以下に、本発明における海水濾過装置置の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本実施形態における海水濾過装置の構成を示す模式図であり、図2は、海水濾過装置の補水供給路に補水タンクを備えた場合の模式図である。
先ず、図1により海水濾過装置21の構成について説明する。図1において、海水濾過装置21は、取水した海水を濾過処理する濾過部22、濾過部22を逆洗して濾過能力を回復させる逆洗部23、濾過部22と逆洗部23の作動を制御する制御部24を縦型の枠体25に収納し、取水した海水を濾過部22に供給する海水取水経路26と、濾過部22で濾過処理した濾過海水を装置外部に供給する濾過海水供給経路27を備えている。
濾過部22は、海水取水経路26に設けたプレフィルタ装置30と、1次側に海水取水経路26を接続し、2次側に濾過海水供給経路27を接続した中空糸膜モジュール31とから構成されている。
海水取水経路26は取水した海水を中空糸膜モジュール31の1次側に供給する管路であり、枠体25外部の海水取水経路26には、制御部24により作動が制御されるポンプ28が取り付けられており、海水を取水して海水濾過装置21内に取り込んでいる。
また、海水取水経路26のプレフィルタ装置30と中空糸膜モジュール31との間には、制御部24により開閉が制御される電動バルブ32が設けられ、取水した海水の中空糸膜モジュール31への供給を制御している。
このプレフィルタ装置30は、取水した海水が中空糸膜モジュール31に流入するに先立って、海水に含まれるゴミ(土、砂、その他夾雑物)を除去するストレーナであり、本例では、目開き寸法200μmのディスク型ストレーナを使用している。また、プレフィルタ装置30には、図示ない差圧測定装置が装備されており、プレフィルタ装置30の目詰まり異常を検知することができる。
中空糸膜モジュール31は、精密濾過膜(MF膜)若しく限外ろ過膜(UF膜)フィルタを収納しており、デッドエンド方式により原水に含まれる懸濁物質(SS)、一般細菌、病原菌、ウイルス等を濾過除去する。本例では、公称孔径0.01μmで膜面積29m2のUF膜フィルタを使用している。このため、サイズが0.1μm程度であるウイルスまでほぼ完全に除去することができる。
このように、本実施例で使用しているUF膜フィルタでは、膜面積が29m2と濾過処理能力が大きいものを選定し、1回の濾過処理、すなわち中空糸膜モジュールの逆洗を行ってから次回の逆洗が必要となるまでの間の濾過処理で、所要の補水量を濾過処理することができるように選定しているため、補水中は逆洗を実施することなく、速やかに補水することができる。また、濾過海水供給工程が1度の補水で完了するため、補水量の管理も容易である。
中空糸膜モジュール31には、内部に収納されたMF膜又はUF膜のフィルタを逆洗洗浄等する際に、逆洗水を中空糸膜モジュール31の外部に排水するための逆洗水排水ライン33が設けられており、中空糸膜モジュール31から排水された逆洗水等を海水濾過装置21の外部に排水している。また、この逆洗水排水ライン33には、制御部24により開閉が制御される電動バルブ34が設けられ、逆洗水の中空糸膜モジュール31からの排水と、次亜塩素酸ナトリウム(以下、単に「次亜」という。)を含んだ逆洗水の中空糸膜モジュール31内部への保留と排出を制御している。
本発明の海水濾過装置では、枠体25内の縦方向空間スペースに長尺状の中空糸膜モジュール31を立てた状態で配設することにより、中空糸膜モジュール31の垂直方向の設置面積を最少化する様にしており、これにより枠体25の底面面積を最少化している。このように長尺状の中空糸膜モジュール31を縦方向に枠体25内に収納することにより、膜洗浄方法として中空糸膜モジュール31の下部からエアを送り、中空糸膜モジュール31内の膜表面の懸濁物質を剥離させる洗浄方法を実施することが可能であり、図1には図示していないが、逆洗時に中空糸膜モジュール31に空気を供給してエアスクラビング洗浄するコンプレッサーと空気供給管を設けている。中空糸膜モジュール31に収納されたMF膜又はUF膜のフィルタを効果的に逆洗洗浄するためには、これらのエアスクラビング用の装置を設置することが好ましい。なお、中空糸膜モジュール31にも、図示ない差圧測定装置が装備されており、MF膜又はUF膜のフィルタ目詰まり異常を検知することができる。
濾過海水供給経路27は、中空糸膜モジュール31で濾過処理した濾過海水を装置外部に供給するための管路であり、制御部24により開閉が制御される電動バルブ35が設けられ、濾過海水の装置外部への供給を制御している。
逆洗部23は、逆洗水を貯留する逆洗タンク37と、逆洗タンク37に貯留した逆洗水を中空糸膜モジュールに31に圧送してその内部を逆洗する逆洗ポンプ38とから構成されている。
逆洗タンク37は、中空糸膜モジュール31の2次側に取り付けた濾過海水供給経路27から分岐した逆洗水ライン41を介して供給される濾過海水を貯留する容器であり、中空糸膜モジュール31に収納されたMF膜又はUF膜のフィルタを逆洗洗浄する際に、貯留した濾過海水を逆洗水として供給する役割を有している。また、逆洗水ライン41には、制御部24により開閉が制御される電動バルブ42が設けられ、逆洗タンク37への濾過海水の供給を制御している。
逆洗タンク37を海水濾過装置21の上部位置に配置するようにして枠体25内のスペースを有効に活用するとともに、逆洗タンク37の底部に逆洗水を流下させる流出口43を設けたことにより、無動力で逆洗タンク37から逆洗水を流下させて取り出すことができるため、逆洗水の取出し機構を別途設ける必要がなく、海水濾過装置21の構成を簡単化、小型化することができる。本例では、逆洗タンク37はポリエチレン樹脂製であり、容量60Lの角型に成形されている。
