以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1及び図2は、それぞれ本発明の実施形態に係るコーナリング練習機1の外観図である。図3は、コーナリング練習機1の主要構造を示す側断面図である。図4は、図2の後述する姿勢制御機構50の周辺を拡大した図である。コーナリング練習機1は、オートバイのコーナリングの練習に適した装置であり、コーナリング練習機1を使用することにより、コーナリング走行時のバランス状態を模擬的に体験することができる。
図1に座標で示すように、図1における、左上から右下に向かう方向をX軸方向、左下から右上に向かう方向をY軸方向、下から上に向かう方向をZ軸方向と定義する。X軸方向及びY軸方向は水平方向であり、Z軸方向は鉛直方向である。また、オートバイの走行方向に対応するX軸正方向を前、X軸負方向を後ろ、Y軸正方向を左、Y軸軸負方向を右と呼ぶ。
図1に示すように、コーナリング練習機1は、真上から見て略ホームベース形(すなわち、平行な二辺を有する左右対称な五角形状)のベースフレーム11を有する台座10と、X軸方向に延びる揺動軸Axの周りに揺動可能に台座10に連結された揺動フレーム20と、揺動フレーム20の先端部に回転可能に連結した操舵部30と、揺動フレーム20に揺動軸Ax周りの力を与えて姿勢(すなわち、揺動フレーム20の傾き)を制御する姿勢制御機構50と、操舵部30に仮想の走行速度に応じた復元力(すなわち、直進安定性)を与えるハンドル制御機構60(図9)を備えている。揺動フレーム20及び操舵部30により、オートバイの車体を模擬した模擬車体が構成される。練習者Tは、模擬車体に乗って、オートバイの車体の制御を練習する。
ベースフレーム11は、五角形の底辺(平行な二辺のそれぞれと直角をなす辺)を後方に向け、また、底辺に対する頂点を前方に向けて配置されている。ベースフレーム11は、鋼板等の板から形成され、五角形状の枠部111と、枠部111の左右及び後方の側板を連結する梁部112を有する。梁部112は、前後方向の略中央部において段状に折り曲げられていて、その前方部分(上段部112a)が枠部111の左右の側板の上端部に接合され、その後方部分(下段部112b)が枠部111の左右及び後方の側板の下端部に接合されている。また、上段部112aの後端部中央には、後述する姿勢制御機構50のベースプレート51の前端部が接合されている。
五角形状のベースフレーム11の最前部の隅(頂角)を除く四隅の付近には、ベースフレーム11を移動可能に支持するストッパー付きのキャスター12がそれぞれ取り付けられている。コーナリング練習機1は、キャスター12のストッパーを解除することによって移動可能になり、設置場所や設置方向を容易に変更できるようになっている。コーナリング練習機1を使用する際には、キャスター12のストッパーが作動して、コーナリング練習機1は設置場所に定置される。
図3に示すように、揺動フレーム20は、L字形のメインチューブ21と、メインチューブ21の先端に接合された上下に延びるヘッドチューブ22を備えている。メインチューブ21は、上下に延びる直立部211と、直立部211の上端部から前方に延びる水平部212を有している。
図2に示すように、メインチューブ21の水平部212(図3)には、シート218とダミータンク219が取り付けられている。また、メインチューブ21の直立部211の左右両側面には、前方に張り出した一対のブラケット213が取り付けられている。各ブラケット213の先端部に形成されたY軸方向に貫通する孔には丸棒状のステップバー214が通され、一対のブラケット213によりステップバー214が支持されている。
図4に示すように、ブラケット213から外側に突き出たステップバー214の左右両側部分には、練習者Tの足が掛けられるステップ214aが形成されている。ステップバー214には、各ステップ214aの長さ方向両側に隣接して大径部(ストッパー)214b、214cが設けられている。ステップ214aは、その両側の大径部214b、214cに対して窪んでいるため、練習者Tの足はステップ214aから外れ難くなっている。また、ステップバー214の外周には左右のブラケット213と大径部214cとの間に環状の溝214dが形成されていて、この溝214dにコイルスプリング581(引張ばね)の一端側のフックが掛けられている。また、コイルスプリング581の他端側のフックは、後述する2軸クレビス5210(ヒンジベース)の左右両側面から突出したポスト5210aに掛けられている。
