以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づき説明する。
先ず、第1実施形態を、図1~図5を参照しながら説明する。図1において、トルクコンバータTCは、ポンプインペラ11と、このポンプインペラ11に対向して配置されるタービンランナ12と、ポンプインペラ11およびタービンランナ12の内周部間に配置されるステータ13とを備え、ポンプインペラ11、タービンランナ12およびステータ13間には、矢印14で示すように作動オイルを循環させる循環回路15が形成される。
前記ポンプインペラ11は、椀状のポンプシェル16と、ポンプシェル16の内面に設けられる複数のポンプブレード17と、それらのポンプブレード17を連結するポンプコアリング18と、ポンプシェル16の内周部に例えば溶接によって固定されるポンプハブ19とを有する。そのポンプハブ19には、トルクコンバータTCに作動オイルを供給するオイルポンプ(図示せず)が連動、連結される。
またポンプシェル16の外周部には、タービンランナ12を外側から覆う椀状の伝動カバー20が溶接によって結合されており、この伝動カバー20の外周部にリングギヤ21が溶接によって固着され、リングギヤ21には駆動板22が締結される。また駆動板22には、車両用エンジンEのクランクシャフト23が同軸に締結されており、ポンプインペラ11には、車両用エンジンEから回転動力が入力される。
前記タービンランナ12は、椀状のタービンシェル24と、タービンシェル24の内面に設けられる複数のタービンブレード25と、それらのタービンブレード25を連結するタービンコアリング26とを有する。
車両用エンジンEからの回転動力を図示しないミッションに伝達する出力軸27の端部は、前記伝動カバー20がその中心部に一体に有する有底円筒状の支持筒部20aに、軸受ブッシュ28を介して支持される。出力軸27は、ポンプハブ19との間に軸方向の間隔をあけた位置に配置される出力ハブ29にスプライン結合されており、出力ハブ29および伝動カバー20間にはニードルスラストベアリング30が介装される。
前記ステータ13は、ポンプハブ19および出力ハブ29間に配置されるステータハブ31と、このステータハブ31の外周に設けられる複数のステータブレード32と、それらのステータブレード32の外周を連結するステータコアリング33とを有し、ポンプハブ19およびステータハブ31間にはスラストベアリング34が介装され、出力ハブ29およびステータハブ31間にはスラストベアリング35が介装される。
ステータハブ31と、出力ハブ29とともに回転する出力軸27を相対回転自在に囲繞するステータシャフト36との間には、一方向クラッチ37が介設され、ステータシャフト36は、ミッションケース(図示せず)に回転不能に支持される。
伝動カバー20およびタービンシェル24間には、前記循環回路15に連通するクラッチ室38が形成され、このクラッチ室38内に、ロックアップクラッチ40と、慣性回転体41と、当該慣性回転体41に対して制限された範囲での相対回転を可能として慣性回転体41の内周部を両側から挟むスプリングホルダ42とが収容される。
前記ロックアップクラッチ40は、伝動カバー20に摩擦接続可能なクラッチピストン43を有するとともに該クラッチピストン43を伝動カバー20に摩擦接続させた接続状態ならびに摩擦接続を解除した非接続状態を切替えることが可能である。そして、円板状に形成されるクラッチピストン43の内周部は、出力ハブ29に軸方向移動を可能として摺動可能に支持される。
前記クラッチ室38内は、クラッチピストン43によって、タービンランナ12側の内側室38aと、伝動カバー20側の外側室38bとに区画されており、前記ニードルスラストベアリング30に隣接して出力ハブ29に形成される油溝44が外側室38bに連通され、この油溝44は円筒状の出力軸27内に連通する。またポンプハブ19およびステータシャフト36間には、循環回路15の内周部に通じる油路45が形成される。油溝44および油路45には、前記オイルポンプおよびオイル溜め(図示せず)が交互に接続される。
車両用エンジンEのアイドリング時や極低速運転域では、油溝44から外側室38bに作動油が供給されると共に、油路45から作動油が導出されており、この状態では外側室38bの方が内側室38aよりも高圧となる。これにより、クラッチピストン43は伝動カバー20の内面から離反する側に押されており、ロックアップクラッチ40は非接続状態となっている。この状態では、ポンプインペラ11およびタービンランナ12の相対回転は許容されており、車両用エンジンEによってポンプインペラ11が回転駆動されることで、循環回路15内の作動油が、矢印14で示すように、ポンプインペラ11、タービンランナ12、ステータ13の順に循環回路15内を循環し、ポンプインペラ11の回転トルクがタービンランナ12及び出力ハブ29を介して出力軸27に伝達される。
ポンプインペラ11およびタービンランナ12間でトルクの増幅作用が生じている状態では、それに伴う反力がステータ13で負担され、ステータ13は、一方向クラッチ37のロック作用によって固定される。またトルク増幅作用を終えたときに、ステータ13は、ステータ13が受けるトルク方向の反転によって一方向クラッチ37を空転させながらポンプインペラ11およびタービンランナ12とともに同一方向に回転する。
