JP7250452B2 - 分解活性の評価方法 - Google Patents
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Description
この例は、ケナフに関するものであるが、種々の有機物の分解に関わる微生物又は酵素を探索することは様々な分野において有用である。
ところで、有用な微生物又は酵素を探索するためには、微生物又は酵素の分解活性を比較することが必要となる。
分解活性を比較するために、従来は、例えば、多検体プレート(特許文献1参照)の各ウエルに微生物を入れて分解活性を評価している。例えば、100~1600個/枚のウエルに微生物と活性評価溶液を入れて、色素等を用いて分解量を検出していた。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、良好な検出感度を有する分解活性の評価方法を提供することを目的とする。本発明は、以下の形態として実現することが可能である。
前記支持板の一面上に形成され、分解評価物を含有する固体培地と、
を備える分解活性評価用の板状体を用いた分解活性の評価方法であって、
前記固体培地の厚みが200μm以上10mm以下であり、
微生物又は酵素を配置した基板の上に前記固体培地が被さるように、前記基板に前記板状体を載せて、前記固体培地と、前記微生物又は前記酵素とを接触させる接触工程と、
前記接触工程の後の前記板状体を第1温度にて保温する第1保温工程と、
前記第1保温工程の後の前記板状体を前記第1温度よりも低い第2温度で保温することによって、前記固体培地のうち、未分解の前記分解評価物が存在する部位を白濁化させる第2保温工程と、
前記第2保温工程の後に、前記固体培地の状態を観測して、前記微生物又は前記酵素の分解活性を評価する評価工程と、を備える分解活性の評価方法。
前記支持板の一面上に形成され、分解評価物を含有する固体培地と、
を備える分解活性評価用の板状体を用いた分解活性の評価方法であって、
前記固体培地の厚みが200μm以上10mm以下であり、
微生物を磁性化して磁性化微生物とする磁性化工程と、
基板の上に前記磁性化微生物を含有する液体を保持した状態で、前記基板の裏面側から前記基板の複数箇所に磁力をかけて、前記基板の前記複数箇所に前記磁性化微生物を引きつけて配置する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記液体を除去する液体除去工程と、
前記磁性化微生物を配置した前記基板の上に前記固体培地が被さるように、前記基板に前記板状体を載せて、前記固体培地と、前記磁性化微生物とを接触させる接触工程と、
前記接触工程の後の前記板状体を第1温度にて保温する第1保温工程と、
前記第1保温工程の後の前記板状体を前記第1温度よりも低い第2温度で保温することによって、前記固体培地のうち、未分解の前記分解評価物が存在する部位を白濁化させる第2保温工程と、
前記第2保温工程の後に、前記固体培地の状態を観測して、前記磁性化微生物の分解活性を評価する評価工程と、を備える分解活性の評価方法。
すなわち、本発明では、第2保温工程で、未分解の分解評価物が存在する部位を白濁化させる。他方、この工程を経ても、分解された分解評価物が存在する部位は、透明である。よって、透明な部分の大きさ等により、分解活性が評価できる。そして、本発明では、固体培地の厚みが200μm以上であるから、第1保温工程において、固体培地が乾燥によって不本意に白濁化することを抑制できる。また、本発明では、固体培地の厚みが10mm以下であるから、良好な検出感度となる。固体培地の厚みが10mmよりも大きくなると、分解された分解評価物が存在する透明な部位の検出が難しくなる傾向にある。
また、〔2〕の発明では、固体培地の状態は、板状体の支持板の側から、支持板を通して観察している。この場合には、固体培地の支持板に密接した平面を観察することになるから、固体培地の観察面が平坦化されて、観察しやすい。
また、〔3〕の発明に示される、分解評価物として高分子化合物を用いる場合に、本発明は特に有効である。
また、〔4〕の分解活性の評価方法によれば、基板の複数箇所に磁性化微生物を引きつけて配置し、複数の箇所において一括して、分解活性の評価が行えるから、分解活性の評価が容易である。なお、微生物として複数種の微生物を用いて、基板の複数箇所における微生物の種類が異なるように配置すれば、一度に複数種の微生物の分解活性の評価が行えるから非常に有用である。
