以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1ないし図4は、本発明の一実施形態に係る金属検出装置の構成を示している。
まず、その構成について説明する。
図1にその全体の概略構成を示す本実施形態の金属検出装置10においては、被検査物であるワークWがコンベア搬送されつつ交流磁界(交番磁界)が発生した検査空間Zmd内を通過するようになっており、ワークWの通過に伴う検査空間Zmd中の磁界変動を検出することで、ワークW中の金属(金属からなる異物または金属を含んだ異物、欠品検出の場合は異物でなく構成要素となる金属成分)が検出されるようになっている。
ワークWは、例えば量産される食品を包装材で包装したものであり、箱入り製品のような定形のものでも、流動物等を封入した可撓性の袋入り製品のような不定形のものでもよく、冷凍品でもよい。勿論、ワークWとなる物品は、食品に限定されるものではない。
図1および図2に示すように、本実施形態の金属検出装置10には、ワークWを搬送する搬送路としてのコンベア12と、そのコンベア12の中央部を囲うように位置する検出ヘッド14とが設けられている。なお、本実施形態では、搬送路の構成例としてコンベア12を例示するが、ワークWが検出ヘッド14内を通過できるような搬送経路を形成していればよく、傾斜したシュートや筒状ガイドでその搬送経路を形成してもよい。
図3に示すように、コンベア12は、例えばループ状の搬送ベルト12aと駆動ローラ12bおよび図示しない従動ローラとを有するベルトコンベアで構成されており、ワークWを検出ヘッド14の本体14Mにおける開口14a内を通して所定方向に搬送できるようになっている。
検出ヘッド14は、コンベア12の所定長さのワーク搬送区間に対応する検査空間Zmd内に交流磁界を発生させることができるとともに、ワークWの通過に伴う検査空間Zmd内の磁界の変動を検出することができるようになっている。
検査空間Zmdの入り口側(搬送方向上流側)には、ワークWの検査空間Zmdへの進入を検知する例えば光学式の物品検知センサ15と、検出ヘッド14の検査空間Zmd内におけるワークWの通過位置、例えばワークWの上面(外面)の高さを検出ヘッド14の内壁面14bからの距離として検出する光学式の距離センサ18(通過位置検出手段、距離検出手段、形状センサ)と、が設置されている。
ここでの距離センサ18は、例えばワークWの上面からの反射光を受光する受光素子におけるその受光位置の変化を基に検出ヘッド14の上側の内壁面14bから反射面までの高さ方向の距離を計測する三角測距方式のセンサである。
この距離センサ18は、少なくともワークWが検出ヘッド14の開口14a内に到達するときの開口14a内におけるワークWの形状を外表面の複数箇所の位置情報を検出する形状センサであってもよい。例えば、距離センサ18は、コンベア12の搬送ベルト12aの幅方向における複数箇所でワークWの上面高さを検出するものであってもよく、検出ヘッド14の左右の内壁面14c、14dからワークWの側面(反射面)までの距離を併せて検出するもの、あるいは検出ヘッド14の開口14a内におけるワークWの位置および形状を検出する形状センサであってもよい。
なお、詳細を図示しないが、金属検出装置10には、ユーザによる操作入力のための操作入力部と、その操作用の表示や運転状態表示、異常の報知等を行なうための表示器等が設けられている。
金属検出装置10は、予め設定された周波数の磁界送信信号および検波信号を生成する波形生成部21と、波形生成部21からの磁界送信信号に基づき検査空間Zmd内に交流磁界を発生させる磁界出力部22(磁界発生部)と、検査空間Zmd内の磁界を受信しワークWが検査領域を通過するとき磁界変動信号を出力する磁界受信部23(磁気センサ)と、磁界受信部23から磁界変動信号を取り込んで金属検出のための複数の信号処理を実行する検出回路部30(信号処理部)と、検出回路部30で処理された検出信号を基にワークW中における金属異物または金属成分の有無を判定する金属検出判定部40(判定部)と、を具備している。
詳細を図示しないが、波形生成部21は、例えば周波数切替え可能な基準信号発生回路、信号レベル調整回路および増幅回路を有しており、少なくともワークWが検査空間Zmdに進入しようとしていることが物品検知センサ15によって検出されたとき、磁界出力部22により交流磁界を発生させるための送信信号と、検出回路部30により後述する直交検波処理を実行させるための検波信号とを出力するようになっている。
磁界出力部22は、コンベア12のワーク搬送路の近傍に配置された磁界発生送信コイル22a(図2参照)および図示しない同調回路を有しており、波形生成部21からの交流信号に応じて磁界発生送信コイル22aを励磁駆動し、検査空間Zmd内に設定された周波数の交流磁界を発生させることができるようになっている。
磁界受信部23は、磁界出力部22からの交流磁界を受信するとともに、ワークWが検査空間Zmd内を通過するときの磁界の変動を検出できるようになっており、例えば差動接続された一対の受信コイルと、同調用コンデンサと、感度調節用可変抵抗器等から構成されている。
図2に示すように、磁界出力部22は、ワーク搬送方向における検査空間Zmdの中心付近でワーク搬送路を取り囲む磁界発生送信コイル22aを有しており、磁界受信部23は、ワーク搬送方向における磁界発生送信コイル22aの両側に配置されつつワーク搬送路を取り囲む一対の受信コイル23a、23bを有している。そして、これら磁界発生送信コイル22aおよび一対の受信コイル23a、23bは、検出ヘッド14内に同心的に収納されており、一対の受信コイル23a、23bは、差動接続されている。
