以下、本実施形態に係るエアフィルタ濾材の製造方法について、例に挙げつつ説明する。
(1)エアフィルタ濾材の製造方法
本開示に係るフッ素樹脂の多孔膜を有するエアフィルタ濾材の製造方法では、フッ素樹脂シートを所定延伸方向に延伸する最中に、所定延伸方向における延伸長さ速度(m/min)を上げる工程を備えている。以下、原料を用いたフッ素樹脂シートの用意、その延伸、得られるフッ素樹脂の多孔膜、エアフィルタ濾材の物性について、例に挙げて説明する。
(1-1)フッ素樹脂シートの用意
本開示に係るエアフィルタ濾材の製造方法で用いるフッ素樹脂シートは、フッ素樹脂を含んでいるシート状のものであれば、特に限定されない。
フッ素樹脂シートは、フッ素樹脂を主として含んでいることが好ましく、含まれるフッ素樹脂の種類は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。フッ素樹脂シートは、50重量%以上のフッ素樹脂を含んでいてもよいし、80重量%以上のフッ素樹脂を含んでいることが好ましく、95重量%以上のフッ素樹脂を含んでいることがより好ましく、フッ素樹脂のみから構成されていてもよい。
フッ素樹脂シートが含むフッ素樹脂としては、例えば、繊維化し得るPTFE(後述するA成分に対応)が挙げられる。フッ素樹脂シートが含むフッ素樹脂には、さらに、繊維化しない非熱溶融加工性成分であるフッ素樹脂(後述するB成分に対応)、および/または、融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分であるフッ素樹脂(後述するC成分に対応)が含まれていてもよい。
フッ素樹脂シートがフッ素樹脂とは異なる成分を含む場合の当該異なる成分としては、例えば、熱硬化性樹脂、無機フィラー、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリアミド等の等が挙げられる。
フッ素樹脂シートは、繊維化し得るPTFE(以下、A成分ともいう)、繊維化しない非熱溶融加工性成分(以下、B成分ともいう)、および融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(以下、C成分ともいう)の3成分の混合物を含んでいることが好ましい。これら3成分を含むフッ素樹脂シートによれば、延伸されることで空隙が多く膜厚も大きい多孔膜を得ることができ、気体中の微粒子を濾材の厚み方向の広い領域で捕集でき、保塵量に優れた多孔膜を得ることができる(国際公開2013/157647参照)。
(1-1-1)A成分:繊維化し得るPTFE
繊維化し得るPTFEは、例えば、延伸性および非溶融加工性を有するものである。なお、「非溶融加工性」とは、高い溶融粘度を有するため、溶融状態において容易に流動せず、溶融加工することが困難であることを意味する。繊維化しうるPTFEとしては、380℃における溶融粘度が1×108Pa・S以上であることが好ましい。
繊維化し得るPTFEは、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)の乳化重合、または懸濁重合から得られた高分子量PTFEである。ここでいう高分子量とは、多孔膜作成時の延伸の際に繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られるものであって、標準比重(SSG)が、2.130~2.230であり、溶融粘度が高いため実質的に溶融流動しない大きさの分子量をいう。繊維化し得るPTFEのSSGは、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、2.130~2.190が好ましく、2.140~2.170が更に好ましい。SSGが高すぎると、延伸性が悪化するおそれがあり、SSGが低すぎると、圧延性が悪化して、多孔膜の均質性が悪化し、多孔膜の圧力損失が高くなるおそれがある。上記標準比重(SSG)は、ASTM D 4895に準拠して測定される。
また、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、乳化重合で得られたPTFEが好ましい。乳化重合は、一般に、TFE、又は、TFEとTFE以外の単量体と分散剤と重合開始剤とを含有する水性媒体中で行うことができる。なお、乳化重合は、生成したPTFE微粒子が凝集しないよう設定した撹拌条件下に、穏やかに撹拌して行うことが好ましい。乳化重合において、重合温度は、一般に20~100℃、好ましくは50~85℃であり、重合圧力は、一般に0.5~3.0MPaである。乳化重合における重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、レドックス系重合開始剤等が好ましい。重合開始剤の量は、少ないほど低分子量のPTFEの生成が抑制され、SSGが低いPTFEを得ることができる点で好ましいが、あまりに少ないと重合速度が小さくなり過ぎる傾向があり、あまりに多いと、SSGが高いPTFEが生成する傾向がある。
PTFEは、乳化重合により得られるファインパウダーを構成するものであってもよい。ファインパウダーは、上述の乳化重合により得られるPTFE水性分散液からPTFE微粒子を回収し、凝析させたのち乾燥させることにより得ることができる。上記PTFEからなるファインパウダーは、押出加工性が良く、例えば、20MPa以下の押出圧力でペースト押出することができる。なお、押出圧力とは、リダクションレシオ100、押出速度51cm/分、25℃の条件で、オリフィス(直径2.5cm、ランド長1.1cm、導入角30゜)を通してペースト押出を行う際に測定したものである。ペースト押出し成形は、一般に、上記ファインパウダーと押出助剤(潤滑剤)とを混合したのち、予備成形を行い、押出しするものである。押出助剤は、特に限定されず従来公知のものを使用することができるが、ナフサ等、沸点が150℃以上である石油系炭化水素が好ましい。押出助剤の添加量は、上記ファインパウダーと押出助剤との合計質量の10~40質量%に相当する量とすることができる。予備成形および押出しは、従来公知の方法で行うことができ、適宜条件を選択することができる。
なお、繊維化性の有無、すなわち、繊維化し得るか否かは、TFEの重合体から作られた高分子量PTFE粉末を成形する代表的な方法であるペースト押出しが可能か否かによって判断できる。通常、ペースト押出しが可能であるのは、高分子量のPTFEが繊維化性を有するからである。ペースト押出しで得られた未焼成の成形体に実質的な強度や伸びがない場合、例えば伸びが0%で、引っ張ると切れるような場合は繊維化性がないとみなすことができる。
上記高分子量PTFEは、変性ポリテトラフルオロエチレン(以下、変性PTFEという)であってもよいし、ホモポリテトラフルオロエチレン(以下、ホモPTFEという)であってもよいし、変性PTFEとホモPTFEの混合物であってもよい。ホモPTFEは、特に限定されず、特開昭53-60979号公報、特開昭57-135号公報、特開昭61-16907号公報、特開昭62-104816号公報、特開昭62-190206号公報、特開昭63-137906号公報、特開2000-143727号公報、特開2002-201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2009/001894号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているホモPTFEを好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭57-135号公報、特開昭63-137906号公報、特開2000-143727号公報、特開2002-201217号公報、国際公開第2007/046345号パンフレット、国際公開第2007/119829号パンフレット、国際公開第2010/113950号パンフレット等で開示されているホモPTFEが好ましい。
変性PTFEは、TFEと、TFE以外のモノマー(以下、変性モノマーという)とからなる。変性PTFEには、変性モノマーにより均一に変性されたもの、重合反応の初期に変性されたもの、重合反応の終期に変性されたものなどが挙げられるが、特にこれらに限定されない。変性PTFEは、TFE単独重合体の性質を大きく損なわない範囲内で、TFEとともに微量のTFE以外の単量体をも重合に供することにより得られるTFE共重合体であることが好ましい。変性PTFEは、例えば、特開昭60-42446号公報、特開昭61-16907号公報、特開昭62-104816号公報、特開昭62-190206号公報、特開昭64-1711号公報、特開平2-261810号公報、特開平11-240917、特開平11-240918、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット、国際公開第2013/027850号パンフレット等で開示されているものを好適に使用できる。中でも、高い延伸特性を有する特開昭61-16907号公報、特開昭62-104816号公報、特開昭64-1711号公報、特開平11-240917、国際公開第2003/033555号パンフレット、国際公開第2005/061567号パンフレット、国際公開第2007/005361号パンフレット、国際公開第2011/055824号パンフレット等で開示されている変性PTFEが好ましい。
