JP7184282B2 - 金属アセン錯体を含む薬剤送達システム - Google Patents

金属アセン錯体を含む薬剤送達システム Download PDF

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Description

本開示は、生体内または組織内で薬剤を送達するためのシステムに関する。
薬物の作用が求められる体内の標的部位に薬物を送達するためのシステムは、一般にドラッグデリバリーシステム(DDS)と呼ばれる。DDS技術には、薬物の投与ルートに関するもの、放出制御に関するもの、代謝制御に関するもの、毒性制御に関するもの、標的指向化に関するものなどが含まれる。
最も典型的かつ研究が進んでいるDDSの一例はリポソームである。リポソームは、水溶性、脂溶性を問わず様々な化合物を封入でき(封入とはリポソーム脂質層そのものに化合物が結合される場合も含む)、タンパク質や核酸のような高分子量分子も封入でき、尚早な分解や吸収を防ぎながらこれらの物質を送達することができる。また、血中安定性を向上させるためのポリエチレングリコール鎖、さらには標的指向性その他の機能を付与するための糖鎖、抗体、各種リガンド等で表面を修飾することもできる。さらに、リポソームに磁性体を共封入することにより、磁力を利用して標的指向性を付与することも可能である(非特許文献1)。
磁場の適用による位置の誘導を可能にする磁性(以下、単に「磁性」という)を、活性薬物分子自体にもたせるという技術も知られている。例えば、特許文献1~5は、自己磁性を有する金属サレン錯体または金属アセン錯体を抗腫瘍活性(細胞致死活性)成分とする抗腫瘍薬を記載している。
さらに、活性薬物分子に、磁性を有する特定の有機化合物を共有結合的に連結させる技術も知られている。非特許文献2は、自己磁性および抗腫瘍活性を有する金属サレン錯体にさらに別の抗腫瘍化合物を連結させた抗腫瘍薬を記載している。別の薬物を送達するための磁性体としてはFeやFePtがより一般的であるが、金属サレン錯体は、磁性だけでなく抗腫瘍性も同時に提供できること、および有機化合物ならではの構造的修飾や分解特性を提供できることといった特徴を有する。
これら磁性薬物および磁性担体に共通するさらなる利点として、投与後の体内動態をMRI等で追跡することが可能なこと、および、交流磁場の適用によって体内で発熱させることも可能であることが挙げられる。
上述した文献に記載された金属錯体は、自らが磁性とともに強い細胞毒性(細胞致死活性)を有するため、抗腫瘍薬における使用に適している。すなわち、これらいずれかの金属錯体を含む組成物を生体に投与後、体外から磁場を適用することによって、金属錯体を患部に誘導すると、細胞致死活性を局所に集中させることになる。しかしながら、これらの金属錯体は、標的組織の致死を必ずしも目的とはしない薬剤のための標的指向性DDS担体としての使用には適していない。
特許第5167481号公報 特許第4446489号公報 特許第5461968号公報 特許第5680065号公報 特許第6017766号公報
YAKUGAKU ZASSHI,128(2),185-186 (2008) Oncotarget,2018,9(21):15591-15605 and Supplementary Files
構造、磁性、および/または細胞毒性においてさらなるバリエーションを提供できる有機化合物ベースの磁性担体を含む薬剤送達システムに対するニーズが存在する。本開示の実施形態は、このようなニーズに応える新規の薬剤送達システムを提供するものである。
本発明者らは、金属アセン錯体を金属部分においてハロゲン化または二量体化すると、それらの非ハロゲン化対応物および非二量体化対応物ならびにサレン錯体対応物と比較して、磁性が著しく増強され、かつ細胞毒性が著しく低下することを発見した。また、それらハロゲン化金属アセン錯体および金属アセン錯体二量体に他の薬剤を効果的に連結できることを見出した。本開示の実施形態はこれらの発見に基づくものである。
本開示は以下の実施形態を含む。
[1]
標的組織を生存させながら前記標的組織に薬剤を送達するための薬剤送達システム組成物であって、
下記式(I):
Figure 0007184282000001
または下記式(II):
Figure 0007184282000002
で表される金属アセン錯体構造を磁性担体として含み、式中、Aはハロゲン化物イオンであり、MはFe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、およびGdからなる群より選択される金属イオンである、
組成物。
[2]
前記MはFe、Mn、Cr、またはCである、[1]に記載の組成物。
[3]
標的組織を生存させながら前記標的組織に薬剤を送達するための薬剤送達システム組成物であって、
下記式(I’)
Figure 0007184282000003
または下記式(II’)
Figure 0007184282000004
で表される部分構造を有する化合物を含み、式中、波線は結合点であり、Aはハロゲン化物イオンであり、MはFe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、およびGdからなる群より選択される金属イオンである、
組成物。
[4]
下記式(III):
Figure 0007184282000005
または下記式(IV):
Figure 0007184282000006
で表される金属アセン錯体-薬剤結合体を含み、式中、
Aはハロゲン化物イオンであり、
MはFe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、およびGdからなる群より選択される金属イオンであり、
~Rはそれぞれ、水素原子であるか、または、ヒドロキシ基と結合を形成することができる基を有するリンカー化合物に由来するリンカー基であり、
は前記金属アセン錯体上のヒドロキシ基に由来する酸素原子であって、前記水素原子とともにヒドロキシ基を形成しているか、または前記リンカー化合物と前記結合を形成しており、
