JP7146683B2 - 転がり軸受の異常診断方法及び異常診断装置、異常診断プログラム - Google Patents
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Description
例えば特許文献1では、振動加速度を測定してエンベロープ処理および周波数分析等を行った波形を、所定の関係式に基づいて算出した内輪、外輪、転動体などの特徴周波数とともに表示し、特徴周波数に対応する振動ピークがあるか否かを判断できるようにすることで、転がり軸受の損傷部位(内輪、外輪、転動体など)を特定する手法が示されている。
特許文献2では、振動を測定してエンベロープ処理および周波数分析し、所定の関係式に基づいて算出した内輪、外輪、転動体のそれぞれの特徴周波数の値を抽出して、損傷部位(内輪、外輪、転動体)でそれぞれ異なるしきい値を用いて診断する手法が示されている。
前記回転体の振動を複数回測定する振動測定ステップと、
前記振動を周波数分析して周波数ごとの振動の大きさをそれぞれ求め、前記振動の周波数を回転周波数で除算して得られる無次元量を比周波数として、各回の測定で得られた前記振動の大きさを共通の前記比周波数ごとに算出し、前記比周波数ごとの振動の大きさについて係数が全て同符号の線型和を算出し、算出した値に基づいて回転同期成分強調波形を決定する回転同期成分強調波形算出ステップと、
前記回転同期成分強調波形の振動ピーク位置の規則性に基づいて、前記転がり軸受において力の発生する方向が変化する周波数である振動源回転周波数と前記回転周波数との比である比振動源回転周波数を推定し、前記比振動源回転周波数の値が1の場合には、前記転がり軸受の内輪損傷と判断し、前記比振動源回転周波数の値が前記転がり軸受の転動体の公転周波数を前記回転周波数で除算した値のとり得る範囲である場合には、前記転動体の損傷と判断し、前記比振動源回転周波数の値が0の場合には、前記転がり軸受の外輪損傷と判断する軸受損傷種類判別ステップと、を実行することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記比振動源回転周波数の推定は、前記回転同期成分強調波形において、前記転がり軸受の損傷に対応する比基本周波数と前記比振動源回転周波数とを仮定して算出される特定の比周波数に振動ピークが存在する割合である一致率を算出し、前記一致率が所定のしきい値を超過する場合には、仮定した前記比基本周波数と仮定した前記比振動源回転周波数とにより表現される規則性が前記回転同期成分強調波形にあると判断し、仮定した前記比振動源回転周波数を採用することを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1の構成において、前記比振動源回転周波数の推定は、前記回転同期成分強調波形において、ピーク対を構成する2つの振動ピークの間隔をピーク間距離とし、前記ピーク間距離が等しい2組のピーク対について算出したそれぞれのピーク対を構成する2つの前記振動ピークの前記比周波数の平均の比が自然数比の場合に、前記ピーク間距離の2分の1を前記比振動源回転周波数とする、又はある2つの振動ピークの前記比周波数の比が自然数比である場合に、前記比振動源回転周波数を0とすることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3の何れかの構成において、前記軸受損傷種類判別ステップは、前記転がり軸受の損傷に対応する比基本周波数と前記比振動源回転周波数とを推定する処理を含むものであり、前記転がり軸受の損傷の種類が判別された前記比基本周波数と前記比振動源回転周波数との組を用いて、判別された損傷の程度をさらに診断することを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、回転体を支持する転がり軸受の異常を診断する方法であって、
前記回転体の振動を複数回測定する振動測定ステップと、