この逆洗タンク37の内部には、水位計44が設けられており、この水位計44によって、逆洗タンク37が逆洗水で満水になったこと、また逆洗タンク37が空になったことを制御部24が検知することができる。
逆洗タンク37の流出口43と中空糸膜モジュール31の2次側に取り付けた濾過海水供給経路27とを連結する流出ライン45が設けられており、この流出ライン45と濾過海水供給経路27とを介して逆洗タンク37から中空糸膜モジュール31に逆洗水を供給可能に構成されている。
逆洗水は、逆洗タンク37から自重で流下しており、無動力で取り出すことができるが、逆洗水を中空糸膜モジュール31の2次側に圧送し、中空糸膜モジュール31に収納されたMF膜又はUF膜のフィルタを逆洗洗浄するためにはポンプで逆洗水を圧送する必要であるので、流出ライン45に逆洗ポンプ38を設けている。
このように、逆洗ポンプ38には逆洗水の揚送分の能力は不要であり、中空糸膜モジュール31に収納されたMF膜又はUF膜の逆洗に必要な最小限の能力で足りるので、逆洗ポンプ38の能力を抑制することができる。本例では、逆洗ポンプ38として、ステンレス製の横軸渦巻ポンプ(0.4kW、32A)を使用している。海水濾過装置21で最も電力を消費するのはこの逆洗ポンプ38であるが、本例の逆洗ポンプ38の諸元は前記の通りであるので、電源として家庭用AC100Vコンセントの使用が可能である。
さらに、流出ライン45の逆洗ポンプ38の2次側には、逆止弁48を設け、濾過海水供給経路27から濾過海水が流入することを防止している。
なお、本例では、上述した海水取水経路26、濾過海水供給経路27、逆洗水排水ライン33、逆洗水ライン41、流出ライン45は、内径25AのHIVP管(耐衝撃性硬質ポリ塩化ビニル管)を使用して構成している。
また、図1に示すように、本発明の海水濾過装置21には、逆洗タンク37に充水する逆洗用の濾過海水に消毒用の次亜を供給する手段を設けている。消毒用次亜を貯留する次亜タンク49を配するとともに、中空糸膜モジュール31の2次側に取り付けた濾過海水供給経路27の逆洗水ライン41が分岐する位置よりも上流側に次亜注入部50を設け、次亜タンク49と次亜注入部50との間は、次亜注入ライン51で連結されている。本例では、次亜タンク49はポリエチレン樹脂製で、容量25Lの角型に成形されている。
また、次亜注入ライン51には次亜注入用の次亜注入ポンプ52が設けられ、この次亜注入ポンプ52により次亜タンク49に貯留している次亜を次亜注入部50に供給し、濾過海水供給経路27内から逆洗ライン41に流れる濾過海水に注入している。
本発明の海水濾過装置21においては、上記のように、中空糸膜モジュール31と逆洗タンク37との間に次亜注入部50を設け、中空糸膜モジュール31で濾過処理された濾過海水が逆洗タンク37に充水される前に次亜を注入するようにしているため、逆洗タンク37内で濾過海水と注入された次亜を一様に混合させ、所定濃度の次亜を含有する逆洗水を確実に得ることができる。
このように、逆洗タンク37内で濾過海水と次亜注入部50で注入された次亜を一様に混合させるようにした理由を以下に詳述する。
本発明の海水濾過装置21のような小規模な濾過装置では、逆洗水の流量は、最大でも52.5L/min程度であり、また、必要とされる逆洗水の次亜濃度は、1mg/L(1ppm)程度である。通常使用される有効塩素濃度12%の次亜を注入し、最大流量52.5L/min程度の逆洗水の次亜濃度を1mg/L程度とするためには、約0.5ml/minの流量で次亜を注入する必要があるが、このような微量を連続して注入することができるポンプは存在しない。そのため、従来は、汎用のポンプの最小注入量の下限付近でポンプを間欠的に作動させ、例えば、一回当たり0.1ml程度の注入を1分間に5回行うというように対応していた。しかしながら、このような方法によって次亜を注入した場合、中空糸膜モジュールに供給される逆洗水の次亜濃度にはバラツキが生じ、効果的にフィルタの逆洗洗浄を行うことができない。
これに対し、本発明の海水濾過装置では、中空糸膜モジュール31と逆洗タンク37との間に次亜注入部50を設け、中空糸膜モジュール31で濾過処理された濾過海水が逆洗タンク37に充水される前に次亜を注入することにより、逆洗タンク37内に充水される濾過海水の流れによって逆洗タンク37内で濾過海水と注入された次亜を撹拌し、一様に混合するようにしている。このため、逆洗タンク37内に濾過海水を充水している間に、逆洗タンク37の容量に対応する分量の次亜を次亜注入部50から注入するだけで、特段にポンプの作動状況を操作することなく、逆洗タンク37が満水となった時点で、逆洗タンク37内には一様な次亜濃度の逆洗水が貯留されることになる。例えば、容量60Lの逆洗タンク37内で次亜濃度1mg/Lの逆洗水を生成するためには、有効塩素濃度12%の次亜であれば、0.6ml程度注入すれば足りる。
すなわち、次亜注入部50から濾過海水に注入する次亜の分量は、逆洗タンク37の容量に対応して所定の次亜濃度の逆洗水を得ることができる量であれば良いので、次亜注入ポンプ52の運転は、このポンプが連続注入可能な流量で所定の次亜供給量に達する時間だけ運転すれば良く、逆洗水に含まれる次亜の濃度管理を簡単かつ正確に行うことができる。
なお、逆洗タンク内の逆洗水を所定の次亜濃度とする方法としては、次亜注入以外の他の方法を用いても良い。例えば、次亜タンク49や次亜注入ポンプ52を用いることなく、市販の電解次亜生成装置を用いても良い。