およびRのうちの少なくとも1つ、ならびにR~Rのうちの少なくとも1つは、前記Oと結合した末端とは別の末端において前記薬剤と結合しているリンカー基である、
[3]に記載の組成物。
[5]
前記MはFe、Mn、Cr、またはCである、[3]または[4]に記載の組成物。
[6]
前記Oと結合した末端とは別の末端において前記薬剤と結合しているリンカー基は、前記薬剤上のスルフヒドリル基を介して前記薬剤と結合している、[4]に記載の組成物。
[7]
前記R~Rのうち、前記薬剤と結合しているリンカー基であるものは下記式(V)で表される構造を有し、
Figure 0007184282000007
前記R~Rのうち他のものは、水素原子であるか、または下記式(VI)で表されるリンカー基の構造を有し、
Figure 0007184282000008
式中、*は前記Oへの結合を表し、Xは結合した前記薬剤であり、Sは前記スルフヒドリル基に由来する硫黄原子である、
[6]に記載の組成物。
[8]
前記Oと結合した末端とは別の末端において前記薬剤と結合しているリンカー基は、前記薬剤上のアミノ基を介して前記薬剤と結合している、[4]に記載の組成物。
[9]
前記R~Rのうち、前記薬剤と結合しているリンカー基であるものは下記式(VIII)で表される構造を有し、
Figure 0007184282000009
前記R~Rのうち他のものは、水素原子であるか、または下記式(IX)で表されるリンカー基の構造を有し、
Figure 0007184282000010
式中、*は前記Oへの結合を表し、Xは結合した前記薬剤であり、N**は前記アミノ基に由来する窒素原子である、
[8]に記載の組成物。
本開示の実施形態により、強い磁性を有しかつ細胞毒性が低い有機化合物に基づく磁性担体を含む薬剤送達システムを提供することができる。
図1は、鉄アセン錯体二量体(a)および塩化鉄アセン錯体(b)の磁性特性評価の結果を、鉄サレン錯体二量体から得られた結果と比較しながら示している。 図2は、ヒト卵巣癌細胞に対する鉄アセン錯体二量体および塩化鉄アセン錯体の細胞致死活性を、鉄サレン錯体二量体のものと比較しながら示している。 図3は、塩化鉄アセン錯体および鉄アセン錯体二量体の粉末X線測定結果を、対応する理論計算値とともに示している。
本開示の一側面において、標的組織を生存させながらその標的組織に薬剤(pharmaceutical agent)を送達するための薬剤送達システム組成物であって、ハロゲン化金属アセン錯体構造またはハロゲン化金属アセン錯体二量体構造を磁性担体として含む組成物が提供される。本開示から明らかなように、アセン(acen;acacenともいう)とは、アセチルアセトンに関連する構造であって、ベンゼン環が直線状に縮合した化合物であるアセン(acene)と混合すべきではない。磁性担体とは、対象への投与後に磁場を適用することによって対象内の特定の位置もしくは領域または特定の方向に誘導することを可能にする磁性を帯びた担体を意味する。例えば、組成物がリポソームの形態を有し、磁性担体が、送達されるべき薬剤とともにリポソーム脂質層内に封入され得る。別の例では、後述するように、薬剤が共有結合を介して磁性担体と連結され得る。本開示において、結合とは、他に明示されない限り共有結合を意味する。
本開示において、組成物の投与の「対象」は、好ましくは動物の個体であり、より好ましくは哺乳類の個体であり、特に好ましくはヒトの個体である。しかしながら、例えば生物医学的研究においてインビトロ培養組織が投与の対象となる態様も企図される。
本実施形態の組成物に含まれる磁性担体は、低細胞毒性ないし無細胞毒性である。細胞毒性とは、対象の細胞を殺す活性または対象の細胞増殖を阻止する活性を意味する。実施例欄記載のように、ヒト卵巣癌細胞株OVK18(理化学研究所バイオリソース研究センター等から入手可能)に鉄サレン錯体二量体を2.5mg/Lの量で投与して17時間培養した場合には、非投与対照と比べて細胞生存率が50%未満まで低下する。これは強細胞毒性と解される。同じ投与量の条件で、非投与対照と比較して50%以上の細胞生存率を維持できる金属錯体は低細胞毒性と定義され、80%以上の細胞生存率を維持できるものは無細胞毒性と定義される。このような低細胞毒性または無細胞毒性のため、標的組織を生存させることができる。
上述した従来の金属錯体に基づく磁性担体は、自ら強い細胞毒性を有していたため、標的組織を殺す目的の送達には適していたが、磁性担体の細胞毒性を抑えながら薬剤を送達する目的には適していなかった。それに対し本実施形態の組成物は、磁性担体の細胞毒性を抑えながら、すなわち磁性担体自体による標的組織の致死は防ぎながら、従って標的組織を生存させながら、その磁性担体の磁性に基づいて薬剤を標的組織に送達することができる。
本開示において、「標的組織」とは、薬剤が投与される対象を構成する組織またはその部分であってその薬剤の送達先となることが意図される組織またはその部分である。対象において寄生、感染、もしくは共生している生物体(対象とは生物種が異なる)は、たとえそれが薬剤の作用標的であっても、薬剤送達システム組成物の標的組織とはいわない。例えば、対象としての人体に感染している細菌細胞は、たとえそれが薬剤の作用標的であっても「標的組織」とは解されず、「標的組織」はあくまでその細菌が感染している人体組織の方であると解される。
一実施形態において、薬剤送達システム組成物は、
下記式(I):
Figure 0007184282000011
で表されるハロゲン化金属アセン錯体構造、
または下記式(II):
Figure 0007184282000012
で表される金属アセン錯体二量体構造を磁性担体として含む。式中、Aはハロゲン化物イオンであり、好ましくはF、Cl、Br、またはIであり、より好ましくはClまたはBrであり、特に好ましくはClである。Mは、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、およびGdからなる群より選択される金属イオンであり、好ましくはFe、Mn、Cr、またはCであり、特に好ましくはFeである。薬剤送達システム組成物が式(I)で表される金属アセン錯体構造を磁性担体として含むことがより好ましい。
