エンジンと自動変速機とを備えたパワートレイン装置が搭載された車両では、エンジン始動時にスタータモータなどのモータによってエンジンがクランキングされ、所定のタイミングでエンジンに燃料が供給されて着火され、エンジン回転数がアイドル回転数まで上昇されたときなどに完爆されることでエンジン始動が完了され、アイドル運転に移行されることが行われている。
エンジンに連結された自動変速機は、エンジン始動時、複数の摩擦締結要素が解放状態とされてエンジンから駆動輪に動力を伝達しないニュートラル状態に維持されている。そして、エンジン始動後の車両発進時に、1速の変速段を形成する摩擦締結要素が締結されることでエンジンから自動変速機の動力伝達経路を通じて駆動輪に動力が伝達されるようになっている。
ところで、エンジンが搭載された車両では、エンジンの各気筒における間欠的な爆発に起因してエンジンの出力軸にトルク変動が生じ、例えば直列4気筒4サイクルエンジンではエンジンの出力軸が1回転する間に2回のトルク変動が生じ、このトルク変動がエンジンから自動変速機に伝達されることとなる。このトルク変動は、特にエンジン回転数が低いエンジン始動時における燃料の着火から完爆までの間において大きくなる。
エンジン始動時、自動変速機は、ニュートラル状態とされ、エンジンから駆動輪に動力を伝達する動力伝達経路を形成する複数の回転要素のうち、エンジンに接続される入力部材に連結された回転要素と駆動輪に接続される出力部材に連結された回転要素とを除く非拘束状態(フリー状態)とされる複数の回転要素を有している。
自動変速機がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる複数の回転要素は、停止又は他の回転要素の回転に伴って回転されることとなるが、流体伝動装置を設けることなくエンジンに連結された自動変速機の入力部材側からエンジンのトルク変動が伝達されると回転要素自体もトルク変動されるようになる。
近年、自動変速機の変速段が多段化する傾向がある。自動変速機の多段化に伴って遊星歯車機構や摩擦締結要素の数が多くなると、各回転要素の重量が大きくなって自動変速機がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる回転要素の慣性質量が大きくなることがある。
自動変速機がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる遊星歯車機構の回転要素の慣性質量が大きくなると、自動変速機の入力部材側にある遊星歯車機構の入力要素からエンジンのトルク変動が伝達されるときに前記回転要素が反力要素となって自動変速機の出力部材側にある遊星歯車機構の出力要素にトルク変動が伝達され、自動変速機の出力部材側にトルク変動が伝達されるおそれがある。
エンジンのトルク変動が自動変速機の出力部材側に伝達されると、自動変速機の出力部材から駆動輪に伝達されて車体の振動を引き起こすおそれがある。特に、エンジン始動時にはエンジンのトルク変動が大きいことから、エンジンのトルク変動が自動変速機の出力部材側に伝達されて車体の振動を引き起こすおそれがある。
エンジンと自動変速機との間にモータが設けられてエンジン及びモータの少なくとも一方によって駆動輪が駆動されるハイブリッド車両においても、エンジン始動時にエンジンのトルク変動が自動変速機の出力部材側に伝達されて車体の振動を引き起こすおそれがある。
自動変速機では、燃費性能等の観点から、エンジンとの間に流体伝動装置を設けることなく、発進時に1速の変速段で締結される少なくとも1つの発進用摩擦締結要素、好ましくは発進用ブレーキをスリップ制御することにより円滑な発進を実現することが考えられているが、かかる自動変速機を備えたパワートレイン装置が搭載された車両についても、エンジン始動時にエンジンのトルク変動が自動変速機の出力部材側に伝達されて車体の振動を引き起こすおそれがある。
また、エンジン始動時にはスタータモータによって150rpmなどの所定紅ランキング回転数まで上昇された後にエンジンに燃料が供給されて着火され、エンジン回転数が800rpmなどの所定アイドル回転数まで上昇されて完爆されることが一般に行われているが、エンジンから駆動輪に至る駆動系がエンジンのトルク変動に共振する400rpmなどの所定共振回転数においてエンジンのトルク変動が自動変速機の出力部材側に伝達されると車体が大きく振動するおそれがある。
そこで、本発明は、エンジンと自動変速機とを備えた車両のパワートレイン装置において、エンジン始動時に自動変速機の出力側に伝達されるエンジンのトルク変動を抑制することを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
