発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
図1は、実施形態に係るセンサ付き軸受の構成例を示す斜視図である。図2は、実施形態に係るセンサ付き軸受の構成例を示す分解斜視図である。図3は、実施形態に係るセンサ付き軸受の構成例を示す断面図である。図3は、図1をIII-III’線を通るX-Z平面で切断した断面を示している。図1から図3に示すように、センサ付き軸受1は、カバー10と、第1センサ20Aと、センサ筐体30と、第2センサ20Bと、連結器具50と、軸受120とを備える。軸受120の一方の側面に、カバー10と、第1センサ20Aと、センサ筐体30と、第2センサ20Bと、連結器具50とがそれぞれ配置されている。
カバー10は、リング状の天板11と、天板11の中央部に位置する開口部に接続された筒状の内側板12とを有する。カバー10は、ケイ素鋼板、炭素鋼(JIS規格 SS400又はS45C)、マルテンサイト系ステンレス(JIS規格 SUS420)又はフェライト系ステンレス(JIS規格 SUS430)のいずれかのような磁性を有する材料で形成される。天板11には雌ねじ穴13が設けられている。例えば、雌ねじ穴13に非磁性材料のボルト(図示せず)が締結することで、カバー10を任意の部材に取り付けることができる。ボルトは、カバー10に取り付けられた状態で、カバー10から突出しない長さを有する。なお、カバー10は、磁性をもたない材料で形成されていてもよい。
第1センサ20Aは、センサ筐体30と軸受120との間に配置されている。第1センサ20Aは、第1磁気基板21Aと、第1コイル基板25Aと、を有する。第1磁気基板21Aと第1コイル基板25Aは、一定の距離だけ離隔した状態で、互いに対向して配置されている。
第1コイル基板25Aは、センサ筐体30に取り付けられている。例えば、センサ筐体30の中央部には、貫通した開口部H30が設けられている。また、センサ筐体30において、軸受120と対向する面側には、溝部31Aが設けられている。溝部31Aは、開口部H30の周囲に設けられている。また、センサ筐体30の側面には、連結器具50を挟み込むための切欠き部32が設けられている。第1コイル基板25Aは、溝部31Aに嵌め込まれ、かつ連結器具50が取り付けられることによって、センサ筐体30に対して位置決めされている。なお、第1コイル基板25Aは、接着剤(図示せず)を介して溝部31Aの底面に固定されていてもよい。
また、本実施形態では、図3に示すように、第1コイル基板25Aと溝部31Aの底面との間に、透磁板35が配置されていてもよい。透磁板35は、例えば鉄又は珪素鋼板などで構成されている。透磁板35は、磁束を効率的に還流させることができる。なお、渦電流による損失を抑制するため、透磁板35は、その板厚方向又は板厚方向と直交する方向において、絶縁材を介した積層構造となっていてもよい。これにより、軸受120の回転トルク増大を防止することができる。
図4は、第1コイル基板の構成例を示す平面図である。図4に示すように、第1コイル基板25Aは、基材26と、基材26に設けられたコイルパターン27と、基材26に設けられた複数の穴28とを有する。基材26は、リジッド基板である。また、基材26はフレキシブル基板であってもよい。基材26の平面視による形状は、回転軸Ax(axis)を中心とする正円のリング状である。
コイルパターン27は、基材26の厚さ方向に積層された複数の平面コイルを有する。平面コイルとは、絶縁体の所定の面上にパターニングされて設けられた導電体のパターンである。本実施形態においては、導電体のパターンが絶縁体の複数の面上に形成されている。これに限られず、導電体のパターンが絶縁体の1つの面上に形成されていてもよい。コイルパターン27の断面視による構造は、後で図8Aを参照しながら説明する。コイルパターン27のターン数は平面コイルの積層数に比例する。本実施形態では、センサ付き軸受1の用途によって、平面コイルの積層数を変化させ、第1コイル基板25Aから出力される正弦波の交流電圧(図7参照)の振幅(信号強度)を調整してもよい。
