以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なときを除き、同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
(実施の形態1)
<細胞応答計測装置の構成>
一実施の形態における細胞応答計測装置の構成を、図1~図4を用いて説明する。図1は、実施の形態1の細胞応答計測装置MD1の構成図である。図2は、実施の形態1の細胞応答計測装置MD1の断面図である。図3は、実施の形態1の細胞応答計測装置MD1の平面図である。図4は、実施の形態1の細胞応答計測装置を構成するセンサユニットS11の要部断面図である。
図1に示すように、実施の形態1の細胞応答計測装置MD1は、複数のセンサユニットSij([i,j]=[1,1]…[m,n])と、参照電極REと、複数の電位計測部VMij([i,j]=[1,1]…[m,n])と、差分処理部DCと、記録部MEと、表示部DIとを有している。図3に示すように、細胞応答計測装置MD1において、センサユニットSijがm×nの二次元マトリクス状に配置されている。詳細は後述するが、センサユニットSijは、平面方形状の基板(半導体基板)SB上に形成されている。そのため、センサユニットSijは、基板SBの長さ方向(第1方向)および幅方向(第2方向)に沿ってマトリクス状に配置されている。
各センサユニットSijには、それぞれ電極(延長ゲート電極、第1導体膜)ELij([i,j]=[1,1]…[m,n])が設けられている。すなわち、電極ELijもm×nの二次元マトリクス状に配置されている。電極ELijは平面方形状に形成されている。電極ELijの1辺の長さは例えば20 μmである。また、各電極ELij上には、それぞれ、細胞Cij([i,j]=[1,1]…[m,n])が配置(播種)されている。
センサユニットSijにおいて、例えば、m=64、n=64の場合、合計4096個のセンサユニットSijが配置される。この際、1つのセンサユニットSijに1つの細胞Cijが配置されると、合計4096個の細胞Cijが、センサユニットSij中にそれぞれ配置される。図4に示すように、細胞Cijは、上下方向につぶれた状態で、電極ELijを覆っている。後述するように、平面視において、電極ELijのうち、細胞Cijに覆われている部分の面積に比べて、細胞Cijが覆っていない部分の面積を小さくすることが好ましい。そのため、平面視において、電極ELijの面積は、細胞Cijの面積とほぼ同じであることが好ましい。
図1には、センサユニットSijのうち、センサユニットS11とセンサユニットS12とを示している。センサユニットS11は、電極(第1電極)EL11と細胞(第1細胞)C11とを有している。センサユニットS12は、電極(第2電極)EL12と細胞(第2細胞)C12とを有している。ここで、細胞C11には、匂い分子などの物理化学的刺激に応答する受容体ERが発現している。一方、細胞C12には、このような受容体は発現していない。
細胞Cijは、例えば、ツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)由来の細胞を採用することができ、Sf21細胞やSf9細胞などが好ましい。Sf21細胞は、18~40℃と広範囲の温度条件下で生存でき、培養液のpHを調整するための二酸化炭素を必要とせず、簡便に使用可能である。そのため、細胞応答計測装置MD1の細胞Cijとして、Sf21細胞を採用することが好ましい。細胞Cijは半球状であり、細胞Cijの長直径は約20 μmである。
受容体ERは、例えば嗅覚受容体である。嗅覚受容体の一例としては、キイロショウジョウバエの嗅覚受容体の一種であるOr13aやOr56aが挙げられる。嗅覚受容体Or13aおよび嗅覚受容体Or56aは、それぞれOrco(Olfactory receptor co-receptor)と複合体を形成し、リガンド活性型イオンチャネルとして機能する。嗅覚受容体Or13aが発現したSf21細胞(細胞OC13)は、1-オクテン-3-オールに選択的に応答する。そして、嗅覚受容体Or56aが発現したSf21細胞(細胞OC56)は、ジェオスミン(ゲオスミン)に選択的に応答する。一方、嗅覚受容体が発現していないSf21細胞(細胞WC)は、1-オクテン-3-オールやジェオスミンを含む多くの匂い分子に応答しない。
実施の形態1では、細胞C11として、受容体Or13aが発現したSf21細胞(細胞OC13)を用いており、細胞C12として、嗅覚受容体が発現しないSf21細胞(細胞WC)を用いている。このように、実施の形態1のセンサユニットには、受容体ERが発現した細胞を有するセンサユニットと、受容体が発現していない細胞を有するセンサユニットとの両方が存在する。センサユニットの詳細な構造は後述する。
図2に示すように、センサユニットSijが形成された基板SBは、配線基板(プリント基板)PB上に配置されている。配線基板PB上には、誘導部FGが設けられている。誘導部FGの内部には、流路FGcが形成され、流路FGcの入口FGaおよび出口FGbには、シリコンなどの軟質チューブと、軟質チューブ内の液体を送り出すポンプ(図示せず)が接続されている。ポンプの一例としては、軟質チューブをローラーでしごいて送液するチューブポンプがある。
流路FGcは、基板SB上のセンサユニットSijに面している。また、流路FGcにおいて、センサユニットSijの上方には、カバーガラスCGが設けられている。そのため、センサユニットSij内の細胞Cijを、カバーガラスCGを介して光学的に観察することができる。また、流路FGcは、生理水溶液(電解質溶液)RS(または測定対象の成分を含む液体RSa)によって満たされている。そのため、センサユニットSij内の細胞Cijは、生理水溶液RS(または測定対象の成分を含む液体RSa)に常に接触している。また、参照電極REは、生理水溶液RS(または測定対象の成分を含む液体RSa)に接触している。生理水溶液RSは、Na+、Ca2+などを含む電解質溶液である。
図2および図3に示すように、生理水溶液RS(または測定対象の成分を含む液体RSa)は、流路FGcを流れる(灌流する)ことにより、基板SB上を、基板SBの長さ方向に沿って流れる。より具体的には、生理水溶液RS(または測定対象の成分を含む液体RSa)は、基板SBの幅方向中央を通る軸FD(以下、流れ軸FDと称する)を中心とした流れを形成し、流れ軸FDから基板SBの幅方向端部へと広がっていく。実施の形態1では、流れ軸FDを対称軸として、異なる種類の細胞CijをセンサユニットSijに配置している。すなわち、センサユニットSijのうち、流れ軸FDを挟んだ一方側には、受容体が発現した細胞OC13を配置し、流れ軸FDを挟んだもう一方側には、受容体が発現していない細胞WCを配置している。また、センサユニットSijのうち、センサユニットS11とセンサユニットS12とが流れ軸FDを挟んで配置される。
