≪発明を実施するための形態に至った経緯≫
点滴による薬液の投与では、水溶液や薬液が貯留された輸液容器にから、患者の静脈等に装着される血管内留置針までの管路を接続して輸液経路を形成し、管路内の空気を排出して水溶液や薬液を導液するといった準備作業が行われる。
図24は、例えば、特許文献3に記載された、従来の輸液装置1Xの構成を示す模式図である。図25は、輸液装置1Xの使用状態を示す模式図である。図24に示すように、従来の輸液装置1Xは、点滴として供給される溶液111を貯留し栓部113を内包したポート112に開封表示のシール114がされた輸液容器110、一方の端部に瓶針121aと他方の端部にコネクタ121bを有する接続管121、点滴の滴下速度を視認するための点滴筒130、輸液管151、152から構成される輸液管150、輸液管150に装着され流量を制御するクレンメル170(流量調整手段)、輸液管151、152の間に介挿されて薬品容器181の供給口に接続される三方活栓180、輸液管152の下流側の端部を血管内留置針161(以後、「留置針161」とする)に接続するためのコネクタ160から構成される。
このような、従来の輸液装置1Xを用いて患者に点滴を行う場合には、医師、救急救命士、又は看護師(以下、「医師等」とする)は、接続管121、点滴筒130、輸液管150、クレンメル170、三方活栓180、薬品容器181を図25に示すような態様に組み立て、輸液管150の先端まで溶液111を導液したのち、コネクタ160を患者の静脈BVに接続された留置針161に接続することにより点滴を行う。
具体的には、輸液装置1Xの準備作業において、以下の手順が必要であった。
先ず、接続管121、点滴筒130、輸液管150、クレンメル170、三方活栓180、薬品容器181を図25に示すような態様に組み立てて輸液経路を形成する。
次に、輸液容器110のシール114を開封して接続管121の瓶針121aを輸液容器110の栓部113に挿入し、輸液容器110の吊り下げ部110aをフック等(不図示)に吊り下げ、空気で満たされた接続管121と点滴筒130の内部に溶液111を導液し、点滴筒130を押圧して点滴筒130の容量の半分程度まで溶液111が満たされるように液面を調整する。
そして、三方活栓180を開状態にし、点滴筒130内の溶液111の滴下速度を見ながらクレンメル170を調整して流量を調整する。
当初、空気で満たされた輸液管150の下流側の先端のコネクタ160まで溶液111が導液されたら、患者の静脈BVに装着された留置針161にコネクタ160を接続して点滴を開始する。
さらに、キャップ181を取り外して三方活栓180を、薬品182を貯留する薬品容器181の方向にも開状態として薬品を投与する。
しかしながら、器具の組み立てによる輸液経路の形成、輸液容器110から点滴筒130、点滴筒130からコネクタ160までの溶液111の導液には、少なくとも数十秒から数分程度の時間を要し、迅速な処置開始が必要な緊急医療時等においてその短縮が求められていた。
特に、事故や災害の現場等での救急措置や、大規模災害等での複数の患者それぞれへの同時投与が必要な場合には、原則的に輸液装置1台(患者1名)につき1名の医師等が係わる必要があることから、時間短縮のためには多数の医師等による処置が望まれる。しかしながら、複数の医師等の派遣が難しい場合には、現場に急行する狭い救急車の中で、想定される患者数に対応する数量の輸液装置に対し、輸液経路の形成や導液等の準備作業を予め実施しておき、現場において複数の患者に対し次々に処置を行うという対応がされていた。
ところが、患者の血管が細い、血管部位に損傷がある、病気等、身体の状態によっては、血管への留置針161の挿入が難しい場合等がある。その場合、予め準備した輸液装置の数量と処置可能な患者の数との間に差異が生じ、準備した輸液装置の部材や溶液が使われずに廃棄され無駄が生じることがあった。また、走行中の狭い救急車の中での瓶針や留置針を使った導液等は難しく、輸液装置の準備作業における医師等の安全性の確保も課題であった。
これに対し、例えば、特許文献1、2では、輸液管内に予め生理食塩水や薬液等の液体を封入することにより、輸液管への導液や脱泡作業を省略して、速やかな準備を図る輸液装置が提案されている。
しかしながら、輸液経路を構成する医療器具のうち、医師等が点滴の滴下速度を確認するために用いる点滴筒には、点滴時に容量の半分程度の容積の気体が収容されていることが必要である。そのため、点滴の準備作業を、救急医療に求められる水準にて迅速に行うためには、輸液経路の形成や、管路への導液や脱泡作業を省略するだけでは不十分であって、点滴筒に所定量の気体が収容され、即座に点滴を開始できる状態を速やかに構築する手段・方法を実現することが必要であった。
そこで、発明者らは、輸液経路の形成や、管路への導液及び気泡の除去作業が行われた状態を速やかに形成するとともに、点滴筒に所定量の気体が収容された状態を速やかに確保するための輸液装置の構成について鋭意検討を行い、以下の実施の形態に至ったものである。
≪本発明を実施するための形態の概要≫
本開示の実施の形態に係る輸液装置は、点滴に用いる輸液装置であって、点滴に用いる輸液装置であって、溶液を貯留する輸液容器と、一方の筒端が前記輸液容器に接続され、内方に溶液と所定量の気体とを収容する点滴筒と、少なくとも前記点滴筒の他方の筒端近傍に配された流路開閉手段と、前記流路開閉手段に一方の管端が接続され、他方の管端が封止され、前記流路開閉手段から前記他方の管端までの範囲の管内に溶液が液密に充填されている輸液管と、を予め接続された状態で備えたことを特徴とする。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記流路開閉手段が閉状態にあるとき、前記点滴筒に収容された溶液及び前記気体は、前記輸液管の前記流路開閉手段よりも前記他方の管端側への流入が抑止されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記流路開閉手段が閉状態にあるとき、前記輸液容器に貯留された溶液は、前記流路遮断部により前記点滴筒に収容された溶液及び前記気体の前記輸液管の前記弁よりも前記他方の管端側への流入が抑止されることにより、前記輸液容器から前記点滴筒への移動が抑止されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記流路開閉手段が閉状態にあるとき、前記点滴筒に収容された溶液及び前記気体は、前記点滴筒から前記輸液容器への流入が抑止されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記流路開閉手段が開状態にあるとき、前記点滴筒に収容された溶液は、前記輸液管の前記流路開閉手段よりも前記他方の管端側へ流入して前記輸液管に充填されている溶液と交わることが可能となる構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記流路開閉手段が開状態にあるとき、前記輸液容器に貯留された溶液は、前記輸液容器から前記点滴筒へ流入して前記点滴筒に収容された溶液と交わることが可能となる構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記流路開閉手段を第1の流路開閉手段とするとき、前記輸液容器と前記点滴筒との間に第2の流路開閉手段を備え、前記第2の流路開閉手段が閉状態にあるとき、前記輸液容器に貯留された溶液は、前記点滴筒への流入が抑止されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第2の流路開閉手段が閉状態にあるとき、前記点滴筒に収容された溶液及び前記気体は、前記輸液容器への流入が抑止されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記流路開閉手段が開状態にあるとき、前記輸液容器に貯留された溶液は、前記点滴筒へ流入して前記点滴筒に収容された溶液と交わることが可能となる構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記輸液容器は、前記輸液容器に貯留された溶液が封入された輸液バッグと栓部を有し、前記点滴筒の前記一方の筒端は瓶針に接続され、前記瓶針は前記輸液容器の栓部に挿入されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記輸液管の前記他方の管端はコネクタを有し、前記輸液管に前記コネクタの管口を封止するキャップが接合されることにより、前記輸液管の前記他方の管端が封止されており、前記コネクタは、前記キャップを外した