制御部24は、海水濾過装置21の運転を制御する装置であり、後述する各センサの計測結果に基づき、海水濾過装置21が濾過処理工程、前逆洗工程、逆洗水保留工程、後逆洗工程の各工程を順次移行して運転ができるように、ポンプ28の作動、濾過海水(逆洗水)の逆洗タンク37への貯留、次亜注入用の次亜注入ポンプ52の作動、逆洗ポンプ38の作動を制御しており、これらの制御に伴って電動バルブ32、34、35、42の開閉操作を行っている。
次いで、図2により、海水濾過装置21の濾過海水供給経路27に補水タンク55を有する補水供給経路56を設けた場合について説明する。図2において、矢印付きの実線は海水が流れる管路を示し、破線は制御信号等の流れを示す。また、海水濾過装置21については前述したとおりであるので説明を省略する。
補水タンク55は、海水濾過装置21で濾過処理された清浄で衛生的な濾過海水を貯留するためのタンクであり、海水濾過装置21からは濾過海水供給経路27を介して濾過処理された濾過海水が供給される。本例では、補水タンク55はポリエチレン樹脂製で、容量2m3の角型に成形されている。
補水タンク55の底面には、補水供給管57が取り付けられており、この補水供給管57を介して貯留した清浄で衛生的な濾過海水を外部に補水することができる。また、補水供給管57には、海水濾過装置21の制御部24により開閉が制御される電動バルブ58と、作動が制御されるポンプ59が設けられている。
これに加え、補水タンク55には、補水タンク55内に所要容量の濾過海水が貯留されたことを検知する上限水位センサ61と、補水タンク55内に貯留されていた濾過海水が下限界まで流出したことを検知する下限水位センサ62が設置されており、検知信号、すなわち補水要求指令を海水濾過装置21の制御部24に送信している。また、上限水位センサ61、下限水位センサ62の代わりに図示しない養殖水槽に水位センサを設け、制御部24に水位信号を送信するようにすることもできる。
海水濾過装置21の制御部24は、これらの信号に基づいて海水濾過装置21の作動を制御するとともに、電動バルブ58の開閉とポンプ59の作動を制御し、補水タンク55に貯留した清浄な濾過海水を養殖システムや水族館などの水槽に補水する。
以上のとおり、海水濾過装置21に補水タンク55を有する補水供給経路56を設けた場合には、補水タンク55に一定量の濾過海水が貯留された後に一度に補水を実施することができるので、補水量の管理を確実かつ容易に実施することができる。なお、補水タンク55に取り付ける上限水位センサ61の取付位置は、このセンサが作動した段階でちょうど一回部の補水量が補水タンク55内に貯留されるように、季節等の影響を考慮して調整することが好ましい。
なお、海水濾過装置21から所定量の濾過海水を補水するに当たっては、補水供給経路56に補水タンク55を設ける代わりに流量計を設け、この流量計の測定値を制御部24に送信し、測定値を積算して補水量を求めることもできる。
次に、本発明の補水用海水の濾過方法について説明する。本発明における補水用海水の濾過方法は中空糸膜モジュールの逆洗方法に特徴を有している。この中空糸膜モジュールの逆洗方法は、濾過処理工程が終了した直後に低濃度の遊離残留塩素を含む逆洗水により中空糸膜モジュールを逆洗する前逆洗工程を行った後、中空糸膜モジュール内に低濃度の遊離残留塩素を含む逆洗水を保留する逆洗水保留工程を設け、次の濾過処理工程を開始する直前にこの保留した低濃度の遊離残留塩素を含む逆洗水を中空糸膜モジュールから排出した後、遊離残留塩素を含まない逆洗水により中空糸膜モジュールを逆洗する後逆洗工程を行うことを特徴としている。
このような逆洗方法により中空糸膜モジュールの逆洗を行うこととした理由は、以下のとおりである。
魚介類を養殖する閉鎖循環型陸上養殖システムに補水する海水の量は、施設の規模により違いはあるものの、通常は1日当たり数m3程度であるが、この程度の量の海水を濾過処理するために必要な海水濾過装置の稼働時間は、1時間程で十分である。したがって、海水濾過装置は、1日の大半を海水の濾過処理を行わずに過ごすことになる。海水濾過装置が濾過処理を行わない状態であると、中空糸膜モジュールの逆洗実施後に装置内部に残留した逆洗水には細菌、ウイルス等が再発生し、補水用の海水としては使用できない所謂「死に水」となる。
また、装置内部に遊離残留塩素が残留している状態で新たに取水した海水を濾過処理すると、補水用の濾過海水が遊離残留塩素を含むこととなり、この遊離残留塩素を含む濾過海水を閉鎖循環型陸上養殖システムに補水した場合には、養殖システム内の紫外線照射装置から照射される紫外線により、養殖水中に魚介類にとって有害な臭素酸が発生することになるだけでなく、生物濾過槽の微生物を死滅させる問題がある。
本発明の補水用海水の濾過方法は、以上の問題を解決するものである。すなわち、装置内部に残留した海水には細菌、ウイルス等が再発生する問題に対しては、所要量の補水用の海水の濾過処理が完了し、低濃度の遊離残留塩素を含む逆洗水により中空糸膜モジュールの逆洗が終了した後、低濃度の遊離残留塩素を含む逆洗水を中空糸膜モジュール内に貯留し、次回の濾過処理を行うまでの間は、この保留状態を維持する逆洗水保留工程を設けたものである。これにより、補水要求指令がいつ発信されるか不明の状況下においても、海水濾過装置で濾過処理が行われない間には、中空糸膜モジュール内や中空糸膜モジュールの2次側の管路内に低濃度の遊離残留塩素を含む逆洗水が留まるので、これらの内部で細菌、ウイルス等の再発生を防止することができる。
