実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、重複する説明は省略することがある。同一あるいは同様な機能を有する要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、複数の要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
以下で説明される実施例は、醗酵プロセスの間のパン生地の内部温度を判断することによって、醗酵段階を監視する技術に関する。具体的な例では、a)パン生地を容器内に提供するステップと、b)パン生地を含む醗酵容器を醗酵室に入れ、特定の状態(温度および湿度)でパン生地を醗酵させるステップと、c)醗酵室に入れた後のパン生地の表面の少なくとも一部分における温度および高さの変化を感知するステップと、d)温度および熱の変化を推定して、パン生地が、所定の基準による特定の時間後の醗酵段階の終わりであると判定可能であるか否かを判断するステップとを含む、時間に伴う内部温度変化によりパン生地の醗酵段階を監視する方法を対象とする。ステップc)で、醗酵容器の幅および長さでパン生地の形状が規定されるので、高さを測定することによって生地の体積を推定することができる。生地の体積および表面温度に基づいて、生地の内部温度を厳密に推定することができる。本実施例は、様々な改善が可能である。更に、本実施例は、温度プローブを手で挿入する必要がなく、醗酵段階状態のチェックとしてパン生地の内部温度を判断する、より正確で安全な方法を提供する。
図1は、本発明の一実施例によって提供される例示的なシステムの概略図である。システムは、醗酵容器1と醗酵室3を含み、醗酵容器1の中に、醗酵段階のため生地2が入れられる。生地2は、例えば小麦粉に水と、パンを醗酵させるパン酵母を加えて、ミキサーで混ぜ合わせたものである。
醗酵室3は醗酵容器1を清潔な状態と適切な温度に保つ。醗酵室3内に温度センサ4および高さセンサ5が設置される。温度センサ4および高さセンサ5と醗酵室3の温度制御装置11は、生地状態判定装置6に接続される。温度センサ4および高さセンサ5は、醗酵室3の上部から醗酵容器1に対して特定の距離で位置づけることができる。生地2の全幅に渡って、温度センサ4および高さセンサ5によって測定可能としてもよい。
醗酵室3は、内部をパン酵母が醗酵するのに最適な温度と湿度に保つことができる。制御された環境下で、醗酵容器1内では、パン酵母が醗酵により、生地2に含まれる糖類を分解し、炭酸ガスを発生させる。醗酵で発生した炭酸ガスをグルテンが包みこみ、パンは柔らかに膨らむ。さらに、パン酵母は炭酸ガスだけでなく、エチルアルコールをはじめとする風味や香りを生成する。したがって、醗酵のプロセスはパンの品質に大きく影響する。醗酵が十分でないと、固くて平たいパンになってしまうし、醗酵させすぎた場合は、ふくらみが悪く、味や匂いも酸っぱくなってしまうなどの影響がでる。
醗酵室3内の環境は、例えば温度28度、湿度82%などであるが、生地やパン酵母の種類や、醗酵の状態に合わせて適切に制御されることが望ましい。本実施例では、生地2の内部の温度を非接触で推定することで、適切な温度制御を可能とする。
温度センサ4は、生地2の1または複数個所の表面温度を、生地2に触れることなく、迅速に測定することができる。温度センサ4には、例えば公知の赤外線(IR)温度計や赤外線カメラを用いることができる。高さセンサ5も、生地2に触れることなく測定が可能な検査器である、例えば公知のレーザ距離測定器や超音波距離計で構成される。
定期的に、温度センサ4は、フィードバックループを使用して1あるいは複数の箇所で生地2の表面温度を監視する。この測定から得られる信号は、感知部7に送信され格納される。温度センサ4の精度は、後の評価のための精度をもたらすのに十分に高精度であるべきである。
高さセンサ5は、例えば超音波距離計で構成する場合には、醗酵室3の固定された位置にある超音波送信器および受信器で構成することができる。検出のたびに、超音波送信器は、温度センサ4の動作と連動して、生地状態判定装置6からのコマンドにしたがって生地2の所定箇所(例えば頂部中央)に向けて超音波を送信する。高さセンサ5の一部である受信器は、生地2からの反射波を受信し、次に即時に感知部7に入力する。感知部7は、次に、波を放射する超音波送信器から生地2までの、また生地2から受信器までの超音波の伝達時間に基づいて、高さセンサ5と生地2表面の距離D1を測定する。例えば、高さセンサ5と醗酵容器1の底の距離をD2とすれば、生地2の高さHは(D2-D1)となる。このようにして、生地2の高さHを測定する。
生地状態判定装置6は、温度および熱の感知部7と、醗酵データベースの格納部8と、計算部9と、表示部10とを実現するコンピュータで構成される。本実施例では、生地状態判定装置6の計算や制御等の機能は、コンピュータの記憶装置に格納されたプログラムがコンピュータの処理装置(プロセッサ)によって実行されることで、定められた処理を他のハードウェアと協働して実現される。コンピュータなどが実行するプログラム、その機能、あるいはその機能を実現する手段を、「機能」、「手段」、「部」等と呼ぶ場合がある。以上の構成は、単体のコンピュータで構成してもよいし、あるいは、入力装置、出力装置、処理装置、記憶装置の任意の部分が、ネットワークで接続された他のコンピュータで構成されてもよい。
温度および熱の感知部7は、予め決められた間隔の測定時間ごとに、温度センサ4から送信される表面温度感知信号および高さセンサ5から送信される高さ感知信号を、入力データとして連続して受信および記録するのに使用される。入力データの受信や記録は、コンピュータの構成として周知のインターフェースや記憶装置(半導体メモリや磁気ディスク装置)により行なわれる。
