以下、本発明による操舵制御装置を図面に基づいて説明する。以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
第1実施形態を図1~図16に示す。図1に示すように、本実施形態の操舵制御装置としてのEPS-ECU10は、回転電機としてのモータ80とともに、車両のステアリング操作を補助するための電動パワーステアリング装置8に適用される。以下、EPS-ECU10を、適宜単にECU10という。図1は、電動パワーステアリング装置8を備えるステアリングシステム90の全体構成を示すものである。ステアリングシステム90は、操舵部材であるステアリングホイール91、ステアリングシャフト92、ピニオンギア96、ラック軸97、車輪98、および、電動パワーステアリング装置8等を備える。
ステアリングホイール91は、ステアリングシャフト92と接続される。ステアリングシャフト92には、操舵トルクTsを検出するトルクセンサ94が設けられる。ステアリングシャフト92の先端には、ピニオンギア96が設けられる。ピニオンギア96は、ラック軸97に噛み合っている。ラック軸97の両端には、タイロッド等を介して一対の車輪98が連結される。
手動操舵モードでは、運転者がステアリングホイール91を回転させると、ステアリングホイール91に接続されたステアリングシャフト92が回転する。ステアリングシャフト92の回転運動は、ピニオンギア96によってラック軸97の直線運動に変換される。一対の車輪98は、ラック軸97の変位量に応じた角度に操舵される。自動操舵モードでは、運転者によるステアリングホイール91の操作によらず、モータ80の駆動力にて、車輪98の操舵量を制御可能である。
電動パワーステアリング装置8は、モータ80およびECU10を有する駆動装置40、ならびに、モータ80の回転を減速してステアリングシャフト92に伝える動力伝達部である減速ギア89等を備える。本実施形態の電動パワーステアリング装置8は、所謂「コラムアシストタイプ」であるが、モータ80の回転をラック軸97に伝える所謂「ラックアシストタイプ」等としてもよい。本実施形態では、ステアリングシャフト92が「駆動対象」に対応する。
モータ80は、操舵に要するトルクの一部または全部を出力するものであって、電源としてのバッテリ191、291(図6参照)から電力が供給されることにより駆動され、減速ギア89を正逆回転させる。モータ80は、3相ブラシレスモータであって、ロータ860およびステータ840を有する(図4参照)。
図2に示すように、モータ80は、巻線組としての第1モータ巻線180および第2モータ巻線280を有する。第1モータ巻線180は、U1コイル181、V1コイル182およびW1コイル183を有する。第2モータ巻線280は、U2コイル281、V2コイル282およびW2コイル283を有する。図中、第1モータ巻線180を「モータ巻線1」、第2モータ巻線280を「モータ巻線2」とする。後述の他の構成についても、図中適宜、「第1」を添え字の「1」、「第2」を添え字の「2」として記載する。
図2に示すように、第1モータ巻線180および第2モータ巻線280は、電気的特性が同等であり、例えば特許第5672278号公報の図3に参照されるように、共通のステータ840に互いに電気角30[deg]ずらして、キャンセル巻きされる。これに応じて、モータ巻線180、280には、位相φが30[deg]ずれた相電流が通電されるように制御される(図3参照)。図3では、第1系統のU相電圧Vu1および第2系統のU相電圧Vu2を例示した。通電位相差を最適化することで、出力トルクが向上する。また、通電位相差を電気角30[deg]とすることで、6次のトルクリプルを低減することができる(式(i)参照)。
sin6(ωt)+sin6(ωt+30)=0 ・・・(i)
位相差通電により、電流が平均化されるため、騒音、振動のキャンセルメリットを最大化することができる。また、発熱についても平均化されるため、各センサの検出値やトルク等、温度依存の系統間誤差を低減可能であるとともに、通電可能な電流量を平均化できる。以下適宜、騒音および振動を「NV」という。
以下、第1モータ巻線180の駆動制御に係る第1インバータ回路120および第1制御部130等の組み合わせを第1系統L1、第2モータ巻線280の駆動制御に係る第2インバータ回路220および第2制御部230等の組み合わせを第2系統L2とする。本実施形態では、インバータ回路120、220が「駆動回路」に対応する。また、第1系統L1に係る構成を主に100番台で符番し、第2系統L2に係る構成を主に200番台で符番する。また、第1系統L1および第2系統L2において、同様の構成には、下2桁が同じとなるように符番する。
駆動装置40の構成を図4および図5に基づいて説明する。本実施形態の駆動装置40は、モータ80の軸方向の一方側にECU10が一体的に設けられており、いわゆる「機電一体型」であるが、モータ80とECU10とは別途に設けられていてもよい。ECU10は、モータ80の出力軸とは反対側において、シャフト870の軸Axに対して同軸に配置されている。ECU10は、モータ80の出力軸側に設けられていてもよい。機電一体型とすることで、搭載スペースに制約のある車両において、ECU10とモータ80とを効率的に配置することができる。
モータ80は、ステータ840、ロータ860、および、これらを収容するハウジング830等を備える。ステータ840は、ハウジング830に固定されており、モータ巻線180、280が巻回される。ロータ860は、ステータ840の径方向内側に設けられ、ステータ840に対して相対回転可能に設けられる。
シャフト870は、ロータ860に嵌入され、ロータ860と一体に回転する。シャフト870は、軸受835、836により、ハウジング830に回転可能に支持される。シャフト870のECU10側の端部は、ハウジング830からECU10側に突出する。シャフト870のECU10側の端部には、マグネット875が設けられる。
ハウジング830は、リアフレームエンド837を含む有底筒状のケース834、および、ケース834の開口側に設けられるフロントフレームエンド838を有する。ケース834とフロントフレームエンド838とは、ボルト等により互いに締結されている。リアフレームエンド837には、リード線挿通孔839が形成される。リード線挿通孔839には、モータ巻線180、280の各相と接続されるリード線185、285が挿通される。リード線185、285は、リード線挿通孔839からECU10側に取り出され、基板470に接続される。
ECU10は、カバー460、カバー460に固定されているヒートシンク465、ヒートシンク465に固定されている基板470、および、基板470に実装される各種の電子部品等を備える。
カバー460は、外部の衝撃から電子部品を保護したり、ECU10の内部への埃や水等の浸入を防止したりする。カバー460は、カバー本体461、および、コネクタ部462が一体に形成される。なお、コネクタ部462は、カバー本体461と別体であってもよい。コネクタ部462の端子463は、図示しない配線等を経由して基板470と接続される。コネクタ数および端子数は、信号数等に応じて適宜変更可能である。コネクタ部462は、駆動装置40の軸方向の端部に設けられ、モータ80と反対側に開口する。コネクタ部462は、後述する各コネクタを含む。
基板470は、例えばプリント基板であり、リアフレームエンド837と対向して設けられる。基板470には、2系統分の電子部品が系統ごとに独立して実装されており、完全冗長構成をなしている。本実施形態では、1枚の基板470に電子部品が実装されているが、複数枚の基板に電子部品を実装するようにしてもよい。
基板470の2つの主面のうち、モータ80側の面をモータ面471、モータ80と反対側の面をカバー面472とする。図5に示すように、モータ面471には、インバータ回路120を構成するスイッチング素子121、インバータ回路220を構成するスイッチング素子221、回転角センサ126、226、カスタムIC159、259等が実装される。回転角センサ126、226は、マグネット875の回転に伴う磁界の変化を検出可能なように、マグネット875と対向する箇所に実装される。
