JP7163466B1 - 波動歯車装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】実用に耐え得る範囲内で動力伝達効率が向上する、波動歯車装置を提供する。【解決手段】波動歯車装置1は、内歯歯車2と、可撓性を有する外歯歯車3と、外歯歯車3に波動運動を生じさせる波動発生器4と、を有している。波動生成器4は、外歯歯車3の内周面に嵌合する軸受6を有している。軸受6の外輪6aは、以下の式(1)で求められる弾性度を有している。弾性度(N/mm2)=E×I×(1/D4)・・・(1)E:縦弾性係数,I:断面二次モーメント,D:外輪の外径さらに、前記弾性度は、7.8×10-5~2.7×10-2の範囲である。【選択図】図1

Description

本発明は、波動歯車装置に関する。
波動歯車装置には、高精度、高減速比、軽量という特徴がある。このため、波動歯車装置は主として、ロボット用の減速機として使用されるが、波動歯車装置の動力伝達効率は、一般的な遊星歯車装置に比べて低い。
従来、波動歯車装置の動力伝達効率を向上させる方法としては、例えば、内歯歯車と外歯歯車との噛み合いに着目し、内歯歯車の歯形と外歯歯車の歯形とを設定している(例えば、特許文献1及び2参照。)。
特開2017-166649号公報 特開2018-159458号公報
しかしながら、上記従来の波動歯車装置にも依然として、実用に耐え得る範囲内での動力伝達効率の向上という点において改善の余地があった。
本発明の目的は、実用に耐え得る範囲内で動力伝達効率が向上する、波動歯車装置を提供することである。
本発明に係る波動歯車装置は、内歯歯車と、可撓性を有する外歯歯車と、前記外歯歯車に波動運動を生じさせる波動発生器と、を有しており、前記波動発生器は、前記外歯歯車の内周面に嵌合する軸受を有している、波動歯車装置であって、
前記軸受の外輪は、以下の式(1)で求められる弾性度を有しており、
弾性度(N/mm)=E×I×(1/D)・・・(1)
E:縦弾性係数,I:断面二次モーメント,D:外輪の外径
さらに、前記弾性度は、7.8×10-5~2.7×10-2である。本発明の波動歯車装置によれば、実用に耐え得る範囲内で動力伝達効率が向上する。
本発明に係る波動歯車装置において、前記外輪の縦弾性係数E(GPa)は、0.4~200であることが好ましい。この場合、加工性を維持しつつ、より動力伝達効率が向上する。
本発明に係る波動歯車装置において、前記外輪は、樹脂または軽金属によって形成されていることが好ましい。この場合、材料の選択という簡易な手段によって、動力伝達効率が向上する。
本発明に係る波動歯車装置において、前記外輪は、軸受鋼によって形成されており、前記外輪の外径に対する当該外輪の厚さの厚さ率(%)は、1.2~2.1であることが好ましい。この場合、既存の軸受材料を使用しつつ、上記厚さ率を前記範囲に設定するという簡易な方法によって、動力伝達効率を向上させることができる。
本発明に係る波動歯車装置において、前記外輪は、転動体によって支持されており、前記転動体の表面と前記外輪または前記内輪における当該転動体の軌道面との少なくともいずれか一方に、前記外輪の基材層よりも硬度の高い硬質層が設けられているものとすることができる。この場合、より動力伝達効率が向上する。
本発明によれば、実用に耐え得る範囲内で動力伝達効率が向上する、波動歯車装置を提供することができる。
本発明の第1実施形態に係る波動歯車装置を概略的に示す図である。 図1の領域Xを拡大して示す図である。 図2のA-A断面図である。 本発明の第2実施形態に係る波動歯車装置であり、当該波動歯車装置の軸受の一部を概略的に示す図である。 本発明の第3実施形態に係る波動歯車装置であり、当該波動歯車装置の軸受の一部を概略的に示す図である。 本発明に係る実施例2から得られた具体的な動力伝達効率の数値結果と、当該実施例2に対する比較例から得られた具体的な動力伝達効率の数値結果と、を示す折れ線グラフである。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る波動歯車装置について説明をする。