醗酵データベースの格納部8は、後に図2Aおよび図2Bで詳細に説明する基準データベースを格納する。醗酵データベースの格納部8は、コンピュータの構成として周知の記憶装置により実現される。計算部9では、感知部7の入力データが計算され、醗酵データベースの基準と比較することによって評価を行なう。本実施例では、計算部9はコンピュータの記憶装置に格納されたプログラムを、コンピュータの処理装置が実行することで実装するものとした。更に、表示部10は、計算部9からの計算および評価結果を表示するモニタを備える。生地状態判定装置6は、高さセンサ5や温度センサ4等のセンサと統合されていてもよく、あるいは、これらとネットワーク等を介して送受信が可能な構成でもよい。また、生地状態判定装置6は、コンピュータが通常備える追加の機能を備えてもよい。
生地状態判定装置6はまた、醗酵室3の温度を調整する温度制御装置11に対する制御信号の出力を提供する、コントローラとしての機能を有してもよい。温度制御装置11は、計算部9の制御に基づいて醗酵プロセスを自動化することができる。生地状態判定装置6は、制御信号を醗酵室3の温度制御装置11に自動的に送って、醗酵室3の温度を上昇または低下させることができる。したがって、生地状態判定装置6は、醗酵段階プロセスを制御し、醗酵プロセスの効率および質を改善することができる。
図2Aおよび図2Bは、生地状態判定装置6の格納部8が記憶している醗酵データベースの内容を示すテーブルの一例である。図2Aに示す、表面温度・内部温度関係テーブル201は、パン生地の高さ(H)、表面温度(Ts)、および内部温度(Ti)の関係を説明している。図2Aでは、パン生地の高さ(H)ごとに、表面温度(Ts)と内部温度(Ti)の関係を示すテーブルとなっているが、パン生地の高さ(H)と表面温度(Ts)から、内部温度(Ti)が導出できればよく、図2Aのテーブル構成に限定されない。
表面温度(Ts)および内部温度(Ti)は、理想的には表面や内部の温度分布のデータとなるが、限定された1または複数の箇所のデータとしてもよい。複数の測定点のデータとする場合、それらの最高温度と最低温度が重要である。温度データに測定点の座標データを関連付けると、後述のように温度分布を可視化することも可能である。データの粒度は、要求される温度推定精度やデータ量の制約に従って定めればよい。
図2Bに示す、時間・温度テーブル202は、各醗酵時間13における理想の内部温度14を示している。例えば図2Bの時間・温度テーブル202の1行目は、醗酵開始から30分後の時点では、パン生地の内部温度の範囲は29度~31度の範囲が適切であることを示している。
図2Aの高さ15は高さセンサ5によって得ることができ、表面温度16は温度センサ4によって得ることができる。生地状態判定装置6の計算部9は、高さ15と表面温度16に基づいて、表面温度・内部温度関係テーブル201を参照することによって内部温度17を求める。
図2A、図2Bのテーブルは予め作成して、生地状態判定装置6の記憶装置に格納しておく。図2Aの表面温度・内部温度関係テーブル201は、量産時と同じ醗酵容器1、生地2および醗酵室3を用い、テスト用のパン生地の複数の測定点に熱電対等を挿入して測定する。表面温度を一定に維持すると、醗酵によりパン生地の高さが変化する場合がある。よって、表面温度を一定に保ちつつパン生地の高さを測定するとともに、内部温度を測定することにより、表面温度、内部温度、およびパン生地高さを関連付けたデータを取得することができる。
測定結果は、表面温度・内部温度関係テーブル201において、パン生地の高さ15ごとに、表面温度16と内部温度17のデータを組にして格納部8に記憶しておく。なお、測定で取得された内部温度(Ti)のデータ(数値)は、必ずしも表面温度(Ts)とパン生地の高さ(H)に一対一で対応しない場合がある。例えば、表面温度が30度で生地の高さが50cmでも、30度で20分維持された後と、30度で30分維持された後では、内部温度が違う場合がある。また、条件を変えて複数回の測定を行なった場合には、内部温度(Ti)の数値がばらつく可能性がある。その場合は、パン生地の高さと表面温度に対応して得られた内部温度データのなかで、最低温度と最高温度の数値の組を内部温度(Ti)のデータとしてもよい。このようなデータであっても、理想的な温度範囲からの逸脱を評価することは可能である。あるいは、平均値をデータとしてもよい。
図2Aには明示していないが、表面温度16は生地2表面の複数個所のデータとしてもよいし、内部温度17も生地内部の複数個所のデータとしてもよい。生地2の全体にわたって温度制御を行なうためには、温度のサンプル点は多いほうが望ましい。
図2Bの時間・温度テーブル202により、理想の内部温度および醗酵時間が予め定められる。理想の醗酵状態では、生地2の内部温度は各醗酵時間13における理想的内部温度14の範囲内であることが望まれる。適切な温度範囲を逸脱すると、イースト菌や酵母の活動が妨げられたり、死滅したりするため、内部温度の把握と制御が重要である。時間・温度テーブル202の内容は、予め熟練の作業者のノウハウなどに基づいて作成し、格納部8に格納しておく。
生地高さ15(H)、表面温度16(Ts)、および醗酵データベースによって、他の出力を提供することができる。内部温度17(Ti)だけではなく、生地2全体の分布温度を、醗酵プロセスの各段階を示す、2次元(2D)描画や3次元(3D)描画によって表すことができる。これら出力の選択は計算部9によって可能であり、選択された出力は表示部10に表示される。
