JP7248232B2 - 飲料製造装置及び飲料製造方法 - Google Patents
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Description
下記非特許文献2には、フィルター上のコーヒー粒子に注水してフィルター越しにコーヒー飲料が得られるドリップ抽出において、コーヒー飲料の濃度を示す式が、所定のモデルに局所体積平均理論を適用することにより導出し得ることが示されている。濃度を表す式は、連立微分方程式となっており、パラメーターの数は、20前後となっている。
他方、上記の非特許文献2では、所定のモデルの設定が複雑であるために、ドリップ抽出におけるコーヒー飲料の濃度が極めて複雑な形式で表されており、当該濃度の算出に手間がかかるし、モデルの設定が実際の抽出から離れている側面もあるために、かえって実際の濃度から乖離して、更なる補正係数の追加等が必要になることがある。
請求項2に記載の発明は、飲料製造装置において、被抽出固体のかさ体積Vを調節する被抽出固体体積調節器、前記被抽出固体からの抽出に用いる液体の流量Qを調節する流量調節器、前記抽出の時間tを調節する抽出時間調節器、前記被抽出固体と前記液体との間の比表面積asfを調節する比表面積調節器、及び前記被抽出固体と前記液体との間の物質移動係数hmassを調節する物質移動係数調節器、の少なくとも何れかと、順に下記式(15),(17),(18)と同等である式(b),式(c)及び式(d)(cfinは供給される前記液体の成分濃度,cf0はファーストドリップの前記飲料の平均濃度,εは前記液体に係る液体空間の体積分率)に基づいて、前記被抽出固体体積調節器に係る被抽出固体のかさ体積V、前記流量調節器に係る液体の流量Q、抽出時間調節器に係る前記抽出の時間t、物質移動係数調節器に係る物質移動係数hmassの少なくとも何れかを調節して、前記抽出により製造される飲料における前記被抽出固体由来の成分の平均濃度cfを調節する制御手段と、を有することを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、飲料製造装置において、被抽出固体及び抽出に用いる液体が抽出器に充填された際の抽出器体積V’を調節する被抽出固液体積調節器、前記被抽出固体の質量mを調節する固体質量調節器、前記抽出器内に挿入する前記液体の量VWを調節する液体体積調節器、前記抽出の時間tを調節する抽出時間調節器、前記被抽出固体と前記液体との間の比表面積asfを調節する比表面積調節器、前記被抽出固体と前記液体との間の物質移動係数hmassを調節する物質移動係数調節器、及び前記被抽出固体の単位質量当たりの成分含有率γを調節する成分含有率調節器の少なくとも何れかと、順に下記式(21),(22)と同等である式(e)及び式(f)(c fin は供給される前記液体の成分濃度,c sat は濃度平衡状態における前記飲料の濃度,εは前記液体に係る液体空間の体積分率,ρ s は前記被抽出固体の密度である被抽出固体密度)に基づいて、前記被抽出固液体積調節器に係る前記抽出器体積V’、前記固体質量調節器に係る前記被抽出固体の質量m、前記液体体積調節器に係る前記液体の量VW、前記抽出時間調節器に係る前記抽出の時間t、前記比表面積調節器に係る前記比表面積asf、前記物質移動係数調節器に係る前記物質移動係数hmassの少なくとも何れかを調節して、前記抽出器内の飲料における前記被抽出固体由来の成分の濃度cを調節する制御手段と、を有することを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、飲料製造方法において、順に下記式(15),(17),(18)と同等である式(b),式(c)及び式(d)(cfinは供給される下記液体の成分濃度,cf0はファーストドリップの下記飲料の平均濃度,εは下記液体に係る液体空間の体積分率)に基づいて、被抽出固体のかさ体積V、前記被抽出固体からの抽出に用いる液体の流量Q、前記抽出の時間t、前記被抽出固体と前記液体との間の比表面積asf、及び前記被抽出固体と前記液体との間の物質移動係数hmass、の少なくとも何れかを調節して、前記抽出により製造される飲料における前記被抽出固体由来の成分の平均濃度cfを調節することを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明は、飲料製造方法において、順に下記式(21),(22)と同等である式(e)及び式(f)(c