図4に示すように、基材26は、リングの外側へ突出した突出部261を有する。基材26の突出部261に、コイルパターン27の一方の端部275と他方の端部276とがそれぞれ設けられている。一方の端部275と他方の端部276は、それぞれ図示しないリード線を介して後述の制御装置2(図9参照)に接続される。なお、本実施形態において、コイルパターン27と制御装置2との接続は、リード線ではなく、FPC(Flexible Printed Circuit)コネクタを介して行われてもよい。または、第1コイル基板25Aは、その一部(例えば、突出部261)を延長して制御装置2と直接接続されてもよい。FPCコネクタを使用した接続では、半田が不要となるので、センサ付き軸受1の生産性をさらに高めることができる。
図4に示すように、コイルパターン27は、平面視で第1方向に延びる複数の第1導電部271と、第1方向と平面視で交差する第2方向に延びる複数の第2導電部272と、を有する。第1方向は、例えば、回転軸Axを中心とする円の円周方向である。第2方向は、例えば、回転軸Axを中心とする円の径方向である。第1導電部271と第2導電部272は、交互に直列に接続されている。
穴28は、平面視で、第1導電部271の一方の側に位置する第1穴281と、第1導電部271の他方の側に位置する第2穴282とを有する。例えば、第1穴281は、第1導電部271よりも回転軸Axから遠い側に位置する。第2穴282は、第1導電部271よりも回転軸Axから近い側に位置する。但し、第1穴281と回転軸Axとの距離と、第2穴282と回転軸Axとの距離は、互いに同じ長さである。
例えば、コイルパターン27は、平面視で、回転軸Axを中心とする円の円周方向に沿って凹凸が交互に並ぶように延設されている。コイルパターン27は、ミアンダパターンとも呼ばれる。穴28と、第2導電部272とは円周方向に交互に1つずつ配置されている。
図5は、本実施形態の第1磁気基板の構成例を示す平面図である。図5に示すように、第1磁気基板21Aは、リング状の基材211と、基材211の一方の面側に設けられた磁気トラック212と、を有する。基材211の一方の面は、第1コイル基板25A(図2参照)と対向する面である。基材211は、金属製である。
図5に示すように、磁気トラック212の平面視による形状は、回転軸Axを中心とする正円のリング状である。磁気トラック212は、N極21NとS極21Sとからなる磁極対を複数有する。N極21NとS極21Sとは、回転軸Axを中心とする円の円周方向に並んでいる。N極21N及びS極21Sは、交互に配置されている。第1磁気基板21Aは、金属製の基材の一方の面にプラスチックマグネットが形成され、形成されたプラスチックマグネットの表面にN極とS極とが交互に着磁されることにより形成される。
図6は、実施形態に係る第1センサの構成例を示す平面図である。図6は、第1コイル基板25Aに磁気トラック212を重ねた状態を示している。図6に示すように、回転軸Axを中心(図4、図5参照)とする円の円周方向において、隣り合う一方の穴28(例えば、第1穴281)と他方の穴28(例えば、第2穴282)との間の中間に、第2導電部272が位置する。回転軸Axを中心とする円の円周方向において、隣り合う穴28の中心間の距離を28pとし、隣り合う第2導電部272の中心間の距離を27pとする。例えば、距離27pと距離28pは、互いに同じ長さである。
回転軸Axを中心とする円の円周方向において、N極21Nの長さ21L1と、S極21Sの長さ21L2は、互いに同じ長さである。また、N極21Nの長さ21L1と、S極21Sの長さ21L2は、それぞれ、穴28の中心間の距離28pと同じ長さである。
図5に示すように、回転軸Axを中心とする円の円周方向において、隣り合うN極21NとS極21Sとの中心間の距離を21pとする。N極21NとS極21Sの中心間の距離21pは、穴28の中心間の距離28pと同じ長さになっている。
