以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る給脂装置を具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のクラッチレリーズ機構を模式的に示す図である。図1に示すように、クラッチ装置1は、動力の断続作用を行うクラッチ本体10と、クラッチ本体10を操作するためのクラッチレリーズ機構20と、クラッチ本体10を内部に収容するクラッチハウジング30とを含んで構成される。例えば、クラッチ装置1はマニュアルトランスミッション車に搭載されて、エンジンと変速機(トランスミッション)との間に配置される。
なお、図1に示すX方向は中心軸線に沿った軸方向、Z方向は中心軸線に対して直交する方向(径方向や高さ方向という場合がある)を表す。Z方向を高さ方向とした場合、上側を先端側、下側を基端側と記載する場合がある。さらに、後述するY方向はX方向およびZ方向と直交する方向を表す。Y方向を幅方向と記載する場合がある。
クラッチ本体10は、クラッチディスク11と、クラッチカバー12と、プレッシャプレート13と、ダイヤフラムスプリング14と、レリーズベアリング15と、を備える。
クラッチディスク11は、プレッシャプレート13とフライホイール16との間に挟まれた摩擦面(クラッチフェーシング)を有し、変速機の入力軸3とスプライン嵌合している。クラッチディスク11の摩擦面とフライホイール16との間の摩擦力によってフライホイール16の回転を入力軸3に伝達する。エンジンのクランクシャフト2にはフライホイール16がボルト締結されており、フライホイール16とクランクシャフト2とは一体回転する。
クラッチカバー12は、クラッチディスク11の外周側を覆うように設けられ、プレッシャプレート13およびダイヤフラムスプリング14と一体回転する。プレッシャプレート13は、クラッチディスク11の摩擦面とダイヤフラムスプリング14との間に設けられている。ダイヤフラムスプリング14は、プレッシャプレート13を介してクラッチディスク11の摩擦面をフライホイール16に向けて押し付けるための部材であり、プレッシャプレート13に対してクラッチディスク11の摩擦面の反対側に設けられている。ダイヤフラムスプリング14の周縁部はプレッシャプレート13に接続され、ダイヤフラムスプリング14の中央部はレリーズベアリング15に接続されている。これによりダイヤフラムスプリング14はプレッシャプレート13を押圧することが可能である。
クラッチ本体10の係合時、プレッシャプレート13はダイヤフラムスプリング14の弾性力によってクラッチディスク11の摩擦面をフライホイール16側に向けて押し付ける。これにより、クラッチディスク11の摩擦面とフライホイール16との間の摩擦力が発生し、フライホイール16の回転がクラッチディスク11に伝達される接続状態となる。
クラッチ本体10の開放時、レリーズベアリング15がダイヤフラムスプリング14の中央部を押すことによってダイヤフラムスプリング14の周縁部がフライホイール16から離れる方向に変位する。このとき、プレッシャプレート13がダイヤフラムスプリング14とともにフライホイール16から離れる方向に引き寄せられる。これにより、クラッチディスク11の摩擦面とフライホイール16との間の摩擦力が解消され、フライホイール16の回転がクラッチディスク11に伝達されない切断状態となる。
クラッチレリーズ機構20は、クラッチレリーズフォーク21と、レリーズフォークサポート22と、レリーズシリンダ23と、を備える。
クラッチレリーズフォーク21は、レリーズベアリング15を軸方向に移動させるための部材であり、レリーズフォークサポート22によって支持された状態で揺動可能に構成されている。このクラッチレリーズフォーク21は金属製の細長い部材であり、先端側が二股に分かれた構造を有する。
