(実施形態)
(性能評価装置100の構成)
以下、本発明に係る性能評価装置の一実施形態である性能評価装置100について説明する。図1は、性能評価装置100の構成の一例を示すブロック図である。図2は、計測装置1の外観図である。
図1に示すように、性能評価装置100は、無線又は有線によって互いに通信可能な計測装置1及び評価装置9を備えている。
計測装置1は、蒸気や復水が流れる蒸気トラップの状態を検出し、当該検出した状態を評価装置9へ送信する。蒸気トラップの状態には、蒸気トラップの振動レベル及び蒸気トラップの表面温度が含まれる。
具体的には、計測装置1は、図1及び図2に示すように、蒸気トラップの振動を検出するための探針10と、振動センサ2(検出部)と、温度センサ3と、操作部11と、表示部12と、通信部13と、記憶部14と、制御部5と、を備えている。
振動センサ2は、探針10の先端が蒸気トラップに押し当てられた場合に、所定時間間隔(例えば0.5秒間隔)で所定期間(例えば10秒間)、探針10に伝達された蒸気トラップの振動レベルを検出する。具体的には、振動センサ2は、圧電素子21と、振動測定回路22と、を備えている。
圧電素子21は、探針10から伝達される振動レベルに応じた電気信号を出力する。振動測定回路22は、所定時間間隔(例えば0.5秒間隔)で所定期間(例えば10秒間)、圧電素子21が出力した電気信号をA/D(アナログ/デジタル)変換し、当該変換後の振動レベルを示すデータを制御部5へ出力する。
温度センサ3は、蒸気トラップの表面温度を測定する。具体的には、温度センサ3は、熱電対31と、温度測定回路32と、を備えている。
熱電対31は、二本の熱電対素線を備え、前記二本の熱電対素線の一端同士を接合した熱接点が蒸気トラップに接触するように構成されている。温度測定回路32は、前記二本の熱電対素線の他端間の電位差に基づき、蒸気トラップにおいて前記熱接点が接触している部分の温度を算出し、当該算出した温度を蒸気トラップの表面温度として測定する。温度測定回路32は、蒸気トラップの表面温度の測定開始後、所定時間(例えば4秒)経過した時点に測定した表面温度を示すデータを制御部5へ出力する。
操作部11は、計測装置1に対する各種指示を作業者に入力させるためのスイッチを備えている。スイッチは、例えば、メンブレンスイッチやメカニカルスイッチによって構成されている。操作部11は、作業者によってスイッチが操作されると、当該スイッチに対応付けられた指示を示す信号を制御部5へ出力する。
表示部12は、液晶ディスプレイによって構成されている。表示部12には、制御部5による制御の下、計測装置1の操作画面、振動センサ2より検出された蒸気トラップの振動レベル、温度センサ3より測定された蒸気トラップの表面温度及び評価装置9から受信した評価結果等の各種情報が表示される。尚、計測装置1の操作画面には、作業者による操作部11のスイッチの操作によって、蒸気トラップの機種の識別情報及び蒸気トラップの使用蒸気圧力を入力させるためのリストボックスやテキストボックス等の画面部品が含まれる。
通信部13は、評価装置9との間で通信を行うための不図示の通信インターフェイス回路を備えている。通信部13は、制御部5による制御の下、前記通信インターフェイス回路を用いて、振動センサ2によって検出された振動レベル及び温度センサ3によって測定された表面温度を示すデータを、評価対象の蒸気トラップの機種の識別情報及び使用蒸気圧力を示すデータとともに、評価装置9へ送信する。また、通信部13は、評価装置9が計測装置1へ返信した評価結果を示すデータが前記通信インターフェイス回路によって受信されると、当該受信された評価結果を示すデータを制御部5へ出力する。
記憶部14は、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、或いはSSD(Solid State Drive)等が有する記憶領域の一部によって構成されている。記憶部14には、表示部12に表示される各種情報や、制御部5による制御に必要なデータが記憶されている。また、記憶部14には、制御部5による制御の下、各種データが記憶される。
制御部5は、計測装置1の各部を統括制御する。具体的には、制御部5は、例えば、所定の演算処理を実行する不図示のCPU(Central Processing Unit)と、所定の制御プログラムが記憶されたEEPROM等の不図示の不揮発性メモリと、データを一時的に記憶するための不図示のRAM(Random Access Memory)と、これらの周辺回路と、を備えている。
