以下、本発明による給液式スクリュー圧縮機の実施の形態について図面を用いて例示説明する。
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機に対する給液の外部経路について図1を用いて説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機に対する給液の外部経路を示す系統図である。
図1に示すように、給液式スクリュー圧縮機1(以下、スクリュー圧縮機という)では、外部から圧縮機内部へ液体が供給される。スクリュー圧縮機1に対して供給される液体の外部経路81は、気液分離器82、液体冷却器83、フィルタや逆止弁などの補機84、及びそれらを接続する配管85で構成されている。スクリュー圧縮機1から吐出された圧縮気体中には、圧縮機内部に供給された液体が混入している。この圧縮気体中に含まれる液体は、気液分離器82によって圧縮気体から分離され、液体冷却器83によって冷却された後、補機84を介して再びスクリュー圧縮機1の内部へ供給される。スクリュー圧縮機1への液体供給は、ポンプ等の動力源を用いることなく、気液分離器82内に流入する圧縮気体の圧力を駆動源として行うことが可能である。
次に、第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の構成を図2及び図3を用いて説明する。図2は、本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機を示す断面図である。図3は、図2に示す本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機をIII-III矢視から見た断面図である。図2中、左側の紙面表側がスクリュー圧縮機の吸込側であり、右側の紙面裏側が吐出側である。
図2及び図3において、スクリュー圧縮機1は、互いに噛み合って回転する一対のスクリューロータとしての雄ロータ2及び雌ロータ3と、雄ロータ2及び雌ロータ3を回転可能に内部に格納するケーシング4とを備えている。雄ロータ2は、その軸方向(図2中、左右方向)の両側がそれぞれ吸込側軸受(以下、MS軸受という)6と吐出側軸受(以下、MD軸受という)7、8とにより回転自在に支持されている。雌ロータ3は、その軸方向の両側がそれぞれ吸込側軸受(以下、FS軸受という)10と吐出側軸受(以下、FD軸受という)11、12とにより回転自在に支持されている。
雄ロータ2は、螺旋状の雄歯21aが複数(図3中、4つ)形成されたロータ歯部21と、ロータ歯部21の軸方向の両側端部にそれぞれ設けられた吸込側のシャフト部22及び吐出側のシャフト部23とで構成されている。ロータ歯部21は、軸方向一方端(図2中、左端)及び他方端(図2中、右端)にそれぞれ、軸方向に対して直交する吸込側端面21b及び吐出側端面21cを有している。ロータ歯部21の複数の雄歯21a間には歯溝が形成されている。吸込側のシャフト部22は、ケーシング4の外側に延出しており、電動機等の原動機90(図1参照)に接続される。
雌ロータ3は、螺旋状の雌歯31aが複数(図3中、6つ)形成されたロータ歯部31と、ロータ歯部31の軸方向の両側端部にそれぞれ設けられた吸込側のシャフト部32及び吐出側のシャフト部33とで構成されている。ロータ歯部31は、軸方向一端(図2中、左端)及び他方端(図2中、右端)にそれぞれ、軸方向に対して直交する吸込側端面31b及び吐出側端面31cを有している。ロータ歯部31の複数の雌歯31a間には歯溝が形成されている。
ケーシング4は、メインケーシング41と、メインケーシング41の吐出側(図2中、右側)に取り付けられた吐出側ケーシング42とを備えている。ケーシング4の内部には、雄ロータ2のロータ歯部21と雌ロータ3のロータ歯部31とを互いが噛み合った状態で格納する格納室としてのボア45が形成されている。ボア45は、メインケーシング41に形成された一部重複する2つの円筒状空間の軸方向一方側(図2中、右側)の開口を吐出側ケーシング42で閉塞することによって構成されている。ボア45は、雄ロータ2のロータ歯部21の大部分が配置される第1格納部としての雄側ボア45aと、雌ロータ3のロータ歯部31の大部分が配置される第2格納部としての雌側ボア45bとから成る。