fin は供給される下記液体の成分濃度,c sat は濃度平衡状態における下記飲料の濃度,εは下記液体に係る液体空間の体積分率,ρ s は下記被抽出固体の密度である被抽出固体密度)に基づいて、抽出器体積V’、被抽出固体の質量m、前記被抽出固体からの抽出に用いる液体の量VW、前記抽出の時間t、前記被抽出固体と前記液体との間の比表面積asf、前記被抽出固体と前記液体との間の物質移動係数hmassの少なくとも何れかを調節して、前記抽出により製造される飲料における前記被抽出固体由来の成分の平均濃度cを調節することを特徴とするものである。
尚、当該形態は、下記の例及び変更例に限定されない。
コーヒー抽出の数学的モデルは、次に示される支配方程式から導出されるモデルである。
支配方程式として、コーヒー液相に係る式(1)~(4)と、コーヒー粒子相に係る式(5)~(6)とが挙げられる。
ここで、kは熱伝導率、Dは物質拡散係数(m2/s)、ρは密度(kg/m3)、μは粘度(W/m・K,ワット毎メートル毎ケルビン)、σPは定圧比熱(J/kg・K,ジュール毎キログラム毎ケルビン)であり、σsは固体の比熱(J/kg・K)であり、添え字のfは液相、sは粒子相、Pは定圧であることをそれぞれ示す。又、x,y,zはデカルト座標系(m,メートル)であり、u,v,wは速度(m/s)であり、cは濃度(mg/L,ミリグラム毎リットル)であり、tは時刻(s)であり、Tは水温(℃,セルシウス度)である。
ここで、濃度cはコーヒー内のある成分の濃度を指し、いかなる成分にも適用できる。複数の成分が同時に扱われる場合、その成分の数毎に物質移動の式も多くなる。
そこで、本モデルでは、局所体積平均理論が適用されるものとし、数百ないしは数千の挽き豆から抽出されるマクロ現象が物理的に正しく取り扱えるようにした。
支配方程式に係る式(1)~(6)に対し、局所体積平均理論を適用して導出された非定常三次元コーヒー抽出モデル(マクロなコーヒー抽出を取り扱うことができるモデル)は、次の式(7)~(12)の通りである。式(7)~(10)は、コーヒー液相に関するものであり、式(11)~(12)は、コーヒー粒子相に関するものである。
しかし、かような数値シミュレーションにおいては、処理量が未だ甚大であり、計算コストが嵩む。
よって、非定常三次元コーヒー抽出モデルは、家庭あるいは店舗等において小規模で抽出したコーヒーの味を簡便に予測する場合では使い勝手が悪い。
そこで、式(7)~(12)を簡単化して、ペーパードリップ抽出(透過式)およびサイフォン抽出(浸漬式)の抽出モデルをそれぞれ導出することが本出願人により試みられ、以下のように各抽出モデルが導出された。
家庭用あるいは店舗用のコーヒー抽出では、少量のコーヒー抽出が行われ、コーヒー豆の使用量も少ない。このような少量抽出では、抽出器内で濃度の空間分布は生じ難い。そのため、コーヒー抽出の非定常三次元コーヒー抽出モデルが、集中定数系に適用された。
つまり、家庭用のコーヒー抽出では、流動場及び温度場の影響が少なく、上記の連続の式,運動量の式,エネルギー式をそれぞれ解く必要はない。そこで、コーヒー液相及び豆相の物質移動式に対して、抽出槽内で、積分処理及び平均処理が施されるようにする。すると、ペーパードリップ抽出における集中定数系モデルに係る以下の式(13),(14)が得られる。
又、式(13),(14)は、ドリップコーヒーを想定して、解析的に解くことができる。この解、即ち下記式(15),(16)は、ペーパードリップ(透過式)抽出モデルとなる。
