JP7280628B2 - 膵臓腫瘍の予後予測マーカー - Google Patents
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Description
本明細書には、膵臓腫瘍の予後予測マーカーの検出方法、及び膵臓腫瘍の予後予測マーカーを検出するための検査試薬が開示される。
膵臓癌は、癌の中でも予後が悪く、死亡率が高い癌である。膵臓癌の予後を予測するために、血中CA19-9濃度、外科的癌切除後の断端の状態、腫瘍病期等を指標にすることが報告されている(非特許文献1)。また、近年では、National Comprehensive Cancer Network(NCCN)の再発可能性分類が膵臓癌の予後の予測に有用であることが報告されている。
Bilici A. Prognostic factors related with survival in patients with pancreatic adenocarcinoma. World J Gastroenterol 2014; 20: 10802-10812.
Murakami Y, Satoi S, Sho M, Motoi F, Matsumoto I, Kawai M, et al. National comprehensive cancer network resectability status for pancreatic carcinoma predicts overall survival. World J Surg 2015; 39: 2306-2314.
しかし、現在報告されている膵臓癌の予後予測因子は、腫瘍の大きさや、腫瘍の遺残等を反映する因子であり、腫瘍細胞自体の性質を反映するものではない。腫瘍細胞自体の悪性度は、腫瘍の大きさ等に関係なく、患者の予後を左右するが、現時点では、腫瘍細胞自体の悪性度に基づいて、予後を予測することはできない。本発明は、腫瘍細胞自体の性質に基づいて、その腫瘍を有する患者の予後を予測できるバイオマーカーを提供することを課題とする。
本発明者は、鋭意研究を重ねたところ、患者の膵臓腫瘍細胞内にアディポフィリンが検出された場合、患者の予後が不良となることを見出した。
本開示は、以下の態様を含む。
本開示は、以下の態様を含む。
項1.被検者から採取された膵臓腫瘍細胞内のアディポフィリンを検出する工程を含む、膵臓腫瘍の予後予測マーカーの検出方法。
項2.アディポフィリンが検出された場合に、前記被検者の予後が不良であると決定する工程をさらに含む、項1に記載の検出方法。
項3.予後が生存率である、項1又は2に記載の検出方法。
項4.アディポフィリンの検出が、腫瘍組織の免疫染色によって行われる、項1から3のいずれか一項に記載の検出方法。
項5.膵臓腫瘍の細胞内に存在するアディポフィリンを、前記膵臓腫瘍を有する被検者の予後を予測するためのバイオマーカーとして使用する方法。
項6.被検者から採取された膵臓腫瘍細胞内に存在するアディポフィリンを、前記被検者の予後を予測するバイオマーカーとして検出するため検査試薬であって、前記検査試薬は、アディポフィリンを検出するための抗体、又は核酸を含む、検査試薬。
項7.アディポフィリンからなる、膵臓腫瘍の予後予測マーカー。
項8.処理部を備える、膵臓腫瘍の予後予測装置であって、前記処理部は、被検者から採取された膵臓腫瘍細胞内のアディポフィリンの測定値を取得し、取得した測定値を、基準値と比較し、取得した測定値が、前記基準値よりも高い場合に、前記被検者の予後が不良であることを示すラベルを出力する、及び/又は取得した測定値が、前記基準値よりも低い場合に、前記被検者の予後が良好であることを示すラベルを出力する、予後予測装置。
項2.アディポフィリンが検出された場合に、前記被検者の予後が不良であると決定する工程をさらに含む、項1に記載の検出方法。
項3.予後が生存率である、項1又は2に記載の検出方法。
項4.アディポフィリンの検出が、腫瘍組織の免疫染色によって行われる、項1から3のいずれか一項に記載の検出方法。
項5.膵臓腫瘍の細胞内に存在するアディポフィリンを、前記膵臓腫瘍を有する被検者の予後を予測するためのバイオマーカーとして使用する方法。
項6.被検者から採取された膵臓腫瘍細胞内に存在するアディポフィリンを、前記被検者の予後を予測するバイオマーカーとして検出するため検査試薬であって、前記検査試薬は、アディポフィリンを検出するための抗体、又は核酸を含む、検査試薬。
項7.アディポフィリンからなる、膵臓腫瘍の予後予測マーカー。
項8.処理部を備える、膵臓腫瘍の予後予測装置であって、前記処理部は、被検者から採取された膵臓腫瘍細胞内のアディポフィリンの測定値を取得し、取得した測定値を、基準値と比較し、取得した測定値が、前記基準値よりも高い場合に、前記被検者の予後が不良であることを示すラベルを出力する、及び/又は取得した測定値が、前記基準値よりも低い場合に、前記被検者の予後が良好であることを示すラベルを出力する、予後予測装置。
膵臓腫瘍内のアディポフィリンを検出することにより、膵臓腫瘍を有する患者の予後を予測することができる。
1.用語の説明
アディポフィリンは、細胞質内の脂肪滴表面に存在する脂肪滴関連タンパク質である。アディポフィリンは、ペリリピン2とも呼ばれ、National Center for Biotechnology InformationにGene ID:123で登録されている遺伝子から発現されるものが代表的である。アディポフィリンからなるバイオマーカーには、前記遺伝子から発現されるタンパク質、又はmRNAが含まれる。また、バイオマーカーには、前記遺伝子から発現されるタンパク質、又はmRNAの他、そのバリアントも含む。
アディポフィリンは、細胞質内の脂肪滴表面に存在する脂肪滴関連タンパク質である。アディポフィリンは、ペリリピン2とも呼ばれ、National Center for Biotechnology InformationにGene ID:123で登録されている遺伝子から発現されるものが代表的である。アディポフィリンからなるバイオマーカーには、前記遺伝子から発現されるタンパク質、又はmRNAが含まれる。また、バイオマーカーには、前記遺伝子から発現されるタンパク質、又はmRNAの他、そのバリアントも含む。
膵臓腫瘍は、膵臓に存在する細胞に由来する腫瘍である限り制限されない。膵臓腫瘍には悪性腫瘍及び良性腫瘍が含まれ得るが、組織診断等により悪性であるか良性であるか決定されていない腫瘍であってもよい。膵臓腫瘍は、好ましくは悪性腫瘍である。膵臓腫瘍は、好ましくは癌又は神経内分泌腫瘍である。膵臓癌には、膵管腺癌、粘液性のう胞腺癌、漿液性のう胞腺癌等が含まれ得る。好ましくは膵管腺癌である。膵臓神経内分泌腫瘍には、Ki-67指数による分類の膵神経内分泌腫瘍グレード1、膵神経内分泌腫瘍グレード2、膵神経内分泌腫瘍グレード3、膵神経内分泌癌等が含まれ得る。膵臓神経内分泌腫瘍として好ましくは、膵神経内分泌腫瘍グレード2、膵神経内分泌腫瘍グレード3、膵神経内分泌癌である。膵臓腫瘍は、膵臓に存在していてもよいが、リンパ節、門脈、動脈、十二指腸、胆管、肝臓、腹膜、肺等に存在していてもよい。また、膵臓腫瘍は、初発であっても再発であってもよい。好ましくは、初発である。
被検者は、膵臓腫瘍を有する者である限り制限されない。
本開示において、「予後」は、被検者の帰趨を意図する。被検者の帰趨は、その被検者が有する膵臓腫瘍の影響による帰趨である。予後は、好ましくは生存率、腫瘍の再発率、転移の有無、又は腫瘍のグレードであり、より好ましくは、生存率は全期間生存率であり、再発率は無再発生存率であり、転移はリンパ節転移または他臓器転移であり、腫瘍のグレードは分化度である。膵臓腫瘍が膵臓癌の場合には、生存率、腫瘍の再発率で予後を評価することが好ましい。予後が良好であるとは、例えば、診断から30ヶ月後の生存率が50%以上、好ましくは診断から36ヶ月後の生存率が40%以上を意図する。予後が不良であるとは、例えば、診断から30ヶ月後の生存率が50%未満、好ましくは診断から36ヶ月後の生存率が40%未満を意図する。また、予後が良好であるとは、例えば、診断から6ヶ月後の無再発生存率が70%以上、好ましくは診断から12ヶ月後の無再発生存率が40%以上を意図する。予後が不良であるとは、例えば、診断から6ヶ月後の無再発生存率が50%未満、好ましくは診断から12ヶ月後の無再発生存率が25%未満を意図する。その他の態様として、予後が良好であるとは、例えば、転移が認められないことを意図する。予後が不良であるとは、例えば、転移が認められることを意図する。その他の態様として、予後が良好であるとは、例えば、腫瘍が高分化型であることを意図する。予後が不良であるとは、例えば、腫瘍が低分化型であることを意図する。
