以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[レーザ加工装置の構成]
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ2と、光源3と、空間光変調器4と、集光レンズ5と、制御部6と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成する装置である。以下、第1水平方向をX方向といい、第1水平方向に垂直な第2水平方向をY方向という。また、鉛直方向をZ方向という。
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを吸着することにより、対象物11を支持する。本実施形態では、ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能である。また、ステージ2は、Z方向に平行な軸線を中心線として回転可能である。
光源3は、例えばパルス発振方式によって、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを出力する。空間光変調器4は、光源3から出力されたレーザ光Lを変調する。空間光変調器4は、例えば反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。集光レンズ5は、空間光変調器4によって変調されたレーザ光Lを集光する。本実施形態では、空間光変調器4及び集光レンズ5は、レーザ照射ユニットとして、Z方向に沿って移動可能である。
ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光点CをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット13がX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット13は、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット13の集合である。隣り合う改質スポット13は、対象物11に対する集光点Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
制御部6は、ステージ2、光源3、空間光変調器4及び集光レンズ5を制御する。制御部6は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部6では、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)が、プロセッサによって実行され、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信が、プロセッサによって制御される。これにより、制御部6は、各種機能を実現する。
[第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法]
第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の対象物11は、図2及び図3に示されるように、窒化ガリウム(GaN)によって例えば円板状に形成されたGaNインゴット(半導体インゴット、半導体対象物)20である。一例として、GaNインゴット20の直径は2inであり、GaNインゴット20の厚さは2mmである。第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法は、GaNインゴット20から複数のGaNウェハ(半導体ウェハ、半導体部材)30を切り出すために実施される。一例として、GaNウェハ30の直径は2inであり、GaNウェハ30の厚さは100μmである。
まず、GaNインゴット20が用意され(第1工程)、上述したレーザ加工装置1が、複数の仮想面15のそれぞれに沿って複数の改質スポット13を形成する。複数の仮想面15のそれぞれは、GaNインゴット20の表面20aに対向する面であり、表面20aに対向する方向に並ぶように設定されている。本実施形態では、複数の仮想面15のそれぞれは、GaNインゴット20の内部において表面20aに平行な面であり、例えば円形状を呈している。複数の仮想面15のそれぞれは、表面20a側から見た場合に互いに重なるように設定されている。複数の仮想面15のそれぞれは、第1領域R1及び第2領域R2を含んでいる。第2領域R2は、仮想面15の外縁に沿った外縁領域である。第1領域R1は、第2領域R2に囲まれた領域である。本実施形態では、第1領域R1は、例えば円形状を呈しており、第2領域R2は、例えば円環状を呈している。GaNインゴット20には、複数の仮想面15のそれぞれを囲むように複数の周縁領域16が設定されている。つまり、複数の仮想面15のそれぞれは、GaNインゴット20の側面20bに至っていない。一例として、隣り合う仮想面15間の距離は100μmであり、周縁領域16の幅(本実施形態では、仮想面15の外縁と側面20bとの距離)は30μm以上である。
複数の改質スポット13の形成は、例えば532nmの波長を有するレーザ光Lの照射によって、表面20aとは反対側から1つの仮想面15ごとに順次に実施される。複数の改質スポット13の形成は、複数の仮想面15のそれぞれにおいて同様であるため、以下、表面20aに最も近い仮想面15に沿った複数の改質スポット13の形成について、図4~図11を参照して詳細に説明する。なお、図5、図7、図9及び図11において、矢印は、レーザ光Lの集光点Cの軌跡を示している。また、後述する改質スポット13a,13b,13c,13dを包括して改質スポット13といい、後述する亀裂14a,14b,14c,14dを包括して亀裂14という場合がある。
まず、レーザ加工装置1が、図4及び図5に示されるように、表面20aからGaNインゴット20の内部にレーザ光Lを入射させることにより、仮想面15に沿って(例えば、仮想面15の全体に沿って2次元に並ぶように)複数の改質スポット13aを形成する(第2工程)。このとき、レーザ加工装置1は、複数の改質スポット13aからそれぞれ延びる複数の亀裂14aが互いに繋がらないように、複数の改質スポット13aを形成する。また、レーザ加工装置1は、パルス発振されたレーザ光Lの集光点Cを仮想面15に沿って移動させることにより、複数列の改質スポット13aを形成する。更に、レーザ加工装置1は、第1領域R1における単位面積当たりの注入エネルギーが第2領域R2における単位面積当たりの注入エネルギーよりも大きくなるように、レーザ光Lを入射させる。本実施形態では、レーザ加工装置1は、第1領域R1における1つの集光点C当たりのレーザ光Lのパルスエネルギーを第2領域R2における1つの集光点C当たりのレーザ光Lのパルスエネルギーよりも大きくする。なお、図4及び図5では、改質スポット13aが白抜き(ハッチングなし)で示されており、亀裂14aが延びる範囲が破線で示されている(図6~図11でも同様)。
本実施形態では、パルス発振されたレーザ光Lが、Y方向に並ぶ複数(例えば6つ)の集光点Cに集光されるように、空間光変調器4によって変調される。そして、複数の集光点Cが、X方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させられる。一例として、Y方向において隣り合う集光点C間の距離は8μmであり、レーザ光Lのパルスピッチ(すなわち、複数の集光点Cの相対的な移動速度を、レーザ光Lの繰り返し周波数で除した値)は10μmである。また、1つの集光点C当たりのレーザ光Lのパルスエネルギー(以下、単に「レーザ光Lのパルスエネルギー」という)は、第1領域R1では0.4μJであり、第2領域R2では0.33μJである。この場合、Y方向において隣り合う改質スポット13aの中心間距離は8μmとなり、X方向において隣り合う改質スポット13aの中心間距離は10μmとなる。また、複数の改質スポット13aからそれぞれ延びる複数の亀裂14aは互いに繋がらない。