又、cf0-は、コーヒー液が抽出器外へ初めて出た際のコーヒー液の成分濃度である。添え字の0は初期値であることを示す。更に、コーヒーの抽出速度を表すλ、及び抽出に影響を与える因子で構成された無次元数Ca(本願において「カフェナンバー」と言うこともある)は、それぞれ以下の式(17),(18)で与えられる。
尚、特許請求の範囲における式(a)は、式(15)でλ=1としたものであり、式(b)は、式(15)と同一であり、式(c)は、式(17)と同一であり、式(d)は、式(18)と同一である。但し、式(a),(b)では、平均濃度cf-及びファーストドリップのコーヒー液の平均濃度cf0-が表現上の制約からcf及びcf0と表されているところ、cf-及びcf0-と異なるものではない。
つまり、一般的に考えられているコーヒーに影響を与える因子と、本モデルで採用する各数値とは、対応していることが分かる。
ちなみに、温度の効果はファーストドリップのコーヒー液の成分濃度cf0-に影響が出る。
尚、各温度,各条件でcf0-を予め抽出しておけば、温度を変えても抽出予測は可能となる。
図1によれば、Caが大きくなると、λが1に近づくことが分かる。実際のドリップ抽出では、豆を細かく挽くエスプレッソコーヒーは豆の比表面積が大きく、λが既に1に達していると考えられる。即ち、ドリップ抽出モデルは、λ値を変更することで、エスプレッソコーヒーあるいはドリップコーヒーの抽出を予測することができる。
又、新たな補正係数が追加されても良い。
更に、λが1とされても良い(式(a)参照,特にエスプレッソの場合)。
又更に、Caが用いられず、経験的なλ値が採用されても良い。
加えて、式(15)を時間で積分し、更に抽出された液体の体積で平均することで、抽出コーヒー液の成分濃度が予測されても良い。
又、式(17)からコーヒー豆に含まれる成分の減少量を求めることで、コーヒー液の抽出予測がなされても良い。
当該方式による抽出では、ある一定時間、コーヒー豆を水の中に浸すことで、コーヒーが抽出される。抽出例として、サイフォンコーヒーが挙げられる.これは、熱水とコーヒー粒子とが抽出槽内で混ざり合い、攪拌されることでコーヒーが抽出される。最終的には、フィルターによって、コーヒー粒子と抽出されたコーヒー液が分離される。
ドリップ抽出と同様に、浸抽出法においても、集中定数系モデルが用いられた。このとき、水及びコーヒー粒子が充填された際の抽出器体積をV’とすると,浸漬式抽出法における集中定数系モデルは、以下の式(19),(20)として導出される。
又、(19),(20)は、浸漬式抽出を想定して、解析的に解くことができる。この解、即ち下記式(21)は、サイフォン(浸漬式)抽出モデルとなる。
ここで、γはコーヒー粒子の単位質量当たりの成分含有率、mはコーヒー豆の質量(kg)、VWは抽出槽内に挿入した熱水量(m3)、ρsはコーヒー粒子密度(kg/m3)を示す。尚、添え字のsatは、飽和量であることを示す。
尚、特許請求の範囲における式(e)は、式(21)と同一であり、式(f)は、式(22)と同一である。但し、式(e),(f)では、抽出槽のコーヒー液の濃度c-及びファーストドリップのコーヒー液の平均濃度csat-が表現上の制約からc及びcsatと表されているところ、c-及びcsat-と異なるものではない。
又、新たな補正係数が追加されても良い。
更に、飽和コーヒー成分濃度csat-は、実験的に求めた値を採用しても良い。
第1形態では、飲料としてのコーヒーを抽出により製造する飲料製造装置としての抽出装置によって、実際にドリップコーヒーを抽出した場合におけるコーヒー成分(カフェイン酸及びクロロゲン酸)の濃度と、上述されたコーヒー抽出の数学的モデルに基づく解析によって得られるコーヒー成分の濃度との比較が行われる。
カフェイン酸は、主にコーヒーの酸味に寄与し、クロロゲン酸は、主にコーヒーの苦味ないしは渋味に寄与する。
