<概要>
本開示で例示する眼科装置は、被検眼の医療情報を取得するために、被検眼への光束の投光、および、被検眼からの光束の受光の少なくともいずれかを行う。本開示で例示する眼科装置は、ベース光学系、光学部材、および旋回部を備える。ベース光学系は、被検眼に投光される光束を出射する光束出射部、および、被検眼からの光束を受光する受光部の少なくともいずれかを備える。光学部材は、光学的パワーを有すると共に、ベース光学系と被検眼の間に延びる光束の光路上に設けられる。旋回部は、光束の光路上における光学部材とベース光学系の間の旋回位置において光束を旋回させて、光学部材に対する光束の光軸の位置および角度の少なくともいずれかを変化させることで、光学部材から被検眼へ向けて延びる光束である被検眼側光束の位置および角度の少なくともいずれかを変更する。光学部材の光軸に交差する二次元の方向のうち、被検眼側光束の変更量および変更頻度の少なくとも一方が最も大きい一次元の方向を、主変更方向とする。被検眼側光束を主変更方向に変更する際の、旋回部による光束の旋回軸である主旋回軸が、旋回位置からベース光学系側へ延びる直線状の基準光路に対して垂直である。
本開示で例示する眼科装置では、旋回位置からベース光学系側へ延びる基準光路に対して、主旋回軸が垂直となっている。従って、主変更方向に対して交差(例えば、垂直に交差)する副変更方向に被検眼側光束が変更されていなければ、旋回部によって旋回される直線光路(以下、「旋回光路」という)と基準光路が、主旋回軸に垂直な仮想平面上に位置する。換言すると、主旋回軸は、仮想平面に対して垂直となっている。この場合、被検眼側光束を主変更方向に変更させても光束が捩れないので、光束によって投影される像が回転しない。従って、変更量および変更頻度の少なくとも一方が大きい主変更方向に被検眼側光束を変更しても、像が回転する影響が抑制された状態で適切に医療情報が取得される。
また、眼科装置の制御部は、被検眼側光束を主変更方向にのみ変更する場合には、主旋回軸を中心として光束を旋回させるように旋回部を駆動させるだけでよい。従って、旋回部の駆動制御も単純になり易い。
また、複数の光学素子(例えば、複数の旋回部等)を組み合わせることで、光束を旋回させることに起因する像の回転を相殺させることも考えられる。しかし、この場合には、装置構成が複雑になるだけでなく、複数の光学素子の制御も複雑となる。これに対し、本開示で例示する技術によると、基準光路に対する主旋回軸の角度を規定するだけで、像が回転する影響が適切に抑制される。
本開示で例示する技術は、種々の眼科装置に適用できる。例えば、被検眼に検査視標の光束を投光することで被検眼の自覚式検査を行う自覚式検眼装置、被検眼の前眼部によって反射された光束を受光することで前眼部画像を撮影する眼科撮影装置、および、被検眼の眼底によって反射された光束を受光することで眼底画像を撮影する眼科撮影装置等に、本開示で例示する技術を適用することが可能である。
旋回位置からベース光学系側へ延びる基準光路は固定されていてもよい。この場合、旋回部(例えば、ガルバノミラー、プリズム、または音響光学素子等)は、基準光路に対する旋回光路の角度を変えることで、光束を旋回させてもよい。また、旋回位置に対する基準光路の角度が変えられることで、光束が旋回位置において旋回されてもよい。この場合、旋回部(例えばモータ等)は、ベース光学系の位置および角度を変えて基準光路の角度を変えることで、光束を旋回位置において旋回させてもよい。また、旋回部は、ベース光学系と旋回位置の間の光路を変えて基準光路の角度を変えることで、光束を旋回位置において旋回させてもよい。なお、基準光路の角度を変えることで光束を旋回させる場合、旋回位置に設けられた光学部材(例えばミラー等)は固定されていてもよい。
各種光学素子は適宜選択することができる。例えば、ベース光学系と被検眼の間の光路上に設けられる光学部材は、凹面ミラーであってもよいし、凸レンズであってもよい。
旋回位置を含み、且つ主旋回軸に対して垂直な仮想平面上に、光束の方向を偏向させる偏向部が設けられてもよい。基準光路が、偏向部と旋回位置の間に延びていてもよい。この場合、旋回位置およびベース光学系の位置および方向に関わらず、主旋回軸を基準光路に対して容易に垂直とすることができる。従って、眼科装置の設計の自由度が向上する。装置の小型化等も容易となる。
旋回位置と光学部材の間の光束の光路上に、光束の方向を偏向させる偏向部(以下、「第2偏向部」という)が設けられてもよい。この場合、旋回位置およびベース光学系の位置および方向を、より自由に設定することができる。例えば、第2偏向部は、光学部材から第2偏向部に延びる光路を下方に折り曲げてもよい。この場合、ベース光学系を装置の下部に設置することが容易になる。よって、装置の下部のスペースが有効に活用される。
眼科装置は、光学部材の位置に対する旋回位置、旋回位置に対する光学部材の位置、および光学部材の角度の少なくともいずれかを変更する変更駆動部をさらに備えてもよい。この場合、眼科装置は、被検眼の位置に応じて変更駆動部を駆動させることで、被検眼側光束を適切に被検眼に合わせることができる。
なお、眼科装置に対する被検眼の位置が、常に所定の位置に合わせられる場合等には、変更駆動部を省略することも可能である。
変更駆動部は、光学部材の位置に対する旋回位置を仮想平面上で移動させてもよい。例えば、基準光路が固定されている場合には、変更駆動部は、基準光路が延びる直線上で旋回位置を移動させてもよい。この場合、旋回位置が移動しても、基準光路に対して主旋回軸が垂直に保たれる。従って、像が回転する影響が適切に抑制された状態で、被検眼側光束が被検眼に合わせられる。
なお、旋回位置を移動させる場合には、眼科装置は、旋回位置を移動させても光軸と光学的共役関係が保たれるように、ベース光学系の位置を光軸方向に移動させてもよい。この場合、被検眼の位置に関わらず、より適切に医療情報が取得される。
旋回部は、主旋回軸に対して交差する副旋回軸を中心として光束を旋回させることで、主変更方向に交差(例えば垂直に交差)する副変更方向に被検眼側光束を変更することも可能であってもよい。この場合には、被検眼側光束を主変更方向にのみ変更する場合に比べて、より適切に被検眼側光束が被検眼に合わせられる。
なお、被検眼側光束を主変更方向および副変更方向に変更する場合、1つの旋回部が、主旋回軸と副旋回軸の各々を中心に光束を旋回させてもよい。また、旋回部は、主旋回軸を中心に光束を旋回させる主旋回部と、副旋回軸を中心に光束を旋回させる副旋回部を別々に備えていてもよい。
