JP7274951B2 - 靭性に優れた溶接金属及びその製造方法 - Google Patents
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Description
(1)質量%で、
C:0.05~0.08%、
Si:0.50%超かつ0.85%以下、
Mn:1.15~1.40%、
Ca:0.0005%以下、
Al:0.006%以下、
Ti:0.015~0.020%、
B:0.0005%以下、
O:0.0330~0.0450%
を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
溶接金属の組織が、70面積%以上のアシキュラーフェライトを有し、残部が粒界フェライトを含む、
ことを特徴とする靭性に優れた溶接金属。
(2)Tiの含有量を単位質量%でTi、Oの含有量を単位質量%でOと表したとき、Ti/Oが0.33~0.55であることを特徴とする(1)に記載の靭性に優れた溶接金属。
(3)前記溶接金属の0℃におけるシャルピー衝撃試験値が200J以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の靭性に優れた溶接金属。
(4)(1)~(3)のいずれか一項に記載の靭性に優れた溶接金属の製造方法であって、
溶接速度が100cm/min以上であることを特徴とする靭性に優れた溶接金属の製造方法。
溶接金属の成分組成について説明する。なお、以下、成分組成の単位である「質量%」は「%」で表す。
Cは溶接金属中に固溶することで、溶接金属の強度を向上させると同時に、溶接金属の焼き入れ性を向上させる。溶接金属の強度を確保するためにCは0.05%以上含有する必要がある。一方、Cは溶接金属中に存在する場合、炭化物やマルテンサイトが形成しやすくなり、溶接金属の靭性が低下するため好ましくない。また、Cは溶接金属の溶接高温割れを発生しやすくさせるため好ましくない。さらにサワーガスを輸送するパイプラインの溶接金属は通常はビッカース硬度をHv250以下とすることが求められるため、Cが多いと硬度規制を満足できなくなる。したがって、Cの含有量は0.08%以下に抑える必要がある。
Siは脱酸作用を有する元素であり、溶接中に溶接金属中の介在物の個数を減少させることで、溶接金属の靭性を向上させるため好ましい。また、SiとOとの親和性はTiとOとの親和性より低いため、Siはアシキュラーフェライトの核となるTi酸化物の形成を妨げないため好ましい。さらに、Siは溶接金属に固溶することで、溶接金属の強度を向上させると同時に、溶接金属の焼き入れ性を向上させるため好ましい。この効果を得るために、Siは0.50%超含有する必要がある。一方、Siは溶接金属中に固溶することで、マルテンサイトが形成しやすくなり、溶接金属の靭性が低下するため好ましくない。さらにサワーガスを輸送するパイプラインの溶接金属は通常はビッカース硬度をHv250以下とすることが求められるため、Siが多いと硬度規制を満足できなくなる。したがって、Siの含有量は0.85%以下に抑える必要がある。
Mnは溶接金属中に固溶することで、溶接金属の強度を向上させると同時に、溶接金属の焼き入れ性を向上させるため好ましい。この効果を得るために、Mnは1.15%以上含有する必要がある。一方、Mnは溶接金属に固溶することで、マルテンサイトが形成しやすくなり、溶接金属の靭性が低下するため好ましくない。また、Mnは破壊の起点となる粗大な硫化物系介在物を形成し、溶接金属の靭性を低下させるため好ましくない。さらに、Mnはサワーガスに含まれる硫化水素により硫化物応力割れを引き起こすため好ましくない。したがって、Mnの含有量は1.40%以下に抑える必要がある。
Caはサワーガスを輸送する鋼管(ラインパイプ)に添加されている元素であるため、Caは溶接中に母材から溶接金属へ混入する。CaとOとの親和性はTiとOとの親和性よりも高いため、Caはアシキュラーフェライトの生成核となるTi酸化物の形成を阻害することで、溶接金属の靭性を低下させるため好ましくない。したがって、Caの含有量は0.0005%以下に抑える必要がある。
