以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態のレール矯正装置1の概略構成を説明する図、図2及び図3は、レール矯正装置1の詳細な構成を説明する側面図及び正面図である。
図1に示す本実施の形態のレール矯正装置1は、レールRに生じた凹状の変形を矯正したり、凹状に変形するのを防止するための矯正をしたりする装置である。レール矯正装置1は、矯正が必要な部位に対して、自然に変形する方向とは異なる方向へ強制的に変形させる逆ひずみを生じさせることで矯正を行う。
本実施の形態では、レール頭部R1にシェリングきず(レールRに発生する転がり接触疲労損傷の一つ)等の損傷が生じ、テルミット頭部補修溶接法によって損傷した部分を補修した補修部Hが発生している状態を例に説明する。
ここで、レールRは、図2及び図3に示すように、帯板状のレール底部R2と、そのレール底部R2に対して幅方向中央に略直交して形成される板状のウェブ部R3と、そのウェブ部R3の上縁に膨出して形成されるレール頭部R1とを有する一般的な形状となっている。そして、レール頭部R1の上面を頭頂面R11(レール頭頂面)とし、レール底部R2のウェブ部R3両側の上面を底上面R21とする。また、レールRは、まくらぎR5に取り付けられた締結装置R4によってレール底部R2が固定される。このまくらぎR5の周囲には、バラストR6が配置されている。一方、直結軌道では、道床コンクリートにまくらぎR5が固定されたり、道床コンクリートに直接、締結装置R4が取り付けられたりする。
図1に示すように、本実施の形態のレール矯正装置1は、本体部11と、この本体部11の長手方向の一側に設けられた支点部12と、本体部11の長手方向の他側に設けられた押圧部としてのシリンダ機構13と、このシリンダ機構13を駆動制御する駆動制御部2と、支点部12とシリンダ機構13との中間に設けられた頭部支持部4と、本体部11の他側にシリンダ機構13に近接して設けられた変位量取得部としての変位センサ31と、によって主に構成される。
本体部11は、図2に示すように、レールRの長手方向(延伸方向)に沿ってレールR上に配置される。本体部11は、補修部HからレールRの長手方向の所定距離の位置を支点とし、この支点とは補修部Hを中心にして対称の位置を力点としてレールRを押圧できるように、長手方向に長尺な形状となっている。そして、支点となる位置に支点部12の先端体121が設けられ、力点となる位置にシリンダ機構13の押圧体133が設けられる。また、支点部12とシリンダ機構13との中間であって作用点となる位置に、頭部支持部4が設けられる。
支点部12の先端体121とシリンダ機構13の押圧体133との間の距離は、特に限定されるものではなく、矯正対象のレールRの種類等に応じて、適宜の距離に設定することができる。例えば、1m当たりの重量が60kgの60kgレールの場合は、先端体121と押圧体133との間の距離を1000mmとすることが好ましい。これにより、支点部12を支点としたシリンダ機構13によるレールRの頭頂面R11の押圧と、この押圧の反作用による頭部支持部4でのレール頭部R1の引き上げ(こう上)を、効率的に行うことができるようになる。
また、本体部11の下縁には、レールR上を走行自在に一対の車輪14,14が取り付けられる。この一対の車輪14,14は、頭部支持部4を挟んで長手方向の両側であって、支点部12やシリンダ機構13よりも内側に設けられることで、シリンダ機構13の押圧体133によるレールRの頭頂面R11の押圧に影響を与えないようにすることができる。一対の車輪14,14を設けたことで、作業者が重量のあるレール矯正装置1を、レールR上で円滑かつ容易に移動させることができるようになる。
本体部11には、中央部に上下方向に貫通する開放部を設けたり、側面に開口部111を設けたりすることができる。レール矯正装置1で矯正をしつつ、上方の開放部や開口部111などからブロワ等でレール頭部R1の補修部Hにエアを供給することで、補修部Hの空冷を行うことができる。このようにして補修部Hを空冷することで、単に放冷するだけの場合と比べて、冷却速度を速くすることができる。また、このような冷却によって、作業効率が向上するうえに、頭頂面R11の硬度を増大させたり、耐磨耗性を向上させたりすることもできる。