〔4〕の分解活性の評価方法によれば、〔1〕の評価方法と同様に、良好な検出感度で、分解活性を評価できる。すなわち、本発明では、第2保温工程で、未分解の分解評価物が存在する部位を白濁化させる。他方、この工程を経ても、分解された分解評価物が存在する部位は、透明である。よって、透明な部分の大きさ等により、分解活性が評価できる。そして、本発明では、固体培地の厚みが200μm以上であるから、第1保温工程において、固体培地が乾燥によって不本意に白濁化することを抑制できる。また、本発明では、固体培地の厚みが10mm以下であるから、良好な検出感度となる。固体培地の厚みが10mmよりも大きくなると、分解された分解評価物が存在する透明な部位の検出が難しくなる傾向にある。
また、〔5〕の発明では、固体培地の状態は、板状体の支持板の側から、支持板を通して観察している。この場合には、固体培地の支持板に密接した平面を観察することになるから、固体培地の観察面が平坦化されて、観察しやすい。
また、〔6〕の発明に示される、分解評価物として高分子化合物を用いる場合に、本発明は特に有効である。
第1実施形態の分解活性の評価方法は、分解活性評価用の板状体1を用いた評価方法である。
分解活性評価用の板状体1は、図1に例示されるように、透明な支持板3と、支持板3の一面上に形成され、分解評価物を含有する固体培地5と、を備える。
透明な支持板3を構成する材料は、特に限定されない。例えば、無機系材料、有機系材料を幅広く用いることができる。
無機系材料としては、例えば、ガラスを用いることができる。ガラスとしては、例えば、硼珪酸ガラス、石英ガラス、96%石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、鉛ガラス等を用いることができる。
後述するように、固体培地5の状態を、板状体1の支持板3の側から、支持板3を通して観察する場合には、透明性が高くて観察しやすいとの観点から、ガラスが好ましく用いられる。
有機系材料としては、例えば、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーを用いることができる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、及びこれらのポリマーの任意のブレンド物等も用いることができる。
なお、無機系材料と有機系材料のハイブリッド材料も用いることができる。
以下の説明において、固体培地5の各成分の濃度が示されているが、いずれの成分についても、固体培地1Lに含有されている各成分のグラム(g)数が示されている。
例えば、成分Aを1g含み、成分Bを2g含み、成分Cを3g含み、かつ、その他の成分を含んで、成分A、成分B、成分C、及びその他の成分(水等)の合計した全体が1Lの固体培地5の場合には、「成分Aの濃度が1g/L」、「成分Bの濃度が2g/L」、「成分Cの濃度が3g/L」となる。
固体培地5中の分解評価物の濃度は、特に限定されない。分解評価物の濃度は、好ましくは0.01g/L~100g/L、より好ましくは0.1g/L~50g/L、更に好ましくは10g/L~40g/Lである。この範囲内であると、未分解の分解評価物が冷却により白濁化されやすく、容易に評価できる。
固体培地5のpHは、固体培地5に含まれる各種化合物の配合割合によって調整できる。
なお、本明細書において、固体培地5のpHは、固形化剤を除く全成分を添加した培地のpHを意味する。
固体培地5の厚みをこの範囲内とすると、固体培地5の乾燥による白濁化を防止できる。なお、固体培地5が薄すぎると、固体培地5の取扱いが難しくなる。例えば、2枚の支持板(カバーグラス等)にスペーサーを挟んで隙間を作り、その隙間に培地を流し込み固化した場合には、使用に際して片方の支持板を外す必要があるが、この際に、固体培地5が薄すぎると、固体培地5が著しく崩れやすくなる。
また、固体培地5の厚みをこの範囲内とすると、次の作用効果が得られる。
第2保温工程を経ても透明な部位は、微生物又は酵素を配置した場所を中心として、放射状に広がっていく。この場合に、固体培地5が厚すぎると、透明な部位は、固体培地5の水平方向(平面方向)のみならず、厚み方向にも広がってしまう。すると、厚み方向に広がった分だけ、水平方向への広がりは小さくなる。
ところで、分解活性の評価は、分解された分解評価物が存在する透明な部分の状態で評価する。この評価においては、透明な部分の水平方向の広がり(大きさ)での評価の方が、厚み方向の広がりでの評価よりも容易である。なぜならば、透明な部分の水平方向の広がりは、固体培地5の上面又は下面を観察すれば、容易に把握できるが、厚み方向での広がりは、固体培地5の側面から観察せざるを得なくなり、容易には把握できないからである。