Alは脱酸作用を有する元素である。溶接中に溶接金属中の介在物の個数を減少させるため好ましい。また、AlとOとの親和性はTiとOとの親和性よりも高いため、Alはアシキュラーフェライトの生成核となるTi酸化物の形成を阻害することで、溶接金属の靭性を低下させるため好ましくない。したがって、Alの含有量は0.006%以下に抑える必要がある。
TiはOと反応して、アシキュラーフェライトの核となるTi酸化物を形成し、溶接金属の靭性を向上させるため好ましい。この効果を得るために、Tiは0.015%以上含有する必要がある。一方、Tiが多すぎる場合は、アシキュラーフェライトの核を生成する能力が低下し、溶接金属の靭性を低下させるため好ましくない。したがって、Tiの含有量は0.020%以下に抑える必要がある。
Bは溶接金属中に固溶することで粒界フェライトの形成を抑制する。これにより、アシキュラーフェライトの形成を促進し、溶接金属の靭性を向上させるため好ましい。この効果を得るために、Bは含有しなくてもよいが、0%以上含有してもよく、0.0001%以上含有してもよい。一方、Bは溶接金属に固溶した場合、マルテンサイトが形成しやすくなり、溶接金属の靭性が低下するため好ましくない。したがって、Bの含有量は0.0005%以下に抑える必要がある。
OはTiと反応して、アシキュラーフェライトの核となるTi酸化物を形成し、溶接金属の靭性を向上させるため好ましい。この効果を得るために、Oは0.0330%以上含有する必要がある。一方、Oは酸化物を形成し、溶接金属の靭性が低下するため好ましくない。したがって、Oの含有量は0.0450%以下に抑える必要がある。
本実施形態に係る溶接金属の成分組成は、さらに、Tiの含有量を単位質量%でTi、Oの含有量を単位質量%でOと表したとき、Ti/Oが0.33~0.55であることがなお好ましい。Ti/Oが0.33以上かつTi/Oが0.55以下である場合、Ti酸化物以外の酸化物系介在物が減少し、溶接金属の靭性が向上するためより好ましい。これにより、溶接金属中のアシキュラーフェライト量が増加し、溶接金属の靭性が向上するためより好ましい。
次に、本実施形態に係る靭性に優れた溶接金属の金属組織について説明する。
本発明においてアシキュラーフェライトとは、フェライト組織の内、Ti系酸化物またはアシキュラーフェライト粒界を変態核または起源として旧オーステナイト粒内に析出したフェライト組織で、かつ、有効結晶粒径(結晶粒の形状を円形状と見立てた時の直径)が10μm以下のフェライト組織と定義する。溶接金属中のアシキュラーフェライトの割合が大きいほど、溶接金属の靭性が向上するため好ましい。この効果を得るために、溶接金属中のアシキュラーフェライトの面積率は70面積%以上とする必要がある。
本発明において粒界フェライトとは、旧オーステナイト粒界から析出したフェライト組織である。粒界フェライトは、粗大な組織であるがゆえに、溶接金属中に存在すると靭性を低下させるため好ましくない。そのため、溶接金属中の粒界フェライトは30面積%以下であることが好ましい。
溶接金属の組織の残部は粒界フェライトを含む。溶接金属の組織の残部の内、粒界フェライト以外の組織は、例えば、マルテンサイトやオーステナイトなどが挙げられる。溶接金属中の、粒界フェライトを除いた残部はできるだけ少ないことが好ましい。
次に、本実施形態に係る靭性に優れた溶接金属の溶接方法について説明する。
本発明の実施形態に係る靭性に優れた溶接金属の製造方法は、溶接姿勢が変化する溶接方法により溶接される場合でも溶接欠陥が発生しにくいことが好ましい。溶接欠陥が発生すると溶接金属の靭性が低下し好ましくない。溶接方法として、特に限定されないが、例えば、ガスアークシールド溶接が挙げられる。
母材及び溶接材料の成分組成及び組織は、溶接後の溶接金属の成分組成及び組織が本発明の実施形態に係る靭性に優れた溶接金属の成分組成及び組織の規定を満す限り、特に限定されない。
本実施形態に係る溶接金属の製造方法において、溶接速度は100cm/min以上である。100cm/min以下の場合、溶接能率が低くなり、特に海底パイプラインの建設工事においては工事費用が高くなり好ましくない。溶接速度は100~140cm/minであることがより好ましい。溶接速度は溶接金属中のアシキュラーフェライトの量に影響を及ぼす。溶接速度が100cm/min未満であると、結晶粒径が10μm超のフェライト粒が多くなり、溶接金属中のアシキュラーフェライトが減少する。これにより、溶接金属の靭性が低下するため好ましくない。一方、溶接速度が140cm/min超であると、溶接入熱が低くなりすぎるため、溶け込み不良等の溶接欠陥が発生するため好ましくない。