一実施形態において、薬剤送達システム組成物は、上記式(I)または式(II)の金属アセン錯体がリンカー構造を介して薬剤に連結されてなる金属アセン錯体-薬剤結合体を含む。リンカー構造は、式(I)または式(II)においてNとOを連結する炭化水素半環構造のうちメチル基を有していない中央の炭素原子に結合していることが好ましい。以下、この特定の炭素原子をリンカー結合部炭素原子という。リンカー基は、リンカー結合部炭素原子に結合した酸素原子を介して金属アセン錯体に結合していることが好ましい。
薬剤送達システム組成物は、下記式(I’)または式(II’)で表される部分構造を有する化合物を含み得る。
Figure 0007184282000013
Figure 0007184282000014
ここで、MおよびAの定義は、式(I)および(II)について上述した通りであり、波線は結合点を表す。結合点は特に、リンカー分子、薬剤分子、または水素原子への連結点であり得る。この実施形態の薬剤送達システム組成物は、上記の部分構造を磁性担体として含むことを要点とするものであって、連結されるリンカーおよび薬剤の種類は、ユーザーが個々のアプリケーションに応じて、かつ通常の知識に基づいて、適宜選択すべきものである。
Goodenough-Kanamori-Anderson則により、磁性イオン-陰イオン-磁性イオンの結合角が90度に近ければ強磁性を示すことが知られている。さらに、鉄サレン錯体二量体にリンカー分子と薬剤を結合させた先行研究(非特許文献2)において、結合するリンカーおよび薬剤の数に応じて変動するFe-O-Feの結合角が128.257度から171.237度の範囲で、強磁性を有した。金属アセン錯体でも同様に、リンカーと薬剤を結合させても、磁性金属イオン-陰イオン-磁性金属イオンの結合角は強磁性を示す角度であることが予想されるため、式(I)または(II)の構造にリンカー基および薬剤を結合させても磁性は失われない。また、薬剤、リンカー分子ともに毒性はなく、アセン錯体も細胞毒性が低いことが実験的に明らかであるため、上記の金属アセン錯体-薬剤結合体は細胞毒性が低いことが理解される。
上述のように酸素原子を介してリンカー基が結合した金属アセン錯体は、リンカー結合部炭素原子にヒドロキシ基が結合した構造(完成した金属アセン錯体をなしているとは限らず、金属アセン錯体を合成するための中間体でもあり得る)を元にして調製できる。すなわち、ヒドロキシ基と反応して結合を形成することができる基を有するリンカー化合物を、上記構造上のヒドロキシ基と反応させて結合を形成させることによって調製できることが理解される。この場合、複数あるヒドロキシ基のすべてにリンカー化合物が結合するか、あるいは一部のヒドロキシ基のみにリンカー化合物が結合するかは、反応条件次第で変動し得るため、どちらの態様もあり得る。後者の場合には、リンカー化合物が結合しなかったヒドロキシ基は、ヒドロキシ基のまま最終的な金属アセン錯体-薬剤結合体に残存し得る。すなわち、最終的な金属アセン錯体-薬剤結合体では、すべてのリンカー結合部炭素原子にリンカー基が結合していてもよいし、あるいは、一部のリンカー結合部炭素原子にリンカー基が結合し残りのリンカー結合部炭素原子にはヒドロキシ基が結合していてもよい。すべてのリンカー結合部炭素原子にリンカー基が結合していることがより好ましい。
同様に、リンカー基の他方の末端、すなわち金属アセン錯体と結合した末端とは別の末端には、送達されるべき薬剤が結合されるが、複数あるリンカー基のすべてに薬剤が結合していてもよいし、あるいは一部のリンカー基のみに薬剤が結合していてもよい。ハロゲン化金属アセン錯体の場合は、金属アセン錯体1分子あたりに1分子または2分子の薬剤が結合することができ、2分子の薬剤が結合していることがより好ましい。金属アセン錯体二量体の場合は、金属アセン錯体1分子あたり1~4分子の薬剤が結合することができ、2分子以上(例えば2分子)の薬剤が結合していることがより好ましい。金属アセン錯体二量体に2分子の薬剤が結合している場合、1つめの薬剤分子が一方の一量体に結合し、2つめの薬剤分子が他方の一量体に結合していることが好ましい。
リンカー化合物またはリンカー基と薬剤との結合様式は、当業者が通常の知識に基づいて適宜選択することができる。例えば、リンカー基は、薬剤分子上のスルフヒドリル基、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、またはヒドロキシ基を介して薬剤分子に結合し得る。換言すると、リンカー化合物は、これらの基と結合を形成することができる基を、金属アセン錯体と結合する末端とは別の末端に有し得る。
より具体的には、本実施形態の薬剤送達システム組成物は、上記部分構造を有する化合物として、
下記式(III):
Figure 0007184282000015
または下記式(IV):
Figure 0007184282000016
で表される金属アセン錯体-薬剤結合体を含み得る。式中、Aはハロゲン化物イオンであり、好ましくはF、Cl、Br、またはIであり、より好ましくはClまたはBrであり、特に好ましくはClである。MはFe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、およびGdからなる群より選択される金属イオンであり、好ましくはFe、Mn、Cr、またはCであり、特に好ましくはFeである。薬剤送達システム組成物が式(III)で表される金属アセン錯体-薬剤結合体を含むことがより好ましい。
~Rはそれぞれ、水素原子であるか、または、ヒドロキシ基と結合を形成することができる基を有するリンカー化合物に由来するリンカー基である。式(III)のハロゲン化金属アセン錯体の場合、RおよびRのうちの少なくとも一方は、水素原子ではなくリンカー基である。RおよびRの両方が、水素原子ではなくリンカー基であることがより好ましい。式(IV)の金属アセン錯体二量体の場合、R~Rのうちの少なくとも1つは、水素原子ではなくリンカー基である。R~Rのうちの2つ以上が、水素原子ではなくリンカー基であることがより好ましく、3つ以上が水素原子ではなくリンカー基であることがより好ましく、4つ全てが水素原子ではなくリンカー基であることがさらに好ましい。