図1に示すように、クラッチレリーズフォーク21の一端側は、レリーズベアリング15を軸方向に押圧する押圧部21aにより構成される。押圧部21aは、クラッチハウジング30の内部で入力軸3を挟むように先端側が二股に分かれた二股構造に構成されている。押圧部21aのうち軸方向でレリーズベアリング15と対向する部分(当接部分)がレリーズベアリング15に接触する。クラッチレリーズフォーク21の他端側は、クラッチハウジング30の貫通孔31を介してクラッチハウジング30の外側に突出し、レリーズシリンダ23に接続された接続部21bにより構成されている。また、クラッチレリーズフォーク21の他端側はクラッチハウジング30の外側に延出した位置でフォークブーツ32により覆われている。フォークブーツ32は貫通孔31に取り付けられている。フォークブーツ32には、クラッチ本体10を半係合状態にした際に生じる摩擦熱をクラッチハウジング30の外部へ逃がすための孔(クーリング孔)が設けられてもよい。
さらに、クラッチレリーズフォーク21は、押圧部21aと接続部21bとの間に、レリーズフォークサポート22により支持される支点部21cを有する。レリーズフォークサポート22は、クラッチハウジング30の隔壁に固定された本体部と、本体部の先端側に球面を有するピボット部(図示せず)とにより構成される。クラッチハウジング30の隔壁は、入力軸3を支持する軸受(図示せず)が取り付けられるリテーナにより構成される。リテーナはクラッチハウジング30に固定される部材である。リテーナにはレリーズフォークサポート22の根元側がボルト締結されている。また、クラッチハウジング30の内部ではリテーナのボス部30aが入力軸3に沿って延びている。ボス部30aの内側には入力軸3が挿通されている。
レリーズベアリング15は、ボス部30aの外周上にスリーブを介して支持された状態で、ボス部30aに対して軸方向に移動可能に構成されている。レリーズベアリング15はダイヤフラムスプリング14の中央部を接触するように配置されている。このレリーズベアリング15は、ボス部30a上でスリーブに支持された外輪と、ダイヤフラムスプリング14の中央部に接触する内輪とを有する。レリーズベアリング15では、ダイヤフラムスプリング14に接触する内輪は回転し、クラッチレリーズフォーク21に接触する外輪は回転しない。
そして、運転者がクラッチペダル(図示せず)を踏み込むとレリーズシリンダ23が作動する。レリーズシリンダ23によって接続部21bが操作されると、クラッチレリーズフォーク21は支点部21cを支点にして揺動する。この揺動によって、押圧部21aはレリーズベアリング15を押圧し、レリーズベアリング15が軸方向に移動してダイヤフラムスプリング14の中央部をフライホイール16側に押す状態となり、クラッチ本体10が開放状態となる。クラッチ本体10が開放状態になると、フライホイール16とクラッチディスク11との間が動力伝達不能に切断される。レリーズシリンダ23からの操作力が解除されると、押圧部21aからレリーズベアリング15に作用する押圧力がなくなり、クラッチ本体10は係合状態となる。クラッチ本体10が係合状態になると、フライホイール16とクラッチディスク11との間が動力伝達可能に接続される。このように、クラッチレリーズフォーク21の揺動によって、エンジン側のクランクシャフト2と変速機側の入力軸3との間の動力伝達経路の接続および切断が行われる。
次に、第1実施形態の給脂装置100について説明する。給脂装置100は、クラッチレリーズフォーク21の押圧部21aとレリーズベアリング15との接触部分にグリスを供給する装置である。クラッチ装置1を搭載した車両が砂や泥水等の存在する環境下で使用された場合には、上述したフォークブーツ32のクーリング孔やクラッチハウジング30に設けられたクーリング孔または水抜き用の開口部(いずれも図示せず)からクラッチハウジング30内に異物が侵入することがある。そのため、クラッチレリーズ機構20をメンテナンスして、クラッチレリーズフォーク21とレリーズベアリング15との接触部分にグリスを追加供給する給脂メンテナスを行うことが望まれる。そこで、給脂装置100では、車両からのクラッチハウジング30の脱着不要で給脂メンテナスの作用が可能になるように構成されている。この給脂装置100は、クラッチハウジング30の貫通孔31を介してクラッチハウジング30の外側から、給脂パイプ130(図2等に示す)を用いて、給脂必要箇所であるクラッチレリーズフォーク21とレリーズベアリング15との接触部分にグリスを供給する。