前記振動を周波数分析して周波数ごとの振動の大きさをそれぞれ求め、前記振動の周波数を回転周波数で除算して得られる無次元量を比周波数として、各回の測定で得られた前記振動の大きさを共通の前記比周波数ごとに算出し、前記比周波数ごとの振動の大きさについて係数が全て同符号の線型和を算出し、算出した値に基づいて回転同期成分強調波形を決定する回転同期成分強調波形算出ステップと、
前記回転同期成分強調波形を入力とし、内輪傷の有無、転動体傷の有無、外輪傷の有無の少なくともひとつを出力とする教師データを用いて学習した機械学習モデルを用い、前記回転同期成分強調波形を入力して前記転がり軸受の損傷の種類を判別する軸受損傷種類判別ステップと、を実行することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の何れかの構成において、前記振動測定ステップでは、異なる複数の回転周波数で振動を測定することを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6の何れかの構成において、前記回転同期成分強調波形算出ステップでは、各回の測定で得られた前記振動の大きさを共通の前記比周波数ごとに算出する際に、ある比周波数の振動の大きさとして、その比周波数の前後に所定の幅を持たせて当該幅内の振動の大きさの最大値を採用することを特徴とする。
前記回転体の振動を複数回測定する振動測定手段と、
前記振動を周波数分析して周波数ごとの振動の大きさをそれぞれ求め、前記振動の周波数を回転周波数で除算して得られる無次元量を比周波数として、各回の測定で得られた前記振動の大きさを共通の前記比周波数ごとに算出し、前記比周波数ごとの振動の大きさについて係数が全て同符号の線型和を算出し、算出した値に基づいて回転同期成分強調波形を決定する回転同期成分強調波形算出手段と、
前記回転同期成分強調波形の振動ピーク位置の規則性に基づいて、前記転がり軸受において力の発生する方向が変化する周波数である振動源回転周波数と前記回転周波数との比である比振動源回転周波数を推定し、前記比振動源回転周波数の値が1の場合には、前記転がり軸受の内輪損傷と判断し、前記比振動源回転周波数の値が前記転がり軸受の転動体の公転周波数を前記回転周波数で除算した値のとり得る範囲である場合には、前記転動体の損傷と判断し、前記比振動源回転周波数の値が0の場合には、前記転がり軸受の外輪損傷と判断する軸受損傷種類判別手段と、を備えることを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、請求項8の構成において、前記軸受損傷種類判別手段は、前記比振動源回転周波数の推定に当たり、前記回転同期成分強調波形において、前記転がり軸受の損傷に対応する比基本周波数と前記比振動源回転周波数とを仮定して算出される特定の比周波数に振動ピークが存在する割合である一致率を算出し、前記一致率が所定のしきい値を超過する場合には、仮定した前記比基本周波数と仮定した前記比振動源回転周波数とにより表現される規則性が前記回転同期成分強調波形にあると判断し、仮定した前記比振動源回転周波数を採用することを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、請求項8の構成において、前記軸受損傷種類判別手段は、前記比振動源回転周波数の推定に当たり、前記回転同期成分強調波形において、ピーク対を構成する2つの振動ピークの間隔をピーク間距離とし、前記ピーク間距離が等しい2組のピーク対について算出したそれぞれのピーク対を構成する2つの前記振動ピークの前記比周波数の平均の比が自然数比の場合に、前記ピーク間距離の2分の1を前記比振動源回転周波数とする、又はある2つの振動ピークの前記比周波数の比が自然数比である場合に、前記比振動源回転周波数を0とすることを特徴とする。
請求項11に記載の発明は、請求項8乃至10の何れかの構成において、前記軸受損傷種類判別手段は、前記転がり軸受の損傷に対応する比基本周波数と前記比振動源回転周波数とを推定すると共に、前記転がり軸受の損傷の種類が判別された前記比基本周波数と前記比振動源回転周波数との組を用いて、判別された損傷の程度をさらに診断することを特徴とする。