この場合、平常時は、磁界発生送信コイル22aから発生した磁束が一対の受信コイル23a、23bに対し均等に鎖交することで、差動接続された一対の受信コイル23a、23bの誘起電圧が平衡し、受信コイル23a、23bからの差動出力(誘導電圧)がゼロとなる。なお、検出ヘッドには検査空間Zmdに対応する開口部がワーク搬送方向に貫通するように形成されている。
磁界受信部23は、検査空間Zmd中のワークWの移動により両受信コイル23a、23bでの差動出力の平衡状態がくずれたとき、その磁界の変化に応じた受信信号(以下、磁界変動信号という)を出力することができる。そして、この磁界変動信号は、磁界出力部22側からの交流磁界に対応する磁界周波数帯域を有する交流信号成分に、ワークWの通過に伴う磁界変動に対応する低周波信号成分が重畳した信号形態となる。
磁界受信部23からの受信信号を取り込む検出回路部30は、A/D変換部31と、直交検波部32と、一方および他方のLPF(Low-pass filter)部33A、33Bと、一方および他方のBPF(Band-pass filter)部34A、34Bと、第1位相補正部35とを含んで構成されている。
この検出回路部30は、詳細なハードウェア構成を図示しないが、例えばCPU、RAM、ROMおよび入出力インターフェース回路を含むコンピュータ構成の制御部の一部を構成しており、ROM内に格納された各種制御プログラムをCPUにより実行することで、以下に述べるような検出回路部30の各機能を発揮できるようになっている。この検出回路部30は、CPUに加えて、デジタル信号処理を行うDSP(Digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等を併有するものでもよい。
A/D変換部31は、磁界受信部23からのアナログ受信信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングし、複数のサンプリング点に離散化したデジタル受信信号を出力するようになっている。なお、ここでのサンプリング間隔は、後述する金属検出のための複数の処理および検出条件の調整を行うのに必要十分な間隔値に設定されており、検査空間Zmd内におけるワークWの搬送方向における一定変位量に対応する時間としてもよい。
直交検波部32は、波形生成部21からの検波信号に基づき、A/D変換部31から入力されるデジタル受信信号に対して相対位相が90°のcos波とsin波を乗算するのと同様なミキシング処理を実行することで、互いに位相が90°異なる信号Rxおよび信号Ryで構成されるデジタル直交検波信号を生成するようになっている。
一方および他方のLPF部33A、33Bは、直交検波部32から出力される相対位相90°の信号Rxおよび信号Ryから前述の送信信号に基づく交流磁界の周波数帯域に相当する高周波成分を所定の遮断周波数fcで除去して、ワークWの通過に伴う磁界変動に対応する相対位相90°の低周波信号成分のデジタル信号Dx、Dyを取り出すようになっている。このときのLPF部33A、33Bにおける遮断周波数fcは、交流磁界の周波数帯域ごとに可変設定するようにしてもよいし、周波数帯域にかかわらず一定の値としてもよく、後述する検出条件調整回路60の検出条件設定部64から遮断周波数の選択制御信号Fsを供給するのがよい。
一方および他方のBPF部34A、34Bは、低周波信号成分のデジタル信号Dx、Dyのうち所定周波数帯域から外れる信号の通過を制限することで、検査空間Zmd内をワークWが通過することに伴う磁界変動信号に対し、外来電磁ノイズ等の影響を抑えた信号Dxf、Dyfを生成し得るデジタルフィルタであり、例えばFIR(Finite Impulse Response(有限インパルス応答))フィルタで構成される。
第1位相補正部35は、一方および他方のBPF部34A、34Bからの一連の低周波信号成分のデジタル信号Dxf、Dyfを所定サンプリング数だけ取得し、取得した信号データを基に、検波時の位相0°(同相)を横軸、位相90°(直交位相)を縦軸とするX-Y平面上で、ワークWが検査空間Zmdを通過するときの所定サンプリング数のデジタル信号Dxf、Dyfの値を座標成分とする散布図、例えばリサージュ図形(例えば、特開2005-345433号公報の図4参照)を描くことができるようになっている。そして、第1位相補正部35は、そのリサージュ図形中でワークWの製品影響による振幅(ゲイン)が最大となる位相を基準位相として、その基準位相と直交する位相を金属有無の判定位相に設定するとともに、回転行列演算を実行することで検波時の位相に対する基準位相の位相差(散布図中の回帰直線の傾き角の差に相当)をなくすようにデジタル信号Dxf、Dyfの位相を補正し、デジタル信号Dxfに対応し検波位相と同相とみなす補正がされた同相成分信号iと、デジタル信号Dyfに対応し検波位相の直交位相とみなす補正がされた直交位相成分信号qとを、それぞれ生成できるようになっている。
この場合、ワークWに金属(金属異物または金属成分)が含まれていると、検波位相と同相(In-phase)とみなした基準位相を横軸とし、その直交位相(Quadrature)を縦軸とするI-Q平面上においては、基準位相の回帰直線近傍に位置する扁平な製品影響信号の散布図形状に対して、金属影響信号の散布図形状が判定位相である直交位相側に傾いた回帰直線を有するものとなり、金属有無の判定位相となる直交位相では、製品影響の大きい同相成分信号iの振幅レベルが最小レベルとなるのに対して、金属影響の大きい直交位相成分信号qの振幅レベルが相対的に大きく現れることとなる。
