以下、図面を参照して、陽極回転コイル駆動装置及びX線画像診断装置の実施形態について詳細に説明する。
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態について説明する。第1の実施形態では、X線画像診断装置の一例として、図1に示すX線診断装置1について説明する。図1は、第1の実施形態に係るX線診断装置1の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、X線診断装置1は、X線高電圧装置11と、X線管12と、X線絞り器13と、天板14と、Cアーム15と、X線検出器16と、メモリ17と、ディスプレイ18と、入力インターフェース19と、処理回路20とを備える。
X線高電圧装置11は、処理回路20による制御の下、X線管12に高電圧を供給する。例えば、X線高電圧装置11は、変圧器(トランス)及び整流器等の電気回路を有し、X線管12に印加する高電圧を発生する高電圧発生器62と、X線管12が照射するX線に応じた出力電圧の制御を行う制御回路8とを有する。また、X線高電圧装置11は、X線管12の陽極を回転させる陽極回転コイル駆動装置5を有する。なお、X線高電圧装置11の構成については後述する。
X線管12は、熱電子を発生する陰極と、熱電子の衝突を受けてX線を発生する陽極とを有する真空管である。また、X線管12は、磁界を発生させることにより陽極を回転させる陽極回転コイルを有する。例えば、X線管12が有する2つの陽極回転コイルは、陽極回転コイル駆動装置5から供給される交流電流を用いて移動磁界を発生させることにより、陽極を回転させる。
例えば、X線管12が有する2つの陽極回転コイルは、導線を環状に巻くことにより作製される単相巻線である。ここで、2つの陽極回転コイルの軸は、陽極の回転軸と直交する平面上において、90度の角度で交差する。即ち、2つの陽極回転コイルは、90度異なる角度で巻かれる。この場合、2つの陽極回転コイルは、陽極回転コイル駆動装置5から、位相が90度異なる交流電流の供給を受けて移動磁界を発生させ、陽極を回転させる。そして、X線管12は、X線高電圧装置11から供給される高電圧を用いて、回転する陽極に向けて陰極から熱電子を照射することにより、X線を発生する。なお、以下では、X線管12が有する2つの陽極回転コイルを、それぞれ、MAINコイル121及びAUXコイル122と記載する。MAINコイル121は、第1の陽極回転コイルの一例である。また、AUXコイル122は、第2の陽極回転コイルの一例である。
X線絞り器13は、X線管12により発生されたX線の照射範囲を絞り込むコリメータと、X線管12から曝射されたX線を調節するフィルタとを有する。
X線絞り器13におけるコリメータは、例えば、スライド可能な4枚の絞り羽根を有する。コリメータは、絞り羽根をスライドさせることで、X線管12が発生したX線を絞り込んで被検体Pに照射させる。ここで、絞り羽根は、鉛などで構成された板状部材であり、X線の照射範囲を調整するためにX線管12のX線照射口付近に設けられる。
X線絞り器13におけるフィルタは、被検体Pに対する被曝線量の低減とX線画像データの画質向上を目的として、その材質や厚みによって透過するX線の線質を変化させ、被検体Pに吸収されやすい軟線成分を低減したり、X線画像データのコントラスト低下を招く高エネルギー成分を低減したりする。また、フィルタは、その材質や厚み、位置などによってX線の線量及び照射範囲を変化させ、X線管12から被検体Pへ照射されるX線が予め定められた分布になるようにX線を減衰させる。
例えば、X線絞り器13は、モータ及びアクチュエータ等の駆動機構を有し、後述する処理回路20による制御の下、駆動機構を動作させることによりX線の照射を制御する。例えば、X線絞り器13は、処理回路20から受け付けた制御信号に応じて駆動電圧を駆動機構に付加することにより、コリメータの絞り羽根の開度を調整して、被検体Pに対して照射されるX線の照射範囲を制御する。また、例えば、X線絞り器13は、処理回路20から受け付けた制御信号に応じて駆動電圧を駆動機構に付加することにより、フィルタの位置を調整することで、被検体Pに対して照射されるX線の線量の分布を制御する。
天板14は、被検体Pを載せるベッドであり、図示しない寝台の上に配置される。なお、被検体Pは、X線診断装置1に含まれない。例えば、寝台は、モータ及びアクチュエータ等の駆動機構を有し、後述する処理回路20による制御の下、駆動機構を動作させることにより、天板14の移動・傾斜を制御する。例えば、寝台は、処理回路20から受け付けた制御信号に応じて駆動電圧を駆動機構に付加することにより、天板14を移動させたり、傾斜させたりする。
Cアーム15は、X線管12及びX線絞り器13と、X線検出器16とを、被検体Pを挟んで対向するように保持する。例えば、Cアーム15は、モータ及びアクチュエータ等の駆動機構を有し、後述する処理回路20による制御の下、駆動機構を動作させることにより、回転したり移動したりする。例えば、Cアーム15は、処理回路20から受け付けた制御信号に応じて駆動電圧を駆動機構に付加することにより、X線管12及びX線絞り器13と、X線検出器16とを被検体Pに対して回転・移動させ、X線の照射位置や照射角度を制御する。なお、図1では、X線診断装置1がシングルプレーンの場合を例に挙げて説明しているが、実施形態はこれに限定されるものではなく、バイプレーンの場合であってもよい。
X線検出器16は、例えば、マトリクス状に配列された検出素子を有するX線平面検出器(Flat Panel Detector:FPD)である。X線検出器16は、X線管12から照射されて被検体Pを透過したX線を検出して、検出したX線量に対応した検出信号を処理回路20へと出力する。なお、X線検出器16は、グリッド、シンチレータアレイ及び光センサアレイを有する間接変換型の検出器であってもよいし、入射したX線を電気信号に変換する半導体素子を有する直接変換型の検出器であっても構わない。
メモリ17は、例えば、RAM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。例えば、メモリ17は、処理回路20によって収集されたX線画像データを受け付けて記憶する。また、メモリ17は、処理回路20によって読み出されて実行される各種機能に対応するプログラムを記憶する。なお、メモリ17は、X線診断装置1とネットワークを介して接続されたサーバ群(クラウド)により実現されることとしてもよい。
ディスプレイ18は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ18は、処理回路20による制御の下、操作者の指示を受け付けるためのGUIや、各種のX線画像を表示する。例えば、ディスプレイ18は、液晶ディスプレイやCRTディスプレイである。なお、ディスプレイ18はデスクトップ型でもよいし、処理回路20と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。
入力インターフェース19は、操作者からの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路20に出力する。例えば、入力インターフェース19は、マウスやキーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、音声入力回路等により実現される。なお、入力インターフェース19は、処理回路20と無線通信可能なタブレット端末等で構成されることにしても構わない。また、入力インターフェース19は、マウスやキーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、X線診断装置1とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路20へ出力する電気信号の処理回路も入力インターフェース19の例に含まれる。
処理回路20は、収集機能20a、出力機能20b及び制御機能20cを実行することで、X線診断装置1全体の動作を制御する。
例えば、処理回路20は、メモリ17から収集機能20aに相当するプログラムを読み出して実行することにより、X線画像データを収集する。例えば、収集機能20aは、X線高電圧装置11を制御し、X線管12に供給する電圧を調整することで、被検体Pに対して照射されるX線量やオン/オフを制御する。
また、例えば、収集機能20aは、X線絞り器13の動作を制御し、コリメータが有する絞り羽根の開度を調整することで、被検体Pに対して照射されるX線の照射範囲を制御する。また、収集機能20aは、X線絞り器13の動作を制御し、フィルタの位置を調整することで、X線の線量の分布を制御する。また、収集機能20aは、Cアーム15の動作を制御することで、Cアーム15を回転させたり、移動させたりする。また、例えば、収集機能20aは、寝台の動作を制御することで、天板14を移動させたり、傾斜させたりする。
また、収集機能20aは、X線検出器16から受信した検出信号に基づいてX線画像データを生成し、生成したX線画像データをメモリ17に格納する。また、収集機能20aは、メモリ17が記憶するX線画像データに対して各種画像処理を行なってもよい。例えば、収集機能20aは、X線画像データに対して、画像処理フィルタによるノイズ低減処理や、散乱線補正を実行する。
