以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、以下の実施形態及び各変形例の相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。又、説明に用いる各図は概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない場合がある。
車両のブレーキ装置1は、図1に示すように、マスタシリンダ2、ブレーキブースタ3、ホイールシリンダ4、ブレーキアクチュエータ5及びリザーバタンク6を備えている。マスタシリンダ2は、後に詳述するように、シリンダ本体21と、マスタピストンとしての第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23と、を含んで構成されている。ブレーキブースタ3は、例えば、負圧式の倍力装置であり、運転者による踏力を倍力して第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23に伝達する。
ホイールシリンダ4は、各車輪に設けられたホイールシリンダ41~ホイールシリンダ44から構成される。各ホイールシリンダ41~44は、ブレーキアクチュエータ5(以下、単に「アクチュエータ5」とも称呼する。)を介して、マスタシリンダ2に接続されている。ホイールシリンダ41は、車両の左後輪RLに配置されている。ホイールシリンダ42は、車両の右後輪RRに配置されている。ホイールシリンダ43は、車両の左前輪FLに配置されている。ホイールシリンダ44は、車両の右前輪FRに配置されている。これにより、ホイールシリンダ4は、作動液としてのブレーキフルードがマスタシリンダ2又はポンプによって加圧されてアクチュエータ5を介して供給されると、左後輪RL、右後輪RR、左前輪FL及び右前輪FRに制動力を発生させる。
アクチュエータ5は、詳細な図示を省略するが、各ホイールシリンダ41~44に対応して設けられた管路、電磁弁及び逆止弁等を有している。これにより、アクチュエータ5は、図示を省略する制御装置(マイクロコンピュータ)によって電磁弁が連通状態又は遮断状態に切替制御されると、マスタシリンダ2によって加圧されたブレーキフルードを各ホイールシリンダ41~44に供給したり、内蔵するポンプによって加圧されたブレーキフルードを調圧して各ホイールシリンダ41~44に供給したりする。尚、アクチュエータ5の作動については、本発明に直接関係しないので、その詳細な説明を省略する。
車両のブレーキ装置1においては、運転者が踏み込み操作によりブレーキペダル7を踏み込むと、マスタシリンダ2に気密的に連結された負圧式のブレーキブースタ3により踏力が倍力され、シリンダ本体21内の第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23が押圧される。押圧された第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23は、例えば、車両前後方向(軸線方向)にて前方に向けて前進し、それぞれ、マスタシリンダ2(より詳しくはシリンダ本体21)の内部にリザーバタンク6から供給されたブレーキフルードを加圧する。これにより、マスタシリンダ2においては、マスタシリンダ圧が発生し、マスタシリンダ圧がアクチュエータ5を介して各ホイールシリンダ41~44に供給(伝達)される。
又、車両のブレーキ装置1においては、例えば、自動ブレーキ機能の作動時や、走行中又は制動時の車両の挙動を修正するために、アクチュエータ5に内蔵したポンプを作動させる。これにより、ポンプは、例えば、自動ブレーキ機能の作動時においては、マスタシリンダ2を介してリザーバタンク6に貯留されているブレーキフルードを吸引し、吸引したブレーキフルードを加圧してポンプ圧を発生させる。そして、ポンプ圧は、アクチュエータ5によって調圧されて、各ホイールシリンダ41~44に供給(伝達)される。
(1.マスタシリンダ2の構成の詳細)
マスタシリンダ2は、図2に示すように、マスタピストンである第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23を摺動可能に収容するシリンダ本体21を備えている。シリンダ本体21は、一端が底部211を有して閉塞し且つ他端が開口した有底筒状のシリンダである。シリンダ本体21の開口側には、ブレーキブースタ3が気密的に連結される(図1を参照)。
ここで、以下の説明では、シリンダ本体21の車両前後方向即ち軸線方向において、シリンダ本体21の底部211側を「前方」とし、シリンダ本体21の開口側を「後方」とする。又、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23は、ブレーキペダル7が操作されていない非作動時の場合にはマスタシリンダ2(シリンダ本体21)に対して原位置から前進していない「第一位置」にある。更に、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23は、ブレーキペダル7が操作れた作動時の場合には第一位置から前進した「第二位置」にある。