2.膵臓腫瘍の予後予測マーカー及びその検出方法
本開示のある態様は、膵臓腫瘍の予後予測マーカー及びその検出方法に関する。前記検出方法は、膵臓腫瘍細胞内のアディポフィリンを検出することを含む。すなわち、膵臓腫瘍の腫瘍細胞内のアディポフィリンは、前記膵臓腫瘍を有する被検者の予後を予測するためのバイオマーカーとして使用することができる。
本開示のある態様は、膵臓腫瘍の予後予測マーカー及びその検出方法に関する。前記検出方法は、膵臓腫瘍細胞内のアディポフィリンを検出することを含む。すなわち、膵臓腫瘍の腫瘍細胞内のアディポフィリンは、前記膵臓腫瘍を有する被検者の予後を予測するためのバイオマーカーとして使用することができる。
膵臓腫瘍内のアディポフィリンの検出は、被検者から採取された膵臓腫瘍細胞又は膵臓腫瘍組織を用いて行う限り制限されない。膵臓腫瘍細胞又は膵臓腫瘍組織は、例えば、原発巣又は転移巣からの手術による切除又は生検、内視鏡下における切除又は生検、腹水からの分離等により採取することができる。腫瘍組織であるか、正常組織であるかの判定は、肉眼的所見、顕微鏡観察等で行うことができる。また、細胞増殖能や、腫瘍マーカー(例えばCA19-9)の発現があることを指標として腫瘍組織であるか否かを判定してもよい。細胞増殖能を指標として腫瘍組織であるか否かを判定する場合には、例えば検査対象組織のBrdUやKi-67タンパク質のラベリングインデックス(「Ki-67指数」ともいう)が正常組織と比較して高い場合に、前記検査対象組織が腫瘍組織である可能性が高いと判定することができる。腫瘍マーカーを指標とする場合には、腫瘍マーカーの発現が陽性である組織を腫瘍組織である可能性が高いと判定することができる。
被検者から採取された膵臓腫瘍細胞又は膵臓腫瘍組織は、アディポフィリンの検出方法に応じて前処理される。
膵臓腫瘍内のアディポフィリンは、タンパク質として、又はmRNAとして検出することができる。
アディポフィリンをタンパク質として検出する方法は、免疫染色、ウエスタンブロッティング等の公知の方法を挙げることができる。また、アディポフィリンをmRNAとして検出する方法は、in situ ハイブリダイゼーション、RT-PCR(定量的RT-PCRを含む)、マイクロアレイ、RNA-Seq等の公知の方法を挙げることができる。
膵臓腫瘍組織を使って、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションを行う場合には、前処理として、膵臓腫瘍組織をホルマリン、及びパラホルムアルデヒド等の公知の固定液で固定してから、パラフィン包埋ブロックを作製する。あるいは、膵臓腫瘍組織を固定してから、あるいは固定せずに、OCTコンパウンド(登録商標)等の凍結ブロック作製用の樹脂に包埋し、凍結ブロックを作製する。次に、作製したパラフィン包埋ブロック、又は凍結ブロックを薄切して組織切片を作製し、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションに供する。ここで、ブロックに包埋されている膵臓腫瘍組織は、腫瘍部のみであっても良いが例えば正常部位等を含んでいてもよい。
膵臓腫瘍細胞を使って、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションを行う場合には、前処理として、細胞をスライドグラスに塗抹又は収集し、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、及びエタノール等で固定する。
アディポフィリンをタンパク質としてウエスタンブロッティング等で検出する場合には、前処理として、膵臓腫瘍細胞又は膵臓腫瘍組織を所定の溶解バッファーで溶解する。溶解バッファーで溶解されたサンプルを検査サンプルとする。
アディポフィリンをmRNAとしてRT-PCR、マイクロアレイ、RNA-Seq等で検出する場合には、前処理として、膵臓腫瘍細胞又は膵臓腫瘍組織からtotal RNA又はmRNAを抽出する。また、必要に応じて、抽出したtotal RNA又はmRNAを鋳型として逆転写を行い、相補的DNA(cDNA)を合成しても良い。total RNA若しくはmRNA、又はcDNAを検査サンプルとする。
免疫染色又はウエスタンブロッティングによってアディポフィリンを検出するための一次抗体は、アディポフィリンを検出できる限り制限されない。例えば、ヒトアディポフィリンのN末端側のペプチドを抗原として調製した抗体、特にヒトアディポフィリンの5番目から27番目のペプチドを抗原として調製した抗体を一次抗体として使用するが好ましい。一次抗体としてより具体的には、anti-adipophilin mouse monoclonal primary antibody(AP125,Progen Biotechnik)等を挙げることができる。アディポフィリンと結合した一次抗体は、一次抗体と結合する酵素標識二次抗体と、前記酵素と基質の反応により検出することができる。免疫染色を行う場合には、脱パラフィン及び浸水処理を行った後に、組織切片をトリプシン等のタンパク分解酵素で処理してから、免疫染色を行ってもよい。
in situ ハイブリダイゼーションに使用するプローブの作製方法は公知である。また、市販のプローブを使用してもよい。
RT-PCRに使用するプライマー(定量的RT-PCRの場合にはプローブを含んでいても良い)は市販されているものを使用することができる。また、マイクロアレイも市販されているものを使用することができる。
RNA-Seqは、次世代シーケンサー(例えば、イルミナ社製)等を使用して、アディポフィリンmRNAのリード数を得ることができる。
免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションによってアディポフィリンを検出する場合、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションが施された組織標本を顕微鏡、又はスライドスキャナ等を使ってヒトが観察することにより、アディポフィリンの有無を検出することができる。組織標本内の腫瘍細胞内に免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションのシグナルが確認された場合に、アディポフィリンが検出されたと判定(決定)することができる。細胞内にアディポフィリンを有する腫瘍細胞が組織標本内の腫瘍部に1つでも検出された場合に、「アディポフィリンが検出された」又は、「アディポフィリンの発現が陽性である」と決定しても良い。あるいは、例えば、顕微鏡、又はスライドスキャナの所定の区画に存在している腫瘍細胞の個数を100%とした時に、細胞内にアディポフィリンを有する腫瘍細胞が10%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは1%以上存在している場合に「アディポフィリンが検出された」又は、「アディポフィリンの発現が陽性である」と決定してもよい。