続いて、レーザ加工装置1が、図6及び図7に示されるように、表面20aからGaNインゴット20の内部にレーザ光Lを入射させることにより、仮想面15に沿って(例えば、仮想面15の全体に沿って2次元に並ぶように)複数の改質スポット13bを形成する(第2工程)。このとき、レーザ加工装置1は、複数の改質スポット13a及び複数の亀裂14aに重ならないように、複数の改質スポット13bを形成する。また、レーザ加工装置1は、パルス発振されたレーザ光Lの集光点Cを複数列の改質スポット13aの列間において仮想面15に沿って移動させることにより、複数列の改質スポット13bを形成する。更に、レーザ加工装置1は、第1領域R1における単位面積当たりの注入エネルギーが第2領域R2における単位面積当たりの注入エネルギーよりも大きくなるように、レーザ光Lを入射させる。本実施形態では、レーザ加工装置1は、第1領域R1におけるレーザ光Lのパルスエネルギーを第2領域R2におけるレーザ光Lのパルスエネルギーよりも大きくする。この工程では、複数の改質スポット13bからそれぞれ延びる複数の亀裂14bが、複数の亀裂14aに繋がってもよい。なお、図6及び図7では、改質スポット13bがドットハッチングで示されており、亀裂14bが延びる範囲が破線で示されている(図8~図11でも同様)。
本実施形態では、パルス発振されたレーザ光Lが、Y方向に並ぶ複数(例えば6つ)の集光点Cに集光されるように、空間光変調器4によって変調される。そして、複数の集光点Cが、複数列の改質スポット13aの列間の中心において、X方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させられる。一例として、Y方向において隣り合う集光点C間の距離は8μmであり、レーザ光Lのパルスピッチは10μmである。また、レーザ光Lのパルスエネルギーは、第1領域R1では0.4μJであり、第2領域R2では0.33μJである。この場合、Y方向において隣り合う改質スポット13bの中心間距離は8μmとなり、X方向において隣り合う改質スポット13bの中心間距離は10μmとなる。
続いて、レーザ加工装置1が、図8及び図9に示されるように、表面20aからGaNインゴット20の内部にレーザ光Lを入射させることにより、仮想面15に沿って(例えば、仮想面15の全体に沿って2次元に並ぶように)複数の改質スポット13cを形成する(第2工程)。更に、レーザ加工装置1が、図10及び図11に示されるように、表面20aからGaNインゴット20の内部にレーザ光Lを入射させることにより、仮想面15に沿って(例えば、仮想面15の全体に沿って2次元に並ぶように)複数の改質スポット13dを形成する(第2工程)。このとき、レーザ加工装置1は、複数の改質スポット13a,13bに重ならないように、複数の改質スポット13c,13dを形成する。また、レーザ加工装置1は、パルス発振されたレーザ光Lの集光点Cを複数列の改質スポット13a,13bの列間において仮想面15に沿って移動させることにより、複数列の改質スポット13c,13dを形成する。更に、レーザ加工装置1は、第1領域R1における単位面積当たりの注入エネルギーが第2領域R2における単位面積当たりの注入エネルギーよりも大きくなるように、レーザ光Lを入射させる。本実施形態では、レーザ加工装置1は、第1領域R1におけるレーザ光Lのパルスエネルギーを第2領域R2におけるレーザ光Lのパルスエネルギーよりも大きくする。この工程では、複数の改質スポット13c,13dからそれぞれ延びる複数の亀裂14c,14dが、複数の亀裂14a,14bに繋がってもよい。なお、図8及び図9では、改質スポット13cが実線ハッチングで示されており、亀裂14cが延びる範囲が破線で示されている(図10及び図11でも同様)。また、図10及び図11では、改質スポット13dが実線ハッチング(改質スポット13cの実線ハッチングとは逆に傾斜する実線ハッチング)で示されており、亀裂14dが延びる範囲が破線で示されている。
本実施形態では、パルス発振されたレーザ光Lが、Y方向に並ぶ複数(例えば6つ)の集光点Cに集光されるように、空間光変調器4によって変調される。そして、複数の集光点Cが、複数列の改質スポット13a,13bの列間の中心において、X方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させられる。一例として、Y方向において隣り合う集光点C間の距離は8μmであり、レーザ光Lのパルスピッチは5μmである。また、レーザ光Lのパルスエネルギーは、第1領域R1及び第2領域R2において、0.33μJである。この場合、Y方向において隣り合う改質スポット13cの中心間距離は8μmとなり、X方向において隣り合う改質スポット13cの中心間距離は5μmとなる。また、Y方向において隣り合う改質スポット13dの中心間距離は8μmとなり、X方向において隣り合う改質スポット13dの中心間距離は5μmとなる。
続いて、ヒータ等を備える加熱装置が、GaNインゴット20を加熱し、複数の仮想面15のそれぞれにおいて、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14を互いに繋げることにより、図12に示されるように、複数の仮想面15のそれぞれにおいて、仮想面15に渡る亀裂17(以下、単に「亀裂17」という)を形成する(第3工程)。図12では、複数の改質スポット13及び複数の亀裂14、並びに、亀裂17が形成される範囲が破線で示されている。なお、加熱以外の方法でGaNインゴット20に何らかの力を作用させることにより、複数の亀裂14を互いに繋げて亀裂17を形成してもよい。また、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成することにより、複数の亀裂14を互いに繋げて亀裂17を形成してもよい。
ここで、GaNインゴット20においては、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14内に窒素ガスが生じている。そのため、GaNインゴット20を加熱して窒素ガスを膨張させることにより、窒素ガスの圧力(内圧)を利用して亀裂17を形成することができる。しかも、周縁領域16によって、当該周縁領域16が囲む仮想面15の外部(例えば、GaNインゴット20の側面20b)への複数の亀裂14の進展が阻まれるため、複数の亀裂14内に生じた窒素ガスが仮想面15の外部に逃げるのを抑制することができる。つまり、周縁領域16は、改質スポット13を含まない非改質領域であって、当該周縁領域16が囲む仮想面15に亀裂17が形成される際に、当該周縁領域16が囲む仮想面15の外部への複数の亀裂14の進展を阻む領域である。そのために、周縁領域16の幅を30μm以上とすることが好ましい。更に、第1領域R1における単位面積当たりの注入エネルギーが第2領域R2における単位面積当たりの注入エネルギーよりも大きくなるようにレーザ光Lが照射されることにより、仮想面15に沿って複数の改質スポット13が形成されている。これにより、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14が互いに繋がる際に、亀裂(複数の亀裂14が互いに繋がって最終的に亀裂17となる亀裂)が第1領域R1から第2領域R2に進展するように当該亀裂の進展が制御される。