図2に示すように、シリンダ本体21の内周面212には、周方向に沿って形成された収容溝212aが、シリンダ本体21の軸線に沿って第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23のそれぞれに対応して二つずつ、計四つ設けられている。尚、以下の説明において、特に区別する場合、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23のそれぞれに対して前方側の収容溝212aを「前方側収容溝212a」と称呼し、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23のそれぞれに対して後方側の収容溝212aを「後方側収容溝212a」と称呼する。
前方側収容溝212aには、シール部材である第一シール部材としての前方側シール部材213が収容される。又、後方側収容溝212aには、シール部材である第二シール部材としての後方側シール部材214が収容される。前方側シール部材213及び後方側シール部材214は、軸線に沿って異なる位置に配設されており、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の外周面22a,23aに摺接する。前方側シール部材213及び後方側シール部材214は、弾性材料(例えば、ゴム材料)から形成されており、例えば、一端が開放されたU字状の断面形状を有するカップシールである。前方側シール部材213及び後方側シール部材214の外周縁は、収容溝212aの底面(内周面)と当接する。
前方側シール部材213の内周縁は、非作動時において、後述するように第一マスタピストン22の外周面22a及び第二マスタピストン23の外周面23aに形成された第一面粗度A1を有する第一領域S1にて、外周面22a,23aに接触(摺接)する。又、前方側シール部材213の内周縁は、作動時において、後述するように第一マスタピストン22の外周面22a及び第二マスタピストン23の外周面23aに形成された第二面粗度A2を有する第二領域S2にて、外周面22a,23aに接触(摺接)する。
更に、前方側シール部材213の内周縁は、非作動時において、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の外周面22a,23aに対して後述する連通路223及び連通路233よりも前方側にて当接する。これにより、前方側シール部材213は、後述するように、連通路223,233を介したブレーキフルードの流動を許容する。又、前方側シール部材213の内周縁は、作動時において、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の外周面22a,23aに対して連通路223,233よりも後方にて当接する。これにより、前方側シール部材213は、連通路223,233を介したブレーキフルードの流動を禁止する。
後方側シール部材214の内周縁は、非作動時において、第二領域S2にて、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の外周面22a,23aに対して当接する。又、後方側シール部材214の内周縁は、作動時において、第一領域S1にて、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の外周面22a,23aに対して当接する。
更に、後方側シール部材214の内周縁は、非作動時及び作動時に拘わらず、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の外周面22a,23aに対して連通路223,233よりも後方側にて当接する。従って、後方側シール部材214は、常に、ブレーキフルードの流動を禁止する。ここで、第一マスタピストン22に対応する後方側シール部材214は、シリンダ本体21の外部より詳しくはブレーキブースタ3に向けたブレーキフルードの流動を禁止するようになっている。
第一マスタピストン22は、ブレーキブースタ3に気密的に連結されており、シリンダ本体21の内部にて同軸的且つ車両前後方向(即ち、軸線方向)に前進及び後進可能に配置されている。第一マスタピストン22は、図2に示すように、本体部221と、突出部222と、連通路233と、ストッパ部材224と、から構成されている。