ウエスタンブロッティング、RT-PCR、RNA-Seqによって、アディポフィリンを検出する場合、腫瘍細胞又は腫瘍組織から抽出されたサンプルにおいてアディポフィリンが検出された場合に、「アディポフィリンが検出された」又は、「アディポフィリンの発現が陽性である」と決定してもよい。あるいは、腫瘍細胞又は腫瘍組織に由来する検査サンプルと正常細胞又は正常組織由来するアディポフィリンのタンパク質量、又はアディポフィリンのmRNA量を比較して、腫瘍細胞又は腫瘍組織に由来する検査サンプルにおけるアディポフィリンのタンパク質量、又はアディポフィリンのmRNA量が正常細胞又は正常組織由来するアディポフィリンのタンパク質量、又はアディポフィリンのmRNA量よりも高値を示す場合に、「アディポフィリンが検出された」又は、「アディポフィリンの発現が陽性である」と決定してもよい。また、腫瘍細胞又は腫瘍組織に由来する検査サンプルにおけるアディポフィリンのタンパク質量、又はアディポフィリンのmRNA量が正常細胞又は正常組織由来するアディポフィリンのタンパク質量、又はアディポフィリンのmRNA量と同程度である場合に、「アディポフィリンが検出されていない」又は、「アディポフィリンの発現が陰性である」と決定してもよい。ここで、「高値を示す」とは、1.2倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは5倍以上高い値を示す場合を例示できる。「同程度」とは、0.8倍から1.1倍程度を例示できる。また、アディポフィリンのタンパク質量、又はアディポフィリンのmRNA量を比較する前に、各検査サンプル中のタンパク質量、又はRNA量を、GAPDH、β2-ミクログロブリン、β-アクチン等のハウスキーピング遺伝子由来のタンパク質量又はmRNA量で正規化してもよい。タンパク質量は質量、又は濃度で表されても良いが、基質の発光強度等で表されても良い。mRNA量は、mRNAのコピー数又はリード数であっても良いが、蛍光強度等で表されてもよい。
別の態様として、あらかじめアディポフィリンタンパク質量又はRNA量の基準値をあらかじめ決定しておき、腫瘍細胞又は腫瘍組織に由来する検査サンプル中のアディポフィリンタンパク質量又はRNA量が基準値よりも高い場合に、「アディポフィリンが検出された」又は、「アディポフィリンの発現が陽性である」と決定してもよい。また、腫瘍細胞又は腫瘍組織に由来する検査サンプル中のアディポフィリンタンパク質量又はRNA量が基準値よりも低い場合に、「アディポフィリンが検出されない」又は、「アディポフィリンの発現が陰性である」と決定してもよい。基準値は、アディポフィリンのタンパク質量、又はアディポフィリンのmRNA量が検出されているか、又は発現が陽性であるかを判別できる値である限り制限されず、公知の方法により決定することができる。アディポフィリンのタンパク質量、又はアディポフィリンのmRNA量が検出されているか、又は発現が陽性であるかを判別できる値は、ROC(receiver operating characteristic curve)曲線、判別分析法、モード法、Kittler法、3σ法、p‐tile法等により決定することもできる。また、基準値として、感度、特異度、陰性的中率、陽性的中率、第一四分位数等を例示できる。
予後予測マーカーの検出方法は、さらにアディポフィリンが検出された場合に、前記被検者の予後が不良であると決定する工程を含んでいてもよい。あるいは、アディポフィリンが検出されなかった場合に、前記被検者の予後が良好であると決定する工程を含んでいてもよい。また、予後予測マーカーの検出方法は、膵臓腫瘍細胞内にアディポフィリンが検出されたか否かに応じて、必要な治療方法を決定する工程を含んでいてもよい。例えば、アディポフィリンが検出された場合には、放射線治療及び/又はアジュバント化学療法の適用を行うことを決定してもよい。
3.検査試薬
本開示の別の態様は、被検者から採取された膵臓腫瘍細胞内に存在するアディポフィリンを、前記被検者の予後を予測するためのバイオマーカーとして検出するため検査試薬に関する。
本開示の別の態様は、被検者から採取された膵臓腫瘍細胞内に存在するアディポフィリンを、前記被検者の予後を予測するためのバイオマーカーとして検出するため検査試薬に関する。
検査試薬は、アディポフィリンタンパク質検出用試薬及び/又はアディポフィリンmRNA検出用試薬を含み得る。
アディポフィリンタンパク質検出用試薬は、少なくともアディポフィリンタンパク質の一部に結合可能な一種又は複数の抗体(例えば、一次抗体)を含む。「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab’)、F(ab)2等)のいずれも用いることができる。免疫グロブリンのクラス及びサブクラスは特に制限されない。また、前記抗体は、抗体ライブラリからスクリーニングされたものであってもよく、キメラ抗体、scFv等であってもよい。
また、抗体は必ずしも精製されている必要はなく、抗体を含む抗血清、腹水、これらから画分された免疫グロブリン画分等であってもよい。
検査試薬に含まれる抗体は、乾燥状態であってもよく、リン酸緩衝生理食塩水等のバッファーに溶解されていてもよい。さらに、検査試薬は、β-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤等の少なくとも一つを含んでいてもよい。
アディポフィリンと結合する抗体は、酵素や蛍光色素で標識されていてもよい。アディポフィリンと結合する抗体はマイクロプレート、磁気ビーズ等に固定されていてもよい。
アディポフィリンタンパク質検出用試薬は、検査試薬と試薬の使用方法を記載した又は試薬の使用方法を記載するウェブページのURLが記載された添付文書を含む検査キットとして提供されてもよい。また、アディポフィリンと結合する抗体が未標識の一次抗体である場合には、検査キットに酵素又は蛍光色素で標識された二次抗体が含まれていてもよい。さらに、検査キットには前記酵素と反応する基質が含まれていてもよい。
アディポフィリンmRNA検出用試薬は、アディポフィリンmRNA又はアディポフィリンcDNAの全体又は一部とハイブリダイズする核酸を含む。核酸は、プライマー、及び/又はプローブとしての機能を有する検出用の核酸(DNA又はRNA)であることが好ましい。検出用核酸の長さは、特に制限されない。
検出用核酸が、PCR反応に使用されるプライマーであれば、アディポフィリンmRNA又はアディポフィリンcDNAとハイブリダイズする配列が、好ましくは50 mer以下であり、より好ましくは30 mer以下であり、さらに好ましくは、15~25 mer程度である。プライマーには、アディポフィリンmRNA又はアディポフィリンcDNAとハイブリダイズしない配列が含まれていてもよい。また、プライマーは、蛍光色素等で標識されていてもよい。
また、RT-PCRには、プライマーの他にPCR産物のリアルタイムの定量のために使用される、PCR反応中に分解される定量用プローブを使用することもできる。定量用プローブもアディポフィリンmRNA又はアディポフィリンcDNAとハイブリダイズする限り、制限されない。定量用プローブは、アディポフィリンmRNA又はアディポフィリンcDNAとハイブリダイズする配列を含む、5~20 mer程度の核酸であることが好ましい。さらに定量用プローブの一端には、蛍光色素が標識され、定量用プローブのもう一端には、当該蛍光色素のクエンチャーが標識されていることが好ましい。
検出用核酸が、マイクロアレイ等においてキャプチャープローブとして使用されるものであれば、アディポフィリンmRNA又はアディポフィリンcDNAとハイブリダイズする配列が、好ましくは100 mer程度であり、より好ましくは60 mer程度であり、さらに好ましくは、20~30 mer程度である。キャプチャープローブには、アディポフィリンmRNA又はアディポフィリンcDNAとハイブリダイズしない配列が含まれていてもよい。さらにキャプチャープローブは、チップに固定化されていることが好ましい。
検出用核酸が、in situハイブリダイゼーション用のプローブである場合、検出用核酸は、アディポフィリンmRNAとハイブリダイズする配列が、15~100 mer程度のオリゴヌクレオチドであってもよく、100 merを超えるポリヌクレオチドであってもよい。ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよい。in situハイブリダイゼーション用のプローブには、ジゴキシゲニン、蛍光色素等の標識物質が結合されうる。プローブには、アディポフィリンmRNAとハイブリダイズしない配列が含まれていてもよい。
