JP7149552B2 - 残留応力予測方法及びプログラム - Google Patents
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Description
溶接部の表面をピーニング処理することにより、表面の残留応力を引張から圧縮の応力に変える、又は表面の引張りの残留応力を低減する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。表面の残留応力が圧縮の応力となる又は表面の引張りの残留応力が低減されることにより、応力腐食割れや疲労破壊などが生じにくくなる。また、溶接部に熱を加えることにより残留応力を取り除く方法(アニーリング)が知られている。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、残留応力分布に対応する溶接パラメータ、又は溶接パラメータに対応する残留応力分布を予測することができる算出方法を提供する。
本発明の算出方法に含まれる算出するステップは、学習済みのニューラルネットワークを用いて溶接パラメータを含む入力から残留応力を含む出力を算出するステップであることが好ましい。
前記母材を溶接する方法は、多層溶接であることが好ましく、前記溶接パラメータは、積層された溶接パスのパス割り、積層された溶接パスの溶接順序、各溶接パスの入熱量、各溶接パスの溶接速度、各溶接パスの溶接電流、各溶接パスの印加電圧、パス間温度のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
また、前記教師データは、少なくとも1つの溶接パラメータを有する解析モデルを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであってもよい。
また、本発明は、本発明の算出方法を用いて算出した溶接パラメータを用いて前記母材を溶接する溶接方法も提供する。
さらに、本発明は、本発明の算出方法をコンピューターに実行させるためのプログラムも提供する。
本実施形態の算出方法は、学習済みのニューラルネットワークを用いて残留応力から溶接パラメータを算出又は溶接パラメータから残留応力を算出するステップを含み、前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであり、かつ、実験及びシミュレーションのうち少なくとも1つを用いて作成されたデータであり、前記溶接パラメータは、溶接材料8を用いて母材2を溶接する方法のパラメータであり、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、母材2の材質、母材2の形状、溶接材料8の材質、溶接材料8の形状、溶接パス6のパス割り、溶接パス6の溶接順序のうち少なくとも1つを含む。
また、本実施形態は、本実施形態の算出方法を用いて算出した溶接パラメータを用いて母材2を溶接する溶接方法も提供する。
さらに、本実施形態は本実施形態の算出方法をコンピューターに実行させるためのプログラムも提供する。
前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークである。
ニューラルネットワークとは、人間の情報処理システムの中枢である脳神経系を模擬した、並列・分散・学習的な情報処理を行う数理的モデルである。層状に並べたユニットが,隣接層間でのみ結合した構造を持ち、情報が入力側から出力側へのみ伝播する。1つのユニットは、複数の入力チャンネルと1つの出力チャンネルを持ち、各チャンネルに割り当てられた重みを使って、全入力データの重み付き和が計算された後,活性化関数を介して出力チャンネルに送られる。図1に本実施形態で採用した多入力・一出力のユニットを示す。また、入力と出力との関係を以下に示す。
応力関数fとしては以下のシグモイド関数を採用している。
入力ユニットは線形の入出力関係をもつものとし、入力データは[0,1]に正規化する。
ニューラルネットワークの学習には、逆誤差伝播法を用いる。逆誤差伝播法とは、誤差関数に基づき出力層から入力層の方向に向かって誤差関数の重み微分値を順次計算し、誤差関数が最小となるように重みを更新していく方法である。本手法では,重みの更新は勾配法を用いて行う。次式のように誤差関数Eの重みに関する勾配を計算し、それを古い重みから差し引くことで重みを更新する。
このように出力層から入力層の方向に向かって順次重みを更新していく。ニューラルネットワーク全体の重みの更新が終了後、再度出力層での誤差を計算し出力層から入力層の方向に向かって順次重みを更新していく。このような反復計算を行うことによって、誤差関数が最小となるような重みになるよう調節し、入力と出力との関係を関数(非線形の他変数関数)で表すことができる。このような関数を用いることにより、単純な行列計算を用いて残留応力などを算出することができるため、高速な計算が可能になる。