制御部5は、不揮発性メモリ等に記憶された制御プログラムをCPUに実行させることにより、計測装置1の各部を統括制御する。
例えば、制御部5は、計測装置1の不図示の電源が投入された後、計測装置1の操作画面を表示部12に表示する。作業者による操作部11のスイッチの操作によって、当該操作画面に含まれる画面部品が操作され、評価対象の蒸気トラップの機種の識別情報及び使用蒸気圧力が入力されると、制御部5は、当該入力された評価対象の蒸気トラップの機種の識別情報及び使用蒸気圧力を示すデータを記憶部14に記憶する。
また、制御部5は、所定時間間隔(例えば0.5秒間隔)で所定期間(例えば10秒間)、振動センサ2から振動レベルを示すデータを受信する度に、当該受信したデータが示す振動レベルを表示部12に表示する。また、制御部5は、当該所定期間の経過後、当該所定期間中に受信した複数の振動レベルを示すデータを、記憶部14に記憶されている評価対象の蒸気トラップの機種の識別情報及び使用蒸気圧力を示すデータとともに、通信部13によって評価装置9へ送信させる。
また、制御部5は、温度センサ3から表面温度を示すデータを受信すると、当該受信したデータが示す表面温度を表示部12に表示する。また、制御部5は、温度センサ3から受信した表面温度を示すデータを、記憶部14に記憶されている評価対象の蒸気トラップの機種の識別情報及び使用蒸気圧力を示すデータとともに、通信部13によって評価装置9へ送信させる。
評価装置9は、タブレット端末、パソコン、サーバ及び一以上のコンピュータで構成されたクラウドサーバ等の通信可能な情報処理装置である。評価装置9は、計測装置1から受信したデータが示す、評価対象の蒸気トラップの機種の識別情報、使用蒸気圧力、振動レベル及び表面温度を用いて所定の評価処理を行う。これにより、評価装置9は、蒸気トラップの性能が正常な状態であるか否かを評価し、当該評価の結果(以降、評価結果)を示すデータを計測装置1へ返信する。
具体的には、評価装置9は、計測装置1の操作部11、表示部12、通信部13及び記憶部14と同様の構成の操作部91、表示部92、通信部93及び記憶部94を備えている。また、評価装置9は、更に、制御部95を備えている。操作部91、表示部92、通信部93及び記憶部94は、計測装置1の操作部11、表示部12、通信部13及び記憶部14と同様の構成であるので、操作部91、表示部92、通信部93及び記憶部94の詳細についての説明は省略する。
制御部95は、不揮発性メモリ等に記憶された制御プログラムをCPUに実行させることにより、評価装置9の各部を統括制御する。
制御部95は、例えば、通信部93が計測装置1から受信した、蒸気トラップの機種の識別情報、使用蒸気圧力、振動レベル及び表面温度を示すデータを用いて所定の評価処理を行う。これにより、評価装置9は、蒸気トラップの性能が正常な状態であるか否かを評価し、通信部93を制御して、当該評価の結果を示すデータを計測装置1へ返信する。
具体的には、制御部95は、取得部51、算出部52及び評価部53を含む。制御部95に含まれる各ブロックは、制御部95が備えるCPUが、ROM等に記憶されている制御プログラムを実行することで実現される。取得部51、算出部52及び評価部53の詳細については、後述する。
(評価処理のフロー)
次に、制御部95が行う評価処理の詳細について説明する。当該説明において、取得部51、算出部52及び評価部53の詳細について説明する。図3は、評価処理のフローの一例を示すフローチャートである。尚、説明の便宜上、以降の説明では、蒸気トラップの機種の識別情報、使用蒸気圧力、振動レベル及び表面温度を示すデータを、蒸気トラップの機種の識別情報、使用蒸気圧力、振動レベル及び表面温度と略記する。同様に、他の各種情報を示すデータについても、各種情報と略記する。
図3に示すように、評価部53は、先ず、蒸気トラップが開弁の状態にあるか否かを検出する(ステップS1)。例えば、ステップS1において、評価部53は、通信部93が計測装置1から受信した蒸気トラップの振動レベルのうち、所定の閾値レベルより大きい振動レベルの個数が所定数以上存在した場合に、蒸気トラップが開弁の状態にあることを検出する。
これに限らず、例えば、計測装置1の操作画面に、蒸気トラップが開弁の状態にあるか否かを示す情報(以降、開閉情報)を作業者に入力させるための画面部品を含めてもよい。そして、当該開閉情報が入力された場合に、制御部5が通信部13を介して当該開閉情報を評価装置9に送信するようにしてもよい。この場合、ステップS1では、通信部93が計測装置1から受信した開閉情報が、蒸気トラップが開弁の状態にあることを示しているか否かにより、蒸気トラップが開弁の状態にあるか否かを検出すればよい。
