JP7231436B2 - 有機電界発光素子 - Google Patents

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Description

本発明は、有機電界発光素子に関する。より詳しくは、電子機器の表示部等の表示装置や照明装置等としての利用可能な有機電界発光素子に関する。
薄く、柔軟でフレキシブルな表示用デバイスや照明に適用できる新しい発光素子として有機電界発光素子(有機EL素子)が期待されている。
有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に発光性有機化合物を含んで形成される発光層を含む1種または複数種の層を挟んだ構造を持ち、陽極から注入されたホールと陰極から注入された電子が再結合する時のエネルギーを利用して発光性有機化合物を励起させ、発光を得るものである。有機電界発光素子は電流駆動型の素子であり、流れる電流をより効率的に活用するため、素子構造や、素子を構成する層の材料について種々検討されており、素子を構成する積層構造中の、陽極と発光層との間及び陰極と発光層とに金属酸化物層を有する有機無機ハイブリッド型の電界発光素子(特許文献1参照)等も報告されている。また、有機電界発光素子の電極については従来、透明電極としてITO(酸化インジウム錫)が広く使用されているが、それ以外の材料を使用することも報告されており、陰極や陽極として誘電体層で金属を挟んだ構造の多層電極を用いた有機電界発光素子(非特許文献1参照)が報告されている。
特開2014-36052号公報
ドンユン キム(Dong-Young Kim)外4名、「マテリアルズ ビューズ(Materials Views」、2015年、第25号、p7145-7153
従来、有機電界発光素子の透明電極として広く用いられてきたITOは、エッチングのし易さ、耐熱性、耐アルカリ性、耐薬品性において優れるが、導電性が低く、またフレキシビリティが低いという課題がある。このため、ITOに比べて導電性やフレキシビリティに優れ、更に透明性にも優れた電極を用いた有機電界発光素子を開発する工夫の余地があった。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、ITOに比べて導電性やフレキシビリティに優れ、更に透明性にも優れた電極を用いた有機電界発光素子を提供することを目的とする。
本発明者は、ITOに比べて導電性やフレキシビリティに優れ、更に透明性にも優れた電極を用いた有機電界発光素子について種々検討し、有機電界発光素子を、陰極側の積層構造の末端が基板上に形成され、かつ、陰極側の積層構造の末端から、表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物の層、金属単体の層、金属酸化物の層、有機化合物層をこの順に有する構造とすると、ITOに比べて導電性やフレキシビリティに優れ、更に透明性にも優れた電極を有する素子とすることができることを見出し、本発明に到達したものである。
すなわち本発明は、陽極と陰極と有機化合物層とを含む複数の層が積層された構造を有する有機電界発光素子であって、該有機電界発光素子は、陰極側の積層構造の末端が基板上に形成され、陰極側の積層構造の末端から、表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物の層、金属単体の層、金属酸化物の層、有機化合物層をこの順に有することを特徴とする有機電界発光素子である。
上記表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物は、Zn、Mo、Ti、Mg、Ce、Al、Fe、及び、Zrから選択されるいずれかの金属元素の酸化物及び/又は硫化物であることが好ましい。
上記金属単体の層は、Ag、Al、Au、Cu、W、Co、Ni、Zn、K、Li、Fe、Pt、Sn、Cr、Pb、Ti、Mn、及び、Pdからなる群より選択される金属単体の層であることが好ましい。
上記金属酸化物の層は、仕事関数が3.5以上の金属酸化物の層であることが好ましい。
上記有機電界発光素子は更に、陽極側の積層構造の末端から、金属酸化物の層、金属単体の層、表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物の層、有機化合物層をこの順に有することが好ましい。
上記陽極側の金属単体の層は、Ag、Al、Au、Cu、W、Co、Ni、Zn、K、Li、Fe、Pt、Sn、Cr、Pb、Ti、Mn、及び、Pdからなる群より選択される金属単体の層であることが好ましい。
上記陽極側の金属酸化物の層は、仕事関数が3.5以上の金属酸化物の層であることが好ましい。
上記有機電界発光素子は、発光領域の550nmにおける光線透過率が50%以上であることが好ましい。
上記有機電界発光素子は、さらに、発光領域の450nmにおける光線透過率が50%未満であることが好ましい。
上記有機電界発光素子は、さらに、発光領域の650nmにおける光線透過率が50%以上であることが好ましい。
本発明はまた、本発明の有機電界発光素子を備えることを特徴とする表示装置でもある。
本発明はまた、本発明の有機電界発光素子を備えることを特徴とする照明装置でもある。
本発明の有機電界発光素子は、ITOに比べて導電性やフレキシビリティに優れ、更に透明性にも優れた電極を用いることで、ITOを用いた素子に比べて低電圧で駆動でき、フレキシビリティにも優れた素子であるため、携帯電話等の携帯型端末の表示装置や照明装置として好適に用いることができる。