まず、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンと、複数の遊星歯車機構及び複数の摩擦締結要素を有して前記エンジンから駆動輪に動力を伝達する動力伝達経路を形成する自動変速機とを備えた車両のパワートレイン装置であって、前記自動変速機は、前記エンジンに流体伝動装置を介することなく連結され、前記エンジンを回転させるモータを備え、前記エンジンは、エンジン始動時に、前記モータによって、前記エンジンから前記駆動輪に至る駆動系が共振する所定共振回転数より高回転且つ所定アイドル回転数より低回転である所定クランキング回転数までエンジン回転数が上昇された後に始動され、前記エンジンと前記自動変速機との間に、油圧の非供給時に締結されて油圧の供給時に解放されるクラッチが設けられ、前記クラッチは、エンジン始動時に前記モータによってエンジン回転数が上昇されるときからエンジン始動後まで締結されていることを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記自動変速機は、ニュートラル状態にあるときに、前記動力伝達経路を形成する複数の回転要素のうち入力部材に連結された回転要素と出力部材に連結された回転要素とを除く複数の回転要素が非拘束状態となるように構成され、前記複数の回転要素は、前記複数の摩擦締結要素のうち所定のブレーキの回転要素を含み、前記所定のブレーキは、エンジン始動時における燃料供給前に締結されることを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の発明において、前記所定のブレーキは、エンジン始動時における燃料供給前に締結されると共にエンジン始動後においても締結されていることを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3の何れか1項に記載の発明において、前記モータは、前記エンジンと前記自動変速機との間に前記エンジンを回転させると共に前記駆動輪を駆動させるように設けられ、前記エンジンと前記モータとの間に、油圧の非供給時に締結されて油圧の供給時に解放されるクラッチと前記エンジンから前記モータにのみ動力を伝達するワンウェイクラッチとが並列に設けられ、前記車両のパワートレイン装置は、前記エンジン及び前記モータの少なくとも一方によって前記駆動輪が駆動されるハイブリッド車両のパワートレイン装置であることを特徴とする。
本願の請求項1に記載の発明によれば、エンジンと自動変速機とを備えた車両のパワートレイン装置に、エンジンを回転させるモータが備えられ、エンジンは、エンジン始動時に、モータによって、エンジンから駆動輪に至る駆動系が共振する所定共振回転数より高回転且つ所定アイドル回転数より低回転である所定クランキング回転数までエンジン回転数が上昇された後に始動される。
これにより、エンジン回転数が前記駆動系の共振回転数より低回転でエンジンが始動される場合に比して、エンジン始動開始時のエンジン回転数とアイドル回転数との回転数差を小さくしてエンジン始動時に自動変速機に入力されるエンジンのトルク変動を低減し、エンジン始動時に自動変速機の出力側に伝達されるエンジンのトルク変動を抑制することができる。また、エンジン始動時にエンジンのトルク変動に共振して前記駆動系の振動が大きくなることを抑制することができる。
したがって、エンジンと自動変速機とを備えた車両のパワートレイン装置において、自動変速機がニュートラル状態であるときに非拘束状態とされる回転要素の慣性質量が大きい場合においても、エンジン始動時に自動変速機の出力側に伝達されるエンジンのトルク変動を抑制することができる。
また、エンジンと自動変速機との間に、油圧の非供給時に締結されて油圧の供給時に解放されるクラッチが設けられ、クラッチは、エンジン始動時にモータによってエンジン回転数が上昇されるときからエンジン始動後まで締結されていることにより、エンジンと自動変速機との間にノーマルクローズタイプのクラッチが設けられる場合に、エンジン始動時に自動変速機の出力側に伝達されるエンジンのトルク変動を抑制することができる。
また、請求項2に記載の発明によれば、自動変速機がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる複数の回転要素は、所定のブレーキの回転要素を含み、所定のブレーキは、エンジン始動時における燃料供給前に締結される。
