定値も、断面寸法収集部41に送られ、熱間圧延後の形鋼の断面寸法の実績値としていったん記憶される。そして、断面寸法差分計算部42は、上述の圧延操業パラメータ差分計算部32による処理を利用して、先行圧延材と後行圧延材の圧延が、同一断面寸法の形鋼を製造するためのものであったか否かを判定する。
先行圧延材と後行圧延材の圧延が同一断面寸法の形鋼の圧延であると判定された場合には、先行圧延材と後行圧延材の断面寸法の差分が計算されて、断面寸法変化量予測モデル生成部20内のデータベース21に送られる。
断面寸法変化量予測モデル生成部20、圧延操業パラメータ収集部31、圧延操業パラメータ差分計算部32、断面寸法収集部41、断面寸法差分計算部42は、例えば、汎用パーソナルコンピュータに、上述の各処理を実行可能なプログラムをインストールすることにより実現される。
データベース21には、実績値として、圧延操業パラメータの差分と断面寸法の差分とが対応付けられた複数組のデータセットが蓄積される。このデータセットには、先行圧延材と後行圧延材とで共通する材料属性パラメータが含まれてもよい。データベース21には、少なくとも100組以上、好ましくは500組以上、より好ましくは700組以上のデータセットが蓄積されることが好ましい。断面寸法変化量予測モデルの入力値として、形鋼の材料属性パラメータも含める場合には、3000組以上のデータセットが蓄積されることが好ましい。
次いで、上述のようにしてデータベース21に格納されたデータセットは、断面寸法変化量予測モデル生成部20の機械学習部22に入力される。そして、断面寸法変化量予測モデル生成部20は、機械学習部22において、先行圧延材と後行圧延材の寸法同定パスにおける圧延操業パラメータの差分と、先行圧延材と後行圧延材の断面寸法の差分との関係を機械学習して、寸法同定パスにおける圧延操業パラメータの修正量に対応する断面寸法の変化量を予測する予測モデルを生成する。
機械学習においては、公知のアルゴリズム、例えば、ニューラルネットワーク等を用いることができる。特に、深層学習を用いると、多重共線性の問題を考慮せず自由に入力値を選択できるため、寸法同定パスにおける複数の圧延パスでの圧下位置等を全体的に変更した場合のデータが含まれていても、断面寸法変化量を精度よく予測することができる。また、圧延操業パラメータの変化に対する断面寸法変化量の変化が非線形の特性を有していても、予測精度が悪化することがない。
機械学習の他のアルゴリズムとしては、例えば、決定木学習、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰、ガウス過程、近傍法等も用いることができる。形鋼の断面寸法変化量予測モデルは、最新の学習結果により、随時更新される。
<形鋼の断面寸法の予測方法>
上述のようにして生成された形鋼の断面寸法変化量予測モデルをオンラインに適用して、先行圧延材の寸法同定パスにおける圧延操業パラメータ、熱間圧延後の先行圧延材の断面寸法の測定値、および後行圧延材の寸法同定パスにおける圧延操業パラメータから、熱間圧延後の後行圧延材の断面寸法を予測する。具体的には、断面寸法変化量予測モデル生成部20により生成された断面寸法変化量予測モデル、および圧延操業パラメータ収集部31により収集された後行圧延材の圧延操業パラメータが、断面寸法予測部50に送られ、この断面寸法予測部50において、後行圧延材の断面寸法の予測が行われる。
後行圧延材の断面寸法の予測に用いる断面寸法差分予測モデルは、断面寸法の予測対象とする後行圧延材と同一断面寸法の先行圧延材の形鋼の実績値を用いて生成されたものを用いる。ただし、形鋼の材料属性パラメータを入力値として用いて生成された断面寸法差分予測モデルは、断面寸法が異なる形鋼にも適用できる。