本実施形態では、第1フェーズにおいて教師データを作成し、第2フェーズでその教師データをニューラルネットワークに学習させる。その後第3フェーズで学習済みニューラルネットワークを利用する。本実施形態の算出方法は、少なくとも第3フェーズを含む。
第1フェーズにおける教師データは、実験及びシミュレーションのうち少なくとも1つを用いて作成される。教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力とのペアであり、このペアを溶接パラメータを変えて複数作成する。
例えば、教師データは、理想化陽解法FEM、JWRIAN、ASU/WELD-Master、Abaqus、MSC. Marcなどの構造解析ソフトを用いてシミュレーションを行い作成することができる。シミュレーションでは、少なくとも1つの溶接パラメータを変化させることができる解析モデルを作成し、様々な値の溶接パラメータを有する解析モデルについて残留応力を算出することができる。このことにより、溶接パラメータ及び解析モデルを入力とし残留応力を出力とする教師データを作成することができる。また、解析モデルに対応する溶接条件において溶接を行い、溶接部についてのX線回折により残留応力分布を調べ教師データを作成することもできる。また、X線回折とシミュレーションの両方を用いて教師データを作成してもよい。
例えば、図2に示したような学習済みのニューラルネットワークに溶接パラメータ、解析モデルなどを含むx1~xIを入力し、残留応力を含むZ1~ZJを出力することにより、残留応力を算出することができる。
例えば、図3に示したような学習済みのニューラルネットワークに残留応力を含むZ1~ZJを入力し、溶接パラメータを含むx1~xIを出力することにより、溶接パラメータを算出することができる。
溶接方法は、例えば、アーク溶接又はレーザービーム溶接である。また、母材2の溶接方法は、開先溶接であってもよく、すみ肉溶接であってもよい。
溶接パラメータは、例えば母材2の材質、母材2の形状、又は溶接する2つの母材の位置関係である。母材2は被溶接材料であり、例えば、金属板、金属管などの金属材料である。例えば、溶接方法が溶接継手である場合、母材2aと母材2bとが溶接される。
溶接パラメータに母材2の形状を設定する場合、例えば、母材2の板厚、外径、開先10の形状、すみ肉溶接する角部の形状などのうち少なくとも1つを溶接パラメータとして変化させて教師データを作成し、ニューラルネットワークを学習させることができる。例えば、図5、6に示したような母材2の形状(厚さ、長さなど)、母材2a、2bの位置関係、開先10の形状などのうち少なくとも1つを溶接パラメータに設定することができる。
図5に示したようにアーク溶接をする場合、電源装置により母材2と溶接トーチ7との間に印加する電圧、母材2と溶接トーチ7との間に流れる溶接電流、母材2に対して溶接トーチ7が動く溶接速度のうち少なくとも1つを溶接パラメータに設定することができる。
また、入熱量は、溶接部に外部から与えられる熱量Hであり、アーク溶接の場合、入熱量は、式:H(J/cm)=60EI/v(I:溶接電流(A)、E:アーク電圧(V)、v:溶接速度(cm/min))で表される。
例えば、図6では、溶接パス6a~6fの6つの溶接パス6を4層に積層させている。このような溶接パス6のパス割りや溶接順序を溶接パラメータに設定することができる。この場合、本実施形態の算出方法により、パス割りや溶接順序を変化させたときの残留応力分布を予想することができる。また、逆問題解析により、望ましい残留応力分布が形成されるパス割りや溶接順序を予想することが可能である。
本計算で用いたニューラルネットワークは、人間の情報処理システムの中枢である脳神経系を模擬した、並列・分散・学習的な情報処理を行う数理的モデルである。例えば、図2、3に示したように、層状に並べたユニットが、隣接層間でのみ結合した構造を持ち、情報が入力側から出力側へのみ伝播する。
正規化残留応力とは、700MPaをσ’=1.0とし、-700MPaをσ’=0.0となるように残留応力を線形変換したものである。
次に、FEM熱弾塑性解析によって得た教師データは,次式にしたがって[0,1]に正規化を行った。ここで、Qは入熱量であり、yは残留応力評価ラインにおける溶接線からの距離(座標)であり、σは残留応力である。