これにより、自動変速機がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる所定のブレーキの回転要素を含む回転要素がエンジン始動時における燃料供給前に固定されるので、所定のブレーキが締結されない場合に比して、エンジン始動時にエンジンのトルク変動が自動変速機に入力されるとき、エンジンのトルク変動に対する反力要素となる回転要素の慣性質量が低減され、エンジン始動時に自動変速機の出力側に伝達されるエンジンのトルク変動を抑制することができる。
また、請求項3に記載の発明によれば、所定のブレーキは、エンジン始動時における燃料供給前に締結されると共にエンジン始動後においても締結されていることにより、エンジン始動後においても、エンジンのトルク変動に対する反力要素となる回転要素の慣性質量が低減され、自動変速機の出力側に伝達されるエンジンのトルク変動を抑制することができる。
また、請求項4に記載の発明によれば、エンジンと自動変速機との間にモータが設けられ、エンジンとモータとの間にクラッチとワンウェイクラッチとが並列に設けられ、車両のパワートレイン装置は、エンジン及びモータの少なくとも一方によって駆動輪が駆動されるハイブリッド車両のパワートレイン装置である。
これにより、ハイブリッド車両のパワートレイン装置において、モータによってクラッチを介してエンジンを始動させると共にエンジン始動後はエンジンからワンウェイクラッチを介して自動変速機に動力を伝達させることができるので、ワンウェイクラッチを用いることなくクラッチを介してエンジンから自動変速機に動力を伝達する場合に比して、クラッチの伝達トルク容量を小さくしてクラッチをコンパクトに構成することができる。
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両のパワートレイン装置を示す骨子図である。図1に示すように、本発明の第1実施形態に係るパワートレイン装置1は、エンジン2と、エンジン2にトルクコンバータなどの流体伝動装置を介することなく連結される自動変速機10と、エンジン2と自動変速機10との間に配置されるモータ20とを備え、エンジン2及びモータ20の少なくとも一方によって自動変速機10を介して駆動輪としての後輪が駆動されるハイブリッド車両に搭載されるものである。
エンジン2は、これに限定されるものではないが、4つの気筒が直列に配置された直列4気筒エンジンであり、エンジン2の出力軸3であるクランクシャフトが1回転する間に2回のトルク変動が生じることとなる。
モータ20は、変速機ケース11に結合されたハウジング21に固定されたステータ22と、自動変速機10の入力部材としての入力軸12に結合されたロータ支持部材24に支持されてステータ22の径方向内側に配置されたロータ23とを有している。
ステータ22は、磁性体からなるステータコアにコイルが巻回されて構成されている。ロータ23は、筒状の磁性体で構成されている。モータ20は、ステータ22に電力が供給されるとステータ22に生じる磁力によってロータ23が回転するようになっている。
エンジン2とモータ20との間には、具体的にはエンジン2の出力軸3と自動変速機10の入力軸12に結合されたロータ支持部材24との間には、エンジン2の出力軸3とロータ支持部材24との間を断接可能に構成された動力断接クラッチCL0とワンウェイクラッチ30とが並列に設けられている。
動力断接クラッチCL0は、ノーマルクローズタイプのクラッチが用いられ、ロータ支持部材24に結合された外側回転部材と、エンジン2の出力軸3に結合された内側回転部材と、外側回転部材と内側回転部材との間に配置された複数の摩擦板と、複数の摩擦板を押圧するピストンと、ピストンを締結方向に付勢するスプリングと、ピストンをスプリングの付勢力に抗して解放方向に付勢する油圧が供給される油圧室と有している。
動力断接クラッチCL0は、油圧の非供給時にスプリングによってピストンが締結方向に付勢されて締結され、油圧の供給時に油圧によってスプリングの付勢力に抗してピストンが解放方向に付勢されて解放されるようになっている。動力断接クラッチCL0が締結されることで、エンジン2と自動変速機10及びモータ20との間で動力を伝達することができる。
ワンウェイクラッチ30は、エンジン2から自動変速機10にのみ動力を伝達し、自動変速機10及びモータ20からエンジン2に動力を伝達できないようになっている。ワンウェイクラッチ30は、例えば、ロータ支持部材24に結合されたアウタレースと、エンジン2の出力軸3に結合されたインナレースと、アウタレースとインナレースとの間に介設された複数のスプラグとを有するスプラグ式のものを用いることができる。
パワートレイン装置1では、モータ20は自動変速機10に動力を伝達させて駆動輪としての後輪を駆動させると共にエンジン2を回転させるように設けられ、エンジン始動時に動力断接クラッチCL0を締結させてモータ20によって動力断接クラッチCL0を介してエンジン2を回転させて始動させるようになっている。
