JP7170345B1 - コイル、ステータ、モータおよびコイルの製造方法 - Google Patents

コイル、ステータ、モータおよびコイルの製造方法 Download PDF

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Abstract

Figure 0007170345000001
【課題】 コイルにおける渦電流の発生を抑制し、ジュール損失の低減が可能なコイル、ステータ、モータを提供する。
【解決手段】 コイル10は、一の導体の一周回により構成される周回領域CRを複数連続させて螺旋構造とするものであり、導体は、長手方向において第一部材15と第二部材16の接続により構成され、複数の周回領域CRは、少なくとも一部に第一部材15を含む。
【選択図】図4

Description

本発明は、コイル、ステータ、モータおよびコイルの製造方法に関する。
モータのような電気コイルを用いた電気部品において、特に高出力を実現するには大電流を流す必要があるが、その分発熱も大きくなり、エネルギーの損失(ジュール損失)が問題となる。
モータの熱による損失は、主に、コイルの巻き線抵抗(R)と流れる電流(I)から発生する電力損失(P=I×R、銅損ともいう)と、磁界とその変化による損失の電力損失(ヒステリシスによる損失と磁界の変化により磁性体に発生する渦電流による損失、鉄損ともいう)、さらにモータ内の摩擦や空気抵抗などによる損失(機械損ともいう)がある。
従来では、コイルの外形状の観点(例えば、特許文献1参照)や、制御の観点(例えば、特許文献2参照)などから銅損や鉄損の低減を目的として、様々な検討がなされている。
また、特にコイル(およびその構成材料)に着目した場合には、銅損と、鉄損のうち特に渦電流による損失(コイルに流れる電流とコイルを鎖交する磁束による渦電流に起因する交流損)がジュール損失の大きな要因になっているといえる。そして現状では、コイルの構成材料としては、銅(Cu)部材やアルミニウム(Al)部材などが一般的に使用されている。
特開2020-5370号公報 特許第6795267号
しかしながら、主に銅部材(銅や銅合金など)により構成したコイル(以下、銅製コイル)や、主にアルミニウム(Al)部材(アルミニウムやアルミニウム合金など)により構成したコイル(以下、アルミニウム製コイル)はそれぞれに一長一短がある。
具体的に、銅製コイルはアルミニウム製コイルに比べて抵抗が小さく銅損は少ないが重量が大きくなる。一方、アルミニウム製コイルは、銅製コイルに比べて軽量・廉価且つ鉄損は少ないが、銅損は大きい特性がある。
このようなことから、コイル材料の検討によりモータとしての損失を低減し、効率を向上させるにも限界があった。
本発明は、このような課題に鑑み、コイルにおける渦電流の発生を抑制し、ジュール損失の低減が可能なコイル、ステータ、モータおよびコイルの製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、導体によって構成され、ステータの複数のティースにそれぞれ取り付けられるコイルであって、前記導体は、一の前記ティースの周りを一周回する周回領域を、該ティースが突出する方向に複数重ねるように連続させて螺旋構造とした集中巻きで構成され、前記導体は、第一部材と、前記第一部材よりも抵抗値が低い導体である第二部材との圧接により構成され、それぞれの前記周回領域は角部と直線部を有する略矩形状であり、それぞれの前記周回領域は、ロータの回転軸中心線を含む仮想切断面により前記ロータの回転方向上流側の領域である第一半周領域と、前記ロータの回転方向下流側の領域である第二半周領域に二分され、なくとも前記ロータに直近の周回領域は、前記第一半周領域の少なくとも一部が前記第一部材により構成され、前記第二半周領域前記第二部材により構成される、ことを特徴とするコイルに係るものである。
また、本発明は、上記のコイルを取り付けたステータに係るものである
また、本発明は、上記のコイルを備えたモータに係るものである
また、本発明は、上記のコイルを備えたモータであって、前記周回領域の全てが前記第二部材により構成された同一形状のコイルを備えたモータを仮定して運転した場合と比較して、高回転数領域では損失が該モータより小さい一方、低回転数領域では該モータより損失が大きくなる、ことを特徴とするモータに係るものである。
また、本発明は、ステータの複数のティースにそれぞれ取り付け可能であり、一の該ティースの周りを一周回する周回領域を、該ティースが突出する方向に複数重ねるように連続させて螺旋構造とする集中巻きのコイルの製造方法であって、連続させることで、角部と直線部を有する略矩形状の前記周回領域を複数形成可能複数のコイル片を準備する工程と、前記複数のコイル片のうち、第一コイル片と第二コイル片を圧接しロータに直近の前記周回領域を形成する工程を有し、前記第一コイル片は、前記ロータの回転軸中心線を含む仮想切断面により前記ロータの回転方向上流側の領域となる第一半周領域を構成するコイル片であり少なくとも一部が第一部材からなり、前記第二コイル片は、前記ロータの回転方向下流側の領域となる第二半周領域を構成するコイル片であり、前記第一部材よりも抵抗値が低い第二部材からなる、ことを特徴とするコイルの製造方法に係るものである。
また、本発明は、上記コイルを取り付けたステータに係るものである。
また、本発明は、上記コイルを備えたモータに係るものである。
また、本発明は、上記コイルを備えたモータであって、周回領域の全てが前記第二部材により構成された同一形状のコイルを備えたモータを仮定して運転した場合と比較して、高回転数領域では損失が該モータより小さい一方、低回転数領域では該モータより損失が大きくなる、ことを特徴とするモータに係るものである。
本発明によれば、コイルにおける渦電流の発生を抑制し、ジュール損失の低減が可能なコイル、ステータ、モータおよびコイルの製造方法を提供することができる。
本実施形態に係るコイルを示す概略図であり、(A)平面図、(B)側面図、(C)側面図である。 本実施形態に係るコイルを示す概略図であり、(A)断面図、(B)平面図、(C)断面図、(D)平面図、(E)断面図、(F)平面図、(G)断面図、(H)平面図である。 本実施形態に係るコイルを示す概略図であり、(A)平面図、(B)平面図、(C)平面図、(D)断面図、(E)断面図である。 本実施形態を説明する概略図であり、(A)モータの平面図、(B)モータの側断面図、(C)断面図、(D)正面図である。 (A)従来のモータにおけるジュール損失と回転数の関係を示す概念図であり、(B)銅製コイルに発生するジュール損失とモータ回転数の関係を説明する概念図であり、(C)アルミニウム製コイルに発生するジュール損失とモータ回転数の関係を説明する概念図である。 銅製コイルに発生するジュール損失密度を示す図である。 銅製コイルに発生するジュール損失割合を示す図である。 コイルに生じるジュール損失について説明する図であり、(A)コイルを展開して示す平面概要図、(B)、(C)銅製コイルに発生するジュール損失とモータ回転数の関係を説明する概念図、(D)、(E)アルミニウム製コイルに発生するジュール損失とモータ回転数の関係を説明する概念図、(F)、(G)本実施形態のコイルに発生するジュール損失とモータ回転数の関係を説明する概念図である。 従来構造と本実施形態のコイルにおけるジュール損失の比較を示す図である。 本実施形態を説明する概略図であり、(A)モータの側断面図、(B)断面図である。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本図及び以降の各図において、一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。そして、本図及び以降の各図において、部材の大きさ、形状、厚み等を適宜誇張して表現する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るコイル10の概要を示す図であり、同図(A)が螺旋形状のコイル10の螺旋の軸(螺旋軸)SC方向から見た正面図、同図(B)が短辺104(同図(A)の例えば左)方向から見た側面図であり、同図(C)が長辺103(同図(A)の例えば下)方向から見た側面図である。なお、本図及び以降の各図において、一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。そして、本図及び以降の各図において、部材の大きさ、形状、厚み等を適宜誇張して表現する。
