本開示の実施形態について、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。実施形態において示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、本開示を限定するものではない。尚、明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
気液接触装置にガスを供給した際の流通抵抗による圧力損失を抑制するには、充填材として平板(薄層材)を使用することが有効である。平板による充填材は、製造加工コストの削減が可能であり、装置内への装填作業等も比較的容易である。この場合、多数の鉛直な平板を並列させて、上から液体を供給し、平板間の間隙にガスを供給して、平板上を流下する液体と、間隙を通過するガスとを接触させる。この充填材の形態は、縦型多段構造の気液接触装置において使用されているが、横型多段構造にも適用可能である。
但し、立位の平板を充填材として使用する場合、液体による充填材の濡れ不足によって気液接触面積の減少を生じ易い。平面上を鉛直に流下する液体は横方向に拡がり難いので、液体の分配状況が不均等であると、液体で濡れない面が生じて気液接触効率が低下する。充填材の表面全体を十分に利用するには、供給される液体を的確に充填材に再分配することが有効である。
本開示においては、立位で並列する複数の平板を充填材として、ガスが横方向に流れるように構成した気液接触装置において、充填材に液体を効率的に供給可能な液分配構造体の使用を提示する。液分配構造体が配置される充填材の上方は、横型多段構造においては、横方向に流れるガスの流通抵抗への影響が少ないので、ガスを通過させるための複雑な構造でなくてよい。従って、本開示に従って充填材上部に液分配構造体が配置された気液接触装置を横型多段構造に適用すると、横型多段構造における利点を活かして良好な気液接触を実現することができる。
上述に従って、気液接触装置は、立位で並列する複数の平板を有する気液接触部と、液体を気液接触部に供給する液体供給システムと、ガスを気液接触部に供給するガス供給システムとを有する。液体供給システムは、複数の平板の上方から液体を流下させ、ガス供給システムによって供給されるガスは、複数の平板間を横方向に流通する。この間に、ガスは、複数の平板の表面を流下する液体によって形成される液膜と接触し、気液間の物質移動又はエネルギー移動が生じる。通常、液体を充填材へ供給するには、ノズル又は散布孔を有する分配管、液分配器等が用いられる。しかし、並列する平板を充填材として用いる場合、通常の分配管又は分配器では、平板の表面に液膜を形成する効率が低下しがちである。本開示では、液体供給システムは、複数の平板の頂部に設置される液分配構造体を有し、供給される液体が液分配構造体を通じて複数の平板に分配される。これにより、不均等な液体供給であっても、液分配構造体を通じて液体供給の均等性を高め、液膜形成を効率化することができる。
液分配構造体は、コルゲート状トレーを用いて構成される。コルゲート状トレーは、細長い溝と細長い畝とが交互に並列するように屈曲し、つまり、複数の平行な溝を有する。コルゲート状トレーの屈曲形状は、溝の長手方向に垂直な断面における波形によって規定することができる。本開示において、コルゲート状トレーの断面は、正弦波、三角波、のこぎり波、矩形波、台形波、水面波等の何れの波形であってもよく、或いは、部分円弧又は部分楕円弧が連続する波形でもよい。また、これらの波形から複数を組み合わせた複雑な波形であってもよい。実施する形態に応じて、適した屈曲形状のコルゲート状トレーを採用することができる。コルゲート状トレーの複数の溝の各々は、対になった側壁によって両端が閉止され、上部は開放されている。従って、上方から供給される液体を、コルゲート状トレーの各溝において受けることができる。