図3に示されるフローチャートで、生地状態判定装置6の動作を説明する。醗酵プロセスの開始時はステップS301であり、生地2が醗酵容器1に入れられ、生地状態判定装置6が時間の計数を開始する。ステップS302で、生地状態判定装置6はパン生地の表面温度(Ts)の値を受信する。ステップS303で、生地状態判定装置6はパン生地の見かけの高さ(H)の値を受信する。次に、ステップS304で、生地状態判定装置6は表面温度・内部温度関係テーブル201に基づいて内部温度(Ti)を計算する。
ステップS305で、生地状態判定装置6は、所定の時間後に内部温度(Ti)の値が、事前に定めた所定値(あるいは範囲)teの値となっているか否かを判定する。これにより、初期段階で醗酵が正常に行なわれ、パン生地の内部温度が十分であるか否かを判断することができる。
内部温度(Ti)の値が、事前に定めた所定の値(あるいは範囲)teとなっていない場合、ステップS306に進む。ステップS306では、醗酵プロセスが許容可能ではないかも知れないことをパン作業者に警告するため、警報を発信して潜在的問題を知らせる。この処理により、醗酵が行なわれていないなどの、醗酵の異常を早期に検知することができる。なお、一度内部温度(Ti)の値が、事前に定めた所定の値(あるいは範囲)teに達したことを確認したら、その後はステップS305はスキップしてもよい。
内部温度(Ti)の値が、事前に定めた所定の値(あるいは範囲)teとなっている場合、ステップS307に進む。ステップS307では、生地状態判定装置6は、内部温度(Ti)の値が、時間・温度テーブル202に基づく所定の範囲内(下限tm以上、上限tp以下)にあるか否かを判断する。
内部温度(Ti)の値が所定の範囲内にない場合、次にステップS308で、生地状態判定装置6は、内部温度(Ti)の計算値が所定の閾値tm未満か否かを判断する。内部温度(Ti)の計算値が所定の閾値tm未満の場合は、ステップS309で醗酵室3の温度を上昇させる。
別の基準はステップS310における、内部温度(Ti)が所定の閾値tpを上回るか否かである。内部温度(Ti)の計算値が所定の閾値tm以上であるが、上限tp以上でもある場合、ステップS311で醗酵室3の温度を低下させる。
ステップS307の判断で、内部温度(Ti)の値が所定の閾値内(下限tm以上、上限tp以下)にある場合、ステップS312において、事前に定めた所定の醗酵時間が経過したかどうかを判定する。醗酵時間が経過している場合には、ステップS313により、醗酵段階が終了したことを作業者に通知する。これにより、パン生地の醗酵プロセス処理は終了する。
ステップS312において、事前に定めた所定の醗酵時間が経過していないと判定された場合、処理はステップS302に戻り、パン生地の表面温度および高さの両方の検出と監視を続ける。
以上は、本実施例の簡単な構成例である。パン生地2の内部温度を推定する点を複数取ることにより、パン生地2の内部温度分布を知ることができる。
図4は2次元(2D)描画で表現された、パン生地の内部温度分布例である。図4では、高さ30cmと100cmのパン生地2の断面の温度分布が、色またはコントラストの違いにより表現されている。このような表示を用いると、生地高さ(H)、表面温度(Ts)から、生地の内部の状況を視覚的に把握することが容易になる。
図3の内部温度の判定処理(ステップS308、ステップS310など)では、パン生地2の内部が全体にわたって、適切な温度に保たれているかを判断することが好ましい。例えば、ステップS308で、パン生地の一部分でも内部温度が下限値tmを下回っている場合、その部分では醗酵が行なわれていない可能性がある。この場合、そのパンは全体として不良となることがある。よって、パン生地2の一部でも内部温度が下限値tmを下回っている場合、ステップS309で醗酵室の温度を上昇させる。また、ステップS310で、パン生地の一部分でも内部温度が上限値tpを上回っている場合、その部分では過醗酵が起きたり酵母が死滅するおそれがある。よって、パン生地2の一部でも内部温度が上限値tpを上回っている場合、ステップS311で醗酵室の温度を低下させる。
以上説明した実施例によれば、パン生地の中心温度をオンラインで測定あるいは推定して温度制御を行なうことにより、パン生地の不適切な醗酵の可能性を大幅に低減し、また温度測定時のセンサの挿入によるパン生地に対する汚染および損傷のリスクを低減することができる。生地に直接接触することなく内部温度レベルを監視することによって、パン焼き器は、醗酵プロセスの出来具合のより良好な指示が可能となる。これにより、標準の時間および温度のレシピよりも良好な制御レベルを提供する。それに加えて、内部温度レベルの異常なレベルから、生地状態の不良を早期に検出することができる。内部温度、およびその時間的変化は、醗酵室または醗酵容器内部の温度、ならびに生地醗酵プロセスの出来具合を制御するための指標として使用される。
実施例2では、他の実施形態を説明する。物理的な構成は実施例1と同一でよく、生地状態判定装置6によるソフトウェア的な処理を変更する。実施例2では、2段階で醗酵状態を評価することになる。1段階目は事前に「醗酵データベース」の作成を行う。醗酵データベースは醗酵データベースの格納部8に記憶する。2段階目は、醗酵データベースを記憶した生地状態判定装置6を用いて、生地表面温度、雰囲気温度、生地高さの情報から、生地内部の温度の推定(計算)と醗酵終了の判断を行う。