なお、逆洗水保留工程の間、中空糸膜モジュール内で細菌、ウイルス等が再発生することを防止するためには、逆洗水保留工程を通じて中空糸膜モジュール内等に貯留されている逆洗水の遊離残留塩素濃度が少なくとも0.1ppm以上であることが必要なので、逆洗水保留工程において中空糸膜モジュールに貯留する遊離残留塩素を含む逆洗水の遊離残留塩素濃度は、この要求に基づいて設定する必要がある。
また、補水する濾過海水に遊離残留塩素が含まれることを防止する対策としては、次の濾過処理工程を開始するに先立ち、中空糸膜モジュール内に貯留した低濃度の遊離残留塩素を含む逆洗水を排出させた後、遊離残留塩素を含まない逆洗水で中空糸膜モジュール内を逆洗し、中空糸膜モジュール内に残留する遊離残留塩素を洗い流す後逆洗工程を設けている。これにより、次の濾過処理工程で得た濾過海水には遊離残留塩素が含まれることがないので、安心して紫外線照射システムや生物濾過槽を備えた閉鎖循環型陸上養殖システムに補水することができる。
以上説明したように、本発明の補水用海水の濾過方法は、1日当たり、短時間だけ濾過処理を実行すれば足りる海水濾過処理装置のためのものであり、安全な濾過海水を閉鎖循環型陸上養殖システムや水族館などの水槽に補水することができる。
以下に、海水濾過装置21の運転状況を図3に示す海水濾過装置の制御フローと図4乃至図9に示す海水濾過装置21の各工程における作動状況に基づいて説明する。
図3の制御フローは、上述した補水用海水の濾過方法を海水濾過装置21に適用した場合の制御の流れを示すものである。なお、図3において、ステップ101、103、106における水位とは、補水タンク又は養殖水槽の水位を意味し、ステップ103、106における下限水位とは、補水タンク又は養殖水槽へ補水を開始する規定水位を意味し、ステップ103の上限水位とは、補水タンク又は養殖水槽への補水を停止する 水位を意味する。
また、図4乃至図9において、実線で示す管路は原水や濾過水等が流れていることを示し、破線で示す管路は原水や濾過水等が流れていないことを示す。また、白色で表現された電動バルブは開状態であることを示し、黒色で表現された電動バルブは閉状態であることを示す。また、白色で表現されたポンプは作動状態であることを示し、黒色で表現されたポンプは停止状態であることを示す。
先ず、ステップ101において、補水タンク55を有する補水供給経路56を設けた場合には下限水位センサ62の検知結果に基づき、補水タンク55を備えていない場合には図示しない養殖水槽に設置した水位計の検知結果に基づき、補水タンク55又は養殖水槽の水位が補水すべき下限水位に達したか否かが制御部24で判断される。補水タンク55又は養殖水槽の水位が補水すべき下限水位よりも高い場合には、海水濾過装置21は濾過処理を行わない待機状態を維持するが、補水すべき下限水位に達した場合には、これを補水要求指令としてステップ102に移行する。
ステップ102では、制御部24からの指令に基づき、海水濾過装置21が海水取水工程、濾過処理工程及び濾過海水供給工程を開始する。図4は、海水濾過装置21の運転における海水取水工程、濾過処理工程及び濾過海水供給工程を示している。これらの工程(濾過処理工程等)は、取水した海水を濾過処理して清浄な濾過海水を得るとともに、装置外に補水用の濾過海水を供給する連続した工程である。海水を取水するポンプ28により取水された海水は、海水供給経路26を介してプレフィルタ装置30を通過し、原海水に含まれるゴミが除去された後、中空糸膜モジュール31に流束1(m3/m2・日)程度で供給される。なお、この海水取水工程、濾過処理工程及び濾過海水供給工程においては、濾過海水供給経路27に設けた電動バルブ35を開状態とし、逆洗ライン41に設けた電動バルブ42、及び逆洗水排水ライン33に設けた電動バルブ34を閉状態とし、流出ライン45に設けた逆洗ポンプ38及び次亜供給ライン51に設けた次亜注入ポンプ52を停止状態にする。また、補水タンク55の補水供給管57に取り付けた電動バルブ58を閉状態、ポンプ59を停止状態とする。
中空糸膜モジュール31で濾過処理され、原海水に含まれる一般細菌、病原菌、ウイルス、懸濁物質(SS)などが除去された濾過海水は、濾過海水供給経路27を介して装置外に供給される。
次いで、ステップ103において、補水タンク55に設置した上限水位センサ61又は図示しない養殖水槽に設置した水位計の検知結果に基づき、補水タンク55の水位が上限水位センサ61の位置に達したか、養殖水槽の水位が上限に達したか否かが制御部24で判断される。補水タンクの水位又は養殖水槽の水位が上限に達していない場合には、海水取水工程、濾過処理工程及び濾過海水供給工程が継続され、水位が上限に達した場合には、これを補水完了指令として制御部24からの指令によりポンプ28が作動を停止するとともに、電動バルブ35は閉状態となり、海水取水工程、濾過処理工程及び濾過海水供給工程は終了し、ステップ104に移行する。
ステップ104では、制御部24からの指令に基づき、海水濾過装置21がモジュール逆洗工程の内の前逆洗工程を開始する。図5は、前逆洗工程を行う準備として、逆洗タンク37に中空糸膜モジュール31で濾過処理した濾過海水を逆洗水として貯留する貯留工程を示している。
貯留工程では、図5に示すように、海水を取水するポンプ28を作動させ、逆洗水ライン41に設けた電動バルブ42を開状態とするとともに、次亜注入ライン51に設けた次亜注入ポンプ52を作動させる。また、濾過海水供給経路27に設けた電動バルブ35と、逆洗水排水ライン33に設けた電動バルブ34を閉状態とし、流出ライン45に設けた逆洗ポンプ38を停止状態とする。