状態において血管内留置針の供液部に接合可能に構成されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記キャップは、未開栓状態と開栓後の状態とを区別する開栓識別部を有する構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記輸液容器に貯留された溶液、前記点滴筒に収容された溶液及び前記輸液管に充填されている溶液は、それぞれはリンゲル液を含む構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記輸液容器に貯留された溶液と前記点滴筒に収容された溶液又は前記輸液管に充填されている溶液とは同種の水溶液である構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、さらに、前記輸液管が形成する管経路の途中に流量調整手段を備えた構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、さらに、前記輸液管が形成する管経路の途中に三方活栓を備えた構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、さらに、前記流路開閉手段を閉状態に維持する保持部材が、前記流路開閉手段に装着されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、さらに、前記点滴筒の外圧による圧縮を抑止する保護部材が、前記点滴筒を装着されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記点滴筒は、前記点滴筒への外圧による圧縮を抑止する剛性を有する構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記流路開閉手段は、前記点滴筒内に配されたフロートと、前記点滴筒内における前記フロートの昇降に応じて前記点滴筒から前記輸液管への流路を開閉する弁機構とを有する構成としてもよい。
本開示の実施の形態に係る輸液装置セットは、点滴に用いる輸液装置セットであって、溶液を貯留する輸液容器と、一方の筒端が前記輸液容器に接続され、内方に溶液と所定量の気体とを収容する点滴筒と、少なくとも前記点滴筒の他方の筒端近傍に配された第1の流路開閉手段と、前記第1の流路開閉手段に一方の管端が接続され、他方の管端が封止され、前記第1の流路開閉手段から前記他方の管端までの範囲の管内に溶液が液密に充填されている輸液管とが接続された状態で有する輸液装置と、前記輸液装置を包装するための包装材と、を備え、前記第1の流路開閉手段が閉状態とされた状態で、前記輸液装置が前記包装材に封入されていることを特徴とする。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記輸液装置は、さらに、前記輸液容器と前記点滴筒との間に第2の流路開閉手段を備え、前記第2の流路開閉手段が閉状態とされた状態で、前記輸液装置が前記包装材に封入されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、さらに、前記第1の流路開閉手段を閉状態に維持する保持部材が、前記第1の流路開閉手段に装着されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、さらに、前記点滴筒の外圧による圧縮を抑止する保護部材が、前記点滴筒を装着されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記包装材の内部が滅菌された状態で、前記輸液装置が前記包装材に封入されている構成としてもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記第1の流路開閉手段は、前記点滴筒内に配されたフロートと、前記点滴筒内における前記フロートの昇降に応じて前記点滴筒から前記輸液管への流路を開閉する弁機構とを有する構成としてもよい。
本開示の他の実施の形態に係る輸液装置は、一方の筒端に瓶針を有し、内方に溶液と所定量の気体とを収容する点滴筒と、少なくとも前記点滴筒の他方の筒端近傍に配された流路開閉手段と、前記流路開閉手段に一方の管端が接続され、他方の管端が封止され、前記流路開閉手段から前記他方の管端までの範囲の管内に溶液が液密に充填されている輸液管と、を備え、前記流路開閉手段は、前記点滴筒内に配されたフロートと、前記点滴筒内における前記フロートの昇降に応じて前記点滴筒から前記輸液管への流路を開閉する弁機構とを有する構成であってもよい。
また、別の態様では、上記の何れかの態様において、前記点滴筒の一方の筒端には、前記瓶針の針孔を封止し開栓識別部を有するキャップが接合されており、前記瓶針は、前記キャップを外した状態において輸液容器の栓部に挿入可能に構成されている構成としてもよい。
本開示の他の実施の形態に係る輸液装置は、一方の筒端に瓶針を有する点滴筒と、少なくとも前記点滴筒の他方の筒端近傍に配された流路開閉手段と、前記流路開閉手段に一方の管端が接続された輸液管と、を備え、前記流路開閉手段は、前記点滴筒内に配されたフロートと、前記点滴筒内における前記フロートの昇降に応じて前記点滴筒から前記輸液管への流路を開閉する弁機構とを有することを特徴とする。
≪実施の形態1≫
本実施の形態に係る輸液装置1について、図面を用いて説明する。なお、図面は模式図であって、その縮尺は実際とは異なる場合がある。輸液装置1は、医師等が点滴により患者に溶液を投与するための医療器具であり、緊急時に即座に点滴を開始することを可能にするものである。
<輸液装置1の全体構成>
図1は、実施の形態1に係る輸液装置1の構成を示す模式図である。図2は、輸液装置1における輸液容器10と点滴筒30との接続部分を示す側断面図である。図3(a)(b)は、輸液装置1における輸液管50の管端部60の構成を示す側断面図である。なお、本明細書では、図面において紙面上方向を「上」方向、紙面下方向を「下」方向とする。
図1に示すように、輸液装置1は、輸液容器10、点滴筒30、流路開閉手段40、輸液管51、52から構成される輸液管50、コネクタ60から構成され、これらの構成要素が接続されて輸液経路が形成された状態の装置構成を採る。さらに、クレンメル70、三方活栓80を備えた構成であってもよい。
<輸液装置1の各部構成>
以下、輸液装置1の各部構成について説明する。
輸液容器10は、点滴として投与される水溶液11を貯留する溶液バッグである。輸液容器10は、可撓性を有する、例えば、ポリエリレン等の樹脂材料から構成されており、内部に、例えば、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液等のリンゲル液、又は生理食塩水等からなる溶液11を貯留する。輸液容器10には、先端部分(図1において下端)の開口部分に、例えば、シリコーンゴム等からなる栓部13がされ、先端部分の周囲に、例えば、ポリアセタール等の樹脂材料からなるポート12が形成されている。
点滴筒30は、輸液容器10のポート12の栓部13に瓶針32aにより接続された点滴の滴下速度を医師等が視認するための透明容器である。点滴筒30は、例えば、ポリエリレン等の樹脂材料から構成されており、可撓性があり筒状の透明な点滴筒本体31と、上方に瓶針32aを有し点滴筒本体31に係合されたキャップ32とから構成されている。点滴筒30の内方には、初期状態(点滴が開始される前の状態)において、所定量の溶液34が収容されており、点滴筒30の内方の溶液34以外の部分には、例えば、空気、不活性ガス等の気体33が収容されている。ここで、点滴筒30内の溶液34の量は、例えば、点滴筒130の容量の30%以上70%以下の容積、具体的には半分程度の容積としてもよい。溶液34は、溶液11と同じ成分の水溶液であってもよく、あるいは、異なる成分であってもよい。
流路開閉手段40は、点滴筒30の下流側における点滴筒30の近傍に接続され、点滴筒30から輸液管50への流路を開放又は遮断する機構である。流路開閉手段40は、図3に示すようにレバー41と回転弁42とからなり、レバー41の回転角度により流路の開放又は遮断を切り替えることができる。
輸液装置1では、流路開閉手段40は、点滴時には開状態とされることにより、点滴筒30から輸液管50への溶液34の供給を許容する。また、流路開閉手段40は、初期状態(点滴が開始される前の状態)においては、閉状態とされることにより点滴筒30内の溶液34及び気体33が輸液管50へ流入することを防止する。点滴前に輸液管50に気体33が流入すると輸液管50の気泡の除去が必要となるため、流路開閉手段40を閉状態することにより輸液管50への気体33の流入を防止して、準備作業に要する時間を短縮することができる。