固体培地5が厚すぎると、上述のように、厚み方向に広がった分だけ、水平方向の広がりが現れにくくなり、その結果、分解活性の評価感度が低下する。
これに対して、本発明では、固体培地5の厚みの上限が規定されている。よって、透明な部分は、厚み方向にはそれ程広がらず、主に固体培地5の水平方向に広がるから、分解活性の評価感度が向上する。
また、本発明では、厚い固体培地5を用いるよりも、透明な部分の水平方向の広がり方が早いから、分解活性を迅速に評価できる。
分解活性の評価方法は、接触工程、第1保温工程、第2保温工程、評価工程を備えている。
以下、各工程ついて詳細に説明する。
接触工程は、微生物又は酵素を配置した基板9の上に固体培地5が被さるように、板状体1を載せて、固体培地5と、微生物又は酵素とを接触させる工程である。
微生物又は酵素(以下「微生物等7」ともいう)は、分解活性の評価対象であり、幅広い微生物又は酵素に適用することができる。
図2に例示するように、微生物等7を上面に配置した基板9を用意する。図2では、基板9としてシャーレの底壁を用いているが、基板9は特に限定されず、適宜変更できる。
次に、図3に示すように、基板9の上から、固体培地5を被せるようにして板状体1を配して、固体培地5と、微生物等7とを接触させる。このようにすると、固体培地5の上面は、支持板3によって覆われた状態となるから、固体培地5の乾燥が抑制される。厚みが薄い固体培地5の場合には、支持板3による乾燥抑制効果が高い。これを図22を参照して、説明する。図22の上図は、固体培地5がシャーレ本体部31の底部に形成されている従来例を示している。図22の下図は、この固体培地5の乾燥を防ぐために、シャーレ本体部31に蓋33を被せた状態を示している。しかし、図22の下図の場合でも、固体培地5の片面(上面)は気体35に触れた状態であるから、乾燥しやすいのである。これに対して、図3の下図の場合、固体培地5は、基板9と支持板3との間に挟まれた状態となり、気体との接触が抑えられて、乾燥しにくいのである。なお、固体培地5の側部からの乾燥を防ぐために、固体培地5の側部にワセリン等の乾燥防止剤を塗布してもよい。
第1保温工程は、接触工程の後の板状体1を第1温度にて保温する工程である。この工程後でも、固体培地5の全体は透明であり、前工程(接触工程)後の固体培地5と同様である。つまり、図4の固体培地5の状態は、外見上、図3(下図)の固体培地5と同じである。
第1温度は、特に限定されないが、好ましくは20℃~45℃であり、より好ましくは35~40℃である。第1温度が、この範囲内であると、分解評価物の分解を促進でき、分解活性の評価が容易になる。
第1保温工程の時間は、特に限定されず、微生物等7の種類に応じて適宜変更できる。第1保温工程の時間は、好ましくは0.5時間~24時間であり、より好ましくは1時間~18時間である。
第2保温工程は、第1保温工程の後の板状体1を第1温度よりも低い第2温度で保温することによって、固体培地5のうち、未分解の分解評価物が存在する部位5Aを白濁化させる工程である。図5に、第2保温工程後の固体培地5の様子を示す。図5では、白濁化した部分を点描で表現している。
なお、第2保温工程後においても、固体培地5のうち、分解評価物が分解された部位5Bは白濁化せずに、透明である。第2保温工程後は、分解評価物が未分解の部位5Aは白濁状態となり、基質が分解された部位5Bは透明状態となる。
第2温度は、第1温度よりも低ければ、特に限定されないが、好ましくは0℃~15℃であり、より好ましくは3℃~7℃である。第2温度が、この範囲であると、未分解の分解評価物が白濁化されやすく、評価が容易になる。
評価工程は、第2保温工程の後に、固体培地5の状態を観測して、微生物等7の分解活性を評価する工程である。
上述のように、第2保温工程後は、分解評価物が未分解の部位5Aは白濁状態となり、分解評価物が分解された部位5Bは透明状態となる。すなわち、第2保温工程後では、分解評価物の分解部位と、分解評価物の未分解部位と、を視覚的に判別可能である。
観測の方法は、特に限定されない。例えば、固体培地5の微生物等7の周辺に形成された透明部分の大きさを測定することが好ましい。この方法を採用すると、透明部分の大きさの大小により、分解活性の程度を把握することが可能となる。すなわち、透明部分が大きいほど、分解された分解評価物が多いことになるから、分解活性が高いことが判明する。なお、透明部分の大きさの評価方法は、特に限定されない。すなわち、透明部分の径、幅、長さによって大きさを評価してもよいし、透明部分の面積によって大きさを評価してもよい。
