以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本実施形態に係る中性子発生装置1の主要部に係る外観の斜視図である。また、図2は、中性子発生装置1の断面図(図1のII-II線に沿った矢視図)である。中性子発生装置1は、イオン源10Aから送り出されたプラスイオン(正イオン粒子)からなるイオンビームR1と、イオン源10Bから送り出されたマイナスイオン(負イオン粒子)からなるイオンビームR2と、を衝突させて、中性子線を発生させる装置である。イオンビームR1としては、正重水素イオンビームが挙げられる。また、イオンビームR2としては、負重水素イオンビームが挙げられる。また、この2つのイオンビームR1,R2を組み合わせた場合、中性子線として重水素線が発生し得る(DD核融合)。
中性子発生装置1は、例えば、医療用中性子照射装置などに用いられる。また、中性子発生装置1は、PET(Positron Emission Tomography)用、RI(Radio Isotope)製造用、中性子照射ドーピング(NTD:Neutron Transmitting Doping)用及び原子核実験用などの用途に用いることができる。なお、中性子発生装置1は、粒子加速器の一種であるサイクロトロンの原理を利用しながら、装置内部でイオン同士の核融合を利用して中性子線を発生させる。
中性子発生装置1は、一対のヨーク2A,2Bと、一対のポール3A,3Bと、コイル4と、一対のインフレクタ5A,5Bと、一対の電場発生部6A,6B(図1参照)と、一対のイオン源10A,10Bと、制御部15と、を備えている。なお、本実施形態では、荷電粒子のイオンビームR1、R2が外部のイオン源10A,10Bから供給される場合について説明するが、イオン源装置は中性子発生装置1の内部に設けられていてもよい。イオンビームについては後述する。
なお、中性子発生装置1は、所謂分離セクター型サイクロトロン(リングサイクロトロン)である。具体的には、ヨーク2Aは、4つのセクター磁石2aから構成されている。また、ヨーク2Bは、4つのセクター磁石2bから構成されている。ヨーク2Aを構成するセクター磁石2a及びヨーク2Bを構成するセクター磁石2bは、それぞれ対向配置されている。セクター磁石2a,2bが対向配置された領域では、セクター磁石2a,2bによる磁場を受けてイオンビームが偏向される。セクター磁石2a,2bにより構成される一対のセクター磁石の組は、中性子発生装置1に対して円対称となるように配置されている。
イオン源10A,10Bは、ヨーク2A,2Bの外部に設けられ、イオンを生成する外部イオン源である。中性子発生装置1では、一対のイオン源10A,10Bは、中性子発生装置1のヨーク2A,2Bを挟んで上側と下側とに対向して設けられる。イオン源10Aからは、プラスイオンのイオンビームR1が出射される。また、イオン源10BからはマイナスイオンのイオンビームR2が出射される。
イオン源10AからのイオンビームR1は、イオンビームを整流する整流部11Aを通る。また、イオン源10BからのイオンビームR1は、イオンビームを整流する整流部11Bを通る。整流部11A,11Bとして、それぞれイオンビームR1,R2の進行方向の密度を調整するバンチャーが設けられていてもよい。バンチャーは、後述の電場発生部6A,6Bにおいて発生させる高周波電場における電位差の周期的変化に対応するように、イオンビームR1,R2を進行方向の所定間隔で集束させることにより、中性子発生装置1におけるビーム効率を高めるが可能である。なお、整流部11A,11Bは、バンチャー以外の機能を有していてもよい。
一対のポール3A,3Bは、ヨーク2Aの内部に配置されたポール3Aと、ヨーク2Bの内部に配置されたポール3Bとから構成される磁極である。ポール3Aはヨーク2Aの内部の上面に配置されており、ポール3Bはヨーク2Bの内部の下面に配置されている。ポール3A,3Bも、セクター磁石と同様に、それぞれ4つのポールから構成されている。なお、ポール3A及びポール3Bの周囲には円環状のコイル4が配置されており、コイル4に対する電流供給によりポール3A,3Bの間に鉛直方向の磁場が発生する。ポール3A,3Bの間に、イオンビームR1、R2が周回するメディアンプレーンMPが形成される(図2参照)。