図1中、符号1は、本発明の第1実施形態に係る波動歯車装置である。波動歯車装置1は、内歯歯車2と、可撓性(弾性も含む)を有する外歯歯車3と、外歯歯車3に波動運動を生じさせる波動発生器4と、を有している。波動発生器4は、外歯歯車3の内周面に嵌合する外輪6aを有している。
波動発生器4は、外歯歯車3の内周面に組み付けられることによって外歯歯車3を非円形に撓ませて当該外歯歯車3に内歯歯車2との噛み合い部分Pを形成するとともに当該噛み合い部分Pを内歯歯車2の周方向に移動させる。
本実施形態において、内歯歯車2は、複数の内歯2aと、円環状本体2bと、を有している。複数の内歯2aは、円環状本体2bの内周から径方向内側に突出している。本実施形態において、内歯歯車2は、例えば、波動歯車装置1のハウジング(図示省略)に固定されている。すなわち、本実施形態において、内歯歯車2は、固定歯車である。さらに、本実施形態において、内歯歯車2は、高い剛性を有する剛性歯車である。内歯歯車2は、例えば、鋳鉄、合金鋼、炭素鋼などの鉄系材料、マグネシウム合金、アルミ合金、チタン合金などの軽金属合金または軽金属単体、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、POM(ポリオキシメチレン)などのエンジニアリングプラスチックなど樹脂材によって形成されている。
また、本実施形態において、外歯歯車3は、複数の外歯3aと、円環状本体3bと、を有している。複数の外歯3aは、円環状本体3bの外周から径方向外側に突出している。外歯歯車3は、可撓性を有する可撓性歯車である。外歯歯車3は、例えば、円環状本体3bを薄肉に形成することによって機械的に変形及び復元をさせることができる。円環状本体3bを薄肉に形成した場合、外歯歯車3を形成するための材料は、例えば、金属、樹脂材を用いることができる。また、外歯歯車3は、例えば、可撓性を有する材料(例えば、合金鋼、炭素鋼、軽金属からなる薄肉材料や、可撓性を有するエンジニアリングプラスチックなどの樹脂材料)を用いることによって材質的に変形及び復元をさせることができる。
また、本実施形態において、波動発生器4は、波動生成コア5と軸受6とを備えている。
本実施形態において、波動生成コア5は、駆動シャフト7に接続されている。駆動シャフト7は、モータ(図示省略)などの動力源に接続されている。波動生成コア5は、内歯歯車2と同様、高い剛性を有する部材である。波動生成コア5の外周面は、例えば、カムのように機能する。本実施形態において、駆動シャフト7の回転軸線は、波動歯車装置1の軸線Oと同軸である。これによって、波動生成コア5は、軸線Oの周りに回転することができる。波動生成コア5は、非円形の形状を有している。本実施形態において、波動生成コア5は、2ローブ(ツーローブ)形である。2ローブ形は、図1に示すように、軸線方向視(軸線Оの方向からの視線)において、楕円形状を有している。図1中、符号5aは、波動生成コア5の長軸側の頂点である。長軸側の頂点5aは、長軸上に配置されている。