このように、検出回路部30は、検査空間Zmd内をワークW(被検査物)が通過するときに磁界受信部23から出力される磁界変動信号を取り込んで複数の信号処理を実行し、磁界変動信号のうちワークWの影響(製品影響)が大きい第1の変動成分と、磁界変動信号のうち金属の影響が大きい第2の変動成分とをそれぞれ異なる検出位相で検出し、第1の変動成分を主とする同相成分信号iと第2の変動成分を主とする直交位相成分信号qとを金属有無判定に用いるための検出信号として出力するようになっている。
金属検出判定部40は、検出回路部30での信号処理結果として得られた検出信号、すなわち、第1位相補正部35から出力される所定サンプリング数の同相成分信号iおよび直交位相成分信号qを基に、例えば前述のI-Q平面上での金属有無判定位相における両成分信号i、qの変動幅(振幅)を比較し、その変動幅の比が所定のリミット値を超えるか否かによって、ワークW中における金属の有無を判定する判定処理を実行するようになっている。
金属検出装置10は、さらに、磁界変動信号のうち金属影響による第2の変動成分相当の時間変化を伴うテストデータ(以下、テスト変動成分という)、例えば異物波形を予め記憶格納した異物波形記憶部50(金属影響信号記憶部)を有し、これと協働して検出回路部30における複数の信号処理のうちいずれかの条件を調整することで金属検出の条件を調整することができる検出条件調整回路60を具備している。
異物波形記憶部50に記憶格納されたテストデータは、予め検査空間Zmd内に金属のテストピースを通過させたときに一方および他方のLPF部33A、33Bから出力される相対位相90°の低周波信号成分のデジタル信号Dx、Dyを、少なくとも前述の散布図の描画に足りる所定サンプリング数分だけ、好ましくはそれ以上取得し、磁界変動信号のうち金属影響による第2の変動成分相当のテスト変動成分Dtpx、Dtpyとして記憶させたものである。
検出条件調整回路60は、金属検出装置10の検出感度調整が可能な特定の動作モード(例えば品種設定モード、あるいはメンテナンスモード、感度設定モード等)において、一方および他方のLPF部33A、33Bから出力される相対位相90°の低周波信号成分のデジタル信号Dx、Dyに対し、異物波形記憶部50から入力されるテスト変動成分Dtpx、Dtpyを加算することができる加算部61A、61Bと、加算部61A、61Bからの相対位相90°の加算信号Dx´、Dy´を所定サンプリング数だけ取得し、第1位相補正部35と同様な回転行列演算を実行する第2位相補正部62とを有している。この第2位相補正部62は、第1位相補正部35と同様な回転行列演算を実行することで、加算信号Dx´に対応し検波位相と同相とみなす補正がされた同相成分信号i´と、加算信号Dy´に対応し検波位相の直交位相とみなす補正がされた直交位相成分信号q´とを、それぞれ生成することができる。
検出条件調整回路60は、さらに、第2位相補正部62からの同相成分信号i´および直交位相成分信号q´を基に、検出回路部30における複数の信号処理のうちいずれかの条件、例えば一方および他方のBPF部34A、34Bの特性を調整するための演算処理を実行する演算部63と、演算部63の処理結果に応じて一方および他方のBPF部34A、34Bの特性を可変設定する検出条件設定部64とを有している。
具体的には、演算部63は、前述の特定の運転モード下で異物波形記憶部50、加算部61A、61Bおよび第2位相補正部62と協働し、良品のワークWのみを検査空間Zmdに通すテスト(感度設定用のサンプル検査)が所定回数なされる間に、異物波形記憶部50から加算部61A、61Bに対してテスト変動成分Dtpx、Dtpyを入力させる状態と、加算部61A、61Bに対してテスト変動成分Dtpx、Dtpyを入力させない状態とに切り替えるようになっている。
これにより、演算部63は、検査空間Zmdを良品のワークWのみが通過したときに一方および他方のLPF部33A、33Bから出力される製品影響の大きいデジタル信号Dwx、Dwyのみを加算部61A、61Bに入力させ、そのままデジタル信号Dx、Dyとして第2位相補正部62に入力させる場合には、同相成分信号iwおよび直交位相成分信号qwを算出し、一方、検査空間Zmdを良品のワークWのみが通過したときの低周波信号成分のデジタル信号Dwx、Dwyに対し加算部61A、61Bによりテスト変動成分Dtpx、Dtpyを加算した加算信号Dx´、Dy´を第2位相補正部62に入力させる場合には、その加算信号Dx´、Dy´に対応する同相成分信号i´および直交位相成分信号q´を算出することができるようになっている。
また、演算部63は、検出条件設定部64と協働して、それぞれ所定サンプリング数の一連の同相成分信号iwおよび直交位相成分信号qwと、それぞれ所定サンプリング数の一連の同相成分信号i´および直交位相成分信号q´とに基づき、まだ実行されていない一方および他方のBPF部34A、34Bのフィルタ処理相当のフィルタ関数演算を、予め記憶しているフィルタ係数の切替え条件に従って異なる係数値に順次切り替えながら、複数回実行するようになっている。
具体的には、演算部63は、検出条件設定部64で設定される検出条件に従い、距離センサ18により検出される検出ヘッド14の上側の内壁面14bからワークWの上面(反射面)までの高さ方向の距離に応じて、すなわち、その検出距離に対応するワークWの上面高さが、あらかじめ検出ヘッド14の開口14a内に設定した複数の異なる通過領域Za、Zb、Zcのうちいずれに含まれるかによって、前述のフィルタ関数演算におけるフィルタ係数の切替え幅や切替え回数を増減変更するようになっている。