眼科装置は制御部を備えていてもよい。制御部は、旋回部によって被検眼側光束を副変更方向に変更する場合に、出射部から被検眼に投影される像の回転、および、受光部によって受光される像の回転の少なくともいずれかを補正してもよい。被検眼側光束が副変更方向に変更される場合には、光束が捩れてしまうので、光束によって投影される像が回転する。しかし、制御部が像の回転を補正することで、像の回転の影響が適切に抑制される。
なお、被検眼側光束を副変更方向に変更する変更量および変更頻度の少なくともいずれかは、被検眼側光束を主変更方向に変更する変更量および変更頻度に比べて小さい。従って、制御部による像の回転の補正量および補正頻度は僅かで済む。
像の回転を補正するための具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、眼科装置は、被検眼に投影する視標を表示する視標板またはディスプレイを備えていてもよい。この場合、制御部は、副変更方向における被検眼側光束の変更量に応じて定まる像の回転量に応じて、視標板またはディスプレイ自体を回転させることで、像の回転を補正してもよい。また、視標を表示するディスプレイが用いられている場合、制御部は、ディスプレイに表示させる視標を回転させることで、像の回転を補正してもよい。また、眼科装置の受光部は、被検眼からの光束を受光することで、被検眼の画像を撮影してもよい。この場合、制御部は、副変更方向における被検眼側光束の変更量に応じて定まる像の回転量に応じて、受光部によって撮影された画像を回転させる処理を行うことで、像の回転を補正してもよい。また、制御部は、受光部による受光結果(例えば、受光部によって撮影された画像等)に基づいて医療情報(例えばプリズム値等)を算出してもよい。この場合、制御部は、被検眼側光束の変更量に応じて定まる像の回転量を考慮して、受光結果から医療情報を算出することで、像の回転を補正してもよい。また、制御部は、被検眼側光束を副変更方向に変更する場合に、光学部材に対する被検眼の方向に合わせて光学部材の位置を変更することで、像の回転を抑制してもよい。
なお、旋回位置からベース光学系側へ延びる基準光路に対する主旋回軸の角度を規定せずに、光束の旋回に応じて生じる像の回転を制御部が補正することも可能である。この場合、眼科装置は以下のように表現することも可能である。被検眼の医療情報を取得するために、前記被検眼への光束の投光、および、前記被検眼からの光束の受光の少なくともいずれかを行う眼科装置であって、前記被検眼に投光される光束を出射する出射部、および、前記被検眼からの光束を受光する受光部の少なくともいずれかを備えたベース光学系と、光学的パワーを有すると共に、前記ベース光学系と前記被検眼の間に延びる前記光束の光路上に設けられる光学部材と、前記光路上における前記光学部材と前記ベース光学系の間の旋回位置において前記光束を旋回させて、前記光学部材に対する前記光束の光軸の位置および角度の少なくともいずれかを変化させることで、前記光学部材から前記被検眼へ向けて延びる前記光束である被検眼側光束の位置および角度の少なくともいずれかを変更する旋回部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記旋回部によって前記光束を旋回させて前記被検眼側光束を変更する場合に、前記出射部によって前記被検眼に投影される像の回転、および、前記受光部によって受光される像の回転の少なくともいずれかを、前記被検眼側光束の変更方向および変更量に応じて補正することを特徴とする眼科装置。
ベース光学系は、被検者の左眼および右眼の各々に対応する一対のベース光学系を含んでいてもよい。旋回部は、左眼用の光路を旋回させる左旋回部と、右眼用の光路を旋回させる右旋回部を含んでいてもよい。この場合、被検者の左眼および右眼の医療情報が、容易且つ適切に取得される。
なお、ベース光学系および旋回部が共に一対ずつ設けられている場合、一対の旋回部と左右眼の間の2つの光束の光路上に設けられる1つの光学部材が、左眼用の光路と右眼用の光路の間で共用されてもよい。この場合、装置構成が簡素化される。
旋回部は、被検眼の瞳共役位置の近傍に位置していてもよい。より望ましくは、旋回部の位置は被検眼の瞳共役位置に一致していてもよい。瞳共役位置では、光束が最も小さくなる。従って、旋回部を瞳共役位置の近傍に配置することで、旋回部を小型化することができる。
<実施形態>
以下、本開示における典型的な実施形態の1つについて、図面を参照して説明する。一例として、本実施形態では、被検眼の画像の撮影、被検眼の光学特性(例えば屈折力等)の自覚的測定、および他覚的測定をいずれも実施することが可能な眼科装置1を例示する。被検眼の画像(本実施形態では前眼部画像)は、被検眼(本実施形態では前眼部)によって反射された光束を受光することで撮影される。自覚的測定は、被検眼に検査視標の光束を投光し、検査視標の見え方を被検者に応答させることで行われる。他覚的測定は、被検眼に測定光の光束を投光し、測定光の反射光を受光することで行われる。ただし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、被検眼の画像の撮影のみを実施する眼科装置にも適用できるし、被検眼の自覚的測定のみを実施する眼科装置にも適用できる。
以下の説明では、装置の前後方向(図1における紙面左下~右上方向)をZ方向とする。装置の左右方向(図1における紙面左上~右下方向)をX方向とする。装置の上下方向(図1における紙面上下方向)をY方向とする。
図1を参照して、本実施形態の眼科装置1の概略構成について説明する。本実施形態の眼科装置1は、筐体2、呈示窓3、タッチパネル(操作部および表示部)4、顎台5、基台6、および撮影光学系100等を備える。筐体2は、内部に各種部材を収納する。例えば、筐体2の内部には、後述するベース光学系7(左眼用ベース光学系7Lおよび右眼用ベース光学系7R)が設けられている。呈示窓3は、被検者に視標を呈示するために用いられる。例えば、左眼用ベース光学系7Lおよび右眼用ベース光学系7Rから出射される視標光束が、呈示窓3を介して被検眼に投影される。また、被検眼を撮影するための光束も、呈示窓3を介して左目用ベース光学系7Lおよび右眼用ベース光学系7Rに導光される。