また、処理回路20は、メモリ17から出力機能20bに相当するプログラムを読み出して実行することにより、ディスプレイ18にGUIやX線画像を表示させる。また、出力機能20bは、X線画像データを、X線診断装置1とネットワークを介して接続された外部装置(例えば、画像保管装置など)に出力する。また、処理回路20は、メモリ17から制御機能20cに相当するプログラムを読み出して実行することにより、入力インターフェース110を介して操作者から受け付けた入力操作に基づいて、処理回路20の各種機能を制御する。
次に、図2を参照しながら、X線高電圧装置11の概要について説明する。図2は、第1の実施形態に係るX線高電圧装置11の構成の一例を示すブロック図である。X線高電圧装置11は、図2に示すように、AC/DC変換回路4と、陽極回転コイル駆動装置5と、高圧発生インバータ回路61と、高電圧発生器62と、フィラメント加熱回路71と、フィラメントトランス72と、制御回路8とを有する。
AC/DC変換回路4は、三相交流電源ACから供給された交流から、直流電圧を発生させる。ここで、三相交流電源ACは、例えば、「50Hz」又は「60Hz」の商用電源であり、実効値「400V」の三相交流電圧をAC/DC変換回路4に供給する。この場合、AC/DC変換回路4は、供給された三相交流電圧について全波整流及び平滑を行なって、「560V」の直流電圧を出力する。例えば、AC/DC変換回路4は、直流電圧を、陽極回転コイル駆動装置5、高圧発生インバータ回路61及びフィラメント加熱回路71に供給する。
陽極回転コイル駆動装置5は、AC/DC変換回路4から供給された直流電圧を、二相交流電圧に変換する。例えば、陽極回転コイル駆動装置5は、X線管12が有するMAINコイル121及びAUXコイル122に対し、二相交流電圧を供給することによって、X線管12の陽極を回転させる。なお、陽極回転コイル駆動装置5については後述する。
高圧発生インバータ回路61は、AC/DC変換回路4が発生させた直流電圧を交流電圧に変換し、変換後の交流電圧を、高電圧発生器62に供給する。高電圧発生器62は、交流電圧を直流電圧に変換しつつ昇圧し、変換後の直流電圧(管電圧)をX線管12に供給する。
フィラメント加熱回路71は、AC/DC変換回路4が発生させた直流電圧を交流電圧に変換し、これをフィラメントトランス72に供給する。フィラメントトランス72は、X線管12が有するフィラメントに流れる電流を制御する。フィラメントトランス72は、フィラメント加熱回路71と、X線管12が有するフィラメントとを絶縁している。フィラメントトランス72は、例えば、高電圧発生器62に含まれるように構成される。
制御回路8は、AC/DC変換回路4、陽極回転コイル駆動装置5、高圧発生インバータ回路61、高電圧発生器62及びフィラメント加熱回路71の動作を制御する。例えば、制御回路8は、陽極回転コイル駆動装置5におけるインバータ回路51の動作や停止を制御する。また、例えば、制御回路8は、高電圧発生器62を制御することにより、X線管12が照射するX線に応じた出力電圧の制御を行う。
図1及び図2に示したX線診断装置1においては、各処理機能がコンピュータによって実行可能なプログラムの形態でメモリ17へ記憶されている。図1及び図2の回路は、メモリ17からプログラムを読み出して実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読み出した状態の回路は、読み出したプログラムに対応する機能を有することとなる。なお、図1においては、収集機能20a、出力機能20b及び制御機能20cの各処理機能が単一の処理回路20によって実現される場合を示したが、実施形態はこれに限られるものではない。例えば、処理回路20は、複数の独立したプロセッサを組み合わせて構成され、各プロセッサが各プログラムを実行することにより各処理機能を実現するものとしても構わない。また、図1及び図2の回路が有する各処理機能は、単一又は複数の回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、あるいは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサはメモリ17に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。
なお、図1及び図2においては、単一のメモリ17が各処理機能に対応するプログラムを記憶するものとして説明した。しかしながら、複数のメモリ17を分散して配置し、図1及び図2の回路は、個別のメモリ17から対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。また、メモリ17にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは、回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。
また、図1及び図2の回路は、ネットワークを介して接続された外部装置のプロセッサを利用して、機能を実現することとしてもよい。例えば、処理回路20は、メモリ17から各機能に対応するプログラムを読み出して実行するとともに、X線診断装置1とネットワークを介して接続されたサーバ群(クラウド)を計算資源として利用することにより、図1に示す各機能を実現する。
以上、陽極回転コイル駆動装置5を含んだX線診断装置1について説明した。かかる構成のもと、陽極回転コイル駆動装置5は、X線管12の陽極の回転立ち上がり時間を短縮する。以下、第1の実施形態に係る陽極回転コイル駆動装置5が行なう処理について詳細に説明する。
まず、図3を用いて、第1の実施形態に関わる陽極回転コイル駆動装置5の一例について説明する。図3に示すように、陽極回転コイル駆動装置5は、インバータ回路51、インバータ制御回路53及びコンデンサ54を備える。また、陽極回転コイル駆動装置5は、AC/DC変換回路4から、直流電圧の入力を受ける。例えば、AC/DC変換回路4は、三相交流電源ACから供給される三相交流電圧を整流・平滑して、陽極回転コイル駆動装置5に入力する。また、陽極回転コイル駆動装置5は、X線管12におけるMAINコイル121及びAUXコイル122と接続される。なお、図3は、第1の実施形態に関わる陽極回転コイル駆動装置5の一例を示す図である。
図3に示すように、AC/DC変換回路4は、三相整流ダイオードブリッジ41と、平滑コンデンサ42aと、平滑コンデンサ42bとを有する。三相整流ダイオードブリッジ41は、三相交流電源ACに接続される。図3に示す三相交流電源ACは、例えば、実効値「400V」の三相交流電圧を発生する電源供給部である。三相交流電源ACは、3つの出力端子を有し、これら3つの出力端子は、三相整流ダイオードブリッジ41に接続される。
また、図3に示すように、平滑コンデンサ42a及び平滑コンデンサ42bは直列接続される。直列接続された平滑コンデンサ42a及び平滑コンデンサ42bの両端における2つの端子は、陽極回転コイル駆動装置5に接続される。例えば、実効値「400V」の三相交流電圧が供給された場合、AC/DC変換回路4は、「560V」の直流電圧を発生させる。そして、AC/DC変換回路4は、「560V」の直流電圧を、陽極回転コイル駆動装置5に供給する。
以下では、直列接続された平滑コンデンサ42a及び平滑コンデンサ42bの両端における2つの端子のうち、平滑コンデンサ42aの側の端子がプラス(高電位)であるものとして説明する。なお、AC/DC変換回路4は、直列接続された平滑コンデンサ42a及び平滑コンデンサ42bに代えて、1つの平滑コンデンサを有する場合であってもよい。
次に、図4を用いて、陽極回転コイル駆動装置5についてより詳細に説明する。図4に示すように、陽極回転コイル駆動装置5は、インバータ回路51、インバータ制御回路53及びコンデンサ54を備える。また、インバータ回路51は、DCスナバコンデンサ511と、スイッチング素子512と、スイッチング素子513と、スイッチング素子514と、スイッチング素子515と、スイッチング素子516と、スイッチング素子517とを備える。なお、図4は、第1の実施形態に関わる陽極回転コイル駆動装置5の一例を示す図である。
インバータ回路51は、三相交流電圧を発生させることが可能な三相インバータ回路である。本実施形態では、三相インバータ回路であるインバータ回路51を用いて、MAINコイル121及びAUXコイル122に二相交流電圧を供給する場合について説明する。
また、コンデンサ54は、これを介してインバータ回路51と接続される陽極回転コイルの電流位相を進ませる進相コンデンサである。例えば、コンデンサ54を介してインバータ回路51と接続されるAUXコイル122に流れる電流は、コンデンサ54を介さずにインバータ回路51と接続されるMAINコイル121に流れる電流に対して進み位相となる。