ボア45を形成する壁面は、雄ロータ2のロータ歯部21の径方向外側を覆う略円筒状の第1内周面46と、雌ロータ3のロータ歯部31の径方向外側を覆う略円筒状の第2内周面47と、雌雄両ロータ2、3のロータ歯部21、31の吸込側端面21b、31bに対向する軸方向一方側(図2中、左側)の吸込側端面48と、雌雄両ロータ2、3のロータ歯部21、31の吐出側端面21c、31cに対向する軸方向他方側(図2中、右側)の吐出側端面49とで構成されている。雌雄両ロータ2、3のロータ歯部21、31の複数の歯溝とそれを取り囲むケーシング4の内壁面(ボア45の第1内周面46、第2内周面47、吸込側端面48、吐出側端面49)とによって複数の作動室Cが形成される。
メインケーシング41の軸方向一方側端部(図2中、左側端部)には、MS軸受6を保持する吸込側軸受室51及びFS軸受10を保持する吸込側軸受室52が設けられており、両吸込側軸受室51、52の一方側(図2中、左側)が開口している。メインケーシング41には、両吸込側軸受室51、52の開口を閉塞する吸込側カバー(図示せず)が取り付けられている。
吐出側ケーシング42におけるボア45側とは反対側の部分(図2中、右側端部)には、MD軸受7、8を保持する吐出側軸受室53及びFD軸受11、12を保持する吐出側軸受室54が設けられており、両吐出側軸受室53、54の一方側(図2中、右側)が開口している。吐出側ケーシング42には、両吐出側軸受室53、54の開口を閉塞する吐出側カバー44が取り付けられている。
ケーシング4には、作動室Cへ気体を吸い込むための吸込流路56(図1及び図3参照)が設けられており、図2において紙面表側に配置されている。吸込流路56は、ケーシング4の外部とボア45(作動室C)とを連通させるものである。ケーシング4には、作動室Cからケーシング4外へ圧縮気体を吐出するための吐出流路57(図1参照)が設けられており、図2において紙面裏側に配置されている。吐出流路57は、ボア45(作動室C)とケーシング4の外部とを連通させるものであり、外部経路81の配管85(図1参照)に接続されている。
給液式スクリュー圧縮機1は、雄ロータ2及び雌ロータ3の潤滑、作動室C内の気体の冷却、雌雄両ロータ2、3とボア45の壁面(ケーシング4の内壁面)との隙間や雄ロータ2と雌ロータ3の噛合い部の隙間等のシールを目的として、作動室Cに液体(例えば、油や水)を注入するものである。ケーシング4には、スクリュー圧縮機1の外部から供給される液体を作動室Cへ導くための給液路60が設けられている。給液路60は、例えば、雄ロータ2及び雌ロータ3の双方の軸心を含む平面に対して一方側(図3中、下側)に位置するケーシング4の壁面部に設けられている。給液路60は、例えば、ケーシング4の外部からの液体が導入される主流路61と、主流路61から分岐してボア45に開口する複数(図3中、2つ)の分岐流路62とで構成されている。
分岐流路62は、例えば、雄側ボア45a(ボア45の第1内周面46)及び雌側ボア45b(ボア45の第2内周面47)における作動室Cが圧縮過程となる領域に複数(図3中、雄側ボア45a及び雌側ボア45bに1つずつ)開口しており、給液路60の下流側部分を構成するものである。各分岐流路62にはそれぞれ、分岐流路62を流通する液体を作動室Cへ噴射する給液ノズル70が取り付けられている。本実施の形態のスクリュー圧縮機1における給液ノズル70を含む給液機構は、噴射した液体を衝突により微粒化して作動室Cへ拡散させるものである。
次に、第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機における給液機構の詳細な構造を図4~図6を用いて説明する。図4は、図3の符号Xで示す本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構を拡大した状態で示す断面図である。図5は、図4に示す本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構をV-V矢視から見た断面図である。図6は、図4及び図5に示す本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構をボア内から見た図である。図7は、本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機における給液ノズルの配置の一例を示す説明図である。図7中、二点鎖線Lは、雄ロータ又は雌ロータの歯先線を示している。