アディポフィリンmRNA検出用試薬は、検査試薬と試薬の使用方法を記載した又は試薬の使用方法を記載するウェブページのURLが記載された添付文書を含む検査キットとして提供されてもよい。また、RT-PCRによりアディポフィリンmRNA又はアディポフィリンcDNAを検出する場合には、検査キットに核酸増幅試薬(耐熱性DNAであってもポリメラーゼ、バッファー、dNTP等を含む)、逆転写酵素等を含んでいてもよい。核酸増幅試薬には、必要に応じてSYBER GREEN(登録商標)等の色素が含まれていてもよい。マイクロアレイによりアディポフィリンmRNA又はアディポフィリンcDNAを検出する場合には、検査キットにハイブリダイゼーション用バッファー、洗浄用バッファー等が含まれていてもよい。in situハイブリダイゼーションによりアディポフィリンmRNAを検出する場合には、検査キットに、プロティナーゼK等のタンパク質分解酵素、ハイブリダイゼーション用バッファー、洗浄用バッファー等が含まれていてもよい。
4.膵臓腫瘍の予後予測装置
4-1.膵臓腫瘍の予後予測装置の構成
本開示の一実施形態は膵臓腫瘍の予後予測システム1000及び膵臓腫瘍の予後予測装置10に関する。
4-1.膵臓腫瘍の予後予測装置の構成
本開示の一実施形態は膵臓腫瘍の予後予測システム1000及び膵臓腫瘍の予後予測装置10に関する。
図1は、膵臓腫瘍の予後予測システム1000の概観図であり、膵臓腫瘍の予後予測システム1000は一態様として、膵臓腫瘍の予後予測装置10の他、分析装置5a又は分析装置5bとを備えていてもよい。
図2に、膵臓腫瘍の予後予測装置10のブロック図を示す。膵臓腫瘍の予後予測装置10は、入力部111と、出力部112と、記憶媒体113とに接続されていてもよい。
膵臓腫瘍の予後予測装置10において、処理部101と、主記憶部102と、ROM(read only memory)103と、補助記憶部104と、通信インタフェース(I/F)105と、入力インタフェース(I/F)106と、出力インタフェース(I/F)107と、メディアインターフェース(I/F)108は、バス109によって互いにデータ通信可能に接続されている。主記憶部102と補助記憶部104とを合わせて、単に記憶部と呼ぶこともある。記憶部は、前記測定値や基準値を揮発性に、又は不揮発性に記憶する。
処理部101は、膵臓腫瘍の予後予測装置10のCPUである。処理部101は、GPUであってもよい。処理部101が、補助記憶部104又はROM103に記憶されているコンピュータプログラムを実行し、取得されるデータの処理を行うことにより、膵臓腫瘍の予後予測装置10が機能する。
ROM103は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成され、処理部101により実行されるコンピュータプログラム及びこれに用いるデータが記録されている。処理部101はMPU101としてもよい。ROM103は、膵臓腫瘍の予後予測装置10の起動時に、処理部101によって実行されるブートプログラムや膵臓腫瘍の予後予測装置10のハードウェアの動作に関連するプログラムや設定を記憶する。
主記憶部102は、SRAM又はDRAMなどのRAM(Random access memory)によって構成される。主記憶部102は、ROM103及び補助記憶部104に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、主記憶部102は、処理部101がこれらのコンピュータプログラムを実行するときの作業領域として利用される。
補助記憶部104は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等によって構成される。補助記憶部104には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムなどの、処理部101に実行させるための種々のコンピュータプログラム及びコンピュータプログラムの実行に用いる各種設定データが記憶されている。具体的には、基準値等を不揮発性に記憶する。
通信I/F105は、USB、IEEE1394、RS-232Cなどのシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインタフェース、ネットワークインタフェースコントローラ(Network interface controller:NIC)等から構成される。通信I/F105は、処理部101の制御下で、分析装置5a,5b又は他の外部機器からのデータを受信し、必要に応じて膵臓腫瘍の予後予測装置10が保存又は生成する情報を、分析装置5a,5b又は外部に送信又は表示する。通信I/F105は、ネットワークを介して分析装置5a,5b又は他の外部機器と通信を行ってもよい。
入力I/F106は、例えばUSB、IEEE1394、RS-232Cなどのシリアルインタフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインタフェース、及びD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインタフェースなどから構成される。入力I/F106は、入力部111から文字入力、クリック、音声入力等を受け付ける。受け付けた入力内容は、主記憶部102又は補助記憶部104に記憶される。
入力部111は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、膵臓腫瘍の予後予測装置10に文字入力又は音声入力を行う。入力部111は、膵臓腫瘍の予後予測装置10の外部から接続されても、膵臓腫瘍の予後予測装置10と一体となっていてもよい。
出力I/F107は、例えば入力I/F106と同様のインタフェースから構成される。出力I/F107は、処理部101が生成した情報を出力部112に出力する。出力I/F107は、処理部101が生成し、補助記憶部104に記憶した情報を、出力部112に出力する。
出力部112は、例えばディスプレイ、プリンター等で構成され、分析装置5a,5bから送信される測定結果及び膵臓腫瘍の予後予測装置10における各種操作ウインドウ、分析結果等を表示する。
メディアI/F108は、記憶媒体113に記憶された例えばアプリケーションソフト等を読み出す。読み出されたアプリケーションソフト等は、主記憶部102又は補助記憶部104に記憶される。また、メディアI/F108は、処理部101が生成した情報を記憶媒体113に書き込む。メディアI/F108は、処理部101が生成し、補助記憶部104に記憶した情報を、記憶媒体113に書き込む。
記憶媒体113は、フレキシブルディスク、CD-ROM、又はDVD-ROM等で構成される。記憶媒体113は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、又はDVD-ROMドライブ等によってメディアI/F108と接続される。記憶媒体113には、コンピュータがオペレーションを実行するためのアプリケーションプログラム等が格納されていてもよい。
処理部101は、膵臓腫瘍の予後予測装置10の制御に必要なアプリケーションソフトや各種設定をROM103又は補助記憶部104からの読み出しに代えて、ネットワークを介して取得してもよい。前記アプリケーションプログラムがネットワーク上のサーバコンピュータの補助記憶部内に格納されており、このサーバコンピュータに膵臓腫瘍の予後予測装置10がアクセスして、コンピュータプログラムをダウンロードし、これをROM103又は補助記憶部104に記憶することも可能である。
また、ROM103又は補助記憶部104には、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーションシステムがインストールされている。第2の実施形態に係るアプリケーションプログラムは、前記オペレーティングシステム上で動作するものとする。すなわち、膵臓腫瘍の予後予測装置10は、パーソナルコンピュータ等であり得る。
膵臓腫瘍の予後予測システム1000は一カ所に設置されている必要はなく、膵臓腫瘍の予後予測装置10と分析装置5a,5bが別所に配置され、これらがネットワークで接続されていてもよい。また、膵臓腫瘍の予後予測装置10は、入力部111や出力部112を省略した操作者を必要としない装置であってもよい。
