以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、以下の実施形態及び変形例は、本発明の一例であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
<第1実施形態>
本実施形態は、高周波等の電磁波を利用して被加熱物20を加熱する電磁波加熱装置10である。電磁波加熱装置10は、誘電加熱方式の加熱装置である。電磁波加熱装置10で利用される電磁波は、800MHz以上の高周波(例えばマイクロ波)である。
電磁波加熱装置10で加熱される被加熱物20は、高周波を吸収する物質(液体、固体など)を含む。被加熱物20は、厚みが薄い薄物であり、シート状又は膜状を呈する。被加熱物20は、例えば接着剤である。被加熱物20は、シート状で長尺の基材(搬送物)11の表面に塗布又は配置される。被加熱物20は、基材11と共に所定の方向(図1に示す矢印の方向)に搬送されて、高周波による強電界領域を通過する。その際、被加熱物20は、高周波を吸収することで加熱される。なお、被加熱物20は、シート状又は膜状ではなくてもよく、ある程度の厚みがあってもよい。また、被加熱物20が封筒などのシート体に設けられる接着剤の場合、シート体及び基材11とともに搬送されてもよい。
電磁波加熱装置10は、基材11の表面に被加熱物20を塗布又は配置する上流側装置(例えば、接着剤の塗布装置。図示省略)と、少なくとも上流側装置の入口から電磁波加熱装置10の出口までの処理区間において基材11を搬送する搬送機構12とともに、搬送式の処理システムを構成している。搬送機構12は、複数対のローラ13を用いて基材11及び被加熱物20を搬送する(図4参照)。以下では、基材11の搬送方向を「第1方向」と言い、第1方向に直交する方向を「第2方向」と言う(図1等参照)。また、電磁波加熱装置10において、カバー50側を「表側」と言い、基板23側を「裏側」と言う(図2等参照)。
[電磁波加熱装置の構成]
電磁波加熱装置10は、図1及び図2に示すように、高周波を発振する発振器21と、被加熱物20を加熱するための高周波を放射する放射アンテナ22と、片面に放射アンテナ22が設けられた基板23と、基板23の放射アンテナ22側を覆うカバー50と、発振器21を制御する制御装置75とを備えている。制御装置75についての詳細は後述する。
発振器21には、例えば半導体発振器が用いられる。基板23及びカバー50は、金属製である。基板23は接地されている。基板23及びカバー50は、放射アンテナ22が配置された内部空間40(図3参照)を外部から遮蔽する遮蔽部60を構成している。カバー50は、遮蔽部60の内部空間40を片側(上側)から区画する第1区画部を構成している。基板23は、第1区画部とは反対側(下側)から内部空間40を区画する第2区画部を構成している。基板23とカバー50の間には、平面視における遮蔽部60の外周部において周方向に連続する連続隙間70が形成されている。
放射アンテナ22は、インターディジタル型の回路により構成されている。放射アンテナ22は、第1櫛歯電極31と、第1櫛歯電極31に隙間を空けて噛み合う第2櫛歯電極32とを備えている。第1櫛歯電極31は、複数の歯部31aにより櫛状に形成されている。第2櫛歯電極32は、複数の歯部32aにより櫛状に形成されている。
第1櫛歯電極31は、真っすぐ延びる基部線路31bと、基部線路31bに付け根が接続された複数の歯部31aとを備えている。複数の歯部31aは、互いに平行に設けられている。各歯部31aは、基部線路31bから斜めに延びている。複数の歯部31aは、第1方向に等間隔で配列されている。
第2櫛歯電極32は、真っすぐ延びる基部線路32bと、基部線路32bに付け根が接続された複数の歯部32aとを備えている。基部線路32bは、第1櫛歯電極31の基部線路31bに平行である。複数の歯部32aは、互いに平行に設けられている。第2櫛歯電極32の歯部32aは、第1櫛歯電極31の歯部31aに平行である。各歯部32aは、基部線路32bから斜めに延びている。複数の歯部32aは、第1方向に等間隔で配列されている。
放射アンテナ22では、同一平面内において、複数の歯部31a,32aが、所定の方向(第1方向)に隙間を空けて配列されている。複数の歯部31a,32aが配列された領域(以下、「配列領域」と言う。)は、平面視で帯状の領域である。なお、第1の方向に配列される歯部(導体線路)31a,32aの合計本数は、3本以上であればよく、本実施形態のように10本以上としてもよい。
放射アンテナ22は、第1櫛歯電極31及び第2櫛歯電極32に加え、第1方向における配列領域の一端側で第1櫛歯電極31と第2櫛歯電極32を接続する第1接続線路41と、配列領域の他端側で第1櫛歯電極31と第2櫛歯電極32を接続する第2接続線路42とを備えている。放射アンテナ22は閉回路である。第1接続線路41には、発振器21からの高周波が入力される入力部30が接続されている。入力部30は、例えば同軸コネクタであり、同軸線路を介して発振器21に接続されている。入力部30は、基板23の裏側に設けられている。入力部30に高周波が入力される入力期間に、放射アンテナ22の対面領域(配列領域の上方の領域)では、被加熱物20を加熱するための強電界領域が形成される。強電界領域は、対面領域のうち放射アンテナ22の表側近傍に形成され、平行で厚みが薄い領域となる。
放射アンテナ22は、上述の入力期間に、発振器21が発振する高周波の周波数帯域で、高周波の共振が生じるように構成されている。放射アンテナ22では、各歯部31a,32aで高周波による共振が同時に生じる。歯部31aの長さL1と歯部32aの長さL2とは、伝送される高周波の波長(電気長)をλとした場合に、式1及び式2を用いて設計される(n1、n2は自然数)。隣り合う歯部31aと歯部32aの合計長さは、2m×λ/4で表される(mは自然数)。本実施形態では、歯部31a,32aの長さL1,L2は、ともにλ/4である。なお、第1櫛歯電極31の各歯部31aと第2櫛歯電極32の各歯部32aは、全て同じ長さにしているが、長さを互いに異ならせてもよい。
式1:L1=λ×(2n1-1)/4
式2:L2=λ×(2n2-1)/4
放射アンテナ22は、上述の入力期間に、第1方向に隣り合う歯部31a,32aの間で比較的強固な電界結合が生じるように構成されている。具体的に、放射アンテナ22では、複数の歯部31a,32aが第1方向に等間隔で配列され、第1方向に隣り合う歯部31a,32aの距離(隙間の寸法)は、歯部31a,32aの線路幅の5倍以下となっている。この距離は、歯部31a,32aの線路幅の3倍以下としてもよいし、1倍以下としてもよい。なお、第1櫛歯電極31の各歯部31aと第2櫛歯電極32の各歯部32aは、全て同じ線路幅にしているが、線路幅を互いに異ならせてもよい。