本実施形態において、軸受6は、外歯歯車3と波動生成コア5との間の相対回転を許容する。本実施形態において、軸受6は、外輪6a、内輪6b及び転動体6cを有する。こうした構成を有する軸受としては、例えば、ころ軸受、玉軸受(例えば、深溝玉軸受)等のころがり軸受が挙げられる。さらに、本実施形態において、外輪6a及び内輪6bは、可撓性を有している。これによって、外輪6a及び内輪6bは、それぞれ、波動生成コア5の輪郭形状に合わせて変形させることができる。軸受6は、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、POM(ポリオキシメチレン)などの樹脂材料、繊維強化プラスチックによって形成することができる。また。軸受6は、例えば、チタン合金、アルミ合金、マグネシウム合金などの軽金属合金または軽金属単体によって形成することができる。
軸受6の内輪6bは、波動生成コア5の外周面に取り付けられている。これによって、軸受6は、当該軸受6の形状が波動生成コア5の輪郭形状となるように当該波動生成コア5に組み付けられる。ただし、内輪6bは、波動生成コア5と一体的に形成することができる。即ち、本発明によれば、内輪6bは、波動生成コア5の一部として構成することができる。
軸受6の外輪6aは、外歯歯車3の内周面に取り付けられている。外輪6aは、可撓性を有している。これによって、軸受6は、可撓性を有する外歯歯車3を、当該外歯歯車3の形状が波動生成コア5の輪郭形状となるように支持することができる。本実施形態において、波動生成コア5は、2ローブ形である。このため、図1に示すように、外歯歯車3は、軸受6とともに、波動生成コア5の形状にしたがって、楕円形に撓む。これによって、内歯歯車2と外歯歯車3との間には、波動生成コア5の長軸側の2か所の位置に、内歯歯車2と外歯歯車3との噛み合い部分Pが形成される。
波動歯車装置1において、波動発生器4を回転させると、当該波動発生器4の波動生成コア5は、外歯歯車3に対して相対回転させることができる。波動歯車装置1において、外歯歯車3の外歯3aの歯数ZF と、内歯歯車2の内歯2aの歯数ZR と、の間には、歯数差がある。このため、波動発生器4を回転させると、内歯歯車2と外歯歯車3との間には、前記歯数差に起因した相対回転が生じる。これによって、波動発生器4を回転させると、外歯歯車3の噛み合い部分Pは、内歯歯車2の周方向において、波動発生器4の回転方向と反対方向に移動する。本実施形態において、噛み合い部分Pは、波動生成コア5が軸線Oの周りを180度回転する毎に、内歯歯車2に対して波動発生器4の回転方向と反対方向に移動する。すなわち、本実施形態において、波動発生器4からの入力回転は、外歯歯車3からの減速回転として反転出力される。
上述のとおり、波動歯車装置1は、外歯歯車3の外歯3aと内歯歯車2の内歯2aが、長軸側の2つの噛み合い部分Pで噛み合うことで減速を行う。この時の減速比は外歯3aと内歯2aの歯数で決定されるため、他の減速機に比べ高減速比の実現が可能になる。波動歯車装置1は、例えば、ロボット用の減速機として使用される。
その一方、従来の波動歯車装置の動力伝達効率は一般的な遊星歯車装置に比べ低い。この主たる原因は、波動発生器4内の軸受6における摩擦抵抗・粘性抵抗および攪拌抵抗によるものである。ここで、図2を参照すれば、摩擦抵抗は、例えば、外輪6aと転動体6cとの間の摺動部で受ける垂直抗力Nと動摩擦係数μに依存する。波動歯車装置のようなカム長軸部で大きな垂直抗力が発生するような機構においては摩擦抵抗が比較的大きくなる。このため、従来の波動歯車装置は、必然的に動力伝達効率のロスも大きくなっていた。
そこで、本発明は、軸受6の内部で発生する摩擦力Fを低減し、波動歯車装置1内の動力伝達効率の向上を図るものである。
ここで、摩擦力F(N)は、F=μ×Nで定義することができる。
上記式より、摩擦力F(N)は、垂直抗力Nに比例する。本実施形態において、波動発生器4は、2ローブ形である。この場合、垂直抗力Nは、真円状の軸受6を、波動生成コア5の外周形状にしたがって楕円形状に変形させるために必要な力の反力となる。このため、軸受6が変形しやすくなればなるほど、垂直抗力Nは小さくなる。本発明では、軸受6の変形し易さを曲げ剛性EI(=E×I)で定量的に評価し、その値を低減することで垂直抗力Nを小さくする。