固体培地5の状態は、板状体1の支持板3の側から、支持板3を通して観察することが好ましい。すなわち、図5の場合には、矢印の方向から観察することが好ましい。この場合には、固体培地5の支持板3に密接した平面を観察することになるから、固体培地5の観察面が平坦化されて、観察しやすい。
なお、基板9側から観察しようとすると、下方から見上げるように観察することになるから、観察しにくい。基板9側から観察する場合には、基板9が透明でなければならず、基板9に透明性が高い材質を用いる必要があり、基板9の材質の制限が生じる。
本実施形態の分解活性の評価方法によれば、良好な検出感度で、微生物等7の分解活性を評価できる。
第2実施形態の分解活性の評価方法は、分解活性評価用の板状体1を用いた評価方法である。
分解活性評価用の板状体1については、第1実施形態の「(1)分解活性評価用の板状体1」、「(1.1)透明な支持板3」、「(1.2)固体培地5」の記載をそのまま適用する。
分解活性の評価方法は、磁性化工程、配置工程、液体除去工程、接触工程、第1保温工程、第2保温工程、評価工程を備えている。
以下、各工程ついて詳細に説明する。
磁性化工程は、微生物を磁性化して磁性化微生物13とする工程である。
微生物は、分解活性の評価対象であり、幅広い微生物に適用することができる。
微生物を磁性化する方法は、特に限定されない。
例えば、次のようにして、微生物を磁性化できる。微生物に化学修飾を施して、微生物の表面に反応基を形成する。他方、この反応基と反応する反応部位を有する磁性体を用意する。そして、微生物の反応基と、磁性体の反応部位とを反応させて、両者を結合することで、微生物を磁性化できる。
例えば、微生物の表面をビオチン化し、ストレプトアビジン修飾されている磁性ビーズ(磁性体)と反応させて、微生物を磁性化できる。この方法は、ビオチン-ストレプトアビジン結合を利用した磁気ラベル化である。
また、微生物に磁性粒子を導入又は付着して微生物を磁性化できる。この場合に、磁性粒子は、微生物に保持されることで細胞に磁性を付加するものであれば特に限定されない。例えば、磁性材料の粒子(磁性粒子)を用いることができる。具体的には、フェライト、マグネタイトなどの酸化鉄の粒子、酸化クロムの粒子、コバルトの粒子などを用いることができる。磁性粒子は、1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。磁性粒子は、微生物と親和性のある表面を有していることが好ましく、例えば、リポソームなどの脂質膜を表面に備える磁性粒子を用いることができる。また、表面に正電荷を備えることも好ましい。例えば、磁性粒子をリポソームに封入した磁性粒子封入リポソーム(ML: MagnetoliposomeあるいはMagnetite liposome)、磁性粒子を正電荷リポソームに封入した磁性粒子封入正電荷リポソーム(MCL: Magnetite cationic liposome)を用いることができる。磁性粒子が微生物と親和性のある表面を有することで、磁性粒子が微生物へ付着すること、又は磁性粒子が微生物に取り込まれることを可能としている。なお、磁性粒子が微生物へ付着すること、又は磁性粒子が微生物に取り込まれることによって、微生物を確実に磁性化できる。微生物の磁性化を、磁性粒子封入リポソーム(ML)、磁性粒子封入正電荷リポソーム(MCL)で行う場合には、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、TBS、LB、M9、BG11、R2A等を使用すると、スムーズに微生物の磁性化が行われる。なお、磁性粒子封入リポソーム(ML)、磁性粒子封入正電荷リポソーム(MCL)は、レクチンや抗体等のタンパク質、糖鎖、ペプチド、その他の分子によって修飾されていてもよい。修飾することによって、微生物との親和性が高まる場合がある。
配置工程は、基板9の上に磁性化微生物13を含有する液体15を保持した状態で、基板9の裏面側から基板9の複数箇所に磁力をかけて、基板9の複数箇所に磁性化微生物13を引きつけて配置する工程である。
配置工程の一例を図6~7の模式図を用いて説明する。まず、図6に示すように、磁性化微生物13を含有する液体15を基板9の上に保持する。そして、図7に示すように、基板9の複数箇所に磁力をかけて、基板9の複数箇所に磁性化微生物13を引きつけて配置する。
液体除去工程は、配置工程の後に、液体15を除去する工程である。
液体除去工程の一例を、図8の模式図を用いて説明する。図7の状態から、液体15を除去して図8に示す状態とする。この工程によって、磁性化微生物13が基板9上で、露出した状態になる。
なお、液体除去工程の際にも、磁力により、基板9に磁性化微生物13を引きつけておくことが好ましい。液体除去の際において、溶液15の揺れ等による磁性化微生物13の不本意な移動を抑制するためである。
