実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、重複する説明は省略することがある。
同一あるいは同様な機能を有する要素が複数ある場合には、同一の符号に異なる添字を付して説明する場合がある。ただし、複数の要素を区別する必要がない場合には、添字を省略して説明する場合がある。
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
以下で説明する実施例では、無線機が送信信号の波形を調べて波形が所望の偏波を形成するように送信波を制御する手段を説明している。
一例を挙げるならば、送信機は、情報信号に第1の搬送波とは異なる周波数の正弦波を掛け合わせた結果に第1の搬送波を重畳する系統と、情報信号に第2の搬送波とは異なる周波数の余弦波を掛け合わせた結果に第2の搬送波を重畳する系統を具備している。第1の搬送波と第2の搬送波は同一周波数である。そして、これら2系統の出力を夫々分岐し合成する経路を具備し、合成結果を測定する機能を具備している。合成結果の測定結果を用いて2系統の搬送波発生回路を制御し、2系統の搬送波の位相を等しくして2系統の出力を空間的に直交する2つのアンテナから夫々空間に放射することができる。
また、その他の一例を挙げるならば、送信機は情報信号に第1の搬送波とは異なる周波数の正弦波と定数を選択的に掛け合わせた結果に第1の搬送波を重畳する系統と、情報信号に第2の搬送波とは異なる周波数の余弦波と定数を選択的に掛け合わせた結果に第2の搬送波を重畳する系統を具備する。第1の搬送波と第2の搬送波は同一周波数である。そして、これら2系統の出力を夫々分岐し合成する経路を具備し、該合成結果を測定する機能を具備する。そして、2系統とも定数を掛け合わせた場合の測定結果を用いて、2系統の搬送波発生回路を制御する。2系統の搬送波の位相を等しくした後に、2系統夫々に正弦波および余弦波を掛け合わせた場合の2系統の出力を空間的に直交する2つのアンテナから夫々空間に放射する。
また、その他の一例を挙げるならば、送信機は同一の周波数の搬送波を発生するPLL回路を2つ具備している。そして、情報信号にPLL回路で発生した搬送波とは異なる周波数の正弦波と定数を選択的に掛け合わせた結果に第一のPLL回路で発生した搬送波を重畳する系統と、情報信号にPLL回路で発生した搬送波とは異なる周波数の余弦波と定数を選択的に掛け合わせた結果に第二のPLL回路で発生した搬送波を重畳する系統を具備している。そして、該2系統の出力を夫々分岐し合成する経路を具備し、該合成結果を測定する機能を具備する。2系統とも定数を掛け合わせた場合の測定結果を用いて2系統の夫々のPLL回路を制御し、2系統の搬送波の位相が等しくなるまでPLL回路の停止・再起動を繰り返す。2系統の搬送波の位相を等しくした後に、2系統夫々に正弦波および余弦波を掛け合わせて該2系統の出力を空間的に直交する2つのアンテナから夫々空間に放射する。
また、その他の一例を挙げるならば、送信機は同一の周波数の搬送波を発生するPLL回路を2つ具備し、情報信号に第一のPLL回路で発生した搬送波とは異なる周波数の正弦波と定数を選択的に掛け合わせた結果に第一のPLL回路で発生した搬送波を重畳する系統と、情報信号に第二のPLL回路で発生した搬送波とは異なる周波数の余弦波と定数を選択的に掛け合わせた結果に第二のPLL回路で発生した搬送波を重畳する系統を具備している。そして、2系統の出力を夫々分岐し合成する経路を具備し、該合成結果を測定する機能を具備する。また、閾値を記憶する装置を具備し、2系統とも定数を掛け合わせた場合の測定結果と該閾値を比較して測定値が閾値を越えるまで2系統の夫々のPLL回路の停止・再起動を繰り返す。これにより2系統の搬送波の位相を等しくした後に、2系統夫々に正弦波および余弦波を掛け合わせて、2系統の出力を空間的に直交する2つのアンテナから夫々空間に放射する。
また、その他の一例を挙げるならば、送信機は同一の周波数の搬送波を発生するPLL回路を2つ具備する。情報信号に第一のPLL回路で発生した搬送波とは異なる周波数の正弦波と定数を選択的に掛け合わせた結果に第一のPLL回路で発生した搬送波を重畳する系統と、情報信号に第二のPLL回路で発生した搬送波とは異なる周波数の余弦波と定数を選択的に掛け合わせた結果に第二のPLL回路で発生した搬送波を重畳する系統を具備する。そして、該2系統の出力を夫々分岐し合成する経路を具備する。さらに、該合成結果をアナログ・デジタル変換する機能を具備し、CPU内部に閾値を格納するメモリを具備する。2系統とも定数を掛け合わせた場合の合成結果をアナログ・デジタル変換しCPUにデジタル信号として転送し、CPUはデジタル信号とメモリに格納された閾値を比較して測定値が閾値を越えるまで2系統の夫々のPLL回路の停止・再起動を繰り返して2系統の搬送波の位相を等しくする。その後に、2系統夫々に正弦波および余弦波を掛け合わせ、2系統の出力を空間的に直交する2つのアンテナから夫々空間に放射する。