分析装置5aは、タンパク質の量又は濃度を測定するための装置であり、試料置き場51と、反応部52と、検出部53とを備える。試料置き場51にセットされた細胞溶解液は、反応部52に設置された抗原捕捉用抗体が固相されたマイクロプレートに分注されインキュベーションされる。必要に応じて未反応の抗原を除去した後、検出抗体がマイクロプレートに分注され、インキュベーションされる。必要に応じて未反応の抗原を除去した後、検出用抗体を検出するための基質がマイクロプレートに分注され、マイクロプレートが検出部53に移動され、基質が反応して発生したシグナルが測定される。
また、分析装置5aの別態様は、マイクロアレイ解析によるmRNAの発現量を測定するための装置であり、試料置き場51にセットされた逆転写反応物を反応部52にセットされたマイクロアレイチップ上に分注し、ハイブリダイゼーションを行い、洗浄した後、検出部53に移動させシグナルを検出する。
さらに、分析装置5aの別態様は、RT-PCRによるmRNAの発現量を測定するための装置であり、試料置き場51にセットされた逆転写反応物を反応部52にセットされたマイクロチューブ内に分注し、続いて定量的PCR用試薬をマイクロチューブ内に分注する。反応部52でPCR反応を行いながら、検出部53でチューブ内のシグナルを検出する。
分析装置5bは、RNA-Seq法によってmRNAの発現量を測定するための装置であり、配列解析部54を備える。RNA-Seq用の反応を行ったサンプルを配列解析部54にセットし、配列解析部54内で、塩基配列の解析をおこなう。
分析装置5bは、ウエスタンブロッティングによりタンパク質量を測定するための全自動ウエスタンブロッティング装置であり、化学発光シグナル検出部54を備える。溶解バッファーで溶解された膵臓腫瘍細胞又は膵臓腫瘍組織のサンプルを自動ウエスタンブロッティング装置の所定の位置にセットし、SDS-PAGE、メンブレンへのブロッティング、抗体反応、化学発光を行い、化学発光シグナル検出部54にて解析をおこないシグナル強度を定量化する。
分析装置5a、及び5bは、有線又は無線によって膵臓腫瘍の予後予測装置10に接続されている。分析装置5aは、タンパク質の測定値、又はmRNAの測定値をA/D変換して、デジタルデータとして膵臓腫瘍の予後予測装置10に送信する。同様に、分析装置5bは、mRNAの測定値をA/D変換して、デジタルデータとして膵臓腫瘍の予後予測装置10に送信する。これにより、膵臓腫瘍の予後予測装置10は、タンパク質の測定値、又はmRNAの測定値を、演算処理可能なデジタルデータとして取得することができる。
4-2.膵臓腫瘍の予後予測装置の動作
図3に膵臓腫瘍の予後予測装置10の動作例のフローチャートの一例を示す。
図3に膵臓腫瘍の予後予測装置10の動作例のフローチャートの一例を示す。
膵臓腫瘍の予後予測装置10の処理部101は、オペレータが入力部111から処理開始の入力を行うことにより、被検者の膵臓腫瘍の予後を予測するための処理を開始する。ステップS11において、処理部101は、分析装置5a又は分析装置5bから被検者から採取された膵臓腫瘍細胞内のアディポフィリンのタンパク質量、又はアディポフィリンのmRNA量若しくはこれらを反映する値をアディポフィリンの測定値として取得する。あるいは、オペレータが免疫染色又はin situハイブリダイゼーションによるアディポフィリンの発現が陽性であるか陰性であるか(あるいは、アディポフィリンが検出されたか否か)を入力部111から入力し、処理部101がこの入力をアディポフィリンの測定値として取得してもよい。
次に処理部101は、ステップS12において、記憶部に記憶されているアディポフィリンの基準値と、ステップS11で取得した測定値とを比較する。
処理部101は、ステップS13において、取得した測定値が、前記基準値よりも高い場合には、ステップS14(YES)に進み、前記被検者の予後が不良であると決定し、決定結果を示すラベルを出力部112に出力する(ステップS16)。また、ステップS13において、取得した測定値が基準値よりも低い場合に、ステップS15(NO)に進み、前記被検者の予後が良好であると決定し、決定結果を示すラベルを出力部112に出力する(ステップS16)。予後が不良であると決定した場合には、ラベルには、「予後不良」、又は「予後不良を示唆する」ことを示す情報が含まれる。予後が良好であると決定した場合には、ラベルには、「予後良好」、又は「予後良好を示唆する」ことを示す情報が含まれる。前記情報は、×、〇、感嘆符等のマークであってもよい。
基準値、比較方法、測定値が基準値よりも高いか低いかの判定方法等の詳細は、上記2.の説明をここに援用する。
4-3.予後予測プログラム
本実施形態は、ステップS11~S16の処理をコンピュータに実行させる、膵臓腫瘍の予後を予測するためのコンピュータプログラムを含む。
さらに、本実施形態のある実施形態は、前記コンピュータプログラムを記憶した、記憶媒体等のプログラム製品に関する。すなわち、前記コンピュータプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に格納され得る。記憶媒体へのプログラムの記録形式は、訓練装置200Aがプログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記録は、不揮発性であることが好ましい。
本実施形態は、ステップS11~S16の処理をコンピュータに実行させる、膵臓腫瘍の予後を予測するためのコンピュータプログラムを含む。
さらに、本実施形態のある実施形態は、前記コンピュータプログラムを記憶した、記憶媒体等のプログラム製品に関する。すなわち、前記コンピュータプログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等の記憶媒体に格納され得る。記憶媒体へのプログラムの記録形式は、訓練装置200Aがプログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記記憶媒体への記録は、不揮発性であることが好ましい。
5.膵臓癌の治療方法
本開示において、腫瘍組織におけるアディポフィリンの発現が陽性であるか陰性であるかに応じて治療方法を決定することができる。例えば、術前の生検検査等において、アディポフィリンの発現が陽性である場合には、腫瘍摘出手術を行う前に化学療法及び/放射線療法を行うことが好ましい。前記化学療法及び/又は放射線療法は、腫瘍が手術により切除可能であると判断された場合であっても行うことが好ましい。化学療法において、抗がん剤は、フルオロウラシル、レボホリナート、イリノテカン、オキサリプラチン、ゲムシタビン、ナブパクリタキセルよりなる群から選択される少なくとも1つを用いることができる。また、フルオロウラシル、レボホリナート、イリノテカン、及びオキサリプラチンを併用する化学療法、ゲムシタビン及びナブパクリタキセルを併用する化学療法等を行ってもよい。
本開示において、腫瘍組織におけるアディポフィリンの発現が陽性であるか陰性であるかに応じて治療方法を決定することができる。例えば、術前の生検検査等において、アディポフィリンの発現が陽性である場合には、腫瘍摘出手術を行う前に化学療法及び/放射線療法を行うことが好ましい。前記化学療法及び/又は放射線療法は、腫瘍が手術により切除可能であると判断された場合であっても行うことが好ましい。化学療法において、抗がん剤は、フルオロウラシル、レボホリナート、イリノテカン、オキサリプラチン、ゲムシタビン、ナブパクリタキセルよりなる群から選択される少なくとも1つを用いることができる。また、フルオロウラシル、レボホリナート、イリノテカン、及びオキサリプラチンを併用する化学療法、ゲムシタビン及びナブパクリタキセルを併用する化学療法等を行ってもよい。
また、術前の生検検査等において、アディポフィリンの発現が陰性である場合には、術前化学療法を行わずに、腫瘍摘出手術を行ってもよい。
以下に実施例を示して本開示についてより詳細に説明するが、本開示は実施例に限定して解釈されるものではない。