接触工程は、図9に例示されるように、磁性化微生物13を配置した基板9の上に固体培地5が被さるように、基板9に板状体1を載せて、固体培地5と、磁性化微生物13とを接触させる工程である。なお、基板9としてシャーレの底壁を用いているが、基板9は特に限定されず、適宜変更できる。
この工程を経ると、固体培地5の上面は、支持板3によって覆われた状態となるから、固体培地5の乾燥が抑制される。
第1保温工程は、接触工程の後の板状体1を第1温度にて保温する工程である。この工程後でも、固体培地5の全体は透明であり、前工程(接触工程)後の固体培地5と同様である。つまり、図10の固体培地5の状態は、外見上、図9(下図)の固体培地5と同じである。
第1温度は、特に限定されないが、好ましくは20℃~45℃であり、より好ましくは35~40℃である。第1温度が、この範囲内であると、分解評価物の分解を促進でき、分解活性の評価が容易になる。
第1保温工程の時間は、特に限定されず、微生物の種類に応じて適宜変更できる。第1保温工程の時間は、好ましくは0.5時間~24時間であり、より好ましくは1時間~18時間である。
第2保温工程は、第1保温工程の後の板状体1を第1温度よりも低い第2温度で保温することによって、固体培地5のうち、未分解の分解評価物が存在する部位5Aを白濁化させる工程である。図11に、第2保温工程後の固体培地5の様子を示す。図11では、白濁化した部分を点描で表現している。
なお、第2保温工程後においても、固体培地5のうち、分解評価物が分解された部位5Bは白濁化せずに、透明である。よって、第2保温工程後は、分解評価物が未分解の部位5Aは白濁状態となり、基質が分解された部位5Bは透明状態となる。
第2温度は、第1温度よりも低ければ、特に限定されないが、好ましくは0℃~15℃であり、より好ましくは3℃~7℃である。第2温度が、この範囲であると、未分解の分解評価物が白濁化されやすく、評価が容易になる。
評価工程は、第2保温工程の後に、固体培地5の状態を観測して、磁性化微生物13の分解活性を評価する工程である。
上述のように、第2保温工程後は、分解評価物が未分解の部位5Aは白濁状態となり、分解評価物が分解された部位5Bは透明状態となる。すなわち、第2保温工程後では、分解評価物の分解部位と、分解評価物の未分解部位と、を視覚的に判別可能である。
観測の方法は、特に限定されない。例えば、固体培地5の磁性化微生物13の周辺に形成された透明部分の大きさを測定することが好ましい。この方法であると、透明部分の大きさの大小により、分解活性の程度を把握することが可能となる。すなわち、透明部分が大きいほど、分解された分解評価物が多いことになるから、分解活性が高いことが判明する。なお、透明部分の大きさの評価方法は、特に限定されない。すなわち、透明部分の径、幅、長さによって大きさを評価してもよいし、透明部分の面積によって大きさを評価してもよい。
固体培地5の状態は、板状体1の支持板3の側から、支持板3を通して観察することが好ましい。すなわち、図11の場合には、矢印の方向から観察することが好ましい。この場合には、固体培地5の支持板3に密接した平面を観察することになるから、固体培地5の観察面が平坦化されて、観察しやすい。
なお、基板9側から観察しようとすると、下方から見上げるように観察することになるから、観察しにくい。基板9側から観察する場合には、基板9が透明でなければならず、基板9に透明性が高い材質を用いる必要があり、基板9の材質の制限が生じる。
本実施形態の分解活性の評価方法によれば、基板9の複数箇所に磁性化微生物13を引きつけて配置し、複数の箇所において一括して、分解活性の評価が行えるから、分解活性の評価が容易である。なお、微生物として複数種の微生物を用いて、基板9の複数箇所における微生物の種類が異なるように配置すれば、一度に複数種の微生物の分解活性の評価が行えるから非常に有用である。
また、本実施形態の分解活性の評価方法によれば、良好な検出感度で、微生物の分解活性を評価できる。
実験Aでは、厚み200μm以上10mm以下の固体培地5を備えた分解活性評価用の板状体1が、微生物等7の分解活性の評価に有用であることを確認した。
(1)評価用基板(本発明の「分解活性評価用の板状体1」に相当)
