〔第1実施形態〕
以下に、本開示に係る地熱発電プラントの坑井制御システム及びその坑井制御方法並びに坑井制御プログラム、地熱発電プラントの第1実施形態について、図面を参照して説明する。なお、坑井制御システム20は、坑井2から噴気される地熱流体によって発電を行う地熱発電プラントであれば幅広く適用できるものであって、以下に説明する構成の地熱発電プラント1のみに適用を限定されるものではない。
図1は、本開示の第1実施形態に係る坑井制御システムを備えた地熱発電プラント1の概略構成を示す図である。本実施形態では、坑井2を複数設けるものとして、例えば坑井2を2つ設ける場合について説明する。なお、図1に示す地熱発電プラント1は、例えばフラッシュサイクル型の地熱発電プラントであるが、坑井制御システム20は、バイナリサイクル型など他の構成の地熱発電プラントであっても同様に適用することが可能である。また、図1では、例えば坑井2を2つ設け、気水分離器(分離器)5を2つ設け、還元井19を1つ設けることとしているが、上記の構成と構成数量に限らず本開示を適宜適用することが可能である。
本実施形態に係る地熱発電プラント1は、図1に示すように、地熱流体輸送管(二相流体輸送管)3と、噴気流量調整弁(以下、単に「流量調整弁4」という)と、気水分離器(分離器)5と、熱水管6と、蒸気管7と、蒸気タービン8と、復水器10と、冷却塔11とを主な構成として備えている。また、地熱発電プラント1には、図2に示すような坑井制御システム(坑井制御装置)20が適用される。
地熱流体輸送管3は、坑井(地熱坑井)2から噴出された地熱流体を気水分離器5へ導く管である。地下にはマグマ溜りが形成されており、この熱によって地下に浸透した雨水や流入した地下水等が加熱され地熱貯留層が形成される。地熱貯留層には、地熱流体が溜まっており、坑井2によって地上へ取り出される。地熱流体輸送管3は、坑井2を介して地熱貯留層から気水分離器5へ地熱流体を輸送している。なお、地熱流体とは、主として蒸気と熱水からなる二相混合流体である。
流量調整弁(噴気流量調整弁)4は、地熱流体輸送管3上に設けられており、坑井2から気水分離器5へ流入する地熱流体の総流量(噴気量、蒸気と熱水の合計流量)を調整している。なお、流量調整弁4の調整により坑井2の坑口圧力を調整することもできる。
また、地熱流体輸送管3上には、流量調整弁4の地熱流体流れの上流側に、坑口圧力(噴気圧力)を計測する圧力計16が設けられている(図1における圧力計P1及びP2)。圧力計16では、坑井2から噴気される地熱流体の圧力を計測している。なお、地熱流体輸送管3上における地熱流体流れの上流側(坑井2出口付近。例えば、圧力計16と流量調整弁4との間)に、開閉弁13を設け、地熱流体の導通状態(導通状態または非導通状態)を制御することとしてもよい。
気水分離器5は、地熱流体輸送管3により供給された二相混合流体である地熱流体を、蒸気と熱水に分離する装置(セパレータ)である。気水分離器5によって分離された熱水は熱水管6に導かれ、気水分離器5によって分離された蒸気は蒸気管7へ導かれる。
熱水管6は、気水分離器5によって分離された熱水を還元井19へ導く管である。還元井19を介して地下の地熱貯留層に熱水を還すことで、地下の地熱貯留層における地熱流体の枯渇を抑制する。各気水分離器5によって分離された熱水は熱水管6で合流し、ポンプ14を介して還元井19へ圧送される。なお、自圧によって還元井19へ圧送可能な場合には、ポンプ14を省略したり小容量化してもよい。また、還元井19に送られる熱水の流量は、熱水管6上に設けた流量計17によって計測される。なお、本実施形態では、各気水分離器5によって分離された熱水が合流した後の熱水の流量(合計流量)を計測する場合について説明するが、各気水分離器5によって分離された熱水の流量をそれぞれ計測することとしてもよい。また、還元井19が複数設けられることとしてもよい。
蒸気管7は、気水分離器5によって分離された蒸気を蒸気タービン8へ導く管である。各気水分離器5によって分離された蒸気は、蒸気管7で合流して蒸気タービン8へ供給される。また、蒸気タービン8に送られる蒸気の流量は、蒸気管7上に設けた流量計18によって計測される。なお、本実施形態では、各気水分離器5によって分離された蒸気が合流した後の蒸気の流量(合計流量)を計測する場合について説明するが、各気水分離器5によって分離された蒸気の流量をそれぞれ計測することとしてもよい。また、蒸気管7には、各気水分離器5によって分離された蒸気が合流した後の蒸気に対して流量調整弁15を設け、蒸気タービン8への蒸気の供給流量を制御することとしてもよい。
蒸気タービン8は、蒸気管7により供給された蒸気のエネルギーによってタービン翼(不図示)を回転駆動させ、タービン翼の回転軸に接続された発電機9を回転駆動して発電を行う。
復水器10は、蒸気タービン8においてタービン翼(不図示)を回転駆動させる仕事をし終えた蒸気を冷却水で冷却することで凝縮して復水する装置である。復水された温水は、冷却塔11へ供給される。
冷却塔11は、復水器10において復水された温水を蒸発冷却する装置である。具体的には、冷却塔11に供給された温水は冷却塔11上部の散布部から散布される。散布された温水は、冷却塔11の送風機によって流通する空気と接触することで一部が蒸発し、この蒸発に伴う潜熱によって他の温水が冷やされて水になる。冷やされた水は、冷却塔水として冷却塔11の水槽に貯水される。水槽に貯水されている冷却塔水は、ポンプ12を介して冷却水として復水器10へ供給される。
坑井制御システム20は、所望の運定点(地熱流体の総流量と総エンタルピーの組合せ)に対して各坑井2を制御する。複数の各坑井2から噴出・抽出された地熱流体は、流量調整弁4及び気水分離器5を介して熱水と蒸気とに分離されるが、この分離過程で発生する圧力変化(例えば、流量調整弁4での減圧フラッシュ)によって、分離の前後での蒸気流量の比率は同じにならない場合がある。具体的には、気水分離器5での分離過程で発生する減圧作用により、熱水流量が減少するとともに蒸気流量は増加する。すなわち、複数の各坑井2から噴出・抽出された地熱流体の蒸気流量と、気水分離器5で分離された後の蒸気流量とは一致しない場合がある。熱水も同様に気水分離器5で分離される前後で流量は一致しない場合がある。このため、気水分離器5における分離後の蒸気流量及び熱水流量に基づいても、各坑井2から噴出された蒸気流量及び熱水流量(地熱流体に含まれる蒸気流量及び熱水流量)の絶対値を推定することは容易ではない。すなわち、各坑井2の坑井特性(坑口圧力に対する蒸気流量と熱水流量との関係)を実際の状況(現時点における状態)に対応して把握することは容易ではない。すなわち、例えば竣工時の噴気試験で取得した初期の坑井特性を用いて、実際の状況を把握されていない(運用に伴う変化が正確に反映されていない)各坑井特性に基づいて各坑井2を制御したとしても、適切に制御できない場合がある。そこで、本実施形態に係る坑井制御システム20では、各坑井2の坑井特性を図14に示したような噴気圧力に対する蒸気流量と熱水流量の関係を坑井特性で表したものとして把握するのではなく、地熱流体の総流量及び総エンタルピーと各坑井2の坑口圧力の状態とに基づいて推定した相対的な坑井2の特性に基づいて各坑井2を精度よく制御する。