図1に示すように、本実実施形態のコイル10は、一例として、長尺帯状の平導体により螺旋構造体を構成したものである。全体の外形状は一例として、平面視(同図(A))においては、短辺104と長辺103を有する略矩形状であり、側面視(同図(B)、同図(C)においては略台形状を有する略四角錐台形状である。短辺104と長辺103は直線部101を含み、直線部101で挟まれた部分に略直角の角部102が形成されている。なお、コイル10形状は一例であり、同図の例に限らない。
コイル10は、螺旋軸SC方向に重なる複数の周回領域CRを有する。ここで、本実施形態における「周回領域」とは、図1(A)の破線矢印で示す、螺旋構造体の各ターン、すなわち1周分の領域(周回領域)を言う。なお、説明の便宜上、複数の周回領域CRを互いに分離して図示し、また重ねた層の数で説明する場合があるが、螺旋構造であるので1つのコイル10を構成する各周回領域CRは同図(B)に示す螺旋構造体の開始端105から終了端106まで連続している。なお、説明の便宜上、同図(B)の下方を開始端105、上方を終了端106と称しているが、両者を入れ替えても同様である。
コイル10は、複数の周回領域CRの中心が螺旋軸SCに略一致するように螺旋軸SC方向(同図(B),同図(C)の上下方向)に複数重畳するようにして螺旋を構成している、所謂、集中巻きのコイルである。
また、コイル10は、一例として、同図(A)に示すようにそれぞれ直線部分(直線部101)を有する帯状の平導体により螺旋構造体を形成した(完成した状態では平導体が巻回された構成となる)エッジワイズコイルである。
つまり周回領域CRのそれぞれは、一の(1枚の)平導体を一周させた構成であり(一周回により構成され)、複数の周回領域CRが螺旋軸SC方向に複数(図1(B)では例えば、6層)重ねられる。同図(B)において例えば開始端105側(短辺104の長さが短い方)から1層目の周回領域(1層目周回領域)CR1、2層目の周回領域(2層目周回領域)CR2、3層目の周回領域(3層目周回領域)CR3、4層目の周回領域(4層目周回領域)CR4、5層目の周回領域(5層目周回領域)CR5,6層目の周回領域(6層目周回領域)CR6はいずれも連続する長尺帯状の一の導体(1枚の平導体)により構成される。
なお、同図では最下層を1層目としているが、周回領域CRの重ね(積層)順はこの例に限らず、最上層が1層目であってもよい。また、周回領域CRの数も一例であり、任意の数が選択される(以下の説明において同様)。
図2は、本実施形態のコイル10の詳細を説明する図であり、同図(A)、同図(C)、同図(E),同図(G)は、図1(A)のA-A線の断面に対応する断面図である。なお同図では一例として、1つのコイル10は4層の周回領域CRで構成されているものとし、また同図(A)、同図(C)、同図(E),同図(G)では開始端105と終了端106の図示は省略しているが、図1(B)と同様に、短辺104の長さが短い方(図では下層)から、1層目周回領域CR1、2層目周回領域CR2…として説明する。また、同図(B)、同図(D)、同図(F)、同図(H)はそれぞれ同図(A)、同図(C)、同図(E),同図(G)のコイル10を展開したと仮定した場合の平面概要図である。
本実施形態のコイル10は、一の導体の一周回により構成される周回領域CRを複数連続させて螺旋構造体とするものであり、一の導体は、第1部材15(同図においてハッチングで示す)と第2部材16を接続してなる。そして、複数の周回領域CRは、少なくとも一部に第1部材15を含む。好適には、複数の周回領域CRは、第1周回領域CRaと、第2部材16を含む第2周回領域CRbとを含む。さらに好適には、第2周回領域CRbは、第2部材16のみから構成される。複数の周回領域CRは、螺旋軸SC方向に重なるように構成され、第1周回領域CRaは螺旋軸SC方向の一端(端部T1)側に位置し、第2周回領域CRbは第1周回領域CRaよりも螺旋軸SCの他の端部(端部T2)側に位置する。
第1周回領域CRaがその一部に第1部材15を含む場合、一周の途中において第1部材15と第2部材16が切り替わる(一周の途中に第1部材15と第2部材16の接合部が存在する)。また好適には、第2周回領域CRbは第2部材16のみからなる。
以下具体的に説明する。同図(A),同図(B)を参照して、本実施形態のコイル10は、連続する一の導体(ここでは一枚の平導体)による螺旋構造体により構成されるが、当該一の導体は、複数の部材(第1部材15および第2部材16)から構成される。具体的には、コイル10は、螺旋軸SCの一方の端部T1側に位置する一層または複数層の周回領域CRの少なくとも一部が第1部材15からなり、螺旋軸SC方向の他方の端部T2側に位置する一層または複数層の周回領域CRが(第1部材15を含まない)第2部材16から構成される。より好適には、コイル10は、螺旋軸SCの端部T1側に位置する一層または複数層の周回領域CRの少なくとも一部が第1部材15からなり、螺旋軸SC方向の端部T2側に位置する一層または複数層の周回領域CRが(第1部材15を含まない)第2部材16のみから構成される。
第1部材15は、第2部材16よりも抵抗が高い導体(金属)である。具体的に一例を挙げると、第1部材15は、アルミニウム(Al)を主成分とする金属部材であり、第二部材は、銅を主成分とする金属部材である。
ここで、「アルミニウムを主成分とする金属」とは、純アルミニウムまたはアルミニウム合金を全体の50%以上含有する金属をいい、純アルミニウムまたはアルミニウム合金とは異なる他の成分を含む場合、他の成分の種類や数は任意である。また、純アルミニウムまたはアルミニウム合金の含有率が100%(または略100%)の金属であってもよい。以下、本明細書では、第1部材15を構成する第一の金属について単に「アルミニウム(Al)」または「アルミニウム部材」と称する場合があるが、これは「アルミニウムを主成分とする金属」の意味である。
また「銅を主成分とする金属」とは、純銅または銅合金を全体の50%以上含有する金属をいい、純銅または銅合金とは異なる他の成分を含む場合、他の成分の種類や数は任意である。また、純銅または銅合金の含有率が100%(または略100%)の金属であってもよい。以下、本明細書では、第2部材16を構成する第二の金属について単に「銅(Cu)」または「銅部材」と称する場合があるが、これは「銅を主成分とする金属」の意味である。
以下、螺旋軸SCの端部T1側に位置する一層または複数層の周回領域CRの少なくとも一部が第1部材15からなり、螺旋軸SC方向の端部T2側に位置する一層または複数層の周回領域CRが(第1部材15を含まない)第2部材16から構成される例について、さらに具体的に説明する。
同図(A)、同図(B)は、螺旋軸SCの一方の端部T1側に位置する1層目周回領域CR1が第1部材15と第2部材16の複合により構成される例である。つまり、螺旋軸SCの端部T1側に位置する1層目周回領域CR1の少なくとも一部(同図(A)では右方、同図(B)では左方の開始端105に近い側)が第1部材15からなり、同じ1層目周回領域CR1の他の部分(同図(A)では左方)が第2部材16からなり、また2層目から4層目までの周回領域CR2~CR4が第2部材16のみから構成される。この場合1層目周回領域CR1が第1周回領域CRaであり、2層目周回領域CR2から4層目周回領域CR4が第2周回領域CRbとなる。
同図(B)は同図(A)のコイル10を展開したと仮定した場合の平面図である。既に述べているように、コイル10は、連続する一の導体(ここでは1枚の平導体)を一周させて一の周回領域CRを構成し、その周回領域CRを複数(ここでは4層)連続させて構成される。そして、1層目周回領域CR1は、例えば開始端105から例えば半周分が第1部材15からなり、これと連続して1層目周回領域CR1の残りが第2部材16からなりさらにこれに連続してまた2層目から4層目までの周回領域CR(CR2~CR4)が第2部材16のみから構成される。
同図(C)、同図(D)は、螺旋軸SCの端部T1側に位置する1層目周回領域CR1の全体が第1部材15で構成され、これに連続する2層目から4層目の周回領域CR(CR2~CR4)が第2部材16により構成される例である。この場合も1層目周回領域CR1が第1周回領域CRaであり、2層目周回領域CR2から4層目周回領域CR4が第2周回領域CRbとなる。