評価用基板は、スピンコーターによって厚さを制御したPDMSをスペーサーとし、カバーガラス2枚で挟むことによって隙間を作り、そこへペクチン含有寒天培地(Ikura Y.,Agri.Biol.Chem.,43,1359(1979)参照)(30g/L Citrus Pectin,5g/L Polypeptone,1g/L K2HPO4,0.2g/L MgSO4・7H2O,0.05g/L MnSO4・5H2O,0.05g/L CaCl2・2H2O,12.5g/L Na2CO3,30g/L Agar)を流し込み固化して作製した。このようにして、厚さ200μmの固体培地の両面にカバーガラスを備えた評価用基板を作製した。次に、評価用基板の片面のカバーガラスと、側面のスペーサー(PDMS)を剥がして、固体培地を露出した状態(図1に示される板状体1と同じ状態)にした。
図12に、作製直後の評価用基板を示す。作製直後、固体培地は透明であった。なお、図12の中央の略正方形の部分が、評価用基板である(図13~15も同様である)。図12では、固体培地が透明であることから、固体培地の部分では背景が透けて見えている。
この評価用基板を40℃で一晩静置した(本発明の「第1保温工程」に相当)。40℃で保温後の様子を図13に示す。保温後も固体培地は、透明であった。
その後、評価用基板を冷蔵庫で4℃にて冷却した(本発明の「第2保温工程」に相当)。4℃で保温後の様子を図14に示す。冷却後、固体培地は、白濁化した。
次に、ペクチン分解酵素(PECTIN LYASE from Aspergillus sp., Megazyme)を所定濃度にて、上述の評価用基板の固体培地の中央付近に滴下した。この評価用基板を40℃で一晩静置した(第1保温工程)。保温後も固体培地は、透明であった。その後、評価用基板を冷蔵庫で4℃にて冷却した(第2保温工程)。4℃で保温後の様子を図15に示す。冷却後、固体培地のうち、ペクチン分解酵素を滴下した部分の周辺が透明になり、その他の部分は白濁化した。図15では、略正方形の輪郭のカバーガラスの中央に、略長方形の固定培地が見えている。固定培地の中央の略円形の部分は、透明であることが観察された。
以上の結果から、厚み200μm以上10mm以下の固体培地を備えた評価用基板(分解活性評価用の板状体1)を用いて、冷却後の固体培地の状態を観察すれば、微生物等7の分解活性を評価できることが確認された。すなわち、微生物等7に分解活性があれば、冷却後には、微生物等7の周りに透明な部分ができ、これにより分解活性を把握できる。
実験Bでは、分解活性の評価に適切な固体培地の厚みを検討した。
(1)固体培地の作製
直径9cmのシャーレ内にペクチン含有寒天培地(Ikura Y.,Agri.Biol.Chem.,43,1359(1979)参照)(30g/L Citrus Pectin,5g/L Polypeptone,1g/L K2HPO4,0.2g/L MgSO4・7H2O,0.05g/L MnSO4・5H2O,0.05g/L CaCl2・2H2O,12.5g/L Na2CO3,30g/L Agar)を流し込み固化させた。シャーレ内に流し込む寒天培地の量を調整して、200μm、10mm、20mmの厚みの固体培地(寒天平板培地)とした。各固体培地の20℃での様子を目視にて観察したところ、いずれも全面にわたって透明であることが確認された。次に、各固体培地を冷蔵庫に入れ、4℃に冷やした。冷却後の固体培地の様子を目視にて観察した。いずれの固体培地も、全面にわたって白濁した。
ペクチン分解酵素(PECTIN LYASE from Aspergillus sp., Megazyme)を種々の濃度(0.6U、0.06U、0.006U、0.0006U)に調整した。それぞれの濃度のペクチン分解酵素を各固体培地に接種し、各固体培地を40℃で一晩静置した。その後、各固体培地を冷蔵庫で4℃にて冷却した。各固体培地において、ペクチン分解酵素を接種した周りのハロー(透明な部分)の大きさ(直径)を測定し、ハローの面積(mm2)を計算した。
結果を図16に示す。図16は、各厚みの固体培地における、酵素活性量とハロー面積との相関を示すグラフである。
いずれの厚みの固体培地においても、酵素活性量とハロー面積に相関関係が見られた。すなわち、酵素活性量が大きいほど、分解活性が高く、ハロー面積が大きくなる傾向にあることが確認された。
また、各グラフのx軸との交点であるx切片は、各厚みの固体培地の検出限界を示している。x切片は、200μmの厚みの固体培地及び10mmの厚みの固体培地では、0.01U以下であり、低い酵素活性量でも検出できることが分かる。これに対して、20mmの厚みの固体培地では、x切片は、0.01Uより大きく、低い酵素活性量では検出できないことが分かる。
これらの結果から、固体培地の厚みが200μm以上10mm以下の場合には、ハロー面積により、簡便に分解活性を評価可能であり、しかも良好な検出感度で、分解活性を評価できることが確認された。