本体部221は、形成材料として樹脂材料や金属材料等から形成されており、前方に位置する先端が開口する有底筒状(中空状)に形成されている。本体部221は、後方に設けられた底壁部221aと、底壁部221aに連結された周壁部221bと、から構成されている。突出部222は、形成材料として樹脂材料や金属材料等から形成されており、本体部221の底壁部221aの端面から後方に突出した円筒状の部分である。突出部222は、ブレーキブースタ3の内部に気密的に収容されている。
連通路223は、図2に示すように、周壁部221bの周方向に沿って複数設けられた貫通孔であり、本体部221の外周側と内周側とを連通する。連通路223は、第一マスタピストン22が第一位置にある場合において、前方側シール部材213の内周縁におけるシール線よりも後方となるように形成される。これにより、連通路223を介したブレーキフルードの流れが許容されて、リザーバタンク6と後述する第一液圧室Aとを連通する。又、連通路223は、第一マスタピストン22が第二位置に前進した場合において、前方側シール部材213の内周縁におけるシール線よりも前方となる(図4を参照)。これにより、連通路223を介したブレーキフルードの流れが禁止されて、リザーバタンク6と第一液圧室Aとの連通が遮断される。
吊構造を構成する棒状のストッパ部材224は、図2に示すように、第一マスタピストン22の本体部221の内部にて、車両前後方向(即ち、軸線方向)に沿って延設されている。ストッパ部材224は、吊構造を構成するスリーブ部材225に対して車両前後方向(即ち、軸線方向)に沿って相対移動可能であり、スリーブ部材225からの抜けを防止する大径の係止部224aを有している。スリーブ部材225は、ストッパ部材224(又は、底壁部221a)と共にスプリング226を伸縮可能に保持するものである。
本体部221の周壁部221bの内部には、スプリング226が収容されている。スプリング226は、一端がストッパ部材224又は第一マスタピストン22の底壁部221aに当接し、且つ、他端がスリーブ部材225に当接するように収容されている。スプリング226は、車両前後方向(即ち、軸線方向)にて第一位置から第二位置に向けて前進した第一マスタピストン22を車両前後方向(即ち、軸線方向)にて後退させるように付勢力を付与する。
第二マスタピストン23は、シリンダ本体21の内部において、第一マスタピストン22の前方にて同軸的且つ車両前後方向(即ち、軸線方向)に前進及び後進可能に配置されている。第二マスタピストン23は、本体部231と、突出部232と、連通路233と、から構成されている。
本体部231は、形成材料として樹脂材料や金属材料から形成されており、シリンダ本体21の底部211に対向する先端が開口する有底筒状(中空状)に形成されている。本体部231は、後方に設けられた底壁部231aと、底壁部231aに連結された周壁部231bと、から構成されている。突出部232は、形成材料として樹脂材料や金属材料から形成されており、本体部231の底壁部231aの端面から後方に突出した円筒状の部分である。
連通路233は、図2に示すように、周壁部231bの周方向に沿って複数設けられた貫通孔であり、本体部231の外周側と内周側とを連通する。連通路233は、第二マスタピストン23が第一位置にある場合において、前方側シール部材213の内周縁におけるシール線よりも後方となるように形成される。これにより、連通路233を介したブレーキフルードの流れが許容されて、リザーバタンク6と後述する第二液圧室Bとを連通する。又、連通路233は、第一マスタピストン22が第二位置に前進した場合において、前方側シール部材213の内周縁におけるシール線よりも前方となる(図4を参照)。これにより、連通路233を介したブレーキフルードの流れが禁止されて、リザーバタンク6と第二液圧室Bとの連通が遮断される。
本体部231の周壁部231bの内部には、スプリング234が収容されている。スプリング234は、一端が第二マスタピストン23の底壁部231aに当接し、且つ、他端がシリンダ本体21の底部211に当接するように収容されている。スプリング234は、車両前後方向(即ち、軸線方向)にて第一位置から第二位置に向けて前進した第二マスタピストン23を車両前後方向(即ち、軸線方向)にて後退させるように付勢力を付与する。
ここで、第一マスタピストン22の本体部221を形成する底壁部221aの内面と、周壁部221bの内周面と、シリンダ本体21の内周面212と、第一マスタピストン22に対応する前方側シール部材213と、第二マスタピストン23を形成する底壁部231a及び突出部232の内面と、第二マスタピストン23に対応する後方側シール部材214と、によって「第一液圧室A」が区画される。又、第二マスタピストン23の本体部231を形成する底壁部231aの内面と、周壁部231bの内周面と、シリンダ本体21の内周面212及び底部211と、第二マスタピストン23に対応する前方側シール部材213と、によって「第二液圧室B」が区画される。