同図(D)に示すようにこの場合、開始端105から1層目周回領域CR1の全周が第1部材15からなり、これと連続して2層目周回領域CR2以降が第2部材16のみから構成される。
同図(E)、同図(F)は、螺旋軸SCの端部T1側に位置する1層目周回領域CR1の全体が第1部材15で構成され、これに連続する2層目周回領域CR2の一部が第1部材15と第2部材16の複合により構成され、それ以外が第2部材16のみから構成される例である。つまり、螺旋軸SCの端部T1側に位置する1層目周回領域CR1の全周とこれに連続する2層目周回領域CR2の少なくとも一部(同図(E)では右方、開始端105に近い側の例えば半周分)が第1部材15からなり、同じ2層目周回領域CR2の他の部分(同図(E)では左方の例えば半周分)が第2部材16からなり、また3層目から4層目の周回領域CR(CR3,CR4)が第2部材16のみから構成される。この場合1層目周回領域CR1と2層目周回領域CR2が第1周回領域CRaであり、3層目周回領域CR3から4層目周回領域CR4が第2周回領域CRbとなる。
同図(F)に示すようにこの場合、開始端105から2層目周回領域CR2の例えば半周分までが第1部材15からなり、これと連続して2層目周回領域CR2の残り半周分が第2部材16から構成され更に連続して3層目から4層目までの周回領域CR(CR3~CR4)が第2部材16のみから構成される。
同図(G)、同図(H)は、1層目周回領域CR1と2層目周回領域CR2のそれぞれが第1部材15と第2部材16の複合により構成され、それ以外が第2部材16により構成される例である。つまり、螺旋軸SCの端部T1側に位置する1層目周回領域CR1の少なくとも一部(同図(G)では右方側、開始端105に近い側の例えば半周分)が第1部材15からなり、同じ1層目周回領域CR1の他の部分(同図(G)では左方側の例えば半周分)が第2部材16からなる。またこれに連続する2層目周回領域CR2の少なくとも一部(同図(G)では右方側の例えば半周分)が第1部材15からなり、同じ2層目周回領域CR2の他の部分(同図(G)では左方側の例えば半周分)が第2部材16からなる。そして、これに連続する3層目から4層目までの周回領域CR(CR3~CR4)が第2部材16のみから構成される。この場合1層目周回領域CR1と2層目周回領域CR2が第1周回領域CRaであり、3層目周回領域CR3から4層目周回領域CR4が第2周回領域CRbである。
同図(H)に示すようにこの場合、開始端105から2層目周回領域CR2までは例えば半周毎に第1部材15と第2部材16が交互に配置され、これと連続して3層目から4層目までの周回領域CR(CR3,CR4)に第2部材16のみが配置される構成となる。
なお、同図(A),同図(E)、同図(G)の第1周回領域CRaにおいて第1部材15が周回領域CRの半周分に設けられる場合を例示したが、各図の左側部分に相当する半周分に設けられてもよい。また、ここでは例えば第1周回領域CRaの一例として、周回領域CRの半周分に第1部材15が設ける構成を示しているが、第1周回領域CRaの第1部材15の範囲は、半周分より多くてもよいし少なくてもよい。第1周回領域CRaが2層目周回領域CR2までである場合を例示したが、3層目周回領域CR3以降も第1部材15を含む構成(すなわち第1周回領域CRa)であってもよく、コイル10の全ての周回領域CRが第1周回領域CRaであってもよい。
次に、図3を参照して本実施形態のコイル10の製造方法の一例について説明する。図3は、コイル10の構成部材を説明する概要図であり、同図(A)が完成状態のコイル10を螺旋軸SC方向から見た平面図(図1(A)に対応する平面図)であり、同図(B)、同図(C)がコイル10を構成する平導体片Cの一例を示す平面図であり、同図(D)および同図(E)は同図(B)のB-B線断面を拡大した図である。
コイル10は一例として、連続させると螺旋構造を形成可能な帯状の複数の平導体片(コイル片)Cを接合して螺旋構造体を形成するものである。より具体的に、コイル10は、一例として、直線部101を有する帯状の複数の平導体片Cを、それらの直線部101において帯長手方向(螺旋進行方向)BLに沿ってつなぎ合わせ、それらコイル片Cの螺旋進行方向の端面TS同士を突き合わせて押圧(圧接、例えば、冷間圧接)し、所望の巻き数となるように連続させて螺旋構造体とするものである。つまり一の周回領域CRは一または複数の平導体片Cの接続により構成される。それぞれの周回領域CRは角部が略直角であり、コイル10の螺旋軸SC方向から見た平面視(図3(A),図1(A))において外周側および内周側のいずれも(略)矩形状となる。以下、平導体片Cをコイル片Cという場合もある。
図3(B)に示すように本実施形態の平導体片(コイル片)Cは、例えば、帯長手方向BL(螺旋構造の進行方向)の直線部に交差(直交)する方向(帯短手方向BS)に切断した場合の切断面(B-B線断面)が、同図(D)に示すように矩形状または同図(E)に示すように角丸矩形状の導体である。すなわち、コイル片Cは、対向する2つの第一の面(ここでは幅広の面)WSと、対向する2つの第二の面(ここでは幅狭の面)WTを有し、所定方向に長い帯状部材である。以下の説明ではコイル片Cの一例として帯長手方向に直交する断面が、同図(D)に示すように(略)矩形状を有するものである場合を例に説明する。
複数のコイル片Cは例えば、面を揃えた状態でその端面同士が接続される。ここで「面を揃えた状態」とは、コイル片Cの断面形状が、正方形や丸線など縦横に対称な形状でない場合(同図(D)などのように略矩形状の場合)に、「2つのコイル片Cの形状が対応する面が同じ方向に向くように(例えば上面になるように)揃えた状態」をいう。具体的に、コイル片Cが同図(D)に示すように幅広の第一の面WSと幅狭の第二の面WTを有する場合、2つのコイル片Cは幅広の面(第一の面WS)同士が上に向くように揃えて接続される。その場合、2つのコイル片C同士の幅広の長さ(サイズ、端面の形状)は異なってもよい。
なお、説明の便宜上、第一の面WSが幅広の面であり、第二の面WTが幅狭の面としたが、第一の面WSが幅狭の面で第二の面WTが幅広の面であってもよく、第一の面WSと第二の面WTの長さが同等の、断面視において略正方形状であってもよい。また、上記の「面を揃えた状態の」接続は一例であり、これに限らず例えば、一方のコイル片Cの幅広の第一の面と他方のコイル片Cの幅狭の第二の面WTとを同じ方向に向けて(例えば上面になるようにして、面を揃えずに)接合してもよい。
コイル片Cはそれぞれ、例えば板状の金属(例えば、厚さ0.1mm~5mm程度)を所望の形状に打ち抜いて得られたものであり、少なくとも直線部101と、少なくとも1つの角部102を有する。ここで、角部102は、帯長手方向BLの延在方向を変化させるように曲折した部位である。角部102の少なくとも1つ(好適には全て)は、非湾曲(例えば、略直角)形状の角部であることが望ましい。この例では、角部102は図1(A)にハッチングで示すように、略正方形状領域である。また、本実施形態のコイル片Cの端面TSは、コイル片Cの角部102を除いた直線部101に位置するものとする。以下の例では、1つのコイル片Cが、図3(C)に示すように2つの略直角の角部102(角部)を有する(略)U字形状である場合を例示する。しかしコイル片Cの形状はこれに限らず、例えば、略L字状、略C字状などであってもよい。また、複数のコイル片Cは、全てのコイル片Cが同じ形状であってもよいし、異なる形状の組合せであってもよい。また、異なる形状のコイル片Cを組み合わせる場合、角部102を有しない直線状(I字状)のコイル片Cが含まれていてもよい。
このような複数のコイル片Cについて、螺旋進行方向の端面TS同士を突合せて圧接(例えば、冷間圧接)すると、図3(A),図1(A)に示すように、コイル10は、周回領域CRの角部102を除く直線部101に、圧接によるコイル片接合部13が形成される。またコイル10を展開したと仮定すると図2に示すように複数のコイル片Cの接続による連続した一枚の長尺帯状の平導体となり、複数の周回領域(周回領域CR)が構成される。
