JP7293529B2 - 鋳造用砂型の製造方法 - Google Patents

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本発明は、鋳造用砂型の製造方法に関する。
近年、鋳造用砂型を積層造形法で製造することによって、様々な形状の製品を鋳造できるようになっている。特に、インクジェット式の積層造形法は、鋳物砂に、結合剤を硬化させるための触媒である硬化剤を混練して混練砂とし、この混練砂をブレード機構によって拡げた薄層に対して、インクジェットプリンタのプリントヘッドのように、吐出ヘッドを移動させつつ結合剤を吐出させ、前記薄層の所定領域に結合剤を付与して混練砂を硬化させる方式である。したがって、インクジェット式の積層造形法によれば、大型の吐出ヘッドを用いることで大きな造形物を素早く造形することができ、大型エンジンのシリンダヘッドや大型ポンプ用羽根車等の大型製品を有利に製造することができる。
このようなインクジェット式の積層造形法では、天然硅砂からなる鋳物砂を用いるのが一般的である。しかしながら、天然硅砂からなる鋳物砂を用いると、鋳込み後の製品にベーニング欠陥と呼ばれるバリ状の欠陥が発生しやすいという問題があり、種々の対策がとられている。例えば、特許文献1には、所定の線熱膨張係数と、所定の流動性をもつような鋳物砂を用意することで、ベーニング欠陥の発生を抑制できることが示されている。
また、一般的に、鋳物砂としては、天然硅砂などの天然砂の他、焼結法、溶融法(アトマイズ法)又は火炎溶融法によって製造された人工砂が知られている。焼結法は、例えば特許文献2に記載されるように、原料スラリーをスプレードライして得た球形状顆粒をロータリーキルンなどで焼成することで人工砂を製造する方法である。また、溶融法は、例えば特許文献3に記載されるように、溶融原料をエアーの吹き付け又は噴霧等によって空気中に飛ばし、表面張力によって球状化させることで人工砂を製造する方法である。さらに、火炎溶融法は、例えば特許文献4に記載されるように、原料を火炎中で溶融して球状化させることで人工砂を製造する方法である。
特許第5249447号公報 特開平5-169184号公報 特開2003-251434号公報 特開2004-202577号公報
前記のような人工砂は天然硅砂よりも低い線熱膨張係数を有するため、インクジェット式の積層造形法において、天然硅砂に代えて、このような人工砂を鋳物砂として用いることができればベーニング欠陥の発生を抑制できると考えられる。ここで、焼結法による人工砂からなる鋳物砂を用いた場合には、積層造形装置におけるブレード機構が有するリコーター内での混練砂の流動性が十分に確保され、ブレード機構によって混練砂の層を形成でき、砂型を問題なく製造できることが、出願人による調査、研究の結果、判明している。
これに対し、溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂からなる鋳物砂を用いた場合には、リコーター内での混練砂の流動性は十分なものとならず、砂型を製造することはできなかった。しかしながら、溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂からなる鋳物砂は、焼結法による人工砂からなる鋳物砂よりも少量の結合剤で高い強度が得られるという利点があるため、インクジェット式の積層造形法に適用できれば、より望ましい。
本発明は、このような状況の下に開発されたもので、結合剤の使用量の低減及び強度の向上が可能であるとともに、鋳込んだ製品におけるベーニング欠陥の発生を抑制できる鋳造用砂型の製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係る鋳造用砂型の製造方法は、
溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂を含む、メディアン径d50が280μm以上の鋳物砂を準備する鋳物砂準備工程と、
前記鋳物砂に、結合剤を硬化させるための触媒である硬化剤を混練して混練砂とする混練工程と、
前記混練砂を一層ずつ積層しながら、前記結合剤を付与して硬化させることで鋳造用砂型を造形する積層工程と、
を有することを特徴とする。