基板23は、例えば金属製の板材を用いて構成されている。基板23の平面形状は、略矩形である。基板23の長手方向は、第1方向に一致している。基板23の表側には、平面形状が略矩形の凹部24が形成されている。凹部24の長手方向も第1方向に一致している。凹部24には、放射アンテナ22が収容されている。凹部24では、例えば底面に設けられた誘電体(図示省略)によって、放射アンテナ22が浮いた状態で支持されている。放射アンテナ22は、基板23の金属部分から電気的に絶縁されている。基板23の表面のうち凹部24以外の領域は、放射アンテナ22を囲う平坦領域27となっている。平坦領域27の高さ位置は、例えば、放射アンテナ22の上面と同程度又は少し上側あるいは下側となっている。
なお、本実施形態では、基板23が、枠状の表側金属板23aと、表側金属板23aの裏面に重ねられた矩形状の裏側金属板23bとにより構成されているが、基板23は、片面に凹部24が形成された1枚の金属板により構成してもよい。また、平坦領域27の表面及び/又は放射アンテナ22の上面には、強電界による放電の発生を抑制するために、高周波を吸収するコーティング(例えば、誘電体のコーティング)を施してもよい。
カバー50は、金属製の筐体である。カバー50は、図2及び図3に示すように、表側から放射アンテナ22を覆う本体部51と、本体部51の全周囲を囲うように本体部51に一体化された外周部52と、本体部51の上面に接続されたダクト部53とを備えている。ダクト部53の外端部には、内部空間40を搬送される被加熱物20に空気を供給する送風機35が取り付けられている。
本体部51は、平面視において略矩形状を呈し、例えば凹部24と同程度の平面寸法を有する。本体部51は、凹部24の真上に位置している。本体部51は、下側が開放された箱状に形成されている。図4に示すように、本体部51の内部空間とダクト部53の内部空間とは、互いに繋がっており、送風機35から被加熱物20に向かう空気が流れる送風通路45となっている。
外周部52は、本体部51よりも外側の部分であり、平面視において略矩形の枠状を呈する。外周部52は、周方向に亘って、連続隙間70を介して基板23の平坦領域27に対面している。外周部52には、連続隙間70を通じた高周波の漏洩を防止するシールド構造55が全周囲に亘って設けられている。シールド構造55は、例えばチョーク構造55により構成されている。チョーク構造の構造や形状は、特に限定されないが、短絡型λ/4共振チョークを採用することができる。チョーク構造55は、断面視において渦巻状(又はリング形状)の空洞より構成され、放射アンテナ22寄りの位置に開口している。なお、チョーク構造55の寸法は、例えば、断面視の周長が「λ/2×a(aは自然数)」で、深さが「λ/4×b(bは自然数)」となる。λは、チョーク構造55における高周波の電気長である。
ダクト部53は、基材11の搬送方向(第1方向)において上流側(導入部71側)に配置されている。ダクト部53は、第1方向において下流側に向かって斜め下方に傾斜している。送風機35の送風方向は、第1方向の下流側を向いている。また、本体部51の内面には、複数の風向調節板68が設けられている。各風向調節板68は、例えばルーバーであり、風向を第1方向の下流側に向かせる。これらの構成により、送風機35から送風された空気は、第1方向の下流側に向かって流れ、連続隙間70のうち導出部72から主に外部に排出され、一部は側方隙間73,74から排出される。図4及び図5では白抜きの矢印が、送風機35から被加熱物20へ供給される空気の風向きを表す。図5では、カバー50のうちシールド部材46よりも上側部分の記載を省略している。なお、風向調節板68は省略してもよい。
送風通路45には、放射アンテナ22から放射される高周波から送風機35を遮蔽し、且つ、送風機35から被加熱物20に向かう空気を通過させる貫通孔46aが形成された金属製のシールド部材46が設けられている。シールド部材46は、板状に形成されている。シールド部材46は、送風通路45を上流側と下流側に区画するように(上下に区画するように)、本体部51に取り付けられている。シールド部材46には、複数の貫通孔46aが形成されている。各貫通孔46aは、放射アンテナ22から放射される高周波が通過できない大きさに形成されている。
[遮蔽部の構成]
図3及び図4等を参照しながら、遮蔽部60の構成について説明を行う。
遮蔽部60は、内部空間40に放射アンテナ22を収容する筐体であり、基板23及びカバー50により構成されている。遮蔽部60は、導入部71及び導出部72などを設けることで基材11の通過を許容しつつ、内部空間40が遮蔽空間となるように構成されている。内部空間40では、被加熱物20が放射アンテナ22の対面領域を通過するように、基材11が導入部71から導出部72に向かって搬送される。
遮蔽部60には、内部空間40を外部に連通させる隙間として、遮蔽部60の側部の全周囲に亘って連続する連続隙間70が形成されている。例えば、遮蔽部60では、カバー50が、基板23に対して浮いた状態になるように、支持部材(図示省略)により支持されている。
連続隙間70は、断面視において、基板23の平坦領域27の上面とカバー50の外周部52の下面とにより形成されている。断面視における連続隙間70の隙間寸法(平坦領域27と外周部52との距離)は、例えば遮蔽部60の全周囲に亘って一定である。連続隙間70の隙間寸法の下限値は、基材(搬送物)11が通過可能な寸法であればよい。連続隙間70の隙間寸法の上限値は、外部への高周波漏洩を実質的に阻止できればよく、例えば30mm以下であり、好ましくは10mm以下、さらに好ましくは5mm以下である。
連続隙間70は、被加熱物20を含む基材11が導入される導入部71と、基材11が導出される導出部72と、対面領域の両側方において基材11の搬送方向に延びる一対の側方隙間73,74とにより構成されている。連続隙間70は、平面視において放射アンテナ22の対面領域から見て、第1方向の上流側、第1方向の下流側、及び、第2方向の両側方の四方に形成されている。なお、本明細書において対面領域の「側方」とは、搬送方向に直交する方向を意味する。
具体的に、導入部71及び導出部72の各々は、基板23の平坦領域27の短辺部分と、その短辺部分に対面する外周部52との間に形成された隙間により構成されている。各側方隙間73,74は、基板23の平坦領域27の長辺部分と、その長辺部分に対面する外周部52との間に形成された隙間により構成されている。各側方隙間73,74は、導入部71と導出部72にそれぞれ繋がっている。
[処理システムの動作]
