JP7269191B2 - スポット溶接方法 - Google Patents

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Description

本発明は、アルミニウム合金(「Al合金」ともいう。)からなる部材のスポット溶接方法等に関する。
車体等は、複数の板材(被接合材)をスポット溶接して製造される。スポット溶接は、抵抗溶接の一種であり、被接合材の表面に圧接した電極から、大電流を短時間通電してなされる。この通電により積層や突合等した被接合材の内側に溶融部が形成され、溶融部は被接合部に接した電極により冷却されて凝固して溶接部となる。こうしてできたスポット状の溶接部(いわゆるナゲット)により、被接合材は接合されて溶接物となる。
ところで最近は、低導電率および低熱伝導率な鋼材のみならず、高導電率で高熱伝導率なAl合金材もスポット溶接されるようになってきた。これに関連する記載が、例えば、下記の特許文献にある。
特開2004-98107号公報
特許文献1は、Al合金材(被接合材)のスポット溶接に係る加圧力と電流値のタイミングチャートを提案している。具体的にいうと、溶接本通電の終了間際に、加圧力を増大させると共に、溶接本通電後に電流値を低下させた後熱電流通電を行っている(図1)。また、その後熱電流通電を、時間に関して電流値を単調減少させるダウンスロープとすることも提案している([0014]、図3(d))。さらに、そのダウンスロープ状の後熱電流通電を途中で停止(ゼロに急減)させるタイミングチャートも提案している([0020]、図2、図3(e))。
特許文献1のように、電流値を一定にした後熱電流通電や、本通電の電流値がゼロになるまで漸減させる後熱電流通電を行うと、被接合部の冷却が緩やかになる。これにより被接合部の凝固割れが抑制され得る。しかし、その分、被接合材(Al合金)と電極(銅合金)が高温で接触している時間(「高温接触時間」という。)が長くなる。その結果、Al合金と銅合金の共晶反応により、被接合材と電極の間で、溶着(凝着)が生じ易くなる。
これに対して、後熱電流通電をダウンスロープの途中で停止させると、被接合材と電極の高温接触時間は短くなる。この場合、一見すると、被接合部の凝固割れの抑制と合わせて、被接合材と電極の溶着が回避されるように思われる。
しかし、本発明者が特許文献1の[0029]に記載されているアルミニウム合金(JIS A5182-0)と同様なAl-Mg系合金(A5083)を用いて、特許文献1の図3(e)に示されているようなタイミングチャート(溶接本通電と後熱電流通電)でスポット溶接を行うと、溶接割れ(特に凝固割れ)が生じることがわかった。
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、従来と異なるAl合金部材のスポット溶接方法等を提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定の成分組成を有するAl合金からなる被接合材の場合、本通電後に所定の冷却過程を行うことで、溶接割れと溶着を回避できることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成させるに至った。
《スポット溶接方法》
(1)本発明は、アルミニウム合金部材に圧接した電極へ通電して該アルミニウム合金部材の被接合部を抵抗加熱して溶融させる加熱工程と、該アルミニウム合金部材に該電極を圧接させた状態で、該加熱工程後の該被接合部を冷却する冷却工程と、を備えるスポット溶接方法であって、該アルミニウム合金部材は、全体を100質量%(単に「%」という。)として、Mg:0.2~1.2%、Si:0.4~1.5%およびCu:1.1%以下、またはSi:7~11%およびMg:0.1~0.4%であるアルミニウム合金からなり、該冷却工程は、該加熱工程よりも該被接合部への投入電力量を低減してなされる第1冷却過程と、該第1冷却過程後に該第1冷却過程よりも大きな冷却速度でなされる第2冷却過程とを有するスポット溶接方法である。