本実施形態では、回転軸Axを中心に、第1コイル基板25Aに対して第1磁気基板21Aが相対的に回転する。第1コイル基板25Aの第1穴281が、磁気トラック212のN極21Nと対向するとき、第1コイル基板25Aの第2穴282は磁気トラック212のS極21Sと対向する。また、第1穴281がS極21Sと対向するとき、第2穴282はN極21Nと対向する。第1穴281及び第2穴282は、磁気トラック212の同一磁極と対向することはない。これにより、第1穴281を通る磁束密度の変化の位相と、第2穴282を通る磁束密度の変化の位相は、180°ずれた状態となる。
上述したように、第1穴281は、第1導電部271よりも回転軸Axから遠い側に位置する。第2穴282は、第1導電部271よりも回転軸Axに近い側に位置する。このため、第1穴281を通る磁束密度の変化によってコイルパターン27に生じる誘導電流と、第2穴282を通る磁束密度の変化によってコイルパターン27に生じる誘導電流は、同じ方向に流れる。
第1磁気基板21Aは、軸受120の保持器124に取り付けられている。例えば、図示しない接着剤を介して、第1磁気基板21Aの基材211が保持器124の側面に取り付けられている。保持器124の側面は、回転軸Axと直交する面である。
図7は、第1センサが出力する電気信号の波形の一例を示すグラフである。図7の横軸は時間Tであり、縦軸は電気信号の電圧Viである。第1コイル基板25Aは、センサ筐体30(図2参照)に固定されている。第1コイル基板25Aに対して磁気トラック212が相対的に回転すると、穴28と対向する磁極が交互に替わる。これにより、穴28を通る磁束密度が周期的に変化する。この磁束密度の周期的な変化に応じて、穴28の周りに位置するコイルパターン27に電圧変化(例えば、正弦波の交流電圧)が発生する。以下、第1コイル基板25Aから出力される正弦波の交流電圧を、第1信号V1ともいう。
図8Aは、図6に示した平面図をXIII-XIII’線で切断した断面図である。図8Aに示すように、コイルパターン27は、厚さ方向に積層された複数の平面コイル27Aから27Fを有する。例えば、第1コイル基板25Aは、厚さ方向に積層された6層の基材26Aから26Fと、厚さ方向に積層された6層の平面コイル27Aから27Fと、を有する。平面コイル27Aから27Fにおいて、厚さ方向で隣り合う平面コイル間には基材26が配置されている。
また、基材26F上には絶縁性の保護膜29が設けられている。コイルパターン27のうち、最上層に位置する平面コイル27Fは保護膜29で覆われている。基材26Bから26Fと、保護膜29に穴28が連続して設けられている。
平面コイル27Aから27Fの平面視による形状は、互いに同一である。例えば、図6に示したように、平面コイル27Aから27Fは、それぞれ複数の第1導電部271と複数の第2導電部272とを有する。また、平面コイル27Aから27Fは、例えば、コイルパターン27の延設方向の両端部において、互いに接続されている。つまり、平面コイル27Aから27Fは、互いに並列に接続されている。なお、本実施形態において、平面コイル27Aから27Fの接続は並列に限定されない。平面コイル27Aから27Fは、互いに直列に接続されていてもよい。平面コイル27Aから27Fを直列に接続することで、出力電圧を増加させることができる。
図8Bは、図6に示した平面図をXIII-XIII’線で切断した断面図の他の例である。図8Bに示すように、厚さ方向で隣り合う平面コイル同士では、第1導電部271と接続される径方向の位置が交互に異なるようにしてもよい。例えば、平面コイル27Aが第1導電部271と径方向内側に接続され、平面コイル27Bが第1導電部271と径方向外側に接続される。これにより、厚さ方向で隣り合う平面コイル27Aと平面コイル27Bとは、円周方向に180°位相がずれることになる。
第2センサ20Bは、センサ筐体30とカバー10との間に配置されている。第2センサ20Bは、第1センサ20Aと同様の構成を有する。