カバー面472には、コンデンサ128、228、インダクタ129、229、および、制御部130、230を構成するマイコン等が実装される。図5では、制御部130、230を構成するマイコンについて、それぞれ「130」、「230」を付番した。コンデンサ128、228は、バッテリ191、291(図6参照)から入力された電力を平滑化する。また、コンデンサ128、228は、電荷を蓄えることで、モータ80への電力供給を補助する。コンデンサ128、228、および、インダクタ129、229は、フィルタ回路を構成し、バッテリ191、291を共用する他の装置から伝わるノイズを低減するとともに、駆動装置40からバッテリ191、291を共用する他の装置に伝わるノイズを低減する。なお、図5中には図示を省略しているが、電源回路116、216、モータリレー、および、電流センサ125、225等についても、モータ面471またはカバー面472に実装される。
図6に示すように、ECU10は、インバータ回路120、220、および、制御部130、230等を備える。ECU10には、第1電源コネクタ111、第1トルクコネクタ113、第2電源コネクタ211、および、第2トルクコネクタ213が設けられる。
第1電源コネクタ111は、第1バッテリ191に接続され、第2電源コネクタ211は、第2バッテリ291に接続される。第1バッテリ191には、第1オルタネータ193が接続され、第2バッテリ291には、第2オルタネータ293が接続される。第1電源コネクタ111は、第1電源回路116を経由して、第1インバータ回路120と接続される。第2電源コネクタ211は、第2電源回路216を経由して、第2インバータ回路220と接続される。電源回路116、216は、例えば電源リレーである。
トルクコネクタ113、213は、トルクセンサ94と接続される。詳細には、第1トルクコネクタ113は、トルクセンサ94の第1センサ部194と接続される。第2トルクコネクタ213は、トルクセンサ94に第2センサ部294と接続される。図6では、第1センサ部194を「トルクセンサ1」、第2センサ部294を「トルクセンサ2」と記載した。
第1制御部130は、トルクコネクタ113およびトルクセンサ入力回路118を経由して、トルクセンサ94の第1センサ部194から操舵トルクTsに係るトルク信号を取得可能である。第2制御部230は、トルクコネクタ213およびトルクセンサ入力回路218を経由して、トルクセンサ94の第2センサ部294から操舵トルクTsに係るトルク信号を取得可能である。これにより、制御部130、230は、トルク信号に基づき、操舵トルクTsを演算可能である。
第1インバータ回路120は、スイッチング素子121を有する3相インバータであって、第1モータ巻線180へ供給される電力を変換する。スイッチング素子121は、第1制御部130から出力される制御信号に基づいてオンオフ作動が制御される。
第2インバータ回路220は、スイッチング素子221を有する3相インバータであって、第2モータ巻線280へ供給される電力を変換する。スイッチング素子221は、第2制御部230から出力される制御信号に基づいてオンオフ作動が制御される。
第1電流センサ125は、第1モータ巻線180の各相に通電される第1U相電流Iu1、第1V相電流Iv1、および、第1W相電流Iw1を検出し、検出値を第1制御部130に出力する。第2電流センサ225は、第2モータ巻線280の各相に通電される第2U相電流Iu2、第2V相電流Iv2、および、第2W相電流Iw2を検出し、検出値を第2制御部230に出力する。
以下、U相電流、V相電流およびW相電流を、適宜まとめて「相電流」または「巻線電流」とする。また、d軸電流およびq軸電流を、適宜まとめて「dq軸電流」とする。電圧についても同様とする。
第1回転角センサ126は、モータ80の回転角を検出し、第1制御部130に出力する。第2回転角センサ226は、モータ80の回転角を検出し、第2制御部230に出力する。
第1温度センサ127は、例えば第1インバータ回路120が設けられている領域に配置され、第1系統L1に係るベース温度H1を検出する。第2温度センサ227は、例えば第2インバータ回路220が設けられている領域に配置され、第2系統L2に係る温度B2を検出する。ベース温度H1は、例えば第1インバータ回路120が設けられる領域のヒートシンク温度であり、ベース温度H2は、例えば第2インバータ回路220が設けられる領域のヒートシンク温度である。
第1電源電圧センサ117は、第1電源回路116と第1インバータ回路120との間に設けられ、第1バッテリ191から印加されるバッテリ電圧Vb1を検出する。第2電源電圧センサ217は、第2電源回路216と第2インバータ回路220との間に設けられ、第2バッテリ291から印加されるバッテリ電圧Vb2を検出する。
第1制御部130には、第1電源コネクタ111および図示しないレギュレータ等を経由して給電される。第2制御部230には、第2電源コネクタ211および図示しないレギュレータ等を経由して給電される。第1制御部130および第2制御部230は、通信部170、270(図7参照)を有しており、制御部130、230間にて相互に通信可能に設けられる。以下適宜、制御部130、230間の通信を、「マイコン間通信」という。制御部130、230間の通信方法は、SPIやSENT等のシリアル通信や、CAN(Controller Area Network)通信、FlexRay通信等、どのような方法を用いてもよい。
図7に示すように、制御部130、230は、CAN等である車両通信網16を経由して、自動運転ECU15と接続されている。図中、自動運転ECU15を「ADS-ECU」と記載する。自動運転ECU15は、自動運転制御を司る。図7では、制御部130、230が共に自動運転ECU15と接続されており、分岐箇所がEPS-ECU10の外部であるが、EPS-ECU10の内部にて分岐していてもよい。また、制御部130、230の一方が自動運転ECU15と通信可能であり、他方は、自動運転ECU15と接続されている側の制御部から、マイコン間通信等により情報を授受するようにしてもよい。また、制御部130、230は、車速VS等の車両の挙動に係る各種情報を車両通信網16から取得可能である。
制御部130、230は、マイコン等を主体として構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。制御部130、230における各処理は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
第1制御部130は、第1個別電流制限値演算部131、第1電流制限部135、第1制御信号演算部140、および、第1通信部170等を備える。第2制御部230は、第2個別電流制限値演算部231、第2電流制限部235、第2制御信号演算部240、および、第2通信部270等を備える。第2制御部230における各処理は、第1系統L1に係る値に替えて第2系統L2に係る値を用い、第2系統L2に係る値に替えて第1系統L1に係る値を用いれば、第1制御部130と同様であるので、以下、第1制御部130における処理を中心に説明し、第2制御部230の説明は適宜省略する。
個別電流制限値演算部131は、第1個別電流制限値Ilim_k1を演算する。個別電流制限値演算部131は、例えば、過熱保護電流制限値、電源電圧基準電流制限値、操舵速度基準電流制限値、および、電流差低減電流制限値を演算し、演算された値のうち、最も小さい値を第1個別電流制限値Ilim_k1とする。過熱保護電流制限値は、相電流Iu1、Iv1、Iw2、およびベース温度H1等に基づいて演算される。電源電圧基準電流制限値は、バッテリ電圧Vb1に基づいて演算される。操舵速度基準電流制限値は、操舵角速度ωに応じて演算される。電流差低減電流制限値は、第1系統L1の巻線電流I1および第2系統L2の巻線電流I2に基づいて演算される。第1個別電流制限値Ilim_k1は、通信部170を経由して第2制御部230に送信される。また、第2個別電流制限値演算部231にて演算された第2個別電流制限値Ilim_k2は、通信部270を経由して第1制御部130に送信される。