変性PTFEは、TFEに基づくTFE単位と、変性モノマーに基づく変性モノマー単位とを含む。変性モノマー単位は、変性PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分である。変性PTFEは、変性モノマー単位が全単量体単位の0.001~0.500重量%含まれることが好ましく、好ましくは、0.01~0.30重量%含まれる。全単量体単位は、変性PTFEの分子構造における全ての単量体に由来する部分である。
変性モノマーは、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)等のパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)等のクロロフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)等の水素含有フルオロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル;パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)、エチレン等が挙げられる。用いられる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
パーフルオロビニルエーテルは、特に限定されず、例えば、下記一般式(1)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。
CF2=CF-ORf・・・(1)
式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。
本明細書において、パーフルオロ有機基は、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されてなる有機基である。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(1)において、Rfが炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。PAVEとしては、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)が好ましい。
上記パーフルオロアルキルエチレン(PFAE)は、特に限定されず、例えば、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、パーフルオロヘキシルエチレン(PFHE)等が挙げられる。
変性PTFEにおける変性モノマーとしては、HFP、CTFE、VDF、PAVE、PFAE及びエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
ホモPTFEは、特に、繊維化しやすく、繊維長の長いフィブリルが得られる観点から、繊維化し得るPTFEの50重量%を超えて含有されていることが好ましい。
なお、繊維化し得るPTFEは、上記した成分を複数組み合わせたものであってよい。
繊維化し得るPTFEは、多孔膜の繊維構造を維持する観点から、多孔膜の50重量%を超えて含有されているのが好ましい。
フッ素樹脂シートとして、上記繊維化し得るPTFE(A成分)だけでなく、繊維化しない非熱溶融加工性成分(B成分)、および融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(C成分)も含んだものとする場合には、各B成分、C成分として、以下のものを用いることができる。
(1-1-2)B成分:繊維化しない非熱溶融加工性成分
繊維化しない非熱溶融加工性成分は、主に結節部において非繊維状の粒子として偏在し、繊維化し得るPTFEが繊維化されるのを抑制する働きをする。
繊維化しない非熱溶融加工性成分としては、例えば、低分子量PTFE等の熱可塑性を有する成分、熱硬化性樹脂、無機フィラー、およびこれらの混合物が挙げられる。
熱可塑性を有する成分は、融点が320℃以上であり、溶融粘度が高い方が好ましい。例えば低分子量PTFEは溶融粘度が高いため、融点以上の温度で加工しても結節部に留まることができる。本明細書において、低分子量PTFEとは、数平均分子量が60万以下、融点が320℃以上335℃以下、380℃での溶融粘度が100Pa・s~7.0×105Pa・sのPTFEである(特開平10-147617号公報参照)。
低分子量PTFEの製造方法としては、TFEの懸濁重合から得られる高分子量PTFE粉末(モールディングパウダー)またはTFEの乳化重合から得られる高分子量PTFE粉末(FP:ファインパウダー)と特定のフッ化物とを高温下で接触反応させて熱分解する方法(特開昭61-162503号公報参照)や、上記高分子量PTFE粉末や成形体に電離性放射線を照射する方法(特開昭48-78252号公報参照)、また連鎖移動剤とともにTFEを直接重合させる方法(国際公開第2004/050727号パンフレット、国際公開第2009/020187号パンフレット、国際公開第2010/114033号パンフレット等参照)等が挙げられている。低分子量PTFEは、繊維化し得るPTFEと同様、ホモPTFEであってもよく、前述の変性モノマーが含まれる変性PTFEでもよい。
低分子量PTFEは繊維化性が無い。繊維化性の有無は、上述した方法で判断できる。低分子量PTFEは、ペースト押出しで得られた未焼成の成形体に実質的な強度や伸びがなく、例えば伸びが0%で、引っ張ると切れる。
低分子量PTFEは、特に限定されないが、380℃での溶融粘度が1000Pa・s以上であることが好ましく、5000Pa・s以上であることがより好ましく、10000Pa・s以上であることがさらに好ましい。このように、溶融粘度が高いと、多孔膜の製造時に、C成分として繊維化しない熱溶融加工可能な成分が溶融しても、繊維化しない非熱溶融加工性成分は結節部に留まることができ、繊維化を抑えることができる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ、シリコーン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、フェノール、およびこれらの混合物等の各樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂は、共凝析の作業性の観点から、未硬化状態で水分散された樹脂が望ましく用いられる。これら熱硬化性樹脂は、いずれも市販品として入手することもできる。
無機フィラーとしては、タルク、マイカ、ケイ酸カルシウム、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素繊維、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、およびこれらの混合物等が挙げられる。中でも、繊維化しうる高分子量のPTFEとの親和性および比重の点から、タルクが好ましく用いられる。無機フィラーは、多孔膜の製造時に安定な分散体を形成できる観点から、粒子径3μm以上20μm以下のものが好ましく用いられる。粒子径は、平均粒径であり、レーザー回折・散乱法によって測定される。これら無機フィラーは、いずれも市販品として入手することもできる。
なお、繊維化しない非溶融加工性成分は、上記した成分を複数組み合わせたものであってよい。
繊維化しない非熱溶融加工性成分は、多孔膜の1重量%以上50重量%以下含有されることが好ましい。繊維化しない非熱溶融加工性成分の含有量が50重量%以下であることで、多孔膜の繊維構造を維持させやすい。繊維化しない非熱溶融加工性成分は、好ましくは20重量%以上40重量%以下含有され、より好ましくは30重量%含有される。20重量%以上40重量%以下含有されることで、繊維化し得るPTFEの繊維化をより有効に抑えることができる。
(1-1-3)C成分:融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分
