以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。なお、本実施の形態では、作業機械の一例として油圧ショベルを例示して説明するが、フロント作業機を有する他の作業機械においても本発明を適用することも可能である。
<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態を図1~図10を参照しつつ説明する。
図1は、本実施の形態に係る作業機械の一例である油圧ショベルの外観を模式的に示す図である。
図1において、油圧ショベル100は、垂直方向にそれぞれ回動する複数の被駆動部材(ブーム4、アーム5、バケット(作業具)6)を連結して構成された多関節型のフロント作業機1と、車体を構成する上部旋回体2及び下部走行体3とを備え、上部旋回体2は下部走行体3に対して旋回可能に設けられている。また、フロント作業機1のブーム4の基端は上部旋回体2の前部に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム5の一端はブーム4の基端とは異なる端部(先端)に垂直方向に回動可能に支持されており、アーム5の他端にはバケット6が垂直方向に回動可能に支持されている。ブーム4、アーム5、バケット6、上部旋回体2、及び下部走行体3は、油圧アクチュエータであるブームシリンダ4a、アームシリンダ5a、バケットシリンダ6a、旋回モータ2a、及び左右の走行モータ3a(ただし、一方の走行モータのみ図示)によりそれぞれ駆動される。
オペレータが搭乗する運転室9には、種々の情報が表示されるモニタ30(後の図2参照)のほか、油圧アクチュエータ2a~6aを操作するための操作信号を出力する操作レバー(操作装置)9a,9bが設けられている。図示はしないが操作レバー9a,9bはそれぞれ前後左右に傾倒可能であり、操作信号であるレバーの傾倒量、すなわちレバー操作量を電気的に検知する図示しない検出装置を含み、検出装置が検出したレバー操作量を制御装置であるコントローラ20(後の図2参照)に電気配線を介して出力する。つまり、操作レバー9a,9bの前後方向または左右方向に、油圧アクチュエータ2a~6aの操作がそれぞれ割り当てられている。なお、詳述を省略するが、運転室9には走行モータ3aを操作するための操作信号を出力する走行操作レバーも設けられている。
ブームシリンダ4a、アームシリンダ5a、バケットシリンダ6a、旋回モータ2a及び左右の走行モータ3aの動作制御は、図示しないエンジンや電動モータなどの原動機によって駆動される油圧ポンプ装置7から各油圧アクチュエータ2a~6aに供給される作動油の方向及び流量をコントロールバルブ8で制御することにより行う。コントロールバルブ8は、図示しないパイロットポンプから電磁比例弁を介して出力される駆動信号(パイロット圧)により行われる。操作レバー9a,9bからの操作信号に基づいてコントローラ20で電磁比例弁を制御することにより、各油圧アクチュエータ2a~6aの動作が制御される。
なお、操作レバー9a,9bは油圧パイロット方式であってもよく、それぞれオペレータにより操作される操作レバー9a,9bの操作方向及び操作量に応じたパイロット圧をコントロールバルブ8に駆動信号として供給し、各油圧アクチュエータ2a~6aを駆動するように構成しても良い。
上部旋回体2、ブーム4、アーム5、及びバケット6には、それぞれ、姿勢センサとして慣性計測装置(IMU: Inertial Measurement Unit)13~16が配置されている。以降、これらの慣性計測装置を区別する必要が有る場合は、それぞれ、車体慣性計測装置13、ブーム慣性計測装置14、アーム慣性計測装置15、及びバケット慣性計測装置16と称する。
慣性計測装置13~16は、角速度及び加速度を計測するものである。慣性計測装置13~16が配置された上部旋回体2や各被駆動部材4~6が静止している場合を考えると、各慣性計測装置13~16に設定されたIMU座標系における重力加速度の方向(つまり、鉛直下向き方向)と、各慣性計測装置13~16の取り付け状態(つまり、各慣性計測装置13~16と上部旋回体2や各被駆動部材4~6との相対的な位置関係)とに基づいて、各被駆動部材4~6の向き(対地角度:水平方向に対する角度)、及び、上部旋回体2の前後方向の対地角度(ピッチ角)や左右方向の対地角度(ロール角)を姿勢に関する情報として検出することができる。ここで、慣性計測装置14~16は、複数の被駆動部材4~6及び上部旋回体2のそれぞれの姿勢に関する情報(以降、姿勢情報と称する)を検出する姿勢情報検出装置を構成している。なお、本実施の形態においては、慣性計測装置14~16が各角度を演算する機能を実装する場合を例示して説明するが、例えば、慣性計測装置に角度の演算機能が実装されていない場合には、後述するコントローラ20に角度の演算機能を実装すれば同様の処理を行うことができる。
上部旋回体2の上部には、GNSS(Global Navigation Satellite System)用の受信アンテナ(GNSSアンテナ)17a,17bが配置されている。GNSSとは複数の測位衛星からの測位信号を受信し、地球上の自己位置を知る衛星測位システムのことである。GNSSアンテナ17a,17bは、地球上空に位置する複数の測位衛星からの測位信号を受信するものであり、得られた測位信号に基づいてGNSS受信機17c(後の図3参照)で演算を行うことにより、GNSSアンテナ17a,17bの地球座標系における位置を取得することができる。油圧ショベル100に対するGNSSアンテナ17a,17bの搭載位置は予め分かっているので、GNSSアンテナ17a,17bの地球座標系における位置を取得することで、施工現場の基準点に対する油圧ショベル100の位置や向き(方位角)を位置情報として取得することができる。また、GNSS受信機17cは、位置情報(位置、方位角)の演算にカルマンフィルタ(KF: Kalman Filter)などによる統計処理を用いているため、位置情報(位置、方位角)の分散を位置情報と同時にそれぞれ計算している。ここで、GNSSアンテナ17a,17bおよびGNSS受信機17cは、上部旋回体2の位置情報及び位置情報の分散を測位衛星からの測位信号を用いて検出する位置情報検出装置としてのGNSSシステム17を構成している。