続いて、研削装置が、GaNインゴット20のうち複数の周縁領域16及び複数の仮想面15のそれぞれに対応する部分を研削(研磨)することにより、図13に示されるように、複数の亀裂17のそれぞれを境界としてGaNインゴット20から複数のGaNウェハ30を取得する(第4工程)。このように、GaNインゴット20は、複数の仮想面15のそれぞれに沿って切断される。なお、この工程では、研削以外の機械加工、レーザ加工等によって、GaNインゴット20のうち複数の周縁領域16に対応する部分を除去してもよい。
以上の工程のうち、複数の仮想面15のそれぞれに沿って複数の改質スポット13を形成する工程までが、第1実施形態のレーザ加工方法である。また、以上の工程のうち、複数の亀裂17のそれぞれを境界としてGaNインゴット20から複数のGaNウェハ30を取得する工程までが、第1実施形態の半導体部材製造方法である。
以上説明したように、第1実施形態のレーザ加工方法では、第1領域R1における単位面積当たりの注入エネルギーが第2領域R2における単位面積当たりの注入エネルギーよりも大きくなるように、レーザ光Lを入射させることにより、複数の仮想面15のそれぞれに沿って複数の改質スポット13を形成する。これにより、複数の仮想面15のそれぞれにおいて、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14が互いに繋がって亀裂17が形成される際に、亀裂(複数の亀裂14が互いに繋がって最終的に亀裂17となる亀裂)が第1領域R1から第2領域R2に進展するように当該亀裂の進展を制御することができ、その結果、複数の仮想面15のそれぞれに沿って亀裂17を精度良く形成することが可能となる。よって、第1実施形態のレーザ加工方法によれば、複数の亀裂17のそれぞれを境界としてGaNインゴット20から複数のGaNウェハ30を取得することにより、複数の好適なGaNウェハ30の取得が可能となる。
同様に、第1実施形態のレーザ加工方法を実施するレーザ加工装置1によれば、複数の仮想面15のそれぞれに沿って亀裂17を精度良く形成することが可能となるため、複数の好適なGaNウェハ30の取得が可能となる。
また、第1実施形態のレーザ加工方法では、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14の進展を阻む周縁領域16が、複数の仮想面15のそれぞれを囲むように設定される。これにより、周縁領域16が囲む仮想面15の外部への複数の亀裂14の進展が阻まれるため、例えば複数の亀裂14内にガスが生じた場合に、当該ガスが仮想面15の外部に逃げるのを抑制することができる。したがって、当該ガスの圧力を利用して、亀裂17を容易に形成することができる。本実施形態では、GaNインゴット20の材料に含まれる窒化ガリウムがレーザ光Lの照射によって分解されると、複数の亀裂14内に窒素ガスが生じる。そのため、当該窒素ガスの圧力を利用して、亀裂17を容易に形成することができる。
また、第1実施形態のレーザ加工方法では、第1領域R1におけるレーザ光Lのパルスエネルギーが第2領域R2におけるレーザ光Lのパルスエネルギーよりも大きくなるようにレーザ光Lが照射される。これにより、第1領域R1における単位面積当たりの注入エネルギーが第2領域R2における単位面積当たりの注入エネルギーよりも大きくなる状態を適切に実現することができる。
また、第1実施形態のレーザ加工方法では、複数の仮想面15のそれぞれにおいて、第2領域R2が、仮想面15のうちの外縁領域である。これにより、複数の仮想面15のそれぞれにおいて、内側から外縁領域に亀裂(複数の亀裂14が互いに繋がって最終的に亀裂17となる亀裂)が進展するように、当該亀裂の進展を制御することができる。
また、第1実施形態の半導体部材製造方法によれば、第1実施形態のレーザ加工方法に含まれる工程によって、複数の仮想面15のそれぞれに沿って亀裂17を精度良く形成することが可能となるため、複数の好適なGaNウェハ30の取得が可能となる。
また、第1実施形態の半導体部材製造方法では、GaNインゴット20を加熱することにより、複数の亀裂14を互いに繋げて亀裂17を形成する。これにより、例えば、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14内にガスが生じた場合に、当該ガスを膨張させることができる。したがって、当該ガスの圧力を利用して、亀裂17を容易に形成することができる。本実施形態では、GaNインゴット20の材料に含まれる窒化ガリウムがレーザ光Lの照射によって分解されると、複数の亀裂14内に窒素ガスが生じる。そのため、当該窒素ガスの圧力を利用して、亀裂17を容易に形成することができる。なお、上述したように、亀裂(複数の亀裂14が互いに繋がって最終的に亀裂17となる亀裂)の進展を制御することにより、加熱時間の短縮化、加熱温度の低温化等を期待することができる。
また、第1実施形態の半導体部材製造方法では、複数の仮想面15が、GaNインゴット20の表面20aに対向する方向に並ぶように設定されている。これにより、1つのGaNインゴット20から複数のGaNウェハ30の取得が可能となる。
ここで、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成されたGaNウェハ30では、GaNウェハ30の剥離面に現れる凹凸が小さくなることを示す実験結果について説明する。
図14は、一例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成されたGaNウェハの剥離面の画像であり、図15の(a)及び(b)は、図14に示される剥離面の高さプロファイルである。この例では、532nmの波長を有するレーザ光LをGaNインゴット20の表面20aからGaNインゴット20の内部に入射させ、1つの集光点Cを、X方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させることにより、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。このとき、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を10μm、レーザ光Lのパルスピッチを1μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを1μJとした。この場合、図15の(a)及び(b)に示されるように、GaNウェハ30の剥離面(亀裂17によって形成された面)に25μm程度の凹凸が現れた。
図16は、他の例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成されたGaNウェハの剥離面の画像であり、図17の(a)及び(b)は、図16に示される剥離面の高さプロファイルである。この例では、532nmの波長を有するレーザ光LをGaNインゴット20の表面20aからGaNインゴット20の内部に入射させ、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の第2工程と同様に、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。複数の改質スポット13aを形成する際には、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を6μm、レーザ光Lのパルスピッチを10μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.33μJとした。複数の改質スポット13bを形成する際には、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を6μm、レーザ光Lのパルスピッチを10μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.33μJとした。複数の改質スポット13cを形成する際には、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を6μm、レーザ光Lのパルスピッチを5μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.33μJとした。複数の改質スポット13dを形成する際には、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を6μm、レーザ光Lのパルスピッチを5μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.33μJとした。この場合、図17の(a)及び(b)に示されるように、GaNウェハ30の剥離面に5μm程度の凹凸が現れた。
