JP7255792B2 - 匂い表現予測システム、及び匂い表現予測カテゴライズ方法 - Google Patents
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Description
特許文献1の匂い識別システムは、測定対象物を収容し、測定対象物から発生する匂い分子を含んだ空気を閉じ込める容器を有する匂い導入部と、匂い導入部で閉じ込めた空気の中から匂い分子を選別し、濃縮する匂い選別素子部とを備えている。そして、この匂い識別システムは、匂い選別素子部に、分子サイズの違いにより匂い分子を選別し、吸着し、蓄積する分子サイズフィルタと、極性の違いにより匂い分子を選別し、吸着し、蓄積する極性フィルタと、この極性フィルタ及び分子サイズフィルタに蓄積した匂い分子を揮発させる匂い脱離手段とが配設されている。
この匂い識別システムは、分子サイズの違いにより匂い分子を選別等する分子サイズフィルタ及び、極性の違いにより匂い分子を選別等する極性フィルタを含むため、匂い分子の分子サイズ、極性という2つの特徴をパラメータとして捉えることができ、これらの2つの化学的特徴に基づいて匂い分子を特定することができる。
官能評価は、記録用紙に評価を記述する記述型の記録方法やボイスレコーダへ音声を吹き込む音声型の記録方法によって実施されていることが多い。例えば、記述型の記録方法では、匂いの評価者が対象物である飲食物の匂いを嗅いだ後、「良い・普通・悪い」の項目の中から評価を選択する。
しかし、飲食物には、様々な材料や調味料などが混合されているため、評価者(以下、パネリストとも記す。)が適切な言葉で匂いを表現することは困難である。
また、評価者は、匂いを表現する言葉(以下、匂い表現とも記す。)をリアルタイムで記録しなくてはいけない場合がある。しかし、適切な匂い表現を直ぐに記録するためには訓練を要し、ある一定の基準を満たす評価者となるまでには、時間を要する。
また、評価者は、何十種類の飲食物の匂い表現を記録することがあるため、対象物の匂いを判別する時間を短縮することが望まれている。さらに、匂い表現は、主観的な感覚であるため、匂いを評価する表現はパネリストの個人差が生じてしまうという問題がある。
例えば、官能評価のパネリスト(評価者)が、本発明に係る匂い表現予測システムを使用する場合、提供された匂い表現の中から、パネリストの嗅覚から連想される表現を迅速に選択できる。また、パネリストとして訓練を受けていない利用者が使用する場合でも、パネリストに頼らずに適切な匂い表現を選択することができる。
本発明に係る匂い表現予測システムは、対象物の匂い成分の分子化合物に基づいて匂い表現を客観的に予測するものである。この匂い表現予測システムは、利用者の嗅覚には頼らず、対象物からの匂い成分に基づいて匂い表現を予測する場合や利用者の嗅覚から連想される匂い表現を提供する場合に使用できる。
嗅覚による官能評価(検査)の対象物は、飲食物、香水、香料、化粧品、環境物質などが挙げられ、本実施形態では、飲食物を対象とした例について説明する。
機械学習装置3は、GC-O装置2によって特定された匂い物質の化合物分子の物理化学的パラメータ情報を取得する分子情報取得手段5と、この分子情報取得手段5で取得された情報を基に、機械学習処理によって、分子パラメータ情報に絞り込む分子パラメータ情報絞り込み手段6と、分子情報絞り込み手段6で絞り込まれた分子パラメータ情報に基づいて、匂い表現を予測する匂い表現予測手段7とを有している。
GC-O装置2では、対象物Sの各匂い成分の化合物分子が特定される。GC-O装置2では、匂い成分に含まれる各化合物分子が分離され、クロマトグラフ8としてモニタ4に表示される。また、各化合物分子(あるいは、各化合物分子の分子構造)は、質量分析計2B(マススペクトル)から算出され、匂い成分に含まれる各化合物分子が特定される。モニタ4のクロマトグラフ8のピークには、そのピークに対応する化合物分子の物質名及び匂い表現がそれぞれ表示される。
GC-O装置2で特定された匂い成分の化合物分子の各物質情報(物質名等)は、機械学習装置3の分子情報取得手段5に伝達される。
なお、GC-O装置2には、嗅覚部2Aが備えられており、この嗅覚部2Aを介して、利用者は、対象物Sから発生する匂い成分の各化合物分子の匂いを嗅ぐことができる。
分子情報取得手段5では、GC-O装置2から伝達された匂い成分の化合物分子の物質名に対応する複数の分子パラメータ情報が取得される。
具体的には、GC-O装置2から伝達された各匂い成分の化合物分子は、SMILES(Simplified molecular input line entry specification syntax)表記される。SMILES表記とは、分子の化学構造をASCII符号のアルファベットや数字で文字列化して表記したものである。
