以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。
(第一実施形態)
図1に示すように、第一実施形態に係るフィルタ構造体1は、厚肉部2としてのガラス基材3と、薄肉部4としてのガラスフィルム5と、ガラスカバー6と、を備え、例えばナノポアセンサやバイオフィルタに好適に利用できる(後述する図11及び図12を参照)。
ガラスフィルム5は、ガラス基材3とガラスカバー6との間に配置され、この状態で、ガラス基材3、ガラスフィルム5及びガラスカバー6が接合されている。なお、以下の説明では、ガラス基材3側を「下」、ガラスカバー6側を「上」として説明するが、上下の向きはこれに限定されない。
ガラス基材3は、ガラス(無アルカリガラス又はアルカリガラス)により板状又はブロック状に構成される。
ガラス基材3は、平面視で矩形状に構成されるが、この形状に限定されず、円形状その他の各種形状に構成され得る。
ガラス基材3の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、100~1500μmであることが好ましく、100~1000μmであることがより好ましい。
ガラス基材3の熱膨張係数は、特に限定されるものではないが、30~380℃における熱膨張係数が、例えば30~120×10-7/℃であることが好ましい。30~380℃における熱膨張係数は、ディラトメーター、熱機械分析(TMA)等で測定可能である。
ガラス基材3は、上面3aから下面3bまで厚み方向に貫通する第一開口中空部7を有する。第一開口中空部7は平面視で円形、つまり円柱状の空間に構成されるが、この形状に限定されるものではない。第一開口中空部7の上方開口部(つまり、ガラスフィルム5側の開口部)の直径L1は、2~50mmであることが好ましく、5~20mmであることがより好ましい。
第一開口中空部7は、例えば、ドリル等による機械加工、レーザ加工、超音波加工などにより形成される。なお、加工後にフッ酸エッチングなどにより端面処理を行うことが好ましい。
ガラスカバー6は、ガラス(無アルカリガラス又はアルカリガラス)により板状又はブロック状に構成される。
ガラスカバー6は、平面視で矩形状に構成されるが、この形状に限定されず、円形状その他の各種形状に構成され得る。
ガラスカバー6の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、100~1500μmであることが好ましく、100~1000μmであることがより好ましい。ガラスカバー6の厚みは、ガラス基材3の厚みと同じであってもよい。あるいは、ガラスカバー6の厚みは、ガラス基材3の厚みよりも厚くてもよいし、薄くてもよい。
ガラスカバー6の熱膨張係数は、特に限定されるものではないが、30~380℃における熱膨張係数が、例えば30~120×10-7/℃であることが好ましい。
ガラスカバー6は、上面6aから下面6bまで厚み方向に貫通する第二開口中空部8を有する。第二開口中空部8は、例えば、ドリル等による機械加工、レーザ加工、超音波加工などにより形成される。なお、加工後にフッ酸エッチングなどにより端面処理を行うことが好ましい。
第二開口中空部8は平面視で円形、つまり円柱状の空間に構成されるが、この形状に限定されるものではない。第二開口中空部8の下方開口部(ガラスフィルム5側の開口部)の開口面積は、第一開口中空部7の上方開口部の開口面積と同じであるが、異なっていてもよい。両者の開口面積が異なる場合、第二開口中空部8の下方開口部の開口面積が、第一開口中空部7の上方開口部の開口面積よりも大きいことが好ましい。
ガラスフィルム5は、ガラス基材3の上面3aとガラスカバー6の下面6bとの間に挟まれている。この状態で、ガラスフィルム5の下面(一方主面)5bは、第一開口中空部7の上方開口部を施蓋(閉塞)し、ガラスフィルム5の上面(他方主面)5aは、第二開口中空部8の下方開口部を施蓋(閉塞)している。これにより、ガラスフィルム5は、第一開口中空部7及び第二開口中空部8を上下二つに区分する。
ガラスフィルム5の厚みL2は、50μm以下であることが好ましく、0.1~50μmであることが好ましく、0.5~20μmであることがより好ましく、1~10μmであることが最も好ましい。ガラスフィルム5としては、日本電気硝子株式会社製の「G-Leaf」(登録商標)、あるいは「ガラスリボン」が好適に使用される。
ガラスフィルム5の熱膨張係数は、特に限定されるものではないが、30~380℃における熱膨張係数が、例えば30~120×10-7/℃であることが好ましい。