本発明の有機電界発光素子の積層構造の一例を示した概略図である。 実施例4で作製した素子4及び実施例1で作製した素子1の実物の写真である。 実施例4で作製した素子4及び実施例1で作製した素子1の可視光透過率測定結果を示した図である。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
本発明の有機電界発光素子は、陰極側の積層構造の末端が基板上に形成された、いわゆる逆構造の有機電界発光素子であって、陰極側の積層構造の末端から、表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物の層、金属単体の層、金属酸化物の層、有機化合物層をこの順に有することを特徴とする。これらの層をこの順に隣接して有することで、以下のような効果が得られる。
電極として金属単体を用いることで、ITOを電極として用いた場合に比べて低電力で素子を駆動させることができる。また、本発明の素子は陰極側の積層構造の末端が基板上に形成された逆構造の素子であるから、素子を作製する際、陰極側では金属単体の層は、表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物の層上に形成されることになる。このような表面エネルギーの高い金属化合物層上に金属単体の層を形成すると均一な薄膜を形成することができ、また表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物の層の存在により金属単体の層を薄くしても導電性を高くできる。このため、ITOを電極として用いた場合に比べて電極である金属単体の層を薄くすることができ、これにより、フレキシビリティに優れた電極とすることができる。更に、金属単体の層を屈折率の高い層で挟むことで金属単体の層の光の反射を抑え、透明性の高い電極とすることができる。
本発明の有機電界発光素子の積層構造の末端を形成する表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物は、中でも、表面エネルギーが65dyne/cm以上の金属化合物が好ましく、より好ましくは、表面エネルギーが70dyne/cm以上の金属化合物である。このような金属化合物を用いることで、該金属化合物の層上に金属単体の層を形成する場合に、薄膜の層をより均一に形成することができる。
本発明の有機電界発光素子において、表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物は、Zn、Mo、Ti、Mg、Ce、Al、Fe、及び、Zrから選択されるいずれかの金属元素の酸化物及び/又は硫化物であることが好ましい。このような金属化合物は薄膜の形成がしやすく、また入手も容易であるため、有機電界発光素子の材料として好適である。より好ましくは、Zn、Mo、Ti、及び、Mgから選択されるいずれかの金属元素の酸化物及び/又は硫化物であり、更に好ましくは、Zn、Moから選択されるいずれかの金属元素の酸化物及び/又は硫化物である。
上記表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物の層の平均厚さは、1~1000nmであることが好ましい。より好ましくは、5~100nmであり、更に好ましくは、10~50nmである。
上記有機電界発光素子の陰極となる金属単体の層は、Ag、Al、Au、Cu、W、Co、Ni、Zn、K、Li、Fe、Pt、Sn、Cr、Pb、Ti、Mn、及び、Pdからなる群より選択される金属単体の層であることが好ましい。これらの金属単体を用いることで、本発明の有機電界発光素子の駆動電圧をより低くすることができる。より好ましくは、Ag、Al、Au、Cu、W、Co、Ni、及び、Znからなる群より選択される金属単体の層であり、更に好ましくは、Ag、Al、Au、及び、Cuからなる群より選択される金属単体の層である。
上記有機電界発光素子の陰極となる金属単体の層の平均厚さは、1~100nmであることが好ましい。より好ましくは、5~50nmであり、更に好ましくは、7~25nmである。
上記陰極側の積層構造を構成する金属酸化物の層は、仕事関数が3.5以上の金属酸化物の層であることが好ましい。このような金属酸化物を用いることで、電極の透明性と電子注入性を兼ね備えることができる。より好ましくは、仕事関数が4.0以上の金属酸化物の層であり、更に好ましくは、仕事関数が4.0以上、5.0以下の金属酸化物の層である。
上記仕事関数が3.5以上の金属酸化物としては、ZnO、MgO、MoO、TiO、Al、FeO、ZrO、ITO(錫ドープ酸化インジウム)、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化インジウム)等が挙げられる。この中でも好ましくは、ZnO、MgO、MoO、TiO、ZrO、ITO、ATO、IZO、AZO、FTO等の仕事関数が4.0以上の金属酸化物であり、より好ましくは、ZnO、MgO、ITO、ATO、IZO、AZO、FTO等の仕事関数が4.0以上、5.0以下の金属酸化物である。
上記陰極側の積層構造を構成する金属酸化物の層の平均厚さは、1~100nmであることが好ましい。より好ましくは、1~50nmであり、更に好ましくは、1~25nmである。
本発明の有機電界発光素子は更に、陽極側の積層構造の末端から、金属酸化物の層、金属単体の層、表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物の層、有機化合物層をこの順に有するものであってもよく、このような構造を有することは本発明の有機電界発光素子の好適な実施形態の1つである。陽極側にもこれらの層を隣接して有することで、素子をより駆動電圧が低く、透明性の高い素子とすることができる。
