JP7272551B2 - アンモニアガス耐性細菌とアンモニアガス資化細菌,およびそれらを利用したアンモニア臭脱臭方法 - Google Patents
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Description
しかしながら,その汚水処理過程において,多量のアンモニアが発生してしまうことから,アンモニア臭による現場環境の悪化が懸念されており,アンモニアの除去が課題となっている。
しかしながら,これらの手段は,価格や取扱い,あるいはその効果などの点を考慮すると十分とは言えない。加えて,簡易式野外トイレは,人の管理が及びにくい場所に設置されることも多く,そのため,アンモニア除去手段としては,可能な限り,物品交換が不要などのメンテナンスフリーなものが求められる。
これらの観点から,アンモニア除去手段として他の選択肢を探る必要性が高く,その選択肢の一つとして,細菌などの微生物を利用した生物機能を用いたアンモニア除去技術が開発されている(特許文献1)。
かかる技術をはじめとして,アンモニア酸化細菌,脱窒細菌等微生物を用いて,アンモニア発生を生物機能により抑制する手段は開発されているものの,これらの手段は,制御が困難,かつコスト高であり,必ずしも十分に確立された技術とは言えない。
本発明の第一の構成は,下記に示す細菌のいずれか又は複数を用いて,アンモニアを除去することを特徴とするアンモニア脱臭方法である。
(1) Bacillus lentusに属するアンモニア耐性細菌であって,4-1株(受託番号 NITE P-02485),4-2株(受託番号 NITE P-02486)
(2) Paenibacillus lentus又はBacillus altitudinisに属するアンモニア資化細菌であって,NH3-1株(受託番号 NITE P-02487),NH3-3株(受託番号 NITE P-02488),bac1122株(受託番号 NITE P-02484)
(1) Bacillus lentusに属するアンモニア耐性細菌であって,4-1株(受託番号 NITE P-02485),4-2株(受託番号 NITE P-02486)
(2) Paenibacillus lentus又はBacillus altitudinisに属するアンモニア資化細菌であって,NH3-1株(受託番号 NITE P-02487),NH3-3株(受託番号 NITE P-02488),bac1122株(受託番号 NITE P-02484)
すなわち,本発明により,アンモニア脱臭に有用なアンモニア耐性細菌ならびにアンモニア資化細菌を提供することが可能となり,これらの細菌を単独もしくは組み合わせて用いることにより,アンモニア脱臭を可能とするものである。
すなわち,本発明は,下記に示す細菌のいずれか又は複数を用いて,アンモニアを除去することを特徴とするアンモニア脱臭方法である。
(1) Bacillus lentusに属するアンモニア耐性細菌
(2) Paenibacillus lentus又はBacillus altitudinisに属するアンモニア資化細菌
Bacillus lentusに属するアンモニア耐性細菌として,配列番号1の16SrRNAを保持するBacillus lentus 4-1(受託番号 NITE P-02485)もしくはBacillus lentus 4-2(受託番号 NITE P-02486)が挙げられる。
これにより,本発明で見出された各細菌(4-1株,4-2株)との高い相同性を有することとなり,アンモニア耐性細菌としての性能をより発揮することが期待できる。
すなわち,Bacillus lentusの突然変異や遺伝子導入を行い形質転換して作製するなどである。また,実験例1に示す手法により,自然界から得られる試料を用いて取得することも可能である。
このようなPaenibacillus lentusに属するアンモニア資化細菌として,配列番号4の16SrRNAを保持するPaenibacillus lentus NH3-1(受託番号 NITE P-02487)もしくはPaenibacillus lentus NH3-3(受託番号 NITE P-02488)が挙げられる。
また,Bacillus altitudinisに属するアンモニア資化細菌として,配列番号5の16SrRNAを保持するBacillus altitudinis 1122(受託番号 NITE P-02484)が挙げられる。
これにより,本発明で見出された各細菌(NH3-1株,NH3-3株,bac1122株)との高い相同性を有することとなり,アンモニア資化細菌として性能をより発揮することが期待できる。