タッチパネル4は、画像を表示すると共に、ユーザによって操作される。すなわち、本実施形態では、ユーザ(例えば検者等)が各種指示を入力するために操作する操作部と、画像を表示する表示部(ディスプレイ)が、タッチパネル4によって兼用される。ただし、操作部と表示部が別で設けられてもよいことは言うまでもない。操作部は、入力された操作指示に応じた信号を、後述する制御ユニット70(図2参照)に出力する。操作部には、例えば、マウス、ジョイスティック、キーボード等の少なくともいずれかが用いられてもよい。表示部は、眼科装置1の本体に搭載されていてもよいし、眼科装置1とは別で設けられていてもよい。例えば、眼科装置1に接続されたパーソナルコンピュータ(以下、「PC」という)のディスプレイに、各種データが表示されてもよい。複数の表示部が併用されてもよい。
顎台5は被検者の顎を支持する。顎台5に被検者の顎が乗せられることで、被検眼と眼科装置1の距離が略一定に保たれると共に、被検者の顔の動きが抑制される。顎台5と共に、または顎台5の代わりに、額当てまたは顔当て等が用いられてもよい。基台6には、顎台5と筐体2が固定されている。撮影光学系100は、撮影素子およびレンズ(図示せず)を備えている。撮影光学系100は、被検者の顔を撮影することができる。
(ベース光学系)
図2を参照して、ベース光学系7の構成について説明する。本実施形態では、左眼用ベース光学系7Lの構成と右眼用ベース光学系7Rの構成は略同一である。従って、以下では左眼用ベース光学系7Lについて説明を行い、右眼用ベース光学系7Rの説明は省略する。左眼用ベース光学系7Lは、自覚式測定部25、他覚式測定部10、第1視標投影光学系45、第2視標投影光学系46、および前眼部撮影部50を備える。
(自覚式測定部)
自覚式測定部25は、被検者の応答に応じて被検眼の光学特性を測定するために用いられる。つまり、自覚式測定部25によって、被検眼の光学特性が自覚的に測定される。本実施形態では、一例として、被検眼の光学特性(眼屈折力、コントラスト感度、両眼視機能等)のうち、眼屈折力が自覚式測定部25によって測定される。本実施形態の自覚式測定部25は、投光光学系(視標投光系)30、矯正光学系60、および補正光学系90を備える。
投光光学系30は、視標光束を被検眼に向けて投影する。本実施形態の投光光学系30は、出射部31、投光レンズ33、投光レンズ34、反射ミラー36、ダイクロイックミラー35、ダイクロイックミラー29、および対物レンズ14を備える。視標光束は、出射部31から出射された後、投光レンズ33、投光レンズ34、反射ミラー36、ダイクロイックミラー35、ダイクロイックミラー29、および対物レンズ14の順にそれぞれの光学部材を経由して、被検眼に投影される。
出射部31は、例えば、ランドルト環視標等の検査視標、および、被検眼を固視させるための固視標(後述する他覚測定時に用いられる)等の光束を出射する。出射部31から出射された視標光束は、被検眼に向けて投光される。本実施形態の出射部31には、各種視標を表示するディスプレイが用いられている。ディスプレイには、例えばLCD、有機EL、プラズマディスプレイ等の各種表示機器を使用できる。なお、被検眼に視標を呈示するための構成および方法を変更することも可能である。例えば、出射部は、視標板に設けられた視標を光路上に位置させることで、被検眼に視標を呈示してもよい。この場合、眼科装置1は、視標板を移動(例えば、回転移動または直線移動等)させることで、被検眼に呈示する視標を変更してもよい。
矯正光学系60は、乱視矯正光学系63および駆動機構39を備える。乱視矯正光学系63は、投光レンズ33と投光レンズ34の間に配置されている。本実施形態では、乱視矯正光学系63は、被検眼の円柱度数および円柱軸等を矯正するために用いられる。例えば、乱視矯正光学系63は、焦点距離が等しい2つの正の円柱レンズ61a,61bを備える。円柱レンズ61a,61bは、回転機構62a,62bの各々によって駆動されることで、光軸L2を中心として独立して回転される。なお、乱視矯正光学系63の構成を変更することも可能である。例えば、矯正レンズが投光光学系30の光路に挿脱されることで、円柱度数等が矯正されてもよい。
駆動機構39は、モータおよびスライド機構を備え、出射部31を光軸L2の方向に移動させる。例えば、自覚測定時に出射部31が移動されることで、被検眼に対する視標の呈示位置(呈示距離)が光学的に変えられる。その結果、球面度数が矯正される。また、他覚測定時に出射部31が移動されることで、被検眼に雲霧が掛けられる。なお、球面度数を矯正するための構成を変更することも可能である。例えば、光路中に光学素子が挿脱されることで球面度数が矯正されてもよい。また、光路中に配置されたレンズが光軸方向に移動されることで、球面度数が矯正されてもよい。
なお、本実施形態では、球面度数、円柱度数、および円柱軸を矯正する矯正光学系60が例示されている。しかし、矯正光学系は、他の光学特性(例えばプリズム値等)を矯正してもよい。プリズム値が矯正されることで、被検眼が斜位眼であっても視標光束が被検眼に適切に投影される。
また、本実施形態では、円柱度数および円柱軸を矯正する乱視矯正光学系63と、球面度数を矯正する駆動機構39が別で設けられている。しかし、球面度数、円柱度数、および円柱軸が、同一の構成によって矯正されてもよい。例えば、波面を変調させる光学系によって、球面度数、円柱度数、および円柱軸が矯正されてもよい。また、複数の光学素子(例えば、球面レンズ、円柱レンズ、および分散プリズム等の少なくともいずれか)が同一円周上に配置されたレンズディスクと、レンズディスクを回転させるアクチュエータが、矯正光学系として用いられてもよい。この場合、レンズディスクが回転されて、光軸L2上に位置する光学素子が切り替えられることで、種々の光学特性が矯正される。また、光軸L2上に配置された光学素子(例えば、円柱レンズ、クロスシリンダレンズ、およびロータリープリズム等の少なくともいずれか)が、アクチュエータによって回転されてもよい。
補正光学系90は、対物レンズ14と、後述する旋回部81(図3~6参照)の間の光路上に配置されている。補正光学系90は、例えば、自覚式測定部25において生じる光学収差を補正するために用いられてもよい。また、補正光学系90は、光学収差における非点収差を補正するために用いられてもよい。本実施形態の補正光学系90は、焦点距離が等しい2つの正の円柱レンズ91a,91bを備える。円柱レンズ91a,91bは、回転機構92a,92bの各々によって駆動されることで、光軸L3を中心として独立して回転される。補正光学系90は、円柱度数と円柱軸を調整することで、非点収差を補正することができる。なお、補正光学系90の構成を変更することも可能である。例えば、補正レンズが光路に挿脱されることで、光学収差が補正されてもよい。また、矯正光学系60が補正光学系90を兼用してもよい。この場合、円柱度数と円柱軸に加えて非点収差量が考慮されることで、矯正光学系60が駆動される。