請求項12に記載の発明は、請求項8乃至11の何れかの構成において、前記軸受損傷種類判別手段は、前記転がり軸受の損傷に対応する比基本周波数と、前記比振動源回転周波数と、前記比基本周波数と前記比振動源回転周波数とから算出される特定の比周波数とを用いて前記転がり軸受の損傷の種類ごとの前記振動ピーク位置の存在を確認するものであり、前記比基本周波数と前記比振動源回転周波数とを合わせて表示する表示手段を備えることを特徴とする。
請求項13に記載の発明は、請求項8乃至11の何れかの構成において、前記軸受損傷種類判別手段は、前記転がり軸受の損傷に対応する比基本周波数と、前記比振動源回転周波数と、前記比基本周波数と前記比振動源回転周波数とから算出される特定の比周波数とを用いて前記転がり軸受の損傷の種類ごとの前記振動ピーク位置の存在を確認するものであり、前記特定の比周波数の位置と前記回転同期成分強調波形とを合わせて表示する表示手段を備えることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項14に記載の発明は、転がり軸受の異常診断プログラムであって、
所定の回転周波数で測定された回転体の振動が前記回転周波数と共に入力されたコンピュータに、請求項1乃至7の何れかに記載の転がり軸受の異常診断方法における回転同期成分強調波形算出ステップと軸受損傷種類判別ステップとを実行させることを特徴とする。
特に、請求項4及び11の発明によれば、上記効果に加えて、軸受諸元の値を必要とすることなく特徴周波数の値が算出できるため、従来特徴周波数の値を算出するために軸受諸元の値が必要であった診断手法が実行可能となる。よって、軸受異常の種類だけでなく異常の程度も精度よく求めることができる。
特に、請求項5の発明によれば、上記効果に加えて、軸受損傷種類判別ステップでは、回転同期成分強調波形を入力とし、内輪傷の有無、転動体傷の有無、外輪傷の有無の少なくともひとつを出力とする教師データを用いて学習した機械学習モデルを用い、回転同期成分強調波形を入力して転がり軸受の損傷の種類を判別するので、人間が考える処理よりも汎用的に振動ピークの規則性から軸受異常の種類を判断することが可能となる。
特に、請求項6の発明によれば、上記効果に加えて、回転同期成分強調波形算出ステップでは、異なる複数の回転周波数で測定された振動から回転同期成分強調波形を算出するので、さらに外乱の影響が低減されて、振動ピークの規則性を捉え易くなるため、軸受異常の推定精度が向上する。
特に、請求項7の発明によれば、上記効果に加えて、振動ピークの比周波数がばらついても確実に軸受損傷に起因する振動ピークを強調した回転同期成分強調波形を算出することが可能となる。
特に、請求項12の発明によれば、上記効果に加えて、比基本周波数と比振動源回転周波数とを合わせて表示する表示手段を備えることで、数字として表示される周波数の値を用いて他の軸受診断処理を行うことが可能となる。
特に、請求項13の発明によれば、上記効果に加えて、特定の比周波数の位置と回転同期成分強調波形とを合わせて表示する表示手段を備えることで、振動ピークの規則性を正しく抽出できているか否かを視覚的に把握できるため、診断結果の妥当性を容易に検証できる。また、各損傷の種類において着目すべき比周波数がわかりやすくなる。
図1は転がり軸受の異常診断装置を工作機械の主軸に対して取り付けて使用する場合の構成を示した機能ブロック図で、この図に基づいて具体的に説明する。
工作機械100において、主軸1が転がり軸受である軸受7を介して主軸ハウジング2に対して回転可能に取り付けられており、主軸1には加工を行うための工具3が固定されている。モータ4は主軸1を駆動する。モータ4には速度検出器5が設けられて、測定されたモータ4の回転周波数が制御装置6に入力されるようになっている。制御装置6は、速度検出器5で測定されたモータ4の回転周波数を測定者によって制御装置6に入力された指令回転周波数に保つようにモータ4へ供給する電流の制御を行っている。表示部8には、速度検出器5で測定されたモータ4の現在の回転周波数が表示される。