醗酵データベースの作成においては、例えば小型醗酵容器(ビーカーサイズ)にパン生地を入れて、熱電対を複数本差込み醗酵槽の雰囲気温度、生地表面温度、生地内部温度を測定し、その時の生地の比熱、熱伝導率、密度を評価し、醗酵データベースを作成する。この場合、醗酵データベース作成は、温度や時間を変化させた多くの実験ケースが必要になるため、実験室の小型醗酵装置を用いて行うことが好ましい。ただし、実施例1と同様に、製造現場の大型装置を用いてもよい。製造現場と同様の設備を用いると、測定した物性値をそのまま用いることが可能である。
醗酵容器1は生地2の縦横方向(地面に水平方向の断面)の大きさを制限するので、生地2の形状や体積は高さ(H)によって推定できる。そこで、生地2の熱力学的な物性値が醗酵データベースから得られれば、熱伝導方程式を解くことにより表面温度(Ts)から生地内部の所定の箇所の内部温度(Ti)が計算できる。
図5は、計算部9が実行する醗酵状態の判定による温度制御の処理手順例のフローチャートである。パンの原料を混練して得られた生地2を醗酵容器1に入れ、これを予め所定の醗酵温度に保持された醗酵室3内に移動させて、醗酵を開始する(S001)。次に醗酵容器1内の生地2の高さHを、高さセンサ5により1点以上測定する(S002)。その測定値が予め設定した高さHRより低ければ、醗酵は不十分と評価し、醗酵を継続する(S003)。その測定値が予め設定した高さHRに達していれば、パン生地2は十分に醗酵した(十分に膨らんだ)として、醗酵を終了する(S004)。このように、パン生地の高さが所定値に到達したことをもってパン生地の醗酵終了を判定することができる。内部温度が所定のレベルに達したとき、生地は実質的に膨らみ終えており、更なる時間によって生地の体積が著しく増えることはない。また、パン生地の醗酵開始からの時間が所定時間経過したことをもって、パン生地の醗酵終了を判定することもできる。
醗酵が不十分の場合には、引き続き、生地2の表面温度TSを温度センサ4により1点以上測定する(S005)。このとき、醗酵室の雰囲気温度TCも1点以上測定することで、さらに高精度の制御が可能である。また、必要に応じて醗酵容器1の表面温度を測定することも有効である。雰囲気温度測定のための雰囲気温度センサには、温度センサ4を利用してもよいし、雰囲気温度や容器の表面温度の測定のために、温度センサの種類や数を追加することも可能である。以下の説明ではTSとTCを測定する例を説明する。
上記で測定した高さH、生地表面温度TS、雰囲気温度TCのうち、少なくとも1種類以上の測定値を用いて、事前に取得したパン生地の物性値データベースから生地内部の物性値を選定する(S006)。
選定する物性値は、生地の密度ρ、比熱CP、熱伝導率k、発熱密度Qとし、それぞれ、高さH, 表面温度TS, 雰囲気温度TCにより醗酵データベース内で整理されている。すなわち、醗酵データベースが含む情報は以下のとおりである。
・密度: ρ(H, TS, TC)
・比熱: CP(H, TS, TC)
・熱伝導率: k(H, TS, TC)
・発熱密度: Q(H, TS, TC)
高さH, 表面温度TS, 雰囲気温度TCから取得された生地の物性値(ρ、CP、k、Q)を用いて、次の熱伝導方程式を逆計算することで、生地内部温度TIの分布を推定することができる(S007)。
熱伝導方程式でδT/δtは微小領域における温度Tの時間変化である。一般には、密度ρ、比熱CP、熱伝導率kは場所の関数となるが、パン生地の状態を均一として扱い近似してもよい。また、発熱密度Qは場所と時刻の関数となるが、一定として扱ってもよい。また、雰囲気温度TCは表面温度TSと等しいとして、雰囲気温度TCを省略することも可能であるが、これを用いると、雰囲気温度と生地表面温度の差による熱伝達、輻射電熱を考慮することができるため、推定精度の向上が期待できる。
次に内部温度TIの評価結果、および生地表面温度TSの測定結果の最高値TMAXから、醗酵槽の温度制御を実施する(S008-S012)。TMAXは内部温度TIおよび生地表面温度TSに分布がある場合には、その最高温度とする。図6に、計算部9が実行する上記最高温度TMAXによる制御方式の区分例を示す。最高温度TMAXが酵母が死滅する温度TDより高い場合は、酵母の死滅により良好な醗酵が得られないため、異常と判断し、醗酵を停止する(S008-S009)。生地の最高温度TMAXが酵母の死滅温度TDよりも低いが、最適な醗酵温度から逸脱する場合は醗酵室内の温度を調節する。
まず、最高温度TMAXが温度上限TUを超える場合には醗酵室内の温度を低下させる(S010-S011)。逆に醗酵温度が醗酵に適した下限値TLよりも低い場合は、加熱手段により醗酵室内の温度を上昇させ、醗酵を促進させる(S012-S013)。また、生地の温度が醗酵に適した温度範囲にある場合は、現状の醗酵室内温度を維持するように温度制御装置を運転する。処理S001からS013は、基本的に醗酵プロセス中、周期的に実行される。その後、生地の高さHを測定し、所定の高さを超えた場合、適切な醗酵が行われたと判断し、醗酵を終了する(S004)。なお、所定の高さや、温度TD、TU、TLなどの制御用の値は、事前にユーザが設定してデータベースの一部として生地状態判定装置6に記憶しておくものとする。
上記の生地内部温度、表面温度による醗酵槽雰囲気温度の調節処理は、最高温度TMAXの値に応じて温度制御装置をON-OFFするものである。さらにこれに加えて、生地の高さHの値に応じて温度制御装置をON-OFFすることもできる。また、醗酵時間tに応じて温度制御装置をON-OFFすることもできる。
図7は、他の温度制御方式を説明するグラフ図である。醗酵室3の加熱・冷却は、図6のように生地の最高温度TMAXにより、ON-OFF制御しても構わないが、図7のように温調機の出力を連続的に変化させても良い。