以上の実験結果から、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成されたGaNウェハでは、GaNウェハ30の剥離面に現れる凹凸が小さくなること、すなわち、仮想面15に沿って亀裂17が精度良く形成されることが分かった。なお、GaNウェハ30の剥離面に現れる凹凸が小さくなると、当該剥離面を平坦化するための研削量が少なくて済む。したがって、GaNウェハ30の剥離面に現れる凹凸が小さくなることは、材料の利用効率的にも生産効率的にも有利である。
次に、GaNウェハ30の剥離面に凹凸が現れる原理について説明する。
例えば、図18に示されるように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13aを形成し、改質スポット13bがその一方の側の改質スポット13aから延びる亀裂14aに重なるように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13bを形成する。この場合には、複数の亀裂14aに析出したガリウムによってレーザ光Lが吸収され易い状態にあるため、集光点Cが仮想面15上に位置していても、改質スポット13aに対してレーザ光Lの入射側に改質スポット13bが形成され易くなる。続いて、改質スポット13cがその一方の側の改質スポット13bから延びる亀裂14bに重なるように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13cを形成する。この場合にも、複数の亀裂14bに析出したガリウムによってレーザ光Lが吸収され易い状態にあるため、集光点Cが仮想面15上に位置していても、改質スポット13bに対してレーザ光Lの入射側に改質スポット13cが形成され易くなる。このように、この例では、複数の改質スポット13bが複数の改質スポット13aに対してレーザ光Lの入射側に形成され、更に、複数の改質スポット13cが複数の改質スポット13bに対してレーザ光Lの入射側に形成され易くなる。
それに対し、例えば、図19に示されるように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13aを形成し、改質スポット13bがその両側の改質スポット13aから延びる亀裂14aに重ならないように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13bを形成する。この場合には、複数の亀裂14aに析出したガリウムによってレーザ光Lが吸収され易い状態にあるものの、改質スポット13bが亀裂14aに重ならないため、改質スポット13bも、改質スポット13aと同様に仮想面15上に形成される。続いて、改質スポット13cがその両側の改質スポット13a,13bのそれぞれから延びる亀裂14a,14bに重なるように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13cを形成する。更に、改質スポット13dがその両側の改質スポット13a,13bのそれぞれから延びる亀裂14a,14bに重なるように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13dを形成する。これらの場合には、複数の亀裂14a,14bに析出したガリウムによってレーザ光Lが吸収され易い状態にあるため、集光点Cが仮想面15上に位置していても、改質スポット13a,13bに対してレーザ光Lの入射側に改質スポット13c,13dが形成され易くなる。このように、この例では、複数の改質スポット13c,13dが複数の改質スポット13a,13bに対してレーザ光Lの入射側に形成され易くなるだけである。
以上の原理から、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法においては、複数の改質スポット13a及び複数の改質スポット13aからそれぞれ延びる複数の亀裂14aに重ならないように、複数の改質スポット13bを形成することが、GaNウェハ30の剥離面に現れる凹凸を小さくする上で極めて重要であることが分かる。
次に、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法においては、仮想面15に沿って亀裂17が精度良く進展することを示す実験結果について説明する。
図20の(a)及び(b)は、一例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の途中で形成された亀裂の画像であり、図20の(b)は、図20の(a)における矩形枠内の拡大画像である。この例では、532nmの波長を有するレーザ光LをGaNインゴット20の表面20aからGaNインゴット20の内部に入射させ、Y方向に並ぶ6つの集光点Cを、X方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させることにより、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。このとき、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を6μm、レーザ光Lのパルスピッチを1μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを1.33μJとした。そして、レーザ加工を仮想面15の途中で停止させた。この場合、図20の(a)及び(b)に示されるように、加工領域から未加工領域に進展した亀裂が、未加工領域において仮想面15から大きく外れた。