表示手段としての表示・操作部13は、測定者が制御装置6へ入力すべき指令回転周波数や診断結果を表示するとともに、表示部8に表示されたモータ4の現在の回転周波数が表示・操作部13に表示された値と一致したか否かを測定者が判断した結果を入力する操作が可能となっている。振動センサ9で測定される振動加速度は、A/D変換部10でデジタル値に変換される。記憶部11は、表示部8に表示されたモータ4の現在の回転周波数が表示・操作部13に表示された値と一致したと測定者が判断したときから既定のデータ長となるときまでの振動加速度のデジタル値を振動測定時の回転周波数とともに記憶する。
軸受7において、転動体傷が存在する場合、転動体傷が内輪または外輪に接する周波数(基本周波数)とその自然数倍の周波数の力が発生する。傷のある転動体の位置は転動体の保持器が自転する(転動体が公転する)周波数で変化するため、力の発生する方向は転動体の保持器が自転する(転動体が公転する)周波数で変化する。保持器の自転(転動体の公転)は、主軸の回転よりも必ず遅くなるので、力の発生する方向が変化する周波数は0Hzより大きく回転周波数より小さい値となる。
軸受7において、外輪傷が存在する場合、転動体が外輪傷を通過する周波数(基本周波数)とその自然数倍の周波数の力が発生する。外輪傷の方向は主軸1の回転に依らず一定であるため、力の発生する方向は変化しない。
ここでは力の発生する方向が変化する周波数を振動源回転周波数と呼称する。力の発生する方向の変化しない場合は、振動源回転周波数が便宜上0Hzであるとみなしてよい。
外輪損傷があると、図2に示すように、比周波数の比が自然数比となるような振動ピークが複数箇所に存在する。軸受の比基本周波数は自然数とならないように設計されることが一般的であるため、さらにそれらの振動ピークの比周波数のいくつかが自然数でなければ、比基本周波数が自然数でないと推測できるため、外輪損傷による振動ピークであると確信することができる。なお、外輪損傷の場合、対でない1本の振動ピークが等間隔に存在するだけであるが、便宜上、比振動源回転周波数0だけ離れた2本の振動ピーク(ピーク対)が存在するとみなすことで他の種類の異常と同じ計算処理を用いることができる。
転動体損傷があると、図3に示すように、同一の比振動源回転周波数の2倍だけ離れた2本の振動ピーク(ピーク対)が複数箇所に存在する。さらに、それぞれのピーク対の平均の比周波数は必ず比基本周波数の自然数倍となるため、比基本周波数が未知であっても、ピーク対の平均の比周波数が自然数比となっていることを確認することで転動体損傷による振動ピークであると確信することができる。なお、比振動源回転周波数の値は必ず1より小さい値となるため、内輪損傷との識別が可能である。
また、回転同期成分強調波形の振動ピーク位置の規則性(回転同期成分強調波形の比基本周波数×自然数±比振動源回転周波数の位置に振動ピークが存在する)を捉える方法として、ここではピーク対の平均(外輪の場合はピーク)の比周波数が自然数比となっていることを確認する手法を例に挙げたが他の手法であっても構わない。
まず、予め登録されている診断回転周波数の全条件のうちの1つが表示・操作部13に図7のように表示される(S1)。
次に、診断装置の使用者は、表示された診断回転周波数を制御装置6へ指令する(S2)。
次に、診断装置の使用者は、表示部8を確認して、診断対象の軸受に支持された回転体が表示・操作部13に表示された回転周波数で回転しているかを判断し、一致している場合には表示・操作部13より測定開始を指令する(S3)。
すると、異常診断装置200では、振動加速度を測定して記録し(S4)、必要なデータ長となったら測定完了と判断してS6へ移行する(S5)。S6では、振動測定時の回転周波数と振動加速度とを対応付けて記録する。
S7で、予め登録されている診断回転周波数の全条件の測定が完了しているかを判断し、全条件の測定が完了していればS8へ移行する。完了してない場合にはS1に戻り、測定が完了していない別の診断回転周波数を表示する。ここでのS4~S7までが振動測定ステップとなる。
S11では、一致率が既定のしきい値以上である比基本周波数と比振動源回転周波数について、比振動源回転周波数の値に応じて軸受異常の種類(内輪損傷、転動体損傷、外輪損傷)を判断する。