図2に示すように、給脂装置100は、第1治具110と、第2治具120と、給脂パイプ130と、可撓性管140と、給脂器150とを含んで構成される。第1治具110および第2治具120は、給脂パイプ130を位置決めするための部材である。第1治具110は、クラッチハウジング30の貫通孔31に取り付けられる部材である。第2治具120は、第1治具110の挿入孔に挿通される部材である。
第1治具110は、基部111と、突出部112と、位置決め用の孔である第1孔113および第2孔114とを有する。この第1治具110は金属製の一体成形品である。基部111は、平板状に形成され、貫通孔31の開口部を一部覆うことができる形状を有する。基部111の幅(後述するY方向の長さ)は貫通孔31の開口幅よりも大きい。突出部112は、基部111から突出している部分であり、貫通孔31に挿入される部分である。この突出部112は貫通孔31の内面31aに当接するとともにクラッチレリーズフォーク21の平面21dに当接することによって第1治具110を位置決めする位置決め部として機能する。
第1孔113および第2孔114は、給脂パイプ130および第2治具120の挿入部121が挿入される挿入孔であり、給脂パイプ130を位置決めする位置決め孔である。第1孔113と第2孔114とは、第1治具110の幅方向に並んで形成され、いずれも基端側の基部111から先端側の突出部112に向けて貫通する貫通孔である。なお、この説明では、第1孔113と第2孔114とを特に区別しない場合には「挿入孔」と記載する。
第2治具120は、第1治具110の第1孔113および第2孔114に挿入される挿入部121と、第1治具110の表面111aに当接するストッパ部122とを有する。この第2治具120は金属製の一体成形品である。また、第2治具120には給脂パイプ130が一体化されている。第2治具120は、基端側から先端側に挿入部121に沿って直線状に延びる二つの貫通孔123,124を有する。一方の貫通孔123は給脂パイプ用の孔である。他方の貫通孔124が内視鏡用の孔である。貫通孔123には給脂パイプ130が挿通された状態で固定されている。貫通孔124には内視鏡160が挿通された状態で固定されている(図3参照)。また、ストッパ部122は第1治具110の表面111aに当接するストッパ面122a(図3に示す)を有する。
給脂パイプ130は、クラッチハウジング30の内部でクラッチレリーズフォーク21の押圧部21aとレリーズベアリング15との接触部分にグリスを供給するためのパイプである。この給脂パイプ130は金属製である。給脂パイプ130の先端部131にはグリスを射出する開口部131aが設けられている。給脂パイプ130の基端側には可撓性管140が接続されている。給脂パイプ130は可撓性管140を介して給脂器150と接続されている。
図3に示すように、給脂装置100は、撮影手段としての内視鏡160を備える。内視鏡160は第2治具120に一体化されており、挿入部121の先端側から突出している。内視鏡160の先端側はクラッチハウジング30の内部に挿入される部分であり、この先端部161aにはレンズが設けられている。内視鏡160の基端側はケーブル161を介して操作部162に接続されている。操作部162を操作することによって内視鏡160によるクラッチハウジング30の内部構造の撮影が可能である。内視鏡160により撮影した画像は、操作部162に取り付けられた表示部163に表示することができる。
給脂器150は、シリンダとピストンとにより構成される。給脂器150のシリンダには可撓性管140が接続されている。グリスをシリンダ内に充填した状態でピストンを押すことによって、給脂器150からグリスを給脂パイプ130に供給できる。例えば、予め給脂パイプ130内および可撓性管140内にグリスを充填した状態で、給脂パイプ130を貫通孔31からクラッチハウジング30の内部に挿入し、給脂器150を操作することによる給脂をスムースに行うことも可能である。