図4に、断面寸法予測部50による、後行圧延材の断面寸法の予測の処理の流れの一例を示す。後行圧延材の断面寸法の予測は、先行圧延材の断面寸法が熱間寸法計5により測定された後のタイミングで行われる。すなわち、先行圧延材の寸法同定パスにおける圧延操業パラメータおよび断面寸法の測定値が、断面寸法予測部50に送られて記憶された後のタイミングで、後行圧延材の断面寸法の予測が行われる。
後行圧延材の断面寸法の予測を行うタイミングは、後行圧延材の圧延が開始される前に限られず、後行圧延材の圧延途中であってもよい。ただし、後行圧延材の圧延途中で、後行圧延材の断面寸法の予測を行う場合は、後行圧延材における寸法同定パスの最終パスの圧延が終了する前とする。図4に示す例では、後行圧延材の寸法同定パスが1~Nパスであるものとして、後行圧延材の圧延がKパス(ただし、K<N)まで進行したタイミングで、後行圧延材の断面寸法の予測を行っている。
このタイミングで、圧延操業パラメータ収集部31は、後行圧延材の寸法同定パスの1~Kパスにおいて収集した圧延操業パラメータの実績値とともに、K+1~Nパスまでの圧延操業パラメータの設定値を記憶している。圧延操業パラメータの設定値は、各パスの圧延操業条件の初期値として設定されたものであり、上位計算機70または各圧延機1~4の制御用コンピュータにより予め定められた設定値が、圧延操業パラメータ収集部31に記憶されている。本実施形態では、K+1~Nパスまでの圧延操業パラメータの設定値として、先行圧延材のK+1~Nパスまでの圧延操業パラメータの実績値を用いている。
続いて、後行圧延材の1~Kパスまでの圧延操業パラメータの実績値と、K+1~Nパスまでの圧延操業パラメータの設定値を合わせたものと、先行圧延材における1~Nパスまでの圧延操業パラメータの実績値との差分が、圧延操業パラメータ差分計算部32によって計算される。この計算値、すなわち、1~Kパスまでの圧延操業パラメータ差分の実績値およびK+1~Nパスまでの圧延操業パラメータ差分の設定値と、断面寸法変化量予測モデルとから、断面寸法予測部50によって、断面寸法変化量の予測値が算出される。そして、断面寸法変化量の予測値が、既に測定された先行圧延材の断面寸法の測定値に合計されて、後行圧延材の断面寸法の予測値が計算される。
このようにして、後行圧延材の圧延が終了する前のタイミングで、後行圧延材の断面寸法の予測値が得られ、この後行圧延材の断面寸法の予測値が、例えばガイダンスとして操作室に表示される。そして、ガイダンスを見たオペレータが、必要に応じて、後行圧延材におけるK+1~Nパスまでの圧延操業パラメータの設定値を適宜修正する操作を行うことで、後行圧延材の断面寸法が、目標値に対して所定の許容差内に収まるようにすることができる。
このように、後行圧延材の圧延操業パラメータを手動で修正する場合には、後行圧延材の寸法同定パスにおける圧延が、少なくとも二パス以上残っているタイミングで、後行圧延材の断面寸法の予測を行うことが好ましい。これは、操作室に表示されるガイダンスを見たオペレータが、圧延操業パラメータの設定値を修正する必要があるか否かの判断を行った上で、圧延操業パラメータの設定値を修正する操作を行うのに、一定の時間を要するためである。
<形鋼の断面寸法の制御方法>
あるいは、後行圧延材の圧延操業パラメータの修正を、オペレータの手動操作で行うのではなく、これに代えて、後述のとおり自動的に行ってもよい。
この場合は、断面寸法予測部50によって予測された後行圧延材の断面寸法の予測値が、断面寸法制御部60に送られる。そして、断面寸法制御部60の断面寸法判定部61において、上位計算機70に予め設定されているH形鋼の目標寸法範囲、すなわち、H形鋼の標準寸法等の目標値から所定の許容差の範囲と比較される。形鋼の断面寸法の許容差は、形鋼の断面寸法、鋼種、製造条件、規格等に応じて個別に設定され、H形鋼の場合は、例えば、日本工業規格JISG3192に規定される許容差を用いることができる。