マスタシリンダ2のシリンダ本体21には、内部と外部とを連通するポート21a、ポート21b、ポート21c及びポート21d(以下、これらポートをまとめて「ポート21a~ポート21d」と称呼する場合がある。)が形成されている。以下、ポート21a~ポート21dを具体的に説明する。
ポート21aは、図2に示すように、第一マスタピストン22に対応する前方側シール部材213及び後方側シール部材214の間に形成されており、リザーバタンク6とシリンダ本体21の内部とを連通している。そして、ポート21aは、第一マスタピストン22に形成された連通路223を介して第一液圧室Aに連通可能となっている。ポート21bは、第一液圧室Aとアクチュエータ5(図1を参照)とを連通する。
ポート21cは、図2に示すように、第二マスタピストン23に対応する前方側シール部材213及び後方側シール部材214の間に形成されており、リザーバタンク6とシリンダ本体21の内部とを連通している。そして、ポート21cは、第二マスタピストン23に形成された連通路233を介して第二液圧室Bに連通可能となっている。ポート21dは、第二液圧室Bとアクチュエータ5(図1を参照)とを連通する。
又、第一マスタピストン22の外周面22a及び第二マスタピストン23の外周面23aには、外周面22a,23aの面粗さを表す面粗度を異ならせた第一領域S1及び第二領域S2が形成されている。具体的に、第一領域S1及び第二領域S2は、図3に示すように、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の軸線に沿って外周面22a,23aに設けられている。
そして、図3に示すように、第一領域S1は第一面粗度A1を有する領域であり、第二領域S2は第一面粗度A1よりも大きな(即ち、第一領域S1よりも面が粗い)第二面粗度A2を有する領域である。ここで、面粗さを表す第一面粗度A1及び第二面粗度A2は、例えば、最大高さや平均粗さを用いて表されるものであり、値が大きくなる程、面が粗くなる。ここで、第一領域S1及び第二領域S2については、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23が樹脂材料から形成される場合には、例えば、成形型に予め形成されている第一領域S1(即ち、第一面粗度A1)と第二領域S2(即ち、第二面粗度A2)が転写されて形成される。又、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23が金属材料から形成される場合には、例えば、切削加工や研削加工等の機械加工により、第一領域S1(即ち、第一面粗度A1)及び第二領域S2(即ち、第二面粗度A2)が形成される。
(2.マスタシリンダ2の作動について)
次に、マスタシリンダ2の作動について具体的に説明する。車両のブレーキ装置1において、運転者がブレーキペダル7を踏み込み操作する通常ブレーキ時では、運転者によるブレーキペダル7に対する踏力がブレーキブースタ3によって倍力されて第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23に伝達される。これにより、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23は、シリンダ本体21に対して相対的に変位していない非作動時(図2を参照)からシリンダ本体21に対して相対的に変位している作動時(図4を参照)に移行して、第一位置から第二位置に前進する。
ところで、マスタシリンダ2においては、図5に示すように、第一マスタピストン22が第一位置にある非作動時の場合、前方側シール部材213が第一領域S1にて接触し、後方側シール部材214が第二領域S2にて接触する。即ち、前方側シール部材213は、第一面粗度A1とされた第一マスタピストン22の外周面22aに接触している。又、後方側シール部材214は、第一面粗度A1よりも大きな値(面粗度)とされた第二面粗度A2とされた外周面22aに接触している。
一方、マスタシリンダ2においては、図6に示すように、第一マスタピストン22が第二位置にある作動時の場合、前方側シール部材213が第二領域S2にて接触し、後方側シール部材214が第一領域S1にて接触する。即ち、前方側シール部材213は、第二面粗度A2とされた外周面22aに接触している。又、後方側シール部材214は、第一面粗度A1とされた外周面22aに接触している。尚、図5及び図6は、第一マスタピストン22側を例示的に示しているが、第二マスタピストン23側においても同様である。
