JP7240086B2 - 水素脆化感受性を抑えた高硬度非磁性鋼 - Google Patents
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もっとも、高圧の水素環境下での使用が認められている鋼材として、SUS316、ASTMのXM19系があるが、ここにいう強度とはこれらを遥かに上回るものであり、高価なSUH660の時効硬化材と同等以上であることが必要となる。
また、SUH660のようにオーステナイト安定度は高くても強度が高い鋼材はあるものの、水素脆化感受性が高くなってしまうものであった。
第1の手段は、質量%で、C:0.15~0.80%、Si:0.15~0.80%、Mn:2.0~10.0%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:8.0~20.0%、Cr:8.0~18.0%、Mo:0.05~0.50%、Cu:0.20~5.00%、V:0.50~3.00%、Al:0.001~1.000%、N:0.015~0.100%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼であり、該鋼において
V/{4([C]+[N])}=0.5~1.0・・・(1)
{16([C]+[N])-3[V]}/([Cr]+0.9[Ni]-16[N])=0.10~0.30・・・(2)
551-462([C]+[N]-0.07[V])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])-18.5[Mo]≦-100・・・(3)
2.3[Ni]+3.0[Mo]+5.0[Al]+5.6[Cu]-[Cr]-[Si]-1.2[Mn]≧18.5・・・(4)
からなる(1)~(4)の式を満足し、
さらに、50nm以下のV(C、N)析出物が、3.5×10-2μm2中に50個以上、分散して存在することを特徴とする安価で優れた耐水素脆性、機械的性質および耐食性を兼備した高硬度非磁性鋼である。
V/{4([C]+[N])}=0.5~1.0・・・(1)
{16([C]+[N])-3[V]}/([Cr]+0.9[Ni]-16[N])=0.10~0.30・・・(2)
551-462([C]+[N]-0.07[V])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])-18.5[Mo]≦-100・・・(3)
2.3[Ni]+3.0[Mo]+5.0[Al]+5.6[Cu]-[Cr]-[Si]-1.2[Mn]≧18.5・・・(4)
からなる(1)~(4)式を満足し、
さらに、50nm以下のV(C、N)析出物が、3.5×10-2μm2中に50個以上、分散して存在することを特徴とする安価で優れた耐水素脆性、機械的性質および耐食性を兼備した水素脆化感受性を抑えた高硬度非磁性鋼である。
Cは、VおよびNと化合して、鋼中にV(C、N)[バナジウム炭窒化物]を生成して析出強化する元素である。このためには、Cは0.15%以上が必要である。一方、Cは0.80%より超えて含有されると、粗大なバナジウム炭窒化物を生成して鋼の耐食性を劣化する。そこで、Cは、0.15~0.80%とし、好ましくは、Cは0.20~0.60とする。
Sは、製鋼段階での脱酸材として添加される元素である。そこで、Siは鋼中に0.15%以上含有される。一方、Siは鋼中に0.80%を超えて含有されると、鋼の延性が劣化し、かつフェライト生成によって耐水素脆性が劣化する。そこで、Siは0.15~0.80%とする。
Mnは、γ組織を安定化する元素で、優れた耐水素脆性を有する元素である。そこで、Mnは2.0%以上が必要である。一方、Mnは10.0%を超えて含有されると、積層欠陥エネルギー(SFE)が低下するので平滑破面の発生が促進される。そこで、Mnは2.0~10.0%とし、好ましくは、Mnは2.0~9.0とする。
Pは、不純物元素であり、通常の精錬では含有されている元素である。しかし、Pは0.050%を超えて含有されると、得られた鋼の延性、靭性および熱間加工性が劣化する。そこで、Pは0.050%以下とする。
Sは、不純物元素であり、通常の精錬では含有されている元素である。しかし、Sは0.030%を超えて含有されると、得られた鋼の延性、靭性および熱間加工性を劣化する。そこで、Sは0.030%以下とする。
Niは、オーステナイトを安定化し、SFEを上昇させ、優れた耐水素脆性をもたらす元素である。そこで、Niは8.0%以上が含有される。しかし、Niが20.0%を超えて含有されるとその効果は飽和してくる。また、Niは高価な元素であるので高コストとなる。そこで、Niは8.0~20.0%とする。
Crは、耐食性を向上させる元素である。そこで、Crは8.0%以上が必要である。しかし、Crは18.0%を超えて含有されると、Crの耐食性の向上の効果は飽和に向かい、フェライト生成により耐水素脆性が劣化してくる。そこで、Crは8.0~18.0%とする。
Moは、耐食性が向上し、SFEを上昇させ、優れた耐水素脆性をもたらす元素である。そこで、Moは0.05%以上とする。しかし、Moは0.50%を超えて含有されると、高い元素であるので高コスト化する。そこで、Moは0.05~0.50%とする。