今回の検討は、ヘルシンキ宣言に基づいて学校法人関西医科大学の倫理委員会の承認を得て行った。
I.実施例1
1.患者の選択
2008年1月から2015年12月までに関西医科大学附属病院において膵管腺癌(PDAC)の切除手術を受け、継続して受診している213名をピックアップした。他の原因又は合併症で死亡した患者(19名)と、24ヶ月以内に臨床経過をフォローアップできなくなった患者(13名)は、検討から除外した。
1.患者の選択
2008年1月から2015年12月までに関西医科大学附属病院において膵管腺癌(PDAC)の切除手術を受け、継続して受診している213名をピックアップした。他の原因又は合併症で死亡した患者(19名)と、24ヶ月以内に臨床経過をフォローアップできなくなった患者(13名)は、検討から除外した。
最終的に、腫瘍遺残度がR0又はR1であった181名の患者について検討を行った。
2.組織学的検討
外科的に切除された組織サンプルをホルマリン固定し、組織標本を作製した。組織標本は、固定した組織サンプルをすべてパラフィン包埋し、薄切切片を作製し、ヘマトキシリン-エオジン染色を施し作製した。作製した組織標本を鏡験しWorld Health Organization Classification 2010に基づいて、組織学的な分類(グレーディング)を行い、腫瘍組織を高分化型腺癌、中分化型腺癌、低分化型腺癌に分類した。透明な細胞質を有する腫瘍細胞は、免疫染色において抗アディポフィリン抗体との反応性が高いことが報告されている。この知見に基づいて、組織標本の観察において、腫瘍細胞の細胞質が透明であるか否かも評価した。
外科的に切除された組織サンプルをホルマリン固定し、組織標本を作製した。組織標本は、固定した組織サンプルをすべてパラフィン包埋し、薄切切片を作製し、ヘマトキシリン-エオジン染色を施し作製した。作製した組織標本を鏡験しWorld Health Organization Classification 2010に基づいて、組織学的な分類(グレーディング)を行い、腫瘍組織を高分化型腺癌、中分化型腺癌、低分化型腺癌に分類した。透明な細胞質を有する腫瘍細胞は、免疫染色において抗アディポフィリン抗体との反応性が高いことが報告されている。この知見に基づいて、組織標本の観察において、腫瘍細胞の細胞質が透明であるか否かも評価した。
すべての患者について、TNM臨床病期分類第8版(Union for International Cancer Control)に基づいて、腫瘍の病期分類を行った。
3.組織マイクロアレイ
それぞれの患者の組織について、ヘマトキシリン-エオジン染色を施した組織標本内で最も形態学的に癌の特徴を呈している部分を選び、パラフィン包埋ブロックから2つの組織塊(直径2 mm)をパンチで採取した。パンチした組織塊をさらにパラフィンブロック内に並べて包埋し、薄切して組織切片を作製した。
それぞれの患者の組織について、ヘマトキシリン-エオジン染色を施した組織標本内で最も形態学的に癌の特徴を呈している部分を選び、パラフィン包埋ブロックから2つの組織塊(直径2 mm)をパンチで採取した。パンチした組織塊をさらにパラフィンブロック内に並べて包埋し、薄切して組織切片を作製した。
4.免疫染色
免疫染色は、自動染色装置(Discovery, Roche Diagnostics, Basel, Switzerland)を使用し、装置添付のプロトコールにしたがって行った。アディポフィリンを染色するための一次抗体として、anti-adipophilin mouse monoclonal primary antibody (AP125, Progen Biotechnik, Heidelberg, Germany)を使用した。二次抗体は、ペルオキシダーゼ標識抗マウスイムノグロブリン抗体を使用し、発色にはジアミノベンチジン(DAB)を使用した。陽性コントロールとして、皮膚の皮脂腺を使用した。アディポフィリンの発現は、細胞内に顆粒状及び/又は球状の発現が認められる腫瘍細胞が、腫瘍組織全体の5%以上である場合に「陽性」と判定した。また、同一患者において2つ採取した細胞塊の1つ以上が陽性となった場合に、その患者の腫瘍がアディポフィリン発現陽性であると判定した。
免疫染色は、自動染色装置(Discovery, Roche Diagnostics, Basel, Switzerland)を使用し、装置添付のプロトコールにしたがって行った。アディポフィリンを染色するための一次抗体として、anti-adipophilin mouse monoclonal primary antibody (AP125, Progen Biotechnik, Heidelberg, Germany)を使用した。二次抗体は、ペルオキシダーゼ標識抗マウスイムノグロブリン抗体を使用し、発色にはジアミノベンチジン(DAB)を使用した。陽性コントロールとして、皮膚の皮脂腺を使用した。アディポフィリンの発現は、細胞内に顆粒状及び/又は球状の発現が認められる腫瘍細胞が、腫瘍組織全体の5%以上である場合に「陽性」と判定した。また、同一患者において2つ採取した細胞塊の1つ以上が陽性となった場合に、その患者の腫瘍がアディポフィリン発現陽性であると判定した。
5.統計解析
統計解析には、JMP Start Statistics version 14 (Statistical Discovery Software; SAS Institute, Cary, NC, USA)を使用した。カイ二乗検定は、アディポフィリン発現陽性群とアディポフィリン発現陰性群との間で行った。すべての患者について、少なくとも2年かつ2018年3月16日までフォローアップした。全期間生存率(overall survival: OS)及び無再発生存率(recurrence-free survival (RFS) rates)は、Kaplan-Meier法で評価した。アディポフィリン発現陽性群とアディポフィリン発現陰性群との間での有意差は、log-rank 検定により求めた。p値 < 0.05の場合に、有意差有りと判定した。腫瘍径とCA19-9レベルの連続変数は、ROC (Receiver Operatorating Characteristic)曲線に基づいて求めたカットオフ値によって2値化した。OS及び再発率(6ヶ月以内)のリスク因子(risk factor)は多変量解析であるロジスティック回帰解析によって決定し、ハザード比、95%信頼区間、及びp値によって表した。重要な独立因子を同定するために、単変量解析によって決定された重要因子(Significant factor)を、さらに、多変量ロジスティック回帰解析によって評価した。
統計解析には、JMP Start Statistics version 14 (Statistical Discovery Software; SAS Institute, Cary, NC, USA)を使用した。カイ二乗検定は、アディポフィリン発現陽性群とアディポフィリン発現陰性群との間で行った。すべての患者について、少なくとも2年かつ2018年3月16日までフォローアップした。全期間生存率(overall survival: OS)及び無再発生存率(recurrence-free survival (RFS) rates)は、Kaplan-Meier法で評価した。アディポフィリン発現陽性群とアディポフィリン発現陰性群との間での有意差は、log-rank 検定により求めた。p値 < 0.05の場合に、有意差有りと判定した。腫瘍径とCA19-9レベルの連続変数は、ROC (Receiver Operatorating Characteristic)曲線に基づいて求めたカットオフ値によって2値化した。OS及び再発率(6ヶ月以内)のリスク因子(risk factor)は多変量解析であるロジスティック回帰解析によって決定し、ハザード比、95%信頼区間、及びp値によって表した。重要な独立因子を同定するために、単変量解析によって決定された重要因子(Significant factor)を、さらに、多変量ロジスティック回帰解析によって評価した。
6.結果
6-1.臨床病理学的特徴