個別電流制限値演算部131における各制限値の演算は、制御モードによらず同様であってもよいし、制御モードに応じて異なるマップや演算式を用いてもよい。例えば、後述のADSモードのとき、EPSモードよりも制限値が低くなるように演算することで、系統間の電流差を減らす、といった具合である。
電流制限部135は、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2、および、運転モードの切替状況等に応じ、電流制限値Ilim1を演算する。同様に、電流制限部235は、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2、および、運転モードの切替状況等に応じ、電流制限値Ilim2を演算する。
本実施形態では、運転モードの切替状況に応じ、無制限ミニマムセレクト、または、制限付きミニマムセレクトにて、系統間で電流制限値を調停する。無制限ミニマムセレクトの場合、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2のうち、小さい方の値を電流制限値Ilim1、Ilim2とし、電流制限値を常時共有する。
制限付きミニマムセレクトの場合、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2がともに共有判定値Ilim_th以上のとき、小さい方の値を電流制限値Ilim1、Ilim2とし、電流制限値を共有する。一方、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2の少なくとも一方が共有判定値Ilim_th未満のとき、第1個別電流制限値Ilim_k1を第1電流制限値Ilim1、第2個別電流制限値Ilim_k2を第2電流制限値Ilim2とし、電流制限値を非共有とする。共有判定値Ilim_thは、任意に設定可能であって、例えば定格電流の50%である。
なお、共有判定値Ilim_th=0とすれば、無制限ミニマムセレクトと同様に制御可能である。換言すると、無制限ミニマムセレクトと制限付きミニマムセレクトとは、共有判定値Ilim_thが異なっており、制限付きミニマムセレクトは、無制限ミニマムセレクトよりも共有判定値Ilim_thが大きい、と捉えることもできる。
電流制限部135は、トルク指令値から換算される基本電流指令値Ib1*が電流制限値Ilim1より大きい場合、電流指令値I1*を電流制限値Ilim1に制限する。基本電流指令値Ib1*が電流制限値Ilim1以下の場合、基本電流指令値Ib1*をそのまま電流指令値I1*とする。同様に、第2制御部230では、トルク指令値から基本電流指令値Ib2*を演算可能である。電流制限部235では、基本電流指令値Ib1*、Ib2*のいずれかを用い、電流指令値I2*を演算する。電流指令値Ib1*、I1*、Ib2*、I2*は、モータ巻線180、280の電流和に係る値であって、後述の図8等では、q軸に係る値とする。
制御信号演算部140は、電流指令値I1*に基づき、電流フィードバック制御により制御信号を生成し、インバータ回路120に出力する。以下適宜、フィードバックを「FB」と記載する。制御信号演算部140は、和と差のFB制御と、独立FB制御とを切り替え可能である。和と差のFB制御を図8、独立FB制御を図9に示す。図8および図9では、q軸に係る演算を中心に説明し、d軸に係る演算は、q軸と同様であるので説明および図示を適宜省略する。図8では、便宜上、通信部170、270を2つに分けて記載した。図9では、演算が行われない構成の記載を省略した。なお、図8および図9は、和と差のFB制御および独立FB制御の一例であって、実現手法の詳細は異なっていてもよい。後述の図21も同様である。
図8に示すように、制御信号演算部140は、dq軸電流演算部141、加算器142、減算器143、切替部145、電流FB演算部150、系統電圧指令値演算部157、および、PWM信号生成部158等を有する。
dq軸電流演算部141は、電流センサ125(図8では省略)の検出値、および、電気角に基づき、dq変換により、第1d軸電流検出値Id1および第1q軸電流検出値Iq1を演算する。第1dq軸電流検出値Id1、Iq1は、マイコン間通信にて、第2制御部230に送信される。また、第2dq軸電流検出値Id2、Iq2は、マイコン間通信にて、第1制御部130に送信される。取得された第2q軸電流検出値Iq2は、加算器142および減算器143に入力されるように、切替部145が制御される。
加算器142は、第1q軸電流検出値Iq1と第2q軸電流検出値Iq2とを加算する。減算器143は、第1q軸電流検出値Iq1から第2q軸電流検出値Iq2を減算する。
電流FB演算部150は、減算器151、152、制御器153、154、切替部155、および、加算器156を有する。減算器151は、電流指令値I1*からq軸電流和Iq1+Iq2を減算し、電流和偏差ΔIq_a1を演算する。減算器152は、q軸電流差指令値Iq_d1*からq軸電流差Iq1-Iq2を減算し、電流差偏差ΔIq_d1を演算する。本実施形態では、q軸電流差指令値Iq_d1を0とするが、0以外の値として差を持たせるようにしてもよい。
制御器153は、電流和偏差ΔIq_a1が0となるように、PI演算等により、基本電圧指令値を演算する。制御器154は、電流差偏差ΔIq_d1が0となるように、PI演算等により差分電圧指令値を演算する。和と差のFB制御では、差分電圧指令値が加算器156に入力されるように、切替部155が制御される。加算器156は、基本電圧指令値と差分電圧指令値を加算し、2系統電圧指令値を演算する。
系統電圧指令値演算部157は、2系統電圧指令値に0.5を乗じ、第1系統電圧指令値Vq1*を演算する。PWM信号生成部158は、dq軸電圧指令値Vd1*、Vq*、および、電気角に基づき、逆dq変換により、3相電圧指令値を演算する。また、PWM信号生成部158は、3相電圧指令値に基づき、PWM演算により、PWM信号を生成する。生成されたPWM信号に基づいてインバータ回路120のスイッチング素子121のオンオフ作動を制御する。
第2制御部230では、第1制御部130から取得した第1電流指令値I1*を用いるか、自身にて演算される第2電流指令値I2*を用いるかを選択する切替部236を有する。第2制御部230では、和と差のFB制御では、第1制御部130から取得した第1電流指令値I1*が電流制限部235に入力されるように、切替部236を制御する。
図9に示すように、独立FB制御では、和と差の制御を行わず、系統ごとに電流FB制御を行う。本実施形態では、第2q軸電流検出値Iq2に替えて、第1q軸電流検出値Iq1が加算器142に入力されるように、切替部145を制御する。減算器151には、第1q軸電流検出値Iq1の2倍の値が減算側に入力される。また、差の制御に係る演算を停止する。
EPS-ECU10は、運転者の操舵に応じてモータ80を制御する手動操舵モード、運転者の操舵によらず、自動運転ECU15からの指令に基づいてモータ80を制御する自動運転モード、および、自動操舵モードから手動操舵モードへの移行モードであるオーバーライドモードの3つの制御モードを切り替え可能である。以下適宜、自動操舵モードをADSモード、手動操舵モードをEPSモードという。オーバーライドモードは、自動制御に、手動制御の要素を加味した制御モードと捉えることもできる。
自動操舵モードでは、自動運転安全性を担保できることが要求され、手動操舵モードでは、運転者に不快感を与えないように、振動や騒音の低減が要求される、といった具合に、制御モードに応じて要求される特性が異なる。そこで本実施形態では、制御モードに応じて、電流制御を切り替えることで、各制御において、最適な特性となるようにしている。
図10は、制御モード切替処理を説明するフローチャートである。この処理は、自動運転ECU15にて、所定の周期で実行される。以下、ステップS101の「ステップ」を省略し、単に記号「S」と記す。他のステップも同様である。