図21の(a)及び(b)は、他の例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の途中で形成された亀裂の画像であり、図21の(b)は、図21の(a)における矩形枠内の拡大画像である。この例では、532nmの波長を有するレーザ光LをGaNインゴット20の表面20aからGaNインゴット20の内部に入射させ、Y方向に並ぶ6つの集光点Cを、X方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させることにより、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。具体的には、まず、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を6μm、レーザ光Lのパルスピッチを10μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.33μJとして、加工領域1及び加工領域2に複数列の改質スポット13を形成した。続いて、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を6μm、レーザ光Lのパルスピッチを10μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.33μJとして、加工領域1及び加工領域2に、既に形成された複数列の改質スポット13の列間の中心にそれぞれの列が位置するように複数列の改質スポット13を形成した。続いて、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を6μm、レーザ光Lのパルスピッチを5μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.33μJとして、加工領域1のみに、既に形成された複数列の改質スポット13の列間の中心にそれぞれの列が位置するように複数列の改質スポット13を形成した。この場合、図21の(a)及び(b)に示されるように、加工領域1から加工領域2に進展した亀裂が、加工領域2において仮想面15から大きく外れなかった。
以上の実験結果から、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法においては、仮想面15に沿って亀裂17が精度良く進展することが分かった。これは、加工領域2に先に形成された複数の改質スポット13が、亀裂が進展する際にガイドになったためと想定される。
次に、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法においては、改質スポット13からレーザ光Lの入射側及びその反対側に延びる亀裂14の延び量が抑制されることを示す実験結果について説明する。
図22は、比較例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成された改質スポット及び亀裂の画像(側面視での画像)である。この比較例では、532nmの波長を有するレーザ光LをGaNインゴット20の表面20aからGaNインゴット20の内部に入射させ、1つの集光点Cを、X方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させることにより、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。具体的には、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を2μm、レーザ光Lのパルスピッチを5μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.3μJとして、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。この場合、図22に示されるように、改質スポット13からレーザ光Lの入射側及びその反対側に延びる亀裂14の延び量が100μm程度となった。
図23は、第1実施例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成された改質スポット及び亀裂の画像であり、図23の(a)は平面視での画像、図23の(b)は側面視での画像である。この第1実施例では、532nmの波長を有するレーザ光LをGaNインゴット20の表面20aからGaNインゴット20の内部に入射させ、Y方向に並ぶ6つの集光点Cを、X方向に沿って仮想面15上を相対的に移動させることにより、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。具体的には、まず、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を8μm、レーザ光Lのパルスピッチを10μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.3μJとして、仮想面15に沿って複数の改質スポット13aを形成した。続いて、Y方向に並ぶ6つの集光点Cを先の状態からY方向に+4μmずらした状態で、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を8μm、レーザ光Lのパルスピッチを10μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.3μJとして、仮想面15に沿って複数の改質スポット13bを形成した。続いて、Y方向に並ぶ6つの集光点Cを先の状態からY方向に-4μmずらした状態で、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を8μm、レーザ光Lのパルスピッチを5μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.3μJとして、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。続いて、Y方向に並ぶ6つの集光点Cを先の状態からY方向に+4μmずらした状態で、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を8μm、レーザ光Lのパルスピッチを5μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.3μJとして、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。これにより、1回目に形成した改質スポット13aと3回目に形成した改質スポット13とが互いに重なり、2回目に形成した改質スポット13bと4回目に形成した改質スポット13とが互いに重なっていると想定される。この場合、図23の(b)に示されるように、改質スポット13からレーザ光Lの入射側及びその反対側に延びる亀裂14の延び量が70μm程度となった。
図24の(a)及び(b)は、第2実施例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成された改質スポット及び亀裂の画像であり、図24の(a)は平面視での画像、図24の(b)は側面視での画像である。この第2実施例では、532nmの波長を有するレーザ光LをGaNインゴット20の表面20aからGaNインゴット20の内部に入射させ、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の第2工程と同様に、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成した。複数の改質スポット13aを形成する際には、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を8μm、レーザ光Lのパルスピッチを10μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.3μJとした。複数の改質スポット13bを形成する際には、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を8μm、レーザ光Lのパルスピッチを10μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.3μJとした。複数の改質スポット13cを形成する際には、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を8μm、レーザ光Lのパルスピッチを5μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.3μJとした。複数の改質スポット13dを形成する際には、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を8μm、レーザ光Lのパルスピッチを5μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.3μJとした。この場合、図24の(b)に示されるように、改質スポット13からレーザ光Lの入射側及びその反対側に延びる亀裂14の延び量が50μm程度となった。