(他覚式測定部)
他覚式測定部10は、被検眼の光学特性を他覚式に測定するために用いられる。他覚式測定部10は、被検眼の光学特性として、例えば眼屈折力、眼軸長、および角膜形状等の少なくともいずれかを測定してもよい。一例として、本実施形態では、被検眼の眼屈折力を測定するための他覚式測定部10を例示して説明を行う。
他覚式測定部10は、投影光学系(投光光学系)10a、受光光学系10b、および補正光学系90を備える。一例として、本実施形態の投影光学系10aは、被検眼の瞳孔中心部を介して、被検眼の眼底にスポット状の測定光を投影する。また、本実施形態の受光光学系10bは、眼底から反射された測定光の反射光を、瞳孔周辺部を介してリング状に取り出し、二次元撮影素子22によってリング状の眼底反射像を撮影する。
本実施形態の投影光学系10aは、測定光源11、リレーレンズ12、ホールミラー13、プリズム15、駆動部(モータ)23、ダイクロイックミラー35、ダイクロイックミラー29、および対物レンズ14を備える。プリズム15は、光束偏向部材である。駆動部23は、プリズム15を光軸L1を中心として回転駆動させる。光源11は、被検眼の眼底と共役な関係となる。ホールミラー13のホール部は、被検眼の瞳孔と共役な関係となる。プリズム15は、被検眼の瞳孔と共役となる位置から外れた位置に配置されており、通過する光束を光軸L1に対して偏心させる。なお、光束偏向部材の構成を変更することも可能である。例えば、プリズム15に代えて、光軸L1に対して斜めに配置される平行平面板が、光束偏向部材として用いられてもよい。
ダイクロイックミラー35は、自覚式測定部25の光軸L2と、他覚式測定部10の光軸L1を同軸にする。ビームスプリッタ29は、自覚式測定部25における光束と、他覚式測定部10における光束を反射し、被検眼に導く。
受光光学系10bは、対物レンズ14、ダイクロイックミラー29、ダイクロイックミラー35、プリズム15、およびホールミラー13を、投影光学系10aとの間で共用する。また、受光光学系10bは、ホールミラー13の反射方向の光路上に、リレーレンズ16、ミラー17、受光絞り18、コリメータレンズ19、リングレンズ20、および二次元撮影素子22を備える。受光絞り18および二次元撮影素子22は、被検眼の眼底と共役な関係となる。リングレンズ20は、リング状に形成されたレンズ部と、レンズ部以外の領域に設けられた遮光部を備える。リングレンズ20は、被検眼の瞳孔と共役な関係となる。二次元撮影素子22からの出力は、制御ユニット70に入力される。
投影光学系10aから出射されて被検眼の眼底で反射された測定光の反射光は、ダイクロイックミラー29によって反射され、さらにダイクロイックミラー35によって反射されて、受光光学系10bへ導かれる。また、ダイクロイックミラー29は、後述する前眼部撮影光およびアライメント光を透過し、前眼部撮影部50へ導く。
本実施形態では、投影光学系10aの測定光源11と、受光光学系10bの受光絞り18、コリメータレンズ19、リングレンズ20、および二次元撮影素子22は、光軸方向に一体的に移動することができる。一例として、本実施形態では、出射部31と、投影光学系10aの測定光源11と、受光光学系10bの受光絞り18、コリメータレンズ19、リングレンズ20、および二次元撮影素子22を含む駆動ユニット95が、駆動機構39によって、光軸L1の方向に一体的に移動される。ただし、上記の複数の構成の少なくとも一部が、駆動機構39とは別の構成によって移動されてもよい。駆動ユニット95は、外側のリング光束が各経線方向において二次元撮影素子22上に入射するように、光軸方向に移動される。すなわち、被検眼の球面屈折誤差(球面屈折力)に応じて、他覚式測定部10の一部が光軸L1方向に移動されることで、球面屈折誤差が補正されて、測定光源11、受光絞り18、および二次元撮影素子22が被検眼の眼底と共役な関係とされる。駆動ユニット95の移動位置は、ポテンショメータ(図示せず)によって検出される。ホールミラー13およびリングレンズ20は、駆動ユニット95の移動量に関わらず、被検眼の瞳と一定の倍率で共役となるように配置されている。
本実施形態では、測定光源11から出射された測定光は、リレーレンズ12、ホールミラー13、プリズム15、ダイクロイックミラー35、ダイクロイックミラー29、および対物レンズ14を経て、被検眼の眼底上にスポット状の点光源像を形成する。この間、ホールミラー13のホール部の瞳投影像(瞳上での投影光束)は、光軸L1を中心として回転するプリズム15によって、高速で偏心回転される。眼底に投影された点光源像は、反射・散乱されて被検眼から出射される。被検眼からの出射光は、対物レンズ14によって集光され、ダイクロイックミラー29、ダイクロイックミラー35、プリズム15、ホールミラー13、リレーレンズ16、およびミラー17を介して、受光絞り18の位置に再び集光される。次いで、コリメータレンズ19とリングレンズ20によって、二次元撮影素子22にリング状の像が結像される。
プリズム15は、投影光学系10aと受光光学系10bの共通光路に配置されている。従って、投影光学系10aから出射される投影光(測定光)と、眼底からの反射光は、共にプリズム15を通過する。その結果、眼底からの反射光は、あたかも瞳孔上における投影光と反射光の偏心が無かったかのように逆走査される。また、本実施形態では、他覚式測定部10と自覚式測定部25の間で補正光学系90が共用される。なお、他覚式測定部10で用いられる補正光学系と、自覚式測定部25で用いられる補正光学系が別で設けられてもよいことは言うまでもない。
なお、本実施形態における他覚式測定部10の構成を変更することも可能である。例えば、他覚式測定部は、瞳孔周辺部から眼底にリング状の測定視標を投影し、瞳孔中心部から眼底反射光を取り出し、二次元撮影素子22にリング状の眼底反射像を受光させる構成を備えていてもよい。また、他覚式測定部はシャックハルトマンセンサを備えていてもよいし、スリットを投影する位相差方式の構成を備えていてもよい。
(第1視標投影光学系・第2視標投影光学系)