また、図1に示すように、センサユニットSijの電極ELijと参照電極REとは、各電位計測部VMijにそれぞれ電気的に接続されている。すなわち、各電位計測部VMijは、参照電極REを基準とした各電極ELijの電位を計測する。例えば、電位計測部VM11は、電極EL11の電位を計測し、電位計測部VM12は、電極EL12の電位を計測する。特に、実施の形態1の電位計測部VMijは、後述する半導体装置SDijとして構成されており、細胞Cijの微弱な電位応答信号をMOSFETのオン電流として増幅して計測することができる。
また、各電位計測部VMijは、差分処理部DCに接続されている。すなわち、差分処理部DCは、電位計測部VMijで計測した各電極ELij間の電位の差分、すなわち、各センサユニットSij間の出力信号の差分を算出する。差分処理部DCは、記録部MEと、表示部DIとに接続されている。すなわち、記録部MEは、各センサユニットSijの出力信号の差分を記録する。表示部DIは、各センサユニットSijの出力信号の差分を表示する。
なお、細胞応答計測装置MD1は、記録部MEと、表示部DIとを有している場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。また、記録部MEは、差分処理部DCで処理する前の電位計測部VMijで計測した各電極ELijの電位を記録してもよい。
次に、実施の形態1のセンサユニットの構造について詳細に説明する。
図4に示すように、実施の形態1のセンサユニットS11は、電位計測部VM11と、電位計測部VM11に接続された電極EL11と、電極EL11上に第1絶縁膜IFを介して配置された生理水溶液RSと、生理水溶液RS中に配置され、第1絶縁膜IFに接触する細胞C11とを備えている。
電位計測部VM11は、半導体装置SD11として構成されている。半導体装置SD11は、半導体素子としてMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)を有している。このMOSFETは、基板(半導体基板)SBと、基板SB内に形成されたソース領域SRおよびドレイン領域DRと、ソース領域SRおよびドレイン領域DR間に形成されたチャネル領域CHと、チャネル領域CH上に形成されたゲート絶縁膜GIと、ゲート絶縁膜GI上に形成されたゲート電極GEとを有している。基板SBは、例えばシリコン(Si)からなる。ゲート電極GEは、例えばアルミニウム(Al)膜からなる。ゲート絶縁膜GIは、例えば酸化アルミニウム(Al2O3)膜からなる。前記MOSFETは、種々のセンサFETを用いることができる。半導体装置SD11は、特にISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor:イオン感応性電界効果トランジスタ)と呼ばれる。
前記MOSFETを覆うように、基板SB上には絶縁層ILが形成されている。絶縁層ILは、例えば、酸化シリコン膜からなる。なお、ゲート電極GEの一部の上面には絶縁層ILが形成されていない。
ゲート電極GE上および絶縁層IL上には、電極EL11が形成されている。電極EL11は、ゲート電極GEと電気的に接続されており、平面視において、電極EL11の面積は、ゲート電極GEの面積よりも大きい。そのため、電極EL11は、延長ゲート電極と呼ぶこともできる。電極EL11は、例えば平面方形状に形成されている。電極EL11の面積は、平面視において、細胞C11の面積と同じか、細胞C11の面積よりもわずかに大きい面積を有している。電極EL11は、アルミニウム(Al)膜からなる。電極EL11の膜厚は、例えば約300 nmである。なお、ゲート電極GEと電極EL11とは一体に形成されていてもよい。
また、電極EL11上には、第1絶縁膜(イオン感応膜)IFが形成されている。第1絶縁膜IFは、平面視において、電極EL11と同じ面積に形成されている。第1絶縁膜IFは、酸化アルミニウム膜からなる。第1絶縁膜IFの膜厚は、例えば約5nm以下である。
実施の形態1の細胞C11は、嗅覚受容体Or13aが発現したSf21細胞(細胞OC13)からなる。細胞C11は、脂質(二重)膜LBと、脂質膜LBに発現した受容体ERと、細胞C11内に発現したカルシウム2価イオン(Ca2+)指示・緑色蛍光タンパク質FP(GCaMP6s;以下、緑色蛍光タンパク質FPと称する)とを有している。細胞C11の一部は、半導体装置SD11の第1絶縁膜IFと接しており、この状態で、細胞C11は、生理水溶液RS(または測定対象の成分を含む液体RSa)に浸漬されている。すなわち、第1絶縁膜IFは、細胞C11と生理水溶液RS(または測定対象の成分を含む液体RSa)とに接している。図示しないが、細胞C11以外の受容体ERが発現した細胞OC13においても、細胞C11と同様に、緑色蛍光タンパク質FPが発現している。
なお、以上で説明したセンサユニットS11以外のセンサユニットSijの構成については、センサユニットS11と同様の構成であるため、繰り返しの説明を省略する。ただし、センサユニットSijには、細胞C11と同じ細胞OC13を有するセンサユニットSijと、前述の細胞C12と同じ細胞WCを有するセンサユニットSijとの2種類存在する。
また、図2には、一例として、1つのセンサユニットSij中に1つの細胞Cijが配置されている場合を示しているが、これに限定されるものではなく、1つのセンサユニットSij中に複数の細胞Cijが配置されていてもよい。ただし、後述するように、平面視において、電極ELij(第1絶縁膜IF)は、細胞Cijによって確実に、かつ、均一に被覆されることが好ましい。
また、複数の細胞Cijが配置されたセンサユニットSijや、細胞Cijが配置されないセンサユニットSijが存在した場合であっても、これらのセンサユニットSijの挙動は他のセンサユニットSijと区別することができるため問題はない。ただし、1つの細胞の応答信号を確実に取り出すという観点からは、1つのセンサユニットSijに1つの細胞Cijが配置され、1つの電極ELijが1つの細胞Cijに覆われていることが好ましい。