また、ステップS1において、評価部53は、通信部93が計測装置1から受信した蒸気トラップの振動レベルの平均値が、所定の閾値レベルよりも大きい場合に、蒸気トラップが開弁の状態にあることを検出するようにしてもよい。
ステップS1において、評価部53は、蒸気トラップが開弁の状態にあることを検出した場合(ステップS1でYES)、開弁時評価処理を行う(ステップS2)。一方、ステップS1において、評価部53は、蒸気トラップが閉弁の状態にあることを検出した場合(ステップS1でNO)、閉弁時評価処理を行う(ステップS3)。
(開弁時評価処理のフロー)
次にステップS2の開弁時評価処理の詳細について説明する。図4は、開弁時評価処理のフローの一例を示すフローチャートである。図5は、作動特性情報の一例を示す図である。
図4に示すように、評価部53は、ステップS2(図3)の開弁時評価処理の開始後、通信部93が受信した蒸気トラップの表面温度、評価対象の蒸気トラップの機種の識別情報及び使用蒸気圧力を取得する(ステップS201)。次に、評価部53は、蒸気トラップが復水未滞留の状態にあるか否かを判定する(ステップS202)。蒸気トラップが復水未滞留の状態にあるとは、蒸気トラップが正常に作動し、且つ、蒸気トラップにおいて復水が滞留していない状態にあることを示す。
具体的には、ステップS202において、評価部53は、ステップS201で取得した表面温度(以降、表面温度T)が、復水未滞留の状態にある蒸気トラップがとりうる所定の温度範囲内にあるか否かを判定することによって、蒸気トラップが復水未滞留の状態にあるか否かを判定する。
例えば、記憶部94には、蒸気トラップの機種の識別情報及び蒸気トラップの使用蒸気圧力として設定され得る設定圧力毎に、予め定められた適正温度Tr1、許容温度Tr2及び境界温度Tr3が記憶されている。
適正温度Tr1は、復水未滞留の状態にある蒸気トラップが取りうる温度の下限値である。許容温度Tr2は、復水が一時的に滞留している時に蒸気トラップが取りうる温度の下限値である。境界温度Tr3は、作動中の蒸気トラップが取りうる温度と休止状態の蒸気トラップが取りうる温度との境界となる温度である。適正温度Tr1は、許容温度Tr2よりも高い温度に定められ(Tr1>Tr2)、許容温度Tr2は、境界温度Tr3よりも高い温度に定められている(Tr2>Tr3)。
ステップS202において、評価部53は、ステップS201で取得された蒸気トラップの機種の識別情報及び蒸気トラップの使用蒸気圧力と一致する設定圧力に対応する適正温度Tr1、許容温度Tr2及び境界温度Tr3を記憶部94から取得する。
評価部53は、ステップS201で取得した表面温度Tが記憶部94から取得した適正温度Tr1(T≧Tr1)以上である場合、表面温度Tが、復水未滞留の状態にある蒸気トラップがとりうる所定の温度範囲内にあると判定する。この場合、評価部53は、蒸気トラップが復水未滞留の状態にあると判定する(ステップS202でYES)。
ステップS201で取得した表面温度Tが記憶部94から取得した適正温度Tr1未満且つ記憶部94から取得した許容温度Tr2以上(Tr1>T≧Tr2)である場合、蒸気トラップは、復水を一時的に滞留させているが、排水状態に問題はないと考えられる。このため、評価部53は、この場合(Tr1>T≧Tr2)も、表面温度Tが、復水未滞留の状態にある蒸気トラップがとりうる所定の温度範囲内にあると判定する。この場合、評価部53は、蒸気トラップが復水未滞留の状態にあると判定する(ステップS202でYES)。
ステップS201で取得した表面温度Tが記憶部94から取得した許容温度Tr2未満且つ記憶部94から取得した境界温度Tr3(T≧Tr3)以上である場合、蒸気トラップは、復水が大量に滞留している状態にあると考えられる。したがって、評価部53は、この場合(T≧Tr3)、表面温度Tが、復水未滞留の状態にある蒸気トラップがとりうる所定の温度範囲内にないと判定する。この場合、評価部53は、蒸気トラップが復水未滞留の状態にないと判定する(ステップS202でNO)。
ステップS201で取得した表面温度Tが記憶部94から取得した境界温度Tr3(T<Tr3)未満の場合、蒸気トラップは、休止状態にあると考えられる。また、蒸気トラップの排出部が閉塞された状態にある場合にも、表面温度Tが境界温度Tr3未満になることが多い。つまり、表面温度Tが境界温度Tr3(T<Tr3)未満である場合、蒸気トラップが復水を正常に排水できない状態にあると考えられる。したがって、表面温度Tが境界温度Tr3(T<Tr3)未満である場合、評価部53は、表面温度Tが、復水未滞留の状態にある蒸気トラップがとりうる所定の温度範囲内にないと判定する。この場合、評価部53は、蒸気トラップが復水未滞留の状態にないと判定する(ステップS202でNO)。