S101では、自動運転ECU15は、手動運転中か否かを判断する。手動運転中であると判断された場合(S101:YES)、S108へ移行する。手動運転中ではないと判断された場合(S101:NO)、S102へ移行する。
S102では、自動運転ECU15は、オーバーライド要求があるか否かを判断する。オーバーライド要求があると判断された場合(S102:YES)、S105へ移行する。オーバーライド要求がないと判断された場合(S102:NO)、S103へ移行し、オーバーライドカウンタをクリアする。S104では、自動運転ECU15は、制御モードをADSモードとする。
オーバーライド要求があると判断された場合(S102:YES)に移行するS105では、自動運転ECU15は、オーバーライドカウンタをインクリメントする。S106では、自動運転ECU15は、オーバーライドカウンタのカウント値Corが判定閾値X1より大きいか否かを判断する。オーバーライドカウンタのカウント値Corが判定閾値X1以下であると判断された場合(S106:NO)、S107へ移行し、制御モードをオーバーライドモードとする。オーバーライドカウンタのカウント値Corが判定閾値X1より大きいと判断された場合(S106:YES)、S113へ移行し、制御モードをEPSモードとする。
手動運転中であると判断された場合(S101:YES)に移行するS108では、自動運転ECU15は、自動運転要求があるか否かを判断する。自動運転要求がないと判断された場合(S108:NO)、S109へ移行し、自動運転開始カウンタをクリアする。そしてS113へ移行し、制御モードをEPSモードとする。自動運転要求があると判断された場合(S108:YES)、S110へ移行し、自動運転開始カウンタをインクリメントする。
S111では、自動運転ECU15は、自動運転開始カウンタのカウント値であるCsdが判定閾値X2より大きいか否かを判断する。自動運転開始カウンタのカウント値Csdが判定閾値X2より大きいと判断された場合(S111:YES)、S112へ移行する。自動運転開始カウンタのカウント値Csdが判定閾値X2以下であると判断された場合(S111:NO)、S113へ移行し、制御モードをEPSモードとする。
S112では、自動運転ECU15は、自動運転に切替可能な状態か否かを判断する。ここでは、例えば、操舵中でない、異常状態でない、電流制限中でない、および、車速VSが自動運転切替可能範囲内である等の条件を満たしたとき、自動運転切替可能と判定する。判定条件は、一部を省略してもよいし、他の条件を加えてもよい。自動運転に切替可能な状態ではないと判断された場合(S112:NO)、S113へ移行し、制御モードをEPSモードとする。自動運転に切替可能な状態であると判断された場合(S112:YES)、S104へ移行し、制御モードをADSモードとする。
自動運転ECU15は、S104、S107またはS113にて決定された制御モードをEPS-ECU10に通知する。EPS-ECU10は、受信した判定結果に基づき、モータ80の駆動を制御する。
制御モードの切り替え状況に応じた電流制御処理を図11のフローチャートに基づいて説明する。制御部130、230では、同様の処理が行われるので、ここでは、制御部130での処理として説明する。本実施形態では、ADSモードまたはオーバーライドモードの一方から他方への切替時には、電流制限値調停方法および電流FB方法に変更がないため、フローチャートへの記載を省略した。
S201では、制御部130は、現在の制御モードがオーバーライドモードか否かを判断する。制御モードがオーバーライドモードではないと判断された場合(S201:NO)、S207へ移行する。制御モードがオーバーライドモードであると判断された場合(S201:YES)、S202へ移行する。
S202では、制御部130は、オーバーライドモードからEPSモードへの遷移要求があるか否かを判断する。EPSモードへの遷移要求がないと判断された場合(S202:NO)、S205へ移行する。EPSモードへの遷移要求があると判断された場合(S202:YES)、S203へ移行する。
S203では、制御部130は、操舵判定があるか否かを判断する。ここでは、操舵中である場合、肯定判断する。操舵判定がないと判断された場合(S203:NO)、S212へ移行する。操舵判定があると判断された場合(S203:YES)、S204へ移行し、遷移待ちフラグをセットする。図中、フラグがセットされている状態を「1」、セットされていない状態を「0」とする。
S205は、オーバーライドモードまたはADSモードが継続される場合に移行するステップであって、電流制限部135は、電流制限値の調停方法として、制限付きミニマムセレクトを継続する。S206では、制御信号演算部140は、電流FB制御として、独立FB制御を継続する。
S207では、制御部130は、現在の制御モードがEPSモードか否かを判断する。現在の制御モードがEPSモードではないと判断された場合(S207:NO)、すなわち現在の制御モードがADSモードの場合、S218へ移行する。現在の制御モードがEPSモードであると判断された場合(S207:YES)、S208へ移行する。
S208では、制御部130は、EPSモードからADSモードへの遷移要求があるか否かを判断する。ADSモードへの遷移要求があると判断された場合(S208:YES)、S216へ移行する。ADSモードへの遷移要求がないと判断された場合(S208:YES)、S209へ移行する。
S209では、制御部130は、遷移待ちフラグがセットされているか否かを判断する。遷移待ちフラグがセットされていないと判断された場合(S209:NO)、S214へ移行する。遷移待ちフラグがセットされていると判断された場合(S209:YES)、S210へ移行する。
S210では、S203と同様、制御部130は、操舵判定があるか否かを判断する。操舵判定があると判断された場合(S210:YES)、S205へ移行し、電流制限値の調停方法を制限付きミニマムセレクトとし、S206にて電流FB制御を独立FB制御とする。操舵判定がないと判断された場合(S210:NO)、S211へ移行し、遷移待ちフラグをリセットする。
S212では、電流制限部135は、電流制限値の調停方法を、制限付きミニマムセレクトから無制限ミニマムセレクトに変更する。S213では、制御信号演算部140は、電流FB制御を、独立FB制御から和と差の制御に変更する。
S214は、EPSモードが継続される場合に移行するステップであって、電流制限部135は、電流制限値の調停方法を、無制限ミニマムセレクトを継続する。S215では、制御信号演算部140は、電流FB制御として、和と差の制御を継続する。
ADS要求があると判断された場合(S208:YES)に移行するS216では、電流制限部135は、電流制限値の調停方法を無制限ミニマムセレクトから制限付きミニマムセレクトに変更する。S217では、制御信号演算部140は、電流FB制御を、和と差の制御から独立FB制御に変更する。
制御モードがADSモードである場合(S207:NO)に移行するS218では、ADSモードからEPSモードへの遷移要求があるか否かを判断する。EPSモードへの遷移要求があると判断された場合(S218:YES)、S212へ移行し、電流制限値の調停方法を無制限ミニマムセレクトとし、電流FB制御を和と差の制御とする。EPSモードへの遷移要求がないと判断された場合(S218:YES)、S205へ移行し、電流制限値の調停方法を制限付きミニマムセレクトとし、S206では、電流FB制御を独立FB制御とする。
すなわち本実施形態では、ADSモードでは、操舵フィーリングは不要であり、アシスト力が要求されるため、電流制限値の調停方法を制限付きミニマムセレクト、電流FB制御を独立FB制御とする。EPSモードでは、操舵フィーリングが重要であるので、電流制限値の調停方法を無制限ミニマムセレクト、電流FB制御を和と差の制御とする。なお、EPSモードにおいて、ADSモードよりも小さい共有判定値Ilim_thにより、制限付きミニマムセレクトとし、最低限のアシスト力を確保するようにしてもよい。また、オーバーライド中は、ADSモードと同様、電流制限値の調停方法を制限付きミニマムセレクト、電流FB制御を独立FB制御とする。