本発明によれば、外輪6aは、以下の式(1)で求められる弾性度を有している。
弾性度(N/mm)=E×I×(1/D)・・・(1)
E:縦弾性係数,I:断面二次モーメント,D:外輪6aの外径
ここで、外輪6aの外径Dは、軸受6を波動生成コア5に取り付ける前の、軸受6が真円状態であるときの、外輪6aの直径である。
さらに、本発明によれば、前記弾性度(N/mm)は、7.8×10-5~2.7×10-2の範囲である。より好ましくは、後述の実施例で明らかなように、前記弾性度(N/mm)は、7.8×10-5~5.9×10-4の範囲である。
上記式(1)中、E×Iは、曲げ剛性(N・mm)を表し、曲げ剛性EIともいう。曲げ剛性EIは、縦弾性係数Eと断面2次モーメントIとの乗算値である。曲げ剛性EIに乗算されている項(1/D)は、軸受6の外径Dによる補正項となる。この補正項は、波動歯車装置のサイズ(大きさ)の違いを平準化するための補正項である。具体的には、波動歯車装置のサイズを変更する場合、軸受の厚み(t)および幅(w)もまた、当該サイズの変更に合わせて変更される。このため、断面2次モーメントもまた、軸受6の厚み(t)および幅(w)の変更に合わせて大きく変化する。こうした断面2次モーメントの変化に伴う弾性度の変化を吸収するため、外輪6aの外径Dによる補正項を用いて平準化している。
軸受6の外輪6aの曲げ剛性EIを、波動歯車装置1として必要な強度が確保できる限界まで小さくすれば、軸受6を弾性変形させる際に必要な力は、実用に耐え得る範囲内で低減される。これにより、軸受6の、外輪6aと転動体6cとの間で発生する摩擦力Fもまた実用に耐え得る範囲内で減少する。その結果、波動歯車装置1の動力伝達効率低減を抑制できる。
波動歯車装置1では、前記弾性度(N/mm)が7.8×10-5~2.7×10-2の範囲を満たすように、曲げ剛性EIを設定する。前記弾性度(N/mm)が2.7×10-2以下となる場合、動力伝達効率が本発明に係る構成を有しない従来の波動歯車装置に比べて向上する。また、前記弾性度(N/mm)が7.8×10-5以上となる場合には、耐久性及び加工性を維持しつつ動力伝達効率を向上させることができる。このため、弾性度(N/mm)が7.8×10-5~2.7×10-2の範囲を満たすように設定すれば、外輪6aの曲げ剛性EIを、実用に耐え得る範囲内で、必要な強度が確保できる限界まで小さくすることができる。
したがって、波動歯車装置1によれば、軸受6が実用に耐え得る範囲内で変形しやすくなることにより、軸受6の内部で発生する摩擦力Fが低減され、波動歯車装置1内の動力伝達効率が向上する。
特に、波動歯車装置1において、外輪6aの縦弾性係数E(GPa)は、0.4~200の範囲であることが好ましい。縦弾性係数E(GPa)が200以下となる場合、本発明に係る構成を有しない従来の波動歯車装置に比べてより動力伝達効率が向上する。また、縦弾性係数E(GPa)が0.4以上となる場合、軸受6の外輪6aは、外歯歯車3をより安定した状態で支持できるような剛性を得ることができる。これにより、動力伝達効率が向上する。加えて、この場合、外輪6aの加工性も従来の加工性を維持することができる。したがって、外輪6aの縦弾性係数E(GPa)を0.4~200の範囲とすれば、加工性を維持しつつ、より動力伝達効率が向上する。