実験Cでは、第2実施形態の評価方法により、実際に分解活性が評価できることを確認した。
(1)微生物種
ペクチン分解微生物として、Bacillus halodurans (B.halodurans)C-125株(Koki H.,Agr.Biol.Chem.,36,285(1972)、Ikura Y.,Agri.Biol.Chem.,43,85(1979)参照)を使用した。B.haloduransは植物繊維のレッティングに利用されているアルカリペクチナーゼを生産する微生物として最も良く研究されている。C-125株は理化学研究所バイオリソースセンターより分譲を受けた。前培養は、181 HORIKOSHI-I MEDIUM (Glucose 10.0g/L,Polypepton 5.0g/L,Yeast extract 5.0g/L,K2HPO4 1.0g/L,MgSO4・7H2O 0.2g/L,Na2CO3 10g/L)を用いて、37℃で12時間、振とう培養した。
前培養したB.haloduransを、4500rpm、5分間、遠心分離した後、4℃で冷却したPBS(pH8)で3回洗浄することで培地中のアミノ基をもつ物質を除いた。次に微生物懸濁液をOD600=0.35に希釈した。水溶性のビオチン化試薬であるEZ-LinkTM Sulfo-NHS-LC-Biotin(21335,Thermo Fisher)1mgをマイクロチューブに取り、希釈した微生物懸濁液を1mL添加し、ローテーター(30rpm)で回転撹拌させながら室温で30分間インキュベートすることでB.halodurans表面をビオチン化した。未反応ビオチン化試薬を取り除くため、菌体を12000rpmで3分間遠心分離し、PBS+100mMグリシンによる洗浄を3回行い、PBS 400μLで再懸濁することで、ビオチン化微生物懸濁液を得た。
磁性ビーズはストレプトアビジン修飾されている粒子径140nmのFGbeads HM(TAB8848 N3170,多摩川精機株式会社)を用いた。FGbeads 10μL(0.2mg)をネオジウム磁石で磁気分離し、PBSで3回洗浄した。次に上述のビオチン化微生物懸濁液を200μL添加し、シェーキングミキサー(TWIN3-28,IWAKI)で振とうしながら室温で30分間インキュベートした。その後、磁気分離し、PBSで3回洗浄して、磁気ラベル化菌体を得た。磁気ラベル化の確認は、ラベル化前の微生物懸濁液の濁度をコントロールとし、ラベル化後の濁度は磁気分離した微生物懸濁液の上清を測定し比較した。
剣山状デバイスは、土台部分の大きさが縦2cm×横2cm×高さ0.4cm、土台表面に縦100μm×横100μm×高さ300μmの四角柱型のポールが並んでいるものを使用した。ポールの中心間距離は250μmと1000μmの2種類を用いた。この剣山状デバイスの下にネオジウム円柱磁石(二六製作所)をつけて磁化することで、ポール部分に磁力を集中させることができるデバイスとした。ネオジウム円柱磁石は、外径50mm、高さ10mm、表面磁束密度0.38Tを用いた。
評価用基板は、スピンコーターによって厚さを制御したPDMSをスペーサーとし、カバーガラス2枚で挟むことによって隙間を作り、そこへペクチン含有寒天培地(Ikura Y.,Agri.Biol.Chem.,43,1359(1979)参照)(30g/L Citrus Pectin,5g/L Polypeptone,1g/L K2HPO4,0.2g/L MgSO4・7H2O,0.05g/L MnSO4・5H2O,0.05g/L CaCl2・2H2O,12.5g/L Na2CO3,30g/L Agar)を流し込み固化して作製した。このようにして、厚さ200μmの固体培地の両面にカバーガラスを備えた評価用基板を作製した。次に、評価用基板の片面のカバーガラスと、側面のスペーサー(PDMS)を剥がして、固体培地を露出した状態(図1に示される板状体1と同じ状態)にした。
剣山状デバイスのポール上に菌を1~5cellでアレイ化するため、磁気ラベル化した微生物懸濁液をPBSで希釈した。アレイ化の様子を蛍光観察するため、蛍光染色を行った。PBSで3000cells/mLに希釈した微生物懸濁液2mLにBacstain CFDA 溶液(BS03,株式会社同仁化学研究所)1μLを加え、遮光しながら37℃で、5分間インキュベートした。PBSで3回洗浄し、PBS2mLで懸濁することで蛍光染色した微生物懸濁液を得た。