すなわち,Paenibacillus lentusないしBacillus altitudinisの突然変異や遺伝子導入を行い形質転換して作製するなどである。また,実験例2や実験例4に示す手法により,自然界から得られる試料を用いて取得することも可能である。
本発明におけるアンモニア脱臭方法では,かかる細菌を用いてアンモニア除去を行う限り特に限定する必要はなく,様々な使用用途ないし使用方法を採用することができる。
アンモニアガスは,刺激臭を有するとともに,毒性を示す。そのため,一般的には,アンモニアがある濃度以上になると,生物は生育できないか,死滅してしまうものと考えられるが,アンモニアガスの細菌の生育における毒性は十分には分かっていない。
そこで本実験では,細菌のアンモニアガス耐性度を,代表的な菌を用いて調べた。さらにそれらの結果を基にして,高濃度のアンモニアガスに耐性を有する細菌の分離を試みた。アンモニアガス耐性細菌はアンモニアガスの吸着/吸収にも優れると予想できる。
1.培地
LB寒天培地(DIFCO)を定法にしたがって蒸留水に懸濁させ,オートクレーブ滅菌の後,直径9cmのペトリディッシュに固化させ使用した。
2.細菌のアンモニアガス耐性度評価
(1) Escherichia coli K-12, Bacillus subtilis str.168, Enterococcus durans, Pseudomonas sp.をそれぞれLB寒天培地に植えつけた。
(2) 0.5,1.0,2.0,3.0%,それぞれの濃度のアンモニア水5mLを,20mL容ポリスチレン製容器(以下,「アンモニア水入り容器」という)に入れた。
(3) ふたをあけた状態のLB寒天培地2枚とアンモニア水入り容器を,容積4.3Lの密閉製の高いプラスチック製チャンバー(以下,「4.3L密閉性プラスチックチャンバー」)に入れ,35℃にて1日保温した。なお,実験イメージについて,図1に示す。
3.アンモニア濃度測定
アンモニアガス検知管(ガスセンサーXP-3160,新コスモス電気株式会社)を使用して測定した。
(1) 土壌1gに,滅菌水30mLを加えて十分に撹拌し,しばらく静置し,この上澄み50μLを,直径9cmのペトリディッシュに固化させたLB寒天培地に塗布した。
(2) ふたをあけた状態のLB寒天培地2枚,ならびに2.0または3.0%のアンモニア水が入ったアンモニア水入り容器,これらをともに,4.3L密閉性プラスチックチャンバーに入れ,35℃にて1日から7日保温した。
5.アンモニアガス耐性細菌の同定
(1) アンモニア耐性細菌の分離において,生存したコロニーをアンモニアガス耐性細菌として採取し,LB寒天培地で35℃にて24時間培養し,全DNAを抽出した。
(2) 全DNAを基にPCRにて16SrRNA遺伝子を増幅し,塩基配列を決定した。
(1) pH5-11に調整されたLB液体培地に単離細菌を植え,35℃で24時間震盪させた後,A660の値を測定し,培養液の濁度とした。
(2) なお,pH5および6のLB液体培地は1%乳酸にて,pH8,9,10のLB液体培地は1%炭酸ナトリウム溶液にて,pH11のLB液体培地は水酸化ナトリウム溶液にて,それぞれpH調整を行った。
7.細菌のアンモニア水中での生育
(1) Escherichia coli K-12, Bacillus subtilis str.168, Enterococcus duransおよびアンモニアガス耐性細菌2株を,アンモニア濃度が0-0.5%となるよう調整されたLB液体培地にそれぞれ植えつけ,35℃にて48-50時間震盪培養した。
(2) それぞれの細菌の生育度を,A660の値を測定することにより濁度として比較した。
1.細菌のアンモニアガス耐性度評価
(1) 4.3L密閉性プラスチックチャンバーに0.5, 1.0, 2.0, 3.0%のアンモニア水を5mL入れ,35℃で保温したところ,24時間後チャンバー中のアンモニアガス濃度はそれぞれ360, 700, 1200, 4000 ppmに達した。
(2) 図2に示すように,Escherichia coli K-12, Bacillus subtilis str.168, Enterococcus duransは,アンモニアガス濃度360ppm中で生育するが,700ppmではまったく生育しなかった。これらの細菌の生育限界は,アンモニアガス濃度が400から700ppmの間にあると思われる。
(1) 土壌上澄み液を用いた培地より,アンモニアガス濃度1200ppm中で生育可能な細菌2株(4-1,4-2株)を分離することができた(図2)。
(2) これらの細菌は,培養時間を7日にすれば,4000ppmアンモニアガス中でも生育が認められた。
(1) 4-1,4-2株はコロニーの形状は異なるが,16SrRNA 遺伝子の塩基配列(1477 pb)は,完全に同一であった(配列番号1)。