また、波動歯車装置1において、外輪6aは、樹脂または軽金属によって形成されていることが好ましい。この場合、材料の選択という簡易な手段によって、動力伝達効率が向上する。前記樹脂としては、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、POM(ポリオキシメチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの樹脂材料、繊維強化プラスチックが挙げられる。また、前記軽金属としては、例えば、チタン合金、アルミ合金、マグネシウム合金等の軽金属合金または軽金属単体でもよい。なお、外輪6aの構成材料は、単一材料である必要はない。外輪6aの構成材料は、樹脂および軽金属を組み合わせたものとすることができる。あるいは、外輪6aの構成材料は、樹脂、軽金属および鉄材料の、少なくともいずれか2つを組み合わせたものとすることもできる。また、内輪6bも、外輪6aと同様の材料で形成することができる。
特に、波動歯車装置1において、外輪6aは、軸受鋼(例えば、SUJ2)によって形成されており、外輪6aの外径Dに対する当該外輪6aの厚さtの比である厚さ率(%)は、1.2~2.1の範囲であることが好ましい。
図1を参照すれば、前記厚さ率(%)は、以下のように、定義される。
厚さ率(%)=t/D・・・(2)
D:外輪6aの外径、t:外輪6aの厚さ
厚さ率(%)が1.2~2.1の範囲である場合、軸受鋼という既存の軸受材料を使用しつつ、外輪6aの厚さ率(%)を前記範囲(1.2~2.1)に設定するという簡易な方法によって、動力伝達効率を向上させることができる。
一方、摩擦力F(N)は、動摩擦係数μにも比例する。動摩擦係数μは、一般的に、摺動面の硬度が高いほど小さくなる。そこで、転動体6cと外輪6аとの摺動面に硬質層を形成すれば、動摩擦係数μを低減でき、波動歯車装置1の動力伝達効率の低減をさらに抑制できる。
波動歯車装置1において、外輪6aは、転動体6cによって支持されている。そのため、本実施形態において、転動体6cの表面と外輪6aまたは内輪6bにおける当該転動体6cの軌道面との少なくともいずれか一方に、外輪6aの基材層よりも硬度の高い硬質層を設ければ、より動力伝達効率が向上する。ここで、転動体6cの軌道面とは、外輪6aの内周面と、内輪6bの外周面との少なくともいずれか一方をいう。
前記硬質層として使用される材料としては、例えば、軸受鋼よりも高い硬度の材料、具体例としては、DLC(ダイアモンドライクカーボン)が挙げられる。また、前記硬質層が表面硬化処理によって形成される場合、当該表面硬化処理は、特定の表面処理に限定されることはない。こうした表面効果処理としては、例えば、 クロムメッキ、窒化処理、浸炭処理 などが挙げられる。前記硬質層は、転動体6cまたは当該転動体6cの軌道面のいずれか一方に形成することができる。あるいは、前記硬質層は、転動体6cおよび当該転動体6cの軌道面の両方に形成することができる。この場合、動力伝達効率が最も向上する。また、本発明によれば、外輪6aを多層構成とし、軌道溝がある内側層を鉄等の硬質層とし、外側層を樹脂等の縦弾性係数Eの低い材料とすることができる。また、本発明によれば、内輪6bを多層構成とし、軌動面としての外側層を鉄等の硬質層とし、内側層を樹脂等の縦弾性係数Eの低い材料とすることができる。
図4は、本発明の第2実施形態に係る波動歯車装置であり、当該波動歯車装置の軸受6の一部を概略的に示す図である。本実施形態では、軸受6の外輪6aの形状を変更している。本実施形態において、外輪6aの外周面には、周方向に間隔を置いて、複数の溝6dが設けられている。外輪6aに溝6dを設ければ、当該外輪6aは溝6dを起点に曲げやすくなる。即ち、外輪6aに溝6dを設ければ、外輪6aの曲げ剛性EIを低下させることができる。これによって、外輪6aがより曲げやすくなる。したがって、本実施形態によれば、溝6dの無い波動歯車装置と比較して、動力伝達効率を向上させることができる。