ヒドロキシ基と結合を形成することができる基は当業者に知られており、その好適な例としては、カルボキシル基、クロロぎ酸エステル基、およびイソシアネート基が挙げられるが、これらに限定されない。カルボキシル基およびクロロぎ酸エステル基が特に好ましい。ヒドロキシ基と反応してカルボキシル基はカルボン酸エステル結合を、クロロぎ酸エステル基は炭酸エステル結合を、イソシアネート基はウレタン結合を、それぞれ形成する。これらの反応基をはじめ、本開示で言及される反応基を有するリンカー化合物は当業者に多数知られており、市販もされており、また、当業者が通常の知識に基づいて適宜合成することもできる。
は、金属アセン錯体上に結合されたヒドロキシ基に由来する酸素原子である。R~Rのいずれかが水素原子である場合には、Oは、その水素原子とともにヒドロキシ基を形成している。R~Rのいずれかが、ヒドロキシ基と結合を形成することができるリンカー化合物に由来するリンカー基である場合には、Oは、リンカー化合物とともにその結合を形成している。このリンカー基と同一のリンカー構造が、必ずしもヒドロキシ基が関与しない他の反応ルートから形成される可能性を排除するものではなく、構造が同一である限り、そのリンカー構造は本実施形態の範囲に含まれると解されるべきである。
およびRのうちの少なくとも1つは、Oと結合した末端とは別の末端において、送達されるべき薬剤と結合しているリンカー基である。つまり少なくとも1つのリンカー基は、リンカー・薬剤結合体である。RおよびRの両方が、Oと結合した末端とは別の末端において薬剤と結合しているリンカー基であることが好ましい。同様に、R~Rのうちの少なくとも1つは、Oと結合した末端とは別の末端において薬剤と結合しているリンカー基である。好ましくは、R~Rのうちの2つ以上(例えば2つ)、より好ましくは3つ以上、さらに好ましくは4つ全てが、Oと結合した末端とは別の末端において薬剤と結合しているリンカー基であり得る。R~Rのうちの2つが薬剤と結合しているリンカー基である場合には、RおよびRがその2つの薬剤結合リンカー基であることが好ましい。
一実施形態では、Oと結合した末端とは別の末端において薬剤と結合しているリンカー基は、薬剤上のスルフヒドリル基を介して薬剤と結合している。換言すると、リンカー化合物は、スルフヒドリル基と結合を形成することができる基を、金属アセン錯体と結合する末端とは別の末端に有し得る。スルフヒドリル基と結合を形成することができる基の例としては、マレイミド基、ハロアセチル基、およびピリジルジスルフィド基が挙げられるが、これらに限定されない。マレイミド基が特に好ましい。
特定の一実施形態では、R~Rのうち、薬剤と結合したリンカー基であるものは下記式(V)で表される構造を有し、
Figure 0007184282000017
~Rのうち他のものは、水素原子であるか、または下記式(VI)で表される構造を有し、
Figure 0007184282000018
式中、*は上記Oへの結合を表し、Xは結合した上記薬剤であり、Sは上記スルフヒドリル基に由来する硫黄原子である。なお、この例のように薬剤がそのスルフヒドリル(SH)基を介して結合すると、結合前の元の薬剤構造と比べてH原子が失われたかたちとなる。本開示においては、そのH原子を含む結合前の構造も、H原子を失った結合後の構造(すなわち元の(遊離の)薬剤に由来する結合基の構造)も、「薬剤」、「薬剤X」、「X」等と呼び得る。スルフヒドリル基以外の結合様式に関しても同様である。
構造が異なる2種類以上の薬剤Xが金属アセン錯体-薬剤結合体に含まれていてもよい。例えば、R~RまたはR~Rのうち1つ以上が、Xとして第1の薬剤を有し、R~RまたはR~Rのうち別の1つ以上が、Xとして第2の薬剤(例えばL-システイン)を有し得る。R~Rのうち、薬剤と結合したリンカー基以外のものは全て式(VI)で表される基(すなわち、薬剤と結合していないリンカー基)であることが好ましい。この実施形態のためのリンカー化合物は、下記式(VII)で表される構造を有し得る。
Figure 0007184282000019
別の一実施形態では、Oと結合した末端とは別の末端において薬剤と結合しているリンカー基は、薬剤上のアミノ基を介して薬剤と結合している。換言すると、リンカー化合物は、アミノ基と結合を形成することができる基を、金属アセン錯体と結合する末端とは別の末端に有し得る。アミノ基と結合を形成することができる基の例としては、4-ニトロフェノキシ基、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル基、スルホ-NHSエステル基、およびイミドエステル基が挙げられるが、これらに限定されない。4-ニトロフェノキシ基が特に好ましい。
特定の一実施形態では、R~Rのうち、薬剤と結合したリンカー基であるものは下記式(VIII)で表される構造を有し、
Figure 0007184282000020
~Rのうち他のものは、水素原子であるか、または下記式(IX)で表される構造を有し、
Figure 0007184282000021
式中、*はOへの結合を表し、Xは結合した上記薬剤であり、N**は上記アミノ基に由来する窒素原子である。R~Rのうち、薬剤と結合したリンカー基以外のものは全て式(IX)で表される基(すなわち、薬剤と結合していないリンカー基)であることが好ましい。この実施形態のためのリンカー化合物は、下記式(X)で表される構造を有し得る。
Figure 0007184282000022