断面寸法判定部61により、後行圧延材の断面寸法の予測値が、目標値から所定の許容差内に収まっていると判定された場合には、既に設定されているK+1~Nパスの圧延操業パラメータの値がそのまま、各圧延機1~4の制御コンピュータに送られる。
断面寸法判定部61により、後行圧延材の断面寸法の少なくとも一つ、すなわちウェブ厚tw、上下左右四ヶ所のフランジ厚tf、ウェブ高さH、左右二つのフランジ幅Bの少なくとも一つの予測値が、これら各寸法の目標値から所定の許容差内に収まっていないと判定された場合には、断面寸法制御部60の圧延操業パラメータ修正部62により、後行圧延材の断面寸法の予測値が、目標値に対して所定の許容差内に収まるように、後行圧延材の圧延操業パラメータの設定値が修正される。
ここで、圧延操業パラメータの修正対象とする圧延パスは、上述のK+1~Nパスの中から選択されたパスとする。圧延操業パラメータの修正対象とする圧延パスは、一つでもよく、二つ以上でもよく、上述のK+1~Nパスの全てであってもよい。複数の圧延パスを対象として、圧延操業パラメータの修正を行う場合には、複数の圧延パスにおける圧下位置の修正量を同程度としたり、前段パスから後段パスに進むにつれて圧下位置の修正量を徐々に小さくしたりする等、一定の制約条件を加えて、圧延操業パラメータの修正を行ってもよい。
<形鋼の製造方法>
上述のようにして生成された断面寸法変化量予測モデルを用いて、上述のとおりH形鋼の断面寸法の予測および断面寸法の修正を行いながら、H形鋼が製造される。
これにより、後行圧延材の断面寸法を、目標値から所定の許容差内に収めることができ、不良品の発生が防止されて、H形鋼の製造における歩留と生産性が向上する。
なお、修正された圧延操業パラメータの値を、断面寸法変化量予測モデルの入力値として用いて、改めて後行圧延材の断面寸法の予測値を算出し、後行圧延材の断面寸法の再予測値が目標値から所定の許容差内に収まっているか否かを再判定して、圧延操業パラメータを修正してもよい。このような判定および修正を繰り返し行うことで、目標断面寸法の範囲が狭い場合であっても、圧延操業パラメータを適切に修正でき、形鋼を高精度で効率良く製造することが可能となる。
図2と同様の圧延設備により、鋼片を複数パスで熱間圧延して、同一断面寸法のH形鋼を連続して製造するときに、上述のとおり断面寸法変化量予測モデルを生成しH形鋼の断面寸法の修正に用いて、100本のH形鋼を製造した(本発明例)。また、断面寸法変化量予測モデルを用いずに、他は上記本発明例と同じ圧延条件で、100本のH形鋼を製造した(比較例)。そして、本発明例と比較例のH形鋼の断面寸法の精度を比較して、本発明の効果を検証した。なお、本発明例による100本のH形鋼の製造では、その間に8回の圧延ロールの組み替えを行った。比較例による100本のH形鋼の製造でも、その間に8回の圧延ロールの組み替えを行った。また、本発明例、比較例とも、圧延ロールの組み替え後に、数本から十数本の同一断面寸法の形鋼を連続して圧延を行った。その際、圧延ロールの組み替え直後の1本目の圧延材を除く、本発明例、比較例とも、92本の圧延材について製品寸法の評価を行った。
本発明例のH形鋼を製造する前には、ウェブ高さHが400~900mm、フランジ幅Bが200~400mmの複数種類の鋼種のH形鋼900本の熱間圧延を行い、同一断面寸法の形鋼を連続して圧延を行った際に取得した先行圧延材と後行圧延材の寸法同定パスにおける圧延操業パラメータの差分と、先行圧延材と後行圧延材の断面寸法の差分との関係を機械学習させて、寸法同定パスにおける圧延操業パラメータの修正量に対応する断面寸法の変化量を予測する断面寸法変化量予測モデルを予め生成した。そして、この断面寸法変化量予測モデルを用いて、断面寸法の予測および修正を行いながら、本発明例のH形鋼を製造した。