図24の(c)及び(d)は、第3実施例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成された改質スポット及び亀裂の画像であり、図24の(c)は平面視での画像、図24の(d)は側面視での画像である。この第3実施例では、図24の(a)及び(b)に示される状態にある仮想面15(すなわち、複数列の改質スポット13が既に形成された仮想面15)に沿って、更に、複数の改質スポット13を形成した。具体的には、まず、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を8μm、レーザ光Lのパルスピッチを5μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを0.1μJとして、既に形成された複数列の改質スポット13の列間の中心にそれぞれの列が位置するように複数列の改質スポット13を形成した。この場合、図24の(d)に示されるように、改質スポット13からレーザ光Lの入射側及びその反対側に延びる亀裂14の延び量が60μm程度となった。
以上の実験結果から、仮想面15に沿って既に形成された複数の改質スポット13a及び複数の亀裂14aに重ならないように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13bを形成すれば(第1実施例、第2実施例及び第3実施例)、改質スポット13からレーザ光Lの入射側及びその反対側に延びる亀裂14の延び量が抑制されることが分かった。なお、仮想面15に沿って更に複数の改質スポット13を形成する場合には、仮想面15に沿って既に形成された複数の改質スポット13a,13bに重ならないように、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成すれば(第2実施例及び第3実施例)、仮想面15に渡る亀裂を形成し易くなる。
[第2実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法]
第2実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の対象物11は、図25に示されるように、GaNによって例えば円板状に形成されたGaNウェハ(半導体ウェハ、半導体対象物)30である。一例として、GaNウェハ30の直径は2inであり、GaNウェハ30の厚さは100μmである。第2実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法は、GaNウェハ30から複数の半導体デバイス(半導体部材)40を切り出すために実施される。一例として、半導体デバイス40のGaN基板部分の外形は1mm×1mmであり、半導体デバイス40のGaN基板部分の厚さは数十μmである。
まず、GaNウェハ30が用意され(第1工程)、上述したレーザ加工装置1が、複数の仮想面15のそれぞれに沿って複数の改質スポット13を形成する。複数の仮想面15のそれぞれは、GaNウェハ30の内部においてGaNウェハ30の表面30aに対向する面であり、表面30aが延在する方向に並ぶように設定されている。本実施形態では、複数の仮想面15のそれぞれは、表面30aに平行な面であり、例えば矩形状を呈している。複数の仮想面15のそれぞれは、GaNウェハ30のオリエンテーションフラット31に平行な方向及び垂直な方向に2次元状に並ぶように設定されている。図26に示されるように、複数の仮想面15のそれぞれは、第1領域R1及び第2領域R2を含んでいる。第1領域R1は、仮想面15のうちの複数の角領域である。第2領域R2は、仮想面15のうちの第1領域R1以外の領域である。本実施形態では、第1領域R1は、例えば矩形状を呈している。図25に示されるように、GaNウェハ30には、複数の仮想面15のそれぞれを囲むように複数の周縁領域16が設定されている。つまり、複数の仮想面15のそれぞれは、GaNウェハ30の側面30bに至っていない。一例として、複数の仮想面15のそれぞれに対応する周縁領域16の幅(本実施形態では、隣り合う仮想面15間の距離の半分)は30μm以上である。
複数の仮想面15のそれぞれに沿った複数の改質スポット13の形成は、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の第2工程と同様に、実施される。これにより、GaNウェハ30においては、図27に示されるように、複数の仮想面15のそれぞれに沿って、複数の改質スポット13(すなわち、改質スポット13a,13b,13c,13d)及び複数の亀裂14(すなわち、亀裂14a,14b,14c,14d)が形成される。図27では、複数の改質スポット13及び複数の亀裂14が形成される範囲が破線で示されている。
続いて、半導体製造装置が、図28に示されるように、GaNウェハ30の表面30aに複数の機能素子32を形成する。複数の機能素子32のそれぞれは、GaNウェハ30の厚さ方向から見た場合に1つの機能素子32が1つの仮想面15に含まれるように、形成される。機能素子32は、例えば、フォトダイオード等の受光素子、レーザダイオード等の発光素子、メモリ等の回路素子等である。
本実施形態では、表面30aに複数の機能素子32を形成する際に、半導体製造装置が加熱装置として機能する。つまり、表面30aに複数の機能素子32を形成する際に、半導体製造装置が、GaNウェハ30を加熱し、複数の仮想面15のそれぞれにおいて、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14を互いに繋げることにより、複数の仮想面15のそれぞれにおいて、亀裂17(すなわち、仮想面15に渡る亀裂17)を形成する(第3工程)。図28では、複数の改質スポット13及び複数の亀裂14、並びに、亀裂17が形成される範囲が破線で示されている。なお、半導体製造装置とは別の加熱装置が用いられてもよい。また、加熱以外の方法でGaNウェハ30に何らかの力を作用させることにより、複数の亀裂14を互いに繋げて亀裂17を形成してもよい。また、仮想面15に沿って複数の改質スポット13を形成することにより、複数の亀裂14を互いに繋げて亀裂17を形成してもよい。
ここで、GaNウェハ30においては、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14内に窒素ガスが生じている。そのため、GaNインゴット20を加熱して窒素ガスを膨張させることにより、窒素ガスの圧力を利用して亀裂17を形成することができる。しかも、周縁領域16によって、当該周縁領域16が囲む仮想面15の外部(例えば、隣り合う仮想面15、GaNウェハ30の側面30b)への複数の亀裂14の進展が阻まれるため、複数の亀裂14内に生じた窒素ガスが仮想面15の外部に逃げるのを抑制することができる。つまり、周縁領域16は、改質スポット13を含まない非改質領域であって、当該周縁領域16が囲む仮想面15に亀裂17が形成される際に、当該周縁領域16が囲む仮想面15の外部への複数の亀裂14の進展を阻む領域である。そのために、周縁領域16の幅を30μm以上とすることが好ましい。更に、第1領域R1における単位面積当たりの注入エネルギーが第2領域R2における単位面積当たりの注入エネルギーよりも大きくなるようにレーザ光Lが照射されることにより、仮想面15に沿って複数の改質スポット13が形成されている。これにより、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14が互いに繋がる際に、亀裂(複数の亀裂14が互いに繋がって最終的に亀裂17となる亀裂)が第1領域R1から第2領域R2に進展するように当該亀裂の進展が制御される。