パワートレイン装置1は、エンジン始動後には動力断接クラッチCL0を解放させてエンジン2によってワンウェイクラッチ30を介してエンジン2から自動変速機10に動力を伝達させるようになっている。パワートレイン装置1はまた、モータ20によって自動変速機10に動力を伝達させることができるようになっている。
モータ20はまた、車両の減速時に駆動されて回生発電を行い、発電した電力を図示しないバッテリなどに供給できるようになっている。パワートレイン装置1では、車両の減速時に動力断接クラッチCL0を解放することで、モータ20による発電を効率的に行うことができるようになっている。
自動変速機10は、変速機ケース11内に、エンジン2に接続されて駆動源側に配設された入力部材としての入力軸12と、後輪に接続されて反駆動源側に配設された出力部材としての出力軸13と、入力軸12の軸線上に配設された複数のプラネタリギヤセット(遊星歯車機構)及びクラッチやブレーキなどの複数の摩擦締結要素とを有している。自動変速機10は、入力軸12と出力軸13とが同一軸線上に配置されたフロントエンジン・リヤドライブ車用等の縦置き式のものである。
自動変速機10は、エンジン2から後輪に動力を伝達する動力伝達経路を形成し、複数の摩擦締結要素を選択的に締結することにより各遊星歯車機構を経由する動力伝達経路を選択的に切り換えて車両の運転状態に応じた変速段を達成するように構成されている。
自動変速機10の入力軸12及び出力軸13の軸心上には、駆動源側から、第1、第2、第3、第4プラネタリギヤセット(以下、単に「第1、第2、第3、第4ギヤセット」という)PG1、PG2、PG3、PG4が配設されている。
変速機ケース11内において、第1ギヤセットPG1の駆動源側に第1クラッチCL1が配設され、第1クラッチCL1の駆動源側に第2クラッチCL2が配設され、第2クラッチCL2の駆動源側に第3クラッチCL3が配設されている。また、第3クラッチCL3の駆動源側に第1ブレーキBR1が配設され、第3ギヤセットPG3の駆動源側且つ第2ギヤセットPG2の反駆動源側に第2ブレーキBR2が配設されている。
第1、第2、第3、第4ギヤセットPG1、PG2、PG3、PG4は、いずれも、キャリヤに支持されたピニオンがサンギヤとリングギヤに直接噛合するシングルピニオン型である。第1、第2、第3、第4ギヤセットPG1、PG2、PG3、PG4はそれぞれ、回転要素として、サンギヤS1、S2、S3、S4と、リングギヤR1、R2、R3、R4と、キャリヤC1、C2、C3、C4とを有している。
第1ギヤセットPG1は、サンギヤS1が軸方向に2分割されたダブルサンギヤ型である。サンギヤS1は、駆動源側に配置された第1サンギヤS1aと、反駆動源側に配置された第2サンギヤS1bとを有している。第1及び第2サンギヤS1a、S1bは、同一歯数を有し、キャリヤC1に支持された同一ピニオンに噛合する。これにより、第1及び第2サンギヤS1a、S1bは、常に同一回転する。
自動変速機10では、第1ギヤセットPG1のサンギヤS1、具体的には第2サンギヤS1bと第4ギヤセットPG4のサンギヤS4とが常時連結され、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1と第2ギヤセットPG2のサンギヤS2とが常時連結され、第2ギヤセットPG2のキャリヤC2と第4ギヤセットPG4のキャリヤC4とが常時連結され、第3ギヤセットPG3のキャリヤC3と第4ギヤセットPG4のリングギヤR4とが常時連結されている。
入力軸12は、第1ギヤセットPG1のキャリヤC1に第1サンギヤS1a及び第2サンギヤS1bの間を通じて常時連結され、出力軸13は、第4ギヤセットPG4のキャリヤC4に常時連結されている。
第1クラッチCL1は、入力軸12及び第1ギヤセットPG1のキャリヤC1と第3ギヤセットPG3のサンギヤS3との間に配設されて、これらを断接するようになっている。第2クラッチCL2は、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1及び第2ギヤセットPG2のサンギヤS2と第3ギヤセットPG3のサンギヤS3との間に配設され、これらを断接するようになっている。第3クラッチCL3は、第2ギヤセットPG2のリングギヤR2と第3ギヤセットPG3のサンギヤS3との間に配設されて、これらを断接するようになっている。
第1ブレーキBR1は、変速機ケース11と第1ギヤセットPG1のサンギヤS1、具体的には第1サンギヤS1aとの間に配設されて、これらを断接するようになっている。第2ブレーキBR2は、変速機ケース11と第3ギヤセットPG3のリングギヤR3との間に配設されて、これらを断接するようになっている。