ドリップコーヒー抽出におけるコーヒー成分濃度の数学的モデルは、上記式(15),式(17)及び(18)である。
抽出装置1は、恒温槽2と、抽出器4と、ジャッキ6と、グローブボックス8と、貯留槽10と、秤12と、窒素ガス供給部13と、を有する。
水は、熱水が所定残量以下となると、水道とつながったパイプのバルブの作動等により自動で追加されても良いし、手動で追加されても良い。又、常に所定量となるようにする等、他の構成あるいは方法により水が補充されても良い。
恒温槽2は、抽出器4と同様な高さとなるように、台15に載せられている。
上筒部16は、細長い円筒状であり、下部において、柔軟性のあるパイプ20を介して、恒温槽2とつながっている。パイプ20は、恒温槽2から上筒部16への熱水の流量を調整する流量調整手段(電磁バルブ)21を有している。上筒部16の下端部には、外形が円形のつばである上フランジ22が設けられている。
中筒部17は、外径が上フランジ22と同様であり且つ内径が上筒部16と同等である円筒状であり、輪状の弾性体である上ラバーリング24を介して、上筒部16の下側に連結されている。
下筒部18は、上筒部16と仮想的な水平面に対して面対称であるように設けられ、下フランジ26を有している。中筒部17の下面と下フランジ26との間には、上から順に、中ラバーリング30,フィルタ32,下ラバーリング34が配置されている。フィルタ32は、ここでは平らな金網であり、端縁部が中ラバーリング30及び下ラバーリング34に挟まれ、中央部が中筒部17の中央孔の下端部と下筒部18の中央孔の上端部の間において露出している。上筒部16の中央孔を含めた各中央孔は、互いに同径であり(内径の直径28.9mm)、中心軸が揃う状態で連続している。
下筒部18の下部は、グローブボックス8の上面に開けられた上孔を通じて、グローブボックス8内に入っている。
コーヒー豆は、ここではインドネシア産West Indische Bereiding(WIB)を赤外線焙煎(IR)したものである。焙煎度は、焙煎時間の短い(煎りの浅い)順に、High roast(中深煎り),City roast(深煎り),Fullcity roast(極深煎り)の3段階とし、それぞれ用意される。又、コーヒー粒子GCの大きさ(粒度)は、238μm(ザウター平均粒径)である。コーヒー粒子GCの重量は、一般的なドリップコーヒー140mLの抽出に用いられる12g(グラム)である。
コーヒー粒子GCは、上下方向に連続した上筒部16ないし下筒部18の各中央孔の途中に配置され、熱水が各中央孔を上から下へ一次元的に通過するため、抽出速度が変動の極めて少ないものとなる。
コーヒー粒子GCに対する圧力ヘッドは、抽出器4の位置(パイプ20に対する上下方向での相対位置)に応じるため、抽出器4の移動によって調整可能である。
貯留槽10は、グローブボックス8内であって、抽出器4の下方に設けられ、抽出器4により抽出されたコーヒー飲料(コーヒー成分入り熱水)を貯留する。
秤12は、グローブボックス8内であって、貯留槽10の下側に設けられ、貯留槽10内のコーヒー飲料の重量を把握する。
窒素ガス供給部13は、窒素ガスタンク40と、窒素ガスパイプ42とを含む。窒素ガスタンク40は、窒素ガスパイプ42を介してグローブボックス8と接続されており、グローブボックス8内に窒素ガスを供給する。尚、窒素ガス供給部13は、省略されても良い。この場合、グローブボックス8は、気密でなくても良いし、省略されても良い。
尚、抽出器4は、パイプ20の恒温層側端部(高)と抽出器4側端部(低)の高低差が7.5cmとなる位置で保持される。
又、窒素ガス供給部13により、グローブボックス8内の窒素濃度が95%以上に保持される。窒素濃度は、図示されない窒素濃度計により測定される。グローブボックス8内の窒素濃度が95%以上に保持されることにより、コーヒー成分の酸化等の変質が防止される。
尚、コーヒー粒子GCの蒸らしは、後の抽出時に熱水がコーヒー粒子GC内を染み渡り易くする効果がある。