電磁波加熱装置10を含めた処理システムの動作について説明を行う。処理システムの電源をONにすると、電磁波加熱装置10及び搬送機構12の各電源がONになる。これにより、搬送機構12により基材11が搬送されると共に、発振器21から高周波が発振される。発振器21を制御する制御装置75の動作については後述する。基材11は、被加熱物20側を表側(図1において上側)に向けて、放射アンテナ22の表側近傍を搬送される。なお、基材11は、被加熱物20側を裏側に向けて搬送してもよい。
電磁波加熱装置10では、発振器21から出力された高周波が、第1櫛歯電極31の各歯部31a及び第2櫛歯電極32の各歯部32aに供給される。櫛歯電極31,32の各歯部31a,32aでは、高周波による共振が生じ、各歯部31a,32aの先端が、高周波による定在波の腹部となる。放射アンテナ22では、第1櫛歯電極31の複数の歯部31aにおける定在波の腹部が第1方向に一列に並び、第2櫛歯電極32の複数の歯部32aにおける定在波の腹部が第1方向に一列に並ぶ。
また、第1方向に隣り合う歯部31a,32aの間では、比較的強い電界結合が生じる。これにより、放射アンテナ22の対面領域では、基材11及び被加熱物20の搬送路を含むように強電界領域が形成される。強電界領域を通過する被加熱物20は、誘電成分や導電成分などが高周波により加熱される。これにより、被加熱物20は昇温を経て、所望の物理/化学変化(重合、アニール、乾燥、硬化等)が生じる。なお、基材11では、複数の被加熱物20が、基材11の搬送方向に間隔を空けて並べられている。複数の被加熱物20は、強電界領域を順番に通過するように間隔を空けて搬送される。
本実施形態では、放射アンテナ22の各歯部31a,32aで高周波の共振が生じ、強電界領域の電界強度が比較的高くなる。従って、共振が生じない場合に比べて、発振器21への投入電力を抑制することができる。また、本実施形態では、連続隙間70が遮蔽部60に形成されているため、基材11の通過を許容しつつ、外部への高周波の漏洩を抑制できる。また、シールド部材46を設けることで、送風通路45の入口を通じての高周波漏洩も抑制することができる。また、送風機35を設けているため、加熱により被加熱物20を乾燥させる場合に、被加熱物20から蒸発した有機溶剤や水分を遮蔽部60の外部に排出することができ、被加熱物20を効率的に乾燥させることができる。
[制御装置の構成及び動作]
制御装置75は、発振器21の発振周波数を制御するように構成されている。制御装置75は、図6に示すように、方向性結合器76と、位相差情報生成部77と、制御部78とを備えている。以下では、制御装置75について説明を行う前に、発振器21の構成について説明を行う。方向性結合器76は、発振器21から放射アンテナ22へ延びる伝送線路16に設けられ、反射波情報を抽出する情報抽出部に相当する。
発振器21は、制御電圧により発振周波数が変化する電圧可変発振器(VCO)21aと、電圧可変発振器21aの後段に設けられた増幅器21bと、電圧可変発振器21aと直流電源15との間に設けられた電圧調整回路21cとを備えている。電圧調整回路21cは、スイッチSW1,SW2のON/OFFにより、電圧可変発振器21aに印加する制御電圧を変化させることが可能に構成されている。
例えば、電圧調整回路21cは、第1スイッチSW1及び第2スイッチSW2に加え、インダクタLとコンデンサCを備えている。電圧調整回路21cでは、インダクタLの第1端子が直流電源15のプラス側に、コンデンサCの第1端子が直流電源15のマイナス側に、インダクタLの第2端子とコンデンサCの第2端子とが互いに接続されて電圧可変発振器21aに接続されている。第1スイッチSW1は、インダクタLの第1端子と直流電源15のプラス側との間に接続されている。第2スイッチSW2は、インダクタLの第1端子と直流電源15のプラス側とを結ぶ配線と、コンデンサCの第1端子と直流電源15のマイナス側とを結ぶ配線との間に接続されている。
第1スイッチSW1及び第2スイッチSW2のうち第1スイッチSW1だけをONに設定する第1状態では、コンデンサCの充電が行われる。第1状態では、制御電圧が徐々に増加し、その増加に伴って発振周波数が徐々に高くなる。また、第1スイッチSW1及び第2スイッチSW2のうち第2スイッチSW2だけをONに設定する第2状態では、コンデンサCの放電が行われる。第2状態では、制御電圧が徐々に低下し、その低下に伴って発振周波数が徐々に低くなる。また、第1スイッチSW1及び第2スイッチSW2の両方をOFFに設定する第3状態では、コンデンサCにおける第1端子と第2端子の電位差、及び、制御電圧は一定である。第3状態では、電圧可変発振器21aの発振周波数は変化しない。なお、電圧調整回路21cの構成は本実施形態に限定されない。
制御装置75の各要素について説明を行う。方向性結合器76は、伝送線路16に接続されている。方向性結合器76は、伝送線路16から、放射アンテナ22へ向かう高周波(入射波)の波形を表す入射波信号と、放射アンテナ22から戻ってくる高周波(反射波)の波形を表す反射波信号とをそれぞれ抽出するように構成されている。方向性結合器76は、位相差情報生成部77に接続された第1出力端子及び第2出力端子を有し、第1出力端子から入射波信号を位相差情報生成部77に出力し、第2出力端子から入射波信号を位相差情報生成部77に出力する。
なお、方向性結合器76から位相差情報生成部77へ入射波信号を伝送する線路には、入射波信号と反射波信号との位相のずれを補正する位相補正部99として、所定の位相だけ信号を遅延させる遅延線路(ケーブル)が設けられている。なお、遅延線路の代わりに、所定の位相だけ信号を遅延させる遅延素子を設けてもよい。
位相差情報生成部77は、入射波信号と反射波信号とを演算する演算処理により、入射波と反射波の位相差(θ1-θ2)を表す位相差信号を生成する機器である。位相差信号は、位相差情報に相当する。位相差情報生成部77には、位相検出器又は振幅・位相検出器を用いることができる。位相差情報生成部77は、例えば、式3に示す乗算を行った後に、発振周波数fに対応する角周波数ω及び時間関数tを含む成分(2倍調波成分(cos(2ωt+θ1+θ2)))を除去するフィルタ処理を行うことにより、式4に示す位相差信号PDSを生成して出力する。フィルタ処理によれば、直流分の位相差信号PDSが残る。位相差情報生成部77における位相差信号PDSの生成及び出力は、連続的に行われる。
[式3]
[式4]
式3において、NPAは入射波信号(Asin(ωt+θ1))を表し、NPBは反射波信号(Bsin(ωt+θ2))を表す。θ1は入射波信号NPAの位相、θ2は反射波信号NPBの位相を表す。