リンカー基およびリンカー化合物の具体的構造および付随する反応基の具体的種類は、当業者が通常の知識に基づいて、および具体的な送達薬剤に応じて、適宜選択することができる。特に、送達されるべき薬剤とリンカーとを連結する反応基の組合せは、ユーザーが個々のアプリケーションに応じて適宜選択することができる。様々な実施形態においてリンカー化合物として使用され得る化合物の例として、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない:3-マレイミドプロピオン酸、クロロぎ酸4-ニトロフェニル、2-マレイミド酢酸、4-マレイミド酪酸 、5-マレイミドペンタン酸、6-マレイミドヘキサン酸、3-シクロヘキセン-1-カルボン酸、4-メチル-3-シクロヘキセン-1-カルボン酸、4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、5-ノルボルネン-2-カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸、3-シクロペンテン-1-カルボン酸、5-ノルボルネン-2-カルボン酸、19-マレイミド-17-オキソ-4,7,10,13-テトラオキサ-16-アザノナデカン酸。
リンカー化合物において、金属アセン錯体上のヒドロキシ基と結合する基と、薬剤と結合する基とは、互いに直接結合しているか、または、両基の間に典型的には20オングストローム以下、好ましくは10オングストローム以下のスペーサーが存在し得る。スペーサーとしては様々な構造が当業者に知られており、これらは炭化水素鎖に基づくものであって、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等の非炭素原子を任意で含むこともできる。
薬剤は、典型的には何らかの薬理活性を有する薬物である。しかしながら、プロドラッグのように送達後に何らかの追加的な処理またはプロセシングを受けて初めて薬理活性を獲得する分子や、単に体内追跡検出のみを目的とする放射性物質や蛍光物質も本実施形態における薬剤となり得る。従って本実施形態において薬剤の薬理活性の存在は必須ではない。薬剤の例としては、ポリペプチド、ペプチド、酵素、抗体、抗原、オリゴヌクレオチド、核酸、放射性分子、蛍光分子、抗生物質、麻酔薬、およびその他の医薬化合物が挙げられるが、これらに限定されない。本実施形態の薬剤は、非抗腫瘍薬であることが好ましい。すなわち、本実施形態の薬剤は、癌組織/腫瘍組織を殺すあるいはその増殖を阻止する用途の薬でないことが好ましい。本実施形態の薬剤は、それ自体、低細胞毒性または無細胞毒性であることが好ましい。従って、金属アセン錯体、リンカー、および薬剤を含む金属アセン錯体-薬剤結合体全体として低細胞毒性または無細胞毒性となることが好ましい。
リンカーに結合する前の状態でスルフヒドリル基またはその誘導体を有する薬剤が好適である。例として、ペニシラミン、カプトプリル、チアマゾール、チオプロニン、グルタチオン、システイン(特に、L-システイン)、アセチルシステイン、メチルシステイン、エチルシステイン、ならびにシステイン残基を含むあらゆるペプチドおよびポリペプチド(例えばパパイン)が挙げられる。リンカーに結合する前の状態でアミノ基またはその誘導体を有する薬剤も好適である。例として、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、メピバカイン、ジブカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、レボブピバカイン、ベンジルペニシリン、アモキシシリン、ピペラシリン、セフカペンピボキシル、セフジトレンピボキシル、セフジニル、セフェビム、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、トスフロキサシン、ガレノキサシン、ペニシラミン、サラゾスルファピリジン、ブシラミン、ロベンザリット、メトトレキサート、ミゾリビン、レフルノミド、アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン、エテンザミド、ロルノキシカム、メロキシカム、アセトアミノフェン、エトドラク、セレコキシブ、トラスツズマブ、カルムスチン、チアマゾール、チオプロニン、グルタチオン、システイン、アセチルシステイン、メチルシステイン、エチルシステイン、シスチン、セファロスポリン、スルファジメトキシン、スルファモノメトキシン、スルフイソキサゾール、スルファドキシン、スルファメトキサゾール、スルファジアジン、スルファクロルピリダジンナトリウム、スルファメラジンナトリウム、ザナミビル、オセルタミビル、エテンザミド、ジクロフェナク、ブロメライン、カテプシン、カスパーゼ、カルパイン、イブリツモマブ、ボルテゾミブ、リツキシマブ、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、オシメルチニブ、ダサチニブ、ボスチニブ、バンデタニブ、アキシチニブ、パゾパニブ、レンバチニブ、ラパチニブ、ニンテダニブ、ニロチニブ、クリゾチニブ、セリチニブ、ソラフェニブ、トラメチニブ、ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、ペリンドプリル、デラプリル、エナラプリル、ベナゼプリル、イミダプリル、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、グリメピリド、ナテグリニド、アカルボース、ボグリボース、メトホルミン、ブホルミン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン、リナグリプチン、アナグリプチン、エキセナチド、リキシセナチド、レパグリニド、ならびにペプチドおよびポリペプチドが挙げられる。
薬剤の分子量は、200,000以下であることが好ましく、30,000以下であることがより好ましく、5,000以下であることがさらに好ましく、1,000以下であることが特に好ましい。