ガラスフィルム5は、平面視で矩形状に構成されるが、この形状に限定されず、円形状その他の各種形状に構成され得る。ガラスフィルム5は、第一開口中空部7の上方開口部及び第二開口中空部8の下方開口部を覆うことができれば、ガラス基材3及びガラスカバー6の大きさや形状と異なっていてもよい。例えば、ガラス基材3及びガラスカバー6を矩形状とし、ガラスフィルム5をガラス基材3及びガラスカバー6よりも小さい円形状としてもよい。
ガラスフィルム5に使用されるガラスとしては、例えば無アルカリガラスが使用されるが、ガラスフィルム5の材料はアルカリガラスであってもよい。本実施形態において、無アルカリガラスとは、アルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O、及びK2O)が実質的に含まれていないガラスのことであって、具体的には、アルカリ金属酸化物の重量比が3000ppm以下のガラスのことである。本発明におけるアルカリ金属酸化物の重量比は、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、最も好ましくは300ppm以下である。無アルカリガラスとしては、日本電気硝子株式会社製の「OA-10G」や「OA-11」が好適に使用される。
ガラスフィルム5は、例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法、リドロー法などのダウンドロー法や、フロート法などを用いて製造される。中でも、オーバーフローダウンドロー法は、表裏両側の主面が火造り面となって高い表面品位を実現できるため好ましい。また、ガラスフィルム5には、厚みを薄くするために、必要に応じてエッチング等によるスリミング加工が行われる。すなわち、ガラスフィルム5の少なくとも一方主面はエッチング面により構成されていてよいし、表裏両側の主面がエッチング面により構成されていてよい。また、ガラスフィルム5の主表面は研磨されていてもよい。すなわち、ガラスフィルム5の少なくとも一方主面は研磨面により構成されていてよいし、表裏両側の主面が研磨面により構成されていてよい。また、これらが組み合わされ、例えば、ガラスフィルム5の一方主面が火造り面で、他方主面がエッチング面または研磨面で構成されていてもよい。なお、ガラス基材3及びガラスカバー6にも、上記に例示した成形方法を適用できる。
ガラスフィルム5は、第一開口中空部7に対応する位置で、上面5aから下面5bまで厚み方向に貫通する微細な孔(微細孔)9を有する。微細孔9は、第一開口中空部7と第二開口中空部8とを連通する。微細孔9は、第一開口中空部7に対応する位置に一個設けられているが、第一開口中空部7に対応する位置に複数個設けられていてもよい。
微細孔9は、分離対象或いは観測や検定対象となる特定の微細物が流通可能なサイズおよび形状に設定される。例えば、微細孔9は円形の開口部を有する貫通孔であり、その直径(開口部の最長部)は、100μm以下であることが好ましく、0.1~50μmであることがより好ましい。具体的には、特定の微細物がウイルスやエクソソームの場合、微細孔9の直径は、0.1~0.5μmであることが好ましい。特定の微細物が細菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌など)の場合、微細孔9の直径は、1~5μmであることが好ましい。特定の微細物が真核細胞(赤血球、白血球など)の場合、微細孔9の直径は、5~20μmであることが好ましい。なお、微細孔9の開口部の形状は円形に限らず、例えば、楕円形、長丸孔、矩形、正方形、長方形、等の形状であってもよい。
微細孔9の加工方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ドリル等による機械加工、レーザ加工、超音波加工、FIB(イオンビーム)加工などが利用できる。微細孔9がナノメートルサイズの場合には、FIB加工を利用することが好ましい。
ガラス基材3、ガラスカバー6及びガラスフィルム5は、同材質のガラスから構成されることが好ましい。また、ガラス基材3、ガラスカバー6及びガラスフィルム5の熱膨張係数は、同じであることが好ましい。
第一開口中空部7の上方開口部の直径L1[mm]とガラスフィルム5の厚みL2[mm]との比L1/L2は、50~5000であることが好ましく、100~2000であることがより好ましい。これにより、ガラスフィルム5に適度な強度を確保しつつ、その厚みを薄くできる。