支点部12は、レールR上で本体部11を支持し、シリンダ機構13でレールRの頭頂面R11を押圧する際の支点として機能する。図2に示すように、本実施の形態の支点部12は、下面が断面視円弧状の曲面に形成された先端体121を備えており、必要に応じて、レールRの頭頂面R11との間にはスペーサ122が介在される。
レール矯正装置1は、シリンダ機構13によるレールRの頭頂面R11の押圧によって、支点部12を支点として本体部11の他端が持ち上がり、レールRに対して相対的に傾斜することになる。このような場合でも、曲面的な先端体121の一部が、常にレールRの頭頂面R11に直接又はスペーサ122などを介して間接的に当接するため、本体部11を安定して支持させることができる。一方、レールRの幅方向(レールRの延伸方向の略直交方向)では、先端体121はレールRに直線的に当接するため、本体部11の幅方向への傾きが阻止される。そのため、本体部11の支持安定性が向上する。
この支点部12の構成は、上述したものに限定されるものではない。本体部11を支持して、本体部11の他側の上下移動(縦移動)を円滑に行うことの支障になるものでなければ、支点部の先端体を円柱、半円柱、球体又は半球体などで構成してもよい。また、円盤状などの平面的な先端体を有する支点部とすることもできる。
シリンダ機構13は、支点部12を支点として、レールRの頭頂面R11を直接又は間接的に所定の押圧力で押圧する押圧部として機能する。本実施の形態では、シリンダ機構13として油圧シリンダを用いている。本体部11の他側に設けられるシリンダ機構13は、ピストンにより区画された2つの油圧室等を内蔵したシリンダ部131と、ピストンと接続してシリンダ部131の下部からレールRの頭頂面R11に向かって伸縮自在に突出するロッド部132とを備えている。
シリンダ部131の各油圧室内には、図2に示すように、本体部11に沿って配管された連絡管134,134を介してオイルが供給される。連絡管134の端部のジョイント部135,135には、図1に示すように、油圧ポンプ21に繋がるホース211,211が接続される。
ロッド部132の下端には、例えば長手方向の直径が長尺な楕円柱又は楕円体からなる押圧体133が設けられている。このような押圧体133では、長手方向に幅広の曲面によって、押圧力を一点に集中させることなく、頭頂面R11を押圧することができる。さらに、ロッド部132が伸長して本体部11が傾斜した際にも、押圧体133の曲面を頭頂面R11に確実に当接させることができ、レールRの押圧を効率的かつ円滑に行うことができる。この押圧体133と頭頂面R11との間にも、必要に応じてスペーサを介在させることができる。
このシリンダ機構13は、油圧シリンダに限定されることはなく、エアポンプにより駆動されるエアシリンダ等を用いることもできる。また、押圧部がシリンダ機構13に限定されることもなく、レールRの頭頂面R11を押圧することができれば、いずれの機構を用いてもよい。
駆動制御部2は、図1に示すように、油圧ポンプ21と、油圧ポンプ21を制御する制御部22と、作業者等が操作する操作パネルなどの操作部23とを有している。油圧ポンプ21には、シリンダ機構13に繋がる2本のホース211,211が接続されている。操作部23は、各種ボタン、キー、スイッチ、画面等を備え、作業者が操作をすることで、油圧ポンプ21のオンとオフ、駆動開始と終了の指示、油圧力の設定値の入力等を行ったり、油圧ポンプ21の稼働状況を確認したりすることができる。
制御部22は、CPUと、ROM、RAM、フラッシュメモリ等のメモリ等を備えて構成される。CPUは、ROM等に予め記憶されているプログラムに従って、油圧ポンプ21を駆動させる。これにより、シリンダ機構13が作動して、ロッド部132が伸長し、支点部12を支点とした頭頂面R11の押圧が行われる。
また、制御部22には、変位センサ31によって検出された変位量が入力される。制御部22の制御により、油圧ポンプ21の油圧力が予め決められた設定値に達するか、又は変位センサ31からの変位量が予め決められた設定値に達したときに、ロッド部132による頭頂面R11の押圧が停止される。