なお、本実施の形態に係るGNSSシステム17は、施工現場内に設置されたGNSS固定局と無線通信によって接続することによって位置情報のRTK測位(Real Time Kinematic 測位)を実施するRTK-GNSSである場合を考える。また、GNSS固定局がない施工現場の場合には、インターネットを介して電子基準局の情報を取得するネットワーク型RTKを利用してもよい。以下の説明において、GNSSシステム17は、施工現場内の固定局の有無を問わずにRTK測位が実行可能であるとする。
図2は、油圧ショベルに搭載されるコントローラの処理機能の一部を模式的に示す図である。また、図3は、コントローラの処理機能の詳細を模式的に示す図である。
図2及び図3において、コントローラ20は、油圧ショベル100の所定の位置に搭載されるものであって、油圧ショベル100の動作を制御するための種々の機能を有しており、その一部として、ポジショニング演算部20a、モニタ表示制御部20b、油圧システム制御部20c、及び作業目標面演算部20dの各機能部を有している。
ポジショニング演算部20aは、GNSSシステム17で演算した位置情報と慣性計測装置13~16の検出結果(姿勢情報)とに基づいて、油圧ショベル100の施工現場内における位置座標、向き(方位角)、姿勢、及び、フロント作業機1の姿勢などの情報(3次元姿勢情報)を演算する3次元姿勢情報演算処理を行う。また、ポジショニング演算部20aは、GNSSシステム17による位置の検出精度を判定する精度判定処理を行い、検出精度が低下していると判定した場合には、低精度警告フラグを出力する。
作業目標面演算部20dは、施工管理者によって図示しない記憶装置などに予め記憶されている3次元施工図面などの施工情報21(施工目標面)と、ポジショニング演算部20aで算出した3次元姿勢情報とに基づいて、施工対象の目標形状である作業目標面を演算する。
モニタ表示制御部20bは、運転室9に設けられたモニタ30の表示を制御するものであり、作業目標面演算部20dで演算された作業目標面と、ポジショニング演算部20aで演算された3次元姿勢情報(詳しくは、フロント作業機1の姿勢)とに基づいて、オペレータに対する操作支援の指示内容を演算し、運転室9のモニタに表示する。すなわち、モニタ表示制御部20bは、例えば、ブーム4、アーム5、及び、バケット6などの被駆動部材を有するフロント作業機1の姿勢や、バケット6の先端位置と角度とをモニタに表示してオペレータの操作を支援するマシンガイダンスシステムとしての機能の一部を担っている。
また、モニタ表示制御部20bは、GNSSシステム17による測位結果に異常が生じた場合、すなわち、ポジショニング演算部20aから低精度警告フラグが出力された場合には、運転室9内のモニタ30に警告を表示することでガイダンス機能の中断をオペレータに伝える機能を有している。モニタ30は音声(警告音を含む)を出力することができるので、モニタ表示制御部20bの制御に従って、画面表示だけでなく音による作業指示や注意喚起を行うことも可能である。
なお、モニタ30は単なる表示デバイスでなくタッチパネルなどの入力デバイスとしての機能を備えるものであり、例えば、表示デバイスと入力デバイスとの両方の機能を備えたタブレット端末である。以下の説明においては、モニタ30がタブレット端末30である場合を例示して説明する。
油圧システム制御部20cは、油圧ポンプ装置7やコントロールバルブ8、各油圧アクチュエータ2a~6a等からなる油圧ショベル100の油圧システムを制御するものであり、作業目標面演算部20dで演算された作業目標面と、ポジショニング演算部20aで演算された3次元姿勢(詳しくは、フロント作業機1の姿勢)とに基づいてフロント作業機1の動作を演算し、演算した動作を実現するように油圧ショベル100の油圧システムを制御する。すなわち、油圧システム制御部20cは、例えば、バケット6などの作業具の先端が目標面に一定以上近づかないように動作に制限をかけたり、作業具が目標面に沿って動くよう制御したりするマシンコントロールシステムとしての機能の一部を担っている。なお、GNSSシステム17による測位結果に異常が生じ、モニタ表示制御部20bでタブレット端末30に警告を表示する状態となった場合、すなわち、ポジショニング演算部20aから低精度警告が出力された場合は、油圧システム制御部20cもマシンコントロール機能を停止する。
なお、図2及び図3においては、ポジショニング演算部20a、モニタ表示制御部20b、油圧システム制御部20c、及び、作業目標面演算部20dの各機能部を一つのコントローラ20で実行する場合を例示して説明したが、これに限られず、各機能部をそれぞれ異なるコントローラで実行するように構成してもよい。各機能部が異なるコントローラによって実行される場合には、ポジショニング演算部20aの機能が実装されたコントローラが3次元演算装置に相当する。
図3において、ポジショニング演算部20aは、3次元姿勢演算部20a-1と、点間距離演算部20a-2と、精度判定部20a-3とを有している。
3次元姿勢演算部20a-1は、上部旋回体2及びフロント作業機1に取り付けられた慣性計測装置13~16で取得した姿勢情報と、GNSSシステム17で演算された位置情報および分散を入力として、油圧ショベル100の3次元空間における姿勢(すなわち、3次元姿勢情報)を算出する。3次元姿勢情報演算部20a-1で演算された姿勢情報はモニタ表示制御部20b、油圧システム制御部20c、及び、作業目標面演算部20dに出力されてマシンガイダンスやマシンコントロールの演算に利用される。