すなわち、ステップS202において、評価部53は、表面温度Tが許容温度Tr2(T≧Tr2)以上である場合に、表面温度Tが復水未滞留の状態にある蒸気トラップがとりうる所定の温度範囲内にあると判定する。この場合に、評価部53は、蒸気トラップが復水未滞留の状態にあると判定する(ステップS202でYES)。
評価部53は、ステップS202において、蒸気トラップが復水未滞留の状態にないと判定した場合(ステップS202でNO)、蒸気トラップの復水排出状態に異常がみられる旨の評価結果を通信部93を介して計測装置1に返信する(ステップS210)。
一方、評価部53が、ステップS202において蒸気トラップが復水未滞留の状態にあると判定したとする(ステップS202でYES)。この場合、制御部95において、通信部93が受信した蒸気トラップの振動レベル、評価対象の蒸気トラップの機種の識別情報及び使用蒸気圧力が取得されると(ステップS203)、ステップS204が行われる。
ステップS204では、取得部51が、評価対象の蒸気トラップが復水のみ排出する状態にあるときの振動レベルを示す第一振動レベル及び当該蒸気トラップが蒸気のみ排出する状態にあるときの振動レベルを示す第二振動レベルを取得する(ステップS204)。
具体的には、ステップS204において、取得部51は、蒸気トラップの機種別に記憶部94に予め記憶されている作動特性情報を参照する。作動特性情報とは、蒸気トラップの使用蒸気圧力として設定され得る設定圧力と、復水のみ排出する状態にある蒸気トラップの振動レベルを示す第一振動レベル及び蒸気のみ排出する状態にある蒸気トラップの振動レベルを示す第二振動レベルと、の関係を予め定めた情報である。
図5は、作動特性情報の一例を示す図である。例えば、図5に示す作動特性情報では、横軸を蒸気トラップの使用蒸気圧力として設定され得る設定圧力とし、縦軸を蒸気トラップの振動レベルとしている。また、復水のみ排出する状態にある蒸気トラップの振動レベルを示す第一振動レベルを破線で示し、蒸気のみ排出する状態にある蒸気トラップの振動レベルを示す第二振動レベルを実線で示している。
取得部51は、ステップS204において、参照した作動特性情報から、評価対象の蒸気トラップの使用蒸気圧力と一致する設定圧力に対応する第一振動レベル及び第二振動レベルを取得する。
例えば、ステップS203で取得された評価対象の蒸気トラップの使用蒸気圧力が「10kg/cm2」である場合に、ステップS204において、取得部51が、図5に示す作動特性情報を参照したとする。この場合、取得部51は、ステップS203で取得された評価対象の蒸気トラップの使用蒸気圧力と一致する、「Pth」よりも高い設定圧力「10kg/cm2」に対応する、第一振動レベル「100dB」と当該第一振動レベル「100dB」よりも小さい第二振動レベル「60dB」とを取得する。
一方、ステップS203において取得された評価対象の蒸気トラップの使用蒸気圧力が「0kg/cm2」である場合に、ステップS204において、取得部51が、図5に示す作動特性情報を参照したとする。この場合、取得部51は、ステップS203で取得された評価対象の蒸気トラップの使用蒸気圧力と一致する、「Pth」よりも低い設定圧力「0kg/cm2」に対応する、第一振動レベル「0dB」と、当該第一振動レベル「0dB」よりも大きい第二振動レベル「10dB」と、を取得する。
このように、図5に示す作動特性情報の例では、設定圧力「Pth」において、第一振動レベルと第二振動レベルとの大小関係が逆転する特性を備えることが予め定められている。つまり、図5に示す作動特性情報に対応する機種の蒸気トラップの使用蒸気圧力が、設定圧力「Pth」よりも高い圧力(例えば10kg/cm2)に設定されている場合、当該蒸気トラップの第一振動レベル(例えば100db)は、第二振動レベル(例えば50db)よりも大きくなる。しかし、当該蒸気トラップの使用蒸気圧力が設定圧力「Pth」よりも低い圧力(例えば0kg/cm2)に設定されている場合、当該蒸気トラップの第一振動レベル(例えば0db)は、第二振動レベル(例えば10db)よりも小さくなる。すなわち、ステップS204では、予め定められた作動特性情報を用いて、蒸気トラップの使用蒸気圧力に応じた適切な第一振動レベル及び第二振動レベルを取得できる。