第1視標投影光学系45および第2視標投影光学系46は、一例として、補正光学系90と旋回部81(図3~6参照)の間の光路上に配置される。ただし、第1視標投影光学系45および第2視標投影光学系46の位置を変更することも可能である。第1視標投影光学系45は、光軸L3を中心としてリング状に配置された赤外光源を備える。第1視標投影光学系45は、被検眼の角膜にアライメント視標を投影するための近赤外光を出射する。第2視標投影光学系46は、第1視標投影光学系45の赤外光源とは異なる位置に配置されたリング状の赤外光源を備える。(図2では、便宜上、第1視標投影光学系45と第2視標投影光学系46におけるリング状の赤外光源の一部(断面部分)のみが図示されている)本実施形態では、第1視標投影光学系45は、被検眼の角膜に無限遠のアライメント視標を投影する。また、第2視標投影光学系46は、被検眼の角膜に有限遠のアライメント視標を投影する。なお、第2視標投影光学系46から出射されるアライメント光は、前眼部撮影部50によって被検眼の前眼部を撮影するための前眼部撮影光としても用いられる。また、第1視標投影光学系45および第2視標投影光学系46の光源は、リング状の光源に限定されず、複数の点状の光源、またはライン状の光源等であってもよい。
(前眼部撮影部)
前眼部撮影部50は、対物レンズ14およびダイクロイックミラー29を、自覚式測定部25および他覚式測定部10との間で共用する。また、前眼部撮影部50は、撮影レンズ51および受光部52を備える。本実施形態の受光部52は、被検眼からの光束を受光する二次元撮影素子であり、被検眼の前眼部と略共役な関係となる位置に配置された撮影面を有する。受光部52からの出力は、制御ユニット70に入力される。受光部52は、不可視光(本実施形態では近赤外光)を受光することで、被検眼の前眼部画像を撮影する。また、前眼部撮影部50は、第1視標投影光学系45および第2視標投影光学系46によって被検眼の角膜に形成されるアライメント視標像も撮影する。アライメント視標像の位置は、制御ユニット70によって検出される。
(制御ユニット)
制御ユニット70は、CPU(プロセッサ)71、不揮発性メモリ72、RAM、ROM等を備える。CPU71は、眼科装置1の制御を司る。不揮発性メモリ72は、電源の供給が遮断されても記憶内容を保持できる非一過性の記憶媒体である。不揮発性メモリ72には、例えば、ハードディスクドライブ、フラッシュROM、着脱可能なUSBメモリ等の少なくともいずれかが用いられてもよい。不揮発性メモリ72には、CPU71によって生成された各種データが記憶される。また、不揮発性メモリ72には、眼科装置1の制御を司るための制御プログラムが記憶されている。RAMは、各種情報を一時的に記憶する。ROMには、各種プログラム、初期値等が記憶されている。なお、本実施形態では、眼科装置1の内部に設けられた1つのCPU71によって、眼科装置1の動作が制御される。しかし、眼科装置1の制御を司る制御部は、眼科装置1とは異なるデバイス(例えばPC等)に設けられていてもよい。また、複数の制御部によって眼科装置1の動作が制御されてもよい。
(主変更方向・副変更方向)
本実施形態の眼科装置1が、装置から被検眼に延びる被検眼側光束を変更する際の方向について説明する。詳細は後述するが、眼科装置1は、装置から被検眼に延びる被検眼側光束の位置および角度の少なくともいずれかを変更することができる。例えば、眼科装置1は、被検眼側光束を左右方向(X方向)に変更することで、被検者の瞳孔間距離に応じて適切に被検眼側光束を被検眼に合わせることができる。また、眼科装置1は、被検眼側光束を左右方向(X方向)に変更することで、左眼と右眼の視線方向の状態(所謂「輻輳状態」)を変えることもできる。また、本実施形態の眼科装置1は、被検眼側光束を上下方向(Y方向)に変更することも可能である。
ここで、左右眼の瞳孔間距離は、被検者に応じて異なる。また、被検者の輻輳状態を変えることが有効な検査等も多い。従って、装置の前後方向(Z方向)に垂直な二次元方向(つまりXY方向)のうち、被検眼側光束の変更量(詳細には、変更する距離および角度の少なくともいずれか)および変更頻度の少なくとも一方が最も大きくなるのは、左右方向(X方向)である。これに対し、本実施形態の眼科装置1のように、被検眼の高さをある程度一定の高さに保つことが可能な構成(本実施形態では顎台5)を備えている場合等には、上下方向(Y方向)における被検眼側光束の変更量および変更頻度は小さくなる。
従って、本実施形態では、被検眼側光束の変更量および変更頻度の少なくとも一方が最も大きくなる主変更方向が、左右方向(X方向)とされている。また、主変更方向に交差する方向(本実施形態では、装置の前後方向と主変更方向に共に垂直に交差する方向)が、上下方向(Y方向)とされている。なお、主変更方向および副変更方向は、眼科装置の構成および検査の種類等によって適宜設定できる。例えば、主変更方向は、上下方向でもよいし斜め方向でもよい。
(眼科装置の内部構成)
図3から図6を参照して、本実施形態の眼科装置1の内部構成について説明する。図3は、本実施形態の眼科装置1の内部を、Z方向である正面方向(図1のA方向)から見た概略構成図である。図4は、本実施形態の眼科装置1の内部を、X方向である右側面方向(図1のB方向)から見た概略構成図である。図5は、本実施形態の眼科装置1の内部を、Y方向である上方向(図1のC方向)から見た概略構成図である。図6は、左眼用ベース光学系7L、左第1偏向部80L、左旋回部81L、第2偏向部84、および光学部材85を右斜め方向から見た斜視図である。なお、図面では、被検者の左眼を符号EL,被検者の右眼を符号ERで模式的に示している。
本実施形態の眼科装置1では、光束の光路のうちベース光学系7(左眼用ベース光学系7L、右眼用ベース光学系7R)側から順に、移動部9(左移動部9L、右移動部9R)、第1偏向部80(左第1偏向部80L、右第1偏向部80R)、旋回部81(左旋回部81L、右旋回部81R)、旋回駆動部82(左旋回駆動部82L、右旋回駆動部82R)、変更駆動部83(左変更駆動部83L、右変更駆動部83R)、第2偏向部84、および光学部材85が設けられている。
一例として、本実施形態では、第2偏向部84および光学部材85は、左眼用光路KLと右眼用光路KRで共用されている。しかし、第2偏向部84と光学部材85の少なくとも一方が、左眼用光路KLと右眼用光路KRで別々に設けられていてもよい。また、本実施形態では、ベース光学系7、移動部9、第1偏向部80、旋回部81、旋回駆動部82、および変更駆動部83の構成は、左右対称である。従って、以下では、主に左眼用光路KL上に設けられている構成について説明を行い、右眼用光路KR上に設けられている構成の説明を省略する場合がある。なお、左右対称に設けられている部材のうち、左眼用の部材にはL、右眼用の部材にはRの符号を付している。