輸液管50は、留置針161に接続され、留置針161に溶液を供給するための管路である。輸液管50は適度な可撓性を有する、例えば、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル等の樹脂材料を用いることができる。輸液管50には、初期状態(点滴が開始される前の状態)において、管内部に溶液53が液密に充填されており、輸液装置1の構成時に導液作業を省略することができる。このとき、溶液53は、溶液11、溶液34の少なくとも1つと同じ成分の水溶液であってもよく、あるいは、異なる成分であってもよい。
また、輸液管50は、複数の管、例えば、輸液管51、52から構成されていてもよく、輸液管51、52の間には薬品182を収容する薬品容器181の供給口に接続される三方活栓80が介挿されていてもよい。三方活栓80は薬品容器181と接続される開口部にキャップ81が装着されている。
また、輸液管50の外周には溶液の流量を制御するクレンメル70が装着されている。クレンメル70は、例えば、ローラで可撓性を有する輸液管50を外周から押圧して、輸液管50内の流路の断面積を調整する機構である。
輸液管50の下流側の端部には、先端が封止されており輸液管50の下流側の端部を留置針161に接続するためのコネクタ60が装着されている。図3(a)(b)は、輸液装置1における輸液管50の管端部60の構成を示す側断面図であり、(a)は、開栓前の状態、(b)は、開栓後の状態を示した図である。
図3(a)に示すように、コネクタ60は輸液管50の下流側の管端に接続されたノズル部62、ノズル部62の外方に位置し留置針161が螺合されるネジ部61、ノズル部62の管口を封止するキャップ63とから構成される。これより、コネクタ60は、キャップ63を外した状態において、留置針161とネジ部61で螺合されて接合可能に構成されている。
また、図3(a)に示すように、キャップ63が未開栓の状態では、ノズル部62の接合部62aとキャップ63の接合部63aとは接合又は一体的に形成されている。これに対し、図3(b)に示すように、キャップ63が開栓後の状態では、ノズル部62の接合部62aとキャップ63の接合部63aとは破断することにより、未開栓状態と開栓後の状態とを区別することができる。これより、ノズル部62の接合部62aとキャップ63の接合部63aは、コネクタ60の開栓識別部として機能する。
<輸液装置セット100の構成>
次に、輸液装置1を含む輸液装置セット100の構成について説明する。図4は、輸液装置1を含む輸液装置セット100の構成を示す模式図である。
実施の形態1に係る輸液装置1は、図1に示した状態で滅菌処理がされ、内部が滅菌処理された、例えば、樹脂材料からなる包装材90に封入されて輸液装置セット100を構成し、輸液装置セット100として医療現場に搬送される。包装材90は、例えば、2枚の樹脂フィルムの外周部分90aを熱圧着して袋状にして作成する。例えば、アルミニウム等の金属が蒸着された樹脂フィルムを用いてもよい。そして、滅菌処理をした輸液装置1は包装材90に挿入した後、開口部90aと収容枠部90bとを熱圧着して輸液装置1を滅菌状態に封止することができる。
このとき、輸液装置1は流路開閉手段40を閉状態にした状態で、包装材90に封入される。図5は、流路開閉手段40が閉状態にあるときの、輸液装置1における輸液容器10と点滴筒30との接続部分を示す側断面図である。図5に示すように、流路開閉手段40は、閉状態とされることにより点滴筒30内の溶液34及び気体33が点滴筒30から流出することを抑止し(図5、B1、C1)輸液管50へ流入することを抑止する(図5、D1)。これにより、輸液管50への気体33の流入を防止して、開封後の輸液管50の脱泡作業を省き、輸液装置1の準備に要する時間を短縮することができる。
さらに、流路開閉手段40を閉状態とすることにより、点滴筒30内は溶液34及び気体33で満たされた状態に維持されるので、瓶針32aを通って輸液容器10から点滴筒30へ溶液11が流入することを抑止できる(図5、A1)。また、流路開閉手段40を閉状態とされているので、点滴筒30内は溶液34又は気体33が瓶針32aを通って点滴筒30から輸液容器10へ移動(逆流)することを抑止できる(図5、B1)。これにより、点滴筒30の内部には所定量の溶液34と気体33とが収容された状態を維持することができ、医師等はコネクタ60を留置針161に接続して、流路開閉手段40を開状態に変更するだけで即座に点滴を開始することができる。
ここで、包装材90内において継続して流路開閉手段40を閉状態に維持するために、流路開閉手段40を閉状態に維持する保持部材が流路開閉手段40に装着されている構成としてもよい。具体的には、保持部材として、例えば、所定の剛性を有する樹脂材料等からなるホルダー91によりレバー41を保持させる構造を採ってもよい。
さらに、点滴筒30の外圧による圧縮を抑止する保護部材が、点滴筒30を装着されている構成としてもよい、具体的には、保護部材として所定の剛性を有するホルダー91により点滴筒30の外周を覆い、可撓性がある点滴筒本体31が外圧により圧し潰されることを防止する構成と採ってもよい。輸液装置セット100の搬送などの際に、外圧により包装材90内の点滴筒本体31が圧縮されて、点滴筒30内に封入された気体33又は溶液34が輸液容器10に逆流することを防止することができる。
また、輸液装置セット100においては、クレンメル70は、輸液管50を押圧しない状態で輸液管50に装着されていることが望ましい。これより、輸液管50の樹脂が継続的な圧縮により変形することを防止することができる。
<輸液装置1を用いて点滴を行うときの手順>
次に、輸液装置1を用いて点滴を行うときの手順について説明する。図6は、輸液装置1の使用状態を示す模式図である。
先ず、医師等は、輸液装置セット100を準備し、包装材90を開封して輸液装置1を包装材90から取り出し、点滴筒30の外周に装着されているホルダー91を取り外す。
次に、輸液容器10の吊り下げ部10aをハンガー(不図示)等にセットする。このとき、点滴筒30の内方には、点滴筒30の容量の半分程度の容積の溶液34が収容されているので、点滴筒30への導液作業を省略することができる。また、輸液管50には管内部に溶液53が液密に充填されており、輸液管50への導液作業を省略することができる。
次に、コネクタ60のキャップ63を開栓して、患者の静脈BVに装着された留置針161にノズル部62を挿入してコネクタ60を接続する。輸液装置1では、輸液管50内に空気が存在していないために、医師等は輸液管50への導液作業を行うことなく、患者の静脈BVに装着された留置針161にコネクタ60を接続することができる。
次に、レバー41により回転弁42を回し流路開閉手段40を開状態に変更するとともに、三方活栓80を点滴筒30の方向に開状態に変更し、点滴筒30内の溶液34の滴下速度を見ながらクレンメル70により流量を調整して点滴を開始する。
図7は、流路開閉手段40が開状態にあるときの、輸液装置1における輸液容器10と点滴筒30との接続部分を示す側断面図である。図7に示すように、流路開閉手段40を、開状態とすることにより点滴筒30内の溶液34が点滴筒30から流出し(図7、C2)輸液管50へ供給され、輸液管50内に予め充填された溶液53は下流側へ移動する(図7、D2)。このとき、供給された溶液34は輸液管50内に予め充填された溶液53と輸液管50内で交わり一部が混合される。同時に、点滴筒30内の気体33は負圧状態となり、輸液容器10からは溶液11が供給され(図7、A2)、点滴筒本体31内へ滴下される(図7、B2)。そして、供給された溶液11は輸液管50内に溶液34と点滴筒30内で交わり混合される。
このとき、溶液34が供給された輸液管50内には溶液53が液密に充填されているので、点滴筒30からの溶液34の流出と同時に輸液管50の先端のコネクタ60からは溶液53が流出する。これにより、輸液管50への導液作業を行うことなく、すぐに点滴を開始することができる。
さらに、医師等は、キャップ81を外した状態で三方活栓180に薬品182を貯留する薬品容器181を接続し、三方活栓180を薬品容器181の方向にも開状態として薬品を投与してもよい。
以上のとおり、輸液装置1では、閉状態とされた流路開閉手段40により、点滴筒30内は溶液34及び気体33で満たされた状態に維持されるので、輸液容器10から点滴筒30への溶液11の流入が抑止される。同時に、点滴筒30内の溶液34又は気体33の輸液容器10への移動(逆流)が抑止される。これにより、点滴筒30の内部に所定量の溶液34と気体33とが収容された状態を維持することができる。医師等は、図6に示すようにコネクタ60を留置針161に接続して、流路開閉手段40を開状態に変更するだけで即座に点滴を開始できる。