図4に示すスイッチング素子(スイッチング素子512、スイッチング素子513、スイッチング素子514、スイッチング素子515、スイッチング素子516、スイッチング素子517)は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)と、フリーホイール・ダイオードとによって構成される。また、インバータ制御回路53は、図4に示すスイッチング素子の動作(オン動作、オフ動作)を制御する。なお、インバータ制御回路53は、インバータ制御回路の一例である。また、DCスナバコンデンサ511は、図4に示すスイッチング素子がオン動作又はオフ動作をする時に発生するサージ電圧を吸収する。
また、図4に示すように、インバータ回路51は、3つの出力線を有する。インバータ回路51は、AC/DC変換回路4から1つの直流電圧の入力を受けて、交流電圧を3つの出力線から出力する。
具体的には、インバータ回路51は、スイッチング素子512及びスイッチング素子513の中間点に接続される第1の出力線518と、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の中間点に接続される第2の出力線519と、スイッチング素子516及びスイッチング素子517の中間点に接続される第3の出力線520とを有する。第1の出力線518は、X線管12のMAINコイル121に接続される。また、第2の出力線519は、コンデンサ54を介して、X線管12のAUXコイル122に接続される。また、第3の出力線520は、X線管12のCOM端子に接続される。ここで、COM端子は、MAINコイル121とAUXコイル122との共通端子であり、X線管12内で接続される。
ここで、図5及び図6を用いて、スイッチング素子の動作制御の一例について説明する。説明の便宜のため、図5では、インバータ回路51におけるスイッチング素子のうち、スイッチング素子512、スイッチング素子513、スイッチング素子516及びスイッチング素子517の動作のみを示す。また、図6では、インバータ回路51におけるスイッチング素子のうち、スイッチング素子514、スイッチング素子515、スイッチング素子516及びスイッチング素子517の動作のみを示す。インバータ制御回路53は、図5及び図6に示すように、各スイッチング素子の動作(オン動作、オフ動作)を制御し、各スイッチング素子のオン/オフを切り替える。なお、図5及び図6は、第1の実施形態に関わるスイッチング素子の動作制御の一例を示す図である。
図5において、スイッチング素子512及びスイッチング素子517の両方が「オン」となっている時、MAINコイル121には、COM端子に対してプラスの電圧が印加される。また、スイッチング素子513及びスイッチング素子516の両方が「オン」となっている時、MAINコイル121には、COM端子に対してマイナスの電圧が印加される。
また、図6において、スイッチング素子514及びスイッチング素子517の両方が「オン」となっている時、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の中間点(第2の出力線519)には、COM端子に対してプラスの電圧が出力される。そして、第2の出力線519に出力された電圧は、コンデンサ54を介して、AUXコイル122に供給される。また、図6において、スイッチング素子515及びスイッチング素子516の両方が「オン」となっている時、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の中間点(第2の出力線519)には、COM端子に対してマイナスの電圧が出力される。そして、第2の出力線519に出力された電圧は、コンデンサ54を介して、AUXコイル122に供給される。従って、AUXコイル122には、MAINコイル121に対して進み位相の電圧が印加される。
図5において、スイッチング素子512が「オン」から「オフ」に切り替えられた時、MAINコイル121に蓄積されたエネルギーに起因して、スイッチング素子513内のフリーホイール・ダイオードとスイッチング素子517とを通して、MAINコイル121に循環電流が流れる。更に、スイッチング素子517が「オン」から「オフ」に切り替えられると、MAINコイル121に蓄積されたエネルギーは、スイッチング素子513内のフリーホイール・ダイオードとスイッチング素子516内のフリーホイール・ダイオードとを通して、AC/DC変換回路4に回生される。
同様に、スイッチング素子513が「オン」から「オフ」に切り替えられた時、MAINコイル121に蓄積されたエネルギーに起因して、スイッチング素子512内のフリーホイール・ダイオードとスイッチング素子516とを通して、MAINコイル121に循環電流が流れる。更に、スイッチング素子516が「オン」から「オフ」に切り替えられると、MAINコイル121に蓄積されたエネルギーは、スイッチング素子512内のフリーホイール・ダイオードとスイッチング素子517内のフリーホイール・ダイオードとを通して、AC/DC変換回路4に回生される。
図6においても同様に、スイッチング素子514が「オン」から「オフ」に切り替えられた時、コンデンサ54及びAUXコイル122に蓄積されたエネルギーに起因して、スイッチング素子515内のフリーホイール・ダイオードとスイッチング素子517とを通して、AUXコイル122に循環電流が流れる。更に、スイッチング素子517が「オン」から「オフ」に切り替えられると、コンデンサ54及びAUXコイル122に蓄積されたエネルギーは、スイッチング素子515内のフリーホイール・ダイオードとスイッチング素子516内のフリーホイール・ダイオードとを通して、AC/DC変換回路4に回生される。
同様に、スイッチング素子515が「オン」から「オフ」に切り替えられた時、コンデンサ54及びAUXコイル122に蓄積されたエネルギーに起因して、スイッチング素子514内のフリーホイール・ダイオードとスイッチング素子516とを通して、AUXコイル122に循環電流が流れる。更に、スイッチング素子516が「オン」から「オフ」に切り替えられると、コンデンサ54及びAUXコイル122に蓄積されたエネルギーは、スイッチング素子514内のフリーホイール・ダイオードとスイッチング素子517内のフリーホイール・ダイオードとを通して、AC/DC変換回路4に回生される。以上より、スイッチング素子512及びスイッチング素子513の両方と、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の両方とが「オフ」となる期間においても、インバータ回路51の出力には電圧が現れる期間がある。
ここで、図7を用いて、インバータ回路51の出力電圧及び出力電流について説明する。図7の横軸は、時間に対応する。図7において、「Vm」は、MAINコイル121に印加される電圧を示す。また、「Im」は、MAINコイル121に流れる電流を示す。また、「Va」は、コンデンサ54のインバータ回路51側の電圧を示す。また、「Ia」は、AUXコイル122に流れる電流を示す。なお、図7は、第1の実施形態に係るインバータ回路51の出力電圧及び出力電流の一例を示す図である。
図7に示すように、「Ia」は、「Im」に対して「90度」位相が進んでいる。即ち、図5及び図6に示したようにスイッチング素子の動作を制御することによって、陽極回転コイル駆動装置5は、MAINコイル121及びAUXコイル122に「90度」位相のずれた二相交流電流を供給することができる。そして、MAINコイル121及びAUXコイル122は、二相交流電流の供給を受けて移動磁界を発生させ、X線管12の陽極を回転させる。
例えば、陽極回転コイル駆動装置5は、陽極の回転速度が所定の回転速度となるようにMAINコイル121及びAUXコイル122に二相交流電流を供給することで、陽極の回転を立ち上げる。ここで、所定の回転速度は、例えば、操作者から陽極回転開始の指示を受け付ける前に事前に設定される設定値であり、メモリ17に記憶される。
一例を挙げると、所定の回転速度は、商用電源と同じ「50Hz」又は「60Hz」である。このような回転速度については、「普通回転」とも記載する。なお、「普通回転」は、第1の回転数の一例である。別の例を挙げると、所定の回転速度は、商用電源よりも速い「180Hz」である。このような回転速度については、「高速回転」とも記載する。なお、「高速回転」は、第2の回転数の一例である。
陽極回転コイル駆動装置5は、操作者からの指示に応じて、陽極の回転速度が所定の回転速度となるように、MAINコイル121及びAUXコイル122に二相交流電流を供給する。例えば、陽極回転コイル駆動装置5は、陽極の回転速度を「普通回転」とする場合、MAINコイル121及びAUXコイル122を「50Hz」又は「60Hz」で駆動して、陽極の回転を立ち上げる。また、陽極回転コイル駆動装置5は、陽極の回転速度を「高速回転」とする場合、MAINコイル121及びAUXコイル122を「180Hz」で駆動して、陽極の回転を立ち上げる。
ここで、MAINコイル121及びAUXコイル122は、X線管12の陽極の回転状態によって特性が変わる場合がある。また、MAINコイル121及びAUXコイル122の特性が変わることにより、これら陽極回転コイルに供給する二相交流電流の位相差が変化する場合がある。