ステップバー214の左側の大径部214cにはチェンジペダル215が取り付けられ、右側の大径部214cにはブレーキペダル216が取り付けられている。チェンジペダル215及びブレーキペダル216には、それぞれ練習者Tによる各ペダル215、216の操作量(回転角)を検出するロータリーエンコーダー(不図示)が設けられている。これらのロータリーエンコーダーは、後述する姿勢制御機構50のコントローラー50cに接続されていて、各ペダル215、216の操作量を示す信号をコントローラー50cに発信する。
図3に示すように、操舵部30は、揺動フレーム20と回転可能に嵌合したコラム33と、コラム33の上端部に結合した板状のステム32と、コラム33の中央部外周に取り付けられた操舵ジャケット34と、ステム32と操舵ジャケット34とを連結する操舵ロッド35と、ステム32に取り付けられたハンドル31と、コラム33の下端を回転及び揺動可能に支持するベアリングユニット36を備えている。
揺動フレーム20のヘッドチューブ22の内周には、一対の軸受(不図示)が上下両端部に設けられている。この一対の軸受により、ヘッドチューブ22の中空部に差し込まれたコラム33の上部が回転可能に支持されている。操舵ロッド35の上端部には、メーターパネル40が取り付けられている。
図5は、ベアリングユニット36の断面斜視図である。ベアリングユニット36は、台座10の前端部に取り付けられた座部361と、コラム33の下端に取り付けられたピボット部362を備えている。ピボット部362は、転動体である樽形ころ362aと、樽形ころ362aを回転可能に保持する二股の保持部362bを備えている。また、座部361の上面には、樽形ころ362aが載せられる凹曲面(例えば球面)の座面361aが形成されている。樽形ころ362aの回転軸が揺動軸Axと一致するため、樽形ころ362aの回転によって台座10に対する揺動フレーム20の揺動が許容されている。また、ベアリングユニット36は、コラム33の回転に対してはすべり軸受として機能する。すなわち、座面361aに対する樽形ころ362aの摺動によって、コラム33(操舵部30)の回転が許容されている。
ベアリングユニット36は、コーナリング練習機に限らず、機械全般(例えば、自動車、航空機、船舶等の操舵装置、マニピュレーター、動力伝達装置、ジョイスティック等)に使用することができる。
図2に示すように、ハンドル31には、右側にアクセルグリップ311及びブレーキレバー312が、左側にクラッチレバー313及びスターターボタン314が、それぞれ設けられている。なお、アクセルグリップ311、ブレーキレバー312及びクラッチレバー313には、それぞれユーザー操作を検出するセンサー(不図示)が内蔵されている。これらのセンサーとスターターボタン314は、姿勢制御機構50のコントローラー50c(図4)に接続されていて、ユーザー操作に応じた信号をコントローラー50cに発信する。
図6は、メーターパネル40の外観図である。メーターパネル40には、速度計41、回転計42、ニュートラル表示灯43及び速度段表示灯44が設けられている。メーターパネル40の各計器も姿勢制御機構50のコントローラー50c(図4)に接続されていて、コントローラー50cから送信される信号に基づいて動作する。速度計41及び回転計42は、コントローラー50cによって計算された仮想の車速及び仮想のエンジン回転数をそれぞれ表示する。また、ニュートラル表示灯43及び速度段表示灯44は、それぞれクラッチレバー313及びチェンジペダル215に対するユーザー操作に基づいてコントローラー50cが決定した仮想の変速機のシフトポジションを表示する。