陽極側にこのような積層構造を有する場合、該積層構造を構成する表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物の層、陽極側の金属単体の層(陽極の層)の具体例や好ましい構造、平均厚さは上述した陰極側の積層構造における表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物の層、陰極側の金属単体の層(陰極の層)のものと同様である。
本発明の有機電界発光素子が陽極側に上述した積層構造を有する場合、陽極側の金属酸化物の層は、仕事関数が3.5以上の金属酸化物の層であることが好ましい。このような金属酸化物を用いることで、電極の透明性と正孔注入性を兼ね備えることができる。より好ましくは、仕事関数が4.0以上の金属酸化物の層であり、更に好ましくは、仕事関数が4.5以上の金属酸化物の層である。
上記仕事関数が3.5以上の金属酸化物としては、ZnO、MgO、MoO、TiO、Al、FeO、ZrO、ITO、ATO、IZO、AZO、FTO等が挙げられる。この中でも好ましくは、ZnO、MgO、MoO3、TiO、ZrO、ITO、ATO、IZO、AZO、FTO等の仕事関数が4.0以上の金属酸化物であり、より好ましくは、MgO、MoO、TiO等の仕事関数が4.5以上の金属酸化物である。
上記陽極側の金属酸化物の層の平均厚さは、1~100nmであることが好ましい。より好ましくは、1~50nmであり、更に好ましくは、1~25nmである。
本発明の有機電界発光素子が陽極側に上述した積層構造を有しない場合、陽極側の積層構造の末端に陽極を有し、陽極と有機化合物層との間に金属酸化物層を有する構造であることが好ましい。
この場合、陽極としては、Au、Ag、Al等が挙げられ、陽極の平均厚さは、特に限定されないが、10~1000nmであることが好ましく、より好ましくは、30~150nmである。
陽極と有機化合物層との間に金属酸化物層を構成する金属酸化物としては、上記仕事関数が3.5以上の金属酸化物が挙げられ、金属酸化物層の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、より好ましくは、5~50nmである。
以下においては、本発明の有機電界発光素子の有機化合物層について説明する。
本発明の有機電界発光素子における有機化合物層は発光層を含む層であり、更に電子輸送層や正孔輸送層を含んでいてもよい。有機化合物層が電子輸送層を有するものである場合、発光層の陰極側に隣接して電子輸送層を有することになり、有機化合物層が正孔輸送層を有するものである場合、発光層の陽極側に隣接して正孔輸送層を有することになる。
本発明の有機電界発光素子において、発光層を形成する材料としては、発光層の材料として通常用いることができるいずれの化合物も用いることができ、低分子材料であっても高分子材料であってもよく、これらを混合して用いてもよい。
なお、本発明において低分子材料とは、高分子材料(重合体)ではない材料を意味し、分子量が低い有機化合物を必ずしも意味するものではない。
上記発光層を形成する高分子材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ-フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキル,フェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ-フェンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)、ポリ(2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω-ビス[N,N’-ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]-ポリ[9,9-ビス(2-エチルヘキシル)フルオレン-2,7-ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9-ジオクチル-2,7-ジビニレンフルオレニル-オルト-コ(アントラセン-9,10-ジイル)のようなポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレン)(RO-PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物;更には特願2010-230995号、特願2011-6457号に記載のホウ素化合物系高分子材料等が挙げられる。