融点320℃未満の繊維化しない熱溶融加工可能な成分(以下、繊維化しない熱溶融加工可能な成分ともいう)は、溶融時に流動性を有することにより、多孔膜の製造時(延伸時)に溶融して結節部において固まることができ、多孔膜全体の強度を高めて、後工程で圧縮等されることがあってもフィルタ性能の劣化を抑えることができる。
繊維化しない熱溶融加工可能な成分は、380℃において10000Pa・s未満の溶融粘度を示すことが好ましい。なお、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の融点は、示差走査熱量計(DSC)により昇温速度10℃/分で融点以上まで昇温して一度完全に溶融させ、10℃/分で融点以下まで冷却した後、10℃/分で再び昇温したときに得られる融解熱曲線のピークトップとする。
繊維化しない熱溶融加工可能な成分としては、熱溶融可能なフルオロポリマー、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリアミド等の各樹脂、あるいはこれらの混合物であり、多孔膜の製造時の延伸温度における溶融性、流動性を十分に発揮しうるものが挙げられる。中でも、多孔膜製造時の延伸温度での耐熱性に優れ、耐薬品性に優れる点から、熱溶融可能なフルオロポリマーが好ましい。熱溶融可能なフルオロポリマーは、下記一般式(2)
RCF=CR2・・・(2)
(式中、Rはそれぞれ独立して、H、F、Cl、炭素原子1~8個のアルキル、炭素原子6~8個のアリール、炭素原子3~10個の環状アルキル、炭素原子1~8個のパーフルオロアルキルから選択される。この場合に、全てのRが同じであってもよく、また、いずれか2つのRが同じで残る1つのRがこれらと異なってもよく、全てのRが互いに異なってもよい。)で示される少なくとも1種のフッ素化エチレン性不飽和モノマー、好ましくは2種以上のモノマー、から誘導される共重合単位を含むフルオロポリマーが挙げられる。
一般式(2)で表される化合物の有用な例としては、限定されないが、フルオロエチレン、VDF、トリフルオロエチレン、TFE、HFP等のパーフルオロオレフィン、CTFE、ジクロロジフルオロエチレン等のクロロフルオロオレフィン、PFBE、PFHE等の(パーフルオロアルキル)エチレン、パーフルオロ-1,3-ジオキソールおよびその混合物等が挙げられる。
また、フルオロポリマーは、少なくとも1種類の上記一般式(2)で示されるモノマーと、
上記一般式(1)および/または下記一般式(3)
R2C=CR2・・・(3)
(式中、Rは、それぞれ独立して、H、Cl、炭素原子1~8個のアルキル基、炭素原子6~8個のアリール基、炭素原子3~10個の環状アルキル基から選択される。この場合に、全てのRが同じであってもよく、また、いずれか2以上のRが同じでこれら2以上のRと残る他のRとが異なってもよく、全てのRが互いに異なってもよい。前記他のRは、複数ある場合は互いに異なってよい。)で示される少なくとも1種の共重合性コモノマーとの共重合から誘導されるコポリマーも含み得る。
一般式(1)で表される化合物の有用な例としては、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。このPAVEとしては、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)が好ましい。
一般式(3)で表される化合物の有用な例としては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
フルオロポリマーのより具体的な例としては、フルオロエチレンの重合から誘導されるポリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン(VDF)の重合から誘導されるポリフッ化ビニリデン(PVDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)の重合から誘導されるポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、2種以上の異なる上記一般式(2)で示されるモノマーの共重合から誘導されるフルオロポリマー、少なくとも1種の上記一般式(2)のモノマーと、少なくとも1種の上記一般式(1)および/または少なくとも1種の上記一般式(3)で示されるモノマーの共重合から誘導されるフルオロポリマーが挙げられる。
かかるポリマーの例は、VDFおよびヘキサフルオロプロピレン(HFP)から誘導される共重合体単位を有するポリマー、TFEおよびTFE以外の少なくとも1種の共重合性コモノマー(少なくとも3重量%)から誘導されるポリマーである。後者の種類のフルオロポリマーとしては、TFE/PAVE共重合体(PFA)、TFE/PAVE/CTFE共重合体、TFE/HFP共重合体(FEP)、TFE/エチレン共重合体(ETFE)、TFE/HFP/エチレン共重合体(EFEP)、TFE/VDF共重合体、TFE/VDF/HFP共重合体、TFE/VDF/CTFE共重合体等、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
なお、繊維化しない熱溶融加工可能な成分は、上記した成分を複数組み合わせたものであってよい。
繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量は、0.1重量%以上20重量%未満であることが好ましい。20重量%未満であることで、繊維化しない熱溶融加工可能な成分が多孔膜中の結節部以外の部分にも分散して多孔膜の圧力損失が高くなることが抑制される。また、20重量%未満であることで、伸長面積倍率が40倍以上の高倍率での延伸を行いやすくなる。繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量が0.1重量%以上であることで、後工程において圧縮力等が与えられたとしても多孔膜のフィルタ性能の劣化を十分に抑えやすくなる。繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量は、15重量%以下であるのが好ましく、10重量%以下であるのがより好ましい。また、繊維化しない熱溶融加工可能な成分の多孔膜における含有量は、多孔膜の強度を確保する観点から、0.5重量%以上であるのが好ましい。中でも、5重量%程度であるのが特に好ましい。
繊維化しない熱溶融加工可能な成分の含有率は、伸長面積倍率40倍以上800倍以下での延伸を良好に行うために、10重量%以下であるのが好ましい。
(1-1-4)フッ素樹脂のシート化
フッ素樹脂多孔膜の作製において用いられるフッ素樹脂は、上述のA成分を用いることができるが、さらにB成分およびC成分を含めた3種の成分を用いることが好ましい。
上記フッ素樹脂の形態は、特に限定されず、例えば、組成物、混合粉末、成形用材料である。まず、多孔膜の原料となる組成物、混合粉末、成形用材料について説明する。
組成物、混合粉末、成形用材料はいずれも、上記したA成分と、B成分、C成分を適宜含む。ここで、C成分は、例えば、全体の0.1重量%以上20重量%未満含有することが好ましい。
成形用材料は、例えば、気体中の微粒子を捕集するフィルタ用濾材に用いられる多孔膜を成形するための多孔膜成形用材料である。
多孔膜の原料の形態は、混合粉末であってもよく、粉末でない混合物であってもよく、また、成形用材料あるいは組成物であってもよい。混合粉末としては、例えば、凝析、共凝析によって得られるファインパウダーや、3種の原料のうち2種を共凝析で混合し、もう1種の成分を混合機を用いて混合した粉体、3種の原料を混合機で混合した粉体などが挙げられる。粉末でない混合物としては、例えば、多孔体(例えば多孔膜)等の成形体、3種の成分を含む水性分散体が挙げられる。
成形用材料は、組成物を成形するために、加工のための調整を行ったものをいい、例えば、加工助剤(液体潤滑剤等)等を添加したもの、粒度を調整したもの、予備的な成形を行ったものである。成形用材料は、例えば、上記3種の成分以外にも、公知の添加剤等を含んでもよい。公知の添加剤としては、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等の炭素材料、顔料、光触媒、活性炭、抗菌剤、吸着剤、防臭剤等が挙げられる。
組成物は、種々の方法により製造することができ、例えば、組成物が混合粉末である場合、A成分の粉末、B成分の粉末、およびC成分の粉末を一般的な混合機等で混合する方法、A成分、B成分、およびC成分をそれぞれ含む3つの水性分散液を共凝析することによって共凝析粉末を得る方法、A成分、B成分、C成分のいずれか2成分を含む水性分散液を予め共凝析することにより得られた混合粉末を残る1成分の粉末と一般的な混合機等で混合する方法、等により製造できる。このような方法であれば、いずれの製法であっても、好適な延伸材料を得ることができる。なかでも、3種の異なる成分が均一に分散し易い点で、組成物は、A成分、B成分、およびC成分をそれぞれ含む3つの水性分散液を共凝析することにより得られるものであることが好ましい。