図2に示すように、ガラス基材3、ガラスカバー6及びガラスフィルム5は、第一開口中空部7の上方開口部が封止されるように、溶融固化部10により互いに接合されている。溶融固化部10は、レーザ接合により形成される。詳細には、溶融固化部10は、レーザ光の照射領域において、ガラス基材3、ガラスカバー6及びガラスフィルム5を溶融した後に、その溶融部を固化させることにより形成される。つまり、溶融固化部10は、例えば、ガラス基材3、ガラスカバー6及びガラスフィルム5から選ばれる一種又は二種以上の材料から構成され、これら以外の材質は実質的に含まない。
溶融固化部10は、第一開口中空部7の上方開口部に沿って同心環状(本実施形態では同心円状)に複数(図例では三つ)形成されるが、一つであってもよい。複数の溶融固化部10は、互いに半径方向に離間しているが、半径方向で重なっていてもよい。各溶融固化部10は、平面視で円環状に構成されるが、これに限らず、四角形状その他の環形状に構成され得る。
溶融固化部10は、厚み方向において、ガラスフィルム5を介してガラス基材3とガラスカバー6とに連続して跨って形成されている。つまり、溶融固化部10の厚み方向の一端部は、ガラス基材3の上面3a近傍に形成され、溶融固化部10の厚み方向の他端部は、ガラスカバー6の下面6b近傍に形成される。溶融固化部10の厚み方向の中間部は、ガラスフィルム5の上面5aから下面5bに至る厚み方向の全域にわたって形成される。溶融固化部10は、外部に露出していない。なお、本実施形態では、溶融固化部10の内部において、ガラス基材3とガラスフィルム5との間には界面がなく、ガラスカバー6とガラスフィルム5との間にも界面がない。もちろん、溶融固化部10の内部において、ガラス基材3とガラスフィルム5との間、及び/又は、ガラスカバー6とガラスフィルム5との間に界面が残っていてもよい。
溶融固化部10の幅寸法L3は、10~200μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましく、10~50μmであることが最も好ましい。溶融固化部10の厚みL4は、10~200μmであることが好ましく、10~150μmであることがより好ましく、10~100μmであることが最も好ましい。ただし、溶融固化部10の厚みL4は、ガラスフィルム5の厚みよりも大きく、かつ、ガラス基材3、ガラスフィルム5及びガラスカバー6の厚みの総和よりも小さい。
溶融固化部10の平面方向の残留応力の最大値は、10MPa以下であることが好ましく、7MPa以下であることがより好ましく、5MPa以下であることが最も好ましい。平面方向の残留応力の最大値は、10mm×10mm以上の寸法を有するガラス板において、ユニオプト社製複屈折測定機:ABR-10Aを用いて、接合部付近の複屈折(単位:nm)を計測し、平面方向の残留応力に換算した場合の最大値である。また、光学的な複屈折の測定、すなわち直交する直線偏光波の光路差の測定により、ガラス板中の残留応力値を見積ることが可能であり、残留応力により発生する偏差応力F(MPa)は、F=D/CWの式で表記される。「D」は光路差(nm)であり、「W」は偏光波が通過した距離(cm)であり、「C」は光弾性定数(比例定数)であり、通常、20~40(nm/cm)/(MPa)の値になる。なお、平面方向の残留応力には、引張応力と圧縮応力が存在するが、上記では、両者の絶対値を評価するものとする。
第一開口中空部7の上方開口部の縁部と、最も内側の溶融固化部10との間の幅寸法L5は、2mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、0.5mm以下が最も好ましい。これにより、溶融固化部10が、第一開口中空部7に近接して形成される。なお、溶融固化部10は、第一開口中空部7の側部7aに露出しないことが好ましい。
次に、上記の構成を備えたフィルタ構造体1を製造する方法を説明する。
本実施形態に係るフィルタ構造体1の製造方法は、積層工程と、接合工程と、孔あけ工程と、を順に備える。
図3に示すように、積層工程では、ガラス基材3とガラスカバー6との間にガラスフィルム5が介在するように、ガラス基材3、ガラスカバー6及びガラスフィルム5を積層して積層体11を形成する。この状態で、ガラスフィルム5は、第一開口中空部7及び第二開口中空部8をそれぞれ施蓋し、第一開口中空部7及び第二開口中空部8を二つに区分する。
このようにすれば、積層工程の後工程において、ガラスフィルム5は、ガラス基材3とガラスカバー6との間に挟まれて保護されるため、製造過程で他部材がガラスフィルム5に接触しにくく、ガラスフィルム5が破損するのを抑制できる。