貯留槽10に28mL抽出される毎に、コーヒー飲料が取り出され、合計で5回繰り返される。コーヒー飲料は、取り出された順に、1~5フラクションと称する。尚、各フラクションの抽出時間から、フラクション毎の流量が得られる。
尚、濃度測定は、各フラクションにおけるコーヒー飲料のサンプルを希釈器で10倍希釈して行われ、得られた濃度が10倍されて実際の濃度に換算される。
何れの成分も、同じフラクションでは、焙煎度が深くなるにつれ、濃度が薄くなる。又、何れの成分も、同じ焙煎度では、抽出が進んでフラクションが後になるにつれ、濃度が薄くなっていく。
各フラクション毎のカフェイン酸濃度,クロロゲン酸濃度,抽出時間,抽出速度について、High roastの場合が次の[表2]に示され、City roastの場合が次の[表3]に示され、Fullcity roastの場合が次の[表4]に示される。
即ち、上記抽出結果と、式(15)が各フラクション時間で積分された値とが、フィッティングにより比較される。当該フィッティングは、次の式(23)で示されるように、抽出結果cexp,iと式(15)に係る解析値の偏差の二乗和が求められることで行われる。
ここで、Vfは各フラクションの抽出量を示し、Nはフラクションの数(=5)を示す。
フィッティングによって得られたカフェナンバーCaを式(18)に代入すると、総括物質移動係数asfhmassが得られる。
カフェイン酸,クロロゲン酸共に実際の抽出結果と式(15)に係る解析値とが良好に一致している。従って、数回のサンプリングにより一度式(15)をコーヒー成分毎に同定してしまえば、式(15)に基づいて、所定条件下でのコーヒー成分の濃度は把握可能であり、ドリップコーヒーの抽出予測が可能となる。
尚、次の[表5],[表6]に、フィッティングにより同定されたカフェイン酸,クロロゲン酸に係るカフェナンバーCa,初期濃度,総括物質移動係数が示される。
即ち、抽出装置1は、被抽出固体としてのコーヒー粒子GCのかさ体積V、コーヒー粒子GCからの抽出に用いる液体としての熱水の流量Q、当該抽出の時間t、コーヒー粒子GCと熱水との間の比表面積asf、コーヒー粒子GCと熱水との間の物質移動係数hmass、熱水に係る液体空間の体積分率ε、供給される熱水のコーヒー濃度cfin、ファーストドリップのコーヒー液の平均濃度cf0、に関する上記式(15)、式(17)及び式(18)に基づいて、抽出の時間t(フラクション)を調節して、当該抽出により製造されるコーヒー飲料におけるコーヒー粒子GC由来の成分(カフェイン酸及びクロロゲン酸)の各平均濃度cfを調節可能である。
よって、抽出装置1において、式(15)、式(17)及び式(18)について数回ないし十数回程度のサンプリングで同定しさえすれば、コーヒー飲料における酸味に係るカフェイン酸及び渋味に係るクロロゲン酸の濃度が、抽出の時間tが変化しても的確に予測可能であり、従来のように抽出者の経験に頼らなくても、抽出の時間tといったコーヒー飲料製造に係る抽出条件に応じた味に関する成分の濃度が安定化し、所望の味に係るコーヒー飲料が製造されることとなる。
よって、コーヒー飲料抽出方法において、抽出の時間tといったコーヒー飲料製造に係る抽出条件に基づきコーヒー成分の予測が的確に実行可能であり、所望の味に係るコーヒー飲料が製造可能である。
第2形態では、抽出装置がエスプレッソマシンとされた場合において、第1形態と同様に、コーヒー成分の実際の濃度と数学的モデル解析による濃度との比較が行われる。
第2形態の抽出装置では、90℃の熱水が900000Paの圧力で80.7mLに至るまでコーヒー粒子に供給される。コーヒー粒子は、ブラジル産Santosで、City Roastで赤外線焙煎され、ザウター平均粒径152μmで細かく挽かれ、12g用いられる。尚、第2形態のエスプレッソ抽出は、第1形態のドリップ抽出に比べて抽出速度が速いので、グローブボックス及び窒素ガス供給部は省略され、窒素ガス雰囲気下での貯留はなされない。