また、実施の形態1では、細胞Cijと電極ELijとの間に、第1絶縁膜(イオン感応膜)IFが形成されている場合を例に説明したが、細胞Cijと電極ELijとは直接接触していてもよい。ただし、細胞Cijと電極ELijとの間に第1絶縁膜(イオン感応膜)IFが介在すると、細胞Cijの微弱な電位応答信号を増幅出来ることがわかっている。そのため、細胞Cijと電極ELijとの間に、第1絶縁膜IFが形成され、第1絶縁膜IFを介して、電極ELijが細胞Cijに覆われていることが好ましい。
<細胞応答計測装置の動作原理>
以下、実施の形態1の細胞応答計測装置MD1の動作原理について説明する。なお、前述のように、センサユニットS11以外のセンサユニットSijの構成については、センサユニットS11と同様の構成であるため、センサユニットSijの動作原理は、センサユニットS11を例に説明する。
ここでは、匂い分子(第1物理化学的刺激)OMをセンサユニットS11によって計測する場合を例に説明する。前述したように、図2に示すセンサユニットS11は、半導体装置SD11上に生理水溶液RSが満たされた状態になっている。また、生理水溶液RS内に存在する細胞C11は、脂質膜LBにより細胞内外が分離され、脂質膜LB表面に発現したイオンポンプ(図示せず)の作用によって、細胞内の特定のイオン(Na+、Ca2+など)の濃度が、細胞外よりも低い状態に保たれている。
この状態で、流路FGcの入口FGaから流路FGc内に匂い分子OMを含む液体RSaを流し入れる。図2および図3に示すように、流路FGcを流れる(灌流する)液体RSaは、基板SBの幅方向中央を通る流れ軸FDを中心とした流れを形成し、流れ軸FDから基板SBの幅方向端部へと広がっていく。これにより、センサユニットSij内に匂い分子OMが導入される。
ここで、センサユニットS11内の細胞C11に発現した受容体ERは、匂い分子OMに特異的に応答する。そのため、細胞C11の脂質膜LBに発現した受容体ERが匂い分子OMを捕捉・認識すると、受容体ERのイオンチャネルが開き、液体RSa中のCa2+を含む正イオンが細胞C11内に流入する。これにより、細胞C11内の電位が正方向にシフトする。この電位の変化は、脂質膜LBおよび第1絶縁膜IFを介して、電極EL11に伝わり、電極EL11およびゲート電極GEの電位がシフトする。
半導体装置SD11に含まれるMOSFETがnチャネル型MOSFETである場合、チャネル領域CHにキャリア電荷蓄積が生じ、ソース領域SRとドレイン領域DRとの間に電流が流れるようになる(オン状態)。前述したように、図1に示す電位計測部VM11は、半導体装置SD11であり、電極EL11の電位変化をMOSFETのオン電流として計測する。
一方で、図1に示すセンサユニットS12内にも匂い分子OMが導入される。しかし、センサユニットS12内の細胞C12には、受容体は発現していない。そのため、センサユニットS12内に匂い分子OMが導入されても、液体RSa中の正イオンは細胞C11内に流入しない。そのため、センサユニットS12内の半導体装置(図示せず)に含まれるMOSFETは、匂い分子OMによってオン状態にならない。従って、匂い分子OMによるセンサユニットS12の電極EL12の電位変化は、本来的にはゼロである。
続いて、差分処理部DCは、センサユニットSijのうち、例えば、センサユニットS11とセンサユニットS12との間の出力信号の差分を算出する。すなわち、差分処理部DCは、センサユニットS11の電極EL11の電位変化とセンサユニットS12の電極EL12の電位変化との差を算出することによって、匂い分子OMによる応答信号のみを抽出することができる。
そして、記録部MEは、センサユニットSijのうち、例えば、センサユニットS11とセンサユニットS12との間の出力信号の差分を記録し、表示部DIは、センサユニットSijのうち、例えば、センサユニットS11とセンサユニットS12との間の出力信号の差分を表示する。
なお、図示しないが、実施の形態1の細胞応答計測装置MD1においては、受容体ERが発現した細胞、すなわち匂い分子OMに応答する細胞を有するセンサユニットが複数設けられている。そのため、匂い分子OMに対して、これらのセンサユニット内の細胞が応答し、これらのセンサユニットのMOSFETが同時にオン状態になる。そのため、細胞に起因した出力信号(または電流パルス幅)を差分処理部DCでの処理後に加算することで、細胞の出力信号のS/N比を高くすることができる。
また、実施の形態1の細胞C11内には、緑色蛍光タンパク質FPが発現している。そのため、細胞C11の受容体ERが匂い分子OMを捕捉・認識して、受容体ERのイオンチャネルが開き、液体RSa中のCa2+を含む正イオンが細胞C11内に流入すると、Ca2+が緑色蛍光タンパク質FPに捕捉され、緑色蛍光が増加する。この緑色蛍光は、図4に示すカバーガラスCGを介してリアルタイムに測定することができる。匂い分子OMの認識に伴う緑色蛍光タンパク質FPの蛍光は、匂い分子OMの刺激(継続)時間中、一定値を取ることがわかっている。このため、緑色蛍光タンパク質FPの蛍光が一定値を取る時間を測定することで、匂い分子の刺激(継続)時間を把握することができる。
ここで、条件の一例を示す。生理水溶液RSとしてアッセイバッファ(140 mM NaCl、5.6 mM KCl、4.5 mM CaCl2、11.26 mM MgCl2、11.32 mM MgSO4、9.4 mM D-glucose、5 mM HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid);pH7.2)を用いた。そして、生理水溶液RSをペリスタポンプにより流路FGcに1 mL/minの流速で灌流し、合計4096個のセンサユニットSijの電極ELijを連続的に測定した。匂い分子OMとしては、前記アッセイバッファ中で30 μMとなるように調整した1-オクテン-3-オール溶液を導入し、センサユニットSijの電極ELijの電極電位の変化を測定した。
<細胞応答計測装置の製造方法>
実施の形態1の細胞応答計測装置MD1の製造方法について、工程順に説明する。
まず、図2に示すように、基板SBを用意する。基板SBには、例えばシリコンウェハを用いる。基板SBのMOSFET形成領域(活性領域)を熱酸化して酸化シリコン膜を形成した後に、前記活性領域上に例えばポリシリコン膜を形成する。そして、フォトリソグラフィ技術およびドライエッチング技術などにより、前記ポリシリコン膜および前記酸化シリコン膜をパターニングして、前記MOSFETのゲート電極GEおよびゲート絶縁膜GIを形成する。さらに、ゲート電極GEをマスクとするセルフアラインにより、基板SBに例えばn型不純物(ドーパント)をイオン注入する。その後、熱処理により不純物を拡散させ、基板SB内に前記MOSFETのソース領域SRおよびドレイン領域DRを形成する。次に、基板SB上に、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法により、例えば酸化シリコン膜からなる絶縁層ILを形成する。そして、フォトリソグラフィ技術およびドライエッチング技術などにより、絶縁層ILをパターニングして、ゲート電極GEの一部の上面を露出させる。