次に、算出部52は、ステップS204で取得部51が取得した第一振動レベル及び第二振動レベルと、ステップS203で取得した振動レベルと、に基づき、蒸気トラップが排出している流体に含まれる復水の割合を示す液化流体割合値Vgを算出する(ステップS205)。
具体的には、ステップS205において、算出部52は、ステップS203で取得した振動センサ2が前記所定期間中に検出した振動レベルの平均値を、振動センサ2が検出した振動レベルViとして扱う。算出部52は、振動センサ2が検出した振動レベルViと、ステップS204で取得部51が取得した第一振動レベルV1及び第二振動レベルV2と、を含む下記式(1)を用いて液化流体割合値Vgを算出する。
開弁の状態にある蒸気トラップは、蒸気のみ、復水のみ又は蒸気と復水の混合流体を排出し得る。このため、開弁の状態にある蒸気トラップの振動レベルViは、ステップS204で作動特性情報から取得した、復水のみを排出する蒸気トラップの振動レベルを示す第一振動レベルV1と蒸気のみを排出する蒸気トラップの振動レベルを示す第二振動レベルV2との間の範囲内に収まると考えられる。また、蒸気トラップが排出する流体に含まれる復水の割合が大きい程、検出した蒸気トラップの振動レベルViは、蒸気のみを排出する蒸気トラップの振動レベルを示す第二振動レベルV2からより離れた振動レベルを示すと考えられる。
式(1)では、開弁の状態にある蒸気トラップで生じ得る振動レベルの範囲V2-V1に対する、振動センサ2が検出した振動レベルViが第二振動レベルV2から離れている量V2-Viの割合が、液化流体割合値Vgとして算出される。つまり、式(1)によれば、上記考えに基づき、蒸気トラップが排出している流体に含まれる復水の割合を示す液化流体割合値Vgを適切に算出することができる。
次に、評価部53は、ステップS205で算出された液化流体割合値Vgに基づいて、蒸気トラップのシール性能を5段階にランク分けする(ステップS206~ステップS209)。
具体的には、液化流体割合値Vgをランク分けするための、互いに異なる四個の比較値Vr1(例えば0.7)、Vr2(例えば0.5)、Vr3(例えば0.3)、Vr4(例えば0.1)が予め定められ、記憶部94に予め記憶されている。
評価部53は、先ず、ステップS205で算出された液化流体割合値Vgが、記憶部94に記憶されている四個の比較値Vr1~Vr4のうち、最大の比較値Vr1より大きいか否かを判定する(ステップS206)。評価部53は、ステップS206において、液化流体割合値Vgが比較値Vr1よりも大きいと判定した場合(ステップS206でYES)、蒸気トラップのシール性能は正常であると評価し、当該評価結果を通信部93を介して計測装置1に返信する(ステップS211)。
評価部53は、ステップS206で液化流体割合値Vgが比較値Vr以下であると判定した場合(ステップS206でNO)、ステップS205で算出された液化流体割合値Vgが、記憶部94に記憶されている比較値Vr1の次に大きい比較値Vr2より大きいか否かを判定する(ステップS207)。評価部53は、ステップS207において、液化流体割合値Vgが比較値Vr2よりも大きいと判定した場合(ステップS207でYES)、蒸気トラップのシール性能の劣化の程度は小さいと評価し、当該評価結果を通信部93を介して計測装置1に返信する(ステップS212)。
評価部53は、ステップS207で液化流体割合値Vgが比較値Vr2以下であると判定した場合(ステップS207でNO)、ステップS205で算出された液化流体割合値Vgが、記憶部94に記憶されている比較値Vr2の次に大きい比較値Vr3より大きいか否かを判定する(ステップS208)。評価部53は、ステップS208において、液化流体割合値Vgが比較値Vr3よりも大きいと判定した場合(ステップS208でYES)、蒸気トラップのシール性能の劣化の程度は、中程度であると評価し、当該評価結果を通信部93を介して計測装置1に返信する(ステップS213)。
評価部53は、ステップS208で液化流体割合値Vgが比較値Vr3よりも大きいと判定した場合(ステップS208でNO)、ステップS205で算出された液化流体割合値Vgが、記憶部94に記憶されている比較値Vr3の次に大きい比較値Vr4より大きいか否かを判定する(ステップS209)。評価部53は、ステップS209において、液化流体割合値Vgが比較値Vr4よりも大きいと判定した場合(ステップS209でYES)、蒸気トラップのシール性能の劣化の程度は大きいと評価し、当該評価結果を通信部93を介して計測装置1に返信する(ステップS214)。