図4及び図5において、給液路60の分岐流路62は、一方側がケーシング4の内壁面(ボア45の第1内周面46又は第2内周面47)に開口すると共に、他方側が主流路61に開口している。分岐流路62は、例えば、丸穴として形成されている。分岐流路62を形成する内周面には、雌ねじ部63が設けられている。雌ねじ部63は、分岐流路62の主流路61側の開口からボア45側の開口よりも上流側の位置まで延在している。つまり、雌ねじ部63の下流端は、分岐流路62の下流端よりも上流側に位置している。分岐流路62における雌ねじ部63よりも下流側の端部(雌ねじ部63が形成されていない部分)は、給液ノズル70の分岐流路62の下流側への移動を規制する移動規制部として機能している。
給液ノズル70は、図4~図6に示すように、例えば略円柱状の部材であり、軸方向一方側(図4及び図5中、上側)に開口する一対の噴射孔71と、軸方向他方側(図4及び図5中、下側)に開口して一対の噴射孔71に連通する1つの穴部であるヘッダ部72と、一対の噴射孔71の開口側(軸方向一方側)に設けられた溝部73とを有している。給液ノズル70は、一対の噴射孔71が開口する軸方向一方側がケーシング4のボア45側を向きヘッダ部72が開口する軸方向他方側が給液路60の主流路61側を向くように、分岐流路62に取り付けられている。
一対の噴射孔71は、噴射する液体を衝突させて面状に拡散するように構成されている。具体的には、各噴射孔71は、その孔径が分岐流路62の孔径よりも小さくなるように形成されている。また、一対の噴射孔71は、両中心軸線71cが同一の平面P上に位置して一対の噴射孔71の軸方向一方側の外部で交差するように形成されている。すなわち、一対の噴射孔71は、図4に示すように、互いが下流側に向かって徐々に接近するように形成され、給液ノズル70の軸方向又は分岐流路62の延在方向に対してそれぞれ角度θで傾斜している。一対の噴射孔71の両中心軸線71cにより形成される角度2θ、すなわち、噴射する流体の衝突角2θは、衝突した液体が面状に拡散して広範囲で微粒化するような範囲に設定される。
ヘッダ部72は、図4及び図5に示すように、給液ノズル70の軸方向(分岐流路62の延在方向)と同じ方向に延在する貫通しない穴部であり、その穴径が噴射孔71の孔径よりも大きく分岐流路62の孔径よりも小さくなるように形成されている。ヘッダ部72を形成する底部には、一対の噴射孔71の上流側が開口している。ヘッダ部72は、分岐流路62を流通する液体を給液ノズル70内に導入して一対の噴射孔71に分配するものである。
溝部73は、図4~図6に示すように、例えば横断面がV状であり、互いが底側に向かって徐々に接近する第1傾斜面74及び第2傾斜面75を側壁面としている。第1傾斜面74には一対の噴射孔71の一方が開口すると共に、第2傾斜面75には一対の噴射孔71の他方が開口している。第1傾斜面74及び第2傾斜面75の傾斜角は、噴射孔71の傾斜角θや分岐流路62の孔径に応じて設定されている。溝部73は、一対の噴射孔71から噴射される液体の衝突による面状の拡散方向と同じ方向に延在している。具体的には、溝部73は、一対の噴射孔71の両中心軸線71cを含む平面Pに対して直交する方向に給液ノズル70の外周縁まで延在している。溝部73の幅は、一対の噴射孔71から噴射される液体の衝突により生じる面状の幅よりも大きくなるように設定されている。
溝部73は、第1に、互いに傾斜する一対の噴射孔71の加工の際に、噴射孔71に対して略直交するような平坦面を確保するためのものである。傾斜面に穴を加工する場合、工具の先端が傾斜面上を滑って加工位置の精度が低下することがある。そのため、穴の軸方向に対して略直交するような面を傾斜面に設ける必要がある。
溝部73は、第2に、一対の噴射孔71の成す角2θを維持しつつ、分岐流路62の孔径及び給液ノズル70の外径の大きさを抑制するために、一対の噴射孔71を接近させるためのものである。分岐流路62に給液ノズル70を取り付ける構造の場合、分岐流路62が開口するボア45の第1内周面46又は第2内周面47と給液ノズル70との間に位置する分岐流路62の空間分、作動室Cの容積が増加してしまう。この分岐流路62の余分な空間が大きくなればなるほど圧縮機性能が低下するので、分岐流路62の孔径及び給液ノズル70の外径の大きさを抑制する必要がある。