また、その他の一例を挙げるならば、送信機は同一の周波数の搬送波を発生するPLL回路を2つ具備する。情報信号に第一のPLL回路で発生した搬送波とは異なる周波数の正弦波と定数を選択的に掛け合わせた結果に該搬送波を重畳する系統と、情報信号に第二のPLL回路で発生した搬送波とは異なる周波数の余弦波と定数を選択的に掛け合わせた結果に該搬送波を重畳する系統を具備する。さらに、余弦波と正弦波の位相を調節する移相器を夫々具備している。さらに、2系統の出力を夫々分岐し合成する経路を具備し、該合成結果を測定する機能を具備している。2系統とも定数を掛け合わせた場合の測定結果を用いて2系統の夫々のPLL回路を制御し、2系統の搬送波の位相が等しくなるまでPLL回路の停止・再起動を繰り返して、2系統の搬送波の位相を等しくする。その後に、2系統夫々に正弦波および余弦波を掛け合わせた場合の該2系統の出力の測定結果を用いて2系統の夫々の移相器を制御し、2系統の正弦波と余弦波の位相がπ/2となるようにして空間的に直交する2つのアンテナから夫々空間に放射する。
また、その他の一例を挙げるならば、送信機は同一の周波数の搬送波を発生するPLL回路を2つ具備する。情報信号に第一のPLL回路で発生した搬送波とは異なる周波数の正弦波と定数を選択的に掛け合わせた結果に該搬送波を重畳する系統と、情報信号に第二のPLL回路で発生した搬送波とは異なる周波数の余弦波と定数を選択的に掛け合わせた結果に該搬送波を重畳する系統を具備する。そして、余弦波と正弦波が予め異なる初期位相の余弦波の集合と正弦波の集合から選択できる機能を2系統で夫々具備している。また、2系統の出力を夫々分岐し合成する経路を具備し、該合成結果を測定する機能を具備している。2系統とも定数を掛け合わせた場合の測定結果を用いて2系統の夫々のPLL回路を制御し、2系統の搬送波の位相が等しくなるまで停止・再起動を繰り返して、2系統の搬送波の位相を等しくする。その後に、2系統夫々に異なる初期位相の余弦波および正弦波を順次選択し正弦波および余弦波を掛け合わせた場合の2系統の出力の測定結果を用いて、2系統の夫々の移相器を制御する。そして、2系統の正弦波と余弦波の位相がπ/2となるようにして空間的に直交する2つのアンテナから夫々空間に放射する。
本実施例では、回転偏波を用いて送受信機が所望の偏波を使用できる無線機の構成、およびその動作を説明する。
図1は本実施例の無線機の構成を説明するブロック図である。回転偏波無線機101は情報信号発生器1と同期測定信号発生器2を具備し、情報信号切替器3が信号処理回路9で制御され、情報信号発生器1と同期測定信号発生器2を切替える。情報信号切替器3の出力は2分岐され、一方が第一の乗算器17によって第一の波形信号切替器15の出力と掛け合わされ、他方が第二の乗算器18によって第二の波形信号切替器16の出力と掛け合わされる。
情報信号発生器1は情報信号ωIを生成し、同期測定信号発生器2はωIと同じ程度の周波数で既知のトレーニング信号ωTを生成する。ωTはたとえばオール“1”の信号である。
信号処理回路9は、例えばマイクロコンピュータであり、回転偏波無線機101の動作を所定のプログラムに基づいて制御する。制御はソフトウェアで行ってもよいし、ハードウェアでもよい。
第一の波形信号切替器15は、回転偏波余弦波発生器11と第一の重み定数発生器13の出力を切り替える。第二の波形信号切替器16は、回転偏波正弦波発生器12と第二の重み定数発生器14の出力を切り替える。回転偏波余弦波発生器11はcos(ωp+θ1)を生成し、回転偏波正弦波発生器12はsin(ωp+θ1)を生成する。これらは、位相が90度ずれたsin波を生成して偏波を回転させる。第一の重み定数発生器13と第二の重み定数発生器14は、ωpと同じ程度の周波数で既知の信号(たとえばオール“1”)を生成する。
第一の乗算器17と第二の乗算器18の各々の出力は、第三の乗算器21および第四の乗算器22によって、第一のPPL装置23および第二のPLL装置24の出力である搬送波と掛け合わされる。第一のPLL装置23および第二のPLL装置24は、信号処理回路9によって制御されている。
第三の乗算器21および第四の乗算器22の出力の一部は分岐され、合成器25の入力となる。合成器25の出力は高周波信号測定器4の入力となり、高周波信号測定器4の出力は信号処理回路9に入力される。第三の乗算器21および第四の乗算器22の出力の大部分は、夫々空間的に直交する第一のアンテナ41および第二のアンテナ42により空間に放射されて回転偏波となる。
ここで、情報信号発生器1からの信号ωIは無線機から他の無線機へ送信すべき情報信号である。回転偏波余弦波発生器11と回転偏波正弦波発生器12からの信号ωpは回転偏波を回転させる回転周波数である。第一のPPL装置23と第二のPLL装置24からの信号ωcは搬送周波数であり、例えばωI<<ωp<<ωcである。
搬送波を生成する第一のPPL装置23および第二のPLL装置24は、ゼロベースで回路を設計・製造する場合には、特許文献1に見られるように単一の装置で生成した信号を分岐して用いることができる。しかし、設計や製造のコストを低減するため、既存の回路を利用したい場合があり、この場合には、独立に動作する2つのPPL装置を使用しなければならない場合がある。PPL装置で生成される搬送波の初期位相はランダムなため、2つのPPL装置で生成される搬送周波数を用いた場合、2つのアンテナ41,42から放射される電磁波の位相の同期が保証されない。本実施例では、この課題を解決する構成を提案している。