上記各実施形態の組成物は、磁性担体としてのハロゲン化金属アセン錯体または金属アセン錯体二量体および送達される薬剤の他に、薬学的に許容される他成分を含み得る。その例としては、水、リポソーム脂質層、および/または薬学的に許容される賦形剤が挙げられるがこれらに限定されない。含まれ得る他成分のさらなる具体例としては、アルコール(例えばエタノールおよび/またはイソプロパノール)、グリセリン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、セルロース、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、デンプン、デキストリン、糖(例えばスクロース、ラクトース、およびグルコースから選択される1種以上)、糖アルコール、ステアリン酸マグネシウム、シリカ、タルク、鉱油、油脂、脂肪酸、着色剤、着香剤、甘味剤、および保存剤が挙げられるがこれらに限定されない。本実施形態の組成物は、ハロゲン化金属アセン錯体または金属アセン錯体二量体の他に磁性担体を含まないことが好ましい。
以下、実施例を示して実施形態をさらに具体的に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されない。
[磁性測定]
図1aは、超伝導量子干渉磁束計(Superconducting quantum interference device: SQUID)カンタム・デザイン社MPMSを用いて行った鉄アセン錯体二量体(acacen)の磁性特性評価の結果を示す。対応する鉄サレン錯体二量体(salen)から得られた結果も比較のために示している。下記に鉄アセン錯体二量体(左)と鉄サレン錯体二量体(右)の構造を示す。
Figure 0007184282000023
図1aより、鉄アセン錯体二量体は、5Kという低温では特に強い飽和磁化率を示し、また、310Kにおいても、常磁性ではあるが、鉄サレン錯体二量体よりも著しく高い磁化率を有していることがわかる。
図1bは、上記と同じ測定法で、下記構造を有する塩化鉄アセン錯体の磁性特性を評価した結果を示す。
Figure 0007184282000024
図1aと比較して図1bを参照すると(縦軸のスケールの違いに注意)、塩化鉄アセン錯体は、鉄アセン錯体二量体よりさらに上回り、鉄サレン錯体二量体をはるかに凌駕する著しく高い磁化率を有していることがわかる。
[細胞毒性評価]
ヒト卵巣癌細胞株であるOVK18細胞を、1.0×10細胞/ウェルの細胞密度になるよう96ウェルプレートに播種した(n=4)。37℃、5%COの標準的な条件下で2時間培養したのち、上記と同じ鉄サレン錯体二量体、鉄アセン錯体二量体、および塩化鉄アセン錯体を、2.5mg/L、5mg/L、または10mg/Lになるように細胞に投与した。その17時間後、生細胞を定量化するためのXTTアッセイキット(ATCC社、型番30-1011K)のactivation reagentを1/50 加えたXTT試薬を、ウェルあたり50μL加えた。さらに2時間培養した後、プレートリーダーで、490~655nmの範囲における吸光度を測定した。なお、OVK18細胞の倍加時間は約48時間である。
結果を図2に示す。細胞生存率は、非投与対照における生細胞数を100%として求められる生細胞数のパーセンテージである。鉄サレン錯体を投与したサンプルでは、いずれの投与量においても、生理食塩水のみを加えた非投与対照(Control)と比較して細胞生存率が20%を下回るという、高い抗腫瘍効果(細胞致死効果)が確認された。それに対し、鉄アセン錯体二量体の抗腫瘍効果は著しく低く、2.5mg/Lの投与量では50%を上回る細胞生存率が維持された。塩化鉄アセン錯体を投与した場合の細胞生存率はさらに高く、いずれの投与量においても80%超の細胞生存率が維持されており、塩化鉄アセン錯体は実質的に抗腫瘍効果を有さないことが示された。このように、抗腫瘍剤として従来知られてきた金属錯体とは異なり、鉄アセン錯体二量体および塩化鉄アセン錯体は低細胞毒性ないし無細胞毒性であることが明らかになった。
[合成例1]
ハロゲン化金属アセン錯体の合成は以下のスキームに従って行うことができる。塩化鉄アセン錯体の合成は、Bull. Chem. Soc. Jpn., 50(1), 119-122 (1977)にも記述されている。
Figure 0007184282000025
10mL二口フラスコに、撹拌子とアセチルアセトン(acetylacetone)(40mmol)を入れ、撹拌しながらエチレンジアミン(ethylenediamine )(20mmol)を滴下し、しばらく室温で撹拌する。ヘキサンで洗い流しながら吸引ろ過をし、残渣を減圧乾燥させて、アセン配位子(H2 acacen ligand)を収率約99%で得る。
200mL二口フラスコに撹拌子と上記アセン配位子(1.1g、0.005mol)を入れ、一方の口を真空窒素ラインに接続し、もう一方はラバーセプタムでふたをし、 減圧窒素置換を行う。撹拌しながら脱水メタノール(methanol)40mLを加えて溶解し、さらに、無水FeCl(0.8g、0.005mol)を脱水メタノール40mLに溶解させた溶液を室温で加える。ここにトリエチルアミン(triethylamine)(1.4mL、0.01mol)を加える。これを60℃で10分間加熱し、その後室温で一晩静置する。得られた結晶を冷却メタノールで洗い流しながら吸引ろ過を行い、収率約50%で塩化鉄アセン錯体(Fe(acacen)Cl)を得る。このスキームに従いながら、金属錯体中の金属原子およびハロゲン原子の種類は、当業者の通常の知識に基づいて適宜変更することができる。
[合成例2]
金属アセン錯体二量体の合成は以下のスキームに従って行うことができる。
Figure 0007184282000026
上記のようにして得た塩化鉄アセン錯体(0.16g、0.5mmol)をジクロロメタン(CHCl)10mLに溶解し紫色の溶液を得る。続いて0.5mol/LのKOH水溶液を、得られた溶液へ水層が紫色から橙色に変化するまで加える。反応溶液を減圧して有機層を濃縮し、冷蔵庫に一晩静置する。析出物をヘキサンで洗い流しながら吸引ろ過し、減圧乾燥して、ジクロロメタンを含む鉄アセン錯体二量体結晶を約0.20g得る。
[元素分析および粉末X線測定]
上記スキームに従って合成した塩化鉄アセン錯体および鉄アセン錯体二量体の元素分析を行った結果を、対応する理論値とともに下表に示す。
Figure 0007184282000027