また、距離センサ18の検出距離に対応するワークWの上面高さが、図3中の複数の通過領域Za、Zb、Zcのうち検出ヘッド14の上側の内壁面14bから遠い下方側の通過領域Zaであるときには、検出条件設定部64は、異物波形記憶部50に記憶格納されたテストデータのうち通過領域Za内の少なくとも1つの代表的な通過位置Paに対応する第2の変動成分相当のテスト変動成分Dtpx、Dtpyおよびフィルタ係数の切替え条件のみを用いる検出条件設定を行い、演算部63がその検出条件に従って一方および他方のBPF部34A、34Bのフィルタ処理相当のフィルタ関数演算を実行する。
また、距離センサ18の検出距離に対応するワークWの上面高さが、図3中の複数の通過領域Za、Zb、Zcのうち検出ヘッド14の上側の内壁面14bから近い上方側の通過領域Zcであるときには、検出条件設定部64は、異物波形記憶部50に記憶格納されたテストデータのうち通過領域Zc内の少なくとも3つの代表的な通過位置Pa、Pb、Pcに対応する第2の変動成分相当のテスト変動成分Dtpx、Dtpyおよびフィルタ係数の切替え条件を用いる検出条件設定を行い、演算部63がその検出条件に従って一方および他方のBPF部34A、34Bのフィルタ処理相当のフィルタ関数演算を実行するようになっている。
さらに、距離センサ18の検出距離に対応するワークWの上面高さが、図3中の複数の通過領域Za、Zb、Zcのうち中間の通過領域Zbであるときには、検出条件設定部64は、その通過領域Zb内の少なくとも2つの代表的な通過位置Pa、Pbに対応する第2の変動成分相当のテスト変動成分Dtpx、Dtpyおよびフィルタ係数の切替え条件のみを用いる検出条件設定を行い、演算部63がその検出条件に従って、一方および他方のBPF部34A、34Bのフィルタ処理相当のフィルタ関数演算を実行する。
なお、ここにいう検出ヘッド14の内壁面からの離間距離とは、コンベア12の搬送ベルト面上の高さ方向およびベルト幅方向のうち少なくとも一方向における離間距離で、例えば図3中の3つの通過位置Pa、Pb、Pcについて検出ヘッド14の内壁面14bからの距離A、B、Cとして例示する高さ方向の距離に相当する。また、本発明にいう通過位置とは、前述の通りであるが、ここでは、コンベア12の搬送ベルト面上の高さ方向やベルト幅方向のうち少なくとも一方向における検出ヘッド14の内壁面14b、14cまたは14dからの離間距離の意であり、通過領域とは、検出ヘッド14の開口14a内を通過するワークWのその開口14a内に占める範囲、すなわち、ワークWに混入(付着を含む)した金属がとり得る通過位置の高さ方向および/または幅方向の範囲に対応するものである。
離間距離に応じたいずれかの信号処理条件とは、離間距離に応じた一部または全部の信号処理条件であり、いずれか複数の信号処理条件には、あらかじめ設定された複数の信号処理条件のうち一部が含まれるだけでなく、全部が含まれ得る。言い換えれば、検査空間中で被検査物が通過し得ない領域に対しては、あらかじめ設定された信号処理条件を非選択として、それ以外の信号処理を実行することとなる。
演算部63は、同一の信号処理、例えば各BPF部34A、34Bまたは/およびLPF33A、33Bの信号処理に用いるフィルタ係数や遮断周波数等の制御パラメータを被検査物の通過位置(その通過位置に対応して変化するいずれかの検出値でもよい)を基に可変設定することで、あるいは更に、そのフィルタ係数等の変更に起因する位相ずれを位相補正部35で補正するための補正係数を可変設定することで、前述の離間距離に応じたいずれかの信号処理条件を設定するものであってもよい。また、演算部63は、被検査物の通過位置、例えば前述の距離センサ18の検出距離に対応するワークWの上面高さに応じて、前述のいずれかの信号処理条件を選択設定するために、そのワークWの上面高さとフィルタ係数や遮断周波数等の制御パラメータの値を対応付け可能なマップを用いるものであってもよく、それに代わるか補間する計算式を用いるものでもよい。
ここにいうフィルタ係数は、各BPF部34A、34Bにおけるn個の乗算器に与えられる重み付けのパラメータで、例えばh(0)、h(1)、h(2)、・・・、h(n-1)で表される複数の係数値の組である。また、乗算器の数nは、前述の所定サンプリング数以下である。各BPF部34A、34Bにおける複数(例えばn-1個)の乗算器は、対応する遅延要素(Z-1ディレイ要素)と共に複数のタップを構成している。このようなデジタルフィルタ(ここではFIRフィルタ)の構成自体は周知であるので、より詳細な説明は割愛する。
演算部63は、例えば距離センサ18の検出距離に応じて前述の複数のフィルタ係数および信号処理条件を切り替える複数回のフィルタ関数演算の実行結果に基づいて、それぞれ所定サンプリング数の一連の同相成分信号iwの振幅が最大となる位相を基準位相とし、この基準位相に対し直交する位相を金属有無判定位相とした上で、その金属有無判定位相における所定サンプリング数の製品影響信号成分である同相成分信号i´の変動幅に対して所定サンプリング数の金属影響信号成分である直交位相成分信号q´の変動幅の比が最大となるようにフィルタ係数を選択し、そのフィルタ係数を新たなフィルタ係数として検出条件設定部64に出力するようになっている。
そして、検出条件設定部64は、距離センサ18の検出距離に応じて算出された新たなフィルタ係数を、一方および他方のBPF部34A、34Bに対し、それぞれのフィルタ処理に用いる係数の選択制御信号Fsを供給する。
この場合、図4に示すように、一方および他方のBPF部34A、34Bは、それぞれのセレクタスイッチ回路Sw1、Sw2と、各セレクタスイッチ回路Sw1、Sw2に接続された複数のバンドパスフィルタBPF1、BPF2およびBPF3とで構成されている。