坑井制御システム20は、例えば、図示しないCPU(中央演算装置)、RAM(Random Access Memory)等のメモリ、及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体等から構成されている。後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラムの形式で記録媒体等に記録されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線または無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
図2は、坑井制御システム20が備える機能を示した機能ブロック図である。図2に示されるように、坑井制御システム20は、運定点設定部21と、所望運定点特定部22と、坑口圧力設定部23とを備えている。
坑井特性によれば、図14に示すように噴気圧力(坑口圧力)が決定されると、蒸気流量と熱水流量が一義的に特定される。すなわち、各坑井2では、坑口圧力に対して、噴出された地熱流体に含まれる蒸気流量と熱水流量が対応している。ここで、本実施形態では、i番目の坑井2の蒸気流量をQsiとし、熱水流量をQbiとすると、i番目の坑井2から噴出された地熱流体の流量Qiは、蒸気流量と熱水流量の和で表される(Qi=Qsi+Qbi)。また、i番目の坑井2から噴出された地熱流体のエンタルピーHiは、蒸気の飽和比エンタルピーをhsiとし、熱水の飽和比エンタルピーをhbiとすると、蒸気流量と蒸気の飽和比エンタルピーとの積である蒸気エンタルピーと、熱水流量と熱水の飽和比エンタルピーとの積である熱水エンタルピーとの和で表される(Hi=hsi・Qsi+hbi・Qbi)。このため、各坑井2から噴出された地熱流体の総流量Qは、各坑井2から噴出された地熱流体の流量Qiの総和として定義され、各坑井2から噴出された地熱流体の総エンタルピーHは、各坑井2から噴出された地熱流体のエンタルピーHiの総和として定義される。すなわち、各坑井2の坑井特性と、地熱流体の総エンタルピーHと地熱流体の総流量Qとは互いに関係している。このように、各坑井2の坑井特性を、地熱流体の総エンタルピーHと地熱流体の総流量Q(坑井2における熱水と蒸気の合計流量)へ変換することで、相対的な坑井特性を表すことができる。
実際の地熱発電プラントにおいて地熱流体の総流量Q及び地熱流体の総エンタルピーHを求める際は、後述の(6)式及び(7)式を用いて計測算定する。すなわち、総蒸気流量Qss及び総熱水流量Qbsの計測値を用いて、地熱流体の総流量Q及び地熱流体の総エンタルピーHを算出する。このため、各坑井2の個々の坑井特性を正確に把握していなくても、各坑井の個々の坑井特性と関係性を変換して保有する地熱流体の総流量Q及び地熱流体の総エンタルピーHを取得することができ、これらに基づいて相対的に坑井特性を反映して最適な運定点(各坑井2の坑口圧力)を特定することが可能となる。ここで気水分離器5により分離後の総蒸気流量Qss及び総熱水流量Qbsは流量計で計測される蒸気及び熱水の流量であり、hss、hbsは各流量計における図示しない圧力計、温度計による計測結果をもとに得られる物性値である蒸気、熱水の比エンタルピーである。なお実際のプラントにおいて流量計が複数ある場合は、それぞれの流量計におけるエンタルピーを個別に算出したうえで積算するものとする。
運定点設定部21は、複数の坑井2から噴出した地熱流体の総流量及び総エンタルピーの計測算定値と各坑井2の坑口圧力の状態とに基づいて設定した相対坑井特性に対して、各坑口圧力の基準圧力に対する偏差と総流量の変動量との関係性及び偏差と総エンタルピーの変動量との関係性を用い、各坑井2の制御可能範囲内における各坑口圧力の組合せに対応した複数の運定点を設定する。
具体的には、運定点設定部21には、各坑口圧力の基準圧力に対する偏差と総流量の変動量との関係性及び各坑口圧力の基準圧力に対する偏差と総エンタルピーの変動量との関係性が格納される。なお、該関係性については、運定点設定部21において自動的に設定することとしてもよいし、地熱発電プラント1の運転員等によって設定されてもよいし、他の装置等における演算結果として取得されることとしてもよい。
まず、各坑井2の噴気圧力(坑口圧力)Pi(本実施形態の例ではi=1、2)について、基準圧力をPi0とし、基準圧力Pi0からの変動量をΔPiとすると、運定点での噴気圧力(坑口圧力)Piは、以下(1)式で表される。
(1)式において、基準圧力Pi0は、各坑井2に対してそれぞれ設定され、通常運転される圧力範囲内であれば任意に設定可能である。そして、各坑井2の坑口圧力が基準圧力Pi0である場合における地熱流体の総流量を基準総流量Q0(例えば単位は、kg/sで示される)、総エンタルピーを基準総エンタルピーH0(例えば単位は、kWで示される)とすると、各坑口圧力が任意の状態における地熱流体の総流量Q及び総エンタルピーHは、以下(2)式及び(3)式で表される。
ここで、(2)式におけるΔQ(ΔPi)は、総流量Qの基準総流量Q0からの変動量であり、各坑井2の坑口圧力の変動量ΔPiの関数となる。また、(3)式におけるΔH(ΔPi)は、総エンタルピーHの基準総エンタルピーH0からの変動量であり、各坑井2の坑口圧力の変動量ΔPiの関数となる。すなわち、(2)式及び(3)式で示される関係を図示すると、図3のような相対坑井特性となる。すなわち、各坑井2の坑口圧力が基準圧力Pi0である場合の地熱流体の総流量(基準総流量Q0)と総エンタルピー(基準総エンタルピーH0)を基準運定点(白抜き丸印)として、各坑口圧力が基準圧力Pi0から変動(ΔP1、ΔP2)すると、総流量Q及び総エンタルピーHがそれぞれΔQ及びΔHだけ変動する。すなわち、各坑口圧力が任意の状態での運定点(丸囲み×印)は、基準運定点から移動した位置に表示できる。