また、得られた塩化鉄アセン錯体および鉄アセン錯体二量体の粉末X線測定結果を、対応する計算値(calc)とともに図3に示す。測定線源としてはCo線源を用いた。
これらの結果により、塩化鉄アセン錯体および鉄アセン錯体二量体が合成されたことが確認された。
[合成例3]
リンカー基および薬剤が結合されたハロゲン化金属アセン錯体の合成は以下のスキームに従って行うことができる。
ステップ1:
まず、F. Davis et al., J. Am. Chem. Soc., 112, 6679-6690 (1990)に記述されたいわゆるDavis酸化反応によって、化合物1のケトンのα位にヒドロキシ基を導入する。化合物1に、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドのTHF(テトラヒドロフラン)溶液(0.6mL、1M)を加える。0.5mmolの化合物1を0.3mLのTHFに溶解させた溶液を滴下し、30分間撹拌する。さらに、187mg(0.75mmol)の(+)-(カンファリルスルホニル)オキサジリジンを3mLのTHFに溶解させた溶液を滴下する。15分後、-78℃で3mLの飽和NHI水溶液、および10mLのジエチルエーテルを加えて反応を終了し、室温に戻す。有機層を飽和Naおよび飽和NaCl水溶液で洗浄し、無水MgSOで乾燥後、吸引ろ過する。得られた混合物にペンタンを加えて吸引ろ過し、副生成物のカンファースルホンイミンを除去する。フラッシュクロマトグラフィーにて精製し、化合物2を得る。
Figure 0007184282000028
Figure 0007184282000029
リンカー化合物である化合物3は、Tetrahedron 63 (2007) 6404-6414に記載の通り取得することができる。
Figure 0007184282000030
ステップ2:
ステップ2以降の手順は、従来サレン錯体で使用されてきたものと本質的に同様である。Tetrahedron 63 (2007) 6404-6414の記載に従って、リンカー基の結合を行う。まず、THF(20mL)にN,N-ジメチルアミノピリジンを0.1M溶かした溶液を調製する。この溶液に、化合物2(99.4mg、0.338mmol)と化合物3(121.9mg、0.721mmol)と、脱水縮合剤のジイソプロピルカーボジイミド(170μmol)と、NaHCO(75mg、0.89mmol)を入れ室温で2時間撹拌する。反応溶液を濃縮して得られた液体を、エチルアセテート(酢酸エチル)とヘキサンの1:1混合溶媒を展開溶媒として用い、シリカゲル(20g)によるカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物4を得る。
Figure 0007184282000031
ステップ3:
Bull. Chem. Soc. Jpn., 50(1), 119-122(1977)等に記載されているように、塩化鉄錯体を調製する。200mL二口フラスコに撹拌子と化合物4(2792.7mg、5mmol)を入れ、減圧窒素置換を行う。撹拌しながら脱水メタノール40mLを加え、溶解し、さらに、脱水メタノール40mLに無水FeCl(0.8g、0.005mol)を溶解させた溶液を室温で加える。ここにトリエチルアミン(1.4mL、10mmol)を加える。これを60℃で10分間加熱し、その後室温で一晩静置する。得られた結晶を冷却メタノールで洗い流しながら吸引ろ過を行い、化合物5を得る。
Figure 0007184282000032
ステップ4:
Tetrahedron 63 (2007) 6404-6414に記載された常法に従い、化合物5のリンカー基に、スルフヒドリル基を有する薬剤を結合させる。この例では、薬剤Xとしてのタンパク質(シグマアルドリッチ社から購入したパパイン凍結乾燥物、10mg)とL-システイン(10mg)を水(HO、1mL)に入れて30分間撹拌する。その後、リン酸緩衝液(300μL、1M、pH=7.01)を加えて撹拌する。そして、撹拌から6時間後、リンカー基の少なくとも1つにパパイン(X)が結合した化合物6が取得される。
Figure 0007184282000033
[合成例4]
リンカー基および薬剤が結合された金属アセン錯体二量体の合成は以下のスキームに従って行うことができる。
ステップ4’:
上記の化合物5(324.9mg、5mmol)をジクロロメタン(10mL)に溶解し、続いて0.5mol/LのKOHを1mL加え、撹拌する。反応溶液を濃縮し、冷蔵庫に一晩静置する。析出物をヘキサンで洗い流しながら吸引ろ過する。得られた固体をジクロロメタンに溶解し、ヘキサンを加えて再結晶させる。吸引ろ過して減圧乾燥することで、化合物7を得る。
Figure 0007184282000034
化合物7と、薬剤Xとしてのタンパク質(シグマアルドリッチ社から購入したパパイン凍結乾燥物、10mg)とL-システイン(10mg)を水(HO、1mL)に入れて30分間撹拌する。その後、リン酸緩衝液(300μL、1M、pH=7.01)を加えて撹拌する。そして、撹拌から6時間後、リンカー基の少なくとも1つにパパイン(X)が結合した化合物8が取得される。
Figure 0007184282000035
合成例3および4において、リンカー化合物の具体的構造(例えば鎖長)、アセン構造および薬剤とそれぞれ結合を形成する反応基の種類、ならびに薬剤Xの種類は、具体的なアプリケーションに応じて、当業者が通常の知識に基づいて適宜変更することができる。同様に、金属錯体中の金属原子およびハロゲン原子の種類も、当業者が通常の知識に基づいて適宜変更することができる。
例えば、非特許文献2におけるアミノ化サレン錯体のアミノ基とパクリタキセルのヒドロキシ基との連結反応のように、クロロぎ酸4-ニトロフェニルを上記化合物3の代わりにリンカー化合物として用いることができる。この場合、一方の末端においてクロロぎ酸エステル基がアセン錯体上のヒドロキシ基と炭酸エステル結合を形成し、それから他方の末端が薬剤上のアミノ基と反応してウレタン結合を形成する。また、使用される具体的構造によっては、事前に薬剤とリンカー基を結合させて、次にそれをアセン錯体に結合させるという反応順序もあり得る。