このようなトルクコンバータTCがカップリング状態となったとき、もしくはカップリング状態に近づいたときには、油路45から内側室38aに作動油が供給されると共に、油溝44から作動油が導出されるように、油溝44および油路45と、前記オイルポンプおよびオイル溜めとの接続状態が切替えられる。その結果、クラッチ室38内では内側室38aの方が外側室38bよりも高圧となり、その圧力差によってクラッチピストン43が伝動カバー20側に押圧され、クラッチピストン43の外周部が伝動カバー20の内面に圧接して伝動カバー20に摩擦接続され、即ち、ロックアップクラッチ40が接続状態となる。
ロックアップクラッチ40が接続状態となったときに、車両用エンジンEから伝動カバー20に伝わるトルクは、ロックアップクラッチ40の一部を構成しつつポンプインペラ11とともに回転するクラッチピストン43、スプリングホルダ42および出力ハブ29を含む、動力伝達経路としてのトルク伝達経路46を経て、出力軸27に機械的に伝達される。このトルク伝達経路46には、少なくとも1つのダンパ、この実施の形態では第1および第2のダンパ47,48が介設されるとともに、ダイナミックダンパ49が付設される。
而して、クラッチピストン43及び出力軸27は一方及び他方の回転体の一例であり、またスプリングホルダ42は伝動回転部材の一例である。
前記スプリングホルダ42は、本実施形態では出力軸27の軸線方向に間隔をあけて配置されて出力ハブ29と同軸に配置される一対の保持プレート50,51が相互に相対回転不能に連結されて構成される。そして、一対の保持プレート50,51間に挟まれるとともにそれらの保持プレート50,51から半径方向内方に一部が張り出すように形成されてトルク伝達経路46の一部を構成するリング板状のドリブンプレート52の内周部と、タービンランナ12におけるタービンシェル24の内周部とが、出力ハブ29とともに回転するようにして出力ハブ29に複数の第1のリベット53で固定される。
前記第1のダンパ47は、クラッチピストン43に保持されて周方向に等間隔をあけて配置される複数個のコイル状である第1のダンパスプリング55が、クラッチピストン43およびスプリングホルダ42間に介設されて成る。
クラッチピストン43の外周部の、伝動カバー20とは反対側の面には、環状の収容凹部56が形成されており、その収容凹部56内に周方向に等間隔をあけて収容される第1のダンパスプリング55を、クラッチピストン43との間に保持するスプリング保持部材54がクラッチピストン43に固定される。
そのスプリング保持部材54は、前記収容凹部56の内周にほぼ対応した外周を有してクラッチピストン43と同軸に配置されるリング板部54aと、クラッチピストン43の半径方向に沿う第1のダンパスプリング55の内方側を覆うように横断面円弧状に形成されてリング板部54aの外周の周方向に等間隔をあけた4箇所に連設されるとともにクラッチピストン43の周方向に沿って長く形成されるスプリングカバー部54bと、それらのスプリングカバー部54b相互間に配置されるとともにスプリングカバー部54bよりも半径方向外方に突出するようにしてリング板部54aの外周に連設されるばね当接部54cとを一体に有するように形成され、リング板部54aが複数の第2のリベット57でクラッチピストン43に固定される。
前記ばね当接部54cは、複数の第1のダンパスプリング55相互間に配置される。そして、ロックアップクラッチ40が非接続状態にあるときに、ばね当接部54cは、その両側の第1のダンパスプリング55の端部に当接する。
図2および図3を併せて参照して、前記ダイナミックダンパ49は、スプリングホルダ42と、慣性回転体41と、スプリングホルダ42および慣性回転体41間に介設される複数個たとえば6個の弾性部材としてのコイル状のダイナミックダンパばね58と、スプリングホルダ42を構成する一対の保持プレート50,51を相対回転不能に連結する複数個たとえば6個の連結手段59とを備える。
前記慣性回転体41は、一対の保持プレート50,51の外周部間に挟まれるリング板状の慣性プレート61と、その慣性プレート61に複数の第3のリベット63で固定されるリング状の重量部材62とを備える。そして、慣性プレート61は、その外周部が一対の保持プレート50,51よりも半径方向外方に突出するように形成されており、重量部材62が慣性プレート61の外周部に固定される。またダイナミックダンパばね58は、ばね保持部材として機能する一対の保持プレート50,51で保持されており、慣性回転体41の一部を構成する慣性プレート61と、一対の保持プレート50,51との間に介設される。
一対の保持プレート50,51の周方向に等間隔をあけた複数箇所例えば6箇所には、ダイナミックダンパばね58を保持するためのばねホルダ部50a,51aが、ダイナミックダンパばね58の一部側面を外部に臨ませるようにして形成される。そのばねホルダ部50a,51aは、例えば、各保持プレート50,51の、ダイナミックダンパばね58を配置すべき部位にH字状のスリット孔を設けた上で、そのスリット孔周辺の一部を切り起こすことで形成される。より具体的に言えば、ばねホルダ部50a,51aは、上記スリット孔の、径方向内方・外方(図5で下方・上方)側の周辺部を出力軸27の軸方向外方に各々拡開するよう切り起こすことで形成されたばね胴支持部50as,51asと、同スリット孔の、周方向一方・他方(図5で左方・右方)側の周縁部で形成される各一対のばね端支持部50ae,51aeとを備える。