現在主流である無線機はデジタル信号処理とアナログ信号処理を併用するPLLで搬送波周波数を生成する。PLLはフィードバックループにより生成周波数を決定する為に、そのループの収束時間はPLLデバイスの特性およびPLLデバイスが置かれた環境(温度、湿度、振動等)によりまちまちである。PLLデバイスが発生する信号は正弦波であり周期性を持つので、まちまちである収束時間はその周期内においてランダムに分布すると考えられる。よって、夫々の系統中の異なるPLLに対して複数の起動・停止・再起動のプロセスを繰り返せば、同プロセスの中で適当な許容可能な位相誤差の範囲内で、両PLLが発生する正弦波あるいは余弦波の位相が一致するタイミングが存在すると考えられる。
以上の動作プロセスを用いることにより独立な2系統の搬送波の位相を実用上一致させることが出来る。本実施例では、回転偏波を用いる通信で使用される偏波回転の周波数および情報信号の周波数における偏波の制御を、商用のデジタル信号処理デバイスで実現することが出来る。
実装の一例として、情報信号発生器1、同期測定信号発生器2、情報信号切替器3、高周波信号測定器4、信号処理回路9、第一の乗算器17、第二の乗算器18、回転偏波余弦波発生器11、第一の重み定数発生器13、第一の波形信号切替器15、回転偏波正弦波発生器12、第二の重み定数発生器14、第二の波形信号切替器16は、デジタル回路ブロック19に含まれ一つのLSI(large scale integration)中に実現される。また、第一のPPL装置23および第二のPLL装置24は、それぞれ独立のLSI中に実現される。
図2Aは図1の無線機を用いる無線システムの送信時の通信プロトコルの例である。全体の制御は信号処理回路9によって行なわれるものとする。まず、アンテナスイッチがOFFされて、第一のアンテナ41および第二のアンテナ42からの送信は停止される(S201)。
次に、第一のアンテナ41および第二のアンテナ42からから放射される電磁波の位相同期を取るための処理に入る。この処理は、例えば通常の送信の前に、信号処理回路9の制御によりトレーニング期間として行なわれる。情報信号切替器3により、同期測定信号発生器2の出力が選択される(S202)。同期測定信号発生器2の出力は、情報信号発生器1の出力である情報信号に比べて低い周波数成分のみを有する同期信号(情報信号帯周波数トレーニング信号)である。
第一の波形信号切替器15と第二の波形信号切替器16によって、第一の重み定数発生器13と第二の重み定数発生器14の出力である回転偏波周波数定振幅信号(定数値)が選択される(S203)。第一の乗算器17および第二の乗算器18により、第一の重み定数発生器13の出力である第一の重み定数と第二の重み定数発生器14の出力である第二の重み定数が同期信号に掛け合わされる。次に、2つのPLLの同期を検出するための、同相合成閾値の設定を行う(S204)。
図2Bは、同相合成閾値設定のためのシーケンスを示す図である。信号処理回路9は、第一のPPL装置23および第二のPLL装置24をリセットし(S901)、2系統のPLLの発振を開始する(S902)。第一の乗算器17および第二の乗算器18の出力は、夫々が第一のPLL装置23および第二のPLL装置24によって発生する同一周波数の搬送波と、第三の乗算器21と第四の乗算器22によって掛け合わされる。第一の乗算器17および第二の乗算器18の出力は、基本的に既知であるから、第三の乗算器21と第四の乗算器22の出力は、主に第一のPLL装置23および第二のPLL装置24の信号の状態を反映する。
第三の乗算器21と第四の乗算器22の出力の一部は分岐され、合成器25により同相で足し合わされ、高周波信号測定器4によりその強度(合成信号振幅)が搬送波周波数帯で測定される(S903)。その測定結果は信号処理回路9に入力されて記憶される(S904)。記録された合成信号振幅のうちの最大値が更新される(S905)。上記の一連の動作(S901~S905)は、あらかじめ定めた所定の回数繰り返される(S906)。
前述のように、異なる系統のPLLに対して起動・停止・再起動のプロセスを繰り返せば、ランダムな位相を持つ2系統の搬送周波数の位相は、所定の確率で一致するタイミングがあると考えられる。そのタイミングは、2系統の搬送周波数の加算信号が所定の値をとることで検知することができる。すなわち、2系統の搬送周波数が同相である場合、加算信号の振幅は理論的には1系統の信号の2倍となる。
同相のタイミングを検知するためには、PLLの起動・停止・再起動のプロセスを所定回数繰り返し、信号処理回路9で最大振幅を記憶しておく(S901~S906)。起動・停止・再起動のプロセスを十分多く繰り返していれば、最大振幅を得た条件で2つのPLLの位相が同期していると推定できる。よって、検出した最大振幅を検知する同相合成閾値を設定し(S907)、この閾値を用いて次に最大振幅を検出したときのタイミングで同相と判定すればよい。この方法により信号処理回路9は高周波信号測定器4の出力に基づいて、2系統の搬送波が同相となったことを検知可能である。