上記発光層を形成する低分子材料としては、例えば、配位子に2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))、8-ヒドロキシキノリン アルミニウム(Alq)、トリス(4-メチル-8キノリノレート) アルミニウム(III)(Almq)、8-ヒドロキシキノリン 亜鉛(Znq)、(1,10-フェナントロリン)-トリス-(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-ブタン-1,3-ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィン プラチナム(II)のような各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物;ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物;フェナントレンのようなフェナントレン系化合物;クリセン、6-ニトロクリセンのようなクリセン系化合物;ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物;コロネンのようなコロネン系化合物;アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物;ピレンのようなピレン系化合物;4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)のようなピラン系化合物;アクリジンのようなアクリジン系化合物;スチルベンのようなスチルベン系化合物;2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物;ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物;ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物;2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物;ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物;ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物;クマリンのようなクマリン系化合物;ペリノンのようなペリノン系化合物;オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;アルダジン系化合物;1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物;キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物;ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物;2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレンのようなスピロ化合物;フタロシアニン(HPc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物;更には特開2009-155325号公報および特願2010-230995号、特願2011-6458号に記載のホウ素化合物材料等が挙げられる。また、市販品であるKHLHS-04、KHLDR-03等も用いることができる。
上記発光層の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましい。より好ましくは、20~100nmであり、更に好ましくは、40~100nmである。
本発明の有機電界発光素子が、電子輸送層を有する場合、その材料としては、電子輸送層の材料として通常用いることができるいずれの化合物も用いるができ、これらを混合して用いてもよい。
電子輸送層の材料として用いることができる化合物の例としては、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPhB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ))、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq)などに代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中でも、Alqのような金属錯体、TmPyPhBのようなピリジン誘導体が好ましい。
本発明の有機電界発光素子は、更に電子注入層として、窒素含有化合物から形成される窒素含有膜からなる層を有していてもよい。有機電界発光素子が電子輸送層とともにこのような電子注入層を有する場合、電子輸送層に隣接してこのような電子注入層を有することになり、電子輸送層を有さない場合には発光層に隣接してこのような電子注入層を有することになる。
窒素含有膜からなる層を形成する窒素含有化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドンのようなピロリドン類、ポリピロールのようなピロール類又はポリアニリンのようなアニリン類、又はポリビニルピリジンのようなピリジン類、同様に、ピロリジン類、イミダゾール類、ピペリジン類、ピリミジン類、トリアジン類などの含窒素複素環を有する化合物や、アミン化合物が挙げられる。
上記窒素含有化合物としてはまた、窒素含有率の高い化合物が好ましく、ポリアミン類が好ましい。ポリアミン類は、化合物を構成する全原子数に対する窒素原子数の比率が高いため、有機電界発光素子を高い電子注入性と駆動安定性を有するものとする点から適している。
ポリアミン類としては、塗布により層を形成することができるものが好ましく、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。低分子化合物としては、ジエチレントリアミン、ペンタメチルジエチレントリアミンのようなポリアルキレンポリアミンが好適に用いられ、高分子化合物では、ポリアルキレンイミン構造を有する重合体が好適に用いられる。特にポリエチレンイミンが好ましい。中でも、窒素含有化合物が、ポリエチレンイミン又はジエチレントリアミンであることは本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、ここで低分子化合物とは、高分子化合物(重合体)ではない化合物を意味し、分子量の低い化合物を必ずしも意味するものではない。