このように本実施形態では複数のコイル片Cを押圧して螺旋構造を形成するため、1つのコイル10を、複数の部材(第1部材15、第2部材16)で構成できる。より具体的には、完成形のコイル10としては長尺帯状の平導体により螺旋構造体とする構成であるが、その長尺の方向(長手方向)において第1部材15と第2部材16を混在させることができ、その部位や長さ(長手方向の配置領域)も任意に選択できる。これによりある一つの周回領域CRの中で例えば半周分を第1部材15で構成し、残りの半周分を第2部材16で構成することが可能となり、結果として、図2に示すように所望の領域のみ第1部材15で構成したコイル10が得られる。
なお、図3に示す所定形状の(例えば略U字状の)複数のコイル片Cを圧接して螺旋構造体とした場合(線状の導体を巻回したものと異なり)、実際は図2に示すような直線状には展開できないが、開始端105から終了端106まで、各周回領域CRを構成する第1部材15および/または第2部材16の配置状態の説明として概念的に図2を示している。
また、所望の形状(例えば、略直角の角部102(角部)を有するU字状など)に打ち抜いた複数のコイル片Cの繋ぎ合わせで構成できるため、コイル10の平面視(同図(A))の形状(特に内周側の形状)を略矩形状にすることができるので、例えば、モータのステータに取り付ける場合においてコイル10の占積率を高めることができる。これにより、当該コイル10を採用したモータの低抵抗化・高効率化を実現できる。
本実施形態のコイル10は、一例としてモータを構成するステータに取り付けられる。その場合、コイル10の平面視(同図(A))において周回領域CRの内側空間にステータ(コア)のティースが挿通される。そしてコイル10は、螺旋軸SCの一方の端部(上記では端部T1)よりに第1部材15を配置するものであるが、当該コイル10をモータの部品としてステータに取り付ける場合には、ロータとの位置関係に基づき、第1部材15の配置領域を決定する。以下これについて説明する。
図4は、本実施形態のコイル10を有するモータ70の一部を抜き出して示す概要図であり、同図(A)はロータ60とステータ50をモータ70(ロータ60)の回転軸方向から見た平面概要図であり、同図(B)は当該回転軸が図示上下方向に延在するように配置した場合の側面概要図である。ここでは一例として、ステータ50の内側(内周側)にロータ60が配置されるインナーロータ型のモータ70を例に説明する。同図(C)は、同図(A)のコイル10部分の拡大図を、図1(A)のA-A線の断面(図2(A),同図(C)、同図(E),同図(G))に対応する断面図として示した図である。また、同図(D)は同図(C)の1つのコイルを螺旋軸SC(モータ70の回転軸)方向から見た正面概要図である。
同図(A)、同図(B)に示すように、モータ(例えば単相モータ、三相モータなど)70は、例えば、回転軸(シャフト)80、ロータ60、ステータ50等を有し、ステータ50に対してロータ60が回転可能となるように組み付けられる。シャフト80は柱状部材であり、例えばベアリング(不図示)に支持されながら、その中心軸まわりに回転する。シャフト80端には、ギア等の動力伝達機構を介して、駆動対象となる装置(不図示)が連結される。
ロータ60の詳細な図示は省略するが、その周方向にマグネットが配置され、シャフト80とともに回転する。ステータ50は例えば、ロータ60の径方向外側に配置され、周方向に配置されたコイル10によってロータ60を回転させるための力を発生させる。ステータ50の外部端子は、例えばリード線などを介してモータへ電力を供給する駆動回路あるいは電源(いずれも不図示)に接続される。
同図(A)~同図(C)に示すようにステータ50は、複数のコイル10と、環状に配置される複数のティース51を有する環状のステータ部材(ステータコア)52を有する。コイル10は上述したものと同様であるが、その周囲(平導体の周囲)は例えば螺旋進行に連続して絶縁樹脂(ここでは不図示)などで覆われ、各周回領域CRが互いに絶縁されている。複数のティース51のそれぞれには、例えばインシュレータ(不図示)を介してコイル10が取り付けられる。
モータ70は、電源あるいは駆動回路から、バスバー(不図示)などの配線部材を介してコイル10に駆動電流を与える。これにより、ステータ50(のティース51)に磁束が生じる。そして、ティース51とマグネットの間の磁束の作用により、周方向のトルクが発生する。その結果、ステータ50に対してロータ60がシャフト80の中心軸まわりに回転する。ここでは一例として、ロータ60の通常運転時における回転方向Rは、所定の一方向(図示の例では反時計回り方向)である。
例えば、図1に示すような略四角錐台形の螺旋構造体として構成されるコイル10の取り付け方法の一例は以下の通りである。ティース51は、例えば不図示の係合(嵌合)手段等によりステータ部材52の内周面に着脱可能に構成されている。そしてコイル10の内部(軸心部分)にティース51を差し込み、ステータ部材52に固定する。ティース51は、例えばコイル10の螺旋軸SC方向の片側にボビンのような鍔部51Aを有しており、これによりコイル10がティース51から離脱することが防止される。あるいは、ティース51がコイル10の螺旋軸SC方向に沿って分離(分割)・係合可能なカセット状に構成され、コイル10の螺旋軸SC方向の両側(端部T1,T2側)からコイル10の内側に挿通され、これを挟みながら2つのカセットを係合することで、ティース51にコイル10を取り付け、更にティース51をステータ部材52に取り付ける構成であってもよい。この場合、略四角錐台形の各コイル10の取り付け方向としては、鍔部51A側すなわちロータ60に最も近い側に、短辺104の長さが最も短い周回領域CR(上記の例では1層目周回領域CR1)が配置されるように取り付ける。
本実施形態のコイル10は、その螺旋軸SCが、モータ70(ロータ60)の回転軸中心線C1を含む仮想切断面VS(同図(A)の大破線、同図(B)の断面)内に位置し、ステータ50またはロータ60の直径方向に延在するように、ステータ50に取り付けられる。ロータ60の回転軸中心線C1を含む仮想切断面VSとは、ロータ60の直径に対応する線分を切断線とする断面ともいえる。
そしてこの場合のコイル10は、一例として、同図(B),同図(C)に示すように螺旋軸SC方向に重なる複数の周回領域CRのうち、ロータ60に近い周回領域(以下、「近位側周回領域CRN」という。)の少なくとも一部が第1部材15により構成され、ロータ60から遠い周回領域(以下、「遠位側周回領域CRF」という。)の少なくとも一部が第2部材16から構成される。つまり、近位側周回領域CRNは上記の第1周回領域CRaを含み、遠位側周回領域CRFは上記の第2周回領域CRbを含む。より好適には、コイル10は、近位側周回領域CRNの周回領域CRのうち少なくとも一部が第1部材15により構成され、遠位側周回領域CRFの周回領域CRは第2部材16のみから構成される。
ロータ60に対する遠近は、同図(B),同図(C)に示すようにコイル10における周回領域CRの重なり方向(積層方向、螺旋軸SCの長さ方向)の中央(以下、「重なり方向中央C2」という。)を基準にする。つまり重なり方向中央C2よりロータ60側に位置する1層または複数層の周回領域CRを近位側周回領域CRNといい、重なり方向中央C2よりロータ60から離れる側の1層または複数層の周回領域CRを遠位側周回領域CRFという。
具体的には、同図(B),同図(C)に示すように、近位側周回領域CRNのうち少なくともロータ60に直近の(つまりインナーロータ型の場合、ステータ50の最も内周側の周回領域CR(1層目周回領域CR1)の少なくとも一部が第1部材15により構成される。さらに詳細には、一の周回領域CR(例えば1層目周回領域CR)のうち、半周分の領域の少なくとも一部に第1部材15を設ける。
ここで、周回領域CRの半周分の領域について更に説明する。同図(C)、同図(D)を参照して、ステータ50に取り付けた状態のある1つのコイル10について、ロータ60の回転軸中心線C1を含む仮想切断面VSで切断すると、それぞれの周回領域CRは第1半周領域HR1と第2半周領域HR2に二分される。これらは、ロータ60の回転方向で考えると、上流側と下流側に分けられる。例えば、第1半周領域HR1はロータ60の回転方向上流US側(回転の手前側、回転元側)の半周分の領域とし、第2半周領域HR2をロータ60の回転方向下流DS側(回転先側)の半周分の領域とする。