凝析、共凝析によって得られる混合粉末のサイズは、特に限定されず、例えば、平均粒径が100μm以上1000μm以下であり、300μm以上800μm以下であることが好ましい。この場合、平均粒径は、JIS K6891に準拠して測定される。凝析、共凝析によって得られる混合粉末の見掛密度は、特に限定されず、例えば、0.40g/ml以上0.60g/ml以下であり、0.45g/ml以上0.55g/ml以下であることが好ましい。見掛密度は、JIS K6892に準拠して測定される。
上記共凝析の方法としては、例えば、A成分の水性分散液、B成分の水性分散液、およびC成分の水性分散液を混合した後に凝析する方法が、3種の成分が均一に分散し易い点で好ましい。
上記A成分の混合前の形態は、特に限定されないが、上述の繊維化し得るPTFEの水性分散液であってもよいし、粉体であってもよい。粉末(特に、上述のFP:ファインパウダー)としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン6-J」(以下テフロンは登録商標)、「テフロン6C-J」、「テフロン62-J」等、ダイキン工業社製「ポリフロンF106」(以下ポリフロンは登録商標)、「ポリフロンF104」、「ポリフロンF201」、「ポリフロンF302」等、旭硝子社製「フルオンCD123」(以下フルオンは登録商標)、「フルオンCD1」、「フルオンCD141」、「フルオンCD145」等、デュポン社製「Teflon60」、「Teflon60 X」、「Teflon601A」、「Teflon601 X」、「Teflon613A」、「Teflon613A X」、「Teflon605XT X」、「Teflon669 X」等が挙げられる。ファインパウダーは、TFEの乳化重合から得られる繊維化し得るPTFEの水性分散液(重合上がりの水性分散液)を凝析、乾燥することで得てもよい。
繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、上述の重合上がりの水性分散液であってもよいし、市販品の水性分散液であってもよい。重合上がりの繊維化し得るPTFE水性分散液の好ましい作製方法としては、ホモPTFEを開示するものとして列挙した上記公報等に開示されている作製方法が挙げられる。市販品の繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、ダイキン工業社製「ポリフロンD-110」、「ポリフロンD-210」、「ポリフロンD-210C」、「ポリフロンD-310」等、三井・デュポンフロロケミカル社製「テフロン31-JR」、「テフロン34-JR」等、旭硝子社製「フルオンAD911L」、「フルオンAD912L」、「AD938L」等の水性分散液が挙げられる。
B成分の混合前の形態は、特に限定されないが、B成分が低分子量PTFEである場合、混合前の形態は特に限定されないが、水性分散体であってもよいし、粉体(一般的にPTFEマイクロパウダー、またはマイクロパウダーと呼ばれる)であってもよい。低分子量PTFEの粉体としては、例えば、三井・デュポンフロロケミカル社製「MP1300-J」等、ダイキン工業社製「ルブロンL-5」(以下ルブロンは登録商標)、「ルブロンL-5F」等、旭硝子社製「フルオンL169J」、「フルオンL170J」、「フルオンL172J」等、喜多村社製「KTL-F」、「KTL-500F」等が挙げられる。
低分子量PTFEの水性分散液としては、上述のTFEの乳化重合から得られた重合上がりの水性分散液であってもよいし、市販品の水性分散液であってもよい。また、マイクロパウダーを界面活性剤を使うなどして水中に分散したものも使用できる。重合上がりの繊維化し得るPTFE水性分散液の好ましい作製方法としては、特開平7-165828号公報、特開平10-147617号公報、特開2006-063140号公報、特開2009-1745号公報、国際公開第2009/020187号パンフレット等に開示されている作製方法が挙げられる。市販品の繊維化し得るPTFEの水性分散液としては、ダイキン工業社製「ルブロンLDW-410」等の水性分散液が挙げられる。
また、B成分として無機フィラーを用いる場合も混合前の形態は特に限定されないが、水性分散体が好ましい。無機フィラーとしては、日本タルク株式会社製「タルクP2」、富士タルク工業社製「LMR-100」等が挙げられる。これらは適宜シランカップリング剤などによる表面処理等を施し水中に粉体を分散して用いられる。なかでも、水への分散性の理由から、ジェットミルによる2次粉砕品(「タルクP2」など)が好ましく用いられる。
C成分としては、例えば、FEP、PFAなどのフッ素樹脂の他、アクリル、ウレタン、PET等の各樹脂が挙げられる。混合前の形態は特に限定されないが水性分散体が好ましい。水性分散体は、乳化重合によって得られる樹脂の場合は、その重合上がり分散体をそのまま使えるほか、樹脂粉を界面活性剤などを使い、水分中に分散した物も使用できる。C成分は、多孔膜において0.1重量%以上20重量%未満含有されるよう、所定量が水中に分散されて水性分散体が調製される。
共凝析の方法は、特に限定されないが、3つの水性分散体を混合したのち機械的な撹拌力を作用させるのが好ましい。
凝析、共凝析後は、脱水、乾燥を行なって、液体潤滑剤(押出助剤)を混合し、押出を行う。
液体潤滑剤としては、PTFEの粉末の表面を濡らすことが可能であり、凝析、共凝析により得られた物をフィルム状に成形した後に除去可能な物質であるものであれば、特に限定されない。例えば、流動パラフィン、ナフサ、ホワイトオイル、トルエン、キシレンなどの炭化水素油、アルコール類、ケトン類、エステル類などが挙げられる。
凝析、共凝析により得られた物は、液体潤滑剤と混合された後、従来公知の方法で押出、圧延されることにより、フィルム状物に成形される。押出は、ペースト押出、ラム押出等により行えるが、好ましくはペースト押出により行われる。ペースト押出により押し出されたシート状の押出物は、加熱下、例えば40℃以上80℃以下の温度条件の下、カレンダーロール等を用いて圧延される。得られるフィルム状の圧延物の厚さは、目的の多孔膜の厚さに基づいて設定され、通常100μm以上400μm以下である。
次いで、圧延物である未焼成フィルムから液体潤滑剤が除去される。液体潤滑剤の除去は、加熱法又は抽出法により、或いはこれらの組み合わせにより行われる。加熱法による場合の加熱温度は、A~Cの3種の成分を用いる場合には繊維化しない熱溶融加工性成分の融点より低ければ特に限定されず、例えば、100℃以上250℃以下であり、180℃以上200℃以下であってもよい。
ここで、液体潤滑剤が除去された圧延物は、得られるフッ素樹脂多孔膜の充填率を低減させ、圧力損失を低減させる観点から、延伸を行う前に、250℃以上325℃以下の温度雰囲気下で1分以上加熱するという熱処理を行うことが好ましい。当該熱処理の温度は、例えば、320℃以下であってもよく、フッ素樹脂多孔膜の作製に用いられるフッ素樹脂の融点未満であることが好ましく、上記圧延物を示差走査熱量計を用いて昇温速度10℃/分の条件で昇温させた場合に結晶融解曲線上に複数の吸熱カーブ(一次融点、二次融点)が現れる場合にはより低い最大ピーク温度(一次融点)以下であってもよい。また、当該熱処理の温度は、充填率と圧力損失を十分に小さくする観点から、例えば、260℃以上であってもよく、280℃以上であってもよく、圧延物である未焼成フィルムから加熱法により液体潤滑剤を除去する場合の温度以上であってもよく、延伸温度(二軸延伸の場合には先に行われる一次延伸の温度)以上であってもよい。なお、熱処理の継続時間は、特に限定されないが、所望する熱処理の効果に応じて、例えば、1分以上2時間以下としてもよく、30分以上1時間以下としてもよい。
以上のようにして、延伸前のフッ素樹脂シートが得られる。
(1-2)フッ素樹脂シートの延伸
上述のようにして得られた延伸前のフッ素樹脂シートを、厚み方向に直交する所定の方向に延伸することで、多孔膜を得ることができる。
延伸は、第1の方向への延伸と、好ましくは第1の方向と交差ないし直交する第2の方向への延伸とを含む。フッ素樹脂シートを破断させることなく延伸後の総面積倍率を高めることができる観点およびフィブリル(繊維)の方向がそろってしまうことで膜厚が大きくならないことを抑制させる観点から、第1の方向への延伸だけでなく第2の方向への延伸も行うことが好ましい。ここで、第1の方向への延伸の後に第2の方向への延伸を行ってもよいし、第1の方向への延伸と第2の方向への延伸とが同時に実現されてもよく、第1の方向への延伸の後に第1の方向への延伸と第2の方向への延伸とが同時に実現されてもよい。本実施形態では、第1の方向は、圧延物の長手方向(縦方向:MD方向)とすることができ、第2の方向は、圧延物の幅方向(横方向:TD方向)とすることができる。なお、延伸は、複数枚のフッ素樹脂シートを重ねた状態として、同時に延伸するようにしてもよい。