Cuは、オーステナイトを安定化し、SFEを上昇させ、優れた耐水素脆性をもたらす元素である。そこで、Cuは0.20%以上とする。しかし、Cuは5.00%を超えて含有されると、熱間加工性が劣化する。そこで、Cuは0.20~5.00%とする。
Vは、バナジウム炭窒化物[V(C,N)]の生成により鋼を析出強化する元素である。そこで、Vは0.50%以上を含有するものとする。しかし、Vは3.00%を超えて含有されると、粗大なバナジウム炭窒化物が生成され、耐食性が劣化し、かつVは高価な元素であるので高コスト化する。そこで、Vは0.50~3.00%とする。
Alは、精錬時の脱酸および鋼としてのSFEを上昇させる元素である。そこで、Alは0.001%以上とする。しかし、Alは1.000%を超えて含有されると、延性が低下され、フェライトの生成による耐水素脆性を劣化する。そこで、Alは0.001~1.000%とする。
Nは、上記したようにバナジウムと炭窒化物を生成して析出強化する元素である。そこで、Nは0.015%以上とする。しかし、Nは0.100%を超えて含有されると、粗大な炭窒化物生成により耐食性が劣化され、かつ窒化物の生成によって延性が低下される。そこで、Nは0.015~0.100%とする。
Bは、熱間加工性を改善する元素であって、必要に応じて添加できる。しかし、Bは0.010%を超えて含有されると、熱間加工性の改善効果は飽和し、熱間加工性が劣化する。そこで、Bは0.010%以下とする。
Caは、熱間加工性を改善する元素であって、必要に応じて添加できる。しかし、Caは0.050%を超えて含有されると、熱間加工性の改善効果は飽和し、熱間加工性が劣化する。そこで、Caは0.050%以下とする。
Mgは、熱間加工性を改善する元素であって、必要に応じて添加できる。しかし、Mgは0.050%を超えて含有されると、熱間加工性の改善効果は飽和し、熱間加工性が劣化する。そこで、Mgは0.050%以下とする。
(1)式の左項の値は右項の0.5~1.0の範囲にすることで、V、C、およびNを析出硬化に効果的に利用できる。すなわち、下限値の0.5未満ではC、Nの過剰により耐食性が悪化する。一方、上限値の1.0を超えるとVの過剰により高コストとなる。そこで、V/{4([C]+[N])}は0.5~1.0とする。
(2)式の左項の値は右項の0.10~0.30の範囲にすることで、C、N、V、Cr、Ni、およびNを鋼の硬さおよび耐食性の両立に効果的に利用できる。すなわち、下限値の0.10未満では、鋼が軟化しかつコストアップとなる。一方、上限値の0.30を超えると耐食性を悪化する。そこで、{16([C]+[N])-3[V]}/([Cr]+0.9[Ni]-16[N])=0.10~0.30とする。
(3)式は、耐水素脆性に優れるγ組織の安定度を表す指標である。(3)式の値が低いほどγ組織は安定しており、-100以下であればγ組織は安定する。そこで、551-462([C]+[N]-0.07[V])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])-18.5[Mo]≦-100とする。
(4)式は、加工組織の安定性の確保を示す式である。この式の値が18.5以上であると、高いSFEが確保されて局所すべりの発生が抑制され、その結果、平滑破面の発現が妨げられる。そこで、2.3[Ni]+3.0[Mo]+5.0[Al]+5.6[Cu]-[Cr]-[Si]-1.2[Mn]の値は18.5以上とする。
50nm以下のサイズのバナジウム炭窒化物が時効析出することで、鋼材に高い強度が付与され、この時効析出した析出物が水素トラップサイトとして働き、脆化を促進する水素を固定することで無害化する。そこで、50nm以下のV(C、N)析出物は、3.5×10-2μm2中に50個以上分散して存在することとする。
表1-1の発明例のNo.1~19と表1-2の比較例のNo.20~43の各試験片を透過型電子顕微鏡(TEM)およびエネルギー分散型X線分析(EDX)により析出物の同定と粒子径の測定を実施した。そして3.5×10-2μm2の範囲で観測された、長径50nm以下のV(C、N)の個数を測定し、その結果、50個以上の個数が確認された場合は表1-1及び表1-2の「析出物分散状態」の欄に「○」と表示し、50個未満の個数が確認された場合は「×」と表示した。
各種の調査に用いる試験片の作製における上記工程の、径15mmの棒鋼の鍛造において、問題なく加工できたものは、表2の「φ15鍛造」の欄に「○」と表示し、熱間加工性が悪く、割れが多発して加工を続行不可となったものは、表2の「φ15棒鋼」の欄に「×」と表示した。
表2における「時効硬さ(HRC)」の評価は、試験片のロックウェル硬さを測定して評価し、硬さが39HRC以上を「○」と表示し、硬さが35~38HRCを「△」と表示し、硬さが35HRC未満を「×」と表示した。
表2における引張特性の「引張強さ」の評価は、各種試験片から平行部の径6mmかつ長さ30mmの棒状の引張試験片に加工した後、大気中でストローク速度1.0mm/minで引張試験を実施し、引張強さが、1200MPa以上を「○」と表示し、1200MPa未満で1100MPa以上を「△」と表示し、1100MPa未満を「×」と表示した。
最初の断面積をS0とし、破断後の最小断面積をSとすると、絞りは、