以上の構成によって、自動変速機10は、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、第1ブレーキBR1、第2ブレーキBR2の締結状態の組み合わせにより、図2に示すように、D(前進)レンジでの1~8速とR(後退)レンジでの後退速とが形成されるようになっている。
図2では、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、第1ブレーキBR1、第2ブレーキBR2について締結状態を○印で示し、Dレンジでの1速及びRレンジでの後退速における第2ブレーキBR2について車両発進時にスリップ制御されることを△印を付して示している。第2ブレーキBR2は、発進時の変速段を形成する他の摩擦締結要素の締結後に締結される発進用摩擦締結要素として機能する。
車両発進時にスリップ制御される第2ブレーキBR2は、ピストンを解放位置から複数の摩擦板がゼロクリアランス状態となるゼロクリアランス位置までスプリングによって付勢し、ゼロクリアランス位置から締結位置まで締結用油圧によって付勢して複数の摩擦板を締結するようになっている。
図3は、自動変速機の第2ブレーキを示す図である。図3に示すように、第2ブレーキBR2は、変速機ケース11に結合されたハブ部材101と、第3ギヤセットPG3のリングギヤR3に結合された回転部材であるドラム部材102と、ハブ部材101とドラム部材102との間に配置された複数の摩擦板103と、変速機ケース11に結合された外筒部104、底部105及び内筒部106によって形成されるシリンダ107に嵌合されて複数の摩擦板103を締結するピストン108とを有している。
第2ブレーキBR2はまた、ピストン108を締結方向に付勢する締結用油圧が供給される締結用油圧室109と、ピストン108を解放方向に付勢する解放用油圧が供給される解放用油圧室110とを有している。締結用油圧室内109には、ピストン108を解放位置から複数の摩擦板103がゼロクリアランス状態となるゼロクリアランス位置まで締結方向に付勢するスプリング111が配置されている。
第2ブレーキBR2は、スプリング111によってピストン108がゼロクリアランス位置まで付勢され、締結用油圧室109に締結用油圧を供給することでピストン108が締結位置まで移動されて締結されるようになっている。第2ブレーキBR2はまた、ピストン108が締結位置にある状態から締結用油圧を排出して解放用油圧室110に解放用油圧を供給することでピストン108がゼロクリアランス位置まで移動され、さらにスプリング111の付勢力に抗して解放位置まで移動されて解放されるようになっている。
一方、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1はそれぞれ、ハブ部材と、ドラム部材と、ハブ部材とドラム部材との間に配置された複数の摩擦板と、複数の摩擦板を締結するピストンと、ピストンを締結方向に付勢する締結用油圧が供給される締結用油圧室と、ピストンを解放方向に付勢するスプリングとを有している。
第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3及び第1ブレーキBR1はそれぞれ、締結用油圧室に締結用油圧を供給することでピストンがスプリングの付勢力に抗して締結位置まで移動されて締結され、締結用油圧を排出することでスプリングによってピストンが解放位置まで移動されて解放されるようになっている。
自動変速機10は、P(駐車)レンジ及びN(中立)レンジでは、ニュートラル状態とされ、動力伝達経路を形成する複数の回転要素のうち入力部材12に連結された回転要素と出力部材13に連結された回転要素とを除く複数の回転要素が非拘束状態となるように構成される。
図4は、エンジン始動前におけるパワートレイン装置の締結状態を示す図である。図4に示すように、Pレンジが選択されたエンジン始動前には、動力断接クラッチCL0が締結された状態で、自動変速機10は、入力軸12に連結された回転要素41と出力軸13に連結された回転要素42とを除く非拘束状態とされる複数の回転要素、具体的には第1回転要素51、第2回転要素52、第3回転要素53、第4回転要素54、第5回転要素55、第6回転要素56、第7回転要素57を有している。