ここで、基準総流量Q0からの変動量ΔQ(ΔPi)及び基準総エンタルピーH0からの変動量ΔH(ΔPi)は、それぞれ各坑口圧力の変動量ΔPiの関数となっている。これらの関数は、坑井2の運転とともに(例えば経時的に)変化する可能性がある。このため、変動量ΔQ及び変動量ΔHを後述する(4)式及び(5)式のように係数を用いて表し、各係数を地熱発電プラント1の運転状態に合わせて更新することで、各坑井2の坑井特性の変化を反映させる。具体的には、指定期間(過去所定期間)において、地熱発電プラント1が運転中に特定される地熱流体の総流量Q及び総エンタルピーHと、各坑井2の坑口圧力とに基づいた運転データを蓄積する。そして、蓄積した運転データに基づいて(4)式及び(5)式の係数を都度適正化し、適正化した各係数を用いて変動量ΔQ及び変動量ΔHを算出する。すなわち、総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHの関数を、運用中の地熱発電プラント1から取得が可能で、複数に取得した情報(総流量の計測算定値、総エンタルピーの計測算定値、各坑口圧力の状態)に基づいて運定点を設定することで、指定期間における坑井2の相対坑井特性を把握することができる。そして、総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHを指定期間における坑井2の特性に適合するように算出することができる。すなわち、運用や時間経過に伴って各坑井の坑井特性が変化したとしても、各坑井の坑井特性自体を再現することは困難であっても、指定期間における相対坑井特性を反映して総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHを算出できる。
なお、総流量Qの計測算定値は、後述する(6)式を用いて、気水分離器5での分離後における総蒸気流量(Qss)の計測値と総熱水流量(Qbs)の計測値を合計した値として算出される。また、総エンタルピーHの計測算定値は、後述する(7)式を用いて、総蒸気流量(Qss)の計測値及び総熱水流量(Qbs)の計測値と、気水分離器5では圧力により飽和温度が決定されるため、気水分離器5内の圧力により決まる物性値である蒸気の飽和比エンタルピー(hss)及び熱水の飽和比エンタルピー(hbs)とを用いて算出される。
総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHについては、本実施形態では2つの坑井2で構成されることから、例えば、以下(4)式及び(5)式で表すことができる。
ここで、(4)式におけるa1、a2は、それぞれΔP1及びΔP2の係数である。また、(5)式におけるb1、b2は、それぞれΔP1及びΔP2の係数である。そして、総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHを(4)式及び(5)式で表した場合には、後述するように、計測した総蒸気流量及び総熱水流量に基づいて算出した地熱流体の総流量Q及び総エンタルピーHから、基準総流量及び基準総エンタルピーとの差が変動量ΔQ及びΔHとして算出される。また、総蒸気流量及び総熱水流量を計測した時点における各坑口圧力(P1、P2)を取得して、基準圧力との差をΔP1及びΔP2として算出する。すなわち、指定期間内において計測を行った時点に対して、地熱流体の総流量Qに係る運転データ情報と、総エンタルピーHに係る運転データ情報と、各坑口圧力(P1、P2)に係る運転データ情報を蓄積することによって、指定期間において、ΔQ、ΔH、ΔP1、ΔP2の組合せを複数パターン取得する。
そして、指定期間において取得した情報(ΔQ、ΔH、ΔP1、ΔP2の組合せ)に対して例えば最小二乗法等によるフィッティング手法を適用することで、(4)式及び(5)式における各係数(a1、a2、b1、b2)を特定する。このようにして、実際の地熱発電プラント1の運転状態を示す総蒸気流量及び総熱水流量の計測値を、総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHを算出する式((4)式及び(5)式における各係数)に反映させる。指定期間とは、例えば最近の1ヶ月から6ヶ月や最近の1年間などであり、予め設定される期間(過去所定期間)である。すなわち、地熱流体の総流量Qの計測算定値及び総エンタルピーHの計測算定値と、計測した時点における各坑口圧力(P1、P2)とに基づいて、各係数が指定期間における坑井2の特性に適合したものとすることができるため、相対坑井特性を反映して、総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHを算出することが可能となる。なお、坑井2の数量が2より多い場合(例えば、坑井2の数量=n)は、ΔQの係数をan・ΔPnまで増加して加算し、ΔHの係数をbn・ΔPnまで増加して加算する。このように、坑井2の数に限定されず、運用に伴って変化した各坑井2の坑井特性を相対的に加味して、各坑井2の圧力変化に対する総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHをでき、運定点を精度よく推定することが可能となる。
なお、総流量の変動量ΔQを表す関数及び総エンタルピーの変動量ΔHを表す関数については、上記の(4)式及び(5)式に限らず適用することができる(例えば任意の次数の関数等)。また、総流量の変動量ΔQを表す関数及び総エンタルピーの変動量ΔHを任意の関数として、機械学習等によって求めることとしてもよい。すなわち、指定期間における坑井2の特性を反映して、各坑口圧力(P1、P2)から地熱流体の総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHを算出可能であれば、上記に限定されず適用することができる。
このように、各坑口圧力の変動量ΔPiに基づいて、指定期間の状態における坑井2の特性に適合するように総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHを算出することができるため、基準運定点(基準総流量Q0及び基準総エンタルピーH0)に対して、算出した総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHを加算することで、任意の坑口圧力(P1、P2)における地熱流体の総流量Q(運定点)及び総エンタルピーH(運定点)を算出することができる(図3)。