ここで、第1の方向への延伸は、例えば、2倍以上20倍以下とすることができ、3倍以上10倍以下とすることが好ましい。また、第2の方向への延伸も行う場合には、第2の方向への延伸は、第1の方向への延伸の倍率より大きいことが好ましく、例えば、10倍以上50倍以下とすることができ、20倍以上45倍以下とすることが好ましく、30倍以上40倍以下とすることがより好ましい。これにより、第1の方向への延伸および第2の方向への延伸を通じて、フッ素樹脂シートを総面積倍率で40倍以上800倍以下に延伸することができる。なお、ここでいう倍数は、延伸前を基準として延伸後の状態を示すものであり、例えば、長さ1のものを長さ3となるまで延伸した場合には3倍ということになる。
なお、フッ素樹脂シートが繊維化しない熱溶融加工性成分と繊維化しない非熱溶融加工性成分を含んでいる場合には、繊維化しない熱溶融加工性成分の融点以上かつ繊維化しない非熱溶融加工性成分の分解温度以下の温度下で延伸が行われる。なお、フッ素樹脂多孔膜の作製において繊維化しない熱溶融加工性成分を用いている場合には、この延伸過程で、繊維化しない熱溶融加工性成分が溶融し、後に結節部において固まることで、多孔膜の厚み方向の強度を強化することができる。この時の延伸温度は、延伸を行う炉の温度、又は圧延物を搬送する加熱ローラの温度によって設定されてもよく、或いは、これらの設定を組み合わせることで実現されてもよい。
第1の方向への延伸時の温度は、例えば、200℃以上300℃以下とすることができ、230℃以上270℃以下であることが好ましい。また、第2の方向への延伸も行う場合には、第2の方向への延伸時の温度は、200℃以上310℃以下とすることができ、250℃以上300℃以下であることが好ましい。
なお、延伸により得られるフッ素樹脂多孔膜の充填率をより低下させる観点から、延伸を行う前にフッ素樹脂シートを予熱しておくことが好ましい。
ここで、上記圧延して得られた延伸前のフッ素樹脂シート(フッ素樹脂未焼成物ともいう)の延伸については、延伸時の温度、延伸倍率、延伸速度(延伸長さ速度および延伸割合速度を含む)が延伸物の物性に影響を与えることが知られている。フッ素樹脂未焼成物のS-Sカーブ(引張張力と伸びの関係を示すグラフ)は、他の樹脂とは異なる特異な特性を示す。通常、樹脂材料は伸びに伴って引張張力も上昇する。弾性領域の範囲、破断点などは、材料、評価条件によって異なる一方で、引張張力は、伸び量に伴って上昇傾向を示すのが極めて一般的である。これに対してフッ素樹脂未焼成物は、引張張力は、ある伸び量においてピークを示した後、緩やかな減少傾向を示す。このことは、フッ素樹脂未焼成物には、「延伸された部位よりも延伸されていない部位の方が強くなる領域」が存在することを示している。
以上の一般的な樹脂の性質により延伸時に現れる挙動を説明すると、一般的な樹脂の場合、延伸時は、延伸面内で最も弱い部分が伸び始めるが、延伸された部分の方が延伸されていない部分より強くなるため、次に弱い未延伸部が延伸されていくことで、延伸された領域が広がって、全体的に延伸される傾向がある。一方、フッ素樹脂未焼成物の性質により延伸時に現れる挙動を説明すると、フッ素樹脂未焼成物の場合、伸び始める部分が、上記「延伸された部位よりも延伸されていない部位の方が強くなる領域」に差し掛かると、既に伸びた部分が更に延伸され、この結果、延伸されなかった部分がノード(結節部、未延伸部)として残るやすい。延伸速度が遅くなると、この現象は顕著になり、ノード(結節部、未延伸部)が大きなままで残りやすい傾向がある。また、延伸速度が速くなると、ノード(結節部、未延伸部)が小さくなるようにフィブリル(繊維)が伸びる傾向がある。
このため、本実施形態では、フッ素樹脂シートを所定延伸方向に延伸する最中に、所定延伸方向における延伸長さ速度(m/min)を上げるようにしている。これにより、先に、比較的遅い延伸長さ速度(m/min)での延伸が行われることで、まず、主としてフィブリル(繊維)を伸ばし、ノード(結節部、未延伸部)についてはかなり大きいままで残すことが可能となる。そして、後に、比較的速い延伸長さ速度(m/min)での延伸が行われることで、大きいままのノード(結節部、未延伸部)からフィブリル(繊維)が伸び出すことでフィブリル(繊維)の破断を抑制しながら延伸を行うことが可能になり、延伸を終える段階でもノード(結節部、未延伸部)が小さくなりすぎず、ノード(結節部、未延伸部)の大きさをある程度確保しやすくなる。これにより、「ノード(結節部、未延伸部)が小さくなることにより延伸後の多孔膜の厚みを大きく確保できなくなること」を抑制し、延伸後の多孔膜の厚みを大きくして、多孔膜を低密度化させることが可能となる。
上記に比べて、まず、比較的遅い延伸長さ速度(m/min)での延伸を行った後に、引き続き比較的遅い延伸長さ速度(m/min)での延伸を行うと、主としてフィブリル(繊維)が伸びる状況が続いてしまうことで、破断が生じてしまう傾向にある。
また、上記に比べて、まず、比較的速い延伸長さ速度(m/min)での延伸を行った後に、引き続き比較的速い延伸長さ速度(m/min)での延伸を行うと、初期段階で、比較的小さな多数のノード(結節部、未延伸部)が生じてしまい、その後、さらに各ノード(結節部、未延伸部)が小さくなってしまうため、得られる多孔膜の厚みを十分なものとすることができず、薄い膜になってしまい、保塵量を大きくすることができないばかりか、圧力損失の変動係数CVも大きくなりがちになってしまう。
また、上記に比べて、まず、比較的速い延伸長さ速度(m/min)での延伸を行った後に、比較的遅い延伸長さ速度(m/min)での延伸を行うと、先に、比較的小さな多数のノード(結節部、未延伸部)が生じてしまうため、その状態からさらに十分な延伸を行おうとすると、もはや、ある程度の大きさのノード(結節部、未延伸部)を残すことが難しく、多孔膜の厚みが小さくなってしまう。
以上より、本実施形態では、フッ素樹脂シートを所定延伸方向に延伸する最中に、所定延伸方向における延伸長さ速度(m/min)を上げるようにしている。ここで、所定延伸方向における延伸長さ速度(m/min)を上げるタイミングとしては、例えば、第1の方向への延伸の最中に延伸長さ速度(m/min)を上げるようにしてもよいし、第2の方向への延伸が行われる場合には第2の方向への延伸の最中に延伸長さ速度(m/min)を上げるようにしてもよいし、第2の方向への延伸が行われる場合には第1の方向への延伸の最中と第2の方向への延伸の最中とのそれぞれにおいて延伸長さ速度(m/min)を上げるようにしてもよい。なかでも、第2の方向への延伸が行われることで2段階の延伸が行われる場合には、第2の方向への延伸の最中に延伸長さ速度(m/min)を上げるようにすることが好ましい。これにより、第2の方向への延伸時に延伸長さ速度(m/min)を上げる際には、既に第1の方向への延伸が行われることで生じているノード(結節部、未延伸部)からフィブリル(繊維)を伸び出させて、第1の方向への延伸により生じていたフィブリル(繊維)の破断を抑制させつつ、十分に面積倍率を高めた延伸が可能になる。なお、第2の方向への延伸が終わった状態で得られる多孔膜には、平均寸法が直径1μmの円より大きいノード(結節部、未延伸部)が残っていることが好ましい。ここで、平均寸法が直径1μmの円より大きいノード(結節部、未延伸部)の有無は、フッ素樹脂多孔膜のSEM写真により確認することができる。例えば、フッ素樹脂多孔膜において15μm×15μmの任意の領域内に存在する複数のノード(結節部、未延伸部)の面積の平均と直径1μmの円の面積とを比較することで判断してもよい。なお、フッ素樹脂多孔膜において15μm×15μmの任意の領域内に存在する複数のノード(結節部、未延伸部)のうちの半数以上が、直径1μmの円よりも大きいことが好ましい。
なお、所定延伸方向に延伸する最中に延伸長さ速度(m/min)が上がればよく、例えば、第2の方向への延伸における延伸長さ速度(m/min)を第1の方向への延伸における延伸長さ速度(m/min)よりも上げてもよいし、上げなくてもよい。なかでも、第2の方向への延伸が行われることで2段階の延伸が行われる場合には、第2の方向への延伸が行われる際に十分な大きさのノード(結節部、未延伸部)が残るようにする観点から、第1の方向への延伸は、比較的遅い延伸長さ速度(m/min)で行われることが好ましい。第2の方向への延伸において延伸長さ速度(m/min)を上げる場合には、第1方向の延伸速度は、当該第2の方向への延伸において上げる速い延伸長さ速度(m/min)よりも遅い延伸長さ速度(m/min)の範囲で、すなわち第2の方向への延伸における最大延伸長さ速度(m/min)よりも遅い延伸長さ速度(m/min)の範囲で、行われることが好ましい。