(2)本発明のスポット溶接方法(単に「溶接方法」ともいう。)では、少なくとも第1冷却過程と第2冷却過程を備える冷却工程を行う。第1冷却過程は、加熱工程(いわゆる本通電)よりも投入電力量を低減してなされる。このとき、加熱工程でできた溶融部は徐冷され、その凝固収縮により生じる凝固割れが抑止される。
第2冷却過程は、その第1冷却過程よりも大きな冷却速度で急冷される。これにより、被接合部と電極の高温接触時間が短縮され、両者間における溶着が抑止される。また、溶融部が凝固してできる溶接部も急冷され、その金属組織の粗大化も抑止される。勿論、第2冷却過程の急冷により冷却工程に要する時間も短縮され、各スポットにおける溶接時間の短縮、ひいては溶接物の生産性も向上し得る。
《その他》
(1)本明細書では、スポット溶接されるアルミニウム合金部材(Al合金部材)を、適宜、被接合材またはワークという。被接合材中で、スポット溶接に係わる部分を被接合部という。被接合部は、溶接部となる部分には限らない。溶融部は、加熱工程(抵抗加熱)により形成される溶融池である。溶融部が冷却凝固した凝固部が溶接部(ナゲット)となる。なお、通常、溶接部の外周側にはコロナボンド(固相接合部)が形成され、さらにその外周側には接合に関与しない熱影響部が形成される。
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、特に断らない限り、本明細書でいう「x~yMPa」はxMPa~yMPaを意味する。他の単位系についても同様である。
加熱工程と冷却工程のタイムチャート例である。 Al合金のBTR線図の一例である。 各種Al合金のBTR線図である。 スポット溶接の概観と条件、および漏水試験を示す模式図である。 第1冷却過程の時間(t1)と水漏れ発生率の関係を示すグラフである。 凝固割れ(水漏れ)した試料の断面に係る光学顕微鏡写真である。 凝固割れしなかった試料の表面に係る電子顕微鏡の観察像である。
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、溶接方法のみならず、溶接物等にも適宜該当し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《被接合材》
(1)Al合金
被接合材は、加熱工程後の冷却工程(第1冷却過程と第2冷却過程)で、凝固割れと溶着を回避できるAl合金からなるとよい。被接合材は、例えば、詳細は後述するが、後述するBTR線図の境界線が固相線温度付近(例えば550~630℃)で急激(例えば、dε/dT≧0.1(%/℃))に立ち上がるAl合金からなるとよい。
このようなAl合金は、被接合材自体の製法とは関係なく、展伸用合金でも鋳造用合金でもよい。展伸用合金は、例えば、Al-Mg-Si系合金(6000系合金等)であるとよい。鋳造用合金は、例えば、Al-Si-Mg系合金であるとよい。
具体的な成分組成でいうと、Al-Mg-Si系合金なら、例えば、全体を100質量%(単に「%」という。)として、Mg:0.2~1.2%、0.3~1.1%さらには0.4~1%、Si:0.4~1.5%、0.5~1.3%さらには0.6~1.1%、Cu:1.1%以下、0.9%以下さらには0.6%以下で、残部がAlと改質元素および/または不純物であるとよい。このようなAl合金は、成形性やベークハード性(BH性)等にも優れる。
また、Al-Si-Mg系合金なら、例えば、全体を100%として、Si:7~11%さらには8~10%、Mg:0.1~0.4%さらには0.15~0.3%で、残部がAlと改質元素および/または不純物であるとよい。このようなAl合金は、鋳造性、機械的強度、被削性等にも優れる。凝固割れに関連するBTR線図に関していうと、合金組成により、固相線温度と分配係数による液相の発生割合が決定される。
