JP7264724B2 - 角層解析方法 - Google Patents
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Description
1)シリコーン粘着層を有するテープの粘着面に角層を付着させ、該テープの粘着面をATR-IR測定して得られる赤外吸収スペクトルと、シリコーン粘着層を有する未使用のテープの粘着面をATR-IR測定して得られる赤外吸収スペクトルを取得し、両者の差スペクトルから角層のスペクトルを取得する角層の赤外吸収スペクトルの測定法であって、角層の赤外吸収スペクトルの3000~4000cm-1の領域における水の信号の推定寄与分より、角層の赤外吸収スペクトル全波数域における水の信号の推定寄与分を算出し、該角層の赤外吸収スペクトルより差し引くことによりスペクトルを取得する、方法。
2)1)の方法によって得られた角層の赤外吸収スペクトルの、各ピークの信号強度及びピーク形状から、角層を構成する成分、角層の性状、角層表面の付着物の量及び角層の化学状態の変化のいずれか1以上を評価する角層評価方法。
具体的には、シリコーン系粘着層を有するテープは実施例に記載のアズワン株式会社ほか、3M社、日東電工株式会社、株式会社オカド、株式会社寺岡製作所等々より購入することができる。また、東レ・ダウコーニング株式会社、信越化学工業株式会社、株式会社レヂテックス等々より市販のシリコーン系粘着剤を各種フィルムや不織布等に塗工することにより、シリコーン系粘着層を有するテープを調製することができる。
シリコーン粘着面への角層の付着方法としては、該シリコーン粘着面を皮膚表面に直接押し付けて角層を付着させてもよいし、粘着層を有す別のテープを皮膚表面に押し付けて採取した角層を、該シリコーン粘着面に転写させてもよい。
以下に、本発明の角層の赤外吸収スペクトルの測定手順について説明する。
1)ATR-IR分光装置の内部反射エレメント部に、空気が接触している状態で、空気のパワースペクトルを測定する。
2)ATR-IR分光装置の内部反射エレメント部に、シリコーン粘着層を有する未使用のテープの粘着面を接触させ、テープのパワースペクトルを測定する。
3)テープのパワースペクトルを空気のパワースペクトルで割り、透過率を吸光度に変換することによって、テープの吸収スペクトル(吸光度表示)を取得する。
4)シリコーン粘着層を有するテープの粘着面を皮膚に接触後、テープを剥離し、テープ粘着面に角層細胞を付着させる。
5)角層細胞が付着した上記テープの粘着面を、ATR-IR分光装置の内部反射エレメント部に貼り付け、[角層+テープ]のパワースペクトルを測定する。
6)[角層+テープ]のパワースペクトルを空気のパワースペクトルで割り、透過率を吸光度に変換することによって、[角層+テープ]の吸収スペクトル(吸光度表示)を取得する。
すなわち、差スペクトルの作成は、以下の7)~8)の工程により行われる(後記参考例参照)。
7)[角層+テープ]の吸収スペクトル(吸光度表示)中に出現する、シリコーン粘着層に由来する主要な吸収帯である、1260cm-1付近の吸収帯または1000~1100cm-1付近の吸収帯の、いずれか、または両方に由来するピークに対して、それらに対応するテープの吸収スペクトル(吸光度表示)のピーク強度が一致するように、テープの吸収スペクトル(吸光度表示)を定数倍する係数pを決める。
8)[角層+テープ]の吸収スペクトル(吸光度表示)から、テープの吸収スペクトル(吸光度表示)をp倍したスペクトルを差し引いて、角層の吸収スペクトル(剥離角層赤外吸収スペクトル)を算出する。
角層の赤外吸収スペクトルSSC(ω)は、完全に乾燥した角層の赤外吸収スペクトルSSC-Dry(ω)と、水の赤外吸収スペクトルSWater(ω)との重ね合わせで、下記式1のように近似的に表現することができる。式中、qとrは係数、ωは波数である。
SSC(ω)=qSSC-Dry(ω)+rSWater(ω) (式1)
そして、下記式2に示すように、スペクトル全波数域において斯かる水の信号の推定寄与分を差し引くことにより、仮想的な乾燥角層の赤外吸収スペクトルSSC-Dry-cal(ω)を算出することができる。
SSC-Dry-cal(ω)=SSC(ω)-rSWater(ω) (式2)
メチレン基の伸縮振動のピークの形状から細胞間脂質のパッキング状態を解析するには、角層の赤外吸収スペクトル中の当該のピークのピークトップ位置を読み取っても良い。このとき一次微分スペクトルを算出し、微分係数がゼロになる波数位置を読み取っても良い。この指標も角層バリアの指標として活用することができる。