各セレクタスイッチ回路Sw1、Sw2は、一方および他方のLPF部33A、33BからそれぞれワークWの通過に伴う磁界変動に対応するデジタル信号Dx、Dyを信号入力するとともに、検出条件設定部64からフィルタ係数の選択制御信号Fsを入力し、それら入力信号Dx、FsおよびDy、Fsの信号値に従って複数のバンドパスフィルタBPF1-BPF3のいずれか1つ、2つまたは3つに選択的に入力信号Dx、Dyを出力するデマルチプレクサ機能を有している。
一方および他方のBPF部34A、34Bの各バンドパスフィルタBPF1、BPF2またはBPF3は、それぞれ低周波信号成分のデジタル信号Dx、Dyのうち所定周波数帯域から外れる信号の通過を制限することで、外来電磁ノイズ等の影響を抑えた信号Dxf、Dyfを生成し得るデジタルフィルタ(前述のFIR)の機能を有している。このようなFIRフィルタは、フィルタ係数により所望の特性を容易に実現できるので、BPF1ないしBPF3の出力信号に残留するノイズ成分をさらに抑えるためのフィルタ(例えばLPF)を併せて適用するようにフィルタ係数を設定することもできる。
図4に示すように、第1位相補正部35は、一方および他方のBPF部34A、34Bの複数のバンドパスフィルタBPF1、BPF2、BPF3に対応する複数の位相補正回路35a、35b、35cの処理機能を有しており、これら複数の位相補正回路35a、35b、35cのいずれか又は全部によって、検査対象のワークWが検査空間Zmdを通過する度に、そのワークWが検査空間Zmdを通過するときの所定サンプリング数のデジタル信号Dxf、Dyfの値を座標成分とするリサージュ図形を作成し、そのリサージュ図形中でワークWの製品影響による振幅が最大となる位相を基準位相として、デジタル信号Dxfに対応し基準位相と同相とみなす補正がされた同相成分信号i1、i2、i3と、デジタル信号Dyfに対応し基準位相の直交位相とみなす補正がされた直交位相成分信号q1、q2、q3とを、それぞれ生成することができるようになっている。複数の位相補正回路35a、35b、35cは、前述の基準位相やの直交位相について一方および他方のBPF部34A、34Bのフィルタ係数の変更に起因する位相ずれを補正するために、それぞれに適した互いに異なるずれ補正係数を設定したものであってもよい。
また、金属検出判定部40は、複数の判定回路41a、41b、41cと、それら複数の判定回路41a、41b、41cの出力を入力するOR回路42との機能を有している。
複数の判定回路41a、41b、41cは、第1位相補正部35から出力される所定サンプリング数の同相成分信号iおよび直交位相成分信号q、すなわち複数のバンドパスフィルタBPF1-BPF3からの同相成分信号i1、i2、i3および直交位相成分信号q1、q2、q3を基に、前述のI-Q平面上での金属有無判定位相における両成分信号i1、q1の振幅、i2、q2の振幅、i3、q3の振幅をそれぞれ比較し、その変動幅の比が所定のリミット値を超えるか否かによって、ワークW中における金属の有無を判定するそれぞれの判定処理を実行することができるようになっている。
OR回路42は、複数の判定回路41a、41b、41cの出力のいずれか1つでも金属有りの判定結果である場合には金属有りの判定結果に対応する出力値(例えば1)で、他の場合には金属無しの判定結果に対応する出力値(例えば0)で、判定結果信号Sjを出力する3入力ORゲートとなっている。
このように、検出条件調整回路60は、ワークWのみが検査空間Zmd中を通過するときの磁界変動信号に基づく製品影響の大きいデジタル信号Dwx、Dwy(第1の変動成分)と、異物波形記憶部50から読み出した金属影響の大きいテスト変動成分Dtpx、Dtpy(第2の変動成分)とに基づいて、検出回路部30における検出条件の一部である各BPF部34A、34Bのフィルタ特性(特定の処理条件)を、距離センサ18の検出距離に応じて、金属の通過領域Za、ZbまたはZcごとに最適な検出感度となるように調整するようになっている。
また、本実施形態の金属検出装置10は、検出ヘッド14を通してワークWを搬送するコンベア12と、磁界受信部23を有する検出ヘッド14と、磁界受信部23による磁界変化の検出信号に対し所定の信号処理を実行する検出回路部30とを備え、検出回路部30の信号処理結果に基づいてワークWに金属が混入しているか否かを判定するものであって、検査空間Zmd中を通過するワークWの上面の検出ヘッド14の内壁面14bからの離間距離を検出する距離センサ18を有している。そして、検出回路部30が、あらかじめ設定された複数の信号処理条件のうち、前述のように検出ヘッド14の内壁面14bからの離間距離に応じたいずれかの信号処理条件で、所定の信号処理を実行する。
さらに、本実施形態の金属検出装置10においては、検出回路部30が、複数の信号処理条件のうち距離センサ18の検出距離に応じて最適化し得るいずれかの信号処理条件を選択して、選択した信号処理条件で高検出感度になるよう所定の信号処理を実行する。
また、その所定の信号処理は、検出回路部30のBPF部34A、34Bにおける複数組のバンドパスフィルタBPF1―BPF3、第1位相補正部35における複数の位相補正回路35a-35cおよび金属検出判定部40における複数の判定回路41a-41cで構成される複数の信号処理部を、検出ヘッド14の開口14a内におけるワークWの通過領域に応じて、同時に動作させたり一部のみを動作させたりすることができる。