図4及び図5に示すように、接合工程では、レーザ照射装置12により、積層体11に対してレーザ光Lを集光して照射する。レーザ光Lは、ガラスカバー6側から照射されるが、ガラス基材3側から照射してもよい。使用されるレーザ光Lとしては、ピコ秒オーダーやフェムト秒オーダーのパルス幅を有する超短パルスレーザー光が好適に使用される。
レーザ光Lの波長は、ガラス部材を透過する波長であれば特に限定されるものではないが、例えば、400~1600nmであることが好ましく、500~1300nmであることがより好ましい。レーザ光Lのパルス幅は、10ps以下であることが好ましく、5ps以下であることがより好ましく、200fs~3psであることが最も好ましい。レーザ光Lの集光位置は、ガラスカバー6側から照射する場合には、ガラス基材3の上面3a近傍であることが好ましく、ガラス基材3の上面3aから上方に100μm離れた位置からガラス基材3の上面3aまでの範囲であることがより好ましく、ガラス基材3の上面3aから上方に50μm離れた位置からガラス基材3の上面3aまでの範囲であることが最も好ましい。レーザ光Lの集光径は、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることが好ましい。
図5に示すように、レーザ光Lは、第一開口中空部7の上方開口部の外側で、上方開口部に沿って円軌道Tを描くように走査される。この場合において、レーザ光Lは、その照射領域Rが円軌道T上で重なりながら円軌道Tを一周するように走査される。あるいは、レーザ光Lは、その円軌道Tを複数回にわたって周回するように走査され得る。なお、溶融固化部10を同心円状に複数形成する場合には、レーザ光Lを走査する円軌道Tも同心円状に複数設定される。このようにレーザ光Lを走査することで、円軌道T上に形成された円環状の照射領域Rにおいて、ガラス基材3、ガラスフィルム5及びガラスカバー6が溶融し、その溶融部が固化する。この溶融固化部10は、ガラスフィルム5を介してガラス基材3とガラスカバー6とに連続的に跨って形成され、ガラス基材3、ガラスフィルム5及びガラスカバー6が接合される。
孔あけ工程では、図示は省略するが、例えばFIB加工などの任意の加工方法により、第一開口中空部7に対応する位置でガラスフィルム5に微細孔9を形成する。これにより、フィルタ構造体1が製造される。なお、孔あけ工程が、接合工程の後で行われる場合を例示したが、孔あけ工程は、積層工程の前、積層工程の後かつ接合工程の前、接合工程の後のいずれのタイミングで行ってもよい。
以上のように製造されたフィルタ構造体1によれば、その構成要素である、ガラス基材3、ガラスフィルム5及びガラスカバー6が、全てガラス製であることから、ガラスに由来する、高い耐薬品性、高い衛生性、高い生体不活性を実現できる。また、フィルタ構造体1として、高価な材質や加工が難しい材質を用いる必要がないことから、低コストで容易に製造できるという利点もある。したがって、バイオフィルタやナノポアセンサ、ナノポアシーケンサ、その他ナノデバイス等に好適に利用できる。
また、ガラス基材3とガラスカバー6との間にガラスフィルム5が配置され、溶融固化部10がガラスフィルム5を介してガラス基材3とガラスカバー6とに連続的に跨っているため、ガラスフィルム5が薄くても、接合工程で十分な接合面積を確保できる。したがって、ガラス基材3、ガラスフィルム5及びガラスカバー6の接合強度を高め、接合部分の気密性を高めることができる。
ここで、ガラスカバー6を設けずにガラス基材3とガラスフィルム5との界面近傍に溶融固化部を形成することも考えられるが、この場合にはレーザ光の集光径を極小に絞り、かつ、集光位置を厳格に管理しなければならず、歩留まりの低下を招くおそれがある。これに対し、ガラスカバー6を設けることで、ガラス基材3、ガラスカバー6及びガラスフィルム5の三層に跨る領域に溶融固化部10の形成領域を拡大できるため、レーザ光Lの集光径や集光位置の管理も比較的緩やかになり、歩留まりの向上を図ることができる。
(第二実施形態)
図6~図10に示すように、第二実施形態では、フィルタ構造体1の量産に適した製造方法を例示する。
第二実施形態に係るフィルタ構造体1の製造方法は、複数のフィルタ構造体1を切り出し可能な第一積層体13を形成する積層工程と、第一積層体13の各構成を接合する接合工程と、第一積層体13から複数の第二積層体14(個々のフィルタ構造体1に対応する部材)を切り出す切断工程と、孔あけ工程と、を備える。