Al合金は、代表例である6000系合金やAl-Si-Mg系合金の各化学成分に準拠して、Mn、Zn、Fe、Cr、Ni、Ti、Sn、Pb等の元素を少量含んでもよい。これらの元素は、不純物として把握できるが、例えば、結晶粒の微細化や強度の向上等に寄与する改質元素としても把握できる。
Mnは、例えば、1.0%以下、0.8%以下、0.7%以下さらには0.15%以下含まれてもよい。Znは、例えば、1%以下、0.7%以下、0.3%以下さらには0.1%以下含まれてもよい。Feは、例えば、1.3%以下、0.8%以下、0.7%以下、0.5%以下さらには0.35%以下含まれてもよい。Crは、例えば、0.35%以下、0.25%以下さらには0.1%以下含まれてもよい。Niは、0.7%以下、0.5%以下さらには0.3%以下含まれてもよい。Ti、Sn、Pbは、例えば、0.3%以下、0.2%以下、0.15%以下さらには0.1%以下含まれてもよい。なお、これら各元素の下限値は問わない。敢えていうと、各元素は、例えば、0.01%以上、0.05%以上さらには0.1%以上含まれてもよい。
具体例を挙げると、A6022合金の化学成分は、Si:0.8~1.5%、Fe:0.05~0.2%、Cu:0.01~0.11%、Mn:0.02~0.1%、Mg:0.45~0.7%、Cr≦0.1%、Zn≦0.25%、Ti≦0.15%、残部:Alである。
またA6061合金の化学成分は、Si:0.4~0.8%、Fe≦0.7%、Cu:0.15~0.4%、Mn≦:0.15%、Mg:0.8~1.2%、Cr:0.04~0.35%、Zn≦0.25%、Ti≦0.15%、残部:Alである。
さらにAl-Si-Mg系合金の化学成分は、例えば、Si:7~11%、Mg:0.1~0.4%、Fe≦0.3%、Mn≦0.5%以下、Ti≦0.2%、残部:Alである。
(2)形態
被接合材の形態は問わない。スポット溶接される被接合材の少なくとも一方は、例えば、板材である。この場合、例えば、複数(2枚以上)の板材を重ねたもの(積層板)をスポット溶接してもよいし、板材と非板状部材(ブロック等)とをスポット溶接してもよい。積層板をスポット溶接する場合、それぞれの板厚は同じでも異なっていてもよい。さらにスポット溶接される被接合材の材質は同種でも異種でもよい。
《加熱工程》
加熱工程は、被接合材に圧接した電極へ通電して、被接合部を抵抗加熱して、接合面側にある被溶接部(溶融部、溶接部となる部分)を溶融させる。このときの電流値は、例えば、電流値を25~50kAさらには30~45kAとしてもよい。供給される電流は、交流でも直流でもよい(この点は冷却工程でも同様である)。本通電は、直流の定電流によりなされると、投入電力量(加熱量)の制御が容易である。なお、加熱工程でなされる通電(溶融部を形成するための通電)を、適宜、「本通電」という。
通電時間は、被接合材の材質や形態等に応じて調整され得る。本通電の通電時間は、例えば、10~150msさらには20~100msとしてもよい。
加熱工程は、電極を被接合部の表面側に圧接させた状態でなされる。電極による被接合部の加圧力は、例えば、50~150MPaさらには75~125MPaとするとよい。加圧力が過小では、電極と被接合部の接触抵抗の増大、爆飛(チリ)の発生等を招く。加圧力が過大では、電極の寿命低下、被接合材の過度な変形等を招く。
加圧力は、加熱工程中に変化させてもよいが、一定でもよい。なお、加圧力は、電極の印加荷重を、電極の先端部の断面積(投影面積/通常、「呼び径」に相当する面積)で除して求まる。加圧力に関する内容は冷却工程にも該当する。
《冷却工程》
冷却工程は、加熱工程で生じた溶融部を冷却凝固させて、凝固部(溶接部/ナゲット)を形成する。冷却工程は、少なくとも第1冷却過程と第2冷却過程を備える。冷却工程は、3段階以上の冷却過程に分割されてもよい。いずれにしても、被接合材に圧接されている電極を通じてなされる拔熱により、被接合部(溶融部)は冷却される。
(1)第1冷却過程は、加熱工程後に続けて、本通電(加熱工程)時よりも投入電力量(電流値および/または電圧値)を低減させた通電によりなされる。この通電により電極による被接合部の急冷が回避され、冷却速度が調整された制御冷却(徐冷)がなされる。なお、このときの通電を、適宜、「副通電」、そのときの電流値を「副電流値」という。