コルゲート状トレーは、複数の通液孔を有する。通液孔は、液分配構造体が複数の平板の頂部に設置された状態において、複数の溝に受ける液体を通液孔を通じて複数の平板の頂部に供給可能な位置に設けられる。このような通液孔を有する液分配構造体の形態として、2つの実施形態が挙げられる。第1の実施形態においては、通液孔は、コルゲート状トレーの溝の底部に設けられる。第2の実施形態においては、通液孔は、コルゲート状トレーの畝に設けられる。以下に、図面を参照して、気液接触装置に適用される液分配構造体の実施形態について説明する。
図1は、液分配構造体の第1の実施形態を示す。図1の液分配構造体1は、複数の平板Pの上に載置され、液分配構造体1のコルゲート状トレー2の複数の溝2gが複数の平板Pと交差するように配置される。この実施形態において、液分配構造体1は、コルゲート状トレー2の溝2gの長手方向が複数の平板Pと垂直になるように設置される。コルゲート状トレーの溝2gの長手方向は、複数の平板Pと交差すれば、垂直ではなくてもよいが、溝2gの長手方向が複数の平板Pと垂直な形態は、設計、製造及び設置が容易である。
コルゲート状トレー2は、薄板をジグザグに屈曲させたコルゲート板で構成され、その屈曲形状は、溝2gの長手方向に垂直な断面が三角波になる形状である。コルゲート状トレー2の複数の溝2gの各々は、対になった三角形の側壁3によって両端が閉止され、溝2gの上部は、開放されている。従って、液分配構造体1の上方から供給される液体Lは、コルゲート状トレー2の各溝に受けられる。コルゲート状トレー2は、複数の通液孔4を有し、複数の通液孔4は、コルゲート状トレー2が複数の平板Pの頂部と接する位置に設けられる。つまり、コルゲート状トレー2の屈折線と平板Pの頂辺との交差点に通液孔4が形成され、通液孔4は、溝2gの最下部の角(二面接合辺)に沿って一定のピッチ(中心間距離)で配列する。この通液孔4のピッチは、複数の平板Pが並列するピッチ(中心間距離=並列方向の距離/平板数)に対応する。従って、通液孔4と平板Pの頂部との位置が合致する。故に、コルゲート状トレー2の溝2gに受けた液体は、溝2gの最下部の通液孔4を通じて排出されると、複数の平板Pの頂部に確実に供給される。つまり、液体Lが平板Pを濡らさずに落下することは回避される。
コルゲート状トレー2を構成するコルゲート板は、金属等の塑性変形可能な素材の薄板を用いて製造でき、長方形の薄板に曲げ加工を施して一定間隔で交互に反対側に折り曲げることによって作製可能である。通液孔4は予め薄板に穿設するとよい。三角形の薄板で構成される側壁3をコルゲート板の溝の両端に接合して溝を閉止することによって、液分配構造体1が得られる。或いは、コルゲート状トレー2の部分と側壁3の部分とを予め一体化させた原料薄板を用いて曲げ加工を行ってもよい。つまり、長方形(トレー部分)の対向する二辺に複数対(つまり、溝2gと同数対)の三角形(側壁部分)の一辺を結合させた形状の薄板を用意する。これを用いて、コルゲート状に屈折させたトレー部分から側壁部分を曲げ起こし、三角形のもう一辺をトレー部分に接合することにより、液分配構造体1が得られる。
尚、側壁3の形状は、溝の両端を閉止する形状であればよいので、コルゲート状トレーの溝2gの断面形状と一致させなくてもよい。従って、液分配構造体は、例えば、コルゲート状トレー2の高さ(溝の深さ、振幅の高さ)に対応した幅を有する1対の細長い薄片をコルゲート板の両側に接合して全ての溝の両端が細長い薄片で閉止される形態に変形してもよい。
また、液分配構造体の側壁3を上方に伸長して、コルゲート状トレー2の高さより高くなるように変形してもよい。その場合、上方に向かって拡がるように外側に若干傾斜させると、液体を受け易くなる。同様に、コルゲート状トレー2の両端の溝の側端を形成する端部2eを上方に伸長してもよい。
図1の液分配構造体1では、長手方向に垂直な溝の断面形状は、二等辺三角形(正三角形を含む)であり、このように対称な断面形状のコルゲート状トレーは、安定性が良好である。従って、コルゲート状トレーの断面形状を、正弦波、矩形波、台形波、水面波、部分円弧又は部分楕円弧が連続する波形等の対称な形状に変更しても、安定性が良好な液分配構造体が得られる。図1のように溝の断面形状が三角形である形態は、通液孔4の位置決めが容易であるので、平板Pの頂部への液体供給の確実性が高い液分配構造体を提供可能である。また、平板Pとコルゲート状トレーとの接触が線接触であるので、平板Pの厚さに比べて小さい通液孔4においても、通液孔4と平板Pの頂面との間に通液可能な隙間を保持し易い。