一方、本体部11は、レールRの幅方向の両側にそれぞれ垂下する垂下部となる一対のアーム部17,17を有している。各アーム部17は、図2に示すように、下方に向けて略平行に延伸される一対のアーム材171,171と、アーム材171,171間を中間部で繋ぐ連絡材172とを備えている。
アーム材171の上部は、本体部11の側面からレールRの幅方向に張り出されるフランジ部15に沿って配置され、アーム材171及びフランジ部15をレールRの長手方向に貫通する固定ピン16によって両者は連結される。
また、図3に示すように、本体部11の下方において、対向する連絡材172,172間が固定ボルト173によって連結される。各アーム部17は、固定ボルト173を中心軸として回動可能であり、載荷時の本体部11の傾きに対応させることができる。
ここで、本実施の形態で説明するアーム材171は、下端部174が締結装置R4に干渉する位置まで延びているが、補修部Hがどの位置にあっても締結装置R4を取り外さずに載荷が行えるように、下端部174の位置が締結装置R4の上方に配置される構成にすることもできる。
そして、レールRのウェブ部R3に対向するアーム部17の内側面側には、頭部支持部4の支持体41が配置される。頭部支持部4は、レールRのレール頭部R1を下方から支持する支持体41と、支持体41をアーム部17に取り付けるための取付部45及び連結ボルト43とを備えている。
続いて、支持体41の詳細な構成について、図4を参照しながら説明する。支持体41は、図4(a)のレールRのウェブ部R3側から見た側面図に示すように、レールRの長手方向が長辺側となる側面視略長方形(例えば、長さ300mm×高さ100mm程度)に形成される。
レール頭部R1の下面(あご下)に接触させる支持体41の接触面411は、支持体41の上縁に沿って延伸される。この接触面411は、図4(b),(c)に示すように、レール頭部R1の下面の断面形状に合わせた曲面に形成されている。
そして、支持体41の上縁の長手方向の略中央には、レール頭部R1の下面と接触させない非接触部となる切欠部42が設けられる。この切欠部42は、接触面411が切り取られた箇所であり、長手方向の切欠部42の両側だけがレール頭部R1の下面と接触する接触面411,411となる。例えば、レールRの長手方向で見た補修部Hの中心から両側に50mm程度(合計100mm程度の長さ)を、切欠部42とすることができる。
支持体41は、レールRに対してレール矯正装置1を装着して縦矯正を行うに際して、接触面411,411によってレール頭部R1の下面を支持しつつ押し上げるように作用する。このため、切欠部42を頂点として、僅かに接触面411,411が下り勾配(θ)となるように形成するのが好ましい。すなわち、接触面411は、長手方向に切欠部42から離れるに従って下がる下り勾配に形成される。このような形状にすることで、補修部Hを頂点に弓なりに撓んだレール頭部R1の下面に、接触面411,411を追従させることができる。
切欠部42は、レール頭部R1の下面と接触させない形状となっていればよく、例えば図4(c)に示すように、レールRのウェブ部R3側に向けて下り勾配となる傾斜面が形成される。また、支持体41の長手方向の略中央には、連結ボルト43を挿通させるための穴部44が厚さ方向に貫通するように設けられる。
変位センサ31は、図1及び図2に示すように、本体部11の長手方向の他端面に固定された変位計測部3の筺体内に収容されている。変位計測部3には、変位センサ31のオンとオフや、各種調整を行うためのボタン、スイッチ等からなる操作部34が設けられている。
変位センサ31は、シリンダ機構13でレールRを押圧したときのレールRの変位量を取得する。例えば、ロッド部132の伸縮量を取得するエンコーダを用いれば、このエンコーダで取得した伸縮量を、レールRの変位量とすることができる。なお、変位センサ31がエンコーダに限定されるものではなく、レールRの変位量が取得できれば、他のいずれのセンサを用いてもよい。例えば、例えば本体部11の下端から頭頂面R11までの距離を測定する測距センサも好適に用いることができる。測距センサとしては、レーザ測距センサ、赤外線測距センサ、超音波測距センサ等を好適に用いることができるが、これらに限定されるものではない。