また、3次元姿勢情報演算部20a-1は、掘削作業を行うバケット6上に設定された参照点(後に詳述)の位置(参照点位置)を3次元座標(xp,yp,zp)として演算し、さらに対応する参照点分散(σx,σy,σz)の演算を行う。
点間距離演算部20a-2は、3次元姿勢演算部20a-1で算出した参照点位置と、タブレット端末30に事前に取り込まれた施工情報21に含まれる施工目標面とに基づいて、参照点と施工目標面の距離を算出する。なお、施工目標面は、事前に設定された施工情報21を利用せず、オペレータがタブレット端末30を操作してその場で設定してもよい。また、施工目標面と参照点との距離に代えて、作業目標面演算部20dで演算された作業目標面と参照点との距離を算出することも可能である。
精度判定部20a-3は、タブレット端末30を介して入力される許容誤差と、点間距離演算部20a-2で演算された距離と、3次元姿勢演算部20a-1で演算された参照点分散とに基づいて、3次元姿勢演算部20a-1で演算した3次元姿勢情報がマシンガイダンス、マシンコントロールに利用するのに必要な精度を有するか否かを判定する。精度判定部20a-3は、3次元姿勢情報が十分な精度を有すると判定した場合には、その旨を示すフラグをモニタ表示制御部20b及び油圧システム制御部20cに出力する。また、精度判定部20a-3は、3次元姿勢情報が十分な精度を有しないと判定した場合には、モニタ表示制御部20b及び油圧システム制御部20cに低精度警告フラグを送信し、マシンガイダンスおよびマシンコントロールを中断させる。
なお、許容誤差は、施工情報21に設計情報として事前に設定されているものを用いても良いし、オペレータがタブレット端末30を操作して直接設定してもよい。
以下、ポジショニング演算部20aにおける演算処理の具体的内容を図面を参照しつつ詳細に説明する。
図4は、施工現場に設定される座標系を油圧ショベルとともに模式的に示す図である。
図4に示すように、本実施の形態においては、油圧ショベル100が作業を行う施工現場に、水平方向に互いに直行するx軸およびy軸を、鉛直方向にz軸を有するローカル座標系における座標(x,y,z)を考える。なお、図4においては説明を簡略化するため、GNSSアンテナ17a,17bの座標ΣAとブーム4の基端の回動中心(ブームフートピン)の位置の座標ZBの向き(方位)を一致させているが、上部旋回体2が回転をしていると、これらの座標の向きが一致しない。したがって、この場合には、GNSSシステム17で取得した方位角情報を利用してz軸周りの回転を行えばよい。
3次元姿勢演算部20a-1では、GNSSシステムで演算したGNSSアンテナ17a,17bの何れかの位置を基準として上部旋回体2上の車体基準座標位置を算出する。車体基準座標位置は、フロント作業機1の回動中心位置であるブームフートピンに設定することが望ましい。この演算は、図4に示したようにGNSS受信機17cが算出したアンテナ位置の座標ΣAからブームフートピン位置の座標ΣBへの座標変換である。この座標変換は一般的な演算であり特別な工夫は不要であるため、詳細の説明は省略する。
GNSSシステム17がRTK-Fixの状態で測位を行っていても、その測位結果が多少ばらつきことが予想される。そのような場合には、GNSSシステム17で取得した位置情報(x,y,z)、速度情報(vx,vy,vz)、車体IMU13で取得した加速度情報(ax,ay,az)をKFで統合することによるばらつきの抑制が期待される。このような異なるセンシングデバイスの情報を統合する手法はセンサフュージョンとして広く知られている技術であり、詳細の説明は省略する。
上記演算によって、ブームフートピン位置の座標ΣBが決れば、フロント作業機1の姿勢は慣性計測装置13~16で取得した車体ピッチ角、車体ロール角、ブーム角、アーム角、バケット角を利用した幾何学演算(座標変換)によってフロント作業機1の特定の位置(例えば、バケット先端座標や参照点の座標)を容易に算出することができる。
なお、GNSSシステム17は位置(xp,yp,zp)だけでなく、分散(σgx,σgy,σgz)も提供している。このフロント作業機1の特定位置を求めるために利用した座標変換を利用すれば、フロント作業機1の特定位置に対応する分散情報も演算することができる。
ここで、分散は統計情報であるため、点情報を変換する座標変換を直接利用することはできないが、分散情報を利用したモンテカルロ法やアンセンテッド変換(Unscented Transformation)と呼ばれる統計手法を用いることで近似的に分散の座標変換を行うことができる。また、座標変換は3次元の行列操作に過ぎないため、元の座標ベクトルaを座標変換Tによって座標ベクトルbに変換する場合、すなわち、b=Taの場合、元の座標の分散σaは変換後の座標でT(σa)T’で与えられるという法則を利用してもよい。なお「’」は行列の転置操作を表す。
3次元姿勢演算部20a-1は、以上のような演算を行うことにより、フロント作業機1の特定の点の座標とその座標の分散を演算することができる。以下の説明において、上記の何れかの方法で演算された参照点の分散を(σx,σy,σz)とする。なお、x,yはローカル座標における水平方向、zはローカル座標における鉛直方向を表す成分である。なお、後述の点間距離演算部20a-2で演算の候補になり得る複数の参考点を複数個用いる場合には、そのすべての点の位置と分散を演算しておいても良い。
図5A~図5C、図6A~図6D、及び図7は、フロント作業機に設定される参照点の一例をそれぞれ示す図である。
点間距離演算部20a-2では、施工目標面とフロント作業機1に設定される参照点の最短距離を算出する。ただし、点間距離演算部20a-2では、施工内容ごとに設定される施工目標面によって、フロント作業機1における参照点の設定位置が異なる。基本的には、施工目標面に対してフロント作業機1(例えば、バケット6)の最も近い位置が参照点に設定される。