この結果、中空糸膜モジュール31で濾過処理された後に次亜注入部50で次亜が注入された濾過海水は、逆洗ライン41を介して逆洗タンク37に貯留される。本例では、容量60Lの逆洗タンク37に逆洗水を貯留するのに要する時間は2~3分程度である。また、貯留工程での次亜の注入量は、逆洗タンク37内で濾過海水と一様に混合された次亜水溶液の状態で3.0ppm未満の次亜濃度で、後逆洗工程直前で遊離残留塩素濃度で0.1ppm以上となる量である。
中空糸膜モジュール31の逆洗水として、このように低濃度の次亜水溶液を使用するようにしているので、逆洗によりモジュール内に収納したMF膜又はUF膜を劣化させることがないだけでなく、装置外部への排水する逆洗水も安全で中和処理が不要であるため、海水濾過装置の運用が容易、かつ経済的であるだけでなく、環境への負担が非常に低いという利点もある。
なお、逆洗タンク37に貯留される濾過海水の流れによって逆洗タンク37内で濾過海水と注入された次亜を撹拌し、一様に混合する効果を十分に発揮させるためには、貯留工程の初期段階に次亜を注入した方が、逆洗タンク37に充水される濾過海水による撹拌効果が大きく、濾過海水と次亜が一様に混合し易いため、次亜の注入は、貯留工程の初期段階に行うことが好ましい。
逆洗タンク37が満水となったことを逆洗タンク37に設けた水位計44が検知すると貯留工程は終了し、直ちに、中空糸膜モジュール31に収納されたMF膜又はUF膜の2次側から1次側に逆洗水を通水させ、フィルタ表面やフィルタ細孔内に付着した汚染物質を除去する前逆洗工程へと移行する。
前逆洗工程では、ポンプ28の運転を停止するとともに、図6に示すように、海水取水経路26に設けた電動バルブ32、逆洗水ライン41に設けた電動バルブ42、並び濾過海水供給経路27に設けた電動バルブ35を閉状態とする。また、次亜注入ライン51に設けた次亜注入ポンプ52の作動を停止させた後、逆洗水排水ライン33に設けた電動バルブ34を開状態とするとともに、逆洗ポンプ38を作動させる。
これにより、逆洗タンク37に貯留された低濃度の遊離残留塩素を含む逆洗水は、流出口43から流下して流出ライン45に流入した後、逆洗ポンプ38で加圧されて逆止弁48を通過した後、濾過海水供給経路27を介して中空糸膜モジュール31内に2次側から供給され、収納されたMF膜又はUF膜のフィルタを流束1.5(m3/m2・日)程度で逆洗洗浄した後、逆洗水排水ライン33を介して装置の外部に排水される。
なお、この前逆洗工程では、前述したように、図示しないコンプレッサーと空気供給管から中空糸膜モジュール31の下部に空気を供給し、エアスクラビング洗浄を行っている。
前述したように、貯留工程において逆洗タンク37に貯留する濾過海水に次亜を注入し、一様な次亜濃度となるようにしているため、逆洗工程で使用する逆洗水には所定濃度の次亜が一様に含まれており、単に次亜を含まない逆洗水を用いて逆洗洗浄した場合や、次亜の濃度にバラツキがある逆洗水を用いて逆洗洗浄した場合とは異なり、逆洗水に一様に含まれる残留塩素の酸化力によりフィルタ表面やフィルタ細孔内に付着したフミン質や微生物由来のタンパク質等の有機物を効果的に分解、除去し、フィルタの濾過能力を回復させることができる。なお、本発明における逆洗方法では、逆洗水に含まれる次亜の濃度を3.0ppm未満の低濃度としているので、MF膜又はUF膜を劣化させることなく膜に付着したファウリング物質等を除去して中空糸膜の濾過能力を回復させることができる。
この前逆洗工程の実行時間は制御部24により制御され、設定した時間(例えば、約1分間)だけ中空糸膜モジュール31に収納されたMF膜又はUF膜のフィルタを逆洗洗浄した後に終了し、ステップ105に移行する。なお、逆洗タンク37に設けた水位計44が逆洗タンク37から逆洗水が全量流出したことを検知した段階で前逆洗工程を終了するようにしても良い。
ステップ105では、制御部24からの指令に基づき、海水濾過装置21がモジュール逆洗工程の内の逆洗水保留工程を開始する。本工程は、次に濾過処理工程を実行するまでの間、中空糸膜モジュール31内に低濃度の遊離残留塩素を含む逆洗水を保留する工程である。中空糸膜モジュール31内に貯留する遊離残留塩素を含む逆洗水の遊離残留塩素濃度を、後逆洗工程直前、すなわち逆洗水保留工程終了時に0.1ppm以上であるような濃度とすることにより、逆洗水保留工程間における中空糸膜モジュール内の遊離残留塩素濃度を細菌等の再発生を防止するのに十分な濃度に維持することができる。
なお、逆洗水保留工程終了時に、中空糸膜モジュール内に保留された遊離残留塩素を含む逆洗水の遊離残留塩濃度が0.1ppm以上であるためには、遊離残留塩素濃度がどの程度の遊離残留塩素を含む逆洗水を中空糸膜モジュールに貯留すれば良いかについては、中空糸膜モジュール内での遊離残留塩濃度の低下状況は、モジュールの構成、サイズ、また季節等により異なるため、実際に海水濾過装置等の設備を使用して決定する必要がある。
図7は、海水濾過装置21の運転における逆洗水保留工程を示している。逆洗水保留工程では、前逆洗工程では開状態としていた逆洗水排水ライン33に設けた電動バルブ34を閉状態とするとともに、前逆洗工程では作動させていた逆洗ポンプ38を停止状態とする。このようにすることで、中空糸膜モジュール31内に低濃度の遊離残留塩素を含む逆洗水が保留される。このように中空糸膜モジュール31内に低濃度の遊離残留塩素を含む逆洗水を保留することにより、次に濾過処理工程を実行するまでの間に、中空糸膜モジュール31内に細菌等が再発生するおそれを無くすことができる。中空糸膜モジュール31内に低濃度の遊離残留塩素を含む逆洗水を保留した状態でステップ106に移行する、