変位センサ31は、ジョイント部33に端部が繋がれる接続コード32を介して駆動制御部2に接続される。変位センサ31で測定した変位量は、接続コード32を通じて制御部22に出力される。ここで、変位センサ31からの制御部22への変位量の出力は、接続コード32等の有線に限定されるものではなく、無線によるものでもよい。
次に、以上のような構成のレール矯正装置1を用いたレール矯正方法の手順について説明する。ここでは、前述したようにレール頭部R1に生じたシェリングきず等の損傷を、THR溶接法によって修復した後に、レールRを矯正する際の手順を説明する。
まず、レール頭部R1に生じた損傷部位を修復するため、損傷部位をガス切断により除去し、切断面のグラインダー研削、残存きずの有無の確認を行った後に、THR溶接法により損傷部位を補修する。次いで、熱間押し抜きせん断により補修部H(図1参照)の余肉を除去して、その補修部Hの形状をレール頭部R1とほぼ同形状とする。
続いて補修部Hが高温の状態で、レールRへのレール矯正装置1の設置を行う。このセッティングにおいては、図2に示すように、3点曲げ中央集中負荷方式であるレール矯正装置1を、本体部11の中心、つまり頭部支持部4の中心と、補修部Hの中心とが合致するように配置する。
そして、本体部11の一側に設けられた支点となる支点部12の先端体121と、他側に設けられた力点となるロッド部132の先端の押圧体133とを、頭頂面R11に直接又は間接的に当接させる。
この際、予めアーム部17,17がレールRの両側に垂下されていれば、それぞれの頭部支持部4の支持体41の切欠部42が、レール頭部R1の補修部Hの直下に配置されるように位置の微調整を行う。一方、補修部Hの真上に本体部11が配置された後に、アーム部17を固定ピン16によって本体部11のフランジ部15に取り付けることもできる。
ここまでのセッティング作業は、図5(a)に示したレールRを下面から持ち上げる従来のレール矯正装置a1では、このように簡単に行うことができなかった。すなわち、従来のレール矯正装置a1では、アーム部a2下端の支持軸a3をレール底部R2の下面側に差し渡すために、バラストR6の掘削と、作業の支障となる締結装置R4及びまくらぎR5の座動が必要であった。また、道床コンクリートに直接、締結装置R4が取り付けられているような直結軌道では、支持軸a3をレール底部R2の下面側に挿し込む隙間が無いため、従来のレール矯正装置a1を使ったレール矯正は行えなかった。
これに対して本実施の形態のレール矯正装置1は、図5(b)に示したように、バラストR6の掘削作業も、締結装置R4やまくらぎR5の座動作業も行わなくてもよく、簡単にセッティング作業を行うことができる。
レール矯正を行う際には、補修部Hの両側に配置される支持体41の接触面411,411が、レール頭部R1の下面を下から引き上げて補修部Hの周囲に逆ひずみを与える作用点となる。レールRへのレール矯正装置1のセッティングが完了したら、作業者は油圧ポンプ21の操作部23及び変位センサ31の操作部34を操作して、これらの電源をオンする。
続いて作業者は、油圧ポンプ21の操作部23を操作して、油圧力の設定値と、変位量の設定値を入力することができる。このように作業者が手動で入力する場合、例えば、レールRの種類や損傷度合等に応じて、最適な設定値を入力することができる。
また、これらの設定値は、手動入力に限定されるものではなく、プログラムに組み込んでおいてもよいし、制御部22のメモリにパラメータとして予め記憶させておいてもよく、作業者による入力作業を省くことができる。各設定値を予め記憶等させておく場合も、レールRの種類や損傷の度合いに応じた複数の設定値を記憶させておき、作業者が操作部23から選択できるようにしてもよい。いずれの場合でも、設定値に基づいて、レール矯正装置1が自動でレール矯正を行うため、作業者の負担を軽減し、熟練技能を有する作業者でなくても、レール矯正作業を簡易に実施することができるようになる。