評価部53は、ステップS209において、液化流体割合値Vgが比較値Vr4以下であると判定した場合(ステップS209でNO)、蒸気トラップが常時開弁している状態又はこれに近い異常な状態にあると評価し、当該評価結果を通信部93を介して計測装置1に返信する(ステップS215)。
このように、評価部53は、ステップS206~ステップS209において、ステップS205で算出された液化流体割合値Vgが大きい程、蒸気トラップのシール性能の劣化の程度は小さく、蒸気トラップのシール性能が良いと評価する。これにより、液化流体割合値Vgが示す、蒸気トラップが排出している流体に含まれる復水の割合が大きい程、蒸気トラップにおける蒸気の漏れが少ないものとして、蒸気トラップのシール性能が良いことを適切に評価できる。
すなわち、ステップS2の開弁時評価処理によれば、予め定められた作動特性情報から、蒸気トラップに設定された使用蒸気圧力に応じた第一振動レベルV1及び第二振動レベルV2が取得される。このため、当該取得された第一振動レベルV1及び第二振動レベルV2と、振動センサ2が検出した蒸気トラップの振動レベルViと、に基づき、蒸気トラップが排出している流体に含まれる復水の割合を示す液化流体割合値Vgを、蒸気トラップの使用蒸気圧力に応じて適切に算出できる。
また、蒸気トラップの使用蒸気圧力に応じて適切に算出された液化流体割合値Vgに基づき、蒸気トラップのシール性能が評価される。このため、蒸気トラップが開弁の状態にあり、検出される蒸気トラップの振動レベルViが顕著に大きい場合であっても、液化流体割合値Vgが示す、蒸気トラップが排出している流体に含まれる復水の割合に基づいて、蒸気トラップのシール性能を蒸気トラップの使用蒸気圧力に応じて適切に評価できる。
また、ステップS1(図3)において、蒸気トラップが開弁の状態にあると検出された場合に、ステップS2の開弁時評価処理が行われる。このため、蒸気トラップが閉弁の状態にあり、蒸気トラップが流体を排出していない状態である場合に、蒸気トラップが排出している流体に含まれる復水の割合を示す液化流体割合値Vgを誤って算出することを回避できる。これにより、蒸気トラップが閉弁の状態である場合に、誤って算出された液化流体割合値Vgに基づき、シール性能が誤って評価されることを回避できる。
また、ステップS202において、蒸気トラップが復水未滞留の状態ではないと判定された場合、ステップS203以降の処理が行われない。これにより、蒸気トラップが復水未滞留の状態ではなく、蒸気トラップが正常に作動していない状態、又は、蒸気トラップにおいて復水が滞留している状態である場合に、蒸気トラップが排出している流体に含まれる復水の割合を示す液化流体割合値Vgが誤って算出されることを回避できる。その結果、蒸気トラップが復水未滞留の状態でない場合に、誤って算出された液化流体割合値Vgに基づき、シール性能が誤って評価されることを回避できる。
(閉弁時評価処理のフロー)
次にステップS3(図3)の閉弁時評価処理の詳細について説明する。図6は、閉弁時評価処理のフローの一例を示すフローチャートである。
図6に示すように、評価部53は、ステップS3(図3)の閉弁時評価処理の開始後、ステップS2(図4)の開弁時評価処理と同様、ステップS201及びステップS202を行う。そして、評価部53は、ステップS202において、蒸気トラップが復水未滞留の状態にないと判定した場合(ステップS202でNO)、ステップS210を行う。
一方、評価部53が、ステップS202で蒸気トラップが復水未滞留の状態にあると判定したとする(ステップS202でYES)。この場合に、制御部95において、通信部93が受信した蒸気トラップの振動レベル、評価対象の蒸気トラップの機種の識別情報及び使用蒸気圧力が取得されると(ステップS203)、ステップS303以降の処理が行われる。
ステップS303では、算出部52は、ステップS203で取得された振動レベル及び蒸気トラップの使用蒸気圧力に基づき、シール性能劣化値Vcを算出する(ステップS303)。
具体的には、ステップS303において、算出部52は、ステップS203で取得した振動センサ2が前記所定期間中に検出した振動レベルの平均値を、振動センサ2が検出した振動レベルViとして扱う。算出部52は、蒸気トラップの使用蒸気圧力に拘束されない正規化された値である0~100までの範囲で、シール性能劣化値Vcを算出する。