醗酵室3の温度の調整は、通常のエアコンのように温度制御された空気を醗酵室内に送風することで行うが、加熱に限定すれば、醗酵室内にパネル式のヒーターを設置しても構わない。
本実施例では、表面温度などから熱伝導方程式を解いて熱の拡散をシミュレーションできる。このとき、初期値として最初の温度分布を入力する必要がある。具体的な熱の拡散シミュレーションの手順は以下のようになる。
(1)パン生地2を醗酵容器1に入れるときに生地の内部温度を測る。パン生地は練り上げた直後なので、内部温度は表面の温度あるいは室温と同じで、分布は均一としてよい。
(2)醗酵工程開始(S001)。
(3)非接触で生地の高さ、表面温度等を測る(S002、S005)。
(4)熱伝導方程式を解いて、次の表面温度等測定時における内部温度を推定する(S006、S007)。
(5)内部温度を判定する(S008、S010、S012)。
(6)内部温度が適切ならそのまま、不適切なら温度調整する(S009、S011、S013)。
(7)(3)に戻る。
熱伝導方程式を解くときには、(3)で測った表面温度等が次の測定時まで一定として計算する。ただし、(6)で温度を調整する場合には、温度が変わってしまう。そこで、表面温度等の測定間隔に比べて温度調整のレスポンスが早い場合には、温度調整後の温度を使って熱伝導方程式を解く。あるいは、表面温度等の測定間隔が短いときには、線形に温度が変化するとして熱伝導方程式を解くなどの修正をおこなってもよい。
本実施例では、実際の工程と平行して温度シミュレーションを行っているということになる。この方式は一度誤差が生じると回復が出来ないので、表面温度等の測定間隔は短くすることが望ましい。
図8は、パン製造工場での大量生産に関する本発明の実施例によって提供される例示的システムである。システムは、閉じた容器または醗酵室3を含み、生地2A,2B、および2Cが、醗酵段階のため、ホイールを備えた醗酵容器1A、1B、および1Cに入れられる。各醗酵容器1A、1B、および1C上には、温度センサおよび高さセンサが別々に搭載される。この場合、醗酵容器1の数は3つなので、示される温度および高さセンサはそれぞれ、4A、4B、および4C、ならびに5A、5B、および5Cである。醗酵室3の温度制御装置11は、生地状態判定装置6に接続される。温度センサ4A、4B、および4C、ならびに高さセンサ5A、5B、および5Cは、互いに並列に、次に醗酵室3の最高地点から特定の距離で位置づけられてもよく、醗酵容器1A、1B、および1Cの全幅が、それら自体の温度センサおよび高さセンサによって推定されてもよい。
それぞれの醗酵容器1およびセンサに対する制御方法は、生地の1つの容器を収容する実施例1あるいは2の例と同じである。各醗酵容器1が収容している生地2の内部温度が非接触で推定され、適切な温度範囲内に有るかどうかがそれぞれ評価される。温度が高すぎるあるいは低すぎる場合には、温度制御装置11により醗酵室3内の温度が制御される。本実施例では、醗酵室3内に複数の醗酵容器1が格納されるので、醗酵室3内部の温度分布をコントロールできるようにすることが好ましい。例えば、図8の例では、醗酵容器
1Cの周辺のみ温度を下げるように制御する。
以上説明した実施例によれば、パン製造工場でのパン生地の膨化/醗酵プロセスにおける制御パラメータとして使用される内部温度の値を非接触で推定可能である。醗酵作業中、生地の表面温度を測定し、生地の熱物理的性質のデータベースを利用することで、醗酵状態チェックの非破壊的で汚染が少ない方法を提供することができる。特にイースト生地に関して、より詳細にはパン生地に関して、醗酵プロセスの効率および質を改善する、生地醗酵段階の間の内部温度変化を監視するシステムおよび方法を提供することができる。結果として、完成した醗酵済み製品のいくつかの特性を制御することができ、醗酵プロセ
スの効率を改善することができる。
本発明者らは、生地の高さ(Hsurface)とCO2ガス排出量の相関関係を、醗酵処理中の生地の異常状態を検出するために利用できることを見出した。この相関関係を用いることで、非侵襲的かつ汚染の少ない方法で醗酵状態が監視できる。そして、生地の醗酵状態に従って醗酵のフィードフォワード制御が可能となる。本発明者らは、上記知見を応用することで、生地の醗酵を監視・制御するシステムを構築・開発した。
実施例のシステムの一例は、パン生地を含む醗酵容器と、醗酵容器を収納するための醗酵室と、醗酵室の温度を測定するための温度検知装置と、生地の高さを検出するための高さ検知装置と、醗酵中の生地からのCO2ガス排出量を監視するためのガス検知装置と、閉鎖型醗酵室内の温度を加熱及び冷却するための温度制御装置と、生地の高さとCO2ガス排出量から判定した醗酵状態に基づいて温度を制御するための生地状態判定装置とを備える。
システムはまた、醗酵室の温度と、生地の高さとCO2ガス放出量の相関関係に基づいて、醗酵状態が正常状態であるか異常状態であるかをチェックするための醗酵データベースを含む。
本実施例によれば、生地に直接接触せずに、生地の高さ(Hsurface)の変化及びCO2ガス排出量を監視することで、パン生地の非侵襲、低汚染を達成することができる。更に、簡単な監視・制御システムで、醗酵処理の制御が可能になる。本実施例は、生地醗酵処理の自動化に適している。更に、醗酵終了点を目標醗酵時間に制御することが可能である。
図9は、横軸を生地の高さ(Hsurface)、縦軸をCO2ガス排出量として、所定の醗酵室の温度(Tatmosphere)下で40分経過後の、パン生地の配合を変えた各種サンプルの状態をプロットしたものである。