図6に示すように、積層工程では、まず、元ガラス基材15と、元ガラスフィルム16と、元ガラスカバー17と、を準備する。元ガラス基材15は、複数の第一開口中空部7を有し、複数のガラス基材3が切り出し可能である。元ガラスフィルム16は、複数のガラスフィルム5が切り出し可能である。元ガラスカバー17は、複数の第二開口中空部8を有し、複数のガラスカバー6が切り出し可能である。
次に、積層工程では、元ガラスフィルム16が元ガラス基材15と元ガラスカバー17との間に介在するように、元ガラス基材15、元ガラスフィルム16及び元ガラスカバー17を積層する。元ガラスフィルム16は、元ガラス基材15と元ガラスカバー17との間に配置された状態で、各々の対向する第一開口中空部7及び第二開口中空部8を同時に施蓋し、各々の対向する第一開口中空部7及び第二開口中空部8を二つに区分する。これにより、第一積層体13が形成される。
図7及び図8に示すように、接合工程では、第一積層体13に対してガラス部材(図示例では元ガラスカバー17)側からレーザ光Lが照射される。レーザ光Lは、各第一開口中空部7の上方開口部の外側で、各上方開口部に沿って円周状に走査される。本実施形態では、複数の第一開口中空部7の周囲に対応する位置で、レーザ照射装置12からレーザ光Lを照射する。全ての第一開口中空部7の周囲に対応する位置でレーザ光Lが照射されると、接合工程が終了する。これにより、元ガラス基材15、元ガラスカバー17及び元ガラスフィルム16が、複数の溶融固化部10によって接合される。なお、接合工程では、複数のレーザ光Lを複数の第一開口中空部7に対応する位置で、同時に照射してもよい。このようにすることで、効率良く接合することができる。
図9に示すように、切断工程は、第一積層体13(元ガラス基材15、元ガラスフィルム16及び元ガラスカバー17)を切断する。切断工程では、例えば、第一積層体13に設定される直線状(格子状)の切断予定線CLに沿って第一積層体13を切断する。この切断予定線CLは、第一積層体13から複数の第二積層体14を切り出すために設定される。つまり、元ガラス基材15からは複数のガラス基材3が切り出され、元ガラスフィルム16からは複数のガラスフィルム5が切り出され、元ガラスカバー17からは複数のガラスカバー6が切り出される。切断工程では、例えばスクライブ割断、レーザ熱割断、レーザ溶断、ダイサー切断、ワイヤソー切断等の切断方法により、第一積層体13を切断する。これにより、図10に示すように、ガラス基材3、ガラスカバー6及びガラスフィルム5を溶融固化部10によって接合してなる複数の個片(個別)の第二積層体14が形成される。なお、レーザ溶断を用いた場合、例えば、切断面(外周面)においても、ガラス基材3、ガラスカバー6及びガラスフィルム5を接合できるという利点がある。また、本実施形態では、図11に示すように、第一積層体13から第二積層体14を個別に切り出しているが、これに限らず、二個以上の第二積層体14を含むユニットが構成されるように、第一積層体13を切断してもよい。
孔あけ工程では、第二積層体14に含まれるガラスフィルム5に微細孔9を形成する。これにより、第二積層体14からフィルタ構造体1が製造される。なお、孔あけ工程が、切断工程の後で行われる場合を例示したが、孔あけ工程は、積層工程の前、積層工程の後かつ接合工程の前、接合工程の後かつ切断工程の前、切断工程の後のいずれのタイミングで行ってもよい。
(第三実施形態)
図11に示すように、第三実施形態では、フィルタ構造体1を備えたナノポアセンサ18を例示する。
本実施形態に係るナノポアセンサ18は、フィルタ構造体1を介して分離された第一空間19及び第二空間20と、検査対象物に含まれる特定の微細物P0を検出するセンサ21と、を備える。
第一空間19及び第二空間20は、それぞれ液体を収容可能な槽状構造をなす。換言すればナノポアセンサ18は、内部において第一空間19を構成する第一槽、および内部において第二空間20を構成する第二槽を備える。フィルタ構造体1の第二開口中空部8は第一空間19に面しており、フィルタ構造体1の第一開口中空部7は第二空間20に面している。
第一空間19及び第二空間20は、フィルタ構造体1の微細孔(ナノポア)9によって連通している。微細孔9は、ガラスフィルム5に一つだけ設けられており、その直径は、ナノメートルサイズに設定される。具体的には、微細孔9の直径(開口部の最長部)は、例えば、1000nm以下であることが好ましく、100~1000nmであることがより好ましい。
ガラスフィルム5の厚みは、1~30μmであることが好ましい。
第一空間19には第一電極22が配置され、第二空間20には第二電極23が配置されている。第一空間19及び第二空間20には、電解液が充填されており、電極22,23間に電源24により電圧を印加すると、第一空間19及び第二空間20に電界が形成される。