詳述すると、振動センサ2が検出する振動レベルViは、蒸気トラップのシール性能の劣化状態が同じであっても、蒸気トラップの使用蒸気圧力が大きい程大きくなることが経験的に知られている。このため、蒸気トラップの使用蒸気圧力の大きさに応じて、振動センサ2が検出する振動レベルViは変化する。
また、蒸気トラップの使用蒸気圧力が極端に小さくなると、蒸気トラップの振動レベルが、振動センサ2によって検出困難な程度にまで弱まる。これとは反対に、蒸気トラップの使用蒸気圧力が極端に大きくなると、蒸気トラップの振動レベルが、蒸気トラップの使用蒸気圧力の大きさによらず、略一定になることが経験的に知られている。
このため、算出部52は、ステップS303において、振動センサ2が検出した振動レベルViを蒸気トラップの使用蒸気圧力に基づき補正して、シール性能劣化値(以降、シール性能劣化値Vc)を算出する。具体的には、算出部52は、以下の式(2)を用いてシール性能劣化値Vcを算出する。尚、シール性能劣化値Vcは、数値が小さい程、シール性能の劣化が少なく、シール性能が良好であることを示す。
尚、式(2)において、ηは、構造等による蒸気トラップの機種に応じた係数(以降、タイプ係数)を示す。振動センサ2が検出する振動レベルViは、厳密には、蒸気トラップの使用蒸気圧力が同一でも蒸気トラップの構造によって異なる。このため、式(2)では、蒸気トラップの使用蒸気圧力による振動レベルViの補正とともに、蒸気トラップの機種による補正をも併せて行うようにしている。
ただし、計測装置1が同じ種類の蒸気トラップのみの測定を行う専用器であれば、タイプ係数ηは、固定化された値であってもよい。又は、タイプ係数ηは、最終的に算出されるシール性能劣化値Vcの精度に応じて式(2)に含めるか否かを検討してもよい。
式(2)において、aは、補正係数を示す。補正係数aは、振動レベルと使用蒸気圧力との関係を補正するものであり、通常1に定められる。しかし、これに限らず、補正係数aは、実験から得られる振動レベルと使用蒸気圧力との関係に基づき、適宜設定されてもよい。
式(2)において、Psは、蒸気トラップの機種に応じた、当該機種の蒸気トラップを使用する際の基準となる使用蒸気圧力(以降、基準使用蒸気圧力)を示す。Pは、蒸気トラップに設定された使用蒸気圧力を示す。
次に、評価部53は、ステップS303で算出されたシール性能劣化値Vcに基づいて、蒸気トラップのシール性能を5段階にランク分けする(ステップS306~ステップS309)。
具体的には、シール性能劣化値Vcをランク分けするための、互いに異なる四個の比較値Vr5(例えば10)、Vr6(例えば30)、Vr7(例えば50)、Vr8(例えば70)が予め定められ、記憶部94に予め記憶されている。
評価部53は、先ず、ステップS303で算出されたシール性能劣化値Vcが、記憶部94に記憶されている四個の比較値Vr5~Vr8のうち、最小の比較値Vr5より大きいか否かを判定する(ステップS306)。評価部53は、ステップS306において、シール性能劣化値Vcが比較値Vr5以下であると判定した場合(ステップS306でNO)、蒸気トラップのシール性能は「正常」であると評価し、当該評価結果を通信部93を介して計測装置1に返信する(ステップS311)。
評価部53は、ステップS306でシール性能劣化値Vcが比較値Vr5よりも大きいと判定した場合(ステップS306でYES)、シール性能劣化値Vcが、記憶部94に記憶されている比較値Vr5の次に小さい比較値Vr6より大きいか否かを判定する(ステップS307)。評価部53は、ステップS307において、シール性能劣化値Vcが比較値Vr6以下であると判定した場合(ステップS307でNO)、蒸気トラップのシール性能の劣化の程度は小さいと評価し、当該評価結果を通信部93を介して計測装置1に返信する(ステップS312)。
評価部53は、ステップS307でシール性能劣化値Vcが比較値Vr6よりも大きいと判定した場合(ステップS307でYES)、シール性能劣化値Vcが、記憶部94に記憶されている比較値Vr6の次に小さい比較値Vr7より大きいか否かを判定する(ステップS308)。評価部53は、ステップS308において、シール性能劣化値Vcが比較値Vr7以下であると判定した場合(ステップS308でNO)、蒸気トラップのシール性能の劣化の程度は、中程度であると評価し、当該評価結果を示す情報を通信部93を介して計測装置1に返信する(ステップS313)。