具体的には、溝6dは、軸線Оに向かって径方向内側に窪んだ溝として形成されている。また、本実施形態において、溝6dは、軸線Оに対して平行に、つまり、軸線方向に対して平行に延びている。さらに、本実施形態において、溝6dは、外輪6aの軸線方向端に至るまで形成されている長溝である。また、図4を参照すれば、軸受6の外輪6aを加工して弾性度を前記範囲とすることで動力伝達効率の向上させることができる。例えば、V字形(くさび形)の長溝、U字形の長溝を軸受6の外輪6aに設けることで弾性度を前記範囲とすることが可能である。
図5は、本発明の第3実施形態に係る波動歯車装置であり、当該波動歯車装置の軸受6の一部を概略的に示す図である。本実施形態では、外輪6aの内部に空孔部B6が設けられている。空孔部B6は、外輪6aの内部に存在する閉じた空間である。外輪6aの内部に空孔部B6を設ければ、当該外輪6aの内部に空孔(空間)が形成されるため、縦断性係数Eが下がる。その結果、図4の実施形態と等価的に曲げ剛性EIを低下させることができる。これによって、外輪6aがより曲げやすくなる。したがって、本実施形態によれば、空孔部の無い波動歯車装置と比較して、伝達効率を向上させることができる。
なお、図5の第3実施形態では、空孔部B6は単なる空孔としたが、当該空孔部B6に樹脂等の低い縦弾性係数Eの材料を含侵させても良い。また、前記空孔のサイズが大きい場合、当該空孔は、疲労破壊の起点となる。このため、前記空孔のサイズ(具体的には、平均空孔径、すなわち、空孔の平均直径)は、数10μm以下で均一に分散していることが望ましい。
次に、本発明の実施例について説明する。
以下の表1は、動力伝達効率の測定結果を示す。この測定結果には、本発明に係る実施例1~6で得られた動力伝達効率の測定結果と、実施例1~6との比較のための比較例1~2で得られた動力伝達効率の測定結果とが含まれている。
Figure 0007163466000002
表1には、各実施例および比較例の、外輪6aの弾性度(N/mm)、外輪6aの厚さt(mm)、外輪6aの厚さ率(%)、軸受6の外輪6aの材質も併せて示されている。動力伝達効率の測定は、波動発生器4を入力としている。入力回転速度(rpm)は、100~1000rpmの範囲のうちの、100rpm、500rpm、1000rpmの3種類とした。また、負荷トルク(N・m)は、1.0で測定を行った。特に、実施例6では、軸受6の、転動体6c、外輪6aの軌道面(内周面)および内輪6bの軌道面(外周面)に、DLCによって構成された硬質層が形成されている。動力伝達効率は、◎:動力伝達効率50%以上、〇:動力伝達効率40%以上50%未満、△:動力伝達効率30%以上40%未満、×:動力伝達効率30%未満、の4種類で評価した。
次いで、以下の表2は、実施例1~6および比較例1~2の、実用性を加味した総合判定結果を示す。総合判定の項目には、動力伝達効率のほか、加工難度、耐久性が含まれている。総合評価は、動力伝達効率、加工難度、耐久性それぞれの評価を加味して出した評価である。総合評価は、◎:とても良い、〇:良い、△:少し良い、×:悪い、の4種類とした。この総合判定では、総合評価が△以上のものが、実用的な波動歯車装置であると判断した。
Figure 0007163466000003
ここで、実施例1は、この出願の請求項3に係る発明に相当する実施例である。実施例1は、軸受6の外輪6aおよび内輪6bを、樹脂材料のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)とし(縦弾性係数E=4.0×10N/mm)、外輪6aおよび内輪6bの厚さを0.8mmとしている。これに対し、比較例2では、樹脂材料を同じPTFEとし、外輪6aおよび内輪6bの厚さを0.5mmとしている。両者ともに材質変更による縦弾性係数Eの低減及び外輪6aの厚さの減少によって、曲げ剛性が低減され、良好な動力伝達効率を得られるが、比較例2では、外輪6aおよび内輪6bの厚さが薄すぎて、耐久性に問題があり、実用に耐え得ない。