(2) 国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA (EMBL)/GenBank)に対する相同性検索を行った結果,Bacillus lentus NCIMB 8773Tともっとも近縁であることが分かった。また,その相同率は98.1%であった。
(3) これらの結果より,アンモニアガス耐性細菌をBacillus lentus 4-1(実施例1), Bacillus lentus 4-2(実施例2)と命名した。
(1) 図3に,各実施例においてそれぞれのpHにおける生育状況の変化を示す。
(2) 実施例1(4-1株),実施例2(4-2株)ともに,生育最適pHは9であった。これより,実施例はともに,好アルカリ性細菌であることが分かった。
(3) 一方,pH10以上ならびにpH6以下では,いずれの実施例においても,生育が完全に阻害された。
(4) アンモニアガスは水に溶けやすく,溶液をアルカリ性に導く。これより,pH10以上ならびにpH6以下で,いずれの実施例も生育が完全に阻害される原因は,pHによる影響と考えられ,分離した実施例が,アンモニウムガスに対して耐性を有するものと考えられた。
(1) 図4に,実施例と比較例における,0.3%(v/v)アンモニアを含むLB液体培地中での生育状況の変化を示す。
(2) いずれの実施例とも,0.3%(v/v)アンモニアを含むLB液体培地中で生育が可能であり,生育速度も,ほぼ同様であった。
(3) 一方,比較例においては,比較例1(Escherichia coli K-12),比較例2(Bacillus subtilis str.168),比較例3(Enterococcus durans),これらいずれの比較例も,同条件で生育はできなかった。
(4) なお,このときの培地のpHは9.84であった。
(5) これらの結果から,実施例の菌は,他の細菌に比較して,強いアンモニア耐性があり,アンモニアを含む環境下でも生育が可能であることが分かった。
(7) 実施例1(4-1株)は,0.1から0.5%までのいずれのアンモニア濃度を含むLB液体培地においても増殖を示した(図5)。
(8) 一方,実施例2(4-2株)は,0.1から0.4%までのアンモニア濃度においては増殖が確認されたが,0.5%においては増殖が見られなかった(図6)。
(9) また,いずれの実施例においても,アンモニアを含まない培地よりも,0.1%もしくは0.2%のアンモニアを含む培地のほうが,優れた増殖を示した。
(10) なお,各アンモニア濃度(%)におけるLB培地の培養前のpHは,それぞれ,0%(pH7.0),0.1%(pH9.1),0.2%(pH9.6),0.3%(pH9.8),0.4%(pH10.0),0.5%(pH10.1)であった。
本実験では,アンモニアガスを利用(資化)する細菌の単離を試みた。アンモニアガス耐性細菌と同様にアンモニアガス資化細菌はアンモニアガスの吸着/吸収にも優れると期待される。
1.培地
(1) 寒天を含む蒸留水をオートクレーブ滅菌し,この寒天溶液に,フィルター滅菌したYeast Nitrogen Base w/o amino acids and (NH4)2SO4 (DIFCO)溶液,グルコース溶液,これらをそれぞれ6.7g/L, 5g/Lになるように添加し,直径9cmのペトリディッシュに固化させ使用した。なお,寒天の最終濃度は1.5%とした
(2) この培地は窒素源を含まない培地であり,以後この培地をYNBG寒天培地と呼ぶ。
(3) Yeast Nitrogen Base w/o amino acids and (NH4)2SO4(DIFCO)1.7gを1Lの蒸留水に溶かした場合,成分の詳細は以下のようになる。
[Vitamins]
Biotin 7.88 μg,Calcium Pantothenate 1576 μg,Folic Acid 7.88 μg,Inositol 7882 μg,Niacin 1576 μg,p-Aminobenzoic Acid 788 μg,Pyridoxine Hydrochloride 1576 μg,Riboflavin 788 μg,Thiamin Hydrochloride 1576 μg
[Compounds Supplying Trace Elements]
Boric Acid 1971 μg,Copper Sulfate 158 μg,Potassium Iodide 394 μg,Ferric Chloride 788 μg,Manganese Sulfate 1576 μg,Sodium Molybdate 788 μg,Zinc Sulfate 1576μg
[Salts]