本実施形態では、コイル10の近位側周回領域CRNのうち少なくとも一の周回領域CR(詳細には、少なくともロータ60に直近の1層目周回領域CR1)については、ロータ60の回転方向上流US側となる第1半周領域HR1の少なくとも一部(この例では第1半周領域HR1の全体)が第1部材15により構成され、第2半周領域HR2の少なくとも一部(この例では第2半周領域HR2の全体)が第2部材16により構成される。
また、この例では、1層目周回領域CR1の第2半周領域HR2と、これに連続する第2層目周回領域CR2から第4層目周回領域CR4が図2(A)、図2(B)に示すように第2部材16により構成される。
この第1部材15の配置領域は、コイルにおけるジュール損失の解析結果から決定される。図5から図8を参照して本願出願人が行ったコイルにおけるジュール損失の解析について説明する。
モータ駆動時にコイルに発生するジュール損失として、特にコイルの構成材料に着目した場合は、主に、コイルの巻き線抵抗(R)と流れる電流(I)から発生する電力損失(P=I2×R、以下、単に「銅損」と称する)と、ヒステリシス損と渦電流損から成る損失(鉄損)のうち特に渦電流による損失(以下、単に「渦電流損」と称する。)が大きく起因すると考えられる。なお、ヒステリシス損については、部材(材料)の磁界に対する磁束密度の変化に起因するところ、一般的にコイル10に採用される部材(この例では銅部材およびアルミニウム部材)の場合、磁界中においても磁束密度がほぼ発生しない。
現状、モータ用のコイルとしては、全体が(全ての周回領域CRが)銅部材で構成されたコイル(以下、銅製コイル)や、全体が(全ての周回領域CRが)アルミニウム部材で構成されたコイル(以下、アルミニウム製コイル)が知られている。
図5は、モータの回転数(%)と損失(W)の一般的な関係を示す概念図である。図5(A)に示すように、モータの全体的な熱による損失は、主に、いわゆる銅損L1、鉄損L2、機械損L3があり、部材による固有値に基づく銅損L1は回転数に応じた変化はないが、鉄損L2と機械損L3は、回転数の増加(高速化)に伴い損失は増加する傾向にある。
あるコイルをモータに採用した場合、そのモータ駆動時にコイルにはジュール損失が発生するが、コイルに発生するジュール損失は、概ね、銅損(コイルの巻き線抵抗(R)と流れる電流(I)から発生する電力損失)と、渦電流損(コイルに流れる電流とコイルを鎖交する磁束による渦電流に起因する交流損)に起因するものといえる。
同図(B)、同図(C)は、同図(A)に示すモータの回転数と損失の関係を、あるコイルをモータに用いた場合のモータ回転数とモータ駆動時にコイルに発生するジュール損失との関係に置き換えて示す概念図である。同図(A)が銅製コイルに発生するジュール損失とモータ回転数との関係を概念的に示す図であり、同図(B)がアルミニウム製コイルに発生するジュール損失とモータ回転数との関係を概念的に示す図である。横軸方向がコイルの回転数(回転速度(r/min)を示し、縦軸方向が損失(ジュール損失(w))を示す。また、ここでは特に、コイルの構成材料の観点から、銅損L1と鉄損L2の関係を概念化して示しおり、また鉄損L2については特に渦電流損を鉄損L2として示している(以下の説明において同様)。
同図(B),同図(C)に示すように、従来の一般的なモータの運転領域(例えば、最大許容回転数(回転速度)Zまでの範囲)において、低回転数Xの場合と高回転数Yの場合を比較すると、銅損L1は変化がなく、渦電流損L2は回転数が高くなるほど大きくなる傾向にある。また、銅製コイル(同図(B))とアルミニウム製コイル(同図(C))を比較すると、相対的に銅製コイルは銅損L1が小さく、渦電流損L2が大きい一方、アルミニウム製コイルは渦電流損L2が小さく、銅損L1が大きい。
また、部材によらず、全体的な損失(ジュール損失)に占める割合としてはとしては、渦電流損L2の影響度は小さいとされ、銅損L1の値が影響することにより、アルミニウム製コイルのジュール損失Laの方が銅製コイルジュール損Lcよりも大きいと考えられていた。
本願出願人は、このような知見を踏まえ、独自形状の銅製コイルおよびアルミニウム製コイルをそれぞれ用いたモータについて、種々の条件で運転させる実験を行った。実験に用いたコイルは、図1等に示す本実施形態のコイル10と同様に、複数のコイル片Cを接続して螺旋構造とすることで平面視において略矩形状の外周形状および内周形状を有するように構成されたコイルである。この構成のコイルは、本願出願人が独自に開発した形状のコイルであり以下、説明の便宜上「アスターコイル」と称する。以下に説明するコイルは全てアスターコイルである。
アスターコイルを用いたモータであっても、モータ回転数とコイルに発生するジュール損失の関係においては、図5(B)、同図(C)と同様な傾向となり、高回転数領域においては、やはりアルミニウム製コイルのジュール損失Laが銅製コイルのそれよりも増大すると予想された。
ところが実験の結果、アルミニウム製コイルであっても、高回転数領域のある範囲での運転においては発熱が抑えられ、ジュール損失が抑えられる(予想ほど増大しない)傾向にあった。つまり、高回転数領域のある範囲においては、銅製コイルとアルミニウム製コイルに発生するジュール損失の特性が逆転する可能性があると考えられた。またこの場合、鉄損L1については回転域によらず一定であるので、この高回転数領域のある範囲においては、渦電流損L2が影響する(支配的になる)と予想された。
そこで、銅製コイルに発生するジュール損失を、部位毎に詳細に解析した。銅製コイルは、図4(C)に示すコイル10の全体(100%)が銅部材で構成されたコイルであり、これ以外のモータ70の構成は、図4(A),同図(B)と同様である。また、ロータ60の回転方向は、反時計回り方向である。
図6(A)は、銅製コイルに発生するジュール損失密度[W/m]の解析結果であり、同図(B)は同図(A)の拡大図である。
図6に示すように、銅製コイルの最もロータ60に近い周回領域CR(1層目周回領域CR1のうち、特にロータ60の回転方向上流US側の領域(丸印で示す)において、ジュール損失が局所的に集中していた。以下、銅製コイル(全体を銅部材で構成したアスターコイル)におけるジュール損失の局所的な集中領域を「ジュール損失集中領域J」という。また、ジュール損失の発生は、ロータ60の回転方向下流DS側では少なく、またロータ60から離れるほど少なかった。なお、本解析のジュール損失には銅損と渦電流損が含まれる。しかしながら、銅損については周回領域CRとロータ60の距離によらず、概ね均一に生じていると考えられる。つまり同図(A)においては、渦電流損によるジュール損失の程度が表れているといえる。
具体的に、ジュール損失集中領域Jでは、ジュール損失密度として最大で例えば、約7×10[W/m]~約10×10[W/m]程度が測定できる一方、同じ周回領域CRでもロータ60の回転方向下流DS側では、最大でも約6×10[W/m]程度であり、また、ロータ60の回転方向上流US側であっても第2層目周回領域CR2になると、最大でも約3×10[W/m]程度であった。
また、銅製コイルの各周回領域CRの第1半周領域HR1,第2半周領域HR2毎の、ジュール損失割合を算出した。図7は、その結果を示す円グラフである。これによると銅製コイルの1層目周回領域CR1から第4層目周回領域CR4の各層についてロータ60の回転方向上流US側の半周分領域(第1半周領域HR1)、およびロータ60の回転方向下流DS側の半周分領域(第2半周領域HR2)のジュール損失割合を測定したところ、ロータ60に直近で且つその回転方向上流US側(つまり、1層目周回領域CR1の第1半周領域HR1)が全体の6~7割程度を占めることが分かった。
これらの結果から、銅製コイルに発生するジュール損失集中領域Jは、ロータ60に直近で且つロータ60の回転方向上流US側(つまり1層目周回領域CR1の第1半周領域HR1)に局所的に集中していると特定できた。なお、アルミニウム製コイルにおいても、同様の解析の結果、数値は異なるものの上記と同様の傾向が出ていた。つまり、コイル(アスターコイル)は、場所によって渦電流損が、基準の値(例えば、コイル全体としての渦電流損の値(例えば、コイルの複数部位における渦電流損の平均の値など)よりも小さい領域(部位)と基準の値より大きい領域(部位)があると考えられた。