インフレクタ5A,5Bは、それぞれイオンビームR1,R2をメディアンプレーンMPに入射(導入)させるものである。すなわち、インフレクタ5Aは、イオン源10AからのイオンビームR1に対応し、インフレクタ5Bは、イオン源10BからのイオンビームR2に対応している。インフレクタ5A,5Bは、ポール3A,3Bの間で中性子発生装置1のほぼ中心に配置されている。インフレクタ5A,5Bは、それぞれ、電源(図示せず)から電流を供給されており、中性子発生装置1の中心軸Cに沿って進行するイオンビームR1、R2を偏向してメディアンプレーンMPに入射させる。インフレクタ5A,5Bは、所謂スパイラルインフレクタであり、図3に示すように、イオンビームR1,R2の出射方向は逆方向とされている。図4に示すように、平面視において、インフレクタ5A、5Bはそれぞれ円弧状となっており、インフレクタ5Aの出射端5a、及び、インフレクタ5Bの出射端5bは、中心軸Cから外れた位置で、イオンビームR1,R2を出射する。したがって、図4に示すように、イオンビームR1,R2は、互いに逆方向の軌道として出射されることになる。
上記のイオン源10A,10B、整流部11A,11B、及び、インフレクタ5A,5Bは、メディアンプレーンMPに対して正負のイオン粒子を供給するイオン供給部として機能する。
電場発生部6A,6Bは、平面視(メディアンプレーンMPを上面から見た状態)において、セクター磁石と重ならない位置に設けられる(図1参照)。また、電場発生部6A,6Bは、メディアンプレーンMPに沿って周回するイオンビームR1,R2に対して電場の勾配を提示する装置である。
電場発生部6A,6Bについて、図5及び図6を参照して説明する。図5及び図6では、電場発生部6Aについて説明するが、電場発生部6Bは電場発生部6Aと同様の構造を有する。電場発生部6A,6Bは、いずれも、導体により形成された加速空洞(空洞共振器)に対して高周波の電磁波を送り、加速空洞を共振させることで電場を形成する共振器構造を有している。以下では、電場発生部6A,6Bの一例を説明するが、以下の形態に限定されるものではない。
図5及び図6に示す電場発生部6A,6Bは、メディアンプレーンMPを挟み上下方向に対向する一対のキャビティ部20A,20Bを備える。図5は、上側のキャビティ部20Bを省略し、下側のキャビティ部20Aを示した斜視図である。図6は、電場発生部6Aの断面図である。図5及び図6では、メディアンプレーンMPと直交する方向をZ軸方向(第1の方向)とし、Z軸と直交する方向をY軸方向(第3の方向)とし、Z軸及びY軸と直交する方向をX軸方向(第2の方向)とする。なお、Y軸方向は、中性子発生装置1における径方向に該当する。Y軸方向の正側が外周側に該当し、負側が内周側に該当する。また、X軸方向は、中性子発生装置1の周方向に沿った方向であり、荷電粒子Pが通過する方向に該当する。X軸方向の正側が荷電粒子Pの出て行く側に該当し、負側が荷電粒子Pの入り込む側に該当する。
電場発生部6Aは、メディアンプレーンMP(図6参照)を挟んで互いに対をなすように配置される一対のキャビティ部20A,20Bを有する。キャビティ部20A及びキャビティ部20Bは、メディアンプレーンMPを基準面として、互いに面対称となるような形状・位置関係であり、Z軸方向に互いに離間して配置される。ここでは、メディアンプレーンMPに対して、Z軸方向の負側にキャビティ部20Aが配置され、Z軸方向の正側にキャビティ部20Bが配置されるものとする。なお、キャビティ部20A,20Bは、銅(無酸素銅)などの導電性の材料によって構成される。キャビティ部20A,20Bには、高周波が印加される。
キャビティ部20A,20Bは、それぞれY軸方向に長尺な長方形箱状の形状を有している。キャビティ部20A,20Bは、X軸方向において互いに対向する一対の壁部21,22を有する。壁部21,22は、互いに平行をなし、X軸方向と直交するように広がる平板によって構成される。キャビティ部20A,20Bは、Y軸方向において互いに対向する一対の壁部23,24を有する。壁部23,24は、互いに平行をなし、Y軸方向と直交するように広がる平板によって構成される。キャビティ部20A,20Bは、Z軸方向においてMPと対向する壁部26を有する。壁部26は、キャビティ部20A,20BのZ軸方向における端部のうち、メディアンプレーンMPから遠い方の端部20bに配置される。壁部26は、メディアンプレーンMPと平行をなし、Z軸方向と直交するように広がる平板によって構成される。