図4に示す姿勢制御機構50は、揺動フレーム20を前後左右の二方向に揺動可能に支持すると共に、揺動フレーム20の姿勢(傾き)を制御する機構部である。より具体的には、姿勢制御機構50は、ジャイロ効果により揺動フレーム20の姿勢を安定化させる機能を有している。姿勢制御機構50は、台座10のベースフレーム11の後部中央に固定されたベースプレート51と、揺動フレーム20をベースプレート51に対して前後左右の二方向に揺動可能に支持する揺動機構52と、回転して角運動量を発生する回転部54と、回転部54を回転駆動する駆動部53(駆動手段)と、姿勢制御機構50の動作を制御するコントローラー50cを備えている。
揺動機構52は、ベースプレート51上に左右にスライド可能に載置されたスライダ523と、スライダ523の移動(可動方向及び移動範囲)を制限するガイドアーム527と、スライダ523に揺動フレーム20を前後左右の二方向に揺動可能に連結する2軸クレビス継手521と、2軸クレビス継手521の後述するX軸ピン5213(連結シャフト)の前端部に同軸に結合した円板522と、2軸クレビス継手521、スライダ523及び駆動部53を連結するコネクタ525及びアイ526と、スライダ523に連結された左右一対のリンク524と、各左右一対のコイルスプリング581、582、583及び584を備えている。揺動機構52は、直立姿勢において、揺動フレーム20の中心面(すなわち、揺動軸Axを含む鉛直面)に対して対称に構成されている。
2軸クレビス継手521は、互いに回転軸が直交する2つの二山クレビス(X軸クレビス5210X、Y軸クレビス5210Y)が結合した2軸クレビス5210(ヒンジベース)と、Y軸クレビス5210Yの軸穴と回転可能に嵌合するY軸ピン5211と、X軸クレビス5210Xの孔に嵌め込まれた一対の軸受5212と、一対の軸受5212により回転可能に支持されたX軸ピン5213(連結シャフト)を備えている。なお、無負荷の初期状態(練習者Tがコーナリング練習機1に乗っていない状態)において、X軸ピン5213の中心軸はX軸方向を向き、Y軸ピン5211の中心軸はY軸方向を向く。
メインチューブ21の直立部211の下端には、左右に貫通する孔を有するアイ211aが設けられている。Y軸ピン5211は、アイ211a及びY軸クレビス5210Yの孔と嵌合し、メインチューブ21と2軸クレビス5210とをY軸ピン5211の周りに揺動可能に連結している。
2軸クレビス5210の左右両側面には、Y軸ピン5211よりも前方(より正確には、Y軸ピン5211とステップバー214の中心線を含む平面よりもX軸正方向側)に円柱状のポスト5210aが設けられている。上述したように、左右一対のコイルスプリング581は、それぞれ、一端側のフックがステップバー214に、他端側のフックが左右のポスト5210aに掛けられている。これらの一対のコイルスプリング581によって、揺動フレーム20を前傾させるようなY軸ピン5211周りのトルク(具体的には、図3における時計回りのトルク)が与えられる。
X軸ピン5213は、X軸クレビス5210Xを貫通して、両端がX軸クレビス5210Xから前後に突出している。X軸ピン5213の前端部には円板522が同軸に結合している。円板522は、X軸ピン5213と同軸の円柱面である側面にてベースプレート51の上面と接している。すなわち、X軸ピン5213の前端部は、円板522を介して、ベースプレート51によって回転可能に支持されている。なお、円板522は、ベースプレート51上を転動又は滑動することができる。また、X軸ピン5213の後端部はコネクタ525と嵌合している。すなわち、X軸ピン5213は、前端部においては円板522を介して、後端部においてはコネクタ525及びスライダ523を介して、ベースプレート51に支持されている。
2軸クレビス5210の上部(すなわち、Y軸クレビス5210Y)の背面からは、左右一対のバー5210bが後方に伸びている。バー5210bの後端部は駆動部53(より具体的には、モーター531のケース)と結合している。一対のバー5210bによって駆動部53と2軸クレビス5210とが結合することにより、姿勢制御機構50の駆動部32、回転部54及び2軸クレビス5210(姿勢制御機構50のこれらの三つの構成部分を合わせて、以下「揺動部50r」という。)が揺動フレーム20及び台座10に対して、X軸ピン5213(すなわち揺動軸Ax)の周りに一体に揺動し、姿勢制御機構50の揺動部50rと揺動フレーム20が常に同じ角度で左右に傾くようになっている。すなわち、姿勢制御機構50の揺動部50rの傾きを制御することにより、揺動フレーム20の傾きを制御することが可能になっている。