例えば、図2に示すように、第2センサ20Bは、第2磁気基板21Bと、第2コイル基板25Bとを有する。第2磁気基板21Bと第2コイル基板25Bは、一定の距離だけ離隔した状態で、互いに対向して配置されている。図5に示すように、第2磁気基板21Bは、第1磁気基板21Aと同一の構成を有する。第2磁気基板21Bは、リング状の基材211と、基材211に設けられた磁気トラック212と、を有する。また、図4に示すように、第2コイル基板25Bは、第1コイル基板25Aと同一の構成を有する。第2コイル基板25Bは、基材26と、基材26に設けられたコイルパターン27と、基材26に設けられた複数の穴28とを有する。第2コイル基板25Bの断面構造は、図8A又は図8Bに示した第1コイル基板25Aの断面構造と同一である。
本実施形態では、回転軸Axを中心に、第2コイル基板25Bに対して第2磁気基板21Bが相対的に回転する。第2コイル基板25Bの第1穴281が、磁気トラック212のN極21Nと対向するとき、第2コイル基板25Bの第2穴282は磁気トラック212のS極21Sと対向する。また、第1穴281がS極21Sと対向するとき、第2穴282はN極21Nと対向する。第1穴281及び第2穴282は、磁気トラック212の同一磁極と対向することはない。これにより、第2センサ20Bにおいても、第1穴281を通る磁束密度の変化の位相と、第2穴282を通る磁束密度の変化の位相は、180°ずれた状態となる。
第2磁気基板21Bは、カバー10に取り付けられている。例えば、カバー10が磁性を有する材料で構成されている場合、カバー10と第2磁気基板21Bは、磁力で引き付け合って一体化することができる。このため、カバー10に対する第2磁気基板21Bの取付けには、接着剤を用いてもよいし、接着剤を用いなくてもよい。接着剤を用いない場合は、接着剤の塗布工程を省略することができるので、センサ付き軸受1の組立コストの低減が可能である。
第2コイル基板25Bは、センサ筐体30に取り付けられている。例えば、センサ筐体30において、カバー10と対向する面側には、溝部31B(図2参照)が設けられている。溝部31Bは、開口部H30(図2参照)の周囲に設けられている。第2コイル基板25Bは、溝部31Bに嵌め込まれ、かつ連結器具50が取り付けられることによって、センサ筐体30に対して位置決めされている。なお、第2コイル基板25Bは、接着剤(図示せず)を介して溝部31Bの底面に固定されていてもよい。また、本実施形態では、図3に示すように、第2コイル基板25Bと溝部31Bの底面との間にも、透磁板35が配置されていてもよい。
連結器具50は、第1コイル基板25Aと第2コイル基板25Bとを互いに連結すると共に、センサ筐体30の切欠き部32に嵌め込まれる。例えば、連結器具50は、第1コイル基板25Aの突出部261(図4参照)と、第2コイル基板25Bの突出部261とを連結すると共に、センサ筐体30の切欠き部32に嵌め込まれる。切欠き部32に嵌め込まれた連結器具50は、切欠き部32の側面に両側から挟まれることによって、回転軸Axを中心とする円の円周方向への移動が規制される。これにより、第1コイル基板25Aと第2コイル基板25B及び連結器具50は、センサ筐体30に固定される。
図3に示すように、軸受120は、外輪121と、内輪122と、複数の転動体123と、保持器124とを有する。保持器124は、外輪121と、内輪122との間に配置されている。保持器124は、外輪121及び内輪122のいずれにも固定されていない。保持器124は、回転軸Axを中心に、外輪121及び内輪122に対してそれぞれ回転可能である。また、転動体123は球状の玉でもよい。保持器124は、複数の転動体123をそれぞれ回転可能に保持する。
例えば、外輪121は、静止輪であり、センサ付き軸受1の筐体(図示せず)に固定される。また、内輪122は、回転輪であり、軸受120が支持する軸部(shaft)に固定される。
図9は、実施形態に係る回転装置の構成例を示すブロック図である。図9に示すように、実施形態に係る回転装置3は、センサ付き軸受1と、センサ付き軸受1と信号線を介して接続される制御装置2と、を有する。信号線として、例えば、リード線又はFPCコネクタが挙げられる。