上記窒素含有膜の平均厚さは、特に限定されないが、0.1~100nmであることが好ましい。より好ましくは、0.5~50nmであり、更に好ましくは、1.0~20nmである。
本発明の有機電界発光素子が、正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層として用いる正孔輸送性有機材料には、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
p型の高分子材料(有機ポリマー)としては、例えば、ポリアリールアミン、フルオレン-アリールアミン共重合体、フルオレン-ビチオフェン共重合体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられる。
またこれらの化合物は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
上記p型の低分子材料としては、例えば、1,1-ビス(4-ジ-パラ-トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1’-ビス(4-ジ-パラ-トリルアミノフェニル)-4-フェニル-シクロヘキサンのようなアリールシクロアルカン系化合物、4,4’,4’’-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、TPTEのようなアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’-テトラフェニル-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(パラ-トリル)-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(メタ-トリル)-メタ-フェニレンジアミン(PDA)のようなフェニレンジアミン系化合物、カルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-フェニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物、スチルベン、4-ジ-パラ-トリルアミノスチルベンのようなスチルベン系化合物、OZのようなオキサゾール系化合物、トリフェニルメタン、m-MTDATAのようなトリフェニルメタン系化合物、1-フェニル-3-(パラ-ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物、ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物、トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、イミダゾールのようなイミダゾール系化合物、1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ジ(4-ジメチルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アントラセン、9-(4-ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなアントラセン系化合物、フルオレノン、2,4,7-トリニトロ-9-フルオレノン、2,7-ビス(2-ヒドロキシ-3-(2-クロロフェニルカルバモイル)-1-ナフチルアゾ)フルオレノンのようなフルオレノン系化合物、ポリアニリンのようなアニリン系化合物、シラン系化合物、1,4-ジチオケト-3,6-ジフェニル-ピロロ-(3,4-c)ピロロピロールのようなピロール系化合物、フローレンのようなフローレン系化合物、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリンのようなポルフィリン系化合物、キナクリドンのようなキナクリドン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t-ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニンのような金属または無金属のナフタロシアニン系化合物、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン、N,N,N’,N’-テトラフェニルベンジジンのようなベンジジン系化合物等が挙げられる。
本発明の有機電界発光素子が、電子輸送層や正孔輸送層を有する場合、これらの層の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましい。より好ましくは、20~100nmであり、更に好ましくは、40~100nmである。
本発明の有機電界発光素子において、有機化合物から形成される層の製膜方法は特に限定されず、材料の特性に合わせて種々の方法を適宜用いることができるが、溶液にして塗布できる場合はスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、スリットコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いて製膜することができる。このうち、膜厚をより制御しやすいという点でスピンコート法やスリットコート法が好ましい。塗布しない場合や溶媒溶解性が低い場合は真空蒸着法や、ESDUS(Evaporative Spray Deposition from Ultra-dilute Solution)法などが好適な例として挙げられる。