移動部9(左移動部9L、右移動部9R)は、ベース光学系7(左眼用ベース光学系7Lまたは右眼用ベース光学系7R)を、ベース光学系7から延びる光束の光軸の方向に移動させる。図4および図5に示すように、本実施形態では、ベース光学系7から第1偏向部80までの光束の光路(例えば、左眼用の光路1KL)は、Z方向に延びている。従って、移動部9はベース光学系7をZ方向に移動させる。移動部9がベース光学系7を光軸方向に移動させることで、光学部材85とベース光学系7の間の光路上の距離が変更される。従って、例えば被検眼に視標を呈示する場合に、前後方向(Z方向)における視標光束の呈示位置が変化する。
第1偏向部80(左第1偏向部80L、右第1偏向部80R)は、ベース光学系7(左眼用ベース光学系7Lまたは右眼用ベース光学系7R)から延びる光束の方向を偏向する。一例として、本実施形態の第1偏向部80には全反射ミラーが採用されている。ただし、全反射ミラー以外の偏向部材(例えば、ハーフミラーまたはプリズム等)が第1偏向部80に使用されてもよい。本実施形態では、第1偏向部80の位置および偏向方向は、ベース光学系7および旋回部81の位置に応じた所定の位置および方向に固定されている。この詳細については後述する。
旋回部81(左旋回部81L、右旋回部81R)は、光路KL,KR上におけるベース光学系7(左眼用ベース光学系7Lまたは右眼用ベース光学系7R)と光学部材85の間に設けられている。詳細には、本実施形態の旋回部81は、光路KL,KRのうち、第1偏向部80(左第1偏向部80L、右第1偏向部80R)と第2偏向部84の間の旋回位置において光束を旋回させることで、光学部材85に対する光束の位置および角度の少なくともいずれかを変化させる。その結果、光学部材85から被検眼へ向けて延びる光束(被検眼側光束)の位置および角度の少なくともいずれかが変更される。
本実施形態の旋回部81には、光束の反射面の角度を変化させることで光束を旋回させる可変ミラー(例えばガルバノミラー等)が用いられている。従って、図3、図5、および図6に示すように、光束の旋回位置Sは、旋回部81からベース光学系7側へ延びる基準光路2KLと、旋回部81の交点となる。また、旋回位置Sからベース光学系7側へ延びる基準光路2KLは固定されており、旋回位置Sから被検眼側へ延びる光路が、旋回部81によって旋回される旋回光路3KLとなる。
旋回位置S(本実施形態では旋回部81の位置)は、被検眼の瞳共役位置に近い位置であることが好ましい。本実施形態では、旋回位置Sは被検眼の瞳共役位置に一致する。被検眼の瞳共役位置では、光束が最も小さくなる。従って、旋回位置Sを瞳共役位置に近づけることで、旋回位置Sに設けられる光学部材(本実施形態では旋回部81)を容易に小型化することができる。
旋回駆動部82(左旋回駆動部82L、右旋回駆動部82R)は、旋回部81(左旋回部81L、右旋回部81R)による光束の旋回を駆動する。旋回駆動部82による旋回部81の具体的な駆動方向については後述する。
変更駆動部83(左変更駆動部83L、右変更駆動部83R)は、光学部材85に対して旋回位置S(本実施形態では、左旋回部81Lおよび右旋回部81Rの位置)を相対的に移動させる。旋回位置Sが移動することで、被検眼側光束が変化する。変更駆動部83による旋回部81の具体的な移動方法については後述する。
第2偏向部84は、旋回位置Sと光学部材85の間の光束の光路上に設けられており、光束の方向を偏向させる。一例として、本実施形態の第2偏向部84には全反射ミラーが採用されている。ただし、全反射ミラー以外の偏向部材(例えば、ハーフミラーまたはプリズム等)が第2偏向部84に採用されてもよい。また、本実施形態では、1つの第2偏向部84が左眼用光路KLと右眼用光路KRで共用されている。しかし、第2偏向部84は、左眼用光路KLと右眼用光路KRで別々に設けられていてもよい。
光学部材85は、光学的パワーを有すると共に、ベース光学系7と被検眼の間に延びる光束の光路上に設けられる。本実施形態の光学部材85は、光束の光路のうち、旋回位置Sと被検眼の間(詳細には、第2偏向部84と被検眼の間)に設けられる。本実施形態の光学部材85には、光束を反射させる凹面ミラーが採用されている。しかし、凹面ミラー以外の光学素子(例えば凸レンズ等)が光学部材85として使用されてもよい。また、本実施形態では、1つの光学部材85が左眼用光路KLと右眼用光路KRで共用されている。しかし、光学部材85は、左眼用光路KLと右眼用光路KRで別々に設けられていてもよい。
光学部材85は、ベース光学系7の出射部31から出射された視標光束を被検眼に導光し、視標光束の像を被検眼の眼前に形成する。また、被検眼の前眼部によって反射された反射光は、光学部材85によって反射されて、ベース光学系7の受光部52に導光される。さらに、ベース光学系7の他覚式測定部10から出射されて被検眼で反射された反射光は、光学部材85によって反射されて、他覚式測定部10の受光光学系10bに導光される。
以下、被検眼側光束の位置および角度の少なくとも一方を変更するための具体的な構成および方法について詳細に説明する。図4~図6に示すように、旋回部81は、旋回位置Sにおいて、主旋回軸MOを中心として光束を旋回させることができる。主旋回軸MOを中心として光束が旋回されると、被検眼側光束(被検眼側光路4KL,4KRを通過する光束)の位置および角度の少なくともいずがかが、主変更方向に変更される。前述したように、主変更方向とは、光学部材85の光軸Lに交差する二次元の方向(本実施形態では、装置の前後方向に垂直なXY方向)のうち、被検眼側光束の変更量および変更頻度の少なくともいずれかが最も大きい一次元の方向である。本実施形態では、主変更方向は、装置の左右方向(X方向)に設定されている。
また、図3および図6に示すように、本実施形態の旋回部81は、旋回位置Sにおいて、副旋回軸SOを中心として光束を旋回させることもできる。副旋回軸SOは、主旋回軸MOに対して交差する。本実施形態の副旋回軸SOは、主旋回軸MOに垂直に交差し、且つ、可変ミラーのミラー面に沿う方向に設定されている。副旋回軸SOを中心として光束が旋回されると、被検眼側光束の位置および角度の少なくともいずれかが、副変更方向に変更される。前述したように、副変更方向とは、光学部材85の光軸に交差する二次元の方向(本実施形態では、装置の前後方向に垂直なXY方向)のうち、主変更方向に交差(本実施形態では垂直に交差)する方向である。本実施形態では、副変更方向は、装置の上下方向(Y方向)に設定されている。