例えば、陽極の回転立ち上がり時においては、陽極の回転速度や、回転速度の上昇量に応じて、MAINコイル121及びAUXコイル122のインピーダンスが変化する場合がある。これは、図8の陽極回転コイル駆動装置5の等価回路に示すように、陽極の回転状態に応じて負荷抵抗が変化するためである。なお、図8は、第1の実施形態に係る陽極回転コイルの特性について説明するための図である。
図8において、「Vm」は、MAINコイル121に印加される電圧である。また、「Va」は、コンデンサ54のインバータ回路51側の電圧である。また、「Im」は、MAINコイル121に流れる電流である。また、「Ia」は、AUXコイル122に流れる電流である。また、「C」は、コンデンサ54の静電容量である。また、「Rm」は、MAINコイル121の電気抵抗である。また、「Ra」は、AUXコイル122の電気抵抗である。また、「Lm」は、MAINコイル121のインダクタンスである。また、「La」は、AUXコイル122のインダクタンスである。
ここで、図9を用いて、図8の等価回路についてより詳細に説明する。図9は、陽極回転コイル駆動装置5のうち、MAINコイル121の側を示す回路図である。図9において、「Vm」は、MAINコイル121に印加される電圧である。また、「Rm1」は、一次巻線抵抗である。また、「Lme1」は、一次漏れインダクタンスである。また、「Lm0」は、励磁インダクタンスである。また、「Rm」は、鉄損(渦電流損及びヒステリシス損)を生じさせる抵抗である。また、「Lme2」は、二次漏れインダクタンスである。また、「Rm2」は、二次巻線抵抗である。なお、図9は、第1の実施形態に係る陽極回転コイルの特性について説明するための図である。
また、「RL」は、陽極を回転させる際、陽極回転コイル駆動装置5から見て、見かけ上生じる負荷抵抗である。具体的には、陽極を回転させる際、陽極回転コイル駆動装置5は、陽極の回転速度の上昇分、及び、陽極を回転可能に保持するベアリングと陽極との摩擦分のエネルギーを供給する。この時、陽極回転コイル駆動装置5からは、回路上に負荷抵抗「RL」があり、この負荷抵抗「RL」にて、エネルギーが消費されているように見える。
例えば、陽極の回転開始時においては、陽極の回転速度は0であるので、回路がショート状態となる。即ち、陽極の回転開始時において、負荷抵抗「RL」は小さな値となる。また、陽極の回転開始後、陽極の回転速度が上昇している間、陽極回転コイル駆動装置5は、陽極の回転速度の上昇分、及び、陽極を回転可能に保持するベアリングと陽極との摩擦分のエネルギーを供給する。この時、負荷抵抗「RL」の値は次第に増加する。
ここで、陽極の回転速度が上昇している間に負荷抵抗「RL」の値が増加するのは、陽極回転コイル駆動装置5から陽極に対して、陽極の回転速度の二乗に比例して増加する運動エネルギー(回転エネルギー)の増加分を供給する必要があるためである。即ち、陽極の回転速度は、陽極回転コイル駆動装置5から供給されたエネルギーを運動エネルギーとして蓄積することによって上昇する。この時、陽極に蓄積される運動エネルギーは、陽極回転コイル駆動装置5から見ると、負荷抵抗「RL」にて消費されているように見える。このため、陽極回転コイル駆動装置5から見ると、陽極の回転速度の上昇分に応じた負荷抵抗「RL」が生じるとともに、実効電流が増えることとなる。
一方で、陽極の回転立ち上がり後に陽極の回転速度を一定で維持する際(以下、定常回転時)において、陽極回転コイル駆動装置5は、陽極の運動エネルギーの増加分を供給する必要がない。即ち、定常回転時においては、実効電流は減り、無効電流の割合が増えることになる。
例えば、ベアリングと陽極との摩擦を考慮しない場合、陽極回転コイル駆動装置5は、定常回転時にエネルギーを供給する必要がない。この場合、負荷抵抗「RL」の値は無限大となる。実際には、ベアリングと陽極との摩擦が生じるため、陽極回転コイル駆動装置5は、定常回転時において、ベアリングと陽極との摩擦分のエネルギーを供給する。従って、定常回転時における負荷抵抗「RL」の値は、無限大とはならないものの、回転開始時より大きくなる。
以上のように、負荷抵抗「RL」は、陽極の回転状態に応じて変化する。例えば、陽極の回転開始時と比較して、定常回転時における負荷抵抗「RL」は大きくなる。また、図8及び図9の等価回路から分かるように、負荷抵抗「RL」に応じて、MAINコイル121の電気抵抗「Rm」及びAUXコイル122の電気抵抗「Ra」も変化し、MAINコイル121及びAUXコイル122のインピーダンスが変化する。
例えば、MAINコイル121の電気抵抗「Rm」は、図10に示すように、回転開始時と定常回転時とで変化する。図10にて実線で示す「Zm」は、陽極の回転開始時におけるMAINコイル121のインピーダンスである。また、実線で示す「Rm」は、陽極の回転開始時におけるMAINコイル121の電気抵抗である。また、破線で示す「Zm’」は、陽極の定常回転時におけるMAINコイル121のインピーダンスである。また、破線で示す「Rm’」は、陽極の定常回転時におけるMAINコイル121の電気抵抗である。また、「XLm」は、MAINコイル121のリアクタンスである。なお、図10は、第1の実施形態に係る陽極回転コイルの特性について説明するためのベクトル図である。
図10に示すように、回転開始時のインピーダンス「Zm」は、「Rm」と「XLm」とのベクトル和となる。同様に、定常回転時のインピーダンス「Zm’」は、「Rm’」と「XLm」とのベクトル和となる。ここで、「Rm」よりも「Rm’」が大きくなることによって、定常回転時のインピーダンス「Zm’」は、回転開始時のインピーダンス「Zm」よりも大きくなる。また、図11に示すように、インピーダンスの変化に伴って、電圧に対する電流の位相差も変化する。即ち、陽極の定常回転時におけるMAINコイル121の電流「Im’」とMAINコイル121の電圧「Vm」との位相差は、陽極の回転開始時におけるMAINコイル121の電流「Im」とMAINコイル121の電圧「Vm」との位相差よりも小さくなる。なお、図11は、第1の実施形態に係る陽極回転コイルの特性について説明するためのベクトル図である。
同様に、AUXコイル122についても、陽極の回転状態に応じて、特性が変化する。例えば、AUXコイル122の電気抵抗「Ra」は、図12に示すように、回転開始時と定常回転時とで変化する。なお、図12は、第1の実施形態に係る陽極回転コイルの特性について説明するためのベクトル図である。
図12にて実線で示す「Za」は、陽極の回転開始時におけるAUXコイル122のインピーダンスである。また、実線で示す「Ra」は、陽極の回転開始時におけるAUXコイル122の電気抵抗である。また、破線で示す「Za’」は、陽極の定常回転時におけるAUXコイル122のインピーダンスである。また、破線で示す「Ra’」は、陽極の定常回転時におけるAUXコイル122の電気抵抗である。また、「XLa」は、AUXコイル122のリアクタンスである。また、「XC」は、コンデンサ54のリアクタンスである。また、「Xa」は、「XLa」と「XC」との合成リアクタンスである。
図12に示すように、回転開始時のインピーダンス「Za」は、「Ra」と「Xa」とのベクトル和となる。同様に、定常回転時のインピーダンス「Za’」は、「Ra’」と「Xa」とのベクトル和となる。ここで、「Ra」よりも「Ra’」が大きくなることによって、定常回転時のインピーダンス「Za’」は、回転開始時のインピーダンス「Za」よりも大きくなる。また、図13に示すように、インピーダンスの変化に伴って、電圧に対する電流の位相差も変化する。即ち、陽極の定常回転時におけるAUXコイル122の電流「Ia’」と電圧「Va」との位相差は、陽極の回転開始時におけるAUXコイル122の電流「Ia」と電圧「Va」との位相差よりも小さくなる。なお、図13は、第1の実施形態に係る陽極回転コイルの特性について説明するためのベクトル図である。
ここで、MAINコイル121の電圧「Vm」とコンデンサ54のインバータ回路51側の電圧「Va」とが同位相である場合、MAINコイル121及びAUXコイル122の特性が変わることにより、MAINコイル121に流れる電流「Im」とAUXコイル122に流れる電流「Ia」との位相差も変化する場合がある。例えば、図14に示すように、陽極の回転開始時におけるMAINコイル121の電流「Im」とAUXコイル122の電流「Ia」との位相差が「90度」になっていたとしても、陽極の定常回転時におけるMAINコイル121の電流「Im’」とAUXコイル122の電流「Ia’」との位相差は、「90度」からずれてしまう場合がある。なお、図14は、第1の実施形態に係る陽極回転コイルの特性について説明するためのベクトル図である。
上述したように、陽極の回転立ち上がり時においては、MAINコイル121及びAUXコイル122の特性が変わることにより、MAINコイル121に流れる電流「Im」とAUXコイル122に流れる電流「Ia」との位相差が変化する場合がある。例えば、「Im」と「Ia」との位相差は、陽極の回転を開始した時点で「90度」になっていたとしても、陽極の回転速度が増すにつれて、「90度」よりも位相差が狭くなるようにずれていく場合がある。ここで、MAINコイル121とAUXコイル122とは「90度」異なる角度で巻かれているのであるから、「Im」と「Ia」との位相差が「90度」からずれると、回転トルクが低下し、ひいてはX線管12の陽極の回転立ち上がり時間が長くなる場合がある。