ここで、前方側シール部材213及び後方側シール部材214が接触する面粗度は、一般に、シール性、連れ動き及び異音(スティックスリップ)に影響を及ぼすと言われている。具体的に、シール性については、面粗度が小さくなる程(面が滑らかになる程)、前方側シール部材213及び後方側シール部材214と外周面22a,23aとの間に形成される微小な隙間が少なくなるため、良好になる傾向を有する。逆に、連れ動き及び異音(スティックスリップ)については、面粗度が大きくなる程(面が粗くなる程)、前方側シール部材213及び後方側シール部材214と外周面22a,23aとの間に微小な隙間が形成されやすくなるため、発生しにくくなる傾向を有する。
従って、図5及び図6に示すように、非作動時から作動時への切り替わりに応じて第一マスタピストン22が第一位置(図5)から第二位置(図6)に向けて前進する際には、前方側シール部材213は第一領域S1にて接触する状態から第二領域S2にて接触する状態に切り替わる。この場合、カップ状の前方側シール部材213の内周縁は、第一マスタピストン22の前進に伴って増加する第一液圧室Aの液圧により、外周面22aに対して押し付けられる。これにより、前方側シール部材213は、第一面粗度A1よりも大きな第二面粗度A2を有する第二領域S2にて接触する状態であっても、良好なシール性を確保することができる。
一方、後方側シール部材214は、非作動時から作動時への切り替わりに応じて第一マスタピストン22が第一位置(図5)から第二位置(図6)に向けて前進する際には、第二領域S2にて接触する状態から第一領域S1にて接触する状態に切り替わる。ここで、第一マスタピストン22側の後方側シール部材214は、第一液圧室Aを形成しておらず、例えば、前方側シール部材213を通過したブレーキフルードがブレーキブースタ3に向けて流れることを防止するものである。従って、後方側シール部材214の内周縁と第一マスタピストン22の外周面22aとの間にはブレーキフルードによる十分な油膜が形成されていない場合がある。この場合、後方側シール部材214の内周縁は十分な潤滑が得られず、その結果、第一マスタピストン22の前進に伴い前方側収容溝212aからはみ出すような連れ動きやスティックスリップによる異音が生じやすくなる可能性がある。
しかしながら、後方側シール部材214の内周縁は、非作動時においては、第一面粗度A1よりも大きな第二面粗度A2を有する第二領域S2にて接触している。これにより、上述したように、後方側シール部材214の内周縁と第一マスタピストン22の外周面22aとの間に微小な隙間が生じている。従って、特に、非作動時から作動時への切り替わりにおいて、後方側シール部材214は、第一マスタピストン22の外周面22aを滑りやすく、その結果、連れ動きによる摺動抵抗の増加やスティックスリップによる異音(振動)が生じにくくなる。
又、作動時から非作動時への切り替わりに応じて第一マスタピストン22が第二位置(図6)から第一位置(図5)に向けて後進する際には、前方側シール部材213は第二領域S2にて接触する状態から第一領域S1にて接触する状態に切り替わる。この場合、第一マスタピストン22が第一位置よりも前進した状態では、第一液圧室Aの液圧は、第一マスタピストン22が第一位置にあるときの液圧に比べて大きくなっている。このため、第二位置から第一位置に向けて第一マスタピストン22が後進する際には、前方側シール部材213の内周縁は、第一液圧室Aの液圧によって、第二領域S2にて外周面22aに対して押し付けられている。
ところで、図6に示すように、第一マスタピストン22が第二位置にある場合、前方側シール部材213は第二領域S2にて液密に接触している。従って、第一マスタピストン22が第二位置から第一位置に向けて後進する場合には、前方側シール部材213は、第一マスタピストン22の外周面22aに対して滑りやすくなっている。その結果、連れ動きによる摺動抵抗の増加やスティックスリップによる異音(振動)の発生が生じにくくなり、第一マスタピストン22はスムーズに後退することができる。
一方、後方側シール部材214は、上述したように、第一液圧室Aを形成していないため、作動時においても第一領域S1にて第一マスタピストン22の外周面22aに押し付けられていない。そして、後方側シール部材214は、ポート21aから供給されたブレーキフルードが外部(ブレーキブースタ3)に向けて漏れ出ることを防止している。従って、第一マスタピストン22が前進して後進することにより、第一マスタピストン22の第一領域S1における外周面22aにブレーキフルードの油膜を形成することができる。このように、後方側シール部材214が接触する第一マスタピストン22の外周面22aに油膜が形成されることにより、連れ動きによる摺動抵抗の増加やスティックスリップによる異音の発生が生じにくくなり、第一マスタピストン22はスムーズに後退することができる。