さらに、S12では、S11で軸受異常の種類が特定された比基本周波数と比振動源回転周波数の組と診断回転周波数とから、基本周波数と特徴周波数の値を算出し、損傷の程度(修理が必要なレベルか否か)を診断する。例えば先の特許文献2に開示されているように、算出した基本周波数及び特徴周波数を、各周波数ごとに予め設定したしきい値と比較すれば、損傷の程度を診断することができる。ここでのS9~S12までが軸受損傷種類判別ステップとなる。
そして、S13では、図8に示すような診断結果を表示・操作部13に表示する。ここでは比振動源回転周波数が外輪に対応する0、内輪に対応する1の場合に一致率が高く算出され損傷していると判断されたが、S12の診断では異常(修理が必要)と判定するしきい値を超過しなかったため、損傷の程度では「正常範囲」と表示され、「外輪と内輪が損傷していますが、修理が必要な水準ではありません」との文字も表示される。
S1~S8までは図4の方法と同じである。まず、予め登録されている診断回転周波数の全条件のうちの1つが表示・操作部13に図7のように表示される(S1)。診断装置の使用者は、表示された診断回転周波数を制御装置6へ指令する(S2)。診断装置の使用者は、表示部8を確認して、診断対象の軸受に支持された回転体が表示・操作部13に表示された回転周波数で回転しているかを判断し、一致している場合には表示・操作部13より測定開始を指令する(S3)。振動加速度を測定して記録し(S4)、必要なデータ長となったら測定完了と判断してS6へ移行する(S5)。振動測定時の回転周波数と振動加速度を対応付けて記録する(S6)。予め登録されている診断回転周波数の全条件の測定が完了しているかを判断し、全条件の測定が完了していればS8へ移行する。完了してない場合にはS1に戻り、測定が完了していない別の診断回転周波数を表示する。
S8では、まず振動加速度をフーリエ変換し振幅スペクトル密度を算出する。予め決めておいた全条件の測定に対して共通の比周波数分解能となるように振幅スペクトル密度の絶対値について補間処理を行い比周波数毎の振動の大きさを算出する。それぞれの診断回転周波数の振動の大きさについて係数が全て正の線型和を算出することで回転同期成分強調波形を算出する(回転同期成分強調波形算出ステップ)。
次に、S110では、選択された4つの振動ピークの比周波数F1、F2、F3、F4と、公約数を持たない異なる自然数N1、N2との組み合わせが以下の数6および数7の関係式を満たすか否かを判断する。なお、F1、F2、F3、F4には同一の比周波数が選ばれても良い(F1とF2、F3とF4がそれぞれ同一の比周波数のときに外輪損傷の振動ピークを検出できる)。
S111では、まず数6および数7の関係式を満たす振動ピークの比周波数の組み合わせについて、以下の数8、数9より比基本周波数R0、比振動源回転周波数R1を算出する。
ここでは軸受異常が既知の軸受について後述する方法で算出される回転同期成分強調波形を入力とし、内輪損傷がある(1)か否か(0)、転動体損傷がある(1)か否か(0)、外輪損傷がある(1)か否か(0)、を出力とする教師データを用いて外部の学習器(図1に図示しない)において、予め機械学習させておき、学習済み数理モデルを図1の演算部12に備えている。数理モデルの形態としては、例えば、多層ニューラルネットワークなどを用いることができる。軸受異常が既知の軸受について評価用データ(回転同期成分強調波形)の値を入力した場合の出力の分布より、内輪、転動体、外輪が異常か否かを判断するしきい値を予め決定しておき、演算部12に備えている。
S8では、まず振動加速度をフーリエ変換し振幅スペクトル密度を算出する。予め決めておいた全条件の測定に対して共通の比周波数分解能となるように振幅スペクトル密度の絶対値について補間処理を行い比周波数毎の振動の大きさを算出する。それぞれの診断回転周波数の振動の大きさについて係数が全て正の線型和を算出することで回転同期成分強調波形を算出する(回転同期成分強調波形算出ステップ)。
S209で、それぞれの出力値の値が予め設定されたしきい値を超過していれば異常と判断し、S210で、図10に示すような診断結果を表示・操作部13に表示する。図10には、学習済み数理モデルに入力する回転同期成分強調波形がグラフとして、学習済み数理モデルからの出力値、異常か否かを判断するしきい値、異常か否かを判断した判定結果が表示されている。