一方、慣性プレート61の、ばねホルダ部50a,51aに対応する内周部には、ダイナミックダンパばね58を収容する弾性部材収容凹部64が慣性プレート61の内周部に開放するように形成されている。而して、慣性プレート61は、ダイナミックダンパばね58に所定のプリセット荷重を付与するよう係合可能な本発明のばね支持部材の一例である。
そして、ロックアップクラッチ40が非接続状態(即ちトルク伝達経路46が非伝動状態)にある場合は、慣性プレート61の周方向で弾性部材収容凹部64の両端部64aがダイナミックダンパばね58の両端部に、ダイナミックダンパばね58を圧縮した状態(即ちダイナミックダンパばね58に所定のプリセット荷重、即ち予圧が付与された状態)でそれぞれ当接し、一方、上記非伝動状態で一対の保持プレート50,51の前記ばね端支持部50ae,51aeと、ダイナミックダンパばね58の両端部との間には、バックラッシュ、即ち回転方向に所定の隙間Cが設定される。
この場合、慣性プレート61の周方向で前記弾性部材収容凹部64の両端部64a間の長さをaとし、各保持プレート50,51の前記各一対のばね端支持部50ae,51ae間の長さをbとし、ダイナミックダンパばね58の自由状態での長さをsとしたとき、s>b>aを関係を満たすように各長さa,b,sが設定される。
また後述するように前記隙間をC[rad ]とし、ダイナミックダンパばね58のプリセット荷重によるトルクTp [Nm]とし、またダイナミックダンパばね58のばね剛性をk[Nm/rad]とした場合に、C<Tp /k が成立するように隙間Cが設定される。
しかも前記隙間をC[mm](即ち図5で(b-a)に相当)とし、またダイナミックダンパばね58のプリセット時の圧縮長さ即ちプリセット量(即ち図5で(s-a)に相当)をZ[mm]とした場合に、後述する理由により、 0.1Z<C<0.5Z
を成立させるような隙間Cに設定されることが望ましい。
一対の保持プレート50,51を相対回転不能に連結する連結手段59は、保持プレート50,51間に介装される円筒状の第1のスペーサ65と、一対の保持プレート50,51間を相対回転不能に連結するようにして第1のスペーサ65をそれぞれ貫通する第4のリベット66とから構成される。一方、慣性プレート61の内周部には、慣性プレート61および一対の保持プレート50,51の相対回転を許容しつつ前記連結手段59を収容する複数の連結手段収容凹部67が、慣性プレート61の周方向で弾性部材収容凹部64相互間に配置されて慣性プレート61の内周に開放するように形成される。
しかも上記した連結手段収容凹部67および弾性部材収容凹部64は、出力軸27の軸線を中心とした同一の仮想円CI(図2参照)に外周縁を沿わせるようにして円弧状に形成される。
また慣性プレート61の周方向に沿う連結手段収容凹部67の両端部には、連結手段59のスペーサ65に当接して慣性プレート61および一対の保持プレート50,51の相対回転限を規制するストッパ部67aが形成される。そして、そのストッパ部67aに連結手段59を当接させることで慣性プレート61および一対の前記保持プレート50,51の相対回転限が規制されるので、ダイナミックダンパばね58に過大な負荷が作用することを防止して、ダイナミックダンパばね58の寿命向上を図ることができる。
さらに連結手段収容凹部67の外周縁および連結手段59が、一対の保持プレート50,51に対する慣性プレート61の半径方向に沿う位置決めを果たすべく、慣性プレート61の半径方向で相互に近接もしくは当接するように配置されている。これにより、部品点数を増やすことなく、一対の前記保持プレート50,51および慣性プレート61の半径方向に沿う相対位置を定めることができる。
ところで前記第1のダンパ47の第1のダンパスプリング55は、クラッチピストン43に固定されるスプリング保持部材54のばね当接部54cと、スプリングホルダ42を構成する一対の保持プレート50,51の一方、この実施形態ではクラッチピストン43とは反対側の保持プレート50との間に介設される。そして、その保持プレート50には、第1のダンパスプリング55をスプリング保持部材54のばね当接部54cとの間に挟むようにして複数の第1のダンパスプリング55にそれぞれ係合する複数の爪部68が一体に設けられる。
また慣性プレート61には、二股状に分岐した形状に形成される前記爪部68を挿通させて慣性プレート61の周方向に長く延びる長孔69が形成される。この実施の形態では、保持プレート50の外周部は、第1のダンパスプリング55とは反対側に膨らむように屈曲して形成されており、第1のダンパスプリング55の個数と同数である爪部68が、保持プレート50の外周屈曲部から出力軸27の軸線に沿う方向に延びるようにして保持プレート50に一体に設けられる。