図6に示す位相差情報生成部77では、入射波信号が入力される第1ログアンプ81と、反射波信号が入力される第2ログアンプ82と、第1ログアンプ81から出力される入射波信号と第2ログアンプ82から出力される反射波信号とを加算する乗算器83(つまり、対数変換された信号の加算により、変換前の信号を乗算した結果を出力する乗算器)と、乗算器83の出力信号に対し上述のフィルタ処理を施すフィルタ部84とを備えている。乗算器83では、対数変換された入射波信号と、対数変換された反射波信号との加算(つまり、入射波信号と反射波信号との乗算)が行われる。フィルタ部84は、乗算結果から2倍周波数成分を除去するものである。フィルタ部84には、ローパスフィルタを用いることができる。なお、フィルタ部84は、デジタルフィルタとしてもよく、この場合は、AD変換器の後段に設ける。
制御部78は、位相差信号に基づいて、放射アンテナ22における共振周波数と発振器21の発振周波数との差が小さくなる発振周波数の調節方向を検出する方向検出動作と、方向検出動作の検出結果に基づいて発振周波数を調節する周波数調節動作とを行う、制御処理を繰り返し行うように構成されている。制御部78は、方向検出動作を行う検出部78aと、周波数調節動作を行う第1指令部78b及び第2指令部78cとを備えている。
制御部78は、例えば、マイコンにより構成することができる。この場合、制御部78には、制御用のプログラムがインストールされる。制御部78は、CPUが制御用プログラムを実行及び解釈することによって実現される機能ブロックとして、検出部78a、第1指令部78b及び第2指令部78cを有する。なお、制御部78は、アナログ回路により構成してもよい。
図7のフローチャートを参照して、制御部78の制御処理について説明を行う。なお、フローチャートでは、ステップST1~ST3が方向検出動作に相当し、ステップST4~ST6が周波数調節動作に相当する。また、制御部78は、所定の制御周期Sでフローチャートの制御処理を繰り返す。制御周期Sは、50ms以下に設定される。
検出部78aには、AD変換器を介して、位相差信号が連続的に入力される。ステップST1において、検出部78aは、デジタル変換された位相差信号に対し正規化処理等を行うことにより、例えば制御周期Sに等しいサンプリング周期で、位相差信号の電圧値を位相差電圧Vとして検出する。ステップST2では、検出部78aが、閾値(電圧=0)を含む閾値範囲(-Vc~Vc)と、位相差電圧Vとを比較する第1比較動作として、位相差電圧Vが閾値範囲の下限値-Vcを下回るか否かの判定を行う。閾値範囲は、入射波の位相と反射波の位相とが等しくなる状態の基準情報に相当する。
ここで、図8には、周波数に対する位相差電圧Vの変化を表す第1グラフG1と、周波数に対する反射波強度の変化を表す第2グラフG2とが重ねて記載されている。第1グラフG1は、発振周波数が共振周波数f0よりも小さい下位周波数域fbでは、位相差電圧Vがゼロより小さくなり、発振周波数が共振周波数f0よりも大きくなる上位周波数域feでは、位相差電圧Vがゼロより大きくなり、発振周波数が共振周波数f0と等しくなる周波数(つまり、放射アンテナ22においてインピーダンス整合が取れている周波数)では、位相差電圧Vがゼロになることを表している。
ステップST2において位相差電圧Vが閾値範囲の下限値-Vcを下回る場合、発振周波数は、共振周波数f0よりも小さい下位周波数域fbにある。この場合、ステップST4に移行して、検出部78aから指令を受けた第1司令部78bが、周波数調節動作として、第1スイッチSW1にON信号を出力する。この時、第2スイッチSW2がONになっていれば、検出部78aは、第2司令部78cに対し第2スイッチSW2をOFFに切り替えさせる。これにより、電圧調整回路21cは第1状態に切り替わり、電圧可変発振器21aへの制御電圧が徐々に増加していく。その結果、発振器21の発振周波数は、徐々に高くなっていき、共振周波数f0に近づいていく。ステップST4の実行後は、ステップST1に戻る。
一方、ステップST2において位相差電圧Vが閾値範囲の下限値-Vcを下回らない場合、ステップST3に移行して、検出部78aが、第2比較動作として、位相差電圧Vが閾値範囲の上限値Vcを上回るか否かの判定を行う。ステップST3において位相差電圧Vが閾値範囲の上限値Vcを上回る場合、発振周波数が、共振周波数f0よりも大きい上位周波数域feにある。この場合、ステップST5に移行して、検出部78aから指令を受けた第2司令部78cが、周波数調節動作として、第2スイッチSW2にON信号を出力する。この時、第1スイッチSW1がONになっていれば、検出部78aは、第1司令部78bに対し第1スイッチSW1をOFFに切り替えさせる。これにより、電圧調整回路21cは第2状態に切り替わり、電圧可変発振器21aへの制御電圧が徐々に低下していく。その結果、発振器21の発振周波数は、徐々に低くなっていき、共振周波数f0に近づいていく。ステップST5の実行後は、ステップST1に戻る。
ステップST3において位相差電圧Vが閾値範囲の上限値Vcを上回らない場合は、位相差電圧Vが閾値範囲内にある。この場合、ステップST6に移行して、検出部78aは、第1スイッチSW1がONになっていれば、第1司令部78bに対し第1スイッチSW1をOFFに切り替えさせ、第2スイッチSW2がONになっていれば、第2司令部78cに対し第2スイッチSW2をOFFに切り替えさせる。これにより、電圧調整回路21cは第3状態に切り替わり、制御電圧は一定となる。その結果、電圧可変発振器21aの発振周波数は、その時点の値にホールドされる。ステップST6の実行後は、ステップST1に戻る。
図9を参照して、共振周波数f0に発振周波数を追従させる様子について説明を行う。なお、以下では、ステップST1から始まって再び第1ステップST1に戻るまでの処理を1単位として、「n回目の処理」と表現する。
1回目の処理の時点で、発振周波数の値がfAになっているとする(図9(a)参照)。この状態で1回目の処理が行われると、位相差電圧は検出点Aの縦軸の値となり、位相差電圧が下限値-Vcを下回っていることが検出される。そのため、電圧調整回路21cが第1状態(第1スイッチSW1だけがON状態)に切り替えられ、発振周波数は徐々に増加し共振周波数f0に近づいていく。
2回目の処理の時点で、発振周波数の値がfBになっているとする(図9(b)参照)。この状態で2回目の処理が行われると、引き続き位相差電圧が下限値-Vcを下回っていることが検出される。電圧調整回路21cは第1状態に維持され、発振周波数はさらに共振周波数f0に近づいていく。3回目の処理の時点で、発振周波数の値がfCになっているとする(図9(c)参照)。この状態で3回目の処理が行われると、位相差電圧が上限値Vcと下限値-Vcの間にあることが検出される。この場合は、電圧調整回路21cが第3状態(両スイッチSW1,SW2ともOFF状態)に切り替えられ、発振周波数がホールドされる。