例えば、整地作業のように、ある目標面以下に爪先を潜らせたくない作業を想定した場合について説明する。図5Aに示すように、バケット6と施工目標面とが水平であれば、参照点はバケット6の中心部を参照点に設定する。なお、図5Bに示すように、バケット6の端部を参照点に設定しても問題はない。また、同一の作業であっても、車体(上部旋回体2)が左右方向に傾いている場合(すなわち、ロール角が0degではない場合)には、車体の傾きに応じてバケット6も左右方向に回転するので、図5Cに示すように、バケット6の中心ではなく、端点を参照点として設定する。なお、車体が傾いた場合に限らず、チルト機構を備えたバケット6を利用する場合もこのケースにあたることは言うまでもない。図5A~図5Cに示した場合には、参照点がどこに選ばれた場合であっても目標面は鉛直方向にしかないため、参照点から施工目標面への垂直方向のベクトルが距離として算出される。
続いて、溝堀作業のように垂直方向のみではなく水平方向にも爪先を潜らたくない作業を想定した場合について説明する。溝堀作業では垂直方向と水平方向に制限領域ができるため、図6Aに示すように、水平方向にバケット6が近い場合にはバケット端点を参照点として設定する。このとき、施工目標面と参照点との距離についても水平方向の成分が用いられる。また、図6Bや図6Cに示すように、水平方向の制限領域から十分に離れた位置にバケット6がある場合には整地作業(図5A~図5C参照)と同じように、鉛直方向の距離が最短になる位置を参照点に設定する。
続いて、法面作業のように、垂直や水平のみではなく奥行き方向にも爪先を潜らせたくない作業を想定した場合について説明する。法面作業では、図7に示すように、施工目標面が垂直、水平のみならず、奥行方向にも制限が設けられるが、整地作業(図5A~図5C参照)や法面作業(図6A~図6C参照)と同様に、施工目標面に最も近い位置を参照点に設定する。ここで、参照点と施工目標面との距離は、図7に示すように、水平や垂直などの1成分だけではなく、各方向の成分が合成されたベクトルを考えることに注意されたい。なお、距離の演算は3次元空間における平面と点の最短距離を求めるという単純な幾何学であるため、詳細は省略する。
精度判定部20a-3は、3次元姿勢演算部20a-1で演算された参照点の分散、点間距離演算部20a-2で演算された参照点と施工目標面との距離、及び、タブレット端末30から入力された許容誤差とに基づいて、3次元姿勢情報が十分な精度を有しているかどうか、すなわち、参照点の位置が十分な精度を有しているかどうかを評価する。
図8A~図8Cは、精度判定部における精度判定処理の基本的な考え方を説明する図である。
図8Aに示すように、水平方向(x-y平面方向)の分散が大きく、鉛直方向(z軸方向)の分散が小さい場合には、演算された参照点が目標面に設定された許容誤差を逸脱する可能性が極めて低い、すなわち、十分な精度で参照点の位置が算出されていると判定し、低精度警告フラグを立てることはない。
また、図8Bに示すように、水平方向(x-y平面方向)の分散が小さく、鉛直方向(z軸方向)の分散が大きい場合には、分散の誤差楕円が許容誤差を大きく逸脱しているため、算出した参照点をマシンコントロールやマシンガイダンスに利用すると参照点が目標面の下に入っている可能性が極めて高くなる。よって、このような場合には低精度警告フラグを立てて、マシンコントロールやマシンガイダンスを中断する。
また、図8Cに示すように、水平方向(x-y平面方向)の分散が小さく、鉛直方向(z軸方向)の分散が大きいものの、参照点の位置が施工目標面よりも明らかに上の位置にある場合(すなわち、点間距離演算部20a-2で算出した距離が一定以上大きい場合)には、算出した参照点をマシンコントロールやマシンガイダンスに利用しても、参照点が目標面の下に入っている可能性がほぼない。よって、このような場合には、参照点の精度が十分ではないかもしれないがマシンガイダンスやマシンコントロールを継続してもバケット6が施工目標面に接する可能性が低いため、低精度警告のフラグを立てることはない。
ここで、精度判定処理の具体例について説明する。
図9A~図9Cは、精度判定処理の処理内容について説明する図である。図9A~図9Cにおいては、図8A~図8Cで示したような鉛直方向のみに施工目標面がある場合を例示して精度判定処理について説明する。
図9A~図9Cでは、縦軸に確率密度関数の演算値を、横軸に参照点の施工目標面から距離それぞれ示している。なお、横軸の右方向が目標面に対して上方向、横軸の左方向が目標面に対して下方向を表している。よって、許容誤差は目標面(原点)の左側に許容下限として設定される。また、図9A~図9Cでは鉛直方向のみを考えているため考えるべき分散は「σz」であるが、図示を簡略化するため「σ」とする。
図9Aでは、施工目標面に対してバケット爪先(参照点)が上にある場合(図8C参照)を示す図である。このとき、許容下限に対して確率密度関数がほとんどラップしないため、低精度警告フラグを立てる必要がないと判定する。図9Bでは、施工目標面に対してバケット爪先(参照点)が触れている場合(図8A参照)を示す図である。この場合、鉛直方向に分散が小さいため、確率密度関数は図9Aの場合に比べて細長い形状になる。すなわち、図9Bにおいては、確率密度関数が許容下限に一部ラップするが、許容下限が(-1σ)の範囲に入っていないため、低精度警告フラグを出力しないと判定する。図9Cに示すように、分散が大きく、許容下限が(-1σ)の範囲に入っている場合には、低精度警告フラグを有効にすると判定する。