また、輸液装置1では、輸液装置1Aは点滴筒30と輸液容器10とが予め接続された構造を有しつつ、点滴筒30に輸液容器10のポート12の栓部13に挿抜可能な瓶針32aを有している。そのため、輸液容器10内の溶液11を使い切った場合には、新たな輸液容器10と交換することにより、医師等は容易に点滴を継続することができる。
<まとめ>
以上の説明したとおり、本実施の形態に係る輸液装置1は、点滴に用いる輸液装置1であって、溶液11(第1の溶液)を貯留する輸液容器10と、一方の筒端が輸液容器10に接続され、内方に溶液34(第2の溶液)と所定量の気体33とを含む点滴筒30と、少なくとも点滴筒30の他方の筒端近傍に配された流路開閉手段40と、流路開閉手段40に一方の管端が接続され、他方の管端が封止され、流路開閉手段40から管端までの範囲に溶液53(第3の溶液)が液密に充填されている輸液管50とを予め接続された状態で備えたことを特徴とする。
係る構成により、輸液装置1によれば、初期状態(点滴が開始される前の状態)において、輸液容器10に溶液11が貯留されており、輸液容器10に予め接続された点滴筒30の内部には所定量の溶液34と気体33とが収容された状態が維持されており、点滴筒30に予め接続された輸液管50には溶液53が液密に充填されている。そのため、医師等はコネクタ60を留置針161に接続して、流路開閉手段40を開状態に変更するだけで即座に点滴を開始することができる。
すなわち、輸液管50の接続を伴う輸液経路の形成、管路への導液及び気泡の除去作業、及び点滴筒30への気体導入を省き、即座に点滴を開始できる。その結果、準備作業を低減して緊急医療時に迅速な輸液が可能となる。
その結果、事故や災害の現場等での救急措置や、大規模災害等での複数の患者への同時投与が必要な場合において、従来、時間短縮のためには多数の医師等による処置が望まれる場合においても、輸液装置1台(患者1名)あたりの準備時間を削減できるので、必要な医師等の人数を低減できる。
また、本実施の形態に係る輸液装置セット100は、点滴に用いる輸液装置セット100であって、溶液11(第1の溶液)を貯留する輸液容器と、一方の筒端が輸液容器に接続され、内方に溶液34(第2の溶液)と所定量の気体33とを含む点滴筒30と、少なくとも点滴筒30の他方の筒端近傍に配された第1の流路開閉手段40と、第1の流路開閉手段40に一方の管端が接続され、他方の管端が封止され、第1の流路開閉手段40から他方の管端までの範囲の管内に溶液53(第3の溶液)が液密に充填されている輸液管50とが接続された状態で有する輸液装置1と、輸液装置1を包装するための包装材90と、を備え、第1の流路開閉手段40が閉状態とされた状態で、輸液装置1が包装材90に封入されていることを特徴とする。
係る構成により輸液装置セット100では、輸液装置1が、輸液容器10に溶液11が貯留されており、輸液容器10に予め接続された点滴筒30の内部には所定量の溶液34と気体33とが収容された状態が維持されており、点滴筒30に予め接続された輸液管50には溶液53が液密に充填された状態で、包装材90に収容されている。
そのため、医師等は、輸液装置セット100の包装材90を開封して、輸液装置1を取り出し、コネクタ60を留置針161に接続して、流路開閉手段20Aを開状態に変更するだけで即座に点滴を開始することができる。
その結果、輸液管50の接続を伴う輸液経路の形成、管路への導液及び気泡の除去作業、及び点滴筒30への気体導入といった準備作業を低減して、緊急医療時に迅速な輸液が可能となる。
また、緊急医療時に、患者数に対応して輸液装置セット100を必要な数量だけ開封して即座の点滴を開始することができるので、現場に急行する狭い救急車の中で、想定される患者数に対応して数量の輸液装置の組み立てや導液等の準備を予め行っておくという対応が不要となる。そのため、開封した輸液装置の数量と処置可能な患者の数との間に差異が生じ、準備した輸液装置の部材や溶液が使われずに廃棄されて無駄が生じることを抑止できる。また、走行中の狭い救急車の中での瓶針や血管内留置針への水溶液の導入等、輸液装置の準備作業を行うことが不要となり、医師等の安全性を確保することができる。
また、輸液装置1において、流路開閉手段40が閉状態にあるとき、溶液34及び気体33は、輸液管50の流路開閉手段40よりも他方の管端側への流入が抑止されている構成としてもよい。
係る構成により、点滴前に輸液管50に気体33が流入すると輸液管50の脱泡が必要となるため、輸液管50への気体33の流入を防止して、開封後の輸液管50からの気泡の除去作業を省き、輸液装置1の準備に要する時間を短縮することができる。
また、輸液装置1において、流路開閉手段40が閉状態にあるとき、流路開閉手段40により溶液34及び気体33の輸液管50の流路開閉手段40よりも他方の管端側への流入が抑止されることに起因して、溶液11は輸液容器10から点滴筒30への移動が抑止される構成としてもよい。
すなわち、流路開閉手段40を閉状態とすることにより、点滴筒30内は溶液34及び気体33で満たされた状態に維持されるので、瓶針32aを通って輸液容器10から点滴筒30へ溶液11が流入することを抑止できる
また、輸液装置1において、流路開閉手段40が閉状態にあるとき、溶液34及び気体33は、点滴筒30から輸液容器10への流入が抑止されている構成としてもよい。
係る構成により、点滴筒30の内部には所定量の溶液34と気体33とが収容された状態を維持することができ、医師等はコネクタ60を留置針161に接続して、流路開閉手段40を開状態に変更するだけで即座に点滴を開始することができる。
また、輸液装置1において、流路開閉手段40が開状態にあるとき、溶液34は、輸液管50の流路開閉手段40よりも他方の管端側へ流入して溶液53と交わることが可能となる構成としてもよい。
係る構成により、点滴筒30からの溶液34の流出と同時に輸液管50の先端のコネクタ60からは溶液53が流出し、輸液管50への導液作業を行うことなく、すぐに点滴を開始することができる。
また、輸液装置1において、流路開閉手段40が開状態にあるとき、溶液11は、輸液容器10から点滴筒30へ流入して溶液34と交わることが可能となる構成としてもよい。
すなわち、点滴筒30内の気体33は負圧状態となり、輸液容器10からは溶液11が供給され、点滴筒本体31内へ滴下される。
また、輸液装置1において、輸液容器は、溶液11が封入された輸液バッグと栓部を有し、点滴筒30の一方の筒端は瓶針に接続され、瓶針は輸液容器の栓部に挿入されている構成としてもよい。
係る構成により、点滴筒30の一方の筒端が溶液11を貯留する輸液容器10に接続された構成を具体的に実現できる。
また、輸液装置1において、輸液管の他方の管端はコネクタを有し、輸液管50にコネクタの管口を封止するキャップが接合されることにより、輸液管50の他方の管端が封止されており、コネクタは、キャップを外した状態において血管内留置針の供液部に接合可能に構成されている構成としてもよい。
係る構成により、点滴筒30とは他方の管端が封止された輸液管50を実現でき、輸液管50の他方の管端のコネクタを留置針161に接続して、即座に点滴を開始することができる。
また、輸液装置1において、キャップ60は、未開栓状態と開栓後の状態とを区別する開栓識別部を有する構成としてもよい。
係る構成により、輸液管50の先端の封止部分の開栓識別が可能となり、未使用品の識別が容易になる。
また、輸液装置1において、点滴筒30は、点滴筒30への外圧による圧縮を抑止する剛性を有する構成としてもよい。
係る構成により、外圧により包装材90内の点滴筒本体31が圧縮されて、点滴筒30内に封入された気体33又は溶液34が輸液容器10に逆流することを防止することができる。
また、輸液装置セット100において、さらに、第1の流路開閉手段40を閉状態に維持する保持部材が、第1の流路開閉手段40に装着されている構成としてもよい。
係る構成により、輸液装置セット100の包装材90内において継続して流路開閉手段40を閉状態に維持することができる。
また、輸液装置セット100において、さらに、点滴筒の外圧による圧縮を抑止する保護部材が、点滴筒30を装着されている構成としてもよい。
係る構成により、輸液装置セット100の搬送などの際に、外圧により包装材90内の点滴筒本体31が圧縮されて、点滴筒30内に封入された気体33又は溶液34が輸液容器10に逆流することを防止することができる。