そして、このSMILES表記された情報は、分子情報計算アプリケーション5Aに伝達される。この分子情報計算アプリケーション5Aには、例えば、Dragon7.0(株式会社アフィニティサイエンス社製)を使用することができる。分子情報計算アプリケーション5Aでは、SMILES表記された情報を基に、分子の大きさや極性や官能基などに関する物理化学的な情報が算出され、これらの情報は分子データベース5Bに伝達される。
なお、分子記述子とは、分子の物理化学的特徴を表す記述表現であり、分子記述子は、例えば、官能基、分子極性、分子の大きさ、平均分子量を基に計算され、決定されている。
分子パラメータ情報絞り込み手段6(匂い表現予測アルゴリズム)は、分子情報取得手段5で取得された複数の物理化学的パラメータ情報に基づいて、複数の分子パラメータ情報に絞り込まれる。これらの分子パラメータ情報には、特徴量情報も含まれる。
分子パラメータ情報への絞り込みは、機械学習処理によって行い、例えば、1006個の物理化学的パラメータ情報を機械学習処理により、特定の分子パラメータ情報まで絞り込まれる。
機械学習処理では、データベースから、ある程度の数のサンプルデータ集合を入力してそのデータから判断基準などを抽出して、解析される。
匂い表現予測手段7では、分子パラメータ情報絞り込み手段6からの分子パラメータ情報に基づいて、匂い表現が予測される。
ここで、匂い表現とは、匂いから連想されるものを意味し、例えば文字により表現される。この匂い表現には、例えば、「Sweet(甘い)」、「Fruity(フルーツ味)」、「Wine-Like(ワイン風)」等の言葉が使用される。
まず、対象物Sであるりんご(飲食物)の匂い成分(匂い成分分子の混合物)をGC-O装置2に吸引させる。そして、GC-O装置2によって、匂い成分の混合物は、各匂い成分の化合物分子に分離され、各匂い成分の化合物分子の物質名(例えば、「酢酸ヘキシル(Hexyl acetate)」、「リモネン(Limonene)」、「α-ファルネセン(α-Farnescene)」)が特定される。各匂い成分の化合物分子の物質名は、クロマトグラフ8のピークの上側に表示される(図1)。分離された各匂い成分の化合物分子の物質名は、分子情報取得手段5に伝達される。この分子情報取得手段5では、各匂い成分の化合物分子の物質名から、匂い成分の化合物分子の分子パラメータ情報が取得される。
これらの匂い表現に関する情報は、モニタ4に伝達され、表示される。そして、評価者Pは、嗅覚部2Aを介して嗅いだ匂いによって連想した表現に適合する匂い表現を、モニタ4に表示された匂い表現の中から選択する。この場合、選択される匂い表現は、1つに限定されず、複数選択することもできる。
そして、選択された匂い表現は、モニタ4に表示されたクロマトグラフ8の匂い成分の化合物分子に対応するピークの上に表記される。例えば、「酢酸ヘキシル」のピークには「Fruity」、「リモネン」のピークには「Orange」、「α-ファルネセン」のピークには「Magnolia flower」が表示される。
本実施形態に係る匂い表現予測システム1は、利用者が対象物Sから発生する匂いに対して、より適切な匂い表現を選択することを補助するために使用される。
本実施形態に係る匂い表現予測システム1では、結果として可能性がある匂い表現がモニタ4に複数表示される。そうすると、評価者Pは、それらの匂い表現の中から、連想する匂い表現と同一、あるいは連想する匂い表現に近い匂い表現を選択できる可能性がおおきくなる。また、評価者Pは、モニタ4の表示を見ながら選択できる。そのため、匂い表現の選択に時間がかからない。
したがって、評価者Pは、適切な匂い表現が浮かばない場合でも、匂い表現システム1によって、適切な匂い表現を迅速に選択でき、飲食物の官能評価の効率を高めることができる。
そうすると、訓練時間が短く未熟な評価者であっても、匂い表現の中から、熟練された評価者と同等の匂い表現を選択することができる。
したがって、適切な匂いを表現する訓練を短時間で行うことができ、短期間で官能評価の評価者Pを育成できる。
そのため、ボイスレコーダを使用して官能評価をする場合と比較し、官能評価結果を短時間で容易に知ることができる。
本実施形態に係る匂い表現予測システム10は、第一実施形態に係る匂い表現予測システム1における匂い表現予測手段7において、共起に基づく情報を利用した匂い表現単語カテゴライズ分析によって生成された、複数の匂い表現クラスタリングによって予測することが相違する。以下、匂い表現予測システム1と相違する点を中心に、本実施形態に係る匂い表現予測システム10を説明する。
なお、分子パラメータ情報への絞り込みは、多数の物理化学的パラメータ情報を機械学習処理によって行うこともできる。