この状態から、図9(d)に示すように、被加熱物20などの影響により共振周波数f0が小さくなったとする(グラフG1,G2が左へ移動したとする)。発振周波数の値はfCのままである。この状態で4回目の処理が行われると、位相差電圧は検出点C’の縦軸の値となり、位相差電圧が上限値Vcを上回っていることが検出される。そのため、電圧調整回路21cが第2状態(第2スイッチSW2だけがON状態)に切り替えられ、発振周波数が徐々に低下し共振周波数f0に近づいていく。
5回目の処理の時点で、発振周波数の値がfDになっているとする(図9(e)参照)。この状態で5回目の処理が行われると、引き続き位相差電圧が上限値Vcを上回っていることが検出される。電圧調整回路21cは第2状態に維持され、発振周波数はさらに共振周波数f0に近づいていく。6回目の処理の時点で、発振周波数の値がfEになっているとする(図9(f)参照)。この状態で6回目の処理が行われると、3回目の処理と同様に、電圧調整回路21cが第3状態に切り替えられ、発振周波数がホールドされる。このように、制御処理では、共振周波数f0に対し追従するように発振周波数が調節される。
[第1実施形態の効果等]
本実施形態では、入射波信号と反射波信号を用いる演算処理により、入射波と反射波の位相差を表す位相差情報が生成される。そして、位相差情報と基準情報(閾値範囲)とに基づいて発振周波数の調節方向を検出し、その検出結果に基づいて発振周波数を制御する制御処理を繰り返し行うことで、共振周波数f0に対して発振周波数が追従する。ここで、上述の演算処理は、高速で行うことができる。つまり、位相差情報の生成は高速で行うことができる。また、基準情報の数値データは予め準備できるため、発振周波数の調節方向も高速で検出できる。本実施形態によれば、共振周波数に対して発振周波数を高速で追従させることが可能である。
ところで、本実施形態の処理システムでは、被加熱物20の搬送を行いながら、その搬送経路において被加熱物20の加熱を行う。この場合、被加熱物20の有無や、被加熱物20における水分量の経時変化、加熱により生じる蒸気などによって、共振周波数f0は逐次変化する。具体的に、被加熱物20は少量で軽負荷であり、内部空間40における共振特定モードを維持する環境においても、共振モード内で共振周波数f0は逐次変化する。例えば、被加熱物20に高周波が印加され、被加熱物20の昇温及び乾燥とともに比誘電率が低下するため、共振周波数f0は遷移する。
ここで、共振周波数f0の時に、被加熱物20に吸収される高周波エネルギーの割合(以下、「高周波エネルギー吸収率」という。)は最大となる。しかし、共振周波数f0は逐次変化する場合、従来技術では、共振周波数f0に対し発振周波数を高速に追従させることができず、高周波エネルギー吸収率を高い値に維持することは難しかった。また、開放空間への高周波が漏洩しやすくもなる。
それに対し、本実施形態では、共振周波数f0に対して発振周波数を高速で追従させることができるため、搬送式で被加熱物20の加熱を行う場合であっても、高周波エネルギー吸収率を高い値に維持することができ、さらに高周波漏洩も抑制できる。
なお、本願発明者は、(i)発振周波数を固定する場合は、電磁波加熱装置10の電源をONした直後に、特に高周波エネルギー吸収率が低下すること、及び、(ii)電磁波加熱装置10の電源のON時点から上述の周波数制御を実施することで、ON時点から高周波エネルギー吸収率が大きく改善されることを、制御周期30msの実験で確認している。
[第1実施形態の第1変形例]
本変形例では、制御部78が、基準情報と位相差情報とを用いて、共振周波数に対する発振周波数のずれ方向(偏移方向)を検出し、その検出結果に対し平均化処理を行うことにより、発振周波数の調節方向を検出する。平均化処理は、閾値範囲(-Vc~Vc)と位相差電圧Vとを比較する比較動作の結果に対し行われる。以下では、図10を参照しながら、実施形態と異なる点を中心に説明を行う。
本変形例では、第1比較動作において位相差電圧Vが閾値範囲の下限値-Vcを下回る場合に、検出部78aは、マイナス方向のずれと判定して判定結果(-X)を記録する。また、第2比較動作において位相差電圧Vが閾値範囲の上限値Vcを上回る場合に、プラス方向のずれと判定して判定結果(+X)を記録する。また、第2比較動作において位相差電圧Vが閾値範囲の上限値Vcを上回わらない場合に、位相のずれがない状態と判定して判定結果(±0)を記録する。
検出部78aは、所定の比較結果のサンプル数nで、時系列に並ぶ比較動作の判定結果を平均化する平均化処理を行う。式5は、m番目の判定結果D(m)から、(m+n-1)番目の判定結果D(m+n-1)に対する平均化処理に用いる式の一例である。Yは平均化処理の算出値を表す。
[式5]
検出部78aは、平均化処理の算出値Yがマイナスの場合に、第1司令部78bに対し、第1スイッチSW1にON信号を出力させる。検出部78aは、算出値Yがプラスの場合に、第2司令部78cに対し、第2スイッチSW2にON信号を出力させる。なお、図10には、位相差電圧Vの時系列変化を表すグラフG3と共に、比較動作の判定結果の時系列変化を表すグラフG4と、算出値Yの時系列変化を表すグラフG5とを重ねて記載している。本変形例によれば、平均化処理によりノイズを除去できるため、発振周波数の追従精度が向上する。そのため、高周波エネルギー吸収率が増加し、加熱に要する電力を低減させることができる。
なお、本変形例において、平均化処理の算出値Yの比較対象が、閾値範囲であってもよい。検出部78aは、算出値Yが閾値範囲の下限値-Vcを下回る場合に第1スイッチSW1にON信号を出力させ、算出値Yが閾値範囲の上限値Vcを上回る場合に第2スイッチSW2にON信号を出力させる。この場合、算出値Yを閾値(V=0)と比較する場合に比べて、ノイズを除去できるため、加熱に要する電力を低減させることができる。
また、制御部78は、被加熱物20の搬送速度に基づいて、平均化処理に用いる検出結果のサンプル数nを調節してもよい。搬送速度が速い場合は、共振周波数f0が細かく変動するため、搬送速度が速いほどサンプル数nを小さくして、きめ細かな追従制御を行う。なお、搬送速度に基づいて制御周期Sを調節してもよく、ノイズ除去のために搬送速度が速いほど制御周期Sを長くしてもよい。
[第1実施形態の第2変形例]
本変形例では、制御部78が、基準情報と位相差情報に基づいて、発振周波数の調節方向に加えて、発振周波数の調節量(又は偏移量)を検出する。この場合、発振周波数の調節量は、位相差電圧Vの大きさ(位相差情報と基準情報との差)に基づいて検出することができる。例えば位相差電圧Vとゼロとの差が大きいほど、発振周波数の調節量は小さくなる。本変形例では、制御部78により、調節量に応じて、調節方向への発振周波数の調節がなされることで、共振周波数f0に対して発振周波数をより高速に追従させることができる。
<第2実施形態>
本実施形態は、制御装置75の構成が第1実施形態とは異なる。以下では、第1実施形態と異なる点を中心に本実施形態について説明を行う。