上記有機化合物から形成される層を、有機化合物溶液を塗布して形成する場合、有機化合物を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
これらの中でも、溶媒としては、非極性溶媒が好適であり、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらを単独または混合して用いることができる。
本発明の有機電界発光素子において、無機化合物から形成される層の製膜方法は特に限定されず、スパッタ法、真空蒸着法、ゾルゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相製膜法、液相製膜法等により形成することができる。陽極、陰極の形成には、金属箔の接合も用いることができる。これらの方法は各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層ごとに作製方法が異なっていても良い。陽極と有機化合物層との間の金属酸化物層は、これらの中でも、気相製膜法を用いて形成するのがより好ましい。気相製膜法によれば、有機化合物層の表面を壊すことなく清浄にかつ陽極と接触よく形成することができ、その結果、陽極と有機化合物層との間に金属酸化物層を有することによる効果がより顕著なものとなる。
本発明の有機電界発光素子の特性をさらに向上させる等の理由から、必要に応じて例えば正孔阻止層、電子阻止層などを有していてもよい。これらの層を形成するための材料としては、これらの層を形成するために通常用いられる材料を用い、また、これらの層を形成するために通常用いられる方法により層を形成することができる。
上述した有機電界発光素子を構成する各層の平均厚さは、水晶振動子膜厚計、接触式段差計、分光エリプソメトリーなどにより測定することができるが、塗布膜で10nm以下のより薄い場合においては、下記のX線光電子分光を用いた算出方法を用いることが好ましい。本算出方法は、ケトゥル シーポパット(Ketul C Popat)外2名「ジャーナルオブ フィジカル ケミストリー ビー(Journal of Physical Chemistry B)」108巻、2004年、pp5185でも用いられており、確立した方法である。ここでは、窒素含有膜の膜厚計算には以下の式(1)を用いた。(丸善株式会社「X線光電子分光」)
Figure 0007231436000001
なお、Iは未知試料の窒素1s軌道強度、I は製膜に用いた窒素含有物から成る標準試料の窒素1s軌道強度、Xはモル分率、Z’は試料表面からの深さ、λは元素iの着目する光電子の脱出深さ、λi,iは非弾性平均自由工程、Z-Zは膜厚とする。X線光電分光測定に関しては、島津クレイトス社製(AXIS-NOVA)の光電子分光測定装置を用いて、次の条件にて行った。
X線源:AlKα
ビーム出力:100W
PassEnergy:40eV
Step:0.1eV
本発明の有機電界発光素子は、素子を構成する全ての層が有機化合物で構成された有機電界発光素子に比べると厳密な封止は必要ないが、必要であれば封止を施しても良い。封止工程としては、通常の方法を適宜使用できる。例えば、不活性ガス中で封止容器を接着する方法や、有機EL素子の上に直接封止膜を形成する方法などが挙げられる。これらに加えて、水分吸収材を封入する方法を併用してもよい。
本発明の有機電界発光素子は、基板上に陰極が隣接して形成される逆構造の有機電界発光素子である。本発明の有機電界発光素子は、基板がある側とは反対側に光を取り出すトップエミッション型のものであってもよく、基板がある側に光を取り出すボトムエミッション型のものであってもよい。
上記基板の材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレートのような樹脂材料や、石英ガラス、ソーダガラスのようなガラス材料等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
また、トップエミッション型の場合には、不透明基板も用いることができ、例えば、アルミナのようなセラミックス材料で構成された基板、ステンレス鋼のような金属基板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成したもの、樹脂材料で構成された基板等も用いることができる。
上記基板の平均厚さは、0.1~30mmであることが好ましい。より好ましくは、0.1~10mmである。
基板の平均厚さはデジタルマルチメーター、ノギスにより測定することができる。
上述したとおり、本発明の有機電界発光素子は透明性の高い電極を含んで構成され、素子自体も透明性の高いものとすることが可能である。そのような透明性の高い素子の例としては、後述する実施例3の素子4のように、550nmにおける光線透過率が50%以上である素子が挙げられ、本発明の有機電界発光素子の好適な実施形態の1つである。更に、そのような素子のうち実施例3の素子4のように、さらに、発光領域の450nmにおける光線透過率が50%未満である素子や、発光領域の650nmにおける光線透過率が50%以上である素子もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に電圧(通常は15ボルト以下)を印加することによって発光させることができる。通常は直流電圧を印加するが、交流成分が含まれていても良い。