スライダ523は、前後に並べて配置された左右に伸びる一対の桁5231と、一対の桁5231を上面及び下面においてそれぞれ連結する各二対の上梁5232及び下梁5233と、一対の桁5231を左右両端面においてそれぞれ連結する一対の縁梁5234を有する梯子状の部材である。下梁5233の下面は、ベースプレート51上を左右にスムーズにスライドできるように、半円柱面状に形成されている。
スライダ523の左右両端面(縁梁5234)には、左右外側に伸びるロッド5235が取り付けられている。また、台車10のベースフレーム11の背面には、左右一対のガイドアーム527がスライダ523を間に挟んで取り付けられている。一対のガイドアーム527は、揺動軸Axを含む対称面に対して左右対称に配置されている。ガイドアーム527の先端部には、前後方向に細長く、左右に貫通した、ガイド孔5271(ガイド溝)が設けられている。左右のガイドアーム527のガイド孔5271には、左右のロッド5235がそれぞれ通されている。ガイド孔5271の短径はロッド5235の直径よりもわずかに大きく、ガイド孔5271によってロッド5235の可動方向がガイド孔5271の長径方向(すなわちX軸方向)に限定されている。ロッド5235及びガイドアーム527により、スライダ523の移動を制限するガイド手段が構成される。
各ロッド5235には、コイルスプリング583が被せられている。コイルスプリング583は、スライダ523とガイドアーム527とで挟み込まれて圧縮されている。スライダ523が揺動軸Axに対して左右いずれかに偏ると、左右のコイルスプリング583の復元力の均衡が破れて、スライダ523に左右中央(初期位置)へ押し戻す力が作用する。
ガイドアーム527のベース5272には、上下に延びる一対の長孔5272aが形成されている。ベース5272は、各長孔5272aに通されたリベット5272bによって、上下にスライド可能にベースフレーム11に取り付けられている。これにより、スライダ523の左右(X軸周り)の傾斜が許容されている。
各ガイドアーム527の下面には、コイルスプリング584の一端側のフックが掛けられるフック5273が設けられている。また、台車10のベースフレーム11の背面には、後方に延びる一対のポスト528が、各ガイドアーム527の下方に設けられている。ポスト528には、コイルスプリング584の他端側のフックが掛けられている。各コイルスプリング584には初期張力が与えられている。そのため、スライダ523がX軸周りに傾斜して、一方のガイドアーム527がベースフレーム11に対して上方にスライドすると、コイルスプリング584の復元力によって、ガイドアーム527が元の位置(上下の可動範囲の下端)に戻され、スライダ523の傾きが解消されるようになっている。また、コイルスプリング584の弾性力によりスライダ523の傾きが抑制され、一定の大きさのX軸周りのトルクがスライダ523に加わらなければ、スライダ523が傾かないようになっている。
図7は、揺動軸Axを含む鉛直面でコネクタ525及びその周辺を切断した状態を示す断面斜視図である。コネクタ525は、上下に貫通する中空部525aを有する筒状の部材であり、円筒状の下部5251と、外形が略8角柱状の上部5252を有している。
スライダ523の中央には、上下に貫通する円柱状の孔5231aが形成されていて、この孔5231aにコネクタ525の下部5251が回転可能に嵌入している。コネクタ525の上部5252は、孔5231aよりも幅が広いため、孔5231aには入らず、スライダ523の上面に載置される。コネクタ525の上部5252には、前後に貫通する孔525bが形成されている。孔525bは、上部5252の内部で中空部525aと連絡している。