また、本発明に係る鋳造用砂型の製造方法においては、前記鋳物砂は、溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂からなることが好ましい。
また、本発明に係る鋳造用砂型の製造方法においては、前記鋳物砂準備工程において準備する前記鋳物砂の体積累計80%の粒径d80を400μm以下とすることが好ましい。
本発明によれば、結合剤の使用量の低減及び強度の向上が可能であるとともに、鋳込んだ製品におけるベーニング欠陥の発生を抑制できる鋳造用砂型の製造方法を提供することができる。
本発明の一実施形態に係る鋳造用砂型の製造方法における各工程を示すフロー図である。 (a)は、砂の粒子の表面が硬化剤に覆われた状態を示す概念図であり、(b)は、(a)の部分拡大図である。 積層ピッチと曲げ強度との関係を示す実験結果のグラフである。 図3の実験に用いた鋳物砂の粒度分布図である。
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る鋳造用砂型の製造方法について、詳細に例示説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る鋳造用砂型の製造方法においては、まず、鋳物砂を準備する鋳物砂準備工程S1を行う。そして、鋳物砂準備工程S1に次いで、鋳物砂に、結合剤を硬化させるための触媒である硬化剤を混練して混練砂とする混練工程S2を行う。そして、混練工程S2に次いで、混練砂を一層ずつ積層しながら、結合剤を付与して硬化させることで鋳造用砂型を造形する積層工程S3を行う。
鋳物砂準備工程S1で準備する鋳物砂としては、溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂を含む、メディアン径d50が280μm以上の鋳物砂を用いる。溶融法とは、溶融原料をエアーの吹き付け又は噴霧等によって空気中に飛ばし、表面張力によって球状化させることで人工砂を製造する方法である。また、火炎溶融法とは、原料を火炎中で溶融して球状化させることで人工砂を製造する方法である。このような溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂を含む鋳物砂を用いることで、製造される砂型の線熱膨張係数を抑制し、もってベーニング欠陥の発生を抑制することができる。なお、人工砂の組成としては、アルミナ(Al-O系)や、ムライト(Al-Si-O系)、ムライト-ジルコン(Al-Si-Zr-O系)の混合系などが好適である。また、人工砂としては、新砂、その回収砂およびその再生砂のうちから選んだ少なくとも1種を用いることができる。
鋳物砂準備工程S1で準備する鋳物砂は、溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂からなることが好ましい。しかしながら、鋳物砂準備工程S1で準備する鋳物砂は、溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂に加えて、焼結法で製造された人工砂及び/又は天然硅砂等の天然砂を含むものであってもよく、この場合でも、溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂を含むことによる効果を享受することができる。
また、メディアン径d50とは、レーザー回折散乱法を用いて測定された粒度分布曲線における、体積累計50%の粒径である。鋳物砂のメディアン径d50を280μm以上とすることにより、溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂からなる鋳物砂を用いる場合であっても、後述する積層工程S3において、混練砂をブレード機構のリコーターに充填した際の流動性を確保し、混練砂の層を形成することができる。なお、従来の積層造形で通常用いられる天然硅砂100%鋳物砂のメディアン径d50は、140μmである。溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂からなる、メディアン径d50が140μmの鋳物砂を用いる場合には、混練砂がリコーター内で十分に流動しないため、砂型を積層造形することはできなかった(メディアン径d50が140μmの天然硅砂を所定量ブレンドした場合は、積層造形が可能であった)。