制御装置2は、A/D変換回路130と、演算回路140と、記憶回路150とを有する。演算回路140は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の記憶装置とを備える。演算回路140の後述する各機能は、CPUの演算処理によって実現される。また、A/D変換回路130はCPUに内蔵されていてもよいし、CPUとは別の電子部品であってもよい。記憶回路150は、例えば、NAND型又はNOR型のフラッシュメモリである。制御装置2には、A/D変換回路130と、演算回路140と、記憶回路150とを動作させるために、図示しない電源が接続される。
A/D変換回路130は、センサ付き軸受1から制御装置2に入力される電気信号をアナログデータからデジタルデータに変換する。例えば、A/D変換回路130は、第1A/D変換部130Aと、第2A/D変換部130Bとを有する。第1A/D変換部130Aには、第1センサ20Aの第1コイル基板25Aが出力する第1信号V1が入力される。第1信号V1は、正弦波の交流電圧である。第1A/D変換部130Aは、入力される第1信号V1をアナログデータからデジタルデータに変換する。第1A/D変換部130Aは、デジタルデータに変換した第1信号V1を、後述する第1周期計測部141Aに出力する。
同様に、第2A/D変換部130Bには、第2センサ20Bの第2コイル基板25Bが出力する第2信号(例えば、正弦波の交流電圧)V2が入力される。第2A/D変換部130Bは、入力される第2信号V2をアナログデータからデジタルデータに変換する。第2A/D変換部130Bは、デジタルデータに変換した第2信号V2を、後述する第2周期計測部141Bへ出力する。
演算回路140は、第1周期計測部141Aと、第2周期計測部141Bと、第1速度算出部142Aと、第2速度算出部142Bと、速度比算出部143と、荷重算出部144と、を有する。
第1周期計測部141Aは、第1A/D変換部130Aが出力する第1信号V1のデジタルデータに基づいて、第1信号V1の周期を計測する。第2周期計測部141Bは、第2A/D変換部130Bが出力する第2信号V2のデジタルデータに基づいて、第2信号V2の周期を計測する。
第1速度算出部142Aは、第1周期計測部141Aが計測した周期に基づいて、第1コイル基板25Aに対する第1磁気基板21Aの回転速度(以下、第1回転速度ともいう)N1を算出する。第1回転速度N1は、静止輪に対する保持器124(図3参照)の回転速度であり、例えば、保持器124の回転速度である。保持器124と共に転動体123(図3参照)も回転軸Axを中心に回転する。このため、第1回転速度N1は転動体123の公転速度と言い換えることもできる。なお、第1回転速度N1及び後述の第2回転速度N2は、それぞれ単位時間当たりの回転数で示される。
第2速度算出部142Bは、第2周期計測部141Bが計測した周期に基づいて、第2コイル基板25Bに対する第2磁気基板21Bの回転速度(以下、第2回転速度ともいう)N2を算出する。例えば、第2回転速度N2は、静止輪に対する回転輪の回転速度であり、例えば、内輪122(図3参照)の回転速度である。
速度比算出部143は、第1回転速度N1と第2回転速度N2との比(以下、速度比ともいう)SRを算出する。例えば、速度比SRは、第1回転速度N1に対する第2回転速度N2の値で示される。SR=N2/N1である。
荷重算出部144には、第1速度算出部142Aから第1回転速度N1が入力される。また、荷重算出部144には、速度比算出部143から速度比SRが入力される。荷重算出部144には、第2速度算出部142Bから第2回転速度N2が入力される。また、荷重算出部144は、記憶回路150に格納されているデータを読み出す。
記憶回路150には、保持器124(図3参照)と内輪122(図3参照)の回転数比とアキシアル荷重Fとの関係を示すデータ、あるいは保持器124の回転数、内輪122の回転数とアキシアル荷重Fの関係を示すデータが格納されている。荷重算出部144は、速度比算出部143の結果と記憶回路150のデータを使用してアキシアル荷重Fを算出する。