ここで、非作動時から作動時への切り替わりに応じて、第二マスタピストン23が第一位置から第二位置に向けて前進する際においても、前方側シール部材213は第一領域S1にて接触する状態から第二領域S2にて接触する状態に切り替わる。従って、第二マスタピストン23側においても、前方側シール部材213は、増加する第二液圧室Bの液圧により、第一面粗度A1よりも大きな第二面粗度A2を有する第二領域S2にて接触する状態であっても、良好なシール性を確保することができる。
更に、第二マスタピストン23が第二位置にある場合、前方側シール部材213は第二領域S2にて液密に接触している。従って、第二マスタピストン23が第二位置から第一位置に向けて後進する場合には、前方側シール部材213は、第二マスタピストン23の外周面23aに対して滑りやすくなっている。その結果、連れ動きによる摺動抵抗の増加やスティックスリップによる異音(振動)の発生が生じにくくなり、第二マスタピストン23はスムーズに後退することができる。
一方、第二マスタピストン23側の後方側シール部材214は、上述したように、第一液圧室Aを形成する。この場合、後方側シール部材214が接触する第二マスタピストン23の第一領域S1における外周面23aは、常にブレーキフルードに接触している状態とされている。従って、外周面23aにブレーキフルードの油膜が形成された状態が維持されるため、連れ動きによる摺動抵抗の増加やスティックスリップによる異音の発生が生じにくくなり、第二マスタピストン23はスムーズに後退することができる。
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態のマスタシリンダ2は、一端が閉塞し且つ他端が開口したシリンダ本体21と、シリンダ本体21の内部に軸線に沿って摺動可能に収容された有底筒状のマスタピストンとしての第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23と、シリンダ本体21の内周面212に対して周方向に延設された収容溝212aに収容されて、第一マスタピストン22の外周面22a及び第二マスタピストン23の外周面23aと摺接するシール部材である第一シール部材としての前方側シール部材213及び第二シール部材としての後方側シール部材214と、を備え、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23は、外周面22a,23aの面粗さを表す第一面粗度を有する第一領域S1及び第一面粗度A1よりも大きな面粗さを表す第二面粗度A2を有する第二領域S2が軸線に沿って外周面に設けられている。
そして、前方側シール部材213は、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23がシリンダ本体21に対して相対的に移動しておらず作動液としてのブレーキフルードを加圧していない非作動時において、第一領域S1及び第二領域S2のうちの一方である第一領域S1にて外周面22a,23aに接触し、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23がシリンダ本体21に対して相対的に移動してブレーキフルードを加圧する作動時において、第一領域S1及び第二領域S2のうちの他方である第二領域S2にて外周面22a,23aに接触する。
又、後方側シール部材214は、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23がシリンダ本体21に対して相対的に移動しておらず作動液としてのブレーキフルードを加圧していない非作動時において、第一領域S1及び第二領域S2のうちの一方である第二領域S2にて外周面22a,23aに接触し、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23がシリンダ本体21に対して相対的に移動してブレーキフルードを加圧する作動時において、第一領域S1及び第二領域S2のうちの他方である第一領域S1にて外周面22a,23aに接触する。
即ち、前方側シール部材213及び後方側シール部材214は、軸線に沿って異なる位置に配設されており、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の非作動時において、前方側シール部材213が第一領域S1にて外周面22a,23aに接触すると共に後方側シール部材214が第二領域S2にて外周面22a,23aに接触し、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の作動時において、前方側シール部材213が第二領域S2にて外周面22a,23aに接触すると共に後方側シール部材214が第一領域S1にて外周面22a,23aに接触する、ように構成される。