次に、剣山状デバイスをネオジウム磁石の上に配置したlumox dish 35(94-6077-331,SARSTEDT)に蛍光染色した微生物懸濁液を2mL流し入れた。そのまま5分静置することにより、同一平面状に細胞アレイパターンニングを行った(本発明の「配置工程」に相当、図7参照)。その後、アレイ化状態を崩さないよう静かにPBSを除き(本発明の「液体除去工程」、図8参照に相当)、上述の評価用基板を被せた後(本発明の「接触工程」に相当、図9参照)、培養中の乾燥を防ぐためカバーガラス周囲をワセリンで塞いだ。
剣山状デバイスからlumox dishを外し、37℃で3~18時間培養した(本発明の「第1保温工程」に相当、図10参照)。
評価用基板を冷蔵庫で4℃に冷却した。
冷却後の固体培地を撮影し、画像処理を行うことで、ハロー(透明部分)を確認した。ハローの確認は、培養時間が3時間、6時間、9時間、12時間、18時間の固体培地について行った。
実験結果を図17~21に示す。図17~21における上図は、光学顕微鏡による観察像である。図17~21における下図は、光学顕微鏡による観察像を画像処理した画像である。下図において、色の薄い部分がハローに相当する部分である。但し、図17,18の下図の四隅に見える色の薄い部分は、微生物を示している。
図17~21より、培養9時間後からハローが形成され始め、培養12時間後にはハローの面積が大きくなっていることが確認できた。
この結果から、第2実施形態の評価方法により、良好な検出感度にて、短時間で分解活性を評価できることが確認された。
また、本発明の分解活性の評価方法において基質をペクチンとすれば、ペクチンを分解する菌の検出が可能となる。よって、果物や野菜を腐敗させる原因菌が検出できる。このように、本発明の分解活性の評価方法は、農業関連産業においても幅広く利用することができる。
本発明の分解活性の評価方法は、冷却のみで分解活性を可視化できるので、特別な薬品を用いる必要がなく、様々な場所で利用できる。例えば、農産物保存倉庫や市場等の現場でも利用可能である。
3 …支持板
5 …固体培地
5A…未分解の分解評価物が存在する部位
5B…分解評価物が分解された部位
7 …微生物等
9 …基板
13…磁性化微生物
15…液体
17…磁石
19…剣山状磁石デバイス
31…シャーレ本体部
33…蓋
35…気体
Claims (4)
- 透明な支持板と、
前記支持板の一面上に形成され、分解評価物を含有する固体培地と、
を備える分解活性評価用の板状体を用いた分解活性の評価方法であって、
前記固体培地の厚みが200μm以上10mm以下であり、
微生物又は酵素を配置した基板の上に前記固体培地が被さるように、前記基板に前記板状体を載せて、前記固体培地と、前記微生物又は前記酵素とを接触させる接触工程と、
前記接触工程の後の前記板状体を第1温度にて保温する第1保温工程と、
前記第1保温工程の後の前記板状体を前記第1温度よりも低い第2温度で保温することによって、前記固体培地のうち、未分解の前記分解評価物が存在する部位を白濁化させる第2保温工程と、
前記第2保温工程の後に、前記固体培地の状態を観測して、前記微生物又は前記酵素の分解活性を評価する評価工程と、を備え、
前記分解評価物は、ペクチンである、分解活性の評価方法。 - 前記固体培地の状態は、前記板状体の前記支持板の側から、前記支持板を通して観察する、請求項1に記載の分解活性の評価方法。
- 透明な支持板と、
前記支持板の一面上に形成され、分解評価物を含有する固体培地と、
を備える分解活性評価用の板状体を用いた分解活性の評価方法であって、
前記固体培地の厚みが200μm以上10mm以下であり、
微生物を磁性化して磁性化微生物とする磁性化工程と、
基板の上に前記磁性化微生物を含有する液体を保持した状態で、前記基板の裏面側から前記基板の複数箇所に磁力をかけて、前記基板の前記複数箇所に前記磁性化微生物を引きつけて配置する配置工程と、
前記配置工程の後に、前記液体を除去する液体除去工程と、
前記磁性化微生物を配置した前記基板の上に前記固体培地が被さるように、前記基板に前記板状体を載せて、前記固体培地と、前記磁性化微生物とを接触させる接触工程と、
前記接触工程の後の前記板状体を第1温度にて保温する第1保温工程と、
前記第1保温工程の後の前記板状体を前記第1温度よりも低い第2温度で保温することによって、前記固体培地のうち、未分解の前記分解評価物が存在する部位を白濁化させる第2保温工程と、
前記第2保温工程の後に、前記固体培地の状態を観測して、前記磁性化微生物の分解活性を評価する評価工程と、を備え、
前記分解評価物は、ペクチンである、分解活性の評価方法。 - 前記固体培地の状態は、前記板状体の前記支持板の側から、前記支持板を通して観察する、請求項3に記載の分解活性の評価方法。
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