なお、フッ素樹脂シートの延伸長さ速度(m/min)を上げる処理が延伸の最中に行われるのは、延伸処理を一度止めた後に延伸処理を再開させる等により断続的に張力を付与してしまうと、再開時にフッ素樹脂シートに急激な張力が作用してしまい、ノード(結節部、未延伸部)が小さくなってしまうおそれや破断が生じてしまうおそれがあるためである。したがって、延伸の工程においては、延伸長さ速度(m/min)が連続的に変化していることが好ましい。
また、上述のように延伸長さ速度(m/min)を上げた後は、フィブリル(繊維)における張力を緩和させて残留応力を低減させる観点から、延伸長さ速度(m/min)を連続的に、徐々に低下させながら延伸させた後に延伸を終了させることが好ましい。
特に、ロール状に巻き取られたフッ素樹脂シートについて、先に長手方向に延伸させ、その後に幅方向に延伸させる場合には、幅方向への延伸時に延伸長さ速度(m/min)を上げることが、多孔膜の生産性において好ましい。
また、上記延伸においては、延伸長さ速度(m/min)が上がるのであれば、延伸割合速度(%/min)については上がっていてもよいし、上がらなくても構わない。なお、延伸長さ速度(m/min)は、単位時間当たりの延伸方向における長さの変化の絶対値に関する速度であり、延伸割合速度(%/min)は、単位時間当たりの延伸方向における長さの変化の割合に関する速度である。
以上より、フッ素樹脂シートの所定方向への延伸のうち延伸長さ速度(m/min)を上げる前の比較的遅い速度での延伸としては、例えば、0.5(m/min)以上4.0(m/min)以下の範囲の延伸長さ速度(m/min)での延伸が0.5秒以上行われることが好ましく1.0秒以上行われることがより好ましく、1.0(m/min)以上2.0(m/min)以下の範囲の延伸長さ速度(m/min)での延伸が0.5秒以上行われることがさらに好ましく1.0秒以上行われることがより一層好ましい。また、フッ素樹脂シートの所定方向への延伸のうち延伸長さ速度(m/min)を上げた後の比較的速い速度での延伸としては、例えば、4.0(m/min)以上12.0(m/min)以下の範囲の延伸長さ速度(m/min)での延伸が1.0秒以上行われることが好ましく3.0秒以上行われることがより好ましく、6.0(m/min)以上10.0(m/min)以下の範囲の延伸長さ速度(m/min)での延伸が1.0秒以上行われることがさらに好ましく3.0秒以上行われることがより一層好ましい。また、延伸で得られるフッ素樹脂多孔膜における応力を小さく抑えるために、延伸長さ速度(m/min)を上げた状態での延伸を終えた後に、例えば、1.0(m/min)以上4.0(m/min)以下の範囲の延伸長さ速度(m/min)での延伸が0.5秒以上3.0秒以下行わることが好ましい。
こうして得られた多孔膜は、機械的強度、寸法安定性を得るために、好ましくは熱固定される。熱固定の際の温度は、250~420℃であることが好ましく、350~400℃であることがより好ましい。
なお、ロール状に巻き取られているフッ素樹脂シートは、例えば、図1に示す装置および図2、図3に示す装置を用いて延伸することができる。
ここで、図1に示す装置では、ロール状に巻き取られているフッ素樹脂シートは、ロール41としてセットされ、長手方向(縦方向)に延伸された長手方向延伸シートは巻き取りロール42において巻き取られる。なお、43~45はロールであり、46、47はヒートロールであり、48~52はロールをそれぞれ示している。
次に、長手方向延伸シートは、図2、図3に示す装置により、幅方向に延伸される。具体的には、巻き取られた長手方向延伸シートが、ロール61にセットされ、順次送り出されながら、テンター65により幅方向に延伸される。テンター65では、延伸シートの幅方向の両端がそれぞれ対向する図示しない連続クリップにより挟持された状態とされ、延伸シートが送り出されながら対向する連続クリップ同士が離れていくことで、幅方向に延伸される。連続クリップは、特定形状に調節可能なラインに沿って上流側から下流側に送られるように構成されている。なお、テンター65は、上流側の予熱領域62において延伸シートを予熱し、中間の延伸領域63では延伸シートを所定の温度に加熱した状態で幅方向への延伸を行い、下流側の熱固定領域64において延伸後のシートを熱固定することができる。熱固定を終えたフッ素樹脂多孔膜は、必要に応じて後述する通気性支持膜33と重ねられ、加熱ロール66によって熱ラミネートされることでエアフィルタ濾材30となってロール67に巻き取られる。
ここで、例えば、上述の連続クリップを送るラインの形状を変更させることにより、ロール61から送り出される延伸シートの供給速度が所定速度に維持されていても、幅方向の延伸速度(延伸長さ速度および延伸割合速度を含む)を調節することができる。例えば、幅方向への延伸の様子を示す図4の平面図に示すように、連続クリップをガイドするラインの形状は、(i)、(ii)、(iii)の各形状に変更することができる。ここで、図4においては、大きな矢印で示すように、左側から右側に向けて延伸シートが所定速度で送られていく。また、図4においては、小さな矢印で示すように、幅方向である上下方向に延伸シートが延伸されていく。ここで、例えば、対向して配置されるラインの形状が(i)で示すように、直線形状である場合には、延伸シートが送られる速度が一定の場合には、幅方向の延伸長さ速度(m/min)も一定であることになる。これに対して、対向して配置されるラインの形状が(ii)で示すように、延伸ラインの上流側の部分で互いに近くなるように配置され、延伸ラインの下流側の部分で互いに遠くなるように配置された形状である場合には、延伸シートが送られる速度が一定の場合には、幅方向の延伸長さ速度(m/min)は初期段階では比較的遅く、中間の段階で比較的速くなり、最後の段階で再び遅くなることになる。また、対向して配置されるラインの形状が(iii)で示すように、延伸ラインの上流側の部分で互いに遠くなるように配置された形状である場合には、延伸シートが送られる速度が一定の場合には、幅方向の延伸長さ速度(m/min)は初期段階では比較的速くなり、その後は比較的遅くなることになる。
なお、上記いずれの場合についても、延伸シートが送られる速度を早めることで幅方向の延伸速度を全体的に速くすることが可能となり、延伸シートが送られる速度を遅くすることで幅方向の延伸速度を全体的に遅くすることが可能とになる。
(2)フッ素樹脂多孔膜
上述のようにして作製されるフッ素樹脂多孔膜は、フィブリル(繊維)とフィブリルに接続されたノード(結節部、未延伸部)とを有する多孔質な膜構造を生じさせることが可能になる。そして、このフッ素樹脂多孔膜は、複数の箇所で気流を通過させて評価される圧力損失の均質性に優れたものとなる。
作製されるフッ素樹脂多孔膜の圧力損失の均質性は、例えば、圧力損失分布の標準偏差を平均値で除してなる変動係数CV(圧力損失の変動係数)が9.0%以下であることが好ましく、8.5%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることがさらに好ましい。これにより、圧力損失の低い部分が集中的に用いられる(圧力損失の低い部分に塵埃が集まりがちになる)という使用状態を避けることが可能になる。なお、変動係数CVの下限値は、特に限定されないが、例えば1%である。
フッ素樹脂多孔膜の圧力損失分布は、例えば、フッ素樹脂多孔膜を格子状に100個に分割し、各格子内の直径100mmの領域の圧力損失を測定することにより得られる。圧力損失の測定は、例えば、フッ素樹脂多孔膜表面に接近した状態でフッ素樹脂多孔膜の両面の測定を行うマノメータを備える測定装置を用いて、当該マノメータが各領域の下流側の表面上を定められた経路に沿って移動するよう操作させることにより行うことができる。そして、測定した各領域の圧力損失からなる圧力損失分布から標準偏差を算出し、これを、測定した全ての領域の圧力損失の平均値で割ることにより、変動係数CV(%)を求めることができる。なお、フッ素樹脂多孔膜の大きさは、特に制限されないが、例えば、長手方向長さが100~1000m、幅方向長さが600~2000mmである。
なお、フッ素樹脂多孔膜を、原料として上述の3成分を用いて作製した場合には、フィブリルは主にA成分から構成され、結節部はA~Cの成分から構成される。このような結節部は、多孔膜中で比較的大きく形成され、これにより厚みの厚い多孔膜が成形される。また、このような結節部は、繊維化しない熱溶融加工可能な成分を含むことで比較的固く、多孔膜を厚み方向に支える柱のような役割を果たすため、通気性支持膜の積層や、プリーツ加工などの後工程において厚み方向の圧縮力等を受けることがあっても多孔膜のフィルタ性能が低下することを抑えることが可能になる。