第1回転要素51は、第1サンギヤS1aと第1ブレーキBR1の回転要素とを含む回転要素であり、第2回転要素52は、第2サンギヤS1bとサンギヤS4とを含む回転要素であり、第3回転要素53は、リングギヤR1とサンギヤS2と第2クラッチCL2の外側回転要素とを含む回転要素であり、第4回転要素54は、リングギヤR2と第3クラッチCL3の外側回転要素とを含む回転要素であり、第5回転要素55は、サンギヤS3と第1クラッチCL1の外側回転要素、第2クラッチCL2及び第3クラッチCL3の内側回転要素とを含む回転要素であり、第6回転要素56は、キャリヤC3とリングギヤR4とを含む回転要素であり、第7回転要素57は、リングギヤR3と第2ブレーキBR2の回転要素とを含む回転要素である。
自動変速機10がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる遊星歯車機構の回転要素は、停止又は他の回転要素の回転に伴って回転され、自動変速機10の入力軸12から自動変速機10の出力軸13に動力が伝達されようになっているが、自動変速機10がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる遊星歯車機構の回転要素の慣性質量が大きくなると、エンジン始動時に自動変速機10の入力軸側にある遊星歯車機構の入力要素からエンジン2のトルク変動が伝達されるときに前記回転要素が反力要素となって自動変速機10の出力軸側にある遊星歯車機構の出力要素にトルク変動が伝達され、自動変速機10の出力軸13にトルク変動が伝達されるおそれがある。
例えば、自動変速機10の入力軸12から第1ギヤセットPG1のキャリヤC1にエンジン2のトルク変動が入力されるときに、第1回転要素51及び第2回転要素52の慣性質量が大きい場合、第1ギヤセットPG1の第1サンギヤS1a及び第2サンギヤS1bが反力要素となって第1ギヤセットPG1のリングギヤR1にトルク変動が伝達されるおそれがある。第1ギヤセットPG1のリングギヤR1に常時連結された第2ギヤセットPG2のサンギヤS2にエンジン2のトルク変動が伝達されるときに、第4回転要素54の慣性質量が大きい場合、第2ギヤセットのリングギヤR2が反力要素となって第2ギヤセットPG2のキャリヤC2にトルク変動が伝達され、キャリヤC2に常時連結された出力部材13にトルク変動が伝達されるおそれがある。これに対し、本実施形態では、エンジン始動時に、モータ20によって、エンジン2から駆動輪に至る駆動系が共振する所定共振回転数より高回転までエンジン回転数が上昇された後にエンジン2を始動させることで、かかる問題を回避する。
図5は、パワートレイン装置の制御システム図である。図5に示すように、パワートレイン装置1は、運転者の操作により選択されたシフトレバーのレンジを検出するレンジセンサ61、運転者によるブレーキペダルの踏込み量を検出するブレーキペダルセンサ62、運転者によるアクセルペダルの踏込み量を検出するアクセルペダルセンサ63、エンジン2のクランクシャフトの回転角度及び回転速度を検出するクランク角センサ64、車両の速度を検出する車速センサ65、及びエンジン2を始動させるキースイッチ66などを備えている。
パワートレイン装置1はまた、前述したようにエンジン2、自動変速機10、モータ20及び動力断接クラッチCL0を備えると共に、図示しないモータによって駆動される電動式オイルポンプ68を備えている。自動変速機10は、エンジン2によって駆動される機械式オイルポンプを有して各摩擦締結要素に供給する油圧を制御する油圧制御回路を備えている。
パワートレイン装置1はまた、パワートレイン装置1に関連する構成を総合的に制御するコントロールユニット70を備えている。コントロールユニット70は、レンジセンサ61、ブレーキペダルセンサ62、アクセルペダルセンサ63、クランク角センサ64、車速センサ65、キースイッチ66などからの信号が入力されるようになっている。
コントロールユニット70は、これらの信号に基づいて、電動式オイルポンプ68、エンジン2、自動変速機10、モータ20、動力断接クラッチCL0などを制御し、自動変速機10の摩擦締結要素CL1、CL2、CL3、BR1、BR2及び動力断接クラッチCL0に供給する油圧を制御するようになっている。なお、コントロールユニットは、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
図6は、パワートレイン装置の制御を説明するためのタイムチャートである。図6に示すタイムチャートでは、車両の停車中に、キースイッチ66がONされた状態から、エンジン2が始動されて自動変速機10の摩擦締結要素CL1、CL2、CL3、BR1、BR2及び動力断接クラッチCL0に油圧が供給され、車両が発進する状態を示している。