以上の工程で、基板SBの主面上に、半導体素子として、前記MOSFETを形成することができる。なお、ここまでの工程は、既存のセンサFETが形成された基板SBを準備することで代用してもよい。
次に、ゲート電極GE上および絶縁層IL上に、例えばPVD(Physical Vapor Deposition:物理気相成長)法により、アルミニウム膜(図示せず)を300nmの膜厚で形成する。その後、リフトオフ法により、平面視において、アルミニウム膜を1辺が32μmの正方形状にパターニングする。
その後、パターニングしたアルミニウム膜の表面に対して、酸素(O2)プラズマ処理を行う。酸素プラズマ処理とは、RIE(Reactive Ion Etching)法の応用であり、反応室内で酸素ガスに電磁波などを与えプラズマ化し、同時にアルミニウム膜に高周波電圧を印加する。こうすることで、アルミニウム膜とプラズマとの間に自己バイアス電位が生じ、プラズマ中のイオン種やラジカル種が試料方向に加速されて衝突する。その際、アルミニウム膜に対する酸素由来のイオンによるスパッタリングと、アルミニウム膜に対する酸素ガスの酸化反応が同時に起こる。
これにより、アルミニウム膜の表面が酸化され、アルミニウム膜の表面に酸化アルミニウム膜が形成される。この際、元々のアルミニウム膜のうち、酸化プラズマ処理によって酸化された部分(酸化アルミニウム膜)が第1絶縁膜IFを構成し、酸素プラズマ処理によって酸化されなかった部分が電極EL11を構成する。実施の形態1の酸素プラズマ処理は、O2ガスの流量を100sccm(standard cubic centimeter per minute)と、高周波バイアス電力を300Wとする条件で3分間行った。
次に、図5に示すように、基板SB上に樹脂シートPSを取り付ける。樹脂シートPSは、ポリジメチルシロキサンからなる。樹脂シートPSには2箇所の開口部が設けられており、基板SB上に樹脂シートPSを取り付けることによって、基板SB上のセンサユニットSijを領域SA1と領域SA2とに分けることができる。なお、領域SA1と領域SA2との境界線は、図4に示す生理水溶液RS(または測定対象の成分を含む液体RSa)の流れ軸FDに沿って設けられている。すなわち、領域SA1と領域SA2とは、流れ軸FDを対称軸として、対称に配置されている。
次に、図6に示すように、Or13a発現Sf21細胞(例えば、細胞C11)を懸濁培地(懸濁液)SC1の状態でセンサユニットSijの領域SA1に播種し、嗅覚受容体が発現していないSf21細胞(例えば、細胞C12)を懸濁培地(懸濁液)SC2の状態でセンサユニットSijの領域SA2に播種する。その後、30分間静置することで、懸濁培地SC1,SC2に含まれる細胞(細胞)は、各センサユニットSijの第1絶縁膜IFに接触して固定される。その後に、基板SBから樹脂シートPSを取り除く。なお、基板SBから樹脂シートPSを取り除くことは必須ではないが、図4に示すように、生理水溶液RS(または測定対象の成分を含む液体RSa)が基板SB上を滞りなく流れるように、基板SBから樹脂シートPSを取り除いて、基板SB上の凹凸をなくした方が好ましい。
次に、図示しないが、基板SBを配線基板PB上に搭載する。そして、配線基板PB上に誘導部FGを取り付ける。また、流路FGcの入口FGaおよび出口FGbに、軟質チューブと、軟質チューブ内の液体を送り出すポンプとを接続する。
その後、誘導部FG内に設けられた流路FGcの入口FGaから流路FGc内に生理水溶液RSを流し入れ、流路FGcの出口FGbから排出する。この工程を連続的に、かつ、繰り返し行うことにより、図2に示すセンサユニットS11は、半導体装置SD11上に生理水溶液RSが満たされた状態にする。また、生理水溶液RS内に存在する細胞C11は、脂質膜LBにより細胞内外が分離され、脂質膜LB表面に発現したイオンポンプ(図示せず)の作用によって、細胞内の特定のイオン(Na+、Ca2+など)の濃度が、細胞外よりも低い状態に保たれる。
以上の工程により、センサユニットS11が完成する。なお、図2に示すセンサユニットS11以外のセンサユニットSijについても同様の工程を経て、センサユニットSijが形成される。
その後、図1に示すように、各センサユニットSijのゲート電極GEを電位計測部VMijにそれぞれ配線を介して電気的に接続する。また、参照電極REを生理水溶液RSに接触させる一方で、参照電極REを各電位計測部VMijにそれぞれ配線を介して電気的に接続する。その後、各電位計測部VMijを、差分処理部DCに接続する。そして、差分処理部DCを記録部MEと表示部DIとに接続することによって、実施の形態1の細胞応答計測装置MD1が完成する。
なお、細胞CijがセンサユニットSijに配置されている状態は、光学顕微鏡を用いてカバーガラスCGを介して観察し確認することができる。そのため、明視野像では、全ての細胞Cijの配置状況が確認できる。一方、受容体ERが発現した細胞OC13は、緑色蛍光タンパク質FPが発現しているため、蛍光像では、受容体ERが発現した細胞Cijの配置状況(流れ軸FDを挟んだ一方側にのみ配置されているか)を確認することができる。
<検討の経緯について>
本発明者が検討した検討例の細胞応答計測装置の構成を、図7および図8を用いて説明する。図7は、検討例の細胞応答計測装置MD101の構成図であり、図8は、検討例の細胞応答計測装置MD101の平面図である。
検討例の細胞応答計測装置MD101は、その構成要素であるセンサユニットの構成が、実施の形態1の細胞応答計測装置のセンサユニットの構成と異なっている。すなわち、図8に示すように、検討例では、センサユニットSijのうち、流れ軸FDを挟んだ一方側には、受容体が発現した細胞OC13を配置し、流れ軸FDを挟んだもう一方側には、細胞を配置していない。
図7には、検討例のセンサユニットSijのうち、流れ軸FDを挟んで配置されたセンサユニットS101およびセンサユニットS102を例に示す。図7に示すように、検討例のセンサユニットS101は、電極EL11と細胞C11とを有しており、上記実施の形態1のセンサユニットS11と同様である。一方、検討例のセンサユニットS102は、電極EL12を有しているが、細胞を有していない。この点が、検討例のセンサユニットS102と上記実施の形態1のセンサユニットS12との相違点である。