次いで、実施例2もまた、この出願の請求項3に係る発明に相当する実施例である。実施例2は、軸受6の外輪6aおよび内輪6bを、樹脂材料のPEEKとし(縦弾性係数E=3.00×10N/mm)、外輪6aおよび内輪6bの厚さを0.8mmとしている。ここで、表3には、実施例2の動力伝達効率を測定して得られた、具体的な数値結果を示す。表3には、軸受6の外輪6aおよび内輪6bを、軸受鋼(SUJ2)とし(縦弾性係数E=2.08×10N/mm、弾性度=4.1×10-2N/mm)、外輪6aおよび内輪6bの厚さを0.8mmとした比較例1の動力伝達効率を測定して得られた、具体的な数値結果も併せて示す。また、図6には、表3を折れ線グラフで示す。
Figure 0007163466000004
表3および図6に示すとおり、実施例2と従来技術との両方で動力伝達効率の比較試験を行った結果、実施例2の動力伝達効率は50%以上であったのに対して、従来技術の動力伝達効率は約22~30%であり、約2倍の動力伝達効率の向上を確認できた。また、軸受6の外輪6aの材質がPEEKの場合、厚さ率(%)が2.4%~4.4%であることが望ましい。厚さ率(%)が2.4%より小さくなると、内輪6bを含めて外輪6aの厚さが薄くなりすぎ、十分な軌道溝深さが確保できなくなる。この場合、転動体6cの脱輪が発生することが懸念される。また、厚さ率(%)が4.4%より大きくなると逆に外輪6aの厚さtが厚くなりすぎることから、弾性度(N/mm)も大きくなりすぎてしまうため、結果的に、動力伝達効率が悪化する。したがって、軸受6の外輪6aの材質がPEEKの場合、厚さ率(%)は、2.4%~4.4%であることが望ましい。なお、実施例2では、外輪6aおよび内輪6bの樹脂材料としてPEEKを使用したが、当該樹脂材料は、PTFE、POMといった樹脂材料、繊維強化プラスチック、あるいは、チタン合金、アルミ合金、マグネシウム合金などの軽金属合金またはそれら軽金属単体でもよく、縦弾性係数Eは、0.4GPa~200GPaの範囲が望ましい。
実施例3~5は、この出願の請求項4に係る発明に相当する実施例である。軸受6の外輪6aおよび内輪6bを、軸受鋼(SUJ2)とし、厚さ率(%)が較例1の2.4%からそれぞれ、2.1%、1.5%、1.2%になるように、外輪6aおよび内輪6bの厚さのみを変更した例である。外輪6aの厚さtが減少することで曲げ剛性EIが低減され、比較例1と比較して動力伝達効率を向上させることができる。この場合、厚さ率(%)が1.2%~2.1%であることが望ましい。厚さ率(%)が1.2%より小さくなると外輪6aおよび内輪6bの厚さが薄くなりすぎる。このため、外輪6aの作製が困難になり、かつ、耐久性が低下する。また、厚さ率(%)が2.1%より大きくなると、比較例1と厚さがほとんど変わらずに厚くなりすぎることから、弾性度(N/mm)も大きくなりすぎてしまうため、結果的に、動力伝達効率が向上しない。このため、厚さ率(%)が2.1%以下となれば、厚さの変化による伝達効率ロスの低減が少なくなり、動力伝達効率があまり向上しない。したがって、厚さ率(%)は、1.2%~2.1%であることがより望ましい。
表2を参照すれば、実施例1~6および比較例1、2の関係より、波動歯車装置1は、前記弾性度(N/mm)が7.8×10-5~2.7×10-2の範囲を満たしており、実用に耐え得る範囲内で動力伝達効率が向上していることは明らかである。より好ましくは、実施例1、2および4のように、前記弾性度(N/mm)は、7.8×10-5~1.0×10-2の範囲である。
また、実施例1、2を参照すれば、曲げ剛性EIを抑制する一つの方法は、外輪6aを構成する材質を、縦弾性係数Eが低い材質に変更することであることは明らかである。