コントロールユニット70は、Pレンジが選択され、ブレーキペダルが踏込み操作された踏込み状態(ON状態)とされ、アクセルペダルが踏込み解除操作された非踏込み状態(OFF状態)とされ、動力断接クラッチCL0が締結された締結状態で、図6に示すように、時間t1においてキースイッチ66がONされると、エンジン始動時制御を行う。
コントロールユニット70は、エンジン始動時に、動力断接クラッチCL0が締結されているのでモータ20によってエンジン2を回転させて、600rpmなどの所定クランキング回転数N1までエンジン回転数を上昇させる。
また、電動式オイルポンプ68によって第1ブレーキBR1に締結用油圧を供給して第1ブレーキBR1を締結させる。時間t2においてエンジン2のクランクシャフトの回転角度であるクランク角が検出されると、エンジン2の始動が開始されてエンジン2に燃料が供給されて着火され、エンジン回転数が800rpmなどの所定アイドル回転数N2まで上昇されるようにエンジン2を制御する。エンジン2の始動が開始されると、モータ20によるエンジン2の回転が終了される。パワートレイン装置1では、エンジン2の着火から所定期間内にアイドル回転数N2になるようにエンジン2が制御される。
図7は、エンジン始動時におけるエンジン回転数を示すタイムチャートである。図7の実線で示すように、エンジン始動時に、モータ20によってエンジン2を回転させて、エンジン2から駆動輪に至るプロペラシャフト及び差動装置などを含む駆動系が共振する400rpmなどの所定共振回転数N3より高回転であるクランキング回転数N1までエンジン回転数を上昇させる場合、図7の二点鎖線で示すように、共振回転数N3より低回転である150rpmなどのクランキング回転数N1´までエンジン回転数を上昇させる場合に比して、エンジン始動開始時のエンジン回転数N1とアイドル回転数N2との回転数差が小さくされてエンジン始動時に自動変速機10に入力されるエンジン2のトルク変動が低減される。
図8は、エンジン始動時におけるパワートレイン装置の締結状態を示す図である。時間t2においてエンジン2の始動が開始されるときに、動力断接クラッチCL0が締結されているので、エンジン2のトルク変動が自動変速機10の入力軸12に伝達されることとなるが、エンジン始動時に、モータ20によって所定共振回転数N3より高回転までエンジン回転数が上昇された後にエンジン2が始動されるので、自動変速機10に入力されるエンジン2のトルク変動が低減される。
また、エンジン始動時における燃料供給前に第1ブレーキBR1を締結することで、図8に示すように、自動変速機10がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる第1ブレーキBR1の回転要素を含む第1回転要素51が固定され、またこれに伴って第2回転要素52も固定されて慣性質量が低減される。
時間t3においてエンジン2がアイドル回転数N2まで上昇されたときにエンジン2が完爆されてエンジン2の始動が完了され、エンジン始動後にエンジン2のアイドル運転制御を行う。エンジン始動後には、電動式オイルポンプ68の作動が停止されて機械的オイルポンプによって第1ブレーキBR1に締結用油圧を供給して第1ブレーキBR1を締結させる。
また、エンジン始動後には、機械式オイルポンプによって動力断接クラッチCL0に解放用油圧を供給して動力断接クラッチCL0を解放させる。エンジン始動後には、エンジン2からワンウェイクラッチ30を介して自動変速機10に動力が伝達される。
そして、時間t4において運転者によってPレンジからNレンジを経由してDレンジに操作されると、機械式オイルポンプによって1速の変速段を形成する第1クラッチCL1に締結用油圧を供給して第1クラッチCL1を締結させる。
図9は、エンジン始動後におけるパワートレイン装置の締結状態を示す図である。図9に示すように、時間t4において第1クラッチCL1を締結することで、自動変速機10がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる第5回転要素55が入力軸12に連結された回転要素41に連結される。
図6に示すように、コントロールユニット70は、時間t5においてブレーキペダルが踏込み解除操作されると、第2ブレーキBR2に所定締結用油圧P2より低い所定スリップ用油圧P1を供給して第2ブレーキBR2をスリップ制御する。第2ブレーキBR2にスリップ用油圧P1が供給されると、第2ブレーキBR2はゼロクリアランス状態からスリップ状態にされてエンジン2から駆動輪にエンジン2の動力の一部が伝達され、車両が発進し始める。
時間t6においてアクセルペダルが踏込み操作されると、第2ブレーキBR2に締結用油圧P2を供給して第2ブレーキBR2を締結させる。第2ブレーキBR2が締結されると、アクセルペダルの踏込み操作に応じたエンジン回転数及び車速になるようにエンジン2及び自動変速機10を制御する。