第一空間19に検査対象物を導入すると、検査対象物に含まれる微細物Pが帯電し、電界に応じて移動する。この移動の過程で、特定の微細物P0は、微細孔9を通過して第二空間20に流入する。
センサ21は、特定の微細物P0が微細孔9を通過する際に生じるイオン電流(あるいは電気抵抗変化)を測定する。本実施形態では、センサ21は電流計で構成される。ガラスフィルム5の厚みが薄いほど、センサ21の感度が高くなる。
ナノポアセンサ18は、上記の構成に限定されない。微細物P0の移動方式として、上記では電位差移動方式を例示したが、酵素移動方式、力学的移動方式なども採用し得る(例えば特許文献1を参照)。また、微細物P0の検出方式として、イオン電流方式(封鎖電流方式)を例示したが、トンネル電流方式、キャパシタンス方式、電界効果トランジスタ方式なども採用し得る(例えば特許文献1を参照)。
本実施形態におけるその他の構成は、第一実施形態と同じである。本実施形態において、第一実施形態と共通する構成要素には、共通符号を付している。本実施形態に係るフィルタ構造体1は、第一実施形態又は第二実施形態で例示した製造方法により製造できる。
(第四実施形態)
図12に示すように、第四実施形態では、フィルタ構造体1を備えたバイオフィルタ25を例示する。
本実施形態に係るバイオフィルタ25は、フィルタ構造体1のガラス基材3の下面3bにスライドガラス26が接合されている。つまり、第一開口中空部7の下方開口部は、スライドガラス26によって閉塞されている。
検査対象物を液体(例えば水)と共に第二開口中空部8に供給すると、検査対象物に含まれる特定の微細物P0が、ガラスフィルム5の微細孔9を通過して、第一開口中空部7に流入し、第一開口中空部7に収容される。第一開口中空部7では、微細物P0を培養したり、スライドガラス26を通じて顕微鏡27等によって微細物P0を観察したりすることができる。
微細孔9は、ガラスフィルム5に一つだけ設けられおり、その直径(開口部の最長部)は、例えば、1~50μmであることが好ましい。バイオフィルタ25の場合、その目的や用途に応じて、微細孔9は、ガラスフィルム5に複数設けられることもある。
ガラスフィルム5の厚みは、1~30μmであることが好ましい。
フィルタ構造体1とスライドガラス26との接合方法は、特に限定されるものではなく、例えば、陽極接合、接合面間の分子間力(オプティカルコンタクト)による接合、ガラスフリットによる接合、レーザ接合などが利用できる。
バイオフィルタ25は、上記構成に限定されるものではなく、細菌等の微小生物を捕集、分離可能なものであればよい。バイオフィルタ25は、典型的には細胞分画フィルタである。
本実施形態におけるその他の構成は、第一実施形態と同じである。本実施形態において、第一実施形態と共通する構成要素には、共通符号を付している。本実施形態に係るフィルタ構造体1は、第一実施形態又は第二実施形態で例示した製造方法により製造できる。
(第五実施形態)
図13に示すように、第五実施形態では、第一実施形態と同様に、ナノポアセンサやバイオフィルタに好適に利用できるフィルタ構造体1を示す。ただし、本実施形態に係るフィルタ構造体1では、ガラス基材3の第一開口中空部7の側部7aが、厚み方向に対して傾斜したテーパ面である。同様に、ガラスカバー6の第二開口中空部8の側部8aも、厚み方向に対して傾斜したテーパ面である。
詳細には、第一開口中空部7の側部7aは、ガラス基材3の上面3aから下面3bに向かって開口面積が大きくなるように傾斜している。第二開口中空部8の側部8aは、ガラスカバー6の下面6bから上面6aに向かって開口面積が大きくなるように傾斜している。つまり、第一開口中空部7及び第二開口中空部8は、円錐状の空間で構成されている。
本実施形態におけるその他の構成は、第一実施形態と同じである。本実施形態において、第一実施形態と共通する構成要素には、共通符号を付している。このフィルタ構造体1は、第一実施形態又は第二実施形態で例示した製造方法により製造できる。
(第六実施形態)
図14に示すように、第六実施形態では、第一実施形態と同様に、ナノポアセンサやバイオフィルタに好適に利用できるフィルタ構造体1を示す。ただし、本実施形態に係るフィルタ構造体1は、ガラスカバー6を備えておらず、ガラス基材3及びガラスフィルム5が、導体からなる接合層28を介して陽極接合された構成である。