運定点設定部21は、各坑井2の制御可能範囲内における各坑口圧力(P1、P2)の組合せに対応した複数の運定点を設定する。制御可能範囲とは、特性に応じて坑井2毎に設定されているものであり、流量調整弁4を用いて制御可能な坑口圧力の範囲である。なお、制御可能範囲は、実際に弁操作で実現可能な圧力範囲のうち、坑井として運用可能な範囲を指している。運定点設定部21は、後述する所望運定点特定部22における所望運定点の特定のために、各坑井2の制御可能範囲内において取り得る様々な運定点を設定する。すなわち、指定期間(過去所定期間)において、地熱発電プラント1が運転中に特定される地熱流体の総流量Q及び総エンタルピーHと、各坑井2の坑口圧力とに基づいた運転データを蓄積した中から、運定点設定部21は、実際の運転状態として取り得る運定点のパターンを、係数が更新された(4)式及び(5)式を用いて設定する。
具体的には、運定点設定部21は、各坑井2の制御可能範囲において、坑井2毎に任意の坑口圧力(P1、P2)を選定する。このようにして、運定点設定部21は、各坑口圧力の組合せを複数組設定する。そして、設定した各坑口圧力の組合せでの総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHを(4)式及び(5)式を用いて算出する。そして、総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHと、基準運定点(基準総流量Q0及び基準総エンタルピーH0)とに基づいて、各坑口圧力の組合せにおける運定点(総流量Q及び総エンタルピーH)を算出する。運定点設定部21は、運定点算出の処理を、設定した複数の各坑口圧力の組合せ毎に実行する。すなわち、運定点設定部21では、各坑井の坑口圧力(P1、P2)と、該坑口圧力に対応した運定点(総流量Q及び総エンタルピーH)との組み合わせが、複数パターン設定されることとなる。このように設定した複数の運定点を図示したものを図4に示す。図4における各×印が、設定された複数の運定点(運定点群)を示す。すなわち、図4に示す運定点群のそれぞれには、各坑井の坑口圧力の組合せが対応づけられている。後述する所望運定点特定部22では、このように設定された複数の運定点のうち、所望の条件に適合した運定点を所望運定点として特定する。
所望運定点特定部22は、複数の坑井2から噴出した地熱流体の総流量Qと総エンタルピーHとの関係が地熱流体を用いた発電出力毎に表された特性に基づいて、所望の地熱流体の総流量状態及び発電出力状態となる運定点を所望運定点として特定する。すなわち、所望運定点特定部22は、運定点設定部21において設定された複数の運定点の中から、所望の運定点(所望の運転状態における総流量と総エンタルピーの組合せ)を特定する。
所望運定点特定部22において用いる特性は、地熱流体の総流量Qと総エンタルピーHとの関係が地熱流体より生成された蒸気流量に基づいて表されており、発電出力Lが蒸気流量に基づいて表されている関係性である。このような特性について説明する。なお、以降の説明では、本実施形態での一例として複数の各気水分離器(セパレータ)5での地熱流体を蒸気と熱水に分離するセパレータ圧力を等しいとする仮定条件のもとでの簡易な算出方法を示すものであり、例えば複数の各セパレータ圧力が異なる場合や、地熱エネルギーをバイナリサイクル方式で利用する場合などでは、別途各々に合せたモデルを設定する。地熱流体の総流量Q及び総エンタルピーHは、気水分離器5で分離後の総蒸気流量Qss及び総熱水流量Qbsを用いて以下(6)式及び(7)式で表される。
(7)式において、hssは気水分離器5内の圧力Psにおける蒸気の飽和比エンタルピー(例えば単位は、kJ/kgで示される)であり、飽和温度は圧力Psで決定されるため、hbsは気水分離器5内の圧力Psにおける熱水の飽和比エンタルピー(例えば単位は、kJ/kgで示される)であり、圧力Psにより決まる物性値である。ここで、本実施形態では、気水分離器5は2つ設けることとしているが、各気水分離器5において出口から蒸気タービン8の入口までの圧力損失は比較的小さいため、圧力損失を省略(もしくは一定)とすると、各気水分離器5内の圧力は蒸気タービン8の入口の圧力と等しいと考えることができる。このため、蒸気タービン8の入口の圧力に基づいて特定される蒸気の飽和比エンタルピーhss及び熱水の飽和比エンタルピーhbsは各気水分離器5内の圧力Psで決定する値に等しいと考えることができ、地熱流体の総流量Q及び総エンタルピーHは、分離後の総蒸気流量Qss及び総熱水流量Qbsを用いて上記(6)式及び(7)式のように表すことができる。
(6)式及び(7)式を用いて、Qbsを消去すると、以下の関係式を得る。
(8)式は、地熱流体の総流量Q及び総エンタルピーHがわかれば、総蒸気流量Qssを算出可能なことを示している。(8)式をさらに変形すると、以下の関係を得る。
ここで、(9)式において総蒸気流量Qssを一定とすると、総エンタルピーHは、傾きをhbsとする総流量Qの一次関数で表される。すなわち、(9)式は、図5のような直線関係(線形)のグラフを描くことができる。ここで、図5では、総蒸気流量Qssをパラメータとして、ある固定値(一定値)としている。このため、総蒸気流量Qssをより大きな固定値とした場合には一次関数の切片((hss-hbs)・Qss)が大きくなり、図6に示すように、縦軸(総エンタルピー)が増加する方向へ一次関数が平行移動する。一方で、総蒸気流量Qssをより小さな固定値とした場合には一次関数の切片((hss-hbs)・Qss)が小さくなり、図6に示すように、縦軸(総エンタルピー)が減少する方向へ一次関数が平行移動する。すなわち、(9)式の関係から、地熱流体の総流量Qと総エンタルピーHとの関係が、パラメータである地熱流体より生成された総蒸気流量Qssに基づいて表されたこととなる。
一方で、蒸気タービン8では、地熱流体より生成された蒸気(総蒸気流量Qss)によって発電を行っており、発電出力(発電量)L(例えば単位は、kWで示される)は、以下(10)式で表される。
(10)式において、Δhtは蒸気タービン8の有効熱落差(例えば単位は、kJ/kgで示される)で、蒸気タービン8の出口蒸気の運用により決定される。すなわち、(10)式では、発電出力Lが蒸気タービン8に供給された総蒸気流量Qssによって示されている。すなわち、蒸気タービン8の有効熱落差Δhtが一定とみなせる条件範囲では、発電出力Lと総蒸気流量Qssとは比例関係にあるため、図6に示すような総蒸気流量Qssと一次関数の関係は、図7に示すように、発電出力Lと一次関数の関係と考えることができる。すなわち、総蒸気流量Qssを増加させると、総エンタルピーHが増加するとともに、発電出力Lも増加する。一方で、総蒸気流量Qssを減少させると、総エンタルピーHが減少するとともに、発電出力Lも減少する。