副通電が電流制御によりなされるとき、電極へ通電する副電流値は漸減されるとよい。副電流値の漸減は線形的になされても、非線形的になされてもよい。副電流値の時間に対する減少率は、例えば、150~450A/msさらには200~350A/msとしてもよい。
第1冷却過程は、加熱工程でできた溶融部の固相率が少なくとも60%以上、70%以上さらには80%以上となるまで継続されるとよい。高固相率まで徐冷されることにより、加圧されている溶融部(固液共存状態)における液相補給が確保され、凝固割れが抑制される。なお、固相率は、測定または解析から求まる被接合部または溶融部の温度により定まる。
第1冷却過程は、溶融部の温度がAl合金の固相線温度(Ts)に対して10~50℃さらには20~40℃高い温度域となるまで継続されてもよい。換言すると、冷却工程は、溶融部の温度(T)がTs+10℃~Ts+50℃さらにはTs+20℃~Ts+40℃となったときに、第1冷却過程から第2冷却過程へシフトするとよい。
第1冷却過程は、溶接部の平均冷却速度が1×10~5×10℃/sさらには1×10~1×10℃/sであるとよい。平均冷却速度は、第1冷却過程中の温度変化をその所要時間で除して求まる。なお、各部の温度は、冷却過程の経過時間の関数として、各モデル(被接合材、溶接物)毎に、溶接シミュレーションソフト(SWANTEC社 SORPAS等)を用いて溶接中の温度変化を解析して求まる。
(2)第2冷却過程は、第1冷却過程後に、第1冷却過程よりも大きな冷却速度でなされる。第1冷却過程よりも急冷されれば、その冷却速度は問わない。第2冷却過程は、電極への通電を伴う制御冷却でもよいが、電極への通電を遮断してなされてもよい。第2冷却過程の冷却速度は、Al合金のBTR線図に基づいて調整されればよい。もっとも、本発明に係るAl合金のBTR線図は、高固相率となる領域(固相線温度付近)で、境界線が急激に立ち上がる。このため、電極への通電を遮断して第2冷却過程の冷却速度を高めても、凝固割れは回避され得る。
第2冷却過程は、溶接部(凝固部)の温度がAl合金の再結晶温度(または融点の1/2の温度)以下となるまで継続されるとよい。再結晶温度以下までの急冷により、被接合部における熱間割れ(凝固後の再結晶温度付近で発生する溶接割れ)の発生が抑止される。また、その急冷により、被接合部(特に溶接部)の金属組織の粗大化も回避される。なお、第2冷却過程は、冷却速度が一定でも変化してもよい。例えば、第2冷却過程でも、通電を伴う冷却から通電を遮断する冷却に変化してもよい。
(3)第1冷却過程と第2冷却過程は、Al合金の高温脆性温度範囲(BTR:Brittleness Temperature Region)を示す線図(BTR線図)の境界線を横切らない冷却速度でなされるとよい。さらにいえば、溶融部の温度がその境界線に沿った温度となるように、第1冷却過程と第2冷却過程がなされるとよい。この点について、以下、具体的に説明する。
図1Aに各工程のタイムチャートの一例を示した。タイムチャートには、冷却工程に係る3つの冷却パターンa~cを示した。冷却パターンaは、本発明のように多段階冷却(冷却過程Iと冷却過程II)を行う場合である。ここで、冷却過程Iは電極へ電流値を漸減させつつ通電する徐冷(制御冷却)、冷却過程IIは電極への通電を遮断する急冷とした。冷却パターンbは、加熱工程直後から冷却過程II(通電を遮断した急冷)を行う場合である。冷却パターンcは、加熱工程直後から冷却過程I(制御冷却)を、電流値が漸減しつつゼロになるまで継続的に行う場合である。
図1BにBTR線図の一例を示した。BTR線図は、液相線温度付近~固相線温度付近において、凝固割れを生じる脆化範囲(Cracking領域)か、凝固割れを生じない非脆化範囲(Non-cracking領域)かを、Al合金の温度とAl合金に作用するひずみで示す。脆化範囲(境界線の左側)と非脆化範囲(境界線の右側)の境界線は、Al合金の成分組成により変化する。BTR線図に基づいて、温度変化に対するひずみ変化が境界線を超えるか否か(脆化範囲内となるか否か)がわかれば、凝固割れを生じ得る否かもわかる。