更に、既に述べたように、アルミニウム製コイルモータであっても、高回転数領域のある範囲での運転においてはジュール損失が抑えられる(予想ほど増大しない)傾向にあることから、その範囲においては、ジュール損失集中領域Jの発生状態(渦電流損の発生部位)に関連して銅製コイルとアルミニウム製コイルにおける渦電流損の大小関係が逆転する領域が存在すると予測した。
図8の概念図を参照して更に説明する。同図(A)はコイルを展開して長尺の部材として平面視した概念図であり、同図(B)~同図(E)は、アスターコイルを用いたモータの回転数と、モータの駆動時にコイルに発生するジュール損失の関係を、図5(B)および図5(C)と同様に概念的に示す図である。同図(B)、同図(C)が銅製コイルの場合であり、同図(D)、同図(E)がアルミニウム製コイルの場合である。また、同図(F)、同図(G)が本実施形態のコイル10をモータ70に用いた場合である。同図(B)~同図(G)において、横軸方向がコイルの回転数(回転速度(r/min))を示し、縦軸方向が損失(ジュール損失(w))を示す。
同図(A)に示すように、コイルは、渦電流損L2が小さい領域(部位)Aと大きい領域(部位)Bを有する(図6、図7参照)。ここでは一例として、「コイル全体としての渦電流損L2」を基準(中心)として領域Aを含む領域と領域Bを含む領域に二分したとして説明する。基準となる「コイル全体としての渦電流損L2」は例えば、1層目周回領域CR1から4層目周回領域CR4をそれぞれ第1半周領域HR1と第2半周領域HR2に分け、すなわち1つのコイルについて8つの半周領域ごとに渦電流損L2を算出し、合計した値である。
図8(A)における領域A,Bは説明の便宜上の左右に分けて図示しているものであり、図2の平面図と対応している図ではない。図8(B)、同図(D),同図(F)は、コイルの中で渦電流損L2が小さい領域Aにおいて、モータの回転数とモータ駆動時にコイルに発生するジュール損失の関係を示す概念図であり、図8(C)、同図(E),同図(G)は、コイルの中で渦電流損L2が大きい領域Bにおいて、モータの回転数とモータの駆動時にコイルに発生するジュール損失の関係を示す概念図である。
例えば、同図(B)、同図(C)は、銅製コイルを用いたモータを、高回転数Yを含むある領域で運転した場合の概念図を示している。また、同図(B)、同図(C)の破線三角で示す渦電流損L2の領域は、基準となるコイル全体としての渦電流損L2(1つのコイルについて8つの半周領域ごとに渦電流損を算出し、合計した値)を示すものである。
同図(B)に示すように、渦電流損が小さい領域Aでは、渦電流損L2が実線で示すように、基準となる渦電流損(破線)よりも低く、その変化量(傾き)も小さくなる。そして、高回転数Yで運転した場合、銅損L1が例えば10で渦電流損L2が例えば5となり、ジュール損失は15(=10+5)となる。なお、損失の数値は大小関係の説明のためにのみ便宜上用いる概念値であり、それ以外の意味を持つ(例えば比率等を表す)数値ではない(図8において以下同様)。
これに対し、同図(C)に示すように渦電流損が大きい領域Bでは、渦電流損L2が実線で示すように、基準となる渦電流損(破線)よりも高く、その変化量(傾き)も大きくなる。そして、同じ高回転数Yで運転した場合、銅損L1が例えば10で渦電流損L2が例えば20となり、ジュール損失は30(=10+5)となると考えられる。
そして、この銅製コイルの全体を例えば領域A、Bを合わせた領域とすると、そのジュール損は、同図(B)と同図(C)の合計と考えられ、この場合45(=15+30)となる。
同図(D)、同図(E)は、アルミニウム製コイルを用いたモータを、高回転数Yを含むある領域で運転した場合の概念図を示している。この場合も、同図(D)、同図(E)の破線三角で示す渦電流損L2の領域は、基準となるコイル全体としての渦電流損を示すものである。
同図(D)に示すように、渦電流損L2が小さい領域Aでは、渦電流損L2が実線で示すように、基準となる渦電流損(破線)よりも低く、その変化量(傾き)も小さくなる。そして、高回転数Yで運転した場合、銅損L1が例えば15(銅製コイルより大きい)で渦電流損L2が例えば2(銅製コイルより小さい)となり、ジュール損失は17(=15+2;銅製コイルモータより大きい)となる。
そして、同図(E)に示すように、アルミニウム製コイルにおいては、渦電流損L2が大きい領域B(基準となる渦電流損(破線)よりも高くなる領域)において同じ高回転数Yで運転した場合、渦電流損L2が実線で示すように、基準となる渦電流損(破線)よりも高く、その変化量(傾き)も大きくなるものの、従来の想定と異なり、銅製コイルほど変化量が大きくならないと考えられた。具体的には数値で示すと銅損L1が例えば15で渦電流損L2が例えば10となり、ジュール損失は25(=15+15)となるようなことである。
そして、このアルミニウム製コイルの全体のジュール損失は、同図(D)と同図(E)の合計と考えられ、この場合42(=17+25)となる。
このように、本願出願人は、高回転数Yを含む領域で運転した場合、渦電流損L2が大きい領域Bではアルミニウム製コイルと銅製コイルとではジュール損失の大小関係が逆転すると考えた(同図(C),同図(E))。そしてこれらの結果から、モータ70に用いるコイル10として、ジュール損失に占める割合が大きい銅損L1が、相対的に低い銅部材をベースとし、すなわち、銅製コイルをベースとし、銅製コイルにおけるジュール損失集中領域Jにおいては部分的に、銅部材よりも抵抗値の高い部材(例えば、アルミニウム部材)を複合的に用いることで、銅製コイルにおけるジュール損失集中領域Jを低減または解消できると考えた。
同図(F)、同図(G)は、本実施形態のコイル10(銅部材とアルミニウム部材からなるコイル)を用いたモータ70を、高回転数Yを含むある領域で運転した場合の概念図を示している。この場合も、同図(F)、同図(G)の破線三角で示す渦電流損L2の領域は、基準となるコイル全体としての渦電流損を示すものである。
同図(F)は同図(B)の、同図(G)は同図(E)のそれぞれ再掲である。このコイル10を用いたモータ70全体のジュール損失は同図(F)と同図(G)の合計と考えられ、この場合40(=15+25)となり、銅製コイルの全体のジュール損失(45)、アルミニウム製コイルの全体のジュール損失(42)のいずれよりも低くなると考えられる。
このようにして、相対的に抵抗値が小さい(銅損L1が小さい)部材である第2部材16(一例として銅部材)をコイルのベース部材とし、当該ベース部材(第2部材16)のみで全体を構成したコイル(例えば銅製コイル)におけるジュール損失集中領域Jを含む一部の領域のみ、相対的に渦電流損失L2が小さい(相対的に抵抗値が大きい)第1部材15(一例としてアルミニウム部材)で構成する本実施形態のコイル10に想到した。
図9は、従来のコイルと本実施形態のコイル10をそれぞれ用いたモータを、上記の高回転数Yを含む範囲で運転した場合に、コイル全体に発生するジュール損失を比較したグラフである。ここでコイル全体に発生するジュール損失は、1つのコイルについて8つの半周領域ごとにジュール損失を算出し、合計した値である。図中aがアルミニウム製コイルであり、bが銅製コイルである。またcが本実施形態図2(C)に示す、1層目周回領域CR1の全体を第1部材15、その他を第2部材16で構成した複合材料からなるコイル10の場合である。またdが本実施形態の、図2(A)、図4に示す、1層目周回領域CR1の第1半周領域HR1を第1部材15、その他を第2部材16で構成した複合材料からなるコイル10の場合である。また4種のいずれもコイルのサイズ、導体(平導体)の形状、巻き数は同じである。
この結果、本実施形態のコイル10によれば銅製コイル、アルミニウム製コイルと比較して大幅にジュール損失を低減できることが明らかとなった。なお、図9の結果から高回転数Yを含む範囲においては、銅製コイル()のジュール損失がアルミニウム製コイル()のそれより大きくなっている。つまり、図8(B)~同図(E)の概念図を用いた説明におけるジュール損失の大小関係(銅製コイルの全体としてのジュール損失(例えば、数値45)>アルミニウム製コイルの全体としてのジュール損失(例えば数値42)と整合している。

ここで、低回転数Xを含む運転領域についても検討する。例えば、図8(B)において、低回転数Xでモータを運転した場合に銅製コイルに生じる渦電流損L2が3、図8(C)において、低回転数Xで運転した場合の渦電流損L2が5であるとすると、コイル全体としてのジュール損失の合計は28(=(3+10)+(5+10))となる。