そして、作業者が操作部23から油圧ポンプ21の駆動指示を入力すると、この入力を受けて、制御部22が油圧ポンプ21を制御し、シリンダ機構13に油圧供給が行われる。これにより、ロッド部132が伸長し、押圧体133が頭頂面R11を押圧する。
ここで、熱間押し抜きせん断を行った後の補修部Hの温度は、レール鋼の変態点(723℃)よりも高温となっており、補修部Hは変形抵抗が低い状態となっている。このため、図6に示した従来のレール矯正装置a10によって、レール頭部R1の補修部Hの直下にのみアーム部a11の先端支持部a12から荷重を作用させると、持ち上げられた補修部Hのみが局所的に変形して、冷却後も頭頂面R11に凸部などが残って所定の仕上がり基準に収まらなくなるおそれがある。
これに対して、補修部H周辺の領域は、補修部Hの中心部よりは温度が低い状態になっているため、切欠部42によって補修部Hとの接触を避けた支持体41の接触面411,411とすることで、局所的な変形がレール頭部R1に発生することを抑えることができるようになる。
そこで、このような支持体41のレール頭部R1に対する配置状態で、シリンダ機構13への油圧供給によってロッド部132を伸長させることにより、支点部12を支点としてロッド部132の押圧体133を、頭頂面R11に強く押し当てる。この押圧体133による頭頂面R11の押圧に対する反作用として、補修部Hの直下の両側に位置した接触面411,411がレール頭部R1の下面に押し付けられ、補修部H周辺を上方に持ち上げる(図5(b)参照)。これにより、補修部H周辺に対して逆ひずみを付与して縦矯正をすることができる。
制御部22は、油圧ポンプ21の油圧力が設定値に達するか、又は変位センサ31からの変位量が設定値に達したときに、油圧ポンプ21の油圧力を低下させるように制御する。すなわち、油圧ポンプ21の油圧の供給を停止させて、ロッド部132を元位置(ゼロ点)まで収縮させることで、ロッド部132による頭頂面R11の押圧を停止する。
そして、押圧の停止後に、高温の補修部Hの冷却を行う。この冷却は、放冷でもよいが、圧縮空気噴射装置等を用いた空冷が好ましい。この空冷の場合、放冷の場合と比べて補修部Hの冷却速度が速くなり、頭頂面R11の硬度が増大するとともに、耐磨耗性を向上させることができる。冷却が完了したら、グラインダーによる研削仕上げを行うことで、レール頭部R1のテルミット補修と、レール矯正が完了する。
図7には、レール矯正によってレール頭部R1に発生する変位を、従来のレール矯正装置a1(図5(a)参照)による結果と比較して説明する図を示した。図7(a)は、従来のレール矯正装置a1を使って行われた載荷結果を示した図で、図7(b)は本実施の形態のレール矯正装置1を使って行われた載荷結果を示した図である。
これらの結果を比較すると、油圧及びシリンダ変位によって示される載荷パターンが同じ場合(油圧力が最大40kN程度)に、時間が15s以降のレール変位の残留値が、ほぼ同じ値(7mm程度)となっていることが分かる。この残留値がレール矯正の縦矯正量となるため、レール頭部R1の下面に対して支持体41が配置され、補修部Hの真下が切欠部42となっている本実施の形態のレール矯正装置1であっても、従来のレール矯正装置a1と同等の縦矯正(レール矯正)が行えると言える。
次に、本実施の形態のレール矯正装置1の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態のレール矯正装置1では、本体部11の長手方向の両側の支点部12とシリンダ機構13との中間に設けられた頭部支持部4によって、レール頭部R1を下方から支持する。また、この頭部支持部4には、長手方向の略中央にレール頭部R1の下面と接触させない切欠部42が設けられている。
このようにレール頭部R1を下方から支持させる構成であれば、バラストR6を掘削したり、まくらぎR5を移動させたりする必要がなく、レール矯正装置1を簡単にレールRにセッティングすることができる。また、支持体41に切欠部42を設けたことによって、高温に加熱された補修部Hへの接触が避けられるので、レール頭部R1や頭頂面R11に局所的な変形が発生することを抑えることができる。