すなわち、(9)式及び(10)式を整理すると、図7に示すような、地熱流体の総流量Qと総エンタルピーHとの関係が地熱流体を用いた発電出力L毎に表された特性を得ることができる。すなわち、坑井2の短寿命化の要因の一つとなる地熱流体の総流量Qの状態(Q=Qss+Qbs)と、地熱発電プラント1における発電出力状態(L)において、所望の運定点を特定することが可能となる。
本実施形態では、所望運定点特定部22は、各坑井2の制御可能範囲において、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが最大値に近づくように所望運定点を特定する。地熱発電プラント1の各坑井2の運用として、地熱流体の総流量Qが多すぎると、地熱貯留層に貯留されている地下流体の水源が乏しい場合などでは、地熱流体の減少を促進し、坑井2の寿命を余分に短くしてしまう可能性がある。しかしながら、地熱発電プラント1としては、発電出力Lはできるだけ大きい方が好ましい。そこで、本実施形態では、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが最大値に近づくような運定点を特定する。このため、所望運定点特定部22は、図7に示すような地熱流体の総流量Qと総エンタルピーHとの関係が地熱流体を用いた発電出力L毎に表された特性に対して、運定点設定部21にて設定した複数の運定点をプロットし、所望の運定点を特定する(図8)。
所望運定点特定部22は、所望の運定点を特定可能なように、得点付けによる評価を行う。本実施形態では、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが最大値に近づくように運定点を特定する。このため、例えば本実施形態に係る所望運定点特定部22は、例えば、図4で示した運定点群を図7に対してプロットすることで、図8を得る。図8に示すように、プロットした運定点群のうち総流量Qが最小値となる運定点を最も高得点となるように設定し、総流量Qが多くなるにつれて所定の間隔で得点を低くして設定する。図8の例では、プロットした運定点群のうち総流量が最小値となる運定点に最高得点として10点を付け、総流量Qが多くなるにつれて所定の間隔で9点、8点等と点数が低下するように付ける。また、所望運定点特定部22は、プロットした運定点群のうち発電出力Lが最大値となる運定点を最も高得点となるように設定し、発電出力Lが少なくなるにつれて所定の間隔で得点を低くして設定する。図8の例では、プロットした運定点群のうち発電出力Lが最大値となる運定点に最高得点として10点を付け、発電出力Lが少なくなるにつれて所定の間隔で9点、8点等と点数が低下するように付ける。
図8のように得点を付与した場合、総流量の最小値へ近づく得点と発電出力Lが最大値へ近づく得点を合算して評価する。例えば丸囲み×印で示したW1が最も高得点となる。このため、所望運定点特定部22は、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが最大値に近づく最適な運定点としてW1を特定する。このようにして、所望運定点特定部22は、最適となる所望の運定点を特定する。なお、本実施形態では、得点を付与することにより所望運定点を特定しているが、所望の運転状態(総流量が最小値に近づき、かつ、発電出力が最大値に近づく状態)の運定点を特定することができれば、得点付けの方法に限定されず適用することができる。
坑口圧力設定部23は、所望運定点に対応する各坑口圧力(P1set、P2set)を設定する。運定点設定部21は、各坑口圧力の組合せと運定点とを対応させている。このため、所望運定点特定部22において所望運定点として特定された運定点W1には、すでに対応する各坑口圧力(P1、P2)が対応づけられている。このため、坑口圧力設定部23は、所望運定点に対応づけられた各坑口圧力の組合せを、所望の各坑口圧力(P1set、P2set)として設定する。なお、坑口圧力設定部23は、各坑口圧力を設定後、実際に流量調整弁4を制御して各坑井2の坑口圧力を設定した坑口圧力(P1set、P2set)となるように調整し、地熱発電プラント1の実際の運定点を所望の運定点へ近づけることとしてもよい。なお、坑口圧力設定部23によって設定した各坑口圧力に基づいて、地熱発電プラント1の運転員等が流量調整弁4を制御することとしてもよい。
次に、上述の坑井制御システム20による各坑口圧力の設定処理について図9を参照して説明する。図9に示すフローは、例えば、地熱発電プラント1が稼働中において、所定の制御周期で繰り返し実行される。なお、図9に示すフローは、坑井制御を実施する場合において、運転員等によって開始指令が入力された場合に実行することとしてもよい。
まず、指定期間(過去所定期間)において、地熱発電プラント1が運転中に特定される地熱流体の総流量Q及び総エンタルピーHと、各坑井2の坑口圧力とに基づいた運転データを蓄積した中から、各坑口圧力(P1、P2)の組合せに対応した運定点を複数設定する(S101)。例えば、図4や図8で各×印で示した運定点群を設定する。
次に、地熱流体の総流量Qと総エンタルピーHとの関係が地熱流体を用いた発電出力L毎に表された特性に基づいて、設定した各運定点に得点を付与する(S102)。
次に、得点に基づいて運定点から最適となる所望運定点を特定する(S103)。例えば、図8で丸囲み×印で示したW1を特定する。
次に、特定した所望運定点W1に基づいて、対応する各坑井2の坑口圧力(P1set、P2set)を設定する(S104)。
なお、本実施形態では、発電出力Lと総流量Qの得点付けにおける最高得点を同じ値としているが、得点付けの方法は一例であり、上記方法に限定されない。総流量Qの減少への得点と、発電出力Lの増大への得点につき、地熱発電プラント1としてより重視したい得点へ重みを付与してもよい。すなわち、総流量Qの増加及び発電出力Lの減少の所定の間隔でさらに重みの勾配を付加した得点として、大きく低くなるように設定してもよい。総流量Qの増加及び発電出力Lの減少のいずれかに異なる重みを持たせて、最高得点を異なる値としてもよい。すなわち、発電出力Lを重視する場合には、発電出力に関する得点付けの最高得点を、総流量Qに関する得点付けの最高得点に対して高くすることとしてもよい。