ここで、粒径を大きくすることでリコーターの内部での流動性を向上できる理由は、以下のように推察される。溶融法又は火炎溶融法による人工砂は、表面が滑らかな球状をなす砂の粒子からなっている。このような人工砂を液体の硬化剤と混練すると、図2(a)に示すように、砂の粒子の表面は液状の硬化剤に覆われる。このとき硬化剤は、図2(b)に示すように、粒子同士の接点に集まり液状のネックを形成する。この状態で砂が流動するためには、ネックを切断し、砂の粒子同士が離れる必要がある。そして、リコーターの内部でこのような固液混合状態の砂が流れようとする力は、砂の粒子の自重に比例するので、粒径の3乗に比例することになる。これに対し、砂が凝集しようとする力は、砂の粒子間の硬化剤の表面張力に起因し、その力はネックの周長に比例するので、粒径に比例することになる。したがって、砂の粒径が所定の大きさを超えると、砂が凝集しようとする力よりも流動性が勝るようになると考えられる。
また、鋳物砂準備工程S1で準備する鋳物砂としては、体積累計80%の粒径d80が400μm以下の鋳物砂を用いることが好ましい。ここで、粒径d80とは、レーザー回折散乱法を用いて測定された粒度分布曲線における、体積累計80%の粒径である。鋳物砂の粒径d80を400μm以下とすることにより、実用上好ましい強度を有する鋳物用砂型を有利に製造することができる。その理由は以下のとおりである。
積層造形によって得られる砂型の強度は、積層ピッチが薄いほど、結合剤添加量が増すので向上する傾向がある。しかし、積層ピッチを薄くしていくと、積層ピッチが粒径d80より薄くなったところで段差状の強度低下が生じることが出願人の調査により判明している。図3に、出願人が行った実験結果を示す。図3において、横軸は積層ピッチを示し、縦軸は曲げ強度を示す。この実験では、溶融法で製造された鋳物砂を50メッシュで篩分けしたものを用いた。その粒度分布を、レーザー回折散乱法を用いて測定した結果を図4に示す。そして、この鋳物砂を積層造形することで、22.4mm×22.4mm×172mmの砂型を製作し、スパンを150mmとして三点曲げにより強度の測定を行った。図3からは、積層ピッチが約360μmより薄くなったところで強度低下が生じていることが分かる。この強度低下は、積層厚さよりも大きな粒子の割合が増したことが原因であると推察される。また、図4に示した粒度分布から、この実験で用いた鋳物砂のd80は約360μmである。これらの結果から、粒径d80より積層ピッチが薄くなったところで強度低下が生じると考えられる。
また、このような強度低下を生じない粒径及び積層ピッチの範囲では、実用上好ましい強度の砂型を得るためには、積層ピッチを400μm以下の薄さに設定する必要がある。ここで、実用上好ましい強度とは、例えばダクタイル鋳鉄製の大型シリンダーブロックや大型クランクケースなどを鋳造するための砂型に通常求められる、約2MPaの曲げ強度である。
したがって、積層厚さよりも大きな粒子の割合が増すことによる強度低下を生じないで実用上好ましい強度を有する砂型を製造するためには、粒径d80を積層ピッチ以下とし、且つ、積層ピッチを400μm以下とする必要がある。このように、実用上好ましい強度を有する砂型を有利に製造するためには、粒径d80を400μm以下とする必要がある。
また、混練工程S2において鋳物砂に混練する硬化剤としては、結合剤を硬化させるための触媒であれば従来公知の硬化剤を用いることができるが、例えば、結合剤としてフラン樹脂のような酸触媒による脱水縮重合反応により硬化する有機性樹脂を用いるものである場合は、常温においてその有機性樹脂を硬化させるものが好ましい。例えば、キシレンスルホン酸、トルエンスルホン酸などの有機スルホン酸と硫酸を主成分とするものである。また、硬化剤の混練比率は、混練砂の総量に対して、0.01~1.0質量%の範囲が好ましい。というのは、この範囲で硬化剤を混練すると、混練砂の造型性と流動性が最もバランスするからである。
さらに、積層工程S3において積層させた混練砂に付与する結合剤(バインダー)としては、有機性樹脂、特にフラン樹脂又はフェノール樹脂を用いるのが好ましい。フラン樹脂としては、例えば、フルフリルアルコール、フルフリルアルコールとアルデヒド類の縮合物、尿素とアルデヒド類の縮合物よりなる群から選ばれる1種以上か、上記群から選ばれる2種以上の縮合物からなるフラン樹脂が挙げられる。また、フェノール樹脂としては、フェノール類とアルデヒド類の縮合物が挙げられる。