キャビティ部20A,20Bは、Z軸方向における端部のうち、メディアンプレーンMPに近い方の端部20aに一対の電極板30,31を備えている。電極板30,31は、メディアンプレーンMPから離間した位置にて当該メディアンプレーンMPと平行をなし、Z軸方向と直交するように広がる平板によって構成される。なお、電極板30,31は、X軸方向における中心位置に設定された中心線CL(図5参照)を基準線として線対称となるような形状、位置関係となる。また、電極板30,31は、X軸方向において互いに離間しており、Y軸方向に延びるように配置されている。電極板30の中心線CL側の端部と、電極板31の中心線CL側の端部とは、Y軸方向と平行に延びた状態で互いに対向していて、電極板30,31との間には、Y軸方向に延びる開口部36が形成される。また、電極板30,31の中心線CLとは反対側の端部は、それぞれ壁部21,22の端部20aに接続される。
電極板30,31のY軸方向における両端部は、それぞれ壁部23,24から離間している。これにより、電極板30,31のY軸方向正側の端部において、電極板30,31と壁部23との間に長方形状の開口部37が形成される。また、電極板30,31のY軸方向負側の端部において、電極板30,31と壁部24との間に長方形状の開口部38が形成される。開口部37,38は、開口部36と互いに連通している。
以上のような構成により、一対のキャビティ部20A,20Bは、メディアンプレーンMPを挟んで互いに対向する対向面40A,40Bを有する。対向面40Aは、キャビティ部20Aの電極板30,31のメディアンプレーンMP側の面によって構成される。対向面40Bは、キャビティ部20Bの電極板30,31のメディアンプレーンMP側の面によって構成される。また、対向面40A,40Bは、それぞれ第1の面41及び第2の面42を有する。対向面40Aの第1の面41は、キャビティ部20Aの電極板30のメディアンプレーンMP側の面によって構成される。対向面40Aの第2の面42は、キャビティ部20Aの電極板31のメディアンプレーンMP側の面によって構成される。
なお、キャビティ部20A,20Bは、メディアンプレーンMPとは反対側の端部20b寄りの部分にて、他の構造部材に支持される。例えば、図6に示すように、キャビティ部20A,20Bは、端部20bにおいて真空容器80に支持される構成とすることができる。なお、真空容器80は、キャビティ部20A,20Bが配置される内部空間を真空に保つための容器である。
キャビティ部20A,20Bには、高周波電圧を与える印加部が設けられる。印加部は外部で高周波電源に接続されていて、キャビティ部内でループ(ループカプラ)を形成した後、キャビティ部の壁部に接続される。これにより、一対のキャビティ部20A,20Bのそれぞれにおいて、第1の面41と第2の面42との間に高周波の電場を形成できる。第1の面41と第2の面42との間が、荷電粒子の周回方向に対して交差する方向に延び、荷電粒子に対して電場を与えるギャップとなる。
また、隙間SPには、メディアンプレーンMPを基準として上下対称な電場を形成できる。したがって、一対のキャビティ部20A,20Bの間に入射した荷電粒子(プラスイオンまたはマイナスイオン)に対して電場を与えることができる。また、第1の面41及び第2の面42は、Y軸方向に延びているので、荷電粒子の周回径が変化したとしても、Y軸方向における異なる位置を移動するイオンに対して同時に電場を与えることができる。
制御部15は、イオン源10A,10B及び上記の電場発生部6A,6Bに係る制御を行う。すなわち、イオン源10A,10BからのメディアンプレーンMPへのイオンビームR1,R2の出射を制御すると共に、電場発生部6A,6Bに印加する高周波電圧を制御する機能を有する(図7も参照)。制御部15は、イオン源10A,10BからメディアンプレーンMPへ向けて、同時にイオンビームR1,R2を出射する構成としてもよい。また、メディアンプレーンMPでイオンビームR1,R2(プラスイオン及びマイナスイオン)の両方が存在し周回することが可能な程度に、互いに異なるタイミングでイオンビームR1,R2を出射するように、制御部15により制御する構成としてもよい。
インフレクタ5A,5Bを通じてメディアンプレーンMPに入射したイオンビームR1、R2は、ポール3A,3Bの磁場及び電場発生部6A,6Bの電場の作用によって螺旋状の軌道を描きながら回転する。