以上説明したように、本実施形態に係る地熱発電プラントの坑井制御システム及びその坑井制御方法並びに坑井制御プログラム、地熱発電プラントによれば、指定期間における坑井特性を反映させ精度よく各坑井を制御することが可能となる。複数の坑井2から噴出・抽出された地熱流体を用いて発電を行う場合、気水分離器5などで地熱流体から分離され発電に用いられる蒸気流量により、実際に各坑井2から噴出・抽出された地熱流体に含まれる蒸気流量を精度よく推定することは容易ではない。これは、複数の各坑井2から噴出された地熱流体から蒸気を気水分離器5などで分離する過程等において生じる圧力変化などに起因して蒸気流量と熱水流量の混在状態が変動するためである。すなわち、精度よく複数の各坑井2の坑井特性を把握することは容易ではなかった。そこで、地熱流体の総流量Qの計測算定値及び総エンタルピーHの計測算定値と、複数の各坑井2の噴気圧力(坑口圧力)Piの状態とに基づいて、各坑口圧力の基準圧力Pi0に対する変動量ΔPiと総流量の変動量ΔQとの関係性及び各坑口圧力の基準圧力に対する変動量ΔPiと総エンタルピーの変動量ΔHとの関係性を指定期間内における計測値に基づいて設定することとした。すなわち、地熱流体の総流量Qの計測算定値及び総エンタルピーHの計測算定値に基づくことで、運用に伴い変化した坑井2の坑井特性を反映することができる。すなわち、各坑口圧力の基準圧力に対する偏差から、地熱流体の総流量の変動量ΔQ及び総エンタルピーの変動量ΔHを精度よく求めることができる。そして、これらの関係性を用いて、各坑井2の制御可能範囲内における各坑口圧力の組合せに対応した複数の運定点を求めることで、各坑井2の制御可能範囲内で取り得る運定点を推定することが可能となる。
また、地熱流体の総流量Qと総エンタルピーHがパラメータとして発電出力L毎に表された特性を用いることで、所望の地熱流体の総流量状態及び発電出力状態が与えられれば、対応する所望運定点(地熱流体の総流量Qと総エンタルピーHの組合せ)を特定することが可能となる。各坑井2の坑口圧力を所望運定点に対応した坑口圧力(P1set、P2set)に制御することで、実際の地熱発電プラント1の運転状態をより最適化することが可能となる。
また、得点付けによる評価を行い、総流量Qが最小値に近づき、かつ発電出力Lが最大値に近づくような所望運定点W1を特定することができるため、各坑井2の短寿命化を抑制し、効率的に発電の高出力化を図ることができる。
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態に係る地熱発電プラントの坑井制御システム及びその坑井制御方法並びに坑井制御プログラム、地熱発電プラントについて説明する。
上述した第1実施形態では、所望運定点特定部22は、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが最大値に近づくように所望運定点を特定する場合について説明していたが、本実施形態では、所望運定点特定部22は、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが所定値に近づくように所望運定点を特定する。以下、本実施形態に係る地熱発電プラントの坑井制御システム及びその坑井制御方法並びに坑井制御プログラム、地熱発電プラントについて、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
本実施形態における所望運定点特定部22は、各坑井2の制御可能範囲において、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが所定値に近づくように所望運定点を特定する。地熱発電プラント1では、要求発電出力等によって、発電出力が指定される場合がある。このため、要求発電出力等によって指定される発電出力Lを所定値として、所定値に近づくように所望運定点を特定する。
所望運定点特定部22は、所望の運定点を特定可能なように、得点付けを行う。本実施形態では、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが所定値に近づくように運定点を特定する。このため、所望運定点特定部22は、図10に示すように、プロットした運定点群のうち総流量Qが最小値となる運定点を最も高得点となるように設定し、総流量Qが多くなるにつれて所定の間隔で得点を低くして設定する。図10の例では、プロットした運定点群のうち総流量Qが最小値となる運定点に最高得点として10点を付け、総流量Qが多くなるにつれて所定の間隔で9点、8点等と点数が低下するように付ける。また、所望運定点特定部22は、プロットした運定点群のうち発電出力Lが所定値となる運定点を最も高得点となるように設定し、発電出力Lが所定値から離れるにつれて所定の間隔で得点を低くして設定する。図10の例では、プロットした運定点群のうち発電出力Lが所定値となる運定点に最高得点として10点を付け、発電出力Lが所定値から離れるにつれて所定の間隔で9点等と点数が低下するように付ける。
図10のように得点を付与した場合、総流量が最小値へ近づくほど高得点となるように付与された得点と、発電出力Lが所定値へ近づくほど高得点となるように付与された得点とを合算して評価する。例えば丸囲み×印で示したW2が最も高得点となる。このため、所望運定点特定部22は、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが所定値に近づく最適な運定点としてW2を特定する。このようにして、所望運定点特定部22は、最適となる所望の運定点を特定する。そして、坑口圧力設定部23では、所望運定点に対応する各坑口圧力(P1set‘、P2set‘)を設定する。
以上説明したように、本実施形態に係る地熱発電プラントの坑井制御システム及びその坑井制御方法並びに坑井制御プログラム、地熱発電プラントによれば、総流量Qが最小値に近づき、かつ発電出力Lが所定値に近づくような所望運定点を特定することができるため、各坑井2の短寿命化を抑制し、効率的に発電出力Lを要求発電出力等によって指定される所定値に維持することができる。
〔第3実施形態〕
次に、本開示の第3実施形態に係る地熱発電プラントの坑井制御システム及びその坑井制御方法並びに坑井制御プログラム、地熱発電プラントについて説明する。
上述した第2実施形態では、所望運定点特定部22は、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが所定値に近づくように所望運定点を特定する場合について説明していたが、本実施形態では、所望運定点特定部22は、各坑井2の制御可能範囲において、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが所定値以上の範囲において所定値に近づくように所望運定点を特定する。以下、本実施形態に係る地熱発電プラント1の坑井制御システム及びその坑井制御方法並びに坑井制御プログラム、地熱発電プラント1について、第1実施形態及び第2実施形態と異なる点について主に説明する。