なお、検討例の細胞応答計測装置MD101に含まれるセンサユニットは、センサユニットS101またはセンサユニットS102のいずれか一方と同様の構成であるため、繰り返しの説明を省略する。また、検討例の細胞応答計測装置MD101は、電極EL11の電位を計測する電位計測部VM101や電極EL12の電位を計測する電位計測部VM102等からなる電位計測部を有している。検討例の細胞応答計測装置MD101のそれ以外の構成については、上記実施の形態1の細胞応答計測装置MD1の構成と同じであるため、繰り返しの説明を省略する。
次に、検討例の細胞応答計測装置MD101の動作原理について説明する。
検討例のセンサユニットS101の動作原理は、上記実施の形態1のセンサユニットS11と同様である。
一方、検討例のセンサユニットS102の動作原理は以下の通りである。センサユニットS102内には、細胞が存在しない。そのため、センサユニットS102内に匂い分子OMが導入されても、センサユニットS102内の半導体装置(図示せず)に含まれるMOSFETは、匂い分子OMによってオン状態にならない。従って、匂い分子OMによるセンサユニットS102の電極EL12の電位変化は、本来的にはゼロである。
続いて、差分処理部DCは、例えば、電位計測部VM101で計測した電極EL11の電位と電位計測部VM102で計測した電極EL12jの電位との間の差分、すなわち、センサユニットS101とセンサユニットS102との間の出力信号の差分を算出する。そして、記録部MEは、例えば、センサユニットS101とセンサユニットS102との間の出力信号の差分を記録し、表示部DIは、例えば、センサユニットS101とセンサユニットS102との間の出力信号の差分を表示する。
以下、本発明者が検討例の細胞応答計測装置MD101について見出した課題を説明する。
検討例の電位計測部VM101では、センサユニットS101内に存在する細胞C11内に正イオンが入り込むことによる受容体ER由来の電位応答信号(以下、応答信号VERとする)を電極EL11の電位変化として計測している。この際、受容体ERに由来しない電位応答信号(以下、応答信号VEL11とする)も電極EL11の電位変化として計測してしまう。すなわち、電極EL11の電位変化V11は、V11=VER+VEL11と表すことができる。受容体ERに由来しない電位応答信号としては、バックグラウンドノイズや生理水溶液RS(または測定対象の成分を含む液体RSa)中のイオン濃度の変化が挙げられる。
そのため、検討例の細胞応答計測装置MD101は、細胞を有していないセンサユニットS102を用意し、電位計測部VM102によってセンサユニットS102の電極EL12の電位変化を計測している。この電極EL12の電位変化は、受容体ERに由来しない電位応答信号(以下、応答信号VEL12とする)のみとなる。すなわち、電極EL12の電位変化V12は、V12=VEL12と表すことができる。
従って、検討例の差分処理部DCで得られる応答信号VDCは、VDC=V11-V12=VER+VEL11-VEL12と表すことができる。ここで、電極EL11および電極EL12は、同一の装置に近接して配置されているため、電極EL11,EL12におけるバックグラウンドノイズは、ほぼ同じ値となり、差分処理部DCでキャンセルすることができる。
しかし、本発明者の検討により、受容体ERに由来しない電位応答信号は、電極EL11,EL12のうち、細胞Cijに覆われていない部分の面積の大きさに依存することがわかった。図7に示すように、センサユニットS101の電極EL11は、細胞C11に覆われている。一方、センサユニットS102の電極EL12上は、細胞に覆われていない。そのため、電極EL11における受容体ERに由来しない応答信号VEL11の値が、電極EL12における受容体ERに由来しない応答信号VEL12の値と大きく異なる。その結果、差分処理部DCで得られる応答信号VDC中の応答信号の差(VEL11-VEL12)の成分が無視できず、受容体ER由来の電位応答信号だけを取り出すことができない。
また、ここで、平面視において、電極ELijの面積が、細胞Cijの面積よりも大きく、電極ELijのうち、細胞Cijに覆われていない部分の面積が、細胞Cijに覆われている部分の面積に比べて大きい場合を考える。このような場合は、受容体ERに由来しない応答信号VEL11,VEL12の値が、受容体ER由来の電位応答信号VERの値に比べて大きくなる可能性がある。その結果、電極EL11における受容体ERに由来しない応答信号VEL11の値が、電極EL12における受容体ERに由来しない応答信号VEL12の値と近かった場合であっても、差分処理部DCで得られる応答信号VDC中の応答信号の差(VEL11-VEL12)の成分が無視できない可能性がある。
以上より、細胞応答計測装置のセンサユニットにおいて、各電極における受容体に由来しない応答信号の大きさを等しくすることと、各電極における受容体に由来しない応答信号の大きさを小さくすることとが望まれる。
<実施の形態の主な特徴と効果>
以下、実施の形態1の主要な特徴および効果について説明する。実施の形態1の主要な特徴の一つは、図1に示すように、全ての電極ELijが細胞Cijに覆われていることである。すなわち、例えば、センサユニットS11の電極EL11は、受容体ERが発現した細胞C11により覆われており、センサユニットS12の電極EL12は、受容体が発現していない細胞C12により覆われている。そして、差分処理部DCによって、受容体ERが発現した細胞Cijに覆われた電極ELijと受容体が発現していない細胞Cijに覆われた電極ELijとの間の出力信号の差分を算出している。すなわち、差分処理部DCによって、例えば、電極EL11と電極EL12との間の出力信号の差分を算出している。
実施の形態1では、このような構成を採用したことにより、細胞応答計測装置の性能を向上させることができる。以下、その理由について具体的に説明する。
検討例で説明したように、差分処理部DCで得られる応答信号VDCは、VDC=V11-V12=VER+VEL11-VEL12と表すことができる。ここで、図1に示すように、実施の形態1では、センサユニットS11の電極EL11は、細胞C11に覆われていると共に、センサユニットS12の電極EL12は、細胞C12に覆われている。そのため、実施の形態1では、平面視において、電極EL11のうち細胞C11に覆われていない部分の面積は、電極EL12のうち細胞C12に覆われていない部分の面積とほぼ同じである。従って、電極EL11における受容体ERに由来しない応答信号VEL11の値が、電極EL12における受容体ERに由来しない応答信号VEL12の値とほぼ等しくなる。その結果、差分処理部DCで得られる応答信号VDC中の応答信号の差(VEL11-VEL12)の成分を小さくすることができる。