給液ノズル70の外周面には、例えば、分岐流路62の雌ねじ部63にねじ込みが可能な雄ねじ部76が設けられている。給液ノズル70は、雄ねじ部76が分岐流路62の雌ねじ部63にねじ込まれることで、ケーシング4に着脱可能に取り付けられている。給液ノズル70は、図4及び図5の両矢印Dで示すように、雄ねじ部76の分岐流路62の雌ねじ部63に対するねじ込み量に応じて分岐流路62の延在方向に対する位置調整が可能である。給液ノズル70は、図7に示すように、溝部73の延在する方向が雄ロータ2の雄歯21a又は雌ロータ3の雌歯31aが延在する方向(図7中、二点鎖線で示す歯先線L)と平行になるように、ケーシング4に取り付けることが可能である。なお、給液ノズル70の分岐流路62の下流側への移動は、図4及び図5に示すように、分岐流路62における雌ねじ部63の形成されていない下流側端部の内周面によって規制されてしている。
給液路60の主流路61および分岐流路62をメインケーシング41に形成する方法としてはメインケーシング41を鋳造する際に、鋳型に給液路60の主流路61および分岐流路62を形成することも可能であるが、鋳型の形状が複雑となる。より簡便には給液路60を形成していないメインケーシング41の鋳物を外部から穿孔する方法がある。図2および図3の構成は後者の穿孔によって給液路60の主流路61および分岐流路62を構成した例である。穿孔の順番については特に指定はないが、例えば図3の左側の下方から上方に向けてメインケーシング41を貫通しないように給液路60の主流路61の一部を形成し、図3の左方から右方に向けて雌ロータ3の分岐流路62を形成する位置よりも右側まで、かつメインケーシング41を貫通しないように主流路61の残りの部分を形成し、図3の下方から上方に向けてメインケーシング41を貫通するように雄ロータ2および雌ロータ3の分岐流路62を形成する。主流路61の残りの部分を形成する図3の左右方向に延在する孔は、図3の左側の開口がプラグ61aにより閉塞されている。雄ロータ2および雌ロータ3の分岐流路62を形成する孔はそれぞれ、図3の下方の開口がプラグ62aにより閉塞されている。
また、分岐流路62については、図4に示すように分岐流路62の内径の穿孔をした後に、雌ねじ部63を分岐流路62の下端から上端よりもやや下の部分まで設けている。これは、給液ノズル70の外周面に雄ねじ部76を設けることで、給液ノズル70を分岐流路62に着脱可能に取り付けることができるようにし、雌ねじ部63が分岐流路62の中途までしか設けられていないことで給液ノズル70が雌ねじ部63内を回りすぎてボア内に突出することを防止するためである。すなわち本実施例の分岐流路62および給液ノズル70は、雌ねじ部63の上端からボアの第1内周面46又は第2内周面47までの高さh1が、給液ノズル70の雄ねじ部76の上端から給液ノズル70の最上部までの高さh2よりも大きくなるように構成されている。
次に、第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の動作及び効果を従来の給液式スクリュー圧縮機と比較しつつ説明する。まず、比較例としての従来の給液式スクリュー圧縮機の給液機構の構造を図8~図10を用いて説明する。図8は、本発明の第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機に対する比較例としての従来の給液式スクリュー圧縮機における給液機構を拡大した状態で示す断面図である。図9は、図8に示す比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構をIX-IX矢視から見た断面図である。図10は、図8及び図9に示す比較例の給液式スクリュー圧縮機の給液機構をボア内から見た図である。なお、図8~図10において、図1~図7に示す符号と同符号のものは同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