前記第2のダンパ48は、一対の保持プレート50,51と、出力軸27とともに回転するドリブンプレート52との間に介設されるものであり、第2のダンパ48の一部を構成する複数個たとえば6個の第2のダンパスプリング70が一対の保持プレート50,51間に保持される。
一対の保持プレート50,51の周方向に等間隔をあけた複数箇所たとえば6箇所には、第2のダンパスプリング70を保持するためのばね保持部50b,51bが、第2のダンパスプリング70の一部を外部に臨ませるようにして形成される。一方、ドリブンプレート52の、ばね保持部50b,51bに対応する内周部には、第2のダンパスプリング70を収容するスプリング収容孔71が形成される。
一対の保持プレート50,51の半径方向に沿ってスプリング収容孔71の内方側で、一対の保持プレート50,51間には、ドリブンプレート52の周方向に等間隔をあけた複数箇所たとえば6箇所に設けられて周方向長く延びる長孔72にそれぞれ挿通される円筒状の第2スペーサ73が介装され、一対の保持プレート50,51は、第2スペーサ73をそれぞれ貫通する複数の第5のリベット74で連結される。即ち、ドリブンプレート52は、長孔72内を第2のスペーサ73が移動するだけの制限された範囲で、スプリングホルダ42に対して相対回転することが可能である。
次に、上記した第1実施形態の作用について、図6~図12も併せて参照して、説明する。
トルクコンバータTCにおいて、ロックアップクラッチ40が接続状態となった場合には、前述のように車両用エンジンEから伝動カバー20に伝わるトルクが、ロックアップクラッチ40のクラッチピストン43、スプリングホルダ42(伝動回転部材)及び出力ハブ29を含むトルク伝達経路46を経て出力軸27に機械的に伝達され、そのとき、エンジンの回転変動により生じる振動は、両ダンパ47,48及びダイナミックダンパ49で減衰、抑制される。この場合、特にダイナミックダンパ49では、慣性回転体41がダイナミックダンパばね58の弾性変形を伴って振動して、トルク伝達経路46(即ちダイナミックダンパ49を除く主振動系)の振動エネルギを代替吸収できるため、その主振動系の振動に対する減衰効果が、ダイナミックダンパ49(即ち副振動系)の固有振動数に対応した減衰ピーク回転数付近で特に高められる。
ところで、ダイナミックダンパ49の減衰ピーク回転数NeP [rpm ]は、ダイナミックダンパばね58のばね定数をk[Nm/rad]、慣性回転体41のイナーシャ(慣性モーメント)をI[kgm2]としたときに、次の式で表されることが知られている。
NeP =A√(k/I) ……………(1)
この場合、Aは、60/(2π×エンジン次数)、即ち定数であるため、減衰ピーク回転数NeP は、ばね定数kとイナーシャIとで決まる。そして、横軸をエンジンの回転数[rpm ]とし、また縦軸を振動減衰率[dB]としたグラフでダイナミックダンパ49による減衰効果の一例を示すと、例えば、図6のようになる。尚、図6において、振動減衰率[dB]は、縦軸で下方に行くほど減衰効果が大きいことを示す。
ところで図6(a)の実線は、ダイナミックダンパばね58にプリセット荷重が付与されない場合の一例であり、また、図6(b)の実線は、比較的大きいトルクが入力されたときにプリセット荷重が付与された場合の一例である。そして、後者の場合の方が前者の場合よりも、高い減衰効果を発揮し得る減衰領域が拡がるが、その理由を次に簡単に説明する。
即ち、エンジンから回転動力を受けて加振される主振動系の振動周波数f(以下、単に加振周波数という)は、エンジン回転数の増加に応じて概ね比例的に増加することが知られており、一方、ダイナミックダンパ49の減衰ピーク回転数NeP は、前記(1)式で明らかなようにばね定数kとイナーシャIのみに依存し、これらが不変であればエンジン回転数に関係なく一定である。またダイナミックダンパ49の振れ角θ[rad ]は、ダイナミックダンパ49への入力トルクTのトルク振幅をTwとしたときに、次の式で表されることが知られている。尚、トルク振幅Twは、入力トルクと略比例する。
θ=Tw/(4π2 ・I・f2 ) ……………(2)
この式(2)によれば、振れ角θは、仮にトルク振幅Twが一定であれば、図7に示すように加振周波数fの増加(従って加振周波数fに略比例するエンジン回転数の増加)に伴い二次関数的に減少するよう変化する。
また、図8(a-1)は、ダイナミックダンパばね58にプリセット荷重によるトルクTp [Nm]が付与される場合のダイナミックダンパ49のばね特性の一例を示すグラフであり、横軸をダイナミックダンパ49の振れ角θ[rad ]とし、縦軸を入力トルクT[Nm]としている。この場合、ダイナミックダンパばね58のばね定数をkとすれば、見做しばね定数(即ちプリセット荷重付与時の見掛けのばね定数)k′は、
k′=k+Tp /θ ………(3)
となる。即ち、見做しばね定数k′は、図8(a-1)のグラフの各プロット点p1~p4と原点とを結ぶ仮想直線の勾配に相当し、その勾配からも振れ角θが小さくなるほどに見做しばね定数k′が増大することが判る。