[合成例5]
上記の化合物2は、Angew. Chem. Int. Ed. 53, 548-552 (2014)に記述された反応を以下のように利用して取得することもできる。
ステップ1’:
上記の化合物1(112mg、0.5mmol)に、CsCO(0.1mmol)、P(OEt)(1.0mmol)、およびDMSO(2mL)を加え、酸素雰囲気下(常圧)、室温で48時間撹拌し、化合物2を得る。
[合成例6]
上記の化合物2は、Bull. Chem. Soc. Jpn., 51(1), 335-336 (1978)に記述された反応を以下のように利用して取得することもできる。
ステップ1’’:
アセチルアセトン(6.007g、0.06mol)を酢酸(50mL)と無水酢酸(5mL)の混合溶液に溶解し、30℃で撹拌する。5mLの硫酸を加え、温度が30℃に保たれるように30分間隔で(ジアセトキシヨード)ベンゼンを2gずつ加える(総量0.05mol)。30℃で6時間撹拌後、100mLの水で3回抽出し、抽出物を濃縮する。臭化カリウムを濃縮液に添加し、ジアリルヨードニウム塩の白色結晶を沈殿させる。100mLのクロロホルムまたはジエチルエーテルで3回抽出し、減圧下で濃縮する。濃縮液を減圧下で蒸留し、化合物9を得る。
Figure 0007184282000036
10mL二口フラスコに撹拌子と化合物9(6.326g、0.04mol)を入れ、撹拌しながらエチレンジアミン(1.20g、0.02mol)を滴下し、しばらく室温で撹拌する。ヘキサンで洗い流しながら吸引ろ過し、残渣を減圧乾燥させ化合物10を得る。
Figure 0007184282000037
化合物10をエタノールに溶解し、NaOH水溶液を加えて撹拌する。酸水溶液で中和し、上記化合物2を得る。
本開示の実施形態は、医学、獣医学、医薬、および生物医学的研究の分野で有用となり得る。

Claims (9)

  1. 標的組織を生存させながら前記標的組織に薬剤を送達するための薬剤送達システム組成物であって、
    下記式(I):
    Figure 0007184282000038
    または下記式(II):
    Figure 0007184282000039
    で表される金属アセン錯体構造を磁性担体として含み、式中、Aはハロゲン化物イオンであり、MはFe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、およびGdからなる群より選択される金属イオンである、
    組成物。
  2. 前記MはFe、Mn、Cr、またはCである、請求項1に記載の組成物。
  3. 標的組織を生存させながら前記標的組織に薬剤を送達するための薬剤送達システム組成物であって、
    下記式(I’)
    Figure 0007184282000040
    または下記式(II’)
    Figure 0007184282000041
    で表される部分構造を有する化合物を含み、式中、波線は結合点であり、Aはハロゲン化物イオンであり、MはFe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、およびGdからなる群より選択される金属イオンである、
    組成物。
  4. 下記式(III):
    Figure 0007184282000042
    または下記式(IV):
    Figure 0007184282000043
    で表される金属アセン錯体-薬剤結合体を含み、式中、
    Aはハロゲン化物イオンであり、
    MはFe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、およびGdからなる群より選択される金属イオンであり、
    ~Rはそれぞれ、水素原子であるか、または、ヒドロキシ基と結合を形成することができる基を有するリンカー化合物に由来するリンカー基であり、
    は前記金属アセン錯体上のヒドロキシ基に由来する酸素原子であって、前記水素原子とともにヒドロキシ基を形成しているか、または前記リンカー化合物と前記結合を形成しており、
    およびRのうちの少なくとも1つ、ならびにR~Rのうちの少なくとも1つは、前記Oと結合した末端とは別の末端において前記薬剤と結合しているリンカー基である、
    請求項3に記載の組成物。
  5. 前記MはFe、Mn、Cr、またはCである、請求項3または4に記載の組成物。
  6. 前記Oと結合した末端とは別の末端において前記薬剤と結合しているリンカー基は、前記薬剤上のスルフヒドリル基を介して前記薬剤と結合している、請求項4に記載の組成物。
  7. 前記R~Rのうち、前記薬剤と結合しているリンカー基であるものは下記式(V)で表される構造を有し、
    Figure 0007184282000044
    前記R~Rのうち他のものは、水素原子であるか、または下記式(VI)で表されるリンカー基の構造を有し、
    Figure 0007184282000045
    式中、*は前記Oへの結合を表し、Xは結合した前記薬剤であり、Sは前記スルフヒドリル基に由来する硫黄原子である、
    請求項6に記載の組成物。
  8. 前記Oと結合した末端とは別の末端において前記薬剤と結合しているリンカー基は、前記薬剤上のアミノ基を介して前記薬剤と結合している、請求項4に記載の組成物。
  9. 前記R~Rのうち、前記薬剤と結合しているリンカー基であるものは下記式(VIII)で表される構造を有し、
    Figure 0007184282000046
    前記R~Rのうち他のものは、水素原子であるか、または下記式(IX)で表されるリンカー基の構造を有し、
    Figure 0007184282000047
    式中、*は前記Oへの結合を表し、Xは結合した前記薬剤であり、N**は前記アミノ基に由来する窒素原子である、
    請求項8に記載の組成物。
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