比較例としてのスクリュー圧縮機101のケーシング4には、図8及び図9に示すように、スクリュー圧縮機101の外部から供給される液体を作動室Cへ導くための給液路160が設けられている。給液路160は、ケーシング4の外部からの液体が導入される主流路161と、主流路161から分岐してボア45に開口し、ボア45内の作動室Cへ液体を噴射する噴射部162とで構成されている。
噴射部162は、例えば、ボア45における作動室Cが圧縮過程となる領域に開口している。噴射部162は、図8~図10に示すにように、一方側(図8及び図9中、下側)が主流路161に接続される一方、他方側(図8及び図9中、上側)がボア45に接続されずに先止まりの大径穴164と、大径穴164に接続された一対の噴射孔165と、ボア45の第1内周面46又は第2内周面47に設けられ、一対の噴射孔165が開口する窪み部166とで構成されている。大径穴164は、主流路161を流通する液体を噴射部162内に導入して一対の噴射孔165に分配するものである。
一対の噴射孔165は、噴射する液体を衝突させて面状に拡散するように構成されている。具体的には、各噴射孔165は、その孔径が大径穴164の孔径よりも小さくなるように形成されている。また、一対の噴射孔165は、両中心軸線165cが同一の平面P上に位置して一対の噴射孔165の軸方向一方側の外部で交差するように形成されている。すなわち、一対の噴射孔165は、図8に示すように、互いが下流側に向かって徐々に接近するように形成され、大径穴164の延在方向に対してそれぞれ角度θで傾斜している。一対の噴射孔165の両中心軸線165cにより形成される角度2θ、すなわち、噴射する流体の衝突角2θは、衝突した液体が面状に拡散して広範囲で微粒化するような範囲に設定される。
窪み部166は、互いに傾斜する一対の噴射孔165の加工の際に、噴射孔165に対して略直交するような面を確保するためのものである。窪み部166は、図8~図10に示すにように、円錐状であり、その傾斜角は噴射孔165の傾斜角θなどに応じて設定されている。
なお、従来の給液式スクリュー圧縮機101における上述した給液機構以外の構成は、第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機1と同様なものである。
次に、第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の動作及び効果を従来の給液式スクリュー圧縮機と比較しつつ図1~図6、図8~図10を用いて説明する。
図2は、本実施の形態における圧縮機を圧縮する空気の吸込流路56とケーシング4との接続口側から見た図の一例である。雄ロータ2が原動機90(図1参照)により駆動されて雌ロータ3を回転駆動すると、作動室Cが雌雄両ロータ2、3の回転の進行に伴って吐出側(図2中、右側)に向かって軸方向に移動する。このとき、作動室Cは、その容積を増加させることで外部から吸込流路56(図1参照)を介して気体を吸い込み、その容積を縮小させることで気体を所定の圧力まで圧縮する。作動室C内の圧縮気体は、最終的に、吐出流路57(図1参照)を介して圧縮機外部へ吐出される。
図3に示すスクリュー圧縮機1の駆動中、外部経路81(図1参照)からスクリュー圧縮機1の給液路60(図1参照)へ液体が供給される。スクリュー圧縮機1に供給された液体は、給液路60の主流路61及び分岐流路62を介して給液ノズル70からボア45内の作動室Cへ噴射される。この場合、図4に示す給液ノズル70の一対の噴射孔71から噴出された液体は、互いに一対の噴射孔71の中心軸線71cの交点Iのあたりで衝突することで、微粒化して指向性もって作動室C内を拡散する。具体的には、衝突により微粒化した液体は、一対の噴射孔71を含む平面P(図5及び図6を参照)に直交する方向に幅W1をもって扇状(面状)に拡散する。給液の微粒化によって熱交換面積が大きくなるので、作動室C内の圧縮気体の冷却が促進され、圧縮機性能の向上を図ることができる。
一方、比較例のスクリュー圧縮機101においては、図8に示す給液路160に供給された液体は、主流路161を介して噴射部162からボア45内の作動室Cへ噴射される。この場合、噴射部162の一対の噴射孔165から噴出された液体は、互いに一対の噴射孔165の中心軸線165cの交点Iのあたりで衝突することで、微粒化して指向性もって作動室C内を拡散する。具体的には、衝突により微粒化した液体は、一対の噴射孔165を含む平面P(図9及び図10を参照)に直交する方向に幅W0をもって扇状(面状)に拡散する。比較例のスクリュー圧縮機101においても、本実施の形態と同様に、給液の微粒化によって作動室C内の圧縮気体の冷却が促進されるので、圧縮機性能の向上を図ることができる。