本実施形態における所望運定点特定部22は、各坑井2の制御可能範囲において、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが所定値以上の範囲において所定値に近づくように所望運定点を特定する。例えば、地熱発電プラント1では、接続されている系統側の事故等によって、所内単独運転を行う場合がある。所内単独運転とは、地熱発電プラント1内における各機器への電力供給を自ら発電電力でまかなう状態である。すなわち、地熱発電プラント1内において最低限必要な電力が設定されており、発電出力Lがこの最低限必要な電力を下回ると、地熱発電プラント1内における各機器が止まりブラックアウトとなる。このため、地熱発電プラント1では、最低限必要な電力(必要蒸気量)に対して所定の余裕度(マージン)を加算した電力値を発電出力Lの所定値として、地熱流体の生産を行う。一方で、実際に発電に必要な地熱流体に対する過剰分は系外排出される等の処理がなされるため地熱流体の生産量はなるべく低い方が好ましい。そこで、所望運定点特定部22は、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが所定値以上の範囲において所定値に近づくように所望の運定点を特定する。なお、所定値を下回る範囲では、地熱発電プラント1がブラックアウトとなってしまうため、選定不可領域と設定する。また、蒸気タービン8に供給する総蒸気流量Qssのうち一部を、蒸気タービン8の入口側において設けた放出管(蒸気管7から蒸気管7を流通する蒸気の一部を大気に放出する管)によって放出し、発電出力Lを調整することとしてもよい。この場合には、放出管に設けた放出弁によって、放出する蒸気の量を調節することとすればよい。
所望運定点特定部22は、所望の運定点を特定可能なように、得点付けを行う。本実施形態では、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが所定値以上の範囲において所定値に近づくように運定点を特定する。このため、所望運定点特定部22は、図11に示すように、プロットした運定点群のうち総流量Qが最小値となる運定点を最も高得点となるように設定し、総流量Qが多くなるにつれて所定の間隔で得点を低くして設定する。図11の例では、プロットした運定点群のうち総流量Qが最小値となる運定点に最高得点として10点を付け、総流量が多くなるにつれて所定の間隔で9点、8点等と点数が低下するように付ける。また、所望運定点特定部22は、プロットした運定点群のうち発電出力Lが所定値となる運定点を最も高得点となるように設定し、発電出力Lが所定値以上の範囲において増加するにつれて所定の間隔で得点を低くして設定する。なお、発電出力Lが所定値を下回る範囲において選定されないように例えば得点を極めて低く設定する。図11の例では、プロットした運定点群のうち発電出力Lが所定値となる運定点に最高得点として10点を付け、発電出力Lが所定値から増加するにつれて所定の間隔で9点等と点数が低下するように付ける。なお、発電出力Lが所定値を下回る運定点には選定不可領域として、例えば0点やマイナス等の点数を付けるか、もしくはそのような運定点は棄却されるようにする。
図11のように得点を付与した場合、総流量が最小値へ近づくほど高得点となるように付与された得点と、発電出力Lが所定値以上の範囲において所定値に近づくほど高得点となるように付与された得点とを合算して評価する。例えば丸囲み×印で示したW3が最も高得点となる。このため、所望運定点特定部22は、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが所定値以上の範囲において所定値に近づく最適な運定点としてW3を特定する。このようにして、所望運定点特定部22は、最適となる所望の運定点を特定する。そして、坑口圧力設定部23では、所望運定点に対応する各坑口圧力(P1set‘‘、P2set‘‘)を設定する。
以上説明したように、本実施形態に係る地熱発電プラントの坑井制御システム及びその坑井制御方法並びに坑井制御プログラム、地熱発電プラントによれば、総流量Qが最小値に近づき、かつ発電出力Lが所定値以上の範囲において該所定値に近づくような所望運定点を特定することができるため、各坑井2の短寿命化を抑制し、発電出力Lが最低限必要な電力である所定値以上としながら、余剰な発電を抑えた運転を行うことができ、地熱発電プラント1のブラックアウトを防止することが可能となる。
〔第4実施形態〕
次に、本開示の第4実施形態に係る地熱発電プラントの坑井制御システム及びその坑井制御方法並びに坑井制御プログラム、地熱発電プラントについて説明する。
本実施形態では、所望運定点特定部22は、各坑井2における地熱流体の流量Qi及び噴気圧力Piの少なくともいずれか一方の設定範囲を限定するように設定した坑井評価関数を用いて、各坑井2での制御可能範囲(流量調整弁4を用いて制御可能な範囲)を更に制限することで所望運定点を限定したものにおいて、第1実施形態から第3実施形態で説明した所望運定点を特定する。
本実施形態では、一例として坑井評価関数を用いて、各坑井2での制御可能範囲を更に制限することで所望運定点を限定したものにおいて、第1実施形態で示した、総流量Qが最小値に近づき、発電出力Lが最大値に近づくように所望運定点を特定するものを説明する。以下、本実施形態に係る地熱発電プラントの坑井制御システム及びその坑井制御方法並びに坑井制御プログラム、地熱発電プラントについて、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
本実施形態における所望運定点特定部22は、各坑井2での制御可能範囲を更に制限するものにおいて、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが最大値に近づくような所望運定点を特定する。各坑井2での制御可能範囲を更に制限する理由として、各坑井2の噴気圧力Piを低くして流量Qiが大きくなった場合に坑井2の過熱化や枯渇減衰が大きくなる場合がある。このため、各坑井2での坑井特性に対応した流量Qi及び噴気圧力Piの少なくともいずれか一方の範囲を設定する。流量Qi及び噴気圧力Piの少なくともいずれか一方の範囲を適切に設定しないと(制御可能範囲外として考慮すべき状況としては)、例えば、制御可能範囲の流量を超える多量の地熱流体を噴気し続けた場合には、地熱貯留層に貯留されている地下流体の水源が乏しい場合などでは地熱流体の減少を促進し、坑井2の寿命を余分に短くしてしまうおそれがある。また、例えば、制御可能範囲の噴気圧力を下回る圧力の地熱流体を噴気し続けた場合には、複数の坑井2のフィードポイント間のバランスが変化して各坑井2の噴気特性が変化するおそれがある。また、例えば、制御可能範囲の噴気圧力を超える圧力の地熱流体を噴気し続けた場合には、地熱流体の噴気が停止するおそれがある。これら状況を防止するために、各坑井2の運用を制御可能範囲にて制限する。すなわち、所望運定点を特定する際には各坑井2での制御可能範囲外の運転条件が含まれる運定点が選択されないように、各坑井2での流量Qi及び噴気圧力Piの少なくともいずれか一方に対応した坑井評価関数を与える。