表1に患者の臨床病理学的特徴を示す。検討対象とした181名の患者のうち、74名が女性であり、107名が男性であった。腫瘍切除手術を受けた際の患者の年齢は、36歳から86歳であり、中央値は68歳であった。フォローアップ期間は、25ヶ月から115ヶ月であり、中央値は、48ヶ月であった。122名(67.4%)の患者は、膵管腺癌により死亡した。126名(69.6%)の患者で再発が認められた。117例では、膵頭部に腫瘍が存在しており、64例では、膵体部又は膵尾部に腫瘍が存在していた。National Comprehensive Cancer Network (NCCN)に基づく切除可能性分類では、134例が切除可能(R)に分類され、43例が切除可能境界(BR)であり、4例が切除不能(UR)であった。腫瘍遺残度に基づく分類では、150名の患者がR0に分類され、31名がR1に分類された。TNM分類による臨床病期分類では、pT1b、pT1c、pT2、pT3及びpT4に分類された患者がそれぞれ1名、10名、105名、 63名、 及び2名であった。リンパ節転移は、133 (73.5%)名の患者に認められた。患者の病期の内訳は、IA (5 名)、IB (36名)、IIA (7名)、IIB (69名)、III (63 名)、及びIV (1 名)であった。69 (38.1%) 名の患者に対して、術前化学療法(ネオアジュバント化学療法)が行われた。
6-1.臨床病理学的特徴
表1に患者の臨床病理学的特徴を示す。検討対象とした181名の患者のうち、74名が女性であり、107名が男性であった。腫瘍切除手術を受けた際の患者の年齢は、36歳から86歳であり、中央値は68歳であった。フォローアップ期間は、25ヶ月から115ヶ月であり、中央値は、48ヶ月であった。122名(67.4%)の患者は、膵管腺癌により死亡した。126名(69.6%)の患者で再発が認められた。117例では、膵頭部に腫瘍が存在しており、64例では、膵体部又は膵尾部に腫瘍が存在していた。National Comprehensive Cancer Network (NCCN)に基づく切除可能性分類では、134例が切除可能(R)に分類され、43例が切除可能境界(BR)であり、4例が切除不能(UR)であった。腫瘍遺残度に基づく分類では、150名の患者がR0に分類され、31名がR1に分類された。TNM分類による臨床病期分類では、pT1b、pT1c、pT2、pT3及びpT4に分類された患者がそれぞれ1名、10名、105名、 63名、 及び2名であった。リンパ節転移は、133 (73.5%)名の患者に認められた。患者の病期の内訳は、IA (5 名)、IB (36名)、IIA (7名)、IIB (69名)、III (63 名)、及びIV (1 名)であった。69 (38.1%) 名の患者に対して、術前化学療法(ネオアジュバント化学療法)が行われた。
組織学的な分類では、42 (23.2%)例が高分化型腺癌に分類され、115 (63.5%)例が中分化型腺癌に分類され、24 (13.3%)例が低分化型腺癌に分類された。図4に示すような、透明な細胞質を有する腫瘍細胞は、44(24.3%)例で認められた。
6-2.アディポフィリンの発現
アディポフィリンの発現は、51 (28.2%)例に認められた。図5に、染色例を示す。ほとんどの例において、アディポフィリンは、核内に球状の染色形態を示した。表1に、アディポフィリン発現陽性例とアディポフィリン発現陰性例とに分けて臨床病理学的特徴を示した。アディポフィリン発現陽性は低分化型腺癌と有意な関連性を示した (p = 0.0012)。 また、アディポフィリン発現陽性は術前CA19-9が高値を示した例とも有意な関連性を示した(p = 0.0016)。さらに アディポフィリン発現陽性患者では、腫瘍遺残度R1に分類される割合が、アディポフィリン発現陰性患者よりも高かった (27.5% vs. 13.1%、 p=0.028)。
アディポフィリンの発現は、51 (28.2%)例に認められた。図5に、染色例を示す。ほとんどの例において、アディポフィリンは、核内に球状の染色形態を示した。表1に、アディポフィリン発現陽性例とアディポフィリン発現陰性例とに分けて臨床病理学的特徴を示した。アディポフィリン発現陽性は低分化型腺癌と有意な関連性を示した (p = 0.0012)。 また、アディポフィリン発現陽性は術前CA19-9が高値を示した例とも有意な関連性を示した(p = 0.0016)。さらに アディポフィリン発現陽性患者では、腫瘍遺残度R1に分類される割合が、アディポフィリン発現陰性患者よりも高かった (27.5% vs. 13.1%、 p=0.028)。
一方で、アディポフィリン発現陽性と、腫瘍径、臨床病期分類、又はリンパ節転移との関連性は認められなかった(p値は、それぞれp = 0.052、p = 0.23、p = 0.57)。また、 アディポフィリン発現と、透明な細胞質を有する腫瘍細胞の出現との間に関連性は認められなかった (p = 0.59)。
6-3.アディポフィリン発現の予後的意義
アディポフィリン発現の有無と、患者の生存率との関連性を検討した。
図6Aにアディポフィリン発現陽性患者とアディポフィリン発現陰性患者の全期間生存(OS)曲線を示す。図6Bにアディポフィリン発現陽性患者とアディポフィリン発現陰性患者の無再発生存(RFS)曲線を示す。アディポフィリン発現陽性患者は、アディポフィリン発現陰性患者と比較して、OS及びRFSとも優位に生存率が低かった (OS:p = 0.0007、RFS:p = 0.0022)。アディポフィリン発現陰性患者の生存期間の中央値は31.5ヶ月であったのに対して、アディポフィリン発現陽性患者の生存期間の中央値は16ヶ月であった。また、アディポフィリン発現陰性患者の無再発生存率の中央値は12ヶ月であったのに対して、アディポフィリン発現陽性患者の無再発生存率の中央値は6.5ヶ月であった。
アディポフィリン発現の有無と、患者の生存率との関連性を検討した。
図6Aにアディポフィリン発現陽性患者とアディポフィリン発現陰性患者の全期間生存(OS)曲線を示す。図6Bにアディポフィリン発現陽性患者とアディポフィリン発現陰性患者の無再発生存(RFS)曲線を示す。アディポフィリン発現陽性患者は、アディポフィリン発現陰性患者と比較して、OS及びRFSとも優位に生存率が低かった (OS:p = 0.0007、RFS:p = 0.0022)。アディポフィリン発現陰性患者の生存期間の中央値は31.5ヶ月であったのに対して、アディポフィリン発現陽性患者の生存期間の中央値は16ヶ月であった。また、アディポフィリン発現陰性患者の無再発生存率の中央値は12ヶ月であったのに対して、アディポフィリン発現陽性患者の無再発生存率の中央値は6.5ヶ月であった。
表2にOSにおける様々な因子の単変量解析、及び多変量解析の結果を示す。
単変量Cox 回帰分析において、アディポフィリン発現は、予後予測因子として使用されることがある術前アルブミン濃度(< 3.8 g/dL)、CA19-9濃度(> 186 U/mL)、NCCNによる治療可能性分類においてBR 又はURであること、より大きな腫瘍サイズ (> 32 mm)、 病期分類においてIII又はIVであること、腫瘍遺残度においてR1であること、及びアジュバント化学療法の適用と同様に優位な予後不良因子であることが示された。さらに、多変量解析において、アディポフィリン発現は、ハザード比 1.64、95%信頼区間1.14-2.34、p = 0.0084を示した。一方、多変量解析において、OSとNCCNによる治療可能性分類においてBR又はURに属することとの関連性は、 ハザード比1.64、 95%信頼区間1.13-2.34、p=0.0088を示した。OSと術前CA19-9の高濃度との関連性は、ハザード比1.48、95%信頼区間1.05-2.07、 p = 0.026であった。OSとアジュバント化学療法適用との関連性は、ハザード比0.45、95%信頼区間0.29-0.73、p = 0.0018を示した。すなわち、アディポフィリン発現以外の因子と比較して、ハザード比又はp値においてアディポフィリン発現の方がOSとの関連性が強いことが示された。この結果から、アディポフィリン発現は、膵臓癌患者のOSにおいて重要因子であり、独立因子であることが示された。また、アディポフィリン発現は、膵臓癌の予後予測マーカーとして使用されている術前CA19-9濃度や、臨床病期分類よりも膵臓癌患者のOSとの関連性が強く、膵臓癌患者の予後を予測するための重要なマーカーであることが示された。