ただし、比較例のスクリュー圧縮機101の噴射部162は、一対の噴射孔165から噴出された液体が窪み部166内で衝突するように構成される場合がある。この構成は、一対の噴射孔165の成す角2θを所定の範囲に維持しつつ、窪み部166の外径の大きさを抑制することを意図したものである。衝突した液体が微粒化して広範囲に拡散するためには、一対の噴射孔165の成す角2θを所定の範囲に維持する必要がある。また、ボア45の壁面(第1内周面46又は第2内周面47)に窪み部166を設けることで、その分、作動室Cの容積が増加して圧縮機性能が低下するので、作動室Cの容積増加を抑制する必要がある。しかし、一対の噴射孔165から噴出された液体を窪み部166内で衝突させる構成の場合、図9に示すように、窪み部166を形成する円錐状の壁面が拡散する液滴の障壁となり、微粒化した液滴の拡散範囲が窪み部166の開口縁までの角度α0に制限される虞がある。この場合、作動室Cへ注入される液体が微粒化してもその拡散範囲が制限されることで、液体の微粒化による圧縮気体の冷却効果が低減する懸念があった。
それに対して、本実施の形態においては、図4~図6に示すように、一対の噴射孔71から噴射される液体の衝突による扇状の拡散方向(一対の噴射孔71を含む平面Pに直交する方向)と同じ方向に溝部73を延在させている。これにより、一対の噴射孔71から噴出された液体が溝部73内で衝突するように給液ノズル70を構成しても、図5に示すように、溝部73の第1傾斜面74及び第2傾斜面75が拡散する液滴の障壁とならないので、微粒化した液滴の拡散範囲を角度α1(分岐流路62のボア45側の開口縁)まで確保することができる。微粒化した液滴がボア45内の作動室Cで従来よりも広範囲に拡散することで、圧縮気体との伝熱領域が大きくなるので、その分、作動室C内の圧縮気体の冷却が促進される。
また、比較例のスクリュー圧縮機101の噴射部162を製作するためには、図8~図10に示すように、互いに傾斜する一対の噴射孔165をケーシング4に直接加工する必要がある。また、ボア45の第1内周面46又第2内周面47を直接加工して窪み部166を設ける必要がある。このように、噴射部162はケーシング4に対して直接加工することで製作するものであり、その加工が困難である。そのため、噴射部162の構造を実製品に採用しづらかった。
それに対して、本実施の形態においては、ケーシング4とは別部材の給液ノズル70をケーシング4の給液路60に取り付ける構成なので、噴射孔などの液体を噴射するための構造を直接ケーシング4に形成する必要がない。換言すると、ケーシング4と比較すると取り扱いやすい小型の部材である給液ノズル70に対して一対の噴射孔71や溝部73などの液体を噴射するための構造を加工すればよい。ケーシング4の内壁面に噴射孔等の構造を直接加工する場合、特殊な装置や工具が必要となるが、給液ノズル70に噴射孔71や溝部73などの構造を加工する場合、一般的な装置や工具を用いることができる。したがって、スクリュー圧縮機1の給液機構の加工が従来のスクリュー圧縮機101の給液機構よりも容易である。
上述したように、第1の実施の形態によれば、一対の噴射孔71及び所定方向に延在する溝部73を設けた給液ノズル70をケーシング4の給液路60に取り付けることで衝突式の給液機構を構成しているので、一対の噴射孔71及び溝部73を直接ケーシング4に形成する必要がなく衝突式の給液機構の加工が容易であり、且つ、給液ノズル70から噴射された液体の衝突によって生じた微粒化した液滴の拡散が給液ノズル70の溝部73の側壁面(第1傾斜面74及び第2傾斜面75)によって阻害されることがない。
また、本実施の形態によれば、溝部73の延在する方向が雄ロータ2の雄歯21a又は雌ロータ3の雌歯31aが延在する方向と平行になるように、給液ノズル70をケーシング4に取り付けることで、微粒化した液体を作動室Cへ更に広範囲に拡散させることができる。その結果、給液による冷却効果が更に向上する。