このようなレール頭部R1を下方から支持する頭部支持部4は、本体部11にレールRの幅方向の両側にそれぞれ垂下するアーム部17,17を取り付けることによって、アーム部17の内側面側からウェブ部R3に向けて張り出される支持体41を、簡単に設けることができる。
また、本体部11がレールRの頭頂面R11に沿って走行自在な車輪14,14を有していれば、レールRに沿って補修部Hの位置まで容易に移動させることができる。すなわち、作業者が重量のあるレール矯正装置1をレールR上で円滑かつ容易に移動させることができ、作業者の負担の軽減や作業時間の短縮を図れるとともに、レール矯正の作業効率を向上させることができる。
以下、前記実施の形態で説明したレール矯正装置1とは別の実施形態について、図8-図10を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を付して説明する。
前記実施の形態では、直方体状に形成された本体部11を有するレール矯正装置1について説明したが、本実施例1では、対となる板状部材である本体板511,511と、それらを連結させる締結部材とによって構成される本体部51を備えたレール矯正装置5について説明する。
本体板511は、図8に示すように、レールRの長手方向に沿って延伸され、レールRの上方には丘陵状に隆起された部分が設けられるとともに、レールRの幅方向の側方に垂下する垂下部512が設けられる。このレールRの上方に隆起した部分と垂下部512とは、長手方向の略中央に平行に配置される2本の中柱部513,513によって連結される。また、中柱部513に隣接して、側面視略直角三角形の開口部514が形成される。
垂下部512は、レールRのウェブ部R3に対向する位置に略平行に設けられる。そして、垂下部512の長手方向の両側には、それぞれ車輪54,54が設けられる。この車輪54は、レール矯正装置5を補修部Hの位置まで移動させる際に、レール底部R2の底上面R21を走行させるのに使用される。
また、本体部51の長手方向の一側には、前記実施の形態で説明した支点部12と同様の支点部52が設けられる。この支点部52は、底面が平らな側面視馬蹄形に形成され、取付ボルト521によって本体板511に固定される。この取付ボルト521は、対となる本体板511,511同士を連結させる締結部材としても機能する。また、支点部52とレール頭部R1の頭頂面R11との間には、必要に応じてスペーサ522を介在させる。
一方、本体部51の長手方向の他側には、前記実施の形態で説明したシリンダ機構13と同様のシリンダ機構53が押圧部として設けられる。本実施例1のシリンダ機構53は、ピストンにより区画された2つの油圧室等を内蔵したシリンダ部531と、ピストンと接続してシリンダ部531の下部からレールRの頭頂面R11に向かって伸縮自在に突出するロッド部532とを備えている。
ロッド部532の下端には、例えば底面が長方形となる押圧体533が設けられている。この押圧体533と頭頂面R11との間にも、必要に応じてスペーサを介在させることができる。また、シリンダ部531の側面には、油圧ポンプ21に繋がるホース211,211が接続されるジョイント部535,535が設けられる。
このように構成されるシリンダ機構53も、取付ボルト534,534によって本体板511に固定される。この取付ボルト534,534は、対となる本体板511,511同士を連結させる締結部材としても機能する。
このように構成される本体板511は、図9及び図10に示すように、レールRの幅方向の両側にそれぞれ配置され、締結部材となる取付ボルト521,534及びボルト55とナット551によって、本体部51となるように一体化される。
本実施例1の頭部支持部4Aは、垂下部512の長手方向の略中央に設けられる。頭部支持部4Aは、レールRのウェブ部R3に対向する垂下部512の内側面側に設けられる支持体41と、垂下部512の外側面側に設けられる側面視略長方形の取付板45Aと、取付板45Aと垂下部512と支持体41とを貫通してこれらを一体化させる連結ピン43Aとを備えている。