Monopotassium Phosphate 3.94 g,Magnesium Sulfate 1.97 g,Sodium Chloride 0.39 g,Calcium Chloride 0.39 g
(1) 土壌1gに滅菌水を30mL加えて十分に撹拌した後しばらく静置し,その上澄み50μLをYNBG寒天培地に塗布した。
(2) 蓋をあけた状態のYNBG寒天培地2枚,ならびにアンモニア水入り容器(2.0%,2.5mL),これらをともに,4.3L密閉性プラスチックチャンバーに入れ,35℃にて6-12日保温した。
3. アンモニアガス資化細菌の同定
(1) アンモニア資化細菌の分離にて,生存したコロニーをアンモニア資化細菌とし,これをSCD寒天培地(ニッスイ)で35℃にて24時間培養し,生育したコロニーから全DNAを抽出した。
(2) 全DNAを基にPCRにて16SrRNA遺伝子を増幅し,塩基配列を決定した。増幅プライマーは下記を用いた。
27f(配列番号2): 5’-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3’
1492r(配列番号3): 5’-GGCTACCTTGTTACGACTT-3’
(1) pH5-11に調整されたSC液体培地 (Soyton 5g/L, Caseindigest 15g/L, NaCl 5g/L)に単離細菌を植え,35℃で24時間震盪させた。その後,液体培地におけるA660の値を測定し,培養液の濁度とした。なお,SoytonおよびCaseindigestはDIFCO社から購入した。
(2) SC液体培地は,pH5および6は1%乳酸にて,pH8,9,10は1%炭酸ナトリウム溶液にて,pH11は水酸化ナトリウム溶液にて,それぞれpH調整を行った。
5.単離細菌のアンモニアガス中における生育測定
(1) 単離細菌をSC液体培地にて,35℃,24時間震盪培養した。
(2) 単離細菌の培養液10μLをYNBG寒天培地表面の5カ所に滴下し,蓋を開けたYNBG寒天培地,ならびにアンモニア水入り容器(2.0%,2.5mL),これらをともに,4.3L密閉性プラスチックチャンバーに入れ,35℃にて保温した。
(3) 1-13日後,YNBG培地上に生育した単離細菌のコロニーを滅菌水と遠心にて回収し,100℃にて24時間乾燥後,(乾燥)重量を測定した。
(1) YNBG培地を基本とし,これに硫酸アンモニウム,硝酸カリウム,グリシン,アラニンをそれぞれ0.8g/Lになるように添加した。
(2) それぞれの培地に単離菌を植え,35℃にて8日大気中で保温した。また,YNBG寒天培地に単離菌をそれぞれ植え,蓋を開けたYNBG寒天培地,ならびにアンモニア水入り容器(2.0%,2.5mL),これらをともに,4.3L密閉性プラスチックチャンバーに入れ,
35℃にて8日間保温した。
7.単離細菌のエネルギー源としてのアンモニアガスの利用
各実験条件のYNB寒天培地に単離細菌をそれぞれ植え,蓋をあけた状態のYNB寒天培地2枚,ならびにアンモニア水入り容器(2.0%,2.5mL),これらをともに,4.3L密閉性プラスチックチャンバーに入れ,35℃にて6日間保温した。
1.アンモニア資化細菌の分離
(1) アンモニア水入り容器(2.0%,2.5mL)を入れた状態で,4.3L密閉性プラスチックチャンバーを35℃にて保温すると,チャンバー内のアンモニアガス濃度は常時2400ppmであった。
(2) このような条件にて生育可能な細菌2株(NH3-1,NH3-3)を分離することができた。これらは,これまでに知られていないアンモニアガスを窒素源として利用する細菌であると考えられた。
(1) 実施例3(NH3-1),実施例4(NH3-3),これらはコロニーの形状は異なるが,16S rRNA 遺伝子の塩基配列(1477 pb)はまったく同一であった(配列番号4)。
(2) 国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA (EMBL)/GenBank)に対する相同性検索を行った結果,Paenibacillus lentus CMG 1240Tともっとも近縁であることが分かった。また,その相同率は97.8%であった。
(3) これらの結果より,アンモニアガス耐性細菌をそれぞれ,Paenibacillus lentus NH3-1, NH3-3と命名した。
(1) アンモニア水入り容器(2.0%,2.5mL)を入れた状態で,4.3L密閉性プラスチックチャンバーを35℃にて24時間保温すると,チャンバー内のアンモニアガス濃度は常時2400ppmであった。
(2) 図7に,各実施例における生育状況の変化を示す。
(3) アンモニア存在下(2400ppm),実施例3(3-1)は6日まで増殖し続けた後,定常期に至った。また,13日の培養で,細胞重量は8.1mg(乾燥重量)であった。