さらに、比基本周波数と比振動源回転周波数を推定する処理の場合、基本周波数や特徴周波数の算出が行える。このため、基本周波数や特徴周波数を算出するために軸受諸元を利用する必要があった従来の診断技術(例えば特許文献2)を採用して損傷レベルの診断をさらに行うことも可能となる。ある回転周波数における基本周波数が必要な場合は、比基本周波数の値に回転周波数を乗算することで算出することが可能である。ある回転周波数における、転動体の保持器が自転する(転動体が公転する)周波数が必要な場合には、転動体損傷と判断された比基本周波数と比振動源回転周波数の組み合わせの比振動源回転周波数の値に回転周波数を乗算することで算出することが可能である。この損傷レベルの診断処理は、図5の異常診断方法においても採用できる。
そして、異常診断装置200では、軸受損傷に対応する比基本周波数と比振動源回転周波数とを合わせて表示・操作部13に表示するので、数字として表示される周波数の値を用いて異常診断装置200とは別の異常診断装置による軸受診断処理を行うことが可能となる。
さらにここでは、特定の比周波数の位置と回転同期成分強調波形とを合わせて表示・操作部13に表示するので、振動ピークの規則性を正しく抽出できているか否かを視覚的に把握できるため、診断結果の妥当性を容易に検証できる。また、各損傷の種類において着目すべき比周波数がわかりやすくなる。
また、表示・操作部13に表示された診断回転周波数に診断対象の軸受の回転周波数を合わせることで、振動加速度と回転周波数を対応付けて記憶する方法を示したが、診断対象の軸受の回転周波数を表示・操作部13より診断装置の使用者が入力する方法や、異常診断装置200が速度検出器5の情報を直接取り込めるようにする方法でもよい。
さらに、回転周波数(単位はHzを用いることが多い)と回転速度(工作機械主軸では、単位min-1が用いられることが多い)は、1Hz=60min-1の関係がある同一の量であり、どちらを用いてもよい。
工作機械主軸に用いられる軸受の場合、転動体異常の場合の比振動源回転周波数は0.45前後であるため、仮定する比振動源回転周波数は0、0.4以上0.5以下、1とするなどさらに限定して探索を行ってもよい。
また、軸受損傷種類判別ステップで用いる回転同期成分強調波形の比周波数の範囲は、算出可能な全ての比周波数の範囲とする必要はなく、軸受損傷に起因する振動ピークの規則性を捉え易い範囲にすることが望ましい。
さらに、機械学習を用いて転がり軸受の異常診断を行う方法の教師データの出力として、0と1の2値を与える手法を示したが、損傷度合いを定量的に表現する連続的な値を教師データとすることも可能である。
加えて、比周波数、比基本周波数、比振動源回転周波数、これらの値と比較される値、の全てに同一の値を乗算しても、全く同じ議論が成立する。つまり、例えば比振動源回転周波数が1と一致するか否かを判断することは、比振動源回転周波数×30Hzが1×30Hzと一致するか否かを判断することと同義である。
また、比周波数ごとの振動の大きさについて係数が全て同符号の線型和を算出した値に対して、定数を加算・減算・乗算・除算したり、比周波数の変化に対して単調増加又は減少する値を加算・減算したり、比周波数の変化に対して単調増加又は減少する値でさらに全て同符号である値を乗算・除算したりしても差し支えない。すなわち、振動ピーク位置を変化させない処理であれば本発明に包含できる。
また、異常診断装置を複数の工作機械と有線或いは無線で通信可能とし、工作機械側で振動を測定してデータを取得しつつ、異常診断プログラムに基づいて異常診断方法を工作機械毎に実行するようにしてもよい。さらに、振動の測定から異常診断までを連続して行う場合に限らず、振動の測定データを記憶部に保存しておき、所定のタイミングで異常診断プログラムによる異常診断を行うようにしても差し支えない。
Claims (14)
- 回転体を支持する転がり軸受の異常を診断する方法であって、
前記回転体の振動を複数回測定する振動測定ステップと、