図12~図16は、制御モードに応じた電流制限値を示すタイムチャートである。図12等では、第1個別電流制限値Ilim_k1を破線、第2個別電流制限値Ilim_k2を一点鎖線、調停後の第1電流制限値Ilim1を実線で示す。なお、第2電流制限値Ilim2については省略する。また、説明のため、線種がわかる程度に適宜ずらして記載した。後述の実施形態に係る図も同様である。
図12は、時刻x12までがADSモードである。時刻x12にて、例えばドライバにより操舵トルクが入力されると、ADSモードからオーバーライドモードに切り替わり、時刻x13にてオーバーライドモードからEPSモードに制御モードが切り替わるものとする。
時刻x10にて第2個別電流制限値Ilim_k2が低下すると、ミニマムセレクトにて、第1電流制限値Ilim1を第2個別電流制限値Ilim_k2とすることで、電流制限値を系統間で共有する。時刻x11にて、第2個別電流制限値Ilim_k2が共有判定値Ilim_thを下回る。このとき、制御モードがADSモードであって、電流制限値の調停方法は制限付きミニマムセレクトであるので、第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1とし、電流制限値を非共有とする。また、時刻x12から時刻x13の間は、オーバーライドモードであって、電流制限値の調停方法は制限付きミニマムセレクトである。時刻x12から時刻x13の間も、第2個別電流制限値Ilim_k2が共有判定値Ilim_thより小さいので、第1電流制限値Ilim1は、第1個別電流制限値Ilim_k1を継続する。
時刻x13にて、制御モードがオーバーライドモードからEPSモードに切り替わると、電流制限値の調停方法を、制限付きミニマムセレクトから無制限ミニマムセレクトに変更する。時刻x13のとき、第2個別電流制限値Ilim_k2が共有判定値Ilim_thより小さいので、オーバーライドモード中は、制限付きミニマムセレクトにて、第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1とし、電流制限値は非共有である。また、EPSモード切替後は、無制限ミニマムセレクトとするので、第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1から第2個別電流制限値Ilim_k2に変更し、電流制限値を共有する。
図13では、時刻x22までがADSモードであって、時刻x22にてADSモードからオーバーライドモードに切り替わるが、EPSへの切り替えが確定せず、時刻x23にてADSモードに戻るものとする。
時刻x23までの第1電流制限値Ilim1の推移は、図12の時刻x13までの推移と同様である。図13の例では、時刻x23にて制御モードがオーバーライドモードからADSモードに切り替わるので、電流制限値の調停方法は、制限付きミニマムセレクトが継続される。したがって、時刻x23以降も、第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1とする。時刻x24にて、第2個別電流制限値Ilim_k2が共有判定値Ilim_thより大きくなると、第1電流制限値Imin1を第1個別電流制限値Ilim_k1から第2個別電流制限値Ilim_k2に変更し、電流制限値を共有する。
図14では、時刻x33までがADSモードであって、時刻x33にてADSモードからオーバーライドモードに切り替わり、時刻x34にてオーバーライドモードからEPSモードに制御モードが切り替わるものとする。また、時刻x32から時刻x36の間が操舵中とする。
オーバーライドモードからEPSモードに切り替わる時刻x34までの第1電流制限値Ilim1の推移は、図13の時刻x13までの推移と同様である。時刻x34にて、EPSモードに切り替わるが、操舵中であるので、電流制限値の調停方法を切り替えず、制限付きミニマムセレクトを継続する。時刻x35にて、第2個別電流制限値Ilim_k2が共有判定値Ilim_thより大きくなるので、第1電流制限値Ilim1を第2個別電流制限値Ilim_k2とする。
また、図15に示すように、オーバーライドモードからEPSモードへ切り替える際、オーバーライド中に電流制限値が非共有であれば、操舵中においては非共有の状態を継続し、非操舵状態となった時刻x36にて第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1から第2個別電流制限値Ilim_k2に変更し、電流制限値を共有するようにしてもよい。
さらにまた、図16に示すように、時刻x31にて、第2個別電流制限値Ilim_k2が共有判定値Ilim_thより小さくなり、第1電流制限値Ilim1を第2個別電流制限値Ilim_k2から第1個別電流制限値Ilim_k1に変更するとき、第1電流制限値Ilim1を漸増させてもよい。同様に、時刻x35にて、第2個別電流制限値Ilim_l2が共有判定値Ilim_thより大きくなり、第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1から第2個別電流制限値Ilim_k2に変更するとき、第1電流制限値Ilim1を漸減させてもよい。図16では、第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1または第2個別電流制限値Ilim_k2の一方から他方に変更するとき、値を線形的に徐変させているが、例えば二次関数または指数関数等、非線形的に徐変させてもよい。他の電流制限値の切替タイミングにおいても同様に、電流制限値を切り替える際、値を徐変させてもよい。また、電流制限値を徐変させる割合は、操舵トルクTs、車速VS、操舵角速度ω、舵角、および、その他パラメータの少なくとも1つに応じて可変にしてもよい。
以上説明したように、EPS-ECU10は、複数のモータ巻線180、280を有するモータ80を備える電動パワーステアリング装置8を制御するものであって、複数のインバータ回路120、220と、制御部130、230と、を備える。インバータ回路120、220は、モータ巻線180、280ごとに設けられる。制御部130、230は、モータ巻線180、280ごとに設けられ、対応して設けられるインバータ回路120、220の駆動に係る制御信号を生成し、モータ巻線180、280に流れる電流を制御することで、モータ80の駆動を制御する。
制御モードには、運転者によるステアリングホイール91の操舵に応じたモータ80を制御する手動操舵モード、および、運転者によるステアリングホイール91の操舵によらずモータ80を制御する自動操舵モードが含まれる。制御部130、230は、制御モードを切替可能であって、制御モードに応じて電流制御を異ならせる。電流制御には、例えば、系統間での電流制限値の調停制御、および、電流FB制御が含まれ、トルク指令値から一義的に換算される電流指令値の演算より後段の制御を意味する。本実施形態では、電流制限部135、235および制御信号演算部140、240における演算が「電流制御」に対応する。制御モードに応じて電流制御を異ならせることで、それぞれの制御モードに応じた最適な特性を得ることができる。
制御部130、230は、モータ巻線180、280に流れる電流の制限に係る電流制限値Ilim1、Ilim2を設定する電流制限部135、235を有する。電流制限部135、235は、制御モードに応じた電流制限として、電流制限値Ilim1、Ilim2の設定を異ならせる。制御モードに応じて電流制限を異ならせることで、各制御モードに応じた最適な特性を得ることができる。
モータ巻線180、280と、モータ巻線180、280に対応して設けられるインバータ回路120、220および制御部130、230との組み合わせを系統とする。制御部130、230は、電流制限に係る系統ごとの値である個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2を演算する個別電流制限値演算部131、231を有する。また、制御部130、230は、他系統の個別電流制限値Ilim_k2、Ilim_k1を取得可能である。