図2Aを参照すると、同相合成閾値の設定(S204)を行った後、信号処理回路9は、第一のPPL装置23および第二のPLL装置24をリセットし(S205)、2系統のPLLの発振を開始する(S206)。第一の乗算器17および第二の乗算器18の出力は、夫々が第一のPLL装置23および第二のPLL装置24によって発生する同一周波数の搬送波と、第三の乗算器21と第四の乗算器22によって掛け合わされる。第一の乗算器17および第二の乗算器18の出力は、基本的に既知であるから、第三の乗算器21と第四の乗算器22の出力は、主に第一のPLL装置23および第二のPLL装置24の信号の状態を反映する。
第三の乗算器21と第四の乗算器22の出力の一部は分岐され、合成器25により同相で足し合わされる。高周波信号測定器4によりその強度(合成信号振幅)が搬送波周波数帯で測定される(S207)。その測定結果は同相合成閾値と比較される(S208)。同相合成閾値との比較の結果、閾値を超えていない場合、第一のPLL装置23と第二のPLL装置24をリセット(S205)、再起動(S206)して、結果を測定し(S207)し、同様の動作を繰り返す。
同相合成閾値との比較の結果、閾値を超えた段階で、2つのPLL装置23,24の発振を維持する。第一の波形信号切替器15および第二の波形信号切替器16により、回転偏波余弦波発生器11および回転偏波正弦波発生器12の出力を選択する(S209)。そして、アンテナスイッチをONにし(S212)、情報信号切替器3により情報信号発生器1の出力を選択する(S213)。なお、アンテナスイッチをONにする(S212)タイミングは、情報信号発生器1の出力を選択した(S213)後等でもよい。
これにより、空間的に直交する第一のアンテナおよび第二のアンテナから同期の取れた搬送波を余弦波と正弦波で変調し、これらの変調波に同一の情報信号を重畳した回転偏波が空中に形成される。
なお、同相合成閾値設定処理(S204)は、送信のたびに行う必要はない。回転偏波無線機101を設置したときに一度だけ行ってもよい。あるいは、後述のように、別途同相合成閾値設定処理を行って、予め閾値を定めておいてもよい。
図2Cは、他の通信プロトコルの例である。図1Aと同様の処理は、同一符号により説明を省略する。図2CのS209~S211は、PLLの位相があった後に、回転偏波周波数のsinとcosが直交になっている(sinとcosで位相同期が取れている)ことを確かめる処理である。回転偏波余弦波発生器11と回転偏波正弦波発生器12は、同一信号源を元に信号を生成している限り位相同期が取れているはずである。しかしながら何らかの原因でこれらに位相ずれが生じた場合、回転偏波周波数ωpよりも搬送波周波数ωcの方が高いので、合成信号の位相ずれを搬送波の位相調整で補正することができる。回転偏波周波数の位相ずれの原因としては、例えばデジタル回路ブロック(ベースバンド回路BB)19と第三の乗算器21および第四の乗算器22の間の結合線路の違い、第三の乗算器21および第四の乗算器22の個体差が考えられる。
実用的には位相調整の対象として、「二系のPLL信号と偏波回転信号の積の信号」を評価することが望ましい。そのための処理として、PLLの位相が合った後、第一の波形信号切替器15と第二の波形信号切替器16は、回転偏波余弦波発生器11と回転偏波正弦波発生器12からの信号を選択する(S209)。搬送波に重畳された余弦波と正弦波は合成器25で合成され、高周波信号測定器4で振幅を測定される(S210)。余弦波と正弦波の位相が同期している場合(両者がπ/2ずれたsin波である場合)、これらの合成信号の振幅は所定の条件を満たすから、この判定により、位相同期を確認することができる(S211)。なお、振幅の条件については、予めシミュレーションあるいは実測などにより求めておけばよい。例えば、正弦波と余弦波の位相同期時の最大振幅の条件を求める。あるいは、同相合成閾値設定の処理(S204)と同様の処理により、合成信号振幅の最小値を求め、当該最小値を検出する直交位相合成閾値を設定し、当該閾値を用いて位相同期を確認してもよい。
上記の場合厳密には、2つの系から得られる信号は正弦波・余弦波と搬送波が乗算されているため、
cos(ωp+θ1)* cos(ωc+φ1)とsin(ωp+θ1)* cos(ωp+φ2)
であり、すなわち、
cos(ωp+θ1)* cos(ωc+φ1) = cos(ωp+θ1+ωc+φ1)+ cos(ωp+θ1-ωc-φ1)
および、
sin(ωp+θ1)* cos(ωc+φ1) = -sin(ωp+θ1+ωc+φ1)+ sin(ωp+θ1-ωc-φ1)
の2つの信号を比較していることになる(正弦波・余弦波と搬送波の周波数・振幅は異なる)。
回転偏波余弦波発生器11と回転偏波正弦波発生器12からの信号の位相同期が確認できた場合(S211でyesの場合)、アンテナスイッチをONにして(S212)、情報信号切替器3により情報信号発生器1の出力を選択し(S213)、通信が可能となる。位相同期が確認できない場合(S211でnoの場合)、第一の波形信号切替器15と第二の波形信号切替器16は、第一の重み定数発生器13と第二の重み定数発生器14からの信号を選択し、処理S205に戻りPLLの位相を再調節する。