続いて、レーザ加工装置が、GaNウェハ30を機能素子32ごとに切断すると共に、研削装置が、複数の仮想面15のそれぞれに対応する部分を研削することにより、図29に示されるように、複数の亀裂17のそれぞれを境界としてGaNウェハ30から複数の半導体デバイス40を取得する(第4工程)。このように、GaNウェハ30は、複数の仮想面15のそれぞれに沿って切断される。なお、この工程では、レーザ加工以外の機械加工(例えばブレードダイシング)等によって、GaNウェハ30を機能素子32ごとに切断してもよい。
以上の工程のうち、複数の仮想面15のそれぞれに沿って複数の改質スポット13を形成する工程までが、第2実施形態のレーザ加工方法である。また、以上の工程のうち、複数の亀裂17のそれぞれを境界としてGaNウェハ30から複数の半導体デバイス40を取得する工程までが、第2実施形態の半導体部材製造方法である。
以上説明したように、第2実施形態のレーザ加工方法よれば、第1実施形態のレーザ加工方法と同様に、複数の仮想面15のそれぞれにおいて、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14が互いに繋がって亀裂17が形成される際に、亀裂(複数の亀裂14が互いに繋がって最終的に亀裂17となる亀裂)が第1領域R1から第2領域R2に進展するように当該亀裂の進展を制御することができ、その結果、複数の仮想面15のそれぞれに沿って亀裂17を精度良く形成することが可能となる。よって、第2実施形態のレーザ加工方法によれば、複数の亀裂17のそれぞれを境界としてGaNウェハ30から複数の半導体デバイス40を取得することにより、複数の好適な半導体デバイス40の取得が可能となる。また、複数の半導体デバイス40を切り出した後のGaNウェハ30を再利用することも可能となる。
同様に、第2実施形態のレーザ加工方法を実施するレーザ加工装置1によれば、複数の仮想面15のそれぞれに沿って亀裂17を精度良く形成することが可能となるため、複数の好適な半導体デバイス40の取得が可能となる。
また、第2実施形態のレーザ加工方法では、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14の進展を阻む周縁領域16が、複数の仮想面15のそれぞれを囲むように設定される。これにより、周縁領域16が囲む仮想面15の外部への複数の亀裂14の進展が阻まれるため、例えば複数の亀裂14内にガスが生じた場合に、当該ガスが仮想面15の外部に逃げるのを抑制することができる。したがって、当該ガスの圧力を利用して、亀裂17を容易に形成することができる。本実施形態では、GaNウェハ30の材料に含まれる窒化ガリウムがレーザ光Lの照射によって分解されると、複数の亀裂14内に窒素ガスが生じる。そのため、当該窒素ガスの圧力を利用して、亀裂17を容易に形成することができる。
また、第2実施形態のレーザ加工方法では、第1領域R1におけるレーザ光Lのパルスエネルギーが第2領域R2におけるレーザ光Lのパルスエネルギーよりも大きくなるようにレーザ光Lが照射される。これにより、第1領域R1における単位面積当たりの注入エネルギーが第2領域R2における単位面積当たりの注入エネルギーよりも大きくなる状態を適切に実現することができる。
また、第2実施形態のレーザ加工方法では、複数の仮想面15のそれぞれが矩形状を呈しており、複数の仮想面15のそれぞれにおいて、第1領域R1が、仮想面15のうちの複数の角領域である。これにより、複数の仮想面15のそれぞれにおいて、複数の角領域から内側に亀裂(複数の亀裂14が互いに繋がって最終的に亀裂17となる亀裂)が進展するように、当該亀裂の進展を制御することができる。
また、第2実施形態の半導体部材製造方法によれば、第2実施形態のレーザ加工方法に含まれる工程によって、複数の仮想面15のそれぞれに沿って亀裂17を精度良く形成することが可能となるため、複数の好適な半導体デバイス40の取得が可能となる。
また、第2実施形態の半導体部材製造方法では、GaNウェハ30を加熱することにより、複数の亀裂14を互いに繋げて亀裂17を形成する。これにより、例えば、複数の改質スポット13からそれぞれ延びる複数の亀裂14内にガスが生じた場合に、当該ガスを膨張させることができる。したがって、当該ガスの圧力を利用して、亀裂17を容易に形成することができる。本実施形態では、GaNウェハ30の材料に含まれる窒化ガリウムがレーザ光Lの照射によって分解されると、複数の亀裂14内に窒素ガスが生じる。そのため、当該窒素ガスの圧力を利用して、亀裂17を容易に形成することができる。なお、上述したように、亀裂(複数の亀裂14が互いに繋がって最終的に亀裂17となる亀裂)の進展を制御することにより、加熱時間の短縮化、加熱温度の低温化等を期待することができる。
また、第2実施形態の半導体部材製造方法では、複数の仮想面15が、GaNウェハ30の表面30aが延在する方向に並ぶように設定されている。これにより、1つのGaNウェハ30から複数の半導体デバイス40の取得が可能となる。
[変形例]
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、レーザ光Lに関する各種数値は、上述したものに限定されない。ただし、亀裂14が改質スポット13からレーザ光Lの入射側及びその反対側に延びるのを抑制するためには、レーザ光Lのパルスエネルギーが0.1μJ~1μJであり且つレーザ光Lのパルス幅が200fs~1nsであることが好ましい。
また、本発明のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって加工される半導体対象物は、第1実施形態のGaNインゴット20及び第2実施形態のGaNウェハ30に限定されない。本発明の半導体部材製造方法によって製造される半導体部材は、第1実施形態のGaNウェハ30及び第2実施形態の半導体デバイス40に限定されない。1つの半導体対象物に1つの仮想面が設定されてもよい。
一例として、半導体対象物の材料は、SiCであってもよい。その場合にも、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の第2工程と同様に複数の改質スポット13を段階的に形成すれば、次に述べるように、仮想面に渡る亀裂を仮想面に沿って精度良く形成することが可能となる。
図30の(a)及び(b)は、比較例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成されたSiCウェハの亀裂の画像(側面視での画像)であり、図30の(b)は、図30の(a)における矩形枠内の拡大画像である。この比較例では、532nmの波長を有するレーザ光をSiCウェハの表面からSiCウェハの内部に入射させ、Y方向に並ぶ6つの集光点を、X方向に沿って仮想面上を相対的に移動させることにより、仮想面に沿って複数の改質スポットを形成した。このとき、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を2μm、レーザ光のパルスピッチを15μm、レーザ光のパルスエネルギーを4μJとした。この場合、図30の(a)及び(b)に示されるように、仮想面に対して4°~5°傾斜する方向に延びる亀裂が発生した。