前記振動を周波数分析して周波数ごとの振動の大きさをそれぞれ求め、前記振動の周波数を回転周波数で除算して得られる無次元量を比周波数として、各回の測定で得られた前記振動の大きさを共通の前記比周波数ごとに算出し、前記比周波数ごとの振動の大きさについて係数が全て同符号の線型和を算出し、算出した値に基づいて回転同期成分強調波形を決定する回転同期成分強調波形算出ステップと、
前記回転同期成分強調波形の振動ピーク位置の規則性に基づいて、前記転がり軸受において力の発生する方向が変化する周波数である振動源回転周波数と前記回転周波数との比である比振動源回転周波数を推定し、前記比振動源回転周波数の値が1の場合には、前記転がり軸受の内輪損傷と判断し、前記比振動源回転周波数の値が前記転がり軸受の転動体の公転周波数を前記回転周波数で除算した値のとり得る範囲である場合には、前記転動体の損傷と判断し、前記比振動源回転周波数の値が0の場合には、前記転がり軸受の外輪損傷と判断する軸受損傷種類判別ステップと、
を実行することを特徴とする転がり軸受の異常診断方法。 - 前記比振動源回転周波数の推定は、前記回転同期成分強調波形において、前記転がり軸受の損傷に対応する比基本周波数と前記比振動源回転周波数とを仮定して算出される特定の比周波数に振動ピークが存在する割合である一致率を算出し、前記一致率が所定のしきい値を超過する場合には、仮定した前記比基本周波数と仮定した前記比振動源回転周波数とにより表現される規則性が前記回転同期成分強調波形にあると判断し、仮定した前記比振動源回転周波数を採用することを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受の異常診断方法。
- 前記比振動源回転周波数の推定は、前記回転同期成分強調波形において、ピーク対を構成する2つの振動ピークの間隔をピーク間距離とし、前記ピーク間距離が等しい2組のピーク対について算出したそれぞれのピーク対を構成する2つの前記振動ピークの前記比周波数の平均の比が自然数比の場合に、前記ピーク間距離の2分の1を前記比振動源回転周波数とする、又はある2つの振動ピークの前記比周波数の比が自然数比である場合に、前記比振動源回転周波数を0とすることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受の異常診断方法。
- 前記軸受損傷種類判別ステップは、前記転がり軸受の損傷に対応する比基本周波数と前記比振動源回転周波数とを推定する処理を含むものであり、前記転がり軸受の損傷の種類が判別された前記比基本周波数と前記比振動源回転周波数との組を用いて、判別された損傷の程度をさらに診断することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の転がり軸受の異常診断方法。
- 回転体を支持する転がり軸受の異常を診断する方法であって、
前記回転体の振動を複数回測定する振動測定ステップと、
前記振動を周波数分析して周波数ごとの振動の大きさをそれぞれ求め、前記振動の周波数を回転周波数で除算して得られる無次元量を比周波数として、各回の測定で得られた前記振動の大きさを共通の前記比周波数ごとに算出し、前記比周波数ごとの振動の大きさについて係数が全て同符号の線型和を算出し、算出した値に基づいて回転同期成分強調波形を決定する回転同期成分強調波形算出ステップと、
前記回転同期成分強調波形を入力とし、内輪傷の有無、転動体傷の有無、外輪傷の有無の少なくともひとつを出力とする教師データを用いて学習した機械学習モデルを用い、前記回転同期成分強調波形を入力して前記転がり軸受の損傷の種類を判別する軸受損傷種類判別ステップと、
を実行することを特徴とする転がり軸受の異常診断方法。 - 前記振動測定ステップでは、異なる複数の回転周波数で振動を測定することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の転がり軸受の異常診断方法。
- 前記回転同期成分強調波形算出ステップでは、各回の測定で得られた前記振動の大きさを共通の前記比周波数ごとに算出する際に、ある比周波数の振動の大きさとして、その比周波数の前後に所定の幅を持たせて当該幅内の振動の大きさの最大値を採用することを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の転がり軸受の異常診断方法。