回転偏波余弦波発生器11と回転偏波正弦波発生器12は原則として常に動作しており、第一の波形信号切替器15と第二の波形信号切替器16により切り替えられている。このため、PLLの位相を再調節することにより、正弦波・余弦波と搬送波の乗算信号の位相が調節される。
以上の処理では搬送周波数の同期が最も重要であり、送信される電波において周波数が低い回転用位相のずれは許容するという考え方をとっている。図2Bで追加されたループ処理はいわば最終チェックで、回転偏波余弦波発生器11および回転偏波正弦波発生器12の正しい動作を確認する意義がある。
なお、搬送波の位相を許容値内に収める処理の後に、偏波回転の位相を許容値内に収める処理を行うことにより、最終的な回転偏波の位相を調節することが容易となる。発明者の検討によると、搬送波の位相がある程度近くなっていないと、二系のPLL信号と偏波回転信号の積の信号の位相同期を取ることがアルゴリズム的に困難である。
本実施例に拠れば、商用の汎用デジタル信号処理デバイスで制御可能な偏波が回転する電磁波で情報信号が転送可能となるので、送受信機が最適偏波を用いることにより、見通し通信路が存在しない無線環境において良好な通信品質を実現することが出来る。
なお、上記では受信側の構成については言及していないが、受信については特許文献1(特開2017-046117号公報)等で記載されている回転偏波技術を適用可能である。
図3は回転偏波を用いて送受信機が所望の偏波を使用できる無線機の構成を説明する他の例である。回転偏波無線機102が図1の回転偏波無線機101と異なる点は、高周波信号測定器4がアナログ・デジタル変換機5とデジタル信号バス6に置き換わり、合成器25のアナログ出力がデジタル出力に変換され信号処理回路9に入力される点である。信号処理回路9は例えばマイクロコンピュータを使用することができ、デジタル信号を高い分解能で高速に処理することができる。
本実施例に拠れば合成器25の出力である2系統の高周波信号の同相合成強度を図1の実施例と比べて高い分解能で検出可能となる。よって、信号処理回路9が該2系統の搬送波の位相が同一とみなせる時刻を見出す時間が短縮され、無線機を用いる無線通信システムのスループット向上に効果がある。
図4は回転偏波を用いて送受信機が所望の偏波を使用できる無線機の構成を説明する他の例である。回転偏波無線機103が図1の回転偏波無線機101と異なる点は、新たに閾値発生回路29と比較器39が設置され、高周波信号測定器4の出力が、閾値発生回路29の出力と比較器39により比較され、その比較結果が信号処理回路9に入力される点である。
閾値発生回路29には、予め2系統の搬送波が同相で合成された場合の合成信号強度の、高周波信号測定器4による測定値の最大値または最小値を検出する閾値が記憶されている。例えば2系統の搬送波が最大値1、最小値-1の正弦波または余弦波である場合、同相時の合成信号の最大値は2、最小値は-2である。これらの値は実験やシミュレーションで予め求めておけばよい。
比較器39によって、合成器25の出力である2系統の搬送波の合成信号の所定の最大値または最小値が検知された時刻に、2系統の搬送波が同相であるとみなすことができる。よって、図1の実施例のように、閾値を装置内で設定する時間が必要でないため、信号処理回路9での処理時間が図1の実施例と比べて短縮され、無線機を用いる無線通信システムのスループット向上に効果がある。
図5は回転偏波を用いて送受信機が所望の偏波を使用できる無線機の構成を説明する他の例である。回転偏波無線機104が図3の回転偏波無線機102と異なる点は、新たに閾値発生回路29が設置され、一時記憶回路49が信号処理回路9内に確保されることである。
閾値発生回路29の出力は信号処理回路9の内部にある一時記憶回路49の内部に蓄えられ、デジタル信号バス6から入力される2系統の搬送波を合成した信号の強度が同相合成時とどれだけ乖離があるかを高速に判断可能となる。よって、2系統の搬送波の位相が同一とみなせる時刻を見出す時間が図3の実施例と比べて大幅に短縮され、無線通信システムのスループット向上に効果がある。
本実施例では、回転偏波を用いて送受信機が所望の偏波を使用できる無線機の動作を説明する。本実施例では、回転偏波余弦波発生器11と回転偏波正弦波発生器12からの信号の位相調整を可能にしている。
図6は実施例の回転偏波を用いて送受信機が所望の偏波を使用できる無線機の構成を説明する図の他の例である。図7は図6の無線機を用いる無線システムの通信プロトコルの例である。
図6の回転偏波無線機105が図1の回転偏波無線機101と異なる点は、新たに第一の偏波回転周波数帯移相器31および第二の偏波回転周波数帯移相器32が夫々第一の波形信号切替器15と回転偏波余弦波発生器11の間および第二の波形信号切替器16と回転偏波正弦波発生器12の間に挿入されることである。両者はデジタル回路ブロック19内に設置され、信号処理回路9で制御される。