そこで、インバータ制御回路53は、陽極の回転立ち上がり時において、インバータ回路51におけるスイッチング素子の動作を制御することによって、「Im」と「Ia」との位相差を「90度」に維持する。以下、陽極の回転立ち上がり時におけるスイッチング素子の動作制御について、図15及び図16を用いて説明する。
図15及び図16は、第1の実施形態に関わるスイッチング素子の動作制御の一例を示す図である。説明の便宜のため、図15及び図16では、インバータ回路51におけるスイッチング素子のうち、スイッチング素子512、スイッチング素子513、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の動作のみを示す。インバータ制御回路53は、図15及び図16に示すように、各スイッチング素子の動作(オン動作、オフ動作)を制御し、各スイッチング素子のオン/オフを切り替える。
図15及び図16において、スイッチング素子512及びスイッチング素子513は、MAINコイル121を駆動するタイミングを示す。また、スイッチング素子514及びスイッチング素子515は、コンデンサ54を介してAUXコイル122を駆動するタイミングを示す。
例えば、陽極の回転開始時において、インバータ制御回路53は、図15に示すように、インバータ回路51のスイッチング素子の動作を制御する。即ち、インバータ制御回路53は、スイッチング素子512とスイッチング素子514とを同じ位相で動作させ、スイッチング素子513とスイッチング素子515とを同じ位相で動作させる。この場合、AUXコイル122に流れる電流「Ia」の位相は、進相コンデンサであるコンデンサ54によって、MAINコイル121に流れる電流「Im」の位相に対して「90度」進められる。
一方で、陽極の回転開始後においては、MAINコイル121及びAUXコイル122の特性が変化することにより、コンデンサ54のみによっては「Ia」と「Im」との位相差を「90度」に維持できない場合がある。例えば、図8~図13にて説明したように、陽極の回転開始後においては、MAINコイル121及びAUXコイル122のインピーダンスが回転開始時よりも高くなる。また、スイッチング素子512とスイッチング素子514とを同じ位相で動作させ、スイッチング素子513とスイッチング素子515とを同じ位相で動作させる場合、図14に示したように、MAINコイル121の電圧「Vm」と、コンデンサ54のインバータ回路51側の電圧「Va」とが同位相となる。従って、陽極の回転開始後において、スイッチング素子512とスイッチング素子514とを同じ位相で動作させ、スイッチング素子513とスイッチング素子515とを同じ位相で動作させると、「Im」と「Ia」との位相差が「90度」より狭まってしまう場合がある。
これに対し、インバータ制御回路53は、図16に示すようにインバータ回路51のスイッチング素子の動作を制御することで、陽極の回転開始後においても、「Im」と「Ia」との位相差を「90度」に維持する。即ち、インバータ制御回路53は、スイッチング素子514の動作タイミングを、スイッチング素子512の動作タイミングに対して早める。また、インバータ制御回路53は、スイッチング素子515の動作タイミングを、スイッチング素子513の動作タイミングに対して早める。
図16に示した位相差(スイッチング素子512とスイッチング素子514との動作タイミングのずれ量、及び、スイッチング素子513とスイッチング素子515との動作タイミングのずれ量)は、インバータ回路51から出力する二相交流電圧の位相差(電圧「Vm」と電圧「Va」との位相差)に対応する。即ち、インバータ制御回路53は、陽極の回転立ち上がり時において、インバータ回路51から出力する二相交流電圧の位相差を、陽極の回転立ち上がり時におけるMAINコイル121及びAUXコイル122の特性変化を補償するように変化させる。これにより、インバータ回路51は、MAINコイル121及びAUXコイル122に、「90度」位相のずれた二相交流電流を供給する。
インバータ回路51から出力する二相交流電圧の位相差について、図17を用いてより具体的に説明する。図17は、第1の実施形態に関わるスイッチング素子の動作制御について説明するためのベクトル図である。まず、図11に示したように、MAINコイル121の電流「Im」と電圧「Vm」との位相差は、陽極の回転状態によって変化する。また、図13に示したように、AUXコイル122の電流「Ia」と電圧「Va」との位相差は、陽極の回転状態によって変化する。これに対して、インバータ制御回路53は、図17に示すように、電圧「Vm」と電圧「Va」との位相差を制御することにより、電流「Im」と電流「Ia」との位相差を「90度」に維持する。なお、インバータ制御回路53は、陽極の回転開始後、電圧「Vm」と電圧「Va」との位相差を連続的に変化させてもよいし、段階的に変化させてもよい。
一例を挙げると、インバータ制御回路53は、陽極の回転開始からの時間に応じて、インバータ回路51から出力する二相交流電圧の位相差を変化させることにより、MAINコイル121及びAUXコイル122に供給する二相交流電流の位相差を「90度」に維持する。即ち、インバータ制御回路53は、陽極の回転開始からの時間に応じて、電圧「Vm」と電圧「Va」との位相差を変化させることにより、電流「Im」と電流「Ia」との位相差を「90度」に維持する。例えば、インバータ制御回路53は、陽極の回転開始からの時間と、位相差の変化量との対応情報を予め設定し、メモリ17に記憶させる。そして、インバータ制御回路53は、操作者から陽極回転開始の指示を受け付けたこと等をトリガとして、メモリ17から対応情報を読み出し、読み出した対応情報に従ってインバータ回路51におけるスイッチング素子の動作を制御する。
別の例を挙げると、インバータ制御回路53は、MAINコイル121及びAUXコイル122に流れる電流の検出結果に基づいて、インバータ回路51から出力する二相交流電圧の位相差を変化させることにより、MAINコイル121及びAUXコイル122に供給する二相交流電流の位相差を「90度」に維持する。即ち、インバータ制御回路53は、電流「Im」及び電流「Ia」の検出結果に基づいて電圧「Vm」と電圧「Va」との位相差を変化させることにより、電流「Im」と電流「Ia」との位相差を「90度」に維持する。この場合、陽極回転コイル駆動装置5は、例えば、図18に示すように、電流センサ55a及び電流センサ55bを更に有する。なお、図18は、第1の実施形態に関わる陽極回転コイル駆動装置5の一例を示す図である。
図18において、電流センサ55aは、インバータ回路51からMAINコイル121に出力された電流を検出する。また、電流センサ55bは、インバータ回路51からAUXコイル122に出力された電流を検出する。この場合、インバータ制御回路53は、電流センサ55a及び電流センサ55bによる電流の検出結果に基づいて、MAINコイル121及びAUXコイル122に供給する二相交流電流の位相差を「90度」に維持するように、インバータ回路51におけるスイッチング素子の動作を制御する。
具体的には、インバータ制御回路53は、まず、電流センサ55a及び電流センサ55bからの信号を受け付けて、MAINコイル121及びAUXコイル122に流れる電流の検出結果を取得する。次に、インバータ制御回路53は、電流の検出結果に基づいて、MAINコイル121及びAUXコイル122に流れる電流の位相差を計測する。ここで、AUXコイル122に流れる電流の位相が、MAINコイル121に流れる電流の位相に対して「90度」より進んでいない場合、インバータ制御回路53は、スイッチング素子512及びスイッチング素子513に対して、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の動作タイミングを早める。一方で、AUXコイル122に流れる電流の位相が、MAINコイル121に流れる電流の位相に対して「90度」より進んでいる場合、インバータ制御回路53は、スイッチング素子512及びスイッチング素子513に対して、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の動作タイミングを遅らせる。
別の例を挙げると、インバータ制御回路53は、X線管12の陽極の回転速度の検出結果に基づいて、インバータ回路51から出力する二相交流電圧の位相差を変化させることにより、MAINコイル121及びAUXコイル122に供給する二相交流電流の位相差を「90度」に維持する。即ち、インバータ制御回路53は、陽極の回転速度の検出結果に基づいて電圧「Vm」と電圧「Va」との位相差を変化させることにより、電流「Im」と電流「Ia」との位相差を「90度」に維持する。ここで、インバータ制御回路53は、X線管12の陽極の回転速度を、回転センサを用いて検出してもよいし、X線管12の振動波形に基づいて検出してもよい。例えば、インバータ制御回路53は、陽極の回転速度と、インバータ回路51におけるスイッチング素子の動作タイミングとの対応情報を予め設定し、メモリ17に記憶させる。そして、インバータ制御回路53は、操作者から陽極回転開始の指示を受け付けたこと等をトリガとしてメモリ17から対応情報を読み出し、読み出した対応情報に従って、スイッチング素子の動作を制御する。