アキシアル荷重Fとは、外輪121(図3参照)と内輪122との間に加えられる、回転軸Ax方向の力のことである。上記のデータは、センサ付き軸受1の設計者が行う実験又はシミュレーションにより、複数の速度比SR1、SR2、SR3…(図10参照)ごとに予め求められ、記憶回路150に格納される。
荷重算出部144は、第1速度算出部142Aから入力される第1回転速度N1と、速度比算出部143から入力される速度比SRと、記憶回路150から読み出すデータとに基づいて、軸受120に加えられるアキシアル荷重Fを算出する。算出されたアキシアル荷重Fの値は、演算回路140の外部へ出力される。
図10は、第1回転速度とアキシアル荷重との関係を模式的に示すグラフである。図10の横軸は、軸受120(図3参照)に加えられるアキシアル荷重Fを示す。また、図10の縦軸は、保持器124(図3参照)の回転速度(第1回転速度)N1を示す。図10に示すように、軸受120に加えられるアキシアル荷重Fが大きくなるにしたがって、保持器124の回転速度N1は増加する傾向がある。これは、軸受120にアキシアル荷重Fが加えられると、外輪121、内輪122及び転動体123がそれぞれ弾性変形し、外輪121(図3参照)と転動体123との接触角と、転動体123と内輪122との接触角とが変化するからである。接触角の変化により、保持器124の回転速度N1が変化する。
また、保持器124の回転速度(第1回転速度)N1は、内輪122の回転速度(第2回転速度)N2の影響も受ける。図11は、第1回転速度と第2回転速度との関係を模式的に示すグラフである。図11の横軸は、第2回転速度N2を示す。図11の縦軸は、第1回転速度N1を示す。軸受120に加えられるアキシアル荷重Fが一定の場合、図11に示すように、第2回転速度N2が大きくなると、第1回転速度N1も大きくなる。つまり、速度比SRに対して、第1回転速度N1は傾きを有する。これは、内輪122が回転すると、内輪122と接触する転動体123も回転方向の力を受けるからである。
このため、図10に示すように、軸受120に加えられるアキシアル荷重Fと保持器124の回転速度(第1回転速度)N1との関係は、内輪122の回転速度(第2回転速度)N2によって異なる。例えば、内輪122の回転速度(第2回転速度)N2-1、N2-2、N2-3は、N2-1<N2-2<N2-3の関係にある。軸受120に加えられるアキシアル荷重Fが同一の大きさであっても、上記の内輪122の回転速度(第2回転速度)N2が大きいほど、保持器124の回転速度N1は大きくなる。
本実施形態では、図10に示したように、アキシアル荷重Fと保持器124の回転速度N1との関係が、複数の速度比SR1、SR2、SR3…ごとに予め求められる。そして、複数の速度比SR1、SR2、SR3…ごとに求められた、アキシアル荷重Fと保持器124の回転速度N1との関係が、記憶回路150(図9参照)に予め格納される。
荷重算出部144は、記憶回路150に予め格納されたデータを読み出し、読み出したデータに保持器124の回転速度(第1回転速度)N1と、速度比SRとを照合する。これにより、荷重算出部144は、軸受120に加えられるアキシアル荷重Fを算出することができる。
なお、荷重算出部144は、第1速度算出部142Aの算出結果である第1回転速度N1と、速度算出部142Bの算出結果である第2回転速度N2と、記憶回路150に格納されているデータとを使用して、(速度比を算出せずに直接)荷重を算出してもよい。