さらに、検出回路部30においては、複数の信号処理条件に対応する複数のノイズ低減用のバンドパスフィルタBPF1―BPF3のうち、検出ヘッド14の内壁面14bからの距離に応じてそれぞれの特性が設定されたバンドパスフィルタBPF1-BPF3のいずれか1つ以上を選択し、その選択したフィルタで高検出感度が得られる信号処理が無駄なく実行される。
加えて、検出回路部30においては、金属を含まないワークWの良品が磁界中を通過する際に生じる第1の磁界変化を検出し、複数の信号処理条件のうち第1の磁界変化の検出信号に対応する通過領域Za、ZbまたはZcについての第2の変動成分相当のテスト変動成分Dtpx、Dtpyおよびそれに対応する信号処理条件を選択して、その選択した信号処理条件で、所定の信号処理であるバンドパスフィルタ処理、位相補正および金属有無判定を実行する。
異物波形記憶部50は、金属種が相違するかサイズが相違する複数タイプのテストピースについて、金属影響データを記憶格納しているものとすることもでき、その場合、例えば鉄系のテストピース、ステンレス鋼系のテストピース、銅その他の非鉄金属系のテストピース等を用いることができる。
金属種の違いにより、各金属種に特異な位相が相違するものの、製品影響の大きい第1の変動成分の振幅が最大となる位相に対して、これを同相(In-phase)とするI-Q平面上において、金属有無判定位相となる直交位相(Quadrature)では、第1の変動成分の変動幅が最小になり、各金属種に特異な位相が直交位相側に傾斜することになる。よって、検出回路部30による検出信号の周波数帯域を左右するBPF部34A、34Bのフィルタ特性を可変設定することで、製品影響の大きい周波数帯域を的確に設定し、ノイズ成分を製品影響より小さくするとともに、金属影響をそれより大きくすることができる。
検出条件調整回路60は、サンプル検査を行う特定の動作モードにおいて、検出条件設定部64によって波形生成部21に対して磁界送信信号の切替えを要求し、良品ワークWの数回のテストに際して波形生成部21からの磁界送信信号および検波信号の周波数を切り替えさせ、検査空間Zmd中をワークWのみが通過するときの磁界変動信号に基づく第1の変動成分の振幅レベルが大きくなる交番磁界の周波数を、予め設定された複数の磁界周波数値の中から選択設定することができるようになっている。
さらに、異物波形記憶部50は、検査領域中を新規のテストピースが通過するときの磁界変動信号に対応する金属影響データを追加して記憶格納可能となっており、検出条件調整回路60は、一方および他方のBPF部34A、34Bのフィルタ特性として、前述の検出感度の推定値が所定値以上となる特性を選択設定可能な特性として追加記憶し、品種設定時等に、追加記憶した品種を含めて複数のフィルタ特性のうち検出感度の推定値が最大となる特性を選択することもできるようになっている。
以下、上記構成の金属検出装置の動作と共にその作用について説明する。
上述のように構成された本実施形態の金属検出装置10においては、検出感度設定が可能な前述の特定の動作モードにて、良品のワークWのみを検査空間Zmdに通すサンプル検査が所定回数なされ、そのサンプル検査中に、異物波形記憶部50から加算部61A、61Bに対してテスト変動成分Dtpx、Dtpyを入力させる状態か否かが複数回切り替えられる。
そして、異物波形記憶部50から加算部61A、61Bに対してテスト変動成分Dtpx、Dtpyを入力させない状態下で、検査空間Zmdに良品のワークWのみを通過させるサンプル検査を実行することにより、製品影響の大きいデジタル信号Dwx、Dwyのみをそのままデジタル信号Dx、Dyとして同相成分信号i1および直交位相成分信号q1が算出される。
併せて、異物波形記憶部50から加算部61A、61Bに対してテスト変動成分Dtpx、Dtpyを入力させる状態下で、検査空間Zmdに良品のワークWのみを通過させるサンプル検査を実行することにより、製品影響の大きい低周波信号成分のデジタル信号Dwx、Dwyに対し金属影響の大きいテスト変動成分Dtpx、Dtpyを加算した信号Dx´、Dy´を第2位相補正部62に入力させることで、その加算信号Dx´、Dy´に対応する同相成分信号i´および直交位相成分信号q´が算出される。
このように良品ワークWを検査空間Zmdに通過させるサンプル検査の実行中に、多様な金属異物の多様な混入形態に対して、それらを模擬した多数の疑似的な磁界変動信号が生成され、それらを用いる多数回のシミュレーション演算が迅速に実行され、所要の高検出感度が短時間内に設定される。ただし、検出ヘッド14の開口14a内における各ワークWの通過領域Za、ZbまたはZcの外方に及ぶような無駄な信号処理は省かれる。
具体的には、このとき、複数のタップ(遅延ブロック)を有する各BPF部34A、34Bのフィルタ特性に対応するデジタルフィルタの特性を調整するために、加算部61A、61Bに対して、それぞれ時間変化を伴う所定サンプリング数の一連のデジタル信号Dwx、Dwyが入力されるとともに、それぞれ時間変化を伴う所定サンプリング数の一連のテスト変動成分Dtpx、Dtpyが、検出ヘッド14の開口14a内における各ワークWの通過領域Za、ZbまたはZcに応じて選択され、加算される。
そして、その加算信号である一連のパルス状の加算信号Dx´、Dy´が、第2位相補正部62に入力され、そこで、その加算信号Dx´、Dy´に対応する同相成分信号i´および直交位相成分信号q´が算出される。さらに、それぞれ所定サンプリング数の一連の同相成分信号iwおよび直交位相成分信号qwと、同相成分信号i´および直交位相成分信号q´とに基づき、一方および他方のBPF部34A、34Bのフィルタ処理相当のフィルタ関数演算が実行される。