コルゲート状トレー2は、溝の長手方向に垂直な断面形状が非対称である波形のものであってもよい。また、全ての溝の形状が同一でなくてもよく、例えば、コルゲート状トレーの中央部と両端部において、溝の形状が異なってもよい。後述するように、コルゲート状トレー2の波形のピッチによって、液分配構造体1のドリップポイント数が変わるので、コルゲート状トレー2の溝の形状を部分的に変更してピッチを変えると、平板Pへ供給される液体のドリップポイントを部分的に変更可能である。
通液孔4は、様々な形状に形成してよく、例えば、円、長円、楕円等の丸形、或いは、四角形等の多角形であってもよい。図1においては、円形に形成され、円形等の丸形の通液孔は、平板への液体供給の対称性が良好である。液分配構造体1による平板Pへの液体の供給流量は、通液孔4の数及び寸法によって変動するので、通液孔の寸法は、液体の供給流量及び平板Pの厚さを考慮して適宜設定される。平板Pは、概して、強度の許容範囲を考慮して厚さが数mm程度以下のものが使用され、1mm程度以下の厚さの平板は、気液接触の点で有利である。通液孔4の寸法は、平板Pの厚さと同程度又はそれ以上であるとよく、概して、円相当径(開口面積から換算する面積円相当径)が3~5mm程度の範囲であると良好である。通液孔4の大きさを平板Pの厚さより多少大きく設定すると、並列する平板Pの上に液分配構造体1を設置した際に、通液孔4への平板Pの頂部の僅かな咬み込みによって位置決めが容易になるという利点があり、液体供給も良好である。
図1の通液孔4の形状は、他の形状であってもよく、細長いスリット状に変更してもよい。但し、平板Pに沿って長い通液孔4の場合、過度に長い形状であると、平板Pが通液孔4に深く咬み込む。液膜形成面を有効活用する上で、通液孔4と平板Pとの咬み込みは浅いのがよく、噛み込みを防止するには、通液孔4を平板の厚さより細く形成する。平板Pの垂線方向に細長い通液孔の場合は、平板Pと離れて流下する液体が生じないように通液孔の長さを設定する。
コルゲート状トレー2の溝の底部に配列する通液孔4のピッチは、平板Pのピッチと等しく設定される。平板Pを並列させるピッチは、平板の厚さ及びガスの流通抵抗を考慮して適宜決定され、概して、数mm~1cm程度のピッチに設定される。従って、通液孔4のピッチも、概して上記の範囲に設定される。尚、通液孔4のピッチは、平板Pのピッチの倍数に設定する(例えば、液体を1つおきに平板Pに供給する)ことも可能である。但し、それによって、液分配構造体1が平板Pに液体を供給するドリップポイント数が減少する。従って、そのような設定では、液体の供給流量を増加する対応(コルゲート状トレーの波形のピッチを縮小する等)を行うとよい。
液分配構造体1から供給される液体のドリップポイントは、コルゲート状トレー2の波形のピッチに応じて変化し、ピッチの増加に従ってドリップポイントが減少する。つまり、液分配構造体1から平板Pへ供給される液体の流量が減少する。また、コルゲート状トレー2の波形のピッチは、1つの平板Pにおいてドリップポイントの間隔に対応するので、液膜の形成面積に影響を与える。従って、コルゲート状トレー2のピッチは、液膜が好適に形成されるように、液体の供給流量、及び、液体の濡れ幅を考慮して設定するとよい。概して、5~30mm程度の範囲でコルゲート状トレー2のピッチを設定すると液膜を好適に形成することができ、実用的な供給流量を実現可能である。
コルゲート状トレー2の溝が収容可能な液体の容積は、コルゲート状トレー2の高さ(溝2gの深さ)によって設定することができる。コルゲート状トレー2がある程度の量の液体を収容した状態では、液分配構造体1への液体供給が変動しても、液分配構造体1から平板Pへ供給される液体の流量変動を抑制することができる。従って、コルゲート状トレー2の高さは、供給流量の安定性を考慮して適宜設計するとよい。上述した平板P及びコルゲート状トレー2のピッチ等に基づくと、概して、10~20mm程度の高さであると好適な収容容積が得られ、一定流量での供給が容易である。