このように、分散σと許容誤差とを比較することによって、低精度状態であるか否か、すなわち、低精度警告フラグの出力の有無の判定を、単純な値の比較によって行うことができる。この関係は、簡単な数式によって記述することができる。施工目標面と参照点との距離をa、施工目標面と許容下限の距離(つまり、許容誤差)をbとすると、参照点から許容下限への距離は「a+b」と表される。この距離(a+b)が分散σよりも小さい場合に低精度状態であると判定する、すなわち、「a+b<σ」の条件式を満たす場合に低精度警告フラグを出力する。なお、この条件式は、本発明の思想の範囲で自由に設定することができ、例えば、分散の2倍を閾値にとり、「a+b<2σ」としてもよい。なお、施工目標面と参照点の距離aは参照点の位置が変わると変化し、図9Bのように参照点が施工目標面上にあるときはa=0となる。
図10は、ポジショニング演算部における処理内容を示すフローチャートである。
図10において、ポジショニング演算部20aは、タブレット端末30を介して施工情報21やオペレータが直接入力した各種設定情報(施工目標面と許容誤差)を読み込む(ステップS100)。なお、施工目標面について、前述の通り、作業目標面演算部20dで算出した作業目標面を利用しても良い。
続いて、GNSSシステム17および慣性計測装置13~16から姿勢演算に必要なセンサ情報を取得する(ステップS110)。
続いて、3次元姿勢演算部20a-1は、GNSSアンテナ17a,17bの位置、及び、分散と、GNSSシステム17の出力と、車体IMU13の出力とを用いて基準点(例えば、ブームフートピン)の位置、及び、分散を演算する(ステップS120)。
続いて、ステップS120で演算した基準点の位置と慣性計測装置13~16の出力とを用いて、バケット6上に設定される参照点の位置の座標および分散σを算出する。
続いて、点間距離演算部20a-2は、ステップS100で取得した施工目標面とステップS130で算出した参照点の位置との最短距離(距離a)を算出する(ステップS140)。
続いて、精度判定部20a-3は、ステップS100で取得した施工目標面と許容誤差との差bと、ステップS130で算出した参照点の分散σと、ステップS140で算出した距離aとを用いて、距離a+bが分散σよりも小さいか否かを判定する(ステップS150)。
ステップS150での判定結果がNOの場合には、低精度警告フラグを無効化し(ステップS151)、処理を終了する。また、ステップS150での判定結果がYESの場合には、低精度警告フラグを有効化し(ステップS160)、処理を終了する。
以上のように構成した本実施の形態における作用効果を図面を参照しつつ説明する。
図17Aは、図17Bに示すように油圧ショベルがフロント作業機を下げているときに上部旋回体上に備えられたGNSSアンテナから観測可能な測位衛星を模式的に表した天空図である。この場合にはフロント作業機が天空を遮らないため、良好な環境で測位演算を実行できる。
一方、図17Cは、図17Dに示すように油圧ショベルがフロント作業機を上げているときに上部旋回体上に備えられたGNSSアンテナから観測可能な測位衛星を模式的に示した天空図である。この場合には、図17Cに領域Nとして示すように、天空の特定方向からの測位信号が遮蔽されてしまう。図17Cの状況では、一部の測位衛星の信号を利用できないものの観測可能な衛星が十分にあるため、GNSS受信機は高精度演算(RTK-FIX)を継続することができる。ただし、図17Aに示す場合に比べて利用可能な衛星数が少なく、また、衛星配置の状況(DOP:Dilution Of Precision)が異なるため、測位結果に差が表れる。
図17Eは、図17Aに示した場合と図17Cに示した場合とにおける測位結果の差を模式的に示した図である。なお、GNSS受信機は3次元空間での位置を計算するが、説明を簡略化するためにX-Yの2次元平面で考える。すなわち、図17Eにおいて3次元空間の測位結果を考える場合には、X軸とY軸の何れかをZ軸として捉えればよい。
図17Eにおいて、範囲Aはフロント作業機を下げた状態で測位を実施した際の測位結果の平均値と誤差楕円(測位結果の分散)とを示している。天空図の衛星配置に偏りがなければ誤差楕円は真円(3次元空間では球)に近い形状になる。一方、範囲Bはフロント作業機を上げた状態で測位を実施した際の測位結果の平均値と誤差楕円とを示している。このように、範囲Aと範囲Bとの差で明らかなように、衛星数や衛星配置の差により平均値が変化するだけでなく、天空の衛星配置の偏りに伴って誤差楕円が特定方向に延びるようになる。
RTK-FIXが維持されている場合には、範囲Aと範囲Bの平均値の差は数センチメートルの範囲に収まるが、油圧ショベルにおけるマシンガイダンスやマシンコントロールにおいては、情報化施工の実施要領の要求精度(一般的な土木作業で±5cm)を満足しなくてはならないため、数センチメートルの誤差であっても無視できるものではない。
このため、範囲Aと範囲Bに示したような測位結果の差を考慮せずにマシンガイダンスやマシンコントロールを継続すると、目標とする施工面を掘り過ぎてしまい、施工のやり直しを生じる可能性がある。一方で、範囲Aと範囲Bの測位結果の差を過剰に評価してマシンガイダンスやマシンコントロールを停止してしまうと作業効率が著しく低下する恐れもある。
このような課題に対して本実施の形態においては、姿勢情報検出装置(慣性計測装置13~16)で検出された姿勢情報と位置情報検出装置(GNSSシステム17)で検出された位置情報の分散とに基づいて、フロント作業機1に設定された参照点の位置の分散を算出し、参照点の位置の分散に基づいて参照点の位置の精度判定処理を行い、精度判定処理で低精度状態であると判定した場合には、その旨をオペレータに通知するように構成したので、測位衛星からの測位信号を用いる位置検出装置による測位精度を適切に評価することによって、施工精度の確保と作業効率低下の抑制とを両立することができる。