発振器21は、図11に示すように、電圧可変発振器21aと、電圧可変発振器21aの後段に設けられたシンセサイザー21dと、シンセサイザー21dの後段に設けられた直交変調器21eと、直交変調器21eの後段に設けられた増幅器21bと、電圧調整回路21cとを備えている。本実施形態では、電圧調整回路21cがDAコンバータにより構成されている。
シンセサイザー21dは、電圧可変発振器21aから高周波fvcoが入力されると、その高周波の周波数fvcoにレジスタ値Rを加えた周波数f(f=fvco+R)の高周波を出力する。シンセサイザー21dには、レジスタ値Rを記録・更新するレジスタ(図示省略)が設けられている。本実施形態では、発振器21の発振周波数が、シンセサイザー21dから出力される高周波の周波数となる。
また、直交変調器21eは、シンセサイザー21dから出力される高周波を、第1I成分信号及び第1Q成分信号に変調して、増幅器21bに出力する。発振器21は、直交変調された高周波を発振する。
制御装置75は、方向性結合器76と、第1直交復調部91と、第2直交復調部92と、制御部78とを備えている。第1直交復調部91及び第2直交復調部92は、直交復調部を構成している。
第1直交復調部91は、入射波信号を、第1I成分信号と第1Q成分信号とに復調する。第2直交復調部92は、反射波信号を、第2I成分信号と第2Q成分信号とに復調する。各直交復調部91,92には、直交変調器21eと同期を取るための同期信号が、シンセサイザー21dから入力される。
制御部78は、復調後の入射波信号(第1I成分信号と第1Q成分信号)、及び、復調後の反射波信号(第2I成分信号と第2Q成分信号)に基づいて、入射波と反射波の位相差を表す位相差情報を生成する情報生成動作と、位相差情報に基づいて放射アンテナ22における共振周波数f0と発振器21の発振周波数との差が小さくなる発振周波数の調節方向を検出する方向検出動作と、方向検出動作の検出結果に基づいて発振周波数を調節する周波数調節動作と行う、制御処理を繰り返し行うように構成されている。制御部78は、例えば、マイコンにより構成することができる。制御部78には、制御用のプログラムがインストールされる。制御部78は、CPUが制御用プログラムを実行及び解釈することによって実現される機能ブロックとして、検出部87と指令部88とを有する。
検出部87は、情報生成動作、及び、方向検出動作を行う。検出部87は、位相情報生成部を兼ねている。検出部87では、第1I成分信号及び第1Q成分信号と、第2I成分信号及び第2Q成分信号とを用いる演算処理により、入射波と反射波の位相差(θ1-θ2)を表す位相差算出値PDCが、位相差情報として算出される。そして、位相差算出値PDCに基づいて発振周波数の調節方向が検出される。
検出部87は、例えば、式6及び式7に示す演算処理を行うことにより、入射波情報NPAと反射波情報NPBを算出した後、式8に示す演算(複素除算(共役複素数の乗算))を行うことにより、入射波情報NPAにより反射波情報NPBを除した値として位相差算出値PDCを算出する。
なお、式6及び式7において、第1I成分信号はAcos(ωt+θ1)で表され、第1Q成分信号はAisin(ωt+θ1)で表され、第2I成分信号はBcos(ωt+θ2)で表され、第2Q成分信号はBisin(ωt+θ2)で表される。α=ωt+θ1、β=ωt+θ2とする。
[式6]
[式7]
[式8]
図12のフローチャートを参照して、制御部78の動作について説明を行う。本実施形態では、被加熱物20の搬送を開始する前に、発振器21が発振可能な周波数帯域(以下、「発振可能帯域」と言う。)の中で、反射波強度が所定の判定レベルkより低くなる帯域を探索する探索制御を行った後、周波数制御を行う。
[探索制御]
図12(a)は探索制御のフローチャートである。探索制御では、ステップST11で、制御部78が、発振器21に初期周波数fi(例えば、発振可能帯域の下限値)を設定し、発振器21による高周波の発振を開始させる。次に、ステップST12で、制御部78は、発振器21に周波数掃引を行わせる。周波数掃引が行われる帯域幅(fi~fi+Δf)はレジスト値Rの初期値に等しい。
ここで、発振器21から高周波が発振されている期間は、第1直交復調部91にて復調された第1I成分信号及び第1Q成分信号と、第2直交復調部92にて復調された第2I成分信号及び第2Q成分信号とが、連続的な信号として検出部87に入力される。検出部87では、各I成分信号及び各Q成分信号がデジタル変換される。
ステップST13では、検出部87が、式6~式8の演算により、周波数掃引を行う期間に所定の算出周期で、位相差算出値PDCを算出する。位相差算出値PDCは、図13に示すスミスチャートの複素平面の座標値を表す。ステップST14は、周波数掃引が終了した後に行われる。ステップST14では、検出部87が、所定の算出周期で算出した複数の位相差算出値PDCにより表される座標値(以下、「算出座標値」と言う。)の中に、入射波の位相θ1と反射波の位相θ2とが等しくなる座標値(スミスチャートにおいて中心点P0を通る中心線P上の座標値)があるか否かを判定する。なお、図13では、中心線Pより上側の領域が0~π/2であり、中心線Pより下側の領域が-π/2~0である。
ステップST14において位相θ1と位相θ2が等しくなる座標値がない場合は、周波数掃引を行った帯域に共振周波数f0はないため、ステップST15でレジスト値Rに所定値Δf(上述の帯域幅)を加算した後に、ステップST12に戻る。レジスト値Rは、Δf×2となる。ステップST12では、制御部78が、直前に周波数掃引がなされた帯域の隣りの上位帯域(fi+Δf~fi+Δf×2)で、発振器21に周波数掃引を行わせる。
一方、ステップST14において位相θ1と位相θ2が等しくなる座標値がある場合は、周波数掃引を行った帯域に共振周波数f0があるため、ステップST16で、検出部87が、位相θ1と位相θ2が等しくなる共振周波数f0における反射係数B/Aが判定レベルkを下回るか否かの判定を行う。判定レベルkは、制御部78に予め記憶されている。
ステップST16において反射係数B/Aが判定レベルkを下回らない場合は、周波数掃引を行った帯域における共振周波数f0で反射波強度が小さくないため、ステップST15でレジスト値Rに所定値Δfを加算した後に、ステップST12に戻る。一方、ステップST16において反射係数B/Aが判定レベルkを下回る場合は、共振周波数f0で反射波強度が小さくなる帯域が見つかったため、ステップST17において周波数掃引を行った帯域の共振周波数f0を検出した後、探索制御を終了して周波数制御を開始する。
[周波数制御]