制御部は、他系統と同一の値を前記電流制限値Ilim1、Ilim2に設定する電流制限値共有状態と、自系統の個別電流制限値を当該系統の電流制限値に設定する電流制限値非共有状態とを切替可能である。本実施形態では、電流制限値非共有状態では、第1個別電流制限値Ilim_k1を第1電流制限値Ilim1とし、第2個別電流制限値Ilim_k2を第2電流制限値Ilim2とする。電流制限値共有状態と電流制限値非共有状態との切替判定に係る共有判定値Ilim_thは、手動操舵モードと自動操舵モードとで異なっている。
電流制限部135、235は、手動操舵モードのとき、共有判定値Ilim_thを0とし、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2のうち最も小さい値を電流制限値Ilim1、Ilim2とする無制限ミニマムセレクトにて電流制限値を設定することで電流制限値共有状態する。また、電流制限部135、235は、自動操舵モードのとき、共有判定値Ilim_thを0より大きい値とし、全ての系統の個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2が共有判定値Ilim_th以上の場合、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2のうち最も小さい値を電流制限値Ilim1、Ilim2とし、少なくとも一部の系統の個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2が共有判定値Ilim_thより小さい場合、系統ごとに電流制限値Ilim1、Ilim2を設定する制限付きミニマムセレクトにて電流制限値を設定することで電流制限値共有状態と電流制限値非共有状態とを切り替える。換言すると、手動操舵モードでは、自動操舵モードよりも共有判定値Ilim_thが小さい値に設定される、と捉えることもできる。
自動操舵モードでは、操舵フィーリングが不要であり、アシスト力が必要である。一方、手動操舵モードでは、操舵フィーリングが重要であり、アシスト力が不足した場合、運転者により入力される操舵力による補填が可能である。そこで本実施形態では、自動操舵モードでは、制限付きミニマムセレクトにて電流制限値Ilim1、Ilim2を設定することで、電流制限値の共有よりも、出力確保を優先する。また、手動操舵モードでは、無制限ミニマムセレクトにて電流制限値Ilim1、Ilim2を設定することで、電流制限値の共有を優先し、操舵フィーリングを確保する。これにより、制御モードに応じて、最適な特性とすることができる。
共有判定値Ilm_thを0とすれば、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2によらず、電流制限値Ilim1、Ilim2を共有可能であり、共有判定値Ilim_thを0より大きい任意の値とすれば、電流制限値Ilim1、Ilim2の共有、非共有を切替可能となる。また、共有判定値Ilim_thを、例えば電流上限値等、可及的大きい値とすれば、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2によらず、電流制限値Ilim1、Ilim2を非共有とすることができる。このように共有判定値Ilim_thを変更することで、電流制限値Ilim1、Ilim2の共有状態を、適切に切り替えることができる。
制御モードには、自動操舵モードおよび手動操舵モードに加え、自動操舵モードから手動操舵モードへの移行モードであるオーバーライドモードが含まれる。電流制限部135、235は、オーバーライドモードのとき、共有判定値Ilim_thを自動操舵モードのときと同じ値とし、制限付きミニマムセレクトにて、電流制限値Ilim1、Ilim2を設定する。これにより、オーバーライド中は、自動操舵モードと同様に電流制限値Ilim1、Ilim2を設定することができる。
電流制限部135、235は、電流制限値共有状態または電流制限値非共有状態の一方から他方への切り替えに伴い、電流制限値Ilim1、Ilim2が変更される場合、電流制限値Ilim1、Ilim2を徐変させてもよい。これにより、電流制限値Ilim1、Ilim2の急変を防ぐことができる。
制御部130、230は、電流フィードバック制御によりインバータ回路120、220の駆動に係る制御信号を生成する制御信号演算部140、240を有する。制御信号演算部140、240は、制御モードに応じた電流制御として、電流フィードバック制御を異ならせる。詳細には、電流フィードバック制御に用いる電流検出値を異ならせる。制御モードに応じて電流FB制御を異ならせることで、各制御モードに応じた最適な特性を得ることができる。
制御信号演算部140、240は、制御モードが自動操舵モードのとき、自系統の電流検出値を用いた独立フィードバック制御により制御信号を生成し、制御モードが手動操舵モードのとき、自系統および他系統の電流検出値を用い、複数のモータ巻線180、280に流れる電流の和および差を制御する和と差の制御により制御信号を生成する。本実施形態では、和と差の制御が「協調フィードバック制御」に対応する。
自動操舵モードでは、電流FB制御を独立フィードバック制御とすることで、一部の系統に異常や検出誤差等が生じた場合における共連れ誤出力を防ぐことができる。また、手動操舵モードでは、協調フィードバック制御とすることで、振動や騒音を低減可能であり、操舵フィーリングを確保することができる。
制御信号演算部140、240は、制御モードがオーバーライドモードのとき、電流フィードバック制御を独立フィードバック制御とする。これにより、オーバーライド中は、自動操舵モードと同様の電流FB制御とすることができる。
制御部130、230は、電流制御の切り替えを、非操舵時に行う。詳細には、電流FB制御について、和と差の制御または独立FB制御の一方から他方への切り替えを、操舵中は禁止し、非操舵時に行う。また、電流制限値の調停について、無制限ミニマムセレクトまたは制限付きミニマムセレクトの一方から他方への切り替えを、操舵中は禁止し、非操舵時に行う。ここで、共有判定値Ilim_thの変更を操舵中は禁止し、非操舵中に行うと捉え、図15にて説明したように、電流制限値共有状態または電流制限値非共有状態の一方から他方への切り替えを、操舵中は禁止し、非操舵時に行うようにしてもよい。これにより、操舵中に電流制御が切り替わることによる違和感を防ぐことができる。
(第2実施形態)
第2実施形態を図17および図18に示す。第1実施形態では、オーバーライドモードのときの電流制御は、ADSモードのときと同様であって、電流制限値の調停方法を制限付きミニマムセレクトとし、電流FB制御を独立FB制御とする。本実施形態では、オーバーライドモードのときの電流制御を、EPSモードのときと同様とする。すなわち、本実施形態では、オーバーライドモードのとき、電流制限値の調停方法を無制限ミニマムセレクトとし、電流FB制御を和と差の制御にする。
図17および図18は、制御モードに応じた電流制限値を示すタイムチャートである。図17は、図12と同様、時刻x12までがADSモード、時刻x12から時刻x13までがオーバーライドモード、時刻x13以降がEPSモードである。時刻x12までの第1電流制限値Ilim1の挙動は図12と同様である。
本実施形態では、時刻x12にて、制御モードがADSモードからオーバーライドモードに切り替わると、電流制限を制限付きミニマムセレクトから無制限ミニマムセレクトに切り替えるので、第1電流制限値Ilim1を、第1個別電流制限値Ilim_k1から第2個別電流制限値Ilim_k2に変更する。また、時刻x13にて、制御モードがオーバーライドモードからEPSモードに切り替わるが、電流制限値の調停方法は無制限ミニマムセレクトが継続される。