なお、メディアンプレーンMPの外側は、ヨーク2A,2Bまたはシールド(図示せず)に覆われた構成とすることができる。
ここで、従来の粒子加速器のサイクロトロンを参考に粒子の加速の原理について説明する。従来のサイクロトロンでは、荷電粒子の周回運動を利用し、電場発生部6A,6Bにおける高周波電場の周波数と荷電粒子の周回周波数を一致させることで、電場発生部6A,6Bを通過する際に荷電粒子が加速可能な電場を形成している。例えば、粒子加速器において、負の電荷を有する荷電粒子を加速させる場合、第1の時刻に電場発生部6Aを通過するとき進行方向に沿って電位が大きくなるような電場を設けることで、荷電粒子が加速される。また、電場発生部6Aにおいて加速された荷電粒子が、メディアンプレーンMPに沿って加速器内を周回して電場発生部6Bに到達したときも、同様に進行方向に沿って電位が大きくなるように電場を形成することで、当該荷電粒子は加速される。このように、電場発生部6A,6Bのそれぞれにおいて周期的に電場を形成することで、荷電粒子を加速させることができる。
一方、本実施形態に係る中性子発生装置1では、電場発生部6A,6Bでは、互いに異なる方向に互いに異なる極性を有するイオンビームR1,R2が周回していることになる。したがって、図7に示すように、例えば、イオンビームR1が加速できるように、電場発生部6Bが図示右側の端部62aから左側の端部62bへ向けて電位が低くなるように電場を形成しているとすると、当該電場は、逆方向に進行するイオンビームR2にとっても加速可能な電場となる。
このように、互いに異なる極性を有するイオンビームR1,R2を同時に中性子発生装置1に対して投入した場合でも、電場発生部6A,6Bを利用してどちらも加速させることが可能となっている。したがって、本実施形態に係る中性子発生装置1を用いた中性子発生方法では、互いに異なる極性を有するイオンビームR1,R2を同時に且つ逆方向に回転するように投入することによって、イオンビームR1,R2のどちらも加速させることができる。中性子発生装置1では、この加速された逆極性のイオン同士を衝突させることで、中性子線を発生させることができる。発生させた中性子線は、数MeVのエネルギーを持つので、構成する真空槽あるいはキャビティの壁を透過して外部に取り出される。具体的には、図示していない取り出し部等から取り出すことができる。取り出し部は、例えば、隣接するセクター電極の間等に設けることができる。
なお、電場発生部6A,6Bは、どちらも周期的に電場を変化させて、イオンビームR1,R2を加速させる電場を形成させることになる。したがって、同時刻の電場発生部6Aは、イオンビームR1の進行方向で見たときに、イオンビームR1を減速させる勾配の電場が形成されていることになる。すなわち、図示左側の端部61aから右側の端部61bへ電位が低くなるように電場が形成されていることになる。このような電場は、イオンビームR1を減速させるだけでなく、逆方向に移動するイオンビームR2にとっても減速させる勾配の電場となっている。
次に、このような高周波で変化させる電場内でのイオンビームR1,R2の挙動について説明する。
中性子発生装置1では、プラスイオンまたはマイナスイオンのイオンビームは、イオンが集中したバンチを形成しながら周回する。これは、電場発生部6A,6Bに印加される電場が高周波で変化するため、この電場の位相変化に対応して同程度に加速されたイオンが集中するためである。図8では、バンチが形成されるイメージを模式的に示している。
中性子発生装置1の中心軸Cから電場発生部6A,6Bにより加速される度に周回半径を大きくしながら周回する。したがって、図8に示すように、イオンビームに含まれるイオンは、徐々に周回軌道が大きくなる渦巻き状の軌道で移動する。一方、上述のように、電場発生部6A,6Bは、周期的に加速電場を形成するため、高周波の電場の変化の位相に応じてイオンの加速が行われる。その結果、中心軸Cから特定の方向に延びる領域(図8で示す領域A1,A2,A3)にイオン粒子が集中することになる。このイオン粒子が集中する領域をバンチBという。イオンの周回周期と電場発生部6A,6Bの加速周期とが一致する場合、加速周期に適合して加速が促進されるイオンの集団である加速バンチが周回軌道の1か所に形成されることになる。加速バンチに含まれるイオン群は、電場発生部6A,6Bを通過する度に加速されるため、周回半径を大きくしながらどんどん加速される。