また、実施例3~5を参照すれば、曲げ剛性EIを抑制する二つ目の方法は、外輪6aの厚さtを薄くすることであることは明らかである。ここで、図3には、軸受6の外輪6aが図2のA-A断面で示されている。図3中、符号wは、外輪6aの軸線方向幅である。また、図3中、符号tは、外輪6aの厚さである。図3を参照すれば、外輪6aの断面2次モーメントIは、I=(w×t)/12である。したがって、断面2次モーメントIは、外輪6aの厚さtの3乗に比例する。したがって、外輪6aの厚さtを薄くすれば、曲げ剛性EIを低減させることができる。
また、曲げ剛性EIを抑制する三つ目の方法として、断面2次モーメントIは、外輪6aの断面形状、内部構造を変えることによって低下させることができる。具体例としては、上記第2および第3実施形態が挙げられる。
さらに、実施例6は、この出願の請求項5に係る発明に相当する実施例である。この実施例では、軸受6の、転動体6c、外輪6aの摺動面(内周面)および内輪6bの摺動面(外周面)に、DLCによって構成された硬質層が形成されている。これによって、摩擦力Fの一因となる、摺動部の動摩擦係数が抑制されることによって、動力伝達効率が向上することがわかる。また、本実施形態ではDLCを硬質層として説明しているが、上述のとおり、DLCに限定されるものではなく、例えばクロムメッキ、窒化処理、浸炭処理等を用いて硬質層を作成しても良い。
上述したところは、本発明に係る、複数の実施形態及び実施例を例示したにすぎず、特許請求の範囲に従えば、様々な変更が可能となる。本実施形態において、波動歯車装置1は、2ローブ形で説明したが、本発明は。2ローブ形に限定されるものではない。本発明によれば、波動生成コア5は、複数ローブ形であればよい。波動生成コア5の具体例としては、例えば、三角形状の3ローブ形、四角形状の4ローブ形が挙げられる。また、上記説明では、波動歯車装置1の動力伝達経路は、波動発生器4を入力とし、外歯歯車3を出力としたが、これに限定されるものではない。
1:波動歯車装置, 2:内歯歯車, 2a:内歯, 2b:円環状本体, 3:外歯歯車, 3a:外歯, 3b:円環状本体, 4:波動発生器, 5:波動生成コア, 5a:頂点, 6:軸受, 6а:外輪, 6b:内輪, 6c:転動体, 6d:溝, 7:駆動シャフト, B6;空孔部, P:噛み合い部分

Claims (5)

  1. 内歯歯車と、可撓性を有する外歯歯車と、前記外歯歯車に波動運動を生じさせる波動発生器と、を有しており、前記波動発生器は、前記外歯歯車の内周面に嵌合する軸受を有している、波動歯車装置であって、
    前記軸受の外輪は、以下の式(1)で求められる弾性度を有しており、
    弾性度(N/mm)=E×I×(1/D)・・・(1)
    E:縦弾性係数,I:断面二次モーメント,D:外輪の外径
    さらに、前記弾性度は、7.8×10-5~2.7×10-2である、波動歯車装置。
  2. 前記外輪の縦弾性係数E(GPa)は、0.4~200である、請求項1に記載された波動歯車装置。
  3. 前記外輪は、樹脂または軽金属によって形成されている、請求項2に記載された波動歯車装置。
  4. 前記外輪は、軸受鋼によって形成されており、前記外輪の外径に対する当該外輪の厚さの比である厚さ率(%)は、1.2~2.1である、請求項1に記載された波動歯車装置。
  5. 前記外輪は、転動体によって支持されており、前記転動体の表面と前記外輪または前記内輪における当該転動体の軌道面との少なくともいずれか一方に、前記外輪の基材層よりも硬度の高い硬質層が設けられている、請求項1~4のいずれか1項に記載された波動歯車装置。
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