給脂パイプ130の先端部131は、縮径した形状を有し、グリスを射出する開口部131aを備える。例えば、給脂パイプ130の開口部131aは、図4Aに示すように、円形状の開口部131aであってもよい。あるいは、図4Bに示すように、扁平上の開口部131aであってもよい。給脂パイプ130の先端部131が縮径形状を有することによって、クラッチハウジング30内の幅狭空間を通って給脂必要箇所への給脂が可能になる。
ここで、図5,図6A~6Cを参照して、第1治具110を詳細に説明する。図5は、第1治具110の基端側の平面図である。図6Aは、図5のA矢視を示す図である。図6Bは、第1治具110を背面側から見た斜視図である。図6Cは、図5のB-B線断面を示す図である。
図5に示すように、第1治具110は、基部111の表面111a側に第1孔113および第2孔114の長方形状の開口部を有する。第1孔113の内面は、挿入部121が当接して給脂パイプ130を位置決めするためのガイド面と機能する面であり、第1面113aと第2面113bと第3面113cと第4面113dとを有する。第1面113aと第2面113bとはY方向に対向する面であり、長方形状の短辺部分となる。第3面113cと第4面113dとはX方向に対向する面であり、長方形状の長辺部分となる。第2孔114の内面は、給脂パイプ130を位置決めするためのガイド面と機能する面であり、第1面114aと第2面114bと第3面114cと第4面114dとを有する。第1面114aと第2面114bとはY方向に対向する面であり、長方形状の短辺部分となる。第3面114cと第4面114dとはX方向に対向する面であり、長方形状の長辺部分となる。
さらに、第1治具110は、クラッチレリーズフォーク21の平面21dに当接する当接面115を有する。当接面115は位置決め面であり、クラッチレリーズフォーク21の平面21dに当接することによって第1治具110のX方向の位置を定めることができる。図6Aに示すように、当接面115は基部111の幅方向(Y方向)に所定幅を有し、かつ突出部112の高さ方向(Z方向)に沿って延びている。
図6Bに示すように、第1治具110の背面111b側には、キー部116が設けられている。キー部116は突出部112が貫通孔31に挿入された際にクラッチハウジング30に引っ掛かる部分である。このキー部116は第1治具110を貫通孔31に保持する部位として機能する。また、突出部112に開口する第1孔113および第2孔114の開口部も基端側と同様に長方形状である。図6Cに示すように、第1孔113は突出部112の内部を直線状に延びている。
次に、図7~図9を参照して、給脂装置100による給脂方法に説明する。図7は、クラッチハウジング30の貫通孔31に第1治具110を取り付けた状態を示す図である。図8は、第1治具110の挿入孔に第2治具120を挿入した状態で給脂パイプ130がクラッチレリーズフォーク21の押圧部21aに向けて延びている状態を示す図である。図9は、給脂パイプ130の先端部131の高さ位置を説明するための図である。なお、図9に示すZ方向は高さ方向を表す。また、給脂メンテナンス時には、フォークブーツ32が取り外され、貫通孔31を介する給脂パイプ130のアプローチが可能である。
第1工程として、第1治具110をクラッチハウジング30の貫通孔31に取り付ける。図7に示すように、第1治具110が貫通孔31に取り付けられた状態では、当接面115がクラッチレリーズフォーク21の平面21dに当接することによって第1治具110のX方向の位置が決まる。さらに、この状態では、第1治具110は突出部112の側面112a,112bが貫通孔31の内面31a,31bに当接することによって、開口部の幅方向に第1治具110のY方向の位置も定まる。
この第1工程の詳細としては、まず、突出部112を貫通孔31の挿入する際に、側面112a,112bが内面31a,31bに当接して第1治具110のY方向位置が決まる。そして、突出部112を貫通孔31に挿入したまま、クラッチレリーズフォーク21とは非接触状態であった当接面115がクラッチレリーズフォーク21の平面21dと当接する位置まで、第1治具110をX方向に移動させることができる。