より具体的には、距離センサ18により検出される検出ヘッド14の内壁面14bからワークWの上面までの高さ方向の距離に応じ、ワークWの上面高さが通過領域Za、Zb、Zcのうちいずれに含まれるかによって、異物波形記憶部50に記憶されたテスト変動成分Dtpx、Dtpyの全データのうち検査中のワークWの通過領域Za、ZbまたはZcに含まれる通過位置に対応する分のデータが選択され、その選択されたデータに応じて例えば前述のフィルタ関数演算におけるフィルタ係数の切替え幅や切替え回数が増減変更される。
図5は、そのような品種毎の良品でのサンプル検査により金属検出のための信号処理条件を自動的に可変設定する処理の概略手順を示している。
同図に示すように、まず、良品である正常なワークWのみを検査空間Zmdに通すサンプル検査が所定回数なされるとともに、距離センサ18により検出ヘッド14の内壁面14bからワークWの上面までの距離が検出されることで、検査空間Zmd内のワークWの上面検出領域が通過領域Za、ZbまたはZcとして検出される(ステップS11)。
次いで、検出されたワークWの通過領域が、通過領域Za、Zb、Zcのうちいずれであるかが判定され(ステップS12)、その判定結果に応じて、検出回路部30および検出条件調整回路60における信号処理条件が変更される(ステップS13、S14、S15)。
例えば、通過領域の判定結果が下方側の通過領域Zaであるときには、異物波形記憶部50に記憶格納されたテストデータのうち通過領域Za内の代表的な通過位置Paに対応する第2の変動成分相当のテスト変動成分Dtpx、Dtpyが選択されるとともに、その選択に対応するフィルタ係数の切替え条件が選定される(ステップS13)。同様に、通過領域の判定結果が他の通過領域ZcまたはZbであるときには、異物波形記憶部50に記憶格納されたテストデータのうち通過領域ZbまたはZc内の代表的な通過位置Pa、PbまたはPa-Pcに対応する第2の変動成分相当のテスト変動成分Dtpx、Dtpyが選択されるとともに、その選択に対応するフィルタ係数の切替え条件が選定される(ステップS14またはS15)。
次いで、前ステップでの信号処理結果に基づいて、検出条件設定部64によりBPF部34A、34Bでのフィルタ処理の係数値や、第1位相補正部35での位相補正条件、判定部での判定条件等が、金属検出処理条件として設定される(ステップS16)。
その設定後、被検査対象の複数のワークWが順次検査空間Zmd内に搬送され、前述のような金属検出装置10による通常の金属検出処理が実行される(ステップS17)。
この通常の金属検出処理においては、例えば一方および他方のBPF部34A、34Bのセレクタスイッチ回路Sw1、Sw2に、一方および他方のLPF部33A、33Bからのデジタル信号Dx、Dyと、検出条件設定部64からフィルタ係数の選択制御信号Fsとがそれぞれ入力され、それら入力信号Dx、FsおよびDy、Fsの信号値に従って各BPF部34A、34Bの複数のバンドパスフィルタBPF1-BPF3が選択的に作動する。
また、第1位相補正部35の位相補正回路35a、35b、35cのいずれか又は全部によって、検査対象のワークWが検査空間Zmdを通過する度に、所定サンプリング数のデジタル信号Dxf、Dyfの値を座標成分とするリサージュ図形中でワークWの製品影響による振幅が最大となる位相を基準位相として、同相成分信号i1、i2、i3および直交位相成分信号q1、q2、q3の一部または全部に対して、必要な位相角補正がなされる。
このように、本実施形態においては、検査空間Zmd中を金属のテストピースのみが通過するときの金属影響の大きい磁界変動成分をテスト変動成分Dtpx、Dtpyとして異物波形記憶部50に予め記憶格納しておき、検出条件調整回路60によって、ワークWのみが検査空間Zmd中を通過するときの製品影響の大きいデジタル信号Dwx、Dwy(第1の変動成分)と、異物波形記憶部50から読み出したテスト変動成分Dtpx、Dtpy(第2の変動成分)とに基づいて、各BPF部34A、34Bのフィルタ係数等が可変設定されることで、検出回路部30における特定の処理条件が調整される。しかも、そのような検出条件の調整時および通常検査の双方で、検出ヘッド14の開口14a内におけるワークWの通過領域に応じて、金属検出処理のための検出回路部30の信号処理条件および検出条件調整回路60での信号処理条件が変更され、通過領域外に及ぶような無駄な信号処理が未然に抑制される。
すなわち、本実施形態では、磁界中をワークが通過するとき、ワークWの検出ヘッド14の内壁面14bからの離間距離が検出され、複数の信号処理条件のうち、検出された離間距離に応じた一部または全部の信号処理条件下で、金属検出のための所定の信号処理であるフィルタ関数演算や位相補正処理が実行される。したがって、検出ヘッド14の開口14a内に占めるワークWの通過領域が、その形状や搬送形態に応じて搬送ベルト12a上の高さ方向やベルト幅方向の一部領域内に限定される場合に、無駄な信号生成や無駄なフィルタ処理を伴なう金属検出処理を実行せずに済むことになる。
しかも、検査空間Zmdを通過するワークWのサイズや形状、搬送形態に応じてその検査空間Zmd中のワークWに最適な金属検出処理を実行できることから、少ないハードウェア資源でも無駄のない信号処理により金属検出装置10を高検出感度に作動させることができる。
また、本実施形態では、検出回路部30および検出条件調整回路60が、検出ヘッド14の内壁面14bからの検出距離に応じた複数の信号処理条件、例えば、内壁面14bから遠い通過位置Pa用の信号処理、近い通過位置Pc用の信号処理、および中間の通過位置Pb用の信号処理等を準備しているので、検出ヘッド14の開口14a内のどの位置を金属が通過しても、高検出感度が得られることとなる。