醗酵処理を非侵襲的に監視するために、本発明者らは種々の醗酵状態パラメータを調査し、図9に示すように、生地の高さ(Hsurface)とCO2ガス排出量の相関関係が、醗酵処理中の生地の異常状態を検出するために利用できることを見出した。すなわち、生地の高さ(Hsurface)とCO2ガス排出量の両者で規定される数値により、醗酵状態が間接的に推定できるということを見出した。
図9のグラフ中で、点線で示される上限と下限の間が、醗酵の正常範囲を示している。4種類のマークでプロットされているサンプルは、パン生地において、夫々塩(Salt)、砂糖(Sugar)、水(Water)、イースト(Yeast)の分量を、基準値から所定量変更したものである。黒い三角で示されているイースト2.0g、2.3gは、イーストの量が少ない場合であり、醗酵が不十分と考えられる。バツ印で示される塩1.96g、2.04gは、塩の量が多い場合であり、グルテンが生成されず、パン生地からCO2が抜けてしまっているためCO2排出量が多いとと考えられる。
図9のデータは、パン生地の材料配分を変化させ、醗酵時間に対する生地の高さ(Hsurface)とCO2ガス排出量を測定し、出来上がったパンを検査することで、実験的に得ることができる。本実施例では、所定の醗酵時間の後に、所定のパン生地高さまでパン生地が膨らんでいる場合、これを正常と判定し、そうでないものは異常と判定している(後述の図15参照)。このような知見に基づき、醗酵中のパン生地の異常状態を検出し、醗酵をフィードフォワード制御することにより、所定時間に生地が目的の高さに到達するように、醗酵状態を回復することができる。
なお、図9の例では、異常を判定する時間を40分後にしているが、30分後等に変更してもよく、適宜設定してよい。発明者らの検討によると、一般に時間は長いほうが判定しやすいが、長すぎると醗酵異常を正常に戻すための時間的余裕が少なくなってくる。
図10により、本実施例のフィードフォワード制御の概念を説明する。醗酵容器1にパン生地2を供給し、パン生地2を含む醗酵容器1を醗酵室3に投入し、パン生地を特定の条件(特定の温度及び湿度)で醗酵させる。醗酵室3内の雰囲気温度(Tatmosphere)は、雰囲気温度センサ101で測定され、生地表面の高さ(Hsurface)は高さセンサ5で測定される。生地からのCO2ガス流出量はガスセンサ102で測定される。
本実施例では、TatmosphereにおけるHsurfaceとCO2ガス排出量の相関値を評価し、事前に第1のデータベースとして準備しておく(ステップS1001)。そして、センサで測定した生地表面の高さ(Hsurface)およびCO2ガス流出量と、第1のデータベースを比較することで、一定時間経過後にその時点における醗酵生地の状態が許容可能か否かを判定する(ステップS1002)。異常状態が検出された場合に、第2のデータベースに基づき、醗酵室3の温度(Tset)の変化を推定し、温度制御装置11で醗酵室3内の温度を制御する(ステップS1003)。
図11により、本実施例の装置構成と図10のステップS1001における第1のデータベースの構築について説明する。最初に、醗酵室3を所定の温度(Tatmosphere)で維持する。次いで、所定の成分比で混合されたパン生地2を醗酵容器1に入れた後、この生地を醗酵室3に入れて醗酵を開始する。醗酵の進行とともに、生地の高さ及びCO2排出量が増加する。よって、醗酵の進み具合を知るために、高さセンサ5及びガスセンサ102によって生地の高さ(Hsurface)とCO2ガス排出量を測定する。
生地状態判定装置6には、雰囲気温度センサ101、高さセンサ5、ガスセンサ102、醗酵室の温度制御装置11が接続されている。雰囲気温度センサ101、高さセンサ5及びガスセンサ102は互いに平行に、醗酵室3の最高点から一定の距離を置いて配置してもよい。
雰囲気温度センサ101は、温度計、熱電対、サーミスタ、又は赤外線(IR)検出器で構成することができる。任意に設定した測定時間において、雰囲気温度センサ101はフィードバックループを用いて醗酵室3を監視する。雰囲気温度センサ101の信号は、醗酵室3内の雰囲気の温度を測定できる。この測定により得られた信号は、温度・高さ・ガス検知部103に送信され保存される。
高さセンサ5は、実施例1~3と同様に、たとえば超音波送受信機から構成することができる。センサーイメージングやレーザのような、パン生地2の高さを検出するための他の種類のセンサも使用可能である。
ガスセンサ102は赤外線(IR)検出器で構成できる。IRセンサは、測定手段として二酸化炭素による赤外線の吸収を利用する。IRセンサに代え、光学式、電気化学式や半導体式など、公知の二酸化炭素センサを用いてもよい。電気化学式は電気化学反応を利用して検出するものである。半導体式は、酸化スズのような半導体を使用して二酸化炭素を検出するものである。
また、システムは、温度・高さ・ガス検知部103、データベースの格納部8、計算部9及び表示部10を含む生地状態判定装置6を備える。
温度・高さ・ガス検知部103は、各測定時間に雰囲気温度センサ101から得られる醗酵室3の温度検知信号、高さセンサ5からの高さ検知信号、及びガスセンサ102からのガス検知信号から得られる、連続的に入力されたデータを受信するために使用される。
データベースの格納部8は参照データベースを格納する記憶装置(例えば磁気ディスク装置や半導体メモリ)であり、第1のデータベースについては図12に、第2のデータベースについては図16に詳細に説明する。