これらによれば、前方側シール部材213は、非作動時において第一領域S1にて接触しており、且つ、作動時において第二領域S2にて接触する。この場合には、ブレーキフルードが加圧されることに伴って前方側シール部材213の内周縁が第二領域S2にて第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の外周面22a,23aに押し付けられる。第二領域S2は、第一領域S1の第一面粗度A1よりも大きな第二面粗度A2を有している。これにより、作動時から非作動時への移行に伴い、加圧された状態で前進した第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23が後進する際には、前方側シール部材213が第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の外周面22a,23aに張り付くことが抑制される。尚、非作動時から作動時への移行に伴い、加圧された状態で第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23が前進した際にも、前方側シール部材213が第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の外周面22a,23aに張り付くことが抑制される。その結果、連れ動きやスティックスリップが生じにくくなって第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23がスムーズに移動することができて、良好なブレーキフィーリングが得られる。
又、後方側シール部材214は、非作動時において第二領域S2にて接触しており、且つ、作動時において第一領域S1にて接触する。この場合には、例えば、ブレーキ操作がなされておらず、後方側シール部材214が比較的長く第二領域S2にて第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の外周面22a,23aに接触している。第二領域S2は、第一領域S1の第一面粗度A1よりも大きな第二面粗度A2を有している。これにより、非作動時から作動時への移行に伴い、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23が前進する作動開始時には、後方側シール部材214が第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の外周面22a,23aに張り付くことが抑制される。その結果、連れ動きやスティックスリップが生じにくくなって第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23がスムーズに移動を開始することができて、良好なブレーキフィーリングが得られる。
(第一変形例)
上記実施形態においては、図3に示すように、軸線方向にて、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23のそれぞれの外周面22a,23aに第一領域S1と第二領域S2とを(第二領域S2と第一領域S1とを)連続するように設けた。これに代えて、図7に示すように、第一領域S1と第二領域S2との間にて、軸線方向にて第二領域S2から第一領域S1に向けて第二面粗度A2から第一面粗度A1まで徐々に変化する徐変領域としての第一徐変領域J1を設けることも可能である。又、図7に示すように、第一領域S1と第二領域S2との間にて、に軸線方向にて第一領域S1から第二領域S2に向けて第一面粗度A1から第二面粗度A2まで徐々に変化する徐変領域としての第二徐変領域J2を設けることも可能である。
これによれば、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の前進又は後進に伴い、前方側シール部材213及び後方側シール部材214が外周面22a,23aを摺動する際に、第一徐変領域J1及び第二徐変領域J2を通過する。これにより、前方側シール部材213の内周縁及び後方側シール部材214の内周縁に接触する外周面22a,23aの面粗度は、第一面粗度A1から第二面粗度A2(第二面粗度A2から第一面粗度A1)にステップ状に変化することがない。従って、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23に対して相対的に変位する、即ち、摺動する際には、前方側シール部材213及び後方側シール部材214に対する負荷を軽減することができる。その他の効果については、上記実施形態と同様の効果が得られる。
(第二変形例)
上記実施形態及び上記第一変形例においては、図3及び図7に示すように、第二領域S2の軸線方向の長さが後方側シール部材214の軸線方向の長さよりも大きくなるようにした。これに代えて、図8に示すように、第二領域S2の軸線方向の長さを、非作動時に接触する後方側シール部材214の軸線方向の長さと同等、より詳しくは、後方側シール部材214の内周縁におけるシール面の軸線方向の長さよりも少なくとも大きくなるように設定することも可能である。このように、第二領域S2の軸線方向の長さを設定した場合であっても、少なくとも、後方側シール部材214の内周縁は非作動時において第二領域S2にて接触することができる。従って、この第二変形例の場合においても、上記実施形態及び上記第一変形例と同様の効果が得られる。