図1のような液分配構造体において、全ての通液孔から平板Pへ液体を供給可能な流量は、通液孔の開口面積によって変化する。これを考慮して、液分配構造体に一定量の液体が貯留されるように、液分配構造体へ供給する液体の流量を調整することによって、平板Pへの液体の供給を安定的に継続することができる。
次に、液分配構造体の第2の実施形態について、図2を参照して説明する。第2の実施形態では、通液孔は、コルゲート状トレーの畝、つまり、突部の頂辺に沿って設けられる。
図2に示す液分配構造体5は、複数の平板Pの頂部がコルゲート状トレー6の複数の畝6tを支持するように設置され、コルゲート状トレー6の複数の溝6gは、複数の平板Pの間に納まる。つまり、この実施形態において、液分配構造体5は、コルゲート状トレー6の溝6gの長手方向が複数の平板Pと平行になるように配置される。複数の通液孔8は、コルゲート状トレー6の複数の畝6tに設けられ、複数の溝6gから溢れる液体が、通液孔8を通じて複数の平板Pの頂部に供給されるように構成されている。
コルゲート状トレー6は、複数の溝6gの各々の長手方向に垂直な断面が下方に向かって挟搾する逆台形になるように薄板を屈折させたコルゲート板で構成される。つまり、コルゲート板の屈曲形状は、畝6tに実質的に幅をもたない台形波(或いは、三角波と台形波の混合)になる形状である。図2においては、平板Pが薄いので、コルゲート状トレーの畝は、幅がない二面接合辺でよいが、平板Pの厚さに応じて、畝が平板P厚さと同程度の幅を有する台形波の形状にコルゲート状トレー6を変形するとよい。コルゲート状トレー6の複数の溝6gの各々は、対になった逆台形の側壁7によって両端が閉止され、溝6gの上部は、開放されている。従って、液分配構造体5の上方から供給される液体Lは、コルゲート状トレー6の各溝に受けられる。
コルゲート状トレー6の複数の通液孔8は、コルゲート状トレー6が複数の平板Pの頂部と接する位置に設けられる。つまり、コルゲート状トレー6の角張った畝6tに沿って通液孔8が形成される。従って、コルゲート状トレー6の溝6gに受けた液体の量が溝6gの容積を超えると、超過分の液体は、溝から溢れて畝6tの通液孔8を通じて排出され、複数の平板Pの頂部に確実に供給される。故に、液体Lが平板Pを濡らさずに落下することは回避される。
コルゲート状トレー6を構成するコルゲート板は、図1の実施形態と同様の手法で、長方形の薄板に曲げ加工を施して作製することができる。通液孔8は予め薄板に穿設するとよい。コルゲート板の溝の両端に、台形の薄板で構成される側壁7を接合して溝を閉止することによって、液分配構造体5が得られる。或いは、コルゲート状トレー6の部分と側壁7の部分とを予め一体化させた原料薄板を用いて曲げ加工を行ってもよい。つまり、長方形(トレー部分)の対向する二辺に複数対(つまり、溝6gと同数対)の台形(側壁部分)の一辺を結合させた形状の薄板を用意する。これを用いて、コルゲート状に屈折させたトレー部分から側壁部分を曲げ起こし、台形の他の二辺をトレー部分に接合すると、液分配構造体5が得られる。
尚、この実施形態においても、側壁7の形状は、溝の両端を閉止する形状であればよいので、コルゲート状トレーの溝6gの断面形状と一致させなくてもよい。従って、液分配構造体は、例えば、コルゲート状トレー6の高さ(溝の深さ)に対応した幅を有する一対の細長い薄片をコルゲート板の両側に接合して、コルゲート状トレーの全ての溝の両端を細長い薄片で閉止した形態に変形してもよい。
この実施形態では、コルゲート状トレー6の両端の溝の側端を形成する端部6eは、斜め上方に伸長し、側壁7よりも高く形成されている。これにより、上方から供給される液体を受け易くなる。更に、側壁7についても、コルゲート状トレー6の畝6tより高くなるように上方に伸長してもよい。その場合、上方に向かって拡がるように外側に若干傾斜させると、液分配構造体5は液体を受け易い。