図12は、データベースの格納部8内の醗酵状態に関する第1のデータベースの一例である。第1のデータベースは、あらかじめ測定された醗酵時間1201の関数として、所定の生地成分1202と測定された醗酵状態との関係を示す多数のデータ1203を含む。更に、第1のデータベースは、醗酵室3の温度1204、パン生地の高さ1205、CO2ガス排出量1206、及び醗酵生地の品質値1207のような変動値についての詳細を表す。これらは、予め実験を行ってデータを取得し、第1のデータベースとしてデータベースの格納部8に記憶する。第1のデータベースには、図9に示したような知見に基づき、パン生地の高さ1205とCO2ガス排出量1206が所定上限値を上回る場合、パン生地の塩分量が不適切(例えば多すぎる)との情報を含んでもよい。またパン生地の高さ1205とCO2ガス排出量1206が所定下限値を下回る場合、パン生地のイースト量が不適切(例えば少なすぎる)との情報を含んでもよい。
図10のステップS1002における異常状態検出法について説明する。生地状態判定装置6は、温度・高さ・ガス検知部103で得られたHsurfaceと、Tatmosphereにおいて得られたCO2ガス排出量を、第1のデータベースと比較し、特定時点における醗酵状態(正常であるか異常であるか)を判定する。
図12に示した第1のデータベースによれば、図9に示したように、所定のパン生地の配合について、所定温度Tatmosphere及び任意の醗酵時間における、パン生地高さHsurface及びCO2ガス排出量の値から、醗酵生地の品質値を知ることができる。このためには、所定のパン生地の所定温度の醗酵に関するデータ1203について、パン生地の高さ1205とCO2ガス排出量1206から、醗酵生地の品質値1207を参照すればよい。
図9に示すように、入力されたセンサからのTatmosphereにおけるHsurfaceとCO2ガス排出量との相関値が正常状態の範囲内であれば、醗酵状態は正常と判定される。しかし、正常状態の範囲外であれば、異常状態であると判定される。
また、生地状態判定装置6は、図10のステップS1003のフィードフォワード制御において、計算部9での醗酵状態判定に基づいて温度制御装置11を制御するための制御信号の出力を行う、生地状態制御部としての機能を有してもよい。生地状態判定装置6は、醗酵制御モデルに基づいて醗酵室3内の温度を上昇又は低下させるために、醗酵室3の温度制御装置11に制御信号を送信する。従って、生地状態判定装置6は、醗酵処理を制御し、醗酵処理の効率及び質を向上させることができる。
図13に示すフローチャートにより、温度制御装置11の動作を詳細に説明する。図13に示すように、生地成分の原材料を混練して得られた生地を醗酵容器1に投入し、醗酵容器1を所定の醗酵温度にあらかじめ維持した醗酵室3に移して醗酵処理を開始する(S1301)。
次いで、生地の高さHsurface、CO2ガス排出量、及び醗酵室の温度(Tatmosphere)を、予め定めた時間(例えば40分醗酵後)に測定する(S1302)。
図9に示したように、計算部9では、Hsurface、CO2ガス排出量及びTatmosphereの測定値を用いて、測定値とあらかじめ取得した第1のデータベースとを比較することにより、生地の醗酵状態を判定する(S1303)。
TatmosphereにおけるHsurface及びCO2ガス排出量の相関値が正常状態範囲内かどうかを判定して分岐を行う(S1304)。
相関値が正常状態範囲であれば醗酵は正常状態であると判定し、温度制御装置11を作動させて醗酵室3内のその時点における温度を維持して醗酵を継続する(S1305)。
TatmosphereにおけるHsurface及びCO2ガス排出量の相関値が正常状態の範囲外であれば異常状態であると判定する。その異常状態の原因は、あらかじめ測定した第1のデータベースから定義することができる。すなわち、生地高さHsurface及びCO2ガス排出量との相関値が、正常状態範囲の上限値を超えているか判定する(S1306)。図9で説明したように、生地高さHsurface及びCO2ガス排出量との相関値が、正常状態範囲の上限を超えている場合、塩分の量の管理に問題があることが推定される。この場合、パン生地から過剰にCO2ガスが放出されており、パン生地の微細構造に好ましくない変化が想定される。このため、醗酵状態は不合格と判定される(S1312)。パン生地の微細構造が所望の状態でない場合、不可逆的で回復ができない場合があるので、この場合には醗酵プロセスは失敗であったとして終了してもよい。
生地高さHsurface及びCO2ガス排出量との相関値が、正常状態範囲の上限値を超えていない場合(すなわち、Hsurface及びCO2ガス排出量の相関値が正常状態範囲の下限未満である場合)、醗酵は異常と判断され、第2のデータベースを参照することで異常状態を回復させるために必要な設定温度Tsetが決定される(S1317)。
先に図9で説明したように、Hsurface及びCO2ガス排出量の相関値が正常状態範囲の下限未満である場合には、イーストが足りずに醗酵が不十分であることが推測される。イーストは生物であるため、物理的に同量を投入しても、効果にばらつきがあることが考えられる。このような異常では、温度をフィードフォワード制御することで、醗酵を促進させ醗酵プロセスを正常に戻すことが期待できる。
Tsetの値は、Tset>Tatmosphereに設定して温度を上昇させるか(S1308)、Tset<Tatmosphereに設定して温度を低下させるか(S1309)のいずれかによって操作される。
S1305、S1308、S1309の各工程で醗酵制御を実施した後、パン生地高さHsurfaceを測定し、設定した時間に高さが所定の高さHset以上になるかどうかを判定する(S1310)。パン生地の高さが十分であれば、適切な醗酵が行われ、醗酵が終了したと言える(S1311)。しかし、それらの工程によって、パン生地高さがHset値に到達できなかった場合、醗酵状態は十分でないと判定される(S1312)。