本実施例では、図1の実施例と同様の動作を行い2系統の搬送波が同相であると見なせた後、原則として信号処理回路9は第一のPLL装置23および第二のPLL装置24に対する制御は行わない。第一の波形信号切替器15および第二の波形信号切替器16により、回転偏波余弦波発生器11および回転偏波正弦波発生器12の出力を選択した後、図2Cで説明した処理により、両者の位相が合っていないことを検出した場合は、必要によりこれらの位相を制御する。
図7では図2Cと同様の処理は同一の符号を付して説明を省略する。図7のプロトコルに示すように、搬送波の位相が整合した後(S208のyes)、信号処理回路9は、回転偏波余弦波発生器11と回転偏波正弦波発生器12からの信号を選択する(S209)。図2Cと同様に余弦波と正弦波は合成器25で合成され、高周波信号測定器4で搬送波と乗算された振幅を測定され(S210)、合成信号の位相同期を確認する(S211)。
位相同期を確認できれば(S211のyes)、アンテナスイッチをONにし(S212)、情報信号帯周波数情報信号ωIを選択し(S213)、回転偏波正弦波信号・回転偏波余弦波信号および搬送波信号と合成してアンテナ41,42からの送信が可能となる。
余弦波と正弦波の位相同期が確認できない場合(S211のno)、信号処理回路9であらかじめ定めたルールに従い、第一の乗算器17および第二の乗算器18の入力となる偏波回転周波数帯の余弦波と正弦波の位相を変更する(S701)。そして、高周波信号測定器4によりその強度を搬送波周波数帯で測定する(S210)。あらかじめ定めたルールでは、例えば、第一の偏波回転周波数帯移相器31および第二の偏波回転周波数帯移相器32の位相量を所定量ずつ変更していく。
いずれかの位相量で、合成信号振幅が所定条件を満たす場合には(S211のyes)、アンテナスイッチをONにし(S212)、情報信号帯周波数情報信号ωIを選択し(S213)、アンテナ41,42からの送信が可能となる。
すべての変更量を選択しても、位相が合わなかった場合には(S702のno)、第一の偏波回転周波数帯移相器31および第二の偏波回転周波数帯移相器32で位相を調整することはあきらめ、図2Bと同様にPLLの再起動により対応する。
全ての変更量を選択していない場合には、あらかじめ定めた位相の変更条件を全て行うまで位相量を変更する(S702のyes)。
以上のプロセスにより、信号処理回路9は高周波信号測定器4の出力が例えば所定の閾値を下回ったことを知り、その段階で第一の偏波回転周波数帯移相器31および第二の偏波回転周波数帯移相器32の値を固定し、情報信号切替器3により情報信号発生器1の出力を選択する(S211)。これにより、空間的に直交する第一のアンテナおよび第二のアンテナから同期の取れた搬送波を同一の偏波回転周波数の余弦波と正弦波で変調しこれらの変調波に同一の情報信号を重畳した回転偏波が空中に形成される。
上記実施例では、搬送波と偏波回転周波数の正弦波と余弦波の積の位相が、搬送波の位相が等しく偏波回転の正弦波と余弦波が正確にπ/2ずれている状態になるべく近くすることを可能にする。
本実施例に拠れば、図1の実施例に比べて回転偏波を形成する偏波回転周波数帯の正弦波形と余弦波形の直交度が向上するので、偏波回転の安定度を向上させることが出来、送受信機の偏波制御の精度向上に効果がある。
上記では、処理S211の条件を判定する閾値が信号処理回路9内に予め設定されていることを想定した。他の方式としては、処理S701および処理S702のループ処理を、全ての変更量を選択するまで行い、その測定結果を信号処理回路9に入力され記憶する。信号処理回路9は測定結果を記憶しておき、例えば最小出力を検出する閾値を設定する。
上記処理により信号処理回路9は高周波信号測定器4の最小出力を知り、次に該最小出力が得られた条件で第一の偏波回転周波数帯移相器31および第二の偏波回転周波数帯移相器32の値を固定し、情報信号切替器3により情報信号発生器1の出力を選択する。これにより、予め閾値を設定する必要なく、空間的に直交する第一のアンテナおよび第二のアンテナから同期の取れた搬送波を同一の偏波回転周波数の余弦波と正弦波で変調しこれらの変調波に同一の情報信号を重畳した回転偏波が空中に形成される。
図8は実施例の回転偏波を用いて送受信機が所望の偏波を使用できる無線機の構成を説明する図の他の例である。
図8の回転偏波無線機106が図2の回転偏波無線機102と異なる点は、デジタル回路ブロック19内に、新たに回転偏波余弦波切替器33、回転偏波正弦波切替器34、回転偏波余弦波アレイ35、および回転偏波正弦波アレイ36を具備する点である。回転偏波余弦波切替器33と該回転偏波正弦波切替器34は、信号処理回路9で制御される。回転偏波余弦波切替器33と回転偏波正弦波切替器34には、夫々回転偏波余弦波アレイ35と回転偏波正弦波アレイ36が結合し一組の回転偏波余弦波と回転偏波正弦波が第一の波形信号切替器15と第二の波形信号切替器の入力に結合する。この構成により、アレイ数がnの場合、n×n通りの組合わせで正弦波と余弦波が供給されることになる(図8の場合9通り)。