以上説明したように、実施形態に係る回転装置3は、センサ付き軸受1と、センサ付き軸受1に接続された制御装置2と、を備える。センサ付き軸受1は、第1部品(例えば、外輪121)と、外輪121に対して回転軸Axを中心に相対的に回転する第2部品(例えば、内輪122)と、外輪121と内輪122との間に配置される複数の転動体123と、外輪121と内輪122との間に配置され、複数の転動体123を保持する保持器124と、外輪121に対する保持器124の相対的な回転に基づいて第1信号V1を出力する第1センサ20Aと、を備える。第1センサ20Aは、保持器124に固定され、回転軸Axを中心とする円の円周方向にN極21NとS極21Sとが並ぶ第1磁気トラック(例えば、磁気トラック212を有する第1磁気基板21A)と、例えば、センサ筐体30により外輪121に固定され、第1磁気基板21Aと対向する第1コイル基板25Aと、を有する。これによれば、制御装置2は、第1センサ20Aが出力する第1信号V1に基づいて、第1回転速度N1を算出することができる。そして、制御装置2は、第1回転速度N1に基づいて、センサ付き軸受1の軸受120に加えられるアキシアル荷重を検出することができる。
第1信号V1は、電磁誘導によって第1コイル基板25Aで生じる正弦波など周期的に変化する電圧である。第1信号V1は、電磁誘導による発電で生成される。このため、センサ付き軸受1は、第1信号V1を生成するための電源と、この電源に接続する配線とを必要としない。これにより、センサ付き軸受1は、その構成を簡単にすることができる。
第1コイル基板25Aは、第1磁気基板21Aの全てのN極21N及びS極21Sと常に対向することができる。これにより、センサ付き軸受1は、保持器124が振れ回りする(回転中心を変化させながら回転する)場合でも、この振れ回りが第1信号V1の電圧波形に影響しないようにすることができる。これにより、回転装置3は、軸受120に加えられるアキシアル荷重を精度良く検出することができる。
また、センサ付き軸受1は、外輪121と内輪122との相対的な回転に基づいて第2信号V2を出力する第2センサ20B、をさらに備える。第2センサ20Bは、内輪122に固定され、回転軸Axを中心とする円の円周方向にN極21NとS極21Sとが並ぶ第2磁気トラック(例えば、磁気トラック212を有する第2磁気基板21B)と、外輪121に固定され、第2磁気基板21Bと対向する第2コイル基板25Bと、を有する。これによれば、制御装置2は、上述の第1信号V1と、第2センサ20Bが出力する第2信号V2とに基づいて、軸受120に加えられるアキシアル荷重を精度良く検出することができる。
例えば、制御装置2の演算回路140は、第1回転速度N1に基づいて、軸受120に加えられるアキシアル荷重Fの概算値を算出することができる。また、演算回路140は、第1信号V1と第2信号V2とに基づいて、第1回転速度N1と第2回転速度N2との速度比SRを算出することができる。そして、演算回路140は、速度比SRに基づいて、アキシアル荷重Fの概算値を補正することができる。
また、センサ付き軸受1は、第1コイル基板25Aと第2コイル基板25Bとの間に配置されるセンサ筐体30、をさらに備える。第1コイル基板25Aと第2コイル基板25Bは、センサ筐体30を介して外輪121にそれぞれ固定される。これによれば、第1コイル基板25Aと第2コイル基板25Bとを外輪121に別々に固定する場合と比べて、外輪121に必要な加工を最小限に留めることができる。また、第1コイル基板25Aと第2コイル基板25Bとを、同一種類のコイル基板を用いて互いに背中合わせに配置することができる。第1コイル基板25Aと第2コイル基板25Bとに、それぞれ別種類のコイル基板を用いなくてもよいので、センサ付き軸受1の製造コストの抑制に寄与することができる。
また、センサ筐体30は金属製である。これによれば、センサ筐体30の透磁率を高めることができ、第1磁気基板21A及び第2磁気基板21Bの各磁束を効率的に還流させることができる。なお、センサ筐体30を構成する金属は、透磁率を高める観点から、鉄又は珪素鋼板であることが好ましい。
なお、本実施形態では、センサ筐体30は金属製に限定されない。例えば、センサ筐体30が樹脂製であってもよい。この場合、第1コイル基板25Aの一方の面、又は、第2コイル基板25Bの一方の面に金属の基材が配置されていれば、第1磁気基板21A及び第2磁気基板21Bの各磁束を還流させることができる。