駆動部53の下端には、孔526aが形成されたアイ526が設けられている。アイ526は、孔526aを前後方向に向けて、コネクタ525の中空部525aに差し込まれている。中空部525aによって2つに分断されたコネクタ525の孔525bとアイ526の孔526aが一直線に連絡し、これらの孔525b、526a及び525bにX軸ピン5213の後端部が回転可能に嵌入している。これにより、スライダ523と駆動部53とが、X軸ピン5213及びコネクタ525を介して、X軸ピン5213(揺動軸Ax)の周りに揺動可能に連結されている。また、X軸ピン5213とスライダ523とが、コネクタ525を介して、X軸ピン5213(揺動軸Ax)及びコネクタ525の中心軸(Z軸)の周りに揺動可能に連結されている。また、X軸ピン5213と駆動部53とが、X軸ピン5213(揺動軸Ax)の周りに揺動可能に連結されている。
図4に示すように、リンク524の両端部には、それぞれ二山のクレビスが設けられている。なお、リンク524の下側のクレビスは、一山のクレビス(すなわち、アイ)としてもよい。また、スライダ523の桁5231には、左右外側の上梁5232の近くに、前後に貫通する左右一対の孔5231bが形成されている。各リンク524の下側のクレビスは、スライダ523の一対の桁5231の間の隙間(ガイド溝523a)に差し込まれ、リンク524の下側のクレビスの孔及び一対の桁5231の対向する孔5231bと嵌合するピン524aによって、旋回(揺動)可能にスライダ523に連結されている。
リンク524の旋回可能な角度範囲は、左右外側への旋回については縁梁5234によって制限され、左右内側への旋回については直近の上梁5232によって制限されている。また、ガイド溝523aの幅はリンク524のX軸方向の厚さよりもわずかに大きく、ガイド溝523aによってリンク524のX軸方向の移動が阻止されている。
各リンク524の上側のクレビスの孔にはピン524bが嵌合している。ピン524bには、コイルスプリング582の下端側のフックが掛けられている。
上述した揺動機構52及び操舵部30のベアリングユニット36により、揺動フレーム20の揺動動作(揺動軸Ax周りの傾き)やスライド動作が可能になっている。
図10は、スライド動作を説明する図である。揺動フレーム20のスライド動作は、ベアリングユニット36を中心に揺動フレーム20が水平方向に旋回する動作である。図10(a)は右にスライド(平面視において反時計回りに旋回)した状態を示した図であり、図10(b)は左にスライド(平面視において時計回りに旋回)した状態を示した図である。図中の直線Cは、台座の中心線(左右対称な台座10の対称面)を示す。
スライド動作は、ベアリングユニット36により操舵部30が台車10に対して回転可能に支持される(及び/又は、ヘッドチューブ22の軸受によって操舵部30と揺動フレーム20とが回転可能に連結される)と共に、揺動機構52により揺動フレーム20の後部が台車10に対して水平方向にスライド可能に支持されることによって実現されている。また、揺動機構52によるスライド可能な支持は、揺動フレーム20に連結されたスライダ523が台車10に固定されたベースプレート51上にスライド可能に配置され、且つ、スライダ523が台車10に固定された一対のガイドアーム527によって、前後左右にスライド可能に支持されることによって実現されている。
駆動部53は、モーター531と、モーター531から出力される回転を減速させるディスクブレーキ532と、モーター531から出力される回転を断続して回転部54に伝える電磁クラッチ533と、を備えている。回転部54は、ディスクブレーキ532及び電磁クラッチ533を介して、モーター531に接続されている。
回転部54は、駆動部53によって回転駆動されるシャフト541と、シャフト541の先端部に固定された固定ハブ542(固定部)と、シャフト541とスライド可能に嵌合した可動ハブ543(可動部)と、固定ハブ542と可動ハブ543とを連結する4つのアーム545を備えている。シャフト541は、可動ハブ543が走行する軌道となる。