(4) アンモニア存在下(2400ppm),実施例4(3-3)は11日まで増殖し続けた後,定常期に至った。また,13日の培養で,細胞重量は5.6mg(乾燥重量)であった。
(5) これらの結果から,アンモニア存在下において,実施例3のほうが,実施例4よりも増殖速度は早く,細胞量も多いことが分かった。
(6) また,いずれの実施例も,アンモニアガス存在下で増殖していた一方,アンモニアのない状態では,増殖が見られなかった。従って,これらの細菌は,アンモニアガス資化細菌で,アンモニアガスを窒素源として利用していると考えられた。
(8) チャンバー内のアンモニアガスは2.68mmolとなり,YNBG培地のみの場合,ほとんど変化がなかった(図8,コントロール)。
(9) 一方,各実施例における培養下においては,細菌の生育に伴って,アンモニアガス量は減少し,10日後にはそれぞれ1.25mmol(実施例3),0.35mmol(実施例4)となった。
(10) これらの結果から,各実施例の細菌は,アンモニアを利用(資化)していることが分かった。また,実施例4(3-3)は実施例3(3-1)より生育は弱いが,アンモニアガスの利用率は高いことが分かった。
(1) 図9ならびに図10に,それぞれの実施例における各pHでの増殖状況の変化を示す。
(2) 実施例3(3-1株)は,pH6-7で最も高い増殖を示した(図9)。同様に,実施例4(3-3株)も,pH6-7で最も高い増殖を示した(図10)。
(3) また,いずれの実施例においても,pH6-7ほどではないものの,pH9において増殖ピークが見られた。
(4) 加えて,pH10以上,ならびにpH5以下においては,両実施例ともに,増殖は完全に阻害された。
(5) これらの結果から,いずれの実施例も,pH9で生存は可能であるものの,pH6-7で最も高い増殖を示すことから,好アルカリ細菌ではないことが分かった。
(1) 結果を表1に示す。
(2) いずれの実施例も,アンモニアガス以外の窒素源では,増殖が確認されず,生育が不可能と考えられた。これより,いずれの実施例も,窒素源として利用できるのはアンモニアガスのみであり,硫酸アンモニウム,硝酸カリウム,グリシン,アラニンを窒素源として利用できないといえる。
(3) なお,SC栄養培地(Soyton 5 g/L, Caseindigest 15 g/L, NaCl 5g/L)中において,いずれの実施例も生育することから,アンモニアガスのみを窒素源とするわけではないことが分かった。
(4) これらの結果より,両実施例にかかる菌は,窒素源としての利用がアンモニアに限定されるわけではないものの,アンモニアを好んで資化することから,アンモニア臭の脱臭に応用できることが分かった。
(1) 結果を表2に示す。
(2) いずれの実施例も,グルコースを含まない培地上で生育が認められた。したがって両株ともアンモニアガスを直接取込み,アンモニア酸化(硝化)によってエネルギーを得ていると予想される。
(3) なお,両実施例は,グルコースが存在すると生育はよいので,これらの株は従属栄養的にも,独立栄養的にも生育可能で,アンモニアガスを利用する,これまでに知られていない新規細菌であるといえる。
実験例1ならびに実験例2で単離された各細菌について,これらの細菌の湿重量あたりのアンモニアガス吸収/吸着能力を調べた。
1.細菌の培養と細胞の回収
(1) 実施例1(4-1株)ならびに実施例2(4-2株)は,LB平板培地に植え付け,35℃にて48時間培養した。
(2) 実施例3(NH3-1株)ならびに実施例4(NH3-3株)は,SCD(日水製薬)平板培地に植え付け,35℃にて72時間培養した。
(3) これらの細菌が生育した平板培地に,滅菌蒸留水1mLを直接滴下し,ストリークバーを用いて細胞懸濁液とした。
(4) 細胞懸濁液を遠心チューブにいれ,遠心により細胞を沈殿させ,上澄み液を除去後,遠心チューブの重量を測定した。また,遠心前のチューブの重量との差から,細菌の湿重量を求めた。
(1) それぞれ回収した菌体(100mg)を,滅菌蒸留水1.0mLに懸濁させた。
(2) 4.3L密閉性プラスチックチャンバー内に,アンモニア水入り容器(2.0%,100μL),ならびにそれぞれの細胞懸濁液1.0mLを置き,密閉して35℃にて,72時間保温した。
(3) チャンバー内のアンモニアガス濃度については,ガスセンサーXP-3160(新コスモス電気株式会社)にて20℃で測定し,アンモニアガス濃度の減少から,菌体湿重量あたりの,アンモニア吸収/吸着を算出した。アンモニアガスの物質量は,ボイル=シャルルの理想気体の状態方程式(PV=nRT)により算出した。