また、図8(F)において、低回転数Xでモータを運転した場合に本実施形態のコイル10に生じる渦電流損L2が3、図8(G)において、低回転数Xで運転した場合の渦電流損L2が8であるとすると、本実施形態のコイル10全体としてのジュール損失の合計は35(=(3+10)+(8+15))となる。つまり、本実施形態のコイル10は、低回転数Xを含む領域で運転した場合、銅製コイルと比較して渦電流損L2が大きくなる。
このように、本実施形態のコイル10を用いたモータ70は、周回領域CRの全てが第二部材16により構成された同一形状のコイル(例えば、銅製コイル)を備えたモータを仮定してこれを運転した場合と比較して、高回転数領域(高回転数Yを含む領域)では損失が銅製コイルのモータより小さい(コイル10のジュール損失が該モータのコイル(銅製コイル)より小さい)一方、低回転数領域(低回転数Xを含む領域)では損失が銅製コイルのモータより大きく(コイル10のジュール損失が銅製コイルのそれより大きく)なる、ものである。
しかしながら、モータ70としての効率は、モータ70にとって低負荷域(低回転数Xを含む領域、低トルク領域)における改善よりも、高負荷域(高回転数Yを含む領域、高トルク領域)における改善の方が有効である。
そこで、本実施形態ではモータ70にとっての高負荷域でのジュール損失の改善を目的の一つとし、本実施形態のコイル10を備えたモータ70を、好適には特に高回転数(回転速度)Yを含む運転範囲で使用する。本実施形態の「高回転数Yを含む運転範囲」とは、例えば、渦電流損L2が発生する程度の回転数(回転速度)の範囲であり、一例として、モータ70の(一般的な使用による)回転数の最小値から最大値(最大許容回転数Z)までを100(%)とした場合、例えば20~100(%)までの領域であり、好適には30~100(%)までの領域である。あるいはまた、数十Hz以上の周波数の電流が入力される運転範囲の領域であり、好適には100Hz以上の周波数の電流が入力される運転範囲の領域である。
詳細には、本実施形態の本実施形態のモータの制御方法は、仮に同一形状の従来の銅製コイルを備えたモータを仮定した場合、それよりも本実施形態のコイル10を備えたモータ70の方がジュール損失が小さくなる高回転数領域(周波数)を含む条件で運転するものである。これにより、モータの運転範囲の全体として渦電流損の発生を抑制し、ジュール損失を低減させることができる。
図10は、モータ70の他の例としてステータ50の外側(外周側)にロータ60が配置されるアウターロータタイプのモータの一例を示す図であり、同図(A)が図4(B)に対応する側断面図、同図(B)が図4(C)に対応する平面図である。このように、アウターロータ型のモータ70の場合、ステータ50の径方向の最も外側のコイル10がロータ60の直近のコイル10となる。この場合、略四角錐台形の各コイル10の取り付け方向としては、例えば、鍔部51A側すなわちロータ60に最も近い側に、短辺104の長さが最も長い周回領域CR(上記の例では4層目周回領域CR4)が配置されるように取り付ける。またロータ60の回転方向は例えば、時計回り方向とする。
このようなモータ70の場合、少なくともロータ60の直近の周回領域CR(この例では4層目周回領域CR4の、少なくともロータ60の回転方向上流US側の一部(ハッチングで示した半周分の領域(第1半周領域HR1)は第1部材15で構成し、それ以外を第2部材16で構成する。これにより、ジュール損失を低減できる。つまり、モータ70がアウターロータタイプであっても同様に実施でき、同様の効果が得られる。
このように本実施形態のコイル10は、1つのコイル10が一の(1本の線状の、または1枚の帯状の)長尺部材の螺旋構造で構成されており、当該長尺部材は長手方向に複数の(2種の)異種材料を接合した導体で構成されている。
異種材料の一方(第1部材15)は、他方(第2部材16)に対して抵抗値が高く渦電流の発生を抑制できる部材である。
また、当該コイル10をモータ70に用いる場合、第1部材15は、全体が第2部材16で構成されていると仮定した場合のコイルにおけるジュール損失集中領域Jに少なくとも配置する。具体的には、少なくとも、最もロータ60に直近で且つロータ60の回転方向上流US側の領域は第1部材15で構成すると望ましい。
図4に示した実施形態では、コイル10のうち、少なくともロータ60に直近の周回領域CR(1層目周回領域CR1)で且つロータ60の回転方向上流US側の領域を第1部材15で構成する一例として、1層目周回領域CR1の第1半周領域HR1全体を第1部材15で構成した例を示した(図4(D)参照)。しかしながら、例えば、周回領域CRの短辺104部分などに(銅製コイル(100A)の場合の)ジュール損失集中領域Jが存在しない場合には、例えば、図4(D)に破線で示すように長辺103部分(直線部101)とその両端の角部(方向変換部)102のみを第1部材15で構成してもよい。つまり第1部材15の最小単位は周回領域CRの半周分の領域に限らない。
また、渦電流損は一般的にロータ60からの距離が遠くなれば、磁石の影響を受けにくくなる。これは、図5(A),同図(B)を参照しても3層目周回領域CR3,4層目周回領域CR4ではジュール損失集中領域Jが存在したとしても問題がない程度といえることからも明らかである。つまり本実施形態では、遠位側周回領域CRFの周回領域CRは全て第2部材16で構成してもよい。
しかしながら渦電流が大きくなる条件は、磁束の強度、電流の大きさ、モータの回転数(回転速度)などに様々である。したがって、例えば、ジュール損失の発生状態に応じて、適宜、銅製コイル(100A)において或る閾値以上のジュール損失が生じる領域をジュール損失集中領域Jとし、当該ジュール損失集中領域Jを少なくとも含む領域を第1部材15で構成し、それ以外の領域を第2部材16で構成するとよい。この場合の或る閾値とは例えば、コイル10全体のジュール損失を100とした場合の或る比率(例えば、0.3倍、0.5倍、1.2倍、1.5倍、好適には1.7倍など)の値とし、それ以上のジュール損失が生じている部位を含む領域をジュール損失集中領域Jとすることができる。あるいはコイル10内における複数の所定部位毎(例えば周回領域CR)毎のジュール損失の平均値を閾値とし、それ以上のジュール損失が生じている部位を含む領域をジュール損失集中領域Jとすることができる。さらには、例えば図4(C)の断面にいて、各コイル10の部位毎の各断面(第1半周領域HR1の1層目周回領域CR1~4層目周回領域CR4、第2半周領域HR2の1層目周回領域CR1~4層目周回領域CR4、の8つの断面)のそれぞれについて当該8つの各断面内でジュール損失(平均)を算出し(図6参照)、ジュール損失の大きい順に並べた場合の上位1位(~3位など)の断面を含む部位をジュール損失集中領域Jとしてもよい。
その上で、第1部材15の配置領域は、銅製コイルのジュール損失集中領域Jの発生箇所に応じて、適宜選択する。つまり、少なくともロータ60に直近の周回領域CRの少なくとも一部を第1部材15で構成することを条件とし、図2に示したような配置を一例として種々の配置例が選択可能である。アスターコイルは所望の形状の複数のコイル片Cの圧接により螺旋構造体を形成するので、所望の任意の箇所に容易に第1部材15を配置することができる。
なお、ジュール損失集中領域Jの発生箇所に基づけば、(ロータ60に近い)周回領域CRのうち、更にロータ60の回転方向上流US側に第1部材15を配置することも条件となる。しかしながら、正逆運転可能なモータ70の場合、ロータ60の回転方向の反転により回転方向上流USと回転方向下流DSが入れ替わる。このような場合には、図2(C)に示すように、ロータ60に近い周回領域CRの略全周を第1部材15で構成すると望ましい。この場合も、銅製コイルおよびアルミニウム製コイル100Bと比較して、ジュール損失を低く抑えることができる(図9参照)。
また、例えばモータ70の通常時の運転方向が一方向に限られる場合には、例えば、図2(G)に示すように、ロータ60に近い複数の周回領域CR(例えば1層目周回領域CRと2層目周回領域CR)のそれぞれについて、ロータ60の回転方向上流US側となる半周部分(例えば、第1半周領域HR1)を第1部材15で構成してもよい。すなわち、半周毎に第1部材15を配置するようにしてもよい(図2(H))。