さらに、本実施形態では、検出回路部30が、例えば複数の信号処理条件に対応する複数のノイズ低減用のフィルタBPF1-BPF3のうち、距離センサ18の検出距離に対し最適特性設定されたいずれかのフィルタを選択して、対応するフィルタ処理等を実行する。したがって、検出ヘッド14の開口14a内における金属の通過位置に応じて検出信号の変動の仕方に相違が生じるのに対して、金属通過位置を含む通過領域Za、ZbまたはZcと対応付けて特性設定されたノイズ低減用フィルタ等の選択がされ、高検出感度の金属検出処理が可能となる。
加えて、検出回路部30においては、金属を含まないワークWの良品が磁界中を通過する際に生じる第1の磁界変化を同相成分信号iwおよび直交位相成分信号qwを含む検出信号として検出し、複数の信号処理条件のうち第1の磁界変化の検出信号に対応する通過領域Za、ZbまたはZcについての第2の変動成分相当のテスト変動成分Dtpx、Dtpyおよびそれに対応する信号処理条件を選択して、その選択した信号処理条件で、所定の信号処理であるバンドパスフィルタ処理、位相補正および金属検出判定を実行する。
したがって、正常なワークWを検査空間Zmd中に流すだけで、自動的にフィルタ関数演算や位相補正処理等の所定の信号処理に用いる信号処理条件を決定できることになる。
また、本実施形態では、距離センサ18とは別に設けられたカメラによって、あるいは距離センサ18を複数箇所に設ける等して、検査空間Zmd内における所定搬送位置でのワークWの形状を検出する形状センサを構成すれば、検出ヘッド14の開口14aの中心軸線方向におけるワークWの正面視形状、あるいは、検出ヘッド14の開口14a内およびその前後一定範囲内のワークWの部分形状、その開口14a内の通過位置、厚みおよび幅、その部分形状の前後を含めたワークWの傾き等を、形状センサで検知し、適切な信号処理をより効果的に選択することができる。
本実施形態では各BPF34A、34Bの複数のバンドパスフィルタBPF1-BPF3を選択的に作動させるものとしたが、この実施形態に代えて、作動するバンドパスフィルタのフィルタ係数を可変にしてフィルタ特性を任意に設定できるようにしてもよい。この場合、検出条件可変設定部64が、フィルタ処理に用いる係数の選択制御信号Fsに代えて、デジタルフィルタのフィルタ係数を算出する公知の算出式に与えるパラメータを選択または設定するための制御信号を供給してもよいし、あらかじめ算出しておいたフィルタ係数の各係数値を設定するためのデータ信号を供給してもよく、これにより、より多品種の被検査物について確実かつ容易に高感度検出を実現するフィルタを柔軟に設定することができるようになる。
このように、本実施形態においては、検査空間Zmdを通過するワークWのサイズや形状、搬送形態に応じてその検査空間Zmd中のワークWに最適な金属検出処理を選択し、無駄のない信号処理により高検出感度に作動させることのできる金属検出装置10を提供することができる。
したがって、製品とテストピースを併用するテストを多数回繰り返すことなく、製品のみの少数回のテストだけで高検出感度要求に応え得る迅速で的確な検出感度設定が可能になり、所要の検出精度の確保と検出感度設定のためのテスト回数の低減とを両立させ得るものとなる。
また、本実施形態では、検出感度の推定値が予め設定した感度値以上となるように各BPF部34A、34Bのフィルタ特性を可変設定するので、製品影響による磁界変動成分の振幅レベルをノイズ成分の検出レベルより確実に大きくすることで、安定した良好な検出感度を確保することができる。
また、本実施形態では、異物波形記憶部50に、金属種が相違するかサイズが相違する複数タイプのテストピースについて、金属影響データを記憶格納できるので、検出対象の金属の種類が変化したり予測できなかったりしても、安定した良好な検出感度設定が可能となる。
なお、上述の一実施形態においては、磁界受信部23の出力をA/D変換部31に取り込み、直交検波以降の各処理をデジタル処理としていたが、直交検波部32やLPF部33A、33Bまでアナログ処理としてもよい。もっとも、前述の実施形態のように、直交検波部32による検波をもデジタル処理によるものとすることで、検波位相を製品影響に応じて適時に的確に調整すること等が容易に可能となる。
また、上述の一実施形態では、検出回路部30の検出条件の一部を、検出回路部における検出処理のうち特定の処理条件、例えばフィルタ係数としたが、フィルタ特性を変化させる他の条件であってもよいし、位相調整の条件等と関連する他の特定の処理条件とすることも考えられる。
さらに、上述の一実施形態における磁界出力部22および磁界受信部23のコイルの形状や配置、コンベアの有無その他の装置構成が特に限定されるものでないことは、いうまでもない。加えて、上述の一実施形態においては、検査領域中に交番磁界を発生させ、ワークの通過による磁界変動を検出する方式の金属検出装置として説明したが、本発明は、検査領域に入るワークを電磁石や永久磁石等で予め着磁させ、検出ヘッド内に設けた磁気センサの出力、例えば複数の磁気センサの出力を基に金属検出するような他方式の金属検出装置において、被検査物の通過位置により検出信号の周波数成分が変動するときには、常に適用できるものである。
以上説明したように、本発明は、検査空間を通過する被検査物の通過領域に応じてその検査空間中の被検査物に最適な金属検出処理を選択し、無駄のない処理により十分な高検出感度を得ることのできる金属検出装置を提供できるものであり、被検査物が検査空間中を通過するときの磁界変動を基に被検査物中の金属または金属成分を検出する金属検出装置全般に有用である。