図2の液分配構造体5において、溝の長手方向に垂直な断面形状は、等脚台形であり、長手方向の鉛直面について対称な形状であるので、安定性が良好である。この点に関し、コルゲート状トレーの断面形状を、正弦波、矩形波、三角波、水面波、部分円弧又は部分楕円弧が連続する波形等の対称な形状に変更しても、安定性が良好な液分配構造体が得られる。図2のように溝の断面形状が逆台形であると、溝6gに貯留される液体の安定性が良好である。また、並列する複数の平板Pの頂部に設置する作業が容易である。これらの点について、溝の断面形状が半円であるようなコルゲート状トレーも好適である。
液分配構造体5による平板Pへの液体の供給流量は、通液孔8の数及び寸法によって変動するので、通液孔の寸法は、液体の供給流量及び平板Pの厚さを考慮して適宜設定される。図2において、通液孔8は、畝6tに沿った細長いスリット状に形成される。この実施形態においては、溢れる液体を通液孔8から排出し易いように、ある程度の長さ(畝の方向)を有するように形成するとよい。概して、20~30mm程度の長さに形成すると良好である。通液孔8の幅(畝に垂直な方向)は、平板Pの厚さと同程度又はそれ以上であるとよく、概して、2~10mm程度の範囲であると良好である。通液孔8の幅を平板Pの厚さより多少大きく設定すると、平板Pの液膜形成面への液体供給が容易である。
通液孔8は、畝6tに沿って一定のピッチ(中心間距離)で配列する。具体的には、通液孔8は、コルゲート状トレー6の畝に沿って所定の長さを有するスリット状に形成され、相互間に一定間隔をおいて配置される。畝6tにおける通液孔8の間の部分は、複数の溝6gを相互に結合する架橋部6bとして機能し、液分配構造体5は、架橋部6bにおいて平板Pに支持される。従って、液分配構造体5及び貯留される液体の重量が架橋部6bに加わるので、架橋部6bが全体を支持可能な強度を有するように架橋部の長さ(畝方向の長さ)が設定される。概して、5mm程度以上の長さを有する架橋部であるとよい。但し、架橋部の長さが増加するに従って、平板Pに形成される液膜の面積が減少し易くなるので、架橋部の長さは10mm程度以下の長さに設定するとよい。通液孔8による液体供給と、架橋部6bの強度とを兼ね備える上で、通液孔8の長さと架橋部6bの長さとの割合を考慮するとよく、この割合が、3/1~4/1程度となるように通液孔8及び架橋部6bの長さを設定すると、バランスが良好な構造となる。
コルゲート状トレー6の溝6gが液体で満たされた状態では、液体の溢流が、液分配構造体1の全体において均等に生じ、並列する平板Pの頂部全体に液体を均等に供給することができる。コルゲート状トレー6が収容可能な液体の容積は、コルゲート状トレー6の高さ(溝6gの深さ)及びピッチによって設定することができる。コルゲート状トレー6のピッチは、並列する平板Pのピッチに対応し、概して、10~50mm程度の範囲に設定される。従って、コルゲート状トレー6の高さは、貯留液体による重量負荷を考慮して適宜設計するとよい。上述した平板P及びコルゲート状トレー2のピッチ等に基づくと、概して、3~10mm程度の高さであると好適な収容容積が得られる。
図1又は図2に示すような液分配構造体を複数の平板の頂部に設置して使用される気液接触装置について、図3を参照して、以下に説明する。
図3は、図1の液分配構造体1を用いた気液接触装置10の全体構成を説明するための図であり、装置の長手方向に沿った鉛直方向断面図である。図3では、液体の一部が隣接する段へ順次供給される気液接触装置の一実施形態を示す。具体的には、図3の気液接触装置10においては、複数の段の境界に設けられる仕切り壁24の高さの設定によって、底部に貯留する液体の液面レベルを所望のレベルに維持可能な構造を利用する。つまり、液面レベルが仕切り壁24の高さに達すると、液体量の増加によって液体が溢れて隣の段へ移行する性質を利用して、液体を上流側の段から下流側の段へ向かって段階的に移行させる。