図2に示す第1の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機は、雄ロータ2および雌ロータ3それぞれに1つずつ給液ノズル70を設けているが、1つの給液ノズル70から供給される液体の流量は噴射口71の径によって制限されるため、冷却能力が足りない場合がある。この場合、それぞれのロータ2、3に対して複数の給液ノズル70を設けることが有効である。雄側ボア45aと雌側ボア45bにそれぞれ複数個の給液機構を設ける第1の実施の形態の変形例に係る給液式スクリュー圧縮機の例として、図11に示す給液式スクリュー圧縮機1Aの断面図のようにメインケーシング41の軸方向に連通路64を設け、給液機構を延在させる方法がある。すなわち、給液路60Aのうち雌雄ロータ2、3の軸方向と平行な連通路64の部分に、複数の給液ノズル70を設けるものである。なお、液体を潤滑剤として用いる場合は図11に示すように、連通路64を更に延長し、MS軸受6やFS軸受10に対して液体を供給する軸受給液路65を設けても良い。ロータ2、3付近のケーシング4を通過した液体は圧縮機の圧縮熱により加熱されて熱交換器83(図1参照)で冷却された液体よりも粘度が低くなっている。このため、軸受における撹拌抵抗が低くなり、圧縮機の効率の向上を図ることができる。軸受給液路65はMS軸受6、FS軸受10の両方に設けても一方に設けても良い。ノズル70に加わる圧力を逃げにくくするため、軸受給液路65の径は連通路64の径よりも小さい方が望ましい。図12は、図11に示す本発明の第1の実施の形態の変形例に係る給液式スクリュー圧縮機をXII-XII矢視から見た断面図である。
作動室Cの圧力は吐出口に近いほど高くなるため、吐出口に近い給液ノズル70の噴射口71から噴射される液体を押し戻そうとする力も吐出口に近いほど強くなる。従って、複数の給液ノズル70を雄ロータ2及び雌ロータ3それぞれに設ける場合、吐出口に近い給液ノズル70は吸込口に近い給液ノズル70よりも高い圧力で液体を供給する必要がある。図11および図12に示す構造はそれぞれの給液ノズル70が上記の関係を満たすように給液路60Aの主流路61、分岐流路62および連通路64を配置した構造の一例である。すなわち、本構成では図12に示すように、給液路60Aの上流部は吸込側より吐出側に近い位置に形成され、吐出口に近い給液ノズル70aは吸込口に近い給液ノズル70cよりも主流路61からの距離が近くなるように配置されている。すなわち、給液ノズル70から液体が噴射されることにより次の給液ノズル70に供給される液体の圧力は減少するため、各給液ノズルに供給される液体の圧力は70a>70b>70cとなる。
なお、吐出側から吸込側に向かって給液路の上流部から下流側に液体を流せることができれば連通路64に液体を供給する経路は吐出側に近い位置の主流路61でなくてもよく、外部経路81から雄側ボア45a寄りの連通路64と雌側ボア45b寄りの連通路64にそれぞれ連通していてもよい。また雄側ボア45a側と雌側ボア45b側に別々の連通路64を設けずに、一つの連通路からそれぞれの分岐流路62に連通する構造としてもよい。
図13は、図11に示す本発明の第1の実施の形態の変形例に係る給液式スクリュー圧縮機における給液機構と、吸込み吐出し機構との位置関係を示す模式図である。同図では説明のために気体の吸込側を下面、吐出側を上面に配して表している。吸込流路56を通った気体はスクリューロータ2、3により圧縮され、吐出流路57を介してユーザに供給される。また、給液路60Aの主流路61、連通路64、分岐流路62を順に通り給液ノズル70から作動室C内に噴射される。スクリュー圧縮機には一方の面(図13の下面)から気体を吸込み、もう一方の面(図13の上面)に吐き出すという構造上の制約があるため、図13のように液体を作動室C内に供給する給液路60A(61、62、64)は上面に配置したほうが、吸込流路56との干渉が少なく、無理のないレイアウトとなる。加えて、図13のように液体が右から給液路60Aに入り、圧縮気体および液体が吐出流路57を通って左から出されるように、給液路60Aと吐出流路57の接続先が左右異なるように配置したほうが接続先の干渉が少なく、無理のないレイアウトとなる。