断面寸法変化量予測モデルの生成においては、圧延操業パラメータとして、粗圧延機1の各パスロール開度と水平ロールの軸方向相対位置、粗ユニバーサル圧延機2と仕上ユニバーサル圧延機4の各パス水平ロールおよび竪ロールの開度と上下水平ロールの軸方向相対位置、エッジャ圧延機3の各パスのロール開度とレベリング量および水平ロールの軸方向相対位置の実績値を収集し、これら全てを、断面寸法変化量予測モデルを生成するための機械学習の入力値として用いた。
また、材料属性パラメータとして、H形鋼のウェブ厚tw、フランジ厚tf、ウェブ高さHおよびフランジ幅B、ならびにH形鋼の鋼種も、断面寸法変化量予測モデルを生成するための機械学習の入力値として用いた。
仕上ユニバーサル圧延機4の下流に設置された熱間寸法計5では、ウェブ厚tw、上下左右四ヶ所のフランジ厚tf、ウェブ高さHおよび左右二つのフランジ幅Bを熱間で測定し、線膨張係数を用いて室温での寸法に換算して、これら各寸法の実績値とし、上位計算機70に格納した。このとき圧延材の各寸法の実測値は、先端から10mの位置における値を用いた。
そして、900本分のH形鋼の製造実績から得られた、同一断面寸法の形鋼を連続して圧延を行った際に取得した圧延操業パラメータ差分と断面寸法の差分、さらには材料属性パラメータが対応付けられた多数組のデータセットを入力値として、先行圧延材と後行圧延材の寸法同定パスにおける圧延操業パラメータの差分と、先行圧延材と後行圧延材の断面寸法の差分との関係を機械学習させて、寸法同定パスにおける圧延操業パラメータの修正量に対応する断面寸法の変化量を予測する予測モデルを生成した。
機械学習のアルゴリズムとしては、ニューラルネットワークを用い、ニューラルネットワークの中間層は3層、ノード数は5個ずつとした。活性化関数にはシグモイド関数を用いた。
本発明例では、上述のようにして生成された断面寸法変化量予測モデルを用いて、先行圧延材の圧延操業パラメータ、先行圧延材の断面寸法の測定値、および後行圧延材の圧延操業パラメータから、次の後行圧延材の断面寸法、すなわちウェブ厚tw、上下左右四ヶ所のフランジ厚tf、ウェブ高さH、左右二つのフランジ幅Bを予測した。
そして、後行圧延材のウェブ厚tw、上下左右四ヶ所のフランジ厚tf、ウェブ高さH、左右二つのフランジ幅Bの予測値の全てが、H形鋼の断面寸法の目標値に対して許容差内に収まるように、後行圧延材の圧延操業パラメータを修正して、後行圧延材の圧延を行った。H形鋼の断面寸法の許容差は、日本工業規格JISG3192に規定される値の1/2とした。
本発明例では、製造された100本のH形鋼の断面寸法および長さにはいくらかのばらつきがあり、評価対象とした92本についても圧延条件、圧延パス数、加熱条件および素材重量も異なっていたが、92本のH形鋼の全てにおいて、ウェブ厚tw、上下左右四ヶ所のフランジ厚tf、ウェブ高さH、左右二つのフランジ幅Bが、目標値に対して上記許容差内に十分収まっており、H形鋼の断面寸法を高い精度で確保できることが確認された。
これに対し、比較例では、評価対象とした92本のうち6本のH形鋼において、ウェブ厚tw、上下左右四ヶ所のフランジ厚tf、ウェブ高さH、左右二つのフランジ幅Bのいずれかが、上記許容差に収まらず、追加の寸法修正工程や再製造が必要となった。
さらに、本発明例および比較例の各々において、それぞれ8回の圧延ロールの組み替え直後から、同一断面寸法の形鋼を連続して圧延する際に、製品の断面寸法の精度が圧延順によって変化する様子を評価した。その結果、圧延ロールの組み替え直後の1本目を除いて、本発明例では、2本目以降の圧延で製造された形鋼の断面寸法がすべて許容差内となった。一方、比較例においては、圧延ロールの組み替え直後の1本目を除いて、製造する形鋼の断面寸法が許容差内となるまでには、平均1.8本の圧延を要した。以上から、本発明によれば、同一断面寸法の形鋼を連続して製造する場合に、形鋼の断面寸法の精度が向上するとともに、圧延ロールの組み替え後に必要であった操業条件の調整を迅速に行えることが確認された。