第2形態では、抽出時間が3秒経過する度にコーヒー飲料が取り出され、取り出された順にフラクションが形成されて、10フラクションまで取得される。
何れの成分も、第1形態と同様、抽出が進んでフラクションが後になるにつれ、濃度が薄くなっていく。
第2形態でのフィッティングは、次の式(24)で示されるように、抽出結果cexp,iと式(15)に係る解析値の偏差の二乗和が求められることで行われる。
尚、コーヒー成分の実際の濃度が、7フラクション以降において一定値となっているため、N=6でフィッティングが行われる。
カフェイン酸,クロロゲン酸共に実際の抽出結果と式(15)(λ=1)に係る解析値とが良好に一致している。従って、数回のサンプリングにより一度式(15)(λ=1)を同定してしまえば、式(15)(λ=1)に基づいて、所定条件下でのコーヒー成分の濃度は把握可能であり、エスプレッソコーヒーの抽出予測が可能となる。
よって、エスプレッソあるいは類似の抽出の場合において、より簡易にコーヒー成分の予測ないしは当該予測に基づく任意の味のコーヒー飲料が提供可能である。
第3形態では、抽出装置が浸漬抽出装置とされた場合において、第1形態と同様に、コーヒー成分の実際の濃度と数学的モデル解析による濃度との比較が行われる。
浸漬抽出におけるコーヒー成分濃度の数学的モデルは、上記式(19)及び(20)である。
浸漬抽出装置101は、焙煎豆を保持する焙煎豆保持部102と、焙煎豆保持部102から焙煎豆を設定された量だけ受け取って設定された粒度に粉砕しコーヒー粒子とする粉砕器(ミル)104と、熱水を貯留する熱水タンク106と、粉砕器104及び熱水タンク106とつながる撹拌抽出槽108と、撹拌抽出槽108からコーヒー飲料CBのみを抽出するフィルター110と、これらを制御する制御手段112と、を有する。
撹拌抽出槽108は、粉砕器104からコーヒー粒子を受け取ると共に、熱水タンク106から設定された温度及び量の熱水を受け取る。又、撹拌抽出槽108では、コーヒー粒子及び熱水の受け取り後所定時間(12秒間)、これらの混合による抽出(混合抽出)が行われ、その後、撹拌手段による撹拌が設定時間だけなされてコーヒー粒子から熱水への物質移動が促進される抽出(撹拌抽出)が行われる。撹拌抽出の終了後、撹拌抽出槽108からフィルター110を経てコーヒー飲料CBが抽出される。コーヒー飲料CBに係る抽出時間は、混合抽出時間と撹拌抽出時間の合計となる。
コーヒー豆は、ブラジル産Santosで、City Roastで赤外線焙煎され、中程度に挽かれる(Particle size 3)。コーヒー粒子は、蒸らし無し(Steaming time 0s)で投入される。
撹拌時間(秒)は、ここでは、0,5,10,20,30,99.9の6種類で設定され、それぞれの撹拌時間におけるコーヒー飲料CBが取得された。
何れの成分も、撹拌時間が長くなると濃度が高くなり、徐々に濃度平衡状態へ漸近していく。
即ち、浸漬抽出装置101では、混合抽出と撹拌抽出とが行われるため、総括物質移動係数は、それぞれの抽出において、実際得られた濃度に対するモデルのフィッティングにより得られる。
まず、混合抽出について、混合抽出時間は撹拌抽出時間が0秒の場合の時間であるため、混合した後の各成分の抽出濃度は、当該場合における濃度である。よって、混合抽出の総括物質移動係数asfhmixingは、次の式(25)で求められる。
ここで、t0は混合抽出時間、cf0-は混合抽出でのコーヒー成分濃度(撹拌抽出時間が0秒の場合の濃度)である。又、csatは濃度平衡状態におけるコーヒー成分濃度であり、撹拌抽出時間が99.9秒である場合の濃度とされた。
ここで、Nは、撹拌抽出時間0秒~30秒の5点とされた。又、cmは、それぞれの撹拌抽出時間における実際に得られたコーヒー成分濃度である。
又、混合抽出及び撹拌抽出における総括物質移動係数asfhmixing,asfhstirringを
が、次の[表7]に示される。