次に、学習させたニューラルネットワークに、学習させていない溶接パラメータである入熱量Q=800J/mmと距離yを入力し、残留応力σを出力させ、残留応力分布を作成した。作成した残留応力分布を図9に示す。また、図9には、入熱量Qを800J/mmとしてFEM熱弾塑性解析により作成した残留応力分布も示す。図9に示した結果から、教師データを学習させていない条件(入熱量Q=800J/mm)でニューラルネットワークを用いて作成した残留応力分布と、FEM熱弾塑性解析により作成した残留応力分布(入熱量Q=800J/mm)とがほぼ同じになることがわかった。従って、多数の教師データをニューラルネットワークに学習させることにより、学習させていない条件の残留応力分布を予測することができることがわかった。
図13に金属管の外径を136.2mmとした場合の残留応力分布(教師データ)を示し、図14に金属管の外径を318.5mmとした場合の残留応力分布(教師データ)を示し、図15に金属管の外径を475.2mmとした場合の残留応力分布(教師データ)を示す。図13~15から、金属管の内側表面において正規化残留応力が大きくなっており、引張りの残留応力が生じていることがわかった。また、この引張りの残留応力は、金属管の外径が大きいほど小さくなることがわかった。
次に、学習させたニューラルネットワークに、学習させていない溶接パラメータである金属管の外径=609.6mm(600A)を入力し、残留応力σを出力させ、残留応力分布を作成した。作成した残留応力分布を図16に示す。図16では、金属管の内側表面における正規化残留応力が大きくなって領域がなくなっており、教師データに比べ引張りの残留応力が小さくなっていることがわかった。このことから、図16の残留応力分布は、教師データにおける外径の変化に対する残留応力分布の変化の傾向と同様の傾向を示すものであることがわかった。従って、多数の教師データをニューラルネットワークに学習させることにより、学習させていない条件の残留応力分布を予測することができることがわかった。
Claims (4)
- 学習済みのニューラルネットワークを用いて溶接パラメータを含む入力から残留応力を含む出力を算出するステップを含み、
前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、
前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであり、かつ、シミュレーションを用いて作成されたデータであり、
前記溶接パラメータは、溶接材料を用いて母材を溶接する方法のパラメータであり、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、前記母材の材質、前記母材の形状、前記溶接材料の材質、前記溶接材料の形状、溶接パスのパス割り、溶接パスの溶接順序のうち少なくとも1つを含む残留応力予測方法。 - 前記母材を溶接する方法は、多層溶接であり、
前記溶接パラメータは、積層された溶接パスのパス割り、積層された溶接パスの溶接順序、各溶接パスの入熱量、各溶接パスの溶接速度、各溶接パスの溶接電流、各溶接パスの印加電圧、パス間温度のうち少なくとも1つを含む請求項1に記載の残留応力予測方法。 - 学習済みのニューラルネットワークを用いて溶接パラメータを含む入力から残留応力分布を含む出力を算出するステップを含み、
前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、
前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と、残留応力分布を含む出力との複数のペアであり、かつ、シミュレーションを用いて作成されたデータであり、
前記溶接パラメータは、溶接材料を用いて母材を溶接する方法のパラメータであり、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、前記母材の材質、前記母材の形状、前記溶接材料の材質、前記溶接材料の形状、溶接パスのパス割り、溶接パスの溶接順序のうち少なくとも1つを含む残留応力予測方法。 - コンピューターに学習済みのニューラルネットワークを用いて溶接パラメータを含む入力から残留応力を含む出力を算出するステップを実行させるためのプログラムであって、
前記学習済みのニューラルネットワークは、教師データに対して正しい入力・出力関係が構成されるようにネットワークの重みを調整することにより学習させたニューラルネットワークであり、
前記教師データは、溶接パラメータを含む入力と残留応力を含む出力との複数のペアであり、かつ、シミュレーションを用いて作成されたデータであり、
前記溶接パラメータは、溶接材料を用いて母材を溶接する方法のパラメータであり、前記母材の材質、前記母材の形状、入熱量、溶接速度、溶接電流、印加電圧、前記溶接材料の材質、前記溶接材料の形状、複数の溶接パスの配置、複数の溶接パスの溶接順序のうち少なくとも1つを含むプログラム。
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