ステップ106では、補水タンク55に設置した下限水位センサ62又は図示しない養殖水槽に設置した水位計の検知結果に基づき、補水タンク55の水位が下限水位センサ62の位置に達したか、養殖水槽の水位が下限に達したか否かが制御部24で判断される。補水タンク55又は養殖水槽の水位が補水すべき下限水位よりも高い場合には、海水濾過装置21は逆洗水保留工程を維持するが、補水すべき水位に達した場合には、これを補水要求指令とし、制御部24は補水準備信号を出力し、ステップ107に移行する。
本実施例においては、補水タンクなどにおいて補水すべき下限水位に達した場合、具体的には、下限水位センサ62からの信号を補水要求指令として濾過処理工程などに移行しているが、水位センサに限らず、画像センサからの情報やIOT技術を利用したスマートフォンからの出力により補水要求指令を得るようにしてもよい。
また、補水要求指令を受けた際に、直ちに海水の濾過処理を開始できるように、補水タンク55内の下限水位センサ62のやや上方に、図2に示すような補水準備センサ63を配置し、補水タンク55内の水位が補水準備センサ63の位置まで下がったときに補水要求指令を出してステップ107に移行して後逆洗工程を行い、遊離残留塩素を含まない逆洗水でMF膜やUF膜の洗浄を1回程度行った後、そのまま待機状態とするようにしても良い。これによれば、わずかな待機時間を経て、補水タンク55内の水位が下限センサ62の位置まで下がった際に、後逆洗工程に要する時間を最小限とし、速やかに海水の濾過処理を開始することができる。なお、補水準備センサの代わりにタイマーを用いるようにしてもよい。
ステップ107では、モジュール逆洗工程の内、遊離残留塩素を含まない逆洗水で中空糸膜モジュール31を逆洗する後逆洗工程が行われるが、制御部24からの補水準備信号に基づき、後逆洗工程を行う準備として、先ず、中空糸膜モジュール31内に保留した遊離残留塩素を含む逆洗水を排出する準備工程が行われる。図8は、この準備工程を示しており、逆洗水排水ライン33に設けた電動バルブ34を開状態として、中空糸膜モジュール31内に保留した遊離残留塩素を含む逆洗水を排出する。
次の準備として、遊離残留塩素を含まない逆洗水を逆洗タンク37に貯留する貯留工程が行われる。図9は、後逆洗工程を行う準備として、逆洗タンク37に遊離残留塩素を含まない逆洗水を貯留する貯留工程を示している。
この貯留工程では、図9に示すように、海水を取水するポンプ28を作動させ、逆洗水ライン41に設けた電動バルブ42を開状態とする。また、濾過海水供給経路27に設けた電動バルブ35と、逆洗水排水ライン33に設けた電動バルブ34を閉状態とし、次亜注入ライン51に設けた次亜注入ポンプ52と流出ライン45に設けた逆洗ポンプ38を停止状態とする。これにより、中空糸膜モジュール31で濾過処理されたままで次亜を含まない濾過海水が逆洗ライン41を介して逆洗タンク37に貯留される。逆洗水の貯留に要する時間は、前述のとおり2~3分程度である。
逆洗タンク37が遊離残留塩素を含まない逆洗水で満水となったことを逆洗タンク37に設けた水位計44が検知すると貯留工程は終了し、直ちに、中空糸膜モジュール31に収納されたMF膜又はUF膜の2次側から1次側に遊離残留塩素を含まない逆洗水を通水させ、中空糸膜モジュール31の内側やフィルタ表面、フィルタ細孔内に残留した遊離残留塩素を除去する後逆洗工程へと移行する。
海水濾過装置21の後逆洗工程では、ポンプ28の運転を停止するとともに、海水取水経路26に設けた電動バルブ32、逆洗水ライン41に設けた電動バルブ42、並び濾過海水供給経路27に設けた電動バルブ35を閉状態とする。したがって、後逆洗工程における海水濾過装置21の作動状況は、図6で示した前逆洗工程時と同じ状態となる。
これにより、逆洗タンク37に貯留された遊離残留塩素を含まない逆洗水は、流出口43から流下して流出ライン45に流入した後、逆洗ポンプ38で加圧されて逆止弁48を通過した後、濾過海水供給経路27を介して中空糸膜モジュール31内に2次側から供給される。中空糸膜モジュール31内側や収納されたMF膜又はUF膜のフィルタを洗浄し、残留する遊離残留塩素を除去した逆洗水は、逆洗水排水ライン33を介して装置の外部に排水される。逆洗工程は、逆洗タンク37に設けた水位計44が逆洗タンク37から逆洗水が全量流出したことを検知するまで実施する。
なお、この逆洗工程でも、図示しないコンプレッサーと空気供給管から中空糸膜モジュール31の下部に空気を供給し、エアスクラビング洗浄を行っている。
中空糸膜モジュール31内側や収納されたMF膜又はUF膜のフィルタに残留する遊離残留塩素を十分に除去するためには、以上説明した貯留工程と逆洗工程を複数回繰り返す必要があるので、この繰り返し回数をPLC(Programmable Logic Controller)等により制御部24に記憶させ、自動運転可能とすることが好ましい。
遊離残留塩素を含まない逆洗水の貯留工程と逆洗工程を所定の回数繰り返し、後逆洗工程が終了した後、ステップ102に移行し、海水取水工程、濾過処理工程及び濾過海水供給工程を再開し、補水用の濾過海水の製造、供給(補水)を開始するが、前回の濾過処理工程が終了した後、次の濾過処理工程が再開されるまでの間、中空糸膜モジュール31に遊離残留塩素を含む逆洗水を保留する逆洗水保留工程を設けているので、中空糸膜モジュール31内での細菌やウイルスの再発生を防止することができ、また、逆洗水保留工程終了後の濾過処理工程再開直前に後逆洗工程を設け、遊離残留塩素を含まない逆洗水で中空糸膜モジュール内を逆洗して中空糸膜モジュール内側や収納されたMF膜又はUF膜のフィルタに残留する遊離残留塩素を除去しているので、再開した濾過処理工程において、細菌やウイルス並びに遊離残留塩素を含まない安全な補水用の濾過海水を補水することができる。