気液接触装置10は、水平方向に長く伸長した横長の容器12を有し、複数の段を有する気液接触部11が容器12の内部に構成される。容器12は、長手方向に沿った天板12t、底板12b及び一対の側板と、長手方向両端の端壁12a,12dとを有する。容器12の形状は、長手方向に垂直な断面が略長方形になる略四角柱状である。気液接触部11の複数の段は、横方向に配列するように容器12の長手方向に沿って割り当てられる。複数の段の各々に、立位で並列する複数の平板Pが設置される。尚、この実施形態において、気液接触部11には4つの段が割合てられているが、割り当てられる段の数は、2つ以上の何れの数であってもよく、必要に応じて、適切な数の段に割り当てられる。又、この実施形態において、複数の段は、実質的に均等に割り当てられ、同一寸法の平板Pが充填材として用いられるが、必要に応じて、各段の長手方向の長さが異なるように変更することも可能である。
気液接触装置10の液体供給システムは、図1の液分配構造体1を複数使用して構成され、気液接触部11の複数の段に各々配置される散布管9を有する。散布管9は、各々、多数の孔を有する管によって構成され、配管系を通じて供給される液体Lを、複数の平板Pの上方から散布する。散布管9として、散液又は液分配に通常利用されるものを適宜使用してよく、シャワーヘッド等の噴霧手段に変更してもよい。配管系は、導入路25、還流路14及び導出路26によって構成される。導入路25は、最初に液体が供給される最上流の段の散布管9に接続され、散布管9から供給される液体は、平板Pの上に載置される液分配構造体1に収容される。液分配構造体1の液体は、平板Pに供給されて、その段の底部へ流下する。容器12の底板12bは、段毎に中央が最も低くなるように傾斜した凹型に形成され、凹型の底部に排出口13が接続される。従って、平板Pの表面を伝って流下する液体は、底部に貯留され、排出口13から還流路14へ排出される。
還流路14は、各段における排出口13と散布管9とが連通するように、複数の散布管9と複数の排出口13とを各々接続する。従って、還流路14上のポンプ15が駆動すると、排出口13から回収される液体は、散布管に還流され、各段の液分配構造体1及び平板Pに繰り返し供給される。還流路14における液体の流量は、流量調整弁18によって調整可能である。従って、液分配構造体1における液体の貯留を好適な状態に維持することができ、一定の流量で均等に平板Pに液体を供給することができる。
気液接触部11における各段の境界において、仕切り壁24が容器12の底部に立設される。導入路25からの液体供給によって、最上流(液体の流通方向について)の段の底部に貯留する液体量が増加し、仕切り壁24の高さに達すると、新たな供給量に対応する分の液体が、この段の底部から隣りの段へ溢れ出る。従って、各段に留まる液体量は所定量に規制され、これを超えた時に超過分の液体が、下流側の段の底部に供給される。このようにして、液体が上流側の段から下流側の段へ順次供給される。各段の底部に貯留する液体量は、仕切り壁24の高さによって調整することができる。故に、各段の底部から下流側の段へ供給される液体と元の段へ還流する液体との割合は、仕切り壁24の高さによって設定及び変更することができる。
気液接触装置10は、容器12の端壁12dと最下流の段との間に液回収口27を有し、液回収口27と最下流の段との境界にも仕切り壁24’が設けられる。液回収口27には、導出路26が接続される。従って、最下流の段の底部に貯留する液体は、仕切り壁24’を超えて溢れ出ると、液回収口27から導出路26通って排出される。尚、図3においては、液回収口27は、容器12の底部に設けられているが、容器の側板又は端壁12dに設けるように変更してもよい。その場合、最下流の段の底部において所望の液面レベルを超える分の液体が液回収口27から溢れ出るように、液回収口27を設ける高さを設定するとよい。それにより、仕切り壁24’を省略し、装置の長手方向の長さを短縮することができる。
一方、気液接触装置10は、ガス供給システムとして、管状のガス導入口28及びガス排出口29を有する。ガス導入口28は、端壁12dの中央に設けられ、ガス排出口29は、反対側の端壁12aの中央に設けられる。ガス導入口28は、液体が最後に流通する最下流の段に連通し、ガス排出口29は、液体が最初に流通する最上流の段に連通する。従って、ガスGをガス導入口28から供給することによって、気液接触部11に供給されるガスGは、複数の段を配列に沿って、液体の流れる方向と反対に順次流通する。つまり、気液接触装置10は、向流型の気液接触を実施するように構成されている。勿論、ガス導入口28及びガス排出口29を逆に配置することによって、並流型の気液接触を実施するように変更可能である。尚、図3の実施形態において、ガス供給システムは、外部から供給されるガスGの流圧を利用してガスGの供給を行い、ガス供給用の動力源は特に記載されないが、必要に応じて、ポンプやファン等の送気手段を使用してよい。