図18は、図13と同様、時刻x22までがADSモード、時刻x22から時刻x23までがオーバーライドモードであって、EPSモードへの切り替えが確定せず、ADSモードに戻るものとする。時刻x20から時刻x23までの挙動は、図17の時刻x10から時刻x13までの挙動と同様である。時刻x23にて、制御モードがオーバーライドモードからADSモードに切り替わるので、電流制限値の調停方法は、無制限ミニマムセレクトから制限付きミニマムセレクトに変更される。このとき、第2個別電流制限値Ilim_k2が共有判定値Ilim_thより小さいので、第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1とし、電流制限値を非共有とする。また、時刻x24にて、第2個別電流制限値Ilim_k2が共有判定値Ilim_thより大きくなると、第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1から第2個別電流制限値Ilim_k2に変更し、ミニマムセレクトにより電流制限値を共有する。このように構成しても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
(第3実施形態)
第3実施形態を図19に示す。本実施形態では、EPSモードからADSモードへの切り替えを説明する。図19では、時刻x41までがEPSモードである。時刻x41にて、例えばドライバによる制御モード切替スイッチの操作等により、EPSモードからADSモードに切り替わるものとする。本実施形態では、ADSモードでの制限付きミニマムセレクトでは、一方の系統の個別電流制限値が共有判定値Ilim_thより小さい場合、他方の系統の電流制限値を共有判定値Ilim_thとする。上述の実施形態においても、制限付きミニマムセレクトにて、個別電流制限値が共有判定値Ilim_thより大きい系統の電流制限値を共有判定値Ilim_thとすることで、電流制限値を非共有としてもよい。
時刻x40にて第2個別電流制限値Ilim_k2が低下すると、ミニマムセレクトにて、第1電流制限値Ilim1を第2個別電流制限値Ilim_k2とすることで、電流制限値を系統間で共有する。時刻x42にて、制御モードがEPSモードからADSモードに切り替わると、電流制限の調停方法を無制限ミニマムセレクトから制限付きミニマムセレクトとし、第1電流制限値Ilim1を第2個別電流制限値Ilim_k2から共有判定値Ilim_thとする。また、図20に示すように、EPSモードからADSモードへの移行時、運転者に違和感を与えないように、電流制限値の徐々に切り替えるようにしてもよい。
時刻x42にて、第2個別電流制限値Ilim_k2が共有判定値Ilim_thより大きくなると、第1電流制限値Ilim1を第2個別電流制限値Ilim_k2とし、ミニマムセレクトにて電流制限値を共有する。このように構成しても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
(第4実施形態)
第4実施形態を図21に示す。上記実施形態では、ADSモードのときの電流制御として、電流制限値の調停方法を制限付きミニマムセレクトとし、電流制御を独立FB制御とした。換言すると、上記実施形態では、制限付きにて、電流指令値を共有している。
本実施形態では、ADSモードにおける電流制御を、指令値を共有しない完全独立FB制御とする。図21に示すように、完全独立FB制御において、制御部230にて演算した電流指令値I2*が電流制限部235に入力されるように、切替部236を制御する。また、完全独立FB制御において、電流制限部135では、電流制限値の調停を行わず、自系統の個別電流制限値Ilim_k1を、電流制限値Ilim1とする。電流制限部235でも同様、電流制限値の調停を行わず、自系統の個別電流制限値Ilim_k2を、電流制限値Ilim2とする。
これにより、系統間の独立性がより確保されるので、共連れ誤出力を抑制することができる。また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
(第5実施形態)
第5実施形態を図22~図24に示す。本実施形態では、ADSモードにおける電流制限値の共有、非共有の切り替えが上記実施形態と異なっているので、この点を中心に説明する。
本実施形態の電流制限処理を図22のフローチャートに基づいて説明する。S301では、制御部130、230は、自動運転中か否かを判断する。自動運転中ではないと判断された場合(S301:NO)、以下の処理を行わず、制御モードに応じた電流制限とする(図11参照)。自動運転中であると判断された場合(S301:YES)、S302へ移行する。なお、本ステップに替えて、図11中のS218にて否定判断された場合に、S302へ移行するようにしてもよい。図26中のS401も同様である。
S302では、制御部130、230は、車速VSが車速判定閾値VSth以上か否かを判断する。車速判定閾値VSthは、仮に操舵のアシストが不足しても車両を安全に停止可能な程度の値(例えば、5km/h)に設定される。車速VSが車速判定閾値VSthより小さいと判断された場合(S302:NO)、S305へ移行する。車速VSが車速判定閾値VSth以上であると判断された場合(S302:YES)、S303へ移行する。
S303では、制御部130、230は、第1個別電流制限値Ilim_k1および第2個別電流制限値Ilim_k2の少なくとも一方が、共有判定値Ilim_th以下か否かを判断する。第1個別電流制限値Ilim_k1および第2個別電流制限値Ilim_k2が共有判定値Ilim_thより大きいと判断された場合(S303:NO)、S305へ移行する。第1個別電流制限値Ilim_k1および第2個別電流制限値Ilim_k2の少なくとも一方が共有判定値Ilim_th以下であると判断された場合(S303:YES)、S304へ移行する。
S304では、電流制限値を非共有とし、第1制御部130は、第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1とし、第2制御部230は、第2電流制限値Ilim2を第2個別電流制限値Ilim_k2とする。
S305では、電流制限値を共有し、制御部130、230は、電流制限値Ilim1、Ilim2を、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2の小さい方の値とする。
図23および図24は、ADSモード中の走行状態に応じた電流制限値を示すタイムチャートである。図中、車速VSが車速判定閾値VS_th以上の走行状態を「通常走行」、車速VSが車速判定閾値VS_th未満の走行状態を「低速走行」とする。低速走行には、停車中も含まれるものとする。時刻x51以前が通常走行、時刻x51から時刻x53までが低速走行、時刻x53以降が通常走行とする。また、図23および図24に示す全期間において、第2個別電流制限値Ilim_k2が第1個別電流制限値Ilim_k1より小さい。すなわち、Ilim_k2<Ilim_k1である。後述の図27も同様である。
時刻x50以前は、走行状態が通常走行であって、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2がともに共有判定値Ilim_th以上であるので、電流制限値Ilim1、Ilim2を、第2個別電流制限値Ilim_k2とする。
時刻x50にて、第2個別電流制限値Ilim_k2が共有判定値Ilim_thを下回る。このとき、ADSモードにて通常走行中であるので、第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1とする。電流制限値を非共有とすることで、自動運転中であってシステム停止ができない走行中は、出力確保を優先する。
時刻x51にて、走行状態が通常走行から低速走行になると、第1電流制限値Ilim1を第2個別電流制限値Ilim_k2とし、電流制限値を共有する。低速走行では、アシストが不足しても車両を安全に停止可能であるため、過熱保護やNV低減を優先し、電流制限値を共有する。