本発明の実施にあたっては、上記実施形態及び上記各変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態及び上記各変形例においては、作動時において、前方側シール部材213が第二領域S2にて接触するようにした。上述したように、第一マスタピストン22側の前方側シール部材213は第一液圧室Aを形成し、第二マスタピストン23側の前方側シール部材213は第二液圧室Bを形成する。即ち、前方側シール部材213は、常に、ブレーキフルードの油膜が形成された第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23の外周面22a,23aと接触している。
このため、前方側シール部材213は、第一領域S1のみにて接触する場合であっても、連れ動きやスティックスリップを生じにくい。従って、前方側シール部材213は、作動時において、第二領域S2にて接触しないようにすることも可能である。尚、この場合においても、後方側シール部材214は、非作動時において第二領域S2にて接触し、作動時において第一領域S1にて接触する。
又、上記実施形態及び上記各変形例においては、第一マスタピストン22の外周面22aに設けられる第二領域S2の第二面粗度A2と、第二マスタピストン23の外周面23aに設けられる第二領域S2の第二面粗度A2と、が同じであるとした。しかしながら、上述したように、第一マスタピストン22側の後方側シール部材214は、ブレーキフルードの油膜形成がされにくい外周面22aに接触する一方で、第二マスタピストン23側の後方側シール部材214は、ブレーキフルードの油膜形成がされやすい外周面23aに接触する。これにより、第一マスタピストン22側の後方側シール部材214と第二マスタピストン23側の後方側シール部材214とで、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23に対する滑り態様が異なる可能性がある。
このため、例えば、第一マスタピストン22の外周面22aに設けられる第二領域S2の第二面粗度A2と、第二マスタピストン23の外周面23aに設けられる第二領域S2の第二面粗度A2と、が異なるように設定することも可能である。具体的に、第二マスタピストン23の外周面23aに設けられる第二領域S2の第二面粗度は、第一マスタピストン22の外周面22aに設けられる第二領域S2の第二面粗度A2よりも小さく設定することが可能である。これにより、第一マスタピストン22側の後方側シール部材214は、作動時において第一マスタピストン22に対して滑りやすさを維持することができる。従って、上記実施形態及び上記各変形例の効果を得ることができる。
又、上記実施形態及び上記各変形例においては、第一領域S1及び第二領域S2の軸線方向の長さが第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23で同じであるようにした。これに代えて、例えば、第一マスタピストン22の外周面22aに設けられる第二領域S2の軸線方向の長さを、第二マスタピストン23の外周面23aに設けられる第二領域S2の軸線方向の長さよりも大きく設定することも可能である。これにより、第一マスタピストン22側の後方側シール部材214の内周縁は、第二領域S2にて接触するため、上記実施形態及び上記各変形例の効果を得ることができる。
又、上記実施形態及び上記各変形例においては、第二領域S2が軸線方向にて連続するようにした。しかし、第二領域S2が軸線方向にて断続的に設けられ、第二領域S2の間に面粗度が異なる領域を設ける(又は、第二領域S2が第二面粗度A2と異なる面粗度を有する領域を含む)ようにしても良い。
又、上記実施形態及び上記各変形例においては、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23のそれぞれに第二領域S2を挟むように設けられた第一領域S1の第一面粗度A1が同じであるようにした。しかし、第一マスタピストン22及び第二マスタピストン23のそれぞれに設けられる第一領域S1の第一面粗度A1については、互いに異なるように設けることも可能である。
更に、上記第一変形例においては、図7に示すように、第一徐変領域J1及び第二徐変領域J2の軸線方向における面粗度の変化率即ち図7における傾きが同じであるようにした。しかし、第一徐変領域J1及び第二徐変領域J2の面粗度の変化率については、互いに異なるように設けることも可能である。