図14は、酵素活性に注目した酵母内部の代謝経路を示す概念図である。ここで、PCはピルビン酸カルボキシラーゼ酵素、AHはアルコール脱水素酵素である。一方、NAD+とNADHはそれぞれ酸化型と還元型のニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを示す。図14に示すように、醗酵処理中のCO2ガス排出の発生は酵素活性により制御され、温度に依存する。
時間当たりのパン生地高さの変化量dH/dtは、醗酵異常が発生した場合に変更する必要がある。本発明者らは、アレニウス方程式を採用して醗酵制御モデルを構築した。
(式中、H、t、N、E、R及びTは、それぞれ生地の高さ、醗酵時間、定数係数、活性化エネルギー、ガス定数及び醗酵温度である。)
上記式を実行するために、種々の異常状態についての定数係数(N)及び活性化エネルギー(E)の値が必要である。このために、理想的には異常状態のあらゆる場合について種々の温度(1/T)における生地の高さの経時的変化(dH/dt)を含む第2のデータベースがあらかじめ準備される。現実的には、想定される典型的な異常状態について、データベース化しておけばよい。
図15は、本実施例に従って醗酵室3内の温度を変化させることによって、dH/dtを設定目標に達するように変化させる必要があることを示す概念図である。図15(a)には横軸に時間、縦軸にパン生地高さを表示している。図15(a)において、実線で示す醗酵異常のサンプルでは、パン生地高さの変化率dH/dtが小さく、所定時間内に目標高さHsetに到達できない。そこで、図15(b)に示すように、縦軸に示す醗酵室温度をTsetに変更(この場合は上昇)してdH/dtを大きくする必要がある。必要なdH/dtの値は図15(a)のグラフの傾きから知ることができる。必要なdH/dtを得るために必要な温度は、第2のデータベースから得る。
図16は、第2のデータベースの一例である。横軸は1/Tであり、縦軸は(dH/dt)の対数である。黒丸でプロットした箇所で、目的dH/dtを得るための醗酵室温度を摂氏で併記している。第2のデータベースは前述のように、アレニウス方程式によって計算して求めておく。
図17は、本実施例で使用した標準的な生地レシピ(Standard)及び、図9の知見を得るために調査した生地成分(Dough component)の範囲(Investigated range)を示す。成分は、小麦粉、水、塩、イースト、塩、砂糖、スキムミルク、無塩バターである。醗酵処理が実行されると、醗酵室の温度(Tatmosphere)、生地の高さ(Hsurface)及びCO2ガス排出量が監視され、同時に温度・高さ・ガス検知部103を介して生地状態判定装置6に入力される。
異常状態の検出及びフィードフォワード制御を実施するには、所定のパン生地高さ(Hset値)及び設定時間による醗酵の成功目標の設定が必要である。
図18は、醗酵の成功目標の例であり、模範的な配合のパン生地を用いて、所定温度、所定時間で醗酵を行った例である。このようなデータは実験的に得ればよい。判定基準を、醗酵温度28℃において、醗酵時間70分後にパン生地高さ90mmになるように設定する。黒い三角及び線は、それぞれHsurface及びCO2ガス排出量の測定結果である。もちろん図18は一例であり、他の成功目標を設定してもよい。
図19にて、醗酵異常の検出とフィードフォワード制御の原理を説明する。図19の左側のグラフは、図9と同様のものでありHsurface及びCO2ガス排出量の相関から、醗酵異常を判定することができる。いま黒い三角で示されるイースト量を変化させたサンプルのうち、正常範囲内にあるイースト2.5gのサンプルと、イースト異常であるイースト2.3gのサンプルに着目する。
既述のように、Hsurface及びCO2ガス排出量の相関関係を第1のデータベースと比較することで、イースト2.3gのサンプルの40分での異常状態を検出することができる。更に、この異常状態を制御して所定時間後にHset値に到達させるには、図19の右側のグラフのように、現在のパン生地高さと目標パン生地高さ(Hset値)との差ΔHと、現在時間と目標時間(Set time)との差Δtから目標dH/dtを求め、図16に示すように第2のデータベースを参照することにより、必要なTsetを判定することができる。
図20は、実施例のモデルに基づく醗酵制御の結果を示しており、28℃における正常状態(黒い三角のマークで示す)と制御で回復された異常状態(白い三角マークおよび黒丸で示す)を示している。図20に示すように、28℃で醗酵を行っていた場合、パン生地高さは白い三角のマークのように推移し、高さが不足であった。この結果、40分後に異常状態が検出された。その後、生地状態判定装置6によって制御された温度制御装置11を介して、TatmosphereをTsetに迅速に変更した。この例では、Tsetは32℃である。醗酵室の温度をTsetに変更することで、パン生地高さは黒い丸のマークのように回復した。異常状態であっても、所定の設定時間で所定のパン生地高さに到達するという設定目標を達成するように制御が可能である。この例では、70分後にパン生地高さ90mmに到達するように、温度Tsetを制御している。このように、フィードフォワード制御を実施することにより、黒い三角マークのように正常な醗酵の場合と同様の結果を得ることができる。
実施例4においても、実施例3(図8)と同様に、製パン工場における大量生産に適する形態を採用することができる。ハードウェア構成はほぼ同じであり、センサ、データベースおよび制御システムを実施例4で説明したものに置換すればよい。