頭部支持部4Aは、図8に示すように、中柱部513,513の真下の位置に設けられる。すなわち頭部支持部4Aには、支点部52を支点としたシリンダ機構53によるレールRの頭頂面R11の押圧の反作用によってレール頭部R1を引き上げる方向の力が作用するため、その真上が中柱部513,513によって補強される。
また、頭部支持部4Aの支持体41の切欠部42は、レール頭部R1の補修部Hの直下に配置される。そして、レール矯正を行う際には、補修部Hの両側に配置される支持体41の接触面411,411が、レール頭部R1の下面(あご下)を下から引き上げて補修部Hの周囲に逆ひずみを与える作用点となる。
このように対となる本体板511,511によって構成される本体部51は、頭部支持部4Aに作用する力が大きくなり過ぎると、外側に開く可能性がある。このため、必要に応じて、対となる本体板511,511の側面を外側から挟んで挟持させる開止め治具を配置することができる。
開止め治具としては、例えば図10に示すような万力部6が配置される。万力部6は、本体部51の開口部514,514を通して垂下部512,512上に跨るアーチ部61と、アーチ部61の両側の脚部に設けられて取付板45A,45Aの外側面に当接させるネジ頭部63及び支圧部64と、ネジ頭部63を進退させるハンドル部62とを備えている。
万力部6は、図8に2点鎖線で示した位置、すなわち中柱部513,513を挟んだ両側の開口部514,514にそれぞれ配置される。そして、ネジ頭部63と支圧部64とによって、連結ピン43Aの両側をそれぞれ挟持させる。
このように構成された本実施例1のレール矯正装置5は、本体部51がレールRの幅方向の両側に配置される対となる本体板511,511と、それらを連結させる締結部材(551,521,534,55)とによって主に構成されている。
このため、締結部材(551,521,534,55)を解除することで、2枚の本体板511,511に分解して容易に搬送することができる。要するに、分解された各部品は軽量となるため、作業員が簡単に持ち運ぶことができる。また、レールR上でレール矯正装置5に組み上げた後は、車輪54によってレール底部R2の底上面R21を走行させることで、補修部Hの位置まで迅速に移動させることができる。
また、対となる本体板511,511を締結部材(551,521,534,55)によって連結させる構成であっても、対となる本体板511,511の側面を外側から挟んで挟持させる万力部6を備えることで、載荷時の本体板511,511の開きを確実に抑えることができる。
さらに、本実施例1のレール矯正装置5は、図9及び図10に示したように、いずれの部材も締結装置R4と干渉しない位置に配置される。要するに、板状の部材によって主に構成されるレール矯正装置5は、レールRの幅方向の外側への出っ張りを極力抑えた構成にすることができる。このため、レール矯正を行うに際して、締結装置R4を取り外す必要がなく、効率的に作業を行うことができる。
なお、他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるので説明を省略する。
以上、図面を参照して、本発明の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例1に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
例えば、前記実施の形態では、レール頭部R1の損傷部位に対してテルミット溶接が行われた後に、レール矯正装置1を用いてレール矯正を行った例について説明したが、これに限定されるものではなく、テルミット溶接を伴わないレール矯正についても、レール矯正装置1(5)を使用することができる。
例えば、頭頂面R11に1mm以上の凹状の変形部(へこみ)等が生じた場合は、へこみが存在するレール頭部R1の所定長さの範囲について、レール鋼の変態点以上のオーステナイト金属組織域まで加熱する。この加熱されたレール頭部R1に対して、レール矯正装置1(5)を用いて上記と同様のレール矯正手順によって、縦矯正を実施する。これにより、へこみを持ち上げて、頭頂面R11からへこみを無くすことが可能となる。