また、輸液装置セット100において、包装材90の内部が滅菌された状態で、輸液装置1が包装材に封入されている構成としてもよい。
係る構成により、輸液装置1を滅菌処理した状態で供給することができる。
≪実施の形態2≫
実施の形態1に係る輸液装置1は、点滴筒30は、輸液容器10のポート12の栓部13に点滴筒30の瓶針32aが直接挿入されることにより接続された構成とした。しかしながら、点滴筒30は一方の筒端が輸液容器10に接続されていればよく、点滴筒30と輸液容器10との接続部分の構成は上記に限定されるものではなく適宜変更することが可能である。
実施の形態2に係る輸液装置1Aでは、輸液容器10と点滴筒30Aとの間に流路開閉手段20Aを備え、流路開閉手段20Aが閉状態にあるとき溶液11は点滴筒30Aへの流入が抑止されている構成とした点で実施の形態1と相違する。
<輸液装置1Aの構成>
以下、実施の形態2に係る輸液装置1Aについて、図面を参照しながら説明する。図8は、実施の形態2に係る輸液装置1Aの構成を示す模式図である。図9は、輸液装置1Aを含む輸液装置セット100Aの構成を示す模式図である。
輸液装置1Aは、点滴筒30Aとの間に流路開閉手段20Aを備えた点で、実施の形態に係る輸液装置1と相違し、他の構成については図1に示したものと同じ構成を採る。また、輸液装置1Aを含む輸液装置セット100Aでは、輸液装置1Aは、流路開閉手段20A及び流路開閉手段40を閉状態にした状態で包装材90に封入される点で、実施の形態に係る輸液装置セット100と相違し、他の構成については図4に示したものと同じ構成を採る。
以下、輸液装置1Aの流路開閉手段20A、及び、輸液容器10又は点滴筒30Aと流路開閉手段20Aとの接続部分との構成について説明し、他の構成要素については輸液装置1と同じ番号を付し説明を省略する。
図10は、輸液装置1Aにおける流路開閉手段20Aが閉状態にあるときの、輸液容器10、流路開閉手段20A、点滴筒30Aの側断面図である。
流路開閉手段20Aは、輸液容器10と点滴筒30Aとの間に接続され、輸液容器10から点滴筒30Aへの流路を開放又は遮断する機構である。流路開閉手段20Aは、図10に示すように固定弁21Aと可動弁22Aとから構成される。
固定弁21Aは、例えば、ポリアセタール等の樹脂材料からなり上端部の瓶針21Adが、輸液容器10の栓部13に挿入されており、中心部の周辺に輸液容器10から供給される溶液11が通る貫通孔21Acが開設された円筒形状の部材である。固定弁21Aは外周に輸液容器10のポート12に当接するフランジ部21Ae、ネジ部21Aaと、下端部に円錐凹形状の傾斜面部21Abを有する。
可動弁22Aは、例えば、ポリアセタール等の樹脂材料からなり内周に固定弁21Aのネジ部21Aaと螺号するネジ部22Aaが形成された環状の部材である。可動弁22Aは、環の内方に円錐凸形状の傾斜面部22Abを有する。可動弁22Aは、回転することにより、固定弁21Aに対して軸方向に相対移動可能に構成されており、可動弁22Aが最も上方向に移動した位置おいて傾斜面部22Abが傾斜面部21Abに当接するように構成されている。
可動弁22Aの内周の下端近傍は、点滴筒30Aのキャップ32Aに形成された円筒部32Abが、ゴム等からなる輪状のシール材23Aを介して内挿されるように構成されている。これより、可動弁22Aは、回転することにより、円筒部32Abに対して軸方向に相対移動可能成されている。なお、図10に示すように、キャップ32Aの円筒部32Abの中心部分は固定弁21Aに突入されて固定されており、円筒部32Abと固定弁21Aとは軸及び回転方向に互いに拘束された関係にある。
また、キャップ32Aに形成された円筒部32Abの中心部には、輸液容器10から供給される溶液11が通る貫通孔32Aaが開設されている。
図10は、可動弁22Aが固定弁21Aに対して螺合回転により最も上方向(図10における上方向)に位置し、傾斜面部22Abが傾斜面部21Abに当接した状態を示している。この状態では、固定弁21Aの貫通孔21Acは、可動弁22Aの傾斜面部22Abにより封止されるので、貫通孔21Acを通して輸液容器10から供給される溶液11の供給は、可動弁22Aの傾斜面部22Abによって遮断される(図10、A3)。
また、同時に、点滴筒30A内に収容された溶液34又は気体33がキャップ32Aの貫通孔32Aaを通って流路開閉手段20A内に入った場合でも、固定弁21Aの貫通孔21Acの下端は可動弁22Aの傾斜面部22Abにより封止されるので、流路開閉手段20Aから輸液容器10へ移動(逆流)することを抑止することができる。
係る構成の輸液装置1Aによれば、流路開閉手段20Aを閉状態とすることで、輸液容器10と点滴筒30Aとの間での溶液又は気体の移動を直接的に抑止することができる。
これにより、点滴筒30Aの内部には所定量の溶液34と気体33とが収容された状態を維持することができ、医師等はコネクタ60を留置針161に接続して、流路開閉手段20A及び流路開閉手段40を開状態に変更するだけで即座に点滴を開始することができる。
ここで、包装材90内において継続して流路開閉手段20A及び流路開閉手段40を閉状態に維持し、可撓性がある点滴筒本体31が外圧により圧し潰されることを防止するために、実施の形態1と同様に、所定の剛性を有する樹脂材料等からなるホルダー91により流路開閉手段20A及び40を保持するとともに、点滴筒30の外周を覆う構成を採ってもよい。
しかしながら、輸液装置1Aでは、仮に、ホルダー91を省略して、輸液装置セット100の搬送などの際に、外圧により点滴筒本体31が圧縮された場合でも、点滴筒30A内に封入された気体33又は溶液34が輸液容器10に逆流することを流路開閉手段20Aにより直接的に抑止することができる。そのため、ホルダー91を省略することができ、使用時に点滴筒30Aからホルダー91を取り外す準備作業を削減することができる。
なお、輸液装置1Aにおいても、図10に示すように、流路開閉手段40は、閉状態とされることにより点滴筒30A内の溶液34及び気体33が点滴筒30から流出することを抑止し(図12、B3、C3)輸液管50へ流入することが抑止される(図10、D3)点は、実施の形態1と同様である。
また、輸液装置1Aは点滴筒30Aから輸液容器10までが一体化され予め接続された構造を有しつつ、流路開閉手段20Aに輸液容器10のポート12の栓部13に挿抜可能な瓶針21Adを有している。そのため、輸液容器10内の溶液11を使い切った場合には、新たな輸液容器10と交換して容易に点滴を継続することができる。
<輸液装置1Aを用いて点滴を行うときの手順>
次に、輸液装置1Aを用いて点滴を行うときの手順について説明する。図11は、輸液装置1Aの使用状態を示す模式図である。
先ず、医師等は、輸液装置セット100を準備し、包装材90を開封して輸液装置1Aを包装材90から取り出し、輸液バッグ10の吊り下げ部10aをハンガー(不図示)等にセットする。この際、ホルダー91がある場合には点滴筒30から取り外す。
次に、コネクタ60のキャップ63を開栓して、患者の静脈BVに装着された留置針161にノズル部62を挿入してコネクタ60を接続する。
次に、固定弁21Aのフランジ部21Aeを保持して可動弁22Aを回転させることにより流路開閉手段20Aを開状態とし、流路開閉手段40及び三方活栓80を開状態に変更し、クレンメル70により流量を調整して点滴を開始する。
さらに、医師等は、三方活栓180に薬品容器181を接続して薬品を投与してもよい。
図12は、輸液装置1Aにおける流路開閉手段20Aが開状態にあるときの、輸液容器10、流路開閉手段20A、点滴筒30の側断面図である。
図12は、可動弁22Aが固定弁21Aに対して螺合回転により図10の状態から所定距離だけ下降した位置にあり、傾斜面部22Abが傾斜面部21Abから所定距離だけ離間した状態である。ここで、「所定距離」とは貫通孔21Acの開口幅以上としてもよい。この状態では、固定弁21Aの貫通孔21Acは、可動弁22Aの傾斜面部22Abによる封止から解放されるので、瓶針21Adを含む固定弁21Aに開設された貫通孔21Acを通して輸液容器10から溶液11が供給される(図10、A4)。同時に、供給された溶液11は、傾斜面部22Abと傾斜面部21Abとの隙間から、キャップ32Aの貫通孔32Aaを通過して、点滴筒本体31内へ滴下される(図12、B4)。供給された溶液11は輸液管50内に溶液34と点滴筒30A内で交わり混合される。
そして、図12に示すように、流路開閉手段40を、開状態とすることにより点滴筒30A内の溶液34が点滴筒30から流出し(図12、C4)輸液管50へ供給され、輸液管50内に予め充填された溶液53は下流側へ移動する(図12、D4)。そして、供給された溶液34は輸液管50内に予め充填された溶液53と輸液管50内で交わり一部が混合される。