1.チャンバー内に置いた2%アンモニア水100μLは完全に気化しており,滅菌蒸留水1mLを置いた時のアンモニアガス濃度は195ppmであった。
2.各実施例におけるアンモニア濃度測定結果ならびにこれより算出したアンモニアガス吸収/吸着量を示した結果を,表3に示す。
(1) 4株の内,もっともアンモニア吸収/吸着能力が高いのは,実施例4で0.176 mmol/g wet weightであった。
(2) また,実施例3等の細菌種(P. lentus)は,実施例1等の細菌種(B. lentus)よりも,アンモニア吸収/吸着能力が高い傾向にあると考えられた。
実験例2と同様の検討を行い,新たなアンモニア耐性細菌の単離を試み,得られた細菌について評価を行うことを目的に検討を行った。
1.実験例2に準じて単離を試み,新たなコロニーを得た。
2.得られたコロニーについて,SCD寒天培地で35℃にて24時間培養し,生育したコロニーから全DNAを抽出した。
3.全DNAを基にPCRにて16SrRNA遺伝子を増幅し,塩基配列を決定した。使用した増幅プライマーは,下記のとおりである。
27f(配列番号2): 5’-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3’
1492r(配列番号3): 5’-GGCTACCTTGTTACGACTT-3’
4.pH3-11に調整されたSC液体培地にSC液体培地にて前培養した単離細菌を植え,35℃で24時間震盪させた。その後培養液の濁度をA660の値として求めた。
5.pH3および4,pH5および6のSC液体培地は,それぞれ5%,1%乳酸を含むSC液体培地にて,pH8,9,10のSC液体培地は1%炭酸ナトリウム溶液にて,pH11のSC液体培地は水酸化ナトリウム溶液にて,それぞれpHの調整を行った。
1.単離した新たなコロニーについて,16SrRNA遺伝子を増幅し,1474 bpの塩基配列を決定した(配列番号5)。
2.テクノスルガ・ラボのデータベース(DB-BA12.0)および国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA (EMBL)/GenBank)を用いて相同性検索を行った結果,Bacillus altitudinis 41KF2bともっとも近縁であり,相同率は100%であった。
3.これらの結果より,得られたコロニーについて,Bacillus altitudinis 1122と命名した(以下では,「bac1122」もしくは単に「1122株」として表記する)。
(1) 結果を図11に示す。
(2) bac1122は,pH5-9の範囲内で生育し,生育最適pHはpH7であった。このことから,bac1122は好アルカリ性細菌ではないと判断された。
(2) bac1122について,これまで分離した実施例1から4の各株はpH5ではまったく生育できなかったので,これらの細菌に比べると,bac1122は酸に対して耐性があると考えられた。
各実施例の細菌をそれぞれ木材粉末に固定し,バイオトイレ試作機に沿った条件でアンモニア臭脱臭能力を調べた。
1.微生物の培養
(1) 実施例1(4-1株)ならびに実施例2(4-2株)は,LB液体培地にて35℃,24時間震盪培養した。
(2) 実施例3(NH3-1株),実施例4(NH3-3株),実施例5(bac1122)は,SC液体培地(Soyton 5 g/L, Caseindigest 15 g/L, NaCl 5g/L)にて35℃,48時間震盪培養した。
(3) 細胞濃度は,大腸菌の濁度からの換算式(OD550=1のとき2x108/ml)をあてはめて算出した。
(1) それぞれの細菌の培養液から遠心により細胞を集め,培養液の1/2量の滅菌水に懸濁させた。
(2) 木材粉末の重量1に対し,細胞懸濁液重量2の割合で混合し,微生物脱臭剤として使用した。木材粉末としてはホーラ材を使用した。
(1) 尿素および塩化ナトリウムを,それぞれ2%(w/v),0.9%(w/v)を含む溶液を作製し,人工尿として使用した。
(2) 図12に示す一連の実験装置を作製し,ブロワーポンプ(1.7L/min)にて送風しながら,人工尿500mLを常圧煮沸した。
(3) 氷冷トラップ2個を介して,微生物脱臭剤60gを充填したガラスカラムに連結し,人工尿が乾固するまでの間,一定時間ごとガラスカラムから排出されるガスをガスバッグに採集した。
(4) ガスバッグ中のアンモニアガス濃度をガスセンサーXP-3160(新コスモス電気株式会社)にて測定した。また,乾固するまでのアンモニアガス濃度の平均値をとり,排出されたアンモニアガス濃度とした。