フッ素樹脂多孔膜の膜厚は、例えば、1.0μm以上とすることができ、10.0μm以上であることが好ましく、50.0μm以上であることがより好ましい。フッ素樹脂多孔膜の膜厚を大きくすることにより、保塵量を増加させることが可能になる。また、フッ素樹脂多孔膜の膜厚は、例えば、100.0μm以下である。なお、膜厚が薄い場合には、多孔膜における複数の箇所における圧力損失の均質性がより問題となりやすいが、その場合であっても、上述のようにして作製された多孔膜では、圧力損失の均質性に優れる。なお、フッ素樹脂多孔膜の厚みは、例えば、膜厚計(1D-110MH型、ミツトヨ社製)を使用し、測定対象を5枚重ねて全体の膜厚を測定し、その値を5で割った数値を1枚の膜厚として把握することができる。
フッ素樹脂多孔膜は、粒子径0.1μmのNaCl粒子を含む空気を流速5.3cm/秒で通過させた時の粒子の捕集効率が、99.00%以上であってよく、99.99%以上であることが好ましい。
フッ素樹脂多孔膜は、圧力損失が、250Pa以下であることが好ましく、20Pa以上200Pa以下であることがより好ましい。
(3)通気性支持膜
上記フッ素樹脂多孔膜は、好ましくは、通気性支持膜を積層した状態で用いられる。
通気性支持膜は、フッ素樹脂多孔膜の上流側もしくは下流側または上流側と下流側の両方に積層させることができ、フッ素樹脂多孔膜を支持する。このためフッ素樹脂多孔膜の膜厚が薄い等で自立が困難であっても、通気性支持膜の支持によりフッ素樹脂多孔膜を立たせることが可能になる。また、エアフィルタ濾材としての強度が確保され、扱いやすくなる。
通気性支持膜の材質および構造は、特に限定されないが、例えば、不織布、織布、金属メッシュ、樹脂ネットなどが挙げられる。なかでも、強度、捕集性、柔軟性、作業性の点からは熱融着性を有する不織布が好ましい。不織布は、構成繊維の一部または全てが芯/鞘構造を有する不織布、低融点材料からなる繊維の層と高融点材料からなる繊維の層の2層からなる2層不織布、表面に熱融着性樹脂が塗布された不織布が好ましい。このような不織布としては、例えば、スパンボンド不織布が挙げられる。また、芯/鞘構造の不織布は、芯成分が鞘成分よりも融点が高いものが好ましい。例えば、芯/鞘の各材料の組み合わせとしては、例えば、PET/PE、高融点ポリエステル/低融点ポリエステルが挙げられる。2層不織布の低融点材料/高融点材料の組み合わせとしては、例えば、PE/PET、PP/PET、PBT/PET、低融点PET/高融点PETが挙げられる。表面に熱融着性樹脂が塗布された不織布としては、例えばPET不織布にEVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)が塗布されたもの、PET不織布にオレフィン樹脂が塗布されたものが挙げられる。
不織布の材質は、特に限定されず、ポリオレフィン(PE、PP等)、ポリアミド、ポリエステル(PET等)、芳香族ポリアミド、またはこれらの複合材などを用いることができる。
通気性支持膜は、加熱により通気性支持膜の一部が溶融することで、或いはホットメルト樹脂の溶融により、アンカー効果を利用して、或いは反応性接着剤等の接着を利用して、フッ素樹脂多孔膜に接合することができる。
通気性支持膜は、上述したフッ素樹脂多孔膜と比較すると、圧力損失、捕集効率および保塵量のいずれも極めて低く、実質的に0とみなすこともできるものであってもよい。通気性支持膜の圧力損失は、例えば、10Pa以下であることが好ましく、5Pa以下であることがより好ましく、1Pa以下であることがさらに好ましい。また、通気性支持膜の粒子径0.1μmのNaClの各捕集効率は、例えば、実質的に0あるいは略0とみなすことができるものであってもよい。通気性支持膜の厚みは、例えば、0.3mm以下であることが好ましく、0.25mm以下であることがより好ましい。通気性支持膜の目付は、例えば、20g/m2以上50g/m2以下であることが好ましい。
(4)エアフィルタ濾材
エアフィルタ濾材は、フッ素樹脂多孔膜を備えているが、その具体的な層構成は、特に限定されるものではなく、例えば、以下に示すものを例示することができる。
例えば、図5に示すエアフィルタ濾材30のように、フッ素樹脂多孔膜31と通気性支持膜33が、空気流れ方向において積層されて構成されるものであってもよい。通気性支持膜33は、フッ素樹脂多孔膜31の風下側に設けられていてもよいし、風上側に設けられていてもよいし、風下側と風上側の両方に設けられていてもよい。
なお、フッ素樹脂多孔膜は、同一の物性のものまたは異なる物性のものを互いに積層して用いてもよい。
また、これらの各膜や層等の重ね合わせの仕方は、特に限定されず、加熱による一部溶融又はホットメルト樹脂の溶融によるアンカー効果を利用した貼り合わせであってもよいし、反応性接着剤等を用いた貼り合わせであってもよいし、単に重ね置くだけであってもよい。なお、貼り合わせにより各膜や層の厚みは実質的に変化しない。
なお、上記のいずれのエアフィルタ濾材についても、エアフィルタ濾材としての圧力損失の変動係数CV(エアフィルタ濾材の圧力損失分布の標準偏差を平均値で除してなる変動係数CV)は、上述のフッ素樹脂多孔膜の変動係数CVと同様に、9.0%以下であることが好ましく、8.5%以下であることがより好ましく、8.0%以下であることがさらに好ましい。なお、エアフィルタ濾材としての圧力損失の変動係数CVの下限値は、特に限定されないが、例えば1%である。
また、エアフィルタ濾材の圧力損失は、特に限定されないが、例えば、300Pa以下であることが好ましく、20Pa以上250Pa以下であることがより好ましい。
また、エアフィルタ濾材のPF値は、26.0以上であることが好ましい。
また、エアフィルタ濾材としては、厚みは、特に限定されないが、例えば、50μm以上1000μm以下であり、400μm以上800μm以下であることが好ましい。
(5)フィルタパック
次に、図6を参照して、本実施形態のフィルタパックについて説明する。
図6は、本実施形態のフィルタパック20の外観斜視図である。
フィルタパック20は、上記説明したエアフィルタ濾材(例えば、エアフィルタ濾材30)を備えている。フィルタパック20のエアフィルタ濾材は、山折りおよび谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状に加工(プリーツ加工)された加工済み濾材である。プリーツ加工は、例えば、ロータリー式折り機によって行うことができる。濾材の折り幅は、特に限定されないが、例えば25mm以上280mm以下である。フィルタパック20は、プリーツ加工が施されていることで、エアフィルタユニットに用いられた場合の濾材の折り込み面積を増やすことができ、これにより、捕集効率の高いエアフィルタユニットを得ることができる。
フィルタパック20は、濾材のほか、エアフィルタユニットに用いられた場合のプリーツ間隔を保持するためのスペーサ(不図示)をさらに備えていてもよい。スペーサの材質は特に限定されないが、ホットメルト樹脂を好ましく用いることができる。また、エアフィルタ濾材30が複数のエンボス突起を有しており、当該エンボス突起によってプリーツ間隔が保持されていてもよい。
(6)エアフィルタユニット
次に、図7を参照して、エアフィルタユニット1について説明する。
図7は、本実施形態のエアフィルタユニット1の外観斜視図である。
エアフィルタユニット1は、上記説明したエアフィルタ濾材またはフィルタパックと、エアフィルタ濾材またはフィルタパックを保持する枠体25と、を備えている。言い換えると、エアフィルタユニットは、山折り谷折されていない濾材が枠体に保持されるように作製されてもよいし、フィルタパック20が枠体25に保持されるように作製されてもよい。図7に示すエアフィルタユニット1は、フィルタパック20と枠体25を用いて作製したものである。
枠体25は、例えば、板材を組み合わせてあるいは樹脂を成形して作られ、フィルタパック20と枠体25の間は好ましくはシール剤によりシールされる。シール剤は、フィルタパック20と枠体25の間のリークを防ぐためのものであり、例えば、エポキシ、アクリル、ウレタン系などの樹脂製のものが用いられる。
フィルタパック20と枠体25とを備えるエアフィルタユニット1は、平板状に延在する1つのフィルタパック20を枠体25の内側に収納するように保持させたミニプリーツ型のエアフィルタユニットであってもよく、平板状に延在するフィルタパックを複数並べて枠体に保持させたVバンク型エアフィルタユニットあるいはシングルヘッダー型エアフィルタユニットであってもよい。
(7)用途の例
本実施形態に係るエアフィルタ濾材の製造方法により製造されるエアフィルタ濾材、フィルタパック、エアフィルタユニットは、例えば次のような用途に用いられる。