図12は一例として、各坑井2のうちの1つの坑井2の噴気圧力Piに対応して設定された坑井評価関数を示す図である。なお、坑井評価関数は、地熱流体の流量Qiに対応して設定されてもよい。図12では、初期の噴気特性試験等で得られた坑井特性やトレーサ試験(貯留層の流動調査試験)の結果、または坑井2の実運用状況などに基づいて、噴気圧力Piに対する制御可能範囲を設定可能範囲として設け、設定可能範囲の下限値Piaと上限値Pidが設定される。また、坑井の寿命に関する経験的な情報や実運用状況などに基づいて、噴気圧力Piに対する制御可能範囲をさらに制限した(設定可能範囲の下限値Piaと上限値Pidとの間の範囲に上下限値が設定された)設定推奨範囲を設け、設定推奨範囲の下限値Pibと上限値Picが設定される。本実施形態では坑井評価関数は、例えば設定推奨範囲の下限値Pibと上限値Picの間で1とし、制御可能範囲内の下限値PiaとPibの間、及びPicと上限値Pidの間では0から1の間の正の値とし、制御可能範囲外である下限値Piaより低い圧力、及び上限値Pidより大きな圧力では0とする。
坑井評価関数で、噴気圧力Piを設定推奨範囲の下限値Pibと上限値Picの間に選定することで、坑井評価関数は1となり、各坑井2の運用を続けた際に坑井特性に大きな影響が発生しないことを示している。また、噴気圧力Piを設定推奨範囲のPibからPiaへと噴気圧力が低下する間、及び設定推奨範囲のPicからPidへと噴気圧力が上昇する間では、坑井評価関数は1から0へと漸次減少し、各坑井2の運用を続けた際に坑井特性に大きな影響が発生し易くなることを示している。
所望運定点特定部22は、所望の運定点を特定可能なように、得点付けを行う。本実施形態では、各坑井2における地熱流体の流量Qi及び噴気圧力Piの少なくともいずれか一方に基づいて、各坑井2での制御可能範囲を更に制限する範囲内において、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが最大値に近づくような所望運定点を特定する。
例えば、図12で示すように、噴気圧力Piが設定推奨範囲の下限値Pibと上限値Picの間にあり、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが最大値に近づくように所望の運定点を特定する。このため、所望運定点特定部22は、まず図13に示すように、プロットした運定点群のうち、噴気圧力Piが設定推奨範囲にあるかどうかを設定する坑井評価関数により得点付けをする。坑井評価関数による得点付けは、噴気圧力Piが設定推奨範囲の下限値Pibと上限値Picの間となる運定点を最も高得点の1となるように設定し、噴気圧力Piが小さくなりPibとPiaの間では1から0へと連続的に得点が低くなるように設定し、更に噴気圧力Piが小さくなりPiaよりも低い圧力では最低点の0となるよう設定する。また、噴気圧力Piが大きくなりPicとPidの間では1から0へと連続的に得点が低くなるように設定し、更に噴気圧力Piが大きくなりPidよりも高い圧力では最低点の0となるよう設定する。また、所望運定点特定部22は、プロットした運定点群のうち、総流量Qが最小値となる運定点を最も高得点として10点となるように設定し、総流量Qが多くなるにつれて所定の間隔で得点を低くして設定する。また、所望運定点特定部22は、プロットした運定点群のうち発電出力Lが最大値となる運定点を最も高得点として10点となるように設定し、発電出力Lが少なくなるにつれて所定の間隔で得点を低くして設定する。
図13のように得点を付与した場合、総流量が最小値へ近づくほど高得点となるように付与した得点と、発電出力Lが最大値へ近づくほど高得点となるように付与した得点を合算して、合算した値に対して噴気圧力Piの選定による坑井評価関数による得点を積算することによって最終得点を算出し評価する。例えば図13の例では、丸囲み×印で示したW4が最も高得点となる。このため、所望運定点特定部22は、各坑井2での制御可能範囲を更に制限する範囲内において、総流量Qが最小値に近づき、かつ、発電出力Lが最大値に近づく最適となる運定点としてW4を特定する。なお、本実施形態では、丸囲み×印で示したW4の最適点の選定にあたっては、W4の近傍の運定点に対して、坑井評価関数の得点を追加評価することによって、W4の最適点を選定している。このようにして、所望運定点特定部22は、最適となる所望の運定点を特定する。また、設定推奨範囲の下限値Pibと上限値Picは、各坑井の特性から各坑井毎での経験的に基づいて設定されてもよい。噴気圧力Piを設定可能範囲のPibから下限値Piaへと噴気圧力が低下する間隔、及び設定可能範囲のPicから上限値Pidへと噴気圧力が上昇する間隔は、設定推奨範囲とは無関係に狭くしてもよく、または実質的に間隔を無しとして設定推奨範囲をより明確に限定してもよい。
このように、各坑井2における地熱流体の流量Qi及び噴気圧力Piの少なくともいずれか一方の制御可能範囲に対応した設定可能範囲と、坑井の寿命等を加味して設定可能範囲を限定して設定された設定推奨範囲とが設けられた坑井評価関数を用いることによって、設定推奨範囲に含まれる運定点を高く評価することができる。なお、坑井評価関数において、設定可能範囲に対して設定推奨範囲の方が評価が高くなるように設定されている。設定推奨範囲に含まれる運定点が高評価されやすくなることによって、坑井の寿命等を加味してより最適な運定点を特定することが可能となる。
以上説明したように、本実施形態に係る地熱発電プラントの坑井制御システム及びその坑井制御方法並びに坑井制御プログラム、地熱発電プラントによれば、坑井の特性変化や噴気停止のおそれのある運定点が選定されることを防止できるため、各坑井2の短寿命化をより一層に抑制することができる。
また、制御可能範囲内において、安全性を確保することが可能な噴気圧力Piが下限値Pibと上限値Picの間からなる制御推奨範囲を設定してあるので、制御推奨範囲内における坑井評価関数は、各坑井2の短寿命化をより一層に抑制できる適切な運定点が選定されやすくなり、地熱発電プラント1の信頼性を向上することができる。
本開示は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。なお、各実施形態を組み合わせることも可能である。