本発明の有機電界発光素子は、有機化合物層の材料を適宜選択することによって発光色を変化させることができるし、カラーフィルター等を併用して所望の発光色を得ることもできる。そのため、表示装置の発光部位や照明装置として好適に用いることができる。特に、逆構造という特性から、酸化物TFTと組み合わせた表示装置が好適である。
このような、本発明の有機電界発光素子を備えることを特徴とする表示装置や、本発明の有機電界発光素子を備えることを特徴とする照明装置もまた、本発明の1つである。
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
実施例1
以下に示す方法により、有機EL素子1を作製した。なお、基板以外の素子を構成する各層の厚みは、特に記載がない限り水晶振動子膜厚計により測定した。
[工程1]
基板1として、平均厚さ125μmの市販されているPETフィルムを用意した。基板1をイソプロパノール中で超音波洗浄し、その後、UVオゾン洗浄を20分間行った。
[工程2]
基板1を真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。真空蒸着装置内を約1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、三酸化モリブデンMoOを蒸着することにより製膜し、膜厚が50nmの金属化合物層2を形成した。続いて銀を蒸着することにより製膜し、膜厚8nmの金属単体層(陰極)3を製膜した。
[工程3]
続いてスパッタリング装置にセットし、金属単体層3上に、亜鉛金属をターゲットとし、反応ガスとして酸素をキャリアガスとしてアルゴンを用いたスパッタ法により、酸化亜鉛(ZnO)層を形成し、金属酸化物層4を製膜した。接触式段差計により当該酸化亜鉛層の膜厚を測定したところ、平均厚さは20nmであった。
[工程4]
次に、日本触媒製ポリエチレンイミン(登録商標:エポミン、品番:P-1000)を金属酸化物層4の上にスピンコートにより塗布し、ポリエチレンイミン層を製膜した。X線電光子分光法により当該ポリエチレンイミン層の膜厚を測定したところ、平均厚さは2nmであった。
[工程5]
続いて真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、ケミプロ化成より購入したKHLHS-04、KHLDR-03、下記式(1)で示されるN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)をそれぞれアルミナルツボに入れて蒸着源にセットした。そして、真空蒸着装置内を約1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、KHLHS-04を15nm蒸着し、次にKHLHS-04、KHLDR-03、α-NPDを15nm共蒸着し、次に、α-NPDを40nm蒸着することにより、有機化合物層5を製膜した。さらに、三酸化モリブデンMoOを真空一貫で蒸着することにより製膜し、膜厚が10nmの金属酸化物層6を形成した。
[工程6]
次に、金属酸化物層6まで形成した基板2上に、アルミニウム(陽極7)を膜厚が100nmとなるように蒸着し、本発明の実施例である「素子1」を得た。
Figure 0007231436000002
実施例2
上記[工程2]におけるMoOを、硫化亜鉛ZnSに置き換えたこと以外は実施例1と同様にして、本発明の実施例である「素子2」を得た。
比較例1
上記[工程1]において、市販されている150nmのITOが製膜された厚さ125μmのPETフィルムを基板および陰極として用い、工程2をなくしたこと以外は実施例1と同様にして、本発明の比較例である「素子3」を得た。
表1に素子1、素子2の金属化合物層の表面エネルギーを示す。なお、硫化亜鉛、酸化タングステンについては、Adv. Funct. Mater., DOI: 10.1002/adfm.201502542に記載の値を用いた。酸化亜鉛についてはIEEE SENSORS JOURNAL VOL.11, NO.4 APRIL 2011 p939の値を用いた。
Figure 0007231436000003
有機電界発光素子の発光特性測定
ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて、素子への電圧印加と、電流測定を行った。トプコン社製の「BM-7」を用いて4Vで駆動した時の発光輝度を測定した。続いて曲率半径4mmで素子全体を3回曲げたのち、もう一度同電圧で発光輝度を測定した。表2に4V印加時の輝度を示した。
Figure 0007231436000004
以上に示すように、素子1、素子2は発光輝度が高く、陰極の抵抗が低く曲げ試験後も輝度がほとんど変わらないことがわかる。一方、ITOを用いた素子3では、同じ電圧でも素子1、素子2に比べて発光輝度が低く、曲げ試験後は全く輝度が出なくなった。輝度が出なくなった理由は、クラック等により通電しなくなったためと考えられる。
このことから、ITOを電極に用いた素子に比べ本発明の素子1、2は、導電性が高く、かつ非常に高いフレキシブル性があることがわかる。
実施例3
上記[工程2]を以下の[工程2-3]に、[工程6]を以下の[工程6-3]に置き換えたこと以外は実施例1と同様にして、本発明の実施例である「素子4」を得た。
[工程2-3]