第1工程の次工程として、給脂パイプ130および第2治具120を、クラッチハウジング30に取り付けられた状態の第1治具110の挿入孔に挿入する工程(挿入工程)を行う。この挿入工程では、第2治具120を第1治具110の挿入孔に挿入する際、二段階に挿入する工程を行う。第2治具120の挿入部121の側面121a,121bには、先端側から所定距離の位置にケガキ線(図示せず)が付されている。挿入部121は、外周形状が長方形状に形成されている。側面121a,121bは長方形の短辺部分となる。また、側面121aはY方向で一方の面、側面121bはY方向で他方の面となる。さらに、挿入部121の長方形は、第1孔113の開口部の長方形および第2孔114の開口部の長方形よりも小さい。
図8に示すように、第1治具110の第1孔113に第2治具120の挿入部121が挿入されることによって、給脂パイプ130が、給脂必要箇所であるクラッチレリーズフォーク21の押圧部21aに向けて延びている。押圧部21aは二股構造を有するため、第1孔113に挿入された給脂パイプ130は一方の押圧部21aに向けて延びていることになる。給脂パイプ130がクラッチレリーズフォーク21の押圧部21aの近傍に至るまでには、クラッチハウジング30の内部で障害物を避けることが必要になる場合がある。例えば、障害物としては、レリーズベアリング15の構成部品であるクリップが挙げられる。クリップはクラッチレリーズフォーク21の二股構造の近くに設けられているため、押圧部21aに至るまでに給脂パイプ130が当たらないようにすることが望ましい。
そこで、第2工程(挿入工程の前半工程)として、ケガキ線の位置まで第2治具120の挿入部121を第1治具110の挿入孔に挿入する。この第2工程の挿入状態において、給脂パイプ130および内視鏡160がクラッチハウジング30内の障害物を避けることができるように、挿入孔内で第1治具110に対する第2治具120の位置を変位させるように動作することができる。すなわち、第3工程として、クラッチハウジング30の内部構造を避けるように第2治具120を動作する工程(回避動作工程)を行う。
第3工程について、挿入部121を第1孔113に挿入した状態において、挿入部121の側面121a,121bと第1孔113の内面との間にはクリアランスが設けられている。同様に、挿入部121を第2孔114に挿入した状態において、挿入部121の側面121a,121bと第2孔114の内面との間にはクリアランスが設けられている。そのため、第2治具120がケガキ線の位置まで挿入孔に挿入された状態であれば、給脂パイプ130がレリーズベアリング15のクリップに接触しない高さ位置で、クリップなどの内部構造を避ける位置に、給脂パイプ130を位置決めすることができる。この場合、ストッパ部122側を手に持ち、挿入部121の先端側をY方向に振るように動作させることが可能である。
図9に示すように、給脂パイプ130の先端部131の高さ位置は、高さh1において、レリーズベアリング15のクリップに避けることが可能な高さとなる。この場合に、給脂パイプ130の挿入を停止して、レリーズベアリング15のクリップを避けるように先端部131の位置をコントロールする。この高さh1は挿入量(ストローク量)を表すことにもなる。
例えば、第3工程では、第1孔113の第1面113aに挿入部121の側面121bを当てた状態から、給脂パイプ130がクラッチハウジング30内の障害物を避ける動作として、非接触状態にあった第1孔113の第2面113bに挿入部121の側面121aを接触させる。この際、第1孔113の第3面113c上を挿入部121がスライドして第2面113bに側面112aが接触するまで、第2治具120を動かす。このスライドにはY方向に平行移動する動作、および先端部131側を左右に振る揺動が含まれる。これにより、給脂パイプ130がクリップに接触しない位置となる。