このように振れ角θが小さいほど見做しばね定数k′が大きくなる一方で、振れ角θは、前述のようにエンジン回転数の増加に伴い二次関数的に減少(図7参照)することから、結局、振れ角θが小さい(従ってエンジン回転数が高い)ほど見做しばね定数k′は大きくなる傾向となる。従って、この見做しばね定数k′を用いて前記(1)式で演算したダイナミックダンパ49の減衰ピーク回転数NeP は、見做しばね定数k′が大きいほど高回転側に発生する。その結果、ダイナミックダンパばね58にプリセット荷重を付与することにより、付与しない場合よりも減衰領域を拡げることができる。
ところで、特許文献1のようにダイナミックダンパばね58に単にプリセット荷重を付与しただけでは、トルク振幅Twが小さくなるほど減衰ピークが高回転側へ大きくずれるため、狙いとする回転域(例えば自動車用エンジンでは、常用回転域である1000~1500rpm )で高い減衰効果が得られなくなるといった不都合がある。
即ち、ダイナミックダンパ49の振れ角θ[rad ]は、前記(2)式からも明らかなようにトルク振幅Twの関数でもあって、このトルク振幅Twの大小によっても見做しばね定数k′が変動し、この変動に伴い減衰ピーク回転数NeP も変動する。そのため、例えば、トルク振幅Twが小さくなるほど振れ角θが小さくなって見做しばね定数k′が更に増大していくことで減衰ピーク回転数NeP が高回転側に発散するようになり、これにより、上記不都合が生じる。その発散の様子は、図8(a-2)に例示した、振動減衰率とエンジン回転数との相関グラフからも明らかであり、この図のラインL1~L4は、図8(a-1)の各プロット点p1~p4に対応した見掛けばね定数k′が、トルク振幅Twが小さくなるのに応じて更に増大したときに、減衰ピーク回転数NeP が高回転側に大きくずれる一例を示す。
それに対して本実施形態では、ダイナミックダンパばね58が、これにプリセット荷重、即ち予圧を付与するようにスプリングホルダ42及び慣性回転体41のうちの何れか一方(第1実施形態では慣性回転体41の慣性プレート61)に支持され、またその何れか他方(第1実施形態ではスプリングホルダ42のばね保持プレート50,51)と、ダイナミックダンパばね58との間に、バックラッシュ即ち回転方向の隙間Cが設定される。これにより、ダイナミックダンパ49の減衰領域を拡張させ得るばかりか、その拡張した減衰領域の減衰ピークがトルク振幅Tw(従って入力トルク)の大小でずれ動くのを効果的に抑制可能となる。次に、その効果が得られる理由を説明する。
図8(b-1)は、上記隙間Cを特設した場合のダイナミックダンパばね58のばね特性の一例を示しており、隙間Cが特設されたことで、見做しばね定数k′は、図8(b-1)の各プロット点p1′~p4′と原点とを結ぶ仮想直線の勾配となる。また、図8(b-2)は、上記隙間Cを特設した場合の振動減衰率と入力回転数との相関の一例を示しており、この図のラインL1′~L4′は、各プロット点p1′~p4′に対応した見掛けばね定数k′が、トルク振幅Twが小さくなるのに応じて更に増大したときに、減衰ピーク回転数NeP がどのように変動するかを示している。
この図8(b-1)からも明らかなように本実施形態では、トルク振幅Twが小さくなって振れ角θが小さく(即ちエンジン回転数が大きく)なればなる程、見做しばね定数k′が大きくなるものの、隙間Cを特設したことで、振れ角θが当該隙間Cに対応した振れ角よりも小さくなると見做しばね定数k′は減少する側に転じる。これにより、トルク振幅Twが小さくなると、減衰ピーク回転数NeP は、図8(b-2)に示すように高回転側に一旦移動した後、低回転側に反転、収束していく。従って、トルク振幅Twの大小に因る減衰ピークのばらつきを小さくすることができる効果が得られる。
但し、この効果は、隙間C[rad ]と、プリセット荷重によるトルクTp [Nm]と、ダイナミックダンパばね49のばね定数k[Nm/rad]とが、C<Tp /k の条件式(4)を満たす場合に限られる。この場合のダイナミックダンパばね58のばね特性の一例が図9(a)で示され、またC=Tp /kの場合のばね特性の一例が図9(b)で示され、更にC>Tp /kの場合のばね特性の一例が図9(c)で示される。
而して、図9(a)の場合は、振れ角θが小さくなるほど見做しばね定数k′(即ち点線の勾配)が高くなって、減衰領域が拡がる効果がある一方、図9(b)の場合は、振れ角θに関係なく見做しばね定数k′は同一となって、減衰領域が拡がる効果は得られず、また図9(c)の場合は、振れ角θが小さいほど見做しばね定数k′は減少するため、これまた減衰領域が拡がる効果は期待できないことが判る。
即ち、減衰ピークのばらつきを小さくするために隙間Cを特設しても、その隙間Cが上記式(4)の条件を満たさなければ(換言すれば、振れ角θが小さくなるほど見做しばね定数k′が高くなる設定としなければ)、ダイナミックダンパ49による減衰領域を十分には拡張できず、従って、ダイナミックダンパ49による減衰性能向上効果を確保し得なくなる。
以上説明したように、ダイナミックダンパばね58にプリセット荷重を付与することでダイナミックダンパ49の減衰領域を拡張できる効果が得られ、またそのプリセット荷重の付与に加えて前記隙間Cを特設にしたことで、拡張した減衰領域がトルク振幅Tw(従って入力トルク)の大小でずれ動くのを抑制できる効果が得られるが、その現象は、次のような説明でも明らかである。