評価部53は、ステップS308でシール性能劣化値Vcが比較値Vr7よりも大きいと判定した場合(ステップS308でYES)、シール性能劣化値Vcが、記憶部94に記憶されている比較値Vr7の次に小さい比較値Vr8より大きいか否かを判定する(ステップS309)。評価部53は、ステップS309において、シール性能劣化値Vcが比較値Vr8以下であると判定した場合(ステップS309でNO)、蒸気トラップのシール性能の劣化の程度は大きいと評価し、当該評価結果を通信部93を介して計測装置1に返信する(ステップS314)。
評価部53は、ステップS309でシール性能劣化値Vcが比較値Vr8よりも大きいと判定した場合(ステップS309でYES)、蒸気トラップが常時開弁している状態又はこれに近い異常な状態にあると評価し、当該評価結果を通信部93を介して計測装置1に返信する(ステップS315)。
(変形実施形態)
尚、上記実施形態は、本発明に係る実施形態の例示に過ぎず、本発明を上記実施形態に限定する趣旨ではない。例えば、以下に示す変形実施形態であってもよい。
(1)開弁時評価処理(図4)において、蒸気トラップの振動レベルに基づくシール性能の評価の前に、蒸気トラップの復水排出状態の評価を行わないようにしてもよい。具体的には、計測装置1に温度センサ3を備えないようにしてもよい。これに合わせて、図4に示す開弁時評価処理において、ステップS201及びステップS202を省略し、開弁時評価処理の開始後、ステップS203以降の処理を行うようにしてもよい。尚、これと同様にして、図6に示す閉弁時評価処理においても、ステップS201及びステップS202を省略し、閉弁時評価処理の開始後、ステップS203以降の処理を行うようにしてもよい。
(2)上記実施形態では、図4に示す開弁時評価処理のステップS206~ステップS209において、評価部53は、ステップS205で算出された液化流体割合値Vgに基づいて、蒸気トラップのシール性能を5段階にランク分けしていた。しかし、評価部53が、液化流体割合値Vgに基づき、蒸気トラップのシール性能を評価する態様はこれに限らない。
例えば、図4に示す開弁時評価処理におけるステップS206~S209、ステップS211~S215を省略し、ステップS205の後、評価部53が、当該ステップS205で算出された液化流体割合値Vgをそのまま評価結果として、通信部93を介して計測装置1に返信するようにしてもよい。尚、これと同様に、図6に示す閉弁時評価処理におけるステップS306~S309、ステップS311~S315を省略してもよい。そして、ステップS303の後、評価部53が、当該ステップS303で算出されたシール性能劣化値Vcをそのまま評価結果として、通信部93を介して計測装置1に返信するようにしてもよい。
(3)上記実施形態では、ステップS205(図4)において、算出部52が、式(1)を用いて液化流体割合値Vgを算出していたが、液化流体割合値Vgの算出方法はこれに限らない。例えば、実験値を式(1)に代入して液化流体割合値Vgを予め算出した結果を取り込んだLUT(ルックアップテーブル)を記憶部94に記憶しておいてもよい。そして、算出部52が、振動センサ2が検出した振動レベルViと、ステップS204で取得部51が取得した第一振動レベルV1及び第二振動レベルV2と、に対応する液化流体割合値Vgを当該LUTから取得するようにしてもよい。
(4)評価対象の蒸気トラップが、開弁の状態が閉弁の状態よりも支配的な、例えばフロート式の蒸気トラップに限定されている場合には、ステップS1(図3)を省略し、評価部53が開弁時評価処理(図4)のみを行うようにしてもよい。
(5)図5に示す作動特性情報は、一例にすぎない。例えば、作動特性情報が、複数の設定圧力において、第一振動レベルと第二振動レベルとの大小関係が逆転することを定めていてもよい。また、作動特性情報が、第一振動レベルと第二振動レベルとの大小関係が逆転することがないように定めていてもよい。
(6)上記実施形態では、ステップS205(図4)及び/又はステップS303(図6)において、算出部52は、ステップS203で取得した、振動センサ2が前記所定期間中に検出した振動レベルの平均値を、振動センサ2が検出した振動レベルViとして扱うようにしていた。しかし、これに代えて、算出部52は、振動センサ2が前記所定期間中に検出した振動レベルの最小値又は最大値等の所定の代表値を、振動センサ2が検出した振動レベルViとして扱うようにしてもよい。
(7)計測装置1の制御部5が、評価装置9の取得部51、算出部52及び評価部53と同様の処理を行うようにしてもよい。これにより、計測装置1を、蒸気トラップのシール性能を評価する性能評価装置として、単体で利用できるようにしてもよい。