固定ハブ542は、外形が略正四角柱状であり、軸心にシャフト541と嵌合する円柱状の貫通孔が形成された環状の部材である。固定ハブ542の四側面には、各側面に平行かつシャフト541に垂直なヒンジ軸を有する二山のクレビス542aがそれぞれ設けられている。各クレビス542aには、アーム545の上端部がヒンジ軸の周りに揺動可能に連結されている。
図8は可動ハブ543の断面斜視図である。可動ハブ543は、シャフト541とスライド可能に嵌合したブッシュ5431(内筒)と、ブッシュ5431の下部の外周に回転可能に嵌合したリング5432(外筒)を備えている。ブッシュ5431の上部は外形が略正四角柱状であり、ブッシュ5431の上部の四側面には、各側面に平行かつシャフト541に垂直なヒンジ軸を有する二山のクレビス5431cがそれぞれ設けられていて、ブッシュ5431の上部は、固定ハブ542に似た外形を有している。各クレビス5431cには、対応するアーム545の下端部がヒンジ軸の周りに揺動可能に連結されている。
可動ハブ543の内周には、シャフト541と嵌合する円柱状の貫通孔5431hを有する軸受部5431bが全長に渡って形成されている。なお、本実施形態の軸受部5431bはすべり軸受であるが、転がり軸受等の他の種類の軸受を使用してもよい。可動ハブ543の正四角柱状の上部の下面から更に下方に延びた軸受部5431bの下部の外周には、リング5432が回転可能に嵌合している。リング5432のY軸方向両側面には一対のアイ5432aが設けられている。各アイ5432aには対応するコイルスプリング582(図4)の上側のフックが掛けられる。
また、図4に示すように、スライダ523と連結した左右一対のリンク524の上側のクレビスの孔にはピン524bが嵌合している。ピン524bには、コイルスプリング582の下側のフックが掛けられている。すなわち、可動ハブ543は、左右一対のコイルスプリング582(弾性連結手段)を介して、スライダ523の左右両端部に弾性的に連結されている。2つのコイルスプリング582には、回転部54がスライダ523に対して直立したときに釣り合うような初期張力が与えられている。そのため、回転部54がスライダ523に対して左右いずれかに傾くと、左右のコイルスプリング582の張力の均衡が破れて、回転部54を直立姿勢に戻す復元力(揺動軸Ax周りのトルク)が発生する。
アーム545は、固定ハブ542に一端が接続されたリンク5451と、可動ハブ543に一端が接続されたリンク5454と、リンク5451とリンク5454とを連結するショートリンク5452と、リンク5454に取り付けられた錘5453を備えている。
錘5453は、ショートリンク5452に接続されるリンク5454の他端近くに取り付けられている。そのため、回転部54が回転すると、錘5453に働く遠心力により、リンク5454の他端側がシャフト541から遠ざかる方向に移動して、アーム545が屈曲する(すなわち、リンク5451とリンク5454とのなす角が小さくなる)。そして、アーム545の屈曲により、可動ハブ543が上方に引き上げられる。これにより、一対のコイルスプリング582が伸ばされるため、コイルスプリング582による復元力が増大する。
また、回転部54の回転数が増加すると、錘5453の角速度が増加し、更にアーム545の屈曲により、錘5453が回転軸から遠ざかり、アーム545の慣性モーメントも増加するため、回転部54の角運動量が増大する。そのため、所謂ジャイロ効果(角運動量保存則)により、回転部54の向きが安定化する。これに伴い、回転部54を含む揺動部50r及び揺動部50rと一体に結合した揺動フレーム20の姿勢(傾き)が安定化する。
コントローラー50cは、図2に示すクラッチレバー313及びチェンジペダル215に対するユーザー操作に基づいて仮想のシフトポジションを決定し、決定した仮想のシフトポジションに基づいて、メーターパネル40のニュートラル表示灯43及び速度段表示灯44の点灯を制御する。
また、コントローラー50cは、アクセルグリップ311、ブレーキレバー312及びブレーキペダル216に対するユーザー操作と仮想のシフトポジションに基づいて、仮想のエンジン回転数及び車速を計算し、計算した仮想の車速に応じた回転数で姿勢制御機構50のモーター531を駆動する。