このように、クラッチハウジング30内の障害物を回避する位置に給脂パイプ130の位置が定まった状態となってから、再度、給脂パイプ130の先端部131を給脂必要箇所に向けてアプローチする。すなわち、第2治具120の挿入工程を再開し、第2治具120のストッパ部122が第1治具110の基部111に当接する位置まで挿入部121を貫通孔31に挿入する。第2治具120のストッパ部122が第1治具110に接触する状態では、給脂パイプ130の先端部131がクラッチハウジング30内で所定の目標位置まで挿入されていることになる。つまり、第4工程(挿入工程の後半工程)として、ケガキ線の位置よりも深く挿入部121を挿入し、給脂必要箇所まで給脂パイプ130の先端部131を挿入する。
図9に示すように、第4工程では、給脂パイプ130の先端部131は、二股構造の一方の押圧部21aが位置する高さh2に到達することになる。このように、給脂パイプ130の先端部131がクラッチレリーズフォーク21の押圧部21aの近傍位置に定まることが可能である。この高さh2は高さh1よりも大きい挿入量となる。
そして、第5工程として、給脂パイプ130の開口部131aからグリスを供給する工程が行われる。第5工程では、給脂パイプ130に接続された給脂器150からグリスを適量だけ供給すると、給脂パイプ130の先端部131から適量のグリスが射出され、押圧部21aにグリスを塗布する。この場合、予め給脂パイプ130内には給脂器150からのグリスが充填された状態となっている。そのため、給脂パイプ130の先端部131が所望の位置に定まると給脂器150を操作することによる給脂がスムースに行われる。
そして、第5工程の給脂が完了すると、第6工程として、給脂パイプ130の抜き取り工程を行う。第6工程では、第1治具110を貫通孔31に取り付けた状態のまま、給脂パイプ130の先端部131のグリス切りを行う。その後、第2治具120を貫通孔31から抜き取るとともに、給脂パイプ130の先端部131も貫通孔31からクラッチハウジング30の外側に抜き取る。
例えば、第2治具120を第1治具110の挿入孔から抜き取る。第2治具120を第1治具110の挿入孔から抜き取る際、挿入孔と挿入部121との間のクリアランスによって左右に振ることが可能である。これにより、給脂必要箇所以外の部位や部品にグリスが付着することを回避できる。
上述した第1工程から第5工程に至る工程が第1孔113に対する工程である場合には、第1治具110の取り付け状態を維持したまま、第2孔114を対象とする第2工程から第5工程に至る工程を行う。これにより、二股構造の押圧部21aの両方に対して給脂を行うことができる。
なお、クラッチハウジング30の内部で給脂必要箇所に至るまでに障害物がない場合には、上述した第2工程と第3工程とを省略してよい。この場合、第2治具120のケガキ線は不要であり、第1工程に続いて第4工程を行い、第1治具110の挿入孔に第2治具120の挿入部121を挿入してストッパ部122が第1治具110に当接するまで継続して挿入してよい。
以上説明した通り、第1実施形態の給脂装置100によれば、クラッチハウジング30を車両から取り外さなくてもクラッチレリーズフォーク21の押圧部21aに給脂を行うことが可能になる。これにより、給脂メンテナンス作業が容易になり、作業性が向上する。
なお、第1実施形態では、金属製の給脂パイプ130について説明したが、給脂パイプ130は弾性部材により構成されてもよい。弾性部材からなる給脂パイプ130では幅狭空間への給脂時に空間形状に沿って給脂パイプ130を変形させることが可能になる。さらに、給脂パイプ130の形状は、直線形状に限らず、カーブ状に形成されてもよい。また、給脂器150は、シリンダとピストンを有する構造に限らず、給脂パイプ130にグリスを供給することができる構造のものであればよい。
(第1治具の変形例)
ここで、図10~図13を参照して、第1治具110の変形例について説明する。