溶接電流及びアーク電圧は溶接金属中のアシキュラーフェライトの量に影響を及ぼす。 溶接電流及びアーク電圧が過剰に高いと、結晶粒径が10μm超のフェライト粒が多くなり、溶接金属中のアシキュラーフェライトが減少する。また、円周溶接においては溶接金属(溶融池)の垂れなどが発生し溶接することが困難となる。一方、溶接電流及びアーク電圧が過剰に低いと、入熱不足から溶接欠陥が発生するため好ましくない。溶接電流は例えば、270~320Aとしてもよい。アーク電圧は例えば、22.0~27.0Vとしてもよい。
溶接入熱は溶接金属中のアシキュラーフェライトの量に影響を及ぼす。溶接入熱が過剰に高いと、結晶粒径が10μm超のフェライト粒径が多くなり、溶接金属中のアシキュラーフェライトが減少する。その結果、溶接金属の靭性が低下するため好ましくない。また、溶接入熱が過剰に低いと、溶接欠陥が発生するため好ましくない。溶接入熱は例えば、2800~4700J/cmとしてもよい。
開先形状は、溶接金属の量が少なくできる狭開先を用いてもよい。開先形状が狭開先であると溶接金属の冷却速度が大きくなり、溶接金属中のアシキュラーフェライトの量が多くなる。これにより、溶接金属の靭性が向上するためより好ましい。また、開先形状が狭開先であると、溶接姿勢が変化する溶接条件においても、溶接欠陥が少なくなり、溶接金属の靭性が向上するためより好ましい。さらに、開先形状が狭開先であると、溶接速度を大きくしても溶け込み不良による溶接欠陥を防止し、溶接金属の靭性が向上するためより好ましい。開先形状は特に限定されないが、例えば、ベベル角が2~4度、ルートフェースが1.6~2.0mmのU字が開先を用いてもよい。
裏当て金は、溶接時に溶け落ち等の溶接欠陥を防止するため、また溶接中に溶融金属(溶融池)が垂れる落ちることを防止するためにルート部に取り付けられる。裏当て金には特に初層溶接部の冷却速度を向上させる効果もある。裏当て金は特に限定されないが、例えば、銅裏当て金や表面をセラミック溶射した銅裏当て金が挙げられる。
シールドガスは、溶接中に溶融金属と大気とを遮断することで、溶接金属の酸化や窒化を防止する役割がある。シールドガスは特に限定されないが、例えば、ArとCO2の混合ガスを使用することができる。
Claims (4)
- 質量%で、
C:0.05~0.08%、
Si:0.50%超かつ0.85%以下、
Mn:1.15~1.40%、
Ca:0.0005%以下、
Al:0.006%以下、
Ti:0.015~0.020%、
B:0.0005%以下、
O:0.0330~0.0450%
を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
溶接金属の組織が、70面積%以上のアシキュラーフェライトを有し、残部が粒界フェライトを含み、
前記アシキュラーフェライトは、フェライト組織の内、Ti系酸化物またはアシキュラーフェライト粒界を変態核または起源として旧オーステナイト粒内に析出したフェライト組織であり、かつ、結晶粒の形状を円形状と見立てた時の直径である有効結晶粒径が10μm以下のフェライト組織である、
ことを特徴とする靭性に優れた溶接金属。 - Tiの含有量を単位質量%でTi、Oの含有量を単位質量%でOと表したとき、Ti/Oが0.33~0.55であることを特徴とする請求項1に記載の靭性に優れた溶接金属。
- 前記溶接金属の0℃におけるシャルピー衝撃試験値が200J以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の靭性に優れた溶接金属。
- 請求項1~3のいずれか一項に記載の靭性に優れた溶接金属の製造方法であって、
溶接速度が100cm/min以上140cm/min以下であることを特徴とする靭性に優れた溶接金属の製造方法。
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