これまで、スイッチング素子512及びスイッチング素子513の動作タイミングを固定とし、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の動作タイミングを変化させるものとして説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。
例えば、インバータ制御回路53は、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の動作タイミングを固定とし、スイッチング素子512及びスイッチング素子513の動作タイミングを変化させてもよい。また、例えば、インバータ制御回路53は、スイッチング素子512及びスイッチング素子513の動作タイミングと、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の動作タイミングとの両方を変化させてもよい。即ち、インバータ制御回路53は、スイッチング素子512及びスイッチング素子513の動作タイミングと、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の動作タイミングとを相対的に変化させることにより、MAINコイル121及びAUXコイル122に供給する二相交流電流の位相差を「90度」に維持する。
上述したように、第1の実施形態に係る陽極回転コイル駆動装置5は、三相インバータ回路であるインバータ回路51と、インバータ回路51におけるスイッチング素子の動作を制御するインバータ制御回路53と、インバータ回路51が有する3つの出力線のいずれか1つと接続されるコンデンサ54とを備える。従って、第1の実施形態に係る陽極回転コイル駆動装置5は、陽極の回転立ち上がり時における陽極回転コイルの特性変化を補償するように、陽極回転コイルに供給する二相交流電流の位相差を制御し、回転トルクの低下を回避することができる。ひいては、陽極回転コイル駆動装置5は、X線管12の陽極の回転立ち上がり時間を短縮することができる。
ここで、三相インバータ回路であるインバータ回路51に代えて、単相インバータ回路を備えるように、陽極回転コイル駆動装置5を構成することも考えられる。例えば、陽極回転コイル駆動装置5が単相インバータ回路であるインバータ回路56を備える場合、図19に示す回路構成により、MAINコイル121及びAUXコイル122に対して「90度」位相のずれた二相交流電流を供給することが考えられる。なお、図19は、第1の実施形態に関わる陽極回転コイル駆動装置5の一例を示す図である。
図19に示すインバータ回路56は、DCスナバコンデンサ561と、スイッチング素子562と、スイッチング素子563と、スイッチング素子564と、スイッチング素子565とを備える。インバータ回路56は、単相交流を発生させることが可能な単相インバータ回路である。例えば、まず、三相交流電源ACは、三相交流電圧をAC/DC変換回路4に供給する。AC/DC変換回路4は、三相交流電圧を整流・平滑し、直流電圧をインバータ回路56に供給する。インバータ回路56は、供給された直流電圧を、再び交流電圧に変換する。
ここで、インバータ回路56は、MAINコイル121と接続されるとともに、コンデンサ54を介してAUXコイル122と接続される。これにより、AUXコイル122には、コンデンサ54を介すことなくインバータ回路56と接続されるMAINコイル121に流れる電流に対して、「90度」進み位相の電流が流れる。
インバータ制御回路53は、スイッチング素子562、スイッチング素子563、スイッチング素子564及びスイッチング素子565の動作を制御する。例えば、インバータ制御回路53は、図20に示すように、各スイッチング素子の動作を制御する。ここで、スイッチング素子562とスイッチング素子565とが「オン」の時、インバータ回路56の出力はプラスになる。また、スイッチング素子563とスイッチング素子564とが「オン」の時、インバータ回路56の出力はマイナスになる。なお、図20は、第1の実施形態に関わるスイッチング素子の動作制御の一例を示す図である。
陽極の回転開始時においては、単相インバータ回路であるインバータ回路56によって、MAINコイル121及びAUXコイル122に「90度」位相のずれた二相交流電流を供給することが可能である。しかしながら、図8~図13を用いて説明したように、陽極の回転状態に応じて、MAINコイル121及びAUXコイル122の特性は変化する。また、単相インバータ回路であるインバータ回路56は、MAINコイル121の電圧「Vm」と、コンデンサ54のインバータ回路56側の電圧「Va」とを、異なる位相で出力することができない。従って、陽極の回転開始後においては、図14に示したように、「Im」と「Ia」との位相差が「90度」からずれてしまう。これに対して、陽極回転コイル駆動装置5は、三相インバータ回路であるインバータ回路51を備えることにより、陽極回転コイルの特性変化を補償するように二相交流電圧の位相差を制御して、MAINコイル121及びAUXコイル122に「90度」位相のずれた二相交流電流を供給することができる。
また、例えば、コンデンサ54を備えないように陽極回転コイル駆動装置5を構成し、三相インバータ回路であるインバータ回路51が、「90度」位相差の二相交流を発生させ、MAINコイル121及びAUXコイル122に供給することが考えられる。
しかしながら、コンデンサ54を介さずに、インバータ回路51とAUXコイル122とが接続される場合、AUXコイル122の電圧が上昇せず、X線管12の陽極の回転立ち上がり時間が長くなってしまう場合がある。これは、コンデンサ54(進相コンデンサ)の使用を前提として設計されたX線管12においては、AUXコイル122のインピーダンスが、MAINコイル121のインピーダンスよりも高く設計されているためである。特に、陽極の回転速度を「高速回転」とする場合、AUXコイル122の電圧が不足することにより、陽極の回転立ち上がり時間が長くなりやすい。これに対して、陽極回転コイル駆動装置5は、コンデンサ54を備えることにより、AUXコイル122に十分な電圧を供給し、陽極の回転立ち上がり時間を短縮することができる。
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、各スイッチング素子のオン時間の長さは一定であるものとして説明した。これに対し、第2の実施形態では、スイッチング素子のオン時間の長さを制御する場合について説明する。
第2の実施形態に係る陽極回転コイル駆動装置5は、図1~図4に示した第1の実施形態に係る陽極回転コイル駆動装置5と同様の構成を有し、インバータ制御回路53が行なう制御の一部が相違する。第1の実施形態において説明した構成と同様の構成を有する点については、図1~図4と同一の符号を付し、説明を省略する。
図8~図13を用いて説明したように、陽極の回転立ち上がり時においては、陽極回転コイル(MAINコイル121及びAUXコイル122)の特性が変化する。ここで、陽極回転コイルの特性の変化は、陽極回転コイルに流れる電流の大きさにも変化を及ぼす場合がある。
例えば、回転立ち上がり時においてMAINコイル121に流れる電流「Im」は、図21に示すように、陽極の回転開始後、次第に減少する。また、陽極の回転が立ち上がった時点で、電流「Im」の減少は止まる。また、定常回転時においては、電流「Im」は、一定の値となる。なお、図21は、第2の実施形態に係る陽極回転コイルを流れる電流について説明するための図である。
ここで、MAINコイル121に流れる電流「Im」は、次の式(1)で表すことができる。
式(1)において、「Zm」は、MAINコイル121のインピーダンスである。また、「V0」は、インバータ回路51の出力電圧である。また、「Rm」は、MAINコイル121の電気抵抗である。また、「j」は、虚数単位である。また、「ω」は、電流「Im」の角周波数である。また、「Lm」は、MAINコイル121のインダクタンスである。ここで、陽極の回転速度が上昇するに従って、主に、MAINコイル121の等価的なインダクタンス分「Lm」が増加する。このため、図21に示したように、回転立ち上がり時において、MAINコイル121に流れる電流「Im」が減少する。
一方で、回転立ち上がり時においてAUXコイル122に流れる電流「Ia」は、図21に示すように、陽極の回転開始後、次第に増加する。また、陽極の回転が立ち上がった時点で、電流「Ia」の増加は止まる。また、定常回転時においては、電流「Ia」は、一定の値となる。
ここで、AUXコイル122に流れる電流「Ia」は、インバータ回路51とAUXコイル122との間にコンデンサ54が挿入されていることを考慮すると、次の式(2)で表すことができる。