図10は、第1変形例の第1治具110Aを模式的に示す図である。図10に示すように、第1変形例の第1治具110Aは、例えばエチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)などの弾性部材により構成されており、突出部112の背面側にキー部が設けられていない構造を有する。突出部112は貫通孔31に対してシロシメが発生する大きさに設定されている。つまり、突出部112が貫通孔31に締まり嵌めされる。突出部112の側面112a,112bが貫通孔31の内面31a,31bに嵌ることができる大きさに形成されている。そのため、キー部が不要となる。
図11Aは、第2変形例の第1治具100Bを模式的に示す図である。図11Bは、第2変形例の第1治具100Bの形状を説明するための図である。図11A,図11Bに示すように、第2変形例の第1治具110Bでは、突出部112が基部111の背面111bに対して垂直に延びている。また、第1孔113および第2孔114は基部111の平板に対して垂直方向に直線状に延びている。この第1治具110Bの突出部112も貫通孔31に締まり嵌めされる。
図12は、第3変形例の第1治具110Cを模式的に示す図である。図12に示すように、第3変形例の第1治具110Cでは、基部111の背面111b側に一対の段差部117,118が設けられている。段差部117,118は、突出部112の両側に形成され、背面111bから突出する形状を有する。Y方向の中心線Lを基準にすると、段差部117の側壁面117aは突出部112の側面112bよりも外側に設けられている。中心線Lに対して反対側の段差部118の側壁面についても突出部112の側面112a(図6Bに示す)よりも外側に設けられている。また、段差部117,118の高さは突出部112よりも低く形成されている。
第1治具110Cでは、突出部112と一対の段差部117,118とがY方向の大きさが異なることによって、異なる開口形状の貫通孔31に対応することが可能である。貫通孔31の開口形状が小さい場合には、突出部112が貫通孔31に嵌合する。貫通孔31の開口形状が大きい場合には、突出部112は貫通孔31に嵌ることができず、一対の段差部117,118が貫通孔31に嵌合する。
図13は、段差部の変形例を模式的に示す図である。図13に示すように、第3変形例に含まれる段差部は複数段に形成されてもよい。第1段となる段差部117の側壁面117aと、第2段となる段差部119の側壁面119aとは、Y方向の中心線Lに対して突出部112の側面112bよりも遠い位置(幅方向外側の位置)に設けられている。第1段の側壁面117aは第2段の側壁面119aよりも遠い位置Y1に設けられている。第2段の側壁面119aは側面112bよりも遠い位置Y2に設けられる。この側壁面117aまたは側壁面119aが貫通孔31の内面31aに当接することによって、第1治具110AのY方向の位置決めが行われる。
(第2実施形態)
第2実施形態の給脂装置100Aについて説明する。第2実施形態では、第2治具120が第1治具110Dに一体化された構造を有する。なお、第2実施形態の説明では、第1実施形態と同様の構成については説明を省略し、その参照符号を引用する。
図14は、第2実施形態の給脂装置100Aを模式的に示す図である。図14に示すように、第2実施形態の給脂装置100Aは、第1治具110Dと第2治具120とが一体化され、給脂パイプ130が第1治具110Dに固定された構造を有する。
図15Aは、図14のC矢視を示す図である。図15Bは、図14のD矢視を示す図である。図15A,図15Bに示すように、挿入部121が第1治具110Dの第1孔113に挿通された状態でストッパ部122と第1治具110Dの基部111とが固定されている。第1治具110Dと第2治具120との固定方法は、ボンドなどの接着剤により接着されている。また、第1治具110Dも第2治具120も金属製の場合には溶接などによって一体化されてもよい。
また、第1治具110Dには、位置決め面としてクラッチレリーズフォーク21の平面21dに当接する面が二面存在する。図15Bに示すように、第1治具110Dには、第1当接面115Aと、第2当接面115Bとが含まれる。