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態を図11、図12A~図12D、及び、図13を参照しつつ説明する。
本実施の形態は、低精度状態の判定(精度状態判定処理)に逸脱確率を用いる場合を示すものである。
図11は、本実施の形態に係るコントローラの処理機能の詳細を模式的に示す図である。また、図12A~図12Dは、本実施の形態に係る精度判定処理の処理内容について説明する図である。また、図13は、ポジショニング演算部における処理内容を示すフローチャートである。図中、第1の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
図11において、ポジショニング演算部20aは、3次元姿勢演算部20a-1と、点間距離演算部20a-2と、精度判定部20a-3とを有している。
精度判定部20a-3は、タブレット端末30を介して入力される閾値と、許容誤差と、点間距離演算部20a-2で演算された距離と、3次元姿勢演算部20a-1で演算された参照点分散とに基づいて、3次元姿勢演算部20a-1で演算した3次元姿勢情報がマシンガイダンス、マシンコントロールに利用するのに必要な精度を有するか否かを判定する。精度判定部20a-3は、3次元姿勢情報が十分な精度を有すると判定した場合には、その旨を示すフラグをモニタ表示制御部20b及び油圧システム制御部20cに出力する。また、精度判定部20a-3は、3次元姿勢情報が十分な精度を有しないと判定した場合には、モニタ表示制御部20b及び油圧システム制御部20cに低精度警告フラグを送信し、マシンガイダンスおよびマシンコントロールを中断させる。
なお、タブレット端末30から入力される閾値は、施工情報21に事前に組み込まれていてもよく、高い精度が必要ではない粗掘削作業時には大きな閾値を、高い精度が必要な仕上げ作業時には小さな閾値を設定するようにしておけば、オペレータが閾値を設定する手間も省略することができる。
精度判定部20a-3は、精度判定処理において、図12A~図12Dにハッチングで示す範囲(すなわち、確率密度関数と許容下限が囲む領域の面積)を参照点が許容下限よりも下にいる確率(逸脱確率)として演算し、この逸脱確率を低精度警告フラグの判断基準に利用する。
図12Aは、図9Aに示した場合と同様に参照点が施工目標面から十分に離れている場合の逸脱確率を示している。また、図12Bは、図12Aと同様の分散σのまま、距離aが小さくなった場合、すなわち、爪先位置が施工目標面に近づいた場合を示している。図12A及び図12Bからわかるように、爪先位置が施工目標面に近づくと、許容下限を下回る確率密度関数の領域が増加するため、逸脱確率が増加する。
また、図12Cは、参照点と目標面の距離aが図12Bと同様の状況であって、分散のみが小さい場合を示している。このように、距離aが同一であっても、分散が小さい場合には、逸脱確率が減少する。
以上のように、施工目標面から参照点までの距離aが小さくなるほど、又は、分散が大きくなるほど、逸脱確率は大きくなる。本実施の形態においては、上記の知見に基づき、逸脱確率を低精度状態の判定に利用する。具体的には、例えば、逸脱確率が予め定めた閾値(例えば、30%)を超えた場合には、低精度状態であると判定する。これにより、施工精度の確保と作業効率低下の抑制とを両立することができる。また、閾値を確率の値で設定できるため、ユーザが直感的に閾値を設定することができる。
なお、図12Dに示したように、許容誤差を0cmに設定した場合(すなわち、施工目標面と許容下限の軸が一致した場合)においても、確率密度関数と許容下限が囲む領域の面積は50%にしかならないため、閾値は50%未満に設定することが望ましい。また、分散σや確率を低精度警告フラグの有効無効判断の閾値として利用する場合には、その閾値をユーザであるオペレータが自由に変更できることが望ましい。
図13において、ポジショニング演算部20aは、タブレット端末30を介して施工情報21やオペレータが直接入力した各種設定情報(施工目標面と許容誤差、閾値Pset)を読み込む(ステップS200)。なお、施工目標面について、前述の通り、作業目標面演算部20dで算出した作業目標面を利用しても良い。
続いて、GNSSシステム17および慣性計測装置13~16から姿勢演算に必要なセンサ情報を取得する(ステップS110)。
続いて、3次元姿勢演算部20a-1は、GNSSアンテナ17a,17bの位置、及び、分散と、GNSSシステム17の出力と、車体IMU13の出力とを用いて基準点(例えば、ブームフートピン)の位置、及び、分散を演算する(ステップS120)。
続いて、ステップS120で演算した基準点の位置と慣性計測装置13~16の出力とを用いて、バケット6上に設定される参照点の位置の座標および分散σを算出する。
続いて、点間距離演算部20a-2は、ステップS100で取得した施工目標面とステップS130で算出した参照点の位置との最短距離(距離a)を算出する(ステップS140)。
続いて、精度判定部20a-3は、ステップS100で取得した施工目標面と許容誤差との差bと、ステップS130で算出した参照点の分散σと、ステップS140で算出した距離aとを用いて、確率密度関数の許容下限よりも小さい範囲の積分値(逸脱確率Pdev)を算出し、逸脱確率Pdevが閾値Psetよりも小さいか否かを判定する(ステップS250)。
ステップS250での判定結果がNOの場合には、低精度警告フラグを無効化し(ステップS151)、処理を終了する。また、ステップS250での判定結果がYESの場合には、低精度警告フラグを有効化し(ステップS160)、処理を終了する。
その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
<第3の実施の形態>
本発明の第3の実施の形態を図14を参照しつつ説明する。