積層工程S3では、前述したように、混練砂を一層ずつ積層しながら、結合剤を付与して硬化させることで鋳造用砂型を造形する。例えば、砂型の形状を3DCAD設計して得られたデータに基づき、インクジェット式の三次元積層造形装置(例えば、Ex One S-15(商標)、販売元:株式会社EX ONE)を用いて、まず、リコーターに混練砂を充填したブレード機構により混練砂の薄層を平らな表面上に均一に拡げ、次に、前記した3DCADデータに基づき、吐出ヘッド(プリントヘッド)を走査させて当該薄層における所定の領域に対して結合剤を吐出し、付与(印刷)することができる。
結合剤が印刷された領域の層は、接合状態となるとともに、既に形成済の下層とも結合する。そして、砂型全体が完成するまで、薄層を上部に順次形成させ、結合剤を印刷する工程を繰り返す。最終的に、結合剤が付与されなかった領域は、非結合状態であるため、混練砂は砂型から容易に除去することができる。以上の操作により、所望の三次元構造の砂型が製造できる。なお、結合剤として熱硬化性のフェノール樹脂を用いる場合には、砂型を結合剤が印刷されなかった混練砂から取り出す前に、当該砂型を含む積層体に加熱処理(好適にはマイクロ波加熱)を施し、砂型を完全に硬化させることが好ましい。
本実施形態に係る鋳造用砂型の製造方法によれば、溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂を含む鋳物砂を用いることができるため、結合剤の使用量の低減及び強度の向上が可能であるとともに、鋳込んだ製品におけるベーニング欠陥の発生を抑制することができる。
以上、本発明の様々な実施形態について説明したが、前述したところは本発明の実施形態の一例を示したにすぎず、発明の要旨を逸脱しない限り、種々の変更を加えてよいことは言うまでもない。
本発明の実施例として、以下の条件により、長尺直方体形状をなす砂型の製造を試みたところ、リコーター内で混練砂が滞留することなく、砂型を製造することができた。
・三次元積層装置:Ex One S-15(商標)(販売元:株式会社EX ONE)・鋳物砂:エスパール#60(販売元:山川産業株式会社)の新砂100%で構成
・硬化剤添加量:0.20質量%
・積層ピッチ:360μm
ここで、鋳物砂(エスパール#60)のメディアン径d50は、280μmであった。
本実施例の結果から、溶融法で製造された人工砂からなるメディアン径d50が280μm以上の鋳物砂を用いることで、インクジェット式の積層造形法によって鋳造用砂型を製造できることが分かる。また、溶融法で製造された人工砂と同様の真球度と砂粒子表面の滑らかさとを有する、火炎溶融法で製造された人工砂をブレンドした場合又は火炎溶融法で製造された人工砂のみで鋳物砂を構成した場合であっても同様に、メディアン径d50が280μm以上のものとすることで、インクジェット式の積層造形法によって鋳造用砂型を製造できると推察される。また、天然砂や焼結法による人工砂をブレンドした場合でも、鋳物砂のメディアン径d50が280μm以上であれば、砂型の製造が可能であることは明白である。
S1 鋳物砂準備工程
S2 混練工程
S3 積層工程

Claims (2)

  1. 溶融法で製造された人工砂及び/又は火炎溶融法で製造された人工砂からなり、メディアン径d50が280μm以上の鋳物砂を準備する鋳物砂準備工程と、
    前記鋳物砂に、結合剤としての有機性樹脂を硬化させるための触媒である液状の硬化剤を混練して混練砂とする混練工程と、
    前記混練砂を充填したリコーターを有する積層造形装置により前記混練砂を一層ずつ積層しながら、前記結合剤を付与して硬化させることで鋳造用砂型を造形する積層工程と、
    を有することを特徴とする鋳造用砂型の製造方法。
  2. 前記鋳物砂準備工程において準備する前記鋳物砂の体積累計80%の粒径d80を400μm以下とする、請求項に記載の鋳造用砂型の製造方法。
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