このとき、溶液34が供給された輸液管50内には溶液53が液密に充填されているので、点滴筒30からの溶液34の流出と同時に輸液管50の先端のコネクタ60からは溶液53が流出する点は実施の形態1と同様である。
点滴により輸液容器10内の溶液11を消費した場合には、輸液容器10から瓶針21Adを抜き、新たな輸液容器10のポート12の先端にフランジ部21Aeが当接するまで栓部13に瓶針21Adを挿入して、新たな輸液容器10と交換する。これにより、医師等は容易に、かつ切れ目なく点滴を継続することができる。
<まとめ>
以上のとおり、実施の形態2に係る輸液装置1Aは、輸液装置1の構成において、さらに、輸液容器10と点滴筒30Aとの間に第2の流路開閉手段20Aを備え、第2の流路開閉手段20Aが閉状態にあるとき、溶液11は、点滴筒30Aへの流入が抑止されていることを特徴とする。
また、輸液装置1Aにおいて、第2の流路開閉手段20Aが閉状態にあるとき、溶液34及び気体33は、輸液容器10への流入が抑止されている構成としてもよい。
また、輸液装置1Aにおいて、第2の流路開閉手段20Aが開状態にあるとき、溶液11は、点滴筒30Aへ流入して溶液34と交わることが可能となる構成としてもよい。
係る構成により、輸液装置1Aでは、輸液容器10と点滴筒30Aとの間での溶液又は気体の移動を直接的に抑止することができる。これにより、点滴筒30Aの内部には所定量の溶液34と気体33とが収容された状態を維持することができ、医師等はコネクタ60を留置針161に接続して、流路開閉手段20A及び流路開閉手段40を開状態に変更するだけで即座に点滴を開始することができる。
また、実施の形態2に係る輸液装置セット100Aは、輸液装置1Aが、さらに、輸液容器と点滴30筒との間に第2の流路開閉手段20を備え、第2の流路開閉手段20が閉
状態とされた状態で、輸液装置1Aが包装材に封入されている構成としてもよい。
係る構成により、輸液装置セット100Aでは、開封して、流路開閉手段20A及び流路開閉手段40を開状態に変更するだけで即座に点滴を開始することができる。
また、外圧により点滴筒本体31が圧縮された場合でも、点滴筒30A内に封入された気体33又は溶液34が輸液容器10に逆流することを流路開閉手段20Aにより直接的に抑止することができ、使用時に点滴筒30Aからホルダー91を取り外す準備作業を削減できる。
なお、上述した実施の形態2に係る輸液装置1Aは、点滴筒30は、輸液容器10のポート12の栓部13に瓶針21Adにより接続された構成とした。しかしながら、点滴筒30は一方の筒端が輸液容器10に接続されていればよく、点滴筒30と輸液容器10との接続部分の構成は上記に限定されるものではない。
図13は、実施の形態2の輸液装置1Aの構成の別の態様を示す模式図である。図13に示すように、輸液装置1Aの別の態様では、輸液容器10Aと点滴筒30Aとの間に流路開閉手段20Aを備え、流路開閉手段20Aの固定弁21Aが輸液容器10Aの開口部分に挿入された状態でポート12に固定されている構成としてもよい。すなわち図10に示した態様とは、流路開閉手段20Aの固定弁21Aに輸液容器10のポート12の栓部13に挿抜可能な瓶針21Adを有していない点で相違し、その他の構成は図10に示した態様と同じである。
係る構成により、流路開閉手段20Aと輸液容器10との接続強度を増すことができ、輸液装置1Aの搬送時の取り扱いが容易となる。
<変形例1>
実施の形態に係る輸液装置を説明したが、本開示は、その本質的な特徴的構成要素を除き、以上の実施の形態に何ら限定を受けるものではない。例えば、実施の形態に対して当業者が各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。以下では、そのような形態の一例として、輸液装置の変形例を説明する。
実施の形態1に係る輸液装置1は、点滴筒30は、輸液容器10のポート12の栓部13に瓶針32aにより接続された構成とした。また、実施の形態2に係る輸液装置1Aでは、輸液容器10と点滴筒30Aとの間に流路開閉手段20Aを備えた構成とした。しかしながら、点滴筒は一方の筒端が輸液容器に接続されていればよく、点滴筒と輸液容器との接続部分の構成は適宜変更してもよい。
変形例1に係る輸液装置1Bでは、輸液容器10と点滴筒30Bとが輸液管21Bと回転弁22Bとからなる流路開閉手段20Bによって接続されている構成とした点で実施の形態1及び2と相違する。図14は、変形例1に係る輸液装置1Bの構成を示す模式図である。図15は、輸液装置1Bの使用状態を示す模式図である。
輸液装置1Bでは、図14に示すように、輸液容器10と点滴筒30Bとを接続する流路開閉手段20Bは、輸液管21Bと回転弁22Bとから構成される。
輸液管21Bは、輸液容器10のポート12の栓部13に瓶針23Baにより接続されるチューブである。輸液管21Bには、適度な可撓性を有する、例えば、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル等の樹脂材料を用いることができ、先端に瓶針23Baが接続されている。また、輸液管21Bには、初期状態(点滴を開始する前の状態)において、管内部に溶液24Bが液密に充填されており導液作業を省略することができる。溶液24Bは、溶液11、溶液34、溶液53の少なくとも1つと同じ成分の水溶液であってもよく、あるいは、異なる成分であってもよい。
回転弁22Bは、輸液容器10と点滴筒30Bとの間に接続され、輸液容器10から点滴筒30Bへの流路を開放又は遮断する機構である。本例では、回転弁22Bは、図14に示すように輸液管21Bと点滴筒30Bのキャップ32Bとに接続されており、レバーの回転角度により流路を開放又は遮断を切り替えることができる。
係る構成により、輸液装置1Bでは、流路開閉手段20Bを閉状態とすることで、輸液容器10と点滴筒30Bとの間での溶液又は気体の移動を直接的に抑止することができる。これにより、点滴筒30Bの内部には所定量の溶液34と気体33とが収容された状態を維持することができる。併せて、輸液管21Bを含む輸液経路全体には管内部に水溶液が液密に充填されているので導液作業を省略することができ、医師等は、図15に示すように、コネクタ60を留置針161に接続して、流路開閉手段20B及び流路開閉手段40を開状態に変更するだけで即座に点滴を開始することができる。
また、輸液装置1Bでは、実施の形態2と同様に、輸液装置セット100の搬送などの際に、外圧により点滴筒本体31が圧縮された場合でも、点滴筒30B内に封入された気体33又は溶液34が輸液容器10に逆流することを流路開閉手段20Bにより抑止できる。
≪実施の形態3≫
実施の形態1に係る輸液装置1では、流路開閉手段40は点滴筒30の下流側近傍に接続されており、レバー41の回転角度により流路の開放又は遮断を切り替える構成とした。しかしながら、流路開閉手段40は点滴筒30から輸液管50への流路を開放又は遮断する機能があればよく、流路開閉手段40の構成は適宜変更することが可能である。
実施の形態3に係る輸液装置1Cでは、流路開閉手段40Cは、点滴筒30C内に配されたフロート41Cと、点滴筒30C内におけるフロート41Cの昇降に応じて点滴筒30Cから輸液管50への流路を開閉する構成とした点で実施の形態1と相違する。また、実施の形態3に係る輸液装置セットは、輸液容器10を含む輸液装置1Cと包装材からなる点で実施の形態1と相違する。
<輸液装置1Cの構成>
以下、実施の形態3に係る輸液装置1Cについて、図面を参照しながら説明する。図16は、実施の形態2に係る輸液装置1Cの構成を示す模式図である。図17は、輸液装置1Cにおける輸液容器10と点滴筒30Cとの接続部分を示す側断面図である。
輸液装置1Cは、点滴筒30C内に配されたフロート41Cと、点滴筒30C内におけるフロート41Cの昇降に応じて点滴筒30Cから輸液管50への流路を開閉する弁ふたとを有する流路開閉手段40Cを備えた点で実施の形態に係る輸液装置1と相違し、他の構成については図1に示したものと同じ構成を採る。また、輸液装置1Cを含む輸液装置セットでは、輸液装置1Cが包装材90に封入されている点で、実施の形態1に係る輸液装置セット100と相違し、他の構成については図4に示したものと同じ構成を採る。
以下、輸液装置1Cの流路開閉手段40C及び点滴筒30Cの構成について説明し、他の構成については輸液装置1と同じ番号を付して説明を省略する。