詳細には、ガラス基材3及びガラスフィルム5の少なくとも一方が、ガラス組成としてアルカリ金属酸化物(例えばNa2O)を含有する。つまり、例えば、ガラス基材3及びガラスフィルム5のうちの一方に接合層28を予め成膜する場合、ガラス基材3及びガラスフィルム5のうちの他方(接合層28が成膜されていない部材)がアルカリ金属酸化物を含有していればよい。もちろん、この場合でも、ガラス基材3及びガラスフィルム5の両方が、アルカリ金属酸化物を含有していてもよい。また、ガラス基材3とガラスフィルム5との間に、ガラス基材3及びガラスフィルム5から独立したフィルム状又は板状の接合層28を介在させる場合、ガラス基材3及びガラスフィルム5の両方が、アルカリ金属酸化物を含有していることが好ましい。
アルカリ金属酸化物を含有するガラス部材において、Na2Oの含有量は、3~20質量%であることが好ましく、5~18質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることが最も好ましい。
アルカリ金属酸化物を含有するガラス部材において、アルカリ溶出量は、0.01~0.3mgであることが好ましく、0.01~0.2mgであることがより好ましく、0.01~0.1であることが最も好ましい。アルカリ溶出量は、JIS R 3502に準拠した方法で測定した値を意味する。
ガラス基材3の厚みは、0.2~2μmであることが好ましく、0.2~1.5μmであることがよい好ましく、0.2~1μmであることが最も好ましい。このようにすれば、接合層28をガラス基材3に成膜する際に、ガラス基材3の反りを抑制できる。
ガラス基材3とガラスフィルム5との熱膨張係数差は、20×10-7/℃以下であることが好ましく、20×10-7/℃以下であることがより好ましく、5×10-7/℃以下であることが最も好ましい。このようにすれば、陽極接合時のガラス基材3とガラスフィルム5との熱膨張差が小さくなるため、ガラス基材3とガラスフィルム5とを均一に接合できる。なお、熱膨張差を抑制する観点からは、ガラス基材3及びガラスフィルム5は同材質であることが好ましい。
接合層28は、シリコン又は金属から構成される。金属としては、アルミニウム、チタン、ニッケル、コバルトなどが使用できる。
接合層28の厚みは、50~300nmであることが好ましく、50~200nmであることがより好ましく、100~200nmであることが最も好ましい。
次に、上記の構成を備えたフィルタ構造体1を製造する方法を説明する。
本実施形態に係るフィルタ構造体1の製造方法は、積層工程と、接合工程と、孔あけ工程と、を順に備える。
図15に示すように、積層工程では、ガラス基材3とガラスフィルム5とを接合層28を介して積層し、積層体29を形成する。接合層28は、スパッタリング法、蒸着法などの任意の方法により、ガラス基材3の上面3aに成膜される。接合層28とガラス基材3との密着力を向上させるために、ガラス基材3の上面3aの表面粗さRaは、20nm以下であることが好ましく、10nmであることがより好ましく、5nm以下であることが最も好ましい。表面粗さRaは、JIS B0601:2001に準拠した方法で測定した値を意味する。なお、接合層28は、ガラスフィルム5の下面5bに成膜してもよい。
図16に示すように、接合工程では、ガラスフィルム5の上面5aに第一電極30を配置し、ガラス基材3の下面3bに第二電極31を配置する。この状態で、電極30,31間に電源32により電圧を印加し、ガラス基材3とガラスフィルム5とを接合層28を介して陽極接合する。
電圧を印加している間、積層体29をヒータ等により、ガラス軟化点以下の温度で加熱することが好ましい。加熱温度は、500℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることが最も好ましい。このようにすれば、熱拡散が活性化し、陽極接合による接合強度を高めることができる。
孔あけ工程では、ガラスフィルム5に微細孔9を形成する。これにより、フィルタ構造体1が製造される。なお、孔あけ工程が、接合工程の後で行われる場合を例示したが、孔あけ工程は、積層工程の前、積層工程の後かつ接合工程の前、接合工程の後のいずれのタイミングで行ってもよい。
本実施形態におけるその他の構成は、第一実施形態と同じである。本実施形態において、第一実施形態と共通する構成要素には、共通符号を付している。
(第七実施形態)
図17に示すように、第七実施形態では、第一実施形態と同様に、ナノポアセンサやバイオフィルタに好適に利用できるフィルタ構造体1を示す。ただし、本実施形態に係るフィルタ構造体1は、ガラスカバー6を備えておらず、ガラス基材3及びガラスフィルム5が、直接接触した状態で、接合面間の分子間力(オプティカルコンタクト)により接合された構成である。