ガス排出口29から排出されるガスG’に微小液滴が同伴排出されるのを防止するために、デミスタ30がガス排出口29の近くに設置される。デミスタ30としては、金網、多孔板等の網状又は多孔質の部材が使用可能であり、一般的にデミスタとして利用されるものから適した開口寸法のものを選択すればよい。また、気液接触部11における各段の境界において、容器12の天板12tから垂設される仕切り板31が上側に設けられる。仕切り板31は、その下端が平板Pの上端に達するような高さを有するように設計され、平板Pの角に接するように設置される。つまり、平板Pの上方の空間は、気液接触部の各段の境界において遮断される。従って、仕切り板31は、ガスGが平板P間の空間を回避してその上方を流れるのを防止する役割をする。尚、過度な高さの仕切り板31はガスGの流通抵抗を増加させるので、この点を考慮して適度な高さに設計すればよい。
従って、ガス導入口28から供給されるガスGは、気液接触部の各段において、平板Pの間の空間を横方向に流れ、装置の長手方向に沿って各段を順次通過してガス排出口29から排出される。このような横型多段構造において、気液接触部11を流れるガスGは、液分配構造体1に衝突するのを避けられる。
尚、平板P間の距離を適正に固定するスペーサーを使用する際に、仕切り壁24又は仕切り板31を利用してスペーサーを設置してもよい。或いは、平板Pの側端を嵌合可能な幅を有する浅い鉛直方向の溝を仕切り壁24及び仕切り板31の側面に形成すると、平板Pの側端を溝内で保持して位置決めすることが可能であり、スペーサーとして機能する。
また、図3の実施形態においては、複数の段の各々には、個別に、複数の平板Pが配設される。しかし、複数の段は、相互に横方向に連通するので、複数の段において共通の平板を使用するような変更も可能である。つまり、気液接触部11の長手方向の長さ(=複数の段の長手方向の長さの合計)に等しい長さを有する複数の平板を、複数の段を貫通するように並設してもよい。従って、複数の鉛直な平板Pの各々として、複数の段を通して一体的に連続する横長な平板を使用できる。この際、必要に応じて、仕切り壁24及び仕切り板31を嵌め込むための切り欠きを各平板の上端及び下端に形成すると良好に設置できる。或いは、仕切り板31の下端及び仕切り壁24の上端に複数の切り欠きを形成して、平板を切り欠きに嵌め込むようにしてもよい。この場合、仕切り壁24、仕切り板31及び切り欠きは、平板の位置決め手段としても作用し得る。
気液接触装置10を吸収装置として使用した場合、平板Pに供給される液体Lは、鉛直に立設される平板の表面に沿って流下し、この間に、平板間の空間を横方向に流れるガスGと接触する。この気液接触の間に、液体Lは、平板P上で液膜を形成して、例えば、ガスG中の特定成分を吸収する。特定成分が除去されたガスG’は、ガス排出口29から外部へ放出される。各段において平板Pへ散布される液体Lは、上流側の段から下流側の段へ徐々に移行する。吸収液として機能した液体L’は、容器12の液回収口27に接続される導出路26を通じて回収される。
平板Pの厚さ及び間隔によって、単位容積当たりの濡れ面積(気液接触面積)、ガス流量及びガスの流通抵抗が変化するので、これらを考慮して、好適な流通空間になるように平板の数が設定される。液分配構造体の通液孔の配置も、平板Pの厚さ及び間隔を考慮して適切に決定される。平板の間隔は、例えば、スペーサーを介在させて固定することができる。ガス及び液体の流動を妨げないように、スペーサーの寸法及び設置位置を適宜調整すればよい。気液接触装置10において、ガスG及び液体Lが流れる空間は、並列する平板P間の真っ直ぐで簡素な形状の間隙であるので、流通抵抗が少ない形態である。ガスと液体とを接触させる際のガスの流通抵抗は、操業時の消費エネルギーを左右するので、上述のような気液接触装置は、操業費用等の点で有利である。又、製造加工コストも低く抑えることができる。従って、大容量の処理及び高速での処理が求められる気体-液体接触装置として有用である。