式(2)において、「V0」は、インバータ回路51の出力電圧である。また、「Za」は、AUXコイル122のインピーダンスである。また、「j」は、虚数単位である。また、「ω」は、電流「Ia」の角周波数である。また、「C」は、コンデンサ54の静電容量である。また、「Ra」は、AUXコイル122の電気抵抗である。また、「La」は、AUXコイル122のインダクタンスである。ここで、コンデンサ54の静電容量「C」は、電流「Ia」の位相を電流「Im」に対して「90度」進めるため、次の式(3)で示す関係を満たすように設定される。
MAINコイル121と同様、陽極の回転速度が上昇するに従って、AUXコイル122の等価的なインダクタンス分「La」は増加する。しかしながら、上記の式(3)で示す関係を満たすように静電容量「C」が設定されているため、陽極の回転速度が上昇すると、式(2)における分母は小さくなる。このため、図21に示したように、回転立ち上がり時において、AUXコイル122に流れる電流「Ia」は増加する。
更に、AUXコイル122の電圧「Va」は、次の式(4)で表すことができる。従って、陽極の回転が立ち上がり時においては、陽極の回転速度が上昇するとともに、電圧「Va」も上昇する。また、陽極の回転が立ち上がって回転速度が定常値となると、電圧「Va」の上昇も止まる。
上述したように、陽極の回転が立ち上がり時においては、AUXコイル122の電圧「Va」が上昇する。この時、電圧「Va」は、三相交流電源ACから供給される電圧以上に上昇する。例えば、三相交流電源ACから「400V」の三相交流電圧が供給された場合において、電圧「Va」は、「1000V」を超える場合もある。
そこで、インバータ制御回路53は、陽極の回転が立ち上がり時において、図22に示すように、スイッチング素子514及びスイッチング素子515を「オン」とする時間を短縮する。即ち、インバータ制御回路53は、陽極の回転が立ち上がり時において、AUXコイル122に対応するスイッチング素子のオン時間を短縮する。なお、図22は、第2の実施形態に係るスイッチング素子の動作制御の一例を示す図である。
ここで、インバータ制御回路53は、スイッチング素子の動作タイミングの制御と、オン時間の長さの制御とを連動して行なってもよい。例えば、陽極の回転を開始した時点においては、インバータ制御回路53は、図15に示したように、スイッチング素子512及びスイッチング素子513と、スイッチング素子514及びスイッチング素子515とで、動作タイミング及びオン時間が同じになるように制御する。また、陽極の回転開始後、インバータ制御回路53は、図22に示したように、スイッチング素子512及びスイッチング素子513の動作タイミングに対して、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の動作タイミングを早める。更に、インバータ制御回路53は、スイッチング素子514及びスイッチング素子515のオン時間を、スイッチング素子512及びスイッチング素子513のオン時間よりも短くする制御を行うことで、AUXコイル122の電圧「Va」の過度な上昇を抑制する。
上述したように、第2の実施形態に係るインバータ回路51は、陽極の回転立ち上がり時において、インバータ回路51におけるスイッチング素子のうち、AUXコイル122に対応するスイッチング素子のオン時間を短縮する。従って、第2の実施形態に係る陽極回転コイル駆動装置5は、AUXコイル122の電圧「Va」の過度な上昇を抑制することができる。ひいては、陽極回転コイル駆動装置5は、電圧「Va」が上昇し過ぎたことに起因して生じる不具合(例えば、配線や回路構成部品の耐圧不良など)の発生を抑制することができる。
(第3の実施形態)
上述した第1~第2の実施形態では、陽極の回転速度が所定の回転速度(普通回転、又は、高速回転)となるように、陽極の回転を立ち上げる場合について説明した。第3の実施形態では、更に、X線管12の陽極の回転速度の設定を切り替え可能とし、切り替え前における設定の回転速度から切り替え後における設定の回転速度に向けて、陽極の回転を立ち上げる場合について説明する。
第3の実施形態に係る陽極回転コイル駆動装置5は、図1~図4に示した第1の実施形態に係る陽極回転コイル駆動装置5と同様の構成を有し、インバータ制御回路53が行なう制御の一部が相違する。第1の実施形態において説明した構成と同様の構成を有する点については、図1~図4と同一の符号を付し、説明を省略する。
第3の実施形態に関わる陽極回転コイル駆動装置5は、図23に示すように、インバータ回路51と、インバータ制御回路53と、コンデンサ54と、切り替えリレー57aと、切り替えリレー57bとを備える。また、インバータ回路51は、DCスナバコンデンサ511aと、DCスナバコンデンサ511bと、スイッチング素子512と、スイッチング素子513と、スイッチング素子514と、スイッチング素子515と、スイッチング素子516と、スイッチング素子517とを備える。なお、図23は、第3の実施形態に関わる陽極回転コイル駆動装置5の一例を示す図である。
例えば、陽極の回転速度を「普通回転」とする場合、インバータ制御回路53は、切り替えリレー57aを、b端子に接続する。これにより、AUXコイル122とインバータ回路51とは、コンデンサ54を介すことなく接続される。即ち、インバータ制御回路53は、陽極の回転数の設定が第1の回転数である場合、MAINコイル121及びAUXコイル122と、インバータ回路51とを、コンデンサ54を介すことなく接続する。
また、陽極の回転速度を「普通回転」とする場合、インバータ制御回路53は、切り替えリレー57bをd端子に接続する。これにより、インバータ制御回路53は、AC/DC変換回路4の出力電圧の中間電圧を取り出すことができる。
例えば、三相交流電源ACが実効値「400V」の三相交流電圧をAC/DC変換回路4に供給する場合、直列接続された平滑コンデンサ42a及び平滑コンデンサ42bの両端における2つの端子の電位差は「560V」となる。即ち、AC/DC変換回路4の出力電圧は「560V」である。ここで、インバータ制御回路53は、切り替えリレー57bをd端子に接続することにより、出力電圧「560V」の中間電圧「280V」を、直列接続された平滑コンデンサ42a及び平滑コンデンサ42bの中間点から取り出すことができる。この際、平滑コンデンサ42a及び平滑コンデンサ42bの中間点は、DCスナバコンデンサ511a及びDCスナバコンデンサ511bの中間点と接続される。なお、中間電圧「280V」は、第1の直流電圧の一例である。また、AC/DC変換回路4の出力電圧「560V」は、第2の直流電圧の一例である。
切り替えリレー57aをb端子に接続し、切り替えリレー57bをd端子に接続する場合、インバータ回路51は、図24に示す回路構成となる。即ち、インバータ制御回路53は、陽極の回転数の設定が第1の回転数である場合、第1の直流電圧をインバータ回路51に入力するとともに、MAINコイル121及びAUXコイル122とインバータ回路51とを、コンデンサ54を介すことなく接続する。なお、図24は、第3の実施形態に関わる陽極回転コイル駆動装置5の一例を示す図である。
ここで、図25を用いて、陽極の回転速度を「普通回転」とする場合におけるスイッチング素子の動作制御について説明する。インバータ制御回路53は、図25に示すように、各スイッチング素子の動作(オン動作、オフ動作)を制御し、各スイッチング素子のオン/オフを切り替える。なお、図25は、第3の実施形態に関わるスイッチング素子の動作制御の一例を示す図である。
スイッチング素子512が「オン」の時、DCスナバコンデンサ511aの両端の電圧「280V」が、MAINコイル121に対して、プラス方向に印加される。この時、MAINコイル121の電圧は、COM端子に対して「+280V」となる。また、スイッチング素子513が「オン」の時、DCスナバコンデンサ511aの両端の電圧「280V」が、MAINコイル121に対して、マイナス方向に印加される。この時、MAINコイル121の電圧は、COM端子に対して「-280V」となる。このように、インバータ制御回路53は、スイッチング素子512及びスイッチング素子513の動作を制御することにより、MAINコイル121に対して、両極性(プラス及びマイナス)の交流電圧を印加することができる。
同様に、スイッチング素子514が「オン」の時、DCスナバコンデンサ511aの両端の電圧「280V」が、AUXコイル122に対して、プラス方向に印加される。この時、AUXコイル122の電圧は、COM端子に対して「+280V」となる。また、スイッチング素子515が「オン」の時、DCスナバコンデンサ511aの両端の電圧「280V」が、AUXコイル122に対して、マイナス方向に印加される。この時、AUXコイル122の電圧は、COM端子に対して「-280V」となる。このように、インバータ制御回路53は、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の動作を制御することにより、AUXコイル122に対して、両極性(プラス及びマイナス)の交流電圧を印加することができる。