(1)テープ剥離角層の赤外吸収スペクトルからのα/β値の算出
特開2018‐105783号公報に準じて、テープ剥離角層の赤外吸収スペクトルより、肌性状と相関するα/β値(αヘリックスとランダムコイルが重畳したピークの面積とβシートのピークの面積の比)の算出を行った。この手順は以下のとおりである。
1)シリコーン系粘着層を有すテープ(アズフロン(R)テープ、アズワン株式会社)を用いて、ヒト頬より角層を採取する。
2)上記角層剥離後のテープの粘着面を、FT-IR装置(Nicole iS5、Thermo Fisher Scientific社)に取り付けたATRユニット(iD5 ATR)の測定面に貼り付け、ATR-IR測定を行う。この赤外吸収スペクトルを、Stape+SC(ω)とする。ここでωは波数に相当する。
3)2)と同様に、角層剥離前のブランクテープ粘着面のATR-IR測定を行う。この赤外吸収スペクトルをStape(ω)とする。
4)以下の式3に基づいて、シリコーン粘着層に特徴的な1260cm-1付近のピークが最もよく消失する係数pを最小二乗法により算出し、角層のみの赤外吸収スペクトルSSC(ω)を算出する。
SSC(ω)=Stape+SC(ω)-pStape(ω) (式3)
5)SSC(ω)に対して、以下の式で表現される23個のガウス関数をあてはめ、SSC(ω)を最も良く再現する係数k(N)の組み合わせを最小二乗法により求め、角層の近似スペクトルSSC-cal(ω)を算出する。この時の各ガウス関数のパラメータと帰属を表1に示す。
角層の赤外吸収スペクトルに対する水の寄与を見積もるために、水、ヒト角層シート、調湿環境下(0%R.H.、73%R.H.)でのテープ剥離角層の赤外吸収スペクトルを測定した。本測定に用いた、装置、測定条件、試料の調製方法、測定結果、及びその結果に基づく水の信号の補正法を以下に記す。
Frontier(Perkin-Elmer社、TGS検出器)に、ユニバーサルATRユニット(ダイアモンド、45°)またはNicole iS5(Thermo Fisher Scientific社)にATRユニット(iD5 ATR)を取り付けたものを用いた。
波数分解能4cm-1、積算4回
1)水:ミリQ水をATR-IR測定に供した。
2)ヒト角層シート:
市販ヒト切除皮膚(Transkin(R)、BIOPREDIC International社)より調製した。実験室環境下で、ATR-IR測定に供した。
3)テープ剥離角層:
ヒト前腕内側部にシリコーン系粘着層を有すテープ(アズフロン(R)テープ、アズワン株式会社)を貼り付け、剥がすことにより角層を採取した。このテープ剥離角層を以下の2条件を用いて調湿し、ATR-IR測定に供した。
i)0%R.H.条件:窒素ガスをフローさせたサンプル瓶内に1時間放置。
ii)73%R.H.条件:NaCl飽和塩溶液で調湿したデシケータ内(実測25℃、73%RH)に一晩放置。
ヒト角層シート及び水の赤外吸収スペクトルを図1a(全域)、図1b(アミドI近傍域)図1c(高波数域)、に示す。
図1bより、水は角層のアミドIと重畳する領域に吸収を持つため、水の存在はアミドIのピーク形状に影響を及ぼすことがわかる。また図1cより、高波数域(2600~4000cm-1)のピーク形状も角層中の含水量によって変化することがわかる。
図2には、上記参考例の式3より算出した、テープ信号補正後の窒素フロー乾燥した角層の赤外吸収スペクトルと、水の赤外吸収スペクトルを示す。何れも1000~4000cm-1の領域で、吸光度を0~1に規格化して表示している。
図1aと図2の3000~4000cm-1の領域を比較することより、実験室環境下で測定された角層シートには、一定の水分が含まれることがわかる。
ここでテープ剥離角層の赤外吸収スペクトルよりテープの信号を除くことによって得た、角層の赤外吸収スペクトルSSC(ω)は、完全に乾燥した角層の赤外吸収スペクトルSSC-Dry(ω)と、水の赤外吸収スペクトルSWater(ω)との重ね合わせで、式1のように近似的に表現することができる。
SSC(ω)=qSSC-Dry(ω)+rSWater(ω) (式1)
ここで、qとrは係数、ωは波数である。水の信号の寄与分を見積もるために、3000~4000cm-1の領域に対して式1を適用し、最小二乗法によって係数q、rを算出した。次に式1における水の信号を差し引いて、仮想的な乾燥角層の赤外吸収スペクトルSSC-Dry-cal(ω)を算出することとした。
SSC-Dry-cal(ω)=SSC(ω)-rSWater(ω) (式2)