ULPAフィルタ(Ultra low Penetration Air Filter)(半導体製造用)、HEPAフィルタ(病院、半導体製造用)、円筒カートリッジフィルタ(産業用)、バグフィルタ(産業用)、耐熱バグフィルタ(排ガス処理用)、耐熱プリーツフィルタ(排ガス処理用)、SINBRAN(登録商標)フィルタ(産業用)、触媒フィルタ(排ガス処理用)、吸着剤付フィルタ(HDD組込み用)、吸着剤付ベントフィルタ(HDD組込み用)、ベントフィルタ(HDD組込み用等)、掃除機用フィルタ(掃除機用)、汎用複層フェルト材、ガスタービン用カートリッジフィルタ(ガスタービン向け互換品用)、クーリングフィルタ(電子機器筐体用)等の分野。
凍結乾燥用の容器等の凍結乾燥用材料、電子回路やランプ向けの自動車用換気材料、容器キャップ向け等の容器用途、電子機器向け等の保護換気用途、医療用換気用途等の換気/内圧調整分野。
以下、実施例および比較例を示して、本開示の内容を具体的に説明する。
(実施例1)
平均分子量650万のPTFEファインパウダー(ダイキン工業株式会社製「ポリフロンファインパウダーF106」)1kg当たり押出液状潤滑剤として炭化水素油(出光興産株式会社製「IPソルベント2028」)を20℃において290g加えて混合した。次に、得られた混合物をペースト押出装置を用いて押し出して丸棒形状の成形体を得た。この丸棒形状の成型体を70℃に加熱したカレンダーロールによりシート状に成形しフッ素樹脂シートを得た。このフッ素樹脂シートを250℃の熱風乾燥炉に通して炭化水素油を蒸発除去し、平均厚さ200μm、平均幅150mmの帯状の未焼成のフッ素樹脂シートを得た。
次に、未焼成のフッ素樹脂シートを、長手方向に延伸倍率5倍で延伸した。長手方向の延伸における延伸温度は250℃であった。ここで、長手方向への延伸割合速度(%/s)は、150(%/s)であった。
次に、延伸した未焼成のフッ素樹脂シートを、連続クリップできるテンターを用いて、幅方向に延伸倍率36倍で延伸した。幅方向の延伸における延伸温度は290℃であった。
ここで、実施例1では、テンターのライン形状を所定のなだらかな湾曲形状に調節することにより、対向した連続クリップが幅方向に向けて互いに離れる長さ速度に対応した「幅方向の延伸長さ速度(m/min)」と、対向した連続クリップが幅方向に向けて互いに離れる割合速度に対応した「幅方向の延伸割合速度(%/s)」と、のそれぞれについて、初期、中期、後期の段階毎に、以下の表1に示す条件となるようにして延伸を行った。なお、連続クリップがテンターのライン上を移動する移動速度(縦横の両成分を含む)は15(m/min)であった。
ここで、各表における初期、中期、後期は、幅方向の延伸の段階を3つに分けたものである。初期とは、延伸を開始してから所定時間までの期間であり、後期とは、延伸の終了時点から所定時間前から延伸の終了時までの期間であり、実施例1~3、比較例1では、いずれも2秒としている。また、中期とは、延伸を開始する時点から延伸を終了する時点までの間の中間の時点を含む期間であり、実施例1~3、比較例1では2.5秒(中間の時点の前後1.25秒)としている。例えば、実施例1の初期の段階における幅方向の延伸長さ速度(m/min)は、2秒の間に対向した連続クリップが互いに離れた距離を用いて、当該距離を2秒で除することで算出している。
なお、いずれの実施例、比較例においても、幅方向の延伸工程における加速度が常時-0.08(m/s2)以上0.08(m/s2)以下の範囲に維持されていた。
さらに、延伸を終えたフッ素樹脂シートについて、熱固定を行った。熱固定温度は390℃(シート周囲の雰囲気温度)であった。これにより、フッ素樹脂多孔膜を得た。なお、実施例1について、得られたフッ素樹脂多項膜のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を図8に示す。ここでは、フッ素樹脂多孔膜において平均寸法が直径1μmの円より大きいノード(結節部、未延伸部)が形成されていることを確認した。
得られたフッ素樹脂多孔膜の両面に対して、ラミネート装置を用いて熱融着により通気性支持膜を接合させ、エアフィルタ濾材を得た。この各通気性支持膜としては、PETを芯に、PEを鞘に用いた芯/鞘構造の繊維からなるスパンボンド不織布(平均繊維径24μm、目付け40g/m2、厚さ0.2mm)を用いた。
こうして得られたエアフィルタ濾材について、圧力損失および捕集効率を測定し、PF値を算出した。また、圧力損失の変動係数CVを測定した。なお、実施例1のエアフィルタ濾材の厚みは、10.0μmであった。
(実施例2)
実施例2では、テンターのライン形状を実施例1とは変えて調節することにより、「幅方向の延伸長さ速度(m/min)」、「幅方向の延伸割合速度(%/s)」のそれぞれについて、初期、中期、後期の段階毎に、以下の表2に示す条件となるようにして延伸を行った点以外は、実施例1と同様とした。
(実施例3)
実施例3では、テンターのライン形状を実施例1、2とは変えて調節することにより、「幅方向の延伸長さ速度(m/min)」、「幅方向の延伸割合速度(%/s)」のそれぞれについて、初期、中期、後期の段階毎に、以下の表3に示す条件となるようにして延伸を行った点以外は、実施例1と同様とした。
(比較例1)
比較例1では、テンターのライン形状を、下流側ほど連続クリップが離れるように、直線形状とすることにより、「幅方向の延伸長さ速度(m/min)」、「幅方向の延伸割合速度(%/s)」のそれぞれについて、初期、中期、後期の段階毎に、以下の表4に示す条件となるようにして延伸を行った点以外は、実施例1と同様とした。
(比較例2)
比較例2では、テンターのライン形状を比較例1と同様としつつ、テンターのライン上の連続クリップの移動速度を比較例1の場合よりも早めることにより、「幅方向の延伸長さ速度(m/min)」、「幅方向の延伸割合速度(%/s)」のそれぞれについて、初期、中期、後期の段階毎に、以下の表5に示す条件となるようにして延伸を行った点以外は、比較例1と同様とした。具体的には、実施例1~3、比較例1では、連続クリップがテンターのライン上を移動する速度(縦横の両成分を含む)は15(m/min)であったが、比較例2では、連続クリップがテンターのライン上を移動する速度(縦横の両成分を含む)を20(m/min)とした。
なお、実施例および比較例において測定した各物性は、以下の通りである。
(エアフィルタ濾材の圧力損失)
フッ素樹脂多孔膜を有するエアフィルタ濾材から有効面積を100cm2とした円形状の試験サンプルを取り出し、円筒形状のフィルタ濾材ホルダに試験サンプルをセットし、コンプレッサーで入口側を加圧し、空気の濾材通過速度が5.3cm/秒になるように空気の流れを調整し、試験サンプルの上流側及び下流側でマノメータを用いて圧力を測定し、上下流間の圧力の差を圧力損失として求めた。
(エアフィルタ濾材の捕集効率(粒径0.1μmのNaCl粒子))
JIS B9928 附属書5(規定)NaClエアロゾルの発生方法(加圧噴霧法)記載の方法に準じて、アトマイザーで発生させたNaCl粒子を、静電分級器(TSI社製)で、粒径0.1μmに分級し、アメリシウム241を用いて粒子帯電を中和した後、透過する流量を5.3cm/秒に調整し、パーティクルカウンター(TSI社製、CNC)を用いて、測定試料である濾材の前後での粒子数を求め、次式により捕集効率を算出した。
捕集効率(%)=(CO/CI)×100
CO=測定試料が捕集したNaCl 0.1μmの粒子数
CI=測定試料に供給されたNaCl 0.1μmの粒子数
(エアフィルタ濾材のPF値)
エアフィルタ濾材のPF値は、上記捕集効率および圧力損失と以下の関係式を用いて算出した。
PF値={-log((100-捕集効率(%))/100)}/(圧力損失(Pa)/1000)
(エアフィルタ濾材の圧力損失の変動係数)
ロール状に巻き取られた長尺の濾材(幅方向長さ650mm)から、先端部を含む5m程度の部分を引き出し、濾材の長手方向に200mmごとに25個に分割しかつ幅方向に両端部を除き130mmごとに4個に分割してなる格子状の100箇所について直径100mmのフィルタホルダを用いて圧力損失を測定した。ここでの圧力損失の測定は、濾材の幅方向に5個以上のフィルタホルダを備える測定装置を用いて、上記濾材を長手方向に移動させて複数の格子状の箇所について連続して測定することにより行った。次いで、これら測定した圧力損失からなる圧力損失分布から標準偏差を求め、求めた標準偏差を、測定した全ての箇所の圧力損失の平均値で割ることにより、変動係数(%)を求めた。
各実施例および各比較例のエアフィルタ濾材の物性を、以下の表に示す。
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。