100(S0-S)/S0
で得られる値であり、「%」で表わす。
このようにして測定した絞りは、表2の「絞り」の欄に30%以上を「○」と表示し、絞りが25~29%を「△」と表示し、25%未満を「×」と表示して表示した。
表2における「平滑破面率」の評価は
上記の引張特性評価後の破断試料の断面中心部を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察撮影する。得られた画像からディンプルが認められない箇所を平滑破面と定義し、その2次元的な面積を観察視野面積(50,000μm2)で除した値を平滑破面率として算出した。
表2において「平滑破面率」が13%以下を「○」と表示し、「平滑破面率」が14~17%を「△」と表示し、18%以上を「×」とした。
表2における「耐食性」の評価として、上記の15mmの各種試験片を径12mmかつ長さ21mmの棒状の腐食試験片へ加工した後、塩水噴霧試験(50ppmの希薄塩水を35℃で16hr噴霧)を実施した後、試験片の表面を観察し、長径1mm以上の点状錆の数が20個以下のものを、「耐食性評価」の欄に「○」と表示し、21個以上のものを「×」と表示した。
表2における「耐水素脆性」の評価として、
(1)上記した引張特性の評価と同様の試験片を用い、端部にNi線を電気溶接し、平行部以外を樹脂被膜で覆って水素の浸入を遮断した。この試験片を、0.01Nの硫酸と0.5g/lのチオシアン酸アンモニウムからなる溶液内に浸漬し、陰極チャージ法にて、68A/mm2、30℃、24hrの条件で、水素チャージを行った。
(2)水素チャージ後、直ちに上記の引張特性の評価と同様の試験を実施して絞りを評価し、表2の「水素チャージ後絞り(%)」の欄に、絞りの値を%で示した。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.15~0.80%、Si:0.15~0.80%、Mn:2.0~10.0%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:8.0~20.0%、Cr:8.0~18.0%、Mo:0.05~0.50%、Cu:0.20~5.00%、V:0.50~3.00%、Al:0.001~1.000%、N:0.015~0.100%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼であり、該鋼において
V/{4([C]+[N])}=0.5~1.0・・・(1)
{16([C]+[N])-3[V]}/([Cr]+0.9[Ni]-16[N])=0.10~0.30・・・(2)
551-462([C]+[N]-0.07[V])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])-18.5[Mo]≦-100・・・(3)
2.3[Ni]+3.0[Mo]+5.0[Al]+5.6[Cu]-[Cr]-[Si]-1.2[Mn]≧18.5・・・(4)
からなる(1)~(4)の式を満足し、
さらに、50nm以下のV(C、N)析出物が、3.5×10-2μm2中に50個以上、分散して存在することを特徴とする安価で優れた耐水素脆性、機械的性質および耐食性を兼備した高硬度非磁性鋼。 - 質量%で、C:0.15~0.80%、Si:0.15~0.80%、Mn:2.0~10.0%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Ni:8.0~20.0%、Cr:8.0~18.0%、Mo:0.05~0.50%、Cu:0.20~5.00%、V:0.50~3.00%、Al:0.001~1.000%、N:0.015~0.100%を含有し、さらに、B:0.010%以下、Ca:0.050%以下、Mg:0.050%以下の3種から選択したいずれか1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなることを特徴とする鋼であり、該鋼において、
V/{4([C]+[N])}=0.5~1.0・・・(1)
{16([C]+[N])-3[V]}/([Cr]+0.9[Ni]-16[N])=0.10~0.30・・・(2)
551-462([C]+[N]-0.07[V])-9.2[Si]-8.1[Mn]-13.7[Cr]-29([Ni]+[Cu])-18.5[Mo]≦-100・・・(3)
2.3[Ni]+3.0[Mo]+5.0[Al]+5.6[Cu]-[Cr]-[Si]-1.2[Mn]≧18.5・・・(4)
からなる(1)~(4)式を満足し、
さらに、50nm以下のV(C、N)析出物が、3.5×10-2μm2中に50個以上、分散して存在することを特徴とする安価で優れた耐水素脆性、機械的性質および耐食性を兼備した水素脆化感受性を抑えた高硬度非磁性鋼。
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JP6320202B2 (ja) * | 2014-07-02 | 2018-05-09 | 山陽特殊製鋼株式会社 | 耐水素脆化性の高強度鋼 |
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