BTR線図中には、上述した各冷却パターンa~cを行ったときの温度とひずみの関係も併せて示した。冷却パターンaの場合、例えば、その境界線の外側(右側)に沿った接線となるような冷却過程Iと冷却過程IIの設定が可能となる。この場合、温度変化に対するひずみ変化が境界線と交差しないため、凝固割れを回避できる。また、冷却速度の大きい冷却過程IIにより、電極と被接合部の高温接触時間も短縮されるため、両者間で生じる溶着の発生も抑止される。
一方、冷却パターンbの場合、加熱工程後の徐冷(冷却過程I)がないため、温度変化に対するひずみ変化が大きくなり、BTR線図の境界線を超えた脆化範囲内となって、凝固割れを生じ易い。逆に、冷却パターンcの場合、加熱工程後から徐冷されるため、温度変化に対するひずみ変化が小さく、境界線を超えず非脆化範囲内となり、凝固割れは生じ難い。しかし、冷却パターンcでは、電極と被接合部の高温接触時間が長くなり、両者間で溶着を生じ易い。
なお、BTR線図は、Al合金の種類(成分組成)毎に定まり、固相線温度の前後の環境下で、引張試験または曲げ試験などで破断強度または破断ひずみを評価して求められる。
《電極》
(1)形態
抵抗スポット溶接用電極(単に「電極」という。)は、シャンクに着脱できるもの(キャップチップ型)でも、シャンクと一体化したもの(一体型)でもよい。通常、溶接コストを低減できるキャップチップ型の電極(「チップ」ともいう。)が用いられる。
電極(チップ)は、例えば、有底略円筒状の先端部と、その先端部から連なる略円筒状の胴部とを有する。先端部の外表面(圧接面)は、被接合材に対して窪んだ凹状でも、窪んでいない凸状でもよい。電極の大きさは問わないが、例えば、胴部の外径(B/元径/呼び径)は、例えば、φ10~20mmさらにはφ14~18mmであるとよい。
電極は、その先端部内側にある内筒部に冷媒(冷却液/冷却水)が導入されているとよい。冷媒が強制的に循環されていと、電極の昇温抑制や被接合部の電極を通じた冷却が安定してなされる。
電極(特に凸状電極)の先端部の基本形状は、JIS C9304(1999)に多数規定されている。例えば、平面形(F形)、ラジアス形(R形)、ドーム形(D形)、ドームラジアス形(DR形)、円錐台形(CF形)、円錐台ラジアス形(CR形)等がある。いずれの形状でもよいが、DR形またはF形の電極は、冷却能と強度のバランスがよい。
(2)材質
電極(少なくとも先端部)は、熱伝導性、導電性、強度等に優れる材質からなるとよい。例えば、導電率が75~95%IACSさらには80~90%IACSである銅合金からなる電極が用いられる。銅合金は、例えば、クロム銅、ジルコニウム銅、クロム・ジルコニウム銅、アルミナ分散銅、ベリリウム銅等である。
種々のAl合金に係るBTR線図と、冷却工程を変更してスポット溶接した種々の試料の評価とに基づいて、以下に本発明を具体的に説明する。
[BTR線図]
化学成分の異なる5種のAl合金に関するBTR線図を図2にまとめて示した。各BTR線図は既述した方法で求めた。Al合金は、4種の展伸用合金(A6022、A6061、A5083、A7N01)と1種の鋳造用合金(Al-Si-Mg合金/単に「AlSiMg」と表記する。)である。各Al合金に含まれるSi、MgおよびCuは次の通りである。なお、いずれも、Al合金全体を100質量%(単に「%」という。)とした質量割合である。
A6022 … Si:0.8~1.5%、 Mg:0.45~0.7%、 Cu:0.01~0.11%
A6061 … Si:0.4~0.8%、 Mg:0.8 ~1.2%、 Cu:0.15~0.4%
A5083 … Si≦0.4% Mg: 4 ~4.9%、 Cu≦0.1%
A7N01 … Si≦0.3% Mg: 1 ~2%、 Cu≦0.2%