1.表4に結果を示す。なお,細胞液の濁度は,550nmの光学強度として測定を行い,推定細胞濃度については,OD550=1.0のとき,2x108/mLとして算出を行った。また,推定細胞数(脱臭剤中細胞数)については,調製した微生物脱臭剤60g中に微生物濃縮液が40mL含まれることを基に算出を行った。
(1) 人工尿を煮沸すると,130分で乾固し,その間排出されるアンモニアガス濃度は次第に上昇し,乾固付近では700ppm以上となった(比較例4)。この値は,屋外トイレを試作した場合においても,類似の結果になるのではないかと期待される。
(2) 細菌を何も吸着させてない木材粉末のみの場合でもアンモニア抑制効果はあり,乾固付近のアンモニア濃度を392ppmに抑制した(比較例5)。
(3) 全ての実施例において,90分間までアンモニア濃度は低い値を示しており,その後,アンモニア濃度は上昇に転じた。これより,全ての実施例における微生物脱臭剤は,90分まではアンモニア排気を抑制していた。
(4) また,各実施例において,乾固付近(130分後)のアンモニア濃度はそれぞれ288ppm(実施例1),380ppm(実施例2),283ppm(実施例3),402ppm(実施例4),91.5ppm(実施例5)であった。これより,実施例5の脱臭剤が,アンモニアをもっとも抑制したといえる。
(1) 脱臭剤のない場合は496ppm(比較例4),木材粉末のみの脱臭剤を挟むと156ppmに抑制した(比較例5)。
(2) 各実施例における細菌を固定した微生物脱臭剤を挟むと,それぞれ99ppm(実施例1),100 ppm(実施例2),75 ppm(実施例3),110 ppm(実施例4),52.2ppm(実施例5)であった。これらを木材粉末と比較すると,いずれもp<0.05であり,有意にアンモニアを抑制していた。
(3) これらの結果から,実施例5(bac1122)を固定した脱臭剤が,最もアンモニア臭を抑制したといえる。
(4) また,比較例3の値より人工尿500mLを煮沸したとき,排出されるアンモニアガスは平均496ppmであり,これより,常圧,25℃にてアンモニアの物質量を求めると4.52mmolとなる。
(5) アンモニア物質量を基に実施例における各細胞1010個あたりのアンモニア吸着量を求めると,それぞれ2.01mmol(実施例1),1.50 mmol(実施例2),3.84 mmol(実施例3),3.20mmol(実施例4),1.76mmol(実施例5)と算出され,実施例3が最も高い単位株あたりのアンモニア吸収/吸着能力を示した。
4.なお,トラップ中に捕獲された液体のpHは10.7であった。
実験例4で作製を行った微生物脱臭剤について,繰り返しの使用が可能かどうかを検討するために本実験を行った。
実験例4に準じて,各実施例を吸着させた微生物脱臭剤の作製,ならびにアンモニア脱臭試験を行った。なお,微生物脱臭剤は,それぞれ3回,繰り返して使用を行った。
1.各脱臭剤について,3回繰り返して使用した結果を,図15に示す。
(1) いずれの実施例においても,1回目は,アンモニア抑制効果が確認された。
(2) しかるに,使用2回目にアンモニア抑制効果が確認されたのは,実施例1(4-1株)のみであり,実施例1についても,3回目には,抑制効果が見られなかった。
2.本実験系で脱臭効果が持続しないのは,空気洗浄により脱臭剤の乾燥が激しく,生物活性が減衰したためと考えられた。
(1) 実施例3ならびに実施例4については,2回目の使用後,空気洗浄を行ったうえで水分含量を整えて使用したものであり,これにより,3回目以降における脱臭効果が回復していることが確認された。
(2) また,実施例5(bac1122)においては,各回における使用後,同操作を行って使用したものであるが,いずれにおいても十分な脱臭効果を示すことが確認された。
4.これらの結果から,乾燥した脱臭剤の水分含量を整えれば,脱臭能力を回復・維持することが可能なことが分かった。
本実験では,ブロワーポンプで空気を送りながら(1.7L/min)人工尿500mlを煮沸し,アンモニアガスを発生させている。脱臭剤の評価は,人工尿が乾固する120-150分の間に発生する排気ガス中のアンモニア濃度減少量を比較することにより行っている。
ここでは空気流量により発生するアンモニアガス濃度や量が変化するか調べた。
実験例4に準じて,アンモニア抑制試験を行った。なお,空気流量については,0.29から4.61(L/min)の範囲に調整して検討を行った。
1.結果を図17に示す。
(1) 人工尿500mLから発生したアンモニアガス量は,空気流量1.71,4.16L/minのときそれぞれ4.5,8.4mmolであり,風量に比例して増えることがわかった。
(2) 一方,排気ガス中のアンモニア濃度は大きな変化はなく安定しているが,流量が大きくなるとアンモニア臭は低くなる傾向がある。