続いて、以下に、本発明における海水濾過装置の他の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図10は、他の実施形態における海水濾過装置の構成を示す模式図であり、本図により海水濾過装置71の構成について説明する。なお、図10に示す海水濾過装置71において、図1に示す海水濾過装置21と同一の構成要素には同一の符号を付し、以下において、重複する説明を省略する。
図10に示す海水濾過装置71と図1に示す海水濾過装置21との違いは、海水濾過装置21では、中空糸膜モジュール31で濾過処理して逆洗タンク37に貯留した逆洗水を中空糸膜モジュール31を経由して装置外に排水するように構成されているのに対し、海水濾過装置71では、中空糸膜モジュール31で濾過処理して逆洗タンク37に供給された濾過海水を逆洗タンク37から直接装置外に排水するように構成されている点である。
このため、海水濾過装置71では、逆洗タンク37の底部に流出口43の他に排水口72を設け、この排水口72に排水ライン73を取付けている。排水ライン73には、制御部24により開閉が制御される電動バルブ74が設けられるとともに、排水口72への接続側と反対側の排水ライン73の先端は逆洗水排水ライン33に電動バルブ34の下流側で接続され、逆洗タンク37から逆洗水排水ライン33を介して濾過海水を直接装置外部に排水可能に構成されている。
なお、流出口43の他に別途排水口72を設けることなく、流出ライン45の流出口43と逆洗ポンプ38との間で排水ライン73を分岐するように構成することもできるし、排水ライン73の先端を逆洗水排水ライン33に接続することなく装置外に突出させ、排水ライン73からそのまま排水可能とすることもできる。
また、本例では、排水ライン73は、海水取水経路26、濾過海水供給経路27、逆洗水排水ライン33、逆洗水ライン41、流出ライン45と同様に、内径25AのHIVP管(耐衝撃性硬質ポリ塩化ビニル管)を使用して構成している。
上述のとおり、海水濾過装置71の海水濾過装置21との違いは、海水濾過装置71では、逆洗タンク37に供給された濾過海水を逆洗タンク37から排水ライン73を経由して直接装置外に排水可能な点だけであり、その他の構成要素は同一であるので、海水濾過装置71は、図2に示すように、濾過海水供給経路27に補水タンク55を有する補水供給経路56を設け、一部の制御フローを除き、海水濾過装置21と同様に運転して補水を実施することができる。
このため、海水濾過装置71の制御フローと海水濾過装置21の制御フローとの間の相違点は、図3に示す制御フローのステップ107の後逆洗工程のみであり、他のステップは同じであるので、以下、海水濾過装置71のステップ107と海水濾過装置21のステップ107との間の相違点と相違する理由を説明し、海水濾過装置71の制御フローのその他のステップについては説明を省略する。
海水濾過装置21の制御フローのステップ107では、前述したように、制御部24からの補水準備信号に基づき、中空糸膜モジュール31内に保留した遊離残留塩素を含む逆洗水を排出する準備工程が行われた後、遊離残留塩素を含まない逆洗水を逆洗タンク37に貯留する貯留工程が行われ、逆洗タンク37が満水になると逆洗水タンク37から中空糸膜モジュール31に収納されたMF膜又はUF膜の2次側から1次側に遊離残留塩素を含まない逆洗水を通水させ、中空糸膜モジュール31の内側やフィルタ表面、フィルタ細孔内に残留した遊離残留塩素を除去する逆洗工程を行う。
この時、海水濾過装置21は、図11(a)に示すように、ステップ107の後逆洗工程において貯留工程と逆洗工程のセットを所定回数繰り返し、中空糸膜モジュール31内側や収納されたMF膜又はUF膜のフィルタに残留する遊離残留塩素を十分に除去した後、ステップ102に移行する。
このように、海水濾過装置21では、後逆洗工程のための機構を別途設けることなく、前逆洗工程のために設けた逆洗部23を利用して後逆洗工程を行っているため、海水濾過装置21の構成が簡単になる反面、前逆洗工程により中空糸膜モジュール31の内側やフィルタ表面、フィルタ細孔内に残留した遊離残留塩素を除去するためには、後逆洗工程で貯留工程と逆洗工程のセットを所要回数繰り返す必要があり、ステップ107の所要時間が長くなる。
これに対し、図10に示すように、海水濾過装置71では、逆洗タンク37の底部に排水口72を設け、この排水口72に制御部24により開閉が制御される電動バルブ74を設けた排水ライン73を取付け、別途、後逆洗工程のための機構を設けているため、装置構成がやや複雑になっている。
これにより、海水濾過装置71の後逆洗工程では、取水した遊離残留塩素を含まない海水を中空糸膜モジュール31で連続的に濾過処理することにより、中空糸膜モジュール31内側や収納されたMF膜又はUF膜のフィルタに残留する遊離残留塩素を除去し、中空糸膜モジュール31の2次側から流出した遊離残留塩素を含む濾過海水を逆洗水ライン41、逆洗タンク37を経由して直接装置外に排水することができる。
従って、海水濾過装置71では、図11(b)に示すように、ステップ107の後逆洗工程においては、準備工程の他には、取水した遊離残留塩素を含まない海水を中空糸膜モジュール31で連続的に濾過処理した後、逆洗水ライン41、逆洗タンク37を経由して装置外に排水する濾過排水工程のみを実施する。