図16及び図17に示すように、点滴筒30Cは、点滴筒30と同様に、輸液容器10のポート12の栓部13に瓶針32aを挿入して輸液容器10に接続される。点滴筒30Cは、可撓性があり筒状の透明な点滴筒本体31と、上方に瓶針32aを有し点滴筒本体31に係合されたキャップ32とから構成され、例えば、ポリエリレン等の樹脂材料から構成されている。点滴筒30Cの内方には、点滴筒30と同様に、初期状態(点滴が開始される前の状態)において、所定量の溶液34Cが収容されており、点滴筒30Cの内方の溶液34C以外の部分には、例えば、空気、不活性ガス等の気体33Cが収容されている。
流路開閉手段40Cは、点滴筒30Cの点滴筒本体31内に配されたフロート41Cと、点滴筒30C内におけるフロート41Cの昇降に応じて点滴筒30Cから輸液管50への溶液の流路を開閉可能とする弁ふた42Cとから構成される。
フロート41Cは、例えば、ポリエリレン等の樹脂材料から構成された中空の部材である。
弁ふた42Cは、フロート41Cと筒軸方向に連結された、例えば、ポリエリレン等の樹脂材料、又はゴムからなる円錐形状の凸状の部材であり、点滴筒本体31の輸液管50側の筒端におけるテーパ状の凹部の形状に適合することにより、点滴筒30Cから輸液管50への溶液の流路を開閉可能とするように構成されている。
図18は、輸液装置1Cにおける流路開閉手段40Cが閉状態にあるときの、輸液容器10と点滴筒30Cとの接続部分を示す側断面図である。
図18に示すように、流路開閉手段40Cは初期状態では溶液34Cの液面34Caは、フロート41Cよりも下方に位置するように設定されているので、フロート41Cが点滴筒本体31内を浮力により上昇することはなく、弁ふた42Cは沈降して点滴筒本体31内のテーパ状の凹部の形状に適合した状態にある。そのため、流路開閉手段40Cは閉状態とされることにより点滴筒30C内の溶液34C及び気体33Cが点滴筒30Cから輸液管50へ流出することが抑止される(図18、C5、D5)。これにより、輸液管50への気体33Cの流入を防止して、開封後の輸液管50の脱泡作業を省略することができる。
また、流路開閉手段40Cを閉状態とすることにより、点滴筒30C内は溶液34C及び気体33Cで満たされた状態に維持されるので、瓶針32aを通って輸液容器10から点滴筒30Cへ溶液11が流入することを抑止できる(図18、A5)。同時に、点滴筒30C内は溶液34C又は気体33Cが瓶針32aを通って点滴筒30Cから輸液容器10へ移動(逆流)することを抑止できる(図18、B5)。
<輸液装置1Cを用いて点滴を行うときの手順>
次に、輸液装置1Cを用いて点滴を行うときの手順について説明する。図19は、輸液装置1Cの使用状態を示す模式図である。
先ず、医師等は、輸液装置セットを準備し、包装材90を開封して輸液装置1Cを包装材90から取り出す。
次に、輸液容器10の吊り下げ部10aをハンガー(不図示)等にセットする。このとき、点滴筒30Cの内方には、点滴筒30Cの容量の半分程度の容積の溶液34Cが収容されているので、点滴筒30Cへの導液作業を省略することができる。また、輸液管50には管内部に溶液53が液密に充填されており、輸液管50への導液作業を省略することができる。
次に、コネクタ60のキャップ63を開栓して、患者の静脈BVに装着された留置針161にノズル部62を挿入してコネクタ60を接続する。輸液装置1では、輸液管50内に空気が存在していないために、医師等は、輸液管50への導液作業を行うことなく、患者の静脈BVに装着された留置針161にコネクタ60を接続することができる。
次に、点滴筒30Cのキャップ32に空気抜き用孔32bを開設して、輸液容器10から点滴筒30C内への溶液の滴下を開始する。このとき、空気抜き用孔32bの開設は、例えば、キャップ32に貼着されたたシール等を剥がすことにより、予めキャップ32に形成されている空気抜き用孔32bが筒外と連通する構成としてもよい。
図20は、輸液装置1Cにおける流路開閉手段40Cが閉状態であって、かつ、輸液容器10から点滴筒30Cへの溶液の滴下が開始された状態における、輸液容器10と点滴筒30Cとの接続部分を示す側断面図である。
この状態では、流路開閉手段40Cは閉状態とされているので点滴筒30C内の溶液34Cが点滴筒30Cから輸液管50へ流出することが抑止される(図20、C6、D6)。そして、点滴筒30Cのキャップ32に空気抜き用孔32bが開設されることにより、点滴筒30C内の気体33Cが空気抜き用孔32bを通って点滴筒30Cの外方に流出可能な状態となるので、輸液容器10から瓶針32aを通って点滴筒30C内へ溶液11が重力により滴下する(図20、A6、B6)。そのため、点滴筒30C内の溶液34Cの液面34Caは上昇する。
図21は、輸液装置1Cにおける流路開閉手段40Cが開状態にあるときの、輸液容器10と点滴筒30Cとの接続部分を示す側断面図である。溶液11の滴下に伴って、溶液34Cの液面34Caが上昇してフロート41Cの高さに到達し、フロート41Cが浮力FLにより点滴筒本体31内で上昇し、これに連動して、弁ふた42Cが点滴筒本体31内のテーパ状の凹部から離間し、流路開閉手段40Cが開状態となる。
この状態では、図21に示すように、流路開閉手段40Cは開状態であるので点滴筒30C内の溶液34が点滴筒30Cから流出し(図21、C7)輸液管50へ供給され、輸液管50内に予め充填された溶液53は下流側へ移動する(図21、D7)。同時に、点滴筒30C内の気体33は負圧状態となり、輸液容器10からは溶液11が供給され(図21、A7)、点滴筒本体31内へ滴下される(図21、B7)。
このとき、実施の形態1に係る輸液装置1と同様に、溶液34Cが供給された輸液管50内には溶液53が液密に充填されているので、点滴筒30Cからの溶液34の流出と同時に輸液管50の先端のコネクタ60からは溶液53が流出する。これにより、輸液管50への導液作業を行うことなく迅速に点滴を開始することができる。
さらに、実施の形態3に係る輸液装置1Cでは、点滴筒30C内の溶液34Cの液面34Caは上昇に基づき流路開閉手段40Cが閉状態から開状態に移行することができるので、医師等は点滴筒30C内の溶液34の液面34Caの高さを調整したり、クレンメル70の開度を変更して点滴筒30内の水溶液11の滴下を開始するといった、従来必要であった作業を行うことなく点滴を開始することができる。
<まとめ>
実施の形態3に係る輸液装置1Cは、実施の形態1に係る輸液装置1において、流路開閉手段40が、点滴筒30C内に配されたフロート41Cと、点滴筒30C内におけるフロート41Cの昇降に応じて点滴筒30Cから輸液管50への流路を開閉する弁ふた42Cとを有する流路開閉手段40Cであることを特徴とする。また、実施の形態3に係る輸液装置セットは、実施の形態1に係る輸液装置セット100において、輸液装置1が流路開閉手段40Cを備えた輸液装置1Cであることを特徴とする。
係る構成により、実施の形態1に係る輸液装置1と同様に、輸液管50への導液作業を行うことなく、すぐに点滴を開始することができることに加えて、点滴筒30C内の溶液34の液面34Caの高さを調整したり、クレンメル70の開度を変更して点滴筒30内の水溶液11の滴下を開始するといった、従来必要であった作業を行うことなく点滴を開始することができる。
また、実施の形態3に係る輸液装置1Cでは、輸液容器10内の溶液11の輸液を完了して点滴筒30Cへの滴下が終了した場合には、溶液34Cの液面34Caが下降に伴いフロート41Cが下降し、これに連動して、弁ふた42Cが点滴筒本体31内のテーパ状の凹部に沈降して流路開閉手段40Cが閉状態となる。そのため、輸液管50に空気が入り込むことを抑止するとともに、留置針161から輸液管50に血液が逆流することを予防でき、輸液管50内において血液が凝固して輸液経路が閉塞されることを抑制できる。
<変形例2>
実施の形態3に係る輸液装置1Cは、点滴筒30Cは瓶針32aにより接続された輸液容器10を含む構成とした。しかしながら、点滴筒30Cは一方の筒端は輸液容器10に接続可能に構成されていればよく、輸液装置1Cから輸液容器10を除外した構成としてもよい。変形例2に係る輸液装置1Dは、輸液装置1Cにおいて点滴筒30Cの瓶針32aが、別途供給される輸液容器10の栓部13に挿入可能に構成されている点で実施の形態3と相違する。
図22は、変形例2に係る輸液装置1Dの構成を示す模式図である。図22に示すように、輸液装置1Dでは、一方の筒端に瓶針32Dを有し、内方に溶液34C(第2の溶液)と所定量の気体とを収容する点滴筒30Cと、少なくとも点滴筒30Cの他方の筒端近傍に配された流路開閉手段40Cと、流路開閉手段40Cに一方の管端が接続され、他方の管端が封止され、流路開閉手段40Cから他方の管端までの範囲の管内に溶液53(第3の溶液)が液密に充填されている輸液管50と、を備え、流路開閉手段40Cは、点滴筒30C内に配されたフロート41Cと、点滴筒30C内におけるフロート41Cの昇降に応じて点滴筒30Cから輸液管50への流路を開閉する弁ふた42Cとを有することを特徴とする。