また、センサ付き軸受1は、第1コイル基板25Aと第2コイル基板25Bとを互いに連結する連結器具50、をさらに備える。これによれば、センサ筐体30に対する第1コイル基板25A及び第2コイル基板25Bの取り付けが容易となる。
また、センサ付き軸受1は、第2センサ20Bを介して第1磁気基板21Aの反対側に位置する蓋体(例えば、カバー10)、をさらに備える。第2磁気基板21Bは、カバー10を介して内輪122に固定される。これによれば、第2磁気基板21Bの内輪122への取り付けが容易である。
また、回転装置3は、外輪121と内輪122との間に加えられる回転軸Ax方向の力(軸受120に加えられるアキシアル荷重)を、第1信号V1と第2信号V2とに基づいて算出する演算回路140、をさらに備える。これによれば、センサ付き軸受1に接続される演算回路140がアキシアル荷重を算出することができる。
本実施形態に係る回転装置3は、主軸方向(回転軸Ax方向)の荷重計測が必要な製品に好適に適用される。このような製品の一例として、飛行機やドローン、工作機器が示される。例えば、飛行機やドローンのプロペラの主軸が、軸受120の回転輪である内輪122に固定されてもよい。また、工作機器の主軸が、軸受120の回転輪である内輪122を固定されてもよい。
(変形例)
上記の実施形態では、保持器124の側面に磁気トラック212を有する第1磁気基板21Aが固定されることを説明した。しかしながら、本実施形態において、保持器124と第1磁気基板21Aは一体化されていてもよい。例えば、保持器124の側面に磁気トラック212が着磁されていてもよい。このような構成であって、上記の実施形態と同様の効果を奏する。
また、上記の実施形態では、外輪121が静止輪で、内輪122が回転輪であることを説明した。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。本実施形態では、外輪121が回転輪で、内輪122が静止輪であってもよい。この場合、カバー10が外輪121に固定されてもよい。また、第1コイル基板25A及び第2コイル基板25Bが取り付けられるセンサ筐体30は、内輪122に固定されてもよい。
また、上記の実施形態では、制御装置2の演算回路は、第1回転速度N1と速度比SRとに基づいて、軸受120に加えられるアキシアル荷重Fを算出することを説明した。例えば、制御装置2は、第1回転速度N1に基づいてアキシアル荷重Fの概算値を算出し、算出した概算値を速度比SRに基づいて補正することを説明した。しかしながら、本実施形態は、これに限定されない。例えば、速度比SRが一定であることが予想される場合、制御装置2の演算回路140は、第1回転速度N1に基づいて、軸受120に加えられるアキシアル荷重Fを算出してもよい。この場合、演算回路140は、速度比SRの算出と、速度比SRに基づく概算値の補正とを省くことができるので、アキシアル荷重Fの算出速度を高めることができる。
また、上記の実施形態では、第1コイル基板25A、又は、第2コイル基板25Bに設けられた穴28を、位置決め用に用いてもよい。例えば、第1コイル基板25A(または、第2コイル基板25B)をセンサ筐体30上に直接設置する場合、センサ筐体30において、第1コイル基板25A(または、第2コイル基板25B)が有する複数の穴28に対応する位置に突起を設けてもよい。突起が穴28に嵌合することによって、センサ筐体30に対して第1コイル基板25A(または、第2コイル基板25B)が位置決めされる。センサ筐体30が磁性をもつ場合は、複数の穴28に嵌合したセンサ筐体30の突起が磁束を効率よく還流させる。
また、上記の実施形態では、第1コイル基板25A(または、第2コイル基板25B)の一方の面に金属の基材を設置してもよい。この場合、金属の基材において、第1コイル基板25A(または、第2コイル基板25B)が有する複数の穴28に対応する位置に突起を設けてもよい。突起が穴28に嵌合することによって、第1コイル基板25A(または、第2コイル基板25B)に対して金属の基材が位置決めされる。また、複数の穴28に嵌合した金属の突起が磁束を効率よく還流させる。