図12は、海水濾過装置71の後逆洗工程における作動状況を示している。この後逆洗工程では、図12に示すように、海水を取水するポンプ28を作動させ、海水取水経路26に設けた電動バルブ32と、逆洗水ライン41に設けた電動バルブ42と、排水ライン73に設けた電動バルブ74とを開状態とする。また、濾過海水供給経路27に設けた電動バルブ35と、逆洗水排水ライン33に設けた電動バルブ34とを閉状態とし、次亜注入ライン51に設けた次亜注入ポンプ52と、流出ライン45に設けた逆洗ポンプ38を停止状態とする。
これにより、海水取水経路22を介して取水した遊離残留塩素を含まない海水を中空糸膜モジュール31で連続的に濾過処理することにより、中空糸膜モジュール31内側や収納されたMF膜又はUF膜のフィルタに残留する遊離残留塩素を除去することができるとともに、中空糸膜モジュール31の2次側から濾過海水供給経路27に流出した遊離残留塩素を含む濾過海水を逆洗水ライン41、逆洗タンク37を経由して装置外に排水する濾過排水工程を実施することができる。
このように、海水濾過装置71の後逆洗工程は、準備工程の他に、取水した遊離残留塩素を含まない海水を中空糸膜モジュール31で連続的に濾過処理して装置外に排出する濾過排水工程のみを実行すればよく、海水濾過装置21で実施する遊離残留塩素を含まない逆洗水で中空糸膜モジュール内を逆洗する後逆洗工程の様に、貯留工程と逆洗工程のセットを所定回数繰り返す必要がないので、遊離残留塩素を含まない逆洗水で中空糸膜モジュール内を逆洗する方法よりも短時間で中空糸膜モジュール内に残留している遊離残留塩素を除去することができる。
また、次の濾過処理工程において遊離残留塩素を含まない補水用の濾過海水を得ることができるため、補水した濾過海水を含む養殖水に紫外線を照射して殺菌しても、養殖水中に魚介類にとって有毒な臭素酸が発生するおそれがなく、また生物濾過槽の微生物を死滅させることがない。
本発明の海水濾過装置のように、中空糸膜モジュール31にMF膜又はUF膜を収納している場合には、一般的に懸濁物質、細菌、原虫、コロイド物質等を濾過して除去することができるが、溶解性有機物質、ウイルス、イオン物質等まで濾過処理する必要がある場合には、RO膜により濾過処理する必要がある。RO膜により濾過処理する場合には、海水濾過装置71の後段にRO膜を収納したRO膜モジュールを接続し、本装置を一種のプレフィルタとして使用することができるが、RO膜に使用される逆浸透膜は芳香族ポリアミド系複合逆浸透膜であり、遊離残留塩素を含む水を濾過処理すると分離機能層が劣化してしまうため、遊離残留塩素を含まない濾過海水を供給する必要がある。
海水濾過装置71では、図10に示すように、逆洗タンク37に流出ライン45の他にも排水ライン73を設けているので、例えば、排水ライン73の電動バルブ74の2次側でRO膜モジュールへの供給ラインを分岐させることにより、RO膜モジュールに遊離残留塩素を含まない濾過海水を供給することができる。この場合、海水濾過装置71では、中空糸膜モジュール31を逆洗する際に遊離残留塩素を含む濾過海水を逆洗タンク37に貯留するので、遊離残留塩素を含まない濾過海水をRO膜モジュールに供給できるようにするためには、次亜を含まない濾過海水を逆洗タンク37に貯留した後、逆洗水排水ライン33を介して装置外に排出することにより、逆洗タンク37、逆洗水ライン41、流出ライン45に残った遊離残留塩素を除去するすすぎ処理を複数回実施する必要がある。
続いて、以下に、本発明における海水濾過装置のさらに他の実施形態を図面に基づいて説明する。図13は、さらに他の実施形態における海水濾過装置の構成を示す模式図であり、本図により海水濾過装置81の構成について説明する。なお、図13に示す海水濾過装置81において、図10に示す海水濾過装置71と同一の構成要素には同一の符号を付し、以下において、重複する説明を省略する。
図13に示す海水濾過装置81と図10に示す海水濾過装置71との違いは、海水濾過装置71では、逆洗タンク37の底部に設けた排水口72に電動バルブ74を設けた排水ライン73を取付けて後逆洗工程のための機構を構成しているのに対し、海水濾過装置81では、濾過海水供給経路27の逆洗水ライン41の分岐点と電動バルブ35との間に分岐点82を設けて電動バルブ74を設けた排水ライン73を分岐させ、濾過処理した海水を装置外に排水するようにして後逆洗工程のための機構が構成されている点である。
図14は、海水濾過装置81の後逆洗工程における作動状況を示している。海水濾過装置81の後逆洗工程では、図14に示すように、中空糸膜モジュール31で濾過処理された海水が、逆洗タンク37を経由することなく、直ちに濾過海水供給経路27から排水ライン73を介して装置外に排出されるので、最も簡単な構成とすることができる。
以上のとおり、本発明の海水濾過装置では、濾過処理量が比較的少量で、タイミングも一定でない海水の補水において、制御部24による制御に従って、海水取水工程、濾過処理工程、濾過海水供給工程及びモジュール逆洗工程により取水した海水の濾過処理と供給(補水)を実施するので、所要量の補水用濾過海水を濾過処理しながら、不必要な濾過処理を防止することにより養殖コストを抑制することができる。
本発明の海水濾過装置と補水用海水の濾過方法によると、ゴミ等の汚れや細菌、ウイルスを含まないだけでなく、遊離残留塩素を含まないため、紫外線照射装置を備えた閉鎖循環型陸上養殖システムに補水しても臭素酸が発生することがなく、また生物濾過槽の微生物を死滅させることがない清浄で安全な濾過海水を閉鎖循環型陸上養殖システムや水族館などの水槽に補水し、養殖水の健全性を保ちつつ養殖コストを抑制することができるため、魚介類の陸上養殖等における利用価値には大きなものがある。