(3) 風量を大きくすればアンモニアガスは希釈されて,臭気は低くなるが,排出されるアンモニアガスの全体量は増加する。
2.これらの結果から,風量と脱臭剤のアンモニア処理能力を考慮して設計すれば,より効果的な脱臭を達成できると思われる。
バイオトイレの新たな方法として,尿溜槽に直接ホーラ剤を投入しておき,60℃にて随時加温しながら水分を蒸散させるという方法がある。そこでホーラ剤と人工尿を混ぜ合わせ,50℃にて排出されるアンモニアの濃度と,微生物脱臭剤のアンモニア脱臭効果について調べた。
1.実験イメージについて,図18に示す。
(1) 人工尿200mL,ホーラ剤100gを十分に混ぜ合わせ4.3Lの密閉チャンバーに投入し,50℃に保った。
(2) プロワーポンプにて1.7L/minの空気をチャンバー内に送風し,そこから排出されたガスを脱臭剤に通過させてガスバッグに捕集した。
(3) 24,48時間送風後のアンモニアガス濃度をセンサーを用いて測定した。
2.なお,脱臭剤作製については,各実施例の細菌を用い,細菌の培養ならびに脱臭剤作製については,前述までの実験例と同様の手法で行った。
1.結果を図19に示す。
(1) 水とホーラ剤の混合物のみでも50℃に保温すると24-48時間にわたり27ppmのアンモニアが排出された。これは従来の堆肥化と同様の現象ではないかと思われる。
(2) また,尿素液(人工尿)とホーラ剤を混合し50℃に保温すると,常時131ppm程度のアンモニアが排出された。
(3) 一方,排出ガスを微生物脱臭剤に通すと,アンモニアを減少させることが可能でり,それぞれ,24時間と48時間後の平均値において,15ppm(実施例1),30ppm(実施例2),18ppm(実施例3),11ppm(実施例4),22ppm(実施例5)であった。
2.これより,本条件においては,実施例4を用いて作成した脱臭剤がもっとも多くのアンモニアガスを除去したといえる。
これまでの実験例で単離した実施例1と2,実施例3と4,これらはそれぞれ16SrRNAの塩基配列が同一であることから,近縁であると考えられる。これまでいずれの実施例においても,単離した際の温度が35℃であったので,各実験例における培養温度は継続して35℃とした。
本実験では,各実施例における本来の生育最適温度と熱耐性を調べることを目的に検討を行った。
1.実施例1(4-1株),実施例2(4-2株)はLB平板培地に植え付け,各温度(35-60℃)にて3日間培養した。
2.実施例3(NH3-1株),実施例4(NH3-3株)および実施例5(bac1122)はSCD平板培地に植え付け,各温度(35-60℃)にて3日間培養した。
3.これら実施例について,培養後の生育の有無および生育度合いを比較した。
1.結果を表5に示す。
(1) 実施例1ならびに実施例2は,45℃になると生育が止まっていた。
(2) 一方,実施例3ならびに実施例4は,45℃まで生育可能であった。
(3) また,実施例5は,50℃まで生育可能であり,単離した細胞の中では最も強い熱耐性が高かった。
(4) これらの結果から,単離したいずれの細菌も,生育最適温度は40℃付近ではないかと思われた。
2.脱臭剤として使用する温度環境としては,Bacillus lentusは40℃まで,Paenibacillus lentusは45℃まで,Bacillus altidudinisは50℃までが適しているのではないかと思われる。
Claims (2)
- 下記に示す細菌のいずれか又は複数を用いて,アンモニアを除去することを特徴とするアンモニア脱臭方法。
(1) Bacillus lentusに属するアンモニア耐性細菌であって,4-1株(受託番号 NITE P-02485),4-2株(受託番号 NITE P-02486)
(2) Paenibacillus lentus又はBacillus altitudinisに属するアンモニア資化細菌であって,NH3-1株(受託番号 NITE P-02487),NH3-3株(受託番号 NITE P-02488),bac1122株(受託番号 NITE P-02484)
- 請求項1に記載のアンモニア脱臭方法に用いられる下記に示す細菌。
(1) Bacillus lentusに属するアンモニア耐性細菌であって,4-1株(受託番号 NITE P-02485),4-2株(受託番号 NITE P-02486)
(2) Paenibacillus lentus又はBacillus altitudinisに属するアンモニア資化細菌であって,NH3-1株(受託番号 NITE P-02487),NH3-3株(受託番号 NITE P-02488),bac1122株(受託番号 NITE P-02484)
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