ガラスフィルム5の厚みは、1~50μmであることが好ましく、1~20μmであることがより好ましく、1~10μmであることが最も好ましい。
ガラス基材3の厚みは、0.2~2μmであることが好ましく、0.2~1.5μmであることがよい好ましく、0.2~1μmであることが最も好ましい。
ガラス基材3の上面(接合面)3a及びガラスフィルム5の下面(接合面)5bのそれぞれの表面粗さRaは、2.0nm以下であることが好ましく、1.0nm以下であることがより好ましく、0.2nm以下であることが最も好ましい。
次に、上記の構成を備えたフィルタ構造体1を製造する方法を説明する。
本実施形態に係るフィルタ構造体1の製造方法は、積層工程と、孔あけ工程と、を順に備える。
図18に示すように、積層工程では、ガラス基材3とガラスフィルム5とを、他部材を介在させることなく直接積層する。これにより、ガラス基材3とガラスフィルム5とが接合面3a,5b間の分子間力により接合する。つまり、積層工程が接合工程を兼ね、ガラス基材3とガラスフィルム5とを積層するだけで両者が接合される。
ガラス基材3及びガラスフィルム5の互いの接合面3a,5bを密着させた前に、接合面3a,5bに対してエキシマ照射、プラズマ処理などの表面活性化処理を行うことが好ましい。このようにすれば、接合面3a,5bの清浄度を高め、接合面3a,5b間の分子間力による接合強度を高めることができる。
ガラス基材3及びガラスフィルム5の互いの接合面3a,5bを密着させた後に、ガラス軟化点以下の温度で加熱してもよい。このようにすれば、接合面3a,5b間の分子間力による接合強度を高めることができる。
孔あけ工程では、ガラスフィルム5に微細孔9を形成する。これにより、フィルタ構造体1が製造される。なお、孔あけ工程が、積層工程の後で行われる場合を例示したが、孔あけ工程は、積層工程の前、積層工程の後のいずれのタイミングで行ってもよい。
本実施形態におけるその他の構成は、第一実施形態と同じである。本実施形態において、第一実施形態と共通する構成要素には、共通符号を付している。
(第八実施形態)
図19に示すように、第八実施形態では、第一実施形態と同様に、ナノポアセンサやバイオフィルタに好適に利用できるフィルタ構造体1を示す。ただし、本実施形態に係るフィルタ構造体1は、第一開口中空部7を有する厚肉部2と、第一開口中空部7の一端開口部を覆い、第一開口中空部7に対応する位置に微細孔9を有する薄肉部4とが、ガラス製の一体品である。
本実施形態におけるその他の構成は、第一実施形態と同じである。本実施形態において、第一実施形態と共通する構成要素には、共通符号を付している。本実施形態に係るフィルタ構造体1は、例えば、機械加工、レーザ加工、FIB加工、エッチング加工、超音波加工、あるいはこれらの組み合わせによって、ブロック状又は板状のガラス部材を加工することにより形成される。
本実施形態におけるその他の構成は、第一実施形態と同じである。本実施形態において、第一実施形態と共通する構成要素には、共通符号を付している。
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
上記の実施形態において、ガラスカバー6を備えたフィルタ構造体1を例示したが、ガラスカバー6は省略してもよい。この場合、例えば、溶融固化部10は、ガラス基材3の上面3a近傍とガラスフィルム5の下面5b近傍とに連続的に跨るように形成される。溶融固化部10は、ガラスフィルム5側からレーザ光を照射して形成してもよいし、ガラス基材3側からレーザ光を照射して形成してもよい。
上記の実施形態において、厚肉部2と薄肉部4とを別体で構成して接合する構成では、接合工程において、ガラスフィルム5が加熱される場合があるため、ガラスフィルム5には、その歪による残留応力が発生し得る。この場合において、接合工程の直後に、ガラスフィルム5の残留応力を除去するアニール工程が実施されることが好ましい。アニール工程は、ガラスフィルム5の接合部分(例えば溶融固化部10など)にアニールレーザを照射することにより行われる。あるいは、アニール工程は、接合工程の直後に、フィルタ構造体1を電気炉で加熱することにより行われてもよい。
上記の実施形態では、厚肉部2と薄肉部4とを共にガラス部材で構成する場合を説明したが、厚肉部2はガラス以外の材質で構成してもよい。
上記の実施形態では、ナノポアセンサ18やバイオフィルタ25に利用されるフィルタ構造体1を説明したが、このフィルタ構造体1と同様の構成を備えたガラス構造体は、これら用途以外にも利用可能である。