先ず、プリセット荷重付与だけの場合のダイナミックダンパばね58の特性は、例えば図10(a-1)に示すように、縦軸をダイナミックダンパ49の振れ角θとし、また横軸を入力トルクTとしたグラフでも表される。そして、このばね特性から、振れ角θ毎の見做しばね定数k′をプロットして、振れ角θと見做しばね定数k′との相関を表す図10(a-2)のグラフを作成し、このグラフにおいて、見做しばね定数k′は振れ角θがゼロに近づくにつれて発散している。次いで、図10(a-2)に示す振れ角θと見做しばね定数k′との相関と、前記式(1)とに基づいて、図10(a-2)の横軸を減衰ピーク回転数NeP に変換した図10(a-3)を作成する。そして、この図10(a-3)は、振れ角θと減衰ピーク回転数NeP との相関を示すものであるから、その相関ラインで得た減衰ピーク回転数NeP の分布に基づいて作成した図10(a-4)の減衰特性図からは、トルク振幅Twが小さくなるほどに減衰ピーク回転数NeP がより高回転側に発生する(即ち高回転側に大きくずれる)ことが判る。
これに対し、プリセット荷重付与に加えて、前記隙間Cを設けた場合のダイナミックダンパばね58の特性は、例えば図10(b-1)に示すように、縦軸をダイナミックダンパ49の振れ角θとし、また横軸を入力トルクTとしたグラフで表される。そして、このばね特性から、振れ角θ毎の見做しばね定数k′をプロットして、振れ角θと見做しばね定数k′との相関を表す図10(b-2)のグラフを作成し、このグラフにおいて、見做しばね定数k′は振れ角θがゼロに近づく手前で収束している。次いで、図10(b-2)に示す振れ角θと見做しばね定数k′との相関と、前記式(1)とに基づいて、図10(b-2)の横軸を減衰ピーク回転数NeP に変換した図10(b-3)を作成する。この図10(b-3)は、振れ角θと減衰ピーク回転数NeP との相関を示すものであるから、その相関ラインで得た減衰ピーク回転数NeP の分布に基づいて作成した図10(b-4)の減衰特性図からは、トルク振幅Twが小さくなった場合でも、減衰ピーク回転数NeP の高回転側への大きなずれが抑制されることが判る。
ところで第1実施形態のように第1,第2のダンパ47,48の中間の伝動回転部材(スプリングホルダ42)にダイナミックダンパ49が付設された動力伝達装置を搭載した自動車について、その動力伝達装置の減衰特性を演算によりシミュレーションし、その結果の一例を図11に示した。尚、演算に当り、各例の振動モデルの諸元は、一般的な自動車を参考にして設定している。
図11で[1]は、プリセット荷重を付与しただけの場合を示し、[2]~[4]は、プリセット荷重の付与に加えて、前記隙間Cを特設した場合であって、特に[2]はプリセット量Z(即ちダイナミックダンパばね58の自由長sとプリセット荷重付与時の長さaとの寸法差(例えば4mm))に対し隙間Cを10%(例えば0.4mm)とした場合を示し、また[3]は、同じく隙間Cを25%(例えば1.0mm)とした場合を示し、また[4]は、同じく隙間Cを50%(例えば2.0mm)とした場合を示す。そして、各々の場合において、線の太さは、トルク振幅Twを大中小の三段階に変えた場合をそれぞれ示す。
これら図示例の比較に基づくシミュレーション結果からは、隙間Cを特設したことにより、特にトルク振幅Twが小さい場合の減衰ピークの高回転側へのずれをかなり抑制できていることが判る。例えば、また図11で[1]の場合のように隙間Cが無ければ、トルク振幅Twが小さいときに、狙った回転域(例えば自動車用エンジンの常用回転域である1000~1500rpm )で高減衰領域から大きく逸脱しており、また隙間Cが有っても、それがプリセット量Zの10%以下(即ち[2]の場合を参照)では、狙った回転域から高減衰領域が未だ逸脱しており、更にプリセット量Zの50%以上(即ち[4]の場合を参照)では、狙った回転域での高減衰領域が狭くなってしまう不都合がある。それに対し、隙間Cがプリセット量Zの10%~50%の範囲内にあれば、狙った回転域に高減衰領域が適度にキープされている。
このシミュレーション結果からも、狙った回転域内から逸脱しないで極力広い高減衰領域を確保(即ち減衰ピークのばらつきを低減)するためには、隙間Cをプリセット量Zに対し最適に設定する必要があることが判る。より具体的には、0.1Z<C<0.5Z
が成立するよう隙間Cが設定されることが望ましい。
以上説明したように第1実施形態によれば、ダイナミックダンパばね58が、これにプリセット荷重を付与するよう慣性回転体41(即ちばね支持部材としての慣性プレート61)に支持され、また第1,第2のダンパ47,48間の伝動回転部材(即ちスプリングホルダ42のばね保持プレート50,51)と、ダイナミックダンパばね58との間に、バックラッシュ即ち回転方向の隙間Cが設定される。これにより、プリセット荷重の付与に加え、隙間Cを追加しただけの簡単な構造で、ダイナミックダンパ49の減衰領域を拡張させ得るばかりか、その拡張した減衰領域の減衰ピークがトルク振幅Tw(従って入力トルク)の大小で大きくずれ動いてばらつくのを抑制可能となる。その結果、減衰領域の拡張機能と、減衰ピークのずれ抑制機能とを両立させた高性能なダイナミックダンパが得られ、これに、入力トルクの大小に関係なく高い減衰効果を発揮させることができる。