図12(b)は、周波数制御を構成する制御処理のフローチャートである。なお、フローチャートでは、ステップST23が情報生成動作に相当し、ST26~ST27が方向検出動作に相当し、ステップST28~ST29が周波数調節動作に相当する。
周波数制御では、ステップST21で、搬送機構12の電源がONに切り替えられて、被加熱物20の搬送が開始される。次に、ステップST22で、制御部78が、ステップST17で検出した共振周波数f0に、発振器21の発振周波数fを設定する。ステップST23では、検出部87が、その時点における第1I成分信号、第1Q成分信号、第2I成分信号及び第2Q成分信号を用いて、式6~式8の演算により、位相差算出値PDCを算出する。
次に、ステップST24で、検出部87が、反射係数B/Aが判定レベルkを下回るか否かの判定を行う。ステップST24において反射係数B/Aが判定レベルkを下回らない場合は、ステップST25でレジスト値Rに所定値Δfを加算した後に、ステップST22に戻る。これにより、共振周波数f0の変動により、反射波強度が低くなる帯域ではなくなった場合に、他の帯域に移動できる。
一方、ステップST24において反射係数B/Aが判定レベルkを下回る場合は、ステップST26で、検出部87が、位相差算出値PDCによる表される算出座標値と、スミスチャートの中心線Pを表す基準情報とを比較する第1比較動作として、算出座標値が正位相にあるか否か(つまり、θ1>θ2か否か)の判定を行う。
ステップST26においてθ1>θ2の条件を満たす場合、算出座標値(例えば、図13の位置A)が0~π/2にある。この場合、ステップST28に移行して、指令部88が、電圧調整回路21cを介して、所定の加算周波数p(例えば、p=1MHz)だけ発振周波数を増加させる。これにより、発振器21の発振周波数は、共振周波数f0に近づく。位相算出値Aは、矢印の方向に動く。ステップST28の実行後は、ステップST23に戻る。
一方、ステップST26においてθ1>θ2の条件を満たさない場合、ステップST27に移行して、検出部87が、第2比較動作として、算出座標値が-π/2~0にあるか否か(つまり、θ1<θ2か否か)の判定を行う。ステップST27においてθ1<θ2の条件を満たす場合、算出座標値(例えば、図13の位置B)が-π/2~0にある。この場合、ステップST29に移行して、指令部88が、電圧調整回路21cを介して、所定の減算周波数q(例えば、q=1MHz)だけ発振周波数を減少させる。これにより、発振器21の発振周波数は、共振周波数f0に近づく。位相算出値Bは、矢印の方向に動く。ステップST29の実行後は、ステップST23に戻る。
ステップST27においてθ1<θ2の条件を満たさない場合は、座標値が中心線P上にある。この場合、ステップST23に戻る。発振周波数は、そのままの値に維持される。
[第2実施形態の効果等]
本実施形態では、入射波信号と反射波信号を用いるデジタルの演算処理により、入射波と反射波の位相差を表す位相差情報が生成される。そして、位相差情報と基準情報(中心線Pの情報)とに基づいて発振周波数の調節方向を検出し、その検出結果に基づいて発振周波数を制御する制御処理を繰り返し行うことで、共振周波数f0に対して発振周波数が追従する。ここで、上述の演算処理は、高速で行うことができる。また、基準情報の数値データは予め準備できるため、発振周波数の調節方向も高速で検出できる。本実施形態によれば、共振周波数に対して発振周波数を高速で追従させることが可能である。
[第2実施形態の第1変形例]
本変形例では、図14に示すように、直交復調部が、1つの直交復調器91と、方向性結合器76から直交復調器91に対し、入射波信号が入力される第1期間と、反射波信号が入力される第2期間とを切り替える切替スイッチSW3とを備えている。切替スイッチSW3は、制御部78により所定の切替周期で切り替えられる。例えば、切替周期は、位相差情報の生成周期の半分以下である。
本変形例では、上述のステップST23の前半は、切替スイッチSW3が入射波信号側の接点に切り替えられて第1期間となる。直交復調器91では、入射波信号が、第1I成分信号及び第1Q成分信号に復調される。ステップST23の後半は、切替スイッチSW3が反射波信号側の接点に切り替えられて第2期間となる。直交復調器91では、反射波信号が、第2I成分信号及び第2Q成分信号に復調される。そして、検出部87が、式6~式8の演算処理により、位相差算出値PDCを算出する。本変形例によれば、直交復調器の構成を簡素化できる。
[第2実施形態の第2変形例]
本変形例では、図15に示すように、伝送線路16から入射波信号を抽出するためにカプラー93が設けられ、伝送線路16から反射波信号を抽出するためにアイソレータ94が設けられている。アイソレータ94にはサーキュレータ方式のものが用いられる。
カプラー93により抽出された入射波信号は、復調されることなく、制御部78に入力される。制御部78は、入射波信号に基づいて、増幅器21bで増幅後の入射波信号の強度Aを検出する。強度Aの情報は、上述の反射係数B/Aの算出に用いられる。
アイソレータ94により抽出された反射波信号は、アッテネータ95を経て直交復調器91に入力される。本変形例では、直交復調部が、1つの直交復調器91により構成されている。直交復調器91では、反射波信号が、第2I成分信号及び第2Q成分信号に復調される。直交復調器91により復調された第2I成分信号及び第2Q成分信号は、制御部78に入力される。
本変形例では、制御部78が、発振器21の高周波の出力タイミングにおける位相の入射波情報(発振情報由来の入射波情報)を用いて、位相差情報の生成を行うように構成されている。具体的に、制御部78は、発振情報由来の入射波情報の第1I成分情報及び第1Q成分情報と、直交復調器91で復調された第2I成分情報及び第2Q成分情報とを用いて、式6~式8の演算処理を行い、位相差算出値PDCを算出する。この演算処理にあたっては、制御部78は、演算処理の前に、入射波情報に対し反射波情報との位相のずれの補正を行う。この補正により、発振器21から出力される入射波の位相と、アイソレータ94により抽出される反射波信号との位相のずれが補正される。
[第2実施形態の第3変形例]
本変形例では、制御部78が、最初の被加熱物20が強電界領域を通過する初回加熱期間に、上述の周波数制御を行うと共に、該周波数制御の制御履歴情報として、発振周波数の調整履歴(各制御処理における調節方向)をメモリーに逐次記録し、その記録後に強電界領域を通過する被加熱物20を加熱する期間に、メモリーに記録した制御履歴情報を用いて周波数制御を行う。
なお、制御履歴情報として、位相差情報及び発振周波数から算出した共振周波数f0の履歴、又は、発振器21の発振周波数(周波数を表す電圧情報など)の履歴を記録してもよい。また、制御履歴情報を用いる周波数制御においては、履歴情報の発振周波数をそのまま適用してもよいが、履歴情報の発振周波数に対して、検出部78aにより逐次検出される位相差電圧Vを用いて補正を行った周波数を、発振器21に与えるようにしてもよい。