また、実施の形態1のセンサユニットSijでは、平面視において、電極ELijのうち、細胞Cijに覆われている部分の面積に比べて、細胞Cijに覆われていない部分の面積を小さくしている。こうすることで、受容体ERに由来しない応答信号VEL11,VEL12の値を、受容体ER由来の電位応答信号VERの値に比べて小さくすることができる。その結果、差分処理部DCで得られる応答信号VDC中の応答信号の差(VEL11-VEL12)の成分を無視できるほど小さくすることができる。
以上より、実施の形態1の細胞応答計測装置MD1では、差分処理部DCで得られる応答信号VDCは、VDC≒VERとなる。すなわち、差分処理部DCでは、匂い分子OMによる受容体ER由来の電位応答信号VERだけを取り出し、分解能のよい細胞応答計測装置を提供することができる。
また、実施の形態1の主要な特徴の他の一つは、センサユニットSijに対して、流れ軸FDを対称軸として、異なる種類の細胞Cijをそれぞれ対称的に配置していることである。図2および図3に示すように、流路FGcを流れる(灌流する)液体RSaは、基板SBの幅方向中央を通る流れ軸FDを中心とした流れを形成し、流れ軸FDから基板SBの幅方向端部へと広がっていく。すなわち、基板SBのセンサユニットSij内の細胞Cijに液体RSaが到達するまでの時間は、センサユニットSijごとに異なる。
ここで、例えば、基板SBの端部から流れ軸FDに沿った距離が等しく、かつ、流れ軸FDに対して対称的に配置された細胞C11および細胞C12には、液体RSaはほぼ同時に到達する。そして、差分処理部DCによって、受容体ERが発現した細胞C11を有するセンサユニットS11と受容体が発現していない細胞C12を有するセンサユニット12との間の出力信号の差分を算出する。同様に、基板SBの端部から流れ軸FDに沿った距離が等しく、かつ、流れ軸FDに対して対称な位置にある一対のセンサユニットSij間の出力信号の差分を算出する。
こうすることで、実施の形態1では、基板SBに配置された各センサユニットSij内の細胞Cijに液体RSaが到達するまでの時間差の影響を無視することができる。その結果、差分処理部DCでは、匂い分子OMによる受容体ER由来の電位応答信号VERだけをより確実に取り出すことができる。
(実施の形態2)
実施の形態2の細胞応答計測装置の構成を、図9を用いて説明する。図9は、実施の形態2の細胞応答計測装置MD2の平面図である。
実施の形態2の細胞応答計測装置MD2のセンサユニットSijは、電極ELijと細胞Cijとを有しており、上記実施の形態1のセンサユニットSijと同様である。ただし、図9に示すように、実施の形態2では、センサユニットSijのうち、流れ軸FDを挟んだ一方側には、嗅覚受容体Or13aが発現した細胞OC13を配置し、流れ軸FDを挟んだもう一方側には、嗅覚受容体Or56aが発現したSf21細胞(細胞OC56)を配置している。すなわち、実施の形態2のセンサユニットSijのうち、流れ軸FDを挟んで配置されたセンサユニットS21の電極EL21は、細胞OC13に覆われている一方、センサユニットS22の電極EL22は、細胞WCではなく、細胞OC56に覆われている点が、上記実施の形態1との相違点である。
なお、実施の形態2の細胞応答計測装置MD2に含まれるセンサユニットSijは、センサユニットS21またはセンサユニットS22のいずれか一方と同様の構成であるため、繰り返しの説明を省略する。また、実施の形態2の細胞応答計測装置MD2のそれ以外の構成については、上記実施の形態1の細胞応答計測装置MD1の構成と同じであるため、繰り返しの説明を省略する。
次に、実施の形態2の細胞応答計測装置MD2の動作原理について説明する。
まず、匂い分子として1-オクテン-3-オールを採用した場合を例に説明する。実施の形態2において、流路FGcの入口FGaから流路FGc内に1-オクテン-3-オールを含む液体RSaを流し入れる(図2参照)。これにより、センサユニットS21内に1-オクテン-3-オールが導入される。ここで、センサユニットS21内の細胞C21に発現した受容体ERは、1-オクテン-3-オールに特異的に応答する。そのため、細胞C21の脂質膜LBに発現した受容体ERが1-オクテン-3-オールを捕捉・認識すると、受容体ERのイオンチャネルが開き、液体RSa中のCa2+を含む正イオンが細胞C21内に流入する(図4参照)。これにより、細胞C21内の電位が正方向にシフトする。この電位の変化は、脂質膜LBおよび第1絶縁膜IFを介して、電極EL21に伝わり、電極EL21およびゲート電極GEの電位がシフトする。電位計測部は、MOSFETを有する半導体装置であり、電極EL21の電位変化をMOSFETのオン電流として計測する。
一方で、センサユニットS22内にも1-オクテン-3-オールが導入される。しかし、センサユニットS22内の細胞C22は、細胞OC56である。そのため、センサユニットS22内に1-オクテン-3-オールが導入されても、細胞C22の脂質膜LBに発現した受容体ERは1-オクテン-3-オールを捕捉・認識することはなく、受容体ERのイオンチャネルは開かない。従って、液体RSa中の正イオンは細胞C22内に流入しない。そのため、センサユニットS22内の半導体装置(図示せず)に含まれるMOSFETは、1-オクテン-3-オールによってオン状態にならない。従って、1-オクテン-3-オールによるセンサユニットS22の電極EL22の電位変化は、ゼロである。
これにより、差分処理部DCは、例えば、センサユニットS21の電極EL21の電位変化とセンサユニットS22の電極EL22の電位変化との差を算出することによって、1-オクテン-3-オールによる応答信号のみを抽出することができる。