時刻x52にて、第2個別電流制限値Ilim_k2が共有判定値Ilim_th以上となっているので、時刻x53にて、走行状態が低速走行から通常走行となったとき、第1電流制限値Ilim1を第2個別電流制限値Ilim_k2とし、電流制限値が共有されている状態を維持する。
また、図24に示すように、共有判定値Ilim_thを可及的小さい値とすることで、通常走行中は電流制限値を非共有とし、低速走行中は電流制限値を共有するようにしてもよい。通常走行中、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2によらず、電流制限値Ilim1、Ilim2を非共有とする場合、図22中のS303を省略してもよい。図23中の時刻x50および時刻x51、ならびに、図24中の時刻x51および時刻x53において、電流制限値を切り替える際、電流制限値を徐変させる徐変処置を入れてもよい。図27中の時刻x61および時刻x62も同様である。
本実施形態では、自動操舵モードにおいて、電流制限部135、235は、車両の走行速度である車速VSが車速判定閾値VSth以上の場合、電流制限値非共有状態とする、または、個別電流制限値Ilim_k1、Ilim_k2に応じて電流制限値共有状態と電流制限値非共有状態とを切り替える。また、車速VSが車速判定閾値VSthより小さい場合、電流制限値共有状態とする。これにより、走行中は、出力を優先することで、トルク不足を防ぐことができる。
(第6実施形態)
第6実施形態を図25~図27に示す。図25に示すように、本実施形態の制御部130、230は、それぞれ、必要トルク演算部134、234を有する。必要トルク演算部134、234は、路面状態および走行状態に応じ、操舵に必要なトルクである推定操舵必要トルクTrを演算する。推定操舵必要トルクTrは、車両の現在位置がカーブか直線か、路面の摩擦係数、および、車速等のパラメータに基づいて演算される。用いるパラメータや演算方法はどのようであってもよい。
本実施形態の電流制限処理を図26のフローチャートに基づいて説明する。S401では、図2中のS301と同様、制御部130、230は、自動運転中か否かを判断する。自動運転中ではないと判断された場合(S401:NO)、以下の処理を行わず、制御モードに応じた電流制限とする(図11参照)。自動運転中であると判断された場合(S401:YES)、S402へ移行する。
S402では、制御部130、230は、推定操舵必要トルクTrがトルク判定閾値Tr_th以上か否かを判断する。トルク判定閾値Tr_thは、過熱保護やNV低減よりも出力確保を優先する必要がある程度の任意の値に設定される。推定操舵必要トルクTrがトルク判定閾値Tr_th以上であると判断された場合(S402:YES)、S403へ移行し、電流制限値を非共有とする。推定操舵必要トルクTrがトルク判定閾値Tr_thより小さいと判断された場合(S402:NO)、S404へ移行し、電流制限値を共有する。S403、S404の詳細は、図22中のS304、S305と同様である。
図27は、ADSモード中の推定操舵必要トルクTrに応じた電流制限値を示すタイムチャートである。時刻x61以前は、推定操舵必要トルクTrがトルク判定閾値Tr_th以上であるので、第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1とする。電流制限値を非共有とすることで、自動運転中であって、比較的大きな操舵トルクが要求される状況では、出力確保を優先する。
時刻x61にて、推定操舵必要トルクTrがトルク判定閾値Tr_thを下回ると、第1電流制限値Ilim1を第2個別電流制限値Ilim_k2とし、過熱保護やNV低減を優先し、電流制限値を共有する。時刻x62にて、推定操舵必要トルクTrがトルク判定閾値Tr_th以上になると、第1電流制限値Ilim1を第1個別電流制限値Ilim_k1に戻し、出力確保を優先する。
制御部130、230は、操舵に必要なトルクである推定操舵必要トルクTrを演算する必要トルク演算部134、234を有する。自動操舵モードにおいて、推定操舵必要トルクTrがトルク判定閾値Tr_th以上の場合、電流制限値非共有状態とし、推定操舵必要トルクTrがトルク判定閾値Tr_thより小さい場合、電流制限値共有状態とする。これにより、推定操舵必要トルクTrに応じ、電流制限値Ilim1、Ilim2を共有するか、非共有とするかを、適切に切り替えることができる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、個別電流制限値演算部は、過熱保護電流制限値、電源電圧基準電流制限値、操舵速度基準電流制限値、および、系統間差電流制限値を演算し、ミニマムセレクトにより、最も値の小さいものを個別電流制限値とした。他の実施形態では、温度基準の過熱保護電流制限値、電源電圧基準電流制限値、および、操舵速度基準電流制限値の一部を省略してもよい。上記実施形態では、温度、バッテリ電圧、および、操舵角速度を、それぞれの系統に係るパラメータとし、当該パラメータに基づいて個別電流制限値を演算する。他の実施形態では、それぞれの系統に係るパラメータとして、温度、バッテリおよび操舵角速度の一部を省略してもよいし、他のパラメータに基づいて、個別電流制限値を演算してもよい。
また、電流制限部は、過熱保護電流制限値、電源電圧基準電流制限値、操舵速度基準電流制限値、および、系統間差電流制限値のうち、系統間で共有する値と共有しない値とを区別してもよい。例えば、高速操舵時に制限がかかりやすく、NV向上に及ぼす影響が大きい操舵速度基準電流制限値は共有するが、過熱保護電流制限値は共有しない、といった具合である。また、操舵速度基準電流制限値について、オーバーライドモードにおいて、電流制限値を非共有とする、或いは、最も大きい値を電流制限値として共有するハイセレクトとしてもよい。
上記実施形態では、電流制限部は、ミニマムセレクトにて電流制限値を共有する。他の実施形態では、例えば最も大きい値を選択するハイセレクトや、相乗平均値や相加平均値等、ミニマムセレクト以外にて電流制限値を共有してもよい。また、他の実施形態では、EPSモードにおいて、例えば他系統の検出電流による制限を加えるといった具合に、制御モードに応じて、電流制限のロジックを適宜追加してもよい。
上記実施形態では、上記実施形態では、EPSモードにおいて、無制限ミニマムセレクトにて電流制限値を共有する。他の実施形態では、EPSモードにおける電流制限値の共有を、制限付きミニマムセレクトとしてもよい。この場合、共有判定値は任意に設定可能であるが、ADSモードにおける共有判定値より小さい値であることが望ましい。
共有判定値は、一定値であってもよいし、例えば操舵速度、バッテリ電圧、温度等に応じて可変としてもよい。例えば高回転時や低電圧時は、共有判定値を高くすることで、NV低減よりも出力確保を優先することができる。また他の実施形態では、例えば、車速が車速判定閾値以上であり、かつ、推定操舵必要トルクがトルク判定閾値以上の場合に電流制限値を非共有、または、個別電流制限値に応じて共有と非共有とを切り替え、車速が車速判定閾値未満、または、推定操舵必要トルクがトルク判定閾値以上の場合に電流制限値を共有する、といった具合に、各実施形態を適宜組み合わせてもよい。また、操舵必要トルク演算部を外部に設け、必要トルク演算部が操舵必要トルクを外部から取得するように構成することも、「必要トルク演算部が推定操舵必要トルクを演算する」の概念に含まれるものとする。
上記実施形態では、制御部が2つである。他の実施形態では、制御部が1つ、または、3つ以上であってもよい。巻線組数および駆動回路数も同様である。すなわち、系統数が1、または、3以上であってもよい。また、1つの制御部に対して、複数の駆動回路および巻線組を設けるようにしてもよい。
上記実施形態では、回転電機は、3相のブラシレスモータである。他の実施形態では、回転電機は、ブラシレスモータに限らず、どのようなモータとしてもよい。上記実施形態では、駆動装置は、ECUとモータとが一体に設けられる機電一体型である。他の実施形態では、ECUがモータとは別途に設けられる機電別体としてもよい。以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。