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機について図14~図16を用いて例示説明する。図14は、本発明の第2の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機における給液機構を拡大した状態で示す断面図である。図15は図14に示す本発明の第2の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構をXV-XV矢視から見た断面図である。図16は図14及び図15に示す本発明の第2の実施の形態に係る給液式スクリュー圧縮機の給液機構をボア内から見た図である。なお、図14~図16において、図1~図13に示す符号と同符号のものは、同様な部分であるので、その詳細な説明は省略する。
図14~図16に示す第2の実施の形態に係るスクリュー圧縮機1Bが第1の実施の形態のスクリュー圧縮機1(図4~図6を参照)と異なる点は、ケーシング4のボア45の第1内周面46又は第2内周面47における分岐流路62の開口縁に、給液ノズル70の溝部73の両側にそれぞれ連続する切欠き部46a又は切欠き部47aを設けたことである。切欠き部46a、47aは、例えば、溝部73の延在する方向と同じ方向に延在する三角形状である。切欠き部46a又は切欠き部47aの形成方向は、例えば、溝部73の延在する方向が雄ロータ2の雄歯21a又は雌ロータ3の雌歯31aが延在する方向と平行になるように、給液ノズル70をケーシング4に取り付ける場合には、雄ロータ2の雄歯21a又は雌ロータ3の雌歯31aが延在する方向と平行である。なお、切欠き部は、溝部73の延在方向と同じ方向に延在する構成であれば、その形状は任意である。ただし、切欠き部はその容積の大きさを抑制することが望ましく、三角形状の切欠き部46a、47aは作動室Cの容積増加分を抑制することができる。
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様に、一対の噴射孔71及び所定方向に延在する溝部73を設けた給液ノズル70をケーシング4の給液路60に取り付けることで衝突式の給液機構を構成しているので、給液機構の加工が容易であり、且つ、給液ノズル70から噴射された液体の衝突によって生じた微粒化した液滴の拡散が給液ノズル70の溝部73の側壁面(第1傾斜面74及び第2傾斜面75)によって阻害されることがない。
また、本実施の形態によれば、給液ノズル70の溝部73に連続するように、ケーシング4の分岐流路62のボア45側の開口縁に切欠き部46a又は切欠き部47aを設けたので、微粒化した液滴の拡散が分岐流路62のボア45側の下流側端部を形成する内周面や開口縁によって阻害されることがない。そのため、微粒化した液滴の作動室C内への拡散範囲を角度α2(切欠き部46a又は切欠き部47aの開口縁)まで拡張することができ、その分、作動室C内の圧縮気体の冷却を更に促進することができる。
[その他の実施の形態]
なお、本発明は、上述した実施の形態に限られるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施形態は本発明をわかり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。すなわち、ある実施形態の構成の一部を他の実施の形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施の形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
例えば、上述した実施の形態においては、ツインロータ型の給液式スクリュー圧縮機1、1A、1Bを例に説明したが、作動室Cへ液体を供給するシングルロータ型やトリプルロータ型等のツインロータ型以外のスクリュー圧縮機に本発明を適用することができる。
また、上述した実施の形態においては、給液路60、60Aの分岐流路62を形成する内周面に雌ねじ部63を設けると共に、給液ノズル70の外周面に雄ねじ部76を設けることで、給液ノズル70を分岐流路62に着脱可能に取り付ける構成の例を示した。それに対して、分岐流路62及び給液ノズル70にねじ部を設けずに、給液ノズル70を溶接等により分岐流路62に固定する構成も可能である。この場合、ねじ部の緩みによる給液ノズル70の脱落の懸念がなくなる。