本実施の形態は、低精度状態の判定(精度状態判定処理)に作業モードを用いる場合を示すものである。
図14は、本実施の形態に係るコントローラの処理機能の詳細を模式的に示す図である。図中、第1及び第2の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
図14において、ポジショニング演算部20aは、3次元姿勢演算部20a-1と、点間距離演算部20a-2と、精度判定部20a-3とを有している。
精度判定部20a-3は、タブレット端末30を介して入力される作業モードと、許容誤差と、点間距離演算部20a-2で演算された距離と、3次元姿勢演算部20a-1で演算された参照点分散とに基づいて、3次元姿勢演算部20a-1で演算した3次元姿勢情報がマシンガイダンス、マシンコントロールに利用するのに必要な精度を有するか否かを判定する。精度判定部20a-3は、3次元姿勢情報が十分な精度を有すると判定した場合には、その旨を示すフラグをモニタ表示制御部20b及び油圧システム制御部20cに出力する。また、精度判定部20a-3は、3次元姿勢情報が十分な精度を有しないと判定した場合には、モニタ表示制御部20b及び油圧システム制御部20cに低精度警告フラグを送信し、マシンガイダンスおよびマシンコントロールを中断させる。
図14に示すように、本実施の形態においては、オペレータはタブレット端末30で作業モードを選択する。作業モードは、例えば、粗掘削作業と仕上げ作業などユーザが直感的に理解できる名称にしておく。精度判定部20a-3は、タブレット端末30で設定された作業モードに対応する許容誤差(第1の実施の形態を参照)や閾値(第2の実施の形態を参照)を予め記憶しており、設定された作業モードに基づいて許容誤差や閾値を選択することで精度判定処理を行う。例えば、作業モードとして粗掘削モードが設定されている場合には、許容誤差の値が20cmに設定され、仕上げモードが設定されている場合には許容誤差の値が3cmに設定される。
その他の構成は第1及び第2の実施の形態と同様である。
以上のように構成した本実施の形態においても第1及び第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
また、第1及び第2の実施の形態においては、精度判定処理に用いる基準値としての許容誤差や閾値をオペレータが設定する場合を例示して説明したが、この場合には設定の自由度が高まるので作業現場に応じた使い方をユーザが選択することが可能になるものの、操作に不慣れなユーザにとっては自由度の高さが逆に使い勝手の悪さ(操作の難しさ)につながる可能性があった。そこで、本実施の形態においては、ユーザによる設定項目をできるだけ減らすことにより、使い勝手を向上することができる。
<第4の実施の形態>
本発明の第4の実施の形態を図15及び図16を参照しつつ説明する。
本実施の形態は、GNSSアンテナを1つのみ設置している油圧ショベルにおいて低精度状態の判定(精度判定処理)を行う場合を示すものである。
図15は、本実施の形態に係るコントローラの処理機能の詳細を模式的に示す図である。また、図16は、方位角の算出方法を説明する図である。図中、第1の実施の形態と同様の部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
本実施の形態においては、図16に示すように、上部旋回体2の上部に1つのGNSSアンテナ17aが配置されている場合を例示して説明する。
図15において、ポジショニング演算部20aは、3次元姿勢演算部20a-1と、点間距離演算部20a-2と、精度判定部20a-3と、方位角演算部20a-4とを有している。
方位角演算部20a-4は、タブレット端末30を介して入力される補正量と、車体IMU13の検出結果とに基づいて、上部旋回体2の方位角および分散を演算し、3次元姿勢演算部20a-1に出力する。
GNSSアンテナが1つしかない場合は、GNSSシステム17は方位角を算出することができない。そこで、本実施の形態においては、上部旋回体2に設けられた車体IMU13の検出値である角速度を積分することにより、上部旋回体2の方位角を算出する。このとき、車体IMU13で取得できる角度は上部旋回体2の旋回角度であるため、現場座標における方位角を直接的に取得できない。つまり、車体IMU13で取得した旋回角度を現場座標における方位角に変換する必要がある。
この変換には、例えば、図14に示すように、3次元座標が分かっている既知点を作業現場に用意し、この既知点にバケット6の爪先(例えば、参照点)を合わせた状態で3次元姿勢演算部20a-1で演算される参照点の座標と既知点の座標とが一致するように算出した補正量を用いればよい。そして、この補正量をタブレット端末30などの記憶領域に記憶して補正情報として利用すれば、3次元姿勢演算部20a-1において参照点の3次元座標、及び、分散を算出することができる。
なお、方位角演算部20a-4は衛星測位を実行しないため、衛星配置などによるばらつきの影響を受けないが、車体IMU13のジャイロバイアスの影響により方位角の算出精度に不確定性を持つ。このため、方位角演算部20a-4では補正量の演算からの経過時間によって方位角の分散を大きくするように構成している。
3次元姿勢演算部20a-1は、上部旋回体2及びフロント作業機1に取り付けられた慣性計測装置13~16で取得した姿勢情報と、GNSSシステム17で算出された位置情報および分散と、方位角演算部20a-4で算出された方位角および分散とを入力として、油圧ショベル100の3次元空間における姿勢(すなわち、3次元姿勢情報)を算出する。3次元姿勢情報演算部20a-1で演算された姿勢情報はモニタ表示制御部20b、油圧システム制御部20c、及び、作業目標面演算部20dに出力されてマシンガイダンスやマシンコントロールの演算に利用される。
その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