係る構成により、輸液装置1Dでは、点滴筒30Cは瓶針32Dを、別途供給される輸液容器10の栓部13に挿入し、点滴筒30Cの瓶針32Dに空気抜き用孔を開設して、輸液容器10から点滴筒30Cへの溶液の滴下が開始だけで、点滴を開始することができる。すなわち、実施の形態3と同様に、点滴筒30C内の溶液34Cの液面34Caは上昇に基づき流路開閉手段40Cが閉状態から開状態に移行することができるので、医師等は点滴筒30C内の溶液34の液面34Caの高さを調整したり、クレンメル70の開度を変更して点滴筒30内の水溶液11の滴下を開始するといった、従来必要であった作業を省略できる。
また、点滴筒30Cの一方の筒端には、瓶針32Dの針孔を封止し開栓識別部37Daを有するキャップ37Dが接合されており、瓶針32Dは、キャップ37Dを外した状態において輸液容器10の栓部13に挿入可能に構成されていてもよい。ここで、開栓識別部37Daは、瓶針32Dとキャップ37Dとに、例えば、樹脂等により連続形成した部分を設けて開栓時にその部分を断裂させる構成としてもよい。このとき、キャップ37Dを取り外すことにより瓶針32Dに空気抜き用孔が改正される構成としてもよい。
係る構成により、点滴筒30Cの安全性を確保するとともに、キャップ37Dの開栓識別を行うことにより、未使用の輸液装置1Dを容易に識別することができる。
また、変形例2に係る輸液装置1Dでも、点滴筒30Cへの滴下が終了した場合には、流路開閉手段40Cが閉状態となるため、輸液管50に空気が入り込むことを抑止するとともに、輸液管50に血液の逆流を抑止して血液凝固に伴う輸液経路が閉塞を抑止できる。そのため、瓶針32Dに新たな輸液容器10を接続して継続的な点滴が可能となる。
<変形例3>
変形例2に係る輸液装置1Dは、輸液装置1Cから輸液容器10を除外した構成とした。しかしながら、さらに輸液装置1Dから輸液管を除外した構成としてもよい。変形例3に係る輸液装置1Eは、流路開閉手段40Cを備え、内部に溶液が収容されていない点滴筒30Eと輸液管151Eからなる構成を採る。
図23は、変形例3に係る輸液装置1Eの構成を示す模式図である。輸液装置1Eは流路開閉手段40Cを内包する点滴筒30Eと輸液管151Eから構成される。図23に示すように、流路開閉手段40Cは、実施の形態3と同様に、点滴筒内に配されたフロート41Cと、点滴筒内におけるフロート41Cの昇降に応じて点滴筒から輸液管への流路を開閉する弁ふた42Cとを有する構成を採る。
そして、点滴筒30Eは、点滴筒本体31と開口を有するキャップ32Eからなり、点滴筒30Eの筒内は外部と連通している。そして、点滴筒30Eの内方には溶液が収容されておらず気体33Eのみが存在する。また、点滴筒30Eに接続される輸液管151Eの内方にも初期状態で溶液は収容されていない。
このような、変形例3に係る点滴筒30Eは、図23に示すように、従来の輸液装置1Xの構成部材である、点滴として供給される溶液111を貯留した輸液容器110、一方の端部に瓶針121aと他方の端部にコネクタ121bを有する接続管121、輸液管152、輸液管151Eと152の間に介挿されて三方活栓180、輸液管152の下流側の端部を留置針161に接続するためのコネクタ160に接続した状態で点滴に用いることができる。
ここで、図24に示した従来の輸液装置1Xを用いて点滴を開始する場合に、医師等は以下の手順を踏む必要があった。すなわち、点滴筒130の一方に筒端から導出された接続管121の先端の瓶針121aを輸液容器110の栓部113に挿入したあと、点滴筒130の他方の筒端に接続された輸液管151の一部を、クレンメル170により封じた状態で点滴筒130を圧縮する。これにより、点滴筒130内の空気を輸液容器110内の溶液111に押し上げ、これに伴い溶液111内の空気部分の圧力が上昇したことによって、溶液111が接続管121を通って点滴筒130内に滴下させるという手順である。
この場合、医師等は、接続管121に溶液111が満たされるまでの数十秒の時間、輸液管151の一部を封じた状態で、接続管121への導液を視認しながら待機しなければならず、その間、他の作業を行うことができない。そのため、緊急医療時等、一刻を争うような場合にはこの待機時間が問題となることがあった。
しかしながら、変形例3に係る輸液装置1Eでは、上記した構成により、点滴筒30E内の溶液の液面の上昇に基づき流路開閉手段40Cが閉状態から開状態に移行することができるので、クレンメル170により輸液管151の一部を封じるという作業を省略するとともに、接続管121への導液完了までその状態を維持して待機することを要しない。そのため、緊急医療時等において、削減された待機時間を使って他の緊急処理を行うことが可能となる。
その結果、クレンメル170及び、クレンメル170を操作する作業を省略することができ、緊急医療時に点滴開始のために必要な作業を削減できる。
また、クレンメル170を用いないことにより、点滴筒30E内の溶液の液面の高さを調整したり、クレンメル70の開度を変更して点滴筒30E内の溶液の滴下を開始するといった、従来必要であった作業を行うことなく点滴を開始することができる。
また、変形例3に係る輸液装置1Eでは、輸液容器110内の溶液111の輸液を完了して点滴筒30Eへの滴下が終了した場合には、溶液34Cの液面34Caが下降に伴いフロート41Cが下降し、これに連動して、弁ふた42Cが点滴筒本体31内のテーパ状の凹部に沈降して流路開閉手段40Cが閉状態となる。そのため、輸液管151に空気が入り込むことを抑止するとともに、留置針161から輸液管151に血液が逆流することを予防でき、輸液管151内における血液凝固による輸液経路が閉塞されることを抑制できる。そのため、接続管121に新たな輸液容器110を接続するだけで継続的な点滴が可能となる。
<変形例4>
実施の形態3に係る輸液装置1C、変形例2に係る輸液装置1D、変形例3に係る輸液装置1Eでは、フロート41Cは中空の部材であり、弁ふた42Cは、フロート41Cと筒軸方向に連結された円錐形状の凸状の部材であり、点滴筒本体31の輸液管50側の筒端におけるテーパ状の凹部の形状に適合することにより、点滴筒30Cから輸液管50への溶液の流路を開閉可能とする構成とした。しかしながら、流路開閉手段40Cは、点滴筒30C内におけるフロート41Cの昇降に応じて点滴筒30Cから輸液管50への溶液の流路を開閉可能に構成されていればよく、フロート41Cと弁ふた42Cとを同一の部材によって構成してもよい。例えば、変形例4では、流路開閉手段40Cは、点滴筒30Cの点滴筒本体31内に配された、例えば、ボール形状をしたフロートを備え、そのフロートが液面34Caの変動に応じて昇降することにより、フロート自体が点滴筒本体31内の輸液管50側の筒端の形状に適合することにより、点滴筒30Cから輸液管50への溶液の流路を開閉可能にする構成としてもよい。
係る構成によっても、輸液装置1C、輸液装置1D、輸液装置1E同様に、従来必要であった導液に伴う作業を行うことなくすぐに点滴を開始することができるとともに、点滴が終了した場合にも新たな輸液容器10を接続して継続的な点滴が可能となる。
≪補足≫
以上で説明した実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程、工程の順序などは一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていないものについては、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
また、上記の方法が実行される順序は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記方法の一部が、他の方法と同時(並列)に実行されてもよい。
また、発明の理解の容易のため、上記各実施の形態で挙げた各図の構成要素の縮尺は実際のものと異なる場合がある。また本発明は上記各実施の形態の記載によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
また、各実施の形態及びその変形例の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。
さらに、本実施の形態に対して当業者が思いつく範囲内の変更を施した各種変形例も本発明に含まれる。