- 回転体を支持する転がり軸受の異常を診断する装置であって、
前記回転体の振動を複数回測定する振動測定手段と、
前記振動を周波数分析して周波数ごとの振動の大きさをそれぞれ求め、前記振動の周波数を回転周波数で除算して得られる無次元量を比周波数として、各回の測定で得られた前記振動の大きさを共通の前記比周波数ごとに算出し、前記比周波数ごとの振動の大きさについて係数が全て同符号の線型和を算出し、算出した値に基づいて回転同期成分強調波形を決定する回転同期成分強調波形算出手段と、
前記回転同期成分強調波形の振動ピーク位置の規則性に基づいて、前記転がり軸受において力の発生する方向が変化する周波数である振動源回転周波数と前記回転周波数との比である比振動源回転周波数を推定し、前記比振動源回転周波数の値が1の場合には、前記転がり軸受の内輪損傷と判断し、前記比振動源回転周波数の値が前記転がり軸受の転動体の公転周波数を前記回転周波数で除算した値のとり得る範囲である場合には、前記転動体の損傷と判断し、前記比振動源回転周波数の値が0の場合には、前記転がり軸受の外輪損傷と判断する軸受損傷種類判別手段と、
を備えることを特徴とする転がり軸受の異常診断装置。 - 前記軸受損傷種類判別手段は、前記比振動源回転周波数の推定に当たり、前記回転同期成分強調波形において、前記転がり軸受の損傷に対応する比基本周波数と前記比振動源回転周波数とを仮定して算出される特定の比周波数に振動ピークが存在する割合である一致率を算出し、前記一致率が所定のしきい値を超過する場合には、仮定した前記比基本周波数と仮定した前記比振動源回転周波数とにより表現される規則性が前記回転同期成分強調波形にあると判断し、仮定した前記比振動源回転周波数を採用することを特徴とする請求項8に記載の転がり軸受の異常診断装置。
- 前記軸受損傷種類判別手段は、前記比振動源回転周波数の推定に当たり、前記回転同期成分強調波形において、ピーク対を構成する2つの振動ピークの間隔をピーク間距離とし、前記ピーク間距離が等しい2組のピーク対について算出したそれぞれのピーク対を構成する2つの前記振動ピークの前記比周波数の平均の比が自然数比の場合に、前記ピーク間距離の2分の1を前記比振動源回転周波数とする、又はある2つの振動ピークの前記比周波数の比が自然数比である場合に、前記比振動源回転周波数を0とすることを特徴とする請求項8に記載の転がり軸受の異常診断装置。
- 前記軸受損傷種類判別手段は、前記転がり軸受の損傷に対応する比基本周波数と前記比振動源回転周波数とを推定すると共に、前記転がり軸受の損傷の種類が判別された前記比基本周波数と前記比振動源回転周波数との組を用いて、判別された損傷の程度をさらに診断することを特徴とする請求項8乃至10の何れかに記載の転がり軸受の異常診断装置。
- 前記軸受損傷種類判別手段は、前記転がり軸受の損傷に対応する比基本周波数と、前記比振動源回転周波数と、前記比基本周波数と前記比振動源回転周波数とから算出される特定の比周波数とを用いて前記転がり軸受の損傷の種類ごとの前記振動ピーク位置の存在を確認するものであり、
前記比基本周波数と前記比振動源回転周波数とを合わせて表示する表示手段を備えることを特徴とする請求項8乃至11の何れかに記載の転がり軸受の異常診断装置。 - 前記軸受損傷種類判別手段は、前記転がり軸受の損傷に対応する比基本周波数と、前記比振動源回転周波数と、前記比基本周波数と前記比振動源回転周波数とから算出される特定の比周波数とを用いて前記転がり軸受の損傷の種類ごとの前記振動ピーク位置の存在を確認するものであり、
前記特定の比周波数の位置と前記回転同期成分強調波形とを合わせて表示する表示手段を備えることを特徴とする請求項8乃至11の何れかに記載の転がり軸受の異常診断装置。 - 所定の回転周波数で測定された回転体の振動が前記回転周波数と共に入力されたコンピュータに、請求項1乃至7の何れかに記載の転がり軸受の異常診断方法における回転同期成分強調波形算出ステップと軸受損傷種類判別ステップとを実行させることを特徴とする転がり軸受の異常診断プログラム。
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