ただし、中性子発生装置1で予め想定されたエネルギーを超える程度まで加速されたイオンは、等時性磁場を外れて、加速位相から減速位相へシフトすることになる。上述の通り、電場発生部6A,6Bでは、電界の向きが粒子の進行方向に向く位相(加速位相)と、逆向きの位相(減速位相)になる時間がある。その結果、中性子発生装置1内では、加速バンチが形成される一方で、減速位相を受けて減速するイオン群が集中する減速バンチが形成される。減速バンチに含まれるイオンは電場発生部6A,6Bを通過する際にイオンが減速する勾配の電場を受けることになるので、それぞれ減速し、周回半径を小さくしながら周回軌道を移動し、中心付近まで戻ってくることになる。このように、中性子発生装置1内に投入されたイオンは、それぞれ加速バンチに含まれて加速しながら周回半径を大きくした後、等時性磁場を外れて、減速位相にシフトし、減速バンチに含まれて減速しながら周回半径を小さくする。したがって、中性子発生装置1内では、従来の粒子加速器、すなわち、粒子を加速した後に外部へ取り出す装置と比較して、装置内にイオンが滞在するターン数(周回数)を2倍とすることができる。
このように、中性子発生装置1では、装置内にイオンが滞在するターン数を増やした状態で、逆方向に装置内を周回するイオン同士を衝突させて、中性子線を発生させる。
なお、加速バンチ及び減速バンチは、中心軸Cを挟んで対向する位置に形成される。この結果、プラスイオンからなるイオンビームR1について、周回軌道内に加速バンチBP1と減速バンチBP2とが形成される。同様に、マイナスイオンからなるイオンビームR2についても、周回軌道内に加速バンチBM1と減速バンチBM2とが形成される。このように、中性子発生装置1では、メディアンプレーンMP上に4つのバンチが形成された状態で、これらのバンチが中心軸Cを中心に周回することになる。
図9及び図10では、4つのバンチの挙動の一例について説明する。ここでは、加速電場の周波数を周回する粒子の周波数が一致している状態(ハーモニクス=1)であるとする。ここで、加速バンチBP1,BM1がそれぞれ電場発生部6Bを通過した後45°回転した状態をT=0とし、その段階での各バンチの配置を図9(a)に示す。この状態では、減速バンチBP2,BM2がそれぞれ電場発生部6Aを通過した後45°回転した状態となる。なお、加速バンチBP1,BM1がそれぞれ電場発生部6Bを通過するタイミングにおいて、電場発生部6Bはこれらのバンチに含まれるイオンを加速させるような電場勾配が形成される。また、電場発生部6Aでは減速バンチBP2,BM2に含まれるイオンを減速させるような電場勾配が形成される。
その後、1/8周期分時間が経過する(T=1/8周期)と、図9(b)に示すように、加速バンチBP1と減速バンチBM2とが重なり、減速バンチBP2と加速バンチBM1とが重なる。図9(b)では、各バンチが少しずれた状態として示している。このときの交差位置は、電場発生部6A,6Bから周回軌道に沿って90°回転した位置となる。プラスイオンのバンチとマイナスイオンのバンチとが逆方向に進行しながら重なる状態では、バンチに含まれるイオン同士の衝突が(他の領域と比べて)多く発生し、中性子線が発生する。バンチ同士が重なる領域は、図9(b)に示すように、セクター磁石2a,2b(すなわち、ヨーク2A,2B)と重ならない位置とすることができる。このような構成とすることで、例えば、このバンチ同士が重なる位置に対応させて、中性子線の取り出し部を設けることで、外部への中性子線の取り出しを効率よく行うことができる。
さらに、図9(b)に示す状態から1/8周期分時間が経過する(T=2/8周期)と、図10(a)に示すように、加速バンチBP1,BM1がそれぞれ電場発生部6Bを通過した後135°回転し、減速バンチBP2,BM2がそれぞれ電場発生部6Aを通過した後135°回転した状態となる。
さらに、図10(a)に示す状態から1/8周期分時間が経過する(T=3/8周期)と、電場発生部6A付近で加速バンチBP1と加速バンチBM1とが重なり、電場発生部6B付近で減速バンチBP2と減速バンチBM2とが重なる。図10(b)では、各バンチが少しずれた状態として示している。プラスイオンのバンチとマイナスイオンのバンチとが逆方向に進行しながら重なる状態では、バンチに含まれるイオン同士の衝突が(他の領域と比べて)多く発生し、中性子線が発生する。また、この状態では、電場発生部6AにおいてイオンビームR1,R2を加速させる方向に電場勾配が形成され、電場発生部6BにおいてイオンビームR1,R2を減速させる方向に電場勾配が形成される。したがって、加速バンチBP1,BM1は加速され、減速バンチBP2,BM2は減速する。