又、コーヒー成分、コーヒー粒子の質量、コーヒー粒子の粒度、コーヒー粒子の種類、コーヒー粒子の焙煎度、熱水量、熱水温度、撹拌の強度、及び蒸らしの長さの少なくとも何れかが変わる場合、その条件下での総括物質移動係数asfhmixing,asfhstirringを一度同定すれば、その条件下でのコーヒー成分の濃度は予測可能となる。
よって、浸漬抽出あるいは類似の抽出の場合において、より簡易にコーヒー成分の予測ないしは当該予測に基づく任意の味のコーヒー飲料が提供可能である。
尚、上述の各形態における各種の変更例は、適宜、他の形態の変更例ともなり得る。
更に、上述の各形態は、次のような更なる変更例を適宜有する。
即ち、熱水が冷水とされ、アイスコーヒーが所望の味で抽出されても良い。水以外の液体により抽出がなされても良い。
又、コーヒー抽出の数学的モデルは、他の固体(粉体を含む)から液体により抽出する飲料の場合にも適用可能であり、例えば茶葉から水により抽出される茶飲料について上記各形態が適用されても良い。
更に、濃度調整対象としての飲料の成分は、上述のもののうちの何れか一方であっても良いし、上述のもの以外であって良いし、1種あるいは3種以上であっても良い。
Claims (6)
- 被抽出固体のかさ体積Vを調節する被抽出固体体積調節器、前記被抽出固体からの抽出に用いる液体の流量Qを調節する流量調節器、及び前記抽出の時間tを調節する抽出時間調節器、の少なくとも何れかと、
下記式(a)に基づいて、前記被抽出固体体積調節器に係る被抽出固体の前記かさ体積V、前記流量調節器に係る前記液体の流量Q、及び前記抽出時間調節器に係る前記抽出の時間t、の少なくとも何れかを調節して、前記抽出により製造される飲料における前記被抽出固体由来の成分の平均濃度cfを調節する制御手段と、
を有することを特徴とする飲料製造装置。
- 被抽出固体のかさ体積Vを調節する被抽出固体体積調節器、前記被抽出固体からの抽出に用いる液体の流量Qを調節する流量調節器、前記抽出の時間tを調節する抽出時間調節器、前記被抽出固体と前記液体との間の比表面積asfを調節する比表面積調節器、及び前記被抽出固体と前記液体との間の物質移動係数hmassを調節する物質移動係数調節器、の少なくとも何れかと、
下記式(b),式(c)及び式(d)に基づいて、前記被抽出固体体積調節器に係る被抽出固体のかさ体積V、前記流量調節器に係る液体の流量Q、抽出時間調節器に係る前記抽出の時間t、前記比表面積調節器に係る前記比表面積asf、物質移動係数調節器に係る物質移動係数hmassの少なくとも何れかを調節して、前記抽出により製造される飲料における前記被抽出固体由来の成分の平均濃度cfを調節する制御手段と、
を有することを特徴とする飲料製造装置。
ことを特徴とする飲料製造装置。 - 被抽出固体及び抽出に用いる液体が抽出器に充填された際の抽出器体積V’を調節する被抽出固液体積調節器、前記被抽出固体の質量mを調節する固体質量調節器、前記抽出器内に挿入する前記液体の量VWを調節する液体体積調節器、前記抽出の時間tを調節する抽出時間調節器、前記被抽出固体と前記液体との間の比表面積asfを調節する比表面積調節器、前記被抽出固体と前記液体との間の物質移動係数hmassを調節する物質移動係数調節器、及び前記被抽出固体の単位質量当たりの成分含有率γを調節する成分含有率調節器の少なくとも何れかと、
下記式(e)及び式(f)に基づいて、前記被抽出固液体積調節器に係る前記抽出器体積V’、前記固体質量調節器に係る前記被抽出固体の質量m、前記液体体積調節器に係る前記液体の量VW、前記抽出時間調節器に係る前記抽出の時間t、前記比表面積調節器に係る前記比表面積asf、前記物質移動係数調節器に係る前記物質移動係数hmassの少なくとも何れかを調節して、前記抽出器内の飲料における前記被抽出固体由来の成分の濃度cを調節する制御手段と、
を有することを特徴とする飲料製造装置。
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