なお、被検眼側光束を副変更方向に変更するための構成を変更することも可能である。例えば、眼科装置1は、ベース光学系7、第1偏向部80、および旋回部81Lを、上下方向(Y方向)に一体的に移動させることで、被検眼側光束を副変更方向に変更してもよい。
図6に示すように、被検眼側光束を主変更方向に変更する際の主旋回軸MOと、旋回位置Sからベース光学系7側へ延びる直線上の基準光路2KLの間の角度θは、垂直に設定されている。従って、被検眼側光束が副変更方向に変更されていない場合(つまり、副変更方向における被検眼側光束の位置が原点位置である場合)には、基準光路2KLと、旋回部81によって旋回される旋回光路3KLが、同一の仮想平面P上に位置する。仮想平面Pは、旋回位置Sを通り、且つ主旋回軸MOに対して垂直な平面である。換言すると、主旋回軸MOは、仮想平面Pに対して垂直となっている。この場合、被検眼側光束を主変更方向に変更させても光束が捩れないので、光束によって投影される像が回転しない。
本実施形態では、主旋回軸MOの方向は、眼科装置1の前後方向(Z方向)に一致している。従って、旋回部81を眼科装置1に設置する際に、旋回部81の方向を正確な方向に調整しやすい。ただし、主旋回軸MOの方向を、Z方向以外の方向とすることも可能である。また、副旋回軸SOの方向を、例えばX方向等に変更することも可能である。
なお、本実施形態では、1つの旋回部81が2つの旋回軸(主旋回軸MOおよび副旋回軸SO)の各々を中心として光束を旋回させることで、被検眼側光束を主変更方向および副変更方向に変更する。しかし、旋回部は、被検眼側光束を主変更方向に変更する主旋回部と、被検眼側光束を副変更方向に変更する副旋回部を別々に備えていてもよい。副旋回部が主旋回部よりもベース光学系7側に設けられている場合、主旋回軸MOの角度は、副旋回部による副変更方向への光束の変更が行われていない状態(つまり、副変更方向における被検眼側光束の位置が原点位置である状態)の、主旋回部からベース光学系7側に延びる基準光路の角度に対して垂直に設定されればよい。
図6に示すように、本実施形態の変更駆動部83(図3および図5参照)は、旋回位置S(本実施形態では、左旋回部81Lおよび右旋回部81Rの位置)を仮想平面P上で移動させる。つまり、本実施形態の変更駆動部83は、固定された基準光路(例えば基準光路2KL)が延びる直線上で旋回位置Sを移動させる。従って、旋回位置Sが変更駆動部83によって移動された場合でも、基準光路に対して主旋回軸MOが垂直に保たれる。なお、眼科装置1は、旋回位置Sを移動させても光学的共役関係が保たれるように、旋回位置Sの移動に応じて、ベース光学系7の位置を光軸方向に移動させる。
図6に示すように、第1偏向部80(例えば左第1偏向部80L)は、旋回位置Sを含み、且つ主旋回軸MOに対して垂直な仮想平面P上に配置されている。従って、旋回位置Sおよびベース光学系7(例えば左眼用ベース光学系7L)の位置および方向に関わらず、主旋回軸MOが、第1偏向部80から旋回位置Sへ延びる基準光路(例えば基準光路2KL)に対して垂直となる。
なお、前述したように、本実施形態における主旋回軸MOの方向は、眼科装置1の前後方向(Z方向)に一致している。従って、本実施形態の第1偏向部80は、Z方向において旋回位置Sと同一の位置に設けられている。詳細には、本実施形態の第1偏向部80は、眼科装置1の上下方向(Y方向)においても旋回位置Sと同一の位置に設けられている。従って、基準光路2KLは、X方向に真っ直ぐに延びる。さらに、本実施形態の偏向部80は、旋回位置Sから延びる基準光路を、Z方向(眼科装置1における後方)に90度に偏向する。その結果、像の回転の影響が適切に抑制された状態で、眼科装置1の左右方向の幅が大きくなることが抑制されている。
図6に示すように、第2偏向部84は、旋回位置Sと光学部材85の間において、光束の方向を偏向させる。第2偏向部84が採用されることで、旋回位置Sおよびベース光学系7の位置および方向が、より自由に設定される。詳細には、本実施形態の第2偏向部84は、光学部材85から第2偏向部84に延びる光路を下方に折り曲げる。従って、ベース光学系7を装置の下部に設置することが容易である。
前述したように、本実施形態の眼科装置1は、被検眼側光束を副変更方向に変更することも可能である。しかし、被検眼側光束が副変更方向に変更されると、光束が捩れて像が回転する。これに対し、本実施形態の眼科装置1は、像の回転の影響を補正する機能も有する。
図7を参照して、眼科装置1が実行する像回転補正処理について説明する。眼科装置1のCPU71は、不揮発性メモリ72に記憶された眼科装置制御プログラムに従って、図7に示す像回転補正処理を実行する。像回転補正処理は、所定の信号(例えば、眼科装置1の電源をONとするための操作信号等)が入力されることを契機として開始される。
まず、CPU71は、被検眼側光束を副変更方向に変更するか否かを判断する(S1)。副変更方向に変更しない場合(例えば、被検眼側光束を主変更方向にのみ変更する場合等)には(S1:NO)、処理はそのまま終了する。
被検眼側光束を副変更方向に変更する場合(S1:YES)、CPU71は、副変更方向における被検眼側光束の変更量および変更方向を取得する(S2)。S2で取得される変更量および変更方向は、副変更方向における実際の被検眼側光束の変更量および変更方向であってもよいし、副旋回軸SOを中心とした光束の旋回量および旋回方向であってもよい。
次いで、CPU71は、副変更方向における被検眼側光束の変更量および変更方向に応じた、像の回転の補正量および補正方向を取得する(S3)。像の回転量および回転方向は、副変更方向における被検眼側光束の変更量および変更方向に応じて変化する。従って、副変更方向における被検眼側光束の変更量および変更方向に応じて、像の回転の補正量および補正方向が決定されることで、像が回転する影響が適切に補正される。
像の回転の補正量および補正方向を取得するための具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、副変更方向における被検眼側光束の変更量および変更方向と、像の回転の補正量および補正方向とを対応づけるテーブルデータ等が、記憶媒体(例えば不揮発性メモリ72等)に記憶されていてもよい。この場合、CPU71は、テーブルデータによって定められている補正量および補正方向を取得してもよい。また、副変更方向における被検眼側光束の変更量および変更方向に基づいて、像の回転の補正量および補正方向を算出するためのアルゴリズムがプログラムされていてもよい。この場合、CPU71は、アルゴリズムに従って、像の回転の補正量および補正方向を算出することで、補正量および補正方向を取得してもよい。