以上のように構成した本実施の形態においても第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
また、GNSSシステムが有するGNSSアンテナが1つのみであって方位角の演算機能を有しない安価な構成であっても、本発明を適用することが可能である。
次に上記の各実施の形態の特徴について説明する。
(1)上記の実施の形態では、下部走行体3と、前記下部走行体に対して旋回可能に設けられた上部旋回体2と、前記上部旋回体に取り付けられ、回動可能に連結された複数のフロント部材(例えば、ブーム4、アーム5、バケット6)からなる多関節型のフロント作業機1と、前記上部旋回体及び前記フロント作業機に設けられ、前記上部旋回体及び前記フロント作業機の姿勢に関する情報である姿勢情報を検出する姿勢情報検出装置(例えば、慣性計測装置13~16)と、前記上部旋回体に設けられ、前記上部旋回体の位置情報及び前記位置情報の分散を測位衛星からの測位信号を用いて検出する位置情報検出装置(例えば、GNSSシステム17)と、前記姿勢情報検出装置で検出した姿勢情報と前記位置情報検出装置で検出した位置情報とに基づいて、オペレータへの作業案内を行うガイダンスシステムとを備えた作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記ガイダンスシステムは、前記姿勢情報検出装置で検出された姿勢情報と前記位置情報検出装置で検出された位置情報の分散とに基づいて、前記フロント作業機に設定された参照点の位置の分散を算出し、前記参照点の位置の分散を予め定めた統計手法で近似的に座標変換することにより求めた位置と前記参照点との距離が、予め定めた作業目標面と前記参照点との距離と前記作業目標面について予め定めた許容誤差との和よりも大きい場合には低精度状態であると判定する前記参照点の位置の精度判定処理を行い、前記精度判定処理で低精度状態であると判定した場合には、その旨を前記オペレータに通知するものとした。
(2)また、下部走行体と、前記下部走行体に対して旋回可能に設けられた上部旋回体と、前記上部旋回体に取り付けられ、回動可能に連結された複数のフロント部材からなる多関節型のフロント作業機と、前記上部旋回体及び前記フロント作業機に設けられ、前記上部旋回体及び前記フロント作業機の姿勢に関する情報である姿勢情報を検出する姿勢情報検出装置と、前記上部旋回体に設けられ、前記上部旋回体の位置情報及び前記位置情報の分散を測位衛星からの測位信号を用いて検出する位置情報検出装置と、前記姿勢情報検出装置で検出した姿勢情報と前記位置情報検出装置で検出した位置情報とに基づいて、オペレータへの作業案内を行うガイダンスシステムとを備えた作業機械において、前記ガイダンスシステムは、前記姿勢情報検出装置で検出された姿勢情報と前記位置情報検出装置で検出された位置情報の分散とに基づいて、前記フロント作業機に設定された参照点の位置の分散を算出し、前記参照点の位置の分散に基づいて前記参照点の位置を平均値とする正規分布に従う確率密度関数における予め定めた作業目標面の許容誤差以下の領域の積分値である逸脱確率を算出し、前記逸脱確率が予め定めた閾値よりも大きい場合には低精度状態であると判定する前記参照点の位置の精度判定処理を行い、前記精度判定処理で低精度状態であると判定した場合には、その旨を前記オペレータに通知するものとした。
このように構成することにより、測位衛星からの測位信号を用いる位置検出装置による測位精度を適切に評価することによって、施工精度の確保と作業効率低下の抑制とを両立することができる。
(3)また、上記の実施の形態では、(1)又は(2)の作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記ガイダンスシステムは、前記低精度状態であると判定した場合には、前記作業案内を停止するものとした。
(4)また、上記の実施の形態では、(1)又は(2)の作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、姿勢情報検出装置(例えば、慣性計測装置13~16)は、姿勢情報として前記上部旋回体2の方位角を含む情報を検出し、前記ガイダンスシステムは、前記姿勢情報検出装置で検出された姿勢情報と前記位置情報検出装置(例えば、GNSSシステム17)で検出された位置情報の分散とに基づいて、前記フロント作業機1に設定された参照点の位置の分散を算出し、前記参照点の位置の分散に基づいて前記参照点の位置の精度判定処理を行うものとした。
(5)また、上記の実施の形態では、(1)又は(2)の作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記ガイダンスシステムは、前記姿勢情報検出装置(例えば、慣性計測装置13~16)で検出された姿勢情報と前記位置情報検出装置(例えば、GNSSシステム17)で検出された位置情報の分散とに基づいて、前記フロント作業機1に設定された参照点の位置の分散を算出し、前記参照点の位置の分散に予め定めた倍率設定値を乗算した値に基づいて前記参照点の位置の精度判定処理を行うものとした。
(6)また、上記の実施の形態では、(1)又は(2)の作業機械(例えば、油圧ショベル100)において、前記ガイダンスシステムは、作業モードに応じて前記精度判定処理における判定条件を変更するものとした。
<付記>
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内の様々な変形例や組み合わせが含まれる。また、本発明は、上記の実施の形態で説明した全ての構成を備えるものに限定されず、その構成の一部を削除したものも含まれる。また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。