図3aに、73%で調湿したテープ剥離角層の赤外吸収スペクトル(実線、テープ信号除去後)と、式1より算出した水の信号の寄与分の赤外吸収スペクトル(破線)と、式2により算出した水の信号の差し引き後の赤外吸収スペクトル(点線)を示す。図3aのアミドI近傍域を拡大表示したものを図3bに示す。図3bより、水の信号の寄与分を推定し差し引くことで、アミドIのピーク形状がわずかに変化することがわかる。このように補正した赤外吸収スペクトルを、式2で示した赤外吸収スペクトル解析法に適用し、α/β値を算出することとした。
1月から12月の期間に、のべ1113名を対象に、一般的な空調設備を有する部屋において、顔面頬部より粘着テープで角層を採取し、該テープのATR-IR測定を行った。測定は、赤外分光装置iS5(Thermo Fisher SCIENTIFIC社)にATRユニット(iD5 ATR)を取り付けたものを用い、分解能:4cm-1、スキャン回数:4の条件で行った。取得した赤外吸収スペクトルは粘着テープの信号を除去後、実施例1による赤外吸収スペクトルの補正の有無において、アミドI吸収帯の1649cm-1と1629cm-1の信号成分の比率(α/β)を算出し、実施例1による赤外吸収スペクトルの補正の効果を検証した。
男性1名の左右の頬及び左右の前腕内側部からそれぞれ1か所ずつ計4か所から角層を粘着テープで採取し、該テープのATR-IR測定を行った(前腕(右):a1、前腕(左):a2、頬(右):c1、頬(左):c2)。測定は、赤外分光装置iS5(Thermo Fisher SCIENTIFIC社)にATRユニット(iD5 ATR)を取り付けたものを用い、分解能:4cm-1、スキャン回数:4、環境は室温26℃、湿度50%RHの付近の条件で行った。
Claims (9)
- シリコーン粘着層を有するテープの粘着面に角層を付着させ、該テープの粘着面をATR-IR測定して得られる赤外吸収スペクトルと、シリコーン粘着層を有する未使用のテープの粘着面をATR-IR測定して得られる赤外吸収スペクトルを取得し、両者の差スペクトルから角層のスペクトルを取得する角層の赤外吸収スペクトルの測定法であって、角層の赤外吸収スペクトルにおける3000~4000cm -1 の吸収帯のピークに対して下記式1で示される近似式を適用して係数q、rを算出し、該角層の赤外吸収スペクトル全波数域における水の信号の寄与分を見積り、これを該角層の赤外吸収スペクトルより差し引くことによりスペクトルを取得する、方法。
S SC (ω)=qS SC-Dry (ω)+rS Water (ω) (式1)
〔式中、S SC (ω)は角層の赤外吸収スペクトル、S SC-Dry (ω)は完全に乾燥した角層の赤外吸収スペクトル、S Water (ω)は水の赤外吸収スペクトルを示し、q及びrは係数、ωは波数を示す。〕 - 角層剥離テープの粘着面をATR-IR測定して得られる赤外吸収スペクトルと、シリコーン粘着層を有する未使用のテープの粘着面をATR-IR測定して得られる赤外吸収スペクトルの差スペクトルの作成が、シリコーン粘着層に由来する主要な吸収帯である、1260cm-1付近の吸収帯または1000~1100cm-1付近の吸収帯の、いずれか、または両方に由来するピーク強度が一致するように、いずれかの赤外吸収スペクトルを定数倍してから差し引いて行う、請求項1記載の方法。
- 請求項1又は2に記載の方法によって得られた角層の赤外吸収スペクトルの、各ピークの信号強度及びピーク形状から、角層を構成する成分、角層の性状、角層表面の付着物の量及び角層の化学状態の変化のいずれか1以上を評価する角層評価方法。
- アミドIに由来する吸収帯のピーク形状から、角層蛋白質の組成変化及び角層の性状を評価することを特徴とする、請求項3記載の方法。
- アミドIに由来する吸収帯のピークからαヘリックスとランダムコイルが重畳したピーク及びβシートのピークを分割して両ピークの面積比(α/β値)を求める、請求項4記載の方法。
- メチレン基の変角振動の吸収帯のピーク形状から、角層細胞間脂質のパッキンッグ性及び角層の性状を評価することを特徴とする、請求項3記載の方法。
- アルキル鎖の伸縮振動の吸収帯のピーク位置から、角層細胞間脂質のパッキンッグ性及び角層の性状を評価することを特徴とする、請求項3記載の方法。
- 解離したカルボキシ基の吸収帯の信号強度から、角層中の天然保湿因子(NMF)量及び角層の性状を評価することを特徴とする、請求項3記載の方法。
- 角層付着物に特徴的な吸収帯のピーク面積から、角層表面の付着物の量を評価することを特徴とする、請求項3記載の方法。
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