上記した減衰効果を図12で判り易く説明すると、プリセット荷重の付与と隙間Cの特設が何れも無い[1]の場合には、狙った回転域で高い減衰効果が得られるものの、その減衰レンジは狭く、狙った回転域のごく一部しかカバーできない不都合がある。またプリセット荷重の付与は有るが隙間Cの特設が無い[2]の場合(特許文献1に相当)には、狙った回転域で高い減衰効果が得られるレンジが拡がるものの、そのレンジが特に入力トルクが低くなるにつれて高回転側にずれていくため、低トルク領域では高い減衰効果が得られなくなる。
これに対し、プリセット荷重の付与と隙間Cの特設が何れも有る[3]の場合(本発明に相当)には、プリセット荷重の付与と隙間Cの特設により[2]の場合の不都合が解消されており、即ち、狙った回転域で、入力トルクの大小に関係なく広いレンジに亘り高い減衰効果を得られることが判る。
また第1実施形態では、慣性回転体41の、ばね支持部材として機能する慣性プレート61が、ダイナミックダンパばね58にプリセット荷重を単独で付与するよう係合して同ばね58を支持するDDばね係合支持部(具体的には弾性部材収容凹部64)を備えており、またダイナミックダンパばね58と、伝動回転部材としてのスプリングホルダ42の一対のばね保持プレート50,51との間に前記隙間Cが設定されている。
これにより、装置の組立過程では、慣性プレート61によりプリセット荷重を単独で付与しつつ、この慣性プレート61にダイナミックダンパばね58を仮止め、保持可能となる。そして、この仮止め状態(換言すれば、慣性回転体41及びダイナミックダンパばね58を一纏めにしたサブアッセンブリ状態)のダイナミックダンパばね58及び慣性プレート61を一対のばね保持プレート50,51間に挟みながら、その両ばね保持プレート50,51の相互間を結合することで、それらを一纏めに容易に組立て可能となる。従って、その組立過程で両ばね保持プレート50,51にはダイナミックダンパばね58の弾発力が及ばず、全体として組立作業性が頗る良好となるから、作業能率を向上させることができる。
しかも、ダイナミックダンパばね58に対するプリセット荷重の付与、設定は、慣性プレート61が単独で(即ち両ばね保持プレート50,51から独立して)行うため、プリセット荷重の設定精度を向上させる上で有利である。
更に第1実施形態では、トルク伝達経路46に一対のダンパ47,48が直列に介設されると共に、ダイナミックダンパ49が付設される伝動回転部材(具体的にはスプリングホルダ42)が、動力伝達経路46内で一対のダンパ47,48の中間に介設されるため、反共振の影響を回避し、より減衰性能を向上させることができる。
その上、第1実施形態のタービンランナ12は、出力軸27と一体に回転する部材(出力ハブ29)に固定されているため、トルクコンバータTCの出力側の慣性質量が小さい場合でも、これをタービンランナ12で補うことができて、より減衰性能を向上させることができる。
また本実施形態では、クラッチピストン43および一対の保持プレート50,51間に、クラッチピストン43に保持される第1のダンパスプリング55を有する第1のダンパ47が介設され、また出力軸27と一体的に回転するドリブンプレート52および一対の保持プレート50,51間に第2のダンパ48が介設されるので、トルクコンバータTCの大型化を回避しつつ2つのダンパ47,48で減衰性能の向上を図ることができる。しかも第2のダンパ48の一部を構成する第2のダンパスプリング70が、一対の保持プレート50,51間に保持されるので、第2のダンパ48のダンパスプリング70と、ダイナミックダンパ49のダイナミックダンパばね58とが何れも共通の保持プレート50,51間に保持されることになり、慣性回転体41側にダイナミックダンパばね58のばねホルダ部を設ける必要がなく、慣性回転体41の形状を簡略化することができる。
また図13には、本発明の第2実施形態が示される。第1実施形態では、タービンランナ12が、出力軸27と一体に回転する部材(例えば出力ハブ29)に固定されるものを示したが、第2実施形態では、タービンランナ12が、クラッチピストン43及び出力軸27間のトルク伝達経路46内で第1,第2のダンパ47,48の中間に介設される伝動回転部材としてのスプリングホルダ42に結合される点で異なる。
上記スプリングホルダ42は、これと第1,第2のダンパ47,48との接続構造や、ダイナミックダンパ49との接続構造が、第1実施形態のスプリングホルダ42と基本的に同様の構造である。即ち、第2実施形態においてスプリングホルダ42と第2のダンパ48のドリブンプレート52との間の結合手段は、第1実施形態と同様、ドリブンプレート52に間隔をおいて穿設されて周方向延びる長孔72にそれぞれ挿通され且つ一対の保持プレート50,51間に介装される円筒状のスペーサ73と、スペーサ73及び両保持プレート50,51を貫通する複数のリベット74とを備えるが、特に第2実施形態では、タービンランナ12の内周部12iが上記リベット74で両保持プレート50,51と共締め固定されており、ドリブンプレート52は、これにタービンランナ12を固定せずに出力ハブ29にだけ固定(例えば溶接)される。