また、コントローラー50cは、計算した仮想のエンジン回転数及び仮想の車速にそれぞれ応じた回転信号及び車速信号を発生して、メーターパネル40の速度計41及び回転計42に供給する。
また、コントローラー50cは、クラッチレバー313に対するユーザー操作及び仮想のシフトポジションに基づいて、電磁クラッチ533の断続を制御する。具体的には、コントローラー50cは、クラッチレバー313が握られているとき、又は、仮想のシフトポジションがニュートラルのときに、電磁クラッチ533を切断する。
図9にハンドル制御機構60を示す。ハンドル制御機構60は、揺動フレーム20の水平部212の下面に取り付けられたベースプレート61と、ベースプレート61の前端部から下方に突出するガイドピン611と係合する前後に延びるガイド溝621aが形成された十字プレート62(可動プレート)と、十字プレート62と図9(b)に示す回転部54の可動ハブ543とを連結するプッシュプルケーブル67と、十字プレート62の左右一対のアーム622にそれぞれ連結された一対のリンク63と、コラム33から左右に張り出した一対のポスト64と、ポスト64とリンク63を連結する一対のスプリング65とを備えている。一対のスプリング65によって、操舵部30の向きを直進方向に戻す弾性的な復元力が操舵ジャケット34に与えられる。
プッシュプルケーブル67は、ハンドル制御機構60に対する操作を伝達するワイヤー672と、ワイヤー672が挿入された外筒671を備えている。外筒671は、一端がベースプレート61の後端部から下方に張り出したブラケット部612に取り付けられ、他端が駆動部53のモーター531のケースに固定されたブラケット68に取り付けられている。また、ワイヤー672は、一端が十字プレート62の後端部に設けられたワイヤー係止部623に掛けられ、他端が可動ハブ543に固定されたワイヤー係止具66に掛けられている。
姿勢制御機構50の回転部54の回転数が増加して可動ハブ543が上昇すると、十字プレート62がプッシュプルケーブル67のワイヤー672(制御ワイヤー)によって後方に引っ張られ、一対のスプリング65が延ばされる。これによってコラム33に与えられる復元力が増大し、ハンドル31が直進方向に戻される。すなわち、仮想の車速が大きくなるほど、ハンドル31を直進方向に戻す力が増大し、直進安定性が向上する。
次に、図11~14を参照しながら、上記に説明したコーナリング練習機1の動作を説明する。
図11は、コーナリング練習機1に練習者Tが乗った状態を示した図である。
図12は、コーナリング練習機1の揺動動作時の状態を示した図である。
図13は、コーナリング練習機1のスライド動作時の状態を示した図である。
図14は、コーナリング練習機1の転倒動作時の状態を示した図である。
なお、図12~14においては、練習者Tの図示を省略する。また、図13及び図14において、ガイドアーム527の周辺を拡大した図を枠内に示す。
練習者Tがコーナリング練習機1に乗る前は、姿勢制御機構50の回転部54が停止しており、一対のコイルスプリング582が揺動フレーム20に与える復元力が小さいため、揺動フレーム20はその自重によって左右いずれかに倒れた状態となる。練習者Tは、ハンドル31を掴み、揺動フレーム20を起こして、シート218に跨る(図11)。そして、練習者Tが、クラッチレバー313を握り、スターターボタン314を押すと、コントローラー50cに始動信号が入力され、モーター531が始動する。このとき、また、仮想のシフトポジションは中立に設定されており、図6に示すメーターパネル40のニュートラル表示灯43が点灯する。また、仮想のシフトポジションに応じて電磁クラッチ533が切断されているため、回転部54は停止したままである。
続いて、練習者Tが、クラッチレバー313を握り、チェンジペダル215(図2)を操作して、仮想のシフトポジションをニュートラルから1速に切り替えて(このとき、図6に示すメーターパネル40のニュートラル表示灯43が消灯し、左側の速度段ランプ30bが点灯する)、クラッチレバー313を緩めると、コントローラー50cが電磁クラッチ533を接続する。アクセルグリップ311を回すと、アクセルグリップ311の操作量に応じたアクセル開度信号がコントローラー50cに入力される。コントローラー50cは、アクセル開度信号及び仮想のシフトポジションに基づいて、仮想のエンジン回転数及び仮想の車速を計算し、計算した仮想の車速に応じた回転数で姿勢制御機構50のモーター531を駆動する。