表3にRFSにおける様々な因子の単変量解析、及び多変量解析の結果を示す。
膵管腺癌患者の早期再発においても、アディポフィリン発現は、重要因子であり、独立因子であった (ハザード比2.43;95%信頼区間1.08-5.19;p = 0.030)。したがって、アディポフィリン発現は、膵管腺癌患者の早期再発を予測する上でも重要因子であり、独立因子であることが示された。また、術前CA19-9濃度も、ハザード比2.37;95%信頼区間1.09-5.43;p = 0.030であったが、ハザード比は、アディポフィリン発現の方が高値を示した。
膵管腺癌患者の早期再発においても、アディポフィリン発現は、重要因子であり、独立因子であった (ハザード比2.43;95%信頼区間1.08-5.19;p = 0.030)。したがって、アディポフィリン発現は、膵管腺癌患者の早期再発を予測する上でも重要因子であり、独立因子であることが示された。また、術前CA19-9濃度も、ハザード比2.37;95%信頼区間1.09-5.43;p = 0.030であったが、ハザード比は、アディポフィリン発現の方が高値を示した。
このことから、アディポフィリン発現は、膵臓癌患者における早期再発の予測マーカーであることも示された。
以上の結果から、アディポフィリン発現は、他の予後予測マーカーと比較して、全期間生存率及び無再発生存率との関連性が高く、膵臓腫瘍の予後予測マーカーとして優れていることが示された。
また、アディポフィリンの発現と、再発可能性分類、腫瘍径、臨床病期分類との間に関連性が認められなかったこと、一方で、アディポフィリン発現陽性患者の無再発生存率がアディポフィリン陰性患者と比較して悪いこと、悪性度の高い低分化型腺癌とアディポフィリン発現の間に関連性が認められたことから、アディポフィリンを発現する細胞そのものが、再発率が高く、患者の予後を不良とする悪性度の高い細胞であると考えられた。
II.実施例2
膵神経内分泌腫瘍(PNET)及び膵神経内分泌癌(PNEC)は、Ki-67指数や核分裂像等の細胞増殖マーカーの陽性比率を用いた分類により、PNETグレード1(PNET G1)、PNETグレード2(PNET G2)、PNETグレード3(PNET G3)及びPNECに分類される。
膵神経内分泌腫瘍(PNET)及び膵神経内分泌癌(PNEC)は、Ki-67指数や核分裂像等の細胞増殖マーカーの陽性比率を用いた分類により、PNETグレード1(PNET G1)、PNETグレード2(PNET G2)、PNETグレード3(PNET G3)及びPNECに分類される。
そこで、PNET及びPNECにおけるアディポフィリンの発現と悪性度の関係を検討した。
1.患者及び評価方法
2007年1月から2017年12月までに関西医科大学附属病院において膵神経内分泌腫瘍の切除手術を受け、継続して受診しているPNET G1患者15名、及びPNET G2患者10名をピックアップして検討を行った。また、PNEC患者3名についても検討を行った。
2007年1月から2017年12月までに関西医科大学附属病院において膵神経内分泌腫瘍の切除手術を受け、継続して受診しているPNET G1患者15名、及びPNET G2患者10名をピックアップして検討を行った。また、PNEC患者3名についても検討を行った。
アディポフィリンの染色及び評価は、実施例1と同様に行った。
2.結果
アディポフィリンの染色が陽性であると判定された患者数は、PNET G1患者3名、PNET G2患者4名、PNEC患者3名であった。グレード間でアディポフィリン陽性患者数を比較すると、(PNET G1)vs(PNET G2 + PNEC)は p=0.06、(PNET G1 + PNET G2) vs PNECはp=0.014となり、アディポフィリン陽性例はNET G2以上の症例に多い傾向にあることが示された。
アディポフィリンの染色が陽性であると判定された患者数は、PNET G1患者3名、PNET G2患者4名、PNEC患者3名であった。グレード間でアディポフィリン陽性患者数を比較すると、(PNET G1)vs(PNET G2 + PNEC)は p=0.06、(PNET G1 + PNET G2) vs PNECはp=0.014となり、アディポフィリン陽性例はNET G2以上の症例に多い傾向にあることが示された。
また、リンパ節転移有無で比較すると、表4に示すように、リンパ節転移が溶性であった症例では、アディポフィリン陽性例が多いことが示された。
III.比較例
アディポフィリンが大腸癌の予後と相関するか否かを検討した。2014年1月から2014年12月の間に関西医科大学病院において手術を受けた大腸癌患者165名(男性95名、女性70名)の腫瘍組織のパラフィン包埋組織について検討を行った。患者の年齢は33~99歳であり、中央値は78歳であった。
アディポフィリンが大腸癌の予後と相関するか否かを検討した。2014年1月から2014年12月の間に関西医科大学病院において手術を受けた大腸癌患者165名(男性95名、女性70名)の腫瘍組織のパラフィン包埋組織について検討を行った。患者の年齢は33~99歳であり、中央値は78歳であった。
実施例1と同様の方法によりアディポフィリンの染色を行い、細胞内に顆粒状及び/又は球状の発現が認められる腫瘍細胞が、腫瘍組織全体の50%以上である場合にアディポフィリンの発現が「陽性」と判定した。しかし、図7に示すように、アディポフィリンの発現と生存率の間に相関は認められなかった(p=0.21)。
101 処理部
10 予後予測装置
10 予後予測装置
Claims (8)
- 被検者から採取された膵臓腫瘍細胞内のアディポフィリンを検出する工程を含む、膵臓腫瘍の予後予測マーカーの検出方法。
- アディポフィリンが検出された場合に、前記被検者の予後が不良であると決定する工程をさらに含む、請求項1に記載の検出方法。
- 予後が生存率である、請求項1又は2に記載の検出方法。
- アディポフィリンの検出が、腫瘍組織の免疫染色によって行われる、請求項1から3のいずれか一項に記載の検出方法。
- 膵臓腫瘍の細胞内に存在するアディポフィリンを、前記膵臓腫瘍を有する被検者の予後を予測するためのバイオマーカーとして使用する方法。
- 被検者から採取された膵臓腫瘍細胞内に存在するアディポフィリンを、前記被検者の予後を予測するバイオマーカーとして検出するため検査試薬であって、前記検査試薬は、アディポフィリンを検出するための抗体、又は核酸を含む、前記検査試薬。
- アディポフィリンからなる、膵臓腫瘍の予後予測マーカー。
- 処理部を備える、膵臓腫瘍の予後予測装置であって、
前記処理部は、
被検者から採取された膵臓腫瘍細胞内のアディポフィリンの測定値を取得し、
取得した測定値を、基準値と比較し、
取得した測定値が、前記基準値よりも高い場合に、前記被検者の予後が不良であることを示すラベルを出力する、及び/又は取得した測定値が、前記基準値よりも低い場合に、前記被検者の予後が良好であることを示すラベルを出力する、
予後予測装置。
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STRAUB, B. K. et al.,Lipid droplet-associated PAT-proteins show frequent and differential expression in neoplastic steatogenesis,MODERN PATHOLOGY,2010年,vol.23,pp.480-492 |
TOLKACH, Y et al.,Adipophilin as prognostic biomarker in clear cell renal cell carcinoma,Oncotarget,2017年,vol.8, No.17,pp.28672-28682 |
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