AlSiMg … Si:7.5~9.5%、 Mg:0.1 ~0.4%
図2に示したBTR線図からわかるように、Si、MgおよびCuが所定範囲内のAl合金(A6022、A6061、AlSiMg)は、固相線温度の手前から境界線が急激に起ち上がっている。一方、Si、MgおよびCuが所定範囲外のAl合金(A5083、A7N01)では、境界線が固相線温度より低い温度まで延びており、脆化範囲が非常に広くなっている。
ちなみに、各Al合金の液相線温度(Tl)、固相線温度(Ts)、再結晶温度(Tr)は次の通りである。なお、AlとCuの共晶温度は548℃である。
A6022 … Tl= 655℃、Ts= 588℃、Tr= 330℃
A6061 … Tl= 652℃、Ts= 583℃、Tr= 330℃
A5083 … Tl= 640℃、Ts= 535℃、Tr= 300℃
A7N01 … Tl= 640℃、Ts= 508℃、Tr= 300℃
AlSiMg … Tl= 610℃、Ts= 566℃、Tr= 300℃
[スポット溶接]
《試料の製作》
(1)被接合材
供試材として、アルミニウム合金(A6022)の板材(板厚:0.8mm)を用意した。この板材を短冊状(30mm×100mm)に切断した板片(被接合材)を2枚重ねてスポット溶接した。このときの概要を図3に示した。
(2)電極
電極には、一対のDR形(JIS C9304)の市販チップ(OBARA株式会社製)を用いた。チップ径:φ16mm、先端底部の厚さは12mmであった。チップの内側(内円筒部)には、強制循環された冷却水(流量:4L/min)を供給した。これによりチップを強制冷却した。
電極はクロム銅(Cr:1質量%、Cu:残部)製であり、その電気伝導度は80%IACSであった。
(3)溶接
上述した2枚の板片(被接合材)を重ね合わせたワークの両外側を、一対の同電極(チップ)で挟持した。このときの加圧力は5000N(約100MPa)で一定とした。
その挟持状態のまま、図3に示したタイムチャートに沿った通電を行った。本通電前に、パイロット通電(12000A×t100ms)を行った。パイロット通電は、溶融しない温度で、被接合材を軟くし、加圧して被接合材の合わせ面をなじませるために行った。
次に、本通電(35A×tm32ms)を行った(加熱工程)。これにより板片の内側(接触面側)には溶融部が形成される。
本通電に続けて、電流値が直線的に漸減する冷却過程I(第1冷却過程)と、電流を遮断する冷却過程II(第2冷却過程)とを行った。冷却過程Iにおける電流の時間変化率は300~400A/msとした。本通電後の板片(溶融部)は、冷却過程Iにより徐冷され、冷却過程IIにより冷却過程I後の板片(溶融部または凝固部)は電極を通じて急冷される。
冷却過程Iを行う時間(t)は、10~25ms間隔で変更した(0ms≦t≦120ms)。なお、t=0msのときは、冷却過程IIのみ(加熱工程直後の急冷)を意味する。また、冷却工程IIの時間は200msとした。
こうして、冷却工程の条件を変更してスポット溶接した複数の試料を製造した。なお、いずれの試料でも、直径約6mmのナゲットが形成されていることを確認した。このナゲットは、板厚(t)に対して4√t以上あり、十分な溶接強度を有する大きさである。
《漏水試験》
各試料に対して、図3に示すような漏水試験を行った。漏水試験は、スポット溶接した各試料の表面に、水柱(高さ:10cm)を液密状に保持し、各試料の溶接部からの水漏れの有・無を観察した。
1条件(冷却過程Iのt)あたりN=30個の試料について漏水試験を行った。各条件毎に、水漏れを生じた試料の個数を全数で除した水漏れ発生率(%)を算出した。こうして得られた冷却過程Iの時間(t)と水漏れ発生率との関係を図4にまとめて示した。
ちなみに、t1=30msのとき、溶接部の温度:約600℃(つまりTs+約12℃)、その固相率:約100% であった。これは溶接シミュレーションソフト(SWANTEC社 SORPAS)を用いて温度解析し、その温度での固相率を統合型熱力学計算ソフトウェア(Thermocalc)から得られた固相率―温度線図から求めた。