また、内部空間40に被加熱物20の有無を検出する物体検出センサ(例えば、受光素子、撮像素子)を設け、被加熱物20の加熱開始時間(例えば、放射アンテナ22の上流側の位置に被加熱物20が到達する時間)からの時間経過情報と併せて、制御履歴情報を記録してもよい。制御履歴情報を用いる周波数制御では、物体検出センサにより次の被加熱物20の加熱開始タイミングを検出し、その検出タイミングから周波数制御が開始される。
[第2実施形態の第4変形例]
本変形例では、放射アンテナ22に生じる浮遊リアクタンスによる位相のずれを補正するために、電磁波加熱装置10のセッティング段階で、反射係数(反射波電力)が最小値を示す周波数と位相角0°の周波数との差分を補正するための補正用位相角の分だけ、発振器21から発振される高周波に対し位相変調を行ってもよい。これにより、復調部で復調される反射波信号における共振インピーダンスの最小値と位相角0°とを一致させた状態で、電磁波加熱装置10を出荷することができる。
[第2実施形態の第5変形例]
本変形例では、各被加熱物20が、基材11に印刷されたインクであり、制御部78が、例えば、受光素子を用いた受光センサの測定値を用いて、各被加熱物20のインク量の検出を行う。インク量は、例えば、被加熱物20の通過期間における受光センサの測定値の積算値(光量の積算値)により検出することができる。
また、制御部78は、インク量の検出値VIに基づいて発振器21の出力制御を行う。ここで、位相差情報を用いることで、単位時間当たりに被加熱物20に吸収される高周波エネルギー量Pを推測可能である。制御部78は、被加熱物20の加熱開始からの経過時間によって位相差情報を積分することにより、被加熱物20に吸収される高周波エネルギー量Ptを推測する。そして、インク量の検出値VIと、高周波エネルギー量Ptとを比較することにより、発振器21の出力を増減させる。
例えば、式9の算出値Tが、予め定めた乾燥閾値を超えるタイミングで、発振器21の出力を停止させることができるし、放射アンテナ22の下流端に被加熱物20が到達するタイミングで、算出値Tが乾燥閾値となるように発振器21の出力を加減することもできる。なお、式9においてKは、被加熱物20に応じて設定する乾燥係数である。
[式9]
式9:T=(Pt×K/VI)
なお、発振器21の出力制御に、内部空間40の空気又は内部空間40から排出される空気の湿度を検出する湿度センサの計測値を用いてもよい。制御部78は、湿度センサの計測湿度が所定値より高い場合は、被加熱物20の乾燥が早期に進んでいると判断して、発振器21の出力を低下させ、湿度センサの計測湿度が所定値より低い場合は、被加熱物20の乾燥が遅れていると判断して、発振器21の出力を増加させる。
<第3実施形態>
本実施形態は、高周波等の電磁波を利用して、食品等の被加熱物20を加熱して解凍する電磁波加熱装置10である。電磁波加熱装置10は、図16に示すように、解凍室100を形成する箱状部材101と、高周波を発振する発振器21と、解凍室100内の被加熱物20を加熱するための高周波を放射する放射アンテナ22と、発振器21を制御する制御装置75とを備えている。箱状部材101には、空気の導入口及び排出口と、導入口から排出口に空気を送るファンが設けられている。解凍室100には、被加熱物(解凍対象物)20を載せる載置台102が設けられている。なお、放射アンテナ22は、発振器21から伝送される周波数帯域の高周波により共振が生じる共振構造を有するものであればよく、第1実施形態と同じアンテナを用いることができる。また、本実施形態では、第1実施形態の制御装置75を用いているが、第2実施形態の制御装置75を用いてもよい。
ここで、被加熱物20の解凍においては、固相か液相により高周波を吸収しやすい周波数が大きく異なる。そのため、被加熱物20の相変化に伴って共振周波数f0が逐次で変化する。従って、制御装置75により共振周波数f0に対して発振周波数を高速で追従させる周波数制御を行うことで、効率的に被加熱物20の加熱・解凍を行うことができる。
また、電磁波加熱装置10を解凍装置として用いる場合は、被加熱物20の相変化に伴って共振モードが変化する場合があり、この共振モードの変化は、被加熱物20の種類及び重量などによって異なる。そのため、制御装置75は、被加熱物20の種類及び重量などからなる被加熱物20の条件ごとに、解凍開始から終了までに被加熱物20の相変化に伴って遷移する複数の共振モードの各々について、共振周波数f0の時系列変化を共振周波数f0のパターンとして予め記録しておき、その記録したパターンを周波数制御に利用してもよい。例えば、共振モード毎に制御周期Sを予め決めておき、制御装置75は、被加熱物20の加熱時間の推移及び共振周波数f0の変化に基づいて、予め記録させた複数の共振パターンのうち何れの共振パターンであるかを検出し、検出した共振パターンに対応する制御周期Sで周波数制御を行ってもよい。また、共振モード毎に発振器21の発振出力を予め決めておき、制御装置75は、被加熱物20の加熱時間の推移及び共振周波数f0の変化に基づいて、予め記録させた複数の共振パターンのうち何れの共振パターンであるかを検出し、検出した共振パターンに対応する発振出力となるように発振器21を制御してもよい。
[その他の変形例]
上述の実施形態において、制御部78は、被加熱物20の加熱目標状態に対する、被加熱物20の加熱進行度合いを推測し、その推測結果に基づいて、閾値範囲(-Vc~Vc)の幅を調節する。この場合に、被加熱物20の加熱進行度合いは、上述の湿度センサの計測値の積算値、被加熱物20に吸収される高周波エネルギー量Pt、インクの検出量VIなどを用いて、推測値として算出できる。被加熱物20の加熱目標状態は、予め閾値として準備することができる。また、被加熱物20の加熱進行度合いの推測値が、小さい場合は、反射波強度が低くなる帯域ではないと判断して、他の帯域に移動してもよい。
上述の実施形態において、被加熱物20は、印刷装置で印刷されたインクである場合に、制御部78は、制御処理の制御パラメータの調節に、被加熱物20の印刷パターンの情報を用いてもよい。例えば、印刷パターンの解像度に応じて、制御周期S、閾値範囲(-Vc~Vc)の幅、又は、平均化処理のサンプル数nを増減させることができる。解像度が高い場合は、共振周波数f0が細かく変動する虞があるため、解像度が高いほど、制御周期Sは短く、閾値範囲の幅を狭く、サンプル数nは少なくする。
上述の実施形態では、各櫛歯電極31,32において複数の歯部31a,32aが基部線路31b,32bに対して斜めに設けられているが、複数の歯部31a,32aが基部線路31b,32bに対して垂直に設けられていてもよい。