本実施例では、図2の実施例と同様の動作を行い2系統の搬送波が同相であると見なせた後、信号処理回路9は第一のPLL装置23および第二のPLL装置24に対する制御は原則行わない。その代わりに、回転偏波余弦波切替器33および回転偏波正弦波切替器34により、回転偏波余弦波アレイ35と回転偏波正弦波アレイ36の中から一組の回転偏波余弦波と回転偏波正弦波が選択される。一般に、回転偏波余弦波アレイ35と回転偏波正弦波アレイ36に含まれる回転偏波余弦波と回転偏波正弦波は初期位相が異なるが、複数の組み合わせを出力可能とすることで、一定の確率で位相の合った(あるいは近い)組み合わせを選択することができる。
図6の例では、正弦波と余弦波の位相を調整するために、第一の偏波回転周波数帯移相器31および第二の偏波回転周波数帯移相器32を用いたが、本実施例ではあらかじめ準備した複数の信号源を組み合わせることで、第一の乗算器17および第二の乗算器18の入力となる回転偏波余弦波と回転偏波正弦波を変化させる。
変化させた回転偏波余弦波と回転偏波正弦波は、高周波信号測定器4によりその強度を搬送波周波数帯で測定する。その測定結果は信号処理回路9に入力され記憶される。信号処理回路9は測定結果を記憶して別の組の回転偏波余弦波と回転偏波正弦波を選択し同様の動作を繰り返す。
該動作の繰り返しにより信号処理回路9は高周波信号測定器4の例えば最小出力を知り、該最小出力が得られた段階で回転偏波余弦波と回転偏波正弦波を固定し情報信号切替器3により情報信号発生器1の出力を選択する。これにより、空間的に直交する第一のアンテナおよび第二のアンテナから同期の取れた搬送波を同一の偏波回転周波数の余弦波と正弦波で変調しこれらの変調波に同一の情報信号を重畳した回転偏波が空中に形成される。
本実施例に拠れば、図2の実施例に比べて回転偏波を形成する偏波回転周波数帯の正弦波形と余弦波形の直交度が向上するので、偏波回転の安定度を向上させることが出来、送受信機の偏波制御の精度向上に効果がある。
図9は本実施例の回転偏波を用いて送受信機が所望の偏波を使用できる無線機の構成を説明する図の他の例である。
回転偏波無線機107が図6の回転偏波無線機105と異なる点は、新たに同期信号発生回路8と信号処理回路9で制御される第二の情報信号切替器7がデジタル回路ブロック19内に設置され、情報信号発生器1の出力ωIと同期信号発生回路8の出力ωSが第二の情報信号切替器7により選択され情報信号切替器3の入力になることである。
実施例5の図7で2系統の搬送波の同期が取れ、アンテナスイッチをON(S212)にした後は、同期信号発生回路8を用いて通信相手の他の無線機との同期をとり、情報信号発生器1の出力データを該他の無線機に転送する。
無線システムの用途によっては、通信を行う無線機同士での時刻同期を取る必要がある。これは特に、センサネット等の1対N通信を行う場合に通常必要である。この場合は、情報信号を伝送する前に同期信号ωSを伝送することにより、1つの親無線機とN個の子無線機が時刻同期をとることができる。本実施例に拠れば回転偏波を用いる無線通信システムを示現することが出来る。
図10は本実施例の回転偏波を用いて送受信機が所望の偏波を使用できる無線機の構成を説明する図の他の例である。
回転偏波無線機108が図3の回転偏波無線機102と異なる点は、新たに第二のアナログ・デジタル変換機51と第三のアナログ・デジタル変換機53がデジタル回路ブロック19内に設置される点である。其其の入力は第三の乗算器21の分岐出力と第四の乗算器22の分岐出力であり、各々の出力は第二のデジタル信号バス52と第三のデジタル信号バス54により信号処理回路9に入力する。
本実施例に拠れば、実施例2と同様の動作において信号処理回路9は2系統の出力信号強度の差を知る事が出来るで、2系統の搬送波が同相となる条件を該2系統の出力信号強度の差で補正することが可能となり、該2系統の搬送波が同相となるタイミングを得るまでの時間を短縮できるので、無線通信システムのスループット向上に効果がある。
図11は本実施例の回転偏波を用いて送受信機が所望の偏波を使用できる無線機の構成を説明する図の他の例である。
回転偏波無線機109が図6の回転偏波無線機105と異なる点は、新たに信号処理回路9で制御される第一の送信出力スイッチ27と第二の送信出力スイッチ28を具備することである。
本実施例では、図1の実施例あるいは図9の実施例と同様の動作を行う際に、2系統の搬送波が同相と見なせるまでは空間に電力が放射されることを抑制する。本実施例によれば、他の無線機にデータを無線伝送する際に、該他の無線機に与える無線干渉を低減できるので、無線通信システムの通信品質向上に効果がある。
図12は本実施例の回転偏波を用いて送受信機が所望の偏波を使用できる無線機の構成を説明する図の他の例である。
回転偏波無線機110が図8の回転偏波無線機106と異なる点は、デジタル回路ブロック19内に新たに第一の重み定数切替器55と第二の重み定数切替器56と第一の重み定数アレイ57と第二の重み定数アレイ58を具備し、第一の重み定数切替器55と第二の重み定数切替器56が信号処理回路9で制御されることである。
第一の重み定数切替器55と第二の重み定数切替器56には夫々第一の重み定数アレイ57と第二の重み定数アレイ58が結合し、一組の同一の重み定数が第一の波形信号切替器15と第二の波形信号切替器の入力に結合する。