《評価》
(1)溶接割れ
図4から明らかなように、加熱工程直後から所定時間(t1≧30ms)を経過したタイミングで、冷却過程Iから冷却過程IIへ移行すると、溶接部に凝固割れ(水漏れ)が生じないことが確認された。このことから、例えば、加熱工程直後から所定時間(t1≧30ms)だけ徐冷すれば、それ以降に急冷できることがわかった。つまり、凝固割れを抑制しつつ、効率的なスポット溶接を行えることになる。
ちなみに、例えば、t1=30msで冷却過程Iから冷却過程IIへシフトしたとする。このとき、冷却過程I中に溶融部の温度は約600℃から500℃以下へ変化する。溶融部に生じるひずみは約0.15%から約1%へ変化する。A6022のBTR線図に当てはめると、その冷却過程Iは非脆化範囲内となる。また、そのBTR線図の境界線は急激に立ち上がるため、冷却過程IIも非脆化範囲内となる。
(2)試料の観察
水漏れを生じた試料(t1=15ms)の断面を光学顕微鏡で観察した写真を図5に示した。図5から明らかなように、被接合部の表面中央付近から凝固部(ナゲット)へ至るクラックが観察された。なお、水漏れを生じなかった試料では、そのようなクラックは観察されなかった。
水漏れを生じなかった試料(t1=30ms)の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)およびエネルギー分散型X線分析装置(EDX)で観察した写真を図6に示した。図6から明らかなように、徐冷後に急冷(冷却過程II)を行うと、AlとCuの共晶反応による溶着が少なかった。これは、電極と被接合部の高温接触時間が短縮されたためと考えられる。

Claims (7)

  1. アルミニウム合金部材に圧接した電極へ通電して該アルミニウム合金部材の被接合部を抵抗加熱して溶融させる加熱工程と、
    該アルミニウム合金部材に該電極を圧接させた状態で、該加熱工程後の該被接合部を冷却する冷却工程と、を備えるスポット溶接方法であって、
    該アルミニウム合金部材は、全体を100質量%(単に「%」という。)として、
    Mg:0.2~1.2%、Si:0.4~1.5%およびCu:1.1%以下、または
    Si:7~11%およびMg:0.1~0.4%であるアルミニウム合金からなり、
    該冷却工程は、該加熱工程よりも該被接合部への投入電力量を低減してなされる第1冷却過程と、該第1冷却過程後に該第1冷却過程よりも大きな冷却速度でなされる第2冷却過程とを有し、
    該第1冷却過程は、該電極へ通電する電流値を150~450A/msの減少率で漸減させるスポット溶接方法。
  2. 前記第1冷却過程は、前記加熱工程でできた溶融部の固相率が少なくとも60%以上となるまで継続される請求項1記載のスポット溶接方法。
  3. 前記冷却工程は、前記加熱工程でできた溶融部の温度が前記アルミニウム合金の固相線温度(Ts)に対して10~50℃高い温度域(Ts+10℃~Ts+50℃)にあるときに、前記第1冷却過程から前記第2冷却過程へシフトする請求項1または2に記載のスポット溶接方法。
  4. 前記第1冷却過程と前記第2冷却過程は、前記アルミニウム合金の高温脆性温度範囲を示す線図の境界線を横切らない冷却速度でなされる請求項1~のいずれかに記載のスポット溶接方法。
  5. 前記第2冷却過程は、前記電極への通電を遮断してなされる請求項1~のいずれかに記載のスポット溶接方法。
  6. 前記第2冷却過程は、溶接部の温度が前記アルミニウム合金の再結晶温度以下となるまで継続される請求項1~のいずれかに記載のスポット溶接方法。
  7. 前記加熱工程および前記冷却工程は、前記電極で前記被接合部を50MPa~150MPaで加圧しつつなされる請求項1~のいずれかに記載のスポット溶接方法。
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