また、匂い分子としてジェオスミンを採用した場合を例に説明する。実施の形態2において、流路FGcの入口FGaから流路FGc内にジェオスミンを含む液体RSaを流し入れる(図2参照)。これにより、センサユニットS22内にジェオスミンが導入される。ここで、センサユニットS22内の細胞C22に発現した受容体ERは、ジェオスミンに特異的に応答する。そのため、細胞C22の脂質膜LBに発現した受容体ERがジェオスミンを捕捉・認識すると、受容体ERのイオンチャネルが開き、液体RSa中のCa2+を含む正イオンが細胞C22内に流入する(図4参照)。これにより、細胞C22内の電位が正方向にシフトする。この電位の変化は、脂質膜LBおよび第1絶縁膜IFを介して、電極EL22に伝わり、電極EL22およびゲート電極GEの電位がシフトする。電位計測部は、MOSFETを有する半導体装置であり、電極EL22の電位変化をMOSFETのオン電流として計測する。
一方で、センサユニットS21内にもジェオスミンが導入される。しかし、センサユニットS21内の細胞C21は、細胞OC13である。そのため、センサユニットS21内にジェオスミンが導入されても、細胞C21の脂質膜LBに発現した受容体ERはジェオスミンを捕捉・認識することはなく、受容体ERのイオンチャネルは開かない。従って、液体RSa中の正イオンは細胞C21内に流入しない。そのため、センサユニットS21内の半導体装置(図示せず)に含まれるMOSFETは、ジェオスミンによってオン状態にならない。従って、ジェオスミンによるセンサユニットS21の電極EL21の電位変化は、ゼロである。
これにより、差分処理部DCは、例えば、センサユニットS22の電極EL22の電位変化とセンサユニットS21の電極EL21の電位変化との差を算出することによって、ジェオスミンによる応答信号のみを抽出することができる。
また、実施の形態2では、上記実施の形態1と同様に、センサユニットSijに対して、流れ軸FDを対称軸として、異なる種類の細胞Cijをそれぞれ対称的に配置している。そのため、基板SBの端部から流れ軸FDに沿った距離が等しく、かつ、流れ軸FDに対して対称な位置にある一対のセンサユニットSij(例えばセンサユニットS21およびセンサユニットS22)間の出力信号の差分を算出することで、基板SBに配置された各センサユニットSij内の細胞Cijに液体RSaが到達するまでの時間差の影響を無視することができる。
以上で説明したように、実施の形態2では、上記実施の形態1と同様に、センサユニットSijの電極ELijが細胞Cijに覆われている。そして、実施の形態2の細胞Cijには、特定の匂い分子にのみそれぞれ応答する2種類の細胞を採用している。
こうすることで、実施の形態2の細胞応答計測装置MD2では、上記実施の形態1と同様に、匂い分子による受容体ER由来の電位応答信号VERだけを取り出し、分解能のよい細胞応答計測装置を提供することができる。さらに、実施の形態2の細胞応答計測装置MD2では、1つの装置で2種類の匂い分子に応答することができ、この点で上記実施の形態1よりも有利である。
(実施の形態3)
実施の形態3の細胞応答計測装置の構成を、図10を用いて説明する。図10は、実施の形態3の細胞応答計測装置MD3の平面図である。
実施の形態3の細胞応答計測装置MD3のセンサユニットSijは、電極ELijと細胞Cijとを有しており、上記実施の形態1のセンサユニットSijと同様である。ただし、実施の形態3では、流れ軸FDに沿った一列分のセンサユニットSijには、同一種類の細胞が配置されている。そして、流れ軸FDに沿って互いに隣り合うセンサユニットSijには、互いに異なる種類の細胞が配置されている。すなわち、流れ軸FDに沿って並ぶ電極列(電極ELijの列)は、同一種類の細胞に覆われている。そして、流れ軸FDに沿って互いに隣り合うセンサユニットSijに含まれる電極ELijは、互いに異なる種類の細胞に覆われている。
具体的には、図10に示すように、実施の形態3では、m×nの二次元マトリクス状に配置されたセンサユニットSijに対して、流れ軸FDに沿った列ごとに(流れ軸FDに平行な列ごとに)、例えばディスペンサーを用いて、嗅覚受容体Or13aが発現した細胞OC13、嗅覚受容体Or56aが発現した細胞OC56、受容体が発現していない細胞WCの順に繰り返して配置している。すなわち、例えば、センサユニットS31の電極EL31は細胞OC13に覆われ、センサユニットS32の電極EL32は細胞OC56に覆われ、センサユニットS33の電極EL33は細胞WCに覆われている。以上の点が、上記実施の形態1との相違点である。
なお、実施の形態3の細胞応答計測装置MD3に含まれるセンサユニットSijは、センサユニットS31、センサユニットS32またはセンサユニットS33のいずれか一方と同様の構成であるため、繰り返しの説明を省略する。また、実施の形態3の細胞応答計測装置MD3のそれ以外の構成については、上記実施の形態1の細胞応答計測装置MD1の構成と同じであるため、繰り返しの説明を省略する。
次に、実施の形態3の細胞応答計測装置MD3の動作原理について説明する。
まず、匂い分子として1-オクテン-3-オールを採用した場合を例に説明する。実施の形態2において、流路FGcの入口FGaから流路FGc内に1-オクテン-3-オールを含む液体RSaを流し入れる(図2参照)。これにより、センサユニットS31内に1-オクテン-3-オールが導入される。ここで、センサユニットS31内の細胞C31に発現した受容体ERは、1-オクテン-3-オールに特異的に応答する。そのため、細胞C31の脂質膜LBに発現した受容体ERが1-オクテン-3-オールを捕捉・認識すると、受容体ERのイオンチャネルが開き、液体RSa中のCa2+を含む正イオンが細胞C31内に流入する(図4参照)。これにより、細胞C31内の電位が正方向にシフトする。この電位の変化は、脂質膜LBおよび第1絶縁膜IFを介して、電極EL31に伝わり、電極EL31およびゲート電極GEの電位がシフトする。電位計測部は、MOSFETを有する半導体装置であり、電極EL31の電位変化をMOSFETのオン電流として計測する。
一方で、センサユニットS32内およびセンサユニットS33内にも1-オクテン-3-オールが導入される。しかし、センサユニットS32内の細胞C32は、細胞OC56である。そのため、センサユニットS32内に1-オクテン-3-オールが導入されても、細胞C32の脂質膜LBに発現した受容体ERは1-オクテン-3-オールを捕捉・認識することはなく、受容体ERのイオンチャネルは開かない。また、センサユニットS33内の細胞C33は、細胞WCである。そのため、センサユニットS33内に1-オクテン-3-オールが導入されても、細胞C33には受容体がなく、1-オクテン-3-オールを捕捉・認識することはない。
従って、液体RSa中の正イオンは細胞C32および細胞C33内に流入しない。そのため、センサユニットS32およびセンサユニットS33内の半導体装置(図示せず)に含まれるMOSFETは、1-オクテン-3-オールによってオン状態にならない。従って、1-オクテン-3-オールによるセンサユニットS32の電極EL32の電位変化は、ゼロである。同様に、1-オクテン-3-オールによるセンサユニットS33の電極EL33の電位変化は、ゼロである。