図31の(a)及び(b)は、実施例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成されたSiCウェハの亀裂の画像(側面視での画像)であり、図31の(b)は、図31の(a)における矩形枠内の拡大画像である。この実施例では、532nmの波長を有するレーザ光をSiCウェハの表面からSiCウェハの内部に入射させ、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の第2工程と同様に、仮想面に沿って複数の改質スポットを形成した。複数の改質スポット13a,13b,13c,13dのそれぞれに相当する複数の改質スポットを形成する際には、Y方向において隣り合う集光点C間の距離を8μm、レーザ光Lのパルスピッチを15μm、レーザ光Lのパルスエネルギーを4μJとした。この場合、図31の(a)及び(b)に示されるように、仮想面に対して4°~5°傾斜する方向に延びる亀裂の発生が抑制された。図32は、実施例のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法によって形成されたSiCウェハの剥離面の画像であり、図33の(a)及び(b)は、図32に示される剥離面の高さプロファイルである。この場合、SiCウェハの剥離面に現れる凹凸は2μm程度に抑えられた。
以上の実験結果から、半導体対象物の材料がSiCである場合にも、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の第2工程と同様に複数の改質スポット13を段階的に形成すれば仮想面に渡る亀裂が仮想面に沿って精度良く形成されることが分かった。なお、上述した比較例及び実施例で用いたSiCウェハは、4±0.5°のオフ角を有する4H-SiCウェハであり、レーザ光の集光点を移動させた方向は、m軸方向である。
また、複数の改質スポット13a,13b,13c,13dの形成の仕方は、上述したものに限定されない。複数の改質スポット13aは、複数の改質スポット13aからそれぞれ延びる複数の亀裂14aが互いに繋がるように形成されてもよい。また、複数の改質スポット13bは、複数の改質スポット13aに重ならないように形成されればよい。複数の改質スポット13aからそれぞれ延びる複数の亀裂14aに複数の改質スポット13bが重なったとしても、複数の改質スポット13bが複数の改質スポット13aに重ならなければ、複数の改質スポット13a,13bが仮想面15に沿って精度良く形成される。また、複数の改質スポット13c,13dの形成の仕方は任意であり、複数の改質スポット13c,13dは、形成されなくてもよい。また、図34に示されるように、例えばGaNインゴット20を回転させることにより、径方向に並んだ複数の集光点を相対的に回転させて(一点鎖線の矢印)、複数列の改質スポット13を形成し、更に、図35に示されるように、複数列の改質スポット13の列間に複数の集光点のそれぞれを位置させた状態で、径方向に並んだ複数の集光点を相対的に回転させて(一点鎖線の矢印)、複数列の改質スポット13を形成してもよい。なお、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法の第2工程と同様に複数の改質スポット13を段階的に形成することは、本発明のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法において必須ではない。
また、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法において、複数の改質スポット13の形成は、表面20aとは反対側から複数の仮想面15ごとに順次に実施されてもよい。また、第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法では、複数の改質スポット13の形成が表面20a側の1つ又は複数の仮想面15に沿って実施され、1つ又は複数のGaNウェハ30が切り出された後に、GaNインゴット20の表面20aが研削され、再び、複数の改質スポット13の形成が表面20a側の1つ又は複数の仮想面15に沿って実施されてもよい。
また、第1実施形態及び第2実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法では、周縁領域16が形成されなくてもよい。第1実施形態のレーザ加工方法及び半導体部材製造方法において周縁領域16を形成しない場合には、複数の仮想面15のそれぞれに沿って複数の改質スポット13を形成した後に、例えば、GaNインゴット20に対してエッチングを施すことにより、複数のGaNウェハ30を取得することも可能である。
また、第1領域R1及び第2領域R2における単位面積当たりの注入エネルギーの調整の仕方は、上述したものに限定されない。例えば、第1領域R1におけるレーザ光Lのパルスピッチが第2領域R2におけるレーザ光Lのパルスピッチよりも小さくなるようにレーザ光Lが照射されてもよい。或いは、第1領域R1におけるレーザ光Lの列間ピッチが第2領域R2におけるレーザ光Lの列間ピッチよりも小さくなるようにレーザ光Lが照射されてもよい。いずれによっても、第1領域R1における単位面積当たりの注入エネルギーが第2領域R2における単位面積当たりの注入エネルギーよりも大きくなる状態を適切に実現することができる。なお、列間ピッチとは、レーザ光Lの集光点Cを仮想面15上の複数列のそれぞれに沿って移動させる場合における「当該複数列のうち隣り合う列間の距離」を意味する。
また、図36に示されるように、第1領域R1が、仮想面15の外縁に沿った外縁領域であり、第2領域R2が、第1領域R1に囲まれた領域であってもよい。つまり、第1領域R1が、仮想面15のうちの外縁領域であってもよい。これにより、仮想面15において、外縁領域から内側に亀裂(複数の亀裂14が互いに繋がって最終的に亀裂17となる亀裂)が進展するように、当該亀裂の進展を制御することができる。図36に示される例では、仮想面15が、GaNインゴット20のオリエンテーションフラット21に沿った第3領域R3を更に含んでおり、第3領域R3における単位面積当たりの注入エネルギーが第1領域R1及び第2領域R2における単位面積当たりの注入エネルギーよりも大きくなるようにレーザ光Lが照射される。オリエンテーションフラット21に沿った領域には亀裂(複数の亀裂14が互いに繋がって最終的に亀裂17となる亀裂)が進展し難いものの、これにより、当該亀裂を第3領域R3に確実に進展させることができる。
また、図37に示されるように、矩形状の仮想面15が、仮想面15の外縁に沿った矩形環状の第2領域R2、及び、第2領域R2に囲まれた矩形状の第1領域R1を含んでいてもよい。また、矩形状の仮想面15が、仮想面15のうちの複数の角領域である第2領域R2、及び、仮想面15のうちの第2領域R2以外の領域である第1領域R1を含んでいてもよい。その場合、内側から複数の角領域に亀裂(複数の亀裂14が互いに繋がって最終的に亀裂17となる亀裂)が進展するように、当該亀裂の進展を制御することができる。
また、レーザ加工装置1は、上述した構成を有するものに限定されない。例えば、レーザ加工装置1は、空間光変調器4を備えていなくてもよい。
また、上述した実施形態における各構成には、上述した材料及び形状に限定されず、様々な材料及び形状を適用することができる。また、上述した一の実施形態又は変形例における各構成は、他の実施形態又は変形例における各構成に任意に適用することができる。