CPU71は、出射部31から出射される視標光束を被検眼に投光するか否かを判断する(S5)。視標光束を被検眼に投光しない場合(S5:NO)、処理はそのままS8に移行する。視標光束を被検眼に投光する場合(S5:YES)、CPU71は、S3で取得した補正量および補正方向に応じて、被検眼に呈示する視標を回転させることで、像が回転する影響を補正する(S6)。
S6の具体的な処理は、適宜選択できる。例えば、CPU71は、視標を表示するディスプレイまたは視標板自体を、補正量および補正方向に応じて回転させることで、像が回転する影響を補正してもよい。また、CPU71は、ディスプレイに表示させる指標を、補正量および補正方向に応じて回転させることで、像が回転する影響を補正してもよい。
次いで、CPU71は、受光部52によって被検眼画像(本実施形態では、被検眼の前眼部画像)を撮影するか否かを判断する(S8)。撮影しなければ(S8:NO)、処理はそのままS11に移行する。被検眼画像を撮影する場合(S8:YES)、CPU71は、S3で取得した補正量および補正方向に応じて、受光部52によって撮影された被検眼画像を回転させる処理を行うことで、像が回転する影響を補正する(S9)。
次いで、CPU71は、受光部52による受光結果(例えば被検眼画像等)に基づいて医療情報を算出するか否かを判断する(S11)。受光結果に基づいて算出される医療情報は、種々の眼科情報(例えばプリズム値等)の少なくともいずれかであればよい。医療情報を算出しない場合(S11:NO)、処理は終了する。医療情報を算出する場合(S11:YES)、CPU71は、S3で取得した補正量および補正方向を考慮して、受光部52による受光結果から医療情報を算出する(S12)。その後、処理は終了する。
図8および図9を参照して、主旋回軸MOが基準光路2KLに対して垂直となっていない場合の像の回転について説明する。
図8は、旋回位置Sからベース光学系7L側に延びる基準光路2KLに対して、主旋回軸MOが垂直となっていない場合の光学系の一例を示す斜視図である。図8に示すベース光学系7L、旋回部81L、第2偏向部84、および光学部材85の各々の部材自体は、上記実施形態で例示した各部材と同一である。しかし、図8に示す光学系では、上記実施形態で例示した第1偏向部80L(図6等参照)が省略されており、基準光路2KLが旋回位置SからZ方向(後方)に延びている。その結果、図8に示す光学系では、主旋回軸MOが基準光路2KLに対して垂直とならず、両者の方向が一致している。また、例えば、第1偏向部80Lが仮想平面P(図6参照)上に設置されていない場合等にも、主旋回軸MOが基準光路2KLに対して垂直とならない。
図9は、主旋回軸MOが基準光路2KLに対して垂直となっていない状態で、被検眼側光束を主変更方向(この場合はX方向)に変更した場合の、光束によって投影される像の一例を示す図である。主旋回軸MOが基準光路2KLに対して垂直となっていない場合、図9に示すように、光束によって投影される像は、主旋回方向における被検眼側光束の変更量に応じて回転してしまう。その結果、医療情報が適切に取得できない場合が生じ得る。
これに対し、上記実施形態の眼科装置1では、主旋回軸MOが基準光路2KLに対して垂直に設定されている。この場合、被検眼側光束が主変更方向に変更されても、図9に例示するような像の回転は生じない。また、上記実施形態の眼科装置1は、像回転補正処理(図7参照)を行うことも可能である。よって、上記実施形態の眼科装置1によると、光束を旋回させることによって生じる像の回転の影響が、適切に抑制される。
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、上記実施形態の眼科装置1では、光学部材85の光軸に交差する二次元方向のうち、被検眼側光束の変更量および変更頻度が最も大きい方向が、主変更方向に設定されている。しかし、主変更方向は、被検眼側光束の変更量および変更頻度に応じて設定されなくてもよい。例えば、被検眼側光束の変更量および変更頻度に関わらず、特定の一次元方向(例えば、装置の左右方向であるX方向)が主変更方向に設定されてもよい。
上記実施形態の眼科装置1では、基準光路に対する主旋回軸MOの角度が規定されたうえで、像回転補正処理(図7参照)が実行される。しかし、例えば、基準光路に対する主旋回軸MOの角度が規定された場合でも、実際に眼科装置1に設置された旋回部81の主旋回軸MOが、規定された角度からずれる場合もある。従って、眼科装置1は、基準光路に対する主旋回軸MOの角度が規定されているか否かに関わらず、図7に例示する像回転補正処理を実行してもよい。逆に、副変更方向における被検眼側光束の変更量が常に小さい場合等には、図7に例示する像回転補正処理が実行されなくてもよい。
上記実施形態の眼科装置1では、第1偏向部80および第2偏向部84が用いられることで、ベース光学系7の位置等の自由度が向上している。しかし、第1偏向部80および第2偏向部84の少なくとも一方を省略することも可能である。
上記実施形態の眼科装置1では、光学部材85の位置に対する旋回位置Sが変更駆動部83によって変更されることで、被検眼側光束が適切に被検眼に合わせられる。しかし、変更駆動部は、旋回位置Sに対する光学部材85の位置、および光学部材85の角度の少なくともいずれかを変更することで、被検眼側光束を被検眼に合わせてもよい。
上記実施形態の眼科装置1では、旋回位置Sからベース光学系7側へ延びる基準光路は固定されている。旋回部81は、基準光路に対する旋回光路の角度を変えることで、光束を旋回させる。しかし、旋回部は、旋回位置Sに対する基準光路の角度を変えることで、光束を旋回させてもよい。この場合、旋回部は、例えば、ベース光学系7の位置および角度を変えることで、旋回位置Sに対する基準光路の角度を変えてもよい。また、旋回部は、ベース光学系7と旋回位置Sの間の光路を変えることで、旋回位置Sに対する基準光路の角度を変えてもよい。
上記実施形態の眼科装置1では、被検者の左眼ELおよび右眼ERの各々に対応する一対のベース光学系7および一対の旋回部81が用いられている。しかし、眼科装置1は、1つの被検眼に対応するベース光学系7および旋回部81のみを備えていてもよい。