容積当たりの気液接触面積を大きくするために薄い平板を用いる場合、必要に応じて補強手段を用いて、薄い平板の強度を補ってもよい。補強手段として、例えば、平板の両側部にリブを添設したり、クリップ等を用いて支持固定する形態が挙げられるが、公知の手段から適宜選択して適用してよい。スペーサーの配置を工夫して補強効果を得てもよい。
図3の実施形態では、図1の液分配構造体1が用いられているが、勿論、液分配構造体1の代わりに、図2の液分配構造体5を使用してもよい。また、他の形態に変形した液分配構造体であってもよい。更に、気液接触装置10において、液分配構造体1及び液分配構造体5を適宜組み合わせて用いるように変更してもよい。図1,2に記載するような液分配構造体は、平板Pの頂部に液体を確実に供給することができるので、液体が液膜を形成せずに流下するのを防止できる。
図3の気液接触装置10において、還流路14の出口端を、同じ段の散布管9に接続せずに、下流側の段の散布管9に接続することも可能である。これによって、底部に貯留する液体を全て隣接する段の液分配器へ順次供給するように構成することができる。また、還流路14を分岐させて、同じ段の散布管9及び下流側の段の散布管9の両方に接続してもよい。
上述のような気液接触装置によって処理されるガスGとして、例えば、化学プラントや火力発電所等の設備内で発生した廃ガスや反応ガスが挙げられ、屡々、二酸化炭素や、窒素酸化物、硫黄酸化物等の酸性ガスが特定成分として処理される。ガスGから除去する特定成分に応じて、吸収液として使用する液体Lが選択される。例えば、二酸化炭素の回収除去には、環状アミン化合物やアルカノール系アミンやフェノール系アミン、アルカリ金属塩等のアルカリ剤の水溶液が屡々用いられ、硫黄酸化物の除去には、カルシウム化合物、マグネシウム化合物などのアルカリ剤の水性液が一般的に用いられる。二酸化炭素の回収において屡々用いられるモノエタノールアミン(MEA)水溶液では、二酸化炭素との反応によって、カルバミン酸塩・アミン塩(カーバメート)、炭酸塩、重炭酸塩等が生じる。
このため、気液接触装置を構成する各部及び液分配構造体1,5は、上述したようなガスGの成分や液体Lに含まれる化学薬剤に対して耐性を有する素材で製造される。そのような素材として、例えば、ステンレス綱、アルミニウム、ニッケル、チタン、炭素鋼、真鍮、銅、モネル、銀、スズ、ニオブ等の金属や、ポリエチレン、ポリプロピレン、PTFE等の樹脂が挙げられる。このような素材は、一般的な塑性加工及び接合技術を利用して液分配構造体1,5を製造するのに適している。充填材として気液接触部を構成する平板も、少なくとも表面が、上述のような、処理するガスG及び使用する液体Lとの反応(腐食)を生じない耐食性の素材で構成される。素材は、やすりがけ、サンドブラスト処理、紫外線オゾン処理、プラズマ処理などの表面加工によって表面に微小な凹凸を形成して表面粗さを付与したものであってもよい。また、コーティング等による表面の改質によって、上述のような使用条件に合うように調製した素材であってもよい。
平板Pは、厚さが均一な平板又は薄層材であり、気液接触を行う条件に応じて、好適な強度を保持し得るように素材及び厚さを適宜選択することができる。金属線を用いた金網やパンチングメタル板、エキスパンドメタル板等の網板は、単体で自立可能な程度に強度を保持しつつ重量を減少させることが可能な板材であり、液体の濡れ広がりにおいても優れた性質を示す。従って、極めて目が細かい場合には、平板と同様の取り扱いが可能であり、気液接触装置の充填材を構成するために用いてもよい。
尚、気液接触装置は、上述のような特定成分を吸収・分離・除去するための気液接触装置に限らず、種々の化学プラントのプロセスに含まれる冷却、加熱、放散等において使用される装置(冷却塔、加熱塔、放散塔(再生塔)等)に適用することも可能である。