これにより、差分処理部DCは、例えば、センサユニットS31の電極EL31の電位変化とセンサユニットS32の電極EL32の電位変化との差を算出することによって、1-オクテン-3-オールによる応答信号のみを抽出することができる。同様に、差分処理部DCは、例えば、センサユニットS31の電極EL31の電位変化とセンサユニットS33の電極EL33の電位変化との差を算出することによって、1-オクテン-3-オールによる応答信号のみを抽出することができる。
また、匂い分子としてジェオスミンを採用した場合を例に説明する。実施の形態3において、流路FGcの入口FGaから流路FGc内にジェオスミンを含む液体RSaを流し入れる(図2参照)。これにより、センサユニットS32内にジェオスミンが導入される。ここで、センサユニットS32内の細胞C32に発現した受容体ERは、ジェオスミンに特異的に応答する。そのため、細胞C32の脂質膜LBに発現した受容体ERがジェオスミンを捕捉・認識すると、受容体ERのイオンチャネルが開き、液体RSa中のCa2+を含む正イオンが細胞C32内に流入する(図4参照)。これにより、細胞C32内の電位が正方向にシフトする。この電位の変化は、脂質膜LBおよび第1絶縁膜IFを介して、電極EL32に伝わり、電極EL32およびゲート電極GEの電位がシフトする。電位計測部は、MOSFETを有する半導体装置であり、電極EL32の電位変化をMOSFETのオン電流として計測する。
一方で、センサユニットS31内およびセンサユニットS33内にもジェオスミンが導入される。しかし、センサユニットS31内の細胞C31は、細胞OC13である。そのため、センサユニットS31内にジェオスミンが導入されても、細胞C31の脂質膜LBに発現した受容体ERはジェオスミンを捕捉・認識することはなく、受容体ERのイオンチャネルは開かない。また、センサユニットS33内の細胞C33は、細胞WCである。そのため、センサユニットS33内にジェオスミンが導入されても、細胞C33には受容体がなく、ジェオスミンを捕捉・認識することはない。
従って、液体RSa中の正イオンは細胞C31および細胞C33内に流入しない。そのため、センサユニットS31およびセンサユニットS33内の半導体装置(図示せず)に含まれるMOSFETは、ジェオスミンによってオン状態にならない。従って、ジェオスミンによるセンサユニットS31の電極EL31の電位変化は、ゼロである。同様に、ジェオスミンによるセンサユニットS33の電極EL33の電位変化は、ゼロである。
これにより、差分処理部DCは、例えば、センサユニットS32の電極EL32の電位変化とセンサユニットS31の電極EL31の電位変化との差を算出することによって、ジェオスミンによる応答信号のみを抽出することができる。同様に、差分処理部DCは、例えば、センサユニットS32の電極EL32の電位変化とセンサユニットS33の電極EL33の電位変化との差を算出することによって、ジェオスミンによる応答信号のみを抽出することができる。
また、図10に示すように、実施の形態3では、流れ軸FDに沿った一列分のセンサユニットSijには、同一種類の細胞が配置されている。そして、流れ軸FDに沿って互いに隣り合うセンサユニットSijには、互いに異なる種類の細胞が配置されている。すなわち、センサユニットSijに対して、流れ軸FDに沿った列ごとに(流れ軸FDに平行な列ごとに)、嗅覚受容体Or13aが発現した細胞OC13、嗅覚受容体Or56aが発現した細胞OC56、受容体が発現していない細胞WCの順に繰り返して配置している。
そのため、実施の形態3では、流れ軸FDに沿った1つの列に存在するセンサユニットSijを基準にすると、この列に隣り合ういずれかの列に存在し、かつ、基板SBの端部から流れ軸FDに沿った距離が等しい位置にあるセンサユニットSijと、基準にしたセンサユニットSijとの間の出力信号の差分を算出する。例えば、センサユニットS32とセンサユニットS31との間、または、センサユニットS32とセンサユニットS33との間の出力信号の差分を算出する。こうすることで、基板SBに配置された各センサユニットSij内の細胞Cijに液体RSaが到達するまでの時間差の影響を小さくすることができる。
以上で説明したように、実施の形態3では、上記実施の形態1と同様に、センサユニットSijの電極ELijが細胞Cijに覆われている。そして、実施の形態3の細胞Cijに、3種類の細胞を採用している。こうすることで、実施の形態3の細胞応答計測装置MD3では、上記実施の形態1と同様に、匂い分子による受容体ER由来の電位応答信号VERだけを取り出し、分解能のよい細胞応答計測装置を提供することができる。さらに、実施の形態3の細胞応答計測装置MD3では、上記実施の形態2と同様に、2種類の匂い分子に応答することができ、この点で上記実施の形態1よりも有利である。
さらに、上記実施の形態2では、1-オクテン-3-オールおよびジェオスミンの混合導入、あるいは嗅覚受容体Or13aおよび嗅覚受容体Or56aの両方が同時に応答するその他の匂い分子の導入によって、細胞OC13および細胞OC56が同時に応答した場合には、センサユニットSijの電位変化を互いに打ち消しあってしまう。一方、実施の形態3の細胞応答計測装置MD3では、細胞OC13および細胞OC56の両応答を、細胞WCを基準として同時に計測することが可能である。そのため、実施の形態3は、1-オクテン-3-オールまたはジェオスミンの単独導入のみならず、これらの匂い分子が混合導入された場合、あるいは両受容体が同時に応答するその他の匂い分子が導入された場合であっても、独立に定量評価ができる点で、上記実施の形態2よりも有利である。
また、上記では2種類の匂い分子に応答する場合を例に説明したが、実施の形態3の変形例1として、細胞WCの代わりに、さらに別の匂い分子に特異的に応答する受容体を有する細胞を採用することで、3種類の匂い分子に応答することができる細胞応答計測装置を提供することができる。
そして、実施の形態3の変形例2として、センサユニットSijに対して、流れ軸FDに沿った列ごとに(流れ軸FDに平行な列ごとに)、4種類以上の細胞を順次に繰り返して配置することで、4種類以上の匂い分子に応答することができる細胞応答計測装置を提供することができる。
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。