このように、4つのバンチは加速または減速を繰り返しながら、それぞれ中性子発生装置1の中心軸Cを中心として周回する。
以上のように、本実施形態に係る中性子発生装置1は、荷電粒子が周回するメディアンプレーンMPを挟んで互いに対向して配置された一対の磁極から構成される磁場発生部としてのヨーク2A,2Bと、荷電粒子の周回方向に対して交差する方向に延びるギャップを有し、メディアンプレーンの所定位置において当該ギャップにおいて高周波変動する電場を発生する電場発生部6A,6Bと、正イオン粒子及び負イオン粒子を、前記メディアンプレーンに沿って互いに逆方向に周回するように前記メディアンプレーンに供給するイオン供給部と、を有する。
また、本実施形態に係る中性子発生方法は、一対の磁極から構成される磁場発生部に挟まれたメディアンプレーンMPに対して、正イオン粒子及び負イオン粒子が前記メディアンプレーンに沿って互いに逆方向に周回するように、前記正イオン粒子及び前記負イオン粒子を供給し、前記メディアンプレーンMPの所定位置において、電場発生部6A,6Bのギャップに発生された高周波変動する電場を発生することで前記正イオン粒子及び前記負イオン粒子の速度を変化させながら、周回途中で衝突させることで中性子を発生させる。
上記の中性子発生装置及び中性発生方法によれば、メディアンプレーンMP上で正イオン粒子(プラスイオン)及び負イオン粒子(マイナスイオン)を逆方向に周回させながら、電場発生部6A,6Bのギャップにおいて高周波変動する電場を形成し、正イオン粒子及び負イオン粒子の速度を変化させる。これにより、正イオン粒子及び負イオン粒子がメディアンプレーンMP上で衝突することによって中性子が発生する。メディアンプレーンMP上で、正イオン粒子及び負イオン粒子を逆方向に周回させることにより、同じ電場を利用して正イオン粒子及び負イオン粒子の速度を同時に制御しながら、これらを衝突させて中性子を発生させることができるため、従来の中性子発生装置のように、荷電粒子をターゲットに対して衝突させずに中性子を発生させることができる。したがって、ターゲットの消耗・交換等を気にせず装置を扱うことができる。
ここで、メディアンプレーンMPを挟んで互いに異なる方向からメディアンプレーンMPに対して正イオン粒子及び負イオン粒子を供給する構成とすることで、正イオン粒子及び負イオン粒子それぞれについて、供給位置や供給タイミング等の細かい調整を行うことが可能となる。
また、磁場発生部としてのヨーク2A,2B(セクター磁石2a,2b)は、メディアンプレーンMPの周方向に沿って互いに離間して複数設けられている態様とすることができる。メディアンプレーンMPの周方向に沿って互いに離間して磁場発生部を設けることで、隣接する磁場発生部の隙間等を利用して、メディアンプレーンMPで発生した中性子を取り出すための構成を設けることができる。そのため、装置で発生した中性子の利用効率を高めることができる。
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
例えば、上述の実施形態では、一対の電場発生部6A,6Bを用いた場合について説明したが、これらの電場発生部6A,6Bの構成は上記に限定されず適宜変更することができる。また、キャビティ部の形状は、上述のような形状に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、平面視で四角形のキャビティ部が採用されたが、平面視で湾曲させたような形状を有するキャビティ部が採用されてもよい。電場発生部6A,6Bは、ギャップを利用して高周波の電場を形成することが可能な装置構成であれば、特に限定されない。
また、電場発生部6A,6B、及び、ヨーク2A,2Bの数や配置についても適宜変更することができる。
また、イオン源10A,10Bの構成や配置に応じて、インフレクタ等の各部の構成を適宜変更することができる。なお、イオン源をメディアンプレーン上に設ける場合等、イオン源の構成及びその配置が変更される場合は、整流部及びインフレクタは省略してもよいし、上記の構成とは異なる構成を採用してもよい。