コントロールユニット70はまた、所定の運転状態においてモータ20を制御し、モータ20によって駆動輪を駆動させる。コントロールユニット70は、動力断接クラッチCL0を解放した状態でモータ20を制御し、モータ20のみによって駆動輪を駆動させることも可能である。
本実施形態では、車両発進時に運転者によってPレンジからNレンジを経由してDレンジが選択された場合について記載しているが、時間t4においてPレンジからRレンジに操作される場合、機械式オイルポンプによって後退の変速段を形成する第3クラッチCL3に締結用油圧を供給して第3クラッチCL3を締結させることを除き、Dレンジが選択された場合と同様に制御される。
このように、本実施形態では、エンジン2と自動変速機10とを備えた車両のパワートレイン装置1に、エンジン2を回転させるモータ20が備えられ、エンジン2は、エンジン始動時に、モータ20によって、エンジン2から駆動輪に至る駆動系が共振する所定共振回転数N3より高回転且つ所定アイドル回転数N2より低回転である所定クランキング回転数N1までエンジン回転数が上昇された後に始動される。
これにより、エンジン回転数が前記駆動系の共振回転数N3より低回転でエンジン2が始動される場合に比して、エンジン始動開始時のエンジン回転数N1とアイドル回転数N2との回転数差を小さくしてエンジン始動時に自動変速機10に入力されるエンジン2のトルク変動を低減し、エンジン始動時に自動変速機10の出力側に伝達されるエンジン2のトルク変動を抑制することができる。また、エンジン始動時にエンジン2のトルク変動に共振して前記駆動系の振動が大きくなることを抑制することができる。
したがって、エンジン2と自動変速機10とを備えた車両のパワートレイン装置1において、自動変速機10がニュートラル状態であるときに非拘束状態とされる回転要素の慣性質量が大きい場合においても、エンジン始動時に自動変速機10の出力側に伝達されるエンジン2のトルク変動を抑制することができる。
また、エンジン2と自動変速機10との間に、油圧の非供給時に締結されて油圧の供給時に解放されるクラッチCL0が設けられ、クラッチCL0は、エンジン始動時に締結されている。これにより、エンジン2と自動変速機10との間にノーマルクローズタイプのクラッチCL0が設けられる場合に、エンジン始動時に自動変速機10の出力側に伝達されるエンジン2のトルク変動を抑制することができる。
また、自動変速機10がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる複数の回転要素は、所定のブレーキBR1の回転要素を含み、所定のブレーキBR1は、エンジン始動時における燃料供給前に締結される。
これにより、自動変速機10がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる所定のブレーキBR1の回転要素を含む回転要素51がエンジン始動時における燃料供給前に固定されるので、所定のブレーキBR1が締結されない場合に比して、エンジン始動時にエンジン2のトルク変動が自動変速機10に入力されるとき、エンジン2のトルク変動に対する反力要素となる回転要素の慣性質量が低減され、エンジン始動時に自動変速機10の出力側に伝達されるエンジン2のトルク変動を抑制することができる。
また、所定のブレーキBR1は、エンジン始動時における燃料供給前に締結されると共にエンジン始動後においても締結されている。これにより、エンジン始動後においても、エンジン2のトルク変動に対する反力要素となる回転要素の慣性質量が低減され、自動変速機10の出力側に伝達されるエンジン2のトルク変動を抑制することができる。
また、エンジン2と自動変速機10との間にモータ20が設けられ、エンジン2とモータ20との間にクラッチCL0とワンウェイクラッチ30とが並列に設けられ、車両のパワートレイン装置1は、エンジン2及びモータ20の少なくとも一方によって駆動輪が駆動されるハイブリッド車両のパワートレイン装置1である。
これにより、ハイブリッド車両のパワートレイン装置1において、モータ20によってクラッチCL0を介してエンジン2を始動させると共にエンジン始動後はエンジン2からワンウェイクラッチ30を介して自動変速機10に動力を伝達させることができるので、ワンウェイクラッチ30を用いることなくクラッチCL0を介してエンジン2から自動変速機10に動力を伝達する場合に比して、クラッチCL0の伝達トルク容量を小さくしてクラッチCL0をコンパクトに構成することができる。
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。