手段7では、匂い表現単語カテゴライズ分析を実施する。この匂い表現単語カテゴライズ分析では、匂い表現単語の共起に基づく分類(Jaccard係数行列)(手法1)、他の匂い表現単語との共起分布の類似性に基づく分類(共起分布行列)(手法2)を実施した。
共起分類の正解率は、約65%から97%であったことから、本実施形態で実施した匂い表現の共起分類の精度は、高いことが判る。
さらに、図4に示すように、匂い表現クラスタ数を「16」(C1からC16)と決定し、共起分類の精度を調べたところ、正解率(Acc)は、約72%から96%であった。
これらのことから、共起分類を利用することで、クラスタの中で最も一般的に共起されている単語(匂い表現)を決定し、匂い表現クラスタを作成できることが判った。
手法1において、匂い表現クラスタリングは、[数1]に示す共起行列式を用いて、単語の特徴ベクトルを算出した後、階層的クラスタ分析(hclust)及び非階層的クラスタ分析(K-means)を実施した。
手法2において、匂い表現クラスタリングは、[数2]に示す共起分布行列を用いて、匂い表現単語の近似性(ベクトル空間の距離)を算出した後、手法1と同様に、階層的クラスタ分析(hclust)及び非階層的クラスタ分析(K-means)を実施した。
Cij:匂い表現単語TiとTjが同じにおい分子において共起した回数
Pi:匂い表現単語Tiの平均分布確率(各表現単語を有するおい分子の数を求め、全てのにおい分子の数を除すことにより、匂い表現単語Tiの平均分布確率Piとなる)
Si:匂い表現単語Tiにおける他の総共起回数(匂い表現単語TiとTjにおいて、同じにおい分子において共起した回数を求めて共起行列Ci.jを作成し、単語Tiの他の単語の総共起回数Siを算出する)
本実施形態では、飲食物の官能評価におけるパネリストが使用する例について説明したが、この匂い表現予測システム1は、飲食物の官能評価に使用する場合に限定されず、匂いを表現する作業を伴う評価に使用することができる。
また、匂い表現は、感覚が表現されるものであればよいため、文字に限定されず、例えば、記号、色彩、模様、音、温度、光度、及びこれらの組み合わせとすることもできる。
2 ガスクロマトグラフィオルファクトメトリー装置(GC-O装置)
2A 嗅覚部
2B 質量分析計
3 ガスクロマトグラ-フィオルファクトメトリー機械学習装置(機械学習装置)
4 モニタ(匂い表現提供手段)
5 分子情報取得手段
5A 分子情報計算アプリケーション
5B 分子情報データベース
6 分子パラメータ情報絞り込み手段
7 匂い表現予測手段
8 クロマトグラフ
P 評価者
S 対象物
Claims (5)
- 対象物から生じる匂い物質に基づいて、匂い表現を予測する匂い表現予測システムであって、
前記対象物の前記匂い物質を特定する匂い物質特定手段と、
特定された前記匂い物質の化合物分子の物理化学的パラメータ情報を取得する分子情報取得手段と、
取得された前記化合物分子の物理化学的パラメータ情報を基に、機械学習処理によって、分子パラメータ情報に絞り込む分子パラメータ情報絞り込み手段と、
絞り込まれた前記分子パラメータ情報に基づき、前記匂い表現を予測する匂い表現予測手段と、
予測された前記匂い表現を提供する匂い表現提供手段と、を備える、
ことを特徴とする匂い表現予測システム。 - 前記匂い表現提供手段は、モニタであり、予測された前記匂い表現が前記モニタに表示され、
利用者が、前記対象物の匂いから連想される表現を、予測された前記匂い表現の中から選択できる、
ことを特徴とする請求項1に記載の匂い表現予測システム。 - 前記匂い物質特定手段は、ガスクロマトグラフィー質量分析オルファクトメトリー(GC/MS-O)である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の匂い表現予測システム。 - 予測された前記匂い表現は、文字、記号、色彩、模様、音、温度、及び光度の少なくとも1つから構成される、
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の匂い表現予測システム。 - 匂い表現予測システムに利用される匂い表現カテゴライズ方法であって、
化合物分子の物理化学的パラメータ情報を基に、分子パラメータ情報を算出する分子パラメータ情報算出過程と、
算出された前記分子パラメータ情報に基づき、機械学習処理によって、類似性を有する匂い表現クラスタを複数生成し、匂い表現をカテゴライズする匂い表現カテゴライズ過程と、を含む、
ことを特徴とする匂い表現カテゴライズ方法。
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