基板1を真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。真空蒸着装置内を約1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、スパッタリング装置にセットし、亜鉛金属をターゲットとし、反応ガスとして酸素をキャリアガスとしてアルゴンを用いたスパッタ法により、金属化合物層2として酸化亜鉛(ZnO)層を形成した。接触式段差計により当該酸化亜鉛層の膜厚を測定したところ、平均厚さは20nmであった。続いて銀を蒸着することにより製膜し、膜厚8nmの金属単体層(陰極)3を製膜した。
[工程6-3]
次に、金属酸化物層6まで形成した基板2上に、銀(陽極7)を膜厚が15nmとなるように蒸着し、本発明の実施例である「素子4」を得た。
素子4の金属化合物層の表面エネルギーは、71.5dyne/cmであった。
また、素子4についても表2と同様の曲げ試験を行ったところ、曲げ試験前の輝度は450cd/m、曲げ試験後の輝度は420cd/mであり、曲げ試験後も輝度がほとんど変わらないことを確認した。輝度が低いのは、透過率が高いために逆方向にも光が出ているためである。これらのことからITOを電極に用いた素子に比べ、本発明の素子4も導電性が高く、かつ非常に高いフレキシブル性があることがわかる。
さらに、素子4は透過性に優れた、いわゆる透明有機ELの特徴も有していた。素子4と、透過性の参考素子として、素子1の実物の写真を図2に、可視光透過率を測定した結果を図3に示す。素子4の550nmでの透過率は60%程度であり、目視で十分フィルムの向こう側が確認可能であることがわかる。一方、参考素子である素子1では、ほとんど透過せず、不透明であることがわかる。
この結果からわかるように、素子4で両極に使用した銀薄膜は、導電性、可視光透過性に優れ、更にフレキシブル性にも優れた材料である。この結果は、電極材料選択の自由度が高く、電極の仕事関数に依存せず電子および正孔のキャリアの注入が可能な逆構造の有機電界発光素子を用いたが故に実現されたことである。そのため、銀に限らず、より導電性、可視光透過性に優れ、更にフレキシブル性にも優れた材料があるならば、それを用いることはできる。
1:基板
2:金属化合物層
3:金属単体層(陰極)
4:金属酸化物層
5:有機化合物層
6:金属化合物層
7:金属単体層(陽極)
8:金属酸化物層

Claims (11)

  1. 陽極と陰極と有機化合物層とを含む複数の層が積層された構造を有する有機電界発光素子であって、
    該有機電界発光素子は、陰極側の積層構造の末端が基板上に形成され、
    陰極側の積層構造の末端から、表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物の層、金属単体の層(アルミニウムの単体の層と銀の単体の層とが積層された構造のものを除く)、金属酸化物の層、有機化合物層をこの順に有し、
    該表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物は、Zn、Mo、Ti、Mg、Ce、Fe、及び、Zrから選択されるいずれかの金属元素の酸化物及び/又は硫化物である
    ことを特徴とする有機電界発光素子。
  2. 前記金属単体の層は、Ag、Al、Au、Cu、W、Co、Ni、Zn、K、Li、Fe、Pt、Sn、Cr、Pb、Ti、Mn、及び、Pdからなる群より選択される金属単体の層であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
  3. 前記金属酸化物の層は、仕事関数が3.5以上の金属酸化物の層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機電界発光素子。
  4. 前記有機電界発光素子は更に、陽極側の積層構造の末端から、金属酸化物の層、金属単体の層、表面エネルギーが60dyne/cm以上の金属化合物の層、有機化合物層をこの順に有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の有機電界発光素子。
  5. 前記陽極側の金属単体の層は、Ag、Al、Au、Cu、W、Co、Ni、Zn、K、Li、Fe、Pt、Sn、Cr、Pb、Ti、Mn、及び、Pdからなる群より選択される金属単体の層であることを特徴とする請求項4に記載の有機電界発光素子。
  6. 前記陽極側の金属酸化物の層は、仕事関数が3.5以上の金属酸化物の層であることを特徴とする請求項4又は5に記載の有機電界発光素子。
  7. 発光領域の550nmにおける光線透過率が50%以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の有機電界発光素子。
  8. さらに、発光領域の450nmにおける光線透過率が50%未満であることを特徴とする請求項7に記載の有機電界発光素子。
  9. さらに、発光領域の650nmにおける光線透過率が50%以上であることを特徴とする請求項7に記載の有機電界発光素子。
  10. 請求項1~9のいずれかに記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする表示装置。
  11. 請求項1~9のいずれかに記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする照明装置。
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