その他、近位側周回領域CRNにおける他の周回領域CRのうちの少なくとも一部が第1部材15により構成される(第1部材15を含む)ものであってもよい。また第1部材15を含む周回領域CRは1層でも複数層でもよい。
このように、本実施形態のコイル10は、特にモータ70に用いる場合、近位側周回領域CRNにおける周回領域CRのうちの少なくとも一部が第1部材15により構成される(第1部材15を含む)ことが望ましく、少なくともロータ―60に直近の、ロータ60の回転方向上流US側の少なくとも一部が第1部材15により構成されることがより好適であるが、第1部材15の配置領域は、モータ70に要求される特性やコストなどに応じて適宜選択される。
第1部材15の配置領域の決定例を挙げると、図9に示すように、ロータ60に近い周回領域CR(この例では1層目周回領域CR1)の全周を第1部材15で構成するコイル10(同図のc)、および半周(第1半周領域HR1)を第1部材15で構成するコイル10(同図のd)のいずれも、ジュール損失がほぼ同等である。つまり、モータ70の通常時の運転方向が一方向に限られる場合は、コストや軽量化の観点から有利な方を選択するとよい。例えば、第1部材15がアルミニウム部材で第2部材16が銅部材の場合、コストや軽量化の観点からは、第1半周領域HR1を第1部材15で構成するコイル10(同図のd)を採用すると望ましい。また、既に述べたように、モータ70を正逆回転可能に使用する場合には、1層目周回領域CR1の全周を第1部材15で構成すると望ましい。
また、図2に示す構成のコイル10を用いたモータ70についてジュール損失についで比較すると、回転速度、モータ電流によっても異なるが例えば、図2(E)、同図(G)、同図(A)または同図(C)(同図(A)と同図(C)は同等)の順に、高くなる。
なお、本実施形態では、説明の便宜上、略四角錐台の外形上を有するコイル10を例に、短辺104の長さが最も短い周回領域を1層目周回領域CR1、短辺104の長さが最も長い周回領域を4層目周回領域CR4,6層目周回領域CR6として説明した。しかし、周回領域CRの重ね方向(重ね順)はこの例に限らず、短辺104の長さが最も長い周回領域CRを1層目周回領域CR1としてもよい。つまり、周回領域CRの重ね順によらず、ロータ60に近い(直近の)周回領域の一部が第1部材15で構成される構成であればよい。
以上、本発明は、上述した実施形態に限定せず、様々な実施形態で構成することができる。
例えば、コイル10の外形状は略四角錐台に限らず、略直方体形状や略立方体形状などであってもよい。
また、例えば、コイル10は平導体によるコイル片C以外の他の導体により構成されたものであってもよい。つまり上記の実施形態における「導体」とは平導体または丸線、あるいは角線の導体を含む。
また、コイル10は、角部102を有するコイル片Cの圧接によらず(アスターコイルに限らず)、完成状態の螺旋構造分の長さを有する長尺の導体を巻回して構成してもよい。この場合、コイル10とした場合に、所望の領域に第1部材15が存在するように、例えば直線状の第1部材15と第2部材16のそれぞれのコイル片(平導体、丸線、角線などのコイル片)を準備し、圧接して繋ぎ合わせ、それを螺旋状に巻回することにより図2に示すようなコイル10を形成してもよい。ただしこの場合も、周回領域(周回領域CR)のそれぞれは、1本の導体を一周させて(一周回により)構成され、複数の周回領域CRが螺旋軸SC方向に複数(図1(B)では例えば6層、図2等では4層)重ねられる。
さらに、上記の実施形態では一例として、第1部材15がアルミニウム部材であり、
第2部材16が銅部材である場合を説明した。しかしながら、これに限らず、第1部材15が第2部材16に対して相対的に抵抗が高い材料であれば他の導体(非金属含む)であっても同様に実施でき同様の効果が得られる。例えば、第1部材15と第2部材16の組み合わせとしては、第1部材15が第2部材16に対して相対的に抵抗(電気抵抗率)が高い材料であることを前提に、銀(Ag)、銅(Cu),金(Au)、アルミニウム(Al)、炭素(C、カーボンナノチューブ)をそれぞれ主成分とする部材の組み合わせから選択可能である。
10 コイル
13 コイル片接合部
15 第1部材
16 第2部材
50 ステータ
51 ティース
51A 鍔部
52 ステータ部材(ステータコア)
60 ロータ
70 モータ
80 回転軸(シャフト)
100 銅製コイル
101 直線部
102 角部
103 長辺
104 短辺
105 開始端
106 終了端
C 平導体片(コイル片)
CR 周回領域
CRF 遠位側周回領域
CRN 近位側周回領域
CRa 第1周回領域
CRb 第2周回領域
HR1 第1半周領域
HR2 第2半周領域
J ジュール損失集中領域
R 回転方向
SC 螺旋軸
US 回転方向上流
DS 回転方向下流
VS 仮想切断面

Claims (9)

  1. 導体によって構成され、ステータの複数のティースにそれぞれ取り付けられる コイルであって、
    前記導体は、一の前記ティース の周りを一周回する周回領域を、該ティースが突出する方向に複数重ねるように連続させて螺旋構造とした集中巻きで構成され、
    前記導体は、 第一部材と、前記第一部材よりも抵抗値が低い導体である第二部材との圧接により構成され、
    それぞれの前記周回領域は角部と直線部を有する略矩形状であり、
    それぞれの 前記周回領域は、ロータの回転軸中心線を含む仮想切断面により前記ロータの回転方向上流側の領域である第一半周領域と、前記ロータの回転方向下流側の領域である第二半周領域に二分され、
    なくとも前記ロータに直近の周回領域は、前記第一半周領域の少なくとも一部が前記第一部材により構成され、前記第二半周領域が前記第二部材により構成される、
    ことを特徴とするコイル。
  2. 前記ロータに近い複数の前記周回領域(以下、「近位側周回領域」という。)は、前記第一半周領域の少なくとも一部が前記第一部材により構成され、前記第二半周領域が前記第二部材により構成される、
    ことを特徴とする請求項1に記載のコイル。
  3. 前記ロータから遠い 前記周回領域(以下、「遠位側周回領域」という。)はの少なくとも一部が前記第二部材から構成される、
    ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコイル。
  4. 前記遠位側周回領域は前記第二部材から構成される、
    ことを特徴とする請求項3に記載のコイル。
  5. 前記第一部材は、アルミニウムを主成分とする金属であり、
    前記第二部材は、銅を主成分とする金属である、
    ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のコイル。
  6. 請求項1から 請求項5のいずれかに記載のコイルを取り付けたステータ
  7. 請求項1から 請求項のいずれかに記載のコイルを備えたモータ
  8. 請求項から請求項のいずれかに記載のコイルを備えたモータであって、
    前記周回領域の全てが前記第二部材により構成された同一形状のコイルを備えたモータを仮定して運転した場合と比較して、高回転数領域では損失が該モータより小さい一方、低回転数領域では該モータより損失が大きくなる、
    ことを特徴とするモータ
  9. ステータの複数のティースにそれぞれ取り付け可能であり、一の該ティースの周りを一周回する周回領域を、該ティースが突出する方向に複数重ねるように連続させて螺旋構造とする集中巻きのコイルの製造方法であって、
    連続させることで、角部と直線部を有する略矩形状の前記周回領域を複数形成可能な複数のコイル片を準備する工程と、
    前記複数のコイル片のうち、第一コイル片と第二コイル片を圧接し、ロータに直近の前記周回領域を形成する工程を有し、
    前記第一コイル片は、前記ロータの回転軸中心線を含む仮想切断面により前記 ロータの回転方向上流側の領域となる第一半周領域を構成するコイル片であり、少なくとも一部が第一部材からなり、
    前記第二コイル片は、前記 ロータの回転方向下流側の領域となる第二半周領域を構成するコイル片であり、前記第一部材よりも抵抗値が低い第二部材からなる、
    ことを特徴とするコイルの製造方法
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