ここで、インバータ制御回路53は、図25に示すように、スイッチング素子512及びスイッチング素子513の動作タイミングに対して、スイッチング素子514及びスイッチング素子515の動作タイミングを「90度」早めるように制御する。これにより、インバータ制御回路53は、AUXコイル122に、MAINコイル121に対して「90度」位相が進んだ交流電圧を印加する。
なお、MAINコイル121及びAUXコイル122等のコイルは、抵抗及びリアクタンス(インダクタンス)の分だけ、コイルに印加した電圧に対してコイルに流れる電流の位相が遅れる。しかしながら、MAINコイル121とAUXコイル122とで、抵抗とリアクタンスとの比率は略等しい。従って、MAINコイル121及びAUXコイル122に「90度」位相がずれた二相交流電圧を印加した場合、MAINコイル121及びAUXコイル122には、「90度」位相がずれた二相交流電流が流れることとなる。
また、陽極の回転状態に応じて、MAINコイル121及びAUXコイル122の特性は変化する。しかしながら、陽極の回転立ち上がり時において、抵抗とリアクタンスとの比率は、MAINコイル121とAUXコイル122とで同様に変化していくため、MAINコイル121及びAUXコイル122に流れる二相交流電流の位相差は、「90度」に維持される。
一方で、陽極の回転速度を「高速回転」とする場合、インバータ制御回路53は、図23に示す切り替えリレー57aを、a端子に接続する。これにより、AUXコイル122とインバータ回路51とは、コンデンサ54を介して接続される。即ち、インバータ制御回路53は、陽極の回転数の設定が第2の回転数である場合、AUXコイル122とインバータ回路51とを、コンデンサ54を介して接続する。
また、陽極の回転速度を「高速回転」とする場合、インバータ制御回路53は、切り替えリレー57bをc端子に接続する。これにより、インバータ制御回路53は、AC/DC変換回路4の出力電圧「560V」を取り出すことができる。即ち、インバータ制御回路53は、陽極の回転数の設定が第2の回転数である場合、第2の直流電圧をインバータ回路51に入力する。
切り替えリレー57aをa端子に接続し、切り替えリレー57bをc端子に接続する場合、インバータ回路51は、DCスナバコンデンサ511に代えてDCスナバコンデンサ511a及びDCスナバコンデンサ511bを有する点を除き、図3と同様の回路構成となる。なお、DCスナバコンデンサ511の静電容量が、DCスナバコンデンサ511aの静電容量及びDCスナバコンデンサ511bの静電容量の2倍である場合、DCスナバコンデンサ511aとDCスナバコンデンサ511bとの直列回路による合成容量は、DCスナバコンデンサ511の静電容量と同じである。この場合において、図23の切り替えリレー57aをa端子に接続し、切り替えリレー57bをc端子に接続する場合、インバータ回路51は、図3と同じ回路構成となる。
なお、陽極の回転速度を「普通回転」とする場合において、切り替えリレー57aをa端子に接続し、切り替えリレー57bをc端子に接続することも考えられる。即ち、図3と同じ回路構成において、「普通回転」と「高速回転」とを切り替えることも考えられる。しかしながら、陽極の回転速度を「普通回転」とする場合、陽極の回転速度を「高速回転」とする場合と比較して、コンデンサ54の静電容量を増やす必要がある。即ち、「普通回転」と「高速回転」とを切り替えるに当たって、コンデンサ54の静電容量を切り替える必要がある。また、陽極の回転速度を「普通回転」とする場合にMAINコイル121及びAUXコイル122に印加する電圧は、陽極の回転速度を「高速回転」とする場合にMAINコイル121及びAUXコイル122に印加する電圧の約「1/2」とする必要がある。即ち、「普通回転」と「高速回転」とを切り替えるに当たって、インバータ回路51の出力電圧を切り替える必要がある。
また、陽極の回転速度を「高速回転」とする場合において、切り替えリレー57aをb端子に接続し、切り替えリレー57bをd端子に接続することも考えられる。即ち、図24の回路構成において、「普通回転」と「高速回転」とを切り替えることも考えられる。例えば、図25に示したスイッチング素子の動作(オン動作及びオフ動作)を「180Hz」の周波数で実行すれば、MAINコイル121及びAUXコイル122に、「90度」位相のずれた「180Hz」の二相交流電流を供給することが可能である。しかしながら、コンデンサ54を介さずにインバータ回路51とAUXコイル122とが接続される場合、AUXコイル122の電圧が不足することにより、陽極の回転立ち上がり時間が長くなりやすい。
これに対して、第3の実施形態に係るインバータ回路51は、切り替えリレー57a及び切り替えリレー57bを制御し、陽極の回転速度を「普通回転」とする場合は、第1の直流電圧をインバータ回路51に入力するとともに、MAINコイル121及びAUXコイル122とインバータ回路51とを、コンデンサ54を介すことなく接続する。一方で、陽極の回転速度を「高速回転」とする場合、インバータ回路51は、第1の直流電圧よりも大きい第2の直流電圧をインバータ回路51に入力するとともに、AUXコイル122とインバータ回路51とを、コンデンサ54を介して接続する。従って、第3の実施形態に係る陽極回転コイル駆動装置5は、X線管12の陽極の回転速度を切り替え可能としつつも、陽極の回転立ち上がり時間を短縮することができる。
(第4の実施形態)
さて、これまで第1~第3の実施形態について説明したが、上述した実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
上述した実施形態では、インバータ回路51におけるスイッチング素子が、IGBTとフリーホイール・ダイオードとによって構成されるものとして説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、インバータ回路51におけるスイッチング素子は、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、ジャンクションFET、又は、これらとダイオードとの組み合わせによって構成されてもよい。また、例えば、インバータ回路51におけるスイッチング素子は、バイポーラ・トランジスタ(Bipolar transistor)と、ダイオードとの組み合わせによって構成されてもよい。
また、図5、図6、図15、図16、図20、図22及び図25では、スイッチング素子の動作を矩形波で表したが、実施形態はこれに限定されるものではない。即ち、各図に示した波形については、任意の変形が可能である。例えば、インバータ制御回路53は、出力波形に対して、スイッチング素子の動作(オン動作及びオフ動作)の周波数より高い周波数(キャリア周波数)で変調をかけ、矩形波以外の波形(例えば、疑似正弦波、疑似台形波、その他の疑似波形)を生成してもよい。
また、上述した実施形態では、電源供給部として、実効値「400V」の三相交流電圧を供給する三相交流電源ACについて説明した。また、上述した実施形態では、AC/DC変換回路4が、三相全波整流回路であるものとして説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、電源供給部を、実効値「200V」の単相交流電圧を供給する単相交流電源とし、AC/DC変換回路4を、倍電圧整流回路としてもよい。
また、上述した実施形態では、AC/DC変換回路4が、陽極回転コイル駆動装置5、高圧発生インバータ回路61及びフィラメント加熱回路71に対して、電圧を供給するものとして説明した。即ち、陽極回転コイル駆動装置5は、AC/DC変換回路4を、X線発生用の高電圧を発生させるための回路やX線管のフィラメントを加熱するための回路と共有するものとして説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、陽極回転コイル駆動装置5はAC/DC変換回路4から電圧の供給を受け、高圧発生インバータ回路61及びフィラメント加熱回路71は、AC/DC変換回路4以外の回路から電圧の供給を受けることとしてもよい。
また、上述した実施形態では、X線画像診断装置の一例として、X線診断装置1について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、上述した陽極回転コイル駆動装置5を、X線CT装置が有する場合であってもよい。この場合、X線CT装置におけるX線管は、第1の陽極回転コイル及び第2の陽極回転コイルを有する。また、陽極回転コイル駆動装置5のインバータ回路51は、例えば、X線CT装置における第1の陽極回転コイルとコンデンサを介して接続され、第2の陽極回転コイルとコンデンサを介さずに接続される。また、陽極回転コイル駆動装置5のインバータ制御回路53は、インバータ回路51におけるスイッチング素子の動作を制御して、CTスキャンにおける陽極の回転立ち上がり時間を短縮する。そして、X線CT装置におけるX線管は、陰極から発生させた熱電子を回転する陽極に衝突させることで、被検体に照射するX線を発生する。
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、X線管の陽極の回転立ち上がり時間を短縮することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。