本実施例では、図8と同様な動作をする際に、事前に特定の重み定数を第一の重み定数アレイ57と第二の重み定数アレイ58から選択しておく。第一の重み定数アレイ57と第二の重み定数アレイ58に格納されている重み定数は、直流成分や周期性など無線伝播特性に対して異なる性質を示すものを用意する。
図8の実施例と同様な動作を行い搬送波の同期を取りデータを伝送した結果が満足でない場合、重み定数を変更して図8と同様な動作を行うことにより、データ伝播特性が改善する可能性がある。本実施例に拠れば、回転偏波無線通信システムが運用を行う無線環境に適応してデータ伝送品質を向上させることが可能となる。
図13は、回転偏波を用いて特定の伝播路の影響を低減し通信品質を向上させる無線システムを適用した昇降機監視・制御システムの構成図の例である。
本実施例の昇降機監視・制御システム1100は、昇降機が設置される建物1101の内部を複数の昇降カゴ1111が昇降する。建物1101の内部の床部および天井部には回転偏波機能を有する基地局回転偏波無線機1103と基地局2直交偏波一体アンテナ1102が結合し設置される。昇降カゴ1111の外部天井と外部床面には其々端末局2直交偏波一体アンテナ1112が設置され、高周波ケーブル1114を用いて無線端末機1113に結合している。
基地局回転偏波無線機1103と無線端末機1113は、建物1101の内部を無線伝送媒体とするので、建物1101の内壁および昇降機の外壁により電磁波は多重反射を受け、複数の無線端末機1113が送信する電磁波が基地局回転偏波無線機1103に到達する際の偏波は同一ではない。また、昇降カゴはその相対位置を変えるので、エレベータが停止する際に基地局回転偏波無線機1103と無線端末機1113が無線通信を行う場合に、そのつど複数の無線端末機1113から基地局回転偏波無線機1103に到達する電磁波の偏波は一般に変化する。
本実施例によれば、基地局回転偏波無線機1103と無線端末機1113が相対的位置を固定する時間内に、無線チャネル測定モードとデータ伝送モードの処理を行うことで、相対固定位置の予測が困難である昇降機システムにおいて、昇降機と固定設置の回転偏波無線機との間で信頼性高い無線通信を行うことができる。よって、昇降カゴ1111の制御・監視を建物1101より有線接続手段を用いずに遠隔で実施できる。この結果、ケーブル等の有線接続手段を削除可能で、同一の輸送能力をより小さい建物体積で実現でき、あるいは同一の建物体積で昇降機寸法を増大させることによる輸送能力向上を実現できる。
図14は、回転偏波を用いて特定の伝播路の影響を低減し通信品質を向上させる無線システムを適用した変電設備監視・制御システムの構成図の例である。
本実施例の変電設備監視・制御システム1200は、複数の変電機1201を具備し、変電機1201には無線端末機1203と無線端末機2直交偏波一体アンテナ1202が結合し設置される。複数の変電機1201の近傍に無線基地局1211が設営され、無線基地局1211はすでに説明した実施例の回転偏波送受信を行う回転偏波無線機1213と回転偏波無線機2直交偏波一体アンテナ1212が結合し設置される。
変電機の寸法は数mのオーダーであり無線機が使用する電磁波の周波数である数百MHzから数GHzに対応する波長に比べ圧倒的に大きい。このため、複数の変電機1201により電磁波は多重反射を受け、多重波干渉環境が形成され、各変電機1201に固定設置される無線端末機1203からの送信波は、異なる偏波で無線基地局1211に設置される回転偏波無線機1213に到達する。
本実施例によれば、回転偏波無線機1213と複数の無線端末機1203との間で信頼性の高い無線通信を行うことができる。よって、無線機を用いた無線接続手段を用いて、変電機1201の制御・監視を複数の無線基地局1211により有線接続手段を用いずに遠隔で実施可能となる。この結果、ケーブル等の有線接続手段を用いる場合に問題となる高圧誘導電力の問題を解決でき、ケーブルの敷設コストを削除できるので、変電機1201の制御・監視システムの安全性向上およびコスト削減に効果がある。
以上で説明した実施例の効果について纏める。現在主流である無線機はデジタル信号処理とアナログ信号処理を併用するPLLで搬送波周波数を生成する。PLLはフィードバックループにより生成周波数を決定する為に、そのループの収束時間はPLLデバイスの特性およびPLLデバイスが置かれた環境(温度、湿度、振動等)によりまちまちである。PLLデバイスが発生する信号は正弦波であり周期性を持つので、まちまちである該収束時間は該周期内においてランダムに分布すると考えられるから、夫々の系統中の異なるPLLに対して複数の起動・停止・再起動のプロセスを繰り返せば、同プロセスの中で適当な許容可能な位相誤差の範囲内で、両PLLが発生する正弦波あるいは余弦波の位相は一致すると考えられる。以上の動作プロセスを用いることにより2系統の搬送波の位相を実用上一致させることが出来、回転偏波を用いる通信で使用される他の周波数帯である偏波回転の周波数および情報信号の周波数における偏波の制御を商用のデジタル信号処理デバイスで実現することが出来る。