回転部54の回転数の上昇に伴って可動ハブ543が上昇すると、コイルスプリング582によって揺動フレーム20に与えられる復元力が増大して、揺動フレーム20が安定して直立するようになる。また、回転部54が発生する角運動量が増加するため、練習者が重心移動しても揺動フレーム20の直立姿勢が安定に維持される。また、ハンドル制御機構60(図9)によりハンドル31に加えられる復元力も増大し、ハンドル31が直進方向で安定に維持される。
練習者Tが、コーナリングを想定して、アクセルグリップ311の操作量を減らし、ブレーキペダル216(図2)を踏むと、コントローラー50cが計算する仮想の車速が低下するため、コントローラー50cはモーター531の回転数を下げる。そのため、可動ハブ543が降下して、コイルスプリング582によって揺動フレーム20に与えられる復元力が低下する。この状態で練習者Tが旋回したい方向(左側又は右側)の下方に重心を移動させると、練習者Tが重心を移動させた側に揺動フレーム20が傾く(図12:揺動動作)。
また、このとき、ハンドル制御機構60によりハンドル31に加えられる復元力が減少するため、ハンドル31を少ない力で操作できるようになる。旋回方向にハンドル31を切ると、ハンドル制御機構60(図9)の一対のスプリング65による復元力が発生し、この復元力により操舵部30の周りに揺動フレーム20が逆向きに旋回する(図13:スライド動作)。
次いで、練習者が、クラッチレバー313及びチェンジペダル215を操作して仮想のシフトポジションをシフトアップさせ、あるいはアクセルグリップ311を更に回すと、コントローラー50cが計算する仮想の車速が上昇するため、コントローラー50cはモーター531の回転数を上げる。そのため、可動ハブ543が上昇し、コイルスプリング582によって揺動フレーム20に与えられる復元力が増加するため、仮想の車速の増加と共に徐々に揺動フレーム20の傾きが減少する。
また、練習者Tが、重心を移動させた状態でアクセル開度を減らしたり、或いは、仮想の車速に対して過大に重心を移動させたりすると、コントローラー50cは転倒を模擬して、電磁クラッチ533を切断すると共にディスクブレーキ533を作動させて、姿勢制御機構50の回転部54を強制的に停止させ、コイルスプリング582によって揺動フレーム20に与えられる復元力を最小化して、揺動フレーム20を急激に倒す(図14:転倒動作)。このとき、揺動フレーム20が倒れる方向とは逆側(図14においては右側)のガイドアーム527に、コイルスプリング584の張力を超える上向きの力が加わるため、図14の枠内の拡大図に示すように、ガイドアーム527が上にスライドして、スライダ523と共に揺動フレーム20が更に傾く。
以上のように、練習者Tは、コーナリング練習機1を使用して、重心を移動させたときの車速に応じた車体の挙動を疑似的に体験することができる。
以上が本発明の一実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、様々な変形が可能である。例えば本明細書中に例示的に明示された実施形態等の構成及び/又は本明細書中の記載から当業者に自明な実施形態等の構成を適宜組み合わせた構成も本願の実施形態に含まれる。
例えば、上記の実施形態においては、コイルスプリング581、582、584及びスプリング65は引張ばねであり、コイルスプリング583は圧縮ばねであるが、前者に圧縮ばねを使用してもよく、後者に引張ばねを使用してもよい。
また、上記の実施形態においては、コイルスプリング581、582、583、584及びスプリング65(復元力付与手段)は、いずれもコイルスプリングであるが、他の形態のばね(例えば、板ばね、トーションバー、皿ばね、スプリングピン、空気ばね等)を復元力付与手段として使用してもよい。