図16Aは、第2実施形態の治具を貫通孔31に取り付けた第1状態を示す図である。図16Bは、第2実施形態の治具を貫通孔31に取り付けた第2状態を示す図である。図16Bに示す第2状態は、図16Aに示す第1状態から一旦治具を外して180度回転させた状態を表す。図16Aに示すように、第1当接面115Aがクラッチレリーズフォーク21の平面21dに当接した第1状態で給脂パイプ130からの給脂を行う。そして、第1治具110Dを貫通孔31から取り外し、Z方向の中心軸周りに180度回転させて、第1治具110Dの第2当接面115Bがクラッチレリーズフォーク21の平面21dに当接する第2状態で給脂パイプ130からの給脂を行う。
ここで、第2実施形態の給脂装置100Aを用いる給脂方法について説明する。
まず、第1工程として、給脂パイプ130の先端部131を貫通孔31からクラッチハウジング30の内部に挿入し、第2治具120の側面121a,121bに付されたケガキ線の位置まで挿入部121を貫通孔31に挿入する。貫通孔31の開口部位置とケガキ線の位置が重なる位置まで挿入することができる。
第2工程として、第1工程による挿入位置を保ちながら、クラッチハウジング30内部の障害物を避ける動作を行う。例えば、第1治具110Dの第1当接面115Aをクラッチレリーズフォーク21の平面21dに当接された状態で、障害物を避けるよう第1治具110Dおよび第2治具120を動作させる。この場合、第1治具110Dの突出部112は貫通孔31に挿入する前の状態で、第1治具110Dの第1当接面115Aをクラッチレリーズフォーク21の平面21dに当接する位置決め工程を行う。
そして、第3工程として、第1当接面115Aをクラッチレリーズフォーク21の平面21dに沿わせて、突出部112を貫通孔31に挿入させ、基部111がクラッチハウジング30に当接するまで挿入する。第3工程では、第1当接面115Aをクラッチレリーズフォーク21の平面21dに当接した状態を保ちながら、挿入部121を貫通孔31の内部に挿入して、基部111の背面111bをクラッチハウジング30に当接させる。第1治具110Dの基部111がクラッチハウジング30の外壁部に接触する状態では、給脂パイプ130の先端部131がクラッチハウジング30内で所定の目標位置まで挿入されていることになる。
この状態で、第4工程として、給脂パイプ130に接続された給脂器150からグリスを適量だけ供給すると、給脂パイプ130の先端部131から適量のグリスが射出され、給脂必要箇所であるクラッチレリーズフォーク21の押圧部21aにグリスを塗布する。
そして、第4工程の給脂が完了すると、第5工程として、給脂パイプ130の抜き取り作業を行う。この場合、給脂パイプ130の先端部131のグリス切りを行いながら、第2治具120を貫通孔31から抜き取る。第1治具110Dと第2治具120とが一体化されていることにより、給脂完了後に給脂パイプ130を貫通孔31から抜き取る際、第1治具110Dを貫通孔31から一緒に外すことができる。これにより、給脂メンテナンス時に第1治具110Dの取り忘れを防止することができる。そして、第1治具110DをZ方向の中心軸周りに180度回転させて、第2当接面115Bがクラッチレリーズフォーク21の平面21dに当接する第2状態で、上述した工程に基づいて給脂パイプ130からの給脂を行うことができる。
なお、クラッチハウジング30の内部で給脂必要箇所に至るまでに障害物がない場合には、上述した第1工程と第2工程とを省略することが可能である。この場合、第2治具120のケガキ線は不要であり、第3工程から開始し、クラッチハウジング30に第1治具110Dの基部111が当接するまで挿入することができる。
以上説明した通り、第2実施形態の給脂装置100Aによれば、クラッチハウジング30を車両から取り外さなくてもクラッチレリーズフォーク21の押圧部21aに給脂を行うことが可能になる。これにより、給脂メンテナンス作業が容易になり、作業性が向上する。また、クラッチハウジング30内で、貫通孔31からクラッチレリーズフォーク21の押圧部21aに至るまでに障害物が無い場合に有用である。