第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態と基本的に同一であり、各構成要素には、第1実施形態の対応する構成要素と同じ参照符号を付すに止め、それ以上の説明は省略する。従って、第2実施形態においても、第1実施形態と基本的に同様の作用効果を達成可能である。
更にこの第2実施形態によれば、トルク伝達経路46に直列に介設した一対のダンパ47,48の中間でトルク伝達経路46の一部を構成する伝動回転部材(より具体的にはスプリングホルダ42の一対のばね保持プレート50,51)にタービンランナ12が固定されるため、一対のダンパ47,48間の伝動回転部材(スプリングホルダ42)の慣性質量をタービンランナ12で増やすことができ、更なる減衰性能の向上が図られる。
また図14及び図15には、本発明の第3実施形態が示される。第1実施形態では、タービンランナ12が、慣性回転体41とは別個独立に設けられていて、出力軸27と一体に回転する部材(例えば出力ハブ29)に固定されるものを示したが、第3実施形態では、タービンランナ12が、慣性回転体41の重量部材62に代わる質量体として機能するよう慣性プレート61に固定される。即ち、第3実施形態のタービンランナ12は、慣性回転体41の少なくとも一部の質量体を兼ねるように慣性プレート61に中継部材80を介して一体回転可能に結合される。
この中継部材80は、それの基部がタービンランナ12の外周部に結合(例えば溶接)され、また先部が、慣性プレート61に貫通係合する係合突起部80aを有する。さらにタービンランナ12の内周部12iは、出力ハブ29に回転自在に嵌合、支持される。
第3実施形態のその他の構成は、第1実施形態と基本的に同様であり、各構成要素には、第1実施形態の対応する構成要素と同じ参照符号を付すに止め、それ以上の説明は省略する。従って、第3実施形態においても、第1実施形態と基本的に同様の作用効果を達成可能である。
更にこの第3実施形態によれば、タービンランナ12が、慣性回転体41における少なくとも一部の質量体(重量部材)を兼ねるため、慣性回転体41の外径側に設けられる専用の質量体を小型化するか又は省略することができ、ダイナミックダンパ49の小型軽量化が図られる。
以上説明した第1~第3実施形態では、動力伝達経路46の非伝動状態で一対のばね保持プレート50,51とダイナミックダンパばね58との間に設定される隙間Cを、ダイナミックダンパばね58のプリセット荷重付与に基づき拡張された減衰領域の減衰ピークが変動するのを抑制可能な大きさに設定したものをそれぞれ示した。
これに対して、第1~第3実施形態の、図示しない各変形例(本発明の第2の特徴に対応)では、上記非伝動状態で一対のばね保持プレート50,51とダイナミックダンパばね58との間に設定される隙間Cを、装置の組立作業性を向上させる観点から(即ち上記減衰ピークの変動を抑制する観点を考慮に入れないで)設定される。
より具体的に言えば、各変形例での隙間Cは、装置の組立過程(特にダイナミックダンパばね58にプリセット荷重を付与するよう係合する慣性プレート61を一対のばね保持プレート50,51間に挟んだ状態で両ばね保持プレート50,51相互を結合する組立過程)でダイナミックダンパばね58の弾発力(即ちプリセット荷重)を両ばね保持プレート50,51に作用させないために設けられる。
従って、この各変形例での隙間Cは、第1~第3実施形態のように上記減衰ピークの変動抑制を主眼として設定される隙間Cよりも、隙間サイズの設定自由度が比較的高くなる。例えば、各変形例の隙間Cは、少なくとも組立作業性を損なわなければ、第1~第3実施形態の隙間Cより小さく設定することも可能であり、或いはまた第1~第3実施形態の隙間Cより大きく設定することも可能である。
また、各変形例の隙間Cを、例えば上記組立過程でダイナミックダンパばね58の弾発力(即ちプリセット荷重)を両ばね保持プレート50,51に作用させない必要最小限の大きさに設定した場合には、その隙間Cを極力小さくして、隙間Cの特設に伴うガタの発生を最小限に抑えることができる。
以上、本発明の実施形態及び実施形態の変形例について説明したが、本発明は上記実施形態及びその変形例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
例えば、前記実施形態では、動力伝達装置として、トルクコンバータTCにおけるロックアップクラッチ40の接続状態で、エンジンからの回転動力をロックアップクラッチ40からトルクコンバータTCの出力軸27側に伝達可能なトルクコンバータ用動力伝達装置を例示したが、本発明の第1~第5の特徴に係る動力伝達装置の用途は、トルクコンバータ用に限定されない。例えば、エンジンからの回転動力を伝達可能な動力伝達経路としてのトルク伝達経路46に、動力伝達に関与する少なくとも1つのダンパが介設されるとともにダイナミックダンパが付設される動力伝達装置であれば、用途を問わず本発明を適用可能である。
また前記実施形態では、トルク伝達経路46に、ダイナミックダンパ49とは別個独立の第1および第2のダンパ47,48を直列に介設したものを示したが、本発明